(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】ウェーハの加工方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20221031BHJP
H01L 21/67 20060101ALI20221031BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20221031BHJP
B23K 26/364 20140101ALI20221031BHJP
【FI】
H01L21/78 M
H01L21/78 B
H01L21/78 W
H01L21/78 Y
H01L21/68 E
H01L21/68 N
B23K26/364
(21)【出願番号】P 2018196136
(22)【出願日】2018-10-17
【審査請求日】2021-08-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【氏名又は名称】岡野 貴之
(72)【発明者】
【氏名】原田 成規
(72)【発明者】
【氏名】松澤 稔
(72)【発明者】
【氏名】木内 逸人
(72)【発明者】
【氏名】淀 良彰
(72)【発明者】
【氏名】荒川 太朗
(72)【発明者】
【氏名】上里 昌充
(72)【発明者】
【氏名】河村 慧美子
(72)【発明者】
【氏名】藤井 祐介
(72)【発明者】
【氏名】宮井 俊輝
(72)【発明者】
【氏名】大前 巻子
【審査官】杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-085434(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003312(WO,A1)
【文献】特開昭58-153352(JP,A)
【文献】特開2007-165636(JP,A)
【文献】特開2008-078430(JP,A)
【文献】特開2002-203821(JP,A)
【文献】特開2005-191297(JP,A)
【文献】特開2003-037155(JP,A)
【文献】実開昭63-134546(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
H01L 21/67
H01L 21/683
B23K 26/364
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のデバイスが、分割予定ラインによって区画された表面の各領域に形成されたウェーハを個々のデバイスチップに分割するウェーハの加工方法であって、
ウェーハの裏面に
糊層を備えないポリエステル系シートを配設するポリエステル系シート配設工程と、
該ポリエステル系シートを加熱し押圧して該ウェーハと、該ポリエステル系シートと、を一体化させる一体化工程と、
該一体化工程の前または後に、該ウェーハを収容できる大きさの開口を有する内枠と、該内枠の外径に対応した径の開口を有する外枠と、で構成されるフレームを使用して、該内枠の外周壁と、該外枠の内周壁と、の間に該ポリエステル系シートの外周を挟持することで該ポリエステル系シートを該フレームで支持するフレーム支持工程と、
該ウェーハに対して吸収性を有する波長のレーザービームを該分割予定ラインに沿って該ウェーハに照射し、分割溝を形成して該ウェーハを個々のデバイスチップに分割する分割工程と、
該ポリエステル系シートから個々の該デバイスチップをピックアップするピックアップ工程と、
を備えることを特徴とするウェーハの加工方法。
【請求項2】
該ピックアップ工程では、該ポリエステル系シートを拡張して各デバイスチップ間の間隔を広げ、該ポリエステル系シート側から該デバイスチップを突き上げることを特徴とする請求項1記載のウェーハの加工方法。
【請求項3】
該ポリエステル系シートは、ポリエチレンテレフタレートシート、ポリエチレンナフタレートシートのいずれかであることを特徴とする請求項1記載のウェーハの加工方法。
【請求項4】
該一体化工程において、該ポリエステル系シートが該ポリエチレンテレフタレートシートである場合に加熱温度は250℃~270℃であり、該ポリエステル系シートが該ポリエチレンナフタレートシートである場合に加熱温度は160℃~180℃であることを特徴とする請求項3記載のウェーハの加工方法。
【請求項5】
