(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】パターン計測装置および計測方法
(51)【国際特許分類】
G01B 15/00 20060101AFI20221031BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20221031BHJP
H01J 37/22 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
G01B15/00 K
H01J37/28 B
H01J37/22 502H
(21)【出願番号】P 2021518251
(86)(22)【出願日】2019-05-08
(86)【国際出願番号】 JP2019018421
(87)【国際公開番号】W WO2020225876
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2021-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】孫 偉
(72)【発明者】
【氏名】山本 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】後藤 泰範
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-106530(JP,A)
【文献】特開2010-175249(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0234021(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 15/00 - 15/08
H01J 37/28
H01J 37/22
H01L 21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の異なる材料が積層された試料に形成されたパターンの立体形状を計測するパターン計測装置であって、
前記パターンを構成する材料のそれぞれについて、当該材料における単位距離において当該材料と電子とが散乱を起こす確率を表す減衰率を記憶する記憶部と、
一次電子ビームを前記パターンに対して走査することにより放出される後方散乱電子を検出して作成されるBSE画像における前記パターンの上面位置、底面位置及び異なる材料同士が接する界面位置を抽出し、前記パターンの任意位置について前記上面位置からの深さを算出する演算部とを有し、
前記演算部は、前記BSE画像における前記パターンの前記上面位置と前記底面位置とのコントラストに対する前記パターンの前記任意位置と前記底面位置とのコントラストの比率と、前記記憶部に記憶された前記パターンの前記底面位置の材料の減衰率及び前記パターンの前記任意位置の材料の減衰率とを用いて前記パターンの前記任意位置の前記上面位置からの深さを算出するパターン計測装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記演算部は、前記BSE画像から所定の方位に沿った前記パターンの側壁からの後方散乱電子信号強度を示すBSE信号波形を抽出し、前記BSE信号波形の微分信号波形の不連続点を抽出して前記界面位置とするパターン計測装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記演算部は、前記一次電子ビームを前記試料の表面に対して傾斜させた状態で前記パターンに対して走査することにより放出される後方散乱電子を検出して作成される傾斜BSE画像における前記パターンの底面と前記BSE画像における前記パターンの底面との間の位置ずれ量と前記一次電子ビームの傾斜量との関係に基づき、前記パターンの前記上面位置に対する前記底面位置の深さを算出するパターン計測装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記試料はウェハであり、
前記ウェハに形成された複数の前記パターンの立体形状のばらつきを、前記ウェハを表すマップ上に表示するパターン計測装置。
【請求項5】
複数の異なる材料が積層された試料に形成されたパターンの立体形状を計測するパターン計測装置であって、
一次電子ビームを前記試料に対して照射する電子光学系と、
前記一次電子ビームを前記パターンに対して走査することにより放出される二次電子を検出する第1電子検出器と、前記一次電子ビームを前記パターンに対して走査することにより放出される後方散乱電子を検出する第2電子検出器と、
前記第1電子検出器または前記第2電子検出器の検出信号から画像を形成する画像処理部と、
前記パターンの断面画像から抽出される前記パターンの側壁の断面プロファイルと前記第2電子検出器の検出信号から前記画像処理部が形成した第1BSE画像から抽出される所定の方位に沿った前記パターンの側壁からの後方散乱電子信号強度を示すBSEプロファイルとを比較して、前記パターンを構成する材料に対応させて前記BSEプロファイルを区分し、区分された前記BSEプロファイルにおける前記パターンの上面位置からの深さと後方散乱電子信号強度との関係から当該材料の減衰率を求める演算部とを有するパターン計測装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記断面画像は、走査電子顕微鏡、集束イオンビーム顕微鏡、走査透過電子顕微鏡、原子間力顕微鏡の少なくともいずれかを用いて撮像した前記パターンの断面画像または前記パターンの設計データであるパターン計測装置。
【請求項7】
請求項5において、
前記画像処理部は、前記第1BSE画像を形成する前記第2電子検出器の検出信号と同時に取得した、前記第1電子検出器の検出信号から第1二次電子画像を形成し、
前記演算部は、前記第1二次電子画像により前記パターンの上面位置を特定するパターン計測装置。
【請求項8】
請求項5において、
前記パターンを構成する材料のそれぞれについて、前記パターンが存在しない当該材料に所定の加速電圧で前記一次電子ビームを照射したときに、当該材料における単位距離において所定の密度を有する当該材料と電子とが散乱を起こす確率を表す減衰
率を記憶する記憶部を有し、
前記画像処理部は、前記第1電子検出器の検出信号から前記第1BSE画像よりも低倍率な第2二次電子画像を形成し、
