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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】樹脂組成物、成形体、積層体及び接着剤
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20221101BHJP
   C08G 59/20 20060101ALI20221101BHJP
   B32B 27/38 20060101ALI20221101BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20221101BHJP
   C09J 7/00 20180101ALI20221101BHJP
   C09J 163/02 20060101ALI20221101BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08G59/20
B32B27/38
B32B27/18 Z
C09J7/00
C09J163/02
C09J11/06
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2017556765
(86)(22)【出願日】2017-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2017016715
(87)【国際公開番号】W WO2017191801
(87)【国際公開日】2017-11-09
【審査請求日】2020-04-02
(31)【優先権主張番号】P 2016093211
(32)【優先日】2016-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】高田 新吾
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大介
(72)【発明者】
【氏名】永田 寛和
(72)【発明者】
【氏名】松本 広臣
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-245715(JP,A)
【文献】国際公開第2010/016480(WO,A1)
【文献】特開2015-224329(JP,A)
【文献】特開2015-007214(JP,A)
【文献】特開2015-174906(JP,A)
【文献】特開2011-026383(JP,A)
【文献】特開2012-012585(JP,A)
【文献】特開平10-183086(JP,A)
【文献】特開2012-092297(JP,A)
【文献】特開2012-077123(JP,A)
【文献】特開2015-209477(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63/00 - 63/10
C08G 59/00 - 59/72
B32B 27/00 - 27/42
C09J 1/00 - 201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多環芳香族エポキシ樹脂(A1)と、
炭素数が6以上である脂肪族炭化水素構造を有し、芳香環構造を有さない非芳香族エポキ
シ樹脂(A2)と、
エポキシ当量が2,000~50,000g/当量であるフェノキシ樹脂と、を含有し、
熱伝導性フィラー(B)が、大粒径(B1)、中粒径(B2)、小粒径(B3)の3成分
を含有し、
前記多環芳香族エポキシ樹脂(A1)は、下記構造式(1)~(3)からなる群から選
択される1種以上の多環芳香族エポキシ樹脂であり、
【化1】
前記非芳香族エポキシ樹脂(A2)は、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、C10~C18アルコールグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、および、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテルからなる群から選択される1種以上の非芳香族エポキシ樹脂であり、
前記フェノキシ樹脂は、ビスフェノール化合物とエピハロヒドリンと反応させて得られる、エポキシ当量が2,000~50,000g/当量のフェノキシ樹脂であり、
前記熱伝導性フィラー(B)の3成分が、50%累積粒子径が100~10μmのフィラー(B1)、50%累積粒子径が30~1μmでかつフィラー(B1)の50%累積粒子径に対して1/10以上1/2以下であるフィラー(B2)、50%累積粒子径が5μm~100nmでかつフィラー(B2)の50%累積粒子径に対して1/100以上1/2以下であるフィラー(B3)であることを特徴とする、樹脂組成物。
【請求項2】
前記非芳香族エポキシ樹脂(A2)が、
エポキシ基由来酸素原子(モル数)/エポキシ基由来以外の酸素原子(モル数)≧1
である脂肪族エポキシ樹脂(A2-1)である、
請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記脂肪族エポキシ樹脂(A2-1)が、エポキシ基を3個以上含有することを特徴とする多官能脂肪族エポキシ樹脂(A2-2)である、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記多環芳香族エポキシ樹脂(A1)と前記非芳香族エポキシ樹脂(A2)の含有量の比率が、多環芳香族エポキシ樹脂(A1):非芳香族エポキシ樹脂(A2)=50:50~90:10である、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱伝導性フィラー(B)が、10W/mK以上の熱伝導率を有するものである、請求項1~4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
