(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】研磨液、研磨液セット及び研磨方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20221031BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20221031BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20221031BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
H01L21/304 622X
H01L21/304 621D
B24B37/00 H
C09G1/02
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
(21)【出願番号】P 2019544128
(86)(22)【出願日】2017-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2017035588
(87)【国際公開番号】W WO2019064524
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2019-12-10
【審判番号】
【審判請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100160897
【氏名又は名称】古下 智也
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【氏名又は名称】阿部 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100189452
【氏名又は名称】吉住 和之
(72)【発明者】
【氏名】金丸 真美子
(72)【発明者】
【氏名】山村 奈央
【合議体】
【審判長】瀧内 健夫
【審判官】佐藤 智康
【審判官】恩田 春香
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-222867(JP,A)
【文献】特開2013-098392(JP,A)
【文献】特開2012-086357(JP,A)
【文献】特開2001-035818(JP,A)
【文献】特開2017-149798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、共重合体と、水と、を含有し、
前記共重合体が、スチレン及びスチレン誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種のスチレン化合物に由来する構造単位と、アクリル酸及びマレイン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種に由来する構造単位とを有し、
前記共重合体において前記スチレン化合物に由来する構造単位の比率が15~60mol%である、研磨液(但し、酸化セリウム粒子と、分散剤と、水とを含み、前記分散剤が、スルホン酸基及びスルホン酸塩基からなる群より選ばれる少なくとも1種を有する第1の単量体と、スルホン酸基及びスルホン酸塩基を有さない第2の単量体とを重合させて得られる共重合体であり、前記共重合体における前記第1の単量体の共重合比率が5~70モル%であり、前記酸化セリウム粒子が粒子表面に硫黄原子を有する、スラリーを除く)。
【請求項2】
前記砥粒のゼータ電位が負である、請求項1に記載の研磨液。
【請求項3】
前記共重合体が、スチレンに由来する構造単位を有する、請求項1又は2に記載の研磨液。
【請求項4】
前記共重合体が、アクリル酸に由来する構造単位を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の研磨液。
【請求項5】
前記共重合体が、マレイン酸に由来する構造単位を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の研磨液。
【請求項6】
25℃の水に対する前記スチレン化合物の溶解度が0.01~0.1g/100mlである、請求項1~5のいずれか一項に記載の研磨液。
【請求項7】
前記共重合体の重量平均分子量が1000~20000である、請求項1~6のいずれか一項に記載の研磨液。
【請求項8】
前記共重合体の含有量が0.05~2.0質量%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の研磨液。
【請求項9】
前記砥粒が、セリア、シリカ、アルミナ、ジルコニア及びイットリアからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の研磨液。
【請求項10】
前記砥粒が、オキシ炭酸セリウム由来のセリアを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の研磨液。
【請求項11】
リン酸塩、及び、アクリル酸に由来する構造単位を有する重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種を更に含有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の研磨液。
【請求項12】
酸化珪素を含む被研磨面を研磨するために使用される、請求項1~11のいずれか一項に記載の研磨液。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の研磨液の構成成分が第1の液と第2の液とに分けて保存され、前記第1の液が、前記砥粒及び
水を含み、前記第2の液が、前記共重合体及び
水を含む、研磨液セット。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか一項に記載の研磨液、又は、請求項13に記載の研磨液セットにおける前記第1の液と前記第2の液とを混合して得られる研磨液を用いて被研磨面を研磨する工程を備える、研磨方法。
【請求項15】
絶縁材料及び窒化珪素を含む被研磨面の研磨方法であって、
請求項1~12のいずれか一項に記載の研磨液、又は、請求項13に記載の研磨液セットにおける前記第1の液と前記第2の液とを混合して得られる研磨液を用いて前記絶縁材料を前記窒化珪素に対して選択的に研磨する工程を備える、研磨方法。
【請求項16】
絶縁材料及びポリシリコンを含む被研磨面の研磨方法であって、
請求項1~12のいずれか一項に記載の研磨液、又は、請求項13に記載の研磨液セットにおける前記第1の液と前記第2の液とを混合して得られる研磨液を用いて前記絶縁材料を前記ポリシリコンに対して選択的に研磨する工程を備える、研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨液、研磨液セット及び研磨方法に関する。特に、本発明は、半導体素子の製造技術である、基体表面の平坦化工程に用いられる研磨液、研磨液セット及び研磨方法に関する。更に詳しくは、本発明は、Shallow Trench Isolation(浅溝素子分離:STI)用絶縁膜、プリメタル絶縁膜、層間絶縁膜等の平坦化工程において用いられる研磨液、研磨液セット及び研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体素子の製造工程では、高密度化・微細化のための加工技術の重要性がますます高まっている。加工技術の一つであるCMP(化学機械研磨:Chemical Mechanical Pоlishing)技術は、半導体素子の製造工程において、STIの形成、プリメタル絶縁膜又は層間絶縁膜の平坦化、プラグ又は埋め込み金属配線の形成等に必須の技術となっている。
【0003】
