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  • 特許-酸化鉱石の製錬方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】酸化鉱石の製錬方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 5/10 20060101AFI20221101BHJP
   C22B 1/242 20060101ALI20221101BHJP
   C22B 23/02 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
C22B5/10
C22B1/242
C22B23/02
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018166254
(22)【出願日】2018-09-05
(65)【公開番号】P2020037727
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】井関 隆士
【審査官】田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-197813(JP,A)
【文献】特開平06-108309(JP,A)
【文献】特開2015-105427(JP,A)
【文献】特開2004-156140(JP,A)
【文献】特開2005-226031(JP,A)
【文献】特開平04-228460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合物を押出機に装入して押し出す押出工程と、
押し出された混合物を所定間隔に切断して切断面を有する成形物を得る成形工程と、
得られた成形物に還元処理を施してメタルとスラグとを含む還元物を得る還元工程と、
を含み、
前記還元工程では、
得られた成形物を第1の処理空間に装入し、該成形物を900℃以上1200℃未満の温度に保持して、該成形物の表面を還元性気体に接触させることにより該成形物の表面にメタルからなるシェルを形成する還元第1工程と、
シェルが形成された前記成形物を前記第1の処理空間とは異なる第2の処理空間に装入し、成形物を1200℃以上1450℃以下の温度に保持することにより、還元物を得る還元第2工程と、
を含む
ニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項2】
前記還元第2工程における還元処理後の第2の処理空間の雰囲気気体の少なくとも一部を、前記還元第1工程における第1の処理空間に供給し、前記成形物に接触させる前記還元性気体として用いる
請求項に記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化鉱石の製錬方法に関するものであり、例えば、ニッケル酸化鉱石等の酸化鉱石を原料として炭素質還元剤により還元することで還元物を得る製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化鉱石の一種であるリモナイトあるいはサプロライトと呼ばれるニッケル酸化鉱石の製錬方法として、熔錬炉を使用してニッケルマットを製造する乾式製錬方法、ロータリーキルンあるいは移動炉床炉を使用して鉄とニッケルの合金であるフェロニッケルを製造する乾式製錬方法、オートクレーブを使用して高温高圧で酸浸出し、ニッケルやコバルトが混在した混合硫化物(ミックスサルファイド)を製造する湿式製錬方法等が知られている。
【0003】
上述した様々な方法の中で、特に乾式製錬法を用いてニッケル酸化鉱石を還元して製錬する場合、反応を進めるために原料のニッケル酸化鉱石を適度な大きさに破砕する等して塊状物化する処理が前処理として行われる。
【0004】
具体的に、ニッケル酸化鉱石を塊状物化する、すなわち粉状や微粒状の鉱石を塊状にする際には、そのニッケル酸化鉱石と、それ以外の成分、例えばバインダーやコークス等の還元剤とを混合して混合物とし、さらに水分調整等を行った後に塊状物製造機に装入して、例えば一辺あるいは直径が10mm以上30mm以下程度の成形物(ペレット、ブリケット等を指す。以下、単に「ペレット」ということもある)とするのが一般的である。
【0005】
