(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】亜鉛電池用負極の製造方法及び亜鉛電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/26 20060101AFI20221031BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20221031BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20221031BHJP
H01M 4/24 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
H01M4/26 H
H01M4/48
H01M4/62 C
H01M4/24 H
(21)【出願番号】P 2018220231
(22)【出願日】2018-11-26
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100211018
【氏名又は名称】財部 俊正
(72)【発明者】
【氏名】櫛部 有広
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-151759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M10/24-10/32
H01M12/00-16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極集電体と、前記負極集電体に支持された負極材と、を有する亜鉛電池用負極の製造方法であって、
平均粒子径が0.05~
0.06μmである酸化亜鉛粒子を含む負極材ペーストを用意する工程と、
前記負極材ペーストを前記負極集電体に配置した後に乾燥する工程と、を備える、亜鉛電池用負極の製造方法。
【請求項2】
負極集電体と、前記負極集電体に支持された負極材と、を有する亜鉛電池用負極の製造方法であって、
平均粒子径が0.05~0.28μmである酸化亜鉛粒子を含む負極材ペーストを用意する工程と、
前記負極材ペーストを前記負極集電体に配置した後に乾燥する工程と、を備
え、
前記負極材ペーストがバインダーを更に含み、
前記バインダーの含有量が、前記負極材ペーストの固形分全量を基準として、3.5~7質量%である、亜鉛電池用負極の製造方法。
【請求項3】
負極集電体と、前記負極集電体に支持された負極材と、を有する亜鉛電池用負極の製造方法であって、
平均粒子径が0.05~0.28μmである酸化亜鉛粒子を含む負極材ペースト
(ただし、1~6μmの粒径を有する金属亜鉛粉末を含む負極材ペーストは除く)を用意する工程と、
前記負極材ペーストを前記負極集電体に配置した後に乾燥する工程と、を備える、亜鉛電池用負極の製造方法。
【請求項4】
前記負極材ペーストがバインダーを更に含み、
前記バインダーの含有量が、前記負極材ペーストの固形分全量を基準として、10質量%以下である、請求項1
又は3に記載の亜鉛電池用負極の製造方法。
【請求項5】
請求項1
~4のいずれか一項に記載の方法により製造された負極を用いる、亜鉛電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛電池用負極の製造方法及び亜鉛電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛電池としては、ニッケル亜鉛電池、空気亜鉛電池、銀亜鉛電池等が知られている。例えば、ニッケル亜鉛電池(例えばニッケル亜鉛二次電池)は、水酸化カリウム水溶液等の水系電解液を用いる水系電池であることから、高い安全性を有すると共に、亜鉛電極とニッケル電極との組み合わせにより、水系電池としては高い起電力を有することが知られている。さらに、ニッケル亜鉛電池は、優れた入出力性能に加えて、低コストであることから、産業用途(例えば、バックアップ電源等の用途)及び自動車用途(例えば、ハイブリッド自動車等の用途)への適用可能性が検討されている。
【0003】
ニッケル亜鉛電池の充放電反応は、例えば、下記式に従って進行する(放電反応:右向き、充電反応:左向き)。
(正極)2NiOOH+2H2O+2e- → 2Ni(OH)2+2OH-
