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  • 特許-多孔質膜の製造方法および多孔質膜 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】多孔質膜の製造方法および多孔質膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 67/00 20060101AFI20221031BHJP
   B01D 71/64 20060101ALI20221031BHJP
   B01D 71/34 20060101ALI20221031BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20221031BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20221031BHJP
   B01D 71/48 20060101ALI20221031BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20221031BHJP
   B01D 71/44 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
B01D67/00 500
B01D71/64
B01D71/34
B01D71/68
B01D69/02
B01D71/48
B01D69/00
B01D71/44
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020557845
(86)(22)【出願日】2019-11-29
(86)【国際出願番号】 JP2019046687
(87)【国際公開番号】W WO2020111211
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2018225127
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】池山 昭弘
【審査官】富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-543546(JP,A)
【文献】特表2012-515075(JP,A)
【文献】特開2010-253470(JP,A)
【文献】国際公開第2016/114051(WO,A1)
【文献】特開2003-251162(JP,A)
【文献】特開2003-251163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00-71/82
B01D 53/22
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質膜の製造方法であって、
基材として、非水溶性樹脂とポリビニルピロリドンのモノマーユニットまたはポリビニルアルコールのモノマーユニットを含む水溶性樹脂とを含む複数の細孔を有する膜を用意すること、および
水性溶剤の存在下で前記基材に電子線照射して前記水溶性樹脂の少なくとも一部を架橋することを含み、
前記基材の用意において、前記非水溶性樹脂と前記水溶性樹脂とを含む溶液を支持体上に流延して前記支持体上に前記の複数の細孔を有する膜を形成することを含む、前記製造方法。
【請求項2】
前記非水溶性樹脂がポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリアリレート、ポリイミド、およびポリフッ化ビニリデンから成る群より選択される少なくとも1種を含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記非水溶性樹脂がポリスルホンまたはポリエーテルスルホンである請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記電子線照射のときに前記基材が前記水性溶剤を前記基材の乾燥質量の50質量%以上500質量%以下含む請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記水性溶剤が前記基材にスプレーコートまたはダイコートにより適用される請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記水性溶剤が前記基材に前記基材を前記水性溶剤に浸漬することにより適用され、かつ前記水性溶剤の適用後に前記基材の表面の余分な前記水性溶剤を除去することを含む請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記基材の厚みが40μm~300μmである請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記電子線照射が50kGray以上300kGray以下の吸収線量となるように行われる請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記電子線照射が前記基材の用意のときに前記支持体側であった面側から行われる請求項1~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質膜の製造方法、および多孔質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーを含む多孔質膜は、水や飲料水、また医薬用のろ過膜やフィルターカートリッジとして用いられてきた。
特許文献1には、非水溶性樹脂のポリスルホンと水溶性樹脂のポリビニルピロリドンとを含む製膜原液を支持体上に流延することを含む方法により精密ろ過膜を製造することが開示されている。特許文献1に記載の方法では、厚み方向で孔径が異なる精密ろ過膜の製造が可能であり、例えば孔径の小さい緻密層を内部に有する多孔質膜の作製が可能である。
特許文献2には、多孔質基材に少なくとも1つのグラフト可能な種を適用すること、および被覆された多孔質基材を電子ビーム照射により処理することを含む機能化された膜の作製方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平4-349927号公報
【文献】特表2011-508065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ろ過膜またはフィルターカートリッジの製造では、一般的に、清浄性および通水量を確保し、ろ過膜成分の溶出分を低減するため洗浄、乾燥が行われる。また、フィルターカートリッジには、ピンホールやシール不良のような欠陥の有無を確認するために完全性試験が実施される。完全性試験では、ろ過器に装着したろ過膜に通水して細孔を水で満たした後に圧力を負荷し気体の漏れを観察する。
【0005】
特許文献1に記載の製造方法では、水溶性樹脂を用いることにより、多孔質膜に親水性を付与している。しかし、この多孔質膜では、ろ過膜またはフィルターカートリッジとして製造加工するときの洗浄工程などにおいて、水溶性樹脂が流出して親水性が低下し、完全性試験ができなくなる可能性がある。これに対し、多孔質膜製造時の親水性樹脂の添加量の調整により親水性を増加させることも考えられるが、洗浄時や通水時の多孔質膜成分の溶出量を増加させる懸念がある。
また、特許文献2においては、多孔質膜の膜表面に、グラフト可能な種を用いた表面改質により親水性の特性を付与することについての記載がある。しかし、表面改質により、通水量が低下することも考えられ、別法の開発が望まれる。
【0006】
本発明は、透水性が高いとともに、洗浄などの処理による影響を受けにくい親水性を有する多孔質膜の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題の解決のため、特に、ポリビニルピロリドンにより親水化されている多孔質膜を用いて、検討を重ねた。その結果、多孔質膜に比較的高強度で電子線照射することにより、多孔質膜の親水性が洗浄により低下しにくくなることを見出し、この知見に基づいて、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下の<1>~<16>を提供するものである。
<1>多孔質膜の製造方法であって、
基材として、非水溶性樹脂とポリビニルピロリドンのモノマーユニットまたはポリビニルアルコールのモノマーユニットを含む水溶性樹脂とを含む複数の細孔を有する膜を用意すること、および
水性溶剤の存在下で上記基材に電子線照射して上記水溶性樹脂の少なくとも一部を架橋することを含む、上記製造方法。
<2>上記非水溶性樹脂がポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリアリレート、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデンから成る群より選択される少なくとも1種を含む<1>に記載の製造方法。
<3>上記非水溶性樹脂がポリスルホンまたはポリエーテルスルホンである<2>に記載の製造方法。