熱伝導性フィラー(B)が、酸化アルミニウム(アルミナ)、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、および、酸化マグネシウムからなる群から選ばれる1種である、請求項1~5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
熱伝導性フィラー(B)が、球状または多面体状である、請求項1~6のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記熱伝導性フィラー(B)が、樹脂組成物全体のうち70~95体積%である、請求項1~7のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項9】
更に、アミン系またはアミド系の潜在性硬化剤を含有する、請求項1~のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の樹脂組成物を成形してなる成形体。
【請求項11】
基材と請求項10に記載の成形体とを積層してなる積層体。
【請求項12】
請求項1~9のいずれかに記載の樹脂組成物を含有することを特徴とする接着剤。
【請求項13】
接着シートである、請求項12に記載の接着剤。
【請求項14】
請求項10に記載の成形体を有することを特徴とする電子部材。
【請求項15】
請求項10に記載の成形体を有することを特徴とする熱伝導性部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性と柔軟性に優れた樹脂組成物、及びそれを用いた積層体及び接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の小型化、高集積化に伴い、発熱とそれによる動作不良が問題となっている。そのため、電子部品を正常に作動させるためには、高い放熱性と耐熱性を両立した部材が求められている。特に熱伝導性と耐熱性を有する接着剤や接着シートは電子部品の小型化には特に有用であるため、開発が求められている。
高い熱伝導性を有する組成物としては、エポキシ樹脂などの樹脂組成物に、高熱伝導の無機フィラーを配合した組成物が開示されている。高い熱伝導性を発揮するには、高熱伝導性のフィラーを大量に配合する必要があるが、フィラー配合量が多くなるとシート等の成形体が硬脆くなり、熱伝導性部材として使用するためのハンドリング性が悪くなり、ハンドリングの際にクラックなどが発生するという課題があった。この課題に対し、特許文献1では炭素数が2~6であるアルキレンエーテル構造を有するエポキシ樹脂と高熱伝導性無機フィラーとを含有する放熱シートが開示されている。しかし、当該組成物はハンドリング性が改善されているものの、ガラス転移温度が低下し、耐熱性及び信頼性についての課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-69425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、熱伝導性とハンドリング性に優れ、なおかつ耐熱性も高い樹脂組成物、該樹脂組成物を成形してなる成形体、該組成物を含有する積層体及び接着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討した結果、多環芳香族エポキシ樹脂(A1)及び、炭素数が6以上である脂肪族炭化水素構造を有し、芳香環構造を有さない非芳香族エポキシ樹脂(A2)と熱伝導性フィラー(B)とを含有することを特徴とする樹脂組成物を提供することで、上記課題を解決できることを見出した。
【0006】
また、前記樹脂組成物において、非芳香族エポキシ樹脂(A2)が、
エポキシ基由来酸素原子(モル数)/エポキシ基由来以外の酸素原子(モル数)≧1
である脂肪族エポキシ樹脂(A2-1)である樹脂組成物を提供するものである。
【0007】
また、前記脂肪族エポキシ樹脂(A2-1)が、エポキシ基を3個以上含有することを特徴とする多官能脂肪族エポキシ樹脂(A2-2)である樹脂組成物を提供するものである。
【0008】
また、前記多環芳香族エポキシ樹脂(A1)が、エポキシ基を3個以上含有することを特徴とする多官能多環芳香族エポキシ樹脂(A1-2)である樹脂組成物を提供するものである。
【0009】
また、前記熱伝導性フィラー(B)が、10W/mK以上の熱伝導率を有するものである樹脂組成物を提供するものである。
【0010】
また、前記樹脂組成物を成形してなる成形体、および基材と該成形体とを積層してなる積層体を提供するものである。
【0011】
また、前記樹脂組成物を含有することを特徴とする接着剤を提供するものである。
【0012】
また、本発明の成形体を有することを特徴とする電子部材および熱伝導性部材を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の樹脂組成物は、多環芳香族エポキシ樹脂(A1)及び、炭素数が6以上である脂肪族炭化水素構造を有し、芳香環構造を有さない非芳香族エポキシ樹脂(A2)を含有することで、高い耐熱性とハンドリング性を両立することができる。また、熱伝導性フィラー(B)が高充填可能なため、本発明の樹脂組成物は、熱伝導性材料として好適に使用可能であり、該熱伝導性材料を用いた成形体及び積層体は熱伝導性が高い上にハンドリングが高いため、熱伝導性部材として好適に使用できる。特に小型化が進む電子部材として好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、多環芳香族エポキシ樹脂(A1)及び、炭素数が6以上である脂肪族炭化水素構造を有し、芳香環構造を有さない非芳香族エポキシ樹脂(A2)と熱伝導性フィラー(B)とを含有する樹脂組成物を開示するものである。
