(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】酸化鉱石の製錬方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/02 20060101AFI20221101BHJP
C22B 5/10 20060101ALI20221101BHJP
C22C 33/04 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
C22B23/02
C22B5/10
C22C33/04 M
(21)【出願番号】P 2018147995
(22)【出願日】2018-08-06
【審査請求日】2021-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】井関 隆士
(72)【発明者】
【氏名】合田 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】小林 純一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 修二
【審査官】田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-023944(JP,A)
【文献】特開2017-052994(JP,A)
【文献】特開2004-156140(JP,A)
【文献】特公昭51-004929(JP,B1)
【文献】特開2017-197813(JP,A)
【文献】特開2014-043646(JP,A)
【文献】特開2017-052993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 23/02
C22B 5/10
C22C 33/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合して混合物を得る混合処理工程と、
得られた混合物を成形し、該混合物を乾燥して成形物を得る混合物成形工程と、
得られた成形物に還元炉内に装入して該成形物に還元処理を施してメタルとスラグとを含む還元物を得る還元工程と、
得られた還元物を前記還元炉とは異なる処理空間へ移送し、該処理空間内で所定の温度に保持する温度保持工程と、
前記還元物からメタルとスラグを分離する分離工程と、
を有し、
前記還元工程における還元処理後の前記還元炉内の雰囲気ガスの少なくとも一部を、前記温度保持工程における前記処理空間に前記還元物とともに供給することにより、該還元物を酸化雰囲気から遮断された状態で該還元炉から該処理空間へ移動させ
、
前記温度保持工程における処理後のガスを、前記還元工程における処理空間に供給する
ニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項2】
前記温度保持工程では、得られた還元物を還元炉とは異なる処理空間へ移動炉床炉により移送する
請求項1に記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項3】
前記還元工程における還元処理後の雰囲気ガスの一部を、前記混合物成形工程における処理空間に供給し、前記混合物を乾燥させる乾燥ガスとして用いる
請求項1又は2に記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項4】
ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合して混合物を得る混合処理工程と、
得られた混合物を成形し、該混合物を乾燥して成形物を得る混合物成形工程と、
得られた成形物に還元炉内に装入して該成形物に還元処理を施してメタルとスラグとを含む還元物を得る還元工程と、
得られた還元物を前記還元炉とは異なる処理空間へ移送し、該処理空間内で所定の温度に保持する温度保持工程と、
前記還元物からメタルとスラグを分離する分離工程と、
を有し、
前記還元工程における還元処理後の前記還元炉内の雰囲気ガスの少なくとも一部を、前記温度保持工程における前記処理空間に前記還元物とともに供給することにより、該還元物を酸化雰囲気から遮断された状態で該還元炉から該処理空間へ移動させ、
前記温度保持工程における処理後のガスを、前記分離工程における処理空間に前記還元物とともに供給する
ニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項5】
前記温度保持工程では、前記還元物を1200℃以上1450℃以下の温度に保持する
請求項1から
4のいずれかに記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化鉱石の製錬方法に関するものであり、例えば、ニッケル酸化鉱石等を原料として炭素質還元剤により還元することで還元物を得る製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化鉱石の一種であるリモナイトあるいはサプロライトと呼ばれるニッケル酸化鉱石の製錬方法として、熔錬炉を使用してニッケルマットを製造する乾式製錬方法、ロータリーキルンあるいは移動炉床炉を使用して鉄とニッケルの合金であるフェロニッケルを製造する乾式製錬方法、オートクレーブを使用して高温高圧で酸浸出し、ニッケルやコバルトが混在した混合硫化物(ミックスサルファイド)を製造する湿式製錬方法等が知られている。
【0003】
上述した様々な方法の中で、特に乾式製錬法を用いてニッケル酸化鉱石を還元して製錬する場合、反応を進めるために原料のニッケル酸化鉱石を適度な大きさに破砕する等して塊状物化する処理が前処理として行われる。
【0004】
