IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ニコンの特許一覧

特許7167922フォトマスクブランクス、フォトマスク、露光方法、及び、デバイスの製造方法
<>
  • 特許-フォトマスクブランクス、フォトマスク、露光方法、及び、デバイスの製造方法 図1
  • 特許-フォトマスクブランクス、フォトマスク、露光方法、及び、デバイスの製造方法 図2
  • 特許-フォトマスクブランクス、フォトマスク、露光方法、及び、デバイスの製造方法 図3
  • 特許-フォトマスクブランクス、フォトマスク、露光方法、及び、デバイスの製造方法 図4
  • 特許-フォトマスクブランクス、フォトマスク、露光方法、及び、デバイスの製造方法 図5
  • 特許-フォトマスクブランクス、フォトマスク、露光方法、及び、デバイスの製造方法 図6
  • 特許-フォトマスクブランクス、フォトマスク、露光方法、及び、デバイスの製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】フォトマスクブランクス、フォトマスク、露光方法、及び、デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/58 20120101AFI20221101BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
G03F1/58
G03F7/20 521
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019540989
(86)(22)【出願日】2018-09-06
(86)【国際出願番号】 JP2018032984
(87)【国際公開番号】W WO2019049919
(87)【国際公開日】2019-03-14
【審査請求日】2021-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2017171997
(32)【優先日】2017-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】110000198
【氏名又は名称】弁理士法人湘洋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小澤 隆仁
(72)【発明者】
【氏名】寳田 庸平
(72)【発明者】
【氏名】林 賢利
(72)【発明者】
【氏名】八神 高史
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-248298(JP,A)
【文献】特開2007-241065(JP,A)
【文献】特開2015-156037(JP,A)
【文献】特開2016-105158(JP,A)
【文献】特開2016-128377(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
G03F 1/00~1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェットエッチングによって所定のパターンが形成されるフォトマスクに用いられるフォトマスクブランクスであって、
基板と、
前記基板上にクロムを含有する第1の層と、
前記第1の層上にクロムと酸素とを含有する第2の層と、を含み、
前記第2の層の表面の算術平均高さが0.245nm以上である、フォトマスクブランクス。
【請求項2】
請求項1に記載のフォトマスクブランクスであって、
前記第2の層の表面の算術平均高さと前記基板の表面の算術平均高さとの差が0.03nm以上である、フォトマスクブランクス。
【請求項3】
ウェットエッチングによって所定のパターンが形成されるフォトマスクに用いられるフォトマスクブランクスであって、
基板と、
前記基板上にクロムを含有する第1の層と、
前記第1の層上にクロムと酸素とを含有する第2の層と、を含み、
前記第2の層の表面の算術平均高さと前記基板の表面の算術平均高さとの差が0.03nm以上である、フォトマスクブランクス。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のフォトマスクブランクスにおいて、
前記第2の層は、CrOCNまたはCrOCN中の酸素が化学量論比よりも多い材料からなる層である、フォトマスクブランクス。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のフォトマスクブランクスにおいて、
前記第2の層の表層における酸素原子数濃度が、44%以上である、フォトマスクブランクス。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載のフォトマスクブランクスにおいて、
