(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-27
(45)【発行日】2022-11-07
(54)【発明の名称】非水電解液用添加剤、非水電解液、及び、蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20221028BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20221028BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20221028BHJP
H01G 11/64 20130101ALI20221028BHJP
H01G 11/60 20130101ALI20221028BHJP
H01G 11/62 20130101ALI20221028BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M10/052
H01G11/64
H01G11/60
H01G11/62
(21)【出願番号】P 2019535648
(86)(22)【出願日】2018-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2018029421
(87)【国際公開番号】W WO2019031452
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2017153451
(32)【優先日】2017-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100140578
【氏名又は名称】沖田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】藤本 翔平
(72)【発明者】
【氏名】河野 佑軌
(72)【発明者】
【氏名】藤田 浩司
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102496467(CN,A)
【文献】国際公開第2017/043576(WO,A1)
【文献】特開2012-106987(JP,A)
【文献】特表2014-528639(JP,A)
【文献】特開2016-192362(JP,A)
【文献】国際公開第2015/087963(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/026930(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第1864976(EP,A1)
【文献】特開2012-056925(JP,A)
【文献】特開2003-132944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00- 4/62
H01G 11/64
H01G 11/60
H01G 11/62
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物を含む、
リチウムイオン電池の非水電解液用添加剤。
【化1】
[式(1)中、Aは、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~3の2価の炭化水素基を示し、nは、1~5の整数を示す。]
【請求項2】
式(1)で表される前記化合物が、下記式(5)で表される化合物である、請求項1に記載の
リチウムイオン電池の非水電解液用添加剤。
【化2】
[式(5)中、nは、1~4の整数を示す。]
【請求項3】
式(1)で表される前記化合物が、下記式(5a)で表される化合物である、請求項2に記載の
リチウムイオン電池の非水電解液用添加剤。
【化3】
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の
リチウムイオン電池の非水電解液用添加剤、非水溶媒、及び電解質を含有する、
リチウムイオン電池用非水電解液。
【請求項5】
前記非水溶媒が環状カーボネート及び鎖状カーボネートを含む、請求項4に記載の
リチウムイオン電池用非水電解液。
【請求項6】
前記電解質がリチウム塩を含む、請求項4又は5に記載の
リチウムイオン電池用非水電解液。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか一項に記載の
リチウムイオン電池用非水電解液と、正極及び負極と、を備える、リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液用添加剤、非水電解液、及び蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題の解決、持続可能な循環型社会の実現に対する関心が高まるにつれ、リチウムイオン電池に代表される非水電解液二次電池の研究が広範囲に行われている。リチウムイオン電池は、高い使用電圧とエネルギー密度を有していることから、ノート型パソコン、携帯電話等の電源として用いられている。リチウムイオン電池は、鉛電池及びニッケルカドミウム電池と比較して高いエネルギー密度を有していることから、電池の高容量化の実現が期待されている。