<4>上記電子線照射のときに上記基材が上記水性溶剤を上記基材の乾燥質量の50質量%以上500質量%以下含む<1>~<3>のいずれかに記載の製造方法。
<5>上記水性溶剤が上記基材にスプレーコートまたはダイコートにより適用される<1>~<4>のいずれかに記載の製造方法。
<6>上記水性溶剤が上記基材に上記基材を上記水性溶剤に浸漬することにより適用され、かつ上記水性溶剤の適用後に上記基材の表面の余分な上記水性溶剤を除去することを含む<1>~<4>のいずれかに記載の製造方法。
<7>上記基材の厚みが40μm~300μmである<1>~<6>のいずれかに記載の製造方法。
<8>上記電子線照射が50kGray以上300kGray以下の吸収線量となるように行われる<1>~<7>のいずれかに記載の製造方法。
<9>上記基材の用意において、
上記非水溶性樹脂と上記水溶性樹脂とを含む溶液を支持体上に流延して上記支持体上に上記の複数の細孔を有する膜を形成することを含む<1>~<8>のいずれかに記載の製造方法。
<10>上記電子線照射が上記基材の用意のときに上記支持体側であった面側から行われる<9>に記載の製造方法。
【0009】
<11>非水溶性樹脂とポリビニルピロリドンのモノマーユニットまたはポリビニルアルコールのモノマーユニットを含む水溶性樹脂とを含む多孔質膜であって、
上記多孔質膜の60cmをメチレンクロライド50mLに24時間浸漬したときの不溶成分が浸漬前の上記多孔質膜の乾燥質量の0.5質量%以上である上記多孔質膜。
<12>上記非水溶性樹脂がポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリアリレート、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデンから成る群より選択される少なくとも1種を含む<11>に記載の多孔質膜。
<13>上記非水溶性樹脂がポリスルホンまたはポリエーテルスルホンである<12>に記載の多孔質膜。
<14>上記水溶性樹脂を上記多孔質膜の乾燥質量の0.5~20質量%含む<11>~<13>のいずれかに記載の多孔質膜。
<15>孔径が最小となる層状の緻密部位を膜内に有する<11>~<14>のいずれかに記載の多孔質膜。
<16>厚みが40μm~300μmである<11>~<15>のいずれかに記載の多孔質膜。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、透水性が高いとともに、洗浄などの処理による影響を受けにくい親水性を有する多孔質膜の製造方法が提供される。本発明の製造方法により、透水性が高い多孔質膜であって、ろ過膜としてフィルターカートリッジに用いられたときに完全性試験に合格できる多孔質膜を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の多孔質膜の製造方法の工程図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の多孔質膜の製造方法は、水性溶剤の存在下で基材に電子線照射を行うことを含む。本発明の多孔質膜の製造方法で用いられる基材自体も多孔質膜であり、本発明の多孔質膜の製造方法は、多孔質膜に親水性を付与する方法、または多孔質膜の親水性を強化するための方法でもある。
【0013】
図1に、本発明の製造方法の工程図の一例を示す。図1に示す例において、基材はロール状に用意され、巻き出される(1)。その後、基材は、水性溶剤を適用され(2)、必要に応じて過剰な水性溶剤が除去されたあと(3)、電子線照射される(4)。任意の後処理工程(5)を経て、必要に応じてロール状に巻き取られる(6)。本発明の製造方法は図1に示すように、基材を連続的に搬送しながら行うことが好ましい。電子線の照射量または水性溶剤の適用量などを安定的に均一にすることができるからである。
【0014】
以下、本発明の製造方法で用いられる各材料および各工程の詳細を説明する。
本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0015】
<多孔質膜>
多孔質膜は、複数の細孔を有する膜である。本明細書において、単に「多孔質膜」について説明するときは、基材である多孔質膜および本発明の製造方法により得られる多孔質膜のいずれも意味する。本発明の製造方法において、多孔質膜としては、非水溶性樹脂とポリビニルピロリドンのモノマーユニットまたはポリビニルアルコールのモノマーユニットを含む水溶性樹脂とを含む多孔質膜が用いられる。
【0016】
[非水溶性樹脂]
多孔質膜は非水溶性樹脂を含む。多孔質膜はその骨格が非水溶性樹脂から構成されていることが好ましい。非水溶性樹脂から形成される多孔質膜は、一般的に、耐水性、耐薬品性、機械耐性が高く、フィルターとしての工業的使用にも適している。
【0017】
非水溶性樹脂の例としては、熱可塑性または熱硬化性のポリマーが挙げられる。ポリマーの具体的な例としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリアリレート、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン、セルロースアシレート、ニトロセルロース、ポリアクリロニトリル、スチレン-アクリロニトリルコポリマー、スチレン-ブタジエンコポリマー、エチレン-酢酸ビニルコポリマーのケン化物、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、オルガノシロキサン-ポリカーボネートコポリマー、ポリエステルカーボネート、オルガノポリシロキサン、ポリフェニレンオキシド、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、6,6-ナイロン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を挙げることができる。これらは、溶解性、光学的物性、電気的物性、強度、弾性等の観点から、ホモポリマーであってもよいし、コポリマーやポリマーブレンド、ポリマーアロイとしてもよい。
【0018】
これらのうち、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリアリレート、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデンが好ましく、ポリスルホンまたはポリエーテルスルホンがより好ましい。
特に、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、およびポリフェニルスルホンからなる群より選択されるポリスルホン系ポリマーは、孔径が最小となる層状の緻密部位を内部に有する多孔質膜を製造する場合に好ましい。ポリスルホンは下記の一般式(I)、ポリエーテルスルホンは下記の一般式(II)、ポリフェニルスルホンは下記の一般式(III)で表される。
【0019】
【化1】
【0020】
非水溶性樹脂としては、数平均分子量(Mn)が1,000~10,000,000であるものが好ましく、5,000~1,000,000であるものがより好ましい。ここで、非水溶性樹脂の数平均分子量(Mn)はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により求めたものである。
【0021】
[水溶性樹脂]
多孔質膜は非水溶性樹脂とともに、ポリビニルピロリドン(PVP)のモノマーユニット(繰り返し単位構造)またはポリビニルアルコール(PVA)のモノマーユニット(繰り返し単位構造)を含む水溶性樹脂を含む。
水溶性樹脂を含むことにより、非水溶性樹脂からなる疎水性の多孔質膜骨格に親水性が付与される。基材において、水溶性樹脂は多孔質膜骨格に保持されていればよい。例えば、水溶性樹脂は、非水溶性樹脂から構成されている多孔質膜骨格の表面、すなわち、多孔質膜の孔表面に存在していればよい。または、水溶性樹脂は非水溶性樹脂から構成されている多孔質膜骨格に一部入り込んでいてもよい。本発明の製造方法によって、水溶性樹脂によって付与された親水性を、洗浄などの処理によって低下しにくいものとすることができる。これは、本発明の製造方法において水性溶剤の存在下で電子線照射を行うことによって、多孔質膜骨格に保持されている水溶性樹脂が架橋し多孔質膜骨格から離れにくくなるためと考えられる。水溶性樹脂が架橋していることは、後述の実施例で示すように、電子線照射後の多孔質膜において、電子線照射前の多孔質膜を完全に溶解する溶媒で不溶成分が生じることから推定できる。なお、本明細書において、水溶性樹脂について「不溶化する」というとき、このように電子線照射前の多孔質膜を完全に溶解する溶媒で不溶成分を生じさせることを意味する。
【0022】
電子線照射前の多孔質膜を完全に溶解する溶媒としてはメチレンクロライドを用いればよい。例えば、本発明の製造方法で得られる多孔質膜は、メチレンクロライドに浸漬したときの不溶成分が浸漬前の多孔質膜の乾燥質量の0.5質量%以上となり、好ましくは0.8質量%以上となり、より好ましくは1.2質量%以上となる。上記の不溶成分の量は具体的には多孔質膜の60cmをサンプリングし、これをメチレンクロライド50mLに24時間浸漬したあと生じる不溶成分の質量を測定し、サンプリングした浸漬前の多孔質膜の乾燥質量との比を求めることにより求めることができる。上記の浸漬は室温(20℃)で行えばよい。
