(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】ワイヤーハーネス用撚り線
(51)【国際特許分類】
H01B 5/08 20060101AFI20221031BHJP
C22C 9/02 20060101ALI20221031BHJP
C22C 9/00 20060101ALI20221031BHJP
C22C 9/04 20060101ALI20221031BHJP
C22F 1/08 20060101ALI20221031BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20221031BHJP
【FI】
H01B5/08
C22C9/02
C22C9/00
C22C9/04
C22F1/08 C
C22F1/00 602
C22F1/00 625
C22F1/00 630A
C22F1/00 630B
C22F1/00 661A
(21)【出願番号】P 2019057719
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2021-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】松尾 亮佑
【審査官】和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-207079(JP,A)
【文献】特開2006-032076(JP,A)
【文献】特開2004-207080(JP,A)
【文献】特開平04-138616(JP,A)
【文献】特開平07-249315(JP,A)
【文献】特開2010-129410(JP,A)
【文献】特開2008-016284(JP,A)
【文献】国際公開第2019/013073(WO,A1)
【文献】特開2016-204702(JP,A)
【文献】特開2012-022989(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0200032(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/08
H01B 7/00
C22C 9/02
C22C 9/00
C22C 9/04
C22F 1/08
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本以上の芯線の外周に複数の側線が撚り合わされたワイヤーハーネス用導体であって、
前記芯線が、1500MPa以上の引張強度及び150GPa以上のヤング率を有し、
前記複数の側線の各々が、500MPa以上1500MPa未満の引張強度、100GPa以上150GPa未満のヤング率及び45%IACS以上の導電率を有し、
前記導体の断面積が0.05mm
2以上0.10mm
2以下であり、
前記導体の引張強度Y(MPa)が、前記導体の断面積X(mm
2)について以下の関係式(I)を満たし、かつ、
前記導体の導電率Z(%IACS)が、前記導体の断面積X(mm
2)について以下の関係式(II)を満たすことを特徴とするワイヤーハーネス用導体。
Y≧80X
-1・・・(I)
Z≧3.7861X
-0.97・・・(II)
【請求項2】
前記芯線の直径が0.10mm以上0.15mm以下であり、かつ前記複数の側線の各々の直径が、0.08mm以上0.12mm以下である、請求項1に記載のワイヤーハーネス用導体。
【請求項3】
前記芯線の本数が1本である、請求項1又は2に記載のワイヤーハーネス用導体。
【請求項4】
前記複数の側線の本数が5本以上10本以下である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス用導体。
【請求項5】
前記芯線の材料が、炭素鋼線、ステンレス鋼線、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、炭素繊維及び金属ガラスからなる群から選択される、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス用導体。
【請求項6】
前記複数の側線の材料が、Cu-Cr系合金、Cu-Ag系合金、Cu-Sn系合金、Cu-Zn系合金、Cu-Zr系合金、Cu-Ni-Si系合金、Cu-Mg系合金及びCu-Nb系合金からなる群から選択される、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス用導体。
【請求項7】
JIS H0505(1975)の規格に準拠して測定した前記導体の導電率を単位長さ当たりの電気抵抗に換算した値が、500mΩ/m以下である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス用導体。
