(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】生体試料の透明化方法及び生体試料脱色剤
(51)【国際特許分類】
G01N 1/30 20060101AFI20221101BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20221101BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
G01N1/30
G01N1/28 J
G01N1/28 F
G01N33/48 P
(21)【出願番号】P 2018150513
(22)【出願日】2018-08-09
【審査請求日】2021-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】坂本 勇貴
(72)【発明者】
【氏名】松永 幸大
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/188264(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/069519(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/147812(WO,A1)
【文献】特開2017-108684(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1849704(KR,B1)
【文献】Junko Hasegawa,Three-Dimensional Imaging of Plant Organs Using a Simple and Rapid Transparency Technique,Plant Cell Physiol.,2016年,57(3),pp.462-472,doi:10.1093/pcp/pcw027
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00- 1/44
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホルムアルデヒドを含む固定剤を用いて生体試料を固定する工程と、
両性界面活性剤を含む脱色剤を用いて生体試料に含まれる色素を除去する工程と、をこの順に備え、
前記生体試料は蛍光タンパク質が導入されており、
前記固定剤のホルムアルデヒドの濃度は0.5質量%以上
1.0質量%以下であり、
前記両性界面活性剤は炭素数が10以上16以下のアルキル基を有するスルホベタイン型両性界面活性剤である、生体試料の透明化方法。
【請求項2】
前記脱色剤はアルカリ性である、請求項1に記載の生体試料の透明化方法。
【請求項3】
前記生体試料に含まれる色素を除去する工程の後に、イオヘキソールを含む封入剤を用いて前記生体試料を封入する工程をさらに備える、請求項1又は請求項2に記載の生体試料の透明化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料の透明化方法及び生体試料脱色剤に関する。
【背景技術】
【0002】
植物、動物等の生体由来の試料を観察する際に、試料に含まれる色素を除去して視認性を高める(透明化)方法が種々検討されている(例えば、非特許文献1参照)。植物由来の試料を透明化する方法としては、ホルムアルデヒドで固定した試料を尿素、非イオン性界面活性剤(TritonX-100)及びグリセロールを含む試薬で処理する方法(Warnerらの方法)、尿素、アニオン性界面活性剤であるデオキシコール酸ナトリウム及びキシリトールを含む試薬(ClearSee)で処理する方法、試料を包埋したアクリルアミドゲルをアニオン性界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウムで処理する方法(PEA-CLARITY)などが提案されている。
【0003】
これらの方法は、試料の脱色を界面活性剤により行うため、有機溶媒等を用いる場合に比べて試料に導入された蛍光タンパク質が失活しにくく、透明化後の蛍光タンパク質の蛍光を観察する場合に適している。一方、処理の完了までに数日から数週間を要するため、処理時間の短縮化の面で改善の余地がある。
【0004】