該ウェーハは、Si、GaN、GaAs、ガラスのいずれかで構成されることを特徴とする請求項1記載のウェーハの加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のデバイスが分割予定ラインによって区画された表面の各領域に形成されたウェーハを個々のデバイスチップに分割するウェーハの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やパソコン等の電子機器に使用されるデバイスチップの製造工程では、まず、半導体等の材料からなるウェーハの表面に複数の交差する分割予定ライン(ストリート)を設定する。そして、該分割予定ラインで区画される各領域にIC(Integrated Circuit)、LSI(Large-Scale Integrated circuit)、LED(Light Emitting Diode)等のデバイスを形成する。
【0003】
その後、開口を有する環状のフレームに該開口を塞ぐように貼られたダイシングテープと呼ばれる粘着テープを該ウェーハの裏面に貼着し、ウェーハと、粘着テープと、環状のフレームと、が一体となったフレームユニットを形成する。そして、フレームユニットに含まれるウェーハを該分割予定ラインに沿って加工して分割すると、個々のデバイスチップが形成される。
【0004】
ウェーハの分割には、例えば、レーザー加工装置が使用される(特許文献1参照)。レーザー加工装置は、粘着テープを介してウェーハを保持するチャックテーブル、及びウェーハに対して吸収性を有する波長のレーザービームを該ウェーハに照射するレーザー加工ユニットを備える。
【0005】
ウェーハを分割する際には、チャックテーブルの上にフレームユニットを載せ、粘着テープを介してチャックテーブルにウェーハを保持させる。そして、チャックテーブルと、レーザー加工ユニットと、をチャックテーブルの上面に平行な方向に沿って相対移動させながら該レーザー加工ユニットからウェーハに該レーザービームを照射する。レーザービームが照射されるとアブレーションにより各分割予定ラインに沿ってウェーハに分割溝が形成され、ウェーハが分割される。
【0006】
その後、レーザー加工装置からフレームユニットを搬出し、粘着テープに紫外線を照射する等の処理を施して粘着テープの粘着力を低下させ、デバイスチップをピックアップする。デバイスチップの生産効率が高い加工装置として、ウェーハの分割と、粘着テープへの紫外線の照射と、を一つの装置で連続して実施できる加工装置が知られている(特許文献2参照)。粘着テープ上からピックアップされたデバイスチップは、所定の配線基板等に実装される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平10-305420号公報
【文献】特許第3076179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
粘着テープは、例えば、塩化ビニールシート等で形成された基材層と、該基材層上に配設された糊層と、を含む。レーザー加工装置では、アブレーション加工によりウェーハを確実に分割するために、ウェーハの表面から裏面に至る分割溝を確実に形成できる条件でレーザービームがウェーハに照射される。そのため、形成された分割溝の下方やその周囲では、レーザービームの照射による熱的な影響により粘着テープの糊層が溶融し、ウェーハから形成されたデバイスチップの裏面側に糊層の一部が固着する。
【0009】
この場合、粘着テープからデバイスチップをピックアップする際に粘着テープに紫外線を照射する等の処理を実施しても、ピックアップされたデバイスチップの裏面側には糊層の該一部が残存してしまう。そのため、デバイスチップの品質の低下が問題となる。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、形成されるデバイスチップの裏面側に糊層が付着せず、デバイスチップに糊層の付着に由来する品質の低下が生じないウェーハの加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によれば、複数のデバイスが、分割予定ラインによって区画された表面の各領域に形成されたウェーハを個々のデバイスチップに分割するウェーハの加工方法であって、ウェーハの裏面に糊層を備えないポリエステル系シートを配設するポリエステル系シート配設工程と、該ポリエステル系シートを加熱し押圧して該ウェーハと、該ポリエステル系シートと、を一体化させる一体化工程と、該一体化工程の前または後に、該ウェーハを収容できる大きさの開口を有する内枠と、該内枠の外径に対応した径の開口を有する外枠と、で構成されるフレームを使用して、該内枠の外周壁と、該外枠の内周壁と、の間に該ポリエステル系シートの外周を挟持することで該ポリエステル系シートを該フレームで支持するフレーム支持工程と、該ウェーハに対して吸収性を有する波長のレーザービームを該分割予定ラインに沿って該ウェーハに照射し、分割溝を形成して該ウェーハを個々のデバイスチップに分割する分割工程と、該ポリエステル系シートから個々の該デバイスチップをピックアップするピックアップ工程と、を備えることを特徴とするウェーハの加工方法が提供される。
