(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】ガラス、合わせガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 27/12 20060101AFI20221101BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20221101BHJP
B32B 3/04 20060101ALI20221101BHJP
B32B 17/06 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
C03C27/12 L
B60J1/00 J
B32B3/04
B32B17/06
(21)【出願番号】P 2020536362
(86)(22)【出願日】2019-06-17
(86)【国際出願番号】 JP2019023938
(87)【国際公開番号】W WO2020031509
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2018150612
(32)【優先日】2018-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】定金 駿介
(72)【発明者】
【氏名】中村 遼太
(72)【発明者】
【氏名】平野 明
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-114484(JP,A)
【文献】特開2017-165608(JP,A)
【文献】特開2006-327381(JP,A)
【文献】国際公開第2010/98287(WO,A1)
【文献】特開2015-24930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/12
B60J 1/00
B32B 1/00 ー 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用のガラスであって、
ガラス板と、
前記ガラス板に画定された、JIS規格R3212で規定される試験領域Aと、
平面視で前記試験領域Aより外側に設けられた遮蔽層と、
前記遮蔽層に設けられた開口部内に画定され、車両内に搭載されるデバイスが情報を送信及び/又は受信する情報送受信領域と、
平面視で前記情報送受信領域の周辺に位置し、前記遮蔽層と平面視で重複する部分を備えた赤外線反射層と、を有し、
前記試験領域Aの、日射透過率は60%以下であり、
前記情報送受信領域の周辺の前記赤外線反射層が設けられた領域の日射反射率は、前記試験領域Aの日射反射率よりも5%以上大きいガラス。
【請求項2】
前記赤外線反射層は、赤外線反射コート又は赤外線反射フィルムである請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
前記赤外線反射層が設けられた領域の日射反射率は55%以上である請求項1又は2に記載のガラス。
【請求項4】
前記赤外線反射層が設けられた領域の可視光反射率は98%以下である請求項1乃至3の何れか一項に記載のガラス。
【請求項5】
前記赤外線反射層が設けられた領域の日射反射率は99%以下である請求項1乃至4の何れか一項に記載のガラス。
【請求項6】
前記赤外線反射層が設けられた領域の前記遮蔽層を除いた可視光透過率が70%未満である請求項1乃至5の何れか一項に記載のガラス。
【請求項7】
前記情報送受信領域の周辺の前記赤外線反射層が設けられた領域の日射反射率は、前記試験領域Aの日射反射率よりも15%以上大きい請求項1乃至6の何れか一項に記載のガラス。
【請求項8】
平面視において、前記赤外線反射層の端部は、前記遮蔽層の端部から後退している請求項1乃至7の何れか一項に記載のガラス。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか一項に記載のガラスと、中間膜と、第2のガラス板と、を有し、前記ガラス板と前記第2のガラス板とが中間層を挟んで接着された車両用の合わせガラスであって、
前記遮蔽層は、前記ガラス板及び前記第2のガラス板のうち、前記合わせガラスを車両に取り付けたときに車内側となる車内側ガラス板の車内側の面に設けられ、
前記赤外線反射層は、前記遮蔽層よりも車外側に設けられている合わせガラス。
【請求項10】
請求項1乃至8の何れか一項に記載のガラスと、中間膜と、第2のガラス板と、を有し、前記ガラス板と前記第2のガラス板とが中間層を挟んで接着された車両用の合わせガラスであって、
前記赤外線反射層は、前記ガラス板及び前記第2のガラス板のうち、前記合わせガラスを車両に取り付けたときに車外側となる車外側ガラス板の車内側の面に設けられ、
前記遮蔽層は、前記赤外線反射層の車内側の面に設けられている合わせガラス。
【請求項11】
請求項1乃至8の何れか一項に記載のガラスと、中間膜と、第2のガラス板と、を有し、前記ガラス板と前記第2のガラス板とが中間層を挟んで接着された車両用の合わせガラスであって、
前記遮蔽層は、前記ガラス板及び前記第2のガラス板のうち、前記合わせガラスを車両に取り付けたときに車内側となる車内側ガラス板の車内側の面に設けられた第1遮蔽層と、前記合わせガラスを車両に取り付けたときに車外側となる車外側ガラス板の車内側の面に設けられた第2遮蔽層と、を含み、
前記第1遮蔽層は、前記車内側ガラス板の車内側の面の周縁部に設けられた周縁領域と、平面視で前記周縁領域から前記試験領域A側に突出した突出部と、を備え、
前記開口部は、前記突出部に設けられ、
前記赤外線反射層は、前記第1遮蔽層と前記第2遮蔽層との間に配置され、
