(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】印刷インキ用バインダーの溶液、及び包装ラミネート用印刷インキ組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/102 20140101AFI20221101BHJP
C08G 18/42 20060101ALI20221101BHJP
C08G 18/34 20060101ALI20221101BHJP
C08G 18/48 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
C09D11/102
C08G18/42
C08G18/34 080
C08G18/48
(21)【出願番号】P 2021068633
(22)【出願日】2021-04-14
(62)【分割の表示】P 2018212908の分割
【原出願日】2015-10-16
【審査請求日】2021-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2014212598
(32)【優先日】2014-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100140578
【氏名又は名称】沖田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】大井 英子
(72)【発明者】
【氏名】福田 典宏
(72)【発明者】
【氏名】曽根 賢一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 誠
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-302050(JP,A)
【文献】特開2003-277669(JP,A)
【文献】特開2002-363242(JP,A)
【文献】特開2013-144732(JP,A)
【文献】特開2014-088465(JP,A)
【文献】特開2011-122064(JP,A)
【文献】特開2014-062138(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン樹脂
(カルボジイミド基を分子中に含有するポリウレタン樹脂を除く)を含有する印刷インキ用バインダーと、有機溶剤(単一種のアルコール系溶剤と水の合計が95重量%以上で、且つアルコール系溶剤と水の比率(重量比)が50:50~100:0であるものを除く)とを含む、印刷インキ用バインダーの溶液であって、
前記ポリウレタン樹脂が、(A)ポリオール、(B)ジメチロールプロピオン酸、(C)ジイソシアネート化合物、及び(D)鎖伸長剤を含む重合体であり、
前記(A)ポリオールが、数平均分子量が1000~6000のポリエステルポリオール
と、数平均分子量が200~4000のポリエーテルポリオールとを含み、
前記ポリウレタン樹脂における、(B)ジメチロールプロピオン酸の含有量が、前記ポリウレタン樹脂の質量に対し0.01~5質量%であ
り、
前記有機溶剤が酢酸エチルを含み、
前記有機溶剤中の芳香族系有機溶剤及びケトン系有機溶剤の合計の含有量が、前記有機溶剤の質量に対して0~1質量%である、
溶液
(前記ポリウレタン樹脂以外のポリウレタン樹脂を更に含有するものを除く)。
【請求項2】
前記有機溶剤が酢酸エチル及びイソプロパノールを含む、請求項
1に記載の溶液。
【請求項3】
前記(A)ポリオールが、数平均分子量が3000~6000のポリエステルポリオールを含む、請求項1
又は2に記載の溶液。
【請求項4】
前記ポリエーテルポリオールが、数平均分子量が2000~4000のポリエチレングリコール、数平均分子量が200~2000のポリプロピレングリコール、及びポリテトラメチレンエーテルグリコールからなる群より選ばれる1種以上である、請求項
1~3のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の溶液、及び着色剤を含有する、包装ラミネート用印刷インキ組成物。
【請求項6】
ポリアミド、ニトロセルロース、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、ロジン系樹脂、及びケトン樹脂から選ばれるその他の樹脂を更に含有する、請求項