前記演算部は、前記パターンを構成する材料のそれぞれについて、前記記憶部に記憶された減衰
率及び前記第2二次電子画像から算出した前記パターンが前記試料に形成されているパターン密度に基づき、減衰率を求めるパターン計測装置。
【請求項9】
請求項5において、
前記演算部は、前記一次電子ビームを前記パターンに対して走査することにより放出される後方散乱電子を検出して作成される第2BSE画像における前記パターンの上面位置、底面位置及び異なる材料同士が接する界面位置を抽出し、前記第2BSE画像における前記パターンの前記上面位置と前記底面位置とのコントラストに対する前記パターンの任意位置と前記底面位置とのコントラストの比率と、前記パターンの前記底面位置の材料の減衰率及び前記パターンの前記任意位置の材料の減衰率とを用いて前記パターンの前記任意位置の前記上面位置からの深さを算出するパターン計測装置。
【請求項10】
請求項9において、
前記演算部は、前記第2BSE画像から所定の方位に沿った前記パターンの側壁からの後方散乱電子信号強度を示すBSE信号波形を抽出し、前記BSE信号波形の微分信号波形の不連続点を抽出して前記界面位置とするパターン計測装置。
【請求項11】
請求項9において、
前記演算部は、前記一次電子ビームを前記試料の表面に対して傾斜させた状態で前記パターンに対して走査することにより放出される後方散乱電子を検出して作成される傾斜BSE画像における前記パターンの底面と前記第2BSE画像における前記パターンの底面との間の位置ずれ量と前記一次電子ビームの傾斜量との関係に基づき、前記パターンの前記上面位置に対する前記底面位置の深さを算出するパターン計測装置。
【請求項12】
複数の異なる材料が積層された試料に形成されたパターンの立体形状を計測するパターン計測方法であって、
前記パターンを構成する材料のそれぞれについて、当該材料における単位距離において当該材料と電子とが散乱を起こす確率を表す減衰率をあらかじめ記憶し、
一次電子ビームを前記パターンに対して走査することにより放出される後方散乱電子を検出して作成されるBSE画像における前記パターンの上面位置、底面位置及び異なる材料同士が接する界面位置を抽出し、前記BSE画像における前記パターンの前記上面位置と前記底面位置とのコントラストに対する前記パターンの任意位置と前記底面位置とのコントラストの比率と、前記パターンの前記底面位置の材料の減衰率及び前記パターンの前記任意位置の材料の減衰率とを用いて前記パターンの前記任意位置の前記上面位置からの深さを算出するパターン計測方法。
【請求項13】
請求項12において、
前記BSE画像から所定の方位に沿った前記パターンの側壁からの後方散乱電子信号強度を示すBSE信号波形を抽出し、前記BSE信号波形の微分信号波形の不連続点を抽出して前記界面位置とするパターン計測方法。
【請求項14】
請求項12において、
前記一次電子ビームを前記試料の表面に対して傾斜させた状態で前記パターンに対して走査することにより放出される後方散乱電子を検出して作成される傾斜BSE画像における前記パターンの底面と前記BSE画像における前記パターンの底面との間の位置ずれ量と前記一次電子ビームの傾斜量との関係に基づき、前記パターンの前記上面位置に対する前記底面位置の深さを算出するパターン計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハなどに形成されたパターンの立体形状を計測するパターン計測装置および計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで半導体デバイスはメモリーの大容量化とビットコスト低減のため、微細化や高集積化などが進められてきた。近年では、さらなる高集積化への要望に対応するため、立体構造デバイスの開発と製造が進められている。平面構造を立体化するとデバイスは厚くなる。このため、例えば3D-NAND、DRAMのような構造では積層膜の層数が増え、穴や溝などを形成する工程において、穴や溝の平面サイズと深さとの比(アスペクト比)も大きくなる傾向にある。また、デバイスに使われる材料の種類も増える傾向にある。
【0003】
例えば穴径50nm~100nm、深さ3μm以上という非常に高アスペクト比の穴や溝を加工するには、最初にデバイスに対して選択比の高い材料でつくられた厚いマスクを開口する必要がある。後のエッチング工程をガイドするテンプレート作成プロセスであり、加工精度への要求も極めて高い。続いて、加工されたマスクをテンプレートとして、異種材料の積層膜を一回または複数に分けて穴あるいは溝が形成するためのエッチングを行う。異なる材料のマスクや積層膜を貫通する壁面が表面に対して垂直な状態でエッチングがなされないと、最終的に安定したデバイス性能を得られないおそれがある。このため、エッチングプロセスの途中、及びプロセス終了後にエッチング形状の確認は非常に重要である。
【0004】
パターンの立体形状を知るためには、ウェハを切断し、断面形状を測定することで正確な断面形状を得ることはできる。しかし、ウェハ面内の均一性を調べるには、手間とコストがかかる。このため、非破壊で異種材料に形成されるパターンの所望の高さでの寸法形状、断面形状または立体形状を精度良く測定する手法が望まれる。
【0005】
ここで、電子顕微鏡等に代表される顕微鏡にてウェハを破壊せずに立体形状を観察する一般的な方法には、ステレオ観察とトップダウン観察の二つの方法がある。
【0006】
例えば、特許文献1に記載されたステレオ観察では、試料台または電子線を傾けることで、試料に対する電子線の相対的な入射角度を変え、上面からの照射とは入射角度の異なる複数の画像によりパターンの高さ、側壁の傾き角度などの形状計測を行っている。
【0007】
また、特許文献2では、深穴や深溝のアスペクト比が大きくなると底部から放出される二次電子の検出効率が低下するため、高エネルギーの一次電子によって生成された反射電子(BSE:Backscattered electron、後方散乱電子とも呼ばれる)を検出し、穴が深くなる程BSE信号量が減少するという現象を利用して、穴の底の深さを計測する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2003-517199号公報
【文献】特開2015-106530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