前記第2の層の表面から5nmの深さにおける酸素原子数濃度が、35%以上である、フォトマスクブランクス。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載のフォトマスクブランクスにおいて、
前記基板の大きさは、520mm×800mm以上である、フォトマスクブランクス。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載のフォトマスクブランクスにおいて、
前記基板は、石英ガラスである、フォトマスクブランクス。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載のフォトマスクブランクスの前記第1の層および前記第2の層が所定のパターン状に形成されてなる、フォトマスク。
【請求項10】
請求項9に記載のフォトマスクを介して、フォトレジストが塗布された感光性基板を露光する、露光方法。
【請求項11】
請求項10に記載の露光方法によって前記感光性基板を露光する露光工程と、
前記露光された感光性基板を現像する現像工程と、
を有する、デバイスの製造方法。
【請求項12】
フォトマスクブランクスの製造方法において、
クロムを含有する第1の層を基板に成膜する第1の層作成工程と、
クロムと酸素とを含有する第2の層を前記第1の層上に成膜し、前記第2の層の表面にウェットエッチングまたはドライエッチングを行い、前記第2の層の算術平均高さが0.245nm以上となるように前記第2の層を形成する第2の層作成工程と、を有する、フォトマスクブランクスの製造方法。
【請求項13】
フォトマスクブランクスの製造方法において、
クロムを含有する第1の層を基板に成膜する第1の層作成工程と、
クロムと酸素を含有する第2の層を前記第1の層上に成膜する第2の層作成工程と、を有し、
前記第2の層作成工程では、前記酸素の流量を6sccm以上48sccm以下で前記第2の層を成膜し、前記第2の層の算術平均高さが0.245nm以上となるように前記第2の層を形成する、フォトマスクブランクスの製造方法。
【請求項14】
請求項12または請求項13に記載のフォトマスクブランクスの製造方法において、
前記第2の層作成工程では、前記第2の層の表面の算術平均高さと前記基板の表面の算術平均高さとの差が0.03nm以上となるように前記第2の層を形成する、フォトマスクブランクスの製造方法。
【請求項15】
請求項12から請求項1までのいずれか一項に記載のフォトマスクブランクスの製造方法において、
前記フォトマスクブランクスは、ウェットエッチングによって所定のパターンが形成されるフォトマスクに用いられるフォトマスクブランクスである、フォトマスクブランクスの製造方法。
【請求項16】
フォトマスクの製造方法であって、
請求項12から請求項1までのいずれか一項に記載のフォトマスクブランクスの製造方法により製造されるフォトマスクブランクスに、ウェットエッチングによって所定のパターンを形成するパターン形成工程を有する、フォトマスクの製造方法。
【請求項17】
請求項1に記載のフォトマスクの製造方法で製造されたフォトマスクを介して、フォトレジストが塗布された感光性基板を露光する、露光方法。
【請求項18】
請求項1に記載の露光方法によって前記感光性基板を露光する露光工程と、
前記露光された感光性基板を現像する現像工程と、を有する、デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトマスクブランクス、フォトマスク、露光方法、及び、デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明基板上に、クロムを含有するクロム系材料による遮光層と、酸化クロム材料による複数層からなる積層膜による反射低減層とが積層されたフォトマスクブランクスが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開2016-105158号公報
【発明の概要】
【0004】
本発明の第1の態様によると、フォトマスクブランクスは、ウェットエッチングによって所定のパターンが形成されるフォトマスクに用いられるフォトマスクブランクスであって、基板と、前記基板上にクロムを含有する第1の層と、前記第1の層上にクロムと酸素とを含有する第2の層と、を含み、前記第2の層の表面の算術平均高さが0.245nm以上である。
本発明の第2の態様によると、フォトマスクブランクスは、ウェットエッチングによって所定のパターンが形成されるフォトマスクに用いられるフォトマスクブランクスであって、基板と、前記基板上にクロムを含有する第1の層と、前記第1の層上にクロムと酸素とを含有する第2の層と、を含み、前記第2の層の表面の算術平均高さと前記基板の表面の算術平均高さとの差が0.03nm以上である。
