(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】結晶方位検出装置、及び結晶方位検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/21 20060101AFI20221031BHJP
H01L 21/66 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
G01N21/21 Z
H01L21/66 N
(21)【出願番号】P 2018118171
(22)【出願日】2018-06-21
【審査請求日】2021-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(72)【発明者】
【氏名】武田 昇
(72)【発明者】
【氏名】桐林 幸弘
【審査官】越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-134941(JP,A)
【文献】特開2014-122860(JP,A)
【文献】特開平09-257692(JP,A)
【文献】特開平08-330373(JP,A)
【文献】特開平05-264402(JP,A)
【文献】米国特許第06317216(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/985
G01N 23/00-G01N 23/2276
H01L 21/64-H01L 21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非線形光学効果が発生する出力の直線偏光のレーザビームを
特定の結晶方位を示すオリエンテーションフラットまたはノッチが欠落した非線形光学結晶基板に照射して該非線形光学結晶基板
から欠落する前の該オリエンテーションフラットまたは該ノッチが示していた該特定の結晶方位を検出する結晶方位検出装置であって、
保持面を有し、該非線形光学結晶基板を該保持面上に保持する保持テーブルと、
該非線形光学結晶基板に対して透過性を有する該レーザビームを該保持テーブルに保持された該非線形光学結晶基板の表面に垂直な方向から該非線形光学結晶基板に照射できるレーザビーム照射ユニットと、
該レーザビームが該非線形光学結晶基板に照射された際に非線形光学効果によって発生する高調波を検出する高調波検出ユニットと、
該レーザビームの偏光面と、該非線形光学結晶基板と、を該非線形光学結晶基板の表面に対して垂直な該方向の周りに相対的に回転させたときの回転角と、該高調波検出ユニットによって検出された該高調波の強度と、の関係を記録する
とともに、予め標準の関係が記録された記録ユニットと、
該記録ユニットに記録された該回転角と、該強度と、の関係
と、該標準の関係と、に基づいて、該保持テーブルに保持された該非線形光学結晶基板
から欠落する前の該オリエンテーションフラットまたは該ノッチが示していた該特定の結晶方位を検出する結晶方位検出ユニットと、
を含
み、
該標準の関係は、該オリエンテーションフラットまたは該ノッチが欠落する前の該非線形光学結晶基板に該レーザビームを照射して該レーザビームの偏光面と、該非線形光学結晶基板と、を該非線形光学結晶基板の表面に対して垂直な該方向の周りに相対的に回転させたときの回転角と、該高調波検出ユニットによって検出された該高調波の強度と、の関係であって、該回転角に該特定の結晶方位に基づく基準角が定められた関係であることを特徴とする非線形光学結晶基板の結晶方位検出装置。
【請求項2】
該非線形光学結晶基板はリチウムナイオベート基板またはリチウムタンタレート基板であることを特徴とする、請求項1に記載の非線形光学結晶基板の結晶方位検出装置。
【請求項3】
レーザビーム照射ユニットは、
半波長板を備え、
該半波長板を経た該レーザビームを該非線形光学結晶基板に照射でき、
該半波長板を回転させることで該レーザビームの偏光面を回転できることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の結晶方位検出装置。
【請求項4】
非線形光学効果が発生する出力の直線偏光のレーザビームを
特定の結晶方位を示すオリエンテーションフラットまたはノッチが欠落した非線形光学結晶基板に照射して該非線形光学結晶基板
から欠落する前の該オリエンテーションフラットまたは該ノッチが示していた該特定の結晶方位を検出する結晶方位検出方法であって、
該非線形光学結晶基板の加工閾値以下の出力で該非線形光学結晶基板に対して透過性を有する該レーザビームを該非線形光学結晶基板の表面に垂直な方向から該非線形光学結晶基板に照射するレーザビーム照射ステップと、
該レーザビーム照射ステップの実施時に、該非線形光学結晶基板で生じた非線形光学効果によって発生した該レーザビームの高調波を検出する高調波検出ステップと、
該レーザビームの偏光面と、該非線形光学結晶基板と、を該非線形光学結晶基板の表面に垂直な該方向の周りに相対的に回転させる回転ステップと、
該レーザビーム照射ステップと、該高調波検出ステップと、該回転ステップと、を繰り返して、該レーザビームの偏光面と、該非線形光学結晶基板と、の相対的な回転角と、該高調波検出ステップで検出された該高調波の強度と、の関係を記録する記録ステップと、
該記録ステップで記録された該関係
と、標準の関係と、に基づいて該非線形光学結晶基板
から欠落する前の該オリエンテーションフラットまたは該ノッチが示していた該特定の結晶方位を検出する結晶方位検出ステップと、
を含
み、
該標準の関係は、該オリエンテーションフラットまたは該ノッチが欠落する前の該非線形光学結晶基板に該レーザビームを照射して該レーザビームの偏光面と、該非線形光学結晶基板と、を該非線形光学結晶基板の表面に対して垂直な該方向の周りに相対的に回転させたときの回転角と、発生した該レーザビームの該高調波の強度と、の関係であって、該回転角に該特定の結晶方位に基づく基準角が定められた関係であることを特徴とする非線形光学結晶基板の結晶方位検出方法。
