(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】ウエーハの生成方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20221031BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20221031BHJP
B28D 5/00 20060101ALI20221031BHJP
B26F 3/00 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
H01L21/304 611Z
B23K26/53
B28D5/00 Z
B26F3/00 E
(21)【出願番号】P 2018218399
(22)【出願日】2018-11-21
【審査請求日】2021-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】山本 涼兵
【審査官】渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-133485(JP,A)
【文献】特開2018-133484(JP,A)
【文献】特開2018-125390(JP,A)
【文献】米国特許第8623137(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B23K 26/53
B28D 5/00
B26F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を生成すべきウエーハの厚みに相当する深さに位置付けて照射して剥離層を形成したインゴットから生成すべきウエーハを剥離するウエーハの生成方法であって、
生成すべきウエーハを含むインゴットの一部の領域に超音波を高密度で付与して該一部の領域が剥離した部分剥離部を形成する第一の超音波付与工程と、
該インゴットに対し、該第一の超音波付与工程において高密度の超音波を付与した該一部の領域よりも広い面積に超音波を低密度で付与して該部分剥離部から該生成すべきウエーハの全面に亘る剥離部を形成する第二の超音波付与工程と、
該インゴットから生成すべきウエーハを剥離する剥離工程と、
から少なくとも構成されるウエーハの生成方法。
【請求項2】
該第一の超音波付与工程、及び該第二の超音波付与工程は、水の層を介して生成すべきウエーハを含むインゴットに超音波を付与する請求項1に記載のウエーハの生成方法。
【請求項3】
該インゴットは、c軸と該c軸に対して直交するc面を有する単結晶SiCのインゴットであり、該剥離層は、単結晶SiCに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を該インゴットの端面から生成すべきウエーハの厚みに相当する深さに位置付けて照射してSiCがSiとCに分離した改質部、及び該改質部からc面に等方的に形成されるクラックからなる請求項1、又は2に記載のウエーハの生成方法。
【請求項4】
該剥離層は、単結晶SiCの該インゴットの端面の垂線に対してc軸が傾いている場合、c面と端面とでオフ角が形成される方向に直交する方向に該改質部を連続的に形成して該改質部からc面に等方的にクラックを生成し、該オフ角が形成される方向に該クラックが形成される幅を超えない範囲で集光点をインデックス送りしてオフ角が形成される方向と直交する方向に該改質部を連続的に形成して該改質部からc面に等方的にクラックを順次生成した剥離層である請求項3に記載のウエーハの生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を生成すべきウエーハの厚みに相当する深さに位置付けて照射して剥離層を形成したインゴットから生成すべきウエーハを剥離するウエーハの生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI、LED等のデバイスは、Si(シリコン)、AL2O3(サファイア)等を素材としたウエーハの表面に機能層が積層され分割予定ラインによって区画されて形成される。
【0003】