具体的に、ニッケル酸化鉱石を塊状物化する、すなわち粉状や微粒状の鉱石を塊状にする際には、そのニッケル酸化鉱石と、それ以外の成分、例えばバインダーやコークス等の還元剤とを混合して混合物とし、さらに水分調整等を行った後に塊状物製造機に装入して、例えば一辺あるいは直径が10mm以上30mm以下程度の成形物(ペレット、ブリケット等を指す。以下、単に「ペレット」ということもある)とするのが一般的である。
【0005】
塊状物化して得られるペレットには、含有する水分を「飛ばす」ために、ある程度の通気性が必要となる。さらに、その後の還元処理においてペレット内で均一に還元が進まないと、得られる還元物の組成が不均一になり、メタルが分散したり偏在したりする等の不都合が生じる。そのため、ペレットを作製する際には混合物を均一に混合したり、得られたペレットを還元する際には可能な限り均一な温度を維持することが重要となる。
【0006】
加えて、還元処理により生成するメタル(フェロニッケル)を粗大化させることも非常に重要な技術である。生成したフェロニッケルが、例えば数10μm以上数100μm以下の細かな大きさであった場合、同時に生成するスラグと分離することが困難となり、フェロニッケルとしての回収率(収率)が大きく低下してしまう。そのため、還元後のフェロニッケルを粗大化する処理が必要となる。
【0007】
例えば、特許文献1には、炉床上における塊成物の敷密度を0.5以上として加熱する際に、平均直径が所定以上の塊成物を炉床上に供給することを特徴とする粒状金属の製造方法が開示されている。特許文献1によれば、塊成物に含まれる金属酸化物を還元溶融して粒状金属を製造するにあたり、粒状金属の生産性を一層高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ニッケル酸化鉱石等の酸化鉱石を含む混合物を還元することでメタルを製造する製錬方法において、得られるメタルの品位を高めることができ、高品質のメタルを効率的に製造することができる酸化鉱石の製錬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、酸化鉱石を含む成形物を還元処理した後の雰囲気ガスの少なくとも一部を、得られた還元物とともに供給することにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
(1)本発明の第1は、酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合して混合物を得る混合処理工程と、得られた混合物を成形し、該混合物を乾燥して成形物を得る混合物成形工程と、得られた成形物に還元処理を施してメタルとスラグとを含む還元物を得る還元工程と、得られた還元物を所定の温度に保持する温度保持工程と、前記還元物からメタルとスラグを分離する分離工程と、を有し、前記還元工程における還元処理後の雰囲気ガスの少なくとも一部を、前記温度保持工程における処理空間に前記還元物とともに供給する、酸化鉱石の製錬方法である。
【0012】
(2)本発明の第2は、第1の発明において、前記還元工程における還元処理後の雰囲気ガスの一部を、前記混合物成形工程における処理空間に供給し、前記混合物を乾燥させる乾燥ガスとして用いる、酸化鉱石の製錬方法である。
【0013】
(3)本発明の第3は、第1又は第2の発明において、前記温度保持工程における処理後のガスを、前記還元工程における処理空間に供給する、酸化鉱石の製錬方法である。
【0014】
(4)本発明の第4は、第1又は第2の発明において、前記温度保持工程における処理後のガスを、前記分離工程における処理空間に前記還元物とともに供給する酸化鉱石の製錬方法である。
【0015】
(5)本発明の第5は、第1から第4のいずれかの発明において、前記温度保持工程では、前記還元物を1200℃以上1450℃以下の温度に保持する、酸化鉱石の製錬方法である。
【0016】
(6)本発明の第6は、第1から第5のいずれかの発明において、前記酸化鉱石は、ニッケル酸化鉱石である、酸化鉱石の製錬方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る酸化鉱石の製錬方法によれば、高品質なメタルを効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】ニッケル酸化鉱石の製錬方法の流れの一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0020】
≪1.酸化鉱石の製錬方法の概要≫
本実施の形態に係る酸化鉱石の製錬方法は、原料鉱石である酸化鉱石を炭素質還元剤と混合し、その混合物に対して製錬炉(還元炉)内で還元処理を施すことによって、メタルとスラグとを生成させるものである。
【0021】
例えば、酸化鉱石として、酸化ニッケルや酸化鉄等を含有するニッケル酸化鉱石を原料とし、そのニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合して得られる混合物に含まれるニッケルを優先的に還元し、また鉄を部分的に還元することで、鉄とニッケルの合金であるフェロニッケルを製造する方法が挙げられる。
【0022】
そして、本実施の形態に係る酸化鉱石の製錬方法においては、酸化鉱石を含む成形物を還元する還元工程における還元処理後の雰囲気ガスの少なくとも一部を、得られた還元物とともに、次工程における処理空間に供給することを特徴としている。すなわち、還元工程における還元処理後の雰囲気ガスを排気ガスとして全て排出するのではなく、還元物を処理空間に供給するとともに、雰囲気ガスも併せて処理空間に供給するようにしている。
【0023】
このような方法によれば、還元処理後の雰囲気ガスが還元性のガスであることから、得られた還元物を、その雰囲気ガスとともに次の処理空間に供給することによって、還元物が酸化雰囲気(酸素)から遮断された状態で還元物を供給することができ、還元物が酸化雰囲気(酸素)に曝されることを抑制することができる。これにより、得られるメタルの品位を高めることができ、高品質なメタルを製造することができる。