【0015】
<多環芳香族エポキシ樹脂(A1)>
本発明の多環芳香族エポキシ樹脂(A1)とは、芳香環を複数有しかつエポキシ基を有することを特徴とするエポキシ樹脂である。芳香環を複数有するとは、単環同士が直接結合あるいは縮合環を形成する場合と、前記の芳香環が更に直接結合あるいは連結基を介して結合した場合とが挙げられる。
多環芳香族エポキシ樹脂(A1)は、芳香環を複数有することから、エポキシ樹脂中に剛直な構造が導入されるため、樹脂組成物全体の耐熱性が向上する。多環芳香族エポキシ樹脂(A1)は、一種類でも良いし複数種を組み合わせて使用してもかまわない。
【0016】
本発明での単環の芳香環としては、ベンゼン環が挙げられる。
縮合環の芳香環としては、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ナフタセン環、ペンタセン環、ピレン環、クリセン環、トリフェニレン環等が挙げられる。
【0017】
連結基としては特に限定は無いが、例えば酸素、硫黄、窒素等の2価以上の原子、置換又は無置換の炭化水素基、カルボニル基(-CO-基)、エステル基(-COO-基)、アミド基(-CONH-基)、イミノ基(-C=N-基)、アゾ基(-N=N-基)、スルフィド基(-S-基)、スルホン基(-SO-基)、及びこれらを組み合わせてなる連結基が挙げられる。
芳香環同士の結合としては、直接結合、または、置換または無置換の炭素数が1である炭化水素基が連結基であると、耐熱性がより向上するため好ましい。
【0018】
本発明の多環芳香族エポキシ樹脂(A1)において、エポキシ基は芳香環に直接結合していても良いし、上記で述べたような連結基を介して結合しても良い。
【0019】
芳香環を複数有する構造としては、具体的には以下のような構造が挙げられる。
【0020】
【化1】
【0021】
また、本発明の多環芳香族エポキシ樹脂(A1)においては、芳香環を複数有する構造自体を複数有していても良い。
【0022】
本発明の多環芳香族エポキシ樹脂(A1)において、エポキシ基は2個以上有することが好ましい。とくに好ましくは、エポキシ基を3個以上含有することを特徴とする多官能多環芳香族エポキシ樹脂(A1-2)である。多官能多環芳香族エポキシ樹脂(A1-2)である場合、樹脂組成物の反応性が向上し、なおかつ硬化物中のネットワークが密となるため耐熱性が向上するため好ましい。非芳香族エポキシ樹脂(A2)は、一種類でも良いし複数種を組み合わせて使用してもかまわない。
【0023】
本発明の多環芳香族エポキシ樹脂(A1)において、好ましい構造は以下のようなものが挙げられる。



【0024】
<炭素数が6以上である脂肪族炭化水素構造を有し、芳香環構造を有さない非芳香族エポキシ樹脂(A2)>
本発明のエポキシ樹脂(A)は、炭素数が6以上である脂肪族炭化水素構造を有し、芳香環構造を有さない非芳香族エポキシ樹脂(A2)(以下、非芳香族エポキシ樹脂(A2)とする)を含有する。
本発明の非芳香族エポキシ樹脂(A2)は、炭素数が6以上である脂肪族炭化水素構造を有することから、組成物の柔軟性が向上しハンドリング性が良好となる。
【0025】
炭素数が6以上である脂肪族炭化水素構造を有し、芳香環構造を有さない非芳香族エポキシ樹脂(A2)としては、例えば、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、C10~C18アルコールグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0026】
本発明の非芳香族エポキシ樹脂(A2)は、エポキシ基由来酸素原子(モル数)/エポキシ基由来以外の酸素原子(モル数)≧1である脂肪族エポキシ樹脂(A2-1)(以下、脂肪族エポキシ樹脂(A2-1)とする)であることが好ましい。エポキシ基以外由来以外の酸素原子(例えばエーテルやエステル、アミドといった構造由来)が少ないことで、熱や水分による耐分解性が良好となるためである。また、炭素数が6以上である脂肪族炭化水素構造を有することから、樹脂の柔軟性が向上しハンドリング性が良好となるためである。本発明の脂肪族エポキシ樹脂(A2-1)は、両者を両立できることから好ましい。本発明の脂肪族エポキシ樹脂(A2-1)としては、例えば1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、C10~C18アルコールグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0027】
また、本発明の脂肪族エポキシ樹脂(A2-1)が、エポキシ基を3個以上有することを特徴とする多官能脂肪族エポキシ樹脂(A2-2)であることが好ましい。多官能脂肪族エポキシ樹脂(A2-2)である場合、樹脂組成物の反応性が向上し、なおかつ硬化物中のネットワークが密となるため耐熱性が向上するためである。
この例としては、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテルである。
【0028】
本発明の非芳香族エポキシ樹脂(A2)は、エポキシ当量の理論値と実測値との比率が1.00から1.30であることが好ましい。1.30以内であれば、理論構造に近く、密な架橋構造を形成でき、且つ残留塩素が少ないからである。
【0029】
<多環芳香族エポキシ樹脂(A1)と非芳香族エポキシ樹脂(A2)の含有量>
本発明の多環芳香族エポキシ樹脂(A1)と非芳香族エポキシ樹脂(A2)の含有量の比率としては、多環芳香族エポキシ樹脂(A1):非芳香族エポキシ樹脂(A2)=50:50~90:10が好ましい。この範囲であると、耐熱性と柔軟性が両立できるため好ましい。特に好ましくはA1:A2=70:30~90:10である。
【0030】