【請求項5】
該回転ステップにおける該レーザビームの偏光面と、該非線形光学結晶基板と、の相対的な回転角は20°以下であることを特徴とする、請求項
4に記載の非線形光学結晶基板の結晶方位検出方法。
【請求項6】
該非線形光学結晶基板はリチウムナイオベート基板またはリチウムタンタレート基板であることを特徴とする、請求項
4に記載の非線形光学結晶基板の結晶方位検出方法。
【請求項7】
該回転ステップでは、該非線形光学結晶基板に照射される該レーザビームが通過する半波長板を回転させることで該レーザビームの偏光面を回転させることを特徴とする、請求項4に記載の非線形光学結晶基板の結晶方位検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非線形光学結晶基板の結晶方位を検出する結晶方位検出装置、及び結晶方位を検出する結晶方位検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特定の周波数帯域の電気信号を取り出す素子であるSAW(Surface Acoustic Wave)デバイスチップを製造する際には、例えば、リチウムタンタレート(LT;LiTaO3)やリチウムナイオベート(LN;LiNbO3)等の円板状の単結晶基板が使用される。リチウムタンタレートやリチウムナイオベートの単結晶は複屈折性を有する非線形光学結晶であるため、該単結晶基板は非線形光学結晶基板とも呼ばれる。
【0003】
非線形光学結晶基板の表面を加工して回路パターンを形成することで素子を形成し、該基板を素子毎に分割するとSAWデバイスチップを製造できる。該基板からSAWデバイスチップを製造する際、基板の結晶方位の違いによって劈開条件が異なる。また、形成される素子の特性は基板の結晶方位の影響を受ける。そのため、所望の特性のデバイスチップを適切に形成する上で基板の結晶方位が特定されることは重要である。
【0004】
そこで、非線形光学結晶基板を扱う者が容易に特定の結晶方位を認識できるように、基板にはオリエンテーションフラットと呼ばれる直線状の切断部、または、ノッチと呼ばれる切り欠き部が形成される。
【0005】
ところで、近年、チップの性能や形状等へ要求が多様化しており、また、チップの製造上の理由等から円板状の非線形光学結晶基板の外周部を切り離し、サイズダウンされた基板がデバイスチップの製造に使用される場合がある。この場合、非線形光学結晶基板からオリエンテーションフラット等が除去される。また、デバイスチップの試作過程等において、非線形光学結晶基板が割れて個片化される場合がある。この場合、個片化された非線形光学結晶基板のすべてにはオリエンテーションフラット等が残らない。
【0006】
このような事情によりオリエンテーションフラットやノッチが欠落した場合、結晶方位の特定が困難となる。そこで、非線形光学結晶基板を構成する結晶の結晶方位を正確に特定するために、例えば、X線回折装置が使用される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、X線回折装置は高価であり、測定に手間と時間がかかる。そのため、基板からSAWデバイスチップを製造する過程においてX線回折装置を使用するとSAWデバイスチップの製造効率が低下してしまう。そこで、オリエンテーションフラット等が失われた非線形光学結晶基板の結晶方位を容易に特定できる装置及び方法が求められる。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、非線形光学結晶基板における結晶方位を容易に特定できる結晶方位検出装置及び結晶方位検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によると、非線形光学効果が発生する出力の直線偏光のレーザビームを特定の結晶方位を示すオリエンテーションフラットまたはノッチが欠落した非線形光学結晶基板に照射して該非線形光学結晶基板から欠落する前の該オリエンテーションフラットまたは該ノッチが示していた該特定の結晶方位を検出する結晶方位検出装置であって、保持面を有し、該非線形光学結晶基板を該保持面上に保持する保持テーブルと、該非線形光学結晶基板に対して透過性を有する該レーザビームを該保持テーブルに保持された該非線形光学結晶基板の表面に垂直な方向から該非線形光学結晶基板に照射できるレーザビーム照射ユニットと、該レーザビームが該非線形光学結晶基板に照射された際に非線形光学効果によって発生する高調波を検出する高調波検出ユニットと、該レーザビームの偏光面と、該該非線形光学結晶基板と、を該非線形光学結晶基板の表面に垂直な該方向の周りに相対的に回転させたときの回転角と、該高調波検出ユニットによって検出された該高調波の強度と、の関係を記録するとともに、予め標準の関係が記録された記録ユニットと、該記録ユニットに記録された該回転角と、該強度と、該標準の関係と、に基づいて、該保持テーブルに保持された該非線形光学結晶基板から欠落する前の該オリエンテーションフラットまたは該ノッチが示していた該特定の結晶方位を検出する結晶方位検出ユニットと、を含み、該標準の関係は、該オリエンテーションフラットまたは該ノッチが欠落する前の該非線形光学結晶基板に該レーザビームを照射して該レーザビームの偏光面と、該非線形光学結晶基板と、を該非線形光学結晶基板の表面に対して垂直な該方向の周りに相対的に回転させたときの回転角と、該高調波検出ユニットによって検出された該高調波の強度と、の関係であって、該回転角に該特定の結晶方位に基づく基準角が定められた関係であることを特徴とする非線形光学結晶基板の結晶方位検出装置が提供される。
【0011】
該結晶方位検出装置において、好ましくは、該非線形光学結晶基板はリチウムナイオベート基板またはリチウムタンタレート基板である。また、好ましくは、レーザビーム照射ユニットは、半波長板を備え、該半波長板を経た該レーザビームを該非線形光学結晶基板に照射でき、該半波長板を回転させることで該レーザビームの偏光面を回転できる。
【0012】