前記第2遮蔽層と平面視で重複していない前記赤外線反射層の面積は、前記突出部の面積の20%以上である合わせガラス。
【請求項12】
平面視において、前記第2遮蔽層は、前記突出部の周縁部の少なくとも一部に沿って配置されている請求項11に記載の合わせガラス。
【請求項13】
前記ガラス板及び前記第2のガラス板のうち、前記合わせガラスを車両に取り付けたときに車外側となる車外側ガラス板の可視光透過率は86%以上である請求項9乃至12の何れか一項に記載の合わせガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス及び合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の安全性向上を目的に、自動的に前方を走行する車両や歩行者との衝突を回避する機能を有する車両が開発されている。このような車両は、例えば、カメラ等のデバイスを車内に搭載し、車両のガラス(例えば、フロントガラス等)を介して、道路状況等の情報の送受信を行う(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
カメラ等のデバイスは、ブラケットを介して車両のガラスに貼り付けられるが、ブラケット貼り付け用の接着剤の紫外線による劣化を防ぐため、車両のガラスに遮蔽層(例えば、黒セラミック層)が形成される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、車両のガラスに遮蔽層を形成すると、遮蔽層が太陽熱を吸収することにより車両のガラスの温度が上昇する。そして、車両のガラスの温度上昇に起因する輻射熱がデバイスの温度上昇をもたらし、デバイスのセンシング性能が阻害される場合がある。
【0006】
一方で、デバイスの温度上昇の問題のみならず、ガラスからの太陽熱の熱流入による室内の温度上昇も同時に抑制する必要がある。更に、車両用ガラスとして電波透過性等の安全性を同時に満たす必要がある。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、デバイスのセンシング性能が熱によって阻害されにくく、室内温度を抑制でき、かつ安全な車両用のガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本ガラスは、車両用のガラスであって、ガラス板と、前記ガラス板に画定された、JIS規格R3212で規定される試験領域Aと、平面視で前記試験領域Aより外側に設けられた遮蔽層と、前記遮蔽層に設けられた開口部内に画定され、車両内に搭載されるデバイスが情報を送信及び/又は受信する情報送受信領域と、平面視で前記情報送受信領域の周辺に位置し、前記遮蔽層と平面視で重複する部分を備えた赤外線反射層と、を有し、前記試験領域Aの、日射透過率は60%以下であり、前記情報送受信領域の周辺の前記赤外線反射層が設けられた領域の日射反射率は、前記試験領域Aの日射反射率よりも5%以上大きいことを要件とする。
【発明の効果】
【0009】
開示の一実施態様によれば、デバイスのセンシング性能が熱によって阻害されにくく、室内温度を抑制でき、かつ安全な車両用のガラスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施の形態に係る車両用のフロントガラスを例示する図である。
【
図2】第1の実施の形態に係る情報送受信領域近傍を例示する図である。
【
図3】第1の実施の形態の変形例1に係る情報送受信領域近傍を例示する部分拡大断面図(その1)である。
【
図4】第1の実施の形態の変形例1に係る情報送受信領域近傍を例示する部分拡大断面図(その2)である。
【
図5】第1の実施の形態の変形例1に係る情報送受信領域近傍を例示する部分拡大断面図(その3)である。
【
図6】第1の実施の形態の変形例2に係る情報送受信領域近傍を例示する図である。
【
図7】第1の実施の形態の変形例3に係る情報送受信領域近傍を例示する部分拡大断面図である。
【
図8】実施例及び比較例について説明する図(その1)である。
【
図9】実施例及び比較例について説明する図(その2)である。
【
図10】実施例及び比較例について説明する図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。又、各図面において、本発明の内容を理解しやすいように、大きさや形状を一部誇張している場合がある。
【0012】
なお、ここでは、車両用のフロントガラスを例にして説明するが、これには限定されない。又、車両とは、代表的には自動車であるが、電車、船舶、航空機等を含むガラスを有する移動体を指すものとする。
【0013】
又、平面視とはフロントガラスの所定領域を所定領域の法線方向から視ることを指し、平面形状とはフロントガラスの所定領域を所定領域の法線方向から視た形状を指すものとする。又、本願明細書においては、上下は図面のZ軸方向、左右は図面のY軸方向を指すものとする。
【0014】
本発明における日射透過率は、JIS 3106:1998で規定される値であり、以下Teともいう。
【0015】
本発明における日射反射率は、JIS 3106:1998で規定される値であり、以下Reともいう。
【0016】
本発明における可視光反射率は、JIS 3106:1998で規定される値である。
【0017】
本発明における可視光透過率は、JIS 3106:1998で規定される値であり、以下Tvともいう。
【0018】
〈第1の実施の形態〉
図1は、第1の実施の形態に係る車両用のフロントガラスを例示する図であり、
図1(a)はフロントガラスを車室内から車室外に視認した様子を模式的に示した図である(フロントガラス20はZ方向を上方として車両に取り付けられた状態である)。
