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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】光音響プローブ
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/24 20060101AFI20221101BHJP
   G01N 29/06 20060101ALI20221101BHJP
   G01N 21/01 20060101ALI20221101BHJP
   A61B 8/13 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
G01N29/24
G01N29/06
G01N21/01 A
A61B8/13
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021545032
(86)(22)【出願日】2019-09-11
(86)【国際出願番号】 JP2019035701
(87)【国際公開番号】W WO2021048951
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄次郎
(72)【発明者】
【氏名】田島 卓郎
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-161484(JP,A)
【文献】特開2011-120780(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104027068(CN,A)
【文献】国際公開第2013/061582(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/157228(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/077622(WO,A1)
【文献】特表2016-537136(JP,A)
【文献】特開2014-066701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-G01N 29/52
G01N 21/00-G01N 21/61
A61B 8/13
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1乃至複数の光を放射するように構成された光源と、
軸方向が被測定物の深さ方向と平行になるように配置され、前記被測定物から発生した音を検出するように構成された音響センサと、
前記光源からの光を前記被測定物に伝えると共に、前記光源からの光の照射によって前記被測定物から発生した音を前記音響センサに伝えるように構成された伝搬部材と、
前記伝搬部材内に設けられ、前記光源からの光を反射し、反射した光を前記音響センサの軸方向に沿って前記被測定物に照射するように構成された反射部材と、
前記光源から前記反射部材への光の入射位置を変えることが可能な掃引機構とを備えることを特徴とする光音響プローブ。
【請求項2】
請求項1記載の光音響プローブにおいて、
前記伝搬部材と前記被測定物との間に設けられた音響整合層をさらに備えることを特徴とする光音響プローブ。
【請求項3】
請求項1または2記載の光音響プローブにおいて、
前記掃引機構は、前記光源から前記反射部材への光の入射位置を変えるために回動可能に構成された複数のミラーを含むことを特徴とする光音響プローブ。
【請求項4】
請求項1または2記載の光音響プローブにおいて、
前記掃引機構は、
前記光源からの光を偏向させるように構成された音響光学素子と、
前記音響光学素子からの光を収束して前記反射部材に入射させるように構成された収束レンズとを含むことを特徴とする光音響プローブ。
【請求項5】
請求項1または2記載の光音響プローブにおいて、
前記光源は、複数の発光素子が集積化されたアレイ光源であり、
前記掃引機構は、前記アレイ光源から放射された複数の光のうち特定の光を選択的に前記反射部材に入射させるように構成されたミラーアレイデバイスを含むことを特徴とする光音響プローブ。
【請求項6】
請求項1または2記載の光音響プローブにおいて、
前記光源は、複数の発光素子が集積化されたアレイ光源であり、
前記掃引機構は、
前記アレイ光源から放射された複数の光のうち特定の光を選択的に通過させるように構成された光スイッチと、