【0024】
≪2.ニッケル酸化鉱石を用いてフェロニッケルの製造する製錬方法≫
以下では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に含まれるニッケル(酸化ニッケル)と鉄(酸化鉄)を還元することで、鉄-ニッケル合金のメタルを生成させ、さらに、そのメタルを分離することによってフェロニッケルを製造する製錬方法を例に挙げて説明する。
【0025】
具体的に、本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の製錬方法は、
図1に示すように、酸化鉱石であるニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合して混合物を得る混合処理工程S1と、混合物を成形し、乾燥して成形物を得る混合物成形工程S2と、成形物に還元処理を施してメタルとスラグとを含む還元物を得る還元工程S3と、還元物を所定の温度に保持する温度保持工程S4と、還元物からメタルとスラグを分離する分離工程S5と、を含む。
【0026】
<2-1.混合処理工程>
混合処理工程S1は、ニッケル酸化鉱石を含む原料粉末を混合して混合物を得る工程である。具体的には、混合処理工程S1では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に、炭素質還元剤を添加して混合し、また任意成分の添加剤として、鉄鉱石、フラックス成分、バインダー等の、例えば粒径が0.1mm以上0.8mm以下程度の粉末を添加して混合し、混合物を得る。なお、混合処理は、混合機等を用いて行うことができる。
【0027】
原料鉱石であるニッケル酸化鉱石としては、特に限定されないが、リモナイト鉱、サプロライト鉱等を用いることができる。なお、ニッケル酸化鉱石は、酸化ニッケル(NiO)と、酸化鉄(Fe2O3)とを少なくとも含有する。
【0028】
炭素質還元剤としては、特に限定されないが、例えば、石炭粉、コークス粉等が挙げられる。なお、この炭素質還元剤は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石の粒度や粒度分布と同等の大きさのものであると、均一に混合し易く、還元反応も均一に進みやすくなるため好ましい。
【0029】
炭素質還元剤の混合量としては、ニッケル酸化鉱石を構成する酸化ニッケルの全量をニッケルメタル還元するのに必要な化学当量と、酸化鉄(酸化第二鉄)を金属鉄に還元するのに必要な化学当量との両者合計値(便宜的に「化学当量の合計値」ともいう)を100質量%としたときに、50.0質量%以下の割合とすることが好ましく、40.0質量%以下の割合とすることがより好ましい。鉄の還元量を抑えて、ニッケル品位を高めることができ、高品質のフェロニッケルを製造することができる。
【0030】
炭素質還元剤の混合量としては、化学当量の合計値を100質量%としたときに、10.0質量%以上の割合とすることが好ましく、15.0質量%以上の割合とすることがより好ましい。ニッケルの還元を効率的に進行させることができ生産性が向上する。
【0031】
また、任意成分の添加剤である鉄鉱石としては、例えば、鉄品位が50.0質量%程度以上の鉄鉱石、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬により得られるヘマタイト等を用いることができる。
【0032】
また、フラックス成分としては、例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、二酸化珪素等を挙げることができる。また、バインダーとしては、例えば、ベントナイト、多糖類、樹脂、水ガラス、脱水ケーキ等を挙げることができる。
【0033】
混合処理工程S1では、ニッケル酸化鉱石を含む原料粉末を均一に混合することによって混合物を得る。この混合に際しては、混合性を高めるために混練を同時に行ってもよく、混合後に混練を行ってもよい。具体的に、混練は、例えば二軸混練機等を用いて行うことができ、混合物を混練することによってその混合物にせん断力を加え、炭素質還元剤や原料粉末等の凝集を解いて、均一に混合できるとともに、各々の粒子の密着性を向上させ、また空隙を減少させることができる。これにより、還元反応が起りやすくなるとともに均一に反応させることができ、還元反応の反応時間を短縮することができる。また、品質のばらつきを抑えることができる。
【0034】
また、混練した後、押出機を用いて押出してもよい。このように押出機で押出すことによって、より一層高い混練効果を得ることができる。
【0035】
なお、下記表1に、混合処理工程S1にて混合する、一部の原料粉末の組成(質量%)の一例を示すが、原料粉末の組成としてはこれに限定されない。
【0036】
【0037】
<2-2.混合物成形工程>
混合物成形工程S2は、混合処理工程S1で得られた混合物を成形し、また乾燥して、成形物を得る工程である。具体的には、原料粉末を混合して得られた混合物を、ある程度の大きさ以上の成形物(ペレット)に成形する。したがって、混合物成形工程S2は、ペレット製造工程とも換言することができる。
【0038】
成形方法としては、特に限定されないが、混合物を塊状物化するのに必要な量の水分を添加し、例えば塊状物製造装置(転動造粒機、圧縮成形機、押出成形機等、あるいはペレタイザーともいう)を用いて所定の形状の成形物(ペレット)に成形する。
【0039】
混合物を成形して得られる成形物(ペレット)の形状としては、例えば、球状、直方体状、立方体状、円柱状等とすることができる。このような形状とすることにより、混合物を成形し易くし、成形コストを抑制することができる。また、上述した形状は、簡易な形状であって複雑なものではないため、不良品の発生を抑制することができ、得られるペレットの品質も均一となり、歩留り低下を抑制することができる。