塊状物化して得られるペレットには、含有する水分を「飛ばす」ために、ある程度の通気性が必要となる。さらに、その後の還元処理においてペレット内で均一に還元が進まないと、得られる還元物の組成が不均一になり、メタルが分散したり偏在したりする等の不都合が生じる。そのため、ペレットを作製する際には混合物を均一に混合したり、得られたペレットを還元する際には可能な限り均一な温度を維持することが重要となる。
【0006】
例えば、特許文献1では、ニッケル含有量の高いフェロニッケルを安定して高効率でかつ安価に製造できるフェロニッケルの製造方法について開示されている。具体的には、酸化ニッケル及び酸化鉄を含有する原料と炭素質還元剤とからなる混合物を造粒機でペレット化したペレットを移動炉床炉内で加熱還元するに際し、ペレットの炉内滞留時間を調整することによって、ニッケル含有量の高いフェロニッケルを得る方法が開示されている。
【0007】
さて、ペレットの還元処理は、還元炉等を用いて行われ、例えば、ペレットを所定の還元温度に加熱した還元炉に装入し還元加熱する。還元処理では、先ず還元反応の進みやすいペレット表面の酸化物が還元されメタル化して殻(シェル)が形成される。
【0008】
しかしながら、例えば酸化鉱石中に還元対象ではない酸化物(不純物)が含まれる場合等には、ペレット表面の酸化物の還元が進まず、シェルの形成が阻害されることがあった。ペレット表面にシェルが形成されていない状態で酸化物が還元されると、ペレット中に含まれる炭素質還元剤等が加熱還元処理中にペレットの外部に漏出することがあった。そのため、ペレット全体において還元反応にばらつきが生じ、高品質なメタルを効率的に製造することが困難になるという問題が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2004-156140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ニッケル酸化鉱石等の酸化鉱石を含む混合物を還元することでメタルを製造する製錬方法において、得られるメタルの品位を高めることができ、高品質のメタルを効率的に製造することができる酸化鉱石の製錬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、酸化鉱石を含む混合物を押し出して所定間隔に切断して成形物を得て、その成形物に還元処理を施すことによって、成形物の表面にシェルを有効に形成させることができ、これにより上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
(1)本発明の第1は、酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合して混合物を得る混合工程と、前記混合物を押出機に装入して押し出す押出工程と、押し出された混合物を所定間隔に切断して切断面を有する成形物を得る成形工程と、得られた成形物に還元処理を施してメタルとスラグとを含む還元物を得る還元工程と、を含む酸化鉱石の製錬方法である。
【0013】
(2)本発明の第2は、第1の発明において、前記還元工程では、得られた成形物の表面を還元性気体に接触させることにより該成形物の表面にメタルからなるシェルを形成する還元第1工程と、シェルが形成された成形物を所定の温度に加熱することにより還元物を得る還元第2工程と、を含む酸化鉱石の製錬方法である。
【0014】
(3)本発明の第3は、第2の発明において、前記還元第2工程における還元処理後の雰囲気気体の少なくとも一部を、前記還元第1工程における処理空間に供給し、前記成形物に接触させる前記還元性気体として用いる酸化鉱石の製錬方法である。
【0015】
(4)本発明の第4は、第2又は第3の発明において、前記還元第1工程では、前記成形物を900℃以上1200℃未満の温度に保持し、前記還元第2工程では、前記成形物を1200℃以上1450℃以下の温度に保持する酸化鉱石の製錬方法である。
【0016】
(5)本発明の第5は、第1から第4のいずれかの発明において、前記酸化鉱石は、ニッケル酸化鉱石である酸化鉱石の製錬方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る酸化鉱石の製錬方法によれば、高品質なメタルを効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ニッケル酸化鉱石の製錬方法の流れの一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0020】
≪1.酸化鉱石の製錬方法の概要≫
