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特許7166714切削ブレード、切削ブレードの製造方法及び被加工物の加工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】切削ブレード、切削ブレードの製造方法及び被加工物の加工方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 53/00 20060101AFI20221031BHJP
   B24D 3/00 20060101ALI20221031BHJP
   B24D 5/00 20060101ALI20221031BHJP
   B24D 5/12 20060101ALI20221031BHJP
   B24B 27/06 20060101ALI20221031BHJP
   B23K 26/352 20140101ALI20221031BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
B24B53/00 D
B24D3/00 340
B24D5/00 P
B24D5/12 Z
B24B27/06 J
B23K26/352
H01L21/78 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018125885
(22)【出願日】2018-07-02
(65)【公開番号】P2020001146
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(72)【発明者】
【氏名】村澤 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】大武 裕介
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-160251(JP,A)
【文献】特開2002-192464(JP,A)
【文献】特開2009-018368(JP,A)
【文献】特開2004-034159(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0174731(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 5/12
B24D 5/00
B24D 3/00
B24B 27/06
H01L 21/301
B23K 26/352
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、該砥粒を結合するボンド材と、を含む切れ刃部を有する切削ブレードであって、
該ボンド材の表面には、幅が該砥粒の粒径以下である線状の突起部によって構成される凹凸構造が形成されていることを特徴とする切削ブレード。
【請求項2】
該砥粒の粒径は、200μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の切削ブレード。
【請求項3】
砥粒と、該砥粒を結合するボンド材と、を含む切れ刃部を有する切削ブレードの製造方法であって、
パルス幅が10ps以下のレーザービームを該切れ刃部に照射することにより、該ボンド材の表面に、幅が該砥粒の粒径以下且つ該レーザービームの波長未満である突起部によって構成される凹凸構造を形成することを特徴とする切削ブレードの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の切削ブレードの製造方法であって、
線状の該突起部を形成することを特徴とする切削ブレードの製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の切削ブレードを用いた被加工物の加工方法であって、
該切削ブレードを被加工物に切り込ませることにより、該被加工物を切削予定ラインに沿って切削することを特徴とする被加工物の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物を切削するための切削ブレード、該切削ブレードの製造方法、及び該切削ブレードを用いた被加工物の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスチップの製造工程においては、分割予定ライン(ストリート)によって区画された領域にIC、LSI等のデバイスを備える半導体ウェーハが用いられる。この半導体ウェーハを分割予定ラインに沿って分割することにより、デバイスをそれぞれ備える複数の半導体デバイスチップが得られる。同様に、LED等の光デバイスが形成された光デバイスウェーハを分割することにより、光デバイスチップが製造される。
