(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】ビスフェノール製造法、及びポリカーボネート樹脂の製造法
(51)【国際特許分類】
C07C 37/20 20060101AFI20221101BHJP
C07C 39/16 20060101ALI20221101BHJP
C08G 64/04 20060101ALI20221101BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20221101BHJP
【FI】
C07C37/20
C07C39/16
C08G64/04
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2018148652
(22)【出願日】2018-08-07
【審査請求日】2021-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【氏名又は名称】久保山 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【氏名又は名称】南瀬 透
(72)【発明者】
【氏名】内山 馨
(72)【発明者】
【氏名】吉田 隆之
(72)【発明者】
【氏名】桑原 和宏
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-029504(JP,A)
【文献】特開昭59-062544(JP,A)
【文献】特開平09-031002(JP,A)
【文献】特表2001-508072(JP,A)
【文献】特開2014-040376(JP,A)
【文献】特開平11-180920(JP,A)
【文献】特開2002-241331(JP,A)
【文献】特開2014-189526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C08G
C07B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケトン又はアルデヒド、芳香族アルコール、第1の有機溶媒及び酸触媒を含有する反応液中で、前記ケトン又はアルデヒドと前記芳香族アルコールとを縮合させることによりビスフェノールを生成させ、ビスフェノールが分散したスラリーを得る第1工程と、
前記スラリーに第2の有機溶媒を供給し、前記第1工程よりも高い温度で、前記ケトン又はアルデヒドと前記芳香族アルコールとを縮合させる第2工程とを有
し、
前記第1工程終了時のスラリー中のビスフェノールの濃度が5質量%以上20質量%以下であることを特徴とするビスフェノール製造法。
【請求項2】
前記反応液が、ケトン又はアルデヒドを含有する溶液を、芳香族アルコール、第1の有機溶媒及び酸触媒を含有する溶液に供給して調製したものである請求項1に記載のビスフェノール製造法。
【請求項3】
前記第2工程の縮合は、前記第1工程よりも5℃以上高い温度で行う請求項1または2に記載のビスフェノール製造法。
【請求項4】
前記第2の有機溶媒が、芳香族炭化水素である請求項1から3のいずれか1項に記載のビスフェノール製造法。
【請求項5】
前記酸触媒に対する、前記第2工程にて供給される前記芳香族炭化水素のモル比が、0.10以上、1.1以下である請求項4に記載のビスフェノール製造法。
【請求項6】
前記第2の有機溶媒が、脂肪族アルコールである請求項1から3のいずれか1項に記載のビスフェノール製造法。
【請求項7】
前記酸触媒に対する、前記第2工程にて供給される前記脂肪族アルコールのモル比が、0.05以上、0.4以下である請求項6に記載のビスフェノール製造法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の酸触媒が、硫酸が含まれる酸であるビスフェノール製造法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載のビスフェノール製造法によって
ビスフェノールを製造する工程と、
製造された
前記ビスフェノールを用いてポリカーボネート樹脂を製造する
工程とを有するポリカーボネート樹脂の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスフェノール製造法に関する。また、前記ビスフェノール製造法で製造されたビスフェノールを用いたポリカーボネート樹脂の製造法に関する。
本発明のビスフェノール製造法で製造されるビスフェノールは、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、芳香族ポリエステル樹脂などの樹脂原料や、硬化剤、顕色剤、退色防止剤、その他殺菌剤や防菌防カビ剤等の添加剤として有用である。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノールは、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、芳香族ポリエステル樹脂などの高分子材料の原料として有用である。代表的なビスフェノールとしては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンなどが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ビスフェノールは、ポリカーボネート樹脂等の様々な樹脂の原料として幅広い用途に使用され、今後も、その用途の拡大が期待される。そのため、より効率よく製造することが求められている。例えば、ビスフェノールの製造では、生成してくるビスフェノールの凝集により反応液が撹拌できないといった混合不良が生じたり、反応に時間がかかることがあり、さらなる改良が求められていた。
また、光学用ポリカーボネート樹脂のように光学用材料の原料として使用される分野もあり、近年では、より色調の優れた、透明なビスフェノールが求められている。しかしながら、従来のビスフェノールはその色調に改善の余地があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであって、ビスフェノールを生成する反応における反応液の混合不良を解決し、着色が少なく、収率の良いビスフェノール製造法を提供することを目的とする。また、前記ビスフェノール製造法で得られたビスフェノールを用いて、色調の良いポリカーボネート樹脂の製造法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、芳香族アルコール、原料有機溶媒及び酸触媒を含有する溶液にケトン又はアルデヒドを供給し、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとの縮合をある程度進行させた後に、更に有機溶媒を供給することで、反応速度を維持させ、混合不良を解決し、得られたビスフェノールの着色を抑制し、効率よくビスフェノールが製造できることを見出した。また、前記ビスフェノールを用いて、色調に優れたポリカーボネート樹脂を製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、以下の[1]~[9]に存する。
[1] ケトン又はアルデヒド、芳香族アルコール、第1の有機溶媒及び酸触媒を含有する反応液中で、前記ケトン又はアルデヒドと前記芳香族アルコールとを縮合させることによりビスフェノールを生成させ、ビスフェノールが分散したスラリーを得る第1工程と、前記スラリーに第2の有機溶媒を供給し、前記第1工程よりも高い温度で、前記ケトン又はアルデヒドと前記芳香族アルコールとを縮合させる第2工程とを有するビスフェノール製造法。
[2] 前記反応液が、ケトン又はアルデヒドを含有する溶液を、芳香族アルコール、第1の有機溶媒及び酸触媒を含有する溶液に供給して調製したものである[1]に記載のビスフェノール製造法。
