(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】改質ピッチの製造方法
(51)【国際特許分類】
C10C 3/04 20060101AFI20221101BHJP
C10B 57/04 20060101ALI20221101BHJP
C10C 1/16 20060101ALI20221101BHJP
C01B 32/00 20170101ALI20221101BHJP
C01B 32/205 20170101ALI20221101BHJP
【FI】
C10C3/04 A
C10B57/04 101
C10C1/16
C01B32/00
C01B32/205
(21)【出願番号】P 2019066184
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 辰弥
(72)【発明者】
【氏名】朝日 佳男
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭47-043424(JP,A)
【文献】特開平02-142889(JP,A)
【文献】特開2016-011422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10C 1/00
C10C 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コールタールを蒸留して得られる、燃焼法により測定された炭素、水素、窒素及び燃焼吸収イオンクロマト法により測定された硫黄の合計含有量が70~
90重量%であるオイルを原料とし、これを酸素含有ガス存在下でトルエン不溶分が10重量%以上になるまで加熱する、改質ピッチの製造方法。
【請求項2】
前記加熱を150~350℃で5~40時間行う、請求項1に記載の改質ピッチの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の改質ピッチの製造方法により得られた改質ピッチを400~700℃に加熱した後、800~1700℃に加熱する、か焼コークスの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のか焼コークスの製造方法により得られたか焼コークスを2000~3500℃に加熱する、黒鉛の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は改質ピッチの製造方法に関する。詳しくは、本発明は、熱膨張係数が一定ながらも様々な硬度を有する黒鉛を得ることができる改質ピッチの製造方法に関する。本発明はまた、この改良ピッチを用いたか焼コークスの製造方法と、このか焼コークスを用いた黒鉛の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コークスを骨材とした成形物である黒鉛製品は、高熱伝導で適度な熱膨張係数を有し、高耐熱性、高電気伝導性、高強度という優れた特性から、冶金、電気、機械、化学、原子力などの幅広い産業分野で利用されている。いずれの用途においても黒鉛製品には高い硬度が求められている。また、他の部材と組み合わせて高温下で使用する用途が多いことから、適度な熱膨張係数を有することが必要である。よって、任意の熱膨張係数においてより硬度の高い黒鉛製品が望まれる。
【0003】
一般的に黒鉛製品の熱膨張係数及び硬度は骨材であるコークスにより決定される。かかるコークスの熱膨張係数を制御する方法の一つとして、特許文献1ではキノリン不溶分を多く含むコールタールピッチを原料として製造する方法が示されている。また、特許文献2、3では、硬度を高めるために、コールタールピッチにカーボンブラックを添加する製造方法が示されている。更に、特許文献4では、コールタール及び/又は石油系重質油に樹脂を配合し、熱分解重縮合して得られたコークスによる熱膨張係数の制御方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公昭60-3118号公報
【文献】特開平2-69308号公報
【文献】特開2004-124014号公報