【請求項8】
300mm長の導体の一端に300gの重りを設置し、他端が固定されている位置と同じ高さから前記重りを自由落下させる耐衝撃試験において、前記導体に断線が生じない、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス用導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の電気配線に使用されるワイヤーハーネスに用いることができるワイヤーハーネス用導体に関し、特に、極細線であっても、良好な導電性を有し、かつ耐衝撃性に優れたワイヤーハーネス用導体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、電車、航空機等の車両の電気配線には、導体を含む電線に端子を装着した、いわゆるワイヤーハーネスと呼ばれる部材が用いられている。このような自動車用ワイヤーハーネスの導体には、通常、銅又は銅合金製の撚線が用いられている。一方、近年の自動車の軽量化、車内スペースの拡大、信号線の増加に伴い、現行のワイヤーハーネスの軽量化及びサイズダウンの要求が高く、電線の細径化が求められている。
【0003】
電線の細径化の1つに、導体の細線化が挙げられる。しかしながら、通常、導体を細くするにつれて強度が低下する。また、導体の強度を補助するため、軽量で強度が高い繊維を使用すると所望の導電性を得ることができない場合がある。このような導体の細線化に鑑み、高い強度と導電率のバランスを得るため、種類の異なる素線同士を組み合わせた撚線が検討されている。
【0004】
特許文献1には、アラミド系繊維束を中心として、そのまわりに銅素線を配置して撚線とし、この撚線を円形圧縮加工してなるハーネス用導体が開示されている。特許文献2には、銅、銅合金、アルミニウム及びアルミニウム合金からなる群から選択される少なくとも1種の金属線からなる第一素線と、当該第一素線と異なる金属線からなる第二素線をそれぞれ1本以上撚り合わせてなる導体部を有する被覆電線が開示されている。特許文献3には、ステンレス鋼からなる芯部と、該芯部を覆い、銅または銅合金からなる被覆層とを含む第1素線と、該第1素線に撚り合わされ、銅または銅合金からなる第2素線とを備えるワイヤーハーネス用撚り線が開示されている。
【0005】
しかしながら、導体の細線化に伴い導体の断面積も小さくなるため、導体抗力は下がり、導体抵抗は上がることになる。そのため、特に、断面積が0.15mm2以下である極細線においては、導体の強度、導電特性が共に不足することが確認されている。また、極細線では、その細さから取り扱い上の衝撃によって断線してしまうことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平4-138616号公報
【文献】国際公開第2005/024851号
【文献】国際公開第2018/092350号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、極細線であっても、良好な導電特性を有し、かつ耐衝撃性に優れたワイヤーハーネス用導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様は、1本以上の芯線の外周に複数の側線が撚り合わされたワイヤーハーネス用導体であって、
前記芯線が、1500MPa以上の引張強度及び150GPa以上のヤング率を有し、
前記複数の側線の各々が、500MPa以上1500MPa未満の引張強度、100GPa以上150GPa未満のヤング率及び45%IACS以上の導電率を有し、
前記導体の断面積が0.05mm2以上0.10mm2以下であり、
前記導体の引張強度Y(MPa)が、前記導体の断面積X(mm2)について以下の関係式(I)を満たし、且つ、
前記導体の導電率Z(%IACS)が、前記導体の断面積X(mm2)について以下の関係式(II)を満たすことを特徴とするワイヤーハーネス用導体である。
Y≧80X-1・・・(I)
Z≧3.7861X-0.97・・・(II)
【0009】
本発明の態様は、前記芯線の直径が0.10mm以上0.15mm以下であり、且つ前記複数の側線の各々の直径が、0.08mm以上0.12mm以下であるワイヤーハーネス用導体である。
【0010】
本発明の態様は、前記芯線の本数が1本であるワイヤーハーネス用導体である。
【0011】
本発明の態様は、前記複数の側線の本数が5本以上10本以下であるワイヤーハーネス用導体である。
【0012】
本発明の態様は、前記芯線の材料が、炭素鋼線、ステンレス鋼線、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、炭素繊維及び金属ガラスからなる群から選択されるワイヤーハーネス用導体である。