(負極)Zn+2OH- → Zn(OH)2+2e-
【0004】
上記式に示されるように、亜鉛電池では、放電反応により水酸化亜鉛(Zn(OH)2)が生成する。水酸化亜鉛は電解液に可溶であり、水酸化亜鉛が電解液に溶解すると、テトラヒドロキシド亜鉛酸イオン([Zn(OH)4]2-)が電解液中に拡散する。その結果、負極の形態変化(変形)が進行すると共に充電電流の分布が不均一となること等により、負極上の局所で亜鉛の析出が起こり、デンドライト(樹枝状結晶)が発生する。亜鉛電池では、充放電の繰り返しによりデンドライトが成長した場合、デンドライトがセパレータを貫通して短絡が発生するため、上記デンドライトの発生は寿命性能の低下につながる。このような亜鉛電池においては、寿命性能を向上させることが求められており、例えば、特許文献1では、ニッケルメッキを施した不織布を正負極板間に介在させて亜鉛デンドライトによる正負極間の内部ショートを防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
亜鉛電池には、更なる寿命性能の向上が求められている。そこで、本発明は、亜鉛電池の寿命性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、亜鉛電池の寿命性能を向上させる手段を検討するにあたり、負極(負極材)の活物質利用率に着目した。すなわち、負極の活物質利用率を高めることができれば上記デンドライトの成長等に起因する寿命性能の低下を抑制することができるとの推察のもと検討を行った。その結果、本発明者らは、負極の製造に用いる材料として、特定の粒子径を有する酸化亜鉛粒子を用いることで負極の活物質利用率を向上させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明の一側面は、負極集電体と、負極集電体に支持された負極材と、を有する亜鉛電池用負極の製造方法であって、平均粒子径が0.05~0.28μmである酸化亜鉛粒子を含む負極材ペーストを用意する工程と、負極材ペーストを負極集電体に配置した後に乾燥する工程と、を備える、亜鉛電池用負極の製造方法に関する。この製造方法により得られる亜鉛電池用負極によれば、亜鉛電池の寿命性能を向上させることができる。
【0009】
負極材ペーストはバインダーを更に含んでいてよい。この場合、バインダーの含有量は、負極材ペーストの固形分全量を基準として、10質量%以下であることが好ましい。負極材ペーストに10質量%以下の量のバインダーを含有させることで、最終的に得られる亜鉛電池の寿命性能が更に向上する傾向がある。
【0010】
本発明の他の一側面は、上述した方法で製造された負極を用いる、亜鉛電池の製造方法に関する。この製造方法により得られる亜鉛電池は寿命性能に優れる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、亜鉛電池の寿命性能を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本明細書において、組成物中の各成分の使用量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。また、本明細書において「膜」又は「層」との語は、平面図として観察したときに、全面に形成されている形状の構造に加え、一部に形成されている形状の構造も包含される。また、本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明は下記実施形態に何ら限定されるものではない。
【0014】
本実施形態の亜鉛電池用負極の製造方法は、平均粒子径が0.05~0.28μmである酸化亜鉛粒子(以下、単に「酸化亜鉛粒子」ともいう)を含む負極材ペーストを用意する工程(第一工程)と、負極材ペーストを負極集電体に配置した後に乾燥する工程(第二工程)と、を備える。この方法によれば、高い活物質利用率(例えば、72.5%以上の活物質利用率)を示す負極を得ることができる。このような負極を用いることで、亜鉛電池の寿命性能を向上させることができる。
【0015】
第一工程は、負極材ペーストを製造する工程であってよい。具体的には、例えば、平均粒子径が0.05~0.28μmである酸化亜鉛粒子を含む負極材の原料に対して溶媒(例えば水)を加えて混練することにより負極材ペースト(ペースト状の負極材)を得る工程であってよい。