【文献】国際公開第2002/040616号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている技術は熱膨張係数のみを任意に制御するものであり、熱膨張係数が大きいコークスは高い硬度を示すものの、熱膨張係数が小さくなるほど硬度が低下する傾向がある。また、特許文献2、3では、超微細で嵩密度の小さいカーボンブラックをコールタールピッチ中に均一に分散させることは困難であるため、カーボンブラックの添加量には限界があった。更に、特許文献4では、コールタールや石油系重質油と樹脂との混合物を加熱する際に、主として樹脂に由来する大量の分解ガスの発生によりコークスの嵩密度が小さくなり、得られる黒鉛製品の硬度や強度が低下する可能性がある。
【0006】
以上のように、前述の黒鉛製品の多くの特長を維持しつつ、熱膨張係数を任意に制御し、尚且つ様々な硬度を示す骨材としてのコークス及び、そのコークスの原料及びその製造方法は見出されていなかった。
【0007】
かかる現状を鑑みて、本発明の目的は、一定の熱膨張係数の黒鉛製品において様々な硬度を有するコークスの原料とすることができる改質ピッチの製造方法を提供することにある。本発明はまた、製造された改良ピッチを用いたか焼コークスの製造方法と、このか焼コークスを用いた黒鉛の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、特定の原料を酸素含有ガス存在下で加熱しトルエン不溶分を特定量含む改質ピッチを製造することにより、上記課題を解決し得ることを見出した。
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0009】
[1] コールタールを蒸留して得られる、燃焼法により測定された炭素、水素、窒素及び燃焼吸収イオンクロマト法により測定された硫黄の合計含有量が70~97重量%であるオイルを原料とし、これを酸素含有ガス存在下でトルエン不溶分が10重量%以上になるまで加熱する、改質ピッチの製造方法。
【0010】
[2] 前記加熱を150~350℃で5~40時間行う、[1]に記載の改質ピッチの製造方法。
【0011】
[3] [1]又は[2]に記載の改質ピッチの製造方法により得られた改質ピッチを400~700℃に加熱した後、800~1700℃に加熱する、か焼コークスの製造方法。
【0012】
[4] [3]に記載のか焼コークスの製造方法により得られたか焼コークスを2000~3500℃に加熱する、黒鉛の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、一定の熱膨張係数の黒鉛製品において様々な硬度を有するコークスの原料とすることのできる改質ピッチを製造することができ、この改良ピッチを用いて一定の熱膨張係数を有する様々な硬度の黒鉛製品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例及び比較例における熱膨張係数とショア硬度の相対値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。なお、本発明において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0016】
〔改質ピッチの製造法〕
本発明の改質ピッチの製造法は、コールタールを蒸留して得られる、燃焼法により測定された炭素、水素、窒素及び燃焼吸収イオンクロマト法により測定された硫黄の合計含有量が70~97重量%であるオイルを原料とし、これを酸素含有ガス存在下でトルエン不溶分が10重量%以上になるまで加熱することで改質ピッチ(以下、「本発明の改質ピッチ」と称す場合がある。)を製造することを特徴とする。
【0017】
本発明の改質ピッチは、熱膨張係数が一定の黒鉛製品においてさまざまな硬度を有するコークスの原料を提供することができるという効果を奏する。
即ち、従来の黒鉛製品では、一般に熱膨張係数と硬度に相関があり、硬度の高いものは熱膨張係数も大きく、熱膨張係数の小さいものは硬度が低い傾向があったが、本発明によれば、この熱膨張係数と硬度の相関関係を解消し、所定の熱膨張係数で様々な硬度を有する黒鉛製品、或いは所定の硬度で様々な熱膨張係数を有する黒鉛製品を提供することができる。従って、熱膨張係数を任意に制御してより高い硬度の黒鉛製品を得ることも可能となる。
かかる効果が得られる理由は次のように推定される。
即ち、石炭を乾留する際に得られるコールタールを蒸留して得られるコールタール蒸留物であるオイルを空気もしくは酸素含有ガスの存在下で加熱することにより酸化脱水素反応による重質化反応が起き、改質ピッチが得られるが、この改質処理において、炭素、水素、窒素及び硫黄の合計含有量が一定の範囲のオイルを酸素ガス存在下で加熱し、トルエン不溶分を所定値以上とすることで、ピッチコークスの結晶性を制御し、一定の熱膨張係数が一定かつ、様々な硬度を有するか焼コークス及び黒鉛を製造することができる。
