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特許7167842荷電粒子ビーム描画方法及び荷電粒子ビーム描画装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】荷電粒子ビーム描画方法及び荷電粒子ビーム描画装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20221101BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
H01L21/30 541M
H01L21/30 541Q
G03F7/20 504
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019088437
(22)【出願日】2019-05-08
(65)【公開番号】P2020184582
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2022-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】安井 健一
【審査官】菅原 拓路
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-111180(JP,A)
【文献】特開2012-212792(JP,A)
【文献】特開2014-060194(JP,A)
【文献】特開2005-195787(JP,A)
【文献】特開2008-071928(JP,A)
【文献】特開2018-022912(JP,A)
【文献】特開2002-075845(JP,A)
【文献】特開2000-068191(JP,A)
【文献】特表2013-527982(JP,A)
【文献】特表2018-531423(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
H01J 37/305
37/317
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
図形パターンが定義された描画データを用いて、前記図形パターンを荷電粒子ビームのショットで照射可能なサイズの複数のショット図形に分割する工程と、
描画対象基板の描画領域をメッシュ状に仮想分割して複数のメッシュ領域に分け、前記図形パターンの位置に基づいて、前記メッシュ領域毎に、近接効果及び近接効果よりも影響半径の小さい中距離効果を補正する補正照射量を算出する工程と、
前記補正照射量を用いて各ショット図形の照射量を算出する工程と、
前記照射量に基づいて、前記ショット図形のエッジ部における不足照射量を算出する工程と、
前記不足照射量に基づいて、前記ショット図形をリサイズする工程と、
前記照射量の荷電粒子ビームを用いて、前記描画対象基板に、前記リサイズしたショット図形を描画する工程と、
を備える荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項2】
前記照射量の荷電粒子ビームでリサイズ前のショット図形を描画した場合の、前記ショット図形内でのドーズ量変化の前記エッジ部における勾配を算出し、
前記不足照射量及び前記勾配に基づいて、前記ショット図形のリサイズ量を算出することを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項3】
前記ショット図形の照射量は、該ショット図形の重心の周囲のメッシュ領域の補正照射量から算出されることを特徴とする請求項1又は2に記載の荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項4】
前記ショット図形の重心の周囲のメッシュ領域の補正照射量から第1照射量を算出し、
前記ショット図形の前記エッジ部の周囲のメッシュ領域の補正照射量から第2照射量を算出し、
前記第1照射量と前記第2照射量との差分の1/2を前記不足照射量とすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項5】
図形パターンが定義された描画データを用いて、前記図形パターンを荷電粒子ビームのショットで照射可能なサイズの複数のショット図形に分割するショット分割部と、
描画対象基板の描画領域をメッシュ状に仮想分割して複数のメッシュ領域に分け、前記図形パターンの位置に基づいて、前記メッシュ領域毎に、近接効果及び近接効果よりも影響半径の小さい中距離効果を補正する補正照射量を算出する補正処理部と、