そして、切削装置、レーザー加工装置によってウエーハの分割予定ラインに沿って加工が施されて個々のデバイスに分割されて携帯電話、パソコン等の電気機器に利用される。また、パワーデバイス、LED等は、単結晶SiCを素材としたウエーハの表面に機能層が積層され分割予定ラインによって区画されて形成される。
【0004】
上記したようなデバイスが形成されるウエーハは、一般的にインゴットをワイヤーソーでスライスして生成され、スライスされたウエーハの表裏面を研磨して鏡面に仕上げられる(たとえば、特許文献1を参照。)。しかし、単結晶SiCからなるインゴットをワイヤーソーで切断し、表裏面を研磨してウエーハを生成するとインゴットの70%~80%が捨てられることになり、不経済であるという問題がある。特に、単結晶SiCのインゴットは硬度が高く、ワイヤーソーでの切断が困難であり、相当の時間を要することから生産性が悪いと共に、インゴットの単価が高いことから、効率よくウエーハを生成することに課題を有している。
【0005】
上記課題に対し、本出願人は、単結晶SiCに対して透過性を有するレーザー光線の集光点をインゴットの内部に位置付けて照射し、切断予定面に分離層を形成し、ウエーハを分離する技術を提案している(特許文献2を参照。)。また、これに類似する技術として、Siインゴットの端面からSiに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を生成すべきウエーハの厚みに相当する深さに位置付けて照射して改質部を形成し、インゴットからウエーハを剥離する技術も提案されている(たとえば、特許文献3を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-094221号公報
【文献】特開2016-111143号公報
【文献】特開2011-060862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した特許文献2、及び特許文献3に記載の技術によれば、インゴットをワイヤーソーで切断してウエーハを生成する場合に比して、捨てられるインゴットの割合が低下することから、不経済であるという問題に対して一定の効果を有している。しかし、レーザー光線を照射することにより得られるインゴットに生成した分離層からウエーハを分離することは容易ではなく、依然として生産効率に問題がある。
【0008】
本発明は、上記事実に鑑みなされたものであり、その主たる技術課題は、単結晶SiCのインゴットからウエーハを効率よく剥離して生成することができるウエーハの生成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を生成すべきウエーハの厚みに相当する深さに位置付けて照射して剥離層を形成したインゴットから生成すべきウエーハを剥離するウエーハの生成方法であって、生成すべきウエーハを含むインゴットの一部の領域に超音波を高密度で付与して該一部の領域が剥離した部分剥離部を形成する第一の超音波付与工程と、該インゴットに対し、該第一の超音波付与工程において高密度の超音波を付与した該一部の領域よりも広い面積に超音波を低密度で付与して該部分剥離部から該生成すべきウエーハの全面に亘る剥離部を形成する第二の超音波付与工程と、該インゴットから生成すべきウエーハを剥離する剥離工程と、から少なくとも構成されるウエーハの生成方法が提供される。
【0010】
該第一の超音波付与工程、及び該第二の超音波付与工程は、水の層を介して生成すべきウエーハを含むインゴットに超音波を付与することが好ましい。
【0011】
該インゴットは、c軸と該c軸に対して直交するc面を有する単結晶SiCのインゴットであり、該剥離層は、単結晶SiCに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を該インゴットの端面から生成すべきウエーハの厚みに相当する深さに位置付けて照射してSiCがSiとCに分離した改質部、及び該改質部からc面に等方的に形成されるクラックからなるようにすることが好ましい。