高アスペクト比のパターンのエッチング工程では側壁や底部の形状を制御することが難しくなり、異種材料界面での寸法変化、テーパー、bowing、twistingのような形状を呈することがある。このため、穴や溝の上面あるいは底面の寸法だけでなく、断面形状も重要な評価項目である。また、ウェハ面内均一性が高いレベルで要求されるため、面内ばらつきを検査・計測し、デバイス製造工程(例えばエッチング装置)にフィードバックすることが歩留まり向上の鍵であるといえる。
【0010】
しかしながら、特許文献1では複数の角度による計測が必須であり、計測時間の増大や解析方法の複雑化などの課題がある。しかも、パターンのエッジ(端)のみの情報しか得ることができないため、連続的な立体形状の計測ができない。
【0011】
また、特許文献2では標準試料や穴深さが既知の実測データを基準として、穴底が深いと透過反射電子の絶対信号量が減るという現象を利用し、穴の底の深さ計測を行うことが開示されている。しかしながら、異種材料に形成される穴から検出された反射電子信号強度には、穴内部の連続的な立体形状情報(パターン上面までの高さ)と材料情報(材料種に依存する反射電子信号強度)の双方の影響を受けるため、反射電子信号強度に基づき深さ情報や三次元形状を検出するには、この2つの情報を切り分けないと高精度な断面形状または三次元形状測定を行うことはできない。特許文献2には、このような2つの情報の切り分けについて説明されていない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施態様であるパターン計測装置は、複数の異なる材料が積層された試料に形成されたパターンの立体形状を計測するパターン計測装置であって、パターンを構成する材料のそれぞれについて、当該材料における単位距離において当該材料と電子とが散乱を起こす確率を表す減衰率を記憶する記憶部と、一次電子ビームをパターンに対して走査することにより放出される後方散乱電子を検出して作成されるBSE画像におけるパターンの上面位置、底面位置及び異なる材料同士が接する界面位置を抽出し、パターンの任意位置について上面位置からの深さを算出する演算部とを有し、演算部は、BSE画像におけるパターンの前記上面位置と前記底面位置とのコントラストに対するパターンの当該任意位置と底面位置とのコントラストの比率と、記憶部に記憶されたパターンの底面位置の材料の減衰率及びパターンの当該任意位置の材料の減衰率とを用いてパターンの当該任意位置の上面位置からの深さを算出する。
【0013】
本発明の他の実施態様であるパターン計測装置は、複数の異なる材料が積層された試料に形成されたパターンの立体形状を計測するパターン計測装置であって、一次電子ビームを試料に対して照射する電子光学系と、一次電子ビームをパターンに対して走査することにより放出される二次電子を検出する第1電子検出器と、一次電子ビームをパターンに対して走査することにより放出される後方散乱電子を検出する第2電子検出器と、第1電子検出器または第2電子検出器の検出信号から画像を形成する画像処理部と、パターンの断面画像から抽出されるパターンの側壁の断面プロファイルと第2電子検出器の検出信号から画像処理部が形成したBSE画像から抽出される所定の方位に沿ったパターンの側壁からの後方散乱電子信号強度を示すBSEプロファイルとを比較して、パターンを構成する材料に対応させてBSEプロファイルを区分し、区分されたBSEプロファイルにおけるパターンの上面位置からの深さと後方散乱電子信号強度との関係から当該材料の減衰率を求める演算部とを有する。
【0014】
本発明の更に他の実施態様であるパターン計測方法は、複数の異なる材料が積層された試料に形成されたパターンの立体形状を計測するパターン計測方法であって、パターンを構成する材料のそれぞれについて、当該材料における単位距離において当該材料と電子とが散乱を起こす確率を表す減衰率をあらかじめ記憶し、一次電子ビームをパターンに対して走査することにより放出される後方散乱電子を検出して作成されるBSE画像におけるパターンの上面位置、底面位置及び異なる材料同士が接する界面位置を抽出し、BSE画像におけるパターンの上面位置と底面位置とのコントラストに対する前記パターンの任意位置と底面位置とのコントラストの比率と、パターンの底面位置の材料の減衰率及びパターンの当該任意位置の材料の減衰率とを用いてパターンの当該任意位置の上面位置からの深さを算出する。
【発明の効果】
【0015】
異種材料に形成される深穴や深溝などの立体構造に関して、精度よく断面形状あるいは立体形状を計測することを可能とする。
【0016】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】パターンの立体形状を測定する原理を説明する図である。
【
図3】パターンの立体形状を測定するシーケンスを示すフローチャートである。
【
図5A】断面画像を用いて減衰率μの推定方法を説明する図である。
【
図5B】断面画像を用いて減衰率μの推定方法を説明する図である。
【
図5C】断面画像を用いて減衰率μの推定方法を説明する図である。
【
図6A】材料情報を用いて減衰率μの推定方法を説明する図である。
【
図6B】材料情報を用いて減衰率μの推定方法を説明する図である。
【
図7A】BSE微分信号波形(dI/dX)の例(模式図)である。
【
図7B】界面深さと寸法を算出する方法を説明する図である。
【
図9A】パターンの立体形状をオフライン測定するシーケンスを示すSEMのフローチャートである。
【
図9B】パターンの立体形状をオフライン測定するシーケンスを示す計算用サーバのフローチャートである。
【
図10A】複数の材料が積層された試料に形成されたパターンの例である。
【
図10B】複数の材料が周期的に積層された試料に形成されたパターンの例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、半導体製造過程での半導体ウェハなどの観察あるいは計測において、異種材料の積層体に形成されたアスペクト比が高い穴パターンや溝パターンの断面形状あるいは立体形状を測定する計測装置、計測方法について説明する。観察対象とする試料としてはパターンが形成された半導体ウェハを例示するが、半導体のパターンに限らず、電子顕微鏡や他の顕微鏡で観察しうる試料であれば適用可能である。
【0019】
