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特許7168357シール部材用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】シール部材用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/195 20210101AFI20221101BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20221101BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20221101BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20221101BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20221101BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
H01M50/195
C08K3/013
C08L23/00
C08L27/12
C08L67/02
F16J15/10 X
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018124394
(22)【出願日】2018-06-29
(65)【公開番号】P2019016594
(43)【公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2017131722
(32)【優先日】2017-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】増田 深
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-157475(JP,A)
【文献】特開昭58-087180(JP,A)
【文献】特開平10-302737(JP,A)
【文献】特開2016-170957(JP,A)
【文献】特開2003-053765(JP,A)
【文献】特開2015-156361(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/183 - 198
C08L 67/02
C08K 3/013
C08L 23/00
C08L 27/12
F16J 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、アスペクト比が3~200であり、かつ、平均粒径が5~300μmの無機充填剤0.5~20質量部と、オレフィン系樹脂及びフッ素系樹脂0.1~20質量部とを含み、
前記オレフィン系樹脂(X)と、前記フッ素系樹脂(Y)の含有比(X/Y)が1/10~10/1である、シール部材用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
前記シール部材がガスケットである請求項1に記載のシール部材用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
前記ガスケットが車載用である請求項2に記載のシール部材用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
前記ガスケットがリチウム電池用である請求項2に記載のシール部材用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
前記リチウム電池がコイン型又はボタン型である請求項4に記載のシール部材用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項6】
前記リチウム電池が一次電池である請求項4又は5に記載のシール部材用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスケットなどのシール部材として好適に用いられるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コイン型電池やボタン型電池などの密閉型電池は、外側部材として金属製のケースと蓋とを備え、ケース内に封入された電解液などの電池材料は蓋を被せることによって封止される。そして、ケース内の電解液等が外部に漏れるのを防止するため、ケースと蓋とが接する部分に樹脂材料を成形してなるガスケットなどのシール部材が設けられ確実に封止される。つまり、ガスケットの要求性能として第1にシール性が挙げられる。そこで、シール性を満足するためのガスケット用材料として従来種々のものが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
また、例えば、上記のような電池が自動車部品に用いられる場合、ガスケットには耐熱性をも要求される。その一方で、上記のような電池の例では、ガスケットはケースと蓋との間に設けられ、かしめられた状態で使用される。従って、ガスケットがかしめられたときの破損を防止するため、ある程度の靱性も要求される。また、ケースと蓋との間に隙間があると、その隙間から電解液などが漏れることが懸念される。このような隙間が生じる原因の一つとしては、ガスケットを成形する際にバリが発生し、そのバリがケースと蓋との間に挟み込まれることが挙げられる。特に、前述の通りガスケットはケースと蓋との間に挟んでかしめられて用いられることから、通常、ある程度薄肉の成形品になっている。そのような薄肉の成形品を成形するためには、流動性の高い材料を用いる必要があるが、材料の流動性が高いということは、金型の隙間にも入り込みやすくバリが出やすい材料となる傾向にある。そのため、ガスケットを成形する材料として、バリが発生しにくい材料であることも要求される。これらの要求性能をすべて満足させるのは容易ではない。
【0004】