5に記載の包装ラミネート用印刷インキ組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷インキ用バインダー、包装ラミネート用印刷インキ組成物及び印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックフィルムは、包装用材料として様々な分野に用いられるようになっている。かかるプラスチックフィルムへの印刷は、グラビア印刷又はフレキソ印刷により行なわれている。そして、包装基材の多様化に伴い、装飾又は表面保護のために用いられる印刷インキ及びコーティング剤に求められる性能は益々高度になってきている。
【0003】
例えば、プラスチックフィルム用印刷インキは、多種多様なフィルムに対する優れた印刷適性、接着性、耐ブロッキング性、及び光沢等を備えている必要がある。さらに、食品包装容器の分野においては、インキが内容物と直接触れることがないように衛生的にラミネート加工された包装容器が使用されている。
【0004】
一般にラミネート加工としては、次に挙げる2つの方法、すなわち、各種プラスチックフィルムを印刷基材としてインキを印刷し、形成された印刷膜の面(印刷面)にアンカーコート剤を介して溶融ポリオレフィン等を積層する押出しラミネート加工法、及び該印刷面に接着剤を介してプラスチックフィルムを積層するドライラミネート加工法がある。
【0005】
ラミネート加工法において使用されるラミネート用インキは、各種プラスチックフィルム等の印刷基材に良好に接着し、積層されるプラスチックフィルムとの接着性、印刷適性、ラミネート強度の点で優れていなければならない。さらに、内容物の殺菌処理を目的として、ラミネート加工された包装容器ごと熱水中に浸漬するボイル処理、又はレトルト処理が施される場合には、処理中にラミネートの浮き及びしわの生じないボイル適性及びレトルト適性が必要とされる。
【0006】
以上のインキ性能のほとんどが、主にバインダー樹脂の性能に依存することが多い。そのため、それぞれ要求される性能に応じて、種々のバインダー樹脂が使用されている。一般に、ラミネート用インキのバインダー樹脂としては、ポリウレタン樹脂が使用されている(特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-270215号公報
【文献】特開2010-270216号公報
【文献】特許第4882206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、ラミネート用インキのバインダー樹脂としては、分子内のウレタン結合濃度をできるだけ高くしたポリウレタン樹脂が使用されている。しかし、ウレタン結合濃度が高くなると、インキのボイル適性及びレトルト適性が不良となり易い。そのうえ、メチルエチルケトン、酢酸エチル、イソプロピルアルコール等の溶剤への溶解性が低下し、これら溶剤を用いた場合、版詰まりと言われる、版中にインキの固形分が堆積していく現象により、画線部の印刷不良が生じるという問題(印刷適性の低下)がある。
【0009】
トルエン等の芳香族系有機溶剤を使用する場合、ポリウレタン樹脂骨格を硬くして耐ブロッキングを向上させ、塩素化ポリプロピレン(PP)を添加することにより、ボイル適性、レトルト適性、ラミネート強度、印刷適性、接着性、耐ブロッキングが良好なインキが得られる。しかし、作業環境等の点から、芳香族系有機溶剤、又はメチルエチルケトン等のケトン系有機溶剤を含まない有機溶剤の使用が進められている(ノントルエン化など)。また、芳香族有機溶剤を含まない有機溶剤と、ポリウレタン樹脂とを含む従来のインキは、広範囲な種類のフィルムの要望に応えることは難しかった。
【0010】
一側面において、本発明の目的は、ケトン系有機溶剤又は芳香族系有機溶剤を必要とせずに、優れた印刷適性、ラミネート強度、ボイル適性、及びレトルト適性を有するインキを得るための印刷インキ用バインダーを提供することである。また、本発明の目的は、係る印刷インキ用バインダーを使用した包装ラミネート用印刷インキ組成物及びこれから得られる印刷物を提供することも含む。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ケトン系有機溶剤又は芳香族系有機溶剤を含まない有機溶剤を使用した場合においても、ジメチロールプロピオン酸を含むポリウレタン樹脂が、優れた印刷適性、ラミネート強度、ボイル適性及びレトルト適性を有する印刷インキを得るために有効であることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0012】
本発明の一側面は、ポリウレタン樹脂を主成分として含む印刷インキ用バインダーに関する。ポリウレタン樹脂が、(A)ポリオール、(B)ジメチロールプロピオン酸、(C)ジイソシアネート化合物、及び(D)鎖伸長剤を含む重合体である。このポリウレタン樹脂は、少なくとも(A)ポリオールと、(B)ジメチロールプロピオン酸と、(C)ジイソシアネート化合物と、(D)鎖伸長剤とを反応させて得られる。(A)ポリオールが、数平均分子量1000~6000のポリエステルポリオールを含む。ポリウレタン樹脂における(B)ジメチロールプロピオン酸の含有量が、ポリウレタン樹脂の質量に対し0.01~5質量%である。