本実施の形態に係る酸化鉱石の製錬方法は、原料鉱石である酸化鉱石(酸化物)を炭素質還元剤と混合し、その混合物(ペレット)に対して製錬炉(還元炉)内で還元処理を施すことによって、メタルとスラグとを生成させるものである。
【0021】
例えば、酸化鉱石として、酸化ニッケルや酸化鉄等を含有するニッケル酸化鉱石を原料とし、そのニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合して成形物を形成して、成形物に含まれるニッケルを優先的に還元し、また鉄を部分的に還元することで、鉄とニッケルの合金であるフェロニッケルを製造する方法が挙げられる。
【0022】
そして、本実施の形態に係る酸化鉱石の製錬方法においては、酸化鉱石を含む混合物を押し出して所定間隔に切断して切断面を有する成形物を得て、その成形物に還元処理を施すことを特徴としている。
【0023】
このような方法によれば、切断面を有する成形物に還元処理を施すことによって、切断面及びその近傍で還元反応が進行しやすくなりメタルシェルが良好に形成されるようになる。また、その切断面に形成されたメタルシェルを起点として切断面以外の表面にもメタルシェルが形成されるようになる。そして、このように成形物の表面にメタルシェルが形成されることにより、加熱還元処理中に成形物中に含まれる炭素質還元剤等が外部に漏出することを抑制し、成形物内における還元反応を均一にして、得られるメタルの品位を高めることができる。
【0024】
≪2.ニッケル酸化鉱石を用いてフェロニッケルの製造する製錬方法≫
以下では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に含まれるニッケル(酸化ニッケル)と鉄(酸化鉄)を還元することで、鉄-ニッケル合金のメタルを生成させ、さらに、そのメタルを分離することによってフェロニッケルを製造する製錬方法を例に挙げて説明する。
【0025】
具体的に、本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の製錬方法は、図1に示すように、ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合して混合物を得る混合工程S1と、混合物を押出機に装入して混合物を押し出す押出工程S2と、押し出された混合物を所定間隔に切断して切断面を有する成形物を得る成形工程S3と、成形物を乾燥処理する乾燥工程S4と、成形物を所定の温度に加熱する加熱処理工程S5と、成形物に還元処理を施してメタルとスラグとを含む還元物を得る還元工程S6と、還元物からメタルとスラグを分離する分離工程S7と、を含む。
【0026】
<2-1.混合工程>
混合工程S1は、ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合して混合物を得る工程である。具体的には、混合工程S1では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に、炭素質還元剤を添加して混合し、また任意成分の添加剤として、鉄鉱石、フラックス成分、バインダー等の、例えば粒径が0.2mm以上0.8mm以下程度の粉末を添加して混合し、混合物を得る。
【0027】
原料鉱石であるニッケル酸化鉱石としては、特に限定されないが、リモナイト鉱、サプロライト鉱等を用いることができる。なお、ニッケル酸化鉱石は、酸化ニッケル(NiO)と、酸化鉄(Fe)とを少なくとも含有する。
【0028】
炭素質還元剤としては、特に限定されないが、例えば、石炭粉、コークス粉等が挙げられる。なお、この炭素質還元剤は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石の粒度や粒度分布と同等の大きさのものであると、均一に混合しやすく、還元反応も均一に進みやすくなるため好ましい。
【0029】
炭素質還元剤の含有量(混合物中に含まれる炭素質還元剤の含有量)としては、ニッケル酸化鉱石を構成する酸化ニッケルの全量をニッケルメタル還元するのに必要な化学当量と、酸化鉄(酸化第二鉄)を金属鉄に還元するのに必要な化学当量との両者合計値(便宜的に「化学当量の合計値」ともいう)を100質量%としたときに、50.0質量%以下の割合とすることが好ましく、40.0質量%以下の割合とすることがより好ましい。鉄の還元量を抑えて、ニッケル品位を高めることができ、高品質のフェロニッケルを製造することができる。
【0030】