試料中の蛍光タンパク質の失活を抑制しながら試料の透明化を短時間で達成できる方法としては、段階的に濃度を上げた2,2’-チオジエタノールによりホルムアルデヒドで固定した試料を処理する方法(TOMEI-II)が提案されている。この方法では、数時間から1日程度で試料を透明化することができる一方、色素の除去率の面で改善の余地がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】顕微鏡 Vol.51、Mp.3(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、生体試料を観察する目的や手法に応じた要請に応えるために、生体試料を透明化する多様な手法の開発が待たれている。
本発明は上記事情に鑑み、新規な生体試料の透明化方法及び生体試料脱色剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を達成するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1>両性界面活性剤を含む脱色剤を用いて生体試料に含まれる色素を除去する工程を備える、生体試料の透明化方法。
<2>前記両性界面活性剤はベタイン型両性界面活性剤である、<1>に記載の生体試料の透明化方法。
<3>前記両性界面活性剤は炭素数10以上のアルキル基を有するスルホベタイン型両性界面活性剤である、<1>又は<2>に記載の生体試料の透明化方法。
<4>前記脱色剤はアルカリ性である、<1>~<3>のいずれか1項に記載の生体試料の透明化方法。
<5>前記生体試料に含まれる色素を除去する工程の前に、ホルムアルデヒドを含む固定剤を用いて前記生体試料を固定する工程をさらに備え、前記固定剤のホルムアルデヒドの濃度が2質量%以下である、<1>~<4>のいずれか1項に記載の生体試料の透明化方法。
<6>前記生体試料に含まれる色素を除去する工程の後に、イオヘキソールを含む封入剤を用いて前記生体試料を封入する工程をさらに備える、<1>~<5>のいずれか1項に記載の生体試料の透明化方法。
<7>両性界面活性剤を含む、生体試料脱色剤。
<8>前記両性界面活性剤はベタイン型両性界面活性剤である、<7>に記載の生体試料脱色剤。
<9>前記両性界面活性剤は炭素数10以上のアルキル基を有するスルホベタイン型両性界面活性剤である、<7>又は<8>に記載の生体試料脱色剤。
<10>前記脱色剤はアルカリ性である、<7>~<9>のいずれか1項に記載の生体試料脱色剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、新規な生体試料の透明化方法及び生体試料脱色剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】試料の脱色条件の評価結果を示すグラフである。
【
図2】試料の固定条件の評価結果を示すグラフである。
【
図3】試料の封入条件の評価結果を示すグラフである。
【
図5】実施例で作製した試料の蛍光顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
本明細書において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
【0011】
<生体試料の透明化方法>
本開示の生体試料の透明化方法は、両性界面活性剤を含む脱色剤を用いて生体試料に含まれる色素を除去する工程(脱色工程)を備える。
【0012】
両性界面活性剤を含む脱色剤は、他の界面活性剤を含む脱色剤に比べて生体試料に含まれる色素の除去効率に優れ、高い透明度を実現できる。また、有機溶媒等を用いる場合に比べて試料中の蛍光タンパク質の失活が抑制されるため、蛍光を観察する場合にも好適である。
【0013】
(脱色工程)
脱色工程を実施する方法は特に制限されず、一般的な手法で行うことができる。例えば、両性界面活性剤を含む脱色剤に試料を接触させた状態で、所望の透明度が得られるまで放置することで行うことができる。
【0014】
脱色剤に含まれる両性界面活性剤の種類は特に制限されず、公知の両性界面活性剤から試料中の色素を除去しうるものを選択して用いることができる。中でもベタイン型両性界面活性剤が好ましく、スルホベタイン型両性界面活性剤がより好ましい。脱色剤に含まれる両性界面活性剤は、1種のみでも2種以上の組み合わせであってもよい。
【0015】