【0013】
本発明の態様は、前記複数の側線の材料が、Cu-Cr系合金、Cu-Ag系合金、Cu-Sn系合金、Cu-Zn系合金、Cu-Zr系合金、Cu-Ni-Si系合金、Cu-Mg系合金及びCu-Nb系合金からなる群から選択されるワイヤーハーネス用導体である。
【0014】
本発明の態様は、JIS H0505(1975)の規格に準拠して測定した前記導体の導電率を単位長さ当たりの電気抵抗に換算した値が、500mΩ/m以下であるワイヤーハーネス用導体である。
【0015】
本発明の態様は、300mm長の導体の一端に300gの重りを設置し、他端が固定されている位置と同じ高さから前記重りを自由落下させる耐衝撃試験において、前記導体に断線が生じないワイヤーハーネス用導体である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の態様によれば、ワイヤーハーネス用導体は、1本以上の芯線の外周に複数の側線が撚り合わされている。また、芯線が1500MPa以上の引張強度及び150GPa以上のヤング率を有し、複数の側線の各々が500MPa以上1500MPa未満の引張強度、100GPa以上150GPa未満のヤング率及び45%IACS以上の導電率を有し、且つ、導体の断面積が0.05mm2以上0.10mm2以下である。さらに、導体の引張強度Y(MPa)が、導体の断面積X(mm2)についてY≧80X-1の関係式(I)を満たし、且つ、導体の導電率Z(%IACS)が、導体の断面積X(mm2)についてZ≧3.7861X-0.97の関係式(II)を満たす。これにより、極細線であっても、良好な導電特性を有し、かつ耐衝撃性に優れたワイヤーハーネス用導体を提供することができる。
【0017】
また、このようなワイヤーハーネス用導体を極細線として使用しても、衝撃による断線が抑制され、さらには、軽量化、サイズダウン(直径比較)も見込まれる。これにより、近年の自動車に要求される軽量化、サイズダウンによる車内スペースの拡大、ワイヤーハーネスの配置スペースを据え置いた信号線の増加に寄与することが可能である。
【0018】
本発明の態様によれば、芯線の直径が0.10mm以上0.15mm以下であり、且つ複数の側線の各々の直径が、0.08mm以上0.12mm以下であることにより、1本以上の芯線と複数の側線との撚り線を作製した場合に、導体の断面積を極細線として要求される範囲内に維持しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の実施態様であるワイヤーハーネス用導体の概要を説明する断面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る導体において、所定の耐衝撃試験に基づく導体の断線の有無を示す指標として、導体の断面積と引張強度との関係を示す。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る導体において、導体の電気抵抗が一定値以下の抵抗値であるか否かを示す指標として、導体の断面積と導電率との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態であるワイヤーハーネス用導体(以下、単に「導体」ということもある)について説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明を具体的に説明するために用いた代表的な実施形態を例示したにすぎず、本発明の範囲において、種々の実施形態をとり得る。
【0021】
[導体]
<導体の構成>
本実施形態に係る導体は、1本以上の芯線の外周に複数の側線が撚り合わされた撚り線として構成されている。
図1は本発明の実施形態に係る導体の概要を説明する断面図の一例である。
図1に示すように、本発明の実施形態に係る導体1は、導体1の中心に配置された(1本の)芯線10と、芯線10の外周を取り囲むように配置された複数の(6本の)側線20と、を備える。導体1に適切な強度を付与するため、導体1は、芯線10と複数の側線20とが撚り合わされた撚り線として形成される。導体1の撚りの程度は、芯線10及び側線20の本数、直径等に応じて、導体1の断面積が所望の範囲内になるよう適宜設計することができる。このような導体1は、自動車、電車、航空機等の車両に使用されるワイヤーハーネス、特に自動車用ワイヤーハーネスにおいて、信号通信の役割を果たす。また、導体1の周方向を絶縁体である被覆樹脂30で被覆することにより被覆電線40を形成することができる。被覆樹脂30の材料は、例えば、一般の被覆電線で使用される絶縁樹脂であればよく、特に限定されない。
【0022】
<極細線>