図1(b)は、
図1(a)に示すフロントガラス20をXZ方向に切ってY方向から視た断面図である。なお、
図1(b)において、便宜上、フロントガラス20と共にデバイス300を図示しているが、デバイス300はフロントガラス20の構成要素ではない。
【0019】
図2は、第1の実施の形態に係る情報送受信領域近傍を例示する図であり、
図2(a)は情報送受信領域近傍を車室内から車室外に視認した様子を模式的に示した部分拡大平面図、
図2(b)は
図2(a)のA-A線に沿う部分拡大断面図である。
【0020】
図1及び
図2に示すように、フロントガラス20は、ガラス板21と、ガラス板22と、中間膜23と、遮蔽層24と、赤外線反射層25とを有する車両用の合わせガラスである。
【0021】
ガラス板21は、フロントガラス20を車両に取り付けたときに車内側となる車内側ガラス板である。又、ガラス板22は、フロントガラス20を車両に取り付けたときに車外側となる車外側ガラス板である。ガラス板21とガラス板22とは、中間膜23及び赤外線反射層25を挟んで接着されている。中間膜23は、複数層の中間膜から形成されてもよい。ガラス板21、ガラス板22、及び中間膜23の詳細については後述する。
【0022】
遮蔽層24は、ガラス板21の車内側の面21aの周縁部に設けられた周縁領域241と、平面視で周縁領域241から後述の試験領域A側に突出した突出部242とを備えている。遮蔽層24は、不透明な層であり、例えば、所定の色の印刷用インクをガラス面に塗布し、これを焼き付けることにより形成できる。遮蔽層24は、例えば、不透明な(例えば、黒色の)着色セラミック層である。フロントガラス20に不透明な遮蔽層24が存在することで、フロントガラス20の周縁部を車体に保持するウレタン等の樹脂や、デバイス300を係止するブラケットをフロントガラス20に貼り付ける接着部材等の紫外線による劣化を抑制できる。遮蔽層24は遮光性を持つ着色中間膜や着色フィルム、着色中間膜と着色セラミック層の組み合わせであってもよい。着色フィルムは後述する赤外線反射フィルムと一体化されていてもよい。
【0023】
フロントガラス20には、JIS規格R3212で規定される試験領域Aが画定されている。又、フロントガラス20には、情報送受信領域26が画定されている。試験領域Aは平面視で遮蔽層24に囲まれた領域の内側に位置し、情報送受信領域26は遮蔽層24の突出部242に設けられた開口部内に画定されている。
【0024】
情報送受信領域26は、車両内のフロントガラス20の上辺周縁部等にデバイス300が配置される場合に、デバイス300が情報を送信及び/又は受信する領域として機能する。情報送受信領域26の平面形状は特に限定されないが、例えば、等脚台形である。情報送受信領域26は、フロントガラス20を車両に取り付けたときに、運転手の視界を阻害しないと同時に、情報の送信及び/又は受信に有利なため、試験領域Aよりも上側に位置することが好ましい。
【0025】
なお、デバイス300は、情報を送信及び/又は受信するデバイスであり、例えば、可視光や赤外光等を取得するカメラ、ミリ波レーダ、赤外線レーザ等が挙げられる。車両内に、デバイス300以外に情報送受信領域26を介して情報を送信及び/又は受信する他のデバイスが配置されてもよい。ここで、「信号」とは、ミリ波、可視光、赤外光等を含む電磁波を指す。
【0026】
フロントガラス20の試験領域Aの日射透過率は60%以下である。このような構成により、車両の室内への太陽熱の流入を抑制でき、乗員が太陽熱によるじりじり感を感じにくい。
【0027】
赤外線反射層25は、フロントガラス20に照射される赤外線を反射する機能を有する層であり、中間膜23に封入、ガラス板に積層等されている。赤外線反射層25は、例えば2枚の中間膜の間に挟まれることにより、中間膜23に封入された構成となる。赤外線反射層25は、断面視において、遮蔽層24よりも車外側に位置している。又、赤外線反射層25は、平面視において、情報送受信領域26の周辺に位置している。赤外線反射層25は、情報送受信領域26の周辺から他の領域に延在してもよい。赤外線反射層25は、例えば、試験領域Aの全体に延在してもよいし、フロントガラス20の全体に延在してもよい。
【0028】
赤外線反射層25は、例えば、赤外線反射フィルム、赤外線反射コートである。赤外線反射層25の材料としては、例えば、金属層として銀を主成分とする層を有するもの等が挙げられる。赤外線反射フィルムは、例えば銀などの赤外線反射機能を有する層をフィルム上、例えばポリエチレンテレフタレート上に形成することで作製できる。赤外線反射コートはガラス板上に公知の方法で製膜することにより形成できる。
【0029】
赤外線反射層25は、突出部242と平面視で重複する部分を備えている。平面視において、赤外線反射層25の内周側の端部25e1及び外周側の端部25e2は、突出部242の内周側の端部241e1及び外周側の端部241e2から、数mm程度、例えば1mm以上後退していることが好ましい。これにより、赤外線反射層25を車内側から視認できなくすること(赤外線反射層25のエッジの隠蔽による意匠性の向上)が可能となると共に、透視歪の発生を抑制できる。
【0030】
情報送受信領域26の周辺の赤外線反射層25が設けられた領域の日射反射率は、試験領域Aの日射反射率よりも5%以上大きい。このようにすることで、情報送受信領域26の周辺において、赤外線反射層25が太陽光等に含まれる赤外線を反射するため、赤外線反射層25よりも車内側に配置された遮蔽層24に赤外線が照射及び吸収されて遮蔽層24の温度が上昇することを抑制できる。その結果、情報送受信領域26の車内側への熱流入量が低下するため、情報送受信領域26の車内側にデバイス300を配置しても、デバイス300の温度上昇が抑制され、デバイス300が正常に動作できる。