【0012】
また、好ましくは、該ピックアップ工程では、該ポリエステル系シートを拡張して各デバイスチップ間の間隔を広げ、該ポリエステル系シート側から該デバイスチップを突き上げる。
【0013】
また、好ましくは、該ポリエステル系シートは、ポリエチレンテレフタレートシート、ポリエチレンナフタレートシートのいずれかである。
【0014】
さらに、好ましくは、該一体化工程において、該ポリエステル系シートが該ポリエチレンテレフタレートシートである場合に加熱温度は250℃~270℃であり、該ポリエステル系シートが該ポリエチレンナフタレートシートである場合に加熱温度は160℃~180℃である。
【0015】
また、好ましくは、該ウェーハは、Si、GaN、GaAs、ガラスのいずれかで構成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様に係るウェーハの加工方法では、フレームユニットに糊層を有する粘着テープを使用せず、糊層を備えないポリエステル系シートを用いてフレームと、ウェーハと、を一体化する。ポリエステル系シートと、ウェーハと、を一体化させる一体化工程は、加熱及び押圧により実現される。
【0017】
本発明の一態様に係るウェーハの加工方法では、ウェーハを収容できる大きさの開口を有する内枠と、該内枠の外径に対応した径の開口を有する外枠と、で構成されるフレームが使用される。そして、フレーム支持工程において、該外枠の該開口内に該内枠を挿入し、このとき、該内枠の外周壁と、該外枠の内周壁と、の間にポリエステル系シートを挟むことで該ポリエステル系シートをフレームで支持できる。
【0018】
すなわち、ポリエステル系シートが糊層を備えていなくても、該一体化工程及びフレーム支持工程を実施することで、ウェーハと、ポリエステル系シートと、フレームと、を一体化させてフレームユニットを形成できる。
【0019】
その後、ウェーハに対して吸収性を有する波長のレーザービームをウェーハに照射し、アブレーションにより分割予定ラインに沿った分割溝を形成して該ウェーハを分割する。その後、ポリエステル系シートからデバイスチップをピックアップする。ピックアップされたデバイスチップは、それぞれ、所定の実装対象に実装される。
【0020】
ウェーハにアブレーション加工を実施すると、レーザービームの照射により生じる熱が分割溝の下方やその近傍においてポリエステル系シートに伝わる。しかしながら、ポリエステル系シートは糊層を備えないため、該糊層が溶融してデバイスチップの裏面側に固着することがない。
【0021】
すなわち、本発明の一態様によると、糊層を備えないポリエステル系シートを用いてフレームユニットを形成できるため、糊層を備えた粘着テープが不要であり、結果として糊層の付着に起因するデバイスチップの品質低下が生じない。
【0022】
したがって、本発明の一態様によると、形成されるデバイスチップの裏面側に糊層が付着せず、デバイスチップに糊層の付着に由来する品質の低下が生じないウェーハの加工方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】チャックテーブルの保持面上にウェーハを位置付ける様子を模式的に示す斜視図である。
【
図3】ポリエステル系シート配設工程を模式的に示す斜視図である。
【
図4】一体化工程の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図5】
図5(A)は、フレーム支持工程を模式的に示す斜視図であり、
図5(B)は、形成されたフレームユニットを模式的に示す斜視図である。
【
図7】ピックアップ装置へのフレームユニットの搬入を模式的に示す斜視図である。
【
図8】
図8(A)は、フレーム支持台の上に固定されたフレームユニットを模式的に示す断面図であり、
図8(B)は、ピックアップ工程を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