前記補正照射量を用いて各ショット図形の照射量を算出し、該照射量に基づいて、前記ショット図形のエッジ部における不足照射量を算出する不足照射量算出部と、
前記不足照射量に基づいて、前記ショット図形をリサイズするリサイズ処理部と、
前記照射量の荷電粒子ビームを用いて、前記描画対象基板に、リサイズしたショット図形を描画する描画部と、
を備える荷電粒子ビーム描画装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム描画方法及び荷電粒子ビーム描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。半導体デバイスへ所望の回路パターンを形成するためには、縮小投影型露光装置を用いて、フォトマスクのパターンをウェーハ上に縮小転写する手法が採用されている。高精度の原画パターンは、電子ビーム描画装置によって描画され、所謂、電子ビームリソグラフィ技術が用いられている。
【0003】
電子ビーム描画時に基板面へ照射される電子が、レジスト内で散乱(前方散乱)し、また、基板から反射(後方散乱)することによりパターンの寸法変動を生じさせる、いわゆる近接効果の問題が知られている。近接効果を補正する方法の1つとして、照射量補正法が知られている。これは、ビーム照射位置の周辺パターンのサイズや粗密に基づき位置毎に照射量を決定する補正方法である。
【0004】
照射量補正では、フォトマスクへ照射した電子ビームが基板で反射し、レジストを再露光して生じる、後方散乱照射量の計算が行われる。この計算は、レイアウト内のパターン情報を例えば数μm角のメッシュで表現したパターン密度マップと、後方散乱分布関数としてのガウスカーネルとの積和(畳み込み)を用いて高速化されている。近接効果の影響範囲は10μm程度であり、照射量補正における計算メッシュサイズは数μm程度である。
【0005】
近年、影響範囲が数百nm~数μm程度のEUV基板固有の後方散乱や、プロセスに起因する線幅エラーを補正する中距離効果補正の必要性が高まっている。中距離効果補正の計算メッシュサイズは数百nm程度である。
【0006】
従来、電子ビーム描画装置では、図11に示すように、計算メッシュ上でのショット図形重心座標を算出し、この重心の周囲のメッシュ値D11~D14を内挿計算して、当該ショット図形の照射量を決定していた。しかし、ショットサイズが中距離効果補正メッシュサイズよりも大きい場合、ショットのエッジ部において、当該ショットの照射量と、補正計算で求めた補正照射量との差が大きくなることがあった。
【0007】
例えば、図12に示すように、ショットSH1のショットサイズが、計算メッシュのメッシュサイズより大きい場合を考える。ショットSH1の照射量D1は、ショットSH1の中心の周囲(近傍)の計算メッシュME1、ME2における補正照射量(メッシュ値)から算出される。一方、ショットSH1の図中左側のエッジ部は計算メッシュME0の位置にあり、その補正照射量はD0である。従って、ショットSH1のエッジ部では、ΔD(=D1-D0)だけ照射量が不足し、描画パターン寸法(解像線幅)が、設計値より小さくなる。
【0008】
この問題に対処するため、最大ショットサイズを小さくしたり、エッジ付近でショットを小さく分割したりする方法が考えられるが、ショット数が増加し、描画時間が長くなる。また、最大ショットサイズを十分小さくしても、従来の近接効果補正の理論では、パターンエッジ部で前方散乱寄与を入射ドーズの1/2としており、エッジ近傍でドーズ勾配を持つ中距離効果補正において、この前提が成り立たず、補正残差が発生し、描画精度の劣化を招いていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2009-194062号公報
【文献】特開2016-134567号公報
【文献】特開2009-032904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、描画精度を向上させることができる荷電粒子ビーム描画方法及び荷電粒子ビーム描画装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様による荷電粒子ビーム描画方法は、図形パターンが定義された描画データを用いて、前記図形パターンを荷電粒子ビームのショットで照射可能なサイズの複数のショット図形に分割する工程と、描画対象基板の描画領域をメッシュ状に仮想分割して複数のメッシュ領域に分け、前記図形パターンの位置に基づいて、前記メッシュ領域毎に、近接効果及び近接効果よりも影響半径の小さい中距離効果を補正する補正照射量を算出する工程と、前記補正照射量を用いて各ショット図形の照射量を算出する工程と、前記照射量に基づいて、前記ショット図形のエッジ部における不足照射量を算出する工程と、前記不足照射量に基づいて、前記ショット図形をリサイズする工程と、前記照射量の荷電粒子ビームを用いて、前記描画対象基板に、前記リサイズしたショット図形を描画する工程と、を備えるものである。