【0016】
酸化亜鉛粒子の平均粒子径は、更に寿命性能を向上させることができる観点から、好ましくは0.27μm以下である。同様の観点から、酸化亜鉛粒子の平均粒子径は、0.24μm以下、0.23μm以下、0.20μm以下、0.15μm以下、0.10μm以下又は0.06μm以下であってよい。酸化亜鉛粒子の平均粒子径は、更に寿命性能を向上させることができる観点から、好ましくは0.06μm以上である。平均粒子径は、透過型電子顕微鏡によって倍率3万倍で撮影された粒子の写真を用い、個々の粒子のうち最も長い部分の長さを測定し、その平均値を算出することで求められる。測定に用いられるサンプル数はN=50以上とする。
【0017】
酸化亜鉛粒子の配合量(負極材ペースト中の含有量)は、より優れた寿命性能が得られる観点から、負極材ペーストの固形分全量を基準として、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、更に好ましくは75質量%以上である。酸化亜鉛粒子の配合量は、より優れた寿命性能が得られる観点から、負極材ペーストの固形分全量を基準として、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは90質量%以下であり、更に好ましくは85質量%以下である。これらの観点から、酸化亜鉛粒子の含有量は、負極材ペーストの固形分全量を基準として、好ましくは50~95質量%である。
【0018】
負極材ペーストは、負極材の原料として、酸化亜鉛粒子以外の他の亜鉛含有成分を更に含んでいてもよく、添加剤を更に含んでいてもよい。すなわち、負極材ペーストの製造では、負極材の原料として、酸化亜鉛粒子の他に、酸化亜鉛粒子以外の亜鉛含有成分、添加剤等を用いてよい。
【0019】
亜鉛含有成分は、亜鉛電池において負極活物質として機能するものである。酸化亜鉛粒子以外の亜鉛含有成分としては、例えば、金属亜鉛粒子、水酸化亜鉛粒子等が挙げられる。
【0020】
酸化亜鉛粒子以外の亜鉛含有成分を使用する場合、酸化亜鉛粒子の配合量は、より優れた寿命性能が得られる観点から、亜鉛含有成分の全質量を基準として、70質量%以上が好ましく、90質量%以下が好ましい。酸化亜鉛粒子の配合量は、亜鉛含有成分の全質量を基準として、50質量%以上又は60質量%以上であってもよく、95質量%以下又は99.9質量%以下であってもよい。
【0021】
亜鉛含有成分の含有量(総量)は、より優れた寿命性能が得られる観点から、負極材ペーストの固形分全量を基準として、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、更に好ましくは75質量%以上である。亜鉛含有成分の含有量(総量)は、より優れた寿命性能が得られる観点から、負極材ペーストの固形分全量を基準として、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは90質量%以下であり、更に好ましくは85質量%以下である。
【0022】
他の亜鉛含有成分の平均粒子径は、特に限定されず、例えば、1μm以上であってよく、50μm以下であってよい。
【0023】
添加剤としては、バインダー(結着剤)、導電剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0024】
バインダーとしては、親水性又は疎水性のポリマー等が挙げられる。具体的には、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンオキシド、ポリエチレン、ポリプロピレン等をバインダーとして用いることができる。これらの中でも、寿命性能をより向上させることができる観点から、ヒドロキシエチルセルロースが好ましく用いられる。バインダーは、一種を単独で、又は、複数種を組み合わせて用いることができる。バインダーの粘度は、例えば、濃度2%の水溶液において、室温(25℃)で3000~6000cpであってよく、濃度60%の水溶液において、室温(25℃)で25cp程度であってよい。
【0025】