[3] 前記第2工程の縮合は、前記第1工程よりも5℃以上高い温度で行う[1]または[2]に記載のビスフェノール製造法。
[4] 前記第2の有機溶媒が、芳香族炭化水素である[1]から[3]のいずれかに記載のビスフェノール製造法。
[5] 前記酸触媒に対する、前記第2工程にて供給される前記芳香族炭化水素のモル比が、0.10以上、1.1以下である[4]に記載のビスフェノール製造法。
[6] 前記第2の有機溶媒が、脂肪族アルコールである[1]から[3]のいずれかに記載のビスフェノール製造法。
[7] 前記酸触媒に対する、前記第2工程にて供給される前記脂肪族アルコールのモル比が、0.05以上、0.4以下である[6]に記載のビスフェノール製造法。
[8] [1]から[7]のいずれかに記載の酸触媒が、硫酸が含まれる酸であるビスフェノール製造法。
[9] [1]から[8]のいずれかに記載のビスフェノール製造法によって製造されたビスフェノールを用いてポリカーボネート樹脂を製造するポリカーボネート樹脂の製造法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、混合不良を抑制し、着色が少なく、効率の良いビスフェノール製造法が提供される。また、製造されたビスフェノールを使用することにより、色調に優れたポリカーボネート樹脂の製造法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。
なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0010】
本発明は、ケトン又はアルデヒド、芳香族アルコール、第1の有機溶媒及び酸触媒を含有する反応液中で、前記ケトン又はアルデヒドと前記芳香族アルコールとを縮合させることによりビスフェノールを生成させ、ビスフェノールが分散したスラリーを得る第1工程と、前記スラリーに第2の有機溶媒を供給し、前記第1工程よりも高い温度で、前記ケトン又はアルデヒドと前記芳香族アルコールとを縮合させる第2工程とを有するビスフェノール製造法に関する。
【0011】
ビスフェノールの生成反応は、以下に示す反応式(1)に従って行われる。
【0012】
【0013】
上記一般式(1)において、R1~R4としては、それぞれに独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基などが挙げられる。なお、アルキル基、アルコキシ基、アリール基などの置換基は、置換あるいは無置換のいずれであってもよい。例えば、水素原子、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、i-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、i-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、2,6-ジメチルフェニル基などが挙げられる。
【0014】
R5とR6としては、それぞれに独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基などが挙げられる。なお、アルキル基、アルコキシ基、アリール基などの置換基は、置換あるいは無置換のいずれであってもよい。例えば、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、i-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルへキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、i-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、2,6-ジメチルフェニル基などが挙げられる。
【0015】
また、R5とR6は、2つの基の間で互いに結合又は架橋していても良く、R5とR6とが隣接する炭素原子と一緒に結合してシクロアルキリデン基を形成してもよい。R5とR6とが隣接する炭素原子と一緒に結合し形成されるシクロアルキリデン基としては、例えば、シクロプロピリデン、シクロブチリデン、シクロペンチリデン、シクロヘキシリデン、3,3,5-トリメチルシクロヘキシリデン、シクロヘプチリデン、シクロオクチリデン、シクロノニリデン、シクロデシリデン、シクロウンデシリデン、シクロドデシリデン、フルオレニリデン、キサントニリデン、チオキサントニリデンなどが挙げられる。
【0016】
上記一般式(1)に示すように、芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドとを酸触媒下で撹拌することで、ビスフェノールが生成するが、生成したビスフェノールの凝集等により反応液の流動性が低下すると、反応液の撹拌ができない(混合不良となる)場合がある。この場合、反応系内で加熱ムラや局所的な反応による熱が生じることで、局所的な加熱などが生じ、着色の原因となる副生成物の生成が起こりやすくなる。有機溶媒を用いて反応液中の原料濃度を下げておくことで、生成してくるビスフェノールの凝集等により、反応液が固化して撹拌できなくなるといった混合不良を抑制することが考えられるが、この場合、芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドとの反応速度が低下する。
【0017】
一方、本発明のビスフェノール製造法では、第1工程において、第1の有機溶媒中でケトン又はアルデヒドと芳香族アルコールとを縮合させ、ビスフェノールを生成させる反応をある程度進行させ、ビスフェノールが分散したスラリーを得た後、第2工程で第2の有機溶媒を供給することで、反応の進行とともに析出したビスフェノールの凝集等による反応液の流動性の低下により、混合不良となることを防ぐことができる。また、混合不良による反応系内での局所的な加熱等による副生成物の生成を抑制することができる。
更に、第2の有機溶媒を供給して行う第2工程での縮合を、第1工程よりも高い温度で実施することにより、第2の有機溶媒の追加による反応液(スラリー)の希釈に伴う、反応性の低下を抑制できる。
すなわち、ビスフェノールの生成反応があまり進行していない第1工程では、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールの濃度を高めた状態で反応を進行させ、第2工程において、有機溶媒を追加し、第2工程よりも高い温度で、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとを反応させることで、反応開始直後から反応終了まで安定して反応を進行させることができる。
【0018】
[第1工程]
第1工程は、ケトン又はアルデヒド、芳香族アルコール、第1の有機溶媒及び酸触媒を含有する反応液中で、前記ケトン又はアルデヒドと前記芳香族アルコールとを縮合させることによりビスフェノールを生成させ、ビスフェノールが分散したスラリーを得る工程である。
【0019】
(芳香族アルコール)
ビスフェノールの原料として使用する芳香族アルコールは、通常、以下の一般式(2)で表される化合物である。
【0020】
【0021】
上記一般式(2)のR1~R4は、上記一般式(1)のR1~R4と同義である。
また、上記一般式(2)において、R2とR3は立体的に嵩高いと縮合反応が進行しにくいことから、R1~R4は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基またはアリール基であり、R1およびR4の少なくとも1つは、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基またはアリール基であり、R2およびR3は水素原子であることが好ましい。また、R1およびR4はそれぞれ独立に水素原子、または、アルキル基であり、R1およびR4の少なくとも1つは、アルキル基であり、R2およびR3が水素原子であることがより好ましく、R1がアルキル基であり、R2~R4が水素原子であることが更に好ましい。