【0013】
バインダーがジメチロールプロピオン酸を含むポリウレタン樹脂を含むことによって、印刷インキの印刷適性が向上する。また、ジメチロールプロピオン酸の含有量が、前記の範囲内であることによって、ラミネート強度、ボイル適性、レトルト適性、及び印刷適性等が向上する。
【0014】
(A)ポリオールが、数平均分子量が200~4000のポリエーテルポリオール(ポリエーテル類)を含んでいてもよい。(A)ポリオールに含まれるポリエーテルポリオールは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びポリテトラメチレンエーテルグリコールからなる群より選ばれる1種以上のポリエーテルポリオールであってもよい。これら特定のポリエーテルポリオールは、印刷適性の更なる向上に寄与し得る。
【0015】
必要に応じて、ポリウレタン樹脂の他に、以下に示すような樹脂を副成分として併用し得る。その例としては、上記以外のポリウレタン樹脂、ポリアミド、ニトロセルロース、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、ロジン系樹脂、及びケトン樹脂が挙げられる。
【0016】
別の側面において、本発明は、上記の印刷インキ用バインダー、着色剤及び有機溶剤を成分として含有する包装ラミネート用印刷インキ組成物に関する。
【0017】
この包装ラミネート用印刷インキ組成物中の有機溶剤は、芳香族系有機溶剤又はケトン系有機溶剤のいずれも実質的に含まなくてもよい。上記の印刷インキ用バインダーは、芳香族系有機溶剤又はケトン系有機溶剤を含まない包装ラミネート用インキ組成物に対して特に好適である。ただし、当該バインダーを芳香族系有機溶剤又はケトン系有機溶剤を含むインキ組成物に使用することも可能であり、その場合も優れた特性が発揮され得る。
【0018】
本発明の更なる別の側面は、上記の包装ラミネート用インキ組成物を印刷して形成される印刷物に関する。この印刷物は、印刷インキ用バインダーと着色剤とを含む印刷膜を有する。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、印刷適性、ラミネート強度、ボイル適性及びレトルト適性に優れたインキを得るための印刷インキ用バインダーを提供することができる。このバインダーは、溶剤への溶解性に優れるため、版詰まりを抑制し、画線部の印刷不良を発生し難い。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0021】
一実施形態に係る印刷インキ用バインダーは、ポリウレタン樹脂を主成分として含むバインダー(バインダー樹脂)である。通常、バインダー全体のうち50~100質量%がポリウレタン樹脂で構成される。
【0022】
バインダー中のポリウレタン樹脂は、少なくとも(A)ポリオールと、(B)ジメチロールプロピオン酸と、(C)ジイソシアネート化合物と、(D)鎖伸長剤とを反応させて得られる重合体であってもよい。このポリウレタン樹脂は、ポリオール、ジメチロールプロピオン酸、ジイソシアネート化合物、及び鎖伸長剤のそれぞれに由来する。ポリウレタン樹脂における(B)ジメチロールプロピオン酸の含有量(ジメチロールプロピオン酸に由来する構成単位の含有量)が、ポリウレタン樹脂の質量に対し0.01~5質量%であってもよい。
【0023】
(A)ポリオールは、ポリエステルポリオールを含む。ポリエステルポリオールは、ジオール、及びジカルボン酸等を含むポリエステルであり、末端にヒドロキシル基を有する。
【0024】
ポリエステルポリオールの数平均分子量は、1000~6000であってもよい。本明細書において、各材料の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される、標準ポリスチレンによる換算値であってもよい。
【0025】
