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特許7168370表面処理組成物、その製造方法、およびこれを用いた表面処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】表面処理組成物、その製造方法、およびこれを用いた表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   C11D 7/22 20060101AFI20221101BHJP
   C11D 9/18 20060101ALI20221101BHJP
   C11D 9/26 20060101ALI20221101BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20221101BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20221101BHJP
【FI】
C11D7/22
C11D9/18
C11D9/26
H01L21/304 622Q
H01L21/304 647A
H01L21/304 644B
B24B37/00 H
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018143847
(22)【出願日】2018-07-31
(65)【公開番号】P2019059915
(43)【公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2017185299
(32)【優先日】2017-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】吉▲崎▼ 幸信
(72)【発明者】
【氏名】坂部 晃一
(72)【発明者】
【氏名】鎗田 哲
(72)【発明者】
【氏名】古本 健一
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-163609(JP,A)
【文献】特開2009-087523(JP,A)
【文献】特開2017-011225(JP,A)
【文献】特開2015-133492(JP,A)
【文献】特開2004-203901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 1/00 -19/00
C09K 3/18
H01L21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリアを含む研磨用組成物で研磨した後に得られる窒化珪素を含む研磨済研磨対象物(但し、表面に有機膜を有するものを除く)を表面処理するための表面処理組成物であって、
カルボキシ基またはその塩の基を有する単量体由来の構造単位を有する(共)重合体と、
多価ヒドロキシ化合物、ヒドロキシ基を1個有する多価ヒドロキシ化合物の誘導体、およびヒドロキシ基を1個以上有し、かつカルボキシ基を有さないヒドロキシカルボン酸の誘導体からなる群から選択される少なくとも1種である残渣除去促進剤と、
分散媒と、
を含み、
pHが7未満である、表面処理組成物。
【請求項2】
セリアを含む研磨用組成物で研磨した後に得られる研磨済研磨対象物を表面処理するための表面処理組成物であって、
前記研磨済研磨対象物は、
窒化珪素単体からなる半導体基板である窒化珪素基板、
最表面に窒化珪素膜が形成された基板、または、
窒化珪素に加え、タングステンが表面に露出している状態の研磨済研磨対象物であり、
カルボキシ基またはその塩の基を有する単量体由来の構造単位を有する(共)重合体と、
多価ヒドロキシ化合物、ヒドロキシ基を1個有する多価ヒドロキシ化合物の誘導体、およびヒドロキシ基を1個以上有し、かつカルボキシ基を有さないヒドロキシカルボン酸の誘導体からなる群から選択される少なくとも1種である残渣除去促進剤と、
分散媒と、
を含み、
pHが7未満である、表面処理組成物
【請求項3】
SO またはNO (ただし、xおよびyは、それぞれ独立して、1~5の実数である)で表される部分構造を有する化合物をさらに含む、請求項1または2に記載の表面処理組成物。
【請求項4】
セリアを含む研磨用組成物で研磨した後に得られる研磨済研磨対象物を表面処理するための表面処理組成物であって、
カルボキシ基またはその塩の基を有する単量体由来の構造単位を有する(共)重合体と、
多価ヒドロキシ化合物、ヒドロキシ基を1個有する多価ヒドロキシ化合物の誘導体、およびヒドロキシ基を1個以上有し、かつカルボキシ基を有さないヒドロキシカルボン酸の誘導体からなる群から選択される少なくとも1種である残渣除去促進剤と、
SO またはNO (ただし、xおよびyは、それぞれ独立して、1~5の実数である)で表される部分構造を有する化合物と、
分散媒と、
を含み、
前記SO またはNO で表される部分構造を有する化合物は、亜硫酸の第2族元素塩、硫酸のアルカリ金属塩、硫酸の第2族元素塩、硫酸のアミン塩、硫酸のアンモニア塩、過硫酸のアルカリ金属塩、過硫酸の第2族元素塩、過硫酸のアミン塩、m-キシレンスルホン酸の第2族元素塩、p-トルイジン-2-スルホン酸およびその塩、ベンゼンスルホン酸およびその塩、ドデシルベンゼンスルホン酸およびその塩、イセチオン酸の第2族元素塩、イセチオン酸のアミン塩、イセチオン酸のアンモニウム塩、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸およびその塩、1-ナフタレンスルホン酸およびその塩、2-ナフトール-6-スルホン酸およびその塩、亜硝酸およびその塩、硝酸のアルカリ金属塩、硝酸の第2族元素塩、硝酸のアミン塩、硝酸のアンモニウム塩、過硝酸およびその塩、4,6-ジニトロレソルシノール、ならびに2-ニトロ-p-キシリレングリコールからなる群より選択される、少なくとも1種の化合物のみからなり、
pHが7未満である、表面処理組成物。
【請求項5】
前記研磨済研磨対象物が窒化珪素を含む、請求項4に記載の表面処理組成物。
【請求項6】
前記残渣除去促進剤が、
ヒドロキシ基を2個以上9個以下有する多価ヒドロキシ化合物、
ヒドロキシ基を2個以上9個以下有する多価ヒドロキシ化合物のエーテル誘導体であって、ヒドロキシ基を1個有する化合物、
ヒドロキシ基を2個以上9個以下有する多価ヒドロキシ化合物と1価のカルボン酸とのエステル誘導体であって、ヒドロキシ基を1個有する化合物、および
ヒドロキシカルボン酸と1価のアルコールとのエステル誘導体であって、ヒドロキシ基を1個以上4個以下有し、かつカルボキシ基を有さない化合物
からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~5のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
【請求項7】
前記ヒドロキシ基を1個有する多価ヒドロキシ化合物の誘導体は、多価ヒドロキシ化合物のエーテル誘導体および多価ヒドロキシ化合物のエステル誘導体からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記多価ヒドロキシ化合物のエーテル誘導体は、多価ヒドロキシ化合物のアルキルエーテルおよび多価ヒドロキシ化合物のアリールエーテルからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記多価ヒドロキシ化合物のエステル誘導体は、前記多価ヒドロキシ化合物と1価のカルボン酸とのエステル誘導体であり、