【0022】
上記一般式(2)で表される化合物として、具体的には、フェノール、メチルフェノール、ジメチルフェノール、エチルフェノール、プロピルフェフェノール、ブチルフェノール、メトキシフェノール、エトキシフェノール、プロポキシフェノール、ブトキシフェノール、アミノフェノール、ベンジルフェニル、フェニルフェノールなどが挙げられる。
この中でも、フェノール、メチルフェノールおよびジメチルフェノールのいずれかが好ましく、メチルフェノールまたはジメチルフェノールがより好ましく、メチルフェノールが更に好ましい。
【0023】
(ケトン又はアルデヒド)
ケトン又はアルデヒドは、通常、以下の一般式(3)で表される化合物である。
【0024】
【0025】
上記一般式(3)のR5、R6は、上記一般式(1)のR5、R6と同義である。
上記一般式(3)で表される化合物として、具体的には、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ペンタンアルデヒド、ヘキサンアルデヒド、ヘプタンアルデヒド、オクタンアルデヒド、ノナンアルデヒド、デカンアルデヒド、ウンデカンアルデヒド、ドデカンアルデヒドなどのアルデヒド類、アセトン、ブタノン、ペンタノン、ヘキサノン、ヘプタノン、オクタノン、ノナノン、デカノン、ウンデカノン、ドデカノンなどのケトン類、ベンズアルデヒド、フェニルメチルケトン、フェニルエチルケトン、フェニルプロピルケトン、クレジルメチルケトン、クレジルエチルケトン、クレジルプロピルケトン、キシリルメチルケトン、キシリルエチルケトン、キシリルプロピルケトンなどのアリールアルキルケトン、シクロプロパノン、シクロブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、シクロノナノン、シクロデカノン、シクロウンデカノン、シクロドデカノンなどの環状アルカンケトン類等が挙げられる。
【0026】
芳香族アルコールと、ケトン又はアルデヒドとを縮合させる反応において、原料仕込み時のケトン又はアルデヒドに対する芳香族アルコールのモル比((芳香族アルコールのモル数/ケトンのモル数)又は(芳香族アルコールのモル数/アルデヒドのモル数))は、少ないとケトン又はアルデヒドが多量化しやすい。一方、多いと芳香族アルコールを未反応のまま損失する。これらのことから、ケトン又はアルデヒドに対する芳香族アルコールのモル比の下限は、好ましくは1.5以上、より好ましくは1.6以上、更に好ましくは1.7以上である。また、その上限は、好ましくは15以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは8以下である。
【0027】
(酸触媒)
酸触媒としては、硫酸、塩酸、リン酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸などが挙げられる。中でも、反応効率に優れ、かつ、触媒の揮発性がなく設備への負担が少ないという観点から硫酸を含有することが好ましく、硫酸であることがより好ましい。
硫酸は、濃硫酸や希硫酸と呼ばれる、硫酸が水で希釈された硫酸の水溶液(原料硫酸)を使用することで、反応系内に供給することができる。原料硫酸としては、濃硫酸を用いても希硫酸を用いてもよい。しかし、用いる原料硫酸の濃度が低すぎると、反応時間が長くなり、効率的にビスフェノールを製造することができない。そのため、用いられる原料硫酸の質量濃度の下限は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。また、その上限は好ましくは99.5質量%以下、より好ましくは99質量%以下である。
【0028】
原料仕込み時において、ケトン又はアルデヒドに対する硫酸のモル比((硫酸のモル数/ケトンのモル数)又は(硫酸のモル数/アルデヒドのモル数))は、少ないと縮合反応時に副生する水によって硫酸が希釈されて長い反応時間を要することになる。一方、多いとケトン又はアルデヒドの多量化が進行する場合がある。これらのことから、ケトン又はアルデヒドに対する硫酸のモル比の下限は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上である。また、その上限は、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは5以下である。
【0029】
また、芳香族アルコールと、ケトン又はアルデヒドとを縮合させる反応では、助触媒としてチオールを用いることができる。助触媒として用いるチオールとしては、例えば、メルカプト酢酸、チオグリコール酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、4-メルカプト酪酸などのメルカプトカルボン酸、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、ブチルメルカプタン、ペンチルメルカプタン、へキシルメルカプタン、へプチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ノニルメルカプタン、デシルメルカプタン(デカンチオール)、ウンデシルメルカプタン(ウンデカンチオール)、ドデシルメルカプタン(ドデカンチオール)、トリデシルメルカプタン、テトラデシルメルカプタン、ペンタデシルメルカプタンなどが挙げられる。
【0030】
原料仕込み時において、ケトン又はアルデヒドに対するチオールのモル比((チオールのモル数/ケトンのモル数)又は(チオールのモル数/アルデヒドのモル数))は、少ないとチオールを用いることによるビスフェノールの反応選択性改善の効果が得られにくい。一方、多いとビスフェノールに混入して品質が悪化する場合がある。これらのことから、ケトン及びアルデヒドに対するチオールのモル比の下限は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.005以上、更に好ましくは0.01以上である。また、その上限は、好ましくは1以下、より好ましくは0.5以下、更に好ましくは0.1以下である。
【0031】
(第1の有機溶媒)
第1の有機溶媒としては、ビスフェノールの生成反応を阻害しない範囲で特に限定されず、芳香族炭化水素、脂肪族アルコール、脂肪族炭化水素などが挙げられ、これらの溶媒を単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。第1の有機溶媒を用いることで、芳香族アルコールの量を低減し、かつ、反応液の固化を抑制することができ、混合状態を改善し、反応時間を短縮することが可能である。
【0032】
芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、メシチレンなどが挙げられ、これらの溶媒を単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。芳香族炭化水素は、ビスフェノールの製造に使用した後、蒸留などで回収及び精製して再使用することが可能である。芳香族炭化水素を再利用する場合は、沸点が低いものが好ましい。好ましい芳香族炭化水素のひとつは、トルエンである。
【0033】
脂肪族アルコールは、アルキル基とヒドロキシル基が結合したアルキルアルコールである。本発明において、脂肪族アルコールは、アルキル基と1個のヒドロキシル基が結合したものでもよく、アルキル基と2個のヒドロキシル基が結合した多価アルコールであってもよい。また、アルキル基は、直鎖であっても、分岐していてもよく、無置換であっても、アルキル基の炭素原子の一部が酸素原子によって置換されていてもよい。
脂肪族アルコールは、例えば、炭素数12以下のアルキルアルコールや炭素数8以下のアルキルアルコールを用いることができる。