バインダーの配合量(負極材ペースト中の含有量)は、寿命性能を更に向上させることができる観点から、負極材ペーストの固形分全量を基準として、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは8.5質量%以下であり、更に好ましくは7.5質量%以下であり、特に好ましくは7質量%以下である。バインダーの配合量は、寿命性能を更に向上させることができる観点から、負極材ペーストの固形分全量を基準として、好ましくは3.0質量%以上であり、より好ましくは3.5質量%以上であり、更に好ましくは5.5質量%以上であり、特に好ましくは6.5質量%以上であり、極めて好ましくは7質量%以上である。
【0026】
導電材としては、酸化インジウム等のインジウム化合物が挙げられる。導電剤の含有量は、例えば、亜鉛含有成分100質量部に対して1~20質量部である。
【0027】
界面活性剤としては、ポリカルボン酸、ポリアクリル酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリエチレングリコール、アルキルスルホン酸、四級アンモニウム化合物、高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらの中でも、ポリカルボン酸、ポリアクリル酸及びこれらの誘導体が好ましく用いられる。界面活性剤を用いることで、酸化亜鉛粒子の平均粒子径が0.28μm以下であっても、酸化亜鉛粒子の凝集が起こり難くなり、負極の活物質利用率をより十分に向上させることができる。
【0028】
界面活性剤の配合量(負極材ペースト中の含有量)は、酸化亜鉛粒子の分散性を向上させることができる観点から、負極材ペーストの固形分全量を基準として、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.2質量%以上であり、更に好ましくは0.3質量%以上である。界面活性剤の配合量は、界面活性剤が抵抗成分となり電池性能に悪影響を及ぼすことを抑制する観点から、負極材ペーストの固形分全量を基準として、好ましくは1.0質量%以下であり、より好ましくは0.8質量%以下であり、更に好ましくは0.6質量%以下である。
【0029】
第二工程では、負極集電体(集電体)と、該負極集電体に支持された負極材と、を有する負極(未化成の負極)が得られる。
【0030】
負極集電体は、負極材からの電流の導電路を構成する。負極集電体は、例えば、平板状、シート状等の形状を有している。負極集電体は、発泡金属、エキスパンドメタル、パンチングメタル、金属繊維のフェルト状物等によって構成された3次元網目構造の集電体などであってもよい。負極集電体は、導電性及び耐アルカリ性を有する材料で構成されている。このような材料としては、例えば、負極の反応電位でも安定である材料(負極の反応電位よりも貴な酸化還元電位を有する材料、アルカリ水溶液中で基材表面に酸化被膜等の保護被膜を形成して安定化する材料など)を用いることができる。また、負極においては、副反応として電解液の分解反応が進行し水素ガスが発生するが、水素過電圧の高い材料はこのような副反応の進行を抑制できる点で好ましい。負極集電体を構成する材料の具体例としては、亜鉛;鉛;スズ;スズ等の金属メッキを施した金属材料(銅、真鍮、鋼、ニッケル等)などが挙げられる。
【0031】
負極材は、例えば、層状に形成される。層状の負極材(負極材層)は、負極集電体上に形成されていてよい。負極集電体の負極材を支持する部分が3次元網目構造を有する場合、当該集電体の網目の間に負極材が充填されて負極材層が形成されていてもよい。
【0032】
負極材は、上述した酸化亜鉛粒子を含み、場合により、上述した酸化亜鉛粒子以外の他の亜鉛含有成分及び添加剤を更に含む。負極材中の酸化亜鉛粒子、他の亜鉛含有成分及び添加剤の好ましい態様(種類、配合量等)は、負極材ペーストの作製に用いる各成分の好ましい態様と同じである。ただし、「負極材ペーストの固形分全量基準」は、「負極材全量基準」に読み替える。
【0033】
負極材ペーストは、例えば、負極集電体に負極材ペーストを塗布又は充填することにより、負極集電体上及び/又は負極集電体内部に配置されてよい。負極材ペーストを塗布又は充填する方法は、特に限定されず、負極集電体の形状、負極材層の形状等に応じて適宜選択してよい。負極材ペーストの乾燥条件は、負極材ペースト中の溶媒の量に応じて適宜変更してよく、例えば、80~120℃で5~30分の条件であってよい。
【0034】