本発明の第3の態様によると、フォトマスクは、第1または第2の態様によるフォトマスクブランクスの前記第1の層および前記第2の層が所定のパターン状に形成されてなるフォトマスクである。
本発明の第4の態様によると、露光方法は、第3の態様によるフォトマスクを介して、フォトレジストが塗布された感光性基板を露光する。
本発明の第5の態様によると、デバイスの製造方法は、第4の態様による露光方法によって前記感光性基板を露光する露光工程と、前記露光された感光性基板を現像する現像工程と、を有する。
本発明の第6の態様によると、フォトマスクブランクスの製造方法は、クロムを含有する第1の層を前記基板に成膜する第1の層作成工程と、クロムと酸素とを含有する第2の層を前記第1の層上に成膜し、前記第2の層の表面にウェットエッチングまたはドライエッチングを行い、前記第2の層の前記算術平均高さが0.245nm以上となるように前記第2の層を形成する第2の層作成工程と、を有する。
本発明の第7の態様によると、フォトマスクブランクスの製造方法は、クロムを含有する第1の層を前記基板に成膜する第1の層作成工程と、クロムと酸素を含有する第2の層を前記第1の層上に成膜する第2の層作成工程と、を有し、前記第2の層作成工程では、前記酸素の流量を6sccm以上48sccm以下で前記第2の層を成膜し、前記第2の層の算術平均高さが0.245nm以上となるように前記第2の層を形成する。
本発明の第8の態様によると、フォトマスクの製造方法は、第6または第7の態様によるフォトマスクブランクスに、ウェットエッチングによって所定のパターンを形成するパターン形成工程を有する。
本発明の第9の態様によると、露光方法は、第8の態様によるフォトマスクの製造方法で製造されたフォトマスクを介して、フォトレジストが塗布された感光性基板を露光する。
本発明の第10の態様によると、デバイスの製造方法は、第9の態様による露光方法によって前記感光性基板を露光する露光工程と、前記露光された感光性基板を現像する現像工程と、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】実施の形態に係るフォトマスクブランクスの構成例を示す図である。
図2】フォトマスクブランクスを製造するために使用可能な製造装置の一例を示す模式図である。
図3】実施例および比較例に係るフォトマスクブランクスについての測定結果を示す表である。
図4】実施例に係るフォトマスクブランクスを用いて作製したマスクパターンの断面形状を説明するための模式図である。
図5】フォトマスクを介して感光性基板を露光する様子を示す概念図である。
図6】比較例に係るフォトマスクブランクスの構成例を示す図である。
図7】比較例に係るフォトマスクブランクスを用いて作製したマスクパターンの断面形状を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
(実施の形態)
図1は、本実施の形態のフォトマスクブランクス10の構成例を示す図である。フォトマスクブランクス10は、基板11と、第1の層(以下、遮光層)12と、第2の層(以下、低反射層)13とを備える。本実施の形態におけるフォトマスクブランクス10においては、図1に示すように、低反射層13の表面に所定レベルの微細な凹凸(所定の算術平均高さ)を有する。本実施の形態では、スパッタリングにより低反射層13の酸素含有量(酸素の原子数濃度)を調整することにより、低反射層13の表面に所定の算術平均高さが生成されるようにする。以下、本実施の形態について詳細に説明する。
【0007】
基板11には合成石英ガラス等の材料が用いられる。なお、基板11の材料としては、デバイスを製造する際の露光工程に用いられる露光光を透過するものであればよい。遮光層12は、クロム(Cr)を含む材料により構成され、基板11に形成される。遮光層12は、例えば、クロムと炭素(C)と窒素(N)とを含有するクロム系材料であるCrCN膜である。遮光層12は、露光工程の際に用いる露光光を遮光する機能を有する。なお、遮光層12は、単一の膜で構成されてもよいし、複数の膜を積層して構成されてもよい。
【0008】
