(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】透明スクリーン、映像投影合わせ板、及び映像表示システム
(51)【国際特許分類】
G03B 21/62 20140101AFI20221101BHJP
G02B 5/02 20060101ALI20221101BHJP
G03B 21/00 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
G03B21/62
G02B5/02 B
G03B21/00 D
(21)【出願番号】P 2019560867
(86)(22)【出願日】2018-11-13
(86)【国際出願番号】 JP2018042019
(87)【国際公開番号】W WO2019123896
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】P 2017243475
(32)【優先日】2017-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103090
【氏名又は名称】岩壁 冬樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124501
【氏名又は名称】塩川 誠人
(72)【発明者】
【氏名】山田 成紀
(72)【発明者】
【氏名】垰 幸宏
(72)【発明者】
【氏名】一松 恒生
【審査官】川俣 郁子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-134195(JP,A)
【文献】国際公開第2015/186668(WO,A1)
【文献】特開2016-009271(JP,A)
【文献】特開2014-013369(JP,A)
【文献】特表2014-509963(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104298063(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0011342(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B5/00-5/136
G03B21/00-21/10
21/12-21/30
21/56-21/64
33/00-33/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の透明層と、投影される映像の光を反射する反射層と、前記反射層を基準として前記第1の透明層とは反対側に設けられる第2の透明層とを有し、背景を視認可能な透明スクリーンであって、
前記反射層は、前記第1の透明層の前記反射層とは反対側の面を基準面とするとき前記基準面に対して傾斜し、前記映像の光を反射する
反射斜面を複数有し、
複数の前記
反射斜面は、それぞれ凹凸を有し、前記基準面の法線方向から見たときに縞状に形成され、
前記基準面に対する角度が所定の中心角度に対して所定量の範囲内でランダムな変化量を有するように複数の前記
反射斜面が形成されていることを特徴とする透明スクリーン。
【請求項2】
前記変化量は、前記所定量の範囲内における離散的な値である、請求項1に記載の透明スクリーン。
【請求項3】
前記第1の透明層は、前記基準面に対し同じ向きに傾斜する複数の
斜面を有し、
複数の前記
斜面は、前記基準面の法線方向から見たときに縞状に形成され、
透明スクリーンは、前記第1の透明層と前記反射層との間において、前記第1の透明層の前記斜面に凹凸を形成する凹凸層を更に有し、
前記凹凸層は、粒子及びマトリックスを含み、前記反射層と接する面に凹凸を有し、
前記反射斜面は、前記凹凸層の凹凸に沿って形成される、請求項1又は2に記載の透明スクリーン。
【請求項4】
前記第1の透明層は、前記基準面に対し同じ向きに傾斜する複数の
斜面を有し、
複数の前記
斜面は、それぞれ凹凸を有し、前記基準面の法線方向から見たときに縞状に形成され、
前記反射斜面は、前記斜面の凹凸に沿って形成される、請求項1又は2に記載の透明スクリーン。
【請求項5】
隣り合う複数の前記斜面の間に、複数の前記斜面を連結する段差面を有する、請求項
3又は4に記載の透明スクリーン。
【請求項6】
前記基準面の法線方向における前記段差面の高さPV1と、複数の前記斜面が並ぶ方向におけるピッチP1との比(PV1/P1)が0.6以下である、請求項5に記載の透明スクリーン。
【請求項7】
前記反射層は、金属層と誘電体層との少なくとも一方を含む、請求項1~6のいずれかに記載の透明スクリーン。
【請求項8】
透明スクリーンのヘイズが10%以下である、請求項1~7のいずれかに記載の透明スクリーン。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の透明スクリーンと、前記透明スクリーンの片側に設けられる第1の透明板と、前記透明スクリーンの反対側に設けられる第2の透明板と、を有する映像投影合わせ板。
【請求項10】
車両の窓板として用いられる、請求項9に記載の映像投影合わせ板。
【請求項11】
請求項1~8のいずれかに記載の透明スクリーンと、前記透明スクリーンに映像を投影するプロジェクタと、を有する映像表示システム。
【請求項12】
第1の透明層と、投影される映像の光を反射する反射層と、前記反射層を基準として前記第1の透明層とは反対側に設けられる第2の透明層とを有し、背景を視認可能な透明スクリーンの製造方法であって、
前記第1の透明層の前記反射層とは反対側の面を基準面とすると、前記第1の透明層の前記基準面とは反対側の面に、前記基準面に対し傾斜する複数の斜面を、前記基準面の法線方向から見て縞状に形成するステップと、
複数の前記斜面のそれぞれに凹凸を形成するステップと、
前記凹凸に接する前記反射層を形成するステップと、
前記反射層の凹凸を埋める第2の透明層を形成するステップとを有し、
前記基準面に対する角度が所定の中心角度に対して所定量の範囲内でランダムな変化量を有するように複数の前記斜面を形成することを特徴とする透明スクリーンの製造方法。
【請求項13】
前記変化量は、前記所定量の範囲内における離散的な値である、請求項12に記載の透明スクリーンの製造方法。
【請求項14】
前記斜面に凹凸を形成する方法が、前記斜面に粒子及びマトリックスを含む液体を塗布して乾燥する成膜法である、請求項12又は13に記載の透明スクリーンの製造方法。
【請求項15】
前記斜面に凹凸を形成する方法が、前記斜面をエッチングするエッチング法である、請求項12~14のいずれかに記載の透明スクリーンの製造方法。
【請求項16】
前記斜面を形成する方法が、型の凹凸パターンを前記第1の透明層に転写する型押し法である、請求項12~15のいずれかに記載の透明スクリーンの製造方法。
【請求項17】
前記斜面を形成する方法が、前記第1の透明層を切削工具で切削する切削法である、請求項12~16のいずれかに記載の透明スクリーンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明スクリーン、映像投影合わせ板、映像表示システム、及び透明スクリーンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載された映像投影構造体は、表面にランダムな凹凸が形成されている第1の透明層と、第1の透明層におけるランダムな凹凸が形成されている面に形成された反射膜と、反射膜の上に形成された第2の透明層とを有する。この映像投影構造体は、映像を投影していない場合には透明な窓として機能し、映像を投影している場合にはスクリーンとして機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図24は、従来の透明スクリーンを示す図である。透明スクリーン120は、プロジェクタ112から投影された映像を観察者113に向かって表示する。透明スクリーン120は、第1の透明層132と、投影される映像の光を反射する反射層133と、反射層133を基準として第1の透明層132とは反対側に設けられる第2の透明層135とを有する。第1の透明層132は、反射層133と接する平坦面に、凹凸を有する。この凹凸に沿って、反射層133が形成されている。
【0005】
ホットスポットと呼ばれる現象が生じることがある。ホットスポットは、プロジェクタからスクリーンに映像が投影されたときに、スクリーンの中心部などが明るく光って見える現象である。ホットスポットは、スクリーンの大気と接する面で入射光が正反射することによって生じ、正反射方向で観察される。
【0006】
従来のスクリーンでは、ホットスポットが観察される方向と、明るい映像が観察される方向とが同じであった。また、映像の全体を明るく観察できる方向が存在せず、一方向から映像を観察すると、映像中央部の明るさと映像外周部の明るさとの差が大きかった。
【0007】