<その他のエポキシ樹脂>
本発明の樹脂組成物は、多環芳香族エポキシ樹脂(A1)と非芳香族エポキシ樹脂(A2)以外のエポキシ樹脂を含有してもかまわない。
具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、カテコール型エポキシ樹脂、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSの構造を有する3官能以上のエポキシ化合物、固形ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン-フェノール付加反応型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂型エポキシ樹脂、ビフェニル変性ノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0031】
<フェノキシ樹脂>
本発明の樹脂組成物は、更に、高分子量のエポキシ樹脂であるフェノキシ樹脂を含有することができる。フェノキシ樹脂とは、ビスフェノール化合物とエピハロヒドリンとを強アルカリ存在下で反応させて得られる樹脂であり、例えば、ビスフェノールAとエピハロヒドリンとから製造されるビスフェノールA変性フェノキシ樹脂、ビスフェノールSとエピハロヒドリンとから製造されるビスフェノールS変性フェノキシ樹脂などが挙げられる。
本発明の樹脂組成物にフェノキシ樹脂を配合する場合、フェノキシ樹脂のエポキシ当量は、1,000g/当量以上100,000g/当量以下であると、エポキシ樹脂との相溶性が向上し、表面が平滑な成形体、特にシート状の成形体を得られるので好ましい。フェノキシ樹脂のエポキシ当量は、より好ましくは2,000~50,000g/当量であり、さらに好ましくは3,000~20,000g/当量である。
【0032】
本発明のエポキシ樹脂とフェノキシ樹脂の合計中、多環芳香族エポキシ樹脂(A1)と非芳香族エポキシ樹脂(A2)の合計の配合量は60%以上であることが好ましい。60%以上であれば、樹脂組成物の耐熱性と柔軟性が損なわれないからである。特に好ましくは70%以上である。
【0033】
<熱伝導性フィラー(B)>
本発明の樹脂組成物は、熱伝導性フィラー(B)を含有する。熱伝導性フィラー(B)としては、公知慣用のものを使用すればよく、例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、鉄、アルミニウム、ステンレス、グラファイト(黒鉛)、酸化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化硼素、硼酸アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、ダイヤモンド、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)等が挙げられる。熱伝導性フィラー(B)としては、形状に特に限定は無く、球状であっても多面体形状であっても、アスペクト比が高い粒子であっても繊維であっても不定形であってもかまわない。球状または多面体形状の粒子であると、樹脂組成物に高充填が可能であるため好ましい。
【0034】
熱伝導性フィラー(B)が粒子状である場合、好ましい50%累積粒子径は500μm~5nmであって、より好ましくは100μm~100nmである。
フィラー(B)は、フィラー粒子径が異なるものを複数配合してもよい。例えば、小粒径、中粒径、大粒径の3成分を配合すると、高熱伝導と高充填を両立できるため好ましい。3成分の粒子径のフィラーとしては、50%累積粒子径が100~10μmのフィラー(B1)、50%累積粒子径が30~1μmでかつフィラー(B1)の50%累積粒子径に対して1/10以上1/2以下であるフィラー(B2)、50%累積粒子径が5μm~100nmでかつフィラー(B2)の50%累積粒子径に対して1/100以上1/2以下であるフィラー(B3)を配合することが好ましい。配合比率としては、フィラー(B1)(B2)(B3)の合計体積量を100%として、フィラー(B1)が50~80%、フィラー(B2)が10~40%、フィラー(B3)が10~40%であることが好ましい。更に、フィラー(B1)は90%累積粒子径が、塗工あるいは成形後の乾燥厚みの1/2以下であることが好ましい。(以上、記載のないものは、累積粒子径は体積基準の測定による)
【0035】
本発明の熱伝導性フィラー(B)としては、特に10W/mK以上の熱伝導率を有するものをもちいると、樹脂組成物に高い熱伝導性が付与できるためが好ましい。具体的には、酸化アルミニウム(アルミナ)、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、酸化マグネシウムが熱伝導性と絶縁性の確保の点で好ましく、特にアルミナが熱伝導性と絶縁性に加えて樹脂に対する充填性が良くなるのでより好ましい。
【0036】
得られる成形体に高熱伝導性を付与するには、樹脂組成物全体のうち熱伝導性フィラー(B)が60~95体積%であることが好ましい。特に好ましくは70~95体積%であり、75~95体積%が特に好ましい。
【0037】
<その他の配合物>
本発明の樹脂組成物は、多環芳香族エポキシ樹脂(A1)と非芳香族エポキシ樹脂(A2)と熱伝導性フィラー(B)以外の配合物を含有していても良い。
【0038】
<硬化剤>
本発明の樹脂組成物は、エポキシ樹脂を含有することから、硬化剤を含有することが好ましい。硬化剤としてはエポキシ樹脂用として公知慣用に用いられるものであればよく、例えば、アミン系硬化剤、アミド系硬化剤、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤などが挙げられる。
【0039】