低反射層13は、クロムと酸素(O)を含む材料、例えば、クロムと酸素と炭素と窒素とを含有するクロム系材料であるCrOCN膜であって、遮光層12に積層して設けられる。フォトマスクブランクス10を用いてフォトマスクを作製する際には、低反射層13の表面(遮光層12に接する表面とは反対側の表面)にフォトレジストが塗布される。低反射層13は、形成されたフォトレジスト層に露光光により所望パターンを描画する際に、露光光の反射を低減(抑制)する機能を有する。これにより、露光光の反射により描画されるパターンの形状精度が低下することを防止する。また、遮光層12および低反射層13が所望パターンに形成されたフォトマスクを介してデバイス用基板を露光する際、フォトマスクは、上記所望パターンの形成されている面が下面(露光光の出射側面)となるように配置されて使用される。このとき、フォトマスクを介してデバイス用基板に到達した露光光がフォトマスク側へ反射する場合がある。そして、この反射した露光光がフォトマスク表面からさらに反射してデバイス用基板に到達してしまうと、デバイス用基板における露光光を照射すべき領域以外にも露光光が照射され、露光不良の原因となる。しかし、本実施の形態においては、低反射層13が形成されているためフォトマスク表面での露光光の反射が低減され、低反射層13を通過した露光光は遮光層12で吸収されるので、上記の露光不良を抑制することができる。なお、低反射層13は、単一の膜で構成されてもよいし、複数の膜を積層して構成されてもよい。
【0009】
なお、フォトマスクブランクス10は、例えば、FPD(Flat Panel Display)等の表示用デバイスや、LSI(Large Scale Integration)等の半導体デバイスを作製するためのフォトマスクブランクスとして適用され得る。フォトマスクブランクス10を用いてフォトマスクを作製するには、例えば、次に説明する手順により行う。
【0010】
フォトマスクブランクス10の低反射層13の上に形成したフォトレジスト層に、レーザー光、電子線、あるいはイオンビーム等のエネルギー線によりパターンを描画する。パターンが描画されたフォトレジスト層を現像することで、描画部分または非描画部分が除去されてフォトレジスト層にパターンが形成される。次に、形成されたパターンをマスクとしてウェットエッチングを行うことで、フォトレジスト層に形成されたパターンに対応した形状が、低反射層13および遮光層12に形成される。最後に、マスクとして機能した部分のフォトレジスト層を除去してフォトマスクが完成する。
【0011】
本発明者らは、低反射層13の算術平均高さと、低反射層13の表面に形成したフォトレジスト層をウェットエッチングによりパターン形成する際の、低反射層13とフォトレジスト層との界面の剥離との関係を調べた。その結果、低反射層13の表面を所定の算術平均高さとした場合に、低反射層13とフォトレジスト層との界面の剥離を抑制できることを見出した。なお、本明細書における算術平均高さとは、ISO25178で規定される値のことである。低反射層13とフォトレジスト層との界面における両者の剥離を抑制できる理由は、低反射層13の表面を所定の算術平均高さとすることで、低反射層13とフォトレジスト層との密着性が向上することによるためと推定される。
【0012】
後述するように、低反射層13の表面の算術平均高さが0.245nm以上である場合に、低反射層13とフォトレジスト層との密着性が高く、このような条件を満たすフォトマスクブランクス10は、ウェットエッチング中にエッチング液が低反射層13とフォトレジスト層との界面にしみ込む現象を効果的に防止できることが分かった。
【0013】
低反射層13の表面を所定の算術平均高さとするためには、例えばスパッタリングにより低反射層13を形成する際に、スパッタリングチャンバー内に導入する酸素の流量を調整して、低反射層13が所定量以上の酸素を含むように形成する。
以下では、本実施の形態に係るフォトマスクブランクス10の製造方法の一例について説明する。
【0014】
図2は、本実施の形態に係るフォトマスクブランクス10を製造するために使用する製造装置の一例を示す模式図である。図2(a)は、製造装置100の内部を上面から見た場合の模式図、図2(b)は、製造装置100の内部を側面から見た場合の模式図である。図2に示す製造装置100は、インライン型のスパッタリング装置であり、フォトマスクブランクス10を作製するための基板11を搬入するためのチャンバー20と、第1のスパッタリングチャンバー21と、バッファチャンバー22と、第2のスパッタリングチャンバー23と、作製されたフォトマスクブランクス10を搬出するためのチャンバー24とを備える。
【0015】
基板トレイ30は、フォトマスクブランクス10を作製するための基板11を載置可能な枠状のトレイであり、基板11の外縁部分が支持されて載置される。基板11は、表面が研磨および洗浄され、遮光層12および低反射層13が形成される表面が下側(下向き)となるように、基板トレイ30に載置される。スパッタリング装置100では、後述するように、基板11の表面をターゲットに対向させた状態を維持しながら、図2の点線矢印25で示す方向に、基板11を載置した基板トレイ30を移動させて、基板11の表面に遮光層12および低反射層13を形成する。