添付図面を参照して、本発明の一態様に係る実施形態について説明する。まず、本実施形態に係るウェーハの加工方法で加工されるウェーハについて説明する。
図1は、ウェーハ1を模式的に示す斜視図である。
【0025】
ウェーハ1は、例えば、Si(シリコン)、SiC(シリコンカーバイド)、GaN(ガリウムナイトライド)、GaAs(ヒ化ガリウム)、若しくは、その他の半導体等の材料、または、サファイア、ガラス、石英等の材料からなる略円板状の基板等である。該ガラスは、例えば、アルカリガラス、無アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス等である。
【0026】
ウェーハ1の表面1aは格子状に配列された複数の分割予定ライン3で区画される。また、ウェーハ1の表面1aの分割予定ライン3で区画された各領域にはICやLSI、LED等のデバイス5が形成される。本実施形態に係るウェーハ1の加工方法では、アブレーション加工により分割予定ライン3に沿った分割溝をウェーハ1に形成してウェーハ1を分割し、個々のデバイスチップを形成する。
【0027】
アブレーション加工が実施されるレーザー加工装置6(
図6参照)にウェーハ1を搬入する前に、ウェーハ1と、ポリエステル系シートと、フレームと、が一体化され、フレームユニットが形成される。ウェーハ1は、フレームユニットの状態でレーザー加工装置に搬入され、加工される。形成された個々のデバイスチップはポリエステル系シートに支持される。その後、ポリエステル系シートを拡張することでデバイスチップ間の間隔を広げ、ピックアップ装置によりデバイスチップをピックアップする。
【0028】
環状のフレーム7(
図5(A)等参照)は、例えば、金属等の材料で形成され、ウェーハ1を収容できる大きさの開口を有する内枠7cと、該内枠7cの外径に対応した径の開口を有する外枠7aと、の2つの部材で構成される。内枠7cと、外枠7aと、は略同一の高さを備える。
【0029】
ポリエステル系シート9(
図3等参照)は、柔軟性を有する樹脂系シートであり、表裏面が平坦である。そして、ポリエステル系シート9は、フレーム7の内枠7cの外径よりも大きい径を有し、糊層を備えない。ポリエステル系シート9は、ジカルボン酸(2つのカルボキシル基を有する化合物)と、ジオール(2つのヒドロキシル基を有する化合物)と、をモノマーとして合成されるポリマーのシートであり、例えば、ポリエチレンテレフタレートシート、または、ポリエチレンナフタレートシート等の可視光に対して透明または半透明なシートである。ただし、ポリエステル系シート9はこれに限定されず、不透明でもよい。
【0030】
ポリエステル系シート9は、粘着性を備えないため室温ではウェーハ1に貼着できない。しかしながら、ポリエステル系シート9は熱可塑性を有するため、所定の圧力を印加し押圧しながらウェーハ1と接合させた状態で融点近傍の温度まで加熱すると、部分的に溶融してウェーハ1に接着できる。
【0031】
本実施形態に係るウェーハ1の加工方法では、加熱及び押圧によりウェーハ1の裏面1b側にポリエステル系シート9を接着し、ポリエステル系シート9の外周部を内枠7cの外周壁7eと、該外枠7aの内周壁7bと、の間に挟持してフレームユニットを形成する。
【0032】
次に、本実施形態に係るウェーハ1の加工方法の各工程について説明する。まず、ウェーハ1と、ポリエステル系シート9と、を一体化させる準備のために、ポリエステル系シート配設工程を実施する。
図2は、チャックテーブル2の保持面2a上にウェーハ1を位置付ける様子を模式的に示す斜視図である。
図2に示す通り、ポリエステル系シート配設工程は、上部に保持面2aを備えるチャックテーブル2上で実施される。
【0033】
チャックテーブル2は、上部中央にウェーハ1の外径よりも大きな径の多孔質部材を備える。該多孔質部材の上面は、チャックテーブル2の保持面2aとなる。チャックテーブル2は、
図3に示す如く一端が該多孔質部材に通じた排気路を内部に有し、該排気路の他端側には吸引源2bが配設される。排気路には、連通状態と、切断状態と、を切り替える切り替え部2cが配設され、切り替え部2cが連通状態であると保持面2aに置かれた被保持物に吸引源2bにより生じた負圧が作用し、被保持物がチャックテーブル2に吸引保持される。
【0034】
ポリエステル系シート配設工程では、まず、
図2に示す通り、チャックテーブル2の保持面2a上にウェーハ1を載せる。この際、ウェーハ1の表面1a側を下方に向ける。次に、ウェーハ1の裏面1b上にポリエステル系シート9を配設する。
