IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-生コークスの製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】生コークスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10B 57/04 20060101AFI20221101BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20221101BHJP
   C01B 32/205 20170101ALI20221101BHJP
【FI】
C10B57/04 101
C01B32/05
C01B32/205
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019066185
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020164641
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 辰弥
(72)【発明者】
【氏名】朝日 佳男
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-197589(JP,A)
【文献】特開昭62-065916(JP,A)
【文献】特開平03-277686(JP,A)
【文献】特開平10-139410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 57/04
C01B 32/00
C10C 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キノリン不溶分が10重量%未満のピッチAと、キノリン不溶分が40重量%以上95重量%以下でトルエン不溶分が50重量%以上95重量%以下であるピッチBとの混合物を400~700℃で加熱する生コークスの製造方法であって、前記混合物は、前記ピッチAと前記ピッチBとの合計量に対し、前記ピッチBを15~60重量%含む、生コークスの製造方法。
【請求項2】
前記ピッチBを、コールタールピッチ及び/又はコールタールの蒸留物を、酸素存在下で加熱して得る、請求項1に記載の生コークスの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の生コークスの製造方法により得られた生コークスを、800~1700℃に加熱する、ピッチコークスの製造方法。
【請求項4】
請求項に記載のピッチコークスの製造方法により得られたピッチコークスを、2000~3500℃に加熱する、黒鉛の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生コークスの製造方法に関する。詳しくは、本発明は、熱膨張係数が制御されながらも高い硬度を有する黒鉛を得ることができる生コークス及びピッチコークスの製造方法と、製造されたピッチコークスを用いた黒鉛の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コークスを骨材とした成形物である黒鉛製品は、高熱伝導で適度な熱膨張係数を有し、高耐熱性、高電気伝導性、高強度という優れた特性から、冶金、電気、機械、化学、原子力などの幅広い産業分野で利用されている。いずれの用途においても黒鉛製品には高い硬度が求められている。また、他の部材と組み合わせて高温下で使用する用途が多いことから、適度な熱膨張係数を有することが必要である。よって、任意の熱膨張係数においてより硬度の高い黒鉛製品が望まれる。
【0003】
一般的に黒鉛製品の熱膨張係数及び硬度は骨材であるコークスにより決定される。かかるコークスの熱膨張係数を制御する方法の一つとして、特許文献1ではキノリン不溶分を多く含むコールタールピッチを原料として製造する方法が示されている。また、特許文献2、3では、硬度を高めるために、コールタールピッチにカーボンブラックを添加する製造方法が示されている。更に、特許文献4では、コールタール及び/又は石油系重質油に樹脂を配合し、熱分解重縮合して得られたコークスによる熱膨張係数の制御方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公昭60-3118号公報
【文献】特開平2-69308号公報
【文献】特開2004-124014号公報