図1に、本実施例のパターン計測装置を示す。パターン計測装置の一態様として、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いる例を示す。走査電子顕微鏡本体は、電子光学カラム1と試料室2で構成される。カラム1の内側には、電子光学系の主要な構成として、電子を発生させ、所定の加速電圧でエネルギーを与えられた一次電子ビームの放出源である電子銃3、電子ビームを集束するコンデンサレンズ4、一次電子ビームをウェハ(試料)10上で走査する偏向器6、及び一次電子ビームを集束して試料に照射する対物レンズ7が備えられている。また、一次電子ビームを理想光軸3aから離軸させ、離軸したビームを理想光軸3aに対して傾斜した方向に向かって偏向することで、傾斜ビームとする偏向器5が設けられている。これらの電子光学系を構成する各光学要素は電子光学系制御部14により制御される。試料室2に設置されるXYステージ11上には試料であるウェハ10が載置され、ステージ制御部15から与えられる制御信号に従いウェハ10を移動させる。制御部16の装置制御部20は、電子光学系制御部14やステージ制御部15を制御することにより、ウェハ10の観察領域上に一次電子ビームを走査する。
【0020】
本実施例では高アスペクト比の深穴や深溝の立体形状を計測するため、パターンの深い部分にまで到達し得る高エネルギー(高加速電圧)の一次電子ビームをウェハ10に照射する。一次電子ビームがウェハ10上で走査されることにより発生する電子は、第1電子検出器8および第2電子検出器9によって検出される。各検出器から出力される検出信号は、それぞれアンプ12およびアンプ13によって信号変換され、制御部16の画像処理部17に入力される。
【0021】
第1電子検出器8は試料に一次電子ビームが照射されることによって生じた二次電子を主として検出する。二次電子は一次電子が試料内で非弾性散乱することによって試料を構成する原子から励起された電子であって、そのエネルギーが50eV以下のものをいう。二次電子の放出量は試料表面の表面形状に敏感であるため、第1電子検出器8の検出信号は主にウェハ表面(上面)のパターン情報を示す。一方、第2電子検出器9は試料に一次電子ビームが照射されることによって生じた後方散乱電子を検出する。後方散乱電子(BSE:backscattered electron)は、試料に照射された一次電子が散乱の過程で試料表面から放出されたものである。一次電子ビームが平坦な試料に照射される場合、BSEの放出率には主に材料情報が反映されている。
【0022】
制御部16は図示しない入力部、表示部を有し、立体形状を計測するために必要な情報が入力され、その情報は記憶部19に記憶される。詳細は後述するが、計測対象パターンについての断面情報や計測対象パターンを構成する材料についての材料情報データベースなどが記憶部19に格納される。また、画像処理部17から出力される画像も記憶部19に記憶される。
【0023】
演算部18は、詳細は後述するが、SEMで撮像された画像(BSE画像、二次電子画像)、及び計測対象パターンについての断面情報を用いて計測対象パターンの立体形状パターンを計測するためのパラメータである減衰率の演算や、計測対象パターンの深さや寸法の算出を行う。
【0024】
なお、本実施例のパターン計測装置はパターンの三次元モデル構築も可能なものであるが、三次元モデル構築には計算機の高い処理能力が必要となるため、制御部16とネットワーク21により接続される計算用サーバ22を設けてもよい。これにより画像取得後の迅速な三次元モデル構築が可能となる。計算用サーバ22を設けることは三次元モデル構築目的に限定されるものではない。例えば、パターン計測をオフラインで行う場合には、制御部16における演算処理を計算用サーバ22に行わせることにより、制御部16の演算リソースを有効利用できる。この場合、ネットワーク21に複数台のSEMを接続することで一層効率的な運用が可能になる。
【0025】
図2を用いて、本実施例におけるパターンの立体形状を測定する原理について説明する。この例での測定対象は、平均原子番号が異なる2種類の材料が積層された試料200に所定の密度で設けられた穴パターンである。分かりやすさのため、図では1つの穴パターンのみを示すとともに、穴パターンの形状は誇張して示している。
【0026】
本実施例のパターン形状測定においては、穴205の側壁に一次電子ビームが照射されることによって、電子が試料内部を散乱し、試料表面を透過して飛び出したBSEを検出する。なお、パターンが3D-NAND、DRAMのような深さ3μm以上の深穴または深溝である場合、一次電子ビームの加速電圧は5kV以上、好ましくは30kV以上である。
図2には試料表面(パターン上面)に照射された一次電子ビーム211に対してBSE221が放出される様子、材料1と材料2との界面201に照射された一次電子ビーム212に対してBSE222が放出される様子、穴205の底面に照射された一次電子ビーム213に対してBSE223が放出される様子を模式的に示している。
【0027】
ここで、試料内での電子の散乱領域に比べて試料200に形成された空洞となる高アスペクト比の穴や溝の体積は非常に小さく、電子の散乱軌道には影響が極めて小さい。また、一次電子ビームは穴205の傾斜した側壁に所定の入射角度で入射されるが、一次電子ビームが高加速度かつ入射角度が小さい場合には、電子の散乱軌道に与える入射角度の違いの影響は無視できる程度であることがわかった。
【0028】
さらに、穴205は異なる材料が積層された試料に形成されており、BSEの発生量は材料の平均原子番号に依存することが知られている。
【0029】
すなわち、穴205に対して一次電子ビームを走査して得られるBSE信号強度230は、一次電子ビームの入射位置から表面までの平均的な移動距離に依存するとともに、電子の散乱領域が包含される材料の平均原子番号にも依存する。BSE信号強度Iの大きさは(数1)で表すことができる。
【0030】
【数1】
ここで、初期BSE信号強度I
0は一次電子ビームの照射位置にて発生するBSE信号強度であり、一次電子ビームの加速電圧、すなわち一次電子のもつエネルギーに依存する。減衰率μは減衰の速さを表す物理量であり、電子が通過する単位距離において固体材料と散乱を起こす確率を表している。減衰率μは材料に依存する値をもつ。通過距離hは一次電子ビームの照射位置の試料表面(パターン上面)からの深さである。
【0031】