また、本発明の他の一態様によると、非線形光学効果が発生する出力の直線偏光のレーザビームを特定の結晶方位を示すオリエンテーションフラットまたはノッチが欠落した非線形光学結晶基板に照射して該非線形光学結晶基板から欠落する前の該オリエンテーションフラットまたは該ノッチが示していた該特定の結晶方位を検出する結晶方位検出方法であって、該非線形光学結晶基板の加工閾値以下の出力で該非線形光学結晶基板に対して透過性を有する該レーザビームを該非線形光学結晶基板の表面に垂直な方向から該非線形光学結晶基板に照射するレーザビーム照射ステップと、該レーザビーム照射ステップの実施時に、該非線形光学結晶基板で生じた非線形光学効果によって発生した該レーザビームの高調波を検出する高調波検出ステップと、該レーザビームの偏光面と、該非線形光学結晶基板と、を該非線形光学結晶基板の表面に垂直な該方向の周りに相対的に回転させる回転ステップと、該レーザビーム照射ステップと、該高調波検出ステップと、該回転ステップと、を繰り返して、該レーザビームの偏光面と、該非線形光学結晶基板と、の相対的な回転角と、該高調波検出ステップで検出された該高調波の強度と、の関係を記録する記録ステップと、該記録ステップで記録された該関係と、標準の関係と、に基づいて該非線形光学結晶基板から欠落する前の該オリエンテーションフラットまたは該ノッチが示していた該特定の結晶方位を検出する結晶方位検出ステップと、を含み、該標準の関係は、該オリエンテーションフラットまたは該ノッチが欠落する前の該非線形光学結晶基板に該レーザビームを照射して該レーザビームの偏光面と、該非線形光学結晶基板と、を該非線形光学結晶基板の表面に対して垂直な該方向の周りに相対的に回転させたときの回転角と、発生した該レーザビームの該高調波の強度と、の関係であって、該回転角に該特定の結晶方位に基づく基準角が定められた関係であることを特徴とする非線形光学結晶基板の結晶方位検出方法が提供される。
【0013】
好ましくは、該回転ステップにおける該レーザビームの偏光面と、該非線形光学結晶基板と、の相対的な回転角は20°以下である。
【0014】
また、該結晶方位検出方法において、好ましくは、該非線形光学結晶基板はリチウムナイオベート基板またはリチウムタンタレート基板である。好ましくは、該回転ステップでは、該非線形光学結晶基板に照射される該レーザビームが通過する半波長板を回転させることで該レーザビームの偏光面を回転させる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様に係る結晶方位検出装置は、非線形光学結晶基板の特定の結晶方位を検出できる。該結晶方位検出装置では、非線形光学効果が発生する出力の直線偏光のレーザビームを該非線形光学結晶基板に照射する。非線形光学結晶基板に特定の出力及び波長のレーザビームを照射すると、2次の非線形光学効果により、入射したレーザビームの周波数の整数倍の周波数である高調波(第二高調波等)の発生が観測される。
【0016】
該高調波の強度は位相整合条件を満たすか否かで大きく変化し、例えば、非線形光学結晶基板に入射させるレーザビームの偏光面を回転させることで変化する。そこで、予め、オリエンテーションフラット等が失われていない状態の非線形光学結晶基板に偏光面を相対的に回転させながら該レーザビームを照射し、発生する高調波を検出する。
【0017】
そして、例えば、オリエンテーションフラット等が示していた結晶方位と、該偏光面と、が垂直に交差する際の回転角を基準角(0°)として、回転角と、高調波の強度と、の標準の関係を記録ユニットに記録しておく。
【0018】
その後、非線形光学結晶基板からオリエンテーションフラット等が失われ、該オリエンテーションフラット等が示していた特定の結晶方位が不明となった場合に、非線形光学結晶基板を本発明の一態様に係る結晶方位検出装置に搬入する。そして、レーザビームの偏光面を相対的に回転させながら該レーザビームを該非線形光学結晶基板に照射し、高調波の強度の該偏光面の回転角依存性を測定する。得られた回転角と、高調波の強度と、の関係を記録ユニットに記録し、予め記録された該標準の関係と比較する。
【0019】
両関係をグラフ化すると回転角がシフトした同型のグラフとなるため、例えば、該両関係を照合することにより回転角のシフト量を算出し、非線形光学結晶基板から失われたオリエンテーションフラット等が示していた特定の結晶方位を導出できる。このように、X線回折装置を使用することなく非線形光学結晶基板の結晶方位を検出できる。
【0020】
したがって、本発明により、非線形光学結晶基板における結晶方位を容易に特定できる結晶方位検出装置及び結晶方位検出方法を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1(A)は、ノッチが設けられた非線形光学結晶基板を模式的に示す斜視図であり、
図1(B)は、オリエンテーションフラットが設けられた非線形光学結晶基板を模式的に示す斜視図であり、
図1(C)は、オリエンテーションフラットが設けられた非線形光学結晶のインゴットを模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2(A)は、割れて個片化された非線形光学結晶基板を模式的に示す斜視図であり、
図2(B)は、外周部が切除されサイズダウンされた非線形光学結晶基板を模式的に示す斜視図である。
【
図3】結晶方位検出装置の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図4】非線形光学結晶基板へのレーザビームの照射を模式的に示す側面図である。
【
図5】レーザビーム照射ステップを模式的に示す斜視図である。
【
図6】レーザビームの偏光面の回転角と、観測される高調波の強度と、の関係の一例を模式的に示すグラフである。
【