前記アレイ光源から放射された複数の光のうち前記光スイッチを通過した光を前記反射部材に入射させるように構成されたバンドルファイバとを含むことを特徴とする光音響プローブ。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光音響プローブにおいて、
前記光源からの光を整形するように構成された光学系をさらに備え、
前記光学系は、前記被測定物から発生する音の周波数が所望の値になるように、前記被測定物内に形成される光スポットのサイズを設定することを特徴とする光音響プローブ。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光音響プローブにおいて、
前記光源からの光を整形するように構成された光学系をさらに備え、
前記光学系は、前記被測定物内に形成される光スポットの形状が、円形の断面が前記被測定物の深さ方向と平行な円柱状になるように前記光源からの光を整形することを特徴とする光音響プローブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物の光吸収係数分布を可視化するイメージング装置や被測定物に含まれる特定の成分の濃度を測定する成分濃度測定装置などに使用される光音響プローブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
糖などの間質液の成分や血管などの空間的な情報は、糖尿病や悪性新生物の早期発見に対して有用である。光音響法は、物質に光を照射したときに、その物質の吸収波長域に応じて局所的な熱膨張により音波が生じることを利用して物質の光吸収特性を知る方法である(特許文献1参照)。また、光音響法で生じる音波は、超音波の一種であり、光に比べて波長が長いため、被測定物の散乱の影響を受け難い。このため、光音響法は、生体などの散乱の大きい被測定物内の光の吸収特性を可視化する手法として注目されている。
【0003】
励起光を集光した光スポットで被測定物を走査し、被測定物の各位置で発生する超音波を音響センサ等で検出する手法が用いられている。光スポットで被測定物を走査した場合に、被測定物内に吸収物質が存在すると超音波が発生するので、その超音波を検出することにより、被測定物の光吸収特性を可視化することができる。また、被測定物に対して一様に励起光を照射し、励起光を照射してから音響センサが超音波を受音するまでの時間に基づいて、光吸収物質が光を吸収して超音波を発生した位置を推定する手法もある。また、被測定物を移動させて光スポットを照射する被測定物上の位置を変化させることにより、被測定物を走査することが行われている。
【0004】
しかしながら、従来の方法では、超音波を取得するために音響センサを被測定物と接触させて、超音波が伝搬する経路(音響整合層)を形成する必要があることから、利用シーンが制約されるという課題があった。図11に示すようにイメージング装置100のインタフェイス部101のみを例えば生体102の腕等に装着して光吸収係数分布を測定することは困難であった。すなわち、従来の装置では、測定部位は一点であり、被測定物の光吸収係数分布を得るためには、音響センサが搭載されたインタフェイス部と被測定物との相対位置を変化させて多数回測定を行う必要があった。このため、測定に時間がかかり、さらにインタフェイス部と被測定物との接触状態が変化してしまうため、正確なデータが得られないという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-79125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、被測定物との接触状態を変えることなく光スポットで被測定物を走査することができる光音響プローブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光音響プローブは、1乃至複数の光を放射するように構成された光源と、軸方向が被測定物の深さ方向と平行になるように配置され、前記被測定物から発生した音を検出するように構成された音響センサと、前記光源からの光を前記被測定物に伝えると共に、前記光源からの光の照射によって前記被測定物から発生した音を前記音響センサに伝えるように構成された伝搬部材と、前記伝搬部材内に設けられ、前記光源からの光を反射し、反射した光を前記音響センサの軸方向に沿って前記被測定物に照射するように構成された反射部材と、前記光源から前記反射部材への光の入射位置を変えることが可能な掃引機構とを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、被測定物との接触状態を変えることなく光スポットで被測定物を走査することができる。本発明では、光音響プローブと被測定物との相対位置を変化させる必要がないので、被測定物の光吸収係数分布の測定や成分濃度の測定に要する時間を短縮することができる。また、本発明では、測定中に光音響プローブと被測定物との接触状態が変化しないので、測定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施例に係るイメージング装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、音響センサによって検出された音圧の時間変化を示す図である。