得られた負極材に対しては、密度を高めるために、必要に応じて、プレス等を行ってよい。負極材を焼成してもよいが、焼成によってバインダー量が減少するため、負極の製造時には負極材を焼成しないことが好ましい。
【0035】
亜鉛電池用負極の製造方法は、第二工程で得られた未化成の負極を化成する工程(第三工程)を更に備えていてもよい。すなわち、亜鉛電池用負極の製造方法により得られる負極は、化成後の負極であってもよい。
【0036】
第三工程は、例えば、亜鉛電池の製造工程において実施される。具体的には、未化成の負極及び正極を備える未化成の亜鉛電池を組み立てた後、所定の条件にて充電を行うことで未化成の負極を化成することができる。化成条件は、電極活物質(正極活物質及び負極活物質)の性状に応じて調整することができる。
【0037】
次に、上記の製造方法で得られる負極が用いられる亜鉛電池の一例として、ニッケル亜鉛電池について説明する。ニッケル亜鉛電池では、負極が亜鉛(Zn)電極であり、正極がニッケル(Ni)電極である。
【0038】
本実施形態のニッケル亜鉛電池(例えばニッケル亜鉛二次電池)は、例えば、電槽と、電槽に収容された電極群(例えば極板群)及び電解液と、を備える。ニッケル亜鉛電池は化成後又は未化成のいずれであってもよい。ニッケル亜鉛電池が未化成のニッケル亜鉛電池である場合、電極(負極及び正極)は未化成の電極であり、ニッケル亜鉛電池が化成後のニッケル亜鉛電池である場合、電極は化成後の電極である。
【0039】
電極群は、例えば、負極(例えば負極板)と、正極(例えば正極板)と、両電極の間に設けられたセパレータと、を備える。電極群は、複数の負極、正極及びセパレータを備えていてよい。複数の負極同士及び複数の正極同士は、例えば、ストラップで連結されていてよい。
【0040】
負極は、上記の製造方法により得られた負極であり、高い活物質利用率を示す。例えば、負極は、実施例に記載の方法により測定された場合に、72.5%以上の活物質利用率を示す。ここで、活物質利用率は、下記式より算出される。
活物質利用率(%)=[負極の放電容量]/[負活物質(亜鉛含有成分)の理論容量]×100
なお、負極活物質の理論容量は、「負極内の亜鉛重量(g)×1.219(Ah/g)」により求められ、負極材が酸化亜鉛(ZnO)等の金属亜鉛(Zn)以外の亜鉛含有成分を負極活物質として含む場合には、金属亜鉛(Zn)に変換して理論容量を算出する。
【0041】
正極は、正極集電体と、当該正極集電体に支持された正極材と、を有する。
【0042】
正極集電体は、正極材からの電流の導電路を構成する。正極集電体は、例えば、平板状、シート状等の形状を有している。正極集電体は、発泡金属、エキスパンドメタル、パンチングメタル、金属繊維のフェルト状物等によって構成された3次元網目構造の集電体などであってもよい。正極集電体は、導電性及び耐アルカリ性を有する材料で構成されている。このような材料としては、例えば、正極の反応電位でも安定である材料(正極の反応電位よりも貴な酸化還元電位を有する材料、アルカリ水溶液中で基材表面に酸化被膜等の保護被膜を形成して安定化する材料など)を用いることができる。また、正極においては、副反応として電解液の分解反応が進行し酸素ガスが発生するが、酸素過電圧の高い材料はこのような副反応の進行を抑制できる点で好ましい。正極集電体を構成する材料の具体例としては、白金;ニッケル(発泡ニッケル等);ニッケル等の金属メッキを施した金属材料(銅、真鍮、鋼等)などが挙げられる。これらの中でも、発泡ニッケルで構成される正極集電体が好ましく用いられる。高率放電性能を更に向上させることができる観点から、少なくとも正極集電体における正極材を支持する部分(正極材支持部)が発泡ニッケルで構成されていることが好ましい。
【0043】
正極材は、例えば、層状を呈している。すなわち、正極は、正極材層を有していてよい。正極材層は、正極集電体上に形成されていてよい。正極集電体の正極材支持部が3次元網目構造を有する場合、当該集電体の網目の間に正極材が充填されて正極材層が形成されていてもよい。
【0044】
正極材は、ニッケルを含む正極活物質を含有する。正極活物質としては、オキシ水酸化ニッケル(NiOOH)、水酸化ニッケル等が挙げられる。正極材は、例えば、満充電状態ではオキシ水酸化ニッケルを含有し、放電末状態では水酸化ニッケルを含有する。正極活物質の含有量は、例えば、正極材の全質量を基準として50~95質量%であってもよい。
