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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】被覆電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/00 20060101AFI20221031BHJP
【FI】
H01B7/00
H01B7/00 306
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019068760
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020167100
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】會澤 英樹
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-22687(JP,A)
【文献】特開2018-170267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体であるカーボンナノチューブ線材と、前記カーボンナノチューブ線材を被覆する被覆層と、を備え、
前記カーボンナノチューブ線材が前記被覆層で被覆されることにより形成される空間内に含まれる水分の含有量が、前記カーボンナノチューブ線材に対し0.1質量%以上20質量%以下であることを特徴とする、被覆電線。
【請求項2】
前記空間内に含まれる水分の含有量が、前記カーボンナノチューブ線材に対し、0.5質量%以上5質量%以下である、請求項1に記載の被覆電線。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブ線材の少なくとも一方の端部に遮水部が設けられている、請求項1又は2に記載の被覆電線。
【請求項4】
前記遮水部が樹脂材料で形成されている、請求項3に記載の被覆電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆電線に関し、特に、カーボンナノチューブ線材を被覆材料で被覆したカーボンナノチューブの被覆電線に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、様々な特性を有する素材であり、多くの分野への応用が期待されている。
【0003】
例えば、カーボンナノチューブは、軽量であると共に、導電性、熱伝導性、機械的強度等の諸特性に優れるため、線材の材料として有望視されている。
【0004】
ところで、自動車、産業機器、海底ケーブルなどの様々な分野における電力線又は信号線として、導体と、該導体を被覆する絶縁被覆とからなる被覆電線が用いられている。導体を構成する線材の材料として、通常、電気特性の観点から銅又は銅合金等の金属線が使用されている。
【0005】
特許文献1には、水中で用いられるケーブルとして、導体である芯線と、該芯線を被覆する絶縁体の外被とを備えるケーブル本体が開示されている。しかしながら、このようなケーブルを海底、水底に布設させる際、金属製の導体では、高湿度、浸水の影響で導体に水が接触すると導体の腐食が生じてしまう。また、導体の腐食に伴い、ケーブル全体の耐久性、導電性等の低下を招くおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-110771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、水が存在する環境下での導体の腐食を防止し、導電性及び放熱性に優れた被覆電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、導体としてカーボンナノチューブ線材を使用することにより、水が存在する環境下で導体の腐食を防止でき、また、カーボンナノチューブ線材は一定の含水量であれば、含水した状態で使用可能であるとの知見を得た。また、カーボンナノチューブ線材が、所定の範囲内の水分を含むことにより、意外にも、導体全体の導電性、放熱性が向上することを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下の通りである。
[1]導体であるカーボンナノチューブ線材と、前記カーボンナノチューブ線材を被覆する被覆層と、を備え、