図7】結晶方位検出方法の各ステップのフローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。本実施形態に係る結晶方位検出装置及び結晶方位検出方法によると、例えば、オリエンテーションフラットやノッチ等の特定の結晶方位を示す表示が失われた非線形光学結晶基板の該特定の結晶方位を検出できる。まず、結晶方位が検出される非線形光学結晶基板について説明する。
【0023】
非線形光学結晶基板は、例えば、特定の周波数帯域の電気信号を取り出す素子であるSAWデバイスチップを製造する際に使用される単結晶基板である。該非線形光学結晶基板は、例えば、リチウムタンタレート(LT;LiTaO3)基板やリチウムナイオベート(LN;LiNbO3)基板である。これら基板に使用される材料の単結晶は、複屈折性を有する非線形光学結晶である。
【0024】
非線形光学結晶基板の表面を加工して回路パターンを形成することで素子を形成し、該基板を素子毎に分割すると、SAWデバイスチップを製造できる。非線形光学結晶基板からSAWデバイスチップを製造する際、基板の結晶方位の違いによって劈開条件が異なる。また、形成される素子の特性は該基板の結晶方位の影響を受ける。そのため、所望の特性のデバイスチップを適切に形成する上で非線形光学結晶基板の結晶方位が特定されることは重要である。
【0025】
そこで、非線形光学結晶基板を扱う者が容易に特定の結晶方位を認識できるように、基板にはオリエンテーションフラットと呼ばれる直線状の切断部、または、ノッチと呼ばれる切り欠き部が形成される。
図1(A)は、ノッチ3が設けられた非線形光学結晶基板1を模式的に示す斜視図である。
図1(A)に示す通り、ノッチ3はV字形状の切り欠き部である。また、
図1(B)は、オリエンテーションフラット5が設けられた非線形光学結晶基板1を模式的に示す斜視図である。
【0026】
図1(C)に、非線形光学結晶基板1に切り出される前の非線形光学結晶で形成されるインゴット7を示す。例えば、オリエンテーションフラット5がインゴット7に形成され、このインゴット7が切り出されるとオリエンテーションフラット5が設けられた非線形光学結晶基板1が形成される。オリエンテーションフラット5等は、例えば、非線形光学結晶の材質や、切り出される非線形光学結晶基板1の用途、形成される素子の設計上の事情等に応じて選択された特定の結晶方位を示すようにインゴット7に形成される。
【0027】
非線形光学結晶基板1からSAWデバイスチップを形成する過程では、該ノッチ3又は該オリエンテーションフラット5の位置が参照されて、非線形光学結晶基板1の表面上の所定の位置に素子が形成される。そして、該ノッチ3又は該オリエンテーションフラット5の位置が参照されて、非線形光学結晶基板1が素子毎に分割される。すると、個々のSAWデバイスチップが形成される。
【0028】
チップの試作過程等において、非線形光学結晶基板1が割れて個片化される場合がある。また、近年、チップの性能や形状等へ要求が多様化しており、または、チップの製造上の理由等から円板状の非線形光学結晶基板1の外周部を切り離し、サイズダウンされた基板がチップの製造に使用される場合がある。
図2(A)は、割れて個片化された非線形光学結晶基板1を模式的に示す斜視図である。また、
図2(B)は、外周部が切除されサイズダウンされた非線形光学結晶基板1を模式的に示す斜視図である。
【0029】
図2(A)に示す通り、ノッチ3が設けられた非線形光学結晶基板1が個片化されて、3つの非線形光学結晶基板1a,1b,1cに分割される場合を例に説明する。
図2(A)に示す通り、非線形光学結晶基板1aにはノッチ3が残るため、ノッチ3が示す特定の結晶方位が把握される。その一方で、非線形光学結晶基板1b,1cにはノッチ3が存在しないため、もはや該特定の結晶方位を把握できない。
【0030】
また、
図2(B)に示す通り、ノッチ3が設けられた非線形光学結晶基板1の外周部が切除されることによりサイズダウンされ、径の小さな非線形光学結晶基板1dが形成される場合、ノッチ3が失われる。そのため、サイズダウンされた非線形光学結晶基板1dにおいてもノッチ3が示していた該特定の結晶方位を把握できない。
【0031】
このように、ノッチ3やオリエンテーションフラット5が失われて非線形光学結晶基板の特定の結晶方位が把握できない状態となった場合、所望の性能のデバイスチップを形成するために、再度該特定の結晶方位を導出する必要がある。この場合、例えば、X線回折装置を使用することが考えられるが、該X線回折装置は高価である上、測定に手間がかかる。そこで、本実施形態に係る結晶方位検出装置及び結晶方位検出方法により、ノッチ3またはオリエンテーションフラット5が示していた特定の結晶方位を検出する。
【0032】
本実施形態に係る結晶方位検出装置について説明する。
図3は、本実施形態に係る結晶方位検出装置2を模式的に示す斜視図である。該結晶方位検出装置2は、非線形光学結晶基板を保持する保持テーブル26と、非線形光学結晶基板にレーザビームを照射するレーザビーム照射ユニット28と、発生した高調波を検出する高調波検出ユニット30と、を備える。
【0033】
結晶方位検出装置2の各構成要素は、基台4に支持される。基台4の上面には、保持テーブル26をY軸方向(
図3参照)に移動させるY軸方向移動ユニット6が設けられる。Y軸方向移動ユニット6は、Y軸方向に平行な一対のY軸ガイドレール8と、該Y軸ガイドレール8にスライド可能に装着されたY軸移動プレート10と、を備える。
【0034】
Y軸移動プレート10の裏面側(底面側)にはナット部(不図示)が設けられ、このナット部にはY軸ガイドレール8に平行なY軸ボールねじ12が螺合される。さらに、Y軸ボールねじ12の一端には、Y軸パルスモータ14が連結される。Y軸パルスモータ14でY軸ボールねじ12を回転させると、Y軸移動プレート10はY軸ガイドレール8に沿ってY軸方向に移動する。
【0035】
Y軸移動プレート10の上面には、保持テーブル26をX軸方向(
図3参照)に移動させるX軸方向移動ユニット16が設けられる。X軸方向移動ユニット16は、X軸方向に平行な一対のX軸ガイドレール18と、X軸ガイドレール18にスライド可能に装着されたX軸移動プレート20と、を備える。