図3図3は、本発明の実施例に係るイメージング装置の掃引機構の1例を示す図である。
図4図4は、本発明の実施例に係るイメージング装置の掃引機構の別の例を示す図である。
図5図5は、本発明の実施例に係るイメージング装置の掃引機構の別の例を示す図である。
図6図6は、本発明の実施例に係るイメージング装置の掃引機構の別の例を示す図である。
図7図7は、本発明の実施例に係るイメージング装置の掃引機構の別の例を示す図である。
図8図8は、被測定物から発生する超音波の周波数と光スポットの半径との関係を示す図である。
図9図9は、被測定物内に形成される円柱状の光スポットの例を示す図である。
図10図10は、本発明の実施例に係るイメージング装置を実現するコンピュータの構成例を示すブロック図である。
図11図11は、従来の光音響法の測定形態の1例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[発明の原理]
被測定物から発生する音波を電気信号に変換する音響センサは、平面波が垂直に入射する場合に検出感度が最も高くなるように設計されている。本発明では、音響センサの直下に音源が位置するように光を選択的に音響センサ直下の被測定物に誘導し、かつ被測定物からの音波を阻害することなく選択的に音響センサに誘導する機構を用いる。これにより、装置のインタフェイス部と被測定物との接触状態を変えることなく光スポットで被測定物を走査し、被測定物の3次元的な光吸収特性の情報を取得する。
【0011】
また、被測定物から発生する音波の周波数は、光スポットによって変化する。光の吸収コントラストが小さい間質液成分などが測定対象の場合、血球などを測定対象とする場合と比較して組織の分布を平均化するために広い領域に光を照射する必要がある。広い領域に光を照射すると、発生する超音波の周波数が1MHz程度となり、血球などを測定対象とする場合に発生する数MHz~数百MHzの超音波に対して低い周波数となる。その結果、音響レンズなどによる集音効果が極端に減少する。そこで、本発明では、被測定物から発生する音波の周波数が所望の値(音響センサの感度帯域)になるように、被測定物内に形成される光スポットのサイズを設定することで高感度な測定を実現する。
【0012】
[実施例]
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1は本発明の実施例に係るイメージング装置の構成を示すブロック図である。イメージング装置は、光音響プローブ1と、光音響プローブ1で受音した音に基づいて被測定物20の光吸収係数分布を演算する演算部2と、演算部2の演算結果を保存する記録部3とから構成される。
【0013】
光音響プローブ1は、1乃至複数の光を放射する光源10と、光源10からの光の集光やビーム整形を行う光学系11と、光音響効果によって被測定物20から発生した音を受音して、音圧に比例した電気信号に変換する音響センサ12と、光学系11からの光を被測定物20に伝えると共に、被測定物20から発生した音を音響センサ12に伝える伝搬部材13と、伝搬部材13内に設けられ、光学系11からの光を反射し、反射した光を音響センサ12の軸方向に沿って被測定物20に照射する反射部材14と、伝搬部材13と被測定物20との間に設けられた光透過性の音響整合層15と、光学系11から反射部材14への光の入射位置を変えることにより光スポットで被測定物20を走査する掃引機構16とから構成される。
【0014】
本実施例では、被測定物20の表面と平行な方向をX方向、Y方向とし、被測定物20の深さ方向をZ方向とする。
図1に示すように、光音響プローブ1は、音響整合層15が被測定物20の表面と接触し、音響センサ12の軸方向(最も感度が高い方向)が被測定物20の深さ方向と略平行になるように設置される。
【0015】
光音響プローブ1の光源10としては、例えばレーザダイオード等の発光素子を使用することができる。光学系11については後述する。音響センサ12の例としては、圧電センサを用いるマイクロホンがある。