【0016】
搬入用のチャンバー20、第1のスパッタリングチャンバー21、バッファチャンバー22、第2のスパッタリングチャンバー23、および搬出用のチャンバー24のそれぞれの間は、不図示のシャッタによりそれぞれ仕切られている。搬入用のチャンバー20、第1のスパッタリングチャンバー21、バッファチャンバー22、第2のスパッタリングチャンバー23、および搬出用のチャンバー24は、それぞれ不図示の排気装置に接続され、各チャンバー内部が排気される。
【0017】
第1のスパッタリングチャンバー21の内部には第1のターゲット41が設けられ、第2のスパッタリングチャンバー23の内部には第2のターゲット42が設けられている。第1のスパッタリングチャンバー21および第2のスパッタリングチャンバー23には、それぞれ不図示のDC電源が設けられ、第1のターゲット41、第2のターゲット42にそれぞれ電力を供給する。
【0018】
第1のスパッタリングチャンバー21には、第1のスパッタリングチャンバー21内にスパッタリング用のガスを導入する第1のガス流入口31が設けられる。第1のターゲット41は、遮光層12を形成するためのスパッタリングターゲットであり、クロムを含む材料により形成されている。具体的には、第1のターゲット41は、クロム、クロムの酸化物、クロムの窒化物、クロムの炭化物等から選ばれた材料により形成される。例えば、遮光層12としてCrCN膜を形成するためには、第1のガス流入口31を介して、窒素および炭素を含むガスと不活性ガス(アルゴンガス等)との混合ガスが導入される。
【0019】
第2のスパッタリングチャンバー23には、第2のスパッタリングチャンバー23内にスパッタリング用のガスを導入する第2のガス流入口32が設けられる。第2のターゲット42は、低反射層13を形成するためのスパッタリングターゲットであり、クロムを含む材料(クロム等)により形成される。例えば、低反射層13としてCrOCN膜を形成するためには、第2のガス流入口32を介して、酸素、窒素、炭素を含むガスと不活性ガスとの混合ガスが導入される。
【0020】
基板11が第1のスパッタリングチャンバー21に搬送されると、第1のスパッタリングチャンバー21においては、基板11の表面に遮光層12(CrCN膜)がスパッタリングにより形成される。遮光層12が形成された基板11は、バッファチャンバー22を経由して第2のスパッタリングチャンバー23に搬送される。第2のスパッタリングチャンバー23においては、遮光層12の表面に低反射層13(CrOCN膜)がスパッタリングにより形成される。遮光層12および低反射層13が形成された基板11は、搬出用のチャンバー24に搬送される。このようにして、基板11の表面に遮光層12と低反射層13とが順次形成され、フォトマスクブランクス10が作製される。
【0021】
なお、第1および第2のターゲット41、42の材料と、第1および第2のガス流入口31、32から導入するガスの種類とは、遮光層12や低反射層13を構成する材料や組成に応じて適宜選択される。また、スパッタリングの方式は、DCスパッタリング、RFスパッタリング、イオンビームスパッタリング等のいずれの方式を用いてもよい。
【0022】
上述したように、本実施の形態では、低反射層13の表面を所定の算術平均高さとするために、低反射層13をスパッタリングにより形成する際に、第2のスパッタリングチャンバー23内に導入するスパッタリング用のガスに含有される酸素の量を調整して、低反射層13が所定量以上の酸素を含有するように形成する。これにより、低反射層13の算術平均高さを調整する。低反射層13の表面を所定の算術平均高さとすることで、低反射層13とフォトレジストとの密着性を高くして、フォトマスクブランクス10をウェットエッチングする際に、低反射層13とフォトレジスト層の界面にエッチング液がしみ込むことを防ぐことができる。その結果、本実施の形態のフォトマスクブランクス10を用いてフォトマスクを製造した場合、パターンを精度よく形成することができる。このため、フォトマスクの製造工程の歩留まりを向上させることができる。
【0023】
また、本実施の形態のフォトマスクブランクス10から製造したフォトマスクを用いて露光工程を行うことによって、高精細なデバイスを製造することが可能となる。また、露光工程において回路パターンの不良が生じることを低減することができ、デバイスの製造工程の歩留まりを向上させることができる。
【0024】