さらに、該剥離層は、単結晶SiCの該インゴットの端面の垂線に対してc軸が傾いている場合、c面と端面とでオフ角が形成される方向に直交する方向に該改質部を連続的に形成して該改質部からc面に等方的にクラックを生成し、該オフ角が形成される方向に該クラックが形成される幅を超えない範囲で集光点をインデックス送りしてオフ角が形成される方向と直交する方向に該改質部を連続的に形成して該改質部からc面に等方的にクラックを順次生成した剥離層であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によるウエーハの生成方法は、透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を生成すべきウエーハの厚みに相当する深さに位置付けて照射して剥離層を形成したインゴットから生成すべきウエーハを剥離するウエーハの生成方法であって、生成すべきウエーハを含むインゴットの一部の領域に超音波を高密度で付与して該一部の領域が剥離した部分剥離部を形成する第一の超音波付与工程と、該インゴットに対し、該第一の超音波付与工程において高密度の超音波を付与した該一部の領域よりも広い面積に超音波を低密度で付与して該部分剥離部から該生成すべきウエーハの全面に亘る剥離部を形成する第二の超音波付与工程と、該インゴットから生成すべきウエーハを剥離する剥離工程と、から少なくとも構成されることにより、インゴットをワイヤーソーを使用して切断する場合に比して、捨てられる量を格段に減らすことができると共に、高密度の超音波を付与する第一の超音波付与工程によって部分剥離部を形成しておき、該部分剥離部を含む生成すべきウエーハの全体に低密度の超音波を付与することで、部分剥離部を起点として剥離が広がり、生成すべきウエーハをインゴットから容易に、且つ効率よく剥離することが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)単結晶SiCからなるインゴットの正面図、(b)単結晶SiCからなるインゴットの平面図である。
【
図2】
図1に示すインゴットにサブストレートを装着し、チャックテーブルに載置する態様を示す斜視図である。
【
図3】(a)インゴットに剥離層を形成する工程を示す斜視図、(b)インゴットに剥離層を形成する工程を示す正面図である。
【
図4】(a)剥離層が形成されたインゴットの平面図、(b)(a)におけるB-B断面図である。
【
図5】(a)超音波発生装置によって第一の超音波付与工程を実施する態様を示す斜視図、(b)(a)における側面図である。
【
図6】(a)超音波発生装置によって第二の超音波付与工程を実施する態様を示す斜視図、(b)(a)における側面図である。
【
図7】(a)剥離工程を実施する態様を示す斜視図、(b)(a)における側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に基づくウエーハの生成方法の実施形態について、添付図面を参照しながら、詳細に説明する。
【0015】
図1には、本実施形態に係るインゴット2が示されている。インゴット2は、例えば、直径が略100mmの六方晶単結晶SiCのインゴットであり、全体として略円柱形状に形成され、略円形状の第一の端面4と、第一の端面4と反対側の略円形状の第二の端面6と、第一の端面4及び第二の端面6の間に位置する周面8と、第一の端面4から第二の端面6に至るc軸(<0001>方向)と、該c軸に直交するc面({0001}面)とを有する。インゴット2においては、第一の端面4の垂線10に対してc軸が傾斜しており、c面と第一の端面4とでオフ角α(例えばα=1、3、6度のいずれか。)が形成されている。オフ角αが形成される方向を
図1に矢印Aで示す。また、インゴット2の周面8には、結晶方位を示す矩形状の第一のオリエンテーションフラット12、及び第二のオリエンテーションフラット14が形成されている。第一のオリエンテーションフラット12は、オフ角αが形成されている方向Aに対して平行であり、第二のオリエンテーションフラット14は、オフ角αが形成される方向Aに直交する方向に形成される。インゴット2の平面図として示す
図1(b)に示すように、上方から見て、第二のオリエンテーションフラット14の長さL2は、第一のオリエンテーションフラット12の長さL1よりも短く(L1>L2)なるように設定される。これにより、インゴット2の表裏に関わらず、オフ角αが形成される向きを判別することができる。なお、本発明に係るウエーハの生成方法に適用されるインゴットについては、上記した単結晶SiCのインゴット2に限定されるものではなく、第一の端面の垂線に対してc軸が傾いておらず、c面と第一の端面とのオフ角αが0度である(すなわち、第一の端面の垂線と、c軸とが一致している。)インゴットでもよい。