極細線は、素線径が0.5mm以下である電線であり、現在、自動車等の車両内で使用される最小断面積クラスの導体で構成される。本実施形態に係る導体の断面積は、0.05mm2以上0.10mm2以下である。これにより、芯線と複数の側線との撚り線である導体を極細線として使用することができる。また、芯線の直径が0.10mm以上0.15mm以下であり、且つ複数の側線の各々の直径が、0.08mm以上0.12mm以下であることが好ましい。これにより、1本以上の芯線と複数の側線との撚り線を作製した場合に、導体の断面積を極細線として要求される範囲内に維持しやすくなる。複数の芯線を使用する場合、各芯線の直径は同じであっても異なっていてもよい。また、複数の側線の各々についても、各側線の直径は同じであっても異なっていてもよい。尚、芯線及び側線の数、圧縮工程前後の撚り線の断面積の変化等に応じて、芯線及び側線の直径は上記の範囲内において適宜選択することができる。但し、導体全体の導電性を低強度の側線が担うため、導体の全断面積のうち70%以上が側線であることが好ましい。
【0023】
<芯線>
本実施形態に係る導体に用いられる芯線は、1500MPa以上の引張強度及び150GPa以上のヤング率を有する。芯線の引張強度が1500MPa未満では、導体に十分な強度を付与させることができず、導体を極細線として使用した場合、衝撃による断線の抑制を図ることが困難である。そのため、芯線の引張強度の下限値は1500MPa以上であり、3000MPa以上が好ましく、4000MPa以上が更に好ましく、5000MPa以上が特に好ましい。芯線がより高い引張強度を有することにより、耐衝撃性をより確実に確保できる強度を導体に付与しつつ、導体の断面積をより小さくすることが可能となる。尚、芯線の引張強度の上限値は特に限定されないが、製造上の取り扱いの観点から8000MPa以下であることが好ましい。また、芯線のヤング率が150GPa未満の場合も同様に、極細線としての導体に十分な強度を付与させることができず、衝撃による断線の抑制を図ることが困難である。そのため、芯線のヤング率の下限値は150GPa以上である。また、芯線のヤング率の上限値も特に限定されないが、製造上の取り扱いの観点から600GPa以下であることが好ましい。このように、芯線が、所望の引張強度とヤング率を同時に満たすことにより、撚り線として得られた導体に優れた耐衝撃性を付与することができる。尚、芯線の導電率については、一定以上の導電率を有する側線の使用により導体全体に所望の導電率を付与することができれば、芯線は導電率を有していなくてもよい(0%IACSでもよい)。一方、芯線が僅かにでも導電率を有することにより、側線の本数の削減に伴う軽量化、サイズダウンに寄与することができる。
【0024】
芯線の材料は、上記のような高い引張強度及び高いヤング率を満たし、芯線、すなわち、テンションメンバーとして使用することができれば特に限定されるものではないが、例えば、炭素鋼線(ピアノ線)、ステンレス鋼線、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維(PBO繊維)、炭素繊維及び金属ガラスからなる群から選択されることが好ましく、炭素鋼線、PBO繊維及び炭素繊維からなる群から選択されることがより好ましい。複数の芯線が使用される場合、このような芯線の材料は、同じであっても異なっていてもよい。また、炭素繊維は、様々なタイプの繊維を使用することができ、例えば、IMタイプ、HMタイプ、UHMタイプ等が挙げられる。さらに、芯線の導電性の改善、及び撚り線としての製造の向上のために、芯線の表面に導電性を示す金属めっき、例えば、Cu、NiSn、Ag等によるめっきが施されていてもよい。
【0025】
導体を構成する芯線の本数は、特に限定されるものではないが、1本であることが好ましい。これにより、導体に適切な強度及び導電性をバランスよく付与しつつ、芯線を中心として、複数の側線を芯線の外周に容易に撚り合わせることができる。
【0026】
<側線>
本実施形態に係る導体に用いられる複数の側線の各々は、500MPa以上1500MPa未満の引張強度、100GPa以上150GPa未満のヤング率及び45%IACS以上の導電率を有する。側線の引張強度が500MPa未満では、導体に十分な強度を付与させることができず、導体を極細線として使用した場合、衝撃による断線の抑制を図ることが困難である。そのため、側線の引張強度の下限値は500MPa以上である。また、側線のヤング率が100GPa未満の場合も同様に、極細線としての導体に十分な強度を付与させることができず、衝撃による断線の抑制を図ることが困難である。そのため、芯線のヤング率の下限値は100GPa以上である。尚、側線の引張強度の上限値及びヤング率の上限値については、側線と芯線とが互いに異なる材料であることを明確にするため、側線の引張強度の上限値は1500MPa未満であり、側線のヤング率の上限値は150GPa未満である。このように、側線が、所望の引張強度とヤング率を同時に満たすことにより、撚り線として得られた導体に優れた耐衝撃性を付与することができる。また、側線の導電率の下限値は45%IACS以上であり、52%IACS以上がより好ましく、59%IACS以上が更に好ましく、80%IACS以上が特に好ましい。側線の導電率が45%IACS未満では、導体に良好な導電性を付与させることができず、導体を極細線として使用した場合、導体抵抗の上昇に伴う導電性不足を改善することが困難である。側線がより高い導電率を有することにより、良好な導電率を導体に付与しつつ、導体の断面積をより小さくすることが可能となる。