上述した実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)フォトマスクブランクス10は、基板11と、基板側から順に少なくとも遮光層12および低反射層13を有するフォトマスクブランクス10である。遮光層12は、クロムを含有し、低反射層13は、クロムと酸素とを含有し、低反射層13の表面の算術平均高さが0.245nm以上である。低反射層13の表面の算術平均高さが0.245nm以上である場合、低反射層13とフォトレジスト層との密着性が高くなる。それにより、ウェットエッチング中にエッチング液が低反射層13とフォトレジスト層との界面にしみ込む現象を抑制することができる。
【0025】
(2)本実施の形態のフォトマスクブランクス10を用いてフォトマスクを製造する場合、パターンを精度よく形成することができる。このため、フォトマスクの製造工程の歩留まりを向上させることができる。また、パターンのエッジ部の低反射層13や遮光層12にエッチング液のしみ込みによる傾斜面が生成されて、低反射層13の反射を低減する機能の低下や、遮光層12による遮光機能の低下が生じることを防ぐことができる。
【0026】
(実施例1)
まず、合成石英ガラスからなる透明ガラス基板11を用意した。図2に示すインライン型のスパッタリング装置100を使用し、このガラス基板11の表面に、遮光層12と低反射層13を順次形成した。以下、遮光層12と低反射層13のそれぞれの製造方法について、より詳しく説明する。
【0027】
第1のスパッタリングチャンバー21に、アルゴン(Ar)、窒素(N)およびメタン(CH)の混合ガス(Ar、N、CHの各ガスの流量をそれぞれ、172.8sccm、60sccm、7.2sccm、圧力0.6Paに設定)をスパッタリングガスとして導入した。スパッタリングガスを導入しながら、第1のスパッタリングチャンバー21のDC電源の電力を8.5kWに設定してスパッタリングを行い、基板11上にCrCNからなる遮光層12を70nmの厚さで形成した。
【0028】
次に、第2のスパッタリングチャンバー23に、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO)、窒素(N)、および酸素(O)の混合ガス(Ar、CO、N、Oの各ガスの流量をそれぞれ、240sccm、45sccm、120sccm、6sccm、圧力0.3Paに設定)をスパッタリングガスとして導入した。また、第2のスパッタリングチャンバー23のDC電源の電力を8.5kWに設定してスパッタリングを行い、遮光層12の表面にCrOCNからなる低反射層13を30nmの厚さで形成した。
【0029】
上記の手順で作製したフォトマスクブランクス10において、86.9μm×86.9μmの範囲内の低反射層13の表面の算術平均高さSaを、コヒーレンス走査型干渉計(Zygo社製 NewView8000)によって測定することにより求めた。また、低反射層13の深さ方向の酸素の原子数濃度を、X線光電子分光分析装置(PHI社製 QuanteraII)によって測定した。これらの測定結果を、図3の表に示す。
【0030】
作製したフォトマスクブランクス10を、10分間UV洗浄した後、15分間スピン洗浄(メガソニック洗浄、アルカリ洗浄、ブラシ洗浄、リンス、スピン乾燥)し、スピンコーターにて低反射層13の表面にフォトレジスト層を形成した。次に、マスクアライナーを使用して、2μmピッチのラインアンドスペースのパターンで露光した後、現像を行ってフォトレジスト層を部分的に除去し、レジストパターンを形成した。このレジストパターンをマスクとして、レジストパターンが形成されたフォトマスクブランクス10を硝酸第二セリウムアンモンをベースとしたエッチング液に浸漬してウェットエッチングを行うことにより、低反射層13および遮光層12にパターンを形成した。
【0031】
パターンを形成した後、これを割断し、走査型電子顕微鏡(SEM)でパターンの断面形状を観察し、フォトレジスト層と低反射層13の界面部分にエッチング液のしみ込みが発生したか否かを、パターンの断面形状から確認した。この結果を、図3の表に示す。
【0032】
(実施例2)
実施例1に用いた基板11と同様の合成石英ガラスからなる基板11を用意した。実施例1と同様の条件で遮光層12を形成した。次に、低反射層13を形成する際、実施例1においては、第2のスパッタリングチャンバー23に導入する酸素(O)の流量を6sccmとしたが、本実施例では、酸素(O)の流量を18sccmとし、それ以外は、実施例1と同様の条件で低反射層13を形成した。実施例1と同様の項目について測定を行った。その測定結果を、図3の表に示す。
【0033】
(実施例3)
実施例1に用いた基板11と同様の合成石英ガラスからなる基板11を用意した。実施例1と同様の条件で遮光層12を形成した。次に、低反射層13を形成する際に第2のスパッタリングチャンバー23に導入する酸素(O)の流量を30sccmとした。酸素の流量以外は、実施例1と同様の条件で低反射層13を形成した。そして、実施例1と同様の項目について測定を行った。その測定結果を、図3の表に示す。