炭素質還元剤の混合量としては、化学当量の合計値を100質量%としたときに、10.0質量%以上の割合とすることが好ましく、15.0質量%以上の割合とすることがより好ましい。ニッケルの還元を効率的に進行させることができ生産性が向上する。
【0031】
また、任意成分の添加剤である鉄鉱石としては、例えば、鉄品位が50.0質量%程度以上の鉄鉱石、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬により得られるヘマタイト等を用いることができる。
【0032】
また、フラックス成分としては、例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、二酸化珪素等を挙げることができる。また、バインダーとしては、例えば、ベントナイト、多糖類、樹脂、水ガラス、脱水ケーキ等を挙げることができる。
【0033】
なお、下記表1に、混合処理工程S1にて混合する、一部の原料粉末の組成(質量%)の一例を示すが、原料粉末の組成としてはこれに限定されない。
【0034】
【表1】
【0035】
また、得られた混合物に対して混練を行ってもよい。原料粉末を含む混合物を混練することによって、その混練時に混合物に対して圧力(せん断力)を加えることができ、炭素質還元剤や原料粉末等の凝集を解いてその混合物をより均一に混合させた状態とすることができる。また、混練を行うことにより混合物の粒子の間に形成される空隙を減少させることができる。
【0036】
混練は、ブラベンダー等のバッチ式ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ヘリカルローター、ロール、一軸混練機、二軸混練機等を用いて行うことができる。
【0037】
<2-2.押出工程>
押出工程S2は、混合物を押出機に装入して混合物を押し出す工程である。具体的には、混合工程S1で得られたニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを含む混合物を押出機に装入して混合物を押し出す。これにより、混合物に対して圧力(せん断力)が加えられ、炭素質還元剤や原料粉末等の凝集を解いてその混合物をより均一に混合させた状態とすることができる。さらに、混合物内の空隙を減少させることができる。これらのことから、後述する還元工程において成形物の還元反応が均一に起りやすくなり、得られるメタルの品位を高めることができ、高品質なメタルを製造することができる。
【0038】
押出工程S2で使用することのできる押出機は、高圧、高せん断力で混合物を混練して成形できるものであることが好ましく、一軸押出機、二軸押出機等を挙げることができる。特に、二軸押出機を備えたものであることが好ましい。高圧、高せん断で混合物を混練することにより、原料粉の混合物の凝集を解くことができ、また効果的に混練することができるうえ、得られる成形物の強度を高めることができる。また、二軸押出機を備えたものを用いることにより、連続的に高い生産性を保ちながら成形物を得ることができる。
【0039】
<2-3.成形工程>
成形工程S3は、押し出された混合物を、所定間隔に切断して切断面を有する成形物を得る工程である。
【0040】
ここで、後述する還元工程S6では、成形物に対して還元処理を施すことによって、先ずは成形物の表面から還元反応が進行してシェルが形成される。ところが、そのシェルが適切に形成されないと、内部の炭素質還元剤が漏出してしまうおそれがある。
【0041】
そこで、後述する還元工程S6に供する成形物として、切断面を有する成形物を用いる。切断面を有する成形物に対して還元処理を施すことによって、切断面及びその近傍で還元反応が進行しやすくなりメタルシェルが良好に形成されるようになる。また、そのメタルシェルを起点として切断面以外の表面にもメタルシェルが形成される。このように、切断面を有する成形物を還元処理対象とし、成形物の表面にメタルシェルを良好に形成させるようにすることで、加熱還元処理中に成形物中に含まれる炭素質還元剤等が外部に漏出することを抑制することができる。
【0042】
混合物を切断するに際しては、切断機を使用して行うことができる。混合物の切断処理は、押出工程S2での押し出し処理に引き続き連続的な操作で行うようにすることが好ましい。具体的には、排出口に切断機が設けられた押出機を使用し、その押出機に混合物を投入し、押し出される混合物をその排出口にて切断機により切断する。このように、連続的な処理で成形物を製造することで、生産性を高くすることができ、また成形物同士の品質のばらつきを小さくすることができる。
【0043】