本発明の目的は、ホットスポットが観察される方向と明るい映像が観察される方向とを分離でき、かつ、映像の全体を明るく観察できる方向を作り出せる透明スクリーンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による透明スクリーンは、第1の透明層と、投影される映像の光を反射する反射層と、反射層を基準として第1の透明層とは反対側に設けられる第2の透明層とを有し、背景を視認可能な透明スクリーンであって、反射層は、第1の透明層の反射層とは反対側の面を基準面とするとき基準面に対して傾斜し、映像の光を反射する反射斜面を複数有し、複数の反射斜面は、それぞれ凹凸を有し、基準面の法線方向から見たときに縞状に形成され、基準面に対する角度が所定の中心角度に対して所定量の範囲内でランダムな変化量を有するように複数の反射斜面が形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明による透明スクリーンの製造方法は、第1の透明層と、投影される映像の光を反射する反射層と、反射層を基準として第1の透明層とは反対側に設けられる第2の透明層とを有し、背景を視認可能な透明スクリーンの製造方法であって、第1の透明層の反射層とは反対側の面を基準面とすると、第1の透明層の基準面とは反対側の面に、基準面に対し傾斜する複数の斜面を、基準面の法線方向から見て縞状に形成するステップと、複数の斜面のそれぞれに凹凸を形成するステップと、凹凸に接する反射層を形成するステップと、反射層の凹凸を埋める第2の透明層を形成するステップとを有し、基準面に対する角度が所定の中心角度に対して所定量の範囲内でランダムな変化量を有するように複数の斜面を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ホットスポットが観察される方向と明るい映像が観察される方向とを分離でき、かつ、映像の全体を明るく観察できる方向を作り出せる透明スクリーンが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】映像表示システムの一実施形態を示す模式図である。
【
図2】透明スクリーンの一実施形態を示す模式図である。
【
図3】プロジェクタからの映像の光が反射斜面で反射され観察者に達するまでの経路を示す図である。
【
図4】背景透過光の透過率が透明スクリーンを透過する位置に応じて変わることを説明するための図である。
【
図5】背景透過光の透過率が透明スクリーンを透過する位置に応じて変わることを説明するための図である。
【
図15】車両の前方から見た、映像投影合わせ板の透明スクリーンと、プロジェクタと、観察者との位置関係の一例を示す模式図である。
【
図16】車両の前方から見た、映像投影合わせ板の透明スクリーンと、プロジェクタと、観察者との位置関係の他の例を示す模式図である。
【
図17】車両の前方から見た、映像投影合わせ板の透明スクリーンと、プロジェクタと、観察者との位置関係の更に他の例を示す模式図である。
【
図18】透明スクリーンの一実施形態の製造方法を示すフローチャートである。
【
図19】第1の透明層に複数の斜面を縞状に形成する工程の一例を示す模式図である。
【
図20】第1の透明層の斜面に凹凸を形成する工程の一例を示す模式図である。
【
図21】反射層を形成する工程の一例を示す模式図である。
【
図22】第2の透明層を形成する工程の一例を示す模式図である。
【
図23】映像表示システムの変形例を示す模式図である。
【
図24】従来の透明スクリーンを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照して説明する。本明細書において、透明スクリーンを基準として観察者側を前方、透明スクリーンを基準として観察者とは反対側を後方という。また、各図面において、同一の又は対応する構成には、同一の又は対応する符号が付されている。
【0013】
(映像表示システム)
図1は、映像表示システムの一実施形態を示す模式図である。
図1において、透明スクリーン20の構造が拡大して示されている。
【0014】
映像表示システム10は、背景を視認可能な映像投影合わせ板11と、映像投影合わせ板11に映像を投影するプロジェクタ12とを備える。プロジェクタ12として、一般的なものが用いられる。
【0015】
(映像投影合わせ板)
映像投影合わせ板11は、前方から投影される映像を前方の観察者13に表示し、かつ後方の背景を前方の観察者13に視認させる。後方の背景は、映像の非投影時に視認可能であればよく、映像の投影時に視認可能でも視認不能でもよい。
【0016】
映像投影合わせ板11は、大気と接する前向きの面(前面11a)と、大気と接する後向きの面(後面11b)とを有する。前面11aや後面11bで入射光ILが正反射することに起因してホットスポットが生じる。ホットスポットは、正反射方向の位置(例えば、破線で示す観察者14の位置)で観察され、その他の位置(例えば、実線で示す観察者13の位置)では観察されない。
【0017】
映像投影合わせ板11は、平面板、曲面板のいずれでもよい。映像投影合わせ板11が曲面板である場合、曲面板は、観察者13に向けて凸の形状を有するもの、観察者13に向けて凹の形状を有するもののいずれでもよい。
【0018】
映像投影合わせ板11の用途は、特に限定されないが、例えば、自動車や列車などの乗り物の窓板、建物の窓板、ショーウィンドウの窓板、冷蔵ショーケースの窓板、乗り物の室内や建物の室内を区切るパーティションなどが挙げられる。
【0019】
映像投影合わせ板11は、透明スクリーン20と、透明スクリーン20の片側(例えば、後側)に設けられる第1の透明板21と、透明スクリーン20の反対側(例えば、前側)に設けられる第2の透明板22とを有する。
【0020】
透明スクリーン20は、前方から投影される映像を前方の観察者13に表示し、かつ、後方の背景を前方の観察者13に視認させる。透明スクリーン20の構造は後述される。
【0021】
(透明板)
第1の透明板21及び第2の透明板22として、例えばガラス板が用いられる。この場合、映像投影合わせ板11として、合わせガラスが得られる。合わせガラスの製造方法は、例えば、次の(1)~(3)のステップを有する。(1)第1の透明板21としてのガラス板、第1の接着層23、透明スクリーン20、第2の接着層24、及び第2の透明板22としてのガラス板をこの順で重ねた積層体を、真空バックの内部に入れる。重ねる順序は逆でもよい。(2)積層体を入れた真空バックの内部を脱気しながら、真空バックを大気炉などで加圧及び加熱する。(3)真空バックから取出した積層体を、オートクレーブで加圧、加熱する。
【0022】
ガラス板のガラスとして、例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラスなどが挙げられる。また、ガラスは、未強化ガラス、強化ガラスのいずれでもよい。未強化ガラスは、溶融ガラスが板状に成形され、徐冷されたものである。成形方法として、フロート法、フュージョン法などが挙げられる。強化ガラスは、物理強化ガラス、化学強化ガラスのいずれでもよい。物理強化ガラスは、均一に加熱されたガラス板が軟化点付近の温度から急冷され、ガラス表面とガラス内部との温度差によってガラス表面に圧縮応力を生じさせることによって、ガラス表面が強化されたものである。化学強化ガラスは、イオン交換法などでガラス表面に圧縮応力を生じさせることによって、ガラス表面が強化されたものである。
【0023】
ガラス板は、平面板、曲面板のいずれでもよい。平面板を曲面板に曲げる曲げ成形として、重力成形、又はプレス成形などが用いられる。曲げ成形において、均一に加熱されたガラス板を軟化点付近の温度から急冷し、ガラス表面とガラス内部との温度差によってガラス表面に圧縮応力を生じさせることによって、ガラス表面を強化してもよい。その場合、物理強化ガラスが得られる。なお、化学強化ガラスは、曲げ成形の後、イオン交換法などでガラス表面に圧縮応力を生じさせることによって得られる。
【0024】
ガラス板の板厚は、特に限定されないが、例えば、0.1mm~20mmである。なお、本明細書におけるかかる「~」の数値範囲の表現は、その前後の数値をも含むものである。
【0025】
なお、第1の透明板21及び第2の透明板22として、樹脂板が用いられてもよい。また、第1の透明板21及び第2の透明板22のうち、一方がガラス板で、他方が樹脂板でもよい。また、映像投影合わせ板11に3つ以上の透明板が含まれていてもよい。また、第1の透明板21に透明スクリーン20を第1の接着層23で接着し、第2の透明板22が存在しない構成であってもよい。また、第2の透明板22に透明スクリーン20を第2の接着層24で接着し、第1の透明板21が存在しない構成であってもよい。
【0026】
(接着層)
第1の接着層23は、第1の透明板21と透明スクリーン20とを接着する。第2の接着層24は、第2の透明板22と透明スクリーン20とを接着する。第1の接着層23及び第2の接着層24の厚みは、それぞれ、限定されないが、例えば、0.01mm~1.5mm、好ましくは0.3mm~0.8mmである。