【0034】
(実施例4)
実施例1に用いた基板11と同様の合成石英ガラスからなる基板11を用意した。実施例1と同様の条件で遮光層12を形成した。次に、低反射層13を形成する際に第2のスパッタリングチャンバー23に導入する酸素(O)の流量を48sccmとし、それ以外は、実施例1と同様の条件で低反射層13を形成した。実施例1と同様の項目について測定を行った。その測定結果を、図3の表に示す。
【0035】
(比較例1)
実施例1に用いた基板11と同様の合成石英ガラスからなる基板51を用意した。実施例1と同様の条件で遮光層52を形成した。次に、低反射層53を形成する際に第2のスパッタリングチャンバー23に導入する酸素(O)の量を0sccmとし、それ以外は、実施例1と同様の条件で低反射層53を形成した。すなわち、比較例1においては、低反射層53を形成する際に第2のスパッタリングチャンバー23には酸素を導入しなかった。図6は、作製されたフォトマスクブランクス50の構成を示す模式図であり、比較例1に係るフォトマスクブランクス50では、基板51の表面に遮光層52と低反射層53が順次形成されている。そして、実施例1と同様の項目について測定を行った。その測定結果を、図3の表に示す。
【0036】
図3に示す表には、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、および比較例1について、低反射層の表面近傍(表層)における酸素原子数濃度、低反射層の表面から深さ5nmの位置における酸素原子数濃度、低反射層の表面の算術平均高さSa1、低反射層の算術平均高さSa1と基板の算術平均高さSa2との差(Sa1の値からSa2の値を引いた値)、およびエッチング液のしみ込みの有無が示されている。図3から、実施例1~4における低反射層表面の算術平均高さは、いずれも0.245nmより大きい値であるのに対して、比較例1における低反射層表面の算術平均高さは、0.242nmであり、実施例1~4に比べて小さいことがわかる。また、表面から深さ5nmの位置(表面から離れた位置)における酸素原子数濃度は、表面近傍(表層)における酸素原子数濃度より低いことがわかる。
【0037】
図4は、実施例1~4により作製されたフォトマスクブランクス10をウェットエッチングした後、割断して、パターン断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した様子を模式的に示す図である。フォトマスクブランクス10においては、ウェットエッチングにより、フォトレジスト層15に形成されたマスクに対応したパターンが、低反射層13および遮光層12に形成されている。図4に示すように、実施例1~4により作製されたフォトマスクブランクス10は、ウェットエッチングした後において、パターンのエッジ部には、エッチング液のしみ込みによる傾斜面は観察されず、パターンのエッジ部は基板11に実質的に垂直な面で構成されていることが確認された。すなわち、実施例1~4では、低反射層13をスパッタリングにより形成する際に、スパッタリングチャンバー内に導入する酸素の流量を調整することにより、低反射層13の表面を所定の算術平均高さとした。これにより、フォトレジストと低反射層13との密着性が向上したと考えられる。
【0038】
図7は、比較例1により作製されたフォトマスクブランクス50をウェットエッチングした後、割断して、パターン断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した様子を模式的に示す図である。図7に示すように、比較例1により作製されたフォトマスクブランクス50は、ウェットエッチングした後において、パターンのエッジ部には、フォトレジスト層55と低反射層53との界面に、エッチング液のしみ込みによる傾斜面が観察された。
【0039】
このような傾斜面が生成されたフォトマスクにおいて、傾斜面が生成された領域では低反射層の厚みは小さくなるため、露光光の反射を低減する機能は低下する。その結果、このようなフォトマスクを用いてデバイス用基板に回路パターンを形成した場合、デバイス用基板に形成された回路パターンの精度は低下する。なお、エッチング液のしみ込みがさらに大きい場合には、低反射層と遮光層とに跨るような大きな傾斜面が生成される。このようなフォトマスクにおいては、低反射層による露光光の反射を低減する機能の低下に加えて、遮光層による露光光の遮光性能も低下する。従って、このようなフォトマスクはデバイスの製造に適さない。
【0040】