STIを形成するためのCMP工程等においては、凹凸パターンを有する基板の凸部上に配置されたストッパ(ストッパ材料を含有する研磨停止層)と、凹凸パターンの凹部を埋めるように基板及びストッパの上に配置された絶縁部材(例えば、酸化珪素膜等の絶縁膜)と、を有する積層体の研磨が行われる。このような研磨では、絶縁部材の研磨はストッパにより停止される。すなわち、ストッパが露出した段階で絶縁部材の研磨を停止させる。これは、絶縁部材に含まれる絶縁材料の研磨量(絶縁材料の除去量)を人為的に制御することが難しいためであり、ストッパが露出するまで絶縁部材を研磨することにより研磨の程度を制御している。この場合、ストッパ材料に対する絶縁材料の研磨選択性(研磨速度比:絶縁材料の研磨速度/ストッパ材料の研磨速度)を高める必要がある。
【0004】
これに対し、下記特許文献1では、スチレンとアクリロニトリルとの共重合体を用いることで、ポリシリコンに対する酸化珪素の研磨選択性を向上させることが開示されている。下記特許文献2には、セリア粒子、分散剤、特定の水溶性高分子及び水を含有する研磨液を用いることで、窒化珪素に対する絶縁材料の研磨選択性を向上させることが開示されている。下記特許文献3には、ポリシリコン上の酸化珪素膜を研磨するための研磨液として、砥粒、ポリシリコン研磨抑制剤及び水を含む研磨液を用いることで、ポリシリコンに対する絶縁材料の研磨選択性を向上させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2015/170436号
【文献】特開2011-103498号公報
【文献】国際公開第2007/055278号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年の半導体デバイスでは、微細化がますます加速し、配線幅の縮小と共に薄膜化が進んでいる。これに伴い、STIを形成するためのCMP工程等において、凹凸パターンを有する基板の凸部上に配置されたストッパの過研磨を抑制しつつ絶縁部材を研磨する必要がある。このような観点から、研磨液に対しては、ストッパ材料に対する絶縁材料の研磨選択性を更に向上させることが求められている。
【0007】
本発明は、前記課題を解決しようとするものであり、ストッパ材料に対する絶縁材料の研磨選択性を向上させることが可能な研磨液、研磨液セット及び研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決するために種々の検討を行った結果、スチレン及びスチレン誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種のスチレン化合物に由来する構造単位と、アクリル酸及びマレイン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種に由来する構造単位とを有する特定の共重合体を用いることにより、ストッパ材料に対する絶縁材料の研磨選択性を向上させることができることを見出した。
【0009】
本発明に係る研磨液は、砥粒と、共重合体と、液状媒体と、を含有し、前記共重合体が、スチレン及びスチレン誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種のスチレン化合物に由来する構造単位と、アクリル酸及びマレイン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種に由来する構造単位とを有し、前記共重合体において前記スチレン化合物に由来する構造単位の比率が15mol%以上である。
【0010】
本発明に係る研磨液によれば、ストッパ材料に対する絶縁材料の研磨選択性を向上させることができる。
【0011】
ところで、従来の研磨液では、ブランケットウエハ(パターンなしウエハ)の評価においてストッパ材料に対する絶縁材料の高い研磨選択性が得られたとしても、パターンウエハ(パターンを有するウエハ。例えば、凹凸パターンを有する基板の凸部上に配置されたストッパと、凹凸パターンの凹部を埋めるように基板及びストッパの上に配置された絶縁部材と、を有する積層体)の評価において、ストッパ材料に対する絶縁材料の研磨選択性が高いが故に、凸部上のストッパの研磨が抑制される一方で、凹部内の絶縁部材が過研磨され、ディッシングと呼ばれる残段差が大きくなり、平坦性が低下する場合がある。一方、本発明に係る研磨液によれば、ストッパを用いた絶縁部材の研磨において、凸部上のストッパの過研磨と、凹部内の絶縁部材の過研磨とを充分に抑制(過研磨によるロス量を抑制)し、高い平坦性を得ることができる。また、本発明に係る研磨液によれば、パターン密度に対する依存性なく(例えば、「凸部であるライン(L)/凹部であるスペース(S)」に対する依存性なく)、凹凸パターンを有する基体を平坦性良く研磨できる。
【0012】
前記砥粒のゼータ電位は、負であることが好ましい。
【0013】
前記スチレン化合物に由来する構造単位の比率は、15~60mol%であることが好ましい。
【0014】
前記共重合体は、スチレンに由来する構造単位を有することが好ましい。前記共重合体は、アクリル酸に由来する構造単位を有することが好ましい。前記共重合体は、マレイン酸に由来する構造単位を有することが好ましい。
【0015】
25℃の水に対する前記スチレン化合物の溶解度は、0.1g/100ml以下であることが好ましい。
【0016】
前記共重合体の重量平均分子量は、20000以下であることが好ましい。
【0017】
前記共重合体の含有量は、0.05~2.0質量%であることが好ましい。
【0018】
前記砥粒は、セリア、シリカ、アルミナ、ジルコニア及びイットリアからなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。前記砥粒は、オキシ炭酸セリウム由来のセリアを含むことが好ましい。
【0019】
本発明に係る研磨液は、リン酸塩、及び、アクリル酸に由来する構造単位を有する重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種を更に含有することが好ましい。
【0020】
本発明に係る研磨液は、酸化珪素を含む被研磨面を研磨するために使用されることが好ましい。
【0021】
本発明に係る研磨液セットは、上述の研磨液の構成成分が第1の液と第2の液とに分けて保存され、前記第1の液が、前記砥粒及び液状媒体を含み、前記第2の液が、前記共重合体及び液状媒体を含む。
【0022】
本発明に係る研磨方法の第1実施形態は、上述の研磨液、又は、上述の研磨液セットにおける前記第1の液と前記第2の液とを混合して得られる研磨液を用いて被研磨面を研磨する工程を備える。
【0023】
本発明に係る研磨方法の第2実施形態は、絶縁材料及び窒化珪素を含む被研磨面の研磨方法であって、上述の研磨液、又は、上述の研磨液セットにおける前記第1の液と前記第2の液とを混合して得られる研磨液を用いて前記絶縁材料を前記窒化珪素に対して選択的に研磨する工程を備える。
【0024】
本発明に係る研磨方法の第3実施形態は、絶縁材料及びポリシリコンを含む被研磨面の研磨方法であって、上述の研磨液、又は、上述の研磨液セットにおける前記第1の液と前記第2の液とを混合して得られる研磨液を用いて前記絶縁材料を前記ポリシリコンに対して選択的に研磨する工程を備える。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ストッパ材料に対する絶縁材料の研磨選択性を向上させることができる。また、本発明によれば、ストッパを用いた絶縁部材の研磨において、凸部上のストッパの過研磨と、凹部内の絶縁部材の過研磨とを充分に抑制(過研磨によるロス量を抑制)し、高い平坦性を得ることができる。また、本発明によれば、パターン密度に対する依存性なく(例えば、L/Sに対する依存性なく)、凹凸パターンを有する基体を平坦性良く研磨できる。
【0026】
本発明によれば、ストッパ材料として窒化珪素及びポリシリコンのいずれを用いた場合であっても、ストッパ上で研磨を充分に停止させることができる。特に、ストッパ材料として窒化珪素を用いた場合に、窒化珪素の研磨速度を充分に抑制することができる。本発明によれば、ストッパ材料として窒化珪素を用いた絶縁材料の研磨において、ストッパが露出したときに、ストッパ、及び、凹部に埋め込まれた絶縁部材が過剰に研磨されてしまうことを抑制することができる。