【0034】
脂肪族アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノール、i-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、n-ノナノール、n-デカノール、n-ウンデカノール、n-ドデカノール、エチレングリコール、ジエチレングルコール、トリエチレングリコールなどの炭素数1~12のアルキルアルコール類などを挙げることができる。好ましい脂肪族アルコールのひとつは、メタノールである。
【0035】
反応液に含有される第1の有機溶媒は、ビスフェノールの溶解度が低く、反応終了後、反応液からビスフェノールを回収する際の損失(例えば、晶析時のろ液への損失)を低減できるため、芳香族炭化水素を主成分として含むことが好ましく、第1の有機溶媒中に芳香族炭化水素を55質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上含むことがより好ましく、80質量%以上含むことが更に好ましい。
【0036】
特に、酸触媒が硫酸を含む場合、第1の有機溶媒が脂肪族アルコールを含むことで、硫酸と脂肪族アルコールが反応して硫酸モノアルキルが生成し触媒作用を示す効果も得られる。このため、第1の有機溶媒は、脂肪族アルコールを含む有機溶媒であることが好ましい。また、脂肪族アルコールは、炭素数が多くなると親油性が増加し、硫酸と混ざりにくくなり硫酸モノアルキルを得にくくなることから、炭素数が8以下のアルキルアルコールが好ましい。硫酸と脂肪族アルコールを反応させ、硫酸モノアルキルを生成させることにより、触媒の酸強度を制御し、原料のケトン又はアルデヒドの縮合(多量化)及び着色を抑制することができる。このため、副生成物の生成が抑制され、かつ、生成物の着色が低減されたビスフェノールを簡便かつ効率よく製造することが可能となる。
【0037】
酸触媒が硫酸を含む場合に、硫酸アルキルと脂肪族アルコールとを反応させ、硫酸モノアルキルを生成させ、その触媒作用も利用するためには、硫酸に対する脂肪族アルコールのモル比(脂肪族アルコールのモル数/硫酸のモル数)は、少ないと原料のケトン又はアルデヒドの縮合(多量化)及び着色が顕著となる。一方、多いと硫酸濃度が低下し、反応が遅くなる。これらのことから、硫酸に対する脂肪族アルコールのモル比の下限は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上である。また、その上限は、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下である。
【0038】
また、酸触媒が硫酸を含む場合、第1の有機溶媒が、芳香族炭化水素及び脂肪族アルコールを含むようにすることがより好ましい。芳香族炭化水素及び脂肪族アルコールを含む第1の有機溶媒中の芳香族炭化水素の含有量は、55質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましい。このような第1の有機溶媒とすることで、硫酸モノアルキルの触媒作用を利用でき、更に反応液からビスフェノールを回収する際の損失が低減できる。
【0039】
第1工程において、ケトン又はアルデヒド、芳香族アルコール、第1の有機溶媒及び酸触媒を含有する反応液の調製方法は、特に限定されないが、例えば、以下の(i)~(iii)の方法が挙げられる。
(i)ケトン又はアルデヒド、芳香族アルコール、第1の有機溶媒及び酸触媒を同時に混合する方法
(ii)酸触媒を、ケトン又はアルデヒド、芳香族アルコール及び第1の有機溶媒を含有する溶液に供給する方法
(iii)ケトン又はアルデヒドを含有する溶液を、芳香族アルコール、第1の有機溶媒及び酸触媒を含有する溶液に供給する方法
【0040】
また、上記(ii)~(iii)の方法では、供給するケトン又はアルデヒドや酸触媒は、他の溶液に一括で供給しても、分割して供給してもよい。ビスフェノールを生成する反応が発熱反応であることから、少しずつ滴下して供給するなど分割して供給する方法が好ましい。
【0041】
ケトン又はアルデヒドの自己縮合の抑制のため、反応液は、上記(iii)の方法にて調製することが好ましい。
【0042】
また、上記(iii)の方法にて反応液を調製する場合、ケトン又はアルデヒドを含有する溶液は、ケトン又はアルデヒドからなるものであってもよく、ケトン又はアルデヒド以外の成分を含んでもよい。例えば、助触媒としてチオールも用いる場合、チオールは、ケトン又はアルデヒドに予め混合してから反応に供することが好ましい。チオールとケトン又はアルデヒドとの混合方法は、チオールにケトン又はアルデヒドを供給してもよく、ケトン又はアルデヒドにチオールを供給してもよい。
【0043】
また、ケトン又はアルデヒドを含有する溶液は、第1の有機溶媒を含んでもよい。すなわち、上記(iii)の方法は、芳香族アルコール、有機溶媒A及び酸触媒を含有する溶液に、ケトン又はアルデヒド及び有機溶媒Bを含有する溶液を供給する方法とすることができる。このとき、調製される反応液に含有される第1の有機溶媒は、有機溶媒Aと有機溶B媒とからなる。有機溶媒A及び有機溶媒Bは、上記の第1の有機溶媒と同様に、芳香族炭化水素、脂肪族アルコール、脂肪族炭化水素などが挙げられ、これらの溶媒を単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。有機溶媒Aと有機溶媒Bは、同一のものであっても、異なるものであってもよい。
例えば、有機溶媒Aを芳香族炭化水素と脂肪族アルコールとの混合溶媒とし、有機溶媒Bを芳香族炭化水素とすることができる。
【0044】
第1工程は、ケトン又はアルデヒド、芳香族アルコール、第1の有機溶媒及び酸触媒を混合し反応液を調製する原料混合段階と、ビスフェノール生成反応を進行させる反応段階とに分けて管理することができる。
原料混合段階は、第1工程の開始から、反応液の調製が完了する時点までの段階である。例えば、ケトン又はアルデヒドを含有する溶液を、芳香族アルコール、第1の有機溶媒及び酸触媒を含有する溶液に供給し、反応液を調製する場合、ケトン又はアルデヒドを含有する溶液を供給し始める時点から、供給が終わる時点までの段階である。原料混合段階においても、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとの縮合によりビスフェノールが生成する。
反応段階は、反応液の調製が完了した時点から、第1工程の終了までの段階である。反応段階で、ビスフェノールの生成反応が更に進行し、ビスフェノールの生成量が増加する。
原料混合段階の温度は、低すぎると原料混合段階で縮合が進行しにくくなることから、好ましくは-30℃以上であり、より好ましくは-20℃以上であり、更に好ましくは-15℃以上である。また、温度が高すぎると、副反応であるアセトン又はケトンの自己縮合反応が進行し、助触媒であるチオールを用いた場合にはチオールの酸化分解が進行しやすくなるため、好ましくは50℃以下であり、より好ましくは45℃以下であり、更に好ましくは40℃以下である。
【0045】
反応段階の温度(反応温度)は、温度が高すぎると、副反応であるアセトン又はケトンの自己縮合反応が進行し、助触媒であるチオールの酸化分解が進行しやすくなる。また、温度が低すぎると析出するビスフェノール量が多くなり、混合し難くなり、反応も長時間化する。そのため、反応温度は、原料混合段階の温度に対して、-5℃以上が好ましく、-3℃以上がより好ましく、-1℃以上が特に好ましい。また、原料混合段階の温度に対して、+5℃以下が好ましく、+3℃以下がより好ましく、+1℃以下が更に好ましい。すなわち、反応開始から反応終了までの平均の反応温度を、原料混合時の平均の温度に対して、±5℃の範囲となるように制御することが好ましく、±3度の範囲となるように制御することがより好ましく、±1℃の範囲となるように制御することが更に好ましい。