一方、ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、「PBT樹脂」とも呼ぶ。)は、耐熱性が高く、電気特性、機械特性、耐候性、耐薬品性等に優れることから、エンジニアリングプラスチックとして、電気・電子部品、自動車部品など種々の用途に広く利用されている。従って、PBT樹脂を含む組成物は上記のようなガスケットの材料として有用であるが、上記のような諸性能、すなわちシール性、耐熱性、及び靱性に優れ、バリが発生しにくいものとするには一筋縄ではいかず、鋭意工夫が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5720125号公報
【文献】特許第5809783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、シール性、耐熱性、及び靱性に優れ、バリが発生しにくく、シール部材の材料として好適なシール部材用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
(1)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、アスペクト比が3~200であり、かつ、平均粒径が5~300μmの無機充填剤0.5~20質量部と、オレフィン系樹脂及び/又はフッ素系樹脂0.1~20質量部とを含むシール部材用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0008】
(2)前記シール部材がガスケットである前記(1)に記載のシール部材用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0009】
(3)前記ガスケットが車載用である前記(2)に記載のシール部材用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0010】
(4)前記ガスケットがリチウム電池用である前記(2)に記載のシール部材用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0011】
(5)前記リチウム電池がコイン型又はボタン型である前記(4)に記載のシール部材用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0012】
(6)前記リチウム電池が一次電池である前記(4)又は(5)に記載のシール部材用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シール性、耐熱性、及び靱性に優れ、バリが発生しにくく、シール部材の材料として好適なシール部材用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態のシール部材用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、アスペクト比が5~100であり、かつ、平均粒径が5~300μmの無機充填剤1~20質量部と、オレフィン系樹脂及び/又はフッ素系樹脂0.1~20質量部とを含むことを特徴とする。以下、ポリブチレンテレフタレート樹脂を「PBT樹脂」、「シール部材用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物」を、単に「PBT樹脂組成物」とも呼ぶ。
本実施形態のPBT樹脂組成物は、シール性、耐熱性、及び靱性に優れ、バリが発生しにくく、シール部材の材料として好適な樹脂組成物である。以下に先ず、PBT樹脂組成物中の各成分について説明する。
【0015】
[PBT樹脂]
PBT樹脂は、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4-ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を含むグリコール成分とを重縮合して得られる樹脂である。PBT樹脂は、ホモポリブチレンテレフタレートに限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上(特に75モル%以上95モル%以下)含有する共重合体であってもよい。
【0016】
PBT樹脂の末端カルボキシル基量は、本発明の効果を阻害しない限り特に限定されない。PBT樹脂の末端カルボキシル基量は、30meq/kg以下が好ましく、25meq/kg以下がより好ましい。
【0017】
PBT樹脂の固有粘度(IV)は0.60~1.00dL/gであり、好ましくは0.70~0.95dL/g、さらに好ましくは0.75~0.90dL/gである。かかる範囲の固有粘度のPBT樹脂を用いる場合には、得られるPBT樹脂組成物が特に流動性に優れたものとなる。逆に固有粘度0.60dL/g未満では機械物性が不十分な場合があり、1.00dL/gを超えると優れた流動性が得られない。
また、固有粘度が上記範囲のPBT樹脂は、異なる固有粘度を有するPBT樹脂をブレンドして、固有粘度を調整することもできる。例えば、固有粘度0.9dL/gのPBT樹脂と固有粘度0.7dL/gのPBT樹脂とをブレンドすることにより、固有粘度0.8dL/gのPBT樹脂を調製することができる。PBT樹脂の固有粘度(IV)は、例えば、o-クロロフェノール中で温度35℃の条件で測定することができる。
【0018】
PBT樹脂において、テレフタル酸及びそのエステル形成性誘導体以外のジカルボン酸成分(コモノマー成分)としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8-14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4-16のアルカンジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等のC5-10のシクロアルカンジカルボン酸;これらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0019】
これらのジカルボン酸成分の中では、イソフタル酸等のC8-12の芳香族ジカルボン酸、及び、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC6-12のアルカンジカルボン酸がより好ましい。
【0020】