ポリエステルポリオールを構成するジオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、トリエチレングリコール、1-若しくは2-メチル-1,3-ブチレングリコール、1-若しくは2-メチル-1,3-ブチレングリコール、1-若しくは2-メチル-1,4-ペンチレングリコール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、トリプロピレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオ-ル、1-、2-若しくは3-メチル-1,5-ペンタンジオ-ル、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、エチレンプロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイド付加物、ネオペンチルグリコール、ブチルエチルプロパンジオール等が挙げられる。これらのうち、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、及び/又はネオペンチルグリコールを特に選択してもよい。3-メチル-1,5-ペンタンジオール及び/又はネオペンチルグリコールを選択することにより、本発明による効果がより一層顕著に奏され得る。
【0026】
ポリエステルポリオールは、多官能ポリオ-ルを更に含んでいてもよい。多官能ポリオールとしては、例えばグリセリン、トリメチロ-ルプロパン、トリメチロ-ルエタン、1,2,6-ヘキサントリオ-ル、1,2,4-ブタントリオ-ル、ソルビト-ル、及びペンタエリスリト-ルが挙げられる。
【0027】
ポリエステルポリオールを構成するジカルボン酸としては、アジピン酸、コハク酸、セバシン酸、アゼライン酸、フマル酸、マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、及びこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。これらのうち、アジピン酸及び/又はセバシン酸を特に選択してもよい。アジピン酸及び/又はセバシン酸を特に選択することにより、本発明による効果がより一層顕著に奏され得る。
【0028】
ポリエステルポリオールは、ジカルボン酸とともに、又はジカルボン酸に代えて、ジカルボン酸の無水物、及び/又はジカルボン酸の炭素数1~5の低級アルコールのエステル化物を含んでいてもよい。
【0029】
本実施形態におけるポリエステルポリオールは、通常のポリエステルの製造方法と同様の方法で得られる。例えば、ジオールとジカルボン酸若しくは酸無水物とを脱水縮合させることで、ポリエステルポリオールが得られる。
【0030】
(A)ポリオールは、数平均分子量が200~4000のポリエーテルポリオール(ポリエーテル類)を含んでいてもよい。ポリエーテルポリオールとして、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、及びポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)等のポリオキシアルキレングリコール、並びに、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物が挙げられる。ビスフェノールAに付加するアルキレンオキサイドは、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、又はこれらの組み合わせであってもよい。
【0031】
(A)ポリオールに含まれるポリエーテルポリオールが、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びポリテトラメチレンエーテルグリコールからなる群より選ばれる1種以上であると、印刷適性の更なる向上が図れる。同様の観点から、これらグリコールの数平均分子量が600~3000であってもよい。
【0032】
ポリウレタン樹脂は、(B)ジメチロールプロピオン酸(DMPA)を他のモノマーと反応させて得られるものである。このポリウレタン樹脂を、本明細書では「DMPA変性ポリウレタン樹脂」ということがある。
【0033】
(B)ジメチロールプロピオン酸の含有量は、ポリウレタン樹脂の質量に対して、0.01~5質量%であってもよい。(B)DMPAの含有量が0.01質量%以上であれば、印刷インキの顔料分散性が良好である。この含有量が5質量%以下であれば、皮膜(印刷膜)が過度に硬くならず、良好なラミネート強度、ボイル適性、及びレトルト適性が得られ易い。すなわち、DMPAの含有量が0.01~5質量%の範囲内であることによって、ラミネート強度向上、ボイル適性、レトルト適性、及び印刷適性が向上する等の効果が得られる。同様の観点から、DMPAの含有量は、0.05~4質量%、又は0.1~3質量%であってもよい。
【0034】
ポリウレタン樹脂を構成する(C)ジイソシアネート化合物は、イソシアネート基を2つ有する化合物であり、芳香族、脂肪族又は脂環族の、各種のジイソシアネートであることができる。
【0035】
