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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】ウェーハの両面研磨方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/08 20120101AFI20221101BHJP
   B24B 53/017 20120101ALI20221101BHJP
   B24B 53/12 20060101ALI20221101BHJP
   B24B 37/24 20120101ALI20221101BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
B24B37/08
B24B53/017 A
B24B53/12 Z
B24B37/24 C
H01L21/304 621A
H01L21/304 622F
H01L21/304 622M
H01L21/304 622N
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022069490
(22)【出願日】2022-04-20
【審査請求日】2022-08-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑宜
(72)【発明者】
【氏名】天海 史郎
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-23617(JP,A)
【文献】特開2002-217149(JP,A)
【文献】特開2020-157449(JP,A)
【文献】特開2020-171996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/08
B24B 53/017
B24B 53/12
B24B 37/24
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨布がそれぞれ貼付された上定盤と下定盤との間にウェーハを挟み込み、該ウェーハの両面に前記研磨布を摺接させて両面研磨加工を施すウェーハの両面研磨方法であって、
算術平均粗さRaが100nm以上、かつ、負荷面積率Smr1が10%以上の表面モフォロジを有するウェーハを準備し、
該準備したウェーハに前記両面研磨加工を施すことにより、前記ウェーハの表面モフォロジで前記研磨布をドレッシングしつつ、前記準備したウェーハの両面を研磨することを特徴とするウェーハの両面研磨方法。
【請求項2】
前記両面研磨加工において、研磨レートを0.1μm/min以上とすることを特徴とする請求項1に記載のウェーハの両面研磨方法。
【請求項3】
前記研磨布として、ショアA硬度が70~90の発泡ポリウレタンパッドを用いることを特徴とする請求項1に記載のウェーハの両面研磨方法。
【請求項4】
前記研磨布として、ショアA硬度が70~90の発泡ポリウレタンパッドを用いることを特徴とする請求項2に記載のウェーハの両面研磨方法。
【請求項5】
前記両面研磨加工を施すウェーハとして、シリコンの1次ラマンピークのシフト量が0.1cm-1以下のシリコンウェーハを準備することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のウェーハの両面研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェーハ等のウェーハ(ワーク)を両面研磨する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコンウェーハの製造では、単結晶シリコンインゴットをスライスしてシリコンウェーハを作製した後、このウェーハに対して面取り、ラッピング、エッチング等の各工程が順次なされ、次いで少なくともウェーハの一主面を鏡面化する研磨が施される。研磨工程では、ウェーハの片面を研磨する片面研磨装置のほか、ウェーハの両面を同時に研磨する両面研磨装置が用いられ、研磨布を貼付した定盤を一定方向に回転させるとともに研磨剤を供給しながらウェーハの表面を研磨布に接触させて研磨が行われる。