【0003】
しかし、リチウムイオン電池は、充放電サイクルの経過に伴って電池の容量が低下するという問題を有している。容量低下の要因は、例えば、長期間の充放電サイクルに伴う、電極反応による電解液の分解、電極活物質層への電解質の含浸性の低下、更にはリチウムイオンのインターカレーション効率の低下が生じることにあると考えられている。
【0004】
充放電サイクルに伴う電池の容量低下を抑制する方法として、電解液に各種添加剤を入れる方法が検討されている。添加剤は、一般に、最初の充放電時に分解され、電極表面上に固体電解質界面(SEI)と呼ばれる被膜を形成する。最初の充放電サイクルにおいてSEIが形成されるため、その後の充放電において、電解液の分解に電気が消費されることを抑制しながら、SEIを介してリチウムイオンが電極を行き来することができる。すなわち、SEIの形成が、充放電サイクルを繰り返したときの二次電池の劣化を抑制し、電池特性、保存特性及び負荷特性等を向上させることに大きな役割を果たすと考えられている。
【0005】
電解液用添加剤として、例えば、特許文献1~3には環状モノスルホン酸エステル、特許文献4には含硫黄芳香族化合物、特許文献5~8にはジスルホン酸エステルがそれぞれ開示されている。また、特許文献9~13は環状炭酸エステル又は環状スルホンを含有する電解液を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭63-102173号公報
【文献】特開2000-003724号公報
【文献】特開平11-339850号公報
【文献】特開平05-258753号公報
【文献】特開2009-038018号公報
【文献】特開2005-203341号公報
【文献】特開2004-281325号公報
【文献】特開2005-228631号公報
【文献】特開平04-87156号公報
【文献】特開平08-45545号公報
【文献】特開2001-6729号公報
【文献】特開平05-074486号公報
【文献】国際公開第2017/043576号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【文献】Geun-Chang,Hyung-Jin kim,Seung-ll Yu,Song-Hui Jun,Jong-Wook Choi,Myung-Hwan Kim.Journal of The Electrochemical Society,147,12,4391(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
最低空分子軌道(LUMO)エネルギーが低い化合物は、優れた電子受容体であり、非水電解液二次電池等の電極表面上に安定なSEIを形成し得ると考えられている(例えば、非特許文献1)。
【0009】
特許文献1~8に開示される従来の添加剤のいくつかは、低いLUMOエネルギーを示すものの、水分及び温度の影響で劣化し易いなど、化学的安定性の点で改善の余地があった。例えば、ジスルホン酸エステルは低いLUMOエネルギーを示すものの、水分に対する安定性が低く容易に劣化するため、長期間保管する場合には、厳密な水分含有量及び温度の管理を必要とする。また、一般的にリチウムイオン電池では約60℃、リチウムイオンキャパシタでは約80℃の耐熱温度が求められていることから、蓄電デバイスに用いられる非水電解液用添加剤の高温での安定性の向上は、重要な課題の1つであった。
【0010】
従来の添加剤を含有する電解液の場合、充放電サイクルを繰り返しながら長期に亘って蓄電デバイスを使用したときに、蓄電デバイスの電池特性が低下し易い。そのため、サイクル特性の点で更なる改善が求められていた。
【0011】
特許文献9~11に記載されている電解液は、電気化学的還元分解によって負極表面上に生成するSEIによって、不可逆的な容量低下をある程度抑制することができる。しかし、これらの添加剤によって形成されたSEIは、電極を保護する性能に優れるものの、長期間の使用に耐えるための強度の点で十分でなかった。そのため、蓄電デバイスの使用中にSEIが分解したり、SEIに亀裂が生じることによって負極表面が露出し、電解液の分解が生じて電池特性が低下するといった問題があった。特許文献12に記載されるエチレンカーボネート系の化合物を添加剤として用いた電解液は、エチレンカーボネートが電極上で分解された際に、二酸化炭素を初めとするガスを発生し、電池性能の低下につながるといった問題を有していた。ガス発生は、高温、又は長期に亘る充放電サイクルを繰り返したときに特に顕著である。
【0012】
このように、非水電解液用添加剤に関して、保存安定性、充放電サイクルを繰り返したときの性能を維持するサイクル特性、又はガス発生の抑制の点で、更なる改善の余地があった。
【0013】
そこで、本発明の主な目的は、高い保存安定性を有するとともに、蓄電デバイスに関して、サイクル特性の改善及びガス発生の抑制を可能とする、非水電解液用添加剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一側面は、下記式(1)で表される化合物を含む、非水電解液用添加剤を提供する。