前記カーボンナノチューブ線材が前記被覆層で被覆されることにより形成される空間内に含まれる水分の含有量が、前記カーボンナノチューブ線材に対し0.1質量%以上20質量%以下であることを特徴とする、被覆電線。
[2]前記空間内に含まれる水分の含有量が、前記カーボンナノチューブ線材に対し0.5質量%以上5質量%以下である、[1]に記載の被覆電線。
[3]前記カーボンナノチューブ線材の少なくとも一方の端部に遮水部が設けられてい
る、[1]又は[2]に記載の被覆電線。
[4]前記遮水部が樹脂材料で形成されている、[3]に記載の被覆電線。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、導体としてカーボンナノチューブ線材を使用することにより、水が存在する環境下でも導体の腐食を防止し、被覆電線の耐久性を向上させることができる。また、カーボンナノチューブ線材が被覆層で被覆されることにより形成される空間内に含まれる水分の含有量が、カーボンナノチューブ線材に対し0.1質量%以上20質量%以下であることにより、導電性、放熱性に優れた被覆電線を得ることができる。
【0011】
本発明によれば、カーボンナノチューブ線材の少なくとも一方の端部に遮水部が設けられていることにより、カーボンナノチューブ線材の端部が外部に露出される状態を防止すると共に、空間内に存在する水分を被覆電線内に封止することができる。
【0012】
本発明によれば、遮水部が樹脂材料で形成されていることにより、遮水部を介して、導体と外部に配置される金属線、端子等との接続部の腐食を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る被覆電線の説明図である。
図2】本発明の実施形態に係る被覆電線に用いるカーボンナノチューブ線材の説明図である。
図3】遮水部を介して、カーボンナノチューブ線材と外部に配置される端子とが接続されている状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態に係る被覆電線について、図面を用いながら説明する。
【0015】
[被覆電線]
図1に示すように、本発明の実施形態に係る被覆電線1は、導体であるカーボンナノチューブ線材(以下、「CNT線材」ということがある。)10と、CNT線材10を被覆する被覆層20と、を備え、CNT線材10の外周面に被覆層20が被覆されている。すなわち、CNT線材10の長手方向に沿って被覆層20が被覆されている。被覆電線1では、CNT線材10の外周面全体が、被覆層20によって被覆されているため、被覆層20はCNT線材10の外周面と直接、接している。
【0016】
[導体]
CNT線材10は、カーボンナノチューブ集合体(以下、「CNT集合体」ということがある。)から形成されており、CNT集合体がカーボンナノチューブ素線(以下、「CNT素線」ということがある。)11として使用される。CNT線材10は、1本のCNT素線11からなる単線であってもよく、複数本のCNT素線11が束ねられて形成されていてもよい。複数本のCNT素線11を束ねる場合、CNT線材10は、複数本のCNT素線11をさらに撚り合わせた撚り線であってもよい。CNT線材10を撚り線の形態とすることで、CNT線材10を太線化することができ、強度が向上する。CNT線材10の円相当直径は、特に限定されないが、例えば、0.01mm以上50mm以下である。なお、図1では、便宜上、CNT素線11の本数は複数本としている。
【0017】
CNT線材10は、CNT素線11の単線を束ね、一端を固定した状態で、もう一端を所定の回数ひねることで、撚りをかけることができる。撚りをかけた場合のCNT線材10の撚り数は、CNT素線11を撚り合わせた際の単位長さ当たりの巻き数で表される。すなわち、撚り数は、ひねった回数(T)を線の長さ(m)で割った値(単位:T/m)
で表すことができる。撚り線で撚りをかけた場合のCNT線材10の撚り数(T/m)は、10以上1000以下であることが好ましく、20以上500以下であることがより好ましい。CNT線材10の撚り数が10以上1000以下であることにより、強度が向上する。
【0018】
CNT線材10では、CNT素線11は、隣接する他のCNT素線11と被覆層20を介さずに直接接触している。また、後述するように、CNT素線11は、長手方向の導電性に優れた線材であり、このCNT素線11が、隣接する他のCNT素線11と直接接触しているため、CNT線材10は、全体で優れた導電性を発揮する。
【0019】