具体的には、アミン系硬化剤としてはジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエタン、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニルスルホン、オルトフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、メタキシレンジアミン、パラキシレンジアミン、ジエチルトルエンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イソホロンジアミン、イミダゾ-ル化合物、BF3-アミン錯体、グアニジン誘導体、グアナミン誘導体等が挙げられる。
【0040】
アミド系硬化剤としては、ジシアンジアミド、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンとより合成されるポリアミド樹脂等が挙げられる。
酸無水物系硬化剤としては、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
【0041】
フェノール系硬化剤としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、レゾルシン、カテコール、ハイドロキノン、フルオレンビスフェノール、4,4’-ビフェノール、4,4’,4”-トリヒドロキシトリフェニルメタン、ナフタレンジオール、1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、カリックスアレーン、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、フェノールアラルキル樹脂(ザイロック樹脂)、レゾルシンノボラック樹脂に代表される多価ヒドロキシ化合物とホルムアルデヒドから合成される多価フェノールノボラック樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリメチロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価フェノール化合物)、ビフェニル変性ナフトール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価ナフトール化合物)、アミノトリアジン変性フェノール樹脂(メラミン、ベンゾグアナミンなどでフェノール核が連結された多価フェノール化合物)やアルコキシ基含有芳香環変性ノボラック樹脂(ホルムアルデヒドでフェノール核及びアルコキシ基含有芳香環が連結された多価フェノール化合物)等の多価フェノール化合物が挙げられる。
これらの硬化剤は、単独でも2種類以上の併用でも構わない。
【0042】
硬化剤の中でも、アミン系又はアミド系の硬化剤は、熱伝導性接着剤又は熱伝導性接着シートでの接着性が向上するため好ましい。
長期間の保存安定性が求められる場合には、潜在性硬化剤を選択することが好ましい。潜在性硬化剤としては、具体的には、ジシアンジアミド、イミダゾール類、ヒドラジド類、三弗化ホウ素-アミン錯体、アミンイミド、ポリアミン塩、及びこれらの変性物やマイクロカプセル型のものを挙げることができる。
【0043】
<硬化促進剤>
本発明の樹脂組成物に対し硬化促進剤を配合してもよい。硬化促進剤としてエポキシ樹脂の硬化反応を促す種々の化合物が使用でき、例えば、リン系化合物、第3級アミン化合物、イミダゾール化合物、有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯塩等が挙げられる。この中でも、イミダゾール化合物、リン系化合物、第3級アミン化合物の使用が好ましい。。
【0044】
<その他樹脂>
本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を損ねない範囲で、エポキシ樹脂以外のその他の樹脂を配合してもかまわない。その他の樹脂としては、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0045】
熱硬化性樹脂とは、加熱または放射線や触媒などの手段によって硬化される際に実質的に不溶かつ不融性に変化し得る特性を持った樹脂である。その具体例としては、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリルテレフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、フラン樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂などが挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は1種または2種以上を併用して用いることができる。
【0046】
熱可塑性樹脂とは、加熱により溶融成形可能な樹脂を言う。その具体例としてはポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ゴム変性ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、酢酸セルロース樹脂、アイオノマー樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリケトン樹脂、液晶ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は1種または2種以上を併用して用いることができる。
【0047】
<溶剤>