押し出された混合物の切断間隔としては、所望とする成形物の大きさに応じて適宜設定すればよい。成形物(切断面を有する成形物)の形状は、特に限定はされないが、例えば平板状又は円盤状等の形状を挙げることができる。
【0044】
また、成形物の表面積に対する切断面の面積の割合についても、特に限定されないが、例えば、切断面の面積/成形物の表面積で0.1以上とすることが好ましく、0.2以上程度とすることがより好ましく0.3以上とすることがさらに好ましい。切断面の面積/成形物の表面積が0.1以上となるようにして切断面を有する成形物を調製することにより、成形物の表面全体において還元反応性を高めることができ、成形物の表面により均一にメタルシェルを形成させることができる。なお、上限としては、0.9以下程度とすることが好ましい。切断面の面積/成形物の表面積の割合を上記の範囲とすることで、還元炉に装入しやすい形状に成形することができ、成形物の取り扱いが比較的容易になるという点でもさらに好ましい。
【0045】
<2-4.乾燥工程>
乾燥工程S4は、成形工程S3にて得られた成形物を乾燥処理する工程である。ここで、成形物は、その水分が例えば50質量%程度と過剰に含まれていることがある。そのため、過剰の水分を含む成形物を急激に還元温度まで昇温すると、水分が一気に気化し、膨張して成形物が破壊することがある。
【0046】
したがって、得られた成形物に対して乾燥処理を施し、例えば成形物の固形分が70質量%程度で、水分が30質量%程度となるようにすることで、次工程の還元工程における還元加熱処理で、成形物が崩壊することを防ぐことができる。また、成形物は、過剰な水分によりべたべたした状態となっていることが多く、乾燥処理を施すことによって、取り扱いを容易にすることができる。
【0047】
具体的に、乾燥工程S4における成形物に対する乾燥処理としては、特に限定されないが、例えば300℃以上400℃以下の熱風を成形物に対して吹き付けて乾燥させる。なお、この乾燥処理時における成形物の温度としては100℃未満とすることが、成形物が破壊されにくくなり好ましい。
【0048】
なお、還元炉への装入等の取り扱い時や還元加熱処理時に、破壊が生じない態様となっていれば、乾燥工程S4における乾燥処理を省略することができる。
【0049】
下記表2に、乾燥処理後の成形物における固形分中組成(質量部)の一例を示す。なお、成形物の組成としては、これに限定されるものではない。
【0050】
【表2】
【0051】
<2-5.加熱処理工程>
乾燥工程S4で得た成形物を、所定の温度に加熱する加熱処理工程S5を設けてもよい。本実施の形態において、加熱処理工程S5を含むことは必須の態様ではないが、後述する還元工程S6での還元処理に先立ち、予め成形物に対して加熱処理(予備加熱処理)を施しておくことで、高温条件での還元処理において、成形物に含まれるニッケル酸化鉱石や炭素質還元剤等の成分が急激に熱膨張することを抑え、成形物の破裂をより効果的に抑制することができる。
【0052】
具体的に、成形物を350℃以上600℃以下の温度に加熱する加熱処理を施す。また、好ましくは400℃以上550℃以下の温度に加熱する。
【0053】
なお、加熱処理時間としては、特に限定されず、成形物の大きさに応じて適宜調整すればよいが、大きさが10mm以上30mm以下程度となる通常の大きさの成形物であれば、15分以上30分以下程度の処理時間にできる。
【0054】
<2-6.還元工程>
還元工程S6は、切断面を有する成形物を還元炉内に装入して、所定の還元温度で加熱することによって還元処理を施す工程である。還元工程S6における還元処理により、製錬反応(還元反応)が進行して、成形物中では、フェロニッケルメタル(以下、単に「メタル」という)と、フェロニッケルスラグ(以下、単に「スラグ」という)とが分かれて生成する。
【0055】
[還元処理について]
還元処理においては、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に含まれる酸化ニッケルは可能な限り完全にかつ優先的に還元し、一方で、ニッケル酸化鉱石に含まれる酸化鉄は一部だけ還元して、目的とする高いニッケル品位のフェロニッケルが得られる、いわゆる部分還元を施す。
【0056】
また、成形物中のスラグは熔融して液相となるが、還元により既に分離して生成したメタルとスラグとは、混ざり合うことがなく、その後の冷却によってメタル固相とスラグ固相との別相として混在する混合物となる。この混合物の体積は、装入する混合物と比較すると、50%以上60%以下程度の体積に収縮している。