【0027】
本発明によれば、STI用絶縁膜、プリメタル絶縁膜、層間絶縁膜等を平坦化するCMP技術において、パターン密度に対する依存性なくこれらの絶縁膜を高度に平坦化することもできる。
【0028】
本発明によれば、基体表面の平坦化工程への研磨液又は研磨液セットの使用を提供することができる。本発明によれば、STI用絶縁膜、プリメタル絶縁膜又は層間絶縁膜の平坦化工程への研磨液又は研磨液セットの使用を提供することができる。本発明によれば、絶縁材料をストッパ材料に対して選択的に研磨する研磨工程への研磨液又は研磨液セットの使用を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】実施例で用いたパターンウエハを示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0031】
<定義>
本明細書において、「研磨液」とは、研磨時に被研磨面に触れる組成物として定義される。「研磨液」という語句自体は、研磨液に含有される成分を何ら限定しない。後述するように、本実施形態に係る研磨液は砥粒(abrasive grain)を含有する。砥粒は、「研磨粒子」(abrasive particle)ともいわれるが、本明細書では「砥粒」という。砥粒は一般的には固体粒子であって、研磨時に、砥粒が有する機械的作用、及び、砥粒(主に砥粒の表面)の化学的作用によって除去対象物が除去(remove)されると考えられるが、研磨のメカニズムは限定されない。
【0032】
本明細書において、「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、一種類を単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。「研磨速度(Polishing Rate)」とは、単位時間当たりに材料が除去される速度(除去速度=Removal Rate)を意味する。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。数値範囲の「A以上」とは、A、及び、Aを超える範囲を意味する。数値範囲の「A以下」とは、A、及び、A未満の範囲を意味する。
【0033】
<研磨液>
本実施形態に係る研磨液は、砥粒と、添加剤と、液状媒体と、を含有する。「添加剤」とは、研磨速度、研磨選択性等の研磨特性;砥粒の分散性、保存安定性等の研磨液特性などを調整するために、砥粒及び液状媒体以外に研磨液が含有する物質を指す。本実施形態に係る研磨液は、CMP用研磨液として用いることができる。以下、研磨液の必須成分及び任意成分について説明する。
【0034】
砥粒は、絶縁材料の所望の研磨速度を得やすい観点から、セリア(酸化セリウム)、シリカ(酸化珪素)、アルミナ、ジルコニア及びイットリアからなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましく、セリアを含むことがより好ましい。砥粒は、一種類を単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。砥粒は、一の粒子の表面に他の粒子が付着した複合粒子であってもよい。
【0035】
セリアは、炭酸セリウム、オキシ炭酸セリウム、硝酸セリウム、硫酸セリウム、シュウ酸セリウム、水酸化セリウム等のセリウム塩を酸化して得ることができる。酸化の方法としては、セリウム塩を600~900℃程度で焼成する焼成法、過酸化水素等の酸化剤を用いてセリウム塩を酸化する化学的酸化法などが挙げられる。セリアとしては、ストッパ材料に対する絶縁材料の研磨選択性、及び、平坦性を更に向上させる観点から、オキシ炭酸セリウム由来のセリア、及び、炭酸セリウム由来のセリアからなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましく、オキシ炭酸セリウム由来のセリアがより好ましい。
【0036】
砥粒の平均粒径の下限は、絶縁材料の研磨速度を更に向上させる観点から、50nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましく、120nm以上が更に好ましい。砥粒の平均粒径の上限は、被研磨面に傷がつくことを抑制する観点から、300nm以下が好ましく、250nm以下がより好ましく、200nm以下が更に好ましく、180nm以下が特に好ましく、150nm以下が極めて好ましい。これらの観点から、砥粒の平均粒径は、50~300nmであることがより好ましい。
【0037】
砥粒の「平均粒径」とは、研磨液、又は、後述する研磨液セットにおけるスラリ中の砥粒の平均粒径(D50)であり、砥粒の平均二次粒径を意味する。砥粒の平均粒径は、例えば、研磨液、又は、後述する研磨液セットにおけるスラリについて、例えば、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、商品名:Microtrac MT3300EXII)を用いて測定することができる。
【0038】
研磨液中における砥粒のゼータ電位は、下記の範囲が好ましい。砥粒のゼータ電位は、平坦性を更に向上させる観点から、負(0mv未満)であることが好ましい。すなわち、本実施形態に係る研磨液は、陰イオン性砥粒を含有することが好ましい。負のゼータ電位を有する砥粒を用いることにより、砥粒と陰イオン性の重合体(例えば、アクリル酸又はマレイン酸由来のカルボキシル基を有する重合体)とが凝集することを抑制しやすい。砥粒のゼータ電位の上限は、平坦性を更に向上させる観点、及び、研磨液の保存安定性を高くする観点から、-5mV以下がより好ましく、-10mV以下が更に好ましく、-20mV以下が特に好ましく、-30mV以下が極めて好ましく、-40mV以下が非常に好ましく、-50mV以下がより一層好ましい。砥粒のゼータ電位の下限は、絶縁材料の所望の研磨速度を得やすい観点から、-80mV以上が好ましく、-70mV以上がより好ましく、-60mV以上が更に好ましい。これらの観点から、砥粒のゼータ電位は、-80mV以上0mV未満であることがより好ましい。
【0039】
ゼータ電位(ζ[mV])は、ゼータ電位測定装置(例えば、ベックマン・コールター株式会社製のDelsaNano C(装置名))を用いて測定することができる。研磨液中の砥粒のゼータ電位は、例えば、研磨液を前記ゼータ電位測定装置用の濃厚セルユニット(高濃度サンプル用のセル)に入れて測定することにより得ることができる。
【0040】
砥粒の含有量は、研磨液の全質量を基準として下記の範囲が好ましい。砥粒の含有量の下限は、絶縁材料の研磨速度を更に向上させる観点から、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.15質量%以上が更に好ましく、0.2質量%以上が特に好ましく、0.25質量%以上が極めて好ましい。砥粒の含有量の上限は、研磨液の保存安定性を高くする観点から、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましく、5.0質量%以下が特に好ましく、3.0質量%以下が極めて好ましく、1.0質量%以下が非常に好ましい。これらの観点から、砥粒の含有量は、0.05~20質量%であることがより好ましい。
【0041】
(添加剤)
[共重合体]
本実施形態に係る研磨液は、添加剤として、スチレン及びスチレン誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種のスチレン化合物に由来する構造単位(以下、場合により「第1の構造単位」という)と、アクリル酸及びマレイン酸からなる群より選ばれる少なくとも一種に由来する構造単位(以下、場合により「第2の構造単位」という)とを有する共重合体(以下、「共重合体P」という)を含有する。共重合体Pにおいてスチレン化合物に由来する構造単位の比率は、ストッパ材料に対する絶縁材料の研磨選択性、及び、平坦性を向上させる観点から、共重合体Pの全体を基準として15mol%以上である。