スルホベタイン型の両性界面活性剤の中でも、色素の除去効率の観点からは、炭素数が炭素数10以上のアルキル基を有するスルホベタイン型両性界面活性剤が好ましく、炭素数が10~16のアルキル基を有するスルホベタイン型両性界面活性剤がより好ましく、炭素数が10~12のアルキル基を有するスルホベタイン型両性界面活性剤がさらに好ましく、炭素数が10のアルキル基を有するスルホベタイン型両性界面活性剤(カプリリルスルホベタイン)が特に好ましい。
【0016】
脱色剤は、両性界面活性剤をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、リン酸ナトリウムバッファー等の溶媒に溶解した状態であってもよい。この場合、脱色剤中の両性界面活性剤の濃度は特に制限されず、所望の透明度、試料の種類、処理条件等に応じて選択できる。例えば、脱色剤全体の5質量%~40質量%の範囲内から選択してもよい。
【0017】
脱色剤は、必要に応じて両性界面活性剤及び溶媒以外の成分を含有してもよい。具体的には、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤等が挙げられる。
【0018】
本開示の方法は、脱色工程に加えて他の工程を備えていてもよい。例えば、脱色工程の前に試料を固定する工程(固定工程)を備えていてもよく、脱色工程の後に試料を封入する工程(封入工程)を備えていてもよい。さらには、脱色工程と同時又は脱色工程の後に試料をアルカリ処理する工程(以下、アルカリ処理工程ともいう)を備えていてもよい。
【0019】
(固定工程)
固定工程を実施する方法は特に制限されず、一般的な手法で行うことができる。試料を固定することで、試料の劣化を抑制でき、物理的強度や化学的安定性を向上することができる。
【0020】
固定に用いる固定剤の種類は特に制限されず、公知のものから選択できる。例えば、ホルムアルデヒド、ファーマー液(酢酸とエタノールの混合液)、グルタルアルデヒド、アセトン等が挙げられる。固定剤は、有効成分をPBS等の溶媒に溶解した状態であってもよい。
【0021】
試料中の蛍光タンパク質の蛍光輝度を維持する観点からは、固定剤としてはホルムアルデヒドを含むものが好ましい。ホルムアルデヒドを含む固定剤を用いて試料の固定を行う場合、固定剤中のホルムアルデヒドの濃度は特に制限されず、所望の透明度、試料の種類、処理条件等に応じて選択できる。例えば、固定剤全体の0.1質量%~10質量%の範囲内から選択してもよい。
【0022】
固定される試料に蛍光タンパク質が導入されている場合、固定後の蛍光輝度が充分に維持されることが望ましい。本発明者らの検討の結果、固定後の蛍光輝度を維持する観点からは、固定剤中のホルムアルデヒドの濃度は通常の濃度(4質量%程度)より低いことが好ましいことがわかった。具体的には、固定剤中のホルムアルデヒドの濃度は2質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましく、1質量%であることがさらに好ましい。固定剤中のホルムアルデヒドの濃度の下限値は特に制限されないが、0.5質量%以上であることが好ましい。
【0023】
(封入工程)
封入工程を実施する方法は特に制限されず、一般的な手法で行うことができる。試料を封入するためのスライドガラスや観察に使用するレンズの屈折率に近い屈折率を有する封入剤で試料を処理することで、試料の光散乱が抑制され、深部をより観察しやすくなる。
【0024】
封入に用いる封入剤の種類は特に制限されず、公知のものから選択できる。例えば、イオヘキソール、2,2’-チオジエタノール、グリセロール、スクロース溶液等が挙げられる。封入剤は、有効成分をPBS等の溶媒に溶解した状態であってもよい。
【0025】
試料中の蛍光タンパク質の蛍光輝度を維持する観点からは、封入剤としてはイオヘキソールを含むものが好ましい。イオヘキソールを含む封入剤を用いて試料の封入を行う場合、封入剤中のイオヘキソールの濃度は特に制限されず、所望の透明度、試料の種類、処理条件等に応じて選択できる。例えば、封入剤全体の30質量%~100質量%の範囲内から選択してもよい。
【0026】
(アルカリ処理工程)
アルカリ処理工程を実施する方法は特に制限されず、一般的な手法で行うことができる。アルカリ処理工程を実施することで、固定、脱色等の化学処理により不安定になった試料中の蛍光タンパク質を回復させ、良好な蛍光輝度を維持することができる。
【0027】