【0027】
第1の接着層23と第2の接着層24とは、異なる材料で形成されてもよいが、好ましくは同じ材料で形成される。第1の接着層23及び第2の接着層24は、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又は紫外線硬化性樹脂などで形成される。好ましくは、ビニル系ポリマー、エチレン-ビニル系共重合体、スチレン系共重合体、シクロオレフィン系共重合体、ポリウレタン樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フッ素樹脂及びアクリル樹脂からなる群から選択される一種類以上で形成される。
【0028】
熱可塑性樹脂として、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)が典型的である。熱硬化性樹脂として、ウレタンアクリレート樹脂が典型的である。熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂の場合、熱処理によって接着が行われる。一方、紫外線硬化性樹脂の場合、紫外線照射によって接着が行われる。ウレタンアクリレート樹脂は紫外線硬化も可能である。
【0029】
第1の接着層23及び第2の接着層24は、第1の透明板21及び/又は第2の透明板22と透明スクリーン20との接着性、及び透明性の両方に優れる点で、アクリル樹脂、シリコーン樹脂及びウレタンアクリレート樹脂脂からなる群から選択される一種類以上で形成されることが好ましい。
【0030】
(透明スクリーン)
透明スクリーン20のヘイズ(Haze)値が10%以下、好ましくは0.1%~2%であると、十分な透明度が得られ、背景が良好に視認できるので好ましい。なお、第1の透明板21や第2の透明板22として用いられるガラス板のヘイズ値は、通常、1%以下である。
【0031】
ヘイズ値は、日本工業規格(JIS)K7136に準拠して測定される。測定対象の試験板を板厚方向に透過する透過光のうち、前方散乱によって入射光から2.5°以上それた透過光の百分率として求められる。ヘイズ値の測定に用いる光源として、JIS Z8720:2012に記載されているD65光源を用いる。
透明スクリーン20は、可とう性を有しなくてもよいが、様々な形状に変形できるように可とう性を有してもよい。
【0032】
図2は、透明スクリーンの一実施形態を示す模式図である。
図2において、反射層34の反射斜面45の凹凸が誇張して示されている。透明スクリーン20は、後側から前側に向けて、基材シート31、第1の透明層32、反射層34、第2の透明層35、及び保護シート36などがこの順に重なった構造を有する。
【0033】
基材シート31は、透明ガラスシート、透明樹脂シートのいずれでもよいが、可とう性の観点から、透明樹脂シートであることが好ましい。透明樹脂シートは、例えば、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シクロオレフィンポリマー、又はポリエステルで形成される。
【0034】
第1の透明層32は、基材シート31の表面に形成され、基材シート31とは反対側の表面に凹凸を有する。第1の透明層32は、例えば透明な樹脂で形成される。その樹脂は、光硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれでもよく、例えばインプリント法などで成形される。
【0035】
反射層34は、第1の透明層32の表面の凹凸に沿って、ジグザグ状に形成される。反射層34は、その前面に凹凸を有し、前方から投影される映像の光を前方に拡散反射することによって、映像を表示する。また、反射層34は、後方からの光の一部を前方に透過させることによって、背景を視認させる。第1の透明層32の表面の凹凸は、不規則な凹凸であることが好ましい。
【0036】
反射層34は、光を反射する材料、例えば、アルミニウムや銀などの金属、金属酸化物、又は金属窒化物などにより形成されてよい。反射層34は、単層構造、複層構造のいずれでもよい。反射層34は、金属層及び誘電体層の少なくとも一方を含んでよい。反射層34の形成方法として、例えば真空蒸着法又はスパッタリング法などが用いられる。
【0037】
反射層34は、誘電体多層膜を含んでもよい。誘電体多層膜は、屈折率が異なる複数の誘電体を積層する方法で形成可能である。高屈折率の誘電体として、例えば、Si3N4、AlN、NbN、SnO2、ZnO、SnZnO、Al2O3、MoO、NbO、TiO2、ZrO2が挙げられる。高屈折率の誘電体より低屈折率の誘電体として、例えば、SiO2、MgF2、AlF3が挙げられる。
【0038】
第2の透明層35は、反射層34の凹凸を埋める。第2の透明層35は、第1の透明層32と同様に透明な樹脂により形成されてよい。第2の透明層35は、好ましくは、第1の透明層32と略同一の屈折率を有する樹脂により形成される。
【0039】
保護シート36は、基材シート31と同様に形成されてよい。保護シート36は、好ましくは、基材シート31と同一の材料により形成される。なお、基材シート31及び保護シート36は任意の構成要素である。すなわち、透明スクリーン20は、基材シート31及び保護シート36の少なくとも一方を有しなくてもよい。
【0040】
(透明スクリーンの詳細)
第1の透明層32は、断面視がのこぎり歯状に形成されている。第1の透明層32は、第1の透明層32の反射層34とは反対側の面を基準面41とするとき、基準面41に対し傾斜する斜面42を複数有する。複数の斜面42は、基準面41の法線方向から見たとき縞状に形成される。縞の線は、直線でもよく、曲線でもよい。曲線の場合は、同心円パターン、楕円パターンであってもよい。
【0041】
次に、各斜面42の寸法や形状などを説明する。
図1及び
図2に示すように、斜面42の説明のために、基準面41の法線方向をx方向、x方向に垂直な方向であって各斜面42の延在方向をy方向、x方向及びy方向に垂直な方向であって複数の斜面42が並ぶ方向をz方向とする。
【0042】
図1及び
図2に示すように、y方向に垂直な断面において、透明スクリーン20の前面を左向きにしたとき、傾斜角θ1(θ1は-90°よりも大きく90°よりも小さい。)を、時計回り方向にプラス、反時計回り方向にマイナスとする。斜面42の傾斜角θ1が0°であることは、斜面42が基準面41に対し平行であることを意味する。
図1及び
図2において、傾斜角θ1は負であるので、傾斜角θ1の大きさを「-θ1」で表す。
【0043】
斜面42の傾斜角θ1は、プロジェクタ12と観察者13と透明スクリーン20との位置関係、透明スクリーン20の屈折率などに基づいて設定される。透明スクリーン20の屈折率を考慮するのは、透明スクリーン20と大気との境界で入射光ILや反射光RLが屈折するためである。斜面42の傾斜角θ1は、予め設定された位置に立つ観察者13が映像を観察するときに、ホットスポットが観察されないように、かつ、映像の全体が明るく見えるように設定される。
なお、後で詳述するように、複数の斜面42のそれぞれの傾斜角θ1は同じであるとは限らない。本実施形態では、複数の斜面42のそれぞれの傾斜角θ1の大きさはばらついている。
【0044】
斜面42の傾斜角θ1は、例えば-42°~42°、好ましくは-30°~30°、より好ましくは-25°~25°である。透明スクリーン20が自動車のフロントウインドウなどに用いられ観察者13に対して斜めに倒して用いられる場合、(1)プロジェクタ12として長焦点プロジェクタが用いる場合には斜面42の傾斜角θ1は-24°~18°であればよく、好ましくは-20°~15°であり、より好ましくは-16°~12°であり、(2)プロジェクタ12として短焦点プロジェクタが用いる場合には斜面42の傾斜角θ1は-27°~30°であればよく、好ましくは-23°~25°であり、より好ましくは-18°~19°である。一方、透明スクリーン20が電車や建築物の窓ガラス、部屋の仕切り、冷蔵庫の窓ガラスなどに用いられ観察者13に対して平行に垂らして用いられる場合、斜面42の傾斜角θ1は4°~32°であればよく、好ましくは5°~28°であり、より好ましくは6°~24°である。
【0045】
y方向に垂直な断面において、映像投影領域の少なくとも一部では、z方向の一端(例えば下端)からz方向の他端(例えば上端)に向うにつれ、斜面42毎に測定される斜面42の傾斜角θ1が段階的又は連続的に小さくなるように、複数の斜面42が形成されてもよい。例えば、
図1における最も上の斜面42の傾斜角θ1(負の値)を、
図1における最も下の斜面42の傾斜角θ1(負の値)に比べて小さくしてもよい。斜面42の傾斜角θ1は、負の範囲でのみ変化してもよいし、正の範囲でのみ変化してもよく、負の範囲と正の範囲の両方に亘って変化してもよい。
【0046】