図3は、ポリエステル系シート配設工程を模式的に示す斜視図である。
図3に示す通り、ウェーハ1を覆うようにウェーハ1の上にポリエステル系シート9を配設する。
【0035】
なお、ポリエステル系シート配設工程では、ポリエステル系シート9の径よりも小さい径の保持面2aを備えるチャックテーブル2が使用される。後に実施される一体化工程でチャックテーブル2による負圧をポリエステル系シート9に作用させる際に、保持面2aの全体がポリエステル系シート9により覆われていなければ、負圧が隙間から漏れてしまい、ポリエステル系シート9に適切に圧力を印加できないためである。
【0036】
本実施形態に係るウェーハ1の加工方法では、次に、ポリエステル系シート9を加熱し押圧してウェーハ1と、該ポリエステル系シート9と、を一体化する一体化工程を実施する。
図4は、一体化工程の一例を模式的に示す斜視図である。
図4では、可視光に対して透明または半透明であるポリエステル系シート9を通して視認できるものを破線で示す。
【0037】
一体化工程では、まず、チャックテーブル2の切り替え部2cを作動させて吸引源2bをチャックテーブル2の上部の多孔質部材に接続する連通状態とし、吸引源2bによる負圧をポリエステル系シート9に作用させる。すると、大気圧によりポリエステル系シート9がウェーハ1に対して密着する。
【0038】
次に、吸引源2bによりポリエステル系シート9を吸引しながらポリエステル系シート9を加熱し押圧する。ポリエステル系シート9の加熱及び押圧は、例えば、所定の温度に加熱された部材でウェーハ1を上方から押圧することで実施する。一体化工程では、例えば、内部に熱源を備えるヒートローラー4を使用する。
【0039】
ヒートローラー4を所定の温度に加熱して、チャックテーブル2の保持面2aの一端に該ヒートローラー4を載せる。そして、ヒートローラー4を回転させ、該一端から他端にまでチャックテーブル2上でヒートローラー4を転がす。すると、ポリエステル系シート9がウェーハ1に熱圧着される。この際、ヒートローラー4によりポリエステル系シート9を押し下げる方向に力を印加すると、大気圧より大きい圧力で熱圧着が実施される。尚、ヒートローラー4の表面をフッ素樹脂で被覆することが好ましい。
【0040】
また、内部に熱源を備え、平たい底板を有するアイロン状の押圧部材をヒートローラー4に代えて使用してポリエステル系シート9の加熱及び押圧を実施してもよい。この場合、該押圧部材を所定の温度に加熱して熱板とし、チャックテーブル2に保持されたポリエステル系シート9を該押圧部材で上方から押圧する。
【0041】
ポリエステル系シート9を熱圧着した後は、切り替え部2cを作動させてチャックテーブル2の多孔質部材と、吸引源2bと、の連通状態を解除し、チャックテーブル2による吸着を解除する。
【0042】
なお、熱圧着を実施する際にポリエステル系シート9は、好ましくは、その融点以下の温度に加熱される。加熱温度が融点を超えると、ポリエステル系シート9が溶解してシートの形状を維持できなくなる場合があるためである。また、ポリエステル系シート9は、好ましくは、その軟化点以上の温度に加熱される。加熱温度が軟化点に達していなければ熱圧着を適切に実施できないためである。すなわち、ポリエステル系シート9は、その軟化点以上でかつその融点以下の温度に加熱されるのが好ましい。
【0043】
さらに、一部のポリエステル系シート9は、明確な軟化点を有しない場合もある。そこで、熱圧着を実施する際にポリエステル系シート9は、好ましくは、その融点よりも20℃低い温度以上でかつその融点以下の温度に加熱される。
【0044】
また、ポリエステル系シート9がポリエチレンテレフタレートシートである場合、加熱温度は250℃~270℃とされるのが好ましい。また、該ポリエステル系シート9がポリエチレンナフタレートシートである場合、加熱温度は160℃~180℃とされるのが好ましい。
【0045】
ここで、加熱温度とは、一体化工程を実施する際のポリエステル系シート9の温度をいう。例えば、ヒートローラー4等の熱源では出力温度を設定できる機種が実用に供されているが、該熱源を使用してポリエステル系シート9を加熱しても、ポリエステル系シート9の温度が設定された該出力温度にまで達しない場合もある。そこで、ポリエステル系シート9を所定の温度に加熱するために、熱源の出力温度をポリエステル系シート9の融点よりも高く設定してもよい。
【0046】
本実施形態に係るウェーハ1の加工方法では、該一体化工程の前または後に、ポリエステル系シート9をフレーム7で支持するフレーム支持工程を実施する。