【0046】
また、第1工程は、一定の温度範囲で行うことが好ましい。すなわち、原料混合段階及び反応段階において、一定の温度範囲で行うことが好ましい。ビスフェノールの生成反応は発熱反応であり、反応系内の温度が上昇しやすいため、急激な加熱等が起こらないように、一定の温度となるように制御することが好ましい。例えば、第1工程の開始から終了までの最高温度と最低温度が、設定した反応温度の±5℃の範囲におさまるように温度を制御して反応を行うことが好ましい。
【0047】
第1工程の反応時間は、長すぎると生成したビスフェノールが分解する場合があることから、好ましくは30時間以内、より好ましくは25時間以内、更に好ましくは20時間以内である。反応時間の下限は通常2時間以上であり、2.5時間以上であることが好ましい。また、反応時間は、5時間以上であっても、10時間以上であっても、15時間以上であってもよい。
なお、第1工程の反応時間は、反応段階だけでなく、原料混合段階も含むものである。例えば、芳香族アルコール、第1の有機溶媒及び酸触媒を混合した溶液に、ケトン又はアルデヒドを1時間かけて供給した後、1時間反応させた場合、反応時間は2時間である。
【0048】
また、スラリー中のビスフェノールの濃度が5~20質量%となった時点で、第1工程を終了し、有機溶媒を供給する第2工程を行うことができる。ビスフェノールの生成が少ない時点で第1工程を終了し第2工程を行うと反応速度が更に低下し、また、ビスフェノールの生成量が多くなりすぎると、第2の有機溶媒を供給してもビスフェノールを分散させることが困難となり、安定して反応させることが難しい。
【0049】
[第2工程]
第2工程は、第1工程で得られたスラリーに第2の有機溶媒を供給し、前記第1工程よりも高い温度で、前記ケトン又はアルデヒドと前記芳香族アルコールとを縮合させる工程である。
【0050】
(第2の有機溶媒)
第2の有機溶媒としては、芳香族炭化水素、脂肪族アルコール、脂肪族炭化水素等が挙げられ、第1工程で使用した第1の有機溶媒と同一でも、異なる有機溶媒でも使用できる。
【0051】
第2の有機溶媒としては、塩酸や硫酸等の酸触媒を溶解する溶媒であることが好ましく、第2工程で供給される有機溶媒として好適なものは、芳香族炭化水素である。芳香族炭化水素は、第1工程で用いることができる芳香族炭化水素と同様に、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、メシチレンなどが挙げられ、これらの溶媒を単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。好ましい芳香族炭化水素のひとつは、トルエンである。
【0052】
第2の有機溶媒が芳香族炭化水素の場合、第2工程において供給する芳香族炭化水素の量が少なすぎると、ビスフェノールが分散したスラリーが固化し、混合不良となってしまう。また、第2工程において供給する芳香族炭化水素の量が多すぎると、反応速度が著しく遅くなり、反応時間が長時間化する。このことから、第1工程の仕込み時のケトン又はアルデヒドに対する、第2工程にて供給される芳香族炭化水素のモル比((第2工程にて供給される芳香族炭化水素のモル数/ケトンのモル数)又は(第2工程にて供給される芳香族炭化水素のモル数/アルデヒドのモル数))は、0.10以上が好ましく、0.20以上がより好ましく、0.40以上が更に好ましい。また、第1工程の仕込み時のケトン又はアルデヒドに対する、第2工程にて供給される芳香族炭化水素のモル比は、2.5以下が好ましく、2.0以下がより好ましく、1.5以下が更に好ましい。
【0053】
また、酸触媒に対する、第2工程にて供給される芳香族炭化水素のモル比(第2工程にて供給される芳香族炭化水素のモル数/酸触媒のモル数)は、1.1以下が好ましく、0.75以下がより好ましく、0.55以下が更に好ましい。酸触媒に対する、第2工程にて供給される芳香族炭化水素のモル比の下限は、0.10以上が好ましく、0.15以上がより好ましく、0.20以上が更に好ましい。
【0054】
第2工程での反応液の量(第1工程で得られたスラリーの質量+供給する第2の有機溶媒の質量)に対する芳香族アルコール量の質量比が少ないと、生成するビスフェノール量が低下し、製造効率が低下する。そのため、第1の有機溶媒が芳香族炭化水素を含み、第2の有機溶媒が芳香族炭化水素である場合、第1の有機溶媒中の芳香族炭化水素と第2の有機溶媒である芳香族炭化水素との合計量に対する、第1工程の仕込み時の芳香族アルコール量の質量比は、0.30以上が好ましく、0.40以上が更に好ましい。
【0055】
第2の有機溶媒としては、水相にも有機相にも溶解度が高い性質を有することが好ましく、この観点から、第2の有機溶媒として好適なものは、脂肪族アルコールである。脂肪族アルコールは、第1工程で用いることができる脂肪族アルコールと同様のものを用いることができ、これらの溶媒を単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。第2の有機溶媒として用いられる脂肪族アルコールは、炭素数8以下のアルキルアルコールであることが好ましい。具体的に好ましい脂肪族アルコールのひとつは、メタノールである。
【0056】
第2の有機溶媒が脂肪族アルコールの場合、第2工程において供給する脂肪族アルコールの量が少なすぎると、ビスフェノールが分散したスラリーが固化し、混合不良となってしまう。また、第2工程において供給する脂肪族アルコールの量が多すぎると、反応速度が著しく遅くなり、反応時間が長時間化する。このことから、第1工程の仕込み時のケトン又はアルデヒドに対する、第2工程にて供給される脂肪族アルコールのモル比((第2工程にて供給される脂肪族アルコールのモル数/ケトンのモル数)又は(第2工程にて供給される脂肪族アルコールのモル数/アルデヒドのモル数))は、0.010以上が好ましく、0.10以上がより好ましく、0.20以上が更に好ましい。また、第1工程の仕込み時のケトン又はアルデヒドに対する、第2工程にて供給される脂肪族アルコールのモル比は、1.0倍以下が好ましく、0.90以下がより好ましく、0.50以下が更に好ましい。
【0057】
また、酸触媒に対する、第2工程にて供給される脂肪族アルコールのモル比(第2工程にて供給される脂肪族アルコールのモル数/酸触媒のモル数)は、0.40以下が好ましく、0.30以下がより好ましく、0.25以下が更に好ましい。酸触媒に対する、第2工程にて供給される脂肪族アルコールのモル比の下限は、0.050以上が好ましく、0.10以上がより好ましい。
【0058】
上記のように第2工程での反応液の量(第1工程で得られたスラリーの質量+供給する第2の有機溶媒の質量)に対する芳香族アルコール量の質量比が少ないと、生成するビスフェノール量が低下し、製造効率が低下する。そのため、第1の有機溶媒が脂肪族アルコールを含み、第2の有機溶媒が脂肪族アルコールである場合、第1の有機溶媒中の脂肪族アルコールと第2の有機溶媒である脂肪族アルコールとの合計量に対する、仕込み時の芳香族アルコール量の質量比は、1.0以上が好ましく、5.0以上が更に好ましい。
【0059】
また、第2工程の縮合は、第1工程の温度より高い温度で行う。第1工程の温度よりも高い温度で縮合させることで、第1工程よりもビスフェノールの生成反応を更に進行させることができる。第2工程の縮合は、第1工程の温度よりも5℃以上高い温度で行うことが好ましく、10℃以上高い温度で行うことがより好ましく、15℃以上高い温度で行うことが更に好ましい。
具体的には、第1工程で得られたスラリーに第2の有機溶媒を供給したスラリー(第2工程の反応液)を第1工程の温度より高い所定の温度まで昇温し、所定の温度を維持するように制御しながら、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとを縮合させる。