【化1】
式(1)中、Aは、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~3の2価の炭化水素基を示す。nは、1~5の整数を示す。本明細書において「ハロゲン原子で置換されていてもよい」とは、各基に含まれる水素原子が、ハロゲン原子に置換されていてもよいことを意味する。
【0015】
本発明の別の一側面は、上記非水電解液用添加剤、非水溶媒、及び電解質を含有する、非水電解液を提供する。本発明は更に、この非水電解液と、正極及び負極と、を備える、蓄電デバイス、リチウムイオン電池及びリチウムイオンキャパシタも提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高い保存安定性を有するとともに、蓄電デバイスに関して、サイクル特性の改善及びガス発生の抑制を可能とする、非水電解液用添加剤を提供することができる。また、本発明の非水電解液用添加剤は、非水電解液二次電池、電気二重層キャパシタ等の蓄電デバイスに用いられた場合に、電極表面上に安定なSEI(固体電解質界面)を形成してサイクル特性、充放電容量、内部抵抗等の電池特性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】蓄電デバイスの一例としての非水電解液二次電池の一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
一実施形態に係る非水電解液用添加剤は、下記式(1)で表される化合物を1種又は2種以上含む。
【化2】
式(1)中、Aは、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~3の2価の炭化水素基を示す。nは、1~5の整数を示す。すなわち、式(1)の化合物は、スルホニル基(-S(=O)
2-)、エチレン基(-CH
2CH
2-)及びAを含む4~6員環の環状基と、該環状基に結合したn個のニトリル基とを有する。nは1~4、又は1~3の整数であってもよい。ニトリル基は、環状基のうちAの炭化水素基又はエチレン基を構成する任意の炭素原子に結合していればよい。2個のニトリル基が、1個の炭素原子に結合していてもよい。
【0020】
式(1)の化合物は、低いLUMOエネルギーを示すことから、電気化学的還元を受けやすい。そのため、これらを非水電解液用添加剤として含有する非水電解液は、非水電解液二次電池等の蓄電デバイスに用いられたときに、電極表面上に安定なSEIを形成してサイクル特性、充放電容量、内部抵抗等の電池特性を改善することができる。また、式(1)の化合物は、水分及び温度変化に対して安定であるため、これらを含む非水電解液用添加剤及び非水電解液は、長期間、室温で保存することが可能である。
【0021】
式(1)で表される化合物の最低空分子軌道(LUMO)エネルギーは、-3.0eV以上であってもよく、0.0eV以下であってもよい。LUMOエネルギーが-3.0eV以上であると、化合物が過剰に分解することなく、その結果、高い抵抗を示すSEIが形成されにくいことがある。LUMOエネルギーが0.0eV以下であると、負極表面上に、より安定なSEIをより容易に形成することができる。同様の観点から、LUMOエネルギーは、-2.0eV以上であってもよく、-0.1eV以下であってもよい。当業者は、式(1)で定義される化合物の範囲内であれば、これら数値範囲内のLUMOエネルギーを示す化合物を過度の試行錯誤なく見出すことができる。
【0022】
本明細書において、「最低空分子軌道(LUMO)エネルギー」は、半経験的分子軌道計算法であるPM3と密度汎関数法であるB3LYP法とを組み合わせて算出される値である。具体的には、LUMOエネルギーは、Gaussian03(Revision B.03、米ガウシアン社製ソフトウェア)を用いて算出することができる。
【0023】
式(1)中のAは、ハロゲン原子で置換された炭素数1~3のアルキレン基であってもよい。Aに含まれる炭化水素基(特にアルキレン基)の炭素数は1~3、又は2若しくは3であってもよい。Aの具体例としては、-CH2-、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CFHCH2-、-CF2CH2-、及び-CF2CH2CH2-が挙げられる。
【0024】
前記ハロゲン原子としては、例えば、ヨウ素原子、臭素原子、フッ素原子が挙げられる。電池抵抗がより小さくなるという観点から、ハロゲン原子としては、フッ素原子を選択することができる。
【0025】
式(1)の化合物は、下記式(1a)で表される化合物であってもよい。式(1a)で表される化合物は、特に低いLUMOエネルギーを示し、より優れたイオン伝導度を発揮する傾向にある。式(1a)中のAは式(1)中のAと同義である。
【化3】
【0026】
より電池抵抗が低くなりやすいという観点から、式(1)の化合物が下記式(5)で表される化合物であってもよい。式(5)中のnは1~4の整数を示し、1~3の整数であってもよい。式(5)において、式(1a)のように、スルホニル基を1位として3位の炭素原子に1個のニトリル基が結合していてもよい。