【0045】
正極材は、添加剤として、正極活物質以外の他の成分を更に含有してよい。添加剤としては、バインダー(結着剤)、導電剤、膨張抑制剤等が挙げられる。
【0046】
バインダーとしては、親水性又は疎水性のポリマー等が挙げられる。具体的には、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリアクリル酸ナトリウム(SPA)、フッ素系ポリマー(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等)などをバインダーとして用いることができる。バインダーの含有量は、例えば、正極活物質100質量部に対して0.01~5質量部である。
【0047】
導電剤としては、コバルト化合物(金属コバルト、酸化コバルト、水酸化コバルト等)などが挙げられる。導電剤の含有量は、例えば、正極活物質100質量部に対して1~20質量部である。
【0048】
膨張抑制剤としては、酸化亜鉛等が挙げられる。膨張抑制剤の含有量は、例えば、正極活物質100質量部に対して0.01~5質量部である。
【0049】
セパレータは、例えば、平板状、シート状等の形状を有するセパレータである。セパレータとしては、ポリオレフィン系微多孔膜、ナイロン系微多孔膜、耐酸化性のイオン交換樹脂膜、セロハン系再生樹脂膜、無機-有機セパレータ、ポリオレフィン系不織布等が挙げられる。
【0050】
電解液は、例えば、溶媒及び電解質を含有している。溶媒としては、水(例えばイオン交換水)等が挙げられる。電解質としては、塩基性化合物等が挙げられ、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化リチウム(LiOH)等のアルカリ金属水酸化物などが挙げられる。電解液は、溶媒及び電解質以外の成分を含有してもよく、例えば、リン酸カリウム、フッ化カリウム、炭酸カリウム、リン酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、酸化亜鉛、酸化アンチモン、二酸化チタン、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤等を含有してもよい。
【0051】
以上説明したニッケル亜鉛電池は、例えば、電極を含む構成部材を組み立ててニッケル亜鉛電池を得る組立工程を備える方法により得ることができる。
【0052】
組立工程では、例えば、まず、未化成の正極及び未化成の負極を、セパレータを介して交互に積層し、正極同士及び負極同士をストラップで連結させて電極群を作製する。未化成の負極としては、上記の製造方法により得られた負極を用いる。未化成の正極としては、例えば、正極材の原料に対して溶媒(例えば水)を加えて混練することにより得られる正極材ペースト(ペースト状の正極材)を用いること以外は、負極と同様の製造方法により得られた正極を用いることができる。正極材の原料としては、正極活物質の原料(例えば水酸化ニッケル)、添加剤等が挙げられる。
【0053】
次いで、この電極群を電槽内に配置した後、電槽の上面に蓋体を接着して未化成のニッケル亜鉛電池を得る。次いで、電解液を未化成のニッケル亜鉛電池の電槽内に注入した後、一定時間放置する。次いで、所定の条件にて充電を行うことで化成することによりニッケル亜鉛電池を得る。
【0054】
以上、正極がニッケル電極であるニッケル亜鉛電池(例えばニッケル亜鉛二次電池)の例を説明したが、亜鉛電池は、正極が空気極である空気亜鉛電池(例えば空気亜鉛二次電池)であってもよく、正極が酸化銀極である銀亜鉛電池(例えば銀亜鉛二次電池)であってもよい。
【0055】
空気亜鉛電池の空気極としては、空気亜鉛電池に使用される公知の空気極を用いることができる。空気極は、例えば、空気極触媒、電子伝導性材料等を含む。空気極触媒としては、電子伝導性材料としても機能する空気極触媒を用いることができる。
【0056】