【0003】
両面研磨装置としては、通常、発泡ポリウレタンや不織布などからなる研磨布が貼付された上定盤と下定盤を具備し、中心部に太陽ギヤが、外周部にインターナルギヤがそれぞれ配置された遊星歯車構造を有するいわゆる4way方式のものが用いられている。シリコンウェーハを研磨する場合には、キャリアプレート(単にキャリアとも呼ぶ)に複数形成されたウェーハ保持孔(ワークホール)の内部にウェーハを挿入・保持し、その上方から研磨用のスラリー(研磨剤)をウェーハに供給し、上下の定盤を回転させながら上定盤と下定盤の対向する研磨布をウェーハの表裏両面に押し付けるとともに、キャリアプレートを太陽ギヤとインターナルギヤとの間で自転および公転させることで各ウェーハの両面を同時に研磨することができる。
【0004】
また、他の形態の両面研磨装置として、上下の定盤の間に挟まれたキャリアプレートを自転させずに、小さな円を描くように円運動をさせて両面研磨を行う装置も知られており(例えば特許文献1参照)、ウェーハの大口径化に伴い、このような形態の両面研磨装置が用いられるようになってきている。
【0005】
一方、研磨布としては、例えば発泡ポリウレタンタイプの研磨パッドが使用され、特に近年ウェーハの高平坦度化ならびにウェーハ表面の微小な凹凸を修正することを目的として、高硬度研磨パッドが使用されつつある。
【0006】
このような研磨技術において、研磨装置で同じ研磨布を用いて研磨を続けていると、製造される両面研磨ウェーハの形状が徐々に変化してしまうという問題がある。
【0007】
これは主に研磨布のライフに起因しており、研磨布の圧縮率の変化や目詰まり等が影響し、使用頻度が増えるにつれウェーハ形状が異なるようになり、ウェーハの外周部が過剰に研磨されて、いわゆる外周ダレが生じ易くなる。
【0008】
そこで、このようなウェーハ形状の変化を防ぐため、研磨布表面のドレッシングが定期的にあるいは常時行われている。例えば両面研磨装置に用いられる研磨布のドレッシングを行うには、一般的に、複数個の保持孔を有するドレッシング専用のキャリアプレートあるいはウェーハの研磨に使用するものと同じキャリアプレートにドレッシングプレートをセットし、これを上定盤と下定盤との間に挟んで通常の研磨と同じように装置を稼動させることで上下両方の研磨布が同時にドレッシングされる。
【0009】
不織布タイプの研磨布に対するドレッシングの目的は不織布繊維の弾性変形を小さくするようにドレッシングプレートで圧力を加え押しつぶすことであった。つまり、クリープ変形をさせた状態でウェーハを研磨することが好ましく、ドレッシング時の定盤の回転方向を、研磨時の定盤の回転方向と同じにしてドレッシングが行われている。一方、高硬度の発泡ポリウレタン研磨パッドに対しては、研磨能力を安定かつ向上させるためには、不織布タイプの研磨布の場合のような圧縮を目的としたドレッシングよりも、むしろ、研磨布表面を毛羽立てるような目立て(一般的に「起毛」とも呼ばれている)を行うことが重要となっている。このような目立てを十分に行うために、高硬度の研磨布にドレッシングプレートの両面にダイヤモンドペレット等を貼り付けたもの(ダイヤモンドドレッサ)が使用される場合がある。これらを用いて研磨布表面の目立てが行われる。
【0010】
つまり、研磨パッド表面の目立てによるフラットネス改善を目的として、ダイヤモンドドレッサを代表としたドレッシングが採用されていた。
【0011】
但し品質、特にエッジフラットネスを維持するためにドレッシングを多用してしまうと、スループットや生産性が低下してしまうという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開平10-202511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
シリコンウェーハ等のウェーハを研磨するには研磨布の表面状態が特に重要である。高平坦度のウェーハを長期にわたって安定して得るため、また研磨布のライフを向上させるためにドレッシングが行われるが、前述したようなドレッシングを定期的にあるいは常時行っても研磨剤の目詰まりによりウェーハの外周ダレが生じる等の問題があった。ドレッシングが十分に行われないと研磨布への研磨剤の目詰まりが早く進み、ドレッシング後でもすぐにウェーハの外周ダレが生じて高平坦度のウェーハを製造することが困難であった。