【0012】
本発明の一態様による荷電粒子ビーム描画方法は、前記照射量の荷電粒子ビームでリサイズ前のショット図形を描画した場合の、前記ショット図形内でのドーズ量変化の前記エッジ部における勾配を算出し、前記不足照射量及び前記勾配に基づいて、前記ショット図形のリサイズ量を算出する。
【0013】
本発明の一態様による荷電粒子ビーム描画方法は、前記ショット図形の照射量は、該ショット図形の重心の周囲のメッシュ領域の補正照射量から算出される。
【0014】
本発明の一態様による荷電粒子ビーム描画方法は、前記ショット図形の重心の周囲のメッシュ領域の補正照射量から第1照射量を算出し、前記ショット図形の前記エッジ部の周囲のメッシュ領域の補正照射量から第2照射量を算出し、前記第1照射量と前記第2照射量との差分の1/2を前記不足照射量とする。
【0015】
本発明の一態様による荷電粒子ビーム描画装置は、図形パターンが定義された描画データを用いて、前記図形パターンを荷電粒子ビームのショットで照射可能なサイズの複数のショット図形に分割するショット分割部と、描画対象基板の描画領域をメッシュ状に仮想分割して複数のメッシュ領域に分け、前記図形パターンの位置に基づいて、前記メッシュ領域毎に、近接効果及び近接効果よりも影響半径の小さい中距離効果を補正する補正照射量を算出する補正処理部と、前記補正照射量を用いて各ショット図形の照射量を算出し、該照射量に基づいて、前記ショット図形のエッジ部における不足照射量を算出する不足照射量算出部と、前記不足照射量に基づいて、前記ショット図形をリサイズするリサイズ処理部と、前記照射量の荷電粒子ビームを用いて、前記描画対象基板に、リサイズしたショット図形を描画する描画部と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、描画精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る電子ビーム描画装置の概略図である。
図2】第1成形アパーチャプレート及び第2成形アパーチャプレートの斜視図である。
図3】同実施形態による描画方法を説明するフローチャートである。
図4】ドーズプロファイルを示す図である。
図5】ドーズプロファイルを示す図である。
図6】(a)(b)は評価点の設定例を示す図である。
図7】評価点の設定例を示す図である。
図8】(a)は寸法誤差の例を示すグラフであり、(b)は描画位置シフト量の例を示すグラフである。
図9】別の実施形態に係る電子ビーム描画装置の概略図である。
図10】別の実施形態による描画方法を説明するフローチャートである。
図11】ショット図形と計算メッシュの例を示す図である。
図12】ショット図形のエッジ部における照射量不足の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは電子ビームに限るものでなく、イオンビーム等でもよい。
【0019】
図1は本発明の実施形態に係る電子ビーム描画装置の概略図である。図1に示す電子ビーム描画装置は、制御部Cと描画部Wとを備えた可変成形ビーム型の描画装置である。
【0020】
描画部Wは、鏡筒30と描画室60を備えている。鏡筒30内には、電子銃32、照明レンズ34、ブランカ36、ブランキングアパーチャプレート37、第1成形アパーチャプレート38、投影レンズ40、成形偏向器42、第2成形アパーチャプレート44、対物レンズ46、主偏向器48、及び副偏向器50が配置されている。
【0021】
描画室60内には、XYステージ62が配置されている。XYステージ62上には、描画対象の基板70が載置されている。基板70は、半導体装置を製造する際の露光用マスク、或いは、半導体回路が描画される半導体基板(シリコンウェハ)等である。また、基板70は、レジストが塗布された、まだ何も描画されていないマスクブランクスであってもよい。
【0022】
鏡筒30内に設けられた電子銃32(放出部)から放出された電子ビームBは、照明レンズ34により、矩形の開口39(図2参照)を有する第1成形アパーチャプレート38に照射される。第1成形アパーチャプレート38の開口39を通過することで、電子ビームBは矩形に成形される。
【0023】