【0040】
また、ペレットの形状としては、次工程の還元工程S3での処理において、ペレットを積層させた状態で処理できる形状であることが好ましく、その点においても、ペレットが球状、直方体状、立方体状、円柱状等であれば、還元炉内に積層させて載置させ易く、還元処理に供する処理量を多くすることができる。
【0041】
ペレットの大きさとしては、特に限定されないが、ペレットの体積が8000mm3以上であることが好ましい。ペレットの体積が8000mm3以上であることにより、成形コストが抑制され、さらに、ペレット全体に占める表面積の割合が低くなるため、還元処理が均一に施され、ばらつきが少なく、かつ生産性の高い製錬を行うことができる。
【0042】
例えば、ペレットの形状を球状とする場合には、その直径が10mm以上30mm以下程度となるように成形することができる。また、直方体状、立方体状、円柱状等とする場合には、概ね、縦、横の内寸が500mm以下程度となるように成形することができる。これらのような大きさに成形してペレットとすることにより、還元処理が均一に施され、ばらつきが少なく、かつ生産性の高い製錬を行うことができる。
【0043】
混合物成形工程S2では、成形された混合物(ペレット)を乾燥して成形物を得る。混合物中に所定量の水分が含まれていると、急激な昇温によってペレットの内部の水分が一気に気化してペレットが膨張して破裂する可能性がある。そのため、混合物に対して乾燥処理を施し、混合物中の水分を除去する。混合物を乾燥する方法は、特に限定されず、所定温度に保持する等、従来公知の手段を用いることができる。このような乾燥処理により、例えば、成形された混合物(ペレット)の固形分が70質量%程度で、水分が30質量%程度となるようにする。
【0044】
また、混合物を乾燥する方法として、混合物成形工程S2における処理空間に乾燥ガス等を供給して、その乾燥ガスにより成形された混合物(ペレット)を乾燥させるようにしてもよい。乾燥ガスは、混合物を乾燥することができるガスであれば特に制限はされない。例えば、窒素やアルゴン等の不活性ガスや還元性ガスを使用することができる。
【0045】
乾燥ガスとしては、還元工程S3における還元処理後の雰囲気ガスの一部を用いてもよい。具体的には、還元工程S3における還元処理後の雰囲気ガスの一部を混合物成形工程S2における処理空間に供給して、その雰囲気ガスを乾燥ガスとして用いる。後述する還元工程S3での還元処理は、均一に還元反応を生じさせるために所定の高い温度(例えば1200℃以上1450℃以下の範囲)で行われることから、還元処理後の雰囲気ガスは通常高温である。そのため、そのような雰囲気ガスを乾燥ガスとして用いることで、別途新たに新規なガスが不要になるとともに、効率的な乾燥のためにガスを加熱するといった措置が不要となり、製錬操業自体のコストを大幅に低減することができる。また、還元処理後の雰囲気ガスを排気ガスとして全て排出するのではなく乾燥ガスとして再利用することができるため、より一層にコストを低減させた製錬操業を行うことができる。
【0046】
さらに、還元工程S3における還元処理後の雰囲気ガスは、主に炭素質還元剤に由来するCOガスであり、還元性ガスが多く含まれており、不活性ガス等も含まれるが、酸素等の酸化性ガスは殆ど含まれていない。このため、そのような還元処理後の雰囲気ガスを乾燥ガスとして用いることで、混合物に含まれる炭素質還元剤の酸化を抑制することができる。これにより、還元工程S3における還元反応等の制御が容易になるとともに、高品質の鉄-ニッケル合金(フェロニッケル)を製造することができる。
【0047】
乾燥ガスの温度は、特に限定されない。乾燥ガスの温度は120℃以上1000℃以下であると好ましく、さらに170℃以上800℃以下であればより一層好ましい。乾燥ガスの温度を上記の範囲とすることにより、混合物中の炭素質の酸化を抑制して効率的に混合物を乾燥することができる。なお、乾燥ガスとして還元工程S3における還元処理後の雰囲気ガスを用いる場合には、還元処理後の雰囲気ガスは通常高温(例えば1200℃~1450℃程度)であることから、混合物成形工程S2における処理空間にガスを供給する際にはガスの温度が120℃以上1000℃以下となるように放冷等することで調整することが好ましい。
【0048】
混合物成形工程S2では、ペレットを得た後に、そのペレットを再び乾燥してもよい。還元する前に乾燥処理を繰り返し行っておくことで、ペレットが破裂されることをより効果的に抑制することができる。なお、そのときの乾燥温度としては、150℃以上400℃以下が好ましい。この範囲で乾燥することにより、ペレットにおける還元反応が進むことなく乾燥することが可能となる。
【0049】
下記表2に、乾燥処理後の成形物(ペレット)における固形分中組成(質量部)の一例を示す。なお、混合物の組成としては、これに限定されるものではない。
【0050】
【表2】
(※固形分の組成において、上記以外の成分は残部である。)
【0051】
<2-3.還元工程>
還元処理S3では、混合物成形工程S2を経て得られた成形物を還元炉内に装入して、所定の還元温度で加熱することによって還元処理を施す。還元工程S3における還元処理により、製錬反応(還元反応)が進行して、メタルとスラグとを含む還元物が生成する。
【0052】
具体的に、還元工程S3における還元処理は、還元炉等を用いて行われ、例えば、ニッケル酸化鉱石を含む成形物(ペレット)を、所定の還元温度に加熱した還元炉に装入することによって還元加熱する。還元処理においては、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に含まれる酸化ニッケルは可能な限り完全にかつ優先的に還元し、一方で、ニッケル酸化鉱石に含まれる酸化鉄は一部だけ還元して、目的とする高いニッケル品位のフェロニッケルが得られる、いわゆる部分還元を施す。