【0023】
基材において、水溶性樹脂は、非水溶性樹脂から構成されている多孔質膜骨格に添加されることにより多孔質膜に含まれていてもよい。例えば、非水溶性樹脂からなる多孔質膜骨格に水溶性樹脂または水溶性樹脂を含む溶液を塗布することや、水溶性樹脂または水溶性樹脂を含む溶液に非水溶性樹脂からなる多孔質膜骨格を浸漬することにより、多孔質膜に含まれることとなっていてもよい。
【0024】
または、水溶性樹脂は、非水溶性樹脂からなる多孔質膜骨格の製造工程において既に多孔質膜に含まれていてもよい。例えば、ポリビニルピロリドンは、ポリスルホン膜またはポリエーテルスルホン膜の製膜原液中に孔形成剤として添加されるものである(例えば、特開昭64-34403号公報参照)。製膜原液中のポリビニルピロリドンは製膜過程でそのほとんどが凝固水中に溶解して除去されるが、一部が膜表面に残留するため、得られる多孔質膜は水溶性樹脂であるポリビニルピロリドンを含むものとなる。
【0025】
水溶性樹脂は、ポリビニルピロリドンのモノマーユニットまたはポリビニルアルコールのモノマーユニット以外のモノマーユニットを含んでいてもよいが、ポリビニルピロリドンのモノマーユニットまたはポリビニルアルコールのモノマーユニットからなる樹脂であることが好ましい。すなわち、ポリビニルピロリドンのモノマーユニットおよびポリビニルアルコールのモノマーユニットからなる群より選択される一種または二種のモノマーユニットの繰り返し構造であることが好ましい。水溶性樹脂は、ポリビニルピロリドンのモノマーユニットのみからなる繰り返し構造であってもよく、ポリビニルアルコール構造のモノマーユニットのみからなる繰り返し構造であってもよく、両モノマーユニットを含む繰り返し構造であってもよい。両者を含む場合、ランダム共重合体であってもよく、交互共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。水溶性樹脂は、N-ビニルピロリドン(NVP)およびビニルアルコール(VA)からなる群から選択される一種または二種のモノマーの重合により得ることができる。水溶性樹脂は、上記のビニルアルコールに代えて、またはビニルアルコールの一部に代えて酢酸ビニルを用いて重合反応を行い、その後加水分解を行って得られる重合体であってもよい。すなわち、ポリビニルアルコールのモノマーユニットはポリ酢酸ビニルのモノマーユニットが加水分解して形成されたものであってもよい。
水溶性樹脂としてはポリビニルピロリドンまたはポリビニルアルコールが好ましい。
【0026】
水溶性樹脂の分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、Gel Permeation Chromatography)により求めることができる。GPCにより分子量を求めにくい重合体、例えば、ポリビニルピロリドンなどにおいては、毛細管粘度測定値により求めた粘度平均分子量等として求めることもできる。水溶性樹脂の分子量は、GPCにより求めた重量平均分子量として、5000以上2000000以下であることが好ましく、10000以上2000000以下であることがより好ましい。
【0027】
本発明の製造方法により得られる多孔質膜において、水溶性樹脂は、多孔質膜の乾燥質量の0.5~20質量%含まれていることが好ましく、1.0~15質量%含まれていることがより好ましく、2.0~10質量%含まれていることがさらに好ましい。ここで、水溶性樹脂は、電子線照射により、不溶化したものおよび不溶化していないものを含む。上記の水溶性樹脂含量の多孔質膜を得るために、基材においても同様の量の水溶性樹脂が含まれていればよい。または、電子線照射後も不溶化せず多孔質膜から溶出しやすい量を考慮して、基材においては、上記よりも多い量の水溶性樹脂が含まれていてもよい。
【0028】
[多孔質膜に含まれるその他の成分]
多孔質膜は非水溶性樹脂および水溶性樹脂以外の他の成分を添加剤として含んでいてもよい。
上記添加剤としては、食塩、塩化リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸ナトリウム、塩化亜鉛等の無機酸の金属塩、酢酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム等の有機酸の金属塩、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン等の高分子、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド等の高分子電解質、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、アルキルメチルタウリン酸ナトリウム等のイオン系界面活性剤等を挙げることができる。添加剤は多孔質構造のための膨潤剤として作用していてもよい。
【0029】
[多孔質膜の構造]
多孔質膜は複数の細孔を有する膜をいう。細孔は、例えば膜断面の走査型電子顕微鏡(SEM)撮影画像または透過型電子顕微鏡(TEM)撮影画像で確認することができる。
【0030】
多孔質膜の細孔の孔径は、ろ過対象物の大きさによって適宜選択することができるが、0.005μm~25μmであればよく、0.01μm~20μmであることがより好ましい。孔径分布を有する場合はこの範囲で分布していればよい。孔径は電子顕微鏡によって得られた膜断面の写真から測定すればよい。多孔質膜はミクロトーム等により切断し、断面が観察できる薄膜の切片として、多孔質膜断面の写真を得ることができる。
本発明の製造方法で得られる多孔質膜の細孔の孔径は、処理により基材の多孔質膜の孔径より小さくなっていてもよいが、通常、基材の孔径と同じであると近似できる。
【0031】
多孔質膜は、厚み方向に孔径分布を持つ構造であっても、厚み方向に孔径分布を持たない均質構造であってもよい。また、厚み方向に孔径分布を持つ構造においては、膜のおもて面の孔径および裏面の孔径が異なるように孔径分布を有する厚み方向に非対称である構造(非対称構造)であってもよい。非対称構造の例としては、一方の膜表面から他方の膜表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加している構造、孔径が最小となる層状の緻密部位を内部に有し、この緻密部位から多孔質膜の少なくとも一方の膜表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加している構造などが挙げられる。
【0032】
特に、多孔質膜は、孔径が最小となる層状の緻密部位を内部に有し、この緻密部位から多孔質膜の少なくとも一方の膜表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加している構造であることが好ましい。
【0033】
本明細書において、膜の厚み方向の孔径の比較を行なう場合、膜断面のSEM撮影写真を膜の厚み方向に分割して行なうものとする。分割数は膜の厚みに応じて適宜選択できる。分割数は少なくとも5以上とし、例えば、200μm厚の膜では後述する表面Xから20分割する分割線を19本引き、各分割線と交差または接する孔(閉孔)をデジタイザーでなぞり、連続する50個の孔の平均孔径を求めて行う。なお、分割幅の大きさは、膜における厚み方向の幅の大きさを意味し、写真での幅の大きさを意味するものではない。膜の厚み方向の孔径の比較において、孔径は、各区分の平均孔径として比較される。各区分の平均孔径は、例えば、膜断面図の各区分の50個の孔の平均値であればよい。この場合の膜断面図は例えば80μm幅(表面と平行な方向において80μmの距離)で得てもよい。このとき、孔が大きく、50個測定できない区分については、その区分でとれる数だけ測定したものであればよい。また、このとき、孔が大きくその区分に収まるものでない場合は、ほかの区分にわたってその孔の大きさを計測する。
【0034】
孔径が最小となる層状の緻密部位は、上記膜断面の区分のうちで平均孔径が最小となる区分に相当する多孔質膜の層状の部位をいう。緻密部位は1つの区分に相当する部位からなっていても、2つ、3つなどの、平均孔径が最小となる区分の1.1倍以内の平均孔径を有する複数の区分に相当する部位からなっていてもよい。緻密部位の厚みは、0.5μm~50μmであればよく、0.5μm~30μmであることが好ましい。本明細書において、緻密部位の平均孔径を多孔質膜の最小孔径とする。多孔質膜の最小孔径は0.005μm以上であることが好ましく、0.01μm以上であることがより好ましく、また、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。このような多孔質膜の最小孔径で少なくとも通常の細胞の透過を阻止することができるからである。ここで、緻密部位の平均孔径はASTM F316-80により測定したものとする。
【0035】