前記多価ヒドロキシ化合物と1価のカルボン酸とのエステル誘導体は、多価ヒドロキシ化合物のアルキルエステルおよび多価ヒドロキシ化合物のアリールエステルからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記ヒドロキシ基を1個以上有し、かつカルボキシ基を有さないヒドロキシカルボン酸の誘導体は、ヒドロキシカルボン酸と1価のアルコールとのエステル誘導体であって、ヒドロキシ基を1個以上有し、カルボキシ基を有さない化合物であり、
前記ヒドロキシカルボン酸と1価のアルコールとのエステル誘導体は、ヒドロキシ基を1個以上有し、カルボキシ基を有さない、ヒドロキシカルボン酸と1価のアルコールとから得られるエステルである、
請求項1~5のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
【請求項8】
前記残渣除去促進剤の分子量が1000未満である、請求項1~7のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
【請求項9】
前記(共)重合体の重量平均分子量は、400以上2,000,000以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
【請求項10】
前記(共)重合体が(メタ)アクリル酸またはその塩由来の構造単位を有する(共)重合体である、請求項1~のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
【請求項11】
前記(共)重合体の含有量は、0.1g/L以上30g/L以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
【請求項12】
有機酸を表面に固定したシリカをさらに含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
【請求項13】
前記(共)重合体、前記残渣除去促進剤および前記分散媒を混合することを含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の表面処理組成物の製造方法。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか1項に記載の表面処理組成物を用いて、または請求項13に記載の製造方法で表面処理組成物を製造した後、得られた表面処理組成物を用いて、研磨済研磨対象物を表面処理することを含む、表面処理方法。
【請求項15】
前記表面処理の後、前記研磨済研磨対象物をさらに後洗浄処理することを含む、請求項14に記載の表面処理方法。
【請求項16】
請求項14または15に記載の表面処理方法によって、研磨済研磨対象物の表面を処理する工程を含む、半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理組成物、その製造方法、およびこれを用いた表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基板表面の多層配線化に伴い、デバイスを製造する際に、物理的に半導体基板を研磨して平坦化する、いわゆる、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)技術が利用されている。CMPは、シリカやアルミナ、セリア等の砥粒、防食剤、界面活性剤などを含む研磨用組成物(スラリー)を用いて、半導体基板等の研磨対象物(被研磨物)の表面を平坦化する方法である。研磨対象物(被研磨物)は、シリコン、ポリシリコン、酸化珪素、窒化珪素や、金属等からなる配線、プラグなどである。
【0003】
CMP工程後の半導体基板表面には、ディフェクト(不純物、異物、残渣)が多量に残留している。ディフェクトとしては、CMPで使用された研磨用組成物由来の砥粒、金属、防食剤、界面活性剤等の有機物、研磨対象物であるシリコン含有材料、金属配線やプラグ等を研磨することによって生じたシリコン含有材料や金属、さらには各種パッド等から生じるパッド屑等の有機物などが含まれる。
【0004】
半導体基板表面がこれらのディフェクトにより汚染されると、半導体の電気特性に悪影響を与え、デバイスの信頼性が低下する可能性がある。したがって、CMP工程後に洗浄工程を導入し、半導体基板表面からこれらのディフェクトを除去することが望ましい。
【0005】
かようなディフェクトの除去を目的とした技術として、特許文献1には、スルホン酸(塩)基および/またはカルボン酸(塩)基を必須構成成分とする水溶性(共)重合体(塩)を含有する半導体部品洗浄液が開示されている。そして、当該文献には、かような半導体部品洗浄液を用いて半導体基板の洗浄を行うことで、環境への負荷を小さくしつつ、CMP後の半導体基板上に残存するシリカ、アルミナなどの砥粒、金属不純物または金属配線に基づく不純物等のディフェクトを低減しうることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-64689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、研磨対象物を研磨する際に用いられる研磨用組成物が砥粒としてセリア(CeO)を含む場合、特許文献1に係る洗浄液では、セリアに由来するパーティクル残渣の除去が難しいとの問題がある。したがって、セリアに由来するパーティクル残渣の除去には、硫酸と過酸化水素水との混合物による表面処理がさらに必要となっていた。
【0008】
また、特許文献1に係る洗浄液では、研磨済研磨対象物上の有機物残渣を十分に除去することができないとの問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明は、セリアを含む研磨用組成物で研磨した後に得られる研磨済研磨対象物を表面処理した際に、セリア残渣を良好に低減しつつ、有機物残渣等のセリア残渣以外のディフェクトについても十分に低減しうる手段を提供することを目的とする。
【0010】
上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意研究を積み重ねた。その結果、カルボキシ基またはその塩の基を有する単量体由来の構造単位を有する(共)重合体と、特定構造の化合物からなる残渣除去促進剤とを併用することで、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明の上記課題を解決するためするための一形態は、セリアを含む研磨用組成物で研磨した後に得られる研磨済研磨対象物を表面処理するための表面処理組成物であって、
カルボキシ基またはその塩の基を有する単量体由来の構造単位を有する(共)重合体と、
多価ヒドロキシ化合物、ヒドロキシ基を1個有する多価ヒドロキシ化合物の誘導体、およびヒドロキシ基を1個以上有し、かつカルボキシ基を有さないヒドロキシカルボン酸の誘導体からなる群から選択される少なくとも1種である残渣除去促進剤と、
分散媒と、
を含み、
pHが7未満である、表面処理組成物に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、セリアを含む研磨用組成物で研磨した後に得られる研磨済研磨対象物を表面処理した際に、セリア残渣を良好に低減しつつ、有機物残渣等のセリア残渣以外のディフェクトについても十分に低減しうる手段が提供されうる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で行う。