【化4】
【0027】
非水電解液用添加剤は、式(1)で表される化合物として、下記式(5a)、(5b)、(5c)、(5d)、(5e)、(6a)、(6b)、(6c)又は(6d)で表される化合物のうち少なくとも1種の化合物を含んでいてもよい。これらの中でも、特に式(5a)の化合物を選択してもよい。
【0028】
【0029】
式(1)で表される化合物は、入手可能な原料を用い、通常の反応を組み合わせて合成することができる。例えば、具体例の一つである式(5a)の化合物は、スルホレンに、青酸カリウムなどの金属シアン化物、又は、アセトンシアノヒドリンなどのシアノ化剤を反応させる方法によって、合成することができる。
【0030】
式(5a)の化合物を製造する場合の具体例を以下に示す。まず、イソプロピルアルコールなどの有機溶媒に3-スルホレンとトリエチルアミンとを溶解させ、得られた反応液に、アセトンシアノヒドリンを滴下し、反応液を室温で2時間撹拌する。その後、得られた反応物に水を入れた後に分液し、油層を濃縮することで、目的の化合物を得ることができる。
式(1)中のAが、ハロゲン原子で置換された炭素数1~3のアルキレン基である化合物は、上記製造方法で得られた化合物と、N-フルオロ-N’-(クロロメチル)-トリエチレンジアミンビス(テトラフルオロボレート)などのフッ素化剤とを反応させることによって製造することができる。
【0031】
一実施形態に係る非水電解液用添加剤は、式(1)の化合物の他に、SEI形成に寄与し得る化合物等の、他の一般的な成分を含んでいてもよい。あるいは、式(1)の化合物のみを非水電解液用添加剤として用いてもよい。他の一般的な成分としては、例えば、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、1,3-プロパンスルトン(PS)、負極保護剤、正極保護剤、難燃剤、及び過充電防止剤が挙げられる。
【0032】
一実施形態に係る非水電解液は、上述の実施形態に係る非水電解液用添加剤、非水溶媒、及び電解質を含有する。この非水電解液における非水電解液用添加剤(又は式(1)の化合物)の含有量は、非水電解液の全質量を基準として、0.005質量%以上であってもよいし、10質量%以下であってもよい。この含有量が0.005質量%以上であると、電極表面での電気化学反応によって安定なSEIが充分に形成され易くなる。この含有量が10質量%以下であると、非水電解液用添加剤を非水溶媒に容易に溶解させることができる。また、非水電解液用添加剤の含有量を過度に多くしないことにより、非水電解液の粘度上昇を抑制して、イオンの移動度を容易に確保することができる。イオンの移動度が充分に確保されないと、非水電解液の導電性等を充分に確保することができず、蓄電デバイスの充放電特性等に支障をきたすおそれがある。同様の観点から、非水電解液用添加剤(又は式(1)の化合物)の含有量は0.01質量%以上であってもよく、0.1質量%以上であってもよく、0.5質量%以上であってもよい。同様の観点から、非水電解液用添加剤(又は式(1)の化合物)の含有量は5質量%以下であってもよく、2.0質量%以下であってもよい。
【0033】
非水電解液は、SEIを形成する2種以上の化合物を含んでいてもよい。この場合、それらの合計の含有量は、非水電解液の全質量を基準として、0.005質量%以上であってもよく、10質量%以下であってもよい。SEIを形成するその他の化合物としては、例えば、VC、FEC、及びPSが挙げられる。
【0034】
前記非水溶媒としては、得られる非水電解液の粘度を低く抑える等の観点から、非プロトン性溶媒を選択することができる。非プロトン性溶媒は、環状カーボネート、鎖状カーボネート、脂肪族カルボン酸エステル、ラクトン、ラクタム、環状エーテル、鎖状エーテル、スルホン、ニトリル、及び、これらのハロゲン誘導体からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。なかでも、非プロトン性溶媒としては、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを選択することができ、環状カーボネート及び鎖状カーボネートの組み合わせを選択することもできる。
【0035】
前記環状カーボネートとしては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレンが挙げられる。前記鎖状カーボネートとしては、例えば、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルが挙げられる。前記脂肪族カルボン酸エステルとしては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチルが挙げられる。前記ラクトンとしては、例えば、γ-ブチロラクトンが挙げられる。前記ラクタムとしては、例えば、ε-カプロラクタム、N-メチルピロリドンが挙げられる。前記環状エーテルとしては、例えば、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソランが挙げられる。