本発明の樹脂組成物は、使用用途に応じて溶剤を配合してもかまわない。溶剤としては有機溶剤が挙げられ、例えばメチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、ジメチルホルムアミド、メチルイソブチルケトン、メトキシプロパノール、シクロヘキサノン、メチルセロソルブ、エチルジグリコールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられ、その選択や適正な使用量は用途によって適宜選択すればよい。
【0048】
<その他の配合物>
本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を損ねない範囲であれば、反応性化合物、無機顔料、有機顔料、体質顔料、粘土鉱物、ワックス、界面活性剤、カップリング剤、安定剤、流動調整剤、染料、レベリング剤、レオロジーコントロール剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、可塑剤等を配合してもかまわない
【0049】
<成形体>
本発明の成形体は、上記樹脂組成物を成形して得られる成形体である。成形方法は公知慣用の方法を用いればよく、樹脂の種類あるいは用途によって適時選択すればよい。成形体の形状に制限はなく、板状であってもシート状であってもフィルムであっても良く、立体形状を有していてもよく、基材に塗布されたものであっても、基材と基材の間に存在する形で成形されてもかまわない。本発明の樹脂組成物は、フィラーを高充填していてもハンドリング性が高いため、シートを製造することに適している。
成形方法としては、例えば板状やシート状の製品を製造するのであれば、押し出し成形法が一般的であるが、平面プレスによっても可能である。この他、異形押し出し成形法、ブロー成形法、圧縮成形法、真空成形法、射出成形法等を用いることが可能である。またフィルム状の製品を製造するのであれば、溶融押出法の他、溶液キャスト法を用いることができ、溶融成形方法を用いる場合、インフレーションフィルム成形、キャスト成形、押出ラミネーション成形、カレンダー成形、シート成形、繊維成形、ブロー成形、射出成形、回転成形、被覆成形等が挙げられる。また、活性エネルギー線で硬化する樹脂の場合、活性エネルギー線を用いた各種硬化方法を用いて成形体を製造する事ができる。
【0050】
また、樹脂組成物が液状であれば、塗工により成形することも可能である。塗工方法としては、スプレー法、スピンコート法、ディップ法、ロールコート法、ブレードコート法、ドクターロール法、ドクターブレード法、カーテンコート法、スリットコート法、スクリーン印刷法、インクジェット法等が挙げられる。
【0051】
<接着剤>
本発明の樹脂組成物は、接着性に優れるため、接着剤として用いることができる。接着剤の形態には特に限定は無く、液状あるいはペースト状の接着剤としても良いし、固形状の接着剤としても良い。本発明の樹脂組成物は、熱伝導性フィラー(B)を含有することから、熱伝導性接着剤として好適に利用可能である。
液状あるいはペースト状の接着剤の場合、1液タイプの接着剤としても良いし、硬化剤を別にした2液型の接着剤としてもよい。使用方法としては特に限定は無いが、液状あるいはペースト状の樹脂組成物を接着面の界面に注入後、接着し、硬化させれば良い。
固形状の接着剤の場合、粉末状、チップ状、あるいはシート状に成形した接着剤を、接着面の界面に設置し、熱溶解させることで接着し、硬化させればよい。特に、本発明の樹脂組成物は、柔軟性に優れることから、接着シートとして使用するのに非常に適している。特に、熱伝導性フィラー(B)を高充填した場合であっても、耐熱性と柔軟性(ハンドリング性)を両立できることから、熱伝導性接着シートとして好適に使用可能である。
【0052】
<積層体>
基材にたいし本発明の成形体を積層することで積層体を得ることができる。積層体は2層でも3層以上でもかまわない。
基材の材質は特に限定はなく、用途に応じて適宜選択すればよく、例えば木材、金属、プラスチック、紙、シリコン又は変性シリコン等が挙げられ、異素材が接合したような材料であってもかまわない。また、基材の形状も特に制限はなく、平板、シート状、あるいは3次元形状全面にまたは一部に曲率を有するもの等目的に応じた任意の形状であってよい。また、基材の硬度、厚み等にも制限はない。
成形体は、基材に対し直接塗工や成形により形成してもよく、すでに成形したものを積層させてもかまわない。直接塗工する場合、塗工方法としては特に限定は無く、スプレー法、スピンコート法、ディップ法、ロールコート法、ブレードコート法、ドクターロール法、ドクターブレード法、カーテンコート法、スリットコート法、スクリーン印刷法、インクジェット法等が挙げられる。直接成形する場合は、インモールド成形、インサート成形、真空成形、押出ラミネート成形、プレス成形等が挙げられる。
成形された樹脂組成物を積層する場合、未硬化または半硬化された組成物層を積層してから硬化させてもよいし、組成物を完全硬化した硬化物層を基材に対し積層してもよい。
また、本発明の硬化物に対して、基材となりうる前駆体を塗工して硬化させることで積層させてもよく、基材となりうる前駆体または本発明の組成物が未硬化あるいは半硬化の状態で接着させた後に硬化させてもよい。基材となりうる前駆体としては特に限定はなく、各種硬化性樹脂組成物等が挙げられる。
また、本発明の樹脂組成物を接着剤として用いることで積層体を作成しても良い。
【0053】
本発明の樹脂組成物は、多環芳香族エポキシ樹脂(A1)及び、炭素数が6以上である脂肪族炭化水素構造を有し、芳香環構造を有さない非芳香族エポキシ樹脂(A2)を含有することで、高い耐熱性とハンドリング性を両立することができる。また、熱伝導性フィラー(B1)を用いることで、本発明の樹脂組成物は、熱伝導性材料として好適に使用可能であり、該熱伝導性材料を用いた成形体及び積層体は熱伝導性が高い上にハンドリングが高いため、熱伝導性部材として好適に使用できる。特に小型化が進む電子部材として好適に使用できる。
【実施例