【0003】
上記の半導体ウェーハや光デバイスウェーハなどに代表される被加工物の分割には、切削装置が用いられる。切削装置は、被加工物を保持するチャックテーブルと、先端部に被加工物を切削するための切削ブレードが装着されるスピンドルとを備えている。この切削ブレードは、ダイヤモンド等でなる砥粒を金属等でなるボンド材で結合することによって形成される(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
スピンドルの先端部に切削ブレードを装着してスピンドルを回転させると、切削ブレードはスピンドルの軸心を回転軸として回転する。この状態で切削ブレードを被加工物に切り込ませると、切削ブレードのボンド材から露出した砥粒が被加工物と接触して被加工物が切削される。そして、全ての分割予定ラインに沿って被加工物を切削することにより、被加工物が複数のチップに分割される。
【0005】
切削ブレードによる切削を続けると、切削によって生じた加工屑(切削屑)がボンド材と砥粒との隙間に蓄積し、砥粒の一部が埋没することがある(目詰まり)。この目詰まりが生じると、加工負荷が増大して被加工物に加工不良が生じやすくなる。そのため、切削加工時には、切削ブレードをドレッサーボードに切り込ませて切削ブレードのドレッシングを行うことにより、砥粒を露出させる作業(目立て)が実施される。
【0006】
また、ドレッサーボードを用いる代わりに、切削ブレードにレーザービームを照射してドレッシングを行う手法も提案されている。特許文献3には、切削ブレードで被加工物を切削しながら、切削ブレードにレーザービームを照射してドレッシングを行う切削装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平4-193974号公報
【文献】特開2012-135833号公報
【文献】特開2009-18368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のドレッサーボードを用いたドレッシングでは、ドレッシングを行うために切削ブレードによる被加工物の切削を中断する必要がある上、ドレッシング作業に時間がかかる。そのため、ドレッシングの実施による加工効率の低下が問題となる。
【0009】
一方、前述のレーザービームを用いたドレッシングでは、被加工物の切削中にドレッシングを実施できるため、加工効率の低下を回避できる。しかしながら、レーザービームの照射によるアブレーションによって砥粒がボンド材から脱落してしまい、切削ブレードの目立てが適切に行われない場合がある。このような切削ブレードを用いて被加工物を切削すると、被加工物に加工不良が発生しやすい。
【0010】
本発明はかかる問題に鑑みてなされたものであり、加工効率を低下させることなく加工不良の発生を抑制することが可能な切削ブレード、該切削ブレードの製造方法、及び該切削ブレードを用いた被加工物の加工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によれば、砥粒と、該砥粒を結合するボンド材と、を含む切れ刃部を有する切削ブレードであって、該ボンド材の表面には、幅が該砥粒の粒径以下である線状の突起部によって構成される凹凸構造が形成されている切削ブレードが提供される。なお、本発明の一態様において、該砥粒の粒径は、200μm以下であってもよい。
【0012】
また、本発明の一態様によれば、砥粒と、該砥粒を結合するボンド材と、を含む切れ刃部を有する切削ブレードの製造方法であって、パルス幅が10ps以下のレーザービームを該切れ刃部に照射することにより、該ボンド材の表面に、幅が該砥粒の粒径以下且つ該レーザービームの波長未満である突起部によって構成される凹凸構造を形成する切削ブレードの製造方法が提供される。なお、本発明の一態様において、線状の該突起部を形成してもよい。
【0013】