PBT樹脂において、1,4-ブタンジオール以外のグリコール成分(コモノマー成分)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-オクタンジオール等のC2-10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2-4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)が挙げられる。これらのグリコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0021】
これらのグリコール成分の中では、エチレングリコール、トリメチレングリコール等のC2-6のアルキレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール、又は、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等がより好ましい。
【0022】
ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に使用できるコモノマー成分としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4-カルボキシ-4’-ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(ε-カプロラクトン等)等のC3-12ラクトン;これらのコモノマー成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体、酸ハロゲン化物、アセチル化物等)が挙げられる。
【0023】
[無機充填剤]
本実施形態のPBT樹脂組成物に使用する無機充填剤は、アスペクト比が3~200であり、かつ、平均粒径が5~300μmの無機充填剤である。
【0024】
無機充填剤のアスペクト比が3~200であることにより、射出成形時の配向によりシール性を向上させつつ、PBT樹脂組成物の靱性を損なわないことによりカシメ性を確保することがきる。アスペクト比が3未満であると、シール性が不十分となり、200を超えると、カシメ性が不十分となる。当該アスペクト比は、5~150が好ましく、5.5~100がより好ましい。なお、本明細書において、アスペクト比とは、繊維状又は板状等の形状の異方性を表す指標として用いるものであり、最大長と最大垂直長の比(アスペクト比=最大長/最大垂直長)である。例えば繊維状フィラーであれば、長軸方向の長さと、長軸に対して垂直な方向の長さの最大値との比をアスペクト比とする。
【0025】
無機充填剤の平均粒径が5~300μmであることにより、シール性とカシメ性を両立することがきる。平均粒径が5μm未満であると、カシメ性が不十分となり、300μmを超えると、特に薄肉の成形品においてシール性が不十分となる。当該平均粒径は、10~200μmが好ましく、12~100μmがより好ましい。なお、本明細書において、平均粒径とは、樹脂組成物として溶融混練する前の無機充填剤を、レーザー回折・散乱法により測定した粒度分布における積算値50%の粒径を意味する。また、無機充填剤が粒状、板状、粉状といった形状でなく、繊維状である場合には、その平均繊維長または平均繊維径のいずれか大きい方を平均粒径とみなす。
【0026】
無機充填剤の材料としては、例えば、タルク、マイカ、ガラスフレーク、窒化ホウ素等が挙げられ、中でも、タルク、マイカが好ましい。
【0027】
本実施形態のPBT樹脂組成物において、無機充填剤は、PBT樹脂100質量部に対して0.5~20質量部含むが、0.5質量部未満ではシール性が不十分となり、20質量部を超えると流動性が低下してしまい、特に薄肉のガスケット等の成形が困難となる。当該含有量は、2~10質量部が好ましい。
【0028】
本実施形態のPBT樹脂組成物は、オレフィン系樹脂及び/又はフッ素系樹脂を含む。以下、それぞれの樹脂について説明する。
【0029】
[オレフィン系樹脂]
オレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィンが挙げられ、中でも、ポリエチレン、ポリプロピレンが好ましい。
【0030】
[フッ素系樹脂]
フッ素系樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体が挙げられ、中でも、ポリテトラフルオロエチレンが好ましい。
なお、本実施形態において用いられるポリテトラフルオロエチレンとは、四フッ化エチレン重合体のみならず、四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合体、四フッ化エチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合体、三フッ化エチレン共重合体、四フッ化エチレン-エチレン共重合体等も含まれる。
【0031】
以上のオレフィン系樹脂及び/又はフッ素系樹脂は、PBT樹脂100質量部に対して0.1~20質量部含むが、0.1質量部未満ではシール性が不足となり、20質量部を超えるとカシメ性およびバリの面で不利となる。当該含有量は、0.5~10質量部が好ましく、1~8質量部がより好ましい。
また、オレフィン系樹脂及びフッ素系樹脂を併用する場合、オレフィン系樹脂(X)と、フッ素系樹脂(Y)の含有比(X/Y)は、1/10~10/1とすることが好ましい。オレフィン系樹脂の割合が多ければカシメ性とコスト面で有利となり、フッ素系樹脂が多ければシール性が有利となる。
【0032】
[他の添加剤]
本実施形態のPBT樹脂組成物においては、本発明の効果を阻害しない範囲で、PBT樹脂組成物に通常添加しうる、他の添加剤を含むことができる。他の添加剤としては、PBT樹脂、オレフィン系樹脂、フッ素系樹脂を除く熱可塑性樹脂、酸化防止剤、安定剤、滑剤、離型剤、相溶化剤、着色剤、耐衝撃性改良剤、耐加水分解性向上剤、アスペクト比が3未満または200を超える無機充填剤といったものが挙げられる。なお、他の添加剤の添加量としては、PBT樹脂100質量部に対して10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。特に、アスペクト比が200を超える無機充填剤を、10質量部を超えて添加すると、カシメ性が不利になる場合がある。