【0014】
本明細書において、(共)重合体とは共重合体および単独重合体を含む総称である。
【0015】
また、本明細書において、(メタ)アクリルとは、アクリルとメタクリルとを含む総称であり、(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートとを含む総称である。
【0016】
<ディフェクト>
本発明に係る表面処理組成物は、研磨済研磨対象物(以下、「表面処理対象物」とも称する)の表面に残留するディフェクトを低減するのに用いられるものである。
【0017】
本発明に係る表面処理組成物は、ディフェクトの種類に関わらず高い除去効果を有するものであるが、特にセリア残渣(例えば、セリアに由来するパーティクル残渣)および有機物残渣に対して極めて高い除去効果を示す。したがって、本発明に係る表面処理組成物は、研磨済研磨対象物の表面におけるセリア残渣および有機物残渣を低減するのに用いられることが好ましく、セリア残渣を低減するのに用いられることがより好ましい。ここで、セリアを含む研磨用組成物で研磨した後に得られる研磨済研磨対象物の表面におけるセリア残渣は、通常、パーティクル残渣として存在する。よって、本発明に係る表面処理組成物は、研磨済研磨対象物の表面におけるパーティクル残渣を低減するのに用いられることが好ましい。
【0018】
ディフェクトの中でもパーティクル残渣と、有機物残渣と、その他の残渣とは、それぞれ色および形状が大きく異なる。ここで、有機物残渣とは、表面処理対象物の表面に付着したディフェクトのうち、有機低分子化合物や高分子化合物等の有機化合物やこれらの塩等からなる成分を表す。パーティクル残渣とは、表面処理対象物の表面に付着したディフェクトのうち、研磨用組成物に含まれる砥粒(例えば、セリアを含有する砥粒)等、粒状の無機物に由来する成分を表す。その他の残渣には、パーティクル残渣および有機物残渣以外の成分からなる残渣、パーティクル残渣および有機物残渣の混合物等が含まれる。これより、ディフェクトの種類の判断は、SEM観察における写真より目視にて行うことができる。なお、当該判断には、必要に応じて、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)による元素分析を用いてもよい。
【0019】
<表面処理組成物>
本発明の一形態は、セリアを含む研磨用組成物で研磨した後に得られる研磨済研磨対象物を表面処理するための表面処理組成物であって、カルボキシ基またはその塩の基を有する単量体由来の構造単位を有する(共)重合体(本明細書では、「カルボキシ系構造単位含有(共)重合体」とも称する)と、多価ヒドロキシ化合物、ヒドロキシ基を1個有する多価ヒドロキシ化合物の誘導体、およびヒドロキシ基を1個以上有し、かつカルボキシ基を有さないヒドロキシカルボン酸の誘導体からなる群から選択される少なくとも1種である残渣除去促進剤(本明細書では、単に「残渣除去促進剤」とも称する)と、分散媒と、を含み、pHが7未満である、表面処理組成物に関する。本発明の一形態によれば、セリアを含む研磨用組成物で研磨した後に得られる研磨済研磨対象物を表面処理した際に、セリア残渣を良好に低減しつつ、有機物残渣等のセリア残渣以外のディフェクトについても十分に低減しうる手段が提供されうる。
【0020】
本発明者らは、かような構成によって、セリアを含む研磨用組成物で研磨した後に得られる研磨済研磨対象物において、ディフェクト、特にパーティクル残渣および有機物残渣の両方を低減しうるメカニズムを以下のように推測している。
【0021】
研磨済研磨対象物上または表面処理組成物中には、研磨用組成物に含まれるパーティクル残渣(特に、セリアに由来するパーティクル残渣)、研磨用組成物に含まれる有機化合物やパット屑等に由来する有機化合物(有機物残渣)等の不純物が存在する。
【0022】
残渣除去促進剤は、分子内のヒドロキシ基やエーテル基、エステル基等の官能基と、セリア残渣および研磨済研磨対象物との相互作用によってこれらの表面に配位することで、研磨済研磨対象物上に存在するセリア残渣と研磨済研磨対象物との間に入り込む。この際、残渣除去促進剤は、セリア残渣側およびその反対側(表面処理組成物側)へこれらの官能基を向けてセリア残渣の表面に配位する。その結果、セリア残渣と研磨済研磨対象物との間隔が広がり、カルボキシ系構造単位含有(共)重合体は、両者の間に入り込むことがより容易となる。そして、両者の間に入り込んだカルボキシ系構造単位含有(共)重合体は、セリア残渣側およびその反対側(表面処理組成物側)へカルボキシ基を向けた形で、セリア残渣の表面に配位した残渣除去促進剤の表面に配位する。その結果、カルボキシ系構造単位含有(共)重合体の配位に起因して、セリア残渣の分散性が向上し、セリア残渣がより容易に除去されるようになる。
【0023】
また、カルボキシ系構造単位含有(共)重合体は、有機物残渣またはその他の残渣が親水性である場合、これらの残渣側およびその反対側(表面処理組成物側)へカルボキシ基を向けて配位する。また、カルボキシ系構造単位含有(共)重合体は、有機物残渣またはその他の残渣が疎水性である場合、疎水性部位をこれらの残渣側へ向けて、カルボキシ基をその反対側(表面処理組成物側)へ向けて配位する。そして、研磨済研磨対象物についても同様に、これらが親水性である場合は研磨済研磨対象物側およびその反対側(表面処理組成物側)へカルボキシ基を向けて配位し、これらが疎水性である場合は、疎水性部位を研磨済研磨対象物側へ向けて、カルボキシ基をその反対側(表面処理組成物側)へ向けて配位する。その結果、有機物残渣またはその他の残渣の分散性が向上し、またこれらの残渣と研磨済研磨対象物との間で電位反発が生じる。そして、有機物残渣またはその他の残渣がより容易に除去されるようになり、これらの残渣の研磨済研磨対象物への再付着が抑制される。
【0024】
ここで、表面処理組成物のpHが7未満である場合、表面処理組成物中へのセリア残渣の分散性が十分に向上することで、セリア残渣が研磨済研磨対象物から離れ易くなる。このため、当該pH範囲であれば、上記の残渣除去促進剤およびカルボキシ系構造単位含有(共)重合体による顕著なセリア残渣の除去効果が得られる。
【0025】
なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、本発明は上記メカニズムに何ら限定されるものではない。以下、本発明の一形態に係る表面処理組成物の構成について、詳細に説明する。
【0026】
(カルボキシ基またはその塩の基を有する単量体由来の構造単位を有する(共)重合体)
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、カルボキシ基またはその塩の基を有する単量体由来の構造単位を有する(共)重合体(カルボキシ系構造単位含有(共)重合体)を含む。カルボキシ系構造単位含有(共)重合体は、研磨用組成物に含まれる有機化合物やパット屑等に由来する有機物残渣の除去を容易にする作用を有する。
【0027】
カルボキシ基またはその塩の基を有する単量体としては、特に制限されないが、カルボキシ基を有し、かつ重合可能な二重結合を有するカルボキシ基含有ビニル単量体であることが好ましい。
【0028】