検出されるBSE信号強度Iは、このように一次電子ビームの照射位置から試料表面までの平均的な距離hと減衰率μの関数として表すことができる。すなわち、一次電子ビームの照射位置が穴の底面に近づくほど電子の固体内通過距離が長くなることで、エネルギー損失が大きくなり、BSE信号強度が低下する。また、BSE信号強度が低下する程度は試料を構成する材料に依存する。試料200を構成する2種類の材料について、材料2の方が材料1よりも単位体積あたりの原子の数が多いとすると、材料2の散乱確率は材料1の散乱確率よりも大きくなり、エネルギー損失も大きくなるからである。この場合、材料1の減衰率μ1と材料2の減衰率μ2との間にはμ1<μ2の関係をもつ。
【0032】
換言すれば、検出されたBSE信号強度IはBSEが放出された深さ位置情報と電子の散乱領域の材料についての情報の双方を含んでいる。そこで、測定対象とする穴パターンや溝パターン等を構成する材料それぞれについての減衰率μをあらかじめ取得しておくことにより、これらのパターンに一次電子ビームを走査して得られるBSE信号強度に含まれる材料の相違による影響を除去し、パターンの深さ情報(立体情報)を精度よく算出することが可能になる。
【0033】
図3は、本実施例のパターン計測装置を用いて、パターンの立体形状を測定するシーケンスである。まず、測定対象となるパターンが形成されたウェハをSEMの試料室に導入する(ステップS1)。次に、測定対象となるパターンは測定条件の設定の必要な新しい試料かを判断する(ステップS2)。既存の測定レシピにしたがってパターン計測すればよい試料の場合、当該測定レシピにしたがって立体形状の測定を行い、測定結果を出力する(ステップS9)。測定レシピのない試料の場合、まず、パターンを撮像するために適切な光学条件(加速電圧、ビーム電流、ビーム開き角等)を設定する(ステップS3)。次に、測定対象パターンを構成する材料種類の数を、GUIを用いて入力する(ステップS4)。測定対象パターンの低倍率画像及び高倍率BSE画像それぞれの撮像条件を設定し、画像を取得し、登録する(ステップS5)。次に、測定対象パターンの構造情報を、GUIを用いて入力する(ステップS6)。測定対象パターンの断面画像を用いることが望ましいが、必ずしもそのような断面画像を入手できない場合もあることを考慮し、複数の構造情報入力方法を設けている。入力された構造情報に基づき、対象パターンを構成する各材料の減衰率μを算出し、保存する(ステップS7)。続いて、測定する立体パターンの測定項目を設定する(ステップS8)。以上のステップにより、パターンの立体形状を測定するための測定レシピが整う。
【0034】
測定レシピにしたがって立体形状の測定を行い、形状を測定した結果を出力する(ステップS9)。そして最後の試料かを判断し(ステップS10)、最後の試料でなければステップS1に戻って次の試料の測定を開始する。ステップS10で最後の試料であれば、測定を終了する。
【0035】
図4は、
図3に示したシーケンスを実行するためのGUI400の例である。GUI400には、光学条件(Optical condition)入力部401と測定対象パターン登録(Registration of target pattern)部402の2つの部分を有する。
【0036】
まず、光学条件の設定(ステップS3)では、光学条件入力部401を用いて、現在設定されている光学条件(Current)もしくは測定対象パターンを撮像するのに適切な光学条件番号(SEM condition No)を設定する。SEMにはあらかじめ、パターンを撮像するための複数の光学条件(加速電圧、ビーム電流、ビーム開き角等の組み合わせ)が保存されており、ユーザはそのいずれかを指定することで光学条件を設定できる。
【0037】
続いて、ユーザは、測定対象パターン登録部402を用いて、測定対象パターンについての登録を行う。まず、材料構成入力部403に測定対象パターンを構成する材料種類の数を入力する(ステップS4)。この例では「2種類」と選択されている。
【0038】
続いて、測定対象パターンの画像を、低倍率画像及び高倍率BSE画像のそれぞれを登録する(ステップS5)。トップビュー画像登録部404は、低倍率画像登録部405と高倍率BSE画像登録部408を含む。まず、低倍率画像登録部405にて、撮像条件選択ボックス406で、測定対象パターンを視野の中央に配置するように指定し、低倍率画像407を撮像し、登録する。低倍率画像407は試料表面の形状観察に適した二次電子画像とすることが望ましい。また、光学条件で設定された加速電圧に応じて、撮像視野は一次電子ビームの散乱領域より広く設定することが望ましい。例えば、材料SiO2に形成された周期的パターンを測定する場合であれば、視野を5μm×5μm以上に設定するようにする。続いて、高倍率BSE画像登録部408にて、撮像条件選択ボックス409で、測定対象パターンを視野の中央に配置するように指定し、高倍率BSE画像410を撮像し、登録する。例えば、撮像条件選択ボックス409で選択する撮像条件はフォーカス、スキャンモード、一次ビームの入射角度などである。
【0039】
続いて、測定対象パターンの構造情報を、構造入力部411を用いて入力する(ステップS6)。上述のように、測定対象パターンの構造情報の入力方法を複数設けておき、ユーザはそのいずれかの入力方法を選択して入力するものとする。
【0040】
第1の方法は断面画像を入力する方法である。例えば、ユーザは、事前にSEM、FIB-SEM(集束イオンビーム顕微鏡)、STEM(走査透過電子顕微鏡)、AFM(原子間力顕微鏡)などを用いて対象パターンの断面構造を撮像しておき、断面画像入力部412からその断面画像を登録する。第2の方法は設計データを入力する方法である。設計データ入力部413からデバイスの設計データ(CAD図面)を登録する。あるいは、それらのいずれでもない、デバイスの断面形状を記憶するファイルを用いてもよい。その場合は、断面情報入力部414から当該ファイルを読み込ませる。
【0041】
一方、断面構造を含む画像や設計データ等の断面画像入力ができない場合、マニュアル入力部415から、対象パターンの上面から下面まで含む材料の種類、膜厚を順次に指定する。マニュアル入力部415には層別入力ボックス416が設けられ、対象パターンを構成する層ごとの材料情報を入力可能としている。あらかじめ材料の材料情報データベースを備え、材料選択部417にて層を構成する材料を選択することで、材料情報データベースから当該材料の物理パラメータを自動的に入力する。材料の物理パラメータを実測して用いたい場合等には、ユーザ定義部418から物理パラメータを個別入力する。入力に必要な物理パラメータは、層の材料の平均原子番号を算出するために必要な物理パラメータである。また、膜厚入力部419から層の膜厚を入力する。