【0053】
還元処理では、例えば1分程度のわずかな時間で、先ず還元反応の進みやすいペレットの表面近傍において混合物中のニッケル酸化鉱石及び鉄酸化物が還元されメタル化して鉄-ニッケル合金(以下、鉄-ニッケル合金を「フェロニッケル」ともいう)となり、殻(シェル)を形成する。一方で、殻の中では、その殻の形成に伴って容器中のスラグ成分が徐々に熔融して液相のスラグが生成する。これにより、混合物中では、フェロニッケルメタル(以下、単に「メタル」という)と、フェロニッケルスラグ(以下、単に「スラグ」という)とが分かれて生成する。
【0054】
還元処理では、混合物中のスラグは熔融して液相となっているが、還元により既に分離して生成したメタルとスラグとは、混ざり合うことがなく、その後の冷却によってメタル固相とスラグ固相との別相として混在する混合物となる。この混合物の体積は、装入する混合物と比較すると、50%以上60%以下程度の体積に収縮している。
【0055】
還元処理における温度(還元温度)としては、特に限定されないが、1200℃以上1450℃以下の範囲とすることが好ましく、1300℃以上1400℃以下の範囲とすることがより好ましい。このような温度範囲で還元することによって、均一に還元反応を生じさせることができ、品質のばらつきを抑制したフェロニッケルを生成させることができる。また、より好ましくは1300℃以上1400℃以下の範囲の還元温度で還元することで、比較的短時間で所望の還元反応を生じさせることができる。
【0056】
なお、還元処理においては、上述した範囲の還元温度になるまでバーナー等により還元炉の内部温度を上昇させ、昇温後にその温度を維持してもよい。
【0057】
還元炉としては、特に限定されないが、単一の炉を用いても、移動炉床炉等の炉床が回転移動等して工程ごとに連続的に処理可能となる炉を用いてもよい。その中でも、還元炉として移動炉床炉を用いることで、連続的に還元反応を進行させ、一つの設備で反応を完結させることができる。また、工程ごとに別々の炉を使用して操業を行った場合、炉と炉との間を移動させる際や、詳しくは後述するように還元処理後の雰囲気ガスの一部を温度保持工程S4における処理空間に還元物とともに供給する際に、温度が低下してヒートロスが生じる可能性がある。また、雰囲気ガスに変化を生じさせてしまい、炉に再装入したときに即座に反応を生じさせることができないことがある。この点、移動炉床炉を使用して一つの設備で各工程での処理を行うことで、ヒートロスが低減されるとともに炉内雰囲気も的確に制御できるため、反応をより効果的に進行させることができる。
【0058】
移動炉床炉としては、特に限定されず、例えば、円形状であって複数の処理領域に区分けされた回転炉床炉を用いることができる。回転炉床炉では、所定の方向に回転しながら、各領域においてそれぞれの処理を行う。この回転炉床炉では、各領域を通過する際の時間(移動時間、回転時間)を制御することで、それぞれの領域での処理温度を調整することができ、回転炉床炉が1回転する毎に混合物が製錬処理される。また、移動炉床炉としては、ローラーハースキルン等であってもよい。
【0059】
還元処理では、混合物成形工程S2から得られた成形物を還元炉に装入するにあたって、予めその還元炉内の炉床に炭素質還元剤(以下、「炉床炭素質還元剤」ともいう)を敷き詰めて、その敷き詰められた炉床炭素質還元剤の上にペレットを載置するようにしてもよい。また、炉床に、酸化物を主成分とする床敷材を敷いて、その上にペレットを載置してもよい。このように、炉床に炭素質還元剤や床敷材等を敷いて、その上にペレットを載置することによって、炉床とペレットの反応を抑制することができ、延いては炉床の寿命を延ばすことができる。
【0060】
さて、このような還元処理を行った後(還元処理後)の炉内の雰囲気ガスには、炭素質還元剤に由来するCO等の還元性ガスが多く含まれており、不活性ガス等も含まれるが、酸素等の酸化性ガスは殆ど含まれていない。そこで、本実施の形態の酸化鉱石の製錬方法では、還元処理後の雰囲気ガスを排気ガスとして排出せずに、少なくともその一部を、次工程である温度保持工程S4における処理空間に還元物とともに供給することを特徴とする。
【0061】
このように、還元処理後の雰囲気ガスの少なくとも一部を、温度保持工程S4における処理空間に還元物とともに供給することにより、その雰囲気ガスが伴った状態で(その雰囲気ガスが周囲に存在する状態で)還元物が次工程に移送されるようになる。このことにより、還元物が酸化雰囲気(酸素)から遮断された状態で温度保持工程S4における処理空間に還元物を供給することができる。換言すると、還元工程S3で得られた還元物中のメタル化されたフェロニッケルが再び酸化され、スラグ量が多くなることを抑制し、高いニッケル品位のフェロニッケルが含まれる状態のまま還元物を次工程の処理空間に供給(移送)することができる。これにより、高品質のメタルを生成させることができる。
【0062】
また、還元処理後の雰囲気ガスは、高温の還元温度での処理を経て後のガスであることから、通常高温であり、このような雰囲気ガスを温度保持工程S4における処理空間に供給することで、温度保持工程S4における還元物の温度保持のために用いるガスとして、別途加熱することを要しない。したがって、加熱コストが不要となり、処理コストを大幅に低減することができる。
【0063】
還元処理後の雰囲気ガスは、上述したように、還元性ガスが多く含まれているガスであり、酸素等の酸化性ガスの濃度は低い。具体的に、その雰囲気ガス中の酸素濃度は、1.0%以下であり、好ましくは0.5%以下であり、より好ましくは0.1%以下である。
【0064】