第1工程で得られたスラリーに第2の有機溶媒を供給したスラリーは、第1工程の温度に対して5℃以上高い温度まで昇温することが好ましく、10℃以上高い温度まで昇温することがより好ましく、15℃以上高い温度まで昇温することが更に好ましい。また、第1工程で得られたスラリーに第2の有機溶媒を供給したスラリーを昇温し、所定の温度に達した時点から第2工程終了時まで平均の温度が、第1工程の反応温度よりも5℃以上高くなるように制御することが好ましい。より好ましくは、10℃以上であり、更に好ましくは15℃以上である。
【0060】
また、第2工程において、反応時間は、0.5~15時間、好ましくは5~15時間である。なお、反応時間は、スラリーに第2の有機溶媒を供給する時間も含むものである。
【0061】
本発明のビスフェノール製造法で用いる、第1工程における反応液中の硫酸や塩酸等の酸触媒は、通常、硫酸や塩酸が水で希釈されたものとして供給されるため、第1工程の反応液はこの水を含む。たとえば、反応液の調製時に酸触媒として1kgの80質量%の原料硫酸を用いた場合、反応液は0.2kgの水を含むこととなる。反応液中の酸触媒の濃度が低すぎると、反応速度が低下する。反応速度を上げるために、酸触媒の量を増やすと、水の量も増えることとなる。一方、ビスフェノールは、水には溶解しないため、反応液中の水の量が多い場合などは、ビスフェノールの凝集、固化による混合不良が生じやすい。また、硫酸を用いた場合、反応液中の硫酸の濃度が高すぎると、ケトン又はアルデヒドの多量化を促進させたり、生成したビスフェノールのスルホン化を引き起こす場合がある。また、脂肪族アルコールやチオールの併用時には、脂肪族アルコールの脱水2量化を促進させたり、チオールの劣化を引き起こす場合がある。そのため、反応液中でのビスフェノールの固化による混合不良を回避し、反応速度を上げ、製造効率をよいものとするためには、反応液中の酸触媒や水の量を管理することが重要である。
【0062】
例えば、第1の有機溶媒として、芳香族炭化水素と脂肪族アルコールとの混合溶液を用い、第2の有機溶媒として芳香族炭化水素または脂肪族アルコールを用いる場合、下記(1)~(4)のいずれかの要件を満たすことが好ましい。
(1)第1工程の反応液中の水の質量に対する、芳香族炭化水素の質量比は、5.1以上が好ましく、5.3以上が更に好ましい。なお、芳香族炭化水素の質量は、第1の有機溶媒に含まれる芳香族炭化水素と第2の有機溶媒に含まれる芳香族炭化水素との合計である。
(2)第1工程の反応液中の水の質量に対する、脂肪族アルコールの質量比は、0.11以上が好ましく、0.12以上が更に好ましい。なお、脂肪族アルコールの質量は、第1の有機溶媒に含まれる脂肪族アルコールと第2の有機溶媒に含まれる脂肪族アルコールとの合計である。
(3)酸触媒に対する芳香族炭化水素の合計量の質量比は、1.28以上が好ましく、1.30上が更に好ましい。なお、芳香族炭化水素の質量は、第1の有機溶媒に含まれる芳香族炭化水素と第2の有機溶媒に含まれる芳香族炭化水素との合計である。
(4)酸触媒に対する脂肪族アルコールの質量比は、0.027以上が好ましく、0.029以上が更に好ましい。なお、脂肪族アルコールの質量は、第1の有機溶媒に含まれる脂肪族アルコールと第2の有機溶媒に含まれる脂肪族アルコールとの合計である。
【0063】
[精製工程]
第2工程後に精製、単離することで、ビスフェノールを得ることができる。ビスフェノールの精製、単離は、常法により行うことができる。例えば、晶析やカラムクロマトグラフィーなどの簡便な手段により精製することが可能である。一例として、第2工程において得られたスラリーを加熱等により溶解、分液して得られた有機相を水又は食塩水などで洗浄し、更に必要に応じて重曹水などで中和洗浄する。必要に応じ、洗浄後の有機相を冷却し晶析させてもよい。晶析は複数回行ってもよい。
芳香族アルコールを多量に用いる場合は、精製時の晶析前に蒸留によって余剰の芳香族アルコールを留去してから晶析させることが好ましい。
【0064】
<ビスフェノールの用途>
本発明のビスフェノール製造法にて製造されるビスフェノール(以下、「本発明のビスフェノール」と称する場合がある。)は、光学材料、記録材料、絶縁材料、透明材料、電子材料、接着材料、耐熱材料など種々の用途に用いられるポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレ-ト樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂など種々の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリベンゾオキサジン樹脂、シアネート樹脂など種々の熱硬化性樹脂などの構成成分、硬化剤、添加剤もしくはそれらの前駆体などとして用いることができる。また、感熱記録材料等の顕色剤や退色防止剤、殺菌剤、防菌防カビ剤等の添加剤としても有用である。
【0065】
これらのうち、良好な機械物性を付与できることから、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の原料(モノマ-)として用いることが好ましく、なかでもポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂の原料として用いることがより好ましい。また、顕色剤として用いることも好ましく、特にロイコ染料、変色温度調整剤と組み合わせて用いることがより好ましい。
【0066】
[ポリカーボネート樹脂の製造法]
次に、本発明のビスフェノールを原料とするポリカーボネート樹脂の製造法につき説明する。
本発明のビスフェノールを原料とするポリカーボネート樹脂の製造法は、本発明のビスフェノールと、炭酸ジフェニル等の炭酸ジエステルとを、例えば、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物の存在下でエステル交換反応させる方法などにより製造する方法である。上記エステル交換反応は、公知の方法を適宜選択して行うことができるが、以下に本発明のビスフェノールと炭酸ジフェニルを原料とした一例を説明する。
【0067】
上記のポリカーボネート樹脂の製造法において、炭酸ジフェニルは、本発明のビスフェノール中のビスフェノールに対して過剰量用いることが好ましい。ビスフェノールに対して用いる炭酸ジフェニルの量は、製造されたポリカーボネート樹脂に末端水酸基が少なく、ポリマーの熱安定性に優れる点では多いことが好ましく、また、エステル交換反応速度が速く、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を製造し易い点では少ないことが好ましい。これらのことから、ビスフェノール1モルに対する使用する炭酸ジフェニルの量は、通常1.001モル以上、好ましくは1.002モル以上である。また、通常1.3モル以下、好ましくは1.2モル以下である。
【0068】
原料の供給方法としては、本発明のビスフェノール及び炭酸ジフェニルを固体で供給することもできるが、一方又は両方を、溶融させて液体状態で供給することが好ましい。
【0069】
炭酸ジフェニルとビスフェノールとのエステル交換反応でポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。上記のポリカーボネート樹脂の製造法においては、このエステル交換触媒として、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を使用するのが好ましい。これらは、1種類で使用してもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。実用的には、アルカリ金属化合物を用いることが望ましい。
【0070】
ビスフェノール又は炭酸ジフェニル1モルに対して用いられるエステル交換触媒量は、通常0.05μモル以上、好ましくは0.08μモル以上、更に好ましくは0.10μモル以上である。また、通常100μモル以下、好ましくは50μモル以下、更に好ましくは20μモル以下である。