カルボキシ基含有ビニル系単量体としては、特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、α-ハロアクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸、ビニル酢酸、アリル酢酸、ケイ皮酸、フマル酸、フマル酸モノアルキルエステル、クロトン酸、イタコン酸、イタコン酸モノアルキルエステル、イタコン酸グリコールモノエーテル、シトラコン酸、シトラコン酸モノアルキルエステル等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、(メタ)アクリル酸であることが好ましく、アクリル酸であることがさらに好ましい。すなわち、カルボキシ系構造単位含有(共)重合体は、(メタ)アクリル酸またはその塩由来の構造単位を有する(共)重合体であることが好ましく、アクリル酸またはその塩由来の構造単位を有する(共)重合体であることがより好ましい。
【0029】
カルボキシ基またはその塩の基を有する単量体由来の構造単位と、他の単量体由来の構造単位とを有する共重合体の主鎖は、炭素原子のみで構成されていてもよく、炭素原子に加え、一部に酸素原子、窒素原子またはリン原子が含有されていてもよい。
【0030】
カルボキシ基またはその塩の基を有する単量体由来の構造単位と、他の単量体由来の構造単位とを有する共重合体における他の単量体由来の構造単位としては、特に制限されず、公知のものを用いることができる。他の単量体由来の構造単位を構成する他の単量体としては、例えば、カルボキシ基含有ビニル系単量体以外のエチレン性不飽和単量体、ジアミン、ジエポキシド、次亜リン酸またはその塩等が挙げられる。
【0031】
エチレン性不飽和単量体としては、特に制限されないが、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、p-フェニルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレン、スチレンスルホン酸等のスチレン単量体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル単量体;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン単量体;プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、ベンゾエ酸ビニル等のビニルエステル単量体;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル単量体;ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルヘキシルケトン等のビニルケトン単量体;N-ビニルカルバゾール、N-ビニルインドール、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルピロリドン等のN-ビニル単量体;ビニルナフタレン、ビニルピリジン等の複素環ビニル単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等の(メタ)アクリル単量体等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
他の単量体としては、これらの中でも、エチレン性不飽和単量体もしくはその塩であることが好ましく、スチレン単量体または(メタ)アクリル酸誘導体であることがより好ましく、スチレンスルホン酸または2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸であることがさらに好ましい。
【0033】
カルボキシ基またはその塩の基を有する単量体由来の構造単位を有する(共)重合体としては、ポリ(メタ)アクリル酸もしくはその塩、(メタ)アクリル酸とスチレンスルホン酸との共重合体もしくはその塩、または次亜リン酸またはその塩と(メタ)アクリル酸と2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との反応物からなる共重合体またはその塩であることが好ましい。
【0034】
また、カルボキシ基またはその塩の基を有する単量体由来の構造単位を有する(共)重合体としては、ポリアクリル酸もしくはその塩、メタクリル酸とスチレンスルホン酸との共重合体もしくはその塩、または次亜リン酸またはその塩とアクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との反応物からなる共重合体またはその塩であることがより好ましい。
【0035】
そして、カルボキシ基またはその塩の基を有する単量体由来の構造単位を有する(共)重合体としては、ポリアクリル酸またはその塩であることがさらに好ましい。
【0036】
カルボキシ系構造単位含有(共)重合体において、カルボキシ基またはその塩の基を有する単量体由来の構造単位の、カルボキシ基またはその塩の基を有する単量体由来の構造単位と他の構造単位との総モル数に対する含有割合の下限値は、1モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、50モル%以上であることがさらに好ましく、80モル%以上であることが特に好ましい。また、カルボキシ基またはその塩の基を有する単量体由来の構造単位の、カルボキシ基またはその塩の基を有する単量体由来の構造単位と他の構造単位との合計に対する含有割合の上限値は、100モル%以下であることが好ましい。このような範囲であれば、カルボキシ系構造単位含有(共)重合体の作用効果をより良好に発揮させることが可能となる。これらの中でも、カルボキシ基またはその塩の基を有する単量体由来の構造単位を有する単独重合体であることが最も好ましい。
【0037】
カルボキシ基またはその塩の基を有する単量体由来の構造単位は、一部または全部が塩であってもよい。塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などの第2族元素の塩、アミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。これらの中でも、ナトリウム塩であることが特に好ましい。
【0038】
カルボキシ系構造単位含有(共)重合体の重量平均分子量の下限値は、400以上であることが好ましく、500以上であることがより好ましく、1,000以上であることがさらに好ましく、2,000以上であることが特に好ましい。また、カルボキシ系構造単位含有(共)重合体の重量平均分子量の上限値は、2,000,000以下であることが好ましく、1,000,000以下であることがより好ましい。このような範囲であれば、本発明の作用効果をより良好に発揮させることが可能となる。なお、カルボキシ系構造単位含有(共)重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。測定方法の詳細は実施例に記載する。
【0039】
なお、カルボキシ系構造単位含有(共)重合体としては、市販品を用いてもよい。市販品としては、特に制限されないが、例えば、次亜リン酸またはその塩とアクリル酸との反応物からなる共重合体として、BWA社製 Belclene(登録商標)500またはBelsperse(登録商標)164等を、次亜リン酸またはその塩とアクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との反応物からなる共重合体として、BWA社製 Belclene(登録商標)400等をそれぞれ挙げることができる。
【0040】