前記鎖状エーテルとしては、例えば、1,2-ジエトキシエタン、エトキシメトキシエタンが挙げられる。スルホンとしては、例えば、スルホランが挙げられる。前記ニトリルとしては、例えば、アセトニトリルが挙げられる。前記ハロゲン誘導体としては、例えば、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4-クロロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンが挙げられる。これらの非水溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの非水溶媒は、例えば、リチウムイオン電池等の非水電解液二次電池、リチウムイオンキャパシタ等の電気二重層キャパシタの用途に特に適している。
【0036】
非水電解液を構成する電解質は、リチウムイオンのイオン源となるリチウム塩であってもよい。なかでも、電解質は、LiAlCl4、LiBF4、LiPF6、LiClO4、LiAsF6、及び、LiSbF6からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。解離度が高く電解液のイオン伝導度を高めることができ、更には耐酸化還元特性により長期間使用による蓄電デバイスの性能劣化を抑制する作用がある等の観点から、電解質として、LiBF4、LiPF6又はこれらの組み合わせを選択してもよい。これらの電解質は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。LiBF4及びLiPF6は、非水溶媒として、環状カーボネート及び鎖状カーボネートをそれぞれ1種以上と組み合わせることができる。特に、電解質としてのLiBF4、LiPF6又はこれらの両方と、非水溶媒としての炭酸エチレン及び炭酸ジエチルとを組み合わせてもよい。
【0037】
非水電解液における電解質の濃度は、0.1mol/L以上であってもよく、2.0mol/L以下であってもよい。電解質の濃度が0.1mol/L以上であると、非水電解液の導電性等を充分に確保しやすい。その結果、蓄電デバイスの安定した放電特性及び充電特性が得られ易い。電解質の濃度が2.0mol/L以下であると、非水電解液の粘度上昇を抑制して、イオンの移動度を特に容易に確保することができる。イオンの移動度が充分に確保されないと、電解液の導電性等を充分に確保することができず、蓄電デバイスの充放電特性等に支障をきたす可能性がある。同様の観点から、電解質の濃度は0.5mol/L以上であってもよく、1.5mol/L以下であってもよい。
【0038】
本実施形態に係る蓄電デバイスは、主として、上記非水電解液と、正極及び負極とから構成される。蓄電デバイスの具体例は、非水電解液二次電池(リチウムイオン電池等)及び電気二重層キャパシタ(リチウムイオンキャパシタ等)を含む。本実施形態に係る非水電解液は、リチウムイオン電池、及びリチウムイオンキャパシタの用途において特に効果的である。
【0039】
図1は、蓄電デバイスの一例としての非水電解液二次電池の一実施形態を模式的に示す断面図である。
図1に示す非水電解液二次電池1は、正極板4(正極)と、正極板4と対向する負極板7(負極)と、正極板4と負極板7との間に配置された非水電解液8と、非水電解液8中に設けられたセパレータ9と、を備える。正極板4は、正極集電体2と正極集電体2の非水電解液8側の面上に設けられた正極活物質層3とを有する。負極板7は、負極集電体5と負極集電体5の非水電解液8側の面上に設けられた負極活物質層6とを有する。非水電解液8は、上述の実施形態に係る非水電解液であることができる。
【0040】
正極集電体2及び負極集電体5は、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス等の金属からなる金属箔であってもよい。
【0041】
正極活物質層3は正極活物質を含む。正極活物質は、リチウム含有複合酸化物であってもよい。リチウム含有複合酸化物の具体例は、LiMn2O4、Li2FeSiO4、LiFePO4、及びLiNixCoyMzO2(x,y,zは0~3の整数または分数であり、MはFe、Mn又はSiを示す)で表される化合物を含む。LiNixCoyMzO2で表される化合物は、例えばLiCoO2又はLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2であってもよい。
【0042】
負極活物質層6は負極活物質を含む。負極活物質は、例えば、リチウムを吸蔵、放出することができる材料であってもよい。このような材料の具体例は、黒鉛及び非晶質炭素等の炭素材料、酸化インジウム、酸化シリコン、酸化スズ、酸化亜鉛及び酸化リチウム等の酸化物材料を含む。負極活物質は、リチウム金属、又は、リチウムと合金を形成することができる金属材料であってもよい。リチウムと合金を形成することができる金属の具体例は、Cu、Sn、Si、Co、Mn、Fe、Sb、及びAgを含む。これらの金属と、リチウムとを含む2元又は3元からなる合金を負極活物質として用いることもできる。これらの負極活物質は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