ここで、回転炉床炉等の移動炉床炉を用いて還元処理を行う場合、還元処理後には、得られた還元物の移送(次工程の温度保持工程S4の処理空間(領域)への移送)に沿って同じ方向に、その還元処理後の雰囲気ガスを温度保持工程S4の処理空間に供給する。なお、この点において、移動炉床炉であれば、還元物と合わせた雰囲気ガスの移送供給が容易かつ確実となり、好ましい。
【0065】
また、単一の還元炉にて還元処理を行い、温度保持工程S4における処理をその同一の還元炉にて行う場合には、その還元炉に保持させたままの還元物に還元処理後の雰囲気ガスを供給する。つまり、還元処理後の雰囲気ガスを、排気ガスとして還元炉から排気させずに保持させておく。このような態様も、「還元処理後の雰囲気ガスの少なくとも一部を温度保持工程における処理空間に還元物とともに供給する」との概念に含まれる。
【0066】
本実施の形態に係る酸化鉱石の製錬方法では、還元処理後の雰囲気ガスの一部を、混合物成形工程S2における処理空間に供給するようにしてもよい。上述したように、混合物成形工程S2では、混合物を成形するとともに乾燥することによって成形物を得ている。成形物の生成にあたっての乾燥処理では、乾燥ガスを用いた処理等が行われるが、このとき、還元工程S3での還元処理後の雰囲気ガスの一部を、プロセスフローを戻すように混合物成形工程S2の処理空間に供給して、その雰囲気ガスを乾燥ガスとして用いるようにすることができる。なお、混合物成形工程S2における混合物の乾燥後のガスについては、そのまま還元工程S3における処理空間に供給してもよい。
【0067】
還元処理後の雰囲気ガスは、高温の還元温度にて処理された後のガスであることから、高温のガスである。このような雰囲気ガスを混合物成形工程S2の処理空間に供給して乾燥ガスとして用いることで、成形物の乾燥処理を効率的に行うことができる。しかも、雰囲気ガスは還元性ガスが多く含まれており、酸素等の酸化性ガスは殆ど含まれないため、混合物に含まれる炭素質還元剤の酸化を抑制することができる。これにより、還元工程S3における還元反応等の制御が容易になるとともに、高品質のフェロニッケルを製造することができる。
【0068】
<2-4.温度保持工程>
温度保持工程S4は、還元工程S3で得られた還元物を所定の温度に保持する。このように、得られた還元物をすぐに冷却してメタルとスラグとを分離する分離工程S5に供するのではなく、その還元物を所定の温度に一定時間保持することによって、半溶融状態の還元物中でメタルとスラグの分離を促進させることができる。具体的には、還元物中のメタルが沈降してメタル相とスラグ相とが形成される。
【0069】
ここで、本実施の形態に係る酸化鉱石の製錬方法では、還元工程S3における還元処理後の雰囲気ガスの少なくとも一部を、温度保持工程S4の処理空間に還元物とともに供給するようにしている。つまり、温度保持工程S4では、還元工程S3で得られた還元物が、還元処理後に雰囲気ガスとともに、供給されることになる。
【0070】
上述したように、還元工程S3における還元処理後の雰囲気ガスは、CO等の還元性ガスが多く含まれており、酸素等の酸化性ガスは殆ど含まれない。このように、酸素等の酸化性ガスが殆ど含まれない還元処理後の雰囲気ガスを伴った状態(還元物が酸化雰囲気から遮断された状態)で、還元物が温度保持工程S4の処理空間に供給されることにより、その処理空間において還元物中のメタルが酸化されることを効果的に抑制することができる。また、その処理空間への移送過程においてメタルが酸化されることも効果的に抑制することができる。
【0071】
例えば、温度保持工程S4において、処理空間を所定の温度に保持するために、ガスバーナー等を用いて加熱するような場合、加熱に要するコストが上昇するだけではなく、その処理空間内に酸素をも供給することになる。すると、供給された酸素により、還元物中のメタルが酸化されてしまい、品位を低下させてしまう。
【0072】
これに対し、還元処理後の雰囲気ガスの少なくとも一部を、温度保持工程S4の処理空間に還元物とともに供給することによって、還元物が酸化雰囲気(酸素)から遮断された状態で還元物を温度保持工程S4における処理空間に供給することができる。これにより、得られるメタルの品位を高めることができる。
【0073】
温度保持工程S4における処理空間に供給される雰囲気ガスは、その温度が、例えば1200℃以上1450℃以下である。このように、雰囲気ガスは、高温の還元温度での処理を経た後のガスであって高温のガスであることから、温度保持工程S4における還元物の温度を効率的に保持することができるという点でも、雰囲気ガスを還元物とともに供給することに優位性がある。
【0074】
温度保持工程S4における処理時間(温度保持時間)としては、特に制限されないが、10分以上1000分以下であることが好ましく、30分以上180分以下であることがより好ましい。
【0075】
なお、温度保持工程S4における処理後には、そのまま引き続き、その温度保持工程S4の処理空間の処理後ガスを分離工程S5における処理空間に供給してもよい。これにより、還元物が酸化雰囲気(酸素)から遮断された状態で分離工程S5における処理に供することができる。
【0076】
また、温度保持工程S4における処理空間に供給された処理後ガスは、温度保持工程S4における処理後には、そのまま排気ガスとして排出してもよい。
【0077】
あるいは、還元工程S3における処理空間に戻すようにしてもよい。すなわち、還元工程S3での還元処理後の雰囲気ガスを温度保持工程S4の処理空間に供給し、還元物に対する温度保持の処理を行ったのち、その処理空間のガスを還元工程S3における処理空間に再び戻して、ガスを循環させるようにしてもよい。温度保持工程S4における処理後ガスは、還元物の所定の温度に保持するために高温状態にあり、また還元処理後の雰囲気ガスが供給されていることから主として還元性のガスである。このような温度保持工程S4での処理後ガスを還元工程S3における処理空間に供給することにより、その処理空間を所定の還元温度に上昇させるエネルギーを低減でき、製錬自体の処理コストを大幅に低減することができる。しかも、還元性のガスであることから、還元処理に供される成形物の酸化等を防ぐこともできる。