図2に示すように、被覆電線1に用いられるCNT素線11は、1層以上の層構造を有する複数のカーボンナノチューブ(以下、「CNT」ということがある。)11a,11a,・・・で構成される。ここで、CNT線材とはCNTの割合が90質量%以上のCNT線材を意味する。なお、CNT線材におけるCNT割合の算定においては、メッキとドーパントは除かれる。CNT素線11の長手方向が、CNT線材10の長手方向を形成しているため、CNT素線11は線状となっている。
【0020】
CNT素線11は、1層以上の層構造を有する長尺なCNT11aの束である。CNT11aの長手方向が、CNT素線11の長手方向を形成している。CNT素線11の円相当直径は、例えば、0.01mm以上1mm以下であることが好ましく、0.02mm以上0.2以下であることがより好ましい。
【0021】
被覆電線1において、CNT素線11を構成するCNT11aは、単層構造又は複層構造を有する筒状体であり、それぞれ、SWNT(single-walled nanotube)、MWNT(multi-walled nanotube)と呼ばれる。図2では、2層構造を有するCNT11aのみを
記載しているが、CNT素線11には、3層構造以上の層構造を有するCNT、単層構造の層構造を有するCNTも含まれていてもよく、3層構造以上の層構造を有するCNT又は単層構造の層構造を有するCNTから形成されていてもよい。
【0022】
CNT素線11を構成するCNT11aにおいて、2層構造を有するCNT11aでは、六角形格子の網目構造を有する2つの筒状体T1、T2が略同軸で配された3次元網目構造体となっており、DWNT(double-walled nanotube)と呼ばれる。構成単位である六角形格子は、その頂点に炭素原子が配された六員環であり、他の六員環と隣接してこれらが連続的に結合している。
【0023】
CNT素線11を構成するCNT11aの性質は、上記筒状体のカイラリティに依存する。カイラリティは、アームチェア型、ジグザグ型、及びカイラル型に大別され、アームチェア型は金属性、ジグザグ型は半導体性及び半金属性、カイラル型は半導体性及び半金属性の挙動を示す。よって、CNT11aの導電性は、筒状体がいずれのカイラリティを有するかによって大きく異なる。被覆電線1のCNT線材10を構成するCNT素線11では、導電性をさらに向上させる点から、金属性の挙動を示すアームチェア型のCNT11aの割合を増大させることが好ましい。
【0024】
次に、CNT線材10におけるCNT11a及びCNT素線11の配向性について説明する。小角X線散乱(SAXS)を用いて、CNT線材10についてX線散乱像の情報を分析すると、CNT線材10において、複数のCNT11a,11a・・・及び複数のCNT素線11,11,・・・が良好な配向性を有している。このように、複数のCNT11a,11a・・・及び複数のCNT素線11,11,・・・が良好な配向性を有しているため、CNT線材10は、CNT11a及びCNT素線11の長手方向に沿って優れた導電性を有している。すなわち、CNT素線11が長手方向に配向性を有することで、C
NT素線11は径方向の導電性と比較して長手方向の導電性に優れている特性を有する。複数のCNT素線11が束ねられた又は撚り合わされたCNT線材10は、その長手方向の導電性に優れ、一方で複数のCNT素線11間の導電性は小さい。よって、被覆電線1のCNT線材10は、金属製の線材と比較して、径方向の導電性を抑えつつ、長手方向に優れた導電性を発揮する。
【0025】
また、被覆電線1のCNT線材10は径方向よりも長手方向に優れた導電性を発揮するので、CNT線材10では、それぞれのCNT素線11に絶縁被覆層を被覆する必要がない。よって、CNT線材10では、隣接するCNT素線11同士を直接接触した態様で束ねる又は撚り合わせることができる。このように、CNT線材10において、隣接する他のCNT素線11同士が直接接触した態様で束ねられているか、又撚り合わされていることにより、導体の占積率を向上させることが可能となる。また、CNT線材10では、各CNT素線11に絶縁被覆層を形成する必要がないため、製造コストを低減できる。
【0026】
CNT線材10の密度は、特に限定されるものではないが、例えば、長手方向の導電性を向上させつつ比較的高い強度を付与させる点から、0.50g/cm以上2.5g/cm以下が好ましく、導体の占積率をより向上させる点から、1.2g/cm以上1.8g/cm以下が特に好ましい。また、CNT素線11の密度は、特に限定されず、例えば、長手方向の導電性を向上させ且つCNT素線11の生産性に優れる点から、1.0g/cm以上3.0g/cm以下が好ましく、1.2g/cm以上1.8g/cm以下が特に好ましい。