イソシアネート化合物の代表例としては、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ブタン-1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、m-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、及び、ダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネートが挙げられる。これらのジイソシアネート化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらのうち、脂環式ジイソシアネート、特にイソホロンジイソシアネート(IPDI)を選択してもよい。脂環式ジイソシアネートを用いることで、本発明による効果がより一層顕著に奏され得る。
【0036】
ポリウレタン樹脂を構成する(D)鎖伸長剤としては、ポリウレタン樹脂の鎖伸長剤として通常用いられているものから任意に選択することができ、例えばポリアミン、又はグリコールであってもよい。鎖伸長剤としては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジアミン、及びダイマージアミンが挙げられる。その他の鎖伸長剤の例として、2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、及びジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等の分子内に水酸基を有するジアミン、ポリエステルポリオールを構成するポリオールとして既に例示したグリコール、及びそれ以外のグリコールが挙げられる。これら鎖伸長剤は1種を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらのうち、イソホロンジアミンを選択してもよい。イソホロンジアミンを選択することにより、本発明による効果がより一層顕著に奏され得る。
【0037】
鎖伸長剤は、メチルジエタノールアミン、メチルジイソプロパノールアミン、フェニルジイソプロパノールアミン、4-メチルフェニルジイソプロパノールアミン、4-メチルフェニルジエタノールアミン等の3級アミン構造を有するジオール、又はこれらの2種類以上の組み合わせであってもよい。
【0038】
ポリウレタン樹脂を合成する際に、鎖長停止剤を必要に応じて用いることもできる。かかる鎖長停止剤としては、モノアルコール及びモノアミン等が挙げられる。モノアルコールの例は、メタノール、プロパノール、ブタノール、及び2-エチルヘキサノールを含む。モノアミンの例は、炭素数2~8のモノ若しくはジアルキルアミン(ブチルアミン、ジブチルアミン等)、及び、炭素数2~6のモノ若しくはジアルカノールアミン(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、プロパノールアミン等)を含む。
【0039】
ポリウレタン樹脂における、(A)ポリオール、(C)ジイソシアネート化合物、及び(D)鎖伸長剤のそれぞれの含有量は、任意に調整できる。
【0040】
ポリウレタン樹脂は、例えば、(A)ポリオール、(B)ジメチロールプロピオン酸及び(C)ジイソシアネート化合物を含む原料混合物の反応によって、ウレタン結合及びイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを生成させることと、ウレタンプレポリマーと(D)鎖伸長剤との反応によってポリウレタン樹脂を生成させることとを含む方法によって、合成することができる。合成の条件等は、ポリウレタン樹脂の合成における常法にしたがって適宜設定できる。
【0041】
一実施形態に係るインキ組成物は、上記印刷インキ用バインダー、着色剤及び有機溶剤を含有する。このインキ組成物は、ラミネート加工法によって製造される包装容器の印刷膜を形成するために用いられる、包装ラミネート用インキ組成物であることができる。インキ組成物におけるバインダーの含有量(樹脂固形分の濃度)は、通常、インキ組成物の質量に対して3~50質量%程度である。
【0042】
インキ組成物中の着色剤は、印刷インキ用の着色剤として通常用いられるものから適宜選択することができる。着色剤の例としては、シアニンブルーのような顔料が挙げられる。インキ組成物における着色剤の含有量は、通常、インキ組成物の質量に対して1~60質量%程度である。
【0043】
インキ組成物を構成する有機溶剤は、例えば、酢酸エチル、イソプロピルアルコール又はこれらの組み合わせであってもよい。この有機溶剤は、芳香族系有機溶剤又はケトン系有機溶剤のいずれも実質的に含まなくてもよい。より具体的には、有機溶剤中の芳香族系有機溶剤及びケトン系有機溶剤の合計の含有量が、有機溶剤の質量に対して0~1質量%であってもよい。