斜面42のz方向におけるピッチP1は、例えば15μm以上であり、好ましくは20μm以上である。ピッチP1が15μm以上であると、後述される回折光のうち最も強度が強い回折光の出射角を小さくでき、映像の多重像がゴーストとして認識されることを抑制できる。また、ピッチP1は300μm以下である。ピッチP1が300μm以下であると、斜面42の縞が観察者13から見えない程度に狭い。
【0047】
隣り合う複数の斜面42の間には、隣り合う複数の斜面42を連結する段差面43が形成されている。段差面43は、
図2では基準面41に対して垂直であるが、斜めであってもよい。なお、隣り合う複数の斜面42の間には、段差面43の他に、基準面41に対し平行な平行面が形成されていてもよい。
このとき、x方向における段差面43の高さPV1と、ピッチP1との比(PV1/P1)は0.6以下であることが好ましい。PV1は、傾斜角θ1の中心角度から算出される。中心角度は、複数の斜面42の傾斜角θ1をばらつかせたときの基準角度である。
PV1/P1が0.6以下であると、大部分の斜面42の傾斜角θ1の絶対値を45°以下にすることができ、前方散乱を抑制でき、ノイズを低減できる。PV1/P1は、好ましくは0.01以上であり、より好ましくは0.05以上であり、さらに好ましくは0.1以上であることが、視認性の良好な映像を得やすいため好ましい。
【0048】
透明スクリーン20は、第1の透明層32と反射層34との間において、第1の透明層32の斜面42に凹凸を形成する凹凸層33を更に有する。凹凸層33は、粒子37及びマトリックス38を含む。
【0049】
粒子37は、無機粒子と有機粒子との少なくとも一方を含む。無機粒子の材料として、二酸化ケイ素、二酸化ケイ素の部分窒化物、酸化チタン、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの混晶材料、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛などが挙げられる。有機粒子の材料として、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。
【0050】
マトリックス38は、無機材料と有機材料との少なくとも一方を含む。無機材料として、二酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニア、ケイ酸ナトリウムなどが挙げられる。有機材料として、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。有機材料は、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれであってもよい。
【0051】
粒子37とマトリックス38との屈折率の差の絶対値は、小さいほど好ましい。例えば0.1以下、好ましくは0.05以下、より好ましくは0.02以下である。また、この屈折率の差の絶対値は、小さいほど好ましい。例えば0.1以下、好ましくは0.05以下、より好ましくは0.02以下である。更に、マトリックス38と第1の透明層32との屈折率の差の絶対値は、小さいほど好ましい。例えば0.1以下、好ましくは0.05以下、より好ましくは0.02以下である。
凹凸層33に占める粒子37の割合(体積)は、例えば、1%~80%、好ましくは5%~60%である。
【0052】
凹凸層33は、反射層34と接触する面に凹凸を有し、y方向に垂直な断面において凸部33aと凹部33bとが交互に並ぶ構造を有する。
凹凸層33の凹凸形状の規則性に関して、粒子37の粒径のばらつきを小さくすると規則性を出しやすい。粒子37の粒径のばらつきを大きくすると規則性を崩し、ランダムな凹凸とすることができる。また、粒子37の合計の体積を、マトリックス38の体積に対して、小さくすることによって、ランダムな凹凸とすることができる。特に、粒子37の体積をマトリックス38の体積の100%以下にすることによって、規則性を小さくすることができる。
一方、凹凸層33の凹凸形状に規則性を付与することによって、光の散乱方向が揃いやすいので輝度をより高くできる。
【0053】
凹凸層33の表面粗さRaは、斜面42の傾斜方向における長さL1(L1=|P1/cos(θ1)|)よりも十分に短い。例えば0.01μm~10μmである。本明細書において、「表面粗さRa」は、JIS B0601に記載されている算術平均粗さである。凹凸層33の表面粗さRaは、y方向に測定される。y方向に垂直な断面において第1の透明層32がのこぎり歯状に形成されていることが原因でノイズが生じないように、凹凸層33の表面粗さRaはz方向ではなくy方向に測定される。
【0054】
反射層34は、例えば5nm~5000nmの厚さを有し、凹凸層33の凹凸に沿って形成される。そのため、反射層34は、基準面41に対し傾斜するとともに、投影される映像の光を反射する反射斜面45を複数有する。隣り合う反射斜面45同士の間には段差面46などが形成される。複数の反射斜面45は、基準面41の法線方向から見たとき縞状に形成される。縞の線は、直線でもよいし、曲線でもよい。
【0055】
図3等を参照して、各反射斜面45の寸法や形状などを説明する。反射斜面45の説明に関して、斜面42の説明と同様に、x方向、y方向及びz方向を採用する。y方向は、x方向に垂直な方向であって各反射斜面45の延在方向である。z方向は、x方向及びy方向に垂直な方向であって複数の反射斜面45が並ぶ方向である。
【0056】
図3は、プロジェクタからの映像の光が反射斜面45で反射され観察者に達するまでの経路を示す図である。
図3に示すように、y方向に垂直な断面において、プロジェクタ12から投影される映像の光は、透明スクリーン20の前面20aにおいて第1の入射角αで入射し第1の屈折角α’で屈折する。次いで、映像の光は、基準面41に対して傾斜角θ2で傾斜する反射斜面45で反射される。その後、映像の光は、透明スクリーン20の前面20aにおいて第2の入射角β’で入射し第2の屈折角βで屈折し、その後、観察者13の目に入る。なお、
図3には、反射斜面45の法線45n及び基準面41の法線41nも示されている。
【0057】
プロジェクタ12の位置を表す第1の入射角α、及び観察者13の位置を表す第2の屈折角βは、透明スクリーン20の用途に応じて適宜設定される。それらは、反射斜面45毎に設定されてよい。なお、第1の入射角α及び第2の屈折角βは、連続する複数の反射斜面45毎にまとめて設定されてもよい。
【0058】
また、第1の屈折角α’及び第2の入射角β’は、スネルの法則の式を用いて設定される。具体的には、第1の屈折角α’は、反射斜面45の直前に存在する材料(
図3では、第2の透明層35)の大気に対する相対屈折率nと第1の入射角αとを、sin(α)/sin(α’)=nの式に代入して設定される。同様に、第2の入射角β’は、上記の相対屈折率nと第2の屈折角βとを、sin(β)/sin(β’)=nの式に代入して設定される。第1の屈折角α’及び第2の入射角β’の設定において、第2の透明層35と大気との間に存在する材料(例えば、
図1に示す第2の透明板22)の屈折率を無視できる。第2の透明板22が存在する場合にも、第2の透明層35と大気とが接するとして、第1の屈折角α’及び第2の入射角β’とをスネルの法則の式に従って求めればよい。求められる値は、第2の透明板22の有無によって変動しない。
【0059】
更に、
図3に示すように、y方向に垂直な断面において、透明スクリーン20の前面20aを左向きにしたとき、第1の入射角α、第1の屈折角α’、第2の入射角β’、第2の屈折角β、及び傾斜角θ2を、それぞれ、時計回り方向にプラス、反時計回り方向にマイナスとする。第1の入射角α、第1の屈折角α’、第2の入射角β’、第2の屈折角β、及び傾斜角θ2は、それぞれ、-90°よりも大きく、90°よりも小さい。反射斜面45の傾斜角θ2が0°であることは、反射斜面45が基準面41に対し平行であることを意味する。
図3において、第1の入射角α、第1の屈折角α’及び傾斜角θ2は負であるので、これらの大きさを「-α」、「-α’」及び「-θ2」で表す。
【0060】
反射斜面45の傾斜角θ2は、プロジェクタ12と観察者13と透明スクリーン20との位置関係、透明スクリーン20の屈折率などに基づいて設定される。透明スクリーン20の屈折率を考慮するのは、透明スクリーン20と大気との境界で入射光ILや反射光RLが屈折するためである。反射斜面45の傾斜角θ2は、予め設定された位置に立つ観察者13が映像を観察するときに、ホットスポットが観察されないように、かつ、映像の全体が明るく見えるように設定される。z方向位置が同じ反射斜面45と斜面42とでは、反射斜面45の傾斜角θ2と斜面42の傾斜角θ1とが略同じである。
【0061】