第1成形アパーチャプレート38を通過した第1アパーチャ像(矩形)の電子ビームBは、ブランカ36(ブランキング偏向器)内を通過する際にブランカ36によって、電子ビームを基板70に照射するか否か切り替えられる。ブランカ36によってビームオフとなった場合、電子ビームBはブランキングアパーチャプレート37で遮蔽されるように偏向される。ビームオンの場合は、電子ビームBがブランキングアパーチャプレートを通過するように制御される。
【0024】
ブランキングアパーチャプレート37を通過した第1アパーチャ像(矩形)の電子ビームBは、投影レンズ40により、開口45(図2参照)を有した第2成形アパーチャプレート44上に投影される。このとき、偏向器42によって、第2成形アパーチャプレート44上に投影される第1アパーチャ像(矩形)は偏向制御され、開口45を通過する電子ビームの形状と寸法を変化させる(可変成形を行う)ことができる。また、偏向器42によって、第1アパーチャ像(矩形)の電子ビームBが全て第2成形アパーチャプレート44の開口45を通過するよう制御すれば、第1アパーチャ像(矩形)の電子ビームの形状と寸法を変化させないようにすることもできる。
【0025】
第2成形アパーチャプレート44の開口45を通過した第2アパーチャ像の電子ビームBは、対物レンズ46により焦点を合わせ、主偏向器48及び副偏向器50によって偏向され、連続的に移動するXYステージ62上に載置された基板70の目標位置に照射される。
【0026】
制御部Cは、制御計算機10、記憶部20、及び偏向制御回路24を有する。記憶部20には、複数の図形パターンから構成される描画データ(レイアウトデータ)が外部から入力され、格納されている。
【0027】
制御計算機10は、補正処理部11、ショット分割部12、不足照射量算出部13、ドーズ勾配算出部14、リサイズ量算出部15、リサイズ処理部16、ショットデータ生成部17、及び描画制御部18を有する。
【0028】
制御計算機10の各部は、電気回路等のハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、制御計算機10の少なくとも一部の機能を実現するプログラムを記録媒体に収納し、電気回路を含むコンピュータにこのプログラムを読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。
【0029】
電子ビーム描画装置は、例えば、フォトマスクのパターン描画に用いられる。フォトマスクの作製では、まず、クロム膜等の遮光膜及びレジストが設けられた石英基板を準備し、電子ビーム描画装置でレジストに所望のパターンを描画する。描画後、現像処理により、レジストの露光部(又は非露光部)を溶解除去してレジストパターンを形成する。続いて、レジストパターンをマスクにしてドライエッチング装置でエッチング処理を行い、遮光膜を加工する。その後、レジストを剥離することで、フォトマスクが作製される。
【0030】
電子ビーム描画では、散乱電子の影響でパターンの寸法変動が生じるため、照射量を補正して寸法変動を抑制する必要がある。本実施形態では、近接効果及び中距離効果の補正を行うと共に、補正残差を低減するようにショットサイズの補正(リサイズ)を行う。
【0031】
本実施形態に係る描画方法を、図3に示すフローチャートに沿って説明する。
【0032】
まず、補正処理部11が、記憶装置20から描画データを読み出し、描画データに定義された図形パターンを用いて、近接効果及び中距離効果の影響による寸法変動を補正するための補正照射量D(x)を算出する(ステップS1)。補正照射量は以下の式1に示す積分方程式から求まる。例えば、基板の描画領域を数百nm程度のメッシュサイズの計算メッシュ(メッシュ領域)に仮想分割し、計算メッシュ毎に補正照射量D(x)が計算される。
【0033】
【数1】
【0034】
式1においてCはレジストの吸収量で一定値である。Kは照射ドーズ量から蓄積エネルギーへの変換係数である。ηは補正係数である。gb(x)は近接効果及ぶ中距離効果の影響分布を示すガウシアン関数である。
【0035】
描画データに定義される図形パターンのサイズは、通常、描画部Wが1回のショットで形成できるショットサイズよりも大きい。このため、ショット分割部12が1回のショットで形成可能なサイズになるように、各図形パターンを複数のショット図形に分割する(ステップS2)。
【0036】
図4に示すように、1つのショット図形FGに着目した場合、このショット図形FGの照射量は、ショット図形FGの重心(中心)の位置xにおける補正照射量dであり、この補正照射量dは、その近傍の補正照射量(メッシュ値)を内挿計算することにより算出される。
【0037】