また、本発明の一態様によれば、上記の切削ブレードを用いた被加工物の加工方法であって、該切削ブレードを被加工物に切り込ませることにより、該被加工物を切削予定ラインに沿って切削する被加工物の加工方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様に係る切削ブレードのボンド材の表面には、砥粒の粒径以下のサイズの凹凸構造が形成されている。ボンド材の表面に凹凸構造が形成されていると、ボンド材と切削によって生じた異物(切削屑)との接触面積が減少して切削屑がボンド材に付着しにくくなり、目詰まりの発生が抑制される。これにより、切削ブレードのドレッシングを頻繁に実施せずとも砥粒が露出した状態を維持することができ、加工効率の低下を抑えつつ加工不良の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1(A)は基台及び切れ刃部を備える切削ブレードを示す斜視図であり、図1(B)は切れ刃部からなる切削ブレードを示す斜視図である。
図2図2(A)はボンド材の表面に凹凸構造が形成された切れ刃部の一例を示す拡大図であり、図2(B)はボンド材の表面に凹凸構造が形成された切れ刃部の一例のSEM像である。
図3】レーザー照射装置を示す一部断面正面図である。
図4図4(A)、図4(B)、及び図4(C)は、切れ刃部に対するレーザービームの走査方向の例を示す平面図である。
図5】加工装置を示す斜視図である。
図6】チッピングサイズの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。まず、本実施形態に係る切削ブレードについて説明する。図1(A)及び図1(B)に切削ブレードの構成例を示す。
【0017】
図1(A)は、基台3及び切れ刃部5を備える切削ブレード1を示す斜視図である。切削ブレード1は、中央部に開口3aを有する円環状の基台3と、基台3の外縁部に形成された環状の切れ刃部5とによって構成される。切れ刃部5は、ダイヤモンド等でなる砥粒をボンド材で結合することにより形成される。ボンド材としては、例えばメタルボンド、レジンボンド、ビトリファイドボンドなどが用いられる。基台3の外縁部に切れ刃部5が形成された切削ブレード1は、ハブタイプ(ハブブレード)と呼ばれる。
【0018】
また、基台3は幅方向に突出した円環状の把持部3bを有する。切削装置を用いて被加工物を加工する際、切削装置の使用者(オペレータ)は把持部3bを持って切削ブレード1を切削装置に装着することができる。
【0019】
図1(B)は、切れ刃部9からなる切削ブレード7を示す斜視図である。切削ブレード7は、中央部に開口9aを有する円環状の切れ刃部9によって構成されている。なお、切れ刃部9の材料は、図1(A)に示す切削ブレード1の切れ刃部5と同様である。円環状の切れ刃部9によって構成された切削ブレード7は、ワッシャータイプ(ワッシャーブレード)と呼ばれる。
【0020】
図1(A)及び図1(B)に示されるような切削ブレードは、切削装置に備えられたスピンドルの先端部に装着され、スピンドルによって回転可能な態様で支持される。切削ブレードがスピンドルに装着された状態でスピンドルを回転させると、切削ブレードはスピンドルの軸心を回転軸として回転する。そして、回転する切削ブレードを被加工物に切り込ませることにより、被加工物が切削される。
【0021】
被加工物の切削は、切削ブレードが備える切れ刃部のボンド材から露出した砥粒が被加工物に接触することによって行われる。ただし、切削ブレードによる切削を続けると、切削によって生じた異物(切削屑)が切削ブレードの先端部に付着し、砥粒の一部又は全体が埋没することがある(目詰まり)。この目詰まりが生じると、加工負荷が増大して被加工物に加工不良が生じやすくなる。
【0022】
目詰まりは、切削ブレードをドレッサーボードに切り込ませるドレッシングを実施して砥粒を露出させる(目立て)ことにより解消できる。しかしながら、ドレッサーボードを用いてドレッシングを行うためには、切削ブレードによる被加工物の切削を中断する必要がある上、ドレッシング作業に時間がかかるため、加工効率の低下が問題となる。
【0023】
一方、被加工物を加工しながら切削ブレードにレーザービームを照射することによってドレッシングを行う方法も提案されている。しかしながら、切削加工中の切削ブレードにレーザービームを照射すると、アブレーションによって砥粒がボンド材から脱落してしまい、目立てが適切に実施されない場合がある。このような切削ブレードを用いて被加工物を切削すると、被加工物に加工不良が発生しやすい。
【0024】