空気極触媒としては、空気亜鉛電池における正極として機能するものを用いることが可能であり、酸素を正極活物質として利用可能な種々の空気極触媒が使用できる。空気極触媒としては、酸化還元触媒機能を有するカーボン系材料(黒鉛等)、酸化還元触媒機能を有する金属材料(白金、ニッケル等)、酸化還元触媒機能を有する無機酸化物材料(ペロブスカイト型酸化物、二酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化コバルト、スピネル酸化物等)などが挙げられる。空気極触媒の形状は、特に限定されないが、例えば粒子状であってもよい。空気極における空気極触媒の使用量は、空気極の合計量に対して、5~70体積%であってもよく、5~60体積%であってもよく、5~50体積%であってもよい。
【0057】
電子伝導性材料としては、導電性を有し、かつ、空気極触媒とセパレータとの間の電子伝導を可能とするものを用いることができる。電子伝導性材料としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類;鱗片状黒鉛のような天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛等のグラファイト類;炭素繊維、金属繊維等の導電性繊維類;銅、銀、ニッケル、アルミニウム等の金属粉末類;ポリフェニレン誘導体等の有機電子伝導性材料;これらの任意の混合物などが挙げられる。電子伝導性材料の形状は、粒子状であってもよく、その他の形状であってもよい。電子伝導性材料は、空気極において厚さ方向に連続した相をもたらす形態で用いられることが好ましい。例えば、電子伝導性材料は、多孔質材料であってもよい。また、電子伝導性材料は、空気極触媒との混合物又は複合体の形態であってもよく、前述したように、電子伝導性材料としても機能する空気極触媒であってもよい。空気極における電子伝導性材料の使用量は、空気極の合計量に対して、10~80体積%であってもよく、15~80体積%であってもよく、20~80体積%であってもよい。
【0058】
銀亜鉛電池の酸化銀極としては、銀亜鉛電池に使用される公知の酸化銀極を用いることができる。酸化銀極は、例えば酸化銀(I)を含む。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
[負極の作製]
負極集電体として開孔率60%のスズメッキを施した鋼板パンチングメタルを用意した。次いで、酸化亜鉛、金属亜鉛、界面活性剤(BASF社製、商品名:DispexAA4140)、HEC及びイオン交換水を所定量秤量して混合し、得られた混合液を攪拌することにより負極材ペーストを作製した。この際、固形分の質量比を「酸化亜鉛:金属亜鉛:HEC:界面活性剤=84.5:11.5:3.5:0.5」に調整した。酸化亜鉛としては、平均粒子径(D50)が0.06μmである酸化亜鉛粒子を使用した。金属亜鉛としては、平均粒子径が32.2μmである金属亜鉛粒子を使用した。HECとしては、住友精化株式会社製のAV-15F(商品名)を使用した。負極材ペーストの水分量は、負極材ペーストの全質量基準で32.5質量%に調整した。次いで、負極材ペーストを負極集電体上に塗布した後、80℃で30分乾燥した。その後、ロールプレスにて加圧成形し、負極材(負極材層)を有する未化成の負極を得た。
【0061】
(実施例2~3及び比較例1~2)
負極の作製時に、酸化亜鉛として、表1に示す平均粒子径を有する酸化亜鉛粒子をそれぞれ用いたこと以外は、実施例1と同様にして負極を作製した。
【0062】
(実施例4~6)
負極の作製時に、バインダーの使用量を表2に示す量(負極材ペーストの固形分全量基準)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして負極を作製した。
【0063】
<負極の活物質利用率の測定>
以下の方法により、負極活物質の理論容量及び負極の放電容量を求め、負極の活物質利用率を算出した。
【0064】
まず、微多孔膜としてCelgard2500を用意し、界面活性剤Triton-X100(ダウケミカル株式会社製)で、親水化処理した。親水化処理は、Triton-X100が1質量%の量で含まれる水溶液に微多孔膜を24時間浸漬した後、室温で1時間乾燥する方法で行った。さらに、所定の大きさに裁断し、それを半分に折り、側面を熱溶着することで袋状に加工した。これにより、袋状の微多孔膜を得た。得られた袋状の微多孔膜に負極を挿入し、微多孔膜の外側両面にコの字型(厚さ:2mm)のアクリル板を負極上側部が開放されるように配置した。さらに、作用極である負極の両側に対極として空隙率95%の発泡ニッケルからなる正極を配置し、極板群を作製した。この極板群を電槽のセル室に挿入した。スペーサーを介して、電槽外側から電槽内部に貫通するボルトにより極板群を固定した後、アルカリ電解液を、電槽内の極板上部が浸漬するまで注液した。これにより、負極の活物質利用率評価用の亜鉛電池を作製した。