【0016】
伝搬部材13の材料としては、利用する光に対して透過率の高い材料が使用できる。可視光から近赤外光の領域では、例えば表1のように伝搬部材13の材料として光透過性のプラスチック、光透過性のガラス、光透過性のゴム、水などがある。ただし、水を用いる場合には、例えば光透過性のプラスチック等で形成した中空の部材内に水を封入する必要がある。
【0017】
【表1】
【0018】
反射部材14としては、金属あるいは誘電体膜を用いることができる。音響センサ12の軸方向に対して垂直な方向(図1のX方向)に沿って光学系11から伝搬部材13に励起光30を入射させる場合、反射部材14は、X方向およびZ方向に対して45度の角度を有するように伝搬部材13内に配置された平板状の金属あるいは誘電体膜である。反射部材14に対する励起光30の入射位置を掃引機構16によってXYZ方向に沿って移動させることにより、被測定物20内の光スポットの位置を移動させることができる。
【0019】
また、反射部材14は、光音響効果によって被測定物20から発生した超音波31の伝搬を妨げないために超音波31の波長より十分薄いことが望ましく、1/10程度以下であることが望ましい。
図2は音響センサ12によって検出された音圧の時間変化を示す図である。図2のt1は光源10から光を照射した時刻、t2は音響センサ12で超音波31を受音した時刻である。音の波長λは、一般に音速cと周波数fの関係より下記のように表すことができる。
λ=c/f ・・・(1)
【0020】
音響的特性と光学的特性から、伝搬部材13の材料として用いることが考えられる材料は上記のとおりである。反射部材14に許容される厚さは、超音波31の中心周波数を1MHz、被測定物20を生体とした場合、伝搬部材13に用いられる各種材料に対して表1に示した値となる。反射部材14として金属あるいは誘電体膜を用いる場合、一般に数百nm程度の厚さがあれば十分である。超音波31の周波数が100MHzと高い場合でも超音波31の波長は15μm程度なので、反射部材14は十分に薄く、超音波31の伝搬を妨げることはない。
【0021】
反射部材14の反射面140と反対側の面141には、励起光30は入射しない。この励起光30が入射しない面141に音響整合層(不図示)を形成しておくと、励起光30の走査を左右する光学特性を変化させないので望ましい。
【0022】
伝搬部材13の大きさは、光学系11の焦点距離と伝搬部材13の材質の屈折率とを考慮して設計する必要がある。具体的には、被測定物20内の光スポットの位置までの光路長を確保することができ、かつ被測定物20の広い範囲にわたって光スポットを走査できるように十分な作動距離(反射部材14の十分な面積)を持つように設計する必要がある。
【0023】
反射部材14の反射面140上のあらゆる点で反射する光の光路長が等しくなることが、光学的な損失を一様にすることから望ましい。伝搬部材13の断面形状としては、正方形などが考えられる。
【0024】
励起光30としてコリメートされた平行光を用いる場合、被測定物20の深さ方向の走査をしなくてもよい。被測定物20内の吸収物質の深さ方向の位置DZ(被測定物20の表面から吸収物質までの距離)は、被測定物20内における既知の音速v1と、伝搬部材13内における既知の音速v2と、伝搬部材13内の既知の音路長SLと、光源10から光を照射した時刻t1と、音響センサ12で超音波31を受音した時刻t2とに基づいて、次式により推定してもよい。
DZ=v1×{t2-t1―SL/v2} ・・・(2)
【0025】
一般に、第1の媒質から第2の媒質へ音が伝搬する場合に、第1の媒質の音響インピーダンスをZ1、第2の媒質の音響インピーダンスをZ2とすると、音のエネルギ透過率Tは次式により表される。
T=(4×Z2)/(Z1+Z2)2 ・・・(3)
【0026】
図1の例では、被測定物20が第1の媒質、伝搬部材13が第2の媒質である。被測定物20からの超音波31を効率的に取得するためには、被測定物20と伝搬部材13との間に音響整合層15を設けることが望ましい。上記の第1の媒質と第2の媒質との間に音響インピーダンスZMの第3の媒質を挿入した場合、音のエネルギ透過率Tは次式により表すことができる。
T=4×(Z1/ZM)×(1+tan(A)2)/((Z1/Z2+1)2
+(Z1/ZM+ZM/Z2)2×tan(A)2) ・・・(4)
A=2π×L/λ ・・・(5)
【0027】
式(5)のLはZ方向の第3の媒質の厚さである。エネルギ透過率Tを最大にするために、第3の媒質に求められる音響インピーダンスZMと厚さLは、下記のようになる。