上記の結果から、低反射層13の形成を行う際に、スパッタリングチャンバー内に酸素を導入すると、低反射層の表面の算術平均高さSa1で表した値は大きくなり、算術平均高さSa1を所定の大きさとすることで、フォトレジスト層と低反射層13との密着性を十分なレベルにできる。低反射層13の表面の算術平均高さSa1が0.245nm以上であれば、フォトレジスト層と低反射層13との密着性が充分に大きく、これらの界面にエッチング液がしみ込むことを抑制できると考えられる。また、所望の反射防止性能が得られる範囲内であれば、低反射層13の表面の算術平均高さSa1の値は特に制限されないが、例えば、上限値を1.0nmとしてもよい。
【0041】
図3の測定結果から、低反射層13は、表層において酸素数濃度が44%以上であることが好ましい。また、低反射層13は、表面から5nmの深さにおいて、酸素数濃度が35%以上であることが好ましい。それにより、フォトレジスト層と低反射層13との密着性を向上させ、これらの界面にエッチング液がしみ込むことを抑制できる。
【0042】
また、通常、フォトマスクブランクス10の基板11の表面は、研磨して仕上げられている。これに対して、低反射層13はスパッタリングによって形成されるため、基板11の算術平均高さは、低反射層13の算術平均高さに比べると短周期成分は小さい。そして、フォトレジストと直接接触するのは基板11ではなく低反射層13であり、低反射層13の算術平均高さの短周期成分が、フォトレジストとの密着性により効果的に作用していると考えられる。このため、低反射層13の表面の算術平均高さSa1と、基板11の表面の算術平均高さSa2(本実施例、及び比較例においては0.217nm)との差は、0.03nm以上とすることが好ましい。また、エッチング後のパターンエッジラフネスの観点から、低反射層13の表面の算術平均高さSa1と、基板11の表面の算術平均高さSa2との差の上限値を1.0nmとしてもよい。
【0043】
次のような変形も本発明の範囲内であり、変形例の一つ、もしくは複数を上述の実施形態と組み合わせることも可能である。
【0044】
(変形例1)
上述した実施の形態では、低反射層13をスパッタリングにより形成する際に、スパッタリングチャンバー内に導入する酸素の流量を調整して、低反射層13の算術平均高さを所定の範囲とした。しかし、スパッタリングチャンバー内に導入する酸素流量の調整に代えて、あるいは、それに加えて、低反射層13を形成後、その表面をドライエッチングまたはウェットエッチングによって所定の算術平均高さとしてもよい。それにより、フォトレジストと低反射層13との密着性を向上させることが可能となる。
【0045】
(変形例2)
上述の実施の形態および変形例で説明したフォトマスクブランクス10は、表示装置製造用、半導体製造用、プリント基板製造用のフォトマスクを作製するためのフォトマスクブランクスとして適用され得る。なお、表示装置製造用のフォトマスクを作製するためのフォトマスクブランクスの場合には、基板11として520mm×800mm以上のサイズの基板を用いてもよい。また、基板11の厚さは、8~21mmであってよい。
【0046】
次に、実施例1~4により作製されたフォトマスクブランクス10を用いて作製したフォトマスクの適用例として、半導体製造や液晶パネル製造のフォトリソグラフィ工程について、図5を参照して説明する。露光装置500には、実施例1~4により作製されたフォトマスクブランクス10を用いて作製したフォトマスク513が配置される。また、露光装置500には、フォトレジストが塗布された感光性基板515も配置される。
【0047】
露光装置500は、光源LSと、照明光学系502と、フォトマスク513を保持するマスク支持台503と、投影光学系504と、露光対象物である感光性基板515を保持する露光対象物支持テーブル505と、露光対象物支持テーブル505を水平面内で移動させる駆動機構506とを備える。露光装置500の光源LSから出射された露光光は、照明光学系502に入射して所定光束に調整され、マスク支持台503に保持されたフォトマスク513に照射される。フォトマスク513を通過した光はフォトマスク513に描かれたデバイスパターンの像を有しており、この光が投影光学系504を介して露光対象物支持テーブル505に保持された感光性基板515の所定位置に照射される。これにより、フォトマスク513のデバイスパターンの像が、半導体ウェハや液晶パネル等の感光性基板515に所定倍率で結像露光される。
【0048】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【0049】
次の優先権基礎出願の開示内容は引用文としてここに組み込まれる。
日本国特許出願2017年第171997号(2017年9月7日出願)
【符号の説明】
【0050】
10…フォトマスクブランクス、11…基板、12…遮光層、13…低反射層、100…製造装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7