反射斜面45の傾斜角θ2は、例えば-42°~42°、好ましくは-30°~30°、より好ましくは-25°~25°である。透明スクリーン20が自動車のフロントウインドウなどに用いられ観察者13に対し斜めに倒して用いられる場合、(1)プロジェクタ12として長焦点プロジェクタが用いる場合には反射斜面45の傾斜角θ2は-24°~18°であればよく、好ましくは-20°~15°であり、より好ましくは-16°~12°である。(2)プロジェクタ12として短焦点プロジェクタが用いる場合には反射斜面45の傾斜角θ2は-27°~30°であればよく、好ましくは-23°~25°であり、より好ましくは-18°~19°である。一方、透明スクリーン20が電車や建築物の窓ガラス、部屋の仕切り、冷蔵庫の窓ガラスなどに用いられ観察者13に対し平行に垂らして用いられる場合、反射斜面45の傾斜角θ2は4°~32°であればよく、好ましくは5°~28°であり、より好ましくは6°~24°である。
【0062】
図3に示すように、y方向に垂直な断面において、映像投影領域の少なくとも一部では、θ2=(α’+β’)/2の式が成立するように各反射斜面45が形成されてよい。反射斜面45は微小な凹凸を有するため、反射斜面45で反射された光は拡散される。θ2=(α’+β’)/2の式が成立するように反射斜面45が形成されている場合、反射斜面45で拡散反射された光のうち最も高い強度の光を、観察者13に向けることができる。z方向位置が異なる複数の反射斜面45で、拡散反射される光のうち最も高い強度の光を、観察者13に向けることができる。よって、映像中央部の明るさと映像外周部の明るさとの差を低減でき、映像の全体を明るく観察できる方向を作り出すことができる。
【0063】
y方向に垂直な断面において、映像が投影される映像投影領域の少なくとも一部において、z方向一端(例えば下端)からz方向他端(例えば上端)に向うにつれ、反射斜面45毎に測定される反射斜面45の傾斜角θ2が段階的又は連続的に小さくなるように、複数の反射斜面45が形成されてもよい。例えば
図1における最も上の反射斜面45の傾斜角θ2(負の値)を、
図1における最も下の反射斜面45の傾斜角θ2(負の値)に比べて小さくしてもよい。z方向位置が異なる複数の反射斜面45で、拡散反射される光のうち最も高い強度の光を、観察者13に向けることができる。よって、映像中央部の明るさと映像外周部の明るさとの差を低減でき、映像の全体を明るく観察できる方向を作り出すことができる。反射斜面45の傾斜角θ2は、負の範囲でのみ変化してもよいし、正の範囲でのみ変化してもよく、負の範囲と正の範囲の両方に亘って変化してもよい。
【0064】
反射斜面45のz方向におけるピッチP2は、例えば15μm以上であり、好ましくは20μm以上である。ピッチP2が15μm以上であると、後述される回折光のうち最も強度が強い回折光の出射角を小さくでき、映像の多重像をゴーストとして認識することを抑制できる。また、ピッチP2は、300μm以下である。ピッチP2が300μm以下であると、反射斜面45の縞が観察者13から見えない程度に狭い。z方向位置が同じ反射斜面45と斜面42とでは、反射斜面45のz方向におけるピッチP2と斜面42のz方向におけるピッチP1とが略同じである。
【0065】
図2に示すように、隣り合う複数の反射斜面45の間には、隣り合う複数の反射斜面45を連結する段差面46が形成されている。段差面46は、
図2では基準面41に対し垂直であるが(凹凸は無視される。)、斜めであってもよい。なお、隣り合う複数の反射斜面45の間には、段差面46の他に、基準面41に対し平行な平行面が形成されていてもよい。
【0066】
反射斜面45は、凹凸を有し、y方向に垂直な断面において凸部45aと凹部45bとが交互に並ぶ構造を有する。反射斜面45の凹凸は、規則性を有するもの、不規則性を有するもののいずれでもよいが、不規則性を有するものが好ましい。
【0067】
反射斜面45の表面粗さRaは、反射斜面45の傾斜方向における長さL2(L2=|P2/cos(θ2)|)よりも十分に短い。例えば、0.01μm~10μmである。反射斜面45の表面粗さRaは、y方向に測定される。y方向に垂直な断面において第1の透明層32がのこぎり歯状に形成されていることが原因でノイズが生じないように、反射斜面45の表面粗さRaはz方向ではなくy方向に測定される。
【0068】
透明スクリーン20を後側から前側に透過する光(以下、「背景透過光」ともいう。)のz方向位置が反射斜面45である場合と段差面46である場合とでは、背景透過光の反射層34を通過する距離が異なる。すなわち、z方向で透過する位置が異なると、背景透過光の透過率が異なる。具体的には、段差面46を通過する場合、反射斜面45を通過する場合に比べて、背景透過光の反射層34を通過する距離が長く、背景透過光の透過率が低い。
【0069】
そこで、背景透過光の透過率がz方向に周期的に変化するのを抑制して、背景透過光の回折を抑制するため、それぞれの傾斜角θ1の大きさがばらつくように複数の斜面42が形成されてよい。そのような構造に基づいて、背景透過光の回折を抑制でき、背景が多重に見えることを抑制できる。
【0070】
図4及び
図5は、背景透過光の透過率が透明スクリーン20を透過する位置に応じて変わることを説明するための図である。
図4は、複数の斜面42の傾斜角θ1が同じである場合の図である。
図5は、複数の斜面42の傾斜角θ1がばらついている場合の図である。
【0071】
図4及び
図5には、光源50及び透明スクリーン20が模式的に表されている。また、
図4及び
図5には、光源50からの光が透明スクリーン20に入射したときの背景透過光の強度分布51が記載されている。
【0072】
なお、
図4及び
図5に示された例において、斜面42のz方向におけるピッチP1は、全ての斜面42について同じであるとする。すなわち、段差面46のz方向の周期は一定である。なお、今回の試験例では、周期を一定としたが、周期は、必ずしも一定でなくともよい。
【0073】
図4に示されたように、光源50からの光が透明スクリーン20に入射したとき、段差面46の部分の凹凸層33を透過した背景透過光の強度は同じである。また、それぞれの反射斜面45を透過した背景透過光の強度は同じである。従って、背景透過光の強度分布51において、同じ強度を呈する部分が周期的に現れる。その結果、背景透過光の回折が大きくなって観察者13の視認性が低下する。具体的には、背景の多重像が視認される。
【0074】
図5に示される例では、複数の斜面42の傾斜角θ1は一定ではない。よって、光源50からの光が透明スクリーン20に入射したとき、段差面46の部分の凹凸層33を透過した背景透過光の強度にばらつきが生じる。斜面42の傾斜角θ1が一定でないことに基づいて段差面46のx方向の長さが一定にならないので、凹凸層33における光の吸収量にばらつきが生じるからである。また、斜面42の傾斜角θ1が一定でないことに基づいて、それぞれの反射斜面45を透過した背景透過光の強度にもばらつきが生じる。傾斜角θ1が小さい斜面42よりも、傾斜角θ1が大きい斜面42の方が、光が通過する距離が長いからである。その結果、背景透過光の回折を抑制でき、背景が多重に見えることが抑制される。
【0075】
本実施形態では、
図5に示されたように、透明スクリーン20における凹凸層33の斜面42の傾斜角θ1をばらつかせることによって、背景透過光の強度分布が周期的にならないようにして、背景が多重に見えることを抑制する。
【0076】
次に、
図6~
図14を参照して、斜面42の傾斜角θ1の不規則性(ランダム性)と、背景透過光の回折との関係を説明する。下記の試験例1~9では、透明スクリーン20の後面に垂直に入射し透明スクリーン20の前方から出射する背景透過光の、出射角と強度との関係をシミュレーションで求めた。シミュレーションには、スカラー回折計算を用いた。
【0077】
なお、本実施形態において、「ランダム」とは、複数の斜面42の傾斜角θ1に法則性(規則性)がなく、各々の傾斜角θ1を予測することは不可能であることを意味する。また、複数の斜面42の傾斜角θ1はランダムに変化するが、「ランダムに変化」(ランダムな変化量を有する)は、z方向において、角度の増加方向又は減少方向に一様に変化するのではなく、不規則に変化する(それぞれの斜面42の傾斜角θ1と、z方向において隣接する斜面42の傾斜角θ1との差にばらつきがある。)ことを意味する。また、本実施形態では、回折角度に対する回折光強度の分布を回折効率という。
【0078】
図6~
図14において、横軸は回折角度を示す。縦軸は、回折光強度を示す。回折角度は、入射光に対する出射光の傾きを表す。すなわち、回折角度は反射角度と等しい。回折角については、時計回り方向を正とし、反時計回り方向を負とした。試験例1~9のいずれにおいても、それぞれの斜面42のz方向におけるピッチP1を40μmとした。また、試験例1~9では、全ての斜面42を対象として、傾斜角θ1のランダム性が付与された。
試験例1~9での条件及び視認性が表1に示されている。
【0079】
【0080】
試験例1~4では、中心角度を5゜とした。試験例5~9では、中心角度を30゜とした。中心角度は、複数の斜面42の傾斜角θ1をばらつかせたときの基準角度である。よって、中心角度は、複数の斜面42の傾斜角θ1の平均角度に相当する。