【0042】
共重合体Pは、ストッパ材料(窒化珪素、ポリシリコン等)の研磨速度が過度に高くなることを抑制する効果(研磨抑制剤としての効果)を有する。また、共重合体Pを用いることにより、ストッパの露出後の絶縁部材(酸化珪素膜等)の過研磨を抑制し、高い平坦性を得ることができる。
【0043】
このような効果を奏する詳細な理由は必ずしも明らかではないが、本発明者は、理由の一例を以下のように推測している。すなわち、共重合体Pにおけるアクリル酸又はマレイン酸由来のカルボキシル基が、親水性である絶縁部材に水素結合で作用することにより、共重合体Pが絶縁部材に吸着して被覆する。また、共重合体Pにおけるスチレン化合物由来のベンゼン環が、疎水性であるストッパ(例えば、親水性が絶縁材料(酸化珪素等)よりも弱く、比較的疎水性である窒化珪素;疎水性であるポリシリコン)に疎水性相互作用で作用することにより、共重合体Pがストッパに吸着して被覆する。さらに、これらの単量体を用いて得られた共重合体Pは、これらの単量体を用いていない重合体(例えば、アクリル酸又はマレイン酸に代えてメタクリル酸を用いた重合体)と比較して溶解性が高く、上述の作用を好適に得られる。これらにより、砥粒による研磨の進行が緩和され、研磨速度を充分抑制できると推測される。
【0044】
共重合体Pは、ストッパ材料に対する絶縁材料の研磨選択性、及び、平坦性を更に向上させる観点から、スチレンに由来する構造単位を有することが好ましい。共重合体Pは、ストッパ材料に対する絶縁材料の研磨選択性、及び、平坦性を更に向上させる観点から、アクリル酸に由来する構造単位を有することが好ましい。共重合体Pは、ストッパ材料に対する絶縁材料の研磨選択性、及び、平坦性を更に向上させる観点から、マレイン酸に由来する構造単位を有することが好ましい。
【0045】
25℃の水に対するスチレン化合物の溶解度は、下記の範囲が好ましい。スチレン化合物の溶解度の上限は、上述の疎水性相互作用を充分に発揮しやすく、ストッパ材料に対する絶縁材料の研磨選択性、及び、平坦性を更に向上させる観点から、0.1g/100ml以下が好ましく、0.05g/100ml以下がより好ましく、0.03g/100ml以下が更に好ましい。スチレン化合物の溶解度の下限は、共重合体P全体の溶解性を維持しやすく、ストッパ材料に対する絶縁材料の研磨選択性、及び、平坦性を更に向上させる観点から、0.01g/100ml以上が好ましく、0.02g/100ml以上がより好ましく、0.025g/100ml以上が更に好ましい。25℃の水に対するスチレンの溶解度は、0.03g/100mlである。
【0046】
スチレン誘導体としては、アルキルスチレン(α-メチルスチレン等)、アルコキシスチレン(α-メトキシスチレン、p-メトキシスチレン等)、m-クロロスチレン、4-カルボキシスチレン、スチレンスルホン酸などが挙げられる。スチレン誘導体としては、親水性基を有さないスチレン誘導体を用いることができる。親水性基としては、ポリエーテル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基等が挙げられる。共重合体Pは、スチレン化合物、アクリル酸又はマレイン酸と重合可能なその他の単量体に由来する構造単位を有していてもよい。このような単量体としては、メタクリル酸等が挙げられる。
【0047】
共重合体Pとしては、研磨選択性、平坦性等の研磨特性などを調整する目的で、一種類を単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。二種類以上の共重合体Pとしては、スチレン化合物に由来する構造単位の比率が異なる共重合体を組み合わせて使用することができる。
【0048】
共重合体Pにおいてスチレン化合物に由来する第1の構造単位の比率は、共重合体Pの全体を基準として、15mol%以上であり、下記の範囲が好ましい。第1の構造単位の比率の上限は、共重合体Pの溶解性に優れ、ストッパ材料に対する絶縁材料の研磨選択性、及び、平坦性を向上させやすい観点から、60mol%以下が好ましく、50mol%以下がより好ましく、40mol%以下が更に好ましく、35mol%以下が特に好ましい。第1の構造単位の比率の下限は、ストッパ材料に対する絶縁材料の研磨選択性、及び、平坦性を更に向上させる観点から、17.5mol%以上が好ましく、20mol%以上がより好ましく、22.5mol%以上が更に好ましく、25mol%以上が特に好ましく、27.5mol%以上が極めて好ましく、30mol%以上が非常に好ましい。これらの観点から、第1の構造単位の比率は、15~60mol%、17.5~60mol%、20~60mol%、22.5~60mol%、25~50mol%、27.5~50mol%、30~50mol%、30~40mol%又は30~35mol%であることがより好ましい。
【0049】
共重合体Pにおいて第2の構造単位の比率は、共重合体Pの全体を基準として下記の範囲が好ましい。第2の構造単位の比率の上限は、研磨選択性及び平坦性を更に向上させる観点から、85mol%以下が好ましく、82.5mol%以下がより好ましく、80mol%以下が更に好ましく、77.5mol%以下が特に好ましく、75mol%以下が極めて好ましく、72.5mol%以下が非常に好ましく、70mol%以下がより一層好ましい。第2の構造単位の比率の下限は、共重合体Pの溶解性に優れ、ストッパ材料に対する絶縁材料の研磨選択性を向上させやすい観点から、40mol%以上が好ましく、50mol%以上がより好ましく、60mol%以上が更に好ましく、65mol%以上が特に好ましい。これらの観点から、第2の構造単位の比率は、40~85mol%、40~82.5mol%、40~80mol%、40~77.5mol%、50~75mol%、50~72.5mol%、50~70mol%、60~70mol%又は65~70mol%であることがより好ましい。
【0050】
共重合体Pの重量平均分子量Mwの上限は、適切な研磨選択性及び絶縁材料の所望の研磨速度を得やすい観点から、20000以下が好ましく、20000未満がより好ましく、19000以下が更に好ましく、18000以下が特に好ましく、17000以下が極めて好ましく、16000以下が非常に好ましい。共重合体Pの重量平均分子量Mwの下限は、ストッパ材料に対する絶縁材料の研磨選択性、及び、平坦性を更に向上させる観点から、1000以上が好ましく、3000以上がより好ましく、5000以上が更に好ましく、6000以上が特に好ましい。共重合体Pの重量平均分子量Mwの下限は、8000以上であってもよく、10000以上であってもよく、12000以上であってもよい。これらの観点から、共重合体Pの重量平均分子量Mwは、1000~20000であることがより好ましい。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリエチレングリコール/ポリエチレンオキサイド換算した値である。
【0051】
具体的には、重量平均分子量は、下記の方法により測定できる。
[測定方法]
使用機器(検出器):株式会社島津製作所製、「RID-10A」、液体クロマトグラフ用示差屈折率計
ポンプ:株式会社島津製作所製、「RID-10A」
デガス装置:株式会社島津製作所製、「DGU-20A3R」
データ処理:株式会社島津製作所製、「LC solution」
カラム:日立化成テクノサービス株式会社製、「Gelpak GL-W530+Gelpak GL-W540」、内径10.7mm×300mm
溶離液:50mM-Na2HPO4水溶液/アセトニトリル=90/10(v/v)
測定温度:40℃
流量:1.0ml/分
測定時間:60分
試料:樹脂分濃度0.2質量%になるように溶離液と同じ組成の溶液で濃度を調整し、0.45μmのメンブレンフィルターでろ過して調製した試料