表面処理組成物中のカルボキシ系構造単位含有(共)重合体の含有量の下限値は、0.0001g/L以上であることが好ましい。この範囲であれば、研磨用組成物に含まれる有機化合物やパット屑等に由来する有機化合物の除去効果がより向上する。同様の観点から、カルボキシ系構造単位含有(共)重合体の含有量の下限値は、0.001g/L以上であることがより好ましく、0.1g/L以上であることがさらに好ましく、1g/L以上であることが特に好ましい。また、表面処理組成物中のカルボキシ系構造単位含有(共)重合体の含有量の上限値は、30g/L以下であることが好ましい。この範囲であれば、表面処理後のカルボキシ系構造単位含有(共)重合体の除去がより容易となり、表面処理後のカルボキシ系構造単位含有(共)重合体自体が有機物残渣として残存することをより抑制することができる。同様の観点から、カルボキシ系構造単位含有(共)重合体の含有量の上限値は、10g/L以下であることがより好ましく、5g/L以下であることがさらに好ましい。
【0041】
(残渣除去促進剤)
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、多価ヒドロキシ化合物、ヒドロキシ基を1個有する多価ヒドロキシ化合物の誘導体、およびヒドロキシ基を1個以上有し、かつカルボキシ基を有さないヒドロキシカルボン酸の誘導体からなる群から選択される少なくとも1種である残渣除去促進剤を含む。残渣除去促進剤は、セリア残渣の除去を容易にする作用を有する。
【0042】
本明細書において、多価ヒドロキシ化合物とは、分子内に2個以上のヒドロキシ基を含む化合物であって、カルボキシ基もしくはその塩の基、スルホ基もしくはその塩の基、リン酸基(-O-P(=O)(OH))もしくはその塩の基、ホスホン基(-P(=O)(OH))もしくはその塩の基等の酸性基またはその塩の基、およびアミノ基等の塩基性基を含まないものとする。また、多価ヒドロキシ化合物は、分子内にエーテル基またはエステル基を有していてもよいものとする。
【0043】
本明細書において、ヒドロキシカルボン酸とは、分子内に1個以上のヒドロキシ基と、1個以上のカルボキシ基もしくはその塩の基とを含む化合物であって、スルホ基もしくはその塩の基、リン酸基(-O-P(=O)(OH))もしくはその塩の基、ホスホン基(-P(=O)(OH))もしくはその塩の基等のカルボキシ基もしくはその塩の基以外の酸性基またはその塩の基、およびアミノ基等の塩基性基を含まないものとする。また、ヒドロキシカルボン酸は、分子内は、分子内にエーテル基またはエステル基を有していてもよいものとする。
【0044】
なお、本明細書では、残渣除去促進剤が、SOまたはNO(ただし、xおよびyは、それぞれ独立して、1~5の実数である)で表される部分構造を有する場合、この化合物は、後述するSOまたはNOで表される部分構造を有する化合物であるものとして取り扱う。
【0045】
多価ヒドロキシ化合物としては、特に制限されず、公知の化合物を用いることができる。多価ヒドロキシ化合物としては、ポリオキシアルキレン化合物、糖アルコール、またはこれら以外の他の多価アルコール、多価フェノール等が挙げられる。
【0046】
ポリオキシアルキレン化合物とは、2以上のアルキレングリコールが(共)重合されてなるポリオキシアルキレン(ポリアルキレングリコールを含む)、またはその誘導体を表す。
【0047】
ポリオキシアルキレン化合物は、特に制限されないが、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、エチレングリコール-プロピレングリコールブロック共重合体等のポリアルキレングリコール;ポリオキシエチレンモノまたはジビスフェノールA、ポリオキシプロピレンモノまたはジビスフェノールA、ポリオキシエチレングリセリルエーテル(例えば、グリセリン由来の部分構造数が1であり、ポリオキシエチレン由来の部分構造数が1、2または3である)、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル(例えば、グリセリン由来の部分構造数が1であり、ポリオキシプロピレン由来の部分構造数が1、2または3である)等のポリアルキレングリコールとアルキレングリコール以外の多価アルコールとのエーテル等が挙げられる。
【0048】
糖アルコールとは、アルドースやケトースのカルボニル基が還元されてなる化合物を表す。糖アルコールは、特に制限されないが、例えば、ポリヒドロキシアルカン(C(n+2)(OH))、ポリヒドロキシシクロアルカン((CH(OH)))、または多糖類の還元によって生じた糖アルコール等が挙げられる。
【0049】
なお、糖アルコールは、D体やL体が存在するものは、D体であってもL体であってもD体およびL体の混合物であってもよい。
【0050】
ポリヒドロキシアルカンとしては、特に制限されず、公知のものを使用することができる。ポリヒドロキシアルカン(C(n+2)(OH))において、nが、3~10である場合、それぞれ一般的に、トリトール、テトリトール、ペンチトール、ヘキシトール、ヘプチトール、オクチトール、ノニトール、およびデシトールと称される。そして、各糖アルコールは、不斉炭素原子の数に応じて立体異性体が多数存在する。炭素数3のトリトールとしては、グリセリンが挙げられる。炭素数4のテトリトールとしては、トレイトール、エリスリトールが挙げられる。炭素数5のペンチトールとしては、アラビニトール、リビトール、キシリトールが挙げられる。炭素数6のヘキシトールとしては、ソルビトール、イジトール、ガラクチロール、マンニトール等が挙げられる。炭素数7のヘプチトールとしては、ボレミトール、ペルセイトール等が挙げられる。炭素数8のオクチトールとしては、D-エリトロ-D-ガラクトオクチトール、D-エリトロ-L-ガラクトオクチトール、D-エリトロ-L-タロオクチトール、エリトロマンノオクチトール、D-トレオ-L-ガラオクチトール等が挙げられる。炭素数9のノニトールとしては、D-アラボ-D-マンノノニトール等が挙げられる。炭素数10のデシトールとしては、D-グルコ-D-ガラデシトール等が挙げられる。
【0051】
ポリヒドロキシシクロアルカンとしては、特に制限されず、公知のものを使用することができる。ポリヒドロキシシクロアルカン((CH(OH)))としては、ボルネシトール、コンズリトール、イノシトール、オノニトール、ピンポリトール、クェブラキトール、バリエノール、ビスクミトール、ピニトール、クエルシトールなどが挙げられる。ここで、イノシトールを例に挙げて説明すると、イノシトールは、ヒドロキシ基の位置によって、9種の異性体(7種の光学不活性体および1対の鏡像異性体)が存在する。イノシトールとしては、1種の異性体のみを使用してもよく、2種以上の異性体を併用してもよい。イノシトール異性体としては、myo-イノシトール、epi-イソイノシトール、allo-イノシトール、muco-イノシトール、neo-イノシトール、chiro-イノシトール、scyllo-イノシトールおよびcis-イノシトールのいずれも使用することができる。
【0052】
多糖類の還元によって生じた糖アルコールとしては、特に制限されず、公知のものを使用することができる。2糖類の還元によって生じた糖アルコールとしては、特に制限されないが、例えば、イソマルト、ラクチトール、マルチトール等が挙げられる。
【0053】
糖アルコールとしては、特に制限されないが、炭素数3以上12以下であるものが好ましく、ポリヒドロキシシクロアルカンであることがより好ましい。
【0054】