【0027】
本実施形態に係る被覆電線1において、導体であるCNT線材10は、CNT線材10が被覆層20で被覆されることにより形成される空間内に所定量の水分を含んでおり、具体的には、その空間内に含まれる水分の含有量はCNT線材10に対し0.1質量%以上20質量%以下であり、好ましくは0.5質量%以上5質量%以下である。このような空間には、CNT線材10と被覆層20との間に僅かに存在する空間、複数のCNT素線11の間に存在する空間等が含まれる。CNT線材10を構成するCNT11aは炭素材料であるため、被覆電線1の内部に一定の水分が含まれている状態であっても導体であるCNT線材10の腐食が生じない。すなわち、CNT線材10は一定の含水量であれば、被覆電線1の内部に水分が含まれている状態でも使用可能である。そのため、このような被覆電線1は、被覆層20の内部にまで水分が浸透し得る高湿度下、水中においても使用できる。よって、導体としてこのようなCNT線材10を使用することにより、水が存在する環境下でも導体の腐食を防止でき、被覆電線の耐久性を向上させることができる。また、CNT線材10が被覆層20で被覆されることにより形成される空間内に含まれる水分の含有量が0.1質量%以上20質量%以下であることにより、意想外に、水の気化熱でジュール熱を吸収し、CNT線材10の温度上昇が抑えられ、また、水分子がCNT素線11間に介在することで、CNT線材10全体の導電性及び熱伝導性が向上する。空間内に含まれる水分の含有量の下限値が0.1質量%未満では、水分の含有量が少な過ぎるため、低抵抗化及び放熱性向上の作用が小さい。一方、空間内に含まれる水分の含有量の上限値が20質量%より多いと、水分の含有量が多過ぎるため、水の熱容量が大き過ぎ、水が気化しにくくなり、ジュール熱の吸収による温度上昇の抑制の効果が発現しにくくなる。また、CNT素線間に存在する水の量が大きくなるため、素線間の電気伝導性や熱伝導性を阻害し、導電性及び熱伝導性の向上の効果が小さくなる。よって、空間内に含まれる水分の含有量がCNT線材10に対し0.1質量%以上20質量%以下であることにより、CNT線材10の温度上昇が抑えられ、CNT線材10全体の導電性及び熱伝導性が向上するため、導電性、放熱性に優れた被覆電線1を得ることができる。また、空間内に含まれる含水量は、例えば、予め乾燥状態のCNT線材10の重さ(a)を測り、次いで空間内に水分が含まれている状態の被覆電線1の重さを測定し、被覆電線1の重さから被覆層20の重さを除いた重さ(b)を算出し、重さ(a)と重さ(b)の変化率から算出す
ることができる。尚、CNT線材10が複数のCNT素線11から構成される場合、空間内に含まれる含水量は、複数のCNT素線11を有するCNT線材10の重さを基準に測定される。また、被覆電線1が後述する遮水部を備える場合、重さ(b)は、被覆電線1の重さから遮水部の重さがさらに除かれることで算出される。
【0028】
[被覆層]
次に、被覆電線1に用いるCNT線材10の外周面を被覆する被覆層20について説明する。
【0029】
被覆層20としては、絶縁被覆層を挙げることができる。絶縁被覆層の材料としては、一般的な被覆電線の絶縁被覆層に用いられている被覆樹脂を使用することができ、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂を挙げることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニル(PCB)、ポリメチルメタクリレート(PMM)、ポリウレタン(PU)等を挙げることができる。熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリイミド(PI)、フェノール樹脂等を挙げることができる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を適宜混合して使用してもよい。
【0030】
図1に示すように、被覆層20は、一層としてもよく、これに代えて、二層以上としてもよい。また、必要に応じて、CNT線材10の外面と被覆層20との間に、さらに、熱硬化性樹脂の層が設けられていてもよい。被覆層20の総厚は特に限定されるものではないが、0.001mm以上10mm以下であることが好ましく、0.01mm以上1mm以下であることがより好ましい。