【0016】
本実施形態に係るウエーハの生成方法を実施するに際し、まず、生成すべきウエーハの厚みに相当する深さに透過性を有するレーザー光線の集光点を位置付けて照射し剥離層を形成する剥離層形成工程を実施する。以下に、
図2乃至
図4を参照しながら該インゴット2を用意する剥離層形成工程について説明する。
【0017】
該剥離層形成工程を実施するには、まず、
図2に示すように、インゴット2の第二の端面6に接着剤等を介して円形状のサブストレート16を装着し、サブストレート16が装着されたインゴット2を、レーザー加工装置18(一部のみ示す。)に搬送する。レーザー加工装置18には、チャックテーブル20が備えられている。チャックテーブル20の上面には、通気性を有するポーラスセラミックによって円形状の吸着チャック24が形成され、吸着チャック24の寸法は、サブストレート16よりも僅かに小さく形成されている。レーザー加工装置18に搬送されたインゴット2は、サブストレート16側をチャックテーブル20の吸着チャック24に載置され、吸着チャック24に接続された図示しない吸引手段によって吸引保持される。なお、インゴット2に対しサブストレート16を装着することは必須の要件ではなく、チャックテーブル20の吸着チャック24が、インゴット2を直接吸引保持できる寸法及び形状に設定されているのであれば、省略してもよい。
【0018】
チャックテーブル20にインゴット2を保持したならば、インゴット2の第一の端面4側から、インゴット2を構成する単結晶SiCに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を生成すべきウエーハの厚みに相当する深さに位置付け、インゴット2にレーザー光線を照射して、SiCがSi(シリコン)と、C(炭素)とに分離すると共に、c面に等方的にクラックが発生した剥離層を形成する。なお、第一の端面4は、予め研削加工、及び研磨加工が施され凹凸が除去されて鏡面に加工されている。以下に、
図3、及び
図4を参照しながら、より具体的に説明する。
【0019】
図3(a)に示すように、レーザー加工装置18(一部のみ示している。)は、上記したチャックテーブル20に加え、インゴット2にパルスレーザー光線LBを照射する集光器22を備える。チャックテーブル20は、チャックテーブル20の径方向中心を通って上下方向に延びる軸線を回転中心としてチャックテーブル用モータ(図示は省略する。)によって回転可能に構成されている。また、チャックテーブル20は、
図3(a)において矢印Xで示すX軸方向において集光器22に対して相対的に加工送りするX軸方向移動手段(図示は省略する。)、及びX軸方向に直交する矢印Yで示すY軸方向において集光器22に対して相対的に加工送りするY軸方向移動手段(図示は省略する。)によって加工送りされる。集光器22は、レーザー加工装置18のレーザー光線照射手段(図示は省略する。)によって発振され出力等が調整されたパルスレーザー光線LBを集光しインゴット2に照射するための集光レンズ(図示は省略する。)を含む。
【0020】
チャックテーブル20に吸引保持されたインゴット2に剥離層を形成するには、レーザー加工装置18に備えられた図示しない撮像手段によって、インゴット2の上方からインゴット2を撮像する。次いで、該撮像手段によって撮像したインゴット2の画像によって判別される第一のオリエンテーションフラット12、第二のオリエンテーションフラット14に基づいて、チャックテーブル20を回転させると共に図示しないX軸方向移動手段及びY軸方向移動手段によって移動してインゴット2の向きを所定の向きに調整すると共に、インゴット2と集光器22とのXY平面における位置を調整する。
【0021】
インゴット2の向きを所定の向きに調整するに際し、
図3(a)に示すように、第二のオリエンテーションフラット14をX軸方向に整合させることによって、オフ角αが形成される方向Aと直交する方向をX軸方向に整合させると共に、オフ角αが形成される方向AをY軸方向に整合させる。次いで、集光点位置調整手段(図示は省略する。)によって集光器22を昇降させて、