【0018】
本発明の改質ピッチの製造方法における改質ピッチ原料は、コールタールを蒸留して得られる、燃焼法により測定された炭素、水素、窒素及び燃焼吸収イオンクロマト法により測定された硫黄の合計含有量が70~97重量%であるオイル(以下、「原料オイル」と称す場合がある。)である。原料オイルの炭素、水素、窒素及び硫黄の合計含有量が70重量%未満では、か焼コークスを製造する際の400~700℃での加熱の工程での発泡により、得られる黒鉛の密度の低下につながる。また、原料オイルの炭素、水素、窒素及び硫黄の合計含有量が97重量%を超えると酸素含有ガス存在下での反応が進行しにくくなる。これらをより良好なものとする観点から、本発明で用いる原料オイルの炭素、水素、窒素及び硫黄の合計含有量は、72重量%以上であることが好ましく、74重量%以上であることがより好ましく、一方、95重量%以下であることが好ましく、90重量%以下であることがより好ましい。ここで、本発明において原料オイルにおける炭素、水素、窒素及び硫黄の合計含有量を特定しているのは、これらの含有量を酸素含有量の指標とするためである。
【0019】
なお、本発明において、原料オイル中の炭素、水素、窒素含有量は燃焼法により、硫黄の含有量は燃焼吸収イオンクロマト法により測定することができる。具体的には炭素、水素、窒素の含有量はエレメンタール社 Vario MAX 全自動元素分析装置を用いて測定し、900℃で試料を燃焼し、熱伝導度検出器で検出する。硫黄の含有量は三菱ケミカルアナリテック社 自動試料燃焼装置 イオンクロマトグラフ用前処理装置AQF-2100Hを用いて前処理を行い、Thermo Fisher Scientific社 ICS1600を用いて測定する。
また、炭素、水素、窒素及び硫黄の合計含有量が上記範囲内の原料オイルを得るには、石炭を乾留する際に得られるコールタールを常法に従って蒸留する際に、150~220℃で蒸留すればよい。
【0020】
原料オイルの酸素含有ガス存在下での加熱は、得られる改良ピッチのトルエン不溶分が10重量%以上になるまで行う。トルエン不溶分が10重量%未満では、続く400~700℃での加熱の工程での揮発量が多く、コークスがほとんど得られない。一方、製造上の容易さを考慮すると加熱後のトルエン不溶分は通常99重量%以下である。これらをより良好なものとする観点から、加熱後のトルエン不溶分は25重量%以上が好ましく、30重量%以上がより好ましく、40重量%以上が更に好ましい。一方、加熱後のトルエン不溶分は98重量%以下がより好ましく、95重量%以下が更に好ましい。
なお、トルエン不溶分は、粉砕した改質ピッチを、溶剤トルエンと共に混合し、不溶分重量を測定するJIS K 2425の方法に基づいて求められる。
【0021】
原料オイルの酸素含有ガスの存在下での加熱条件としては、加熱温度は好ましくは150~350℃、より好ましくは200~300℃で、加熱時間は好ましくは5~40時間、より好ましくは15~25時間である。原料オイルを酸素含有ガスの存在下で加熱する際、温度150℃未満では改質反応が進行しにくいため、加熱温度は150℃以上が好ましく、より好ましくは200℃以上である。一方、加熱温度が350℃を超えると原料オイルの揮発や燃焼、炭化が起こる恐れがあるため、加熱温度は350℃以下が好ましく、より好ましくは300℃以下である。また、加熱時間は、十分にトルエン不溶分を増加させるため、5時間以上が好ましく、より好ましくは15時間以上である。一方、加熱をある程度行えば改質反応が完了しており、それ以上反応が進行しないことから、加熱時間は40時間以下が好ましく、より好ましくは30時間以下である。
【0022】
本発明の改質ピッチの製造方法において、原料オイルを加熱する際の酸素含有ガスの酸素濃度には制限はないが、通常は空気もしくは空気(酸素濃度21体積%)よりも酸素濃度の低いガス、例えば酸素濃度5~21体積%のガスが使用される。この酸素濃度が高いほど得られる改良ピッチのトルエン不溶分が多くなる傾向がある。
【0023】
〔か焼コークスの製造方法〕
本発明の改質ピッチを400~700℃に加熱した後、800~1700℃に加熱することにより、か焼コークスを得ることができる。