【0078】
<2-5.分離工程>
分離工程S5は、温度保持工程S4を経た還元物からメタルとスラグを分離する。具体的には、容器に充填させた状態の混合物に対する還元加熱処理によって得られた、メタル相(メタル固相)とスラグ相(スラグ固相)とを含む混在物(混合物)からメタル相を分離して回収する。
【0079】
固体として得られたメタル相とスラグ相との混在物からメタル相とスラグ相とを分離する方法としては、例えば、篩い分けによる不要物の除去に加えて、比重による分離や、磁力による分離等の方法を利用することができる。
【0080】
また、得られたメタル相とスラグ相は、濡れ性が悪いことから容易に分離することができ、温度保持工程S4における処理で得られた、大きな混在物に対して、例えば、所定の落差を設けて落下させる、あるいは篩い分けの際に所定の振動を与える等の衝撃を与えることで、その混在物からメタル相とスラグ相とを容易に分離することができる。
【0081】
このようにしてメタル相とスラグ相とを分離することによって、メタルを回収する。
【0082】
特に、本実施の形態に係る酸化鉱石の製錬方法では、温度保持工程S4において、所定温度で還元物を保持することにより、半溶融状態の還元物中でメタル相とスラグ相とが分離されている。そのため、磁選等の処理によってメタルを容易に回収することができる。
【0083】
さらに、本実施の形態に係る酸化鉱石の製錬方法では、還元処理後の雰囲気ガスの少なくとも一部を、温度保持工程S4における処理空間に還元物とともに供給していることから、還元物中のメタルが酸化されてスラグ量が多くなることを抑制することができる。これにより、得られるメタルの品位を高めることができ、高品質なメタルを製造することができる。
【実施例】
【0084】
以下、本発明の実施例及び比較例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0085】
<実施例1、比較例1>
[混合処理工程]
原料鉱石としてのニッケル酸化鉱石と、鉄鉱石と、フラックス成分である珪砂及び石灰石、バインダー、及び炭素質還元剤(石炭粉、炭素含有量:85質量%、平均粒径:約90μm)を、適量の水を添加しながら混合機を用いて混合して混合物を得た。炭素質還元剤は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に含まれる酸化ニッケルと酸化鉄(Fe2O3)とを過不足なく還元するのに必要な量を100質量%としたときに、27質量%の割合となる量で含有させた。
【0086】
[混合物成形工程]
次に、得られた混合物をパン型造粒機を用いて造粒して、φ14.0±0.5mmの大きさに篩った。その後、篩った試料を14(実施例1~実施例12、比較例1及び比較例1)に分けた。
【0087】
その後、各混合物をペレット状に成形し、乾燥させて成形物(ペレット)を得た。
【0088】
[還元工程]
次に、各成形物(ペレット)を還元炉に装入して、下記表3に示すそれぞれの還元温度、還元時間で還元処理を施した。
【0089】
具体的には、予め、還元炉の炉床に灰(主成分はSiO2、その他の成分としてAl2O3、MgO等の酸化物を少量含有する)を敷き詰め、その上に混合物またはペレットを載置した。
【0090】
還元炉の加熱には重油を用いたバーナーを使用し、還元炉内のガスは重油燃焼雰囲気ガスとなる。このため、重油燃焼時のガスにはO2が0.5%以上3%以下程度含まれる。還元処理後の雰囲気ガスを排気ガスとして排出せずに、温度保持工程における処理空間に還元物とともに供給した。
【0091】
[温度保持工程]
実施例1~実施例12では、還元工程で得られた試料(還元物)を還元炉から新たな処理空間に還元処理後の雰囲気ガスとともに供給(移送)し、その処理空間内で還元物をバーナーを用いることにより保持した。一方、比較例1及び比較例2では、還元処理後の雰囲気ガスを排気ガスとして排気し、試料(還元物)のみを新たな処理空間に供給(移送)した。そして、各実施例、比較例において、下記表3に示す保持時間及び保持温度になるように、試料(還元物)を保持した。
【0092】
[分離工程]
温度保持工程を経た還元物からメタルとスラグを分離した。具体的には、還元物を湿式処理よる粉砕後、磁力選別によってメタルを回収した。
【0093】
≪評価≫
ニッケルメタル化率(Niメタル化率)、メタル中ニッケル含有率(メタル中Ni含有率)、及びニッケルメタル回収率(Niメタル回収率)をそれぞれ算出した。具体的には、還元工程後の還元物及び分離工程後のメタルに含まれるニッケルまたは鉄の含有量をICP発光分光分析器(SHIMAZU S-8100型)により求めて、下記(1)式~(3)式を用いて算出した。下記表3に、分析結果から算出した値を併せて示す。
【0094】
Niメタル化率=メタル中のNiの質量÷(還元物中の全てのNiの質量)×100(%) ・・・(1)式
【0095】
メタル中Ni含有率=メタル中のNiの質量÷(メタル中のNiとFeの合計質量)×100(%) ・・・(2)式
【0096】
そして、投入したニッケル酸化鉱石のNi含有率と投入量、及び回収したNiの量から、Niメタル回収率を算出した。Niメタルの回収率は(3)式のとおりである。
【0097】
Niメタル回収率=メタル中のNiの質量÷(投入した酸化鉱石の質量×酸化鉱石中のNi含有質量割合)×100 ・・・・・(3)式
【0098】