その他の多価アルコールとしては、特に制限されず、公知のものを使用することができる。その他の多価アルコールとしては、アルカノール、アルキレングリコールとアルキレングリコール以外の多価アルコールが縮合してなる構造を有する(ポリ)エーテル化合物(前記ポリアルキレングリコール系化合物に含まれるものを除く)、アルキレングリコール以外の多価アルコールが縮合してなる構造を有する(ポリ)エーテル化合物等が好ましい。ここで、(ポリ)エーテル化合物とは、分子内に1個以上のエーテル基を有する構造を有する化合物等が挙げられる。これらの中でも、3価以上の多価アルコールが好ましく、3価以上6価以下の多価アルコールがより好ましく、3価以上4価以下の多価アルコールがさらに好ましい。
【0055】
その他の多価アルコールの具体例としては、特に制限されないが、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-ジメチロールシクロヘキサン、ネオペンチルグリコール、ダイマージオール、アダマンタンジオールのようなジオール;トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、1,3,5-アダマンタントリオールのようなトリオール;ペンタエリスリトール、ジ(トリメチロールプロパン)のようなテトラオール、ジ(ペンタエリスリトール)、トリ(ペンタエリスリトール)のようなマルチオール等が挙げられる。
【0056】
多価フェノールとは、ベンゼン環またはその縮合環に直接結合したヒドロキシ基を2個以上有する化合物、またはその誘導体を表す。本明細書においては、多価フェノールは2個以上のヒドロキシ基が1個のベンゼン環またはその縮合環に直接結合した構造を含む化合物のみではなく、1個のヒドロキシ基が結合したベンゼン環またはその縮合環を2以上含む化合物も含まれるものとする。これらの中でも、3価以上の多価フェノールが好ましく、3価以上6価以下の多価フェノールがより好ましい。
【0057】
多価フェノールの具体例としては、2価フェノールであるカテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、3価フェノールであるピロガロール、フロログルシノール、6価フェノールであるヘキサヒドロキシベンゼンが挙げられる。
【0058】
ヒドロキシ基を1個有する多価ヒドロキシ化合物の誘導体は、上記の多価ヒドロキシ化合物の誘導体であって、残存するヒドロキシ基が1個である化合物を表す。
【0059】
ヒドロキシ基を1個有する多価ヒドロキシ化合物の誘導体を構成する多価ヒドロキシ化合物は、ポリオキシアルキレン化合物であることが好ましい。
【0060】
ヒドロキシ基を1個有する多価ヒドロキシ化合物の誘導体としては、特に制限されないが、ヒドロキシ基を1個有する、上記の多価ヒドロキシ化合物から誘導されるエーテル誘導体(例えば、アルキルエーテル、アリールエーテル等)、またはヒドロキシ基を1個有する、上記の多価ヒドロキシ化合物と1価のカルボン酸とのエステル誘導体(例えば、アルキルエステル、アリールエステル等)であることが好ましい。エーテル、エステルとしては、それぞれ、アルキルエーテル、アルキルエステルであることがより好ましい。
【0061】
上記アルキルエーテルもしくはアリールエーテルまたはアルキルエステルもしくはアリールエステルが有する、アルキル基またはアリール基としては、特に制限されないが、炭素数1~32であるものが好ましく、炭素数1~20であるものがより好ましく、炭素数1~18であるものがさらに好ましい。
【0062】
アルキル基の具体例としては、特に制限されないが、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、n-オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、イソノニル基、tert-ノニル基、デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、イソドデシル基、ドデカヘキシル基、ドデカオクチル基、オクチルドデシル基、ステアリル基、パルミチル基(セチル基)、セトステアリル基、デシルテトラデデシル基、ヘキシルデシル基、ベヘニル基、ラウリル基、ラノリン基等が挙げられる。また、ベンジル基、フェニルプロピル基等のアリールアルキル基等であってもよい。
【0063】
1価のカルボン酸としては、特に制限されないが、炭素数1~32であるものが好ましく、炭素数1~20であるものがより好ましく、炭素数1~18であるものがさらに好ましい。
【0064】
1価のカルボン酸の具体例としては、特に制限されないが、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2-エチル-ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、イソドデシル酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸(セチル酸)、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、オクテン酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸等の脂環族モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、ケイ皮酸、ベンジル酸、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等の芳香族モノカルボン酸等が挙げられる。これらの中でも、脂肪族モノカルボン酸であることが好ましく、飽和脂肪族カルボン酸であることがより好ましい。
【0065】
ヒドロキシ基を1個有する多価ヒドロキシ化合物の誘導体の具体例としては、特に制限されないが、例えば、ポリオキシエチレンモノメチルエーテル、ポリオキシエチレンモノエチルエーテル、ポリオキシエチレンモノラウリルエーテル、ポリオキシエチレンモノセチルエーテル、ポリオキシエチレンモノオレイルエーテル、ポリオキシエチレンモノイソドデシルエーテル、ポリオキシエチレンモノ-2-エチルヘキシルエーテル、ポリオキシプロピレンモノメチルエーテル、ポリオキシプロピレンモノエチルエーテル、ポリオキシプロピレンモノラウリルエーテル、ポリオキシプロピレンモノセチルエーテル、ポリオキシプロピレンモノオレイルエーテル、ポリオキシプロピレンモノイソドデシルエーテル、ポリオキシプロピレンモノ-2-エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンモノメチルエステル、ポリオキシエチレンモノエチルエステル、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノセチレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンモノイソドデシレート、ポリオキシエチレンモノ-2-エチルヘキシレート、ポリオキシプロピレンモノメチルエステル、ポリオキシプロピレンモノエチルエステル、ポリオキシプロピレンモノラウレート、ポリオキシプロピレンモノセチレート、ポリオキシプロピレンモノオレエート、ポリオキシプロピレンモノイソドデシレート、ポリオキシプロピレンモノ-2-エチルヘキシレート等が挙げられる。
【0066】
ヒドロキシ基を1個以上有し、かつカルボキシ基を有さないヒドロキシカルボン酸の誘導体は、ヒドロキシカルボン酸の誘導体であって、カルボキシ基を有さず、残存するヒドロキシ基が1個以上である化合物を表す。ここで、ヒドロキシカルボン酸のカルボキシ基は、他の基に変換されている。