【0057】
具体的に、還元処理では、成形物を還元炉に装入した後、その成形物を1200℃以上1450℃以下程度の還元温度に加熱して還元反応を生じさせる。
【0058】
この還元処理では、成形物に含まれる炭素質還元剤に由来する一酸化炭素(還元性気体)が発生し、還元炉内を還元雰囲気とする。そして、成形物と還元性気体とが接触することにより、先ず成形物の表面における還元反応が促進される。これにより、成形物表面にメタルシェルが形成される。
【0059】
還元性気体については、上述のように、還元炉内に炭素質還元剤に由来する一酸化炭素が発生する。そのため、別途外部より供給することを要しないが、成形物の表面での還元反応をより効率的に進行させる観点から、還元性気体を別途供給するようにしてもよい。なお、還元性気体としては、酸化物をメタルに還元することができる気体であれば特に限定されず、例えば、水素ガス(H)、一酸化炭素(CO)、硫化水素(HS)、二酸化硫黄(SO)、亜酸化窒素(NO)等を含む気体を挙げることができる。また、成形物表面におけるメタルシェルの形成を阻害しない範囲であれば酸素等の酸化性気体が含まれていてもよい。
【0060】
このようにして、成形物の表面における還元反応が進行して表面にメタルシェルが形成されると、次に、成形物の内部における還元反応が進行して、メタルが生成する。
【0061】
還元炉としては、特に限定されないが、単一の炉を用いても、移動炉床炉等の炉床が回転移動等して例えば処理温度の異なる処理を連続的に行うことができる炉を用いてもよい。その中でも、還元炉として移動炉床炉を用いることで、連続的に還元反応を進行させ、一つの設備で反応を完結させることができる。また、処理工程ごとに別々の炉を使用して操業を行った場合、炉と炉との間を移動させる際に、温度が低下してヒートロスが生じる可能性があり、また、雰囲気気体に変化を生じさせてしまい、炉に再装入したときに即座に反応を生じさせることができないことがある。この点、移動炉床炉を使用して一つの設備で各工程での処理を行うことで、ヒートロスが低減されるとともに炉内雰囲気も的確に制御できるため、反応をより効果的に進行させることができる。
【0062】
移動炉床炉としては、特に限定されず、例えば、円形状であって複数の処理領域に区分けされた回転炉床炉を用いることができる。回転炉床炉では、所定の方向に回転しながら、各領域においてそれぞれの処理を行う。この回転炉床炉では、各領域を通過する際の時間(移動時間、回転時間)を制御することで、それぞれの領域での処理温度を調整することができ、回転炉床炉が1回転する毎に混合物が製錬処理される。また、移動炉床炉としては、ローラーハースキルン等であってもよい。
【0063】
還元工程S6では、成形物を還元炉に装入するにあたって、予めその還元炉内の炉床に還元剤(以下、「炉床還元剤」ともいう)を敷き詰めて、その敷き詰められた炉床還元剤の上に成形物を載置するようにしてもよい。また、炉床に、酸化物を主成分とする床敷材を敷いて、その上に成形物を載置してもよい。
【0064】
[還元処理対象について(切断面を有する成形物)]
さて、本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の製錬方法では、上述した成形工程S4において、切断面を有する成形物を得ている。そして、還元工程S6では、その切断面を有する成形物を処理対象として還元処理を行うことを特徴としている。
【0065】
このような切断面を有する成形物に対して還元処理を施すことによって、切断面又はその近傍で良好にメタルシェルが形成されるようになる。また、その切断面に形成されたメタルシェルを起点として切断面以外の成形物の表面にもメタルシェルが形成され、成形物の表面全体にメタルシェルが形成されることとなる。このことは、成形物に形成されている切断面が、他の表面と比べて相対的に粗く、一酸化炭素を含む雰囲気気体(還元性気体)との接触面積が大きくなっており、それにより、その切断面において還元反応が進みやすくなるためであると考えられる。
【0066】
そして、このように成形物の表面に有効にメタルシェルが形成されることにより、加熱還元処理中に成形物中に含まれる炭素質還元剤等が外部に漏出することを効果的に抑制することができ、その結果、成形物内における還元反応を均一に生じさせることができ、得られるメタルの品位を高めることが可能となる。
【0067】
[還元処理の他の実施態様について]