【0071】
エステル交換触媒の使用量が上記範囲内であることにより、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を製造するのに必要な重合活性を得やすく、且つ、ポリマー色相に優れ、また過度のポリマーの分岐化が進まず、成形時の流動性に優れたポリカーボネート樹脂を得やすい。
【0072】
上記方法によりポリカーボネート樹脂を製造するには、上記の両原料を、原料混合槽に連続的に供給し、得られた混合物とエステル交換触媒を重合槽に連続的に供給することが好ましい。
エステル交換法によるポリカーボネート樹脂の製造においては、通常、原料混合槽に供給された両原料は、均一に攪拌された後、エステル交換触媒が添加される重合槽に供給され、ポリマーが生産される。
【実施例】
【0073】
以下、実施例及び比較例によって、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0074】
[原料及び試薬]
2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールCと称する)、トルエン、水酸化ナトリウム、硫酸、ドデカンチオール、メタノール、アセトン、炭酸セシウムは、和光純薬株式会社製の試薬を使用した。
炭酸ジフェニルは、三菱ケミカル株式会社製の製品を使用した。
【0075】
[分析]
(ビスフェノールC生成反応液の組成)
ビスフェノールC生成反応液の組成分析は、高速液体クロマトグラフィーにより、以下の手順と条件で行った。
・装置:島津製作所社製LC-2010A、Imtakt ScherzoSM-C18 3μm 150mm×4.6mmID
・低圧グラジェント法
・分析温度:40℃
・溶離液組成:
A液 酢酸アンモニウム:酢酸:脱塩素水=3.000g:1mL:1Lの溶液
B液 酢酸アンモニウム:酢酸:アセトニトリル=1.500g:1mL:900mLの溶液
・分析時間0分ではA液:B液=60:40(体積比、以下同様。)
分析時間0~25分は溶離液組成をA液:B液=90:10へ徐々に変化させ、
分析時間25~30分はA液:B液=90:10に維持、
流速0.8mL/分にて、検出波長280nmで分析した。
【0076】
(粘度平均分子量)
粘度平均分子量(Mv)は、ポリカーボネート樹脂を塩化メチレンに溶解し(濃度6.0g/L)、ウベローデ粘度管を用いて20℃における比粘度(ηsp)を測定し、下記の式により粘度平均分子量(Mv)を算出した。
ηsp/C=[η](1+0.28ηsp)
[η]=1.23×10-4Mv0.83
【0077】
(ペレットYI)
ペレットYI(ポリカーボネート樹脂の透明性)は、ASTM D1925に準拠して、ポリカーボネート樹脂ペレットの反射光におけるYI値(イエローネスインデックス値)を測定して評価した。装置はコニカミノルタ社製分光測色計CM-5を用い、測定条件は測定径30mm、SCEを選択した。シャーレ測定用校正ガラスCM-A212を測定部にはめ込み、その上からゼロ校正ボックスCM-A124をかぶせてゼロ校正を行い、続いて内蔵の白色校正板を用いて白色校正を行った。次いで、白色校正板CM-A210を用いて測定を行い、L*が99.40±0.05、a*が0.03±0.01、b*が-0.43±0.01、YIが-0.58±0.01となることを確認した。ペレットの測定は、内径30mm、高さ50mmの円柱ガラス容器にペレットを40mm程度の深さまで詰めて測定を行った。ガラス容器からペレットを取り出してから再度測定を行う操作を2回繰り返し、計3回の測定値の平均値を用いた。
【0078】
1.ビスフェノールの製造
[実施例1-1]
(第1工程)
温度計、撹拌機及び滴下ロートを備えたフルジャケット式1.5Lのセパラブルフラスコに、窒素雰囲気下でトルエン27.8g、メタノール5g、クレゾール230g(2.13モル)、80質量%硫酸250g(硫酸の物質量2.01モル)を入れた。また、滴下ロートにトルエン222g、ドデカンチオール7.5g、アセトン61g(1.05モル)を入れた。該セパラブルフラスコの内温が30~35℃の範囲となるように、滴下ロートの内液を60分かけて滴下した。
【0079】
滴下後、該内温を30℃に維持し、1時間反応させ、ビスフェノールが分散したスラリー(1)を得た。このとき、生成してくるビスフェノールが凝集等することにより、撹拌機が回らなくなり撹拌できなくなるといった混合不良は生じず、撹拌は良好であった。
【0080】
(第2工程)
その後、前記スラリー(1)にトルエン45g(0.48モル、酸触媒に対するモル比は0.48モル÷2.01モル=0.24)を5分かけて供給し、45℃まで昇温させ、内温を45℃に維持した状態で1時間反応させた。ビスフェノールの生成量は反応の進行とともに増加し、撹拌は良好であった。なお、トルエン供給時には、セパラブルフラスコの内温が30~35℃の範囲となるようにし、トルエン供給後に45℃まで30分かけて昇温させた。
【0081】
(精製工程(1))
反応終了後、28%水酸化ナトリウム水溶液550gを供給して、80℃まで昇温した。80℃に到達後、静置して反応中に析出していた物が有機相及び水相に溶解したことを確認した後、下相の水相を抜き出した。その後、得られた有機相へ飽和の炭酸水素ナトリウム溶液を加えて、下相の水相pHが9以上になったことを確認した。下相の水相を抜出した後、得られた有機相に脱塩水を加えて10分間撹拌した。撹拌後、静置し、水相を抜き出し、有機相(1)を得た。
【0082】
得られた有機相(1)の一部を取り出し、高速液体クロマトグラフィーで前記有機相の組成を確認したところ、クレゾールが10.8質量%であった。
【0083】
(精製工程(2))
この有機相(1)を80℃から30℃まで冷却して、30℃に到達した時に種晶ビスフェノールCを1g添加させて、ビスフェノールの析出を確認した。その後、10℃まで冷却して10℃到達後、ガラスフィルターを用いて減圧濾過を行い、ウェットケーキとしてビスフェノールC188gを得た。得られたビスフェノールCは、白色固体であった。
【0084】
[実施例1-2]
実施例1-1において、第2工程のトルエン45gの代わりにトルエン100g(1.06モル、酸触媒に対するモル比は1.06モル÷2.01モル=0.53)に代えた以外は実施例1-1と同様に実施した。第1工程、第2工程ともに撹拌は良好であった。
【0085】
精製工程(1)後に得られた有機相の一部を取り出し、高速液体クロマトグラフィーで該有機相の組成を確認したところ、クレゾールが14.5質量%であった。
また、精製工程(2)後に、ウェットケーキとしてビスフェノールC168gを得た。得られたビスフェノールCは、白色固体であった。
【0086】
[実施例1-3]
実施例1-1において、第2工程のトルエン45gの代わりにトルエン200g(2.13モル、酸触媒に対するモル比は2.13モル÷2.01モル=1.06)に変えた以外は実施例1-1と同様に実施した。第1工程、第2工程ともに撹拌は良好であった。
精製工程(1)後に得られた有機相の一部を取り出し、高速液体クロマトグラフィーで該有機相の組成を確認したところ、クレゾールが20.0質量%であった。
また、精製工程(2)後に、ウェットケーキとしてビスフェノールC123gを得た。得られたビスフェノールCは、白色固体であった。
【0087】
[比較例1-1]
実施例1-1において、第2工程のトルエン45gを供給する代わりに何も供給しなかった以外は、実施例1-1と同様に第1工程、第2工程を実施した。その結果、第2工程中に、撹拌不可となった。撹拌不可となったため、そのまま1時間静置した。
その後の精製は、実施例1-1と同様に実施した。
【0088】
精製工程(1)後に得られた有機相の一部を取り出し、高速液体クロマトグラフィーで該有機相の組成を確認したところ、クレゾールが17.2質量%であった。