【0014】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、従来のドレッシング方法以外でのアプローチで研磨布の目立てをし、エッジフラットネスを維持して高平坦度なウェーハを得ることができるウェーハの両面研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明は、研磨布がそれぞれ貼付された上定盤と下定盤との間にウェーハを挟み込み、該ウェーハの両面に前記研磨布を摺接させて両面研磨加工を施すウェーハの両面研磨方法であって、
算術平均粗さRaが100nm以上、かつ、負荷面積率Smr1が10%以上の表面モフォロジを有するウェーハを準備し、
該準備したウェーハに前記両面研磨加工を施すことにより、前記ウェーハの表面モフォロジで前記研磨布をドレッシングしつつ、前記準備したウェーハの両面を研磨することを特徴とするウェーハの両面研磨方法を提供する。
【0016】
このような本発明のウェーハの両面研磨方法であれば、上記のような表面モフォロジにより、両面研磨加工の初期に研磨布のドレッシングを効果的に行うことができ、研磨布の目立てを兼ねつつウェーハの両面を研磨することができる。したがって、たとえ同じ研磨布で研磨を続けても(研磨を複数バッチ行っても)、外周ダレの発生を抑制することができ、エッジフラットネスが良好で高平坦度な両面研磨ウェーハを安定して得ることができる。しかも、ダイヤモンドドレッサ等を用いた従来のドレッシングを別個に行う必要性をなくしたり、あるいはその頻度を抑制することができ、全体として両面研磨ウェーハの生産性を向上させることができる。
【0017】
このとき、前記両面研磨加工において、研磨レートを0.1μm/min以上とすることができる。
【0018】
このような比較的早い研磨レートとすることで、より安定して研磨布のドレッシングを行うことができる。
【0019】
また、前記研磨布として、ショアA硬度が70~90の発泡ポリウレタンパッドを用いることができる。
【0020】
このような研磨パッドは一般的によく用いられており、外周ダレやライフによる悪化が生じやすいものであるため、上記表面モフォロジによるドレッシング効果を有する本発明の両面研磨方法は好適である。
【0021】
また、前記両面研磨加工を施すウェーハとして、シリコンの1次ラマンピークのシフト量が0.1cm-1以下のシリコンウェーハを準備することができる。
【0022】
上記の表面モフォロジは歪がある単結晶シリコンで形成されていると研磨で除去され易くなるが、シリコンの1次ラマンピークのシフト量が上記のようなものであれば歪のない単結晶シリコンからなるものとなり、上記の表面モフォロジが研磨で容易に除去されてしまうのを防ぐことができる。そのため、より確実にドレッシング効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のウェーハの両面研磨方法であれば、ウェーハの両面研磨を行うと同時に研磨布の表面を十分にドレッシングすることができる。そのため、ウェーハの両面研磨加工とは別に行っていた従来のドレッシングの頻度を著しく低減することができる。そのため生産性高く、高平坦度の両面研磨ウェーハを安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明のウェーハの両面研磨方法の一例を示すフロー図である。
図2】本発明の両面研磨方法に使用することができる両面研磨装置の一例を示す縦断面図である。
図3】平面視による両面研磨装置の一例を示す内部構造図である。
図4】キャリアの別の形態の例(複数のワークホールを有する例)を示す概略説明図である。
図5】本発明の両面研磨方法で準備したウェーハの表面の一例を示すSEM観察図である。