ここで、還元工程S6としては、還元第1工程と、還元第二工程と、を分けて処理する態様であってもよい。具体的には、還元工程S6としては、所定の温度で加熱して切断面を有する成形物の表面にメタルシェルを形成する還元第1工程と、メタルシェルが表面に形成された成形物を還元第一工程における処理温度よりも高い温度に加熱することによって還元物を得る還元第2工程と、を含む工程であってもよい。このような実施態様によれば、成形物の表面にメタルシェルをより確実に形成させることができ、成形物中に含まれる炭素質還元剤が外部に漏出することをより効果的に抑制して、高品質なメタルを製造することができる。以下、各工程についてより具体的に説明する。なお、説明の便宜上、還元第一工程を「S61」とし、還元第二工程を「S62」とする。
【0068】
(還元第1工程)
還元第1工程S61では、成形物を還元性気体に接触させることにより、切断面を有する成形物の表面にメタルシェルを形成する。これにより、還元性気体と接触した切断面を含む表面にメタルシェルが形成される。特に、切断面においては還元性気体との反応性が高く、切断面に形成されたメタルシェルを起点として成形物の表面に均一なメタルシェルを形成させることができる。
【0069】
還元第1工程S61では、成形物中の炭素質還元剤は反応させずに、成形物の表面に効率的にメタルシェルを形成させるようにすることが好ましい。そのためには、成形物を炭素質還元剤が酸化金属と反応する反応温度未満にすることが好ましく、例えば、成形物を1200℃未満の温度に保持することが好ましい。また、還元第1工程S61では、成形物を900℃以上温度に保持することが好ましい。このように、成形物を900℃以上1200℃未満の温度に保持することにより、成形物表面をメタルに還元してメタルシェルを効果的に形成させつつ、成形物内部の還元反応を抑制することができる。
【0070】
還元性気体としては、上述したように、一酸化炭素(CO)等を含む気体を用いることができる。ここで、後述する還元第2工程S62では、成形物に還元処理を施すことによって炭素質還元剤に由来する一酸化炭素(CO)が発生する。そのため、還元第2工程S62における還元処理後の雰囲気気体の少なくとも一部を、還元第1工程S61における処理空間に供給して、還元性気体として用いるようにしてもよい。なお、その場合、還元処理後の雰囲気気体は通常高温(例えば1200℃~1450℃程度)であることから、還元第1工程S61における処理空間に気体を供給する際には気体の温度が1200℃以下となるように放冷等して調整すればよい。
【0071】
(還元第2工程)
還元第2工程S62では、メタルシェルが表面に形成された成形物を所定の温度に加熱することにより還元物を得る工程である。具体的には、シェルが形成された成形物を、還元第一工程S61での処理温度よりも高い温度(還元温度)に加熱した還元炉にて加熱還元処理を施す。これにより、成形物中の炭素質還元剤を反応させて成形物中の酸化物を還元し、メタルとスラグとを含む還元物を得る。
【0072】
ここで、加熱還元処理に供される成形物は、上述のように、還元第1工程S61における処理を経て、その表面にメタルシェルが形成されていることから、炭素質還元剤が外部に漏出することが抑制され、炭素質還元剤に基づいて適切な還元反応を生じさせることが可能となっており、高品質なメタルを効率的に製造することができる。
【0073】
成形物中の炭素質還元剤を反応させて酸化物に還元処理を施すためには、成形物を炭素質還元剤が酸化物と反応する反応温度以上にすることが好ましく、例えば、成形物を1200℃以上の温度に保持することが好ましい。なお、還元温度の上限としては、1450℃以下とすることが好ましい。これにより、酸化物に還元処理を精度高く施すことができる。
【0074】
<2-7.分離工程>
分離工程S7は、還元工程S6より得られた還元物からメタルとスラグを分離する工程である。具体的には、容器に充填させた状態の混合物に対する還元加熱処理によって得られた、メタル相とスラグ相とを含む混在物(混合物)からメタル相を分離して回収する。
【0075】
固体として得られたメタル相とスラグ相との混在物からメタル相とスラグ相とを分離する方法としては、例えば、篩い分けによる不要物の除去に加えて、比重による分離や、磁力による分離等の方法を利用することができる。
【0076】
また、得られたメタル相とスラグ相は、濡れ性が悪いことから容易に分離することができ、還元工程S6における処理で得られた、大きな混在物に対して、例えば、所定の落差を設けて落下させる、あるいは篩い分けの際に所定の振動を与える等の衝撃を与えることで、その混在物からメタル相とスラグ相とを容易に分離することができる。