図3(b)に示すように、インゴット2の第一の端面4から、生成すべきウエーハの厚みに対応する深さ(例えば300μm)に集光点位置FPを位置付ける。次いで、オフ角αが形成されている方向Aと直交する所定の方向に整合しているX軸方向にチャックテーブル20を所定の送り速度で移動させながら、インゴット2を構成するSiCに透過性を有する波長のパルスレーザー光線LBを集光器22からインゴット2に照射するレーザー加工を実施して、改質部26を形成する。
【0022】
インゴット2の平面図として示す
図4(a)、及び
図4(a)のB-B断面図として示す
図4(b)から理解されるように、パルスレーザー光線LBの照射により、インゴット2を構成するSiCがSiとCとに分離し、次に照射されるパルスレーザー光線LBが前に形成されたCに吸収され連鎖的にSiCがSiとCとに分離した改質部26が、オフ角αが形成される方向Aと直交する方向に連続的に形成される。これと共に、改質部26からc面に沿って等方的に延びるクラック27が発生する。なお、上記した改質部26を形成するレーザー加工を実施する際には、チャックテーブル20に代えて、集光器22を所定の送り速度でX軸方向に移動させてもよい。
【0023】
インゴット2の内部において、該所定の方向に改質部26を形成したならば、Y軸方向移動手段を作動してチャックテーブル20をY軸方向に移動させ、オフ角αが形成される方向Aに整合しているY軸方向に、インゴット2と集光点FPとを相対的に上記したクラック26の幅を超えない範囲で設定される所定のインデックス量Li(たとえば、250μm~400μm)だけインデックス送りする。このようにして、上記した改質部26を形成したレーザー加工と、インデックス送りとを繰り返すことにより、オフ角αが形成される方向Aに所定インデックス量Liの間隔をおいて、複数形成すると共に、改質部26からc面に沿って等方的に延びるクラック27を順次生成する。本実施形態では、単結晶SiCインゴット2の第一の端面4の垂線に対してc軸が傾いていることによりオフ角αが形成されており、オフ角αが形成される方向Aにおいて隣接するクラック27とクラック27とが上下方向に見て重なるようにする。これにより、インゴット2の第一の端面4から生成すべきウエーハの厚みに対応する深さに複数の改質部26及びクラック27からなるインゴット2からウエーハを剥離するため強度が低下した剥離層28を形成することができる。
【0024】
なお、上記した剥離層28を形成する際のレーザー加工条件は、たとえば、以下のように設定される。
波長 :1064nm
繰り返し周波数 :60kHz
平均出力 :1.5W
パルス幅 :4ns
集光レンズの開口数(NA) :0.65
加工送り速度 :200mm/秒
【0025】
以上により、剥離層形成工程が実施されることで、生成すべきウエーハの厚みに相当する深さに剥離層28を形成したインゴット2を得ることができる。
【0026】
上記した剥離層形成工程を実施することにより剥離層28を形成したインゴット2を用意したならば、剥離層28を起点として剥離部を形成してインゴット2から生成すべきウエーハを剥離する。以下に、インゴット2に剥離部を形成して生成すべきウエーハを剥離する手順について、
図5~
図7を参照しながら説明する。
【0027】
(第一の超音波付与工程)
まず、生成すべきウエーハを含むインゴット2の一部の領域に超音波を高密度で付与して剥離層28の一部が剥離した部分剥離部を形成する第一の超音波付与工程を実施すべく、
図5(a)に示すように、剥離用水槽30を含む超音波発生装置40を用意する。剥離用水槽30の底部には、インゴット2を保持する上面が平坦に形成された保持テーブル32が配設される。剥離用水槽30を用意したならば、保持テーブル32上に、剥離層28が形成されサブストレート16に保持されたインゴット2を第一の端面4を上方に向けた状態で載置する。インゴット2を保持テーブル32上に載置したならば、剥離用水槽30に水34を注水し、
図5(b)に示すように、インゴット2の第一の端面4上が十分に剥離用水槽30に張られた水34によって覆われる深さとする。なお、
図5(b)は、第一の超音波付与工程を実施する態様を示す側面図であるが、説明の都合上、剥離用水槽30のみ断面で示している。
【0028】