また、精製工程(2)後に、ウェットケーキとしてビスフェノールC119gを得た。得られたビスフェノールCは、淡赤色固体であった。
【0089】
実施例1-1~実施例1-3及び比較例1-1について、酸触媒に対する第2工程で供給したトルエンのモル比、第2工程の撹拌可否、得られたビスフェノールCの質量、得られたビスフェノールCの色調について、表1にまとめた。表1に示すように、第2工程でトルエンを供給しなかった場合は、撹拌不可となり、得られたビスフェノールCの色調も悪化した。
また、酸触媒に対する第2工程で供給したトルエンの量が1.06倍に増えると得られるビスフェノールCの量が減少することが分かる。
【0090】
【0091】
[実施例1-4]
実施例1-1において、第2工程のトルエン45gの代わりにメタノール7.5g(0.23モル、酸触媒に対するモル比は0.23モル÷2.01モル=0.11)に代えた以外は実施例1-1と同様に実施した。第1工程、第2工程ともに撹拌は良好であった。
精製工程(1)後に得られた有機相の一部を取り出し、高速液体クロマトグラフィーで該有機相の組成を確認したところ、クレゾールが11.3質量%であった。
また、精製工程(2)後に、ウェットケーキとしてビスフェノールC180gを得た。得られたビスフェノールCは、白色固体であった。
【0092】
[実施例1-5]
実施例1-1において、第2工程のトルエン45gの代わりにメタノール15g(0.46モル、酸触媒に対するモル比は0.46モル÷2.01モル=0.23)に代えた以外は実施例1-1と同様に実施した。第1工程、第2工程ともに撹拌は良好であった。
精製工程(1)後に得られた有機相の一部を取り出し、高速液体クロマトグラフィーで該有機相の組成を確認したところ、クレゾールが14.5質量%であった。
また、精製工程(2)後に、ウェットケーキとしてビスフェノールC160gを得た。得られたビスフェノールCは、白色固体であった。
【0093】
実施例1-4~実施例1-5、比較例1-1について、酸触媒に対する、第2工程にて供給したメタノールのモル比、第2工程の撹拌可否、得られたビスフェノールCの質量、得られたビスフェノールCの色調について、表2にまとめた。表2に示すように、第2工程でメタノールを供給しなかった場合は、撹拌不可となり、得られたビスフェノールCの色調も悪化した。
【0094】
【0095】
[比較例1-2]
(第1工程)
温度計、撹拌機及び滴下ロートを備えたフルジャケット式1.5Lのセパラブルフラスコに、窒素雰囲気下でトルエン27.8g、メタノール5g、クレゾール230g(2.13モル)、80質量%硫酸250g(硫酸の物質量2.01モル)を入れた。また、滴下ロートにトルエン267g、ドデカンチオール7.5g、アセトン61g(1.05モル)を入れた。該セパラブルフラスコの内温が30~35℃の範囲となるように、滴下ロートの内液を60分かけて滴下した。
【0096】
滴下後、該内温を30℃に維持し、1時間反応させ、ビスフェノールが分散したスラリーを得た。このとき、分散したビスフェノールによる混合不良は生じず、撹拌は良好であった。
【0097】
(第2’工程)
その後、45℃まで昇温させ、内温を45℃に維持した状態で1時間反応させた。このときも、撹拌は良好であった。
【0098】
精製は、実施例1-1と同様に実施した。精製工程(1)後に得られた有機相の一部を取り出し、高速液体クロマトグラフィーで該有機相の組成を確認したところ、クレゾールが14.2質量%であった。
【0099】
精製工程(2)後に、ウェットケーキとしてビスフェノールC130gを得た。得られたビスフェノールCは、白色固体であった。
【0100】
[比較例1-3]
比較例1-2の第1工程において、セパラブルフラスコに入れるメタノールを「5g」から「12.5g」に変更し、滴下ロートに入れるトルエンを「267g」から「222g」に変更した以外は、比較例1-2と同様に実施した。
精製工程(1)後に得られた有機相の一部を取り出し、高速液体クロマトグラフィーで該有機相の組成を確認したところ、クレゾールが15.2質量%であった。
精製工程(2)後に、ウェットケーキとしてビスフェノールC116gを得た。得られたビスフェノールCは、白色固体であった。
【0101】
実施例1-1、実施例1-4及び比較例1-2及び1-3について、第1工程で用いた第1の有機溶媒の組成とその量、第2程で供給した第2の有機溶媒の組成とその量、第2工程にて第2の有機溶媒を供給した後のスラリー中の有機溶媒の組成((第1の有機溶媒+第2の有機溶媒)の組成)およびその合計量、得られたビスフェノールCの量について、表3にまとめた。表3に示すように、最終的な有機溶媒の組成および量は同じであっても、第2の有機溶媒としての供給を行わず、第1の有機溶媒の量を多くした場合は、得られるビスフェノールCの量が低下することがわかる。これは、第2の有機溶媒として供給を行わず、第1の有機溶媒の量を多くした場合は、ビスフェノールCの反応速度が低下するためと考えられる。
【0102】
【0103】
2.ポリカーボネート樹脂の製造
[実施例2-1]
温度計及び撹拌機を備えたフルジャケット式1Lのセパラブルフラスコに、実施例1-1で得られたビスフェノールC150g及びトルエン280gを入れ、80℃に昇温した。均一溶液となったことを確認して、10℃まで冷却した。その後、ガラスフィルターを用いた減圧濾過を行い、ビスフェノールCを得た。オイルバスを備えたエバポレータを用いて、減圧下オイルバス温度100℃で軽沸分を留去することで、ビスフェノールC113gを得た。
【0104】
撹拌機及び留出管を備えた内容量150mLのガラス製反応槽に、前記軽沸分を留去した後のビスフェノールC100g(0.39モル)、炭酸ジフェニル86.5g(0.4モル)及び400質量ppmの炭酸セシウム水溶液479μLを入れた。該ガラス製反応槽を約100Paに減圧し、続いて、窒素で大気圧に復圧する操作を3回繰り返し、反応槽の内部を窒素に置換した。その後、該反応槽を200℃のオイルバスに浸漬させ、内容物を溶解した。
【0105】
撹拌機の回転数を毎分100回とし、反応槽内のビスフェノールCと炭酸ジフェニルのオリゴマー化反応により副生するフェノールを留去しながら、40分間かけて反応槽内の圧力を、絶対圧力で101.3kPaから13.3kPaまで減圧した。続いて反応槽内の圧力を13.3kPaに保持し、フェノールを更に留去させながら、80分間、エステル交換反応を行った。その後、反応槽外部温度を250℃に昇温すると共に、40分間かけて反応槽内圧力を絶対圧力で13.3kPaから399Paまで減圧し、留出するフェノールを系外に除去した。
【0106】
その後、反応槽外部温度を280℃に昇温、反応槽の絶対圧力を30Paまで減圧し、重縮合反応を行った。反応槽の撹拌機が予め定めた所定の撹拌動力となったときに、重縮合反応を終了した。
【0107】
次いで、反応槽を窒素により絶対圧力で101.3kPaに復圧した後、ゲージ圧力で0.2MPaまで昇圧し、反応槽の底からポリカーボネートをストランド状で抜出し、ストランド状のポリカーボネート樹脂を得た。
【0108】
その後、回転式カッターを使用して、該ストランドをペレット化して、ペレット状のポリカーボネート樹脂を得た。
【0109】
該ポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv)は25000であった。またペレットYIは、8.1であった。
【産業上の利用可能性】
【0110】
発明によれば、混合不良を生じさせることなく、着色の少なく、効率の良いビスフェノール製造法が提供される。本発明で製造されるビスフェノールは、ポリカーボネート樹脂の原料として有用である。また、本発明で製造されるビスフェノールは、エポキシ樹脂、芳香族ポリエステル樹脂などの樹脂原料や、硬化剤、顕色剤、退色防止剤、その他殺菌剤や防菌防カビ剤等の添加剤として有用である。