本実施形態においては、ボンド材に砥粒の粒径以下のサイズの凹凸構造が形成された切削ブレードを用いて被加工物を加工する。ボンド材の表面に凹凸構造が形成されていると、ボンド材と切削屑との接触面積が減少して切削屑がボンド材に付着しにくくなり、目詰まりの発生が抑制される。これにより、切削ブレードのドレッシングを頻繁に実施せずとも砥粒が露出した状態を維持することができ、加工効率の低下を抑えつつ加工不良の発生を抑制できる。
【0025】
上記の凹凸構造は、レーザービームを用いた微細加工によって形成できる。具体的には、パルス幅が極めて短い(例えば10ps以下)超短パルスレーザービームを固体材料に照射すると、固体材料の表面にレーザービームの波長と同程度のサイズの凹凸構造(リップル構造)が形成される。このリップル構造は、レーザービームの入射光と、固体材料の表面で生じる表面プラズマ波との干渉によって形成されると考えられる。
【0026】
さらに、超短パルスレーザービームを低フルエンス(例えば、アブレーション閾値の10倍以下、好ましくは5倍以下)で固体材料に照射すると、固体材料の表面にはレーザービームの波長未満のサイズの凹凸構造が形成される。なお、アブレーション閾値は、レーザービームの照射によって固体材料がアブレーション加工されるために必要な最小のレーザービームのエネルギーであり、その値は主に固体材料の融点等に依存する。
【0027】
そこで、本実施形態においては、切削ブレードの切れ刃部に極短パルスレーザービームを照射することによってボンド材を加工する。これにより、ボンド材の表面に砥粒の粒径以下のサイズの微細な凹凸構造を形成できる。
【0028】
なお、極短パルスレーザービームの照射によって形成される凹凸構造の形状は、レーザービームの偏光方向に依存する。そのため、レーザービームの偏光方向を制御することにより、ボンド材に様々な形状の凹凸構造を形成できる。例えば、直線偏光のレーザービームを照射すると、ボンド材には偏光方向と垂直な方向に沿って線状の突起部が形成される。また、円偏光又は楕円偏光のレーザービームを照射すると、ボンド材には粒状の突起部が形成される。
【0029】
図2(A)は、ボンド材の表面に凹凸構造が形成された切れ刃部5の一例を示す拡大図である。図2(A)に示す切れ刃部5は、ボンド材11によって砥粒13を結合して構成されている。なお、ボンド材11にはメタルボンド、レジンボンド、ビトリファイドボンドなどが用いられる。また、砥粒13には粒径が200μm以下のダイヤモンドなどが用いられる。
【0030】
例えば、切れ刃部5に直線偏光の極短パルスレーザービームを照射すると、ボンド材11の表面から突出する複数の線状の突起部11aが、レーザービームの偏光方向(矢印Aで示す方向)と垂直な方向に沿って所定の周期で形成される。このとき、レーザービームを低フルエンス(例えば、アブレーション閾値の10倍以下、好ましくは5倍以下)で照射すると、ボンド材11の表面には幅がレーザービームの波長以下である複数の突起部11aによって構成される凹凸構造が形成される。
【0031】
レーザービームの波長は、突起部11aの幅が砥粒13の粒径以下となるように適宜選択される。例えば、砥粒13の粒径が1μm以上である場合、波長が1μm以下程度のレーザービームを低フルエンスで照射することにより、ボンド材11の表面に幅が1μm未満の突起部11aを形成できる。
【0032】
図2(B)は、ボンド材11の表面に凹凸構造が形成された切れ刃部5の一例のSEM(Scanning Electron Microscope)像である。図2(B)に示すように、ボンド材11の表面には、幅が砥粒13の粒径以下である複数の突起部11aによって構成される微細な凹凸構造が形成されている。この凹凸構造により、切削屑がボンド材11に付着しにくくなり、砥粒13の目詰まりが抑制される。
【0033】
なお、上記では直線偏光のレーザービームの照射によって線状の突起部11aが形成される場合について説明したが、円偏光又は楕円偏光のレーザービームを用いることにより、幅がレーザービームの波長よりも小さい粒状の突起部を形成してもよい。また、上記では図1(A)に示す切れ刃部5に凹凸構造が形成された場合について説明したが、図1(B)に示す切れ刃部9にも同様に凹凸構造を形成できる。
【0034】