下記表3に、Niメタル率、メタル中にNi含有率、及びNiメタル回収率の結果を示す。なお、表3中の「雰囲気ガス供給有無」の項目において、「○」とは、還元処理後の雰囲気ガスを温度保持工程における処理空間に還元物とともに供給したことを意味する。「×」とは、還元処理後の雰囲気ガスを排気ガスとして排気し温度保持工程における処理空間に供給せずに、温度保持に使用したバーナーから発生した燃焼時のガスを処理空間に供給したことを意味する。
【0099】
【0100】
表3の結果からわかるように、還元工程における還元処理後の雰囲気ガスを温度保持工程における処理空間に還元物とともに供給した実施例では、Niメタル化率、メタル中Ni含有率、及びNiメタル回収率がいずれも高くなっており、還元物のフェロニッケルが次工程で再び酸化されることを防止し、これにより、得られるメタルの品位を高めることができ、高品質なメタルを製造することができることが分かる。
【0101】
<参考例>
[混合処理工程]
原料鉱石としてのニッケル酸化鉱石と、鉄鉱石と、フラックス成分である珪砂及び石灰石、バインダー、及び炭素質還元剤(石炭粉、炭素含有量:85質量%、平均粒径:約90μm)を、適量の水を添加しながら混合機を用いて混合して混合物を得た。炭素質還元剤は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に含まれる酸化ニッケルと酸化鉄(Fe2O3)とを過不足なく還元するのに必要な量を100質量%としたときに、28%の割合となる量で含有させた。
【0102】
[混合物成形工程]
次に、得られた混合物をパン型造粒機を用いて造粒して、φ16.0±1.0mmの大きさに篩った。その後、篩った試料を36(参考例1~参考例36)に分けた。
【0103】
その後、各混合物をペレット状に成形し、参考例1~参考例28では、乾燥ガスとして、還元工程から排出された排気ガスを吹き付けて乾燥させて成形物(ペレット)を得た。一方、参考例29~参考例32では、乾燥ガスとして、加熱した空気を吹き付けて乾燥させて成形物(ペレット)を得た。また、参考例33~参考例36では、乾燥ガスとして、加熱した窒素を吹き付けて乾燥させて成形物(ペレット)を得た。
【0104】
[還元工程]
次に、各成形物(ペレット)を還元炉に装入して、下記表4~6に示すそれぞれの還元温度、還元時間で還元処理を施した。
【0105】
具体的には、予め、還元炉の炉床に灰(主成分はSiO2、その他の成分としてAl2O3、MgO等の酸化物を少量含有する)を敷き詰め、その上に混合物またはペレットを載置した。
【0106】
還元炉の加熱には重油を用いたバーナーを使用し、還元炉内のガスは重油燃焼雰囲気ガスとなる。このため、重油燃焼時のガスにはO2が0.5%以上3%以下程度含まれる。なお、還元処理後の雰囲気ガスは排気し、温度保持工程における処理空間に供給しなかった。
【0107】
[温度保持工程]
還元工程で得られた還元物を還元炉から取り出し、新たな炉に装入して還元物を保持した。
【0108】
[分離工程]
温度保持工程を経た還元物からメタルとスラグを分離した。具体的には還元物を湿式処理よる粉砕後、磁力選別によってメタルを回収した。
【0109】
≪評価≫
温度保持工程を経た還元物についてニッケルメタル化率、及び分離工程を経たメタルについてメタル中のニッケル含有率をそれぞれICP発光分光分析器(SHIMAZU S-8100型)により分析して算出した。下記表4~6に、分析結果から算出した値を併せて示す。なお、ニッケルメタル化率は上記(1)式、メタル中ニッケル含有率は上記(2)式により、ニッケルメタル回収率は上記(3)式により求めた。
【0110】
下記表4~6に、Niメタル率、メタル中にNi含有率、及びNiメタル回収率の結果を示す。なお、表4~6中の「乾燥ガス」の項目において、「雰囲気ガス」とは、混合物を乾燥させる乾燥ガスとして還元工程における還元処理後の雰囲気ガスを供給して用いたことを意味する。「空気」とは、混合物を乾燥させる乾燥ガスとして、空気を供給して用いたことを意味する。「窒素」とは、混合物を乾燥させる乾燥ガスとして、窒素を供給して用いたことを意味する。
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
表4~6からわかるように、還元処理後の雰囲気ガスを乾燥ガスとして混合物成形工程の処理空間に供給して用いる(参考例1~28)ことにより、空気を乾燥ガスとして混合物成形工程の処理空間に供給した場合(参考例29~32)と比べて、Niメタル化率、メタル中Ni含有率、及びNiメタル回収率が高くなっており、高品質のメタルを製造することができた。
【0115】
また、窒素を乾燥ガスとして混合物成形工程の処理空間に供給した参考例33~36(窒素を供給)での処理結果は、参考例29~32(空気を供給)での処理結果と比べてNiメタル化率等は高くなっているものの、参考例1~28(還元処理後の雰囲気ガス)での処理結果と比べてNiメタル化率等は低くなっている。これは、窒素を乾燥ガスとして供給した場合には、乾燥ガスとして用いるために所定の温度に窒素ガスを加熱するといった措置を要することから、加熱により処理空間内に酸素が持ち込まれて、混合物中のニッケルが酸化されスラグ量が増加したため、または、混合物に含まれる炭素質還元剤の酸化が促進されたことにより、結果として還元工程における還元反応が阻害されたためと考えられる。
【0116】
この結果から、還元処理後の雰囲気ガスの一部を温度保持工程における処理空間に供給する酸化鉱石の製錬方法において、さらに還元処理後の雰囲気ガスを混合物成形工程における処理空間に供給して乾燥ガスとしても用いることにより、得られるメタルの品位を高めることができ、より高品質のメタルを製造することができることが推認される。
【0117】
なお、還元処理後の雰囲気ガスを乾燥ガスとして混合物成形工程の処理空間に供給することにより、乾燥のためにガスを加熱するといった措置が不要となり、製錬操業自体のコストを低減することができる。