ショット図形FGのエッジ部分における補正照射量dは、その位置xの近傍の補正照射量(メッシュ値)を内挿計算することにより算出される。ショット図形FGが描画される領域における補正照射量D(x)は、以下の式2に示す一次式で表すことができる。
【0038】
D(x)=d+α・r ・・・式2
【0039】
式2において、rはx座標(x方向の位置)である。また、αは補正照射量の傾きであり、α=(d-d)/(x-x)となる。
【0040】
図4に示す曲線C1は、中距離効果補正処理によるドーズプロファイルを表す。ショット図形FGのエッジ部における前方散乱寄与は、近接効果補正の理論ではショット図形FGの照射量の1/2となる。従って、ショット図形FGのエッジ部における照射量Daはd/2となる。
【0041】
図4に示す曲線C2は、式2に示す補正照射量D(x)を照射した場合のドーズプロファイルを表す。ショット図形FGのエッジ部における曲線C2の値が、エッジ部における目標照射量Dt1となる。目標照射量Dt1は、以下の式3で求めることができる。
【0042】
【数2】
【0043】
式3において、gf(x)は前方散乱の影響分布を示すガウシアン関数である。σは前方散乱影響半径である。
【0044】
従って、中距離効果補正計算により算出されるショット図形FGのエッジ部の照射量Daは、目標照射量Dt1に対し、ΔD=Dt1-Daだけ不足する。照射量の不足は、パターン寸法の細りをもたらすため、補正する必要がある。補正に際し、まず、不足照射量算出部13が、上述の式2、式3を用いて、ショット図形FGのエッジ部における不足照射量ΔDを算出する(ステップS3)。
【0045】
ドーズ勾配算出部14が、曲線C1により表されるドーズプロファイルの、ショット図形FGのエッジ部における勾配Sx0(曲線C1の傾き)を算出する(ステップS4)。勾配Sx0は、以下の式4~式7から算出できる。
【0046】
【数3】
【0047】
式4のerf(x)は誤差関数である。
【0048】
図5に示すように、ショット図形FGをリサイズし、エッジ位置をΔBだけシフトすることで、ドーズプロファイルが曲線C3のようになり、当初のエッジ位置xにおける照射量が目標照射量Dt1となる。リサイズ量算出部15が、以下の式8を用いて、ショット図形FGのリサイズ量ΔBを算出する(ステップS5)。
【0049】
【数4】
【0050】
リサイズ処理部16が、リサイズ量ΔBに基づいて、ショット図形FGをリサイズする(ステップS6)。リサイズ処理は、ショット図形FGの両方のエッジ部に対して施される。
【0051】
ショットデータ生成部17は、このショット図形FGをショットするためのショットデータを生成する。ショットデータは、ショット位置、ショットサイズ、照射時間等を含む。照射時間は、ショット図形FGの照射量dを電流密度で割った値である。
【0052】
描画制御部18は、ショットデータを偏向制御回路24へ転送する。偏向制御回路24は、ショットデータに基づいて各偏向器の偏向量を制御し、基板70に図形パターンを描画する(ステップS7)。ステップS3~S7の処理は、ショット分割部12が図形パターンを分割して生成した全てのショット図形に対して行われる。
【0053】
このように、ショット図形のエッジ部における不足照射量に相当する分だけ、ショット図形のエッジ位置をシフトし、ショット図形をリサイズすることで、解像パターンの寸法と設計寸法との差異が小さくなり、描画パターンの寸法・位置精度を向上させることができる。
【0054】
上記実施形態において、ショット図形FGのエッジ部分における補正照射量dの1/2を目標照射量Dt2としてもよい。この場合、不足照射量ΔDは、ΔD=d/2-d/2となる。リサイズ量ΔBは、以下の式9から算出できる。
【0055】
【数5】
【0056】
リサイズ処理部16は、算出されたリサイズ量ΔBに基づいて、ショット図形FGをリサイズする。
【0057】
上記実施形態では、照射量を評価する点を一次元的に説明したが、図形の重心と、重心から各エッジ(図形の各辺)に下ろした垂線との交点とを評価点とすることが好ましい。図6(a)は、矩形の重心dcと、重心dcから4辺に下ろした垂線との交点dt、db、dl、drを示す。図6(b)は、三角形の重心dcと、重心dcから3辺に下ろした垂線との交点db、dl、daを示す。
【0058】
1つのエッジ(辺)について、複数の評価点を設けてもよい。例えば、図7に示す例では、1つの辺L1にd1、d2、d3の3個の評価点を設けている。d0は重心である。d1、d2、d3でそれぞれリサイズ量を求め、これらの平均値を辺L1のリサイズ量とする。また、重心d0との角度を重みとして加重平均をとって、リサイズ量を算出してもよい。