注入量:100μl
標準物質:東ソー株式会社製、ポリエチレングリコール/ポリエチレンオキサイド
【0052】
共重合体Pの含有量は、研磨液の全質量を基準として下記の範囲が好ましい。共重合体Pの含有量の下限は、ストッパ材料に対する絶縁材料の研磨選択性、及び、平坦性を更に向上させる観点から、0.05質量%以上が好ましく、0.07質量%以上がより好ましく、0.10質量%以上が更に好ましい。共重合体Pの含有量の上限は、絶縁材料の所望の研磨速度を得やすい観点から、2.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以下がより好ましく、0.8質量%以下が更に好ましく、0.5質量%以下が特に好ましく、0.4質量%以下が極めて好ましく、0.3質量%以下が非常に好ましい。これらの観点から、共重合体Pの含有量は、0.05~2.0質量%であることがより好ましく、0.05~1.0質量%であることが更に好ましい。共重合体Pとして複数種の共重合体を用いる場合、各共重合体の含有量の合計が前記範囲を満たしていることが好ましい。
【0053】
[分散剤]
本実施形態に係る研磨液は、必要に応じて分散剤(砥粒の分散剤。共重合体Pに該当する化合物を除く)を含有することができる。分散剤としては、例えば、リン酸塩化合物;リン酸水素塩化合物;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸の単独重合体(ポリアクリル酸等);前記重合体のアンモニウム塩又はアミン塩;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸と、アクリル酸アルキル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等)、アクリル酸ヒドロキシアルキル(アクリル酸ヒドロキシエチル等)、メタクリル酸アルキル(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等)、メタクリル酸ヒドロキシアルキル(メタクリル酸ヒドロキシエチル等)、酢酸ビニル、ビニルアルコールなどの単量体との共重合体(アクリル酸とアクリル酸アルキルとの共重合体等);前記共重合体のアンモニウム塩又はアミン塩が挙げられる。分散剤は、一種類を単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。
【0054】
リン酸塩化合物としては、リン酸塩及びその誘導体(リン酸塩誘導体)からなる群より選ばれる少なくとも一種を用いることができる。リン酸水素塩化合物としては、リン酸水素塩及びその誘導体(リン酸水素塩誘導体)からなる群より選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
【0055】
リン酸塩としては、リン酸カリウム塩、リン酸ナトリウム塩、リン酸アンモニウム塩、リン酸カルシウム塩等が挙げられ、具体的には、リン酸三カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸アンモニウム、リン酸三カルシウム等が挙げられる。リン酸塩誘導体としては、二リン酸ナトリウム、二リン酸カリウム、ポリリン酸カリウム、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸カルシウム等が挙げられる。
【0056】
リン酸水素塩としては、リン酸水素カリウム塩、リン酸水素ナトリウム塩、リン酸水素アンモニウム塩、リン酸水素カルシウム塩等が挙げられ、具体的には、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素カルシウム等が挙げられる。リン酸水素塩誘導体としては、リン酸水素カリウムテトラドデシル、リン酸水素ナトリウムドデシル、リン酸水素ドデシルアンモニウム等が挙げられる。
【0057】
本実施形態に係る研磨液は、絶縁材料の所望の研磨速度を得やすい観点から、リン酸塩(リン酸二水素アンモニウム等)、及び、アクリル酸に由来する構造単位を有する重合体(アクリル酸とアクリル酸アルキルとの共重合体等)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましい。
【0058】
分散剤が上述の各種重合体である場合、分散剤の重量平均分子量は、5000~15000であることが好ましい。分散剤の重量平均分子量が5000以上であると、砥粒に吸着した分散剤の立体障害によって砥粒同士が反発し合いやすく、分散安定性が向上しやすい。分散剤の重量平均分子量が15000以下であると、砥粒に吸着した分散剤同士が架橋して凝集してしまうことを防ぎやすい。分散剤の重量平均分子量は、共重合体Pの重量平均分子量と同様に測定することができる。
【0059】
分散剤の含有量は、研磨液の全質量を基準として下記の範囲が好ましい。分散剤の含有量の下限は、砥粒を適切に分散させやすい観点から、0.0005質量%以上が好ましく、0.001質量%以上がより好ましく、0.002質量%以上が更に好ましく、0.003質量%以上が特に好ましく、0.004質量%以上が非常に好ましく、0.005質量%以上が極めて好ましい。分散剤の含有量の上限は、一度分散した砥粒の凝集を防ぎやすい観点から、0.05質量%以下が好ましく、0.04質量%以下がより好ましく、0.03質量%以下が更に好ましく、0.02質量%以下が特に好ましく、0.01質量%以下が極めて好ましい。これらの観点から、分散剤の含有量は、0.0005~0.05質量%であることがより好ましい。
【0060】
[pH調整剤]
本実施形態に係る研磨液は、pH調整剤(共重合体P又は分散剤に該当する化合物を除く)を含有することができる。pH調整剤により所望のpHに調整することができる。
【0061】
pH調整剤としては、特に制限はなく、有機酸、無機酸、有機塩基、無機塩基等が挙げられる。有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、乳酸、マレイン酸、フタル酸、クエン酸、コハク酸等が挙げられる。無機酸としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。有機塩基としては、トリエチルアミン、ピリジン、ピペリジン、ピロリジン、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、キトサン等が挙げられる。無機塩基としては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。pH調整剤は、一種類を単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。
【0062】
[その他の添加剤]
本実施形態に係る研磨液は、共重合体P、分散剤及びpH調整剤とは別の添加剤を含有することができる。このような添加剤としては、水溶性高分子、pHを安定化させるための緩衝剤等が挙げられる。水溶性高分子としては、アルギン酸、ペクチン酸、カルボキシメチルセルロース、寒天、カードラン、プルラン等の多糖類などが挙げられる。緩衝剤は、緩衝液(緩衝剤を含む液)として添加してもよい。このような緩衝液としては、酢酸塩緩衝液、フタル酸塩緩衝液等が挙げられる。これらの添加剤は、一種類を単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。
【0063】
(液状媒体)
本実施形態に係る研磨液における液状媒体としては、特に制限はないが、脱イオン水、超純水等の水が好ましい。液状媒体の含有量は、他の構成成分の含有量を除いた研磨液の残部でよく、特に限定されない。
【0064】
(pH)
本実施形態に係る研磨液のpHの下限は、研磨液の安定性維持と絶縁材料の研磨速度を更に向上させる観点から、4.0以上が好ましく、4.5以上がより好ましく、4.7以上が更に好ましく、4.9以上が特に好ましい。本実施形態に係る研磨液のpHの上限は、平坦性を更に向上させる観点から、6.5以下が好ましく、6.0以下がより好ましく、5.5以下が更に好ましい。これらの観点から、本実施形態に係る研磨液のpHは、4.0~6.5であることがより好ましい。研磨液のpHは、25℃における研磨液のpHである。