多孔質膜は、緻密部位を内部に有することが好ましい。内部とは膜の表面に接していないことを意味し、「緻密部位を内部に有する」とは、緻密部位が、膜のいずれかの表面にもっとも近い区分ではないことを意味する。緻密部位を内部に有する構造の多孔質膜を用いることによっては、同じ緻密部位を表面に接して有する多孔質膜を用いた場合よりも、透過させることが意図された物質の透過性が低下しにくい。いかなる理論にも拘泥するものではないが、緻密部位が内部にあることにより物質(タンパク質など)の吸着が起こりにくくなっているためと考えられる。
【0036】
緻密部位は、多孔質膜の厚みの中央部位よりもいずれか一方の表面側に偏っていることが好ましい。具体的には、緻密部位が多孔質膜のいずれか一方の表面から多孔質膜の厚みの3分の1以内の距離にあることが好ましく、5分の2以内の距離にあることがより好ましく、4分の1以内の距離にあることがさらに好ましい。この距離は上述の膜断面写真において判断すればよい。本明細書において、緻密部位がより近い側の多孔質膜の表面を「表面X」という。
【0037】
多孔質膜においては緻密部位から少なくともいずれか一方の表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加していることが好ましい。多孔質膜において、緻密部位から表面Xに向かって厚み方向で孔径が連続的に増加していてもよく、緻密部位から表面Xと反対側の表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加していてもよく、緻密部位から多孔質膜のいずれの表面に向かうときも厚み方向で孔径が連続的に増加していてもよい。これらのうち、少なくとも緻密部位から表面Xと反対側の表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加していることが好ましく、緻密部位から多孔質膜のいずれの表面に向かうときも厚み方向で孔径が連続的に増加していることがより好ましい。「厚み方向で孔径が連続的に増加」とは、厚み方向に隣り合う区分の間の平均孔径の差異が、最大平均孔径(最大孔径)と最小平均孔径(最小孔径)の差異の50%以下、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下となるように増加していることをいう。「連続的に増加」は、本質的には、減少がなく一律に増加することを意味するものであるが、減少している部位が偶発的に生じていてもよい。例えば、区分を表面から2つずつ組み合わせたときに、組み合わせの平均値が、一律に増加(表面から緻密部位に向かう場合は一律に減少)している場合は、「緻密部位から膜の表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加している」と判断できる。
【0038】
多孔質膜の最大孔径は0.1μm超であることが好ましく、1.0μm以上であることがより好ましく、1.5μm超であることがさらに好ましく、また、25μm以下であることが好ましく、23μm以下であることがより好ましく、21μm以下であることがさらに好ましい。本明細書において、上記膜断面の区分のうちで平均孔径が最大となる区分のその平均孔径を多孔質膜の最大孔径とする。
【0039】
緻密部位の平均孔径と多孔質膜の最大孔径との比(多孔質膜の最小孔径と最大孔径との比であって最大孔径を最小孔径で割った値、本明細書において「異方性比」ということもある。)は、3以上が好ましく、4以上がより好ましく、5以上がさらに好ましい。緻密部位以外の平均孔径を大きくし、多孔質膜の物質透過性を高くするためである。また、異方性比は、25以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましい。上記の多段濾過のような効果は異方性比が25以下の範囲で効率よく得られるためである。
平均孔径が最大となる区分は膜のいずれかの表面にもっとも近い区分またはその区分に接する区分であることが好ましい。
【0040】
膜のいずれかの表面にもっとも近い区分においては、平均孔径が0.05μm超25μm以下であることが好ましく、0.08μm超23μm以下であることがより好ましく、0.1μm超21μm以下であることがさらに好ましい。また、膜のいずれかの表面にもっとも近い区分の平均孔径と緻密部位の平均孔径との比は、1.2以上20以下であることが好ましく、1.5以上15以下であることがより好ましく、2以上13以下であることがさらに好ましい。
【0041】
多孔質膜の厚みは、特に限定されないが、膜強度、取扱性、およびろ過性能の観点から、10μm~1000μmであることが好ましく、10μm~500μmであることがより好ましい。
さらに、本発明の製造方法における電子線照射工程を考慮すると、多孔質膜の厚みは40μm~300μmであることが好ましい。40μm以上とすることで、電子線照射の影響によるシワの発生などを防止でき、また、300μm以下とすることにより、電子線照射側の面と反対側の面側に存在する水溶性樹脂の不溶化も促進でき、多孔質膜の厚み方向全体での親水性の強化を図ることができる。
【0042】
多孔質膜は単一の層として1つの組成物から形成された膜であることが好ましく、複数層の積層構造ではないことが好ましい。
ただし、多孔質膜は、本発明の製造方法における搬送を容易にするため、多孔質構造ではない支持体を有していてもよい。支持体は、後述する基材の製造時に支持体として用いたものをそのまま用いることができる。
多孔質膜は長尺状であることが好ましい。本発明の製造方法において、搬送が容易であるからである。長尺状である多孔質膜のサイズとして、幅は100mm~1650mm、長さは50m~4000mが好ましい。電子線照射装置により全幅で均一に照射して連続的に処理するために適したサイズとなるからである。
【0043】
<多孔質膜の製造方法>
[基材の用意]
基材は、一定面積のフィルムとして用意されてもよいが、長尺状のフィルムとして、ロール状に巻き取られている状態で用意されることが好ましい。
基材としては市販の多孔質膜を使用してもよく、公知の方法で製造してもよい。
市販の多孔質膜としては、例えば、スミライトFS-1300(住友ベークライト社製)、マイクロPES 1FPH(メンブラーナ社製)、PSEUH20(ポリスルホン膜、富士フイルム株式会社製)、Durapore(PVDF膜、メルクミリポア(Merkmillipore)社製)、15406(PES膜、Sartorius社製)、MS(登録商標)疎水性PVDFメンブレン、親水性PVDFメンブレン(PVDF膜、メンブランソリューション社製))等が挙げられる。
【0044】
基材の製造方法は、上述の構造の多孔質膜が形成できる限り、特に限定されず、通常のポリマー膜形成方法をいずれも用いることができる。ポリマー膜形成方法としては延伸法および流延法などが挙げられ、流延法が好ましい。
流延法において、製膜原液に用いる溶媒の種類および量や流延後の乾燥方法を調節することにより上述の構造(孔径分布)を有する多孔質膜を作製することができる。
【0045】
流延法を用いた多孔質膜の製造は、例えば以下(1)~(4)をこの順で含む方法で行なうことができる。
(1)ポリマー、必要に応じて添加剤、および必要に応じて溶媒を含む製膜原液を溶解状態で支持体上に流延する。
(2)流延された液膜の表面に調温湿風を当てる。
(3)調温湿風を当てた後に得られる膜を凝固液に浸漬する。
(4)必要に応じて支持体を剥離する。
【0046】
調温湿風の温度は、4℃~60℃、好ましくは10℃~40℃であればよい。調温湿風の相対湿度は、15%~100%、好ましくは25%~95%であればよい。調温湿風は、0.1m/秒~10m/秒の風速で0.3秒間~30秒間、好ましくは1秒間~10秒間、当てていればよい。
【0047】
多孔質膜の水溶性樹脂の分布および量は、多孔質膜の厚み、多孔質膜の孔径、緻密部位の孔径、緻密部位の厚み、緻密部位の位置、後述する洗浄時のジエチレングリコールの温度、及び基材の製造ラインの速度等によって制御することができる。例えば、水溶性樹脂が、非水溶性樹脂からなる多孔質膜骨格の製造工程において添加され、その一部が残留するものであるとき、多孔質膜が厚いか、または多孔質膜の孔径が小さい場合に水溶性樹脂は多く残り、また多孔質膜の厚み方向の中心部の水溶性樹脂の量が多くなる。また、基材が緻密部位を有し、かつ、水溶性樹脂が、非水溶性樹脂からなる多孔質膜骨格の製造工程において添加され、その一部が残留するものであるとき、緻密部位の孔径が小さいほど、また。緻密部位が厚いほど、水溶性樹脂が多く残る。また、緻密部位が基材の中心部にあればその部分に水溶性樹脂が多く残る。多孔質膜の水溶性樹脂の量は、例えば、後述のジエチレングリコール等での洗浄を行うときに、多孔質膜の厚みや孔径により条件を変更して調整することもできる。
【0048】
多孔質膜の孔径や緻密部位の孔径や厚みや位置は、調温湿風中に含まれる水分濃度、調温湿風を当てる時間、凝固液の温度、浸漬時間、によって制御することができる。また、緻密部位の形成、および形成される緻密部位の平均孔径および位置も、調温湿風中に含まれる水分濃度、調温湿風を当てる時間によって制御することができる。なお、緻密部位の平均孔径は、製膜原液中の含有水分量によっても制御することができる。