アルカリ処理工程を実施する方法として具体的には、上述した脱色工程に用いる脱色剤としてアルカリ性のものを用いる(すなわち、脱色工程とアルカリ処理工程を同時に行う)方法、脱色後の試料をアルカリ性の液体に接触させる方法などが挙げられる。
【0028】
処理工程の簡略化と、試料中の蛍光タンパク質の蛍光輝度を維持する観点からは、脱色工程に用いる脱色剤としてアルカリ性のものを用いる方法が好ましい。アルカリ性の脱色剤としては、両性界面活性剤をアルカリ性の溶媒(リン酸ナトリウムバッファー等)に溶解したものなどが挙げられる。
【0029】
アルカリ処理工程は、pH7~10の範囲内で行うことが好ましく、pH7~9の範囲内で行うことがより好ましく、pH7.5~8.5の範囲内で行うことがさらに好ましい。
【0030】
(生体試料)
本開示の方法で処理される生体試料は特に制限されず、植物、動物、菌類等のあらゆる生物に由来する試料であってよい。生体試料は遺伝子組み換え、化学処理等の加工がなされたものであってもよい。
【0031】
生体試料が植物に由来するものである場合、植物の種類は特に制限されない。例えば、被子植物及び裸子植物のいずれであってもよく、被子植物の場合、単子葉植物及び双子葉植物のいずれであってもよい。また、試料は植物の葉、根、茎、胚、花弁、果実、種子、表皮等の各種器官又は組織であってもよい。
【0032】
生体試料が動物に由来するものである場合、動物の種類は特に制限されない。例えば、哺乳類、爬虫類、鳥類、両生類、魚類等の脊椎動物であってもよく、貝類、昆虫類、甲殻類、線虫類等の無脊椎動物であってもよい。また、試料は動物の脳、骨、内蔵、筋肉、神経、皮膚、胚等の各種器官又は組織であってもよい。
【0033】
生体試料が菌類に由来するものである場合、菌類の種類は特に制限されない。例えば、キノコ類、カビ類等であってもよい。
【0034】
<生体試料脱色剤>
本開示の生体試料脱色剤(以下、脱色剤ともいう)は、両性界面活性剤を含む。
本開示の脱色剤は、両性界面活性剤の作用により試料に含まれる色素の除去を行う。このため、試料中の色素が充分に除去され、高い透明度が達成できる。また、有機溶媒等を用いて脱色する場合に比べて試料中の蛍光タンパク質の失活が抑制されるため、試料中の蛍光を観察する場合にも好適である。
【0035】
本開示の脱色剤は、上述した生体試料の透明化方法に用いるものであってもよい。脱色剤及びこれに含まれる両性界面活性剤の詳細及び好ましい態様は、上述した透明化方法で使用する脱色剤及びこれに含まれる両性界面活性剤の詳細及び好ましい態様と同様である。
【0036】
脱色剤は、両性界面活性剤を含む脱色剤と、固定剤、封入剤等とを組み合わせたキットの状態であってもよい。固定剤及び封入剤は、上述した透明化方法で使用する固定剤及び封入剤と同じものであってもよい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。ただし、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0038】
<試験例1 脱色条件の検討>
(1)試料として蛍光タンパク質(GFP)を導入したシロイヌナズナの地上部(発芽期)を使用し、ホルムアルデヒドを用いた固定を行った。具体的には、固定剤として1質量%ホルムアルデヒドを含むPBS(pH7.4)を1.5mLチューブに1.0mL加え、そこに試料を入れた。次いで、チューブの口をパラフィルムで塞ぎ、針で数箇所穴を開けた。この状態で10分間脱気処理を行い、その後50分間室温(25℃、以下同様)で静置した。
(2)固定剤を取り除き、PBSを添加して室温で5分間静置した。
(3)PBSを取り除き、新たなPBSを添加して室温で10分間静置した。
(4)PBSを取り除き、新たなPBSを添加して室温で10分間静置した。
【0039】
工程(1)~(4)を順に実施した後、PBSを取り除き、脱色剤を添加し、遮光し室温にて24時間穏やかに振盪した。脱色剤としては、下記に示す界面活性化剤をそれぞれ20質量%の濃度で含む100mMリン酸ナトリウムバッファーを使用した。100mMリン酸ナトリウムバッファーとしては、100mMNaH2PO4溶液と、100mMNa2HPO4溶液をpH8.0になるように混合した溶液を使用し、脱色と同時にアルカリ処理を行った。
【0040】
界面活性剤1…両性界面活性剤(カプリリルスルホベタイン、アルキル基の炭素数10)
界面活性剤2…両性界面活性剤(ラウリルスルホベタイン、アルキル基の炭素数12)
界面活性剤3…両性界面活性剤(ミリスチルスルホベタイン、アルキル基の炭素数14)