【0059】
図8(a)(b)は、上記実施形態で説明したリサイズ処理を行う場合と、行わない場合の描画パターンの寸法誤差及び描画位置のシフト量の一例を示す。リサイズ処理を行うことで、寸法精度及び位置精度が向上することが確認された。
【0060】
マルチビーム描画装置のように1本のビームサイズを十分小さくできる場合は、以下の式10~式14に示すように、近接効果の補正式に前方散乱の不足分を考慮した項を追加して補正計算を行うことができる。
【0061】
【数6】
【0062】
【数7】
【0063】
この発明はマルチビーム描画装置にも適用することができる。以下、マルチビーム描画装置に適用した場合について説明する。
【0064】
図9はマルチビーム描画装置の概略構成図である。マルチビーム描画装置は、制御部MCと描画部MWとを備えている。描画部MWは、電子鏡筒200と描画室230を備えている。電子鏡筒200内には、電子銃201、照明レンズ202、成形アパーチャ部材203、ブランキングプレート204、縮小レンズ205、制限アパーチャ部材206、対物レンズ207、及び偏向器208が配置されている。縮小レンズ205及び対物レンズ207は共に電磁レンズで構成され、縮小レンズ205及び対物レンズ207によって縮小光学系が構成される。
【0065】
描画室230内には、XYステージ232が配置される。XYステージ232上には、描画対象の基板240が載置される。基板240は、半導体装置を製造する際の露光用マスク、半導体回路が描画される半導体基板(シリコンウェハ)、レジストが塗布された、まだ何も描画されていないマスクブランクス等である。
【0066】
制御部MCは、制御計算機100、磁気ディスク装置等の記憶装置120、及び制御回路130を備える。制御計算機100は、メッシュ分割部101、面積密度算出部102、第1メッシュ変換部103、第2メッシュ変換部104、第3メッシュ変換部105、第4メッシュ変換部106、第1畳み込み演算部107、第2畳み込み演算部108、第3畳み込み演算部109、照射量算出部110、及び描画制御部111を有する。制御計算機100の各部は、電気回路等のハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、少なくとも一部の機能を実現するプログラムを記録媒体に収納し、電気回路を含むコンピュータにこのプログラムを読み込ませて実行させてもよい。
【0067】
成形アパーチャ部材203には、縦(y方向)、横(x方向)に複数の開口部が所定の配列ピッチで、例えばマトリクス状に形成されている。各開口部は、共に同じ寸法形状の矩形又は円形で形成される。
【0068】
電子銃201から放出された電子ビームBは、照明レンズ202によりほぼ垂直に成形アパーチャ部材203全体を照明する。電子ビームBが成形アパーチャ部材203の複数の孔を通過することによって、例えば矩形形状の複数の電子ビーム(マルチビーム)MBが形成される。
【0069】
ブランキングプレート204には、成形アパーチャ部材203の各孔の配置位置に合わせて通過孔が形成されている。各通過孔には、対となる2つの電極の組(ブランカ:ブランキング偏向器)が、それぞれ配置される。各ビーム用の2つの電極の一方には、電圧を印加するアンプが配置され、他方は接地される。各通過孔を通過する電子ビームは、それぞれ独立に、対となる2つの電極に印加される電圧によって偏向される。この電子ビームの偏向によって、ブランキング制御される。
【0070】
ブランキングプレート204を通過したマルチビームMBは、縮小レンズ205によって縮小され、制限アパーチャ部材206に形成された中心の開口に向かって進む。ブランキングプレート204のブランカによって偏向された電子ビームは、制限アパーチャ部材206の中心の開口から位置が外れ、制限アパーチャ部材206によって遮蔽される。一方、ブランカによって偏向されなかった電子ビームは、制限アパーチャ部材206の中心の開口を通過する。
【0071】
このように、制限アパーチャ部材206は、個別ブランキング機構によってビームOFFの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽する。そして、ビームONになってからビームOFFになるまでに形成された、制限アパーチャ部材206を通過したビームにより1回分のショットのビームが形成される。
【0072】
制限アパーチャ部材206を通過したマルチビームMBは、対物レンズ207により焦点が合わされ、所望の縮小率のパターン像となり、偏向器208によってまとめて偏向され、基板240に照射される。例えば、XYステージ232が連続移動している時、ビームの照射位置がXYステージ232の移動に追従するように偏向器208によって制御される。