【0036】
X軸移動プレート20の裏面(底面側)にはナット部(不図示)が設けられ、このナット部にはX軸ガイドレール18に平行なX軸ボールねじ22が螺合される。さらに、X軸ボールねじ22の一端には、X軸パルスモータ24が連結される。X軸パルスモータ24でX軸ボールねじ22を回転させると、X軸移動プレート20はX軸ガイドレール18に沿ってX軸方向に移動する。
【0037】
X軸移動プレート20の上面には、結晶方位の検出対象となる非線形光学結晶基板を保持する保持テーブル26が設けられる。保持テーブル26の上面には多孔質部材が配設されており、該多孔質部材の上面が非線形光学結晶基板を保持する保持面26aとなる。
【0038】
非線形光学結晶基板11(
図5参照)は、保持テーブル26上に搬入される前に、例えば、環状のフレーム15(
図5参照)の開口部を塞ぐように貼られたテープ13(
図5参照)に貼られる。フレーム15と、テープ13と、非線形光学結晶基板11と、が一体化されるとフレームユニットが形成される。
図3に示す通り、保持テーブル26は、該保持面26a上に載せられたフレームユニットに含まれるフレーム15を挟持するクランプ26bを外周部に備える。
【0039】
該多孔質部材は、保持テーブル26の内部に形成された吸引路(不図示)を介して吸引源(不図示)に接続される。該保持面26aの上にテープ13を介して非線形光学結晶基板11を載せ、該吸引源を作動させて該吸引路及び該多孔質部材を通じて非線形光学結晶基板11に負圧を作用させる。すると、非線形光学結晶基板11が保持テーブル26に吸引保持される。
【0040】
基台4の上面の後方側には立設部4aが設けられ、該立設部4aの上端には該上端から保持テーブル26の上方に延びた腕部4bが設けられる。腕部4bの該立設部4a側の端部とは反対側の端部には、レーザビーム照射ユニット28と、高調波検出ユニット30と、カメラユニット32と、が設けられる。
【0041】
レーザビーム照射ユニット28は、該非線形光学結晶基板11に対して透過性を有し、さらに、該非線形光学結晶基板11に照射されると非線形光学効果が発生する波長のレーザビームを該非線形光学結晶基板11に照射する機能を有する。さらに、レーザビーム照射ユニット28は、非線形光学結晶基板11に照射されると非線形光学効果が発生する出力で該レーザビームを照射できる。レーザビーム照射ユニット28は、例えば、非線形光学結晶基板11の表面に垂直な方向から該レーザビームを照射できる。
【0042】
例えば、レーザビーム照射ユニット28は、Nd:YAG等を媒体とし発振される波長1064nmのレーザビームを非線形光学結晶基板11に照射できる。波長1064nmのレーザビームをリチウムタンタレート(LT)やリチウムナイオベート(LN)等の非線形光学結晶に照射すると、非線形光学効果により、入射したレーザビーム(基本波)の周波数の整数倍の周波数である高調波の発生が観測される。該高調波は、例えば、波長532nmの第二高調波である。
【0043】
レーザビーム照射ユニット28により照射されるレーザビームには、該レーザビームの進行方向を含む特定の面に電場(または磁場)の振動方向を有する直線偏光のレーザビームを使用する。すなわち、該直線偏光のレーザビームは、該進行方向を含む偏光面を有する。発生する高調波の強度は位相整合条件を満たすか否かで大きく変化し、例えば、非線形光学結晶基板11に入射させるレーザビームの偏光面を回転させることで変化する。
【0044】
レーザビーム照射ユニット28は半波長板(λ/2板)を備えてもよく、この場合、該レーザビームは該半波長板を経て照射される。半波長板は、レーザビームの偏光面を回転させる機能を有する。そして、半波長板を該レーザビームの進行方向の周りに回転させると、該偏光面の回転角の大きさが変化する。したがって、レーザビーム照射ユニット28は、該半波長板を回転させることにより、任意の回転角に偏光面を回転させた状態で直線偏光のレーザビームを非線形光学結晶11に照射できる。
【0045】
または、保持テーブル26は、保持面26aに垂直な軸の周りに回転できてもよい。この場合、直線偏光のレーザビームを非線形光学結晶基板11に照射する際、保持テーブル26を回転させることにより、非線形光学結晶基板11に入射する直線偏光のレーザビームの偏光面を非線形光学結晶基板11に対して相対的に回転させることができる。すなわち、保持テーブル26を回転させることでも、任意の回転角に偏光面を回転させた状態で直線偏光のレーザビームを非線形光学結晶11に照射できる。
【0046】
レーザビーム照射ユニット28の近傍に設けられる高調波検出ユニット30は、該レーザビームが非線形光学結晶基板11に照射された際に非線形光学効果によって発生する高調波を検出する機能を有する。高調波検出ユニット30には、例えば、CCD(Charge Coupled Device)検出器、または、CMOS(Complementary metal-oxide-semiconductor)検出器が使用される。
【0047】
また、レーザビーム照射ユニット28の近傍に設けられるカメラユニット32は、保持テーブル26に保持された非線形光学結晶基板11を撮像できる。カメラユニット32は、例えば、ノッチ3やオリエンテーションフラット5が失われていない非線形光学結晶基板1を保持テーブル26に保持させた際に、該ノッチ3又は該オリエンテーションフラット5を検出できる。
【0048】
さらに、本実施形態に係る結晶方位検出装置2は、高調波検出ユニット30に電気的に接続された記録ユニット34(
図4参照)を備える。該記録ユニット34は、高調波検出ユニット30で検出された高調波の強度を記録できる。特に、レーザビームの偏光面を該非線形光学結晶基板11に対して垂直な方向の周りに相対的に回転させたときの回転角と、該高調波検出ユニット30によって検出された該高調波の強度と、の関係を記録できる。
【0049】