【0027】
複数の側線の材料は、上記のような所定の引張強度、所定のヤング率及び所定の導電性を満たし、芯線と共に撚り線を形成することができれば特に限定されるものではないが、例えば、Cu-Cr系合金、Cu-Ag系合金、Cu-Sn系合金、Cu-Zn系合金、Cu-Zr系合金、Cu-Ni-Si系合金、Cu-Mg系合金及びCu-Nb系合金からなる群から選択されることが好ましく、Cu-Cr系合金、Cu-Ag系合金及びCu-Sn系合金からなる群から選択されることがより好ましい。各側線の材料は、同じであっても異なっていてもよい。また、同じ種類の銅合金を使用する場合、各銅合金に含まれる金属成分の含有量は互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0028】
導体を構成する複数の側線の本数は、特に限定されるものではないが、5本以上10本以下であることが好ましい。これにより、導体に適切な強度及び導電性をバランスよく付与しつつ、芯線を中心として、複数の側線を芯線の外周に容易に撚り合わせることができる。
【0029】
<導体の断面積と引張強度との関係>
本実施形態に係る導体において、導体の引張強度Y(MPa)は、導体の断面積X(mm2)について以下の関係式(I)を満たす。
Y≧80X-1・・・(I)
【0030】
導体の引張強度が上記関係式(I)を満たすことにより、耐衝撃性に優れた導体を得ることができる。一方、導体の引張強度が上記関係式(I)を満たさない場合、所定の耐衝撃試験において導体の断線が確認される。そのため、得られる導体の引張強度Y(MPa)が、導体の断面積X(mm2)との関係で要求される引張強度の値以上であることにより、極細線であっても、優れた耐衝撃性を有する導体を得ることができる。
【0031】
図2は、本実施形態に係る導体において、導体の断面積と引張強度との関係を示す。
図2には、0.05mm
2以上0.10mm
2以下の範囲の断面積を有する極細線の導体について、所定の耐衝撃試験に基づく導体の断線の有無を示す指標として、導体の断面積X(mm
2)と引張強度Y(MPa)との関係式が示されている。ここで、Y≧80X
-1の関係式は、極細線としての導体に要求される導体抗力80Nに関し、0.05mm
2以上0.10mm
2以下の範囲における各断面積に対し必要とされる引張強度を見積もった結果によって導き出されたものである。そのため、極細線の導体について、導体の引張強度Yが、導体の断面積Xとの関係でY≧80X
-1(関係式(I))を満たさない場合、芯線及び側線が所望の引張強度及びヤング率を有していても、所定の耐衝撃試験において導体に断線が発生すると推察される。
図2において、例えば、導体の断面積が0.08mm
2である場合、導体の引張強度が1000MPa以上であれば、所定の耐衝撃試験において導体の断線が生じず、耐衝撃性に優れた導体が得られていることを意味する。そのため、導体の引張強度が上記関係式(I)を満たすことにより、極細線であっても、耐衝撃性に優れた導体を得ることができる。ここで、所定の耐衝撃試験として、例えば、一定の長さの導体の一端に所定の重りを設置し、他端が固定されている位置と同じ高さから重りを自由落下させる耐衝撃試験が行われる。具体的には、300mm長の導体の一端に300gの重りを設置し、他端が固定されている位置と同じ高さから重りを自由落下させる耐衝撃試験において、導体に断線が生じない場合、導体の引張強度は上記関係式(I)を満たすことを意味する。尚、このような耐衝撃試験は、被覆電線をワイヤーハーネスとして自動車に組み込む際、組立作業者が誤って導体を引っ張り、導体の断線が引き起こされるケースを想定して行う試験であり、当該耐衝撃試験で導体が断線しなければ、上記のように想定されるケースで負荷され得る荷重に対しても断線が生じないことを保証できる。
【0032】
<導体の断面積と導電率との関係>
本実施形態に係る導体において、導電率Z(%IACS)は、導体の断面積X(mm2)について以下の関係式(II)を満たす。
Z≧3.7861X-0.97・・・(II)
【0033】