【0049】
上記のように液膜の表面に調温湿風を当てることによって、溶媒の蒸発の制御を行い、液膜の表面から膜内に向かってコアセルベーションを起こすことができる。この状態で支持体上の液膜をポリマーの溶解性が低いがポリマーの溶媒に相溶性を有する溶媒を収容する凝固液に浸漬することによって、上記のコアセルベーション相を微細孔として固定させ微細孔以外の細孔も形成することができる。
【0050】
上記の凝固液に浸漬する過程において凝固液の温度は-10℃~80℃であればよい。この間で温度を変化させることによって、緻密部位より支持体面側におけるコアセルベーション相の形成から凝固に至るまでの時間を調節し、支持体面側に至るまでの孔径の大きさを制御することが可能である。凝固液の温度を高くすると、コアセルベーション相の形成が早くなり凝固に至るまでの時間が長くなるため、支持体面側へ向かう孔径は大きくなりやすい。一方、凝固液の温度を低くすると、コアセルベーション相の形成が遅くなり凝固に至るまでの時間が短くなるため、支持体面側へ向かう孔径は大きくなりにくい。
【0051】
支持体としては、プラスチックフィルムまたはガラス板を用いればよい。プラスチックフィルムの材料の例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、ポリカーボネート、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリオレフィン、セルロース誘導体、シリコーンなどが挙げられる。支持体としてはガラス板またはPETが好ましく、PETがより好ましい。
基材を支持体とともにロール状に巻き取られた長尺のフィルムとして用意する場合は、支持体としてプラスチックフィルムを用いることが好ましい。
【0052】
製膜原液は溶媒を含んでいてもよい。溶媒は使用するポリマーに応じて、使用するポリマーの溶解性が高い溶媒(以下、「良溶媒」ということがある)を用いればよい。溶媒は凝固液に浸漬したときに速やかに凝固液と置換されるものが好ましい。溶媒の例としては、ポリマーがポリスルホン等の場合、N-メチル-2-ピロリドン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドあるいはこれらの混合溶媒が挙げられ、ポリマーがポリアクリロニトリル等の場合、ジオキサン、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドあるいはこれらの混合溶媒が挙げられ、ポリマーがポリアミド等の場合、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドあるいはこれらの混合溶媒が挙げられ、ポリマーがセルロースアセテート等の場合、アセトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドンあるいはこれらの混合溶媒が挙げられる。これらのうち、N-メチル-2-ピロリドンを用いることが好ましい。
【0053】
製膜原液は良溶媒に加えて、ポリマーの溶解性が低いがポリマーの溶媒に相溶性を有する溶媒(以下、「非溶媒」ということがある)を用いることが好ましい。非溶媒としては、水、セルソルブ類、メタノール、エタノール、1-プロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、ポリエチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。これらのうち、水を用いることが好ましい。
【0054】
製膜原液としては、ポリスルホンおよびポリビニルピロリドンをN-メチル-2-ピロリドンに溶解して水を加えてなる製膜原液が好ましい。
【0055】
製膜原液としてのポリマー濃度は、5質量%以上35質量%以下、好ましくは10質量%以上30質量%以下であればよい。35質量%以下であることにより、得られる多孔質膜に十分な透過性(例えば水の透過性)を与えることができ、5質量%以上とすることにより選択的に物質が透過する多孔質膜の形成を担保することができる。添加剤の添加量は添加によって製膜原液の均一性が失われることが無い限り特に制限は無いが、通常溶媒に対して0.5質量%以上10質量%以下である。製膜原液が非溶媒と良溶媒とを含む場合、非溶媒の良溶媒に対する割合は、混合液が均一状態を保てる範囲であれば特に制限はないが、0.2質量%~50質量%が好ましく、0.4質量%~30質量%がより好ましく、0.7質量%~10質量%がさらに好ましい。また、非溶媒は、製膜原液に対して0.2質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0056】
また、ポリスルホンおよびポリエーテルスルホンからなる群より選択されるポリマーとポリビニルピロリドンとを含む多孔質膜を製造するための製膜原液においては、ポリビニルピロリドンは、ポリスルホンおよびポリエーテルスルホンの総質量に対し、50質量%~120質量%で含まれていることが好ましく、80質量%~110質量%で含まれていることがより好ましい。このような製膜原液を用いることにより、ポリビニルピロリドンを0.05~8.0質量%程度含む多孔質膜が得られる。ポリビニルピロリドンの量が減っているのは、ポリビニルピロリドンは、洗浄工程で大部分が除かれるためである。
さらに、製膜原液が添加剤として塩化リチウムを含むとき、塩化リチウムは、ポリスルホンおよびポリエーテルスルホンの総質量に対し、0.5質量%~20質量%で含まれていることが好ましく、1質量%~15質量%で含まれていることがより好ましい。
【0057】
凝固液としては、用いられるポリマーの溶解度が低い溶媒を用いることが好ましい。このような溶媒の例としては、水、メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのグリコール類;エーテル、n-ヘキサン、n-ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;グリセリン等のグリセロール類などが挙げられる。好ましい凝固液の例としては、水、アルコール類またはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらのうち、水を用いることが好ましい。
【0058】
凝固液への浸漬の後、使用した凝固液とは異なる溶媒で洗浄を行なうことも好ましい。洗浄は、溶媒に浸漬することにより行なうことができる。洗浄溶媒としては、水、アルコール類またはこれらの2種以上の混合物が挙げられ、ジエチレングリコールが特に好ましい。特に、多孔質膜の製膜原液にポリビニルピロリドンを用いる場合において、洗浄溶媒としてジエチレングリコールを用い、フィルムを浸漬するジエチレングリコールの温度および浸漬時間のいずれか一方または双方を調節することにより、ポリビニルピロリドンの膜への残量を制御することができる。ジエチレングリコールでの洗浄後さらに、水で洗浄してもよい。
【0059】
その他本発明の製造方法で基材として用いられる多孔質膜の製造方法については、特開平4-349927号公報、特公平4-68966号公報、特開平04-351645号公報、特開2010-235808号公報等を参照することができる。
【0060】
なお、基材は乾燥した状態で用意されていてもよい。乾燥は、後処理として後述する乾燥と同様の方法で行うことができる。または、基材は水性溶剤が存在する状態で用意されていてもよい。例えば、基材は、内部に水性溶剤が浸透している状態で用意されてもよい。例えば、上記の凝固液として用いられる水、または洗浄のために用いられる水(ジエチレングリコールで洗浄後にさらに水で洗浄する際の水等)等が、水性溶剤となりうる。
【0061】
[水性溶剤]
本発明の製造方法において、基材は、水性溶剤の存在下で電子線照射される。水性溶剤中で分子が動きやすくなった状態で電子線照射されることにより、水溶性樹脂の架橋が促進される。架橋の促進により、多孔質膜の濡れ性が維持され、もしくは向上させ、後述する多孔質膜の後処理後にも濡れ性が維持されるようにすることができる。水性溶剤の存在により、非水溶性樹脂からなる多孔質膜骨格の表面に存在する水溶性樹脂についても、非水溶性樹脂の骨格内に取り込まれて存在する水溶性樹脂についても、分子が動きやすい状態とすることができる。また、水性溶剤が存在することにより、基材の多孔質膜骨格に電子線照射を原因とする改質または損傷が生じることを防止できる。水性溶剤は、基材である多孔質膜内部に水性溶剤が浸透している状態で存在することが好ましい。より具体的には、水性溶剤は、基材の少なくとも一つの表面と基材内部との間に存在する実質的に全ての細孔で連通している状態で存在することが好ましく、基材の両表面の間に存在する実質的に全ての細孔で連通している状態で存在することが好ましい。なお、水性溶剤が基材の表面と内部で連通しているか否かについては、基材表面の濡れの均一性、すなわちムラの有無から判断できる。均一であれば、連通していると推定できる。
【0062】