【0044】
一実施形態に係る印刷物は、基材と、基材上に形成された印刷膜とを有する。印刷膜は、上記印刷インキ用バインダーと、着色剤とを含む。この印刷物は、印刷膜を覆いながら基材上にラミネートされたプラスチックフィルムを更に有する包装容器(特に、食品用包装容器)であってもよい。印刷膜は、上記インキ組成物を基材に印刷することと、印刷されたインキ組成物から有機溶剤を除去することとを含む方法により、形成することができる。印刷の方法は特に限定されず、例えばグラビア印刷又はフレキソ印刷であってもよい。印刷膜の厚みは、通常、0.1~30μm程度である。印刷物を構成する基材、ラミネートされるプラスチックフィルム、ラミネートに用いられる接着剤等は、特に制限されず、通常用いられる材料から適宜選択することができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の好適な実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を表す。
【0046】
合成例1(ポリウレタン樹脂Aの合成)
撹拌機、温度計及び窒素ガス導入管を備えた丸底フラスコに、(A)成分として数平均分子量3000のポリエステルポリオール(日立化成ポリマー(株)社製、3-メチル-1,5-ペンタンジオールのアジペート)300部、(B)成分としてジメチロールプロピオン酸(DMPA、和光純薬工業(株)社)1.5部、及び(C)成分としてイソホロンジイソシアネート(IPDI、和光純薬工業(株)社)49.4部を仕込んだ。これらを、窒素気流下、105℃で6時間反応させ、イソシアネート基含量2.66%のプレポリマーを生成させた。そこに、酢酸エチル(和光純薬工業(株)社)234部を加えて、均一なウレタンプレポリマー溶液を得た。続いて(D)成分としてのイソホロンジアミン(IPDA、和光純薬工業(株)社)20.1部、及びジ-n-ブチルアミン(DBA、和光純薬工業(株)社)1.7部と、有機溶剤としての酢酸エチル(和光純薬工業(株)社)375部及びイソプロピルアルコール(和光純薬工業(株)社)261部との混合物に、前記ウレタンプレポリマー溶液585部を加えた。得られた溶液を60℃に加熱して、3時間の反応により、ジメチロールプロピオン酸を含むポリウレタン樹脂(DMPA変性ポリウレタン樹脂)の溶液を得た。このDMPA変性ポリウレタン樹脂の溶液(以下、「ポリウレタン樹脂溶液A」という)に関して、樹脂固形分(ポリウレタン樹脂)の濃度(NV)が30%、粘度が500mPa・s(25℃)、アミン価が0.5mgKOH/gであった。DMPA変性ポリウレタン樹脂におけるDMPAの含有量は、原料の仕込み量から計算すると0.4%であった。
【0047】
(合成例2~12)
表1、表2に示す原料を用い、合成例1と同様にして、ポリウレタン樹脂溶液B~Lを得た。
【0048】
【0049】
【0050】
1.インキ組成物の調製
(実施例1~10及び比較例1~3)
色顔料分散性評価用のインキ組成物
合成例1~12のポリウレタン樹脂溶液28部、シアニンブルー10部、混合溶剤(酢酸エチル/イソプロピルアルコール)52部に対し、実施例1ではニトロセルロース溶液(溶媒:混合溶剤、濃度:30%)3.5部を、実施例2~10及び比較例1~3では塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂の溶液(溶媒:酢酸エチル、濃度:15%)を10部混合した。
得られた各混合物を、顔料分散機(ペイントシェイカー)を用いて3時間分散した。その後、得られた分散液の粘度を、混合溶剤を用いて、ザーンカップNo.3で測定される秒数が15秒となるように調整して、色顔料分散性評価用のインキ組成物を得た。
インキ組成物の調製に用いた混合溶剤における混合比は、酢酸エチル/イソプロピルアルコール=7/3(質量比)とした。
【0051】
その他の評価用のインキ組成物
合成例1~12のポリウレタン樹脂の溶液35部、チタン白35部、及び混合溶剤(酢酸エチル/イソプロピルアルコール)20部に対して、実施例1ではニトロセルロースの溶液(溶媒:混合溶剤、濃度:30%)3.5部を、実施例2~10及び比較例1~3では塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂の溶液(溶媒:酢酸エチル、濃度:15%)10部を混合した。
得られた各混合物を、顔料分散機(ペイントシェイカー)を用いて1時間分散した。得られた分散液の粘度を、混合溶剤を用いて、ザーンカップNo.3で測定される秒数が15秒となるように調整して、下記(2)~(6)の評価用のインキ組成物を得た。
インキ組成物の調製に用いた混合溶剤における混合比は、酢酸エチル/イソプロピルアルコール=7/3(質量比)とした。