【0033】
本実施形態において、シール部材としては、ガスケット、パッキン、防水性が要求される部材、光学部品、コンデンサーレンズなどが挙げられる。本実施形態のPBT樹脂組成物は、シール性、耐熱性、及び靱性に優れ、バリが発生しにくいことから、耐熱性が要求される車載用に好適である。特に、車載用のリチウム電池のガスケット、また、バリが発生しにくいことから、コイン型又はボタン型のリチウム電池(特に、一次電池)のガスケットに好適に用いられる。
【実施例
【0034】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
[実施例1~7、比較例1~7]
各実施例・比較例において、ベース樹脂(PBT樹脂)、ポリプロピレン樹脂(PP樹脂)、又はポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)と、無機充填剤(タルク、マイカ)と、オレフィン系樹脂としてのポリエチレン(PE)及び/又はフッ素系樹脂としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とを、下記表1~2に示す部数(質量部)をブレンドし、30mmφのスクリュを有する2軸押出機((株)日本製鋼所製)にてシリンダ温度260℃で溶融混練し、ペレット状のPBT樹脂組成物(以下、「樹脂ペレット」と呼ぶ)を得た。
なお、上記各成分の詳細は以下の通りである。
【0036】
(1)ベース樹脂
・PBT樹脂:ウィンテックポリマー(株)製PBT樹脂(固有粘度:0.70dL/g、末端カルボキシル基量:19.5meq/kg)
・PP樹脂:日本ポリプロ(株)製、BC8
・PPS樹脂:ポリプラスチックス(株)製PPS樹脂、ジュラファイド(登録商標)0220A9
(2)無機充填剤
・タルク:松村産業(株)製、クラウンタルクPP(平均アスペクト比6、平均粒径13μm)
・マイカ:ヤマグチマイカ(株)製、AB-25S(平均アスペクト比80、平均粒径24μm)
・ガラスフレーク:日本板硝子(株)製、ファインフレーク(平均アスペクト比150、平均粒径170μm)
・ガラスビーズ:ポッターズ・バロティーニ(株)製、EMB-10(平均アスペクト比1、平均粒径5μm)
・ガラス繊維:日本電気硝子(株)製、ECS03T-747H(平均アスペクト比286、平均繊維長3mm、平均繊維径10.5μm)
(3)オレフィン系樹脂、フッ素系樹脂
・PE樹脂:三洋化成工業(株)製、サンワックス161-P
・PTFE:(株)喜多村製、KT-400M
【0037】
[評価]
得られた樹脂ペレットを用いて以下の評価を行った。
(1)シール性
上記のようにして得られた、各実施例・比較例の樹脂ペレットを、射出成形機((株)日本製鋼所製、J-55AD)に投入して、直径60mmφ、厚さ0.5mmの円盤状試験片を成形した。成形した試験片を用い、ISO15106-4に準拠し、GTRテック(株)製GTR-30XAP G6800Tを用いて、差圧法により、85℃、85%RH雰囲気において、厚さ1mm、面積1m、透過時間24時間あたりに換算した透湿量を測定した。透湿量が20g以下である場合を○、20gより多く25g以下である場合を△、25gより多い場合を×とした。結果を表1~2に示す。
【0038】
シール部材の組付方法として、カシメによる組付を想定し、各実施例・比較例の樹脂ペレットからなる成形品の圧縮特性と曲げ特性を評価した。これは、カシメによるシール部材の組付時には、シール部材に対し、主として圧縮応力と曲げ応力がかかるため、それらの応力による割れが発生しないことが求められるためである。
【0039】
(2)カシメ性1(圧縮特性)
各実施例・比較例の樹脂ペレットを、射出成形機((株)日本製鋼所製、J-55AD)に投入して、ISO3167に準拠した引張試験片を成形し、中央部から10×10×4mmの試験片を切り出した。切り出した試験片に対し、10×10mmの面に荷重を加えるようにして、(株)オリエンテック製テンシロンUTA-50kNにて、圧縮試験を行った。試験片の厚さ方向に50%の歪を与えた時点(試験片の厚さが半分になった時点)で、試験機から取り出し、試験片のクラック発生状態を目視で観察した。クラックが発生していない場合を○、クラックが発生している場合を×として判定した。結果を表1~2に示す。なお、判定方法以外は、ISO604に倣って試験を行った。
【0040】
(3)カシメ性2(曲げ特性)
各実施例・比較例の樹脂ペレットを、射出成形機((株)日本製鋼所製、J-55AD)に投入して、ISO3167に準拠した80×10×4mmの曲げ試験片を成形した。成形した試験片を用い、スパンを32mmに変更した以外はISO178に準拠し、(株)オリエンテック製テンシロンRTC-1325Aにて、曲げ試験を行った。破断歪みが10%以上である場合を○、6%を超え10%未満である場合を△、6%以下である場合を×とした。結果を表1~2に示す。
【0041】
(4)耐熱性
上記のようにして得られた、各実施例・比較例の樹脂ペレットを、射出成形機((株)日本製鋼所製、J-55AD)に投入して、ISO3167に準拠した曲げ試験片を成形し、ISO178に準拠して曲げ試験を行った。なお、試験は60℃の恒温槽内で行い、高温での曲げ弾性率を評価した。60℃での曲げ弾性率が1GPa以上の場合を○、1GPa未満の場合を×とした。
【0042】
(5)バリ
上記のようにして得られた、各実施例・比較例の樹脂ペレットを、射出成形機((株)日本製鋼所製、J-55AD)に投入して、ISO3167に準拠した引張試験片を成形し、バリの発生状況を目視により観察した。成形品に著しいバリの発生が見られるものは×、バリが若干見られるものは△、バリの発生がほとんど見られないものは○とした。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
表1より、本発明のPBT樹脂組成物であれば、シール性、カシメ性(靱性)、耐熱性、バリの各特性に優れた、シール部材用樹脂組成物として使用できることが分かる。