次に、凹凸構造を有する切削ブレードの製造に用いられるレーザー照射装置の構成例について説明する。図3は、レーザー照射装置2を示す一部断面正面図である。レーザー照射装置2は、切れ刃部を有する切削ブレードを支持する支持テーブル4と、支持テーブル4によって支持された切削ブレードの切れ刃部にレーザービームを照射するレーザー加工ユニット6とを備える。
【0035】
なお、ここでは基台17及び切れ刃部19を備える切削ブレード15を加工することによって、図1(A)に示す切削ブレード1を製造する方法について説明する。切削ブレード15は、切れ刃部19に凹凸構造が形成されていない点を除いては、切削ブレード1と同様に構成されている。
【0036】
支持テーブル4の上面は、切削ブレード15を支持する支持面4aを構成している。切削ブレード15は、その径方向が支持面4aと平行となるように、支持面4aによって支持される。また、支持テーブル4は、支持テーブル4の下側に設けられた移動機構(不図示)及び回転機構(不図示)と連結されている。移動機構は支持テーブル4を水平方向に移動させ、回転機構は支持テーブル4を鉛直方向に概ね平行な回転軸の周りに回転させる。
【0037】
支持テーブル4の上方には、レーザー加工ユニット6が配置されている。レーザー加工ユニット6は、レーザービームを支持テーブル4上の所定の位置に集光させるように構成されている。
【0038】
レーザー加工ユニット6は、パルス幅が10ps以下のレーザービームをパルス発振するレーザー発振器8を備える。なお、レーザービームの波長に制限はなく、例えば波長が266nm以上1064nm以下のレーザービームがレーザー発振器8から発振される。レーザー発振器8によってパルス発振されたレーザービームは、ミラー10で反射して波長板12に入射し、波長板12によってレーザービームの偏光が制御される。
【0039】
例えば、レーザー発振器8から直線偏光のレーザービームがパルス発振される場合、波長板12としてλ/2板を用いることにより、直線偏光のレーザービームの偏光方向を制御できる。また、波長板12としてλ/4板を用いることにより、直線偏光のレーザービームを円偏光又は楕円偏光のレーザービームに変換できる。そして、波長板12を通過して偏光が制御されたレーザービームは、集光レンズ14によって所定の位置に集光される。
【0040】
切削ブレード15の切れ刃部19が集光レンズ14の中央の下方に配置されるように支持テーブル4及びレーザー加工ユニット6を位置付けた状態で、レーザービームをレーザー発振器8からパルス発振させる。これにより、レーザービームが切削ブレード15の切れ刃部19に照射される。
【0041】
なお、レーザービームの照射条件(パルス幅、波長、エネルギー、集光レンズの開口数(NA)等)は、切れ刃部19に形成しようとする凹凸構造の寸法や形状に応じて適宜調節される。ただし、ボンド材にレーザービームの波長未満のサイズの凹凸構造を形成する場合は、レーザービームを低フルエンス(例えば、アブレーション閾値の10倍以下、好ましくは5倍以下)で照射することが好ましい。
【0042】
そして、切れ刃部19にレーザービームを照射しながら支持テーブル4を所定の方向に移動又は回転させることにより、レーザービームを走査する。これにより、レーザービームが切れ刃部19の全体にわたって照射される。なお、レーザー加工ユニット6を移動させることによってレーザービームを走査してもよい。
【0043】
図4(A)、図4(B)、及び図4(C)は、切れ刃部に対するレーザービームの走査方向の例を示す平面図である。レーザービームは、円環状の切れ刃部19に沿って円形に走査してもよいし(図4(A))、切れ刃部19の径方向に沿って放射状に走査してもよい(図4(B))。また、レーザービームを所定の間隔で平行に走査してもよい(図4(C))。
【0044】
上記のレーザービームの照射により、ボンド材の表面に凹凸構造が形成された切削ブレード1(図1(A)参照)が製造される。なお、ここでは切削ブレード1の製造方法について説明したが、同様の方法により、ボンド材の表面に凹凸構造を有する切削ブレード7(図1(B))も製造できる。
【0045】
ボンド材の表面に凹凸構造が形成された切削ブレードは、加工装置に装着される。図5は、加工装置20を示す斜視図である。加工装置20は、被加工物21を保持するチャックテーブル22と、チャックテーブル22に支持された被加工物21に対して切削加工を行う加工ユニット(加工手段)24とを備える。
【0046】