水性溶剤は、少なくとも水を含む溶剤である。水性溶剤は、水、または水と水混和性溶剤とを含む溶剤であればよい。水混和性溶剤としては、アルコール(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等)および酢酸などが挙げられる。水性溶剤は、水を70質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことがさらに好ましく、98質量%以上含むことが特に好ましい。水性溶剤は水であることが最も好ましい。
【0063】
基材である多孔質膜内部に水性溶剤を十分に浸透させるために、基材には水性溶剤を適用後、電子線照射を行ってもよい。水性溶剤の適用方法としては、浸漬法、スプレーコート法、ダイコート法などが挙げられる。これらのうち、スプレーコート法またはダイコート法が好ましい。適用する水性溶剤の量の調整が容易であるからである。また、これらの方法により片面から水性溶剤を付与することで、片面からの距離毎に均一な分布で水性溶剤を厚み方向に浸入させることができるからである。さらに、多孔質膜において両面から水性溶剤を侵入させた場合、多孔質膜の厚み方向内部の細孔に存在する空気が抜けずに残る場合があるが、このように片面から水性溶剤を侵入させることによって、多孔質膜内部の細孔から空気が抜けずに水性溶剤の多孔質膜全体への浸透が妨げられる状態を避けることができるからである。ダイコート法としては、特開2003-164788号公報に記載のエクストリュージョン型ダイや市販のダイなど各種ダイを用いることができる。
【0064】
スプレーコート法またはダイコート法などにより、基材のいずれか一方の面から水性溶剤を適用するときであって、緻密部位を内部に有し、かつ緻密部位が多孔質膜の厚みの中央部位よりもいずれか一方の表面側に偏っている多孔質膜に水性溶剤を適用する場合、適用は緻密部位により近い表面Xから行ってもよく、その反対側から行ってもよいが、反対側から行うことが好ましい。後述のように、反対側は、通常孔径が大きくろ過膜として使用する場合より濡らし易くすることが望ましい側であり、反対側から電子線照射を行うことが好ましい。したがって、電子線照射時に、少なくとも上記反対側の面と緻密部位との間の細孔で水性溶剤を連通させておくことが好ましいからである。また、水性溶剤は孔径が大きい側から緻密部位に到達しやすいためである。
【0065】
また、スプレーコート法またはダイコート法などにより、基材のいずれか一方の面から水性溶剤を適用するときであって、支持体上で形成され、その後支持体を剥離した多孔質膜に水性溶剤を適用する場合、適用は支持体側であった面から行ってもよく、その反対側から行ってもよいが、支持体側であった面から行うことが好ましい。後述のように、支持体側であった面は通常孔径が大きく、ろ過膜として使用する場合より濡らし易くすることが望ましい側であり、この面から電子線照射を行うことが好ましい。したがって、電子線照射時に、少なくとも支持体側であった面側と基材内部との間に水性溶剤を連通させておくことが好ましいからである。
【0066】
基材が過剰な水性溶剤を含むときは、電子線照射の前に水性溶剤の一部を除去してもよい。基材が水性溶剤を必要以上に含むことにより生じる問題を防止することができる。基材が水性溶剤を多く含む場合、例えば、製造ラインでの搬送時に基材にシワが生じること、水性溶剤の重さで基材にたるみが生じること、および搬送のためのローラーにスリップが生じることが問題となることが考えられる。また、基材が過剰な水性溶剤を含むことにより、例えば、製造ラインでの搬送時にローラー上で過剰な水が部分的に除去されることで多孔質膜が含む水性溶剤の量にムラが生じ、濡れの均一性のムラが生じる場合が考えられる。
【0067】
水性溶剤は基材の表面から除去すればよい。水性溶剤の除去方法としては、乾燥、エアナイフ、またはスクイーズ等が挙げられる。
乾燥は、加熱、風、または両方により、基材表面から水性溶剤を蒸発させる方法である。エアナイフは表面にガスを吹き付けて表面の水性溶剤を除去する方法である。例えば、長尺フィルム状の基材の進行方向に対して垂直方向(幅方向)でガスを噴出し、この幅と略同じ長さのエアカーテンを形成して水性溶剤を除去することができる。エアナイフに用いるガスは、その後の電子線照射を用いた基材の処理に影響しないガスであればよく、例えば、空気を用いることができる。スクイーズは、搬送時のローラーに布等を巻くか、または布等を巻いたローラー間を通過させることで表面の水性溶剤を除去する方法である。ローラーに布を巻いておくことにより、多孔質膜の表面の過剰な水性溶剤が布に含まれ、多孔質膜が搬送される部分の外側に水性溶剤が移動する等により、表面の過剰な水性溶剤を除去することができる。なお、ローラーには布を巻いておくことで、ローラーの保持力も上がる。
【0068】
水性溶剤の除去方法としては、エアナイフ、またはスクイーズが好ましい。加熱および/または風を用いた乾燥よりも基材の幅方向および長手方向での水性溶剤の均一な除去が容易であるからである。
水性溶剤の除去は、特に浸漬法を用いた水性溶剤の適用と組み合わせて行うことが好ましい。浸漬法によっては、基材が水性溶剤を必要以上に含みやすいため、浸漬によって水性溶剤を適用した後に、余分な水性溶剤が除去されることが好ましいからである。
【0069】
電子線照射時の基材の電子線照射部位に含まれる水性溶剤の量は、基材上記部位の乾燥質量の50質量%以上500質量%以下、好ましくは70質量%以上450質量%以下、より好ましくは100質量%以上400質量%以下であることが好ましい。上記量は基材への水性溶剤の適用方法および必要に応じた除去の方法で調整することができる。
【0070】
[電子線照射]
本発明者らは、水性溶剤を含んだ基材に電子線照射することにより基材の親水性を維持しやすくすることができることを見出した。基材に含まれる水溶性樹脂が、水性溶剤中の水を含んだ状態で電子線処理されることで、非水溶性樹脂から構成される多孔質膜骨格の表面、および非水溶性樹脂との混合部で架橋し、多孔質膜骨格から離れにくくなったためと考えられる。架橋は、水溶性樹脂がPVPまたはPVAの構造部分を有し架橋可能な構造であること、また、後述の実施例で示すように、電子線照射を行った多孔質膜に不溶成分があることから推定される。すなわち、本発明の製造方法において、電子線照射は、基材中の水溶性樹脂の少なくとも一部が架橋するように行う。
【0071】
電子線照射においては、電子線(Electron Beam)が利用される。電子線照射は、人工的に電子を加速し、ビームとして被処理体に照射するものである。電子線の持つ高いエネルギーおよび透過性を利用して、多孔質膜の表面のみならず内部に存在する水溶性樹脂も不溶化することができる。電子線は多孔質膜内部まで到達して作用することができるため、多孔質膜内部での架橋も促進され、後述する後処理に基づく洗浄後の溶出分を低減することができる。電子線は放射線の一種であり、アイソトープから発生する放射線とは異なり、電子線は電気的に制御が可能で、瞬時にオン・オフができる。強力な電子線は、熱線処理をはじめとする他のエネルギーに比べコントロールしやすい利点を有する。電子線照射では電子の持つ高エネルギーと、被照射体が求めるエネルギー量を容易にコントロールできるため、吸収線量(照射される物質の受けるエネルギー)を管理することができる。また電子線照射は、平面に均一なエネルギーを付与することができる。
【0072】
電子線照射には、一般的な電子線照射装置を用いればよい。一般的な電子線照射装置は主に照射部、電源部、制御部からなる。照射部は電子線を発生する部分であり、真空チャンバ内のフィラメントで生じた熱電子を、グリッドによって引き出し、さらにウインドウとの間に負荷された高電圧(70~300kV)によって、電子を加速することができる。照射部では、スキャニング方式、ダブルスキャニング方式、又は、カーテンビーム方式が採用でき、好ましくは比較的安価で大出力が得られるカーテンビーム方式を採用すればよい。
【0073】
二次的に発生するX線はセルフシールド構造によって安全に遮蔽され、作業環境には影響しないよう安全が確保されることが好ましい。電源部には加速のための高電圧電源、フィラメント電源などが納められ、制御部には制御システム、各種モニターなどが納められているものを好適に用いることができる。
【0074】
電子線照射は、基材中の水溶性樹脂の少なくとも一部が架橋する程度の強度で行う。例えば、電子線照射は、基材の吸収線量として、50~300kGyで行われることが好ましく、80~280kGyで行われることがより好ましく、100~230kGyで行われることがさらに好ましい。
加速電圧は吸収線量が上記の範囲となるように、例えば70~150kVの範囲で調整すればよい。また、加速電圧により多孔質膜への電子線透過性が変わるため、加速電圧の調整により多孔質膜の照射面と非照射面の濡れ性の調整や水溶性樹脂の架橋性を調整することもできる。その他、多孔質膜の材料や厚み、電子線透過性や水溶性樹脂の架橋性、電子線照射処理時のシワの発生状況などにより加速電圧を調整してもよい。
【0075】