【0031】
[遮水部]
本実施形態に係る被覆電線1において、CNT線材10の少なくとも一方の端部に遮水部が設けられていてもよい。ここで、端部とはCNT線材10の長手方向における先端部分を意味する。図3に示すように、遮水部30を介して、CNT線材10と外部に配置される端子40とが接続される。CNT線材10の一方又は両方の端部に遮水部30を設けることにより、CNT線材10の端部が外部に露出される状態を防止し、CNT線材10が被覆層20で被覆されることにより形成される上述の空間内に存在する水分が被覆電線1内に封止される。これにより、空間内に含まれる水分の過度の蒸発が抑制され、空間内の含水状態を長期に維持することができる。また、遮水部は、樹脂材料から形成されていることが好ましい。これにより、遮水部を介して、導体と外部に配置される金属線、端子等の接続部の腐食を防止することができる。このような樹脂材料は、導体であるCNT線材10への皮膜形成を容易にするため、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂等であることが好ましい。尚、被覆電線1を一定の湿度環境下で使用する場合、CNT線材10の少なくとも一方の端部を密閉しなくても、CNT線材10が被覆層20で被覆されることにより形成される空間の湿度環境は維持されるため、このような場合、遮水部30は必ずしも設けられていなくてもよい。
【0032】
[被覆電線の製造方法]
次に、本発明の実施形態に係る被覆電線1の製造方法例について説明する。被覆電線1は、まず、CNT11aを作製し、得られた複数のCNT11aからCNT素線11を作製する。撚り線の場合、複数本のCNT素線11を撚り合わせて撚り線とする。その後、CNT素線11又は撚り線としたCNT線材10に噴霧器により水を吹きかけて所定の水分が付着したCNT線材10を作製する。なお、水分の付着量は、水を吹きかける前と吹きかけた後のCNT線材10の重量変化から算出する。さらに、CNT線材10の外周面に被覆層20(例えば、絶縁被覆層)を被覆することで、被覆電線1を製造することがで
きる。
【0033】
CNT11aは、例えば、浮遊触媒法(特許第5819888号公報)、基板法(特許第5590603号公報)等の方法で作製することができる。また、CNT素線11は、例えば、乾式紡糸(特許第5819888号公報、特許第5990202号公報、特許第5350635号公報)、湿式紡糸(
特許第5135620号公報、特許第5131571号公報、特許第5288359号公報)、液晶紡糸(特表2014-530964号公報)等の方法で作製することができる。
【0034】
CNT線材10の外周面に被覆層20を被覆する方法は、アルミニウム、銅の芯線に絶縁被覆層を被覆する方法を使用できる。例えば、被覆層20の原料である熱可塑性樹脂を溶融させ、水分が付着したCNT線材10の周りに押出してCNT線材10を被覆することで被覆層20を形成する方法が挙げられる。
【0035】
CNT線材10の少なくとも一方の端部に遮水部を設ける場合、遮水部は、樹脂のコーティング、例えばウレタン樹脂コートにより作製することができる。
【0036】
本実施形態における被覆電線1は、自動車、電気機器、制御機器等の様々な分野における電力線、信号線としての電線として使用することができ、特に、海底ケーブル、水中用ケーブル等、水が存在する環境下で使用される被覆電線としての使用に好適である。
【実施例
【0037】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
[実施例1~9及び比較例1~2]
実施例1~9及び比較例1~2について、以下の製造工程により被覆電線を作製した。
【0039】
<導体の作製>
先ず、浮遊触媒法で円相当直径0.05mmのCNT素線を作製した。次いで、得られたCNT素線を下記表1に示す本数及び撚り数にて撚り合わせてCNT線材の撚り線を作製した。さらに、撚り線とした各CNT線材に噴霧器を用いて水を吹きかけ、所定量の水分が付着したCNT線材を作製した。
【0040】
<被覆電線の作製>
通常の電線製造用押出成形機を用いて、所定量の水分が付着したCNT線材の外周面にポリプロピレン樹脂(PP)を押出被覆することにより厚さ0.05mmの絶縁被覆層を形成した。こうして、各実施例及び比較例における被覆電線を作製した。
【0041】
このように作製した被覆電線について、以下の測定及び評価を行った。