被加工物21は、例えば円盤状に形成され、表面21a及び裏面21bを備える。被加工物21は、互いに交差するように格子状に配列された複数の切削予定ライン(ストリート)23によって複数の領域に区画されており、この複数の領域の表面21a側にはそれぞれIC、LSI等で構成されるデバイス25が形成されている。また、被加工物21の裏面21b側には、被加工物21よりも径の大きい円形のダイシングテープ27が貼付されている。
【0047】
なお、被加工物21の材質、形状、構造、大きさ等に制限はない。例えば、被加工物21として、半導体(シリコン、GaAs、InP、GaN、SiC等)、ガラス、セラミックス、樹脂、金属等の材料によって形成されたウェーハを用いることができる。また、デバイス25の種類、数量、形状、構造、大きさ、配置等にも制限はない。
【0048】
チャックテーブル22は、ダイシングテープ27を介して被加工物21を吸引保持する。チャックテーブル22の上面は被加工物21を保持する保持面を構成しており、この保持面はチャックテーブル22の内部に形成された吸引路(不図示)を通じて吸引源(不図示)と接続されている。
【0049】
また、チャックテーブル22は、チャックテーブル22の下側に設けられた移動機構(不図示)及び回転機構(不図示)と連結されている。移動機構はチャックテーブル22をX軸方向(加工送り方向)及びY軸方向(割り出し送り方向)に移動させ、回転機構はチャックテーブル22を鉛直方向に概ね平行な回転軸の周りに回転させる。
【0050】
被加工物21の裏面21b側は、ダイシングテープ27を介してチャックテーブル22の保持面によって支持される。この状態でチャックテーブル22の保持面に吸引源の負圧を作用させると、被加工物21がチャックテーブル22によって吸引保持される。
【0051】
チャックテーブル22の上方には、加工ユニット24が配置されている。加工ユニット24は、チャックテーブル22の保持面に対して概ね平行な方向に軸心をとるスピンドル(不図示)を備えており、スピンドルの先端部には切削ブレード26が装着される。この切削ブレード26として、本実施形態に係る凹凸構造が形成された切削ブレードが用いられる。スピンドルはモータ等の回転駆動源(不図示)と連結されており、スピンドルに装着された切削ブレード26は回転駆動源から伝わる力によって回転する。
【0052】
また、加工ユニット24には、チャックテーブル22によって吸引保持された被加工物21等を撮像するための撮像ユニット28が装着されている。撮像ユニット28によって取得された画像に基づいて、チャックテーブル22と加工ユニット24との位置合わせが行われる。
【0053】
切削ブレード26の下端を被加工物21の裏面21bよりも下方に位置付けた状態で、チャックテーブル22を加工送り方向に移動させる。これにより、切削ブレード26が被加工物21に切り込み、被加工物21には切削予定ライン23に沿って直線状の切削溝21cが形成される。そして、全ての切削予定ライン23に沿って被加工物21が切削されると、被加工物21はデバイス25をそれぞれ備える複数のデバイスチップに分割される。
【0054】
なお、切削ブレード26が被加工物21に切り込む深さは、被加工物21の厚さ未満であってもよい。この場合、全ての切削予定ライン23に沿って切削溝21cを形成した後、被加工物21の裏面21b側を研削して切削溝21cを裏面21bに露出させることにより、被加工物21を複数のデバイスチップに分割できる。
【0055】
切削ブレード26としては、前述のボンド材の表面に凹凸構造が形成された切削ブレードが用いられる。そのため、被加工物21を切削する際に生じた切削屑とボンド材との接触面積が減少して切削屑がボンド材に付着しにくくなる。よって、切削ブレード26の目詰まりが防止され、被加工物21の加工不良が抑制される。
【0056】
なお、上記では主に、パルス幅が10ps以下程度の超短パルスレーザービームを低フルエンスで照射することによってボンド材の表面に凹凸構造を形成する例について説明したが、凹凸構造の形成方法はこれに限定されない。例えば、凹凸構造のサイズによっては、パルス幅が10psよりも大きいレーザービーム(例えばナノ秒パルスレーザなど)を高NAの集光レンズ(例えばNA=0.8以上)で絞って集光させ、ボンド材をアブレーション加工することによって凹凸構造を形成することもできる。
【0057】
次に、本実施形態に係る切削ブレードによって切削された被加工物の評価結果について説明する。本評価では、ボンド材の表面に凹凸構造が形成された切削ブレードを用いて被加工物を切削し、切削によって被加工物に生じた欠け(チッピング)のサイズを測定した。