【0052】
2.評価
(1)色顔料分散性
ポリエチレンテレフタレートフィルム(以下「PETフィルム」と略す)に上記のインキ組成物を印刷して、印刷膜としての塗膜を有する印刷フィルムを作製した。得られた印刷フィルムの塗膜(印刷膜)の状態を目視観察し、以下の基準で色顔料分散性を判定した。塗膜に色むらがあることは、顔料の分散性が劣ることを意味する。
「A」…塗膜に色むらがない。
「B」…塗膜の一部に色むらがある。
「C」…塗膜に色むらが生じている。
【0053】
(2)接着性
PETフィルム、又はナイロンフィルム(以下「NYフィルム」と略す)に、チタン白を含有する上記のインキ組成物を印刷して、印刷膜としての塗膜を有する印刷フィルムを作製した。この印刷フィルムを24時間放置後、塗膜にセロファンテープを貼り付け、これを急速に引き剥した。このときの塗膜の状態を観察して、以下の基準で塗膜の接着性を評価した。
「A」…塗膜の80%以上がフィルムに残る。
「B」…塗膜の50~80%がフィルムに残る。
「C」…塗膜の50%以下がフィルムに残る。
【0054】
(3)印刷適性
小型グラビア印刷試験機を用いて、チタン白を含有する上記のインキ組成物をPETフィルムに印刷して、印刷パターン(印刷膜)を形成させた。その後、印刷パターンの状態、すなわち、版のドクター切れの状態及びセル詰りに関連する印刷パターンの欠落を目視で観察し、印刷適性を以下の基準で判定した。
「A」…印刷適性が良好である。
「B」…印刷適性が不十分である。
「C」…印刷適性が極めて劣る。
【0055】
(4)ドライ(DL)ラミネート強度
チタン白を含有する上記のインキ組成物をPETフィルム又はNYフィルムに印刷して、印刷膜としての塗膜を有する印刷物を得た。塗膜に、ウレタン系接着剤を間に挟みながら、ドライラミネート機によって無延伸ポリプロピレンフィルム(CPPフィルム)を積層した。得られた積層体を、40℃で2日間エージングした後(ラミネートから3日目)、15mm幅に切断し、180°剥離強度を測定した。
【0056】
(5)ボイル適性試験
チタン白を含有する上記のインキ組成物をPETフィルム又はNYフィルムに印刷して、印刷膜としての塗膜を有する印刷物を得た。塗膜にイソシアネート系接着剤を塗布した後、ドライラミネート機によって60μmのポリエチレンフィルムを積層し、ラミネート加工物を得た。このラミネート加工物を用いて袋を作製し、その内部に水/油の混合物を入れて、袋を密封した。次いで、袋を95℃の熱水中で30分間加熱し、ラミネート加工物の浮き状態を観察して、下記の基準に基づいてボイル適性を評価した。
「A」:ラミネート加工物に全く浮きが無かった。
「B」:ラミネート加工物に部分的に浮きが生じた。
「C」:ラミネート加工物の全面で浮きが生じた。
【0057】
(6)レトルト適性試験
チタン白を含有する上記のインキ組成物の塗膜を、PETフィルム、又はNYフィルムに印刷して、印刷物を得た。塗膜にイソシアネート系接着剤を塗布した後、ドライラミネート機によって60μmの無延伸ポリプロピレン(CPP)フィルムを積層し、ラミネート加工物を得た。このラミネート加工物を用いて袋を作製し、その内部に水/油の混合物を入れて、袋を密封した。次いで、袋を120℃の加圧熱水中で30分間加熱し、ラミネート加工物の浮き状態を観察して、下記の基準に基づいてレトルト適性を評価した。
「A」:ラミネート加工物に全く浮きの無かった。
「B」:ラミネート加工物に部分的に浮きが生じた。
「C」:ラミネート加工物の全面で浮きが生じた。
【0058】
【0059】
【0060】
表中の評価結果の「AB」は、AとBの中間的な評価であったことを意味する。表3、4に示したように、ジメチロールプロピオン酸の含有量が0.01~5質量%の範囲ではないポリウレタン樹脂をバインダーとして含む比較例1~3のインキ組成物は、色顔料分散性、接着性、印刷適性、ボイル適性、及びレトルト適性のうちいずれかの点で十分な特性を示さなかった。
【0061】
これに対し、ジメチロールプロピオン酸の含有量が0.01~5質量%の範囲であるポリウレタン樹脂をバインダーとして含む実施例1~10のインキ組成物は、色顔料分散性、接着性、印刷適性、ラミネート強度、ボイル適性、レトルト適性のいずれの点でも優れていることがわかる。
【0062】
従って、本発明の印刷インキ用バインダーを含むインキ組成物は、芳香族系有機溶剤又はケトン系有機溶剤を使用せずとも、良好な色顔料分散性を有することができる。また、本発明の印刷インキ用バインダーを含むインキ組成物は、接着性(ラミネート強度)、印刷適性に優れるとともに、ボイル適性及びレトルト適性にも優れるため、食品包装容器等に使用する印刷インキ用バインダーとして極めて有用である。