図6】実施例1、比較例1、2の加工バッチ数とESFQRmaxとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について図を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
前述したように、両面研磨加工において同じ研磨布を使い続けると研磨剤の目詰まりが生じ、両面研磨ウェーハのエッジフラットネスが悪化してしまう(外周ダレの発生)。これを解消するため、研磨布表面のドレッシングを行なうにしても、十分に行われないとすぐに外周ダレが発生してしまうし、その一方でドレッシングを多用すると両面研磨ウェーハの生産性が低下してしまう。
そこで本発明者らが鋭意研究を行ったところ、両面研磨前の原料(研磨対象)となるウェーハを一定の表面条件で事前に準備し、これに両面研磨加工を施すことで、両面研磨加工の初期において、その研磨されるウェーハの自己の表面状態により(表面粗さにより)研磨布をドレッシングしつつ、ウェーハ自体も両面を研磨することができ、最終的にはフラットネスを維持したまま両面研磨加工を終了することができることを見出した。すなわち、両面研磨前のウェーハとして、算術平均粗さRaが100nm以上、かつ、負荷面積率Smr1が10%以上の表面モフォロジを有するウェーハを準備して両面研磨することで、その両面研磨において研磨布の目立てを行うことができるとともに、良好なエッジフラットネスを維持して高平坦度なウェーハを得ることができる。本発明者らはこれらのことを見出し、本発明を完成させた。
【0026】
図2は本発明のウェーハの両面研磨方法に使用することができる両面研磨装置の一例の縦断面図であり、図3は平面視による両面研磨装置の内部構造図である。ここでは4way方式の装置について説明するが、本発明はこれに限定されず、キャリアを自転させずに小さな円を描くように円運動をさせて両面研磨を行う特許文献1のような装置にも適用することができる。
【0027】
両面研磨装置1は複数の両面研磨用のキャリア2を具備しており、下定盤3と、該下定盤3の上方に上下動自在に支持された上定盤4を備えており、各定盤3、4の対向面側には、それぞれ研磨布5が貼付されている。これにより、下定盤3の上面と上定盤4の下面が研磨面となっている。キャリア2は下定盤3と上定盤4との間に配置される。
【0028】
上定盤4は、支持フレーム(不図示)に配設された駆動装置によって、軸線を中心に回転自在に設けられている。また、上定盤4は、上下動機構として例えばシリンダ装置により上下動可能となっている。下定盤3はモータ(不図示)によって回転駆動される。また、下定盤3は、その下面をリング状の支持ベアリング(不図示)によって支持されている。
また、上定盤4の上部には、上定盤4と下定盤3の間にスラリーを供給するスラリー供給機構6(ノズル7、および上定盤4の貫通孔8)が設けられている。図2では簡単のため上定盤4における貫通孔8は1つのみ記載したが、特には複数箇所に設けることができる。
なお、図2、3に示すように、上定盤4と下定盤3の間の中心部には太陽ギヤ(内側ピン歯車)9が、周縁部にはインターナルギヤ(外側ビン歯車)10が設けられており、4way方式の両面研磨装置である。太陽ギヤ9、インターナルギヤ10は公知の機構により回転される。
【0029】
各々のキャリア2は例えば金属製のものとすることができる。キャリア2には、スラリーを通す研磨液孔12の他、ウェーハ(例えばシリコンウェーハ)Wを保持するためのワークホール(透孔)11が偏心した位置に形成されている。ウェーハWの周縁部を金属製のキャリア2によるダメージから保護するために、例えば、樹脂製のインサート材がキャリア2のワークホール11の内周部に沿って取り付けられている。
各キャリア2におけるワークホール11の数は特に限定されず、ワークホール11自体のサイズ(保持するウェーハWのサイズ)等により適宜決定することができる。図3ではキャリア1つにつき1つのワークホールが形成されている場合を例に挙げている。ただし、これに限定されず、例えば図4に示すように、各キャリアに複数のワークホール11が同一円周上に設けるようにしてもよい。
また、上下定盤の間に配設するキャリア2の数は1つでもよいし、複数でもよく特に限定されない。図3では5枚の例を示している。