【0081】
表1において、「◎」は、多重像が観察されず、視認性の良好な映像が得られたことを示す。「○」は、視認性の良好な映像が得られたが、わずかに多重像が観察されたことを示す。「△」は、多重像は軽減されたが、良好な映像が得られなかったことを示す。「×」は、多重像が多く観察され、良好な映像が得られなかったことを示す。
【0082】
図6には、試験例1の回折効率が示されている。試験例1では、全ての斜面42の傾斜角θ1を同じにし、具体的には、5゜とした。すなわち、試験例1は、斜面42の傾斜角θ1にばらつきがない場合の例である。試験例1では、良好な結果(良好な視認性)が得られなかった。
すなわち、
図6に示されているように、約0.7゜ごとに強い回折光強度が生じている。その結果、観察者13に、背景が多重に見えてしまう現象が生じる。
【0083】
図7には、試験例2の回折効率が示されている。試験例2では、中心角度5゜に対する変化割合を±20%とした。すなわち、全ての斜面42の傾斜角θ1の平均角度が5゜であるという条件の下に、全ての斜面42の傾斜角θ1を、存在確率が均一になるように、ただし、配置についてはランダムに、6゜~4゜をとるように設定した。試験例2では、多重像が軽減されたが、良好な視認性が得られなかった。
図7に示されているように、試験例1の場合よりも弱いものの、試験例2でも約0.7゜ごとに、強い回折光強度が生じている。
【0084】
図8には、試験例3の回折効率が示されている。試験例3では、中心角度5゜に対する変化割合を±50%とした。すなわち、全ての斜面42の傾斜角θ1の平均角度が5゜であるという条件の下に、全ての斜面42の傾斜角θ1を、存在確率が均一になるように、ただし、配置についてはランダムに、7.5゜~2.5゜をとるように設定した。試験例3では、多重像が軽減されたが、良好な視認性が得られなかった。
試験例3では、
図8に示されているように、試験例1及び2の場合よりも弱いものの、約0.7゜ごとに強い回折光強度が生じている。
【0085】
図9には、試験例4の回折効率が示されている。試験例4では、中心角度5゜に対する変化割合を±100%とした。すなわち、全ての斜面42の傾斜角θ1の平均角度が5゜であるという条件の下に、全ての斜面42の傾斜角θ1を、存在確率が均一になるように、ただし、配置についてはランダムに、10゜~0゜をとるように設定した。試験例4では、多重像が軽減されたが、良好な視認性が得られなかった。
図9に示されているように、試験例1~3の場合よりも弱いものの、試験例4でも約0.7゜ごとに強い回折光強度が生じている。
【0086】
図10には、試験例5の回折効率が示されている。試験例5では、全ての斜面42の傾斜角θ1を同じにした。具体的には、30゜とした。すなわち、試験例5は、斜面42の傾斜角θ1にばらつきがない場合の例である。試験例5では、試験例1の場合と同様に、良好な視認性が得られなかった。
試験例5では、
図10に示されているように、約0.7゜ごとに強い回折光強度が生じている。その結果、観察者13に、背景が多重に見えてしまう現象が生じる。
【0087】
図11には、試験例6の回折効率が示されている。試験例6では、中心角度30゜に対する変化割合を±10%とした。すなわち、全ての斜面42の傾斜角θ1の平均角度が30゜であるという条件の下に、全ての斜面42の傾斜角θ1を、存在確率が均一になるように、ただし、配置についてはランダムに、33゜~27゜をとるように設定した。試験例6では、良好な視認性が得られなかった。
図11に示されているように、試験例5の場合よりも弱いものの、試験例6でも約0.7゜ごとに強い回折光強度が生じている。
【0088】
図12には、試験例7の回折効率が示されている。試験例7では、中心角度30゜に対する変化割合を±20%とした。すなわち、全ての斜面42の傾斜角θ1の平均角度が30゜であるという条件の下に、全ての斜面42の傾斜角θ1を、存在確率が均一になるように、ただし、配置についてはランダムに、36°~24°をとるように設定した。試験例7では、視認性の良好な映像が得られたが、わずかに多重像が観察された。
図12に示されているように、試験例7でも、試験例5及び6に比べて、相対的に強い回折光強度と相対的に弱い回折光強度との差が小さくなっている。その結果、相対的に強い回折光と次に発生していた強い回折光との間に相対的に弱い回折光が入るため、多重像として観測され難くなり、視認性が改善されている。
【0089】
図13には、試験例8の回折効率が示されている。試験例8では、中心角度30゜に対する変化割合を±30%とした。すなわち、全ての斜面42の傾斜角θ1の平均角度が30゜であるという条件の下に、全ての斜面42の傾斜角θ1を、存在確率が均一になるように、ただし、配置についてはランダムに、39゜~21゜をとるように設定した。試験例8では、視認性の良好な映像が得られたが、わずかに多重像が観察された。
図13に示されているように、試験例8では、試験例5~7に比べて、相対的に強い回折光強度と相対的に弱い回折光強度との差が小さくなっている。その結果、相対的に強い回折光と次に発生していた強い回折光との間に相対的に弱い回折光が入るため、多重像として観測され難くなり、視認性が改善されている。
【0090】
図14には、試験例9の回折効率が示されている。試験例9では、中心角度30゜に対する変化割合を±50%とした。すなわち、全ての斜面42の傾斜角θ1の平均角度が30゜であるという条件の下に、全ての斜面42の傾斜角θ1を、存在確率が均一になるように、ただし、配置についてはランダムに、45゜~15゜をとるように設定した。試験例9では、多重像が観察されず、視認性の良好な映像が得られた。
図14に示されているように、試験例9では、試験例5~8に比べて、相対的に強い回折光強度と相対的に弱い回折光強度との差が小さくなっている。その結果、相対的に強い回折光と次に発生していた強い回折光との間に相対的に弱い回折光が入り、多重像として観測され難くなり、視認性が改善されている。
【0091】
試験例1及び5と他の試験例とを比較すると、それぞれの斜面42の傾斜角θ1がランダムに変化すると、相対的に強い回折光強度が低下して、視認性が改善される方向に進むことがわかる。また、試験例1~9から明らかなように、中心角度に対して変化割合を大きくすると、相対的に強い回折光強度が更に低下して、視認性の改善の程度が高くなる。具体的には、中心角度に対して変化量を1°以上、好ましくは2.5°以上にすると多重像の抑制の効果が表れ、更に6°以上とすると、回折が抑制されて、視認性の改善の程度が高くなる。
【0092】
なお、試験例2~4、6~9では、傾斜角θ1が所定の中心角度(例えば、30゜)に対して所定の割合(例えば、±50%)の範囲内で変化した角度(例えば、45゜又は15゜)の複数の斜面42がランダムに配置されるように凹凸層33が形成されるが、中心角度に対して(0~所定の割合)の範囲の任意の角度を有する複数の斜面42がランダムに配置されるようにしてもよい。つまり、角度の変化量は、離散的(段階的)な値(例えば、45゜又は15゜)ではなく、連続的な値であってもよい。
【0093】
また、
図6~
図14を参照する上記の説明において、複数の斜面42の傾斜角θ1をばらつかせるとした。しかし、z方向位置が同じ反射斜面45と斜面42とでは、反射斜面45の傾斜角θ2と斜面42の傾斜角θ1とが略同じである。よって、複数の斜面42の傾斜角θ1をばらつかせることによって、反射斜面45の傾斜角θ2も同様にばらつく。
更に、
図4及び
図5においては段差面46をx方向に平行としたが、段差面46の傾斜角度を変調させることによって、回折を抑制し、多重像を軽減させることも可能である。
【0094】
また、本実施形態の反射層34は、基準面41に対し傾斜するとともに、投影される映像の光を反射する複数の反射斜面45を有する。複数の反射斜面45は、基準面41の法線方向から見たとき縞状に形成される。各反射斜面45は、凹凸を有し、映像を表示する。よって、映像を表示する反射斜面45が、ホットスポットを生じさせる面(前面11aや後面11b)に対し傾斜している。明るい映像が観察される方向は反射斜面45の正反射方向になり、ホットスポットが観察される方向は前面11aなどの正反射方向になる。従って、ホットスポットが観察される方向と明るい映像が観察される方向とを分離でき、ホットスポットが観察されずに明るい映像が観察される位置(例えば、
図1に実線で示す観察者13の位置)を作り出すことができる。
【0095】
(透明スクリーンの配置)
図15は、映像投影合わせ板11が車両の前部の窓(フロントウインドウ)に設置された場合、車両の前方から見た、映像投影合わせ板11の透明スクリーン20と、プロジェクタ12と、観察者13との位置関係の一例を示す図である。映像投影合わせ板11は、車両の前部の窓に取付けられている。透明スクリーン20は、その窓の下部に設けられている。プロジェクタ12は、その窓よりも下方に設けられている。観察者13の目は、その窓の上下方向中央部に位置している。この場合、