【0054】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳述するが、本記述は本発明を限定するものではない。実施例中、特に言及のない場合は質量換算である。
【0055】
(エポキシ当量の測定方法)
エポキシ樹脂試料(1±0.3ミリモル当量)をメチルエチルケトン20mlに溶解させ、セチルトリメチルアンモニウムブロマイドの20質量%酢酸溶液(CTMAB)5mlを加え、クリスタルバイオレット指示薬(酢酸溶液)4~6滴加え、スターラーでかき混ぜながら0.1mol/l過塩素酸酢酸溶液(0.1mol/l HClO4)で滴定した。0.1mol/l過塩素酸酢酸溶液を1滴加えて青紫色から青色に変化し、青色を1分間持続したところを終点として滴定量を得た。また、溶剤の体積膨張係数は、温度による補正が必要のため、過塩素酸酢酸溶液の温度を記録した。同時に試料を用いない空試験を行って同様に滴定量を測定し、得られた滴定量を用いて下式(1)にしたがってエポキシ当量を求めた。

エポキシ当量(g/eq.)=(1000×W)/[(Vs-Vb)×0.1×[F20/{1+0.011(t-20)}]]・・・(1)

W :エポキシ樹脂試料量(g)
Vs:本試験に要する0.1mol/l HClO4の適定量(ml)
Vb:空試験に要する0.1mol/l HClO4の適定量(ml)
F20:0.1mol/l HClO4の20℃における力価
t :滴定時の0.1mol/l HClO4の液温(℃)
【0056】
〈合成例1〉エポキシ樹脂(EP-1)
2,2‘,7,7’-テトラグリシジルオキシ-1,1‘-ビナフタレンの合成
温度計、撹拌機、還流冷却器を取り付けたフラスコに、窒素ガスパージを施しながら、塩化鉄(III)六水和物278g(1.0モル)、水2660mLを仕込み、攪拌しながら反応容器内を窒素置換した後、ナフタレン-2,7-ジオール164g(1.0モル)をイソプロピルアルコール380mLにあらかじめ溶解した溶液を加え、40℃で30分撹拌した。塩化鉄(III)六水和物278g(1.0モル)及び水1328mL、イソプロピルアルコール188mLの混合溶液を加え、40℃まで昇温してから、さらに1時間撹拌した。反応液に酢酸エチル1000mLを加え、撹拌した。反応液を分液漏斗で有機層を分離した後、さらに、水層を酢酸エチルで抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄した。真空下で溶媒を400mL程度になるまで留去した後、溶液を温度計、攪拌機、ディーンスタークトラップを備えたSUS容器に移し、トルエン10Lを加えた後、酢酸エチル及び水からトルエンに置換した。トルエン溶液を室温まで冷却した後、不溶物をろ別した。ろ液を沸点以上の温度に加熱し、トルエンを1000mL程度になるまで留去することで濃縮し、[1,1’-ビナフタレン]-2,2’,7,7’-テトラオールの結晶を析出させた。析出物と溶媒を80℃以上の温度での熱時ろ過でろ取した後、110℃で5時間乾燥させ、フェノール化合物1として、[1,1’-ビナフタレン]-2,2’,7,7’-テトラオールを収量106g(収率68%)で得た。
次に、温度計、滴下ロート、冷却管、撹拌機を取り付けたフラスコに、窒素ガスパージを施しながら、上記フェノール化合物1の79.5g(0.25モル)、エピクロルヒドリンの462g(5.0モル)、n-ブタノールの126gを仕込み溶解させた。40℃に昇温した後に、48%水酸化ナトリウム水溶液の100g(1.20モル)を8時間要して添加し、その後更に50℃に昇温し更に1時間反応させた。反応終了後、水150gを加えて静置した後、下層を棄却した。その後、150℃減圧下で未反応エピクロルヒドリンを留去した。それで得られた粗エポキシ樹脂にメチルイソブチルケトンの230gを加え溶解した。更にこの溶液に10質量%水酸化ナトリウム水溶液の100gを添加して80℃で2時間反応させた後に洗浄液のpHが中性となるまで水洗を繰り返した。次いで系内を脱水し、精密濾過を経た後に、溶媒を減圧下で留去して、エポキシ樹脂(EP-1)として2,2’,7,7’-テトラグリシジルオキシ-1,1’-ビナフタレンの135gを得た。得られたエポキシ樹脂(EP-1)の軟化点は61℃(B&R法)、溶融粘度(測定法:ICI粘度計法、測定温度:150℃)は1.1dPa・s、エポキシ当量は144g/当量であった。
【0057】
〈合成例2〉フェノキシ樹脂溶液
温度計、冷却管、攪拌器を取り付けたフラスコにビスフェノールAを114g、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC(株)製EPCLON-850S)を191.6g(エポキシ当量:188)、シクロヘキサノンを130.9g(不揮発分:70%)仕込み、系内を窒素置換し、窒素をゆっくりフローし、攪拌しながら80℃まで昇温し、2E4MZ(四国工業化成(株)製)120mg(理論樹脂固型分に対して400ppm)を
加え、さらに150℃まで昇温した。その後、150℃で20時間攪拌し、不揮発分(N.V.)が30%(MEK:シクロヘキサノン=1:1)となるようにMEK、シクロヘキサノンを加えて調整した。得られたフェノキシ樹脂溶液の粘度は5200mPa・s、不揮発分のエポキシ当量は12500g/当量であった。
【0058】
<合成例3>アルミナ1
水酸化アルミニウム(日本軽金属株式会社製、平均粒子径45μm)300質量部と酸化モリブデン(和光純薬工業株式会社製)75質量部を乳鉢で混合した。得られた混合物をセラミック電気炉で、1100℃で10時間焼成を行なった。降温後、坩堝を取り出し、内容物を10%アンモニア水およびイオン交換水で洗浄後、150℃で2時間乾燥を行い、190質量部の青色の粉末を得た。50%累積粒子径が5μm、90%累積粒子径7μm、密度3.95、で、[001]面以外の結晶面を主結晶面とし、[001]面よりも大きな面積の結晶面を持つ多面体形状のアルミナ(酸化アルミニウム)粒子であることを確認した。