図5(A)は、フレーム支持工程を模式的に示す斜視図である。フレーム支持工程では、フレーム7の内枠7cの外周壁7eと、フレーム7の外枠7aの内周壁7bと、の間にポリエステル系シート9の外周を挟持することでポリエステル系シート9を該フレーム7で支持する。
【0047】
まず、内枠7cの上にポリエステル系シート9を載せる。この際、内枠7cの上面のすべての領域がポリエステル系シート9に覆われるようにポリエステル系シート9の位置を決める。次に、外枠7aをポリエステル系シート9の上方に載せる。この際、内枠7cの外周壁7eと、外枠7aの内周壁7bと、が概略重なるように外枠7aの位置を決める。
【0048】
その後、ポリエステル系シート9の上方に載る外枠7aを下方に押し下げ、外枠7aの開口中に内枠7cを収容させる。このとき、ポリエステル系シート9の外周部は外枠7aにより折り曲げられ、内枠7cの外周壁7eと、外枠7aの内周壁7bと、の間に挟持される。すると、
図5(B)に示す通り、ウェーハ1と、ポリエステル系シート9と、フレーム7と、が一体となったフレームユニット11が形成される。該フレームユニット11では、フレーム7の内枠7cの上面の上にポリエステル系シート9が配される。
【0049】
なお、一体化工程の後にフレーム支持工程を実施する場合について説明したが、本実施形態に係るウェーハの加工方法はこれに限定されない。例えば、フレーム支持工程の後に一体化工程を実施してもよい。この場合、一体化工程における加熱によりポリエステル系シート9のフレーム7の内枠7c及び外枠7aの間に挟まれた部分が内枠7cの外周壁7eと、外枠7aの内周壁7bと、に接着されて、ポリエステル系シート9がより強い力でフレーム7に支持される。
【0050】
また、フレーム7の内枠7cの上にポリエステル系シート9を配し、その上に外枠7aを配してフレーム支持工程を実施する場合について説明したが、本実施形態に係るウェーハの加工方法では、内枠7cと、外枠7aと、を入れ替えてもよい。
【0051】
すなわち、外枠7aの上にポリエステル系シート9を配し、その上に内枠7cを配し、内枠7cを上から押圧して外枠7aの開口に内枠7c収容させてもよい。この場合、形成されるフレームユニットでは、内枠7cの下面にポリエステル系シート9が接し、内枠7cの内周壁7dで囲まれた開口内にウェーハ1が配される。
【0052】
次に、本実施形態に係るウェーハ1の加工方法では、フレームユニット11の状態となったウェーハ1をアブレーション加工して、分割予定ライン3に沿った分割溝を形成して該ウェーハ1を分割する分割工程を実施する。分割工程は、例えば、
図6に示すレーザー加工装置で実施される。
図6は、分割工程を模式的に示す斜視図である。
【0053】
レーザー加工装置6は、ウェーハ1をアブレーション加工するレーザー加工ユニット8と、ウェーハ1を保持するチャックテーブル(不図示)と、を備える。レーザー加工ユニット8は、レーザーを発振できるレーザー発振器(不図示)を備え、ウェーハ1に対して吸収性を有する波長の(ウェーハ1が吸収できる波長の)レーザービーム10を出射できる。該チャックテーブルは、上面に平行な方向に沿って移動(加工送り)できる。
【0054】
レーザー加工ユニット8は、該レーザー発振器から出射されたレーザービーム10を該チャックテーブルに保持されたウェーハ1に照射する。レーザー加工ユニット8が備える加工ヘッド8aは、レーザービーム10をウェーハ1の所定の高さ位置に集光する機構を有する。
【0055】
ウェーハ1をアブレーション加工する際には、チャックテーブルの上にフレームユニット11を載せ、ポリエステル系シート9を介してチャックテーブルにウェーハ1を保持させる。そして、チャックテーブルを回転させウェーハ1の分割予定ライン3をレーザー加工装置6の加工送り方向に合わせる。また、分割予定ライン3の延長線の上方に加工ヘッド8aが配設されるように、チャックテーブル及びレーザー加工ユニット8の相対位置を調整する。
【0056】
次に、レーザー加工ユニット8からウェーハ1にレーザービーム10を照射しながらチャックテーブルと、レーザー加工ユニット8と、をチャックテーブルの上面に平行な加工送り方向に沿って相対移動させる。すると、分割予定ライン3に沿ってレーザービーム10がウェーハ1に照射され、アブレーションにより分割予定ライン3に沿った分割溝3aがウェーハ1に形成される。
【0057】