図15に示すように、複数の反射斜面45は、水平方向に細長い横縞を形成してよい。観察者13は、ホットスポットが観察されない位置で、明るい映像を観察できる。
【0096】
図16は、他の例における、車両の前方から見た、映像投影合わせ板11の透明スクリーン20と、プロジェクタ12と、観察者13との位置関係を示す図である。映像投影合わせ板11は、車両の前部の窓に取付けられている。透明スクリーン20は、その窓の上部に設けられている。プロジェクタ12は、その窓よりも下方に設けられている。観察者13の目は、その窓の上下方向中央部に位置している。この場合も、
図16に示すように、複数の反射斜面45は、水平方向に細長い横縞を形成してもよい。観察者13は、ホットスポットが観察されない位置で、明るい映像を観察できる。
【0097】
図17は、更に他の例における、車両の前方から見た、映像投影合わせ板11の透明スクリーン20と、プロジェクタ12と、観察者13との位置関係を示す図である。映像投影合わせ板11は、車両前部の窓に取付けられている。透明スクリーン20は、その窓の車幅方向端部に設けられている。プロジェクタ12は、その窓よりも下方に設けられている。観察者13の目は、その窓の上下方向中央部に位置している。この場合、
図17に示すように、複数の反射斜面45は、上下方向に細長い縦縞を形成してもよく、もしくは、水平方向に細長い横縞を形成してもよい。観察者13は、ホットスポットが観察されない位置で、明るい映像を観察できる。
【0098】
図15~
図17において、プロジェクタ12は、窓の周辺部のいずれに存在してもよく、上方等に設けられてもよい。また、プロジェクタ12は、複数台存在してもよい。また、
図15~
図17において、透明スクリーン20が窓の中央部に設けられてもよい。透明スクリーン20が設けられる窓は、フロントウインドウではなくてもよく、例えば、サイドウインドウ、リアウインドウ、ルーフウインドウなどでもよい。透明スクリーン20が設けられる窓がサイドウインドウである場合、プロジェクタ12は、サイドウインドウの窓枠の周辺(例えばサイドドアや手すりの周辺)などの車内に設けられる。また、透明スクリーン20は、窓ではなく、HUD(ヘッドアップディスプレイ)のためのコンバイナに備えられてもよい。一般に、コンバイナは、フロントウインドウと運転席の間に設けられる。これらの場合においても、観察者13がホットスポットを観察しない位置で明るい映像を観察できる配置が存在する。
【0099】
また、複数の反射斜面45は、上下方向に細長い縦縞を形成するのではなく、フレネルレンズのように基準面41の法線方向から見て同心円状の複数の縞をなすように形成されてもよい。このとき、プロジェクタ12から投影した映像が観察者13の方向に集光するようにフレネルレンズの形状を設計した場合、フレネルレンズの同心円中心が投影エリアに入らないように配置する。
【0100】
(透明スクリーンの製造方法)
図18は、一実施形態の透明スクリーン20の製造方法を示すフローチャートである。
図18に示すように、透明スクリーンの製造方法は、第1の透明層32に複数の斜面42を縞状に形成するステップS101と、複数の斜面42のそれぞれに凹凸を形成するステップS102と、凹凸に接する反射層34を形成するステップS103と、反射層34の凹凸を埋める第2の透明層35を形成するステップS104との工程を有する。
【0101】
図19は、第1の透明層に複数の斜面を縞状に形成する工程の一例を示す図である。ステップS101において、第1の透明層32の基準面41とは反対側の面に、基準面41に対して傾斜する複数の斜面42を、基準面41の法線方向から見て縞状に形成する。その形成方法として、
図19に示すように、例えば型押し法が用いられる。
型押し法は、型60の凹凸パターンを第1の透明層32に転写する方法である。型押し法は、インプリント法を含む。インプリント法は、第1の透明層32となる樹脂材料を型60と基材シート31との間に挟み、型60の凹凸パターンを樹脂材料に転写し、樹脂材料を固化させる方法である。
【0102】
本実施形態において、固化は、硬化を含む。固化の方法は、樹脂材料の種類に応じて適宜選択される。樹脂材料は、光硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれでもよい。光硬化性樹脂は、光が照射されることによって硬化する。熱可塑性樹脂は、加熱によって溶融し、冷却によって固化する。熱硬化性樹脂は、加熱によって液状から固体に変化する。これらの樹脂材料は、液状の状態で、基材シート31に塗布されてもよいし、型60に塗布されてもよい。塗布方法としては、特に限定されないが、例えばスプレーコート法、スピンコート法、グラビアコート法などが用いられる。
【0103】
なお、インプリント法の代わりに、切削法が用いられてもよい。切削法は、第1の透明層32を切削工具で切削する方法である。切削工具は、一般的なものであってよい。
【0104】
図20は、第1の透明層32の斜面42に凹凸を形成する工程(ステップS102)の一例を示す図である。斜面42に凹凸を形成する方法として、例えば、コート液を斜面42に塗布し、コート液の塗布膜を乾燥させて固化させる成膜法が用いられる。コート液は、粒子37及びマトリックス38を含み、マトリックス38を溶かす溶媒を更に含んでもよい。コート液の塗布膜の厚みを不均一にすることで、反射斜面45の角度を変調させてもよい。コート液の塗布方法として、特に限定されないが、例えば、スプレーコート法、スピンコート法、グラビアコート法などが用いられる。
【0105】
図21は、反射層34を形成する工程(ステップS103)の一例を示す図である。反射層34を形成する方法として、例えば、真空蒸着法又はスパッタリング法などが用いられる。反射層34は、凹凸層33の凹凸に沿って形成される。
【0106】
図22は、第2の透明層35を形成する工程(ステップS104)の一例を示す図である。第2の透明層35は、第2の透明層35となる樹脂材料を、反射層34と保護シート36との間に挟み、固化させることによって得られる。
【0107】
なお、本実施形態の透明スクリーン20は、
図1及び
図2に示すように後側から前側に向けて、第1の透明層32、凹凸層33、反射層34、及び第2の透明層35の順に有するが、順番は逆でもよい。つまり、透明スクリーン20は、後側から前側に向けて、第2の透明層35、反射層34、凹凸層33、及び第1の透明層32の順に有してもよい。反射層34において、凹凸層33との接触面と、第2の透明層35との接触面とが、同じ形状を有する。そのため、反射層34は、凹凸層33との接触面と、第2の透明層35との接触面のどちらの面で、投影される映像の光を反射してもよい。
【0108】
(変形、改良)
以上、透明スクリーンの実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の範囲内において、種々の変形、改良が可能である。
【0109】
図23は、上記実施形態の映像表示システムの変形例を示す図である。本変形例の映像表示システム10Aは、透明スクリーン20Aを有する。以下、主に、上記の実施形態との相違点を説明する。
【0110】
本変形例の透明スクリーン20Aは、第1の透明層32Aと反射層34Aとの間に
図2等に示す凹凸層33がなく、反射層34Aが第1の透明層32Aに接する点で、上記実施形態の透明スクリーン20とは異なる。透明スクリーン20Aと、第1の透明板21と、第2の透明板22とで、映像投影合わせ板11Aが構成される。
【0111】
第1の透明層32Aは、基準面41Aに対し傾斜する斜面42Aを複数有する。複数の斜面42Aは、基準面41Aの法線方向から見たとき縞状に形成される。各斜面42Aは、凹凸を有する。斜面42Aに凹凸を形成する方法として、例えば、エッチング法やインプリント法が用いられる。
【0112】
エッチング法は、型押し法や切削法などで形成された斜面42Aをエッチングして、斜面42Aに凹凸を形成する方法である。エッチング法として、物理エッチング法と化学エッチング法とのいずれが用いられてもよい。
【0113】
物理エッチング法は、ブラスト法を含む。ブラスト法として、ドライブラスト法とウェットブラスト法とのいずれが用いられてもよい。ドライブラスト法が用いられる場合、斜面42Aに粒子を吹き付けることによって、斜面42Aに凹凸が形成される。粒子として、例えば、アルミナ粒子、炭化珪素粒子、ジルコン粒子などが用いられる。ウェットブラスト法が用いられる場合、斜面42Aに粒子と液体との混合流体を吹き付けることによって、斜面42Aに凹凸が形成される。
【0114】
図23に示すように、y方向に垂直な断面において、映像投影領域の少なくとも一部では、z方向一端(例えば下端)からz方向他端(例えば上端)に向うにつれ、斜面42A毎に測定される斜面42Aの傾斜角θ1が段階的又は連続的に小さくなるように、複数の斜面42Aが形成される。例えば、