【0031】
情報送受信領域26の周辺の赤外線反射層25が設けられた領域の日射反射率は、試験領域Aの日射反射率よりも10%以上大きいことが好ましく、15%以上大きいことが更に好ましい。これらにより、情報送受信領域26の車内側への熱流入量が更に低下するため、デバイス300の温度上昇を更に抑制できる。
【0032】
又、情報送受信領域26の周辺の赤外線反射層25が設けられた領域の日射反射率は55%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることが更に好ましい。このようにすることで、情報送受信領域26の車内側への熱流入量を十分な値まで低下できる。
【0033】
又、情報送受信領域26の周辺の赤外線反射層25が設けられた領域の日射反射率は99%以下であることが好ましく、98%以下であることが好ましい。日射反射率を99%以下とすることで可視光反射率が低減され、赤外線反射層25で反射した光により、対向車の乗員がまぶしさを感じにくくなるためである。
【0034】
又、情報送受信領域26の周辺の赤外線反射層25が設けられた領域の可視光反射率は98%以下であることが好ましい。このようにすることで、赤外線反射層25から車外に反射された可視光により、対向車の乗員がまぶしさを感じにくくできる。
【0035】
又、情報送受信領域26の周辺の赤外線反射層25が設けられた領域の遮蔽層24を除いた可視光透過率が70%未満であってもよい。すなわち、試験領域Aは法規上可視光透過率が70%以上である必要があるが、情報送受信領域26はその必要がないため、赤外線を反射する性能を重視し、可視光透過率を70%未満としてもよい。
【0036】
又、ガラス板22の可視光透過率は86%以上であることが好ましい。赤外線反射層25よりも車外側に位置するガラス板22の可視光透過率を86%以上とすることで、ガラス板22の赤外線の吸収も抑制され、赤外線反射層の効果が高くなる。このため、赤外線反射層25で車外側に反射した赤外線がガラス板22で吸収され、ガラス板22の温度が上昇することを抑制できる。
【0037】
試験領域Aには赤外線反射層が存在しないことが、フロントガラス20の電波透過性の点からは好ましい。特に、赤外線反射層が金属を主成分とする層を含むと、電波透過性が阻害される恐れがある。十分な電波透過性を確保するためには、試験領域Aに延在する赤外線反射層の一部をデコート処理等すればよいが、加工が煩雑になる。試験領域Aには赤外線反射層が存在しない場合でも、例えばフロントガラス20のガラス板をグリーンガラスにすれば、試験領域Aにおいて十分な赤外線遮蔽性能が得られる。
【0038】
ここで、ガラス板21、ガラス板22、及び中間膜23について詳述する。
【0039】
フロントガラス20において、ガラス板21の車内側の面21a(フロントガラス20の内面)と、ガラス板22の車外側の面22a(フロントガラス20の外面)とは、平面であっても湾曲面であっても構わない。
【0040】
ガラス板21及び22としては、例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケート等の無機ガラス、有機ガラス等を用いることができる。ガラス板21及び22が無機ガラスである場合、例えば、フロート法によって製造できる。ガラス板21及びガラス板22がソーダライムガラスである場合、クリアガラス、鉄成分を所定量以上含むグリーンガラス及びUVカットグリーンガラスが好適に使用できる。
【0041】
フロントガラス20の外側に位置するガラス板22の板厚は、最薄部が1.8mm以上3mm以下であることが好ましい。ガラス板22の板厚が1.8mm以上であると、耐飛び石性能等の強度が十分であり、3mm以下であると、合わせガラスの質量が大きくなり過ぎず、車両の燃費の点で好ましい。ガラス板22の板厚は、最薄部が1.8mm以上2.8mm以下がより好ましく、1.8mm以上2.6mm以下が更に好ましい。
【0042】
フロントガラス20の内側に位置するガラス板21の板厚は、0.3mm以上2.3mm以下であることが好ましい。ガラス板21の板厚が0.3mm以上であることによりハンドリング性がよく、2.3mm以下であることによりフロントガラス20の質量が大きくなり過ぎない。
【0043】
ガラス板21の板厚を0.3mm以上2.3mm以下とすることで、ガラス品質(例えば、残留応力)を維持できる。ガラス板21の板厚を0.3mm以上2.3mm以下とすることは、曲がりの深いガラスにおけるガラス品質の維持に特に有効である。ガラス板21の板厚は、0.5mm以上2.1mm以下がより好ましく、0.7mm以上1.9mm以下が更に好ましい。
【0044】
但し、ガラス板21及び22の板厚は常に一定ではなく、必要に応じて場所毎に変わってもよい。例えば、ガラス板21及び22の一方又は両方が、フロントガラス20を車両に取り付けたときの垂直方向の上端側の厚さが下端側よりも厚い断面視楔形状の領域を備えていてもよい。
【0045】
フロントガラス20が湾曲形状である場合、ガラス板21及び22は、フロート法等による成形の後、中間膜23による接着前に、曲げ成形される。曲げ成形は、ガラスを加熱により軟化させて行われる。曲げ成形時のガラスの加熱温度は、大凡550℃~700℃である。
【0046】