【0024】
本発明のか焼コークスの製造方法において、最初の段階での400~700℃での加熱は熱分解により炭化を行い、改質ピッチを重合、固化させて生コークスを得る工程である。この工程での加熱温度は好ましくは450~550℃である。また、この加熱処理は通常窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で、通常8~25時間程度行われる。
【0025】
その後の800~1700℃での加熱は生コークス中に残留している揮発成分を揮発させ、か焼コークスを得る工程である。この工程での加熱温度は好ましくは900~1400℃である。また、この加熱処理における雰囲気は特に制約はないが、酸素含有率が低い不活性ガス雰囲気下であることが好ましく、その加熱時間は加熱温度によっても異なるが、通常1~5時間程度である。
【0026】
〔黒鉛の製造方法〕
本発明において、前述の製造方法により得られたか焼コークスを2000~3500℃に加熱することにより、黒鉛を得ることができる。この際の加熱条件は、2000℃以上であることが原料由来の不純物を揮発させる観点で好ましく、この観点から加熱温度は好ましくは2200℃以上である。また、加熱温度が3500℃以下であると、黒鉛化の進行が停止した後での余剰なエネルギー消費を防ぐ観点で好ましく、この観点から加熱温度は好ましくは3000℃以下である。なお、黒鉛を製造する際には、か焼コークスを上記温度範囲で焼成すればよいが、より好ましくは以下に説明するように、か焼コークスと結着成分の混合物を成形したものを2000~3500℃で焼成することが好ましい。なお、この焼成は、不活性ガス雰囲気で行うことが好ましく、焼成時間は通常0.5時間~60日程度とすることが好ましい。
【0027】
[結着成分の混合と混練]
通常の黒鉛材料製造では、主要材料であるか焼コークス自体は融着性を有しない場合があるため、バインダーピッチなどの結着成分(バインダーピッチ)を混合して成形を行うことが好ましい。この際、か焼コークスとバインダーピッチを十分に馴染ませる目的で、通常バインダーピッチの軟化点以上で加温をしつつ、か焼コークスとバインダーピッチを混合する。この工程は混練と呼ばれ、黒鉛成形体の密度、硬度、電気抵抗などの諸物性に大きく影響する。本発明においてもバインダーピッチを加え、混練操作を行った上で成形体とすることも可能である。なお、ここでいうバインダーピッチとしては、コールタールピッチおよび、それを加熱改質したコールタールピッチを用いることができる。
か焼コークスとバインダーピッチの混合比は後述の通りである。
【0028】
[加圧成形]
本発明の製造方法は、特に、前記か焼後、黒鉛化する前にか焼コークスを粉砕し、バインダーピッチと混合し、加圧成形を行うことが好ましい。成形に使用するか焼コークスの粒径は特に制限されないが、成形体硬度向上の観点から、200μm以下が好ましく、より好ましくは150μm以下である。また、製造上の容易さからか焼コークスの粒径は10μm以上が好ましく、より好ましくは20μm以上である。ここで、か焼コークスの粒径とは篩分けの際の篩の目の粗さの値である。
【0029】
か焼コークスとバインダーピッチの混合比は、少なすぎると結着性に乏しく、多すぎると成形体が膨張することから、か焼コークス100重量部に対してバインダーピッチ20~50重量部を混合することが好ましく、より好ましくは25~45重量部である。
加圧成形の方法としては金型成形、押出成形、冷間静水等方圧加圧成形等が挙げられる。
【0030】
加圧成形の条件として、温度は通常80~200℃、好ましくは100~170℃である。また、圧力は通常1~100MPa、好ましくは10~50MPaである。
【0031】
上記成形後は、黒鉛化する前にバインダーピッチ由来の揮発分を揮発させるために成形体をか焼することが好ましい。成形体のか焼は通常800~1800℃の温度で、1時間~30日程度行われ、雰囲気は不活性雰囲気下が好ましい。
【0032】
[含浸・再か焼]
成形体のか焼によって生成した空隙にさらにバインダーピッチを含浸させる工程をピッチ含浸という。その後、再度か焼により結着成分を焼結させるが、この含浸・再か焼を繰り返すことでより高密度化された黒鉛を得ることができる。この工程は成形体のか焼後及び黒鉛化後に行うことができるが、含浸ピッチの浸透のし易さから成形体のか焼後に行うことが望ましい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味を持つものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0034】