分割ステップにおけるレーザービーム10の照射条件は、例えば、以下のように設定される。ただし、レーザービーム10の照射条件は、これに限定されない。
波長 :355nm
繰り返し周波数:50kHz
平均出力 :5W
送り速度 :200mm/秒
【0058】
一つの分割予定ライン3に沿ってアブレーション加工を実施した後、チャックテーブル及びレーザー加工ユニット8を加工送り方向とは垂直な割り出し送り方向に相対的に移動させ、他の分割予定ライン3に沿って同様にウェーハ1のアブレーション加工を実施する。一つの方向に沿った全ての分割予定ライン3に沿って分割溝3aを形成した後、チャックテーブルを保持面に垂直な軸の回りに回転させ、他の方向に沿った分割予定ライン3に沿って同様にウェーハ1をアブレーション加工する。
【0059】
ウェーハ1のすべての分割予定ライン3に沿ってウェーハ1がアブレーション加工されると、分割ステップが完了する。分割ステップが完了し、すべての分割予定ライン3に沿って表面1aから裏面1bに至る分割溝3aがウェーハ1に形成されると、ウェーハ1が分割され個々のデバイスチップが形成される。
【0060】
レーザー加工ユニット8によりウェーハ1にアブレーション加工を実施すると、レーザービーム10の被照射箇所からウェーハ1に由来する加工屑が発生し、該加工屑が該被照射箇所の周囲に飛散してウェーハ1の表面1aに付着する。ウェーハ1にアブレーション加工を実施した後、ウェーハ1の表面1aを後述の洗浄ユニットにより洗浄しても、付着した加工屑を完全に除去するのは容易ではない。ウェーハ1から形成されるデバイスチップに該加工屑が残存すると、デバイスチップの品質が低下する。
【0061】
そこで、レーザー加工装置6でアブレーション加工されるウェーハ1の表面1aには、予め、ウェーハ1の表面1aを保護する保護膜として機能する水溶性の液状樹脂が塗布されていてもよい。該液状樹脂がウェーハ1の表面1aに塗布されていると、アブレーション加工を実施する際に飛散する加工屑が該液状樹脂の上面に付着するため、加工屑はウェーハ1の表面1aに直接付着しない。そして、次に説明する洗浄ユニットにより、該加工屑は該液状樹脂ごと除去される。
【0062】
レーザー加工装置6は、洗浄ユニット(不図示)を備えてもよい。この場合、レーザー加工ユニット8によりアブレーション加工されたウェーハ1は、該洗浄ユニットに搬送され、該洗浄ユニットにより洗浄される。例えば、洗浄ユニットはフレームユニット11を保持する洗浄テーブルと、フレームユニット11の上方を往復移動できる洗浄水供給ノズルと、を備える。
【0063】
洗浄テーブルを保持面に垂直な軸の回りに回転させ、洗浄水供給ノズルから純水等の洗浄液をウェーハ1に供給しながら、洗浄水供給ノズルを該保持面の中央の上方を通る経路で水平方向に往復移動させると、ウェーハ1の表面1a側を洗浄できる。
【0064】
本実施形態に係るウェーハ1の加工方法では、次に、ポリエステル系シート9から個々の該デバイスチップをピックアップするピックアップ工程を実施する。ピックアップ工程では、
図7下部に示すピックアップ装置12を使用する。
図7は、ピックアップ装置12へのフレームユニット11の搬入を模式的に示す斜視図である。
【0065】
ピックアップ装置12は、ウェーハ1の径よりも大きい径を有する円筒状のドラム14と、フレーム支持台18を含むフレーム保持ユニット16と、を備える。フレーム保持ユニット16のフレーム支持台18は、該ドラム14の径よりも大きい径の開口を備え、該ドラム14の上端部と同様の高さに配設され、該ドラム14の上端部を外周側から囲む。さらに、フレーム支持台18は、フレームユニット11のフレーム7を構成する内枠7cの開口の径に対応する大きさの外径を備える。
【0066】
また、フレーム支持台18の外周壁には、例えば、複数の吸引孔18aが設けられる。フレーム支持台18は、該フレーム支持台18の外周側に位置付けられたフレーム7の内枠7cに該吸引孔18aを通じて負圧を作用できる。フレーム支持台18の上にフレームユニット11を載せ、フレーム7の内枠7cに負圧を作用させると、フレームユニット11がフレーム支持台18に固定される。
【0067】
フレーム支持台18は、鉛直方向に沿って伸長する複数のロッド20により支持され、各ロッド20の下端部には、該ロッド20を昇降させるエアシリンダ22が配設される。複数のエアシリンダ22は、円板状のベース24に支持される。各エアシリンダ22を作動させると、フレーム支持台18がドラム14に対して引き下げられる。
【0068】