【0030】
そして、図2図3に示すように、太陽ギヤ9及びインターナルギヤ10の各歯部にはキャリア2の外周歯が噛合しており、上定盤4及び下定盤3が不図示の駆動源によって回転されるのに伴い、複数のキャリア2は自転しつつ太陽ギヤ9の周りを公転する。このときウェーハWはキャリア2のワークホール11で保持されており、上下の研磨布5により両面を同時に研磨される。なお、研磨時には、ノズル7から貫通孔8を通してスラリーが供給される。
【0031】
次に、このような両面研磨装置1を用いた本発明の両面研磨方法について説明する。図1は本発明の両面研磨方法の一例を示すフロー図である。
(ウェーハの準備工程)
まず、研磨対象のウェーハWを準備する。このとき、準備するウェーハWとしては算術平均粗さRaが100nm以上、かつ、負荷面積率Smr1が10%以上の表面モフォロジを有するものとする。なお、負荷面積率Smr1は、表面の負荷曲線において、コア部の上部の高さと負荷曲線の交点における負荷面積率を指す。
ここで、Ra及びSmr1は共焦点レーザー顕微鏡(例えばLasertec製OPTELICS)により測定された視野角100μmの点群データから算出された測定値とすることができる。
算出平均粗さRaは突起部の高低差に相関し、負荷面積率Smr1は突起部の面積率に相関する。これらの値が大きいほど、ウェーハ表面において突起部の起伏と領域が大きいことを意味する。そして上記のような数値範囲の表面状態は、比較的粗く、突起部を多く持った状態である。
【0032】
このような表面モフォロジを有するウェーハを研磨対象として準備する理由について、次の工程である両面研磨加工工程で発生する効果も併せて説明する。このウェーハを両面研磨加工工程にかけることで、特にその工程の初期において、上記の粗い表面モフォロジによって研磨布を十分にドレッシングすることができる。研磨布のドレッシング効果を有するウェーハを利用して、両面研磨加工中にそのウェーハ表面の粗さで研磨布の目立てを行うことが可能である。これにより、研磨布を連続使用している場合に研磨剤による目詰まりが生じてウェーハのエッジフラットネスが悪化して外周ダレが生じるのを防ぐことができ、高平坦度の両面研磨ウェーハを得ることができる。さらには、両面研磨加工中に同時に研磨布のドレッシングを行なうことができるため、両面研磨加工を止めて、ダイヤモンドドレッサ等を用いた従来のドレッシングを行う必要性を無くすこともできる。したがってドレッシングの頻度を著しく減らすことができ、効率良くウェーハの両面研磨を行うことができ、生産性を高めることができる。
【0033】
なお、本発明において、準備するウェーハの表面における算術平均粗さRaや負荷面積率Smr1の上限値は特に限定されない。ドレッシングの観点では、数値が大きいほどドレッシング効果を効果的に奏することができるので好ましい。ただし、最終的に得る両面研磨ウェーハとしては表面粗さを小さくする(鏡面化する)必要があるため、それに要する研磨時間等も考慮すると、例えば算術平均粗さRaの上限値は500nm、負荷面積率Smr1の上限値は15%とすることができる。要求される品質に応じてこれらの上限値は適宜決定できる。
【0034】
ウェーハの準備の際に上記数値範囲の表面モフォロジを得るための方法は特に限定されない。両面研磨加工前は、通常、主にエッチング工程が行われるが、このエッチング工程で用いるエッチャントや取り代、更にはエッチングより前の工程、例えばラッピング工程や研削工程などで表面状態を制御することができる。
例えば、Raが100nm以上となる機械的な加工(ラッピングや研削など)を行った上で、微小な凹凸が形成される異方性をもったエッチングを行うことが好ましい。例えば、アルミナベースの#3000以下の砥粒を用いたラッピングに、KOH、NaOH、TMAHなどのアルカリ水溶液を用いた浸漬式のアルカリエッチングを行い、上述の測定方法で測定の上、選定することができる。
【0035】
ここで、上記数値範囲の表面モフォロジを有するウェーハ表面についてSEMで観察した時の表面状態の一例を図5に示す。微小な突起部を多く持つ表面モフォロジを有するウェーハとなっている。
【0036】