【0065】
本実施形態に係る研磨液のpHは、pHメータ(例えば、株式会社堀場製作所の型番D-51)で測定することができる。具体的には例えば、フタル酸塩pH緩衝液(pH:4.01)、中性リン酸塩pH緩衝液(pH:6.86)及びホウ酸塩pH緩衝液(pH:9.18)を標準緩衝液として用いてpHメータを3点校正した後、pHメータの電極を研磨液に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定する。このとき、標準緩衝液及び研磨液の液温はともに25℃とする。
【0066】
(その他)
本実施形態に係る研磨液は、少なくとも砥粒、共重合体P及び液状媒体を含む一液式研磨液として保存してもよい。一液式研磨液は、液状媒体の含有量を減じた研磨液用貯蔵液として保存されると共に、研磨直前又は研磨時に液状媒体で希釈して用いられてもよい。
【0067】
一液式研磨液の場合、研磨定盤上への研磨液の供給方法としては、研磨液を直接送液して供給する方法;研磨液用貯蔵液及び液状媒体を別々の配管で送液し、これらを合流及び混合させて供給する方法;あらかじめ研磨液用貯蔵液及び液状媒体を混合しておき供給する方法等を用いることができる。
【0068】
<研磨液セット>
本実施形態に係る研磨液は、複数液式(例えば二液式)の研磨液セット(例えばCMP用研磨液セット)として、スラリ(第1の液)と添加液(第2の液)とを混合して前記研磨液となるように前記研磨液の構成成分がスラリと添加液とに分けて保存されてもよい。スラリは、例えば、少なくとも砥粒及び液状媒体を含む。添加液は、例えば、少なくとも共重合体P及び液状媒体を含む。共重合体P等の添加剤は、スラリ及び添加液のうち添加液に含まれることが好ましい。前記研磨液の構成成分は、三液以上に分けた研磨液セットとして保存してもよい。
【0069】
前記研磨液セットにおいては、研磨直前又は研磨時に、スラリ及び添加液が混合されて研磨液が調製される。複数液式の研磨液セットは、液状媒体の含有量を減じたスラリ用貯蔵液及び添加液用貯蔵液として保存されると共に、研磨直前又は研磨時に液状媒体で希釈して用いられてもよい。
【0070】
スラリと添加液とを含む複数液式の研磨液セットとして保存する場合、各液の配合を任意に変えることにより研磨速度を調整できる。研磨液セットを用いて研磨する場合、研磨定盤上への研磨液の供給方法としては、下記に示す方法がある。例えば、スラリと添加液とを別々の配管で送液し、これらの配管を合流及び混合させて供給する方法;スラリ用貯蔵液、添加液用貯蔵液及び液状媒体を別々の配管で送液し、これらを合流及び混合させて供給する方法;あらかじめスラリ及び添加液を混合しておき供給する方法;あらかじめスラリ用貯蔵液、添加液用貯蔵液及び液状媒体を混合しておき供給する方法等を用いることができる。また、前記研磨液セットにおけるスラリと添加液とをそれぞれ研磨定盤上へ供給する方法を用いることもできる。この場合、研磨定盤上においてスラリ及び添加液が混合されて得られる研磨液を用いて被研磨面が研磨される。
【0071】
<研磨方法>
本実施形態に係る研磨方法は、前記一液式研磨液を用いて被研磨面を研磨する研磨工程を備えていてもよく、前記研磨液セットにおけるスラリと添加液とを混合して得られる研磨液を用いて被研磨面を研磨する研磨工程を備えていてもよい。本実施形態に係る研磨方法は、例えば、被研磨面を有する基体の研磨方法である。
【0072】
本実施形態に係る研磨方法は、絶縁材料(酸化珪素等)及びストッパ材料(窒化珪素、ポリシリコン等)を含む被研磨面を有する基体の研磨方法であってもよい。基体は、例えば、絶縁材料を含む絶縁部材と、ストッパ材料を含むストッパとを有していてもよい。本実施形態に係る研磨液は、酸化珪素を含む被研磨面を研磨するために使用されることが好ましい。
【0073】
研磨工程は、例えば、前記一液式研磨液、又は、前記研磨液セットにおけるスラリと添加液とを混合して得られる研磨液を用いて、絶縁材料をストッパ材料に対して選択的に研磨する工程であってもよい。本実施形態に係る研磨方法は、絶縁材料及び窒化珪素を含む被研磨面の研磨方法であって、前記一液式研磨液、又は、前記研磨液セットにおけるスラリと添加液とを混合して得られる研磨液を用いて、絶縁材料を窒化珪素に対して選択的に研磨する工程を備えていてもよい。本実施形態に係る研磨方法は、絶縁材料及びポリシリコンを含む被研磨面の研磨方法であって、前記一液式研磨液、又は、前記研磨液セットにおけるスラリと添加液とを混合して得られる研磨液を用いて、絶縁材料をポリシリコンに対して選択的に研磨する工程を備えていてもよい。「材料Aを材料Bに対して選択的に研磨する」とは、同一研磨条件において、材料Aの研磨速度が材料Bの研磨速度よりも高いことをいう。より具体的には、例えば、材料Bの研磨速度に対する材料Aの研磨速度の研磨速度比が好ましくは15以上(より好ましくは20以上)で材料Aを研磨することをいう。
【0074】
研磨工程では、例えば、被研磨面を有する基体の当該被研磨面を研磨定盤の研磨パッド(研磨布)に押圧した状態で、前記研磨液を被研磨面と研磨パッドとの間に供給し、基体と研磨定盤とを相対的に動かして被研磨面を研磨する。研磨工程では、例えば、被研磨材料の少なくとも一部を研磨により除去する。
【0075】
研磨対象である基体としては、例えば、半導体素子製造に係る基板(例えば、STIパターン、ゲートパターン、配線パターン等が形成された半導体基板)上に被研磨材料が形成された基体が挙げられる。被研磨材料としては、酸化珪素等の絶縁材料;窒化珪素、ポリシリコン等のストッパ材料などが挙げられる。被研磨材料は、単一の材料であってもよく、複数の材料であってもよい。複数の材料が被研磨面に露出している場合、それらを被研磨材料と見なすことができる。被研磨材料は、膜状(被研磨膜)であってもよい。絶縁部材の形状は、特に限定されず、例えば膜状(絶縁膜)である。ストッパの形状は、特に限定されず、例えば膜状(ストッパ膜:窒化珪素膜、ポリシリコン膜等)である。
【0076】
本実施形態に係る研磨液を用いて、基板上に形成された被研磨材料(例えば、酸化珪素膜等の絶縁膜)を研磨して余分な部分を除去することによって、被研磨材料の表面の凹凸を解消し、被研磨面の全体にわたって平滑な面を得ることができる。
【0077】
本実施形態では、凹凸パターンを有する基板と、当該基板の凸部上に配置されたストッパと、凹凸パターンの凹部を埋めるように基板及びストッパの上に配置された絶縁部材と、を有する基体(絶縁部材(例えば、少なくとも表面に酸化珪素を含む酸化珪素膜)と、絶縁部材の下層に配置されたストッパと、ストッパの下に配置された半導体基板とを有する基体)における絶縁部材を研磨することができる。このような基体では、ストッパが露出したときに研磨を停止させることにより、絶縁部材が過剰に研磨されることを防止できるため、絶縁部材の研磨後の平坦性を向上させることができる。ストッパを構成するストッパ材料は、絶縁材料よりも研磨速度が低い材料であり、窒化珪素、ポリシリコン等が好ましい。
【0078】
本実施形態に係る研磨方法において、研磨装置としては、被研磨面を有する基体(半導体基板等)を保持可能なホルダーと、研磨パッドを貼り付け可能な研磨定盤とを有する一般的な研磨装置を使用できる。ホルダー及び研磨定盤のそれぞれには、回転数が変更可能なモータ等が取り付けてある。研磨装置としては、例えば、APPLIED MATERIALS社製の研磨装置:Reflexionを使用できる。