【0077】
このようにしてメタル相とスラグ相とを分離することによって、メタルを回収する。
【0078】
本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の製錬方法では、成形物の表面にメタルシェルを形成して成形物中に含まれる炭素質還元剤が外部に漏出することを抑制して成形物全体で均一に還元処理を行うことができることから、得られるメタルの品位を高めることができ、高品質なメタルを製造することができる。
【実施例
【0079】
以下、本発明の実施例及び比較例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0080】
<実施例1、比較例1>
原料鉱石としてのニッケル酸化鉱石と、鉄鉱石と、フラックス成分である珪砂及び石灰石、バインダー、及び炭素質還元剤(石炭粉、炭素含有量:85質量%、平均粒径:約200μm)を、適量の水を添加しながら混合機を用いて混合して混合物を得た。炭素質還元剤(石炭粉)は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に含まれる酸化ニッケルと酸化鉄(Fe)とを過不足なく還元するのに必要な量を100質量%としたときに、実施例1~6及び比較例1~3の試料(混合物)に応じて24.0質量%の割合となる量で含有させた。
【0081】
次に、得られた実施例1~6の試料(混合物)を二軸混練押出機(機種名:HYPERKTX、株式会社神戸製鋼所製)に連続して装入して押し出した。そして、押し出された混合物を、二軸混練押出機の押出口先端に取り付けた切断機にて切断して切断面を有する成形物を得た。
【0082】
一方、比較例1の試料については、二軸混練押出機にて押し出された混合物を切断機にて切断することなく、押し出したそのままの状態で容器に充填することで試料(成形物)を製造した。また、比較例2の試料については、試料(混合物)を切り出し機にて切り出して、二軸混練押出機にて押し出さずに市販のブリケット装置を用いてブリケット(成形物)を製造した。また、比較例3の試料については、試料(混合物)を切り出し機にて切り出して、二軸混練押出機にて押し出さずにパン型造粒機を用いて造粒し、その後、φ15±1.5mmのサイズに分級した。
【0083】
続いて、実施例1~6及び比較例1~3の試料(成形物)に対して乾燥処理を施した。下記表3に、乾燥処理後の成形物固形分組成(炭素を除く)を示す。
【0084】
【表3】
【0085】
次に、乾燥処理後の成形物を、酸素を含まない窒素雰囲気にした還元炉に各々装入した。予め還元炉の炉床に炉床保護剤(主成分はSiOであり、その他の成分としてAl、MgO等の酸化物を少量含有する。)を敷き詰め、その上に成形物(試料)を置いた。なお、装入時の温度条件は、500±20℃とした。
【0086】
そして、炉内に装入した成形物の表面のうち、温度が最も高くなる部分の温度(還元温度)が1400℃になるまで還元炉を昇温させ、成形物に対して還元加熱処理を施した。還元加熱処理による処理時間は15分間とした。還元処理後は、窒素雰囲気中で速やかに室温まで冷却して、試料を大気中へ取り出した。
【0087】
還元加熱処理後の各試料について、ニッケルメタル化率、メタル中ニッケル含有率を、ICP発光分光分析器(SHIMAZU S-8100型)により分析して算出した。
【0088】
Niメタル化率、メタル中のNi含有率は、以下の式1・2により算出した。
Niメタル化率=メタル中のNiの質量÷(還元物中の全てのNiの質量)×100(%) ・・・(1)式
メタル中Ni含有率=メタル中のNiの質量÷(メタル中のNiとFeの合計質量)×100(%) ・・・(2)式
【0089】
下記表4に、それぞれの試料における、Niメタル化率、メタル中のNi含有率を示す。
【0090】
【表4】
【0091】
表4の結果からわかるように、酸化鉱石を含む混合物を押し出して切断面を有する成形物を得て、その成形物に還元処理を施した実施例1~6では、比較例1~3と比べてNiメタル化率及びメタル中Ni含有率がいずれも高くなった。このことは、切断面を有する成形物に還元処理を施すことにより、成形物の表面にメタルシェルを良好に形成させることができ、これにより成形物に含まれる炭素質還元剤等が成形物の外部に漏出することを抑制して、還元反応を適切に進行させることができたためと考えられる。
図1