図4は、結晶方位が不明となった非線形光学結晶基板11について結晶方位を検出するのに先立ち、ノッチ3又はオリエンテーションフラット5が失われる前の非線形光学結晶基板1に対してレーザビームを照射する様子を模式的に示す側面図である。
【0050】
図4に示される通り、レーザビーム照射ユニット28からレーザビーム28aが該非線形光学結晶基板1に照射されると、発生する高調波30aが高調波検出ユニット30により検出される。検出された高調波30aの強度は、レーザビーム28aの偏光面の相対的な回転角とともに記録ユニット34に伝達され、記録ユニット34では、該回転角と、該強度と、の関係が記録される。
【0051】
例えば、該ノッチ3等が示す結晶方位と、該レーザビームの偏光面と、が垂直に交差する場合の該回転角が基準角(0°)とされる。そして、該偏光面と、非線形光学結晶基板1と、を相対的に回転させ、各回転角において高調波検出ユニット30で検出される高調波30aの強度と、高調波30aが検出された際の該偏光面の回転角と、の関係を記録ユニット34に記録する。記録される該関係は標準の関係とされ、後に参照される。
【0052】
その後、ノッチ3等が失われて該ノッチ3等が示す特定の結晶方位が不明となった非線形光学結晶基板11を保持テーブル26に保持させる。そして、該非線形光学結晶基板11にレーザビーム28aを照射し、同様に高調波30aを検出し、高調波30aの強度と、偏光面の相対的な回転角と、の関係を記録ユニット34に記録する。なお、該特定の結晶方位が不明となった非線形光学結晶基板11にレーザビーム28aを照射し高調波を検出する際は、該回転角の基準角は任意の角度とされる。
【0053】
本実施形態に係る結晶方位検出装置2は、さらに、記録ユニット34に電気的に接続された結晶方位検出ユニット36を備える。結晶方位検出ユニット36は、記録ユニット34に記録された該関係に基づいて、該保持テーブル26に保持された該非線形光学結晶基板11の結晶方位を検出する。
【0054】
具体的には、結晶方位検出ユニット36は、結晶方位が不明となった非線形光学結晶基板11について得られた該高調波30aの強度と、偏光面の該回転角と、の関係と、ノッチ3等を有する該非線形光学結晶基板について得られた該標準の関係と、を照合する。
【0055】
ここで、両関係は同種の非線形光学結晶基板から得られる関係であるため、両関係について横軸が偏光面の回転角、縦軸が高調波30aの強度を表すグラフを作成すると、回転角がシフトした同型のグラフとなる。この場合、該回転角のシフトの量を導出することにより、結晶方位が不明となった非線形光学結晶基板11において、ノッチ3等が示していた結晶方位が検出される。
【0056】
このように本実施形態係る結晶方位検出装置2によると、X線回折装置を使用することなく、非線形光学結晶基板11における結晶方位を容易に特定できる。
【0057】
さらに、本実施形態に係る結晶方位検出装置2のレーザビーム照射ユニット28は、非線形光学結晶基板11をアブレーション加工等のレーザ加工を実施できる出力又は波長のレーザビームを照射できてもよい。この場合、結晶方位検出ユニット36に検出された該結晶方位が再び不明とならないように、該レーザビーム照射ユニット28により非線形光学結晶基板11に該結晶方位を示す目印を形成できる。なお、該目印は他の方法により非線形光学結晶基板11に形成されてもよい。
【0058】
また、結晶方位検出装置2は、非線形光学結晶基板11にレーザビーム28aを照射する間、X軸方向移動ユニット16又はY軸方向移動ユニット6を作動させて保持テーブル26を移動させてもよい。この場合、非線形光学結晶基板11の該レーザビーム28aが照射される位置が常に変化する。そのため、非線形光学結晶基板11の特定の領域においてレーザビーム28aが過剰に照射されにくくなり、材料の変質等の高調波発生以外の現象が発生するのを防止できる。
【0059】
保持テーブル26を移動させながら高調波30aを検出する場合、レーザビーム28aが照射される各位置において生じる高調波30aをそれぞれ測定し、得られた各強度を平均化する。この場合、非線形光学結晶基板11の局所的な表面状態等の影響が極力抑えられ、ばらつきの少ない精度の高い値を取得できる。
【0060】
図6に、レーザビーム28aの偏光面の相対的な回転角と、高調波30aの強度と、の関係の一例を示す。
図6に示すグラフは、偏光面の相対的な回転角を変化させてノッチ3を有するリチウムタンタレート(LT)基板にレーザビーム28aを照射し、実際に観測された高調波30aの強度と、該回転角と、の関係を示すグラフである。該関係が得られた際の高調波の検出条件について説明する。
【0061】
まず、ノッチ3を有するリチウムタンタレート(LT)基板を保持テーブル26に保持させ、波長1064nmの直線偏光のレーザビーム28aを該リチウムタンタレート(LT)基板に照射した。該レーザビーム28aの出力は5μJ~10μJ、周波数は10kHzとした。そして、発生した波長532nmの第二高調波を高調波検出ユニット30で検出した。
【0062】
このとき、X軸方向移動ユニット16を作動させ保持テーブル26をX軸方向に沿って100mm/sの速度で移動させながらレーザビーム28aを照射し、高調波検出ユニット30で検出された高調波30aの強度を平均化した。そして、保持テーブル26を保持面26aに垂直な軸の周りに回転させることにより直線偏光のレーザビーム28aの偏光面を該リチウムタンタレート(LT)基板に対して相対的に回転させ、同様に高調波30aの測定を繰り返した。なお、保持テーブル26は10°ずつ回転させた。
【0063】
以上の条件にて発生した高調波30aの強度を記録することにより、
図6に示すような偏光面の回転角と、高調波30aの強度と、の関係を取得することができた。なお、
図6においては、レーザビーム28aの偏光面と、リチウムタンタレート(LT)基板のノッチが示す結晶方位と、が垂直に交差する状態の該偏光面の相対的な回転角を基準角(0°)とした。得られた該関係は、結晶方位が不明となったリチウムタンタレート(LT)基板の結晶方位を検出する際に、標準の関係として参照される。
【0064】