ガラス板21とガラス板22とを接着する中間膜23としては熱可塑性樹脂が多く用いられ、例えば、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂、可塑化ポリ塩化ビニル系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、可塑化飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、可塑化ポリウレタン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン-エチルアクリレート共重合体系樹脂等の従来からこの種の用途に用いられている熱可塑性樹脂が挙げられる。又、特許第6065221号に記載されている変性ブロック共重合体水素化物を含有する樹脂組成物も好適に使用できる。
【0047】
これらの中でも、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂が好適に用いられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。上記可塑化ポリビニルアセタール系樹脂における「可塑化」とは、可塑剤の添加により可塑化されていることを意味する。その他の可塑化樹脂についても同様である。
【0048】
上記ポリビニルアセタール系樹脂としては、ポリビニルアルコール(以下、必要に応じて「PVA」と言うこともある)とホルムアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルホルマール樹脂、PVAとアセトアルデヒドとを反応させて得られる狭義のポリビニルアセタール系樹脂、PVAとn-ブチルアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルブチラール樹脂(以下、必要に応じて「PVB」と言うこともある)等が挙げられ、特に、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、PVBが好適なものとして挙げられる。なお、これらのポリビニルアセタール系樹脂は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。但し、中間膜23を形成する材料は、熱可塑性樹脂には限定されない。 中間膜23の膜厚は、最薄部で0.5mm以上であることが好ましい。中間膜23の膜厚が0.5mm以上であるとフロントガラスとして必要な耐貫通性が十分となる。又、中間膜23の膜厚は、最厚部で3mm以下であることが好ましい。中間膜23の膜厚の最大値が3mm以下であると、合わせガラスの質量が大きくなり過ぎない。中間膜23の最大値は2.8mm以下がより好ましく、2.6mm以下が更に好ましい。中間膜23は、例えばヘッドアップディスプレイ適用性のため断面視楔形状を有していてもよい。
【0049】
なお、中間膜23は、3層以上の層を有していてもよい。例えば、中間膜を3層から構成し、真ん中の層の硬度を可塑剤の調整等により両側の層の硬度よりも低くすることにより、合わせガラスの遮音性を向上できる。この場合、両側の層の硬度は同じでもよいし、異なってもよい。
【0050】
中間膜23を作製するには、例えば、中間膜となる上記の樹脂材料を適宜選択し、押出機を用い、加熱溶融状態で押し出し成形する。押出機の押出速度等の押出条件は均一となるように設定する。その後、押し出し成形された樹脂膜を、フロントガラス20のデザインに合わせて、上辺及び下辺に曲率を持たせるために、例えば必要に応じ伸展することで、中間膜23が完成する。
【0051】
合わせガラスを作製するには、ガラス板21とガラス板22との間に、中間膜23、赤外線反射層25を挟んで積層体とする。そして、例えば、この積層体をゴム袋の中に入れ、-65~-100kPaの真空中で温度約70~110℃で接着する。
【0052】
更に、例えば100~150℃、圧力0.6~1.3MPaの条件で加熱加圧する圧着処理を行うことで、より耐久性の優れた合わせガラスを得ることができる。但し、場合によっては工程の簡略化、並びに合わせガラス中に封入する材料の特性を考慮して、この加熱加圧工程を使用しない場合もある。
【0053】
ガラス板21とガラス板22との間に、本願の効果を損なわない範囲で、中間膜23及び赤外線反射層25の他に、発光、調光、可視光反射、散乱、加飾、吸収等の機能を持つフィルムやデバイスを有していてもよい。
【0054】
このように、フロントガラス20では、情報送受信領域26の周辺の赤外線反射層25が設けられた領域の日射反射率は、試験領域Aの日射反射率よりも5%以上大きい。これにより、情報送受信領域26の車内側への熱流入量が低下するため、情報送受信領域26の車内側にデバイス300を配置しても、デバイス300の温度上昇が抑制され、デバイス300が正常に動作できる。すなわち、デバイス300のセンシング性能が車外から照射される赤外線に起因する熱によって阻害されにくいフロントガラス20を提供できる。
【0055】
〈第1の実施の形態の変形例1〉
第1の実施の形態の変形例1では、赤外線反射層及び/又は遮蔽層の位置が第1の実施の形態とは異なる例を示す。なお、第1の実施の形態の変形例1において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0056】
図3は、第1の実施の形態の変形例1に係る情報送受信領域近傍を例示する部分拡大断面図(その1)であり、
図2(b)に対応する断面を示している。
図4は、第1の実施の形態の変形例1に係る情報送受信領域近傍を例示する部分拡大断面図(その2)であり、
図2(b)に対応する断面を示している。
図5は、第1の実施の形態の変形例1に係る情報送受信領域近傍を例示する部分拡大断面図(その3)であり、
図2(b)に対応する断面を示している。なお、第1の実施の形態の変形例1において、情報送受信領域近傍を車室内から車室外に視認した様子を模式的に示した部分拡大平面図は
図2(a)と同様であるため、図示を省略する。