超音波発生装置40は、高密度超音波発生手段42を備えている。高密度超音波発生手段42の内部には、超音波Sを発振する図示しない振動子が備えられ、高密度超音波発生手段42の先端部には先細り状に形成された高密度超音波付与部43が形成される。先端部に形成された高密度超音波付与部43は、例えば、直径が8mmの円形状である。
【0029】
高密度超音波発生手段42によって発生させられる超音波Sは、例えば、出力が100W、周波数が400kHzである。この高密度超音波発生手段42によれば、内部に備えられた振動子によって発振させられた超音波Sが、先細り状に形成された高密度超音波付与部43において集中させられて密度が高められ、外部に向けて高密度の超音波Sを付与することができる。
【0030】
剥離用水槽30の保持テーブル32にインゴット2を水没させた状態で、上方から、インゴット2の第一の端面4上に向けて高密度超音波発生手段42を降下させる。次いで、高密度超音波発生手段42の先端部の高密度超音波付与部43を剥離用水槽30の水34内に水没させてインゴット2の第一端面4の中央付近に近接させる。この際、高密度超音波付与部43とインゴット2の第一の端面4との間には、僅か(数mm程度)に隙間が設けられる。
【0031】
上記したように、高密度超音波付与部43をインゴット2の第一の端面4に近接させたならば、高密度超音波付与部43からインゴット2の第一の端面4に向けて水34の層を介して上記した超音波Sを所定時間(例えば、10秒程度)付与する。
図5(b)に示すように、高密度の超音波Sを生成すべきウエーハを含むインゴット2の第一の端面4の一部の領域に集中して照射することにより、剥離層28の一部の領域が刺激され、剥離層28を起点として剥離した部分剥離部29が形成される。このようにして、第一の超音波付与工程が完了する。
【0032】
(第二の超音波付与工程)
上記したように、第一の超音波付与工程が完了したならば、次いで、第二の超音波付与工程を実施する。以下に、
図6を参照しながら、第二の超音波付与工程について説明する。
【0033】
第二の超音波付与工程を実施するに際し、第一の超音波付与工程において使用した高密度超音波発生手段42を、
図6(a)に示す低密度超音波発生手段45に切換える。切り替える手順としては、高密度超音波発生手段42を超音波発生装置40から取り外し、低密度超音波発生手段45を取り付けるようにしてもよいし、高密度超音波発生手段42及び低密度超音波発生手段45の両方をマウントした図示しないマウンターを備え、該マウンターを高密度超音波発生手段42、及び低密度超音波発生手段45の配設位置を適宜切り換えられるように構成し、インゴット2上から高密度超音波発生手段42を移動させると共に、インゴット2上に低密度超音波発生手段45を位置付けるように構成してもよい。
【0034】
低密度超音波発生手段45は、
図6(a)、及び
図6(b)に示すように、インゴット2の第一の端面4に対向する低密度超音波付与部46を下面側に備えている。低密度超音波付与部46は、第一の超音波付与工程において高密度の超音波Sを付与した高密度超音波付与部43よりも広い面積(例えば、直径100mmであり、インゴット2の直径と略同一である。)に設定される。
【0035】
低密度超音波発生手段45によって発生させられる超音波S’は、高密度超音波発生手段42と同様に、出力が100W、周波数が400kHzで、内部に備えられた振動子によって発振させられる。上記したように、低密度超音波付与部46は、高密度超音波付与部43よりも大きな面積で形成されており、低密度超音波付与部46からは、高密度超音波付与部43に比して低密度の超音波S’が発せられる。
【0036】
図6(a)に示すように、保持テーブル32上に位置付けられた低密度超音発生手段45は、剥離用水槽30の保持テーブル32に載置されたインゴット2の上方から、インゴット2の第一の端面4上に向けて降下させられ、低密度超音波発生手段45の低密度超音波付与部46を剥離用水槽30の水34内に水没させてインゴット2の第一端面4の全体を覆うように近接させる。この際、低密度超音波発生手段45の下面の低密度超音波付与部46とインゴット2の第一の端面4との間には、僅か(数mm程度)に隙間が形成される。
【0037】