【0073】
一度に照射されるマルチビームMBは、理想的には成形アパーチャ部材203の複数の孔の配列ピッチに上述した所望の縮小率を乗じたピッチで並ぶことになる。描画装置は、ショットビームを連続して順に照射していくラスタースキャン方式で描画動作を行い、所望のパターンを描画する際、パターンに応じて必要なビームがブランキング制御によりビームONに制御される。
【0074】
上述の式10、式11を用いた補正計算を行い、各ビームの照射量を算出して描画処理を行う方法を、図10に示すフローチャートに沿って説明する。
【0075】
まず、メッシュ分割部101が、基板240の描画領域を格子状の複数のメッシュ領域に仮想分割する(ステップS11)。メッシュ分割部101は、1本のビームサイズに応じた小さいメッシュサイズ(第1メッシュサイズ)、例えば10nm程度となるように分割する。以下、小メッシュサイズのメッシュ領域を小メッシュ領域とも称する。
【0076】
続いて、面積密度算出部102が、記憶装置120から描画データを読み出し、小メッシュ領域に図形パターンを割り当て、各小メッシュ領域のパターン面積密度を算出する。これにより、小メッシュ領域毎のパターン面積密度が定義された第1メッシュデータが得られる。
【0077】
第1メッシュ変換部103が、第1メッシュデータを、中距離効果補正に適したメッシュサイズ(第2メッシュサイズ)、例えば100nm程度の中メッシュサイズの第2メッシュデータに変換する(ステップS12)。例えば、複数の小メッシュ領域を1つの中メッシュ領域に変換(結合)する。中メッシュ領域のメッシュ値は、複数の小メッシュ領域のメッシュ値及び位置等を用いて算出される。
【0078】
第1畳み込み演算部107が、第2メッシュデータを入力として中距離効果補正カーネルで畳み込み演算を行い、第3メッシュデータを生成する(ステップS13)。第3メッシュデータのメッシュ値は中距離効果が補正された照射量となる。
【0079】
第3メッシュデータは、第2メッシュデータと同様に中メッシュサイズのメッシュデータである。第2メッシュ変換部104が、第3メッシュデータを、小メッシュサイズの第4メッシュデータに変換する(ステップS14)。小メッシュ領域のメッシュ値は、中メッシュ領域の各頂点に紐付くメッシュ値の内挿処理で算出される。第1メッシュデータと第4メッシュデータとはメッシュサイズが同じである。
【0080】
第3メッシュ変換部105が、第3メッシュデータを、近接効果補正に適したメッシュサイズ(第3メッシュサイズ)、例えば1.6μm程度の大メッシュサイズの第5メッシュデータに変換する(ステップS15)。
【0081】
第2畳み込み演算部108が、第5メッシュデータを入力として近接効果補正カーネルで畳み込み演算を行い、第6メッシュデータを生成する(ステップS16)。第5メッシュデータのメッシュ値は近接効果が補正された照射量となる。
【0082】
第6メッシュデータは、第5メッシュデータと同様に大メッシュサイズのメッシュデータである。第4メッシュ変換部108が、第6メッシュデータを、小メッシュサイズの第7メッシュデータに変換する(ステップS17)。第1メッシュデータと第7メッシュデータとはメッシュサイズが同じである。
【0083】
第3畳み込み演算部109が、第1メッシュデータを入力として前方散乱カーネルで畳み込み演算を行い、第8メッシュデータを生成する(ステップS18)。
【0084】
照射量算出部110が、第8メッシュデータから前方散乱項を計算し、この計算結果に、第4メッシュデータ及び第7メッシュデータを加算することで、補正照射量を算出する(ステップS19)。
【0085】
ステップS12~19の処理をn回、例えば3回程度繰り返したら(ステップS20_Yes)、描画処理を行う(ステップS21)。描画制御部111が、制御回路130等を介して描画部MWを制御して描画処理を行う。描画部MWは、補正照射量に基づいて、ブランキングプレート204の各ブランカを制御し、各ビームの照射量を調整して、基板240にパターンを描画する。
【0086】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0087】
10 制御計算機
11 補正処理部
12 ショット分割部
13 不足照射量算出部
14 ドーズ勾配算出部
15 リサイズ量算出部
16 リサイズ処理部
17 ショットデータ生成部
18 描画制御部
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