【0042】
以上入力された測定対象パターンの構造情報から各層ごとの減衰率μが推定して保存するとともに、減衰率表示部420に表示する(ステップS7)。以下、減衰率μを推定する方法について説明する。
【0043】
測定対象パターンの構造情報として断面画像が入力された場合の減衰率μの推定方法について
図5A~Cを用いて説明する。まず、
図5Aに示すように、断面画像500から測定対象パターンの断面プロファイル501を取得する。測定対象パターンの断面プロファイルとは、パターンの幅方向をX軸、パターンの上面に垂直な深さ方向をZ軸としたときに、パターンの断面を座標(X,Z)により表現したデータである。断面プロファイルは、輪郭抽出手段として信号の微分処理や、ハイパスフィルタによる処理など、公知の手段を用いて得ることができる。二次元画像の場合、エッジに鋭利に反応するように高階層の微分を用いても良い。断面プロファイル501にあらわれる左右の傾斜部502が測定対象パターンの側壁である。測定対象パターンの側壁(傾斜部502)の断面プロファイルに該当するパターン上面-パターン底面間の座標(X,Z)を抽出する。なお、測定対象パターンの側壁に該当する座標(X,Z)を機械学習モデルにより抽出してもよい。
【0044】
次に、
図5Bに示すように、高倍率BSE画像510から、指定された方位512について測定対象パターンのBSEプロファイル511を取得する。測定対象パターンのBSEプロファイルとは、横軸に指定された方位(X軸とする)の座標、縦軸にBSE信号強度Iをとって、ある一方向にそったBSE信号強度(X,I)を表現したデータである。BSEプロファイル511における穴の上面と底面の位置を決定する。BSEプロファイル511に対して、パターンの上面位置を決定するための第1の閾値Th1、パターンの底面位置を決定するための第2の閾値Th2を設定する。閾値は、BSE信号強度Iのノイズによるばらつきが極力小さくなるような値に設定する。例えば、第1の閾値Th1をBSEプロファイル511における信号波形の全高の90%、第2の閾値Th2を信号波形の全高の0%として設定する。なお、上述の閾値の値は一例である。
【0045】
なお、高倍率BSE画像510を取得するときに同時に高倍率二次電子画像を取得していれば、当該高倍率二次電子画像を用いて上面位置を決定することが望ましい。二次電子画像ではパターンのエッジが高コントラストにあらわれるため、より高い精度で上面位置を決定することができる。このため、ステップS5(
図3参照)あるいはステップS9においては、第2電子検出器9で検出される信号に基づき生成されるBSE画像とともに、第1電子検出器8で検出される信号に基づき生成される二次電子画像も同時に取得しておくことが望ましい。このようにBSEプロファイル511においてパターンの上面及び底面の位置が決まると、上面位置513から底面位置514との間、すなわち測定対象パターンの側壁のBSE信号波形515を抽出する。
【0046】
続いて、断面プロファイル501から抽出した側壁座標(X,Z)とBSEプロファイル511から抽出した側壁のBSE信号波形(X,I)とを用い、X座標をキーとして、Z座標を横軸に、BSE信号強度Iを縦軸にとったBSEプロファイル521を作成する。このようにして得られるBSEプロファイル521(模式図)を
図5Cに示す。このとき、断面画像500のX方向のピクセルサイズと高倍率BSE画像510のX方向のピクセルサイズとは通常異なっているため、両者が同じ大きさになるように調整する必要がある。例えば、断面プロファイル501のピクセルサイズが大きい場合には、内挿法によりデータを増やしてマッチングしても良い。
【0047】
BSEプロファイル521は、横軸に深さ方向、縦軸にBSE信号強度をとったものであり、BSE信号波形522は材料の違いによって異なる傾斜をもった部分を有する。そこで、上面から界面の範囲523におけるBSE信号波形及び底面から界面の範囲524におけるBSE信号波形を区分し、それぞれ(数1)にフィッティングすることによって各材料の減衰率μを算出し、記憶しておく。なお、
図5Cは模式図であって、実際には界面付近においてはBSE散乱領域に複数の材料層が含まれる影響により、
図5Cのように明確な変曲点はみえない可能性がある。このため、フィッティングにあたり界面付近のデータの重み付けを低くしてもよい。
【0048】
次に、測定対象パターンの構造情報がマニュアル入力された場合の減衰率μの推定方法について
図6A~Bを用いて説明する。この場合、あらかじめ半導体デバイスにおいてよく用いられる材料について、あらかじめ材料密度および加速電圧ごとの減衰
率μ0をモンテカルロシミュレーションにより計算し、データベース化しておく。材料は、パターンが形成されない単一層として計算する。
図6Aは、ある材料について、加速電圧15,30,45,60kVの場合の材料密度と減衰
率μ0との関係を模式的に示したものである。なお、減衰
率μ0はテーブルとして格納しても、関係式として格納してもよい。
【0049】
計測対象とするデバイスは、異種材料の積層体に対して深穴や深溝といったパターンが周期的に形成されたデバイスとする。密集して形成されたパターンは材料密度を低減させることによって、電子の散乱、すなわち検出されるBSE信号強度に影響を与える。そこで、「パターン密度」を、周期的に形成されるパターンにおいて、最小ユニット面積に占めるパターン(例えば深穴、または深溝)開口面積の割合と定義すると、パターン密度が増えるにつれ、材料の中に真空となる部分が増えることによって試料の平均密度は減少するといえる。散乱される電子の通過距離が同じであっても、材料原子との散乱によるエネルギー損失が減少するため、検出されるBSE信号強度は増大する。すなわち、減衰率μと材料の平均密度とは逆比例の関係にある。
【0050】
この関係を利用し、登録された測定対象パターンの低倍率画像407からパターン密度を算出し、パターンがない場合における当該材料の密度及び試料のパターン密度から、試料を構成する各層の材料の平均密度を算出できる。