【0042】
<水分の含有量>
CNT線材が被覆層で被覆されることにより形成される空間内に含まれる水分の含有量は、CNT線材に水を吹きかける前の重量を、水を吹きかけた後の被覆電線から被覆層の重量を除いた重量から除して算出し、続いてCNT線材に対する水分の含有量を算出した。水を吹きかける前のCNT線材は、乾燥処理したものを用いた。
【0043】
<抵抗値の変化率>
水分を付着する前のCNT線材を20cmの長さで切り出し、ソースメータ(「ケースレー2400」 Keithley社製)を用いて、0.1mAの電流を流したときの抵抗値を計測し、その計測値をR1とした。次いで、含水した後の被覆電線も同様にCNT線材の抵
抗値を計測し、その計測値をR2とした。抵抗値の変化率((R2/R1)×100)を算出し、その比率が90%以下であれば、含水後に抵抗値が低下して導電性が向上していると判断し、導電性に優れていると評価した。
【0044】
<放熱性の変化率>
水分を付着する前のCNT線材を20cmの長さで切り出し、ソースメータ(「ケースレー2400」 Keithley社製)を用いて、印加電流が2000A/cmとなるように電流を流し、一定時間ごとに抵抗値の変化を記録した。測定開始時と10分間経過後の抵抗値を比較し、その増加率を算出した。ここで増加率とは、例えば、測定開始時に対して、10分経過後の抵抗値が1.2倍である場合、増加率は20%であることを意味する。CNT線材は温度の変化に比例して抵抗値が増加するため、抵抗値の増加率が小さいほど放熱性に優れると判断することができる。次いで、含水した後の被覆電線も同様にCNT線材の抵抗値の増加率を計測した。この時、印加電流(I2)は、水分を付着する前のCNT線材と同じジュール熱が発生するようにするため、上記抵抗値の変化率で測定したR1、R2より、下記式(1)で表される値に設定した。水分を付着する前のCNT線材の抵抗値の増加率(含水前の抵抗値の増加率)と、含水した後の被覆電線におけるCNT線材の抵抗値の増加率(含水後の抵抗値の増加率)の変化率(放熱性の変化率)を下記(2)より算出し、放熱性の変化率が80%以下である場合、含水後に放熱性が向上していると判断し、放熱性に優れていると評価した。
【0045】
I2=(R1/R2)1/2×2000(A/cm)・・・(1)
【0046】
放熱性の変化率=(含水後の抵抗値の増加率/含水前の抵抗値の増加率)×100・・・
(2)
【0047】
作製した被覆電線の測定及び評価結果を、下記表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示すように、CNT線材が被覆層で被覆されることにより形成される空間内に含まれる水分の含有量が0.1質量%以上20質量%以下である実施例1~9では、いずれも、抵抗値の変化率が90%以下であり、得られた被覆電線は優れた導電性を示した。また、実施例1~9は、いずれも、放熱性の変化率が80%以下であり、得られた被覆電線
は優れた放熱性も示していた。さらに、実施例1~9では、被覆電線の内部に一定の水分が含まれている状態であっても導体の腐食が生じなかった。そのため、得られた被覆電線は、高湿度下、水中においても使用できるため、水が存在する環境下でも導体の腐食を防止し、耐久性が向上した被覆電線が得られたと判断できる。
【0050】
一方、CNT線材が被覆層で被覆されることにより形成される空間内に含まれる水分の含有量が0.1質量%未満である比較例1では、水分の含有量が少な過ぎるため、抵抗値の低減作用及び放熱性の向上作用が小さく、優れた導電性及び放熱性を示す被覆電線が得られなかった。また、空間内に含まれる水分の量が20質量%より多い比較例2では、水分の含有量が多過ぎるため、CNT線材10が膨潤して抵抗値が上昇し、導電性に劣っていた。また、比較例2では放熱性の向上は観察されたものの、放熱性の変化率は80%より大きく、実施例1~9よりも放熱性に劣っていた。
【0051】
このように、CNT線材が被覆層で被覆されることにより形成される空間内に含まれる水分の含有量が0.1質量%以上20質量%以下の範囲内であることにより、水が存在する環境下での導体の腐食を防止し、導電性及び放熱性に優れた被覆電線を提供することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 被覆電線
10 カーボンナノチューブ線材
11 カーボンナノチューブ素線
11a カーボンナノチューブ
20 被覆層
30 遮水部
40 端子
図1
図2
図3