界面活性剤4…両性界面活性剤(パルミチルスルホベタイン、アルキル基の炭素数16)
界面活性剤C1…アニオン性界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム)
界面活性剤C2…ノニオン性界面活性剤(TritonX-100)
【0041】
脱色処理により流出したクロロフィルの吸光度を、吸光光度計により測定した結果を
図1に示す。図中のエラーバーは標準誤差(n=10)を示す。
図1に示すように、両性界面活性剤を用いて脱色した場合のクロロフィルの吸光度はアニオン性界面活性剤又はノニオン性界面活性剤を用いて脱色した場合よりも大きく、脱色効率により優れていた。
【0042】
<試験例2 固定条件の検討>
固定剤に含まれるホルムアルデヒドの濃度を1質量%から2質量%又は4質量%に変更したこと以外は試験例1と同様にして、試料の固定を行った。
【0043】
固定した試料の蛍光輝度を蛍光実体顕微鏡により測定し、固定前の試料の蛍光輝度を100としたときの割合(%)を計算した結果を
図2に示す。図中のエラーバーは標準誤差(n=10)を示す。
図2に示すように、ホルムアルデヒドの濃度が1質量%である場合に固定後の蛍光輝度の固定前の蛍光輝度に対する割合がもっとも大きく、次いで2質量%、4質量%の順であった。
【0044】
<試験例3 封入条件の検討>
試験例1と同様にして試料を固定した後、PBSを取り除き、脱色剤(20質量%カプリリルスルホベタインを含む100mMリン酸ナトリウムバッファー)を添加した後遮光し室温にて6日間穏やかに振盪した。次いで、脱色液を取り除き、下記に示す封入液を1mL添加後、遮光し室温にて60分間穏やかに振盪した。
【0045】
封入剤1…70質量%イオヘキソールを含むPBS
封入剤2…97質量%2,2’-チオジエタノールを含むPBS
封入剤C1…PBS
【0046】
封入後の試料の蛍光輝度を蛍光実体顕微鏡により測定し、固定直後の試料の蛍光輝度を100とした時の割合(%)を計算した結果を
図3に示す。図中のエラーバーは標準誤差(n=10)を示す。
図3に示すように、封入剤1を用いて封入した試料は、封入剤2を用いて封入した試料に比べ、固定直後の輝度を100としたときの蛍光輝度の割合が大きく、蛍光タンパク質の失活がより抑制されていた。
【0047】
<実施例1>
試料として蛍光タンパク質(GFP)を導入したシロイヌナズナの地上部(発芽期)を使用し、試験例1と同様にして固定した後、試験例2と同様にして脱色剤(20質量%のカプリリルスルホベタインを含む100mMリン酸ナトリウムバッファー)を用いて脱色した。次いで、脱色剤を取り除き封入剤(70質量%イオヘキソールを含むPBS)を用いて封入した。
【0048】
<比較例1-1>
固定剤に含まれるホルムアルデヒドの濃度を4質量%に変更したこと以外は試験例1の工程(1)~(4)と同様にして、試料の固定を行った。固定後の試料に対し、下記(1)~(7)の工程を順に実施した。
(1)10質量%2,2’-チオジエタノールを含むPBSを添加し、10分間静置した。
(2)10質量%2,2’-チオジエタノールを含むPBSを取り除き、30質量%2,2’-チオジエタノールを含むPBSを添加し、10分間静置した。
(3)30質量%2,2’-チオジエタノールを含むPBSを取り除き、50質量%2,2’-チオジエタノールを含むPBSを添加し、10分間静置した。
(4)50質量%2,2’-チオジエタノールを含むPBSを取り除き、70質量%2,2’-チオジエタノールを含むPBSを添加し、10分間静置した。
(5)70質量%2,2’-チオジエタノールを含むPBSを取り除き、97質量%2,2’-チオジエタノールを含むPBSを添加し、10分間静置した。
(6)97質量%2,2’-チオジエタノールを含むPBSを取り除き、97質量%2,2’-チオジエタノール及び0.0025質量%没食子酸プロピルを含むPBS中で60分間静置した。
(7)97質量%2,2’-チオジエタノール及び0.0025質量%没食子酸プロピルを含むPBSで試料を封入した。
【0049】
<比較例1-2>
固定剤に含まれるホルムアルデヒドの濃度を4質量%に変更したこと以外は試験例1の工程(1)~(4)と同様にして、試料の固定を行った。固定後の試料からPBSを取り除き、新たなPBSを添加し24時間静置した。次いでPBSを取り除き、新たなPBSで試料を封入した。
【0050】