ドラム14の内部には、ポリエステル系シート9に支持されたデバイスチップを下方から突き上げる突き上げ機構26が配設される。また、ドラム14の上方には、デバイスチップを吸引保持できるコレット28(
図8(B)参照)が配設される。突き上げ機構26及びコレット28は、フレーム支持台18の上面に沿った水平方向に移動可能である。また、コレット28は、切り替え部28b(
図8(B)参照)を介して吸引源28a(
図8(B)参照)に接続される。
【0069】
ピックアップ工程では、まず、ピックアップ装置12のドラム14の上端の高さと、フレーム支持台18の上面の高さと、が一致するように、エアシリンダ22を作動させてフレーム支持台18の高さを調節する。次に、レーザー加工装置6から搬出されたフレームユニット11をピックアップ装置12のドラム14の上に載せる。このとき、フレーム7の内枠7cの開口にフレーム支持台18を挿入させ、該内枠7cの内周壁7dをフレーム支持台18の外周壁に対面させる。
【0070】
その後、フレーム支持台18の吸引孔18aからフレーム7の内枠7cに負圧を作用させてフレーム支持台18の上にフレームユニット11のフレーム7を固定する。
図8(A)は、フレーム支持台18の上に固定されたフレームユニット11を模式的に示す断面図である。ウェーハ1には、分割ステップにより分割溝3aが形成され分割されている。
【0071】
次に、エアシリンダ22を作動させてフレーム保持ユニット16のフレーム支持台18をドラム14に対して引き下げる。すると、
図8(B)に示す通り、ポリエステル系シート9が外周方向に拡張される。
図8(B)は、ピックアップ工程を模式的に示す断面図である。
【0072】
ポリエステル系シート9が外周方向に拡張されると、ポリエステル系シート9に支持された各デバイスチップ1cの間隔が広げられる。すると、デバイスチップ1c同士が接触しにくくなり、個々のデバイスチップ1cのピックアップが容易となる。そして、ピックアップの対象となるデバイスチップ1cを決め、該デバイスチップ1cの下方に突き上げ機構26を移動させ、該デバイスチップ1cの上方にコレット28を移動させる。
【0073】
その後、突き上げ機構26を作動させてポリエステル系シート9側から該デバイスチップ1cを突き上げる。そして、切り替え部28bを作動させてコレット28を吸引源28aに連通させる。すると、コレット28により該デバイスチップ1cが吸引保持され、デバイスチップ1cがポリエステル系シート9からピックアップされる。ピックアップされた個々のデバイスチップ1cは、その後、所定の配線基板等に実装されて使用される。
【0074】
例えば、粘着テープを使用してフレームユニット11を形成する場合、分割工程においてレーザービーム10の照射により生じる熱が該粘着テープに伝わり、粘着テープの糊層が溶融してデバイスチップの裏面側に固着する。そして、糊層の付着によるデバイスチップの品質の低下が問題となる。
【0075】
これに対して、本実施形態に係るウェーハの加工方法によると、熱圧着により糊層を備えないポリエステル系シートを用いたフレームユニットの形成が可能となるため、糊層を備えた粘着テープが不要である。結果として裏面側への糊層の付着によるデバイスチップの品質低下が生じない。
【0076】
なお、本発明は上記実施形態の記載に限定されず、種々変更して実施可能である。例えば、上記実施形態では、ポリエステル系シート9が、例えば、ポリエチレンテレフタレートシート、または、ポリエチレンナフタレートシートである場合について説明したが、本発明の一態様はこれに限定されない。例えば、ポリエステル系シートは、他の材料が使用されてもよく、ポリトリメチレンテレフタレートシートや、ポリブチレンテレフタレートシート、ポリブチレンナフタレートシート等でもよい。
【0077】
その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0078】
1 ウェーハ
1a 表面
1b 裏面
3 分割予定ライン
3a 分割溝
5 デバイス
7 フレーム
7a 外枠
7b,7d 内周壁
7c 内枠
7e 外周壁
9 ポリエステル系シート
11 フレームユニット
2 チャックテーブル
2a 保持面
2b,28a 吸引源
2c,28b 切り替え部
4 ヒートローラー
6 レーザー加工装置
8 レーザー加工ユニット
8a 加工ヘッド
10 レーザービーム
12 ピックアップ装置
14 ドラム
16 フレーム保持ユニット
18 フレーム支持台
18a 吸引孔
20 ロッド
22 エアシリンダ
24 ベース
26 突き上げ機構
28 コレット