上記したように、低密度超音波付与部46をインゴット2の第一の端面4に近接させたならば、低密度超音波付与部46からインゴット2の第一の端面4の全体に向けて水34の層を介して上記した低密度の超音波S’を所定時間(例えば、30秒程度)付与する。このようにして低密度の超音波S’をインゴット2の第一の端面4の全体に付与することにより、上記したインゴット2の剥離層28を刺激し、該第一の超音波付与工程によって形成された部分剥離部29を起点としてクラック27が伸長して、隣接するクラック27どうしが連結された剥離部29’が広がり、
図6(b)に示すように、超音波S’が付与されたインゴット2の全体の領域において剥離部29’が良好に形成され、第一の端面4側と、インゴット2側とが完全に分離する。以上により、第二の超音波付与工程が完了する。
【0038】
(剥離工程)
上記したように、第一の超音波付与工程、及び第二の超音波付与工程を実施することにより、インゴット2に形成された剥離層28を起点として、剥離部29’が形成されたならば、
図7(a)、及び
図7(b)に示すように、剥離用水槽30に水没しているインゴット2の第一の端面4から、剥離部29’を境にしてウエーハWを剥離する。これにより、剥離工程が完了する。なお、この剥離工程を実施するに際しては、オペレータの手作業によりウエーハWを直接把持して剥離してもよいし、ウエーハWの大きさに合わせて形成された吸着手段(図示は省略する。)によって吸着して剥離し、剥離用水槽30から引き上げるようにしてもよい。
【0039】
上記した剥離工程を実施してインゴット2からウエーハWを剥離すると、ウエーハWの裏面Wb側の剥離面、及びウエーハWが剥離された後のインゴット2の新たな第一の端面4’が表出し、各面は凹凸面となっている。よって、剥離されたウエーハWの裏面Wbと、インゴット2の新たな第一の端面4’は、それぞれ図示しない研磨加工が施され、平坦化される。インゴット2から剥離されたウエーハWは、適宜の収容ケース等に収容され次工程に搬送されると共に、第一の端面4’が平坦化されたインゴット2は、再び剥離層形成工程を実施すべく上記したレーザー加工装置18に搬送される。そして、レーザー加工装置18によって剥離層が形成されたならば、上記した第一の超音波付与工程、第二の超音波付与工程、剥離工程等が実施され、インゴット2からウエーハWが効率よく生成される。
【0040】
上記した実施形態によれば、インゴット2をワイヤーソーによって切断してウエーハを生成する場合に比して、捨てられる量を格段に減らすことができると共に、高密度の超音波Sを付与する第一の超音波付与工程によって部分剥離部29を形成しておき、部分剥離部29を含む生成すべきウエーハの全体に低密度の超音波S’を付与することで、部分剥離部29を起点として剥離部が広がり、生成すべきウエーハWをインゴット2から容易に、且つ効率よく剥離することが実現される。
【0041】
本発明によれば、上記した実施形態に限定されず、種々の変形例が提供される。たとえば、上記した実施形態では、インゴット2の第一の端面4の垂線10に対してc軸が傾斜し、c面と第一の端面4とでオフ角αが形成されているインゴット2を被加工物として本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限定されず、第一の端面4の垂線10と、c軸が傾斜していないインゴットに対して本願発明を適用してもよい。
【0042】
また、上記した実施形態では、第一の超音波付与工程、及び第二の超音波付与工程において、超音波付与手段40からインゴット2に超音波を付与するに際し、水34の層を介して付与するようにしていたが、必ずしも水34の層を介して付与することに限定されず、空気の層を介したり、水以外の液体の層を介したりして超音波を付与するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0043】
2:インゴット
4:第一の端面
6:第二の端面
8:周面
10:垂線
12:第一のオリエンテーションフラット
14:第二のオリエンテーションフラット
16:サブストレート
18:レーザー加工装置
20:チャックテーブル
22:集光器
24:吸着チャック
26:改質部
27:クラック
28:剥離層
29:部分剥離部
29’:剥離部
30:剥離用水槽
32:保持テーブル
34:水
40:超音波発生装置
42:高密度超音波発生手段
43:高密度超音波付与部
45:低密度超音波発生手段
46:低密度超音波付与部
LB:パルスレーザー光線
FP:集光点