図23における最も上の斜面42Aの傾斜角θ1(負の値)は、
図23における最も下の斜面42Aの傾斜角θ1(負の値)に比べて小さい。斜面42Aの傾斜角θ1は、負の範囲でのみ変化してもよいし、正の範囲でのみ変化してもよく、負の範囲と正の範囲の両方に亘って変化してもよい。なお、z方向所定領域(
図23において3つの所定領域が例示されている。)のそれぞれにおいて、上記の試験例で例示したように、傾斜角θ1は、中心角度から所定の変化割合の範囲でランダム化されている。
【0115】
斜面42Aのz方向におけるピッチP1は、例えば15μm以上であり、好ましくは20μm以上である。ピッチP1が15μm以上であると、回折光のうち最も強度が強い回折光の出射角を小さくでき、映像の多重像をゴーストとして認識することを抑制できる。また、ピッチP1は、300μm以下である。ピッチP1が300μm以下であると、斜面42Aの縞が観察者13から見えない程度に狭い。
【0116】
斜面42Aの傾斜角θ1の大きさは、一定ではない。すなわち、ランダムである。
図23において、そのことが、-θ1、-θ1’、-θ1’’で示されている。これにより、透明スクリーン20を後側から前側に透過する光の回折を抑制でき、背景が多重に見えることを抑制できる。
【0117】
反射層34Aは、基準面41Aに対して傾斜するとともに、投影される映像の光を反射する反射斜面45Aを複数有する。複数の反射斜面45Aは、基準面41Aの法線方向から見たとき縞状に形成される。なお、フレネルレンズのように基準面41Aの法線方向から見て同心円状の複数の縞をなすように形成されてもよい。
【0118】
反射層34Aは、例えば5nm~5000nmの厚さを有し、斜面42Aの凹凸に沿って形成される。すなわち、各反射斜面45Aは、凹凸を有する。反射層34Aの凹凸は、第2の透明層35Aによって埋められる。
【0119】
図23に示すように、y方向に垂直な断面において、映像投影領域の少なくとも一部では、z方向一端(例えば下端)からz方向他端(例えば上端)に向うにつれ、反射斜面45A毎に測定される反射斜面45Aの傾斜角θ2が段階的又は連続的に小さくなるように、複数の反射斜面45Aが形成されることが好ましい。例えば、
図23における最も上の反射斜面45Aの傾斜角θ2(負の値)を、
図23における最も下の反射斜面45Aの傾斜角θ2(負の値)に比べて小さくしてもよい。z方向位置が異なる複数の反射斜面45Aで、拡散反射される光のうち最も高い強度の光を、観察者13に向けることができる。よって、映像中央部の明るさと映像外周部の明るさとの差を低減でき、映像の全体を明るく観察できる方向を作り出すことができる。反射斜面45Aの傾斜角θ2は、負の範囲でのみ変化してもよいし、正の範囲でのみ変化してもよく、負の範囲と正の範囲の両方に亘って変化してもよい。なお、z方向所定領域(
図23において3つの所定領域が例示されている。)のそれぞれにおいて、上記の試験例で例示したように、傾斜角θ2は、中心角度から所定の変化割合の範囲でランダム化されている。
【0120】
y方向に垂直な断面において、映像投影領域の少なくとも一部では、θ2=(α´+β´)/2の式が成立するように各反射斜面45Aが形成されてもよい。その場合には、反射斜面45で拡散反射された光のうち最も高い強度の光を、観察者13に向けることができる。これにより、映像中央部の明るさと映像外周部の明るさとの差を低減でき、映像の全体を明るく観察できる方向を作り出すことができる。
【0121】
図23に示すように、y方向に垂直な断面視において、映像投影領域の少なくとも一部では、透明スクリーン20Aから前方に向かうにつれ互いに近づく法線45Anを有する複数の反射斜面45Aが形成されてよい。これにより、映像の全体を明るく観察できる方向を作り出すことができる。なお、反射斜面45Aの法線45Anの方向は、θ2+90°又はθ2-90°で表すことができる。
【0122】
反射斜面45Aのz方向におけるピッチP2は、例えば15μm以上であり、好ましくは20μm以上である。ピッチP2が15μm以上であると、回折光のうち最も強度が強い回折光の出射角を小さくでき、映像の多重像をゴーストとして認識することを抑制できる。また、ピッチP2は、300μm以下である。ピッチP2が300μm以下であると、反射斜面45Aの縞が観察者13から見えない程度に狭い。z方向位置が同じ反射斜面45Aと斜面42Aとでは、反射斜面45Aのz方向におけるピッチP2と斜面42Aのz方向におけるピッチP1とが略同じである。
【0123】
本変形例によれば、上記実施形態と同様に、映像を表示する反射斜面45Aが、ホットスポットを生じさせる面(前面11Aaや後面11Ab)に対し傾斜している。その結果、ホットスポットが観察される方向と明るい映像が観察される方向とを分離でき、ホットスポットが観察されずに明るい映像が観察される位置(例えば、
図23に示す観察者13の位置)を作り出すことができる。
【0124】
また、本変形例によれば、上記実施形態と同様に、y方向に垂直な断面において、映像が投影される映像投影領域の少なくとも一部では、z方向一端(例えば下端)からz方向他端(例えば上端)に向うにつれて、反射斜面45A毎に計測される反射斜面45Aの傾斜角θ2が段階的又は連続的に小さくなるように、複数の反射斜面45Aが形成されることが好ましい。そのように構成されているときには、z方向位置が異なる複数の反射斜面45Aで、拡散反射される光のうち最も高い強度の光を、観察者13に向けることができる。よって、映像中央部の明るさと映像外周部の明るさとの差を低減でき、映像の全体を明るく観察できる方向を作り出すことができる。
【0125】
上記実施形態及び上記変形例では、第1の透明層32、32Aとして、樹脂層が用いられるが、ガラス層が用いられてもよい。ガラス層に複数の斜面を縞状に形成する方法として、例えば型押し法が用いられる。
第1の透明層32、32Aとして、第1の透明板21が用いられてもよい。第1の透明板21がガラス板である場合、プレス成形によって、曲げ成形と型押しとを同時に行ってもよい。
【0126】
第1の透明層32として第1の透明板21が用いられる場合、第1の透明板21の上に凹凸層33及び反射層34が形成される。また、第1の透明層32Aとして第1の透明板21が用いられる場合、第1の透明板21の上に反射層34Aが形成される。
第2の透明層35、35Aとして第2の接着層24が用いられ、かつ、保護シート36の代わりに第2の透明板22が用いられてもよい。
【0127】
なお、第2の透明層35、35Aとして、環構造もしくは多官能性基を有する透明樹脂材料、又は、環構造及び多官能性基を有する透明樹脂材料が用いられてもよい。透明樹脂材料が用いられる場合、透明層に剛直性及び硬度を付与できるので、透明スクリーン20、21Aの取り扱い性が向上し、好ましい。具体的には、アダマンタン骨格、トリシクロデカン骨格及びフルオレン骨格から選ばれる1種以上の構造を10%以上含む透明樹脂材料が用いられることが好ましい。
【0128】
また、第2の透明層35、35Aとして、PET樹脂上にハードコート層や反射防止膜が設けられた透明樹脂材料を用いてもよい。更に、PET樹脂上にHUDの虚像形成用ハーフミラーが設けられてもよい。
【0129】
上記のような充分な表面硬度及び透明性を有する透明樹脂材料を第2の透明層35、35Aとして用いる場合、透明樹脂材料からなる第2の透明層35、35Aを、透明スクリーン20の最外層に配置し、保護シート36、第2の接着層24及び第2の透明板22を有しない構成とすることも可能である。
【0130】
上記実施形態及び上記変形例では、複数の斜面42、42Aを縞状に形成するステップと、斜面42、42Aに凹凸を形成するステップとは、この順で実施される。しかし、同時に実施されてもよい。例えば、型押し法の場合、型60の凹凸パターン面を予めエッチング法で粗面化しておけば、同時に行うことができる。
【0131】
映像投影合わせ板11、11Aなどは、機能層を更に有してもよい。機能層として、例えば、光の反射を低減させる光反射防止層、光の一部を減衰させる光減衰層、及び赤外線の透過を抑える赤外線遮蔽層などが挙げられる。更に、機能層として、電圧を印加して振動し、スピーカとして機能する振動層、音の透過を抑制する遮音層などの機能層が挙げられる。なお、機能層の数、機能層の位置は特に限定されない。
【0132】
なお、2017年12月20日に出願された日本特許出願2017-243475号の明細書、特許請求の範囲、図面、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0133】
10:映像表示システム、11:映像投影合わせ板、12:プロジェクタ、13:観察者、20:透明スクリーン、21:第1の透明板、22:第2の透明板、31:基材シート、32:第1の透明層、33:凹凸層、34:反射層、35:第2の透明層、36:保護シート、37:粒子、38:マトリックス、41:基準面、42:斜面、45:反射斜面