一般的には、研磨対象のウェーハを準備する際、両面研磨加工前の表面状態は粗さが小さくなるようにラッピングや研削、エッチング処理による加工を行うが、本発明では、このように特定の粗さを有するように両面研磨加工前の加工を行う。
【0037】
なお通常の場合の両面研磨加工前のウェーハWの表面状態としては、算術平均粗さRaは100~300nm、負荷面積率Smr1は5~8%である。算術平均粗さRaが本発明における数値範囲と重複しているものの、負荷面積率Smr1は外れている。後述する実施例・比較例で示すように、両方が本発明の数値範囲を満たしていないと十分なドレッシング効果は得られない。
また、そもそも従来ではその表面モフォロジのドレッシング効果の有効性については見出せておらず、わざわざ本発明における数値範囲のものを狙って準備することはなかった。一方で本発明者らはその数値範囲でのドレッシング効果を見出しており、本発明では一般的な考えとは大きく異なり敢えてその比較的大きな数値範囲に該当するものを準備している。そして、それを両面研磨することで上記の格別有利な効果(外周ダレ防止、高平坦度の維持、生産性の向上など)を奏することができる。
【0038】
以上、準備するウェーハの表面状態について説明してきたが、ウェーハの種類としては例えばシリコンウェーハとすることができる。このとき、特にはシリコンの1次ラマンピークのシフト量が0.1cm-1以下のシリコンウェーハとすることができる。具体的には、光源波長532nmのレーザーラマン分光顕微鏡(例えばナノフォトン製RAMANdrive)を用いて得たスペクトルから、シリコンの1次ピーク位置(520cm-1付近)をローレンツ関数によってフィッティングすることで求め、そのピークシフト量を用いることができる。単結晶シリコンの1次ラマンピークが520cm-1であり、そこからどれだけシフトしているかを測定し、0.1cm-1以下のものを選定することが好ましい。このようなシリコンウェーハを選定すれば、歪が極めて少なく、両面研磨加工において上述したような表面モフォロジが容易に研磨除去されてしまってドレッシングが不十分になるのを効果的に防ぐこができる。
【0039】
(両面研磨加工工程)
図2に示すような両面研磨装置1を用意する。ここで研磨布5としては、例えば、ショアA硬度で70~90の発泡ポリウレタンパッドを使用することができる。なお、ショアA硬度はJISK6253に準じて測定した値である。このような研磨布は一般的に使用される研磨布であるが、特に外周ダレやライフによる悪化が発生しやすく、本発明の両面研磨方法を行うことで効果が得られやすい。ただし、本発明で用いる研磨布5はこれに限定されず、例えば不織布タイプのものを用いても良い。
【0040】
そして、両面研磨装置1を用いて、先の工程で準備したウェーハWの両面研磨加工を行う。具体的な手順としては、まず、上下定盤3、4の間にキャリア2を配設する。キャリア2のワークホール11に研磨対象のウェーハWを保持し、上下定盤3、4の間に挟み込む。この後、スラリー供給機構6から各種スラリーを供給するとともに、上下定盤3、4を互いに反対方向に回転させながらウェーハWの両面に上下定盤3、4の研磨布5を摺接させて両面研磨加工を施す。そしてウェーハWを一定の厚さまで両面研磨する。
【0041】
このような本発明の両面研磨方法であれば、先に説明したように、突起部を多く有する比較的粗いウェーハWの表面モフォロジによって研磨布5のドレッシングを十分に行うことができるとともに、同時に該ウェーハWの両面を研磨することができる。特に研磨初期の、まだウェーハWの両面がさほど研磨されていない段階において、効果的なドレッシングが可能である。このように研磨布5のドレッシングを兼ねた両面研磨方法であり、極めて簡便かつ効率的であり、外周ダレの抑制された平坦度の高い高品質の両面研磨ウェーハを安定的に得ることができる上に、スループットや生産性の向上に寄与することができる。
【0042】
この時、ウェーハWを加工する際の研磨レートが0.1μm/min以上となる両面研磨条件にすることが好ましい。このような比較的早い研磨レートとすることで、両面研磨前のウェーハWの表面に存在していた突起部が穏やかに修正されて(研磨されて)ドレッシング効果が少なくなるのを防ぐことができる。これにより、研磨布5のドレッシング効果がより一層安定する。