図6Bは、低倍率画像407の2値化画像601(模式図)である。試料表面の画素値を1、パターンである穴の開口の画素値を0とする。2値化画像601に対して、周期パターンの単位ユニット602(単位ユニット602を敷き詰めることで周期パターンが形成されるように単位ユニットを定める)を定め、単位ユニット602全体の画素に対して、画素値が0である画素の占める割合を算出することで、パターン密度を算出する。
【0051】
以上の手順により、ユーザは測定対象パターンの構造情報を、断面画像として入力した場合であっても、マニュアル入力した場合であっても、パターンを構成する各層ごとの材料の減衰率μを得ることができる。
【0052】
測定対象パターンを構成する各材料の減衰率μを用いてパターンの深さ情報(立体形状)の計測を行う方法について説明する。まず、測定対象の試料に形成されたパターンのBSE画像からBSEプロファイルを取得し、BSEプロファイルにおける穴の上面と底面の位置を決定する。BSEプロファイルにおける穴の上面と底面の位置の決定方法は、測定レシピの作成において
図5Bを用いて説明した通りの処理であり、重複する説明は省略する。上面位置と底面位置とが決定されると、上面位置から底面位置との間、すなわち測定対象パターンの側壁のBSE信号波形(X,I)を得、BSE信号波形(X,I)を微分処理する。BSE信号波形(X,I)を微分したBSE微分信号波形(dI/dX)701の例(模式図)を
図7Aに示す。材料の異なる層の界面においてBSE微分信号波形の不連続点を生じ、この不連続点がX方向における界面座標X
INTである。なお、界面座標X
INTを求めるにあたり、鋭利に反応するように高階層の微分でも良く、あるいは側壁からのBSE信号強度の傾きの不連続性を判断する他の信号処理を行ってもよい。
【0053】
界面座標X
INTに対応する界面でのBSE信号強度I
INT、取得した材料1の減衰率μ
1及び材料2の減衰率μ
2を用いて、界面の深さh
int(パターン上面からの距離)及び寸法dを算出する方法について
図7Bを用いて説明する。寸法dはBSE信号強度I
INTを有するBSE信号波形711の2点のX座標の差により求めることができる。一方、界面におけるBSE相対信号強度nI
INTは(数2)により表すことができる。ここで、BSE相対信号強度nIとは、パターン上面でのBSE信号強度を1、パターン底面でのBSE信号強度を0として正規化した信号強度であり、パターンの上面位置と底面位置とのコントラストに対するパターンの界面位置と底面位置とのコントラストの比率である。また、パターン全体の深さをHとする。
【0054】
【数2】
これより、界面の深さh
intの全体深さHに対する割合を求めることができる。なお、ここでは詳細は省略するが、全体深さHは、一次電子ビームを試料表面に対して傾斜させて入射させてBSE画像を取得し、一次電子ビームを試料表面に垂直に入射させたBSE画像と傾斜させて入射させたBSE画像とにおける穴の底面の位置ずれの大きさと一次電子ビームの傾斜量との関係から全体深さHを求めることができる。全体深さHの絶対値を求めることで、界面の深さh
intを求めることができる。
【0055】
計測できる深さは界面の深さには限られず、任意の位置での寸法、深さを得ることができる。あるいは連続的に寸法と深さとを取得することにより断面形状を得ることができる。このように任意の位置でのパターン深さhは(数3)を用いて算出できる。
【0056】
【数3】
ここで、減衰率μ
*は、求める深さが界面より上に位置する場合には減衰率μ
1であり、求める深さが界面より下に位置する場合には減衰率μ
2である。
【0057】
以上、X方向の断面について説明してきたが、BSE信号強度を抽出する方位を変えて、複数方位での断面情報を得ることも可能であり、さらに多数の方位の断面情報を総合することで三次元モデルを得ることもできる。
【0058】
図8Aに、
図3に示したシーケンスのステップS8(形状測定の項目設定)を実行するためのGUI800の例を示す。計測位置指定部801において指定された計測位置の寸法を測定するものとする。計測位置を指定するため、パターンを構成する層の界面を指定する界面指定部802と、特定深さでの寸法計測を指示する深さ指定部803とを備える。このとき、パターン表示部804に断面情報を表示し、指定された計測位置をカーソル805により表示することが望ましい。この場合、カーソル805をユーザが動かせるようにして、計測位置を断面情報から指定できるようにしてもよい。また、これ以外にも、断面プロファイル上の側壁角度、最大寸法と最大寸法に位置する深さなどによって計測位置を指定できるようにしてもよい。また、計測位置指定部801は、タグ806を追加することにより、1つのパターンに対して複数個所の計測を行うことができるようにされている。さらに、方位指定部807により計測する断面の方位が指定可能であり、3Dプロファイル選択部808が選択された場合には、複数の方位での測定を行い、3次元モデルを求めることが可能とされている。
【0059】
本実施例にかかるパターン計測装置における形状測定結果の出力画面の例を説明する。
図8Bは計測対象パターンのウェハ面内ばらつきを表示する出力画面の例である。ウェハマップ810内の四角形はそれぞれ計測したパターンが存在する領域(例えばチップ)811を表している。例えば、測定した形状が適正であれば薄い色で表示し、適正値から乖離した程度が大きい程濃い色で表示する。このように、ウェハの異なる場所で行った測定結果をマッピングして表示することで、ウェハ面内ばらつきを一覧で表示することが可能になる。
【0060】
さらに、ユーザが測定結果の詳細を知りたい場合、ウェハマップ810の上で特定の領域を指定し、測定対象パターンの撮像画像から得られた寸法値測定結果、深さ(高さ)情報、断面プロファイル情報、三次元プロファイル情報などを
図8Cのように表示する。また、設計値を基準として、測定値が指定される閾値範囲を超える場所をマップで表示することもできる。このような様々の表示を行うことで、ユーザは効率よく情報を得ることができる。
【0061】
図1において、SEMをネットワーク21により計算用サーバ22に接続する例を示したが、
図9A,BにSEMでは画像を取得、保存し、接続される計算用サーバ22に転送し、計算用サーバ22にて計測レシピの作成や試料の立体形状の測定をオフラインで行うフローを示す。
図3と共通するステップについては、
図3と同じ符号で示すことにより、重複する説明を省略する。