【0057】
図3に示すフロントガラス20Aのように、赤外線反射層25は、ガラス板21の車外側の面21bに設けてもよい。或いは、
図4に示すフロントガラス20Bのように、赤外線反射層25は、ガラス板22の車内側の面22bに設けてもよい。或いは、
図5に示すフロントガラス20Cのように、赤外線反射層25をガラス板22の車内側の面22bに設け、赤外線反射層25の車内側の面に遮蔽層24の突出部242を設けてもよい。
【0058】
図3~
図5の場合、赤外線反射層25は、例えば、ガラス板への赤外線反射コートである。赤外線反射コートは、例えば、スパッタリングにより形成できる。赤外線反射層25として赤外線反射フィルムを用い、ガラス板21の車外側の面21b等に接着剤で接着してもよい。なお、
図5において、赤外線反射層25の車内側の面に加え、遮蔽層24をガラス板21の車内側の面21aに設けても構わない。
図3~
図5に示す形態の場合も、第1の実施の形態と同様の効果を奏する。
【0059】
〈第1の実施の形態の変形例2〉
第1の実施の形態の変形例2では、赤外線反射層より車外側にも遮蔽層を設ける例を示す。なお、第1の実施の形態の変形例2において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0060】
図6は、第1の実施の形態の変形例2に係る情報送受信領域近傍を例示する図であり、
図6(a)は情報送受信領域近傍を車室内から車室外に視認した様子を模式的に示した部分拡大平面図、
図6(b)は
図6(a)のB-B線に沿う部分拡大断面図である。
【0061】
図6に示すように、フロントガラス20Dは、ガラス板21の車内側の面21aに設けられた遮蔽層24(突出部242を含む)に加え、ガラス板22の車内側の面22bに遮蔽層27が設けられている点がフロントガラス20(
図2等参照)と相違する。赤外線反射層25は、断面視において、遮蔽層24と遮蔽層27との間に配置されている。赤外線反射層25はガラス板21の車外側の面21bに設けられていてもよい。
【0062】
平面視において、遮蔽層27は、突出部242の内周側の端部241e
1及び外周側の端部241e
2の少なくとも一部に沿って配置されている。但し、遮蔽層27は、突出部242の内周側の端部241e
1及び外周側の端部241e
2の全部に沿って配置してもよい。すなわち、
図6(a)において、情報送受信領域26を画定する台形の開口部の2つの斜辺に沿って遮蔽層27を配置してもよい。なお、ここでいう『沿う』とは、平面視で突出部242と遮蔽層27のエッジ(端部)同士が10mm以内の距離にあることを意味する。
【0063】
このように、平面視において、遮蔽層27を突出部242の内周側の端部241e1及び外周側の端部241e2の少なくとも一部に沿って配置してもよい。これにより、遮蔽層27の端部27e(突出部242が存在しない側を向く端部)の位置が、突出部242の内周側の端部241e1及び外周側の端部241e2の位置と一致するため、透視歪を低減できる。
【0064】
又、車内に配置されるデバイス300への熱流入量を抑制するため、遮蔽層27と平面視で重複していない赤外線反射層25の面積は、突出部242の面積の20%以上であることが好ましい。
【0065】
〈第1の実施の形態の変形例3〉
第1の実施の形態の変形例3では、合わせガラスではない例を示す。なお、第1の実施の形態の変形例3において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0066】
図7は、第1の実施の形態の変形例3に係る情報送受信領域近傍を例示する部分拡大断面図であり、
図2(b)に対応する断面を示している。なお、第1の実施の形態の変形例3において、情報送受信領域近傍を車室内から車室外に視認した様子を模式的に示した部分拡大平面図は
図2(a)と同様であるため、図示を省略する。
【0067】
図7に示すように、フロントガラス20Eは、車両用のガラス(合わせガラスではない)であって、ガラス板22と、遮蔽層24(突出部242を含む)と、赤外線反射層25と、情報送受信領域26とを有している。赤外線反射層25はガラス板22の車内側の面22bに設けられ、突出部242は赤外線反射層25の車内側の面に設けられている。
【0068】
このように、フロントガラス20Eが合わせガラスではない場合にも、遮蔽層24の突出部242よりも車外側に赤外線反射層25を設けることで、第1の実施の形態と同様の効果を奏する。
【0069】
〈実施例1~3、比較例1~3〉
実施例1~3、及び比較例1~3では、夏の炎天下に車両を放置後、運転を開始することを想定し、日射量1000W/m2、車室内温度35℃、及び車室外温度35℃の条件でシミュレーション実験を行った。
【0070】
具体的には、情報送受信領域26の周辺(突出部242と平面視で重複する領域)の日射反射率、日射透過率、日射吸収率、及び車内面垂直放射率を変えたときの情報送受信領域26の車内面熱流入量をシミュレーションにより求めた。そして、車内面熱流入量に基づいて、情報送受信用のデバイスの熱評価を行った。又、試験領域Aの日射反射率及び試験領域Aの可視光透過率、電波透過性、乗員のじりじり感(乗員が暑さを感じる程度)について評価を行った。
【0071】
[実施例1A、1B]