【0067】
ヒドロキシ基を1個以上有し、かつカルボキシ基を有さないヒドロキシカルボン酸の誘導体を構成するヒドロキシカルボン酸としては、特に制限されず、公知のものを使用することができる。
【0068】
ヒドロキシ基を1個以上有し、かつカルボキシ基を有さないヒドロキシカルボン酸の誘導体としては、ヒドロキシ基を1個以上有する、ヒドロキシカルボン酸と1価のアルコールとから得られるエステル等の、ヒドロキシカルボン酸と1価のアルコールとのエステル誘導体であることが好ましい。
【0069】
ヒドロキシ基を1個以上有し、かつカルボキシ基を有さないヒドロキシカルボン酸の誘導体を構成するヒドロキシカルボン酸としては、特に制限されないが、ヒドロキシ基およびカルボキシ基をそれぞれ1つずつ有するヒドロキシカルボン酸であることが好ましい。
【0070】
ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、特に制限されないが、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、イソクエン酸、クルトロン酸、タルトロン酸、グリセリン酸、グリコール酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸(ヒドロキシイソ酪酸)、4-ヒドロキシ酢酸、酒石酸、メバロン酸、キナ酸、パントイン酸、ジメチロールプロピオン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;シキミ酸、サリチル酸(オルトヒドロキシ安息香酸)、パラヒドロキシ安息香酸、メタヒドロキシ安息香酸、2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸、2-ヒドロキシ-3-ナフトエ酸、1-ヒドロキシ-4-ナフトエ酸、4-ヒドロキシ-4’-カルボキシジフェニルエ-テル、2,6-ジクロロ-パラヒドロキシ安息香酸、2-クロロ-パラヒドロキシ安息香酸、2,6-ジフルオロ-パラヒドロキシ安息香酸、4-ヒドロキシ-4’-ビフェニルカルボン酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。これらの中でも、脂肪族ヒドロキシカルボン酸であることが好ましい。
【0071】
上記1価のアルコールとしては、特に制限されないが、炭素数1~32であるものが好ましく、炭素数1~20であるものがより好ましく、炭素数1~18であるものがさらに好ましい。
【0072】
上記1価のアルコールの具体例としては、特に制限されないが、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、シクロヘキシルアルコール、オクタノール、イソオクタノール、2-エチルヘキシルアルコール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、tert-ノニルアルコール、デカノール、イソデカノール、ウンデカノール、ドデカノール、イソドデカノール、ドデカヘキサノール、ドデカオクタノール、アリルアルコール、オレイルアルコール、イソステアリルアルコール、オクチルドデカノール、ステアリルアルコール、パルミチルアルコール(セチルアルコール)、セトステアリルアルコール、デシルテトラデカノール、ヘキシルデカノール、ベヘニルアルコール、ラウリルアルコール、ラノリンアルコール等の脂肪族アルコール;ベンジルアルコール、3-フェニルプロパノール等の芳香族アルコール等が挙げられる。これらの中でも、脂肪族アルコールであることが好ましく、飽和脂肪族アルコールであることがより好ましい。
【0073】
また、ヒドロキシカルボン酸が2個以上のヒドロキシ基を有する場合、少なくとも1個のヒドロキシ基が残存していれば、他のヒドロキシ基は変換されていてもよい。この際、他のヒドロキシ基は、エーテルとなっているか、または1価のカルボン酸とから得られるエステルを構成することが好ましい。ここで、当該エーテルは、アルキルエーテルまたはアリールエーテルであることがより好ましく、アルキルエーテルであることがより好ましい。ここで、エーテルの種類やエーテルを構成するアルコールの種類としては、上述のヒドロキシ基を1個有する多価ヒドロキシ化合物の誘導体で説明したものと同様のものを用いることができる。また、当該1価のカルボン酸は、アルキルエステルまたはアリールエステルを構成するものであることが好ましく、アルキルエステルを構成するものであることがより好ましい。ここで、エステルの種類やエステルを構成する1価のカルボン酸の種類としては、上述のヒドロキシ基を1個有する多価ヒドロキシ化合物の誘導体で説明したものと同様のものを用いることができる。
【0074】
ヒドロキシ基を1個以上有し、かつカルボキシ基を有さないヒドロキシカルボン酸の誘導体の具体例としては、特に制限されないが、グリコール酸メチル、グリコール酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、2-ヒドロキシ酪酸メチル、2-ヒドロキシ酪酸エチル、3-ヒドロキシ酪酸メチル、3-ヒドロキシ酪酸エチル、4-ヒドロキシ酪酸メチル、4-ヒドロキシ酪酸エチル、ヒドロキシイソ酪酸メチル、ヒドロキシイソ酪酸エチル、グリセリン酸メチル、グリセリン酸エチル、キナ酸メチル、キナ酸エチル、パントイン酸メチル、パントイン酸エチル、メバロン酸メチル、メバロン酸エチル、酒石酸ジメチル、酒石酸ジエチル、リンゴ酸ジメチル、リンゴ酸ジエチル、タルトロン酸ジメチル、タルトロン酸ジエチル、クエン酸トリメチル、クエン酸トリエチル、ジメチロールプロピオン酸メチル、ジメチロールプロピオン酸エチル、シキミ酸メチル、シキミ酸エチル、サリチル酸メチル、サリチル酸エチル等が挙げられる。
【0075】
残渣除去促進剤は、ヒドロキシ基の数に着目すると、セリア残渣の除去効果および生産性の観点から、ヒドロキシ基を2個以上9個以下有する多価ヒドロキシ化合物;ヒドロキシ基を2個以上9個以下有する多価ヒドロキシ化合物のエーテル誘導体であって、ヒドロキシ基を1個有する化合物;ヒドロキシ基を2個以上9個以下有する多価ヒドロキシ化合物と1価のカルボン酸とのエステル誘導体であって、ヒドロキシ基を1個有する化合物;およびヒドロキシカルボン酸と1価のアルコールとのエステル誘導体であって、ヒドロキシ基を1個以上4個以下有し、かつカルボキシ基を有さない化合物;からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、ヒドロキシ基を2個以上6個以下有する多価ヒドロキシ化合物;ヒドロキシ基を2個以上6個以下有する多価ヒドロキシ化合物のエーテル誘導体であって、ヒドロキシ基を1個有する化合物;多価ヒドロキシ化合物と1価のカルボン酸とのエステル誘導体であって、ヒドロキシ基を2個以上6個以下有する化合物;ヒドロキシカルボン酸と1価のアルコールとのエステル誘導体であって、ヒドロキシ基を1個以上2個以下有し、かつカルボキシ基を有さない化合物;からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0076】