実施例1、比較例1-1、比較例1-2で得た処理後の試料を、方眼紙(1マス1mm四方)の上に置いた状態で撮影した写真を
図4に示す。
図4に示すように、実施例1の試料は色素がほぼ除去され、方眼紙が透けて見える程度に透明化されていた。比較例1-1の試料は、方眼紙が透けて見える程度に透明化されていたが、色素が完全に除去されず緑色を呈していた。比較例1-2の試料は透明化が進まず、色素もほとんど除去されず、方眼紙が透けて見えなかった。
【0051】
実施例1、比較例1-1、比較例1-2で得た処理後の試料を、蛍光顕微鏡を用いて撮影した写真を
図5に示す。
図5に示すように、実施例1、比較例1-1の試料はともにGFPの蛍光が観察されたが、実施例1においてより深部の蛍光が明るく観察された。
【0052】
<実施例2>
試料としてイネの葉を使用し、実施例1と同様にして試料の固定、脱色及び封入を行った。ただし、脱色時の静置時間を7日間とした。
【0053】
<比較例2>
試料としてイネの葉を使用し、比較例1-2と同様にして試料の固定、PBS中での静置及び封入を行った。ただし、固定後のPBS中での静置時間を7日間とした。
【0054】
実施例2、比較例2で得た処理後の試料を、方眼紙(1マス1mm四方)の上に置いた状態で撮影した写真を
図6に示す。
図6に示すように、実施例2の試料は色素がほぼ除去され、方眼紙が透けて見える程度に透明化されていた。比較例2の試料は色素がほとんど除去されず、方眼紙が透けて見えなかった。
【0055】
<実施例3>
試料としてマウス(品種:C57BL/6J)の脳を使用した。固定剤(4質量%パラホルムアルデヒドを含むPBS)を用いて灌流固定を行ったマウスから脳を取り出し、固定剤を添加し4℃で24時間静置した。厚さ2mmの脳切片を作成し、下記(1)~(5)の工程を順に実施した。
(1)脱色剤1(20質量%カプリリルスルホベタインを含む100mMリン酸ナトリウムバッファー)を添加し、16時間穏やかに振盪した。振盪終了後に写真(16h)を撮影した。
(2)脱色剤1を取り除き、脱色剤2(18.7質量%イオヘキソール、20質量%カプリリルスルホベタインを含むPBS)を添加し、6時間穏やかに振盪した。
(3)脱色剤2を取り除き、脱色剤3(28.1質量%イオヘキソール、20質量%カプリリルスルホベタインを含むPBS)を添加し、6時間穏やかに振盪した。振盪開始から2時間後に写真(24h)を撮影した。
(4)脱色剤3を取り除き、封入剤1(56.2質量%イオヘキソールを含むPBS)を添加し、12時間穏やかに振盪した。
(5)封入剤1を取り除き、封入剤2(70質量%イオヘキソールを含むPBS)を添加し、8時間穏やかに振盪した。振盪終了後に写真(48h)を撮影した。
【0056】
<比較例3-1>
実施例3と同様にして固定及び切片作成を行い、下記(1)~(5)の工程を順に実施した。
(1)脱色剤1(2質量%サポニンを含むPBS)を添加し、16時間穏やかに振盪した。振盪終了後に写真(16h)を撮影した。
(2)脱色剤1を取り除き、脱色剤2(18.7質量%イオヘキソール、2質量%サポニンを含むPBS)を添加し、6時間穏やかに振盪した。
(3)脱色剤2を取り除き、脱色剤3(28.1質量%イオヘキソール、2質量%サポニンを含むPBS)を添加し、6時間穏やかに振盪した。振盪開始から2時間後に写真(24h)を撮影した。
(4)脱色剤3を取り除き、脱色剤4(56.2質量%イオヘキソール、2質量%サポニンを含むPBS)を添加し、12時間穏やかに振盪した。
(5)脱色剤4を取り除き、封入剤(70質量%イオヘキソールを含むPBS)を添加し、8時間穏やかに振盪した。振盪終了後に写真(48h)を撮影した。
【0057】
<比較例3-2>
実施例3と同様にして固定及び切片作成を行った試料にPBSを添加し、48時間穏やかに振盪した。PBSの添加から16時間後に写真(16h)を、24時間後に写真(24h)を、48時間後に写真(48h)を撮影した。
【0058】
実施例3、比較例3-1、比較例3-2に示す方法で処理した試料を、方眼紙(1マス1mm四方)の上に置いた状態で撮影した写真(16h、24h、48h)を
図7に示す。
図7に示すように、実施例3の試料は処理時間が長くなるにつれて脱色と透明化が進んでいた。比較例3-1の試料は処理時間が長くなるにつれて透明化が進んでいたが、脱色は実施例3ほどには進んでいなかった。比較例3-2の試料は処理時間が長くなっても脱色と透明化がほとんど進まなかった。