ZM=(Z1×Z2)0.5 ・・・(6)
L=1/4λ ・・・(7)
【0028】
第3の媒質である音響整合層15として、例えばガラスを用いる場合、音響インピーダンスZMが凡そ4MRaylとなる材質を使用すればよい。音響整合層15は、Z方向に複数枚を重ねるようにして設けてもよい。具体的には、生体との音響インピーダンスの差が大きいガラスなどの材質を音響整合層15として用いる場合に、励起光の損失などの光学的な特性に影響を与えない範囲で、生体と伝搬部材13との間で段階的に整合がとれるように音響整合層15を複数枚使用してもよい。
【0029】
上記のとおり、掃引機構16は、反射部材14に対する励起光30の入射位置をXYZ方向に沿って移動させる。これにより、被測定物20内の光スポットの位置を変えることができる。特に、光学系11により光を集光する場合、X方向に沿って光学系11を移動させることにより、被測定物20内で集光する光スポットの位置を変えることができる。本実施例では、被測定物20と光音響プローブ1との接触状態を変えることなく励起光30を照射する位置を変えて、光スポットで被測定物20を走査することができ、被測定物20の3次元的な光吸収係数分布を得ることができる。
【0030】
図3図7は掃引機構16の例を示す図である。図3の掃引機構16は、光源10と光学系11とをXYZ方向に沿って移動させることが可能な3軸マニピュレータ160からなる。
【0031】
図4の掃引機構16は、例えばX方向の軸を中心とする回動が可能なミラー161と、例えばY方向の軸を中心とする回動が可能なミラー162とからなる。ミラー161は、光学系11からの励起光30を反射する。ミラー162は、ミラー161によって反射された励起光30をさらに反射して反射部材14に入射させる。ミラー161,162をそれぞれ回動させることにより、反射部材14に対する励起光30の入射位置を変えることができ、被測定物20内の光スポットの位置を変えることができる。
【0032】
図5の掃引機構16は、音響光学素子(AOM:Acousto-Optic Modulator)163と、収束レンズ164とからなる。AOM163は、光学系11からの励起光30を偏向させる。収束レンズ164は、AOM163からの励起光30を収束して反射部材14に入射させる。AOM163によって励起光30の偏向角を変えることにより、反射部材14に対する励起光30の入射位置を変えることができ、被測定物20内の光スポットの位置を変えることができる。
【0033】
図6の掃引機構16は、光学系11aからの光を反射するミラー165と、ミラー165によって反射された光のうち特定の光を選択的に反射部材14に入射させるミラーアレイデバイス166とからなる。図6の例では、光源として、例えばレーザダイオード等の発光素子がYZ平面に沿って2次元配置されたアレイ光源10aを用いる。光学系11aは、アレイ光源10aの複数の発光素子からの光をそれぞれ集光して、複数の平行光に変換する。ミラー165は、光学系11aからの複数の平行光を反射する。
【0034】
ミラーアレイデバイス166としては、回転軸に平行または傾いて設けられた複数の反射面が2次元配置されたポリゴンミラー、2次元配置された複数のマイクロミラーが独立に回動可能なMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラーアレイデバイスがある。ミラーアレイデバイス166としてポリゴンミラーを用いる場合、ポリゴンミラーを回動させることにより、ミラー165によって反射された複数の平行光のうち特定の平行光のみが励起光30として反射部材14に入射し、残りの平行光が反射部材14に入射しないようにすることができる。ミラーアレイデバイス166としてMEMSミラーアレイデバイスを用いる場合、複数のマイクロミラーを個別に回動させることにより、ミラー165によって反射された複数の平行光のうち特定の平行光のみが励起光30として反射部材14に入射し、残りの平行光が反射部材14に入射しないようにすることができる。こうして、反射部材14に対する励起光30の入射位置を変えることができる。
【0035】
図7の掃引機構16は、光学系11aからの光のうち特定の光を選択的に通過させる光スイッチ167と、複数の光ファイバを束ねたバンドルファイバ168とからなる。図7の例においても、光源としてアレイ光源10aを用いる。光スイッチ167は、光学系11aからの複数の平行光のうち特定の平行光のみを通過させ、残りの平行光を遮断する。光スイッチ167を通過した特定の平行光のみがバンドルファイバ168に入射し、バンドルファイバ168から出射した光が励起光30として反射部材14に入射する。光スイッチ167による光の選択を切り替えることにより、反射部材14に対する励起光30の入射位置を変えることができ、被測定物20内の光スポットの位置を変えることができる。