図6に示される通り、高調波30aの強度は、該回転角に対して依存性を有することが確認された。そして、偏光面の回転角が90°であるとき、すなわち、偏光面と、該ノッチが示す結晶方位と、が平行となるとき、高調波30aの強度が極大化することが確認された。なお、180°異なる2つの回転角において、それぞれ観測される高調波30aの強度は原理的には一致するはずである。しかし、
図6において一致しない場合があるのは、レーザビーム28aの質等の影響によるものと考えられる。
【0065】
次に、本実施形態に係る結晶方位検出方法について説明する。該結晶方位検出方法では、例えば、上述の結晶方位検出装置2が使用される。以下、該結晶方位検出装置2を使用する場合を例に、該結晶方位検出方法を説明する。
【0066】
該結晶方位検出方法の各ステップの関係を示すフローチャートを
図7に示す。
図7に示す通り、該結晶方位検出方法では、非線形光学結晶11にレーザビーム28aを照射するレーザビーム照射ステップS1と、発生する高調波30aを検出する高調波検出ステップS2と、を含む。さらに、レーザビーム28aの偏光面を非線形光学結晶基板11に対して相対的に回転させる回転ステップS3を含む。
【0067】
レーザビーム照射ステップS1、高調波検出ステップS2、及び回転ステップS3を繰り返して各回転角における高調波30aの強度データをすべて取得し、該回転角と、該高調波30aの強度と、の関係を記録する記録ステップS4を実施する。その後、得られた該関係に基づいて、保持テーブル26に保持された非線形光学結晶基板11の結晶方位を検出する結晶方位検出ステップS5を実施する。以下、本実施形態に係る結晶方位検出方法の各ステップについて詳述する。
【0068】
まず、レーザビーム照射ステップS1について説明する。
図5は、レーザビーム照射ステップS1を模式的に示す側面図である。レーザビーム照射ステップS1では、まず、結晶方位の検出対象となる非線形光学結晶基板11を、テープ13及び環状のフレーム15と一体化されたフレームユニットの状態で保持テーブル26に保持させる。
【0069】
レーザビーム照射ステップS1では、例えば、所定の方向に非線形光学結晶基板11を移動させながら、直線偏光のレーザビーム28aを非線形光学結晶基板11に照射する。このとき、レーザビーム28aの出力は、非線形光学結晶基板11に多光子吸収による変質等の加工がされないように加工閾値以下の出力かつ非線形光学効果として高調波が発生する出力とされる。また、レーザビーム28aは、非線形光学結晶基板11に対して透過性を有し、かつ、高調波が発生する波長とされる。
【0070】
高調波検出ステップS2では、レーザビーム照射ステップS1の実施時に非線形光学結晶基板11の非線形光学結晶の非線形光学効果によって発生した高調波30aを高調波検出ユニット30により検出する。高調波検出ステップS2は、レーザビーム照射ステップS1とほぼ同時に実施される。
【0071】
本実施形態に係る結晶方位検出方法では、レーザビーム28aの偏光面を非線形光学結晶基板11に対して回転させる回転ステップS3を実施し、レーザビーム照射ステップS1及び高調波検出ステップS2を複数回繰り返す。そして、得られた該偏光面の相対的な回転角と、高調波30aの強度と、の関係に基づいて非線形光学結晶基板11の結晶方位を検出する。回転ステップS3は、該結晶方位を適切に検出するのに必要な所定の回数で実施される。
【0072】
すなわち、必要な高調波30aの強度データがすべて取得できていなければ回転ステップS3が実施される。回転ステップS3では、レーザビーム28aの偏光面と、非線形光学結晶基板11と、を非線形光学結晶基板11の表面に垂直な方向の周りに相対的に回転させる。例えば、保持テーブル26を保持面26aに垂直な軸の周りに所定の角度で回転させる。または、レーザビーム照射ユニット28が半波長板を有し、レーザビーム28aが該半波長板を通過する場合、該半波長板を回転させる。
【0073】
なお、1回の回転ステップS3において相対的に回転させる該偏光面と、非線形光学結晶基板11と、の回転角が大きすぎると、測定データが不十分となり結晶方位の検出の精度が低下する。そのため、1回の回転ステップS3における該回転角は所定の角度以下であることが望ましい。例えば、該回転角は20°以下とされるのが好ましく、10°以下とされるのがより好ましい。回転ステップS3を実施した後には、再びレーザビーム照射ステップS1及び高調波検出ステップS2を実施する。
【0074】
図5には、3回のレーザビーム照射ステップS1、高調波検出ステップS2、及び回転ステップS3が既に実施された後に実施される4回目のレーザビーム照射ステップS1及び高調波検出ステップS2の様子が模式的に示されている。
図5に示す通り、各レーザビーム照射ステップS1においてレーザビーム28aの照射位置28bは、それぞれ異なる方向に沿っている。
【0075】
レーザビーム照射ステップS1と、高調波検出ステップS2と、回転ステップS3と、を繰り返して、測定が必要な各回転角における高調波30aの強度データがすべて取得できている場合、次に、記録ステップS4を実施する。記録ステップS4では、レーザビーム28aの偏光面と、該非線形光学結晶基板11と、の相対的な回転角と、該高調波検出ステップS2で検出された該高調波の強度と、の関係を、例えば、記録ユニット34に記録する。
【0076】
ただし、記録ステップS4はこれに限定されない。記録ステップS4では、例えば、レーザビーム照射ステップS1と、高調波検出ステップS2と、を1回実施した際にその都度実施してもよい。この場合、レーザビーム照射ステップS1と、高調波検出ステップS2と、に続けて記録ステップS4を実施して該回転角と、該高調波の強度と、を記録ユニット34に記録する。そして、必要な測定結果をすべて取得できていない場合には回転ステップS3を実施し、取得できている場合には該関係を記録ユニット34に記録する。
【0077】