なお、研磨レートの上限値は特に限定されないが、例えば1.0μm/minとすることができる。
【0043】
0.1μm/min以上の研磨レートにするには、上下定盤3、4によるウェーハWへの荷重または回転数を変えることで対応できる。例えば、定盤に対するキャリアの相対公転数を10rpm以上、荷重を100gf/cmとすることが挙げられる。両面取り代にして例えば1μmを超えればドレッシング効果は十分に発現することから(すなわち、十分な目立てが行われる)、それ以降は求める品質やスループットなどに合わせて研磨レートを適宜変更することができる。このようにして、所望の一定の厚さまで研磨し、主面を鏡面化した両面研磨ウェーハを得ることができる。
【実施例
【0044】
(実施例1)
単結晶インゴットから切り出した直径300mmのスライスウェーハ(シリコンウェーハ)を用意し、ラップ工程およびエッチング工程を施した。このとき、ラップ工程で用いる砥粒粒径や、エッチング工程で用いるエッチャントの濃度、取り代を設定し、算術平均粗さRaが100nm以上、かつ、負荷面積率Smr1が10%以上となるエッチング後のウェーハを準備した。具体的には、#1500の遊離砥粒方式でラップを行ったウェーハに対して、異方性の強いTMAH25wt%、取り代が15μmでエッチングを行った。これらの工程で得られたウェーハ群を先述の方法で測定し(共焦点レーザー顕微鏡により測定された視野角100μmの点群データから算出されたRa、Smr1の測定値)、本発明の条件を満たすものを選定した。
ここではエッチング後の表面モフォロジが、算術平均粗さRaで221nm~304nm、かつ、負荷面積率Smr1が12%~14%となるウェーハを準備した。
【0045】
このようなウェーハを複数枚準備し、図2に示す両面研磨装置1を用い、連続的に加工した。なお、図2に示すように、両面研磨装置1はウェーハを保持するワークホール11を有するキャリア2、上定盤4、及び下定盤3を具備し、研磨剤を供給しながら、キャリア2に保持された複数枚のウェーハを同時に研磨できる装置である。ここでは1バッチ5枚のウェーハを加工できる装置を用いた。
【0046】
研磨布5としてはショアA硬度で78の発泡ポリウレタンパッドを使用した。研磨剤としては、平均粒径35nmのシリカ砥粒の濃度が1.0wt%でKOHベースでpHが10.5前後のものを用いた。ウェーハを加工する際の研磨レートが0.1μm/min以上(より具体的には0.5μm/min)になるように研磨条件(研磨荷重:150gf/cm)を設定した。
なお、連続加工の途中ではドレッシングを行うことなく、複数バッチ(10バッチ)を研磨し、各研磨バッチ毎のESFQRmaxを求めた。
【0047】
ESFQRmaxは各バッチのウェーハ全数をWaferSightで測定し、72SectorsのZoneLength15mmで解析を行って、5枚の平均値を算出した。これをグラフで示したのが図6である。製品要求値で規格化を行い、その相対比として表している。
【0048】
(比較例1)
実施例1と同様の単結晶インゴットから切り出したスライスウェーハを用意し、ラップ条件やエッチング条件を振り、エッチング後の表面モフォロジが、算術平均粗さRaで10nm~21nm、かつ、負荷面積率Smr1が11~13%となるウェーハを準備した。具体的には、#8000の固定砥粒方式で研削を行ったウェーハに対してTMAH25wt%、取り代が10μmでエッチングを行った。これらの工程で得られたウェーハ群を先述の方法で測定し、Ra、Smr1が上記数値範囲のものを選定して準備した。その後、実施例1と同様にして両面研磨加工およびESFQRmaxの測定を行った。
【0049】
(比較例2)
実施例1と同様の単結晶インゴットから切り出したスライスウェーハを用意し、ラップ条件やエッチング条件を振り、エッチング後の表面モフォロジが、算術平均粗さRaで234~307nm、かつ、負荷面積率Smr1が6~8%となるウェーハを準備した。具体的には、#2000の遊離砥粒方式でラップを行ったウェーハに対してNaOH25wt%、取り代が20μmでエッチングを行った。これらの工程で得られたウェーハを先述の方法で測定し、Ra、Smar1が上記数値範囲のものを選定して準備した。その後、実施例1と同様にして両面研磨加工およびESFQRmaxの測定を行った。