実施例1Aでは、ガラス板21及び22として縦300mm×横300mm、板厚2mmのクリアガラス(AGC社製 FL)、中間膜23として厚さ0.76mmのポリビニルブチラールを用い、ガラス板21の車内側の面21aの周縁部に黒色セラミックからなる遮蔽層24(突出部242を含む)を設けた合わせガラスを作製した。又、ガラス板22の車内側の面22bの、突出部242と平面視で重複する領域に、銀の金属層を有する赤外線反射層25を設けた。又、ガラス板22の車内側の面22bの、試験領域Aと平面視で重複する領域に、赤外線反射層25とは光学特性の異なる赤外線反射層(便宜上、赤外線反射層35とする。赤外線反射層35は銀の金属層を有する。)を設けた。そして、赤外線反射層25を設けた領域の日射反射率が、赤外線反射層35を設けた領域の日射反射率よりも大きくなるように、赤外線反射層25及び35の光学特性を調整した。
【0072】
実施例1Bでは、ガラス板21の車内側の面21aには遮蔽層24を設けず、ガラス板22の車内側の面22bに赤外線反射層25を介して遮蔽層24を設けた(赤外線反射層25の車内側の面に遮蔽層24を設けた)。それ以外は、実施例1Aと同様にして、合わせガラスを作製した。
【0073】
[実施例2A、2B]
実施例2Aでは、赤外線反射層25の特性を変更した以外は、実施例1Aと同様の構成の合わせガラスを作製した。
【0074】
実施例2Bでは、赤外線反射層25の特性を変更した以外は、実施例1Bと同様の構成の合わせガラスを作製した。
【0075】
[実施例3A、3B]
実施例3Aでは、赤外線反射層25の特性を変更した以外は、実施例1Aと同様の構成の合わせガラスを作製した。
【0076】
実施例3Bでは、赤外線反射層25の特性を変更した以外は、実施例1Bと同様の構成の合わせガラスを作製した。
【0077】
[比較例1A、1B]
比較例1Aでは、ガラス板22の車内側の面22bの、試験領域Aと平面視で重複する領域に、赤外線反射層25と光学特性が同じである赤外線反射層(便宜上、赤外線反射層45とする)を設けた以外は、実施例1Aと同様の構成の合わせガラスを作製した。すなわち、比較例1Aでは、赤外線反射層25を設けた領域の日射反射率は、赤外線反射層45を設けた領域の日射反射率と同じである。
【0078】
比較例1Bでは、ガラス板21の車内側の面21aには遮蔽層24を設けず、ガラス板22の車内側の面22bに赤外線反射層25を介して遮蔽層24を設けた(赤外線反射層25の車内側の面に遮蔽層24を設けた)。それ以外は、比較例1Aと同様にして、合わせガラスを作製した。
【0079】
[比較例2A、2B]
比較例2Aでは、赤外線反射層25及び45の特性を変更した以外は、比較例1Aと同様の構成の合わせガラスを作製した。
【0080】
比較例2Bでは、赤外線反射層25及び45の特性を変更した以外は、比較例1Bと同様の構成の合わせガラスを作製した。
【0081】
[比較例3A、3B]
比較例3Aでは、赤外線反射層25及び45の特性を変更した以外は、比較例1Aと同様の構成の合わせガラスを作製した。
【0082】
比較例3Bでは、赤外線反射層25及び45の特性を変更した以外は、比較例1Bと同様の構成の合わせガラスを作製した。
【0083】
[評価結果]
シミュレーションの結果を
図8及び
図9に示す。なお、情報送受信用のデバイスの熱評価では、車内面熱流入量が120W/m
2未満の場合を『〇』、120W/m
2以上260W/m
2未満の場合を『△』、260W/m
2以上の場合を『×』とした。『×』は、情報送受信用のデバイスの温度上昇が大きく、70℃に達し、デバイスの動作に悪影響を与えるレベルである。
【0084】
又、試験領域Aの評価では、試験領域Aの可視光透過率が70%以上の場合(法規を満たす場合)を『〇』、70%未満の場合(法規を満たさない場合)を『×』とした。乗員のじりじり感の評価では、試験領域AのTeが50%未満の場合を『◎』、50%以上60%未満の場合を『○』とした。電波透過性の評価では、試験領域Aに電波の透過を阻害する金属層を有する赤外線反射層がない場合を『○』、試験領域Aに電波の透過を阻害する金属層を有する赤外線反射層がある場合を『△』とした。
【0085】
図8に示すように、実施例1A、1B、2A、2B、3A、及び3Bでは、何れも情報送受信用のデバイスの熱評価が『〇』であり、情報送受信用のデバイスが問題なく動作できる状態であるといえる。
【0086】
又、可視光透過率の評価は『〇』、乗員のじりじり感(Te)の評価は『◎』であり、何れも良好な結果である。但し、試験領域Aに電波の透過を阻害する金属層を有する赤外線反射層が存在するため、電波透過性の評価は『△』である。
【0087】
図9に示すように、比較例1A及び1Bでは、情報送受信領域の周辺の日射反射率は実施例1A及び1Bと同様であるため、情報送受信用のデバイスの熱評価は『〇』であり、情報送受信用のデバイスが問題なく動作できる状態であるといえる。しかし、試験領域Aの日射反射率を情報送受信領域の周辺の日射反射率と同じにしているため、可視光透過率が70%未満に低下した。
【0088】
比較例2A及び2B、並びに3A及び3Bのように、情報送受信領域の周辺の日射反射率及び試験領域Aの日射反射率を比較例1A及び1Bより下げることで、可視光透過率を70%以上にできる。しかし、この場合、情報送受信領域の周辺の日射反射率を比較例1A及び1Bより下げたことにより、車内面熱流入量が120W/m2以上に増加し、情報送受信用のデバイスの熱評価が『〇』から『△』に下がった。
【0089】
以上の結果より、総合評価を行った。熱評価、可視光透過率、乗員のじりじり感(Te)、電波透過性のうち、△の評価が1個以下であれば総合評価:○、△以下の評価が1~2個であれば総合評価:△、×の評価を1個以上含むものは総合評価:×、とした。
【0090】
実施例1~3及び比較例1~3の総合評価としては、実施例1~3が〇、比較例1が×、比較例2及び3が△となり、実施例1~3の方が比較例1~3よりも総合的に優れている。
【0091】