[実施例1]
(改質ピッチの製造)
炭素、水素、窒素及び硫黄の合計含有量が74重量%である、コールタールを蒸留して得られたオイル100gを、空気流通下、260℃で8時間(改質時間)加熱して改質し、トルエン不溶分が29重量%の改質ピッチを得た。
【0035】
(生コークスの製造)
改質ピッチ20gを窒素ガス雰囲気下で、480℃にて10時間加熱して生コークスを得た。
【0036】
(か焼コークスの製造)
得られた生コークスを窒素ガス雰囲気下、1300℃にて2時間加熱してか焼コークスを得た。
【0037】
(か焼コークスの成形と黒鉛の製造)
金型成形により加圧成形を行った。
粒径53~100μmに粉砕したか焼コークス粉1.3gとバインダーピッチ(コールタールピッチ)0.39gを混合し、その混合物1.6gをφ20mmのコイン状の金型に封入・加圧して、φ20mm×厚み約4mmのコイン型成形体を得た。得られた成形体を不活性雰囲気下、30MPa、1300℃で2時間か焼した後、2800℃で0.5時間焼成して黒鉛化した。
得られた黒鉛化成形体を直方体に切り出して物性評価を行った。
【0038】
(熱膨張係数の測定)
熱膨張係数測定はRigaku社製の熱機械分析装置(Thermo plus EVO2/TMA)にて、200℃~1000℃間の成形体の長さ方向の寸法変化から線熱膨張係数を算出した。
【0039】
(ショア硬度の測定)
ショア硬度測定には今井精機社製の硬さ試験機(ショア式D型)を用いて、直方体サンプルの2面(成形時圧力をかけた面と断面)を3カ所ずつ測定し、計6カ所の平均値をサンプルのショア硬度として採用した。
【0040】
[実施例2]
実施例1の改質時間を23時間としてトルエン不溶分が76重量%の改質ピッチを得たこと以外は実施例1と同様に実施した。得られた黒鉛について実施例1と同様の評価を行った。
【0041】
[実施例3]
炭素、水素、窒素及び硫黄の合計含有量が74重量%である、コールタールを蒸留して得られたオイル100gを8体積%酸素/窒素混合ガス流通下、260℃で23時間加熱して改質し、トルエン不溶分が40重量%の改質ピッチを得たこと以外は実施例1と同様に実施した。得られた黒鉛について実施例1と同様の評価を行った。
【0042】
[比較例1]
実施例1の改質ピッチの代わりに、炭素、水素、窒素、及び硫黄の合計含有量が98重量%以上で、トルエン不溶分が13重量%のコールタールピッチを用いた以外は実施例1と同様に実施した。得られた黒鉛について実施例1と同様の評価を行った。
【0043】
[比較例2]
炭素、水素、窒素及び硫黄の合計含有量が74重量%である、コールタールを蒸留して得られるオイル100gを窒素ガス封入下、450℃で3時間加熱して改質し、トルエン不溶分59重量%の改質ピッチを得たこと以外は実施例1と同様に実施した。得られた黒鉛について実施例1と同様の評価を行った。
【0044】
表-1に実施例1~3及び比較例1、2の熱膨張係数、ショア硬度の測定結果をまとめて示した。なお、ショア硬度は比較例1の成形体のショア硬度で規格化した相対値として示した。また、これら実施例1~3及び比較例1,2の熱膨張係数とショア硬度の相対値との関係を
図1に示す。
【0045】
【0046】
実施例1~3で得られた黒鉛は、コールタールピッチを原料とした比較例1の黒鉛と、熱膨張係数は同程度であるが、ショア硬度が高いことが確認された。また、比較例2は実施例1~3と同様の原料を酸素が存在しない条件で改質したピッチを原料としたものであるが、硬度は高いが熱膨張係数も大きい。
このように、本発明の改質ピッチを原料とした黒鉛は、コールタールピッチを原料とした黒鉛と比較して熱膨張係数は同程度でも高硬度の黒鉛となる。また、酸素が存在しない条件で改質した改質ピッチを原料とした黒鉛よりも高硬度かつ低熱膨張の黒鉛となる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の改質ピッチを用いて得られる黒鉛は、熱膨張係数が低く、かつ高硬度であることから、特に、冶金、電気、機械、化学、原子力用途等に利用される人造黒鉛として有用である。より具体的には、本発明による黒鉛は、発熱材、坩堝、断熱材、集電体、減摩材、熱交材、原子炉の減速材・遮蔽物等として好ましく用いることができる。