次に、記録ステップS4で記録された該関係に基づいて非線形光学結晶基板11の結晶方位を検出する結晶方位検出ステップS5を実施する。結晶方位検出ステップS5では、例えば、予めノッチ3等により特定の結晶方位が示される非線形光学結晶基板1に対して同様の測定が実施されて得られた直線偏光の該回転角と、高調波の強度と、の標準の関係が参照される。なお、該標準の関係は、例えば、ノッチ3等が失われていない非線形光学結晶基板1を測定することで取得される。
【0078】
すなわち、該標準の関係と、記録ステップS4で記録された関係と、を照合することにより、ノッチ3等が失われて特定の結晶方位が不明となった非線形光学結晶基板11の該特定の結晶方位を検出する。なお、結晶方位検出ステップS5を実施した後、例えば、レーザビーム照射ユニット28により、加工を実施できる条件で非線形光学結晶基板11にレーザビームを照射し、該特定の結晶方位を示す表示を形成する表示形成ステップを実施してもよい。
【0079】
以上に説明する通り、本実施形態に係る結晶方位検出方法によると、高価なX線回折装置を使用することなく非線形光学結晶基板における結晶方位を容易に特定できる。
【0080】
なお、本発明は上記実施形態の記載に限定されず、種々変更して実施可能である。上記実施形態では、ノッチ3又はオリエンテーションフラット5が失われてそれらが示す特定の結晶方位が不明となった非線形光学結晶基板11について、該特定の結晶方位を検出する場合について説明したが、本発明の一態様はこれに限定されない。すなわち、結晶方位の検出対象となる非線形光学結晶基板11にノッチ3等が設けられていても良い。
【0081】
非線形光学結晶基板11に形成されるノッチ3等には、それらが示すべき特定の結晶方位に対して一定の範囲の誤差が生じる。該誤差が大きい場合に、該ノッチ3等を参照して非線形光学結晶基板11に形成する素子の性能に影響を与える恐れがある。
【0082】
そこで、該誤差の大きさを検出するために、または、真の該特定の結晶方位を検出するために、本発明の一態様に係る結晶方位検出装置2が使用されてもよく、該結晶方位検出方法が実施されてもよい。この場合、例えば、1°以下の範囲の誤差を検出するために、レーザビーム28aの偏光面と、非線形光学結晶基板と、の相対的な回転角は、1°以下に設定される。すなわち、本発明の一態様に係る結晶方位検出方法においては、回転ステップにおける回転角が1°以下とされてもよい。
【0083】
また、上記実施形態においては、ノッチ3等により特定の結晶方位が既知の非線形光学結晶基板1について取得された該標準の関係が参照されて、結晶方位の検出対象となる非線形光学結晶基板11の特定の結晶方位が検出される場合について説明した。しかし、本発明の一態様はこれに限定されない。
【0084】
結晶方位が不明となった非線形光学結晶基板11の結晶方位の検出においては、該標準の関係が使用されなくてもよい。非線形光学結晶基板11を構成する非線形光学結晶の材質が既知であれば、該非線形光学結晶で生じる高調波の強度について、レーザビームの偏光面の角度に対する依存性が予測できる場合がある。この場合、レーザビームの偏光面と、非線形光学結晶基板11と、の相対的な回転角と、高調波30aの強度と、の関係を直接評価することにより非線形光学結晶基板11の特定の結晶方位を検出できる。
【0085】
さらに、上記実施形態では、失われる前のノッチ3等が示していた非線形光学結晶基板の特定の結晶方位を検出する場合について説明したが、本発明の一態様に係る結晶方位検出装置及び結晶方位検出方法はこれに限定されない。すなわち、ノッチ3等が示していた結晶方位ではない他の方位を検出してもよい。
【0086】
例えば、非線形光学結晶基板に形成される回路パターンの設計上の事情により、該特定の結晶方位には沿わない方向に沿って素子を形成したい場合がある。この場合、例えば、ノッチ3等が示していた該特定の結晶方位とは異なる結晶方位で、例えば、素子の形成に都合の良い方位を検出してもよい。
【0087】
また、上記実施形態においては、レーザビーム照射ユニット28により非線形光学結晶基板11に対して透過性を有するレーザビーム28aを照射する場合について説明した。本発明の一態様に係る結晶方位検出装置及び結晶方位検出方法では、さらに、特定の結晶方位が検出された非線形光学結晶基板11に対して、検出された該特定の結晶方位を参照してそのままレーザ加工を実施してもよい。
【0088】
例えば、レーザビーム照射ユニット28は、非線形光学結晶基板11が吸収性を有する波長のレーザビームを非線形光学結晶基板11に照射できてもよい。該レーザビームを非線形光学結晶基板11に照射しながら、例えば、X軸方向移動ユニット16を作動させ保持テーブル26をX軸方向に移動させることにより、X軸方向に沿って非線形光学結晶基板11をアブレーション加工できる。
【0089】
または、レーザビーム照射ユニット28は、非線形光学結晶基板11を透過できるレーザビームを非線形光学結晶基板11の内部に集光させ、多光子吸収過程により非線形光学結晶基板11の内部に改質層を形成できてもよい。該レーザビームを非線形光学結晶基板11の内部に集光させながら、例えば、X軸方向移動ユニット16を作動させ保持テーブル26をX軸方向に移動させることにより、X軸方向に沿って非線形光学結晶基板11の内部に改質層を形成できる。
【0090】
上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0091】
1,1a,1b,1c,1d,11 非線形光学結晶基板
3 ノッチ
5 オリエンテーションフラット
7 インゴット
13 テープ
15 フレーム
2 結晶方位検出装置
4 基台
4a 立設部
4b 腕部
6,16 移動ユニット
8,18 ガイドレール
10,20 移動プレート
12,22 ボールねじ
14,24 パルスモータ
26 保持テーブル
26a 保持面
26b クランプ
28 レーザビーム照射ユニット
28a レーザビーム
28b 照射位置
30 高調波検出ユニット
30a 高調波
32 カメラユニット
34 記録ユニット
36 結晶方位検出ユニット