緻密部位を内部に有し、かつ緻密部位が多孔質膜の厚みの中央部位よりもいずれか一方の表面側に偏っている多孔質膜に電子線照射を行うとき、電子線照射は緻密部位により近い表面X側から行ってもよく、その反対側から行ってもよいが、反対側から行うことが好ましい。理由は以下のとおりである。多孔質膜をろ過膜として使用する場合、一般的には、孔径がより大きい面を原液を適用する一次側として、反対側の面(二次側)に通水する。そのため、孔径がより大きい面の親水性がより高いことによって、ろ過膜を原液でより濡らしやすくなる。通常、緻密部位からより遠い面(表面Xの反対側)が孔径がより大きい面となるため、この面側に電子線照射して、水溶性樹脂を不溶化し親水性を強化することにより、ろ過膜として使用しやすい多孔質膜を得ることができる。
【0076】
支持体上に形成されている多孔質膜に電子線照射を行うとき、電子線照射は支持体側から行ってもよく、その反対側から行ってもよいが、支持体側から行うことが好ましい。また、支持体上で形成され、その後支持体を剥離した多孔質膜に電子線照射を行うとき、電子線照射は支持体側であった面から行ってもよく、その反対側から行ってもよいが、支持体側であった面から行うことが好ましい。例えば、非水溶性樹脂としてポリスルホンを使用して上述のように作製した多孔質膜においては、通常、支持体側の面が、孔径がより大きい面となるためである。
【0077】
[後処理]
電子線照射後に得られる多孔質膜には、用途に応じて必要な後処理を行うことができる。
後処理としては、例えば、洗浄、乾燥、滅菌処理などが挙げられる。なお、洗浄などの後処理は、通常、電子線照射後、同じ製造ラインにおいて行えばよいが、フィルターカートリッジ等に加工された状態の多孔質膜に施してもよい。
【0078】
洗浄により、得られた多孔質膜において、十分に保持されていない水溶性樹脂(例えば、不溶化しなかった水溶性樹脂の全てまたはその一部)やその他の不要な成分を除去することができる。洗浄方法は特に限定されないが、浸漬あるいは圧入法で多孔質膜の膜表面および細孔表面に洗浄溶媒を浸透させ、その後、除去すればよい。洗浄溶媒としては、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、クロロホルム、およびこれらいずれか2つ以上の混合溶媒を挙げることができる。洗浄溶媒としては、水、または水と極性有機溶媒の混合溶媒が好ましい。水と極性有機溶媒の混合溶媒において、極性有機溶媒の量は、混合溶媒の総質量に対して、10~60質量%が好ましく、20~55質量%がより好ましく、30~50質量%がさらに好ましい。洗浄溶媒の浸透および除去を2回以上行ってもよい。このとき2回以上の洗浄においてそれぞれの回の洗浄溶媒は同じであってもよく、異なっていてもよいが、異なっていることが好ましい。洗浄の最後に用いられる洗浄溶媒は水であることが好ましい。特に水に浸漬することが好ましい。アルコールなどの有機溶媒成分を除くためである。
【0079】
乾燥の手段としては、加温、風、減圧等が挙げられ、特に限定されないが、製造工程の簡便性から風乾燥、加温乾燥が好ましく、風乾燥がより好ましい。乾燥は、単に放置することにより達成されてもよい。
【0080】
多孔質膜の滅菌処理としては、例えば、高圧蒸気滅菌処理が挙げられる。特にオートクレーブを用いた高温高圧の水蒸気を用いた処理を行うことが好ましい。通常、樹脂製品に対する高圧蒸気滅菌処理は、加圧された飽和水蒸気によって110℃~140℃程度の環境下で10~30分間処理することによって行われる。滅菌処理に用いられるオートクレーブとしては、例えば、株式会社トミー精工製のSS325が挙げられる。
【0081】
必要に応じた後処理後の多孔質膜は、製品としての輸送、または加工処理のために、さらにロール状に巻き取り、保存することも好ましい。
【0082】
<多孔質膜の用途>
本発明の製造方法で得られた多孔質膜はろ過膜として各種用途で使用することができる。ろ過膜は、種々の高分子、微生物、酵母、微粒子を含有あるいは懸濁する液体の分離、精製、回収、濃縮などに適用され、特にろ過を必要とする微細な微粒子を含有する液体からその微粒子を分離する必要のある場合に適用することができる。例えば、微粒子を含有する各種の懸濁液、発酵液あるいは培養液などの他、顔料の懸濁液などから微粒子を分離するときにろ過膜を使用することができる。本発明の親水性多孔質膜は、具体的には、製薬工業における薬剤の製造、食品工業におけるビールなどのアルコール飲料製造、電子工業分野での微細な加工、精製水の製造などにおいて必要となる精密ろ過膜として使用することができる。
【0083】
孔径分布を有する多孔質膜をろ過膜として用いるとき、より孔径が小さい部位が二次側(ろ過液の出口側)に近くなるように配置してろ過を行うことにより、微粒子を効率よく捕捉することができる。また、孔径分布を有する多孔質膜では、その表面から導入された微細粒子が最小孔径部分に到達する以前に吸着または付着によって除かれる。したがって、目詰まりを起こしにくく、長期間にわたって高いろ過効率を維持することができる。
【0084】
多孔質膜は、用途に応じた形状に加工して、種々の用途に用いることができる。親水性多孔質膜の形状としては、平膜状、管状、中空糸状、プリーツ状、繊維状、球形粒子状、破砕粒子状、塊状連続体状などが挙げられる。
【0085】
多孔質膜は、各種用途に用いられる装置において容易に取り外し可能であるカートリッジに装着されてもよい。カートリッジにおいて多孔質膜はろ過膜として機能しうる形態で保持されていることが好ましい。本発明の製造方法で得られた多孔質膜を保持したカートリッジは、公知の多孔質膜カートリッジと同様に製造することができ、この製造については、例えば、WO2005/037413号、特開2012-045524号公報を参照することができる。
【0086】
例えば、フィルターカートリッジは、以下のように製造することができる。
長尺の多孔質膜を短辺(幅)方向で折り目がつくようにプリーツ加工する。例えば、通常2枚の膜サポートの間に挟んで、公知の方法でプリーツ加工することができる。膜サポートとしては不織布、織布、ネットなどを使用すればよい。膜サポートは、ろ過圧変動に対してろ過膜を補強すると同時に、ひだの奥に液を導入するために機能する。プリーツひだの幅は例えば5mmから25mmであればよい。プリーツ加工した多孔質膜は円筒状に丸め、その合わせ目をシールすればよい。
【0087】
円筒状の多孔質膜はエンドプレートにエンドシールされる、エンドシールはエンドプレート材質にしたがって公知の方法で行えばよい。エンドプレートに熱硬化性のエポキシ樹脂を使用する時は、調合したエポキシ樹脂接着剤の液体をポッティング型中に流し込み、予備硬化させて接着剤の粘度が適度に高くなってから、円筒状ろ材の片端面をこのエポキシ接着剤中に挿入し、その後加熱して完全に硬化させればよい。エンドプレートの材質がポリプロピレンやポリエステルの如き熱可塑性樹脂の時は、熱溶融した樹脂を型に流し込んだ直後に円筒状ろ材の片端面を樹脂の中に挿入する方法を行ってもよい。一方、既に成形されたエンドプレートのシール面のみを熱板に接触させたり赤外線ヒーターを照射したりしてプレート表面だけを溶融し、円筒状ろ材の片端面をプレートの溶融面に押しつけて溶着してもよい。
【0088】
組み立てられたフィルターカートリッジはさらに公知の洗浄工程に付してもよい。
なお、多孔質膜における水溶性樹脂のうち、不溶化しなかった水溶性樹脂の全てまたはその一部は、フィルターカートリッジにおいて、洗浄工程等で用いられる溶剤に溶解して除去されてもよい。
【実施例
【0089】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0090】
<多孔質膜の作製>
[基材の作製]
(ポリスルホン(PSf)多孔質膜)
ポリスルホン(ユーデルP3500、ソルベイ社製)18質量部、ポリビニルピロリドン(K-50、第一工業製薬社製)12質量部、塩化リチウム0.5質量部、水1質量部をN-メチル-2-ピロリドン68.5質量部に溶解して製膜用混合物を得た。この混合物をPETフィルム(溶融製膜後延伸し厚み70μmとしたフィルム、幅35cmのロール状)の表面に厚み140μmとなるように流延した。上記流延した液膜表面に25℃、絶対湿度9.9g/kg空気(相対湿度50%)に調節した空気を風速1.0m/secで2秒間当てた。その後直ちに水を満たした凝固液槽に浸漬した。凝固液の温度は25℃とした。
【0091】
その後、凝固液槽で形成した多孔質膜をPETフィルムから剥離し、剥離した多孔質膜を80℃のジエチレングリコール液で2分間、その後70℃の純水で5分間、洗浄した。洗浄後の多孔質膜を80℃で2分間乾燥後、PETフィルムから剥離した側を内側にして、巻取り張力100Nで外形76mm(3インチ)、厚み10mmの紙管巻き芯に巻き取り、幅30cmのロール状のポリスルホン多孔質膜(実施例1)を得た。この多孔質膜の孔径を後述する平均孔径測定により測定した結果、0.2μmであった。
表1に記載の各例のポリスルホン多孔質膜も同様に製造した。ポリスルホン多孔質膜の厚みは、PETフィルムの表面に流涎する製膜用混合物の量により調整した。ポリスルホン多孔質膜の平均孔径は、製膜用混合物中の水分、風の相対湿度を調整することで調整した。