【0059】
<実施例1> 樹脂組成物1
合成例1で得られたエポキシ樹脂(EP-1)を60質量部、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス(株)製、EX321L)を10質量部、合成例2で得られたフェノキシ樹脂溶液(NV30%)を100質量部、表1記載のアルミナ3種を合計1267質量部、シランカップリング剤(信越化学(株)製、KBM4803)を6.73部を配合した後、自転-公転型混練装置で混練し、2P4MHZ-PW(イミダゾール系硬化剤、四国化成(株)製)1.3質量部、AH-154(ジシアンジアミド、味の素ファインテクノ(株)製)1.7質量部、および、メチルエチルケトン(MEK)140質量部を配合し、自転-公転型混練装置で混練したものを、常温下、0.1MPaの減圧下で5分、減圧器を用いて脱泡することによって、樹脂組成物1を得た。
【0060】
次に、厚さ75μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの片面がシリコーン化合物で剥離処理された離型フィルムの表面に、前記樹脂組成物1を、棒状の金属アプリケータを用いて、乾燥後の厚さが120μmになるように塗工した。
【0061】
次に、前記塗工物を50℃で10分間乾燥した後、70℃で10分間乾燥し、更に100℃で20分間乾燥して、離型フィルム上に厚さ120μmのシートを形成した積層体を得た。
【0062】
(ガラス転移温度の測定方法)
前記積層体から離型フィルムを除去して得たシートを加熱プレスで温度180℃、圧力5MPaで15分間成型した後、200℃で2時間硬化して硬化物試料を作製した。
この硬化物試料に対して、固体粘弾性測定装置DMA(レオメトリックス社製RSAIII)を用いて、周波数1Hz、昇温速度3℃/minで0~300℃の動的粘弾性を測定した。貯蔵弾性率E‘と損失弾性率E“の比である損失正接(tanδ)が極大を示し、主鎖がガラス状態からゴム状態に変化する温度をガラス転移温度とした。
【0063】
(シート柔軟性の測定方法)
前記積層体を10mmx100mmに切り、シートを外側に向け、直径5mmまたは20mmの円筒の周囲に巻き、180度折り曲げた。折り曲げたシートの亀裂の有無を目視で下記基準により評価した。
◎:5mmの円筒で亀裂が認められなかった
〇:5mmの円筒では亀裂があったが、20mmの円筒では亀裂がなかった。
×:20mmの円筒で亀裂が認められた。
【0064】
(シートの熱伝導率の測定方法)
前記積層体から離型フィルムを除去して得たシートを加熱プレスで温度180℃、圧力5MPaで15分間成型した後、200℃で2時間硬化して硬化物試料を作製した。
得られた硬化物を10mm角に裁断したものを試験サンプルとし、熱伝導率測定装置(Xeフラッシュ型LFA467、NETZSCH社製)を用いて、25℃における熱伝導率の測定を行った。
【0065】
〈実施例及び比較例〉
実施例1と同様にして、下記表1-1および表1-2の配合率にて樹脂組成物およびシートを作成し、シート柔軟性、ガラス転移温度、熱伝導率の測定を行った。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
本実施例で用いた材料は以下の通り。
多環芳香族エポキシ樹脂(A1):
・HP-4700 ナフタレン型エポキシ樹脂 DIC(株)製
炭素数が6以上である脂肪族炭化水素構造を有し、芳香環構造を有さない非芳香族エポキシ樹脂(A2):
・EX-321L トリメチロールプロパントリグリシジエーテル低塩素品 ナガセケムテックス(株)製
・EX-216L シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル低塩素品 ナガセケムテックス(株)製
・EX-321 トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル ナガセケムテックス(株)製
・SR-16HL ヘキサンジオールジグリシジルエーテル低塩素品 阪本薬品工業(株)
・SR-16 ヘキサンジオールジグリシジルエーテル 阪本薬品工業(株)
・EX-830 ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル ナガセケムテックス(株)製
その他エポキシ樹脂:
・エピクロン850S ビスフェノールA型エポキシ樹脂 DIC(株)製
・mp-CGE mp-クレジルグリシジルエーテル 阪本薬品工業(株)
熱伝導性フィラー(B):
・DAW45(55μm篩処理)酸化アルミニウム 50%累積粒子径33μm、90%累積粒子径50μm、密度3.90、 電気化学工業(株)製
・AA-04 酸化アルミニウム 50%累積粒子径0.3μm、90%累積粒子径1μm、密度3.95、住友化学(株)製
その他:
・イミダゾール系硬化剤2P4MHZ-PW 四国化成(株)製
・ジシアンジアミド系硬化剤AH-154 味の素ファインテクノ(株)製
・シランカップリング剤 KBM-4803 信越化学工業(株)製
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の樹脂組成物は、多環芳香族エポキシ樹脂(A1)及び、炭素数が6以上である脂肪族炭化水素構造を有し、芳香環構造を有さない非芳香族エポキシ樹脂(A2)を含有することで、高い耐熱性とハンドリング性を両立することができる。また、熱伝導性フィラー(B)を高充填可能なことから、本発明の樹脂組成物は、熱伝導性材料として好適に使用可能であり、該熱伝導性材料を用いた成形体及び積層体は熱伝導性が高い上にハンドリングが高いため、熱伝導性部材として好適に使用できる。特に小型化が進む電子部材として好適に使用できる。