【0050】
図6は10バッチ連続で加工した時のESFQRmaxの推移である。
実施例1では加工バッチが進んでもESFQRmaxは安定している。一方、比較例1や比較例2ではESFQRmaxの悪化がみられる。
【0051】
比較例1、2のような推移であれば、途中で従来のような別個のドレッシングを入れるなどして、ESFQRmaxのレベルを改善する必要があるが、本発明の条件による粗いウェーハ(エッチングウェーハ)を用いることで、連続加工してもエッジフラットネスが安定している。長時間ドレッシングを別個に行う必要はなく、エッジフラットネスが維持されやすくなった。両面研磨加工前のウェーハの表面状態の影響(効果)により、研磨布の目詰まりなどが防止され(ドレッシングの作用を発揮し)、高平坦度なウェーハが加工できたことが確認できた。
【0052】
(実施例2)
実施例1と同様の単結晶インゴットから切り出したスライスウェーハを用意し、研削条件やエッチング条件を振り、エッチング後の表面モフォロジが、算術平均粗さRaで100~157nm、かつ、負荷面積率Smr1が10~12%となるウェーハを準備した。具体的には、#2000の固定砥粒方式で研削を行ったウェーハに対して異方性の強いTMAH25wt%、取り代が10μmでエッチングを行った。これらの工程で得られたウェーハを先述の方法で測定し、Ra、Smar1が上記数値範囲のものを選定して準備した。その後、実施例1と同様にして両面研磨加工およびESFQRmaxの測定を行った。
その結果、図6の実施例1とほぼ同様であり、ESFQRmaxは安定していた。
【0053】
本明細書は、以下の態様を包含する。
[1]: 研磨布がそれぞれ貼付された上定盤と下定盤との間にウェーハを挟み込み、該ウェーハの両面に前記研磨布を摺接させて両面研磨加工を施すウェーハの両面研磨方法であって、
算術平均粗さRaが100nm以上、かつ、負荷面積率Smr1が10%以上の表面モフォロジを有するウェーハを準備し、
該準備したウェーハに前記両面研磨加工を施すことにより、前記ウェーハの表面モフォロジで前記研磨布をドレッシングしつつ、前記準備したウェーハの両面を研磨するウェーハの両面研磨方法。
[2]: 前記両面研磨加工において、研磨レートを0.1μm/min以上とする上記[1]のウェーハの両面研磨方法。
[3]: 前記研磨布として、ショアA硬度が70~90の発泡ポリウレタンパッドを用いる上記[1]または上記[2]のウェーハの両面研磨方法。
[4]: 前記両面研磨加工を施すウェーハとして、シリコンの1次ラマンピークのシフト量が0.1cm-1以下のシリコンウェーハを準備する上記[1]から上記[3]のいずれかのウェーハの両面研磨方法。
【0054】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0055】
1…両面研磨装置、 2…キャリア、 3…下定盤、 4…上定盤、
5…研磨布、 6…スラリー供給機構、 7…ノズル、 8…貫通孔、
9…太陽ギヤ、 10…インターナルギヤ、 11…ワークホール、
12…研磨液孔、 W…ウェーハ。
【要約】
【課題】従来のドレッシング方法以外でのアプローチで研磨布の目立てをし、エッジフラットネスを維持して高平坦度なウェーハを得ることができるウェーハの両面研磨方法を提供する。
【解決手段】研磨布がそれぞれ貼付された上定盤と下定盤との間にウェーハを挟み込み、該ウェーハの両面に前記研磨布を摺接させて両面研磨加工を施すウェーハの両面研磨方法であって、算術平均粗さRaが100nm以上、かつ、負荷面積率Smr1が10%以上の表面モフォロジを有するウェーハを準備し、該準備したウェーハに前記両面研磨加工を施すことにより、前記ウェーハの表面モフォロジで前記研磨布をドレッシングしつつ、前記準備したウェーハの両面を研磨するウェーハの両面研磨方法。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6