【0092】
(ポリエーテルスルホン(PES)多孔質膜)
ポリスルホン(ユーデルP3500、ソルベイ社製)の代わりにポリエーテルスルホン(スミカエクセル 5200P(住友化学社製))を用い、ポリマー溶液中の水分、風の相対湿度を調整する以外はポリスルホン(PSf)多孔質膜の作製と同様にして、ポリエーテルスルホン多孔質膜を得た。
【0093】
(ポリフェニレンサルファイド(PPhS)多孔質膜)
ポリスルホン(ユーデルP3500、ソルベイ社製)の代わりにポリフェニレンサルファイド(レーデル(登録商標)R-5000(ソルベイ社製))を用い、ポリマー溶液中の水分、風の相対湿度を調整する以外はポリスルホン(PSf)多孔質膜の作製と同様にして、ポリフェニレンサルファイド多孔質膜を得た。
【0094】
(ポリフッ化ビニリデン(PVDF)多孔質膜(PVP添加))
市販のPVDF膜(MS(登録商標)疎水性PVDFメンブレン0.22μm(メンブランソリューション社製))を、0.12%のポリビニルピロリドン(PVP)溶液(ピッツコールK-50)に浸漬、乾燥してポリフッ化ビニリデン多孔質膜(PVP添加)を得た。
【0095】
(ポリフッ化ビニリデン多孔質膜(PVA添加))
市販のPVDF膜(MS(登録商標)疎水性PVDFメンブレン0.22μm(メンブランソリューション社製))を、0.12%のポリビニルアルコール(PVA)溶液(ポバール(登録商標)PVA203、クラレ株式会社製)に浸漬、乾燥してポリフッ化ビニリデン多孔質膜(PVA添加)を得た。
【0096】
(ポリフッ化ビニリデン多孔質膜(HPC添加))
市販のPVDF膜(MS(登録商標)疎水性PVDFメンブレン0.22μm(メンブランソリューション社製))を、0.12%のヒドロキシプロピルセルロース(HPC)溶液(HPC-SL、日本曹達株式会社製)に浸漬、乾燥し多孔質膜を得た。
【0097】
[基材の評価]
(水溶性樹脂の含有量)
多孔質膜中の水溶性樹脂の含有量(表1)は、プロトンNMR法により測定した。
ポリスルホンとポリビニルピロリドンとからなる多孔質膜の場合、共に溶解する重クロロホルムに膜を溶解し、ポリビニルピロリドンに帰属する1.85~2.5ppmの積分値、7.3ppm付近のポリスルホンの積分値を測定した。
事前にポリスルホンとポリビニルピロリドンの質量比を調整した検量線を作成し、水溶性樹脂の量を求めた。
プロトンNMRはBurker NMR300を用い、300MHz、積算回数256回で行った。
ポリエーテルスルホン多孔質膜、ポリフェニルスルホン多孔質膜、ポリフッ化ビニリデン多孔質膜についても、同様の方法で非水溶性樹脂成分と親水性樹脂の検量線により評価した。
【0098】
(平均孔径)
平均孔径(表1)は、POROUS MATERIALS社(米国)製のパームポロメーターにより求めた。また、膜の厚み方向の緻密部位については前述の走査電子顕微鏡を用いた方法で求めた。一例として、実施例1の多孔質膜は、平均孔径0.2μmであり、緻密部位はPETフィルムから剥離した面から130μmの位置にあった。緻密部位からPETフィルムから剥離した面、及びその反対側の面にかけて孔径は大きくなり、PETフィルムから剥離した面の近傍の孔径は反対側の孔径より大きい多孔質膜であった。
【0099】
[基材への水の適用および電子線照射]
上記基材を、図1の工程図で示すようにローラーで巻き出し、表1に記載の条件で、水付与、水除去、電子線照射から選択される処理を行った。処理後の膜を80℃で2分間乾燥した後、巻き取って多孔質膜を得た。電子線照射は岩崎電機社製CB200型電子線照射機により行った。
また、表1に記載の水の適用方法および水の除去方法の具体的手順は以下のとおりである。
【0100】
スプレー法には、スプレーノズルとしてクイックフォッガー(スプレーイングシステムスジャパン社製)を用いた。図1の2の部分に幅方向に2台のノズルを並べ適宜水性溶剤の噴霧量を調整し、多孔質膜に均一に水性溶剤が適用できるようにした。なお、PETフィルム上に形成された基材(多孔質膜)については、電子線照射を行う側(表1に記載)と同じ側からスプレーした。
ダイコート法としては、特開2003-164788号公報の実施例1のエクストリュージョン型ダイを用いた。ダイコートにより多孔質膜に塗布する部分の後100mmの間は塗布面の反対側にローラーの接触が無いようにした。なお、PETフィルム上に形成された基材(多孔質膜)については、電子線照射を行う側(表1に記載)と同じ側からコートした。
【0101】
浸漬法は、図1の2の部分に水槽を設置して行った。水槽内にローラーを配置し、多孔質膜を1分間水性溶剤に浸漬した。
エアナイフとしては関西伝熱ハイブローノズル75SUS-300-1.0を用いた。浸漬終了後、電子線照射前のローラー搬送部の間で、多孔質膜の両面に各1基配置した。
スクイーズは水槽直後のローラー部分にナイロン製の布を巻いて行った。ローラーの配置を適宜調整し搬送される多孔質膜の両面で行った。
なお、水性溶剤として温度25℃の水を用いた。
【0102】
また、水性溶剤適用工程2と水性溶剤除去工程3を通過した後、電子線照射工程4の直前の製造ラインの位置から、サンプリングを行い、サンプリングしたサンプルをガラス瓶に入れ質量を測定し、サンプリング質量Wsと温度115℃での絶乾質量Wdから下記式により含水量Wを算出した。
W=(Ws-Wd)/Wd
【0103】
得られた多孔質膜を以下の項目で評価した。結果を表2に示す。
(不溶成分質量)
ポリスルホンとポリビニルピロリドンを溶解するメチレンクロライドにより、膜の溶解試験を行った。
60cmの膜を50mLのメチレンクロライドに室温で24時間浸漬した。不溶成分の有無を目視で観察した。
不溶成分のあるものについて、その後、0.45μmのテフロンフィルターでろ過し、ろ過残渣の質量を測定した。元の膜質量に対する残渣の質量比(%)で示した。
【0104】
(洗浄後吸上げ性)
洗浄
多孔質膜のカートリッジ加工条件を想定し、以下の洗浄および乾燥を行った。
まず、水とエタノールの質量比7対3の混合液に多孔質膜を30分浸漬した。その後水で5分間洗浄し、温度70℃相対湿度99%で26時間乾燥した。
【0105】
吸上げ性
多孔質膜のカートリッジ内での濡れ性(親水性)を評価するために、多孔質膜の吸上げ性を評価した。
多孔質膜の一端を、市販の無糖コーヒー液(味の素ゼネラルフード社、ブレンディ(登録商標)無糖コーヒー、ペットボトル入り)に浸漬し、その一端において水面から吸い上がった水の高さを10分後に測定した。
吸上げ性は数値が大きいほどよく、10mm以上が製品として許容されるレベル、20mm以上が合格レベル、50mm以上が望ましいレベルである。なお、フィルターカートリッジ加工の際は一次側(原液を適用する側)の吸上げ性が大きいことが好ましく、また、上述のように、支持体上で形成された多孔質膜は支持体側だった面を一次側とすることが好ましいため、PET側であった面の吸上げ性が大きいことが好ましい。
【0106】
(通水量)
多孔質膜から直径47mmの円を切り出し、100kPaの圧力をかけ純水を透過させたときの透水性で評価した。単位面積当たり、1分間に膜を通って流れ出た水の体積を測定し透水性(ml/cm/min)とした。
【0107】
(洗浄後の濡れ性ムラ)
多孔質膜を、水とエタノールの質量比7対3の混合液に30分浸漬した。
その後水で5分間洗浄し、温度70℃相対湿度99%で26時間乾燥した。
乾燥した膜について水により吸上げ試験を10分行ったあと全面を水に浸漬し膜の濡れ性ムラを観察し、以下の基準で評価した。
ここで、濡れ性ムラとは膜の表面は濡れても膜の厚み方向内部が濡れないため、膜全体の目視観察で均一に濡れていない部分をいう。
A:膜の濡れ性ムラがない。
B:濡れ性ムラが膜の面積の20%未満である。
C:濡れ性ムラが膜の面積の20%以上である。(不合格)
【0108】
(シワ)
製膜した膜を、長手方向1mの長さに切り出し、つり下げた際の膜全体のシワの強弱を蛍光灯下で観察し、以下の基準で評価した。
A:シワが視認できなかった。
B:膜の製膜方向に沿って弱いトタン状のシワが視認された。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
さらに、実施例1および比較例1において、得られた多孔質膜について、以下のように、洗浄後の溶出量を測定したところ、実施例1で0.46%、比較例1で1.61%の結果が得られ、本発明の製造方法で得られた多孔質膜では、膜成分の溶出量が減少することが分かった。
(洗浄)
多孔質膜のカートリッジ加工条件を想定し、以下の洗浄および乾燥を行った。
まず、水とエタノールの質量比7対3の混合液に多孔質膜を30分浸漬した。その後水で5分間洗浄し、温度70℃相対湿度99%で26時間乾燥した
(溶出量の評価)
洗浄後の多孔質膜1600cmを、水とエタノールとの混合溶剤(質量比5対5)により6時間還流した。還流後の液を105℃で乾固して溶出分を測定し、元の膜質量に対する比率を求めた。
【符号の説明】
【0112】
1 巻き出し
2 水性溶剤適用工程
3 水性溶剤除去工程
4 電子線照射工程
5 後処理工程
6 巻き取り
図1