又、各実施例及び各比較例において、ガラス板22の車内側の面22bに赤外線反射層25を介して遮蔽層24を設けた場合の方が、ガラス板21の車内側の面21aの周縁部に遮蔽層24を設けた場合よりも、車内面熱流入量を抑制できることがわかった。
【0092】
図8及び
図9に示す結果から、情報送受信用のデバイスの熱評価を『〇』とし、かつ可視光透過率の評価を『〇』とするためには、情報送受信領域の周辺の日射反射率を試験領域Aの日射反射率よりも大きくする必要があることがわかる。
【0093】
情報送受信領域の周辺の日射反射率と試験領域Aの日射反射率との差は、実施例1A及び1Bで10.3%、実施例2A及び2Bで16.8%、実施例3A及び3Bで24.3%であり、両者の差が大きくなるほど車内面熱流入量が低下している。このことから、試験領域Aの日射反射率に対して情報送受信領域の周辺の日射反射率が大きいほど、デバイスの動作に対してより好ましい状態になるといえる。
【0094】
〈実施例4、実施例5、比較例4〉
実施例4、実施例5、及び比較例4では、実施例1~3及び比較例1~3と同様に、夏の炎天下に車両を放置後、運転を開始することを想定し、日射量1000W/m2、車室内温度35℃、及び車室外温度35℃の条件でシミュレーションを行った。
【0095】
具体的には、情報送受信領域26の周辺(突出部242と平面視で重複する領域)の日射反射率、日射透過率、日射吸収率、及び車内面垂直放射率を変えたときの情報送受信領域26の車内面熱流入量をシミュレーションにより求めた。そして、車内面熱流入量に基づいて、情報送受信用のデバイスの熱評価を行った。又、試験領域Aの日射反射率及び試験領域Aの可視光透過率を変えたときの電波透過性、乗員のじりじり感(Te)について評価を行った。
【0096】
[実施例4A、4B]
実施例4Aでは、ガラス板21及び22として縦300mm×横300mm、板厚2mmのグリーンガラス(AGC社製 VFL)、中間膜23として厚さ0.76mmのポリビニルブチラールを用い、ガラス板21の車内側の面21aの周縁部に黒色セラミックからなる遮蔽層24(突出部242を含む)を備えた合わせガラスを作製した。又、ガラス板22の車内側の面22bの、突出部242と平面視で重複する領域に、比較例3Aと同様の赤外線反射層25を設けた。但し、ガラス板22の車内側の面22bの、試験領域Aと平面視で重複する領域には、赤外線反射層を設けなかった。
【0097】
実施例4Bでは、ガラス板21の車内側の面21aには遮蔽層24を設けず、ガラス板22の車内側の面22bに比較例3Aと同様の赤外線反射層25を介して遮蔽層24を設けた(赤外線反射層25の車内側の面に遮蔽層24を設けた)。それ以外は、実施例4Aと同様にして、合わせガラスを作製した。
【0098】
[実施例5A、5B]
実施例5Aでは、赤外線反射層25の特性を変更した以外は、実施例4Aと同様の構成の合わせガラスを作製した。
【0099】
実施例5Bでは、赤外線反射層25の特性を変更した以外は、実施例4Bと同様の構成の合わせガラスを作製した。
【0100】
[比較例4A、4B]
比較例4Aでは、ガラス板22の車内側の面22bの、突出部242と平面視で重複する領域に、赤外線反射層を設けなかった以外は、実施例4Aと同様の構成の合わせガラスを作製した。すなわち、比較例4Aでは、情報送受信領域の周辺及び試験領域Aの何れにも赤外線反射層を設けなかった。
【0101】
比較例4Bでは、ガラス板21の車内側の面21aには遮蔽層24を設けず、ガラス板22の車内側の面22bに赤外線反射層25を介して遮蔽層24を設けた(赤外線反射層25の車内側の面に遮蔽層24を設けた)。それ以外は、比較例4Aと同様にして、合わせガラスを作製した。
【0102】
[評価結果]
シミュレーションの結果を
図10に示す。
図10に示すように、実施例4A及び4B、実施例5A及び5Bでは情報送受信用のデバイスの熱評価が『△』であるが、比較例4A及び4Bでは情報送受信用のデバイスの熱評価が『×』である。これ以外の点には大きな差はない。
【0103】
このように、試験領域Aに赤外線反射層を設けない場合には、試験領域Aの可視光透過率の評価、電波透過性の評価、乗員のじりじり感の評価は何れも良好な結果が得られる。しかし、比較例4A及び4Bのように、情報送受信領域の周辺に赤外線反射層を設けない場合には、車内面熱流入量が増加して情報送受信用のデバイスの熱評価が『×』となる。すなわち、情報送受信用のデバイスの温度上昇が大きくなり、デバイスの動作に悪影響を与えるレベルとなる。
【0104】
これに対して、情報送受信領域の周辺に赤外線反射層を設け、試験領域Aの日射反射率に対して情報送受信領域の周辺の日射反射率を5%以上大きくした実施例4A及び4B、実施例5A及び実施例5Bでは、情報送受信用のデバイスの熱評価が『△』である。これは、デバイスの動作が可能な許容範囲内である。
【0105】
実施例4及び5並びに比較例4の総合評価としては、実施例4及び5が〇、比較例4が×となり、実施例4及び5の方が比較例4よりも総合的に優れている。
【0106】
本国際出願は2018年8月9日に出願した日本国特許出願2018-150612号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願2018-150612号の全内容を本国際出願に援用する。
【0107】
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0108】
20、20A、20B、20C、20D、20E フロントガラス
21、22 ガラス板
21a、21b、22a、22b 面
23 中間膜
24、27 遮蔽層
25 赤外線反射層
25e1、25e2、241e1、241e2 端部
26 情報送受信領域
241 周縁領域
242 突出部
300 デバイス