導体の導電率が上記関係式(II)を満たすことにより、導体に信号線としての役割を果たせる導電率が付与され、極細線であっても、良好な導電性を有する導体を得ることができる。一方、導体の導電率が上記関係式(II)を満たさない場合、極細線における導体抵抗が高いため、抵抗発熱による電流ロスが大きくなる。その結果、得られる導体は信号線としての役割を果たすことができず、その上、発火の危険性が高まることが想定される。そのため、得られる導体の導電率Z(%IACS)が、導体の断面積X(mm2)との関係で要求される導電率の値以上であることにより、極細線であっても、信号線としての役割を果たせる導電率を有する導体を得ることができる。
【0034】
図3は、本実施形態に係る導体において、導体の断面積と引張強度との関係を示す。
図3には、0.05mm
2以上0.10mm
2以下の範囲の断面積を有する極細線の導体について、導体の電気抵抗が一定値以下の抵抗値であるか否かを示す指標として、導体の導電率Z(%IACS)と、導体の断面積X(mm
2)との関係式が示されている。ここで、Z≧3.7861X
-0.97の関係式は、極細線としての導体に要求される500mΩ/m以下の導体抵抗に関し、0.05mm
2以上0.10mm
2以下の範囲における各断面積に対し必要とされる導電率を見積もった結果によって導き出されたものである。具体的には、0.05mm
2以上0.10mm
2以下の範囲において0.01mm
2の間隔で必要な導電率を要求される抵抗値から算出し、算出した各導電率のプロットに対して指数関数の近似を行うことにより上記関係式(II)が導き出される。そのため、極細線の導体について、導体の導電率Zが、導体の断面積Xとの関係でZ≧3.7861X
-0.97を満たさない場合、導体は信号線としての役割を果たせる導電率に相当し得る一定値以下の電気抵抗を有していないと推察される。
図3において、例えば、導体の断面積が0.07mm
2である場合、導体の導電率が50%IACS以上であれば、導体は信号線としての役割を果たせる導電率を有し、良好な導電性を有する導体が得られていることを意味する。そのため、導体の導電率が上記関係式(II)を満たすことにより、極細線であっても、良好な導電性を有する導体を得ることができる。ここで、信号線としての役割を果たせる導電率に相当し得る一定値以下の電気抵抗として、例えば、JIS H0505(1975)の規格に準拠して測定した導体の導電率から算出した電気抵抗を基準に判断することができる。具体的には、JIS H0505(1975)の規格に準拠して測定した導体の導電率を単位長さ当たりの電気抵抗に換算した値が、500mΩ/m以下である場合、導体の導電率は上記関係式(II)を満たすことを意味する。電気抵抗が500mΩ/mより大きい場合、信号系電線の抵抗値の上限値として要求されるスペックを満たさないため、電気抵抗の値は500mΩ/m以下に設定される。
【0035】
このように、適切な耐衝撃性を有する極細線を実現するためには、芯線が有する引張強度及びヤング率の制御、芯線の外周に撚り合わされる複数の側線の各々が有する引張強度及びヤング率の制御だけではなく、導体の断面積に応じた所定の引張強度も達成する必要がある。得られる導体が、これらの要件をいずれも達成した場合に、取り扱い作業時にかかる負荷を想定した耐衝撃験において、芯線及び側線のいずれか一方又は両方の断線を抑制し、その結果、総合的な耐久性を有する導体を得ることができる。また、良好な導電性を有する極細線を実現するためには、芯線の外周に撚り合わされる複数の側線の各々が有する導電率の制御だけではなく、導体の断面積に応じた所定の導電率も達成する必要がある。得られる導体が、これらの要件をいずれも達成した場合、単位長さ当たりの電気抵抗を一定値以下(500mΩ/m以下)に保つことができる。その結果、導体に信号線としての役割を果たせる導電率が付与され、極細線であっても、良好な導電性を有する導体を得ることができる。
【0036】
次に、本実施形態に係る導体の製造方法の一例を説明する。
【0037】
[導体の製造方法]
本実施形態に係る導体は、芯線の外周に対して複数の側線を撚り合わせ、圧縮工程を経て製造される。圧縮工程の製造条件は、芯線及び側線の数、圧縮工程後の所望とする撚り線の断面積等に応じて、適宜設計することができるが、通常は撚り線とした導体の外径よりも小さいダイス穴に導体を通す事によって圧縮する。また、必要に応じて熱処理を実施することができる。この熱処理は、側線の材料が析出型合金である場合、時効熱処理の実施を意図し、固溶型合金であれば再結晶処理の実施を意図する。その後、被覆工程において導体に絶縁体の被覆樹脂を被覆することにより、ワイヤーハーネス用導体を備える被覆電線を作製することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
<実施例1~14、比較例1~37>