【0036】
光音響効果によって被測定物20から発生する超音波31の周波数と光スポットの半径との関係を図8に示す。図8の80は被測定物20内の光スポットの半径が0.5mmの場合の超音波31の周波数を示し、81は光スポットの半径が1.0mmの場合の超音波31の周波数を示し、82は光スポットの半径が1.5mmの場合の超音波31の周波数を示している。このように、超音波31の周波数は、光スポットのサイズによって変化する。
【0037】
そこで、被測定物20内のmmオーダー程度の空間的広がりを持つ比較的大きい組織を測定対象とする場合に、光学系11,11aによって光スポットのサイズを調整することにより、被測定物20から発生する超音波31を、音響センサ12の感度が高い周波数に調整したり伝搬効率が良い1MHz以下の周波数に調整したりすることができる。光スポットのサイズを調整するには、ビームウェストサイズや焦点深度などを調整すればよい。このような調整が可能な光学系11,11aは、ビームエキスパンダ、凸レンズ、凹レンズなどの一般的な光学素子の組み合わせで実現できる。
【0038】
また、被測定物20内に一様に分布しているものを測定対象とする場合、光スポットのサイズだけでなく形状も任意に変更してよい。例えば図9に示すように被測定物20内に形成される光スポット200の形状を、円形の断面がZ方向と平行な円柱状にすると共に、円柱の半径を調整することで、測定物20から発生する超音波31を、音響センサ12の感度が高い周波数に調整したり伝搬効率が良い周波数に調整したりすることができ、測定の高感度化を実現することができる。このような調整が可能な光学系11,11aは、ビームエキスパンダ、凸レンズ、凹レンズ、シリンドリカルレンズ、アナモフィックレンズ、プリズムなどの一般的な光学素子の組み合わせで実現できる。
【0039】
演算部2は、掃引機構16を制御する。また、演算部2は、音響センサ12で受音した音に基づいて被測定物20の光吸収係数を演算することが可能である。上記のとおり、光スポットで被測定物20を走査するので、被測定物20の光吸収係数分布を得ることができる。記録部3は、演算部2の演算結果を保存する。
【0040】
また、本実施例では、光音響プローブ1をイメージング装置に適用する例で説明しているが、成分濃度測定装置に適用してもよい。この場合、演算部2は、音響センサ12での検出結果から得られる信号強度または信号周波数の少なくとも一方に基づいて、被測定物20に含まれる測定対象の成分の濃度を演算する。成分濃度の演算方法は、例えば特許文献1に開示されている。
【0041】
本実施例で説明した演算部2と記録部3とは、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置およびインタフェイスを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このコンピュータの構成例を図10に示す。コンピュータは、CPU300と、記憶装置301と、インタフェイス装置(以下、I/Fと略する)302とを備えている。I/F302には、例えば音響センサ12と光源10,10aと掃引機構16等が接続される。このようなコンピュータにおいて、本発明の光吸収係数測定方法または成分濃度測定方法を実現させるためのプログラムは記憶装置301に格納される。CPU300は、記憶装置301に格納されたプログラムに従って本実施例で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、例えば被測定物の光吸収係数分布または成分濃度分布を測定する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1…光音響プローブ、2…演算部、3…記録部、10…光源、10a…アレイ光源、11,11a…光学系、12…音響センサ、13…伝搬部材、14…反射部材、15…音響整合層、16…掃引機構、20…被測定物、160…3軸マニピュレータ、161,162,165…ミラー、163…音響光学素子、164…収束レンズ、166…ミラーアレイデバイス、167…光スイッチ、168…バンドルファイバ。
図1
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