そして、これらの残渣除去促進剤の中でも、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール-プロピレングリコールブロック共重合体、ポリオキシエチレンモノビスフェノールA、ポリオキシエチレングリセリルエーテル、グリセリン、キシリトール、ソルビトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジ(トリメチロールプロパン)、ポリオキシエチレンモノメチルエーテル、ポリオキシエチレンモノイソドデシルエーテル、ポリオキシエチレンモノラウレート、酒石酸ジメチル、クエン酸トリエチル、ヒドロキシイソ酪酸メチル、グリコール酸エチル、グリセリン酸メチルが好ましく、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール-プロピレングリコールブロック共重合体、ポリオキシエチレンモノビスフェノールA、ポリオキシエチレングリセリルエーテル、グリセリン、キシリトール、ソルビトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジ(トリメチロールプロパン)、ポリオキシエチレンモノメチルエーテル、ポリオキシエチレンモノイソドデシルエーテル、ポリオキシエチレンモノラウレート、酒石酸ジメチル、クエン酸トリエチルがより好ましく、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、キシリトール、ソルビトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジ(トリメチロールプロパン)、ポリオキシエチレンモノメチルエーテル、酒石酸ジメチル、クエン酸トリエチルがさらに好ましく、キシリトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、酒石酸ジメチルが特に好ましく、グリセリンが最も好ましい。
【0077】
残渣除去促進剤の分子量の下限値は、特に制限されないが、48以上であることが好ましい。また、残渣除去促進剤の分子量の上限値は、特に制限されないが、2000以下であることが好ましい。この範囲であると、残渣除去促進剤はセリア残渣と研磨済研磨対象物との間に入り込むことがより容易となる。これより、残渣除去促進剤がセリア残渣と研磨済研磨対象物との間へ入り込む速度が、カルボキシ系構造単位含有(共)重合体が残渣や研磨済研磨対象物に配位する速度よりも十分に早くなる。この結果、本発明の効果がより向上する。同様の観点から、残渣除去促進剤の分子量の上限値は、1000以下であることがより好ましく、1000未満であることがさらに好ましく、600以下であることがよりさらに好ましく、500以下であることが特に好ましく、200以下であることが最も好ましい。残渣除去促進剤の分子量は、置換または非置換のポリアルキレングリコール等の(共)重合体については、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した重量平均分子量(Mw)の値を採用するものとする。その他については、原子量の総和より算出した値を採用するものとする。
【0078】
残渣除去促進剤としては、合成品を用いても、市販品を用いてもよい。市販品としては、特に制限されないが、例えば、プロノン(登録商標)#104、ユニオックス(登録商標)G450、ノニオンID203、ノニオンL-2(日油株式会社製)等を用いることができる。
【0079】
これらの残渣除去促進剤は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0080】
表面処理組成物中の残渣除去促進剤の含有量の下限値は、0.001g/L以上であることが好ましい。この範囲であると、残渣除去促進剤の量がより十分となり、本発明の効果がより向上する。同様の観点から、残渣除去促進剤の含有量の下限値は、0.1g/L以上であることがより好ましく、1g/L以上であることがさらに好ましく、3g/L以上であることが特に好ましい。また、表面処理組成物中の残渣除去促進剤の含有量の上限値は、50g/L以下であることが好ましい。この範囲であると、表面処理後の残渣除去促進剤の除去がより容易となり、残渣除去促進剤自体が有機物残渣として残存する可能性がより低減される。同様の観点から、残渣除去促進剤の含有量の上限値は、10g/L以下であることがより好ましく、8g/L以下であることがさらに好ましく、5g/L以下であることが特に好ましい。
【0081】
(SOまたはNO(ただし、xおよびyは、それぞれ独立して、1~5の実数である)で表される部分構造を有する化合物)
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、SOまたはNO(ただし、xおよびyは、それぞれ独立して、1~5の実数である)で表される部分構造を有する化合物(本願明細書では、「SOまたはNO部分構造含有化合物」とも称する)をさらに含むことが好ましい。SOまたはNO部分構造含有化合物は、セリア残渣の除去をより容易にする作用を有する。
【0082】
構成元素の種類が同じであり、硫黄原子(S)もしくは窒素原子(N)の価数もしくは数、水素原子(H)の数、または酸素原子(O)の数のみが異なる、2種以上の無機酸もしくはその塩や、硫黄酸化物もしくは窒素酸化物の混合物では、xおよびyはその平均値を表すものとする。例えば、ペルオキソ1硫酸(HSO)は、SOのxが5の部分構造を有する化合物であり、ペルオキソ1硫酸(HSO)とペルオキソ2硫酸(H)との等モル混合物(HSO4.5)は、SOのxが4.5の部分構造を有する化合物として取り扱う。
【0083】
なお、本明細書では、上記説明したカルボキシ系構造単位含有(共)重合体が、SOまたはNO(ただし、xおよびyは、それぞれ独立して、1~5の実数である)で表される部分構造を有する場合、この化合物は、カルボキシ系構造単位含有(共)重合体であるものとして取り扱うものとする。
【0084】
SOまたはNO部分構造含有化合物としては、特に制限されないが、例えば、亜硫酸およびその塩、硫酸およびその塩、過硫酸およびその塩、スルホン酸基またはその塩の基を有する化合物(スルホン酸(塩)基含有化合物とも称する)、亜硝酸およびその塩、硝酸およびその塩、過硝酸およびその塩、ならびにニトロ基含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物等が挙げられる。これらの中でも、亜硫酸塩、硫酸塩、過硫酸塩、スルホン酸(塩)基含有化合物、亜硝酸塩、硝酸塩、過硝酸塩、およびニトロ基含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物が好ましく、硫酸塩、スルホン酸(塩)基含有化合物、硝酸塩、およびニトロ基含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物がより好ましく、スルホン酸(塩)基含有化合物がさらに好ましい。
【0085】
スルホン酸(塩)基含有化合物としては、特に制限されないが、下記化学式(1)で表される化合物およびその塩、ならびに下記化学式(2)で表される化合物およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種の化合物等が好ましい例として挙げられる;
【0086】
【化1】
【0087】
(上記式(1)において、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、スルホ基、スルホ基を含有しないアニオン性基、カチオン性基、炭素数2~12のアルコキシカルボニル基、または炭素数1~10の炭化水素基であり、この際、R~Rの少なくとも1つが、スルホ基である)
【0088】
【化2】
【0