0.10~0.14mmの直径を有する各芯線及び各側線を用いて、0.05mm2~0.10mm2の断面積を有する撚り線に作製した。各実施例及び各比較例において、1芯線の本数は1本、撚り合わせ用の側線の本数は6本であった。得られる導体の断面積は、圧縮工程における製造条件にも依存するために一概ではないが、0.100mmの直径を有する各芯線及び各側線を用いた場合は、0.05mm2の断面積を有する撚り線、0.107mmの直径を有する各芯線及び各側線を用いた場合は、0.06mm2の断面積を有する撚り線、0.114mmの直径を有する各芯線及び各側線を用いた場合は、0.07mm2の断面積を有する撚り線、0.120mmの直径を有する各芯線及び各側線を用いた場合は、0.08mm2の断面積を有する撚り線、0.140mmの直径を有する各芯線及び各側線を用いた場合は、0.10mm2の断面積を有する撚り線をそれぞれ作製した。各実施例及び各比較例において、用いた芯線及び側線、並びに得られた導体の断面積を表1に示す。尚、比較例29~32、37においては、芯線として使用した炭素鋼線に熱処理を施し、意図的に強度を下げたサンプルを使用した。同様に、比較例25~28においても、側線として使用したCu-1%Snの銅合金に熱処理を施し、意図的に強度を下げたサンプルを使用した。
【0040】
[測定・評価方法]
<断面積の測定>
導体の断面が観察できるように芯線と側線との隙間を樹脂埋めし、次いで導体の湿式研磨、バフ研磨を施した。その後、光学顕微鏡の倍率を×100~500に設定し、寸法計測・撮影ソフト(「HybridMeasure」 イノテック株式会社製)を用いて導体の断面積を2回測定し、その測定結果の平均値を用いた。尚、導体の断面積の測定は、所望の直径に対してその誤差が±0.002mmの範囲内である場合を評価対象として適切であると判断した。
【0041】
<引張り強度及びヤング率の測定>
金属はJIS Z2241(2011)の規格に準拠して、また炭素繊維も金属と同じ規格に準拠して測定した。樹脂繊維はJIS K7161の規格に準拠して、芯線及び各側線、並びに得られた導体の引張強度を2回測定し、その平均値を引張強度として算出した。繊維束線は、標点距離と掴みの距離は規格に準拠し、応力算出に用いる断面積は上記断面積の測定と同様の手法で測定した。また、各芯線及び各側線のヤング率として、引張強度の測定時における試験開始から0.2%耐力に至るまでの荷重と歪に対して、最小二乗法で求めた回帰直線の傾きを用いた。
【0042】
<耐衝撃試験>
300mm長の導体の一端に300gの重りを付け、他端を固定し同位置から重りを自由落下させた場合に、導線が断線しない場合を「〇」、導体が断線した場合を「×」とした。この耐衝撃試験を3回実施し、1回でも断線が確認された場合は「×」とした。
【0043】
<導電率の測定及び電気抵抗試験>
JIS H0505(1975)の規格に準拠して、得られた導体の導電率を2回測定し、その平均値を導電率として算出した。また、得られた導電率を単位長さ当たりの電気抵抗に換算し、その値が、500mΩ/m以下である場合を「〇」、500mΩ/mより大きい場合を「×」とした。尚、単位長さ当たりの電気抵抗は、1.74241×10-5(mΩ/m)×100(%IACS)/導体の導電率(%IACS)÷導体の断面積(m2)(純銅の電気抵抗値×純銅の導電率/導体の導電率÷導体の断面積)より算出した。
【0044】
<総合評価>
耐衝撃試験の結果及び導体の単位長さ当たりの電気抵抗の結果が両方とも「〇」である場合を「〇」、これらの結果の両方又はいずれか一方が「×」である場合を「×」と評価した。
【0045】
【0046】
表1に示されるように、実施例1~14で得られた導体は、いずれも、耐衝撃試験で断線が発生せず、且つ、得られた導電率を単位長さ当たりの電気抵抗に換算した値も500mΩ/m以下を達成していた。特に、実施例10、14では、導体の断面積が0.05mm2であっても総合評価は「〇」であった。そのため、より細い極細線であっても、良好な導電特性を有し、且つ耐衝撃性にも優れた導体が得られた。
【0047】
一方、比較例12~37では、芯線及び側線の両方又は一方が所定の引張強度又はヤング率を有していないため、耐衝撃試験において導体の断線が発生した。また、比較例29~36では、側線が所定の導電率を有していないため、得られた導体も低い導電率を示していた。
【0048】
比較例1~11では、芯線及び側線の両方が所定の引張り強度及びヤング率を有しているものの、得られる導体の引張強度が関係式(I)を満たしていないか、又は得られる導体の導電率が関係式(II)を満たしていないか、或いはその両方を満たしていないため、総合評価は「×」であった。
【符号の説明】
【0049】
1 ワイヤーハーネス用導体(導体)
10 芯線
20 側線
30 被覆樹脂
40 被覆電線