【0079】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、発泡体、非発泡体等が使用できる。研磨パッドの材質としては、ポリウレタン、アクリル樹脂、ポリエステル、アクリル-エステル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ4-メチルペンテン、セルロース、セルロースエステル、ポリアミド(例えば、ナイロン(商標名)及びアラミド)、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリシロキサン共重合体、オキシラン化合物、フェノール樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネート、エポキシ樹脂等の樹脂が使用できる。研磨パッドの材質としては、特に、研磨速度及び平坦性に更に優れる観点から、発泡ポリウレタン及び非発泡ポリウレタンが好ましい。研磨パッドには、研磨液がたまるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0080】
研磨条件に制限はないが、研磨定盤の回転速度は、基体が飛び出さないように200rpm(=回/min)以下が好ましく、基体にかける研磨圧力(加工荷重)は、研磨傷が発生することを充分に抑制する観点から、100kPa以下が好ましい。研磨している間、ポンプ等で連続的に研磨液を研磨パッドに供給することが好ましい。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に研磨液で覆われていることが好ましい。
【0081】
研磨終了後の基体は、流水中でよく洗浄して、基体に付着した粒子を除去することが好ましい。洗浄には、純水以外に希フッ酸又はアンモニア水を用いてもよく、洗浄効率を高めるためにブラシを用いてもよい。また、洗浄後は、基体に付着した水滴を、スピンドライヤ等を用いて払い落としてから基体を乾燥させることが好ましい。
【0082】
本実施形態に係る研磨液、研磨液セット及び研磨方法は、STIの形成に好適に使用できる。STIを形成するためには、ストッパ材料(窒化珪素、ポリシリコン等)に対する絶縁材料(酸化珪素等)の研磨速度比は、15以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましい。前記研磨速度比が15未満であると、ストッパ材料の研磨速度に対する絶縁材料の研磨速度の大きさが小さく、STIを形成する際に所定の位置で研磨を停止しにくくなる傾向がある。一方、前記研磨速度比が15以上であれば、研磨の停止が容易になり、STIの形成に好適である。
【0083】
本実施形態に係る研磨液、研磨液セット及び研磨方法は、プリメタル絶縁膜の研磨にも使用できる。プリメタル絶縁膜としては、酸化珪素の他、例えば、リン-シリケートガラス、ボロン-リン-シリケートガラス、シリコンオキシフロリド、フッ化アモルファスカーボン等が使用できる。
【0084】
本実施形態に係る研磨液、研磨液セット及び研磨方法は、酸化珪素等の絶縁材料以外の材料にも適用できる。このような材料としては、Hf系、Ti系、Ta系酸化物等の高誘電率材料;シリコン、アモルファスシリコン、SiC、SiGe、Ge、GaN、GaP、GaAs、有機半導体等の半導体材料;GeSbTe等の相変化材料;ITO等の無機導電材料;ポリイミド系、ポリベンゾオキサゾール系、アクリル系、エポキシ系、フェノール系等のポリマ樹脂材料などが挙げられる。
【0085】
本実施形態に係る研磨液、研磨液セット及び研磨方法は、膜状の研磨対象だけでなく、ガラス、シリコン、SiC、SiGe、Ge、GaN、GaP、GaAs、サファイヤ又はプラスチック等から構成される各種基板にも適用できる。
【0086】
本実施形態に係る研磨液、研磨液セット及び研磨方法は、半導体素子の製造だけでなく、TFT、有機EL等の画像表示装置;フォトマスク、レンズ、プリズム、光ファイバー、単結晶シンチレータ等の光学部品;光スイッチング素子、光導波路等の光学素子;固体レーザ、青色レーザLED等の発光素子;磁気ディスク、磁気ヘッド等の磁気記憶装置の製造に用いることができる。
【実施例】
【0087】
以下、実施例により本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0088】
<CMP用研磨液の調製>
(実施例1)
セリア粒子[オキシ炭酸セリウム由来の粒子。オキシ炭酸セリウムを酸化して得られたセリア粒子]5質量%、リン酸二水素アンモニウム(分散剤)0.05質量%、及び、水94.95質量%を含有するスラリ用貯蔵液200gと、スチレン/アクリル酸共重合体(共重合体P)[ST/AA、スチレン比率:50mol%、Mw:14000]0.25質量%、及び、水99.75質量%を含有する添加剤用貯蔵液1700gとを混合した後、研磨液のpHが5.1に調整されるように10質量%酢酸水溶液を加えた。そして、全量が2000gとなるように水を加えて、セリア粒子0.5質量%、スチレン/アクリル酸共重合体0.2質量%、及び、リン酸二水素アンモニウム0.005質量%を含有するCMP用研磨液(2000g)を調製した。
【0089】
(実施例2)
砥粒として炭酸セリウム由来のセリア粒子[炭酸セリウムを酸化して得られたセリア粒子]を用い、分散剤としてアクリル酸/アクリル酸メチル共重合体(AA/AM、Mw:8000)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてCMP用研磨液を調製した。
【0090】
(実施例3)
共重合体Pとしてスチレン/アクリル酸共重合体[スチレン比率:30mol%、Mw:16000]を用いたこと以外は実施例1と同様にしてCMP用研磨液を調製した。
【0091】
(実施例4)
共重合体Pとしてスチレン/アクリル酸共重合体[スチレン比率:30mol%、Mw:8000]を用いたこと以外は実施例1と同様にしてCMP用研磨液を調製した。
【0092】
(実施例5)
砥粒として炭酸セリウム由来のセリア粒子を用いたこと以外は実施例3と同様にしてCMP用研磨液を調製した。
【0093】
(実施例6)
共重合体Pとしてスチレン/アクリル酸共重合体[スチレン比率:20mol%、Mw:18000]を用いたこと以外は実施例1と同様にしてCMP用研磨液を調製した。
【0094】
(実施例7)
共重合体Pとしてスチレン/アクリル酸共重合体[スチレン比率:15mol%、Mw:17000]を用いたこと以外は実施例1と同様にしてCMP用研磨液を調製した。
【0095】
(実施例8)
共重合体Pとしてスチレン/マレイン酸共重合体[ST/MA、スチレン比率:50mol%、Mw:6000]を用いたこと以外は実施例1と同様にしてCMP用研磨液を調製した。
【0096】
(比較例1)
実施例1の共重合体Pをスチレン/アクリル酸共重合体[スチレン比率:10mol%、Mw:15000]に変更したこと以外は実施例1と同様にしてCMP用研磨液を調製した。
【0097】
(比較例2)
実施例5の共重合体Pをスチレン/アクリル酸共重合体[スチレン比率:10mol%、Mw:15000]に変更したこと以外は実施例5と同様にしてCMP用研磨液を調製した。
【0098】
(比較例3)
実施例2の共重合体Pをスチレン/アクリル酸共重合体[スチレン比率:10mol%、Mw:15000]に変更したこと以外は実施例2と同様にしてCMP用研磨液を調製した。
【0099】
(比較例4)
実施例1の共重合体Pをポリアクリル酸[PAA、スチレン比率:0mol%、Mw:2000]に変更したこと以外は実施例1と同様にしてCMP用研磨液を調製した。
【0100】
(比較例5)
実施例5の共重合体Pをポリアクリル酸[スチレン比率:0mol%、Mw:2000]に変更したこと以外は実施例5と同様にしてCMP用研磨液を調製した。
【0101】
(比較例6)
実施例2の共重合体Pをポリアクリル酸[スチレン比率:0mol%、Mw:2000]に変更したこと以外は実施例2と同様にしてCMP用研磨液を調製した。
【0102】
<研磨液特性の評価>
前記で得られたCMP用研磨液のpH、CMP用研磨液中の砥粒の平均粒径、及び、砥粒のゼータ電位(表面電位)を下記のとおり評価した。
【0103】
(pH)
測定温度:25±5℃
測定装置:株式会社堀場製作所製、型番D-51