図9Aは、SEMの制御部16が実行するフローである。SEM本体は専ら計測に必要な画像を取得する。計測対象パターンの測定レシピが存在しない場合には、減衰率μを求めるための画像を含め、計算用サーバ22に取得画像を転送する(ステップS11)。また、BSE画像とともに二次電子画像を取得している場合には、二次電子画像についても計算用サーバ22に転送する。
【0062】
図9Bは、計算用サーバ22が実行するフローである。ネットワークに接続されたSEMから転送された画像をロードする(ステップS12)。転送された画像に対して、測定レシピを設定する必要がある場合には、転送された画像に含まれる低倍率画像及び高倍率BSE画像に用いてステップS4~ステップS8を実行し、測定レシピを設定する。設定された測定レシピにしたがい、SEMがステップS11にて取得したBSE画像から測定対象パターンの立体形状を計測し、計算用サーバ22の備える表示部等に形状測定結果を出力する(ステップS13)。また、測定レシピが既に存在する場合には、SEMからはステップS11にて取得したBSE画像のみが転送されるので、既存の測定レシピにしたがって測定対象パターンの立体形状を計測し、形状測定結果を出力する(ステップS13)。
【0063】
また、2種類の材料が積層されている試料を例に本実施例について説明したが、計測対象パターンはパターンを構成する層の数に制約はない。
図10Aは2種類以上の材料が積層された試料900に形成されたパターンとそのBSE信号強度(ln(I/I
0))を示している。
図10Bは材料Aと材料Bが交互に積層された試料910に形成されたパターンとそのBSE信号強度(ln(I/I
0))を示している。積層数には制限はない。いずれもBSE信号強度に材料の界面が明瞭に表れており、本実施例の測定方法により有効に立体形状の測定が可能である。
【0064】
これに対して、異なる材料間の界面が不明瞭になる場合がある。第1の場合は、隣接する2層を形成する第1の材料と第2の材料との原子番号、密度が近似している場合である。この場合、両材料の減衰率が近似することになり、分離することが難しくなる。第2の場合は、膜厚が薄い場合である。層の膜厚が薄く、試料内で電子が一回散乱するまでに進む距離に複数の材料の層が含まれてしまう場合には、材料の減衰率が大きく異なっていても、界面は明瞭には表れない。このように側壁の高さに対する減衰率の違いが区別できなくなる場合には、一つの層として扱って立体形状の計測を行うとよい。
【0065】
以上、本発明について図面を用いて説明した。ただし、本発明は以上に示した実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではなく、本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることが可能である。すなわち、本発明は説明する実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。説明する実施例は本発明を分かりやすく説明するために構成を詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、矛盾が生じない範囲にて他の構成に追加、削除、置換することが可能である。
【0066】
また、図面等において示す各構成の位置・大きさ・形状・及び範囲等は、発明の理解を容易にするため、実際の位置・大きさ・形状・及び範囲等を表していない場合がある。したがって、本発明では、図面等に開示された位置・大きさ・形状・及び範囲等に限定されない。
【0067】
また、実施例において、制御線や情報線は、説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。例えば全ての構成が相互に接続されていてもよい。
【0068】
また、本実施例に示した各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。あるいは、ソフトウェアのプログラムコードによって実現してもよい。この場合、プログラムコードを記録した記憶媒体をコンピュータに提供し、そのコンピュータが備えるプロセッサが記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出す。この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が前述した実施例の機能を実現することになり、そのプログラムコード自体、及びそれを記憶した記憶媒体が本発明を構成することになる。
【符号の説明】
【0069】
1:電子光学カラム、2:試料室、3:電子銃、3a:理想光軸、4:コンデンサレンズ、5,6:偏向器、7:対物レンズ、8:第1電子検出器、9:第2電子検出器、10:ウェハ、11:XYステージ、12,13:アンプ、14:電子光学系制御部、15:ステージ制御部、16:制御部、17:画像処理部、18:演算部、19:記憶部、20:装置制御部、21:ネットワーク、22:計算用サーバ、200,900,910:試料、201:界面、205:穴、211,212,213:一次電子ビーム、221,222,223:BSE、230:BSE信号強度、400,800:GUI、401:光学条件入力部、402:測定対象パターン登録部、403:材料構成入力部、404:トップビュー画像登録部、405:低倍率画像登録部、406,409:撮像条件選択ボックス、407:低倍率画像、408:高倍率BSE画像登録部、410,510:高倍率BSE画像、411:構造入力部、412:断面画像入力部、413:設計データ入力部、414:断面情報入力部、415:マニュアル入力部、416:層別入力ボックス、417:材料選択部、418:ユーザ定義部、419:膜厚入力部、420:減衰率表示部、500:断面画像、501:断面プロファイル、502:傾斜部、511:BSEプロファイル、512:方位、513:上面位置、514:底面位置、515:BSE信号波形、521:BSEプロファイル、522:BSE信号波形、523,524:範囲、601:2値化画像、602:単位ユニット、701:BSE微分信号波形、711:BSE信号波形、801:計測位置指定部、802:界面指定部、803:深さ指定部、804:パターン表示部、805:カーソル、806:タグ、807:方位指定部、808:3Dプロファイル選択部、810:ウェハマップ、811:領域。