【0065】
得られた亜鉛電池を用いて、負極の放電容量を測定し、負極の活物質利用率を算出した。理論容量は以下の式により算出した。
負活物質(亜鉛含有成分)の理論容量={[負極内の亜鉛重量(g)]+[負極内の酸化亜鉛重量(g)]×65.38(g/mol)/81.38(g/mol)}×1.219(Ah/g)
【0066】
放電容量は400mA(0.5C)の定電流で2.4時間の充電を行った後、電極電位が-0.8V(vs.Hg/HgO電極)に到達するまで800mA(1.0C)の定電流で放電させることにより求めた。
【0067】
<サイクル寿命性能評価>
実施例及び比較例の負極を用い、以下の手順で寿命性能評価用の亜鉛電池を作製した。
【0068】
[電解液の調製]
イオン交換水に水酸化カリウム(KOH)及び水酸化リチウム(LiOH)を加え、混合することにより電解液(水酸化カリウム濃度:30質量%、水酸化リチウム濃度:1質量%)を調製した。
【0069】
[正極の作製]
空隙率95%の発泡ニッケルからなる格子体を用意し、格子体を加圧成形することで正極集電体を得た。次いで、コバルトコート水酸化ニッケル粉末、金属コバルト、水酸化コバルト、酸化イットリウム、CMC、PTFE、イオン交換水を所定量秤量して混合し、混合液を攪拌することにより、正極材ペーストを作製した。この際、固形分の質量比を、「水酸化ニッケル:金属コバルト:酸化イットリウム:水酸化コバルト:CMC:PTFE=88:10.3:1:0.3:0.3:0.1」に調整した。正極材ペーストの水分量は、正極材ペーストの全質量基準で27.5質量%に調整した。次いで、正極材ペーストを正極集電体の正極材支持部に塗布した後、80℃で30分乾燥した。その後、ロールプレスにて加圧成形し、正極材層を有する未化成の正極を得た。
【0070】
[セパレータの準備]
セパレータには、微多孔膜として、Celgard2500、不織布として、VL100(ニッポン高度紙工業製)を、それぞれ用いた。微多孔膜は、電池組立て前に、界面活性剤Triton-X100(ダウケミカル株式会社製)で、親水化処理した。親水化処理は、Triton-X100が1質量%の量で含まれる水溶液に微多孔膜を24時間浸漬した後、室温で1時間乾燥する方法で行った。さらに、微多孔膜は、所定の大きさに裁断し、それを半分に折り、側面を熱溶着することで袋状に加工した。袋状に加工した微多孔膜に、正極(未化成の正極)及び負極(未化成の負極)のそれぞれを1枚収納した。不織布は、所定の大きさに裁断したものを使用した。
【0071】
[ニッケル亜鉛電池の作製]
袋状の微多孔膜に収納された正極と、袋状の微多孔膜に収納された負極と、不織布とを積層した後、同極性の極板同士をストラップで連結させて電極群(極板群)を作製した。電極群は、正極1枚及び負極2枚で、正極と負極の間に不織布を配置した構成とした。この電極群を電槽内に配置した後、電槽の上面に蓋体を接着して未化成のニッケル亜鉛電池を得た。次いで、電解液を未化成のニッケル亜鉛電池の電槽内に注入した後、24時間放置した。その後、60mA、15時間の条件で充電を行い、公称容量が600mAhのニッケル亜鉛電池を作製した。
【0072】
[寿命性能評価]
25℃、600mA(1C)、1.9Vの定電圧で、電流値が30mA(0.05C)に減衰するまでニッケル亜鉛電池の充電を行った後、電池電圧が1.1Vに到達するまで150mA(0.25C)の定電流でニッケル亜鉛電池の放電を行うことを1サイクルとする試験を行った。放電容量が1サイクル目の放電容量に対して50%を下回った場合に試験を終了し、試験終了までに行ったサイクル数によってサイクル寿命性能を評価した。試験終了までに行ったサイクル数を表1及び表2に示す。
【0073】
前記「C」とは、満充電状態から定格容量を定電流放電するときの電流の大きさを相対的に表したものである。前記「C」は、“放電電流値(A)/電池容量(Ah)”を意味する。例えば、定格容量を1時間で放電させることができる電流を「1C」、2時間で放電させることができる電流を「0.5C」と表現する。
【0074】
【0075】