セパレータ9は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂等からなる多孔質フィルムであってもよい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0045】
1.非水電解液の調製
(実施例1)
炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DEC)とを、EC:DEC=30:70の体積比で混合して混合非水溶媒を得た。得られた混合非水溶媒に、電解質としてLiPF6を1.0mol/Lの濃度となるように溶解させた。得られた溶液に、非水電解液用添加剤としての表1に示した化合物(5a)を、溶液全質量に対する含有割合が0.5質量%となるように添加し、非水電解液を調製した。
【0046】
(実施例2)
化合物(5a)の含有割合を1.0質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解液を調製した。
【0047】
(実施例3)
化合物(5a)に代えて、表1に示した化合物(5b)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして非水電解液を調製した。
【0048】
(実施例4)
化合物(5a)に代えて、表1に示した化合物(5c)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして非水電解液を調製した。
【0049】
(実施例5)
化合物(5a)に代えて、表1に示した化合物(5d)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして非水電解液を調製した。
【0050】
(実施例6)
化合物(5a)に代えて、表1に示した化合物(6a)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして非水電解液を調製した。
【0051】
(実施例7)
化合物(5a)に代えて、表1に示した化合物(6b)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして非水電解液を調製した。
【0052】
(実施例8)
化合物(5a)に代えて、表1に示した化合物(6c)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして非水電解液を調製した。
【0053】
(比較例1)
化合物(5a)を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして非水電解液を調製した。
【0054】
(比較例2)
化合物(5a)に代えて、1,3-プロパンスルトン(PS)[キシダ化学株式会社製]を用いたこと以外は、実施例2と同様にして非水電解液を調製した。
【0055】
(比較例3)
化合物(5a)に代えて、ビニレンカーボネート(VC)[キシダ化学株式会社製]を用いたこと以外は、実施例2と同様にして非水電解液を調製した。
【0056】
(比較例4)
VCの含有割合を2.0質量%としたこと以外は、比較例3と同様にして非水電解液を調製した。
【0057】
(比較例5)
化合物(5a)に代えて、フルオロエチレンカーボネート(FEC)[キシダ化学株式会社製]を用いたこと以外は、実施例2と同様にして非水電解液を調製した。
【0058】
(比較例6)
FECの含有割合を2.0質量%としたこと以外は、比較例5と同様にして非水電解液を調製した。
【0059】
(比較例7)
化合物(5a)に代えて、スルホラン(住友精化株式会社製)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして非水電解液を調製した。
【0060】
(比較例8)
メタンスルホン酸 1,1-ジオキソテトラヒドロ-1-チオフェン-3-イル エステル(化合物A)の合成
撹拌機、冷却管、温度計及び滴下ロートを備え付けた500mL容の4つ口フラスコに、ヒドロキシスルホラン27.2g(0.20モル)、ピリジン34.5g(0.44モル)を入れて混合溶液を調製した。該混合溶液に、メタンスルホニルクロライド25.1g(0.44モル)を、混合溶液の温度を0℃に維持しながら20分間かけて滴下した。引続き、同温度に維持しながら混合溶液を3時間撹拌した。
次に、混合溶液をろ過し、ろ液にアセトニトリル50.0gを添加した。そこに水200.0gを更に滴下して結晶を析出させた。結晶をろ過により取り出し、得られた結晶を乾燥することにより、化合物A(35.5g、0.17モル)を取得した。化合物Aの収率は、ヒドロキシスルホランに対して82.9%であった。
非水電解液の調製
化合物(5a)に代えて、化合物Aを用いたこと以外は、実施例2と同様にして非水電解液を調製した。
【0061】
(比較例9)
ベンゼンスルホン酸 1,1-ジオキソテトラヒドロ-1-チオフェン-3-イル エステル(化合物B)の合成
メタンスルホニルクロライドに代えてベンゼンスルホニルクロライド38.8g(0.44モル)を用いたこと以外は比較例8と同様にして、化合物B(44.2g、0.16モル)を取得した。