【0058】
評価には、被加工物として直径6インチ、厚さ0.2mmのシリコンウェーハを用い、このシリコンウェーハを図5に示す加工装置20を用いて切削した。具体的には、シリコンウェーハをチャックテーブル22によって吸引保持し、切削ブレードをシリコンウェーハの表面側から切削予定ラインに沿って切り込ませることにより、シリコンウェーハに切削溝を形成した。なお、切削ブレードがシリコンウェーハに切り込む深さは20μmとした。
【0059】
切削加工には、ダイヤモンドでなる砥粒をニッケルでなるボンド材で結合した3種類の切削ブレードA,B,Cを用いた。切削ブレードAは、ボンド材の表面に凹凸構造がなく、ドレッサーボードを用いたドレッシングによって目立を行った切削ブレードである。切削ブレードBは、ボンド材の表面に凹凸構造がなく、ドレッサーボードを用いたドレッシングを行っていない切削ブレードである。切削ブレードCは、ボンド材に砥粒の粒径以下のサイズの凹凸構造が形成された本実施形態に係る切削ブレードである(図2(B)参照)。
【0060】
なお、切削ブレードCの凹凸構造は、レーザービームの照射によって形成した。レーザービームの照射条件は以下のように設定した。なお、下記のスポット間距離は、レーザービームを走査した際に隣接するビームスポットの中心間の距離に相当する。
パルス幅 :10ps
波長 :1064nm
1パルス当たりのエネルギー :10μJ
スポット径 :60μm
スポット間距離 :0.5μm
【0061】
上記の切削ブレードA,B,Cをそれぞれ用いて、シリコンウェーハに切削溝を形成した。そして、切削溝によって区画されたシリコンウェーハの表面側の各領域において、切削によって生じたチッピングの大きさ(チッピングサイズ)を測定した。なお、チッピングサイズは、シリコンウェーハの表面と平行な方向における、切削面からチッピングの先端までの最大の距離である。チッピングサイズの測定は、切削ブレードA,B,Cによって切削したシリコンウェーハそれぞれについて、62か所で行った。
【0062】
図6は、チッピングサイズの測定結果を示すグラフである。図6より、ボンド材の表面に凹凸構造が形成された切削ブレードCでは、切削ブレードA及び切削ブレードBと比較してサイズの大きいチッピングの発生が抑えられていることが分かる。また、切削ブレードCを用いた場合のチッピングサイズの平均値は、切削ブレードAを用いた場合と比較して4μm程度小さかった。これより、切削ブレードCはドレッシングが行われた切削ブレードAよりもチッピングの防止に有効であることが分かる。
【0063】
上記の結果から、切削ブレードのボンド材の表面に凹凸構造を形成することは、サイズの大きいチッピングの発生の抑制に効果的であることが分かった。なお、このチッピングサイズの抑制は、ボンド材に形成された凹凸構造によって目詰まりが抑制され、砥粒の露出した状態が維持されやすくなったことに起因していると考えられる。
【0064】
以上の通り、本実施形態においては、ボンド材に砥粒の粒径以下のサイズの凹凸構造が形成された切削ブレードを用いて被加工物を加工する。ボンド材の表面に凹凸構造が形成されていると、ボンド材と切削屑との接触面積が減少して切削屑がボンド材に付着しにくくなり、目詰まりの発生が抑制される。これにより、切削ブレードのドレッシングを頻繁に実施せずとも砥粒が露出した状態を維持することができ、加工効率の低下を抑えつつ加工不良の発生を抑制できる。
【0065】
その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0066】
1 切削ブレード
3 基台
3a 開口
3b 把持部
5 切れ刃部
7 切削ブレード
9 切れ刃部
9a 開口
11 ボンド材
11a 突起部
13 砥粒
15 切削ブレード
17 基台
19 切れ刃部
21 被加工物
21a 表面
21b 裏面
21c 切削溝
23 分割予定ライン
25 デバイス
27 ダイシングテープ
2 レーザー照射装置
4 支持テーブル
4a 支持面
6 レーザー加工ユニット
8 レーザー発振器
10 ミラー
12 波長板
14 集光レンズ
20 加工装置
22 チャックテーブル
24 加工ユニット
26 切削ブレード
28 撮像ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6