測定方法:標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液、pH:4.01(25℃);中性リン酸塩pH緩衝液、pH:6.86(25℃);ホウ酸塩pH緩衝液、pH:9.18(25℃))を用いて3点校正した後、電極をCMP用研磨液に入れて、2分以上経過して安定した後のpHを前記測定装置により測定した。
【0104】
(砥粒の平均粒径)
マイクロトラック・ベル株式会社製のMicrotrac MT3300EXII(商品名)内にCMP用研磨液を適量投入し、砥粒の平均粒径を測定した。表示された平均粒径値を平均粒径(平均二次粒径、D50)として得た。平均粒径は150nmであった。
【0105】
(砥粒のゼータ電位)
ベックマン・コールター株式会社製のDelsaNano C(装置名)の濃厚セルユニットにCMP用研磨液を適量投入してセットした。25℃において測定を2回行い、表示されたゼータ電位の平均値をゼータ電位として得た。ゼータ電位は-50mVであった。
【0106】
<CMP評価>
前記CMP用研磨液を用いて下記研磨条件で被研磨基板を研磨した。パターンウエハの研磨は、実施例1~4、8及び比較例1、2のCMP用研磨液を用いて行った。
【0107】
(CMP研磨条件)
・研磨装置:Reflexion LK(APPLIED MATERIALS社製)
・CMP用研磨液の流量:250ml/min
・被研磨基板:下記ブランケットウエハ及びパターンウエハ
・研磨パッド:独立気泡を有する発泡ポリウレタン樹脂(ローム・アンド・ハース・ジャパン株式会社製、型番IC1010)
・研磨圧力:3.0psi
・基板と研磨定盤の回転数:基板/研磨定盤=93/87rpm
・研磨時間:ブランケットウエハでは、1分間研磨を行った。パターンウエハの研磨時間は表に示す。
・ウエハの乾燥:CMP処理後、スピンドライヤで乾燥させた。
【0108】
[ブランケットウエハ]
パターンが形成されていないブランケットウエハ(BTW)として、プラズマCVD法で形成された厚さ1μmの酸化珪素膜をシリコン基板上に有する基体と、CVD法で形成された厚さ0.2μmの窒化珪素膜をシリコン基板上に有する基体と、CVD法で形成された厚さ0.15μmのポリシリコン膜をシリコン基板上に有する基体と、を用いた。
【0109】
[パターンウエハ]
模擬パターンが形成されたパターンウエハ(PTW)として、SEMATECH社製、764ウエハ(商品名、直径:300mm)を用いた。当該パターンウエハは、ストッパとして窒化珪素膜をシリコン基板上に積層後、露光・現像工程においてトレンチを形成した後、ストッパ及びトレンチを埋めるようにシリコン基板及びストッパの上に絶縁膜として酸化珪素膜(SiO2膜)を積層することにより得られたウエハであった。酸化珪素膜は、HDP(High Density Plasma)法により成膜されたものであった。
【0110】
前記パターンウエハは、凸部であるライン(L)/凹部であるスペース(S)が1000μmピッチで、凸部パターン密度が50%である部分(L/S=500/500μm);L/Sが200μmピッチで、凸部パターン密度が50%である部分(L/S=100/100μm);L/Sが100μmピッチで、凸部パターン密度が50%である部分(L/S=50/50μm);L/Sが100μmピッチで、凸部パターン密度が20%である部分(L/S=20/80μm)を有していた。
【0111】
L/Sとは、模擬的なパターンであり、凸部である窒化珪素膜でマスクされたActive部と、凹部である溝が形成されたTrench部とが、交互に並んだパターンである。例えば、「L/Sが100μmピッチ」とは、Active部(ライン部)とTrench部(スペ-ス部)との幅の合計が、100μmであることを意味する。また、例えば、「L/Sが100μmピッチで、凸部パターン密度が50%」とは、凸部幅50μmと凹部幅50μmとが交互に並んだパターンを意味する。
【0112】
パターンウエハにおいて、酸化珪素膜の膜厚は、凹部のシリコン基板及び凸部の窒化珪素膜のいずれの上においても600nmであった。具体的には、
図1に示すように、シリコン基板1上の窒化珪素膜2の膜厚は150nmであり、凸部の酸化珪素膜3の膜厚は600nmであり、凹部の酸化珪素膜3の膜厚は600nmであり、酸化珪素膜3の凹部深さは500nm(トレンチ深さ350nm+窒化珪素膜の膜厚150nm)であった。
【0113】
パターンウエハの評価に際しては、セルフストップ性(模擬パターンの残段差が小さくなると研磨速度が低下する)が得られる公知のCMP用研磨液を用いて前記ウエハを研磨し、残段差が200nm程度の状態のウエハを用いた。具体的には、日立化成株式会社製のHS-8005-D4(商品名)と、日立化成株式会社製のHS-7303GP(商品名)と、水とを2:1.2:6.8の比率で配合した研磨液を用いて、L/Sが100μmピッチで、凸部パターン密度が50%である部分の凸部の酸化珪素膜の膜厚を300nm程度まで研磨した状態のウエハを用いた。
【0114】
(ブランケットウエハの評価(BTW研磨特性))
前記条件で研磨及び洗浄したブランケットウエハの各被研磨膜(酸化珪素膜、窒化珪素膜、及び、ポリシリコン膜)の研磨速度を下記式より求めた。研磨前後での各被研磨膜の膜厚差は、光干渉式膜厚測定装置(フィルメトリクス株式会社製、商品名:F80)を用いて求めた。また、窒化珪素に対する酸化珪素の研磨選択比、及び、ポリシリコンに対する酸化珪素の研磨選択比を算出した。
(研磨速度)=(研磨前後での各被研磨膜の膜厚差[nm])/(研磨時間[min])
【0115】
(パターンウエハの評価(PTW研磨特性))
パターンウエハの研磨速度(PTWRR)、残段差量(ディッシング量)、及び、窒化珪素ロス量(ストッパロス量)を算出した。残段差量及び窒化珪素ロス量は、ストッパが露出した時点(表に記載の研磨時間の左側)と、ストッパ露出後からPTWRRで約100nm分の時間削り込んだ時点(表に記載の研磨時間の右側。初期からの総研磨時間)とについて算出した。
【0116】
パターンウエハの研磨速度(PTWRR)は、L/S=50/50μmである部分における研磨前の凸部の酸化珪素膜の膜厚と、凸部のストッパが露出するまでの研磨時間とを用いて下記式より求めた。
(パターンウエハ研磨速度:PTWRR)=(研磨前の凸部の酸化珪素膜の膜厚[nm])/(凸部のストッパが露出するまでの研磨時間[min])
【0117】
前記条件で研磨及び洗浄したパターンウエハにおいて、L/Sが1000μmピッチで、凸部パターン密度が50%である部分(L/S=500/500μm)、L/Sが200μmピッチで、凸部パターン密度が50%である部分(L/S=100/100μm)、L/Sが100μmピッチで、凸部パターン密度が50%である部分(L/S=50/50μm)、及び、L/Sが100μmピッチで、凸部パターン密度が20%である部分(L/S=20/80μm)をそれぞれ接触式段差計(ケーエルエー・テンコール製、商品名:P-16)で走査して凸部と凹部との高低差を測定し、残段差量を得た。
【0118】
窒化珪素ロス量は、下記式のとおり、凸部のストッパの初期膜厚と、凸部のストッパの研磨後の残膜厚との差分により求めた。研磨前後での各被研磨膜の膜厚は、光干渉式膜厚測定装置(ナノメトリクス社製、商品名:Nanospec AFT-5100)を用いて求めた。
(窒化珪素ロス量[nm])=(凸部のストッパの初期膜厚:150[nm])-(凸部のストッパの研磨後の残膜厚[nm])
【0119】
実施例及び比較例で得られた各測定結果を表1及び表2に示す。
【0120】
【0121】
【0122】
表1及び表2によれば、実施例において、比較例よりも、ストッパ材料に対する絶縁材料の研磨選択性を向上させることができることを示す結果が得られた。また、実施例において、比較例よりも、残段差及び窒化珪素ロス量が充分に抑制されていることを示す結果が得られた。
【符号の説明】
【0123】
1…シリコン基板、2…窒化珪素膜、3…酸化珪素膜。