非水電解液の調製
化合物(5a)に代えて、化合物Bを用いたこと以外は、実施例2と同様にして非水電解液を調製した。
【0062】
2.化合物の評価
(LUMOエネルギー)
実施例で用いた化合物のLUMO(最低空分子軌道)エネルギーを、Gaussian03ソフトウェアにより、半経験的分子軌道計算により求めた。算出されたLUMOエネルギーを表1に示した。
【0063】
【0064】
(安定性)
実施例で用いた化合物、及び、比較例5及び6で用いたFECを、温度40±2℃、湿度75±5%の恒温恒湿環境下で90日間放置する保存試験に供した。保存試験前後の各非水電解液用添加剤の1H-核磁気共鳴スペクトル(1H-NMR)を測定し、以下の基準で各化合物の安定性を評価した。表2は安定性の評価結果を示す。
A:保存試験前後で1H-NMRスペクトルのピーク変化がなかった。
B:保存試験前後で1H-NMRスペクトルのわずかなピーク変化が確認された。
C:保存試験前後で1H-NMRスペクトルの明らかなピーク変化が確認された。
【0065】
【0066】
表2に示したように、比較例5、6で用いたFECは、一部加水分解されていると考えられ、安定性が劣るものであった。一方、実施例で用いた化合物(5a)~(5d)及び(6a)~(6c)は、1H-NMRスペクトルのピークに変化が見られず、安定性に優れるものであった。
【0067】
3.非水電解液二次電池の作製
正極活物質としてのLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2と、導電性付与剤としてのカーボンブラックとを乾式混合した。得られた混合物を、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を溶解させたN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中に均一に分散させ、スラリーを作製した。得られたスラリーをアルミ金属箔(角型、厚さ20μm)の両面に塗布した。塗膜を乾燥してNMPを除去した後、全体をプレスして、正極集電体としてのアルミ金属箔と、その両面上に形成された正極活物質層とを有する正極シートを得た。得られた正極シートの正極活物質層における固形分比率は、質量比で、正極活物質:導電性付与剤:PVDF=92:4:4とした。
負極シートとして、市販の黒鉛塗布電極シート(宝泉社製、商品名:電極シート負極単層)を用いた。
実施例及び比較例で得られた各非水電解液中にて、負極シート、ポリエチレン製のセパレータ、正極シート、ポリエチレン製のセパレータ及び負極シートの順に積層して、電池要素を作製した。この電池要素を、アルミニウム(厚さ40μm)とその両面を被覆する樹脂層とを有するラミネートフィルムから形成された袋に、正極シート及び負極シートの端部が袋から突き出るように挿入した。次いで、実施例及び比較例で得られた各非水電解液を袋内に注入した。袋を真空封止し、さらに、電極間の密着性を高めるために、袋をガラス板で挟んで加圧して、シート状の非水電解液二次電池を得た。
【0068】
4.非水電解液二次電池の評価
(放電容量維持率及び内部抵抗比)
得られた非水電解液二次電池に対して、25℃において、充電レートを0.3C、放電レートを0.3C、充電終止電圧を4.2V、及び、放電終止電圧を2.5Vとして充放電サイクル試験を行った。200サイクル後の放電容量維持率(%)及び200サイクル後の内部抵抗比を表3に示した。
200サイクル後の「放電容量維持率(%)」とは、10サイクル試験後の放電容量(mAh)に対する、200サイクル試験後の放電容量(mAh)の割合(百分率)である。200サイクル後の「内部抵抗比」とは、サイクル試験前の抵抗を1としたときの、200サイクル試験後の抵抗を相対値で示した値である。
【0069】
【0070】
(ガス発生量の測定)
サイクル試験に用いた電池とは別に、実施例及び比較例の各電解液を含む同様の構成の非水電解液二次電池を準備した。この電池を、25℃において、0.2Cに相当する電流で4.2Vまで充電した後、0.2Cに相当する電流で3Vまで放電する操作を3サイクル行なって電池を安定させた。次いで、充電レートを0.3Cとして再度4.2Vまで電池を充電した後、60℃、168時間の高温で電池を保存した。その後、室温まで冷却し、アルキメデス法により電池の体積を測定し、保存前後の体積変化からガス発生量を求めた。結果を表4に示す。
【0071】
【0072】
(保存後回復容量)
サイクル試験、ガス発生試験に用いた電池とは別に、実施例及び比較例の各電解液を含む同様の構成の非水電解液二次電池を準備した。この電池を、4.2Vまで充電した。充電した電池を75℃において72時間保存し、再び4.2Vまで充電した。この操作を3サイクル、合計216時間かけて行なった。その後、非水電解液二次電池の放電容量を測定し、その値を保存後回復容量とした。結果を表5に示す。
【0073】
【符号の説明】
【0074】
1…非水電解液二次電池、2…正極集電体、3…正極活物質層、4…正極板、5…負極集電体、6…負極活物質層、7…負極板、8…非水電解液、9…セパレータ。