【文献】国際公開第2002/040616号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている技術は熱膨張係数のみを任意に制御するものであり、熱膨張係数が大きいコークスは高い硬度を示すものの、熱膨張係数が小さくなるほど硬度が低下する傾向がある。また、特許文献2、3では、超微細で嵩密度の小さいカーボンブラックをコールタールピッチ中に均一に分散させることは困難であるため、カーボンブラックの添加量には限界があった。更に、特許文献4では、コールタールや石油系重質油と樹脂との混合物を加熱する際に、主として樹脂に由来する大量の分解ガスの発生によりコークスの嵩密度が小さくなり、得られる黒鉛製品の硬度や強度が低下する可能性がある。
【0006】
以上のように、前述の黒鉛製品の多くの特長を維持しつつ、熱膨張係数を任意に制御し、尚且つ高い硬度を示す骨材としてのコークス及び、そのコークスの原料及びその製造方法は見出されていなかった。
【0007】
かかる現状を鑑みて、本発明の目的は、任意に制御した熱膨張係数の黒鉛製品においてより高い硬度を有するコークスの原料とすることができる生コークスの製造方法を提供することにある。本発明はまた、製造された生コークスを用いたピッチコークスの製造方法と、このピッチコークスを用いた黒鉛の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、キノリン不溶分を殆ど含まないピッチとキノリン不溶分とトルエン不溶分が所定範囲のピッチを混合して生コークスを製造することにより、上記課題を解決し得ることを見出した。即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0009】
[1] キノリン不溶分が10重量%未満のピッチAと、キノリン不溶分が10~99重量%でトルエン不溶分が20~99重量%であるピッチBとの混合物を400~700℃で加熱する、生コークスの製造方法。
【0010】
[2] 前記混合物は、前記ピッチAと前記ピッチBとの合計量に対し、前記ピッチBを15~60重量%含む、[1]に記載の生コークスの製造方法。
【0011】
[3] 前記ピッチBを、コールタールピッチ及び/又はコールタールの蒸留物を、酸素存在下で加熱して得る、[1]又は[2]に記載の生コークスの製造方法。
【0012】
[4] [1]ないし[3]のいずれかに記載の生コークスの製造方法により得られた生コークスを、800~1700℃に加熱する、ピッチコークスの製造方法。
【0013】
[5] [4]に記載のピッチコークスの製造方法により得られたピッチコークスを、2000~3500℃に加熱する、黒鉛の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、任意に制御した熱膨張係数の黒鉛製品においてより高い硬度を有するコークスの原料とすることのできる生コークス及びピッチコークスを製造することができ、この生コークス及びピッチコークスを用いて所望の熱膨張係数を有する高硬度黒鉛製品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例及び比較例における熱膨張係数とショア硬度の相対値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。なお、本発明において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0017】
〔生コークスの製造方法〕
本発明の生コークスの製造方法は、キノリン不溶分が10重量%未満のピッチAと、キノリン不溶分が10~99重量%でトルエン不溶分が20~99重量%であるピッチBとの混合物を400~700℃で加熱して生コークス(以下、「本発明の生コークス」と称す場合がある。)を製造することを特徴とする。
【0018】
本発明の生コークスは、任意に制御した熱膨張係数の黒鉛製品においてより高い硬度を有するコークスを提供することができるという効果を奏する。
即ち、従来の黒鉛製品では、一般に熱膨張係数と硬度に相関があり、硬度の高いものは熱膨張係数も大きく、熱膨張係数の小さいものは硬度が低い傾向があったが、本発明によれば、この熱膨張係数と硬度の相関関係を解消し、所定の熱膨張係数で様々な硬度を有する黒鉛製品、或いは所定の硬度で様々な熱膨張係数を有する黒鉛製品を提供することができる。従って、熱膨張係数を任意に制御してより高い硬度の黒鉛製品を得ることも可能となる。
かかる効果が得られる理由は次のように推定される。
即ち、キノリン不溶分とトルエン不溶分を一定の範囲に制御したピッチBとこのピッチBよりもキノリン不溶分が少なく、キノリン不溶分を殆ど含まないピッチAを混合して用いることで、ピッチコークスの結晶性を制御して熱膨張係数を任意に制御し、様々な熱膨張係数でより高い硬度を有するコークスを製造することができる。
【0019】
本発明の生コークスの製造原料は、キノリン不溶分が10重量%未満のピッチAと、キノリン不溶分が10~99重量%でトルエン不溶分が20~99重量%であるピッチBとの混合物である。
【0020】
キノリン不溶分が10重量%未満のピッチAとは、石灰の乾留によって得られるコールタールを蒸留、精製して得られる混合物であり、一般的に「コールタールピッチ」と呼称されるものである。コールタールピッチの成分としては、通常、ナフタレン、アセナフテン、フェノキシベンゼン、メチルナフタレン、その他三環以上の多環芳香族化合物等が含まれ、通常そのキノリン不溶分は0.1~5重量%程度である。
【0021】
ピッチBはキノリン不溶分が10~99重量%で、トルエン不溶分が20~99重量%である。
ピッチBのキノリン不溶分が10重量%未満であるとピッチAと混合してもピッチA単独の場合と得られる黒鉛の硬度、熱膨張係数は変わらない。一方、製造上の容易さからピッチBのキノリン不溶分は99重量%以下に制限される。これらをより良好なものとする観点から、ピッチBのキノリン不溶分は30重量%以上が好ましく、40重量%以上がより好ましい。一方、ピッチBのキノリン不溶分は98重量%以下が好ましく、95重量%以下がより好ましい。
【0022】
また、ピッチBのトルエン不溶分が20重量%未満であるとピッチAと混合してもピッチA単独の場合と得られる黒鉛の硬度、熱膨張係数は変わらない。一方、製造上の容易さからピッチBのトルエン不溶分は99重量%以下に制限される。これらをより良好なものとする観点から、ピッチBのトルエン不溶分は30重量%以上が好ましく、50重量%以上がより好ましい。一方、ピッチBのトルエン不溶分は98重量%以下が好ましく、95重量%以下がより好ましい。
【0023】
なお、ピッチA,Bのキノリン不溶分およびピッチBのトルエン不溶分は、ピッチを、溶剤キノリンもしくは溶剤トルエンと共に混合し、不溶分重量を測定するJIS K 2425の方法に基づいて求められる。
【0024】
本発明のピッチBの製造方法は、得られるピッチのキノリン不溶分、トルエン不溶分のそれぞれの量が前述の特定の範囲となるものであれば特に制限されないが、好ましい製造方法の例としては、キノリン不溶分が1重量%未満であるコールタールピッチもしくはコールタールを蒸留して得られるオイルを酸素含有ガスの存在下で加熱する方法が挙げられる。
コールタールピッチ乃至はコールタールを蒸留して得られるオイルを酸素含有ガス存在下で加熱して得られるピッチBをピッチAに混合することで、生コークス、ピッチコークスおよび黒鉛の結晶性を制御し、熱膨張係数を任意に制御し、より高い硬度を有するコークスを製造することができる。
【0025】
コールタールピッチ乃至はコールタールを蒸留して得られるオイルを加熱する際の酸素含有ガスの酸素濃度には制限はないが、通常は空気もしくは空気(酸素濃度21体積%)よりも酸素濃度の低いガス(例えば酸素濃度5~21体積%)が使用される。
【0026】
コールタールピッチ乃至はコールタールを蒸留して得られるオイルを酸素含有ガスの存在下で加熱する際の加熱条件は、好ましくは150~400℃、より好ましくは200~390℃で、好ましくは6~30時間、より好ましくは10~25時間である。
【0027】
コールタールピッチもしくはコールタールを蒸留して得られるオイルを酸素含有ガスの存在下で加熱する際、加熱温度が150℃未満では改質反応が進行しにくいため、加熱温度は150℃以上が好ましく、より好ましくは200℃以上である。一方、加熱温度が400℃を超えるとコールタールピッチの燃焼や炭化が起こる恐れがあるため、加熱温度は400℃以下が好ましく、より好ましくは390℃以下である。また、加熱時間は、十分にキノリン不溶分、トルエン不溶分を増加させるため、6時間以上が好ましく、より好ましくは10時間以上である。一方、加熱時間をある程度行えば改質反応が完了しており、それ以上反応が進行しないことから、30時間以下が好ましく、より好ましくは25時間以下である。
【0028】
本発明の生コークスの製造法において原料となるピッチAとピッチBの混合割合は、ピッチAとピッチBの合計量に対し、ピッチBの割合が15~60重量%であることが好ましい。ピッチBの割合が15重量%未満であると得られる黒鉛の熱膨張係数、硬度共にピッチA100%の場合と変わらない。一方、ピッチBの割合が60重量%を超えると炭化反応時に発泡して得られるピッチコークスおよび黒鉛の密度が低下する。これらをより良好なものとする観点から、ピッチBの割合は20重量%以上であることが好ましく、25重量%以上であることがより好ましい。一方55重量%以下であることが好ましく、50重量%以下であることがより好ましい。
【0029】
本発明の生コークスの製造方法では、上記ピッチAとピッチBの混合物を400~700℃で加熱する。この400~700℃での加熱は、熱分解により炭化を行い、ピッチBを重合、固化させて生コークスを得る工程である。この工程での加熱温度は好ましくは450~550℃である。また、この加熱処理は通常、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行われる。加熱時間は、加熱温度やピッチの分子量分布によっても異なるが通常8~25時間程度である。
【0030】
〔ピッチコークスの製造方法〕
本発明のピッチコークスの製造方法では、本発明の生コークスの製造方法により製造された本発明の生コークスを800~1700℃に加熱することにより、ピッチコークスを得る。800~1700℃での加熱は生コークス中に残留している揮発成分を揮発させ、ピッチコークスを得る工程である。この工程での加熱温度は好ましくは900~1400℃である。また、この加熱処理における雰囲気は特に制約はないが、酸素含有率が低い不活性ガス雰囲気下であることが好ましい。加熱時間は、加熱温度によっても異なるが通常1~5時間程度である。
【0031】
〔黒鉛の製造方法〕
本発明の黒鉛の製造方法では、前述の製造方法により得られたピッチコークスを2000~3500℃に加熱することにより、黒鉛を得る。この際の加熱条件は、2000℃以上であることが原料由来の不純物を揮発させる観点で好ましく、この観点から加熱温度は好ましくは2200℃以上である。また、加熱温度が3500℃以下であると、黒鉛化の進行が停止した後での余剰なエネルギー消費を防ぐ観点で好ましく、この観点から加熱温度は好ましくは3000℃以下である。なお、黒鉛を製造する際には、ピッチコークスを上記温度範囲で焼成すればよいが、より好ましくは以下に説明するように、ピッチコークスと結着成分の混合物を成形したものを2000~3500℃で焼成することが好ましい。なお、この焼成は、不活性ガス雰囲気で行うことが好ましく、焼成時間は通常0.5時間~60日程度とすることが好ましい。
【0032】
[結着成分の混合と混練]
通常の黒鉛材料製造では、主要材料であるピッチコークス自体は融着性を有しない場合があるため、バインダーピッチなどの結着成分(バインダーピッチ)を混合して成形を行うことが好ましい。この際、ピッチコークスとバインダーピッチを十分に馴染ませる目的で、通常バインダーピッチの軟化点以上で加温をしつつ、ピッチコークスとバインダーピッチを混合する。この工程は混練と呼ばれ、黒鉛成形体の密度、硬度、電気抵抗などの諸物性に大きく影響する。本発明においてもバインダーピッチを加え、混練操作を行った上で成形体とすることも可能である。なお、ここでいうバインダーピッチとしては、コールタールピッチ、即ち、前述のピッチAおよび、それを加熱改質したコールタールピッチを用いることができる。
ピッチコークスとバインダーピッチの混合比は後述の通りである。
【0033】
[加圧成形]
本発明の製造方法は、特に、前記か焼後、黒鉛化する前にピッチコークスを粉砕し、バインダーピッチと混合し、加圧成形を行うことが好ましい。成形に使用するピッチコークスの粒径は特に制限されないが、成形体硬度向上の観点から、200μm以下が好ましく、より好ましくは150μm以下である。また、製造上の容易さからピッチコークスの粒径は10μm以上が好ましく、より好ましくは20μm以上である。ここで、ピッチコークスの粒径とは篩分けの際の篩の目の粗さの値である。
【0034】
ピッチコークスとバインダーピッチの混合比は、少なすぎると結着性に乏しく、多すぎると成形体が膨張することから、ピッチコークス100重量部に対してバインダーピッチ20~50重量部を混合することが好ましく、より好ましくは25~45重量部である。
加圧成形の方法としては金型成形、押出成形、冷間静水等方圧加圧成形等が挙げられる。
【0035】
加圧成形の条件として、温度は通常80~200℃、好ましくは100~170℃である。また、圧力は通常1~100MPa、好ましくは10~50MPaである。
【0036】
上記成形後は、黒鉛化する前にバインダーピッチ由来の揮発分を揮発させるために成形体をか焼することが好ましい。成形体のか焼は通常800~1800℃の温度で、1時間~30日程度行われ、雰囲気は不活性雰囲気下が好ましい。
【0037】
[含浸・再か焼]
成形体のか焼によって生成した空隙にさらにバインダーピッチを含浸させる工程をピッチ含浸という。その後、再度か焼により結着成分を焼結させるが、この含浸・再か焼を繰り返すことでより高密度化された黒鉛を得ることができる。この工程は成形体のか焼後及び黒鉛化後に行うことができるが、含浸ピッチの浸透のし易さから成形体のか焼後に行うことが望ましい。
【実施例
【0038】
以下、実施例により本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味を持つものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0039】
[実施例1]
(ピッチBの製造)
コールタールを蒸留して得られるオイル蒸留物100gを空気流通下、260℃で23時間加熱して改質し、キノリン不溶分が75重量%で、トルエン不溶分が76重量%のピッチBを得た。
【0040】
(生コークスの製造)
上記ピッチBの製造で得たピッチB6.25gと、ピッチAとしてコールタールピッチ(キノリン不溶分:1重量%未満)18.75gを混合し、得られた混合物を、窒素雰囲気下に480℃で10時間加熱して生コークスを得た。
【0041】
(ピッチコークスの製造)
得られた生コークスを窒素雰囲気下に1300℃で2時間加熱してピッチコークスを得た。
【0042】
(ピッチコークスの成形と黒鉛の製造)
金型成形により加圧成形を行った。粒径53~100μmに粉砕したピッチコークス粉1.3gとバインダーピッチ(コールタールピッチ(キノリン不溶分:15重量%未満))0.39gを混合し、その混合物1.6gをφ20mmのコイン状の金型に封入・加圧して、φ20mm×厚み約4mmのコイン型成形体を得た。得られた成形体を不活性雰囲気下、30MPa、1300℃で2時間か焼した後2800℃で0.5時間焼成して黒鉛化した。得られた黒鉛化成形体を直方体に切り出して物性評価を行った。
【0043】
(熱膨張係数の測定)
熱膨張係数測定はRigaku社製の熱機械分析装置(Thermo plus EVO2/TMA)にて、200℃~1000℃間の成形体の長さ方向の寸法変化から線熱膨張係数を算出した。
【0044】
(ショア硬度の測定)
ショア硬度測定には今井精機社製の硬さ試験機(ショア式D型)を用いて、直方体サンプルの2面(成形時圧力をかけた面と断面)を3カ所ずつ測定し、計6カ所の平均値をサンプルのショア硬度として採用した。
【0045】
[実施例2]
実施例1のピッチBとピッチAとの混合量を、ピッチBを8.75g、ピッチAを16.25gとした以外は実施例1と同様に実施した。得られた黒鉛について実施例1と同様の評価を行った。
【0046】
[実施例3]
実施例1のピッチBとピッチAとの混合量を、ピッチBを12.5g、ピッチAを12.5gとした以外は実施例1と同様に実施した。得られた黒鉛について実施例1と同様の評価を行った。
【0047】
[比較例1]
実施例1のピッチBとピッチAの混合物の代わりに、キノリン不溶分が5重量%でトルエン不溶分が13重量%であるコールタールピッチを480℃に加熱して生コークスを得た以外は実施例1と同様に実施した。得られた黒鉛について実施例1と同様の評価を行った。
【0048】
[比較例2]
コールタールを蒸留して得られるオイル100gを空気流通下、260℃で9時間加熱して、キノリン不溶分が0.9重量%でトルエン不溶分が18重量%のピッチを得た。得られたピッチ6.25gとコールタールピッチ(キノリン不溶分:1重量%未満)18.75gを混合し、480℃に加熱して生コークスを得た以外は実施例1と同様に実施した。得られた黒鉛について実施例1と同様の評価を行った。
【0049】
表-1に実施例1~3及び比較例1、2の熱膨張係数、ショア硬度の測定結果をまとめて示した。なお、ショア硬度は比較例1の成形体のショア硬度で規格化した相対値として示した。また、これら実施例1~3及び比較例1、2の熱膨張係数とショア硬度の相対値との関係を図1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
ピッチAとピッチBとの混合原料を用いた実施例1~3では比較例1、2と比較して高い硬度が得られることが確認された。また、実施例1と比較例1では、熱膨張係数が同程度であっても実施例1の方が高いショア硬度を示すことが確認された。このようにピッチAとピッチBとの混合原料を用いたピッチコークスはコールタールピッチから合成したピッチコークスと比較して高硬度の黒鉛となる。比較例2は熱膨張係数が非常に低いが硬度も低い。
実施例1~3より、本発明によれば、高い硬度領域で様々な熱膨張係数を示す黒鉛製品を得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の生コークスを用いて得られる黒鉛は、熱膨張係数が低く、かつ高硬度であることから、特に、冶金、電気、機械、化学、原子力用途等に利用される人造黒鉛として有用である。より具体的には、本発明による黒鉛は、発熱材、坩堝、断熱材、集電体、減摩材、熱交材、原子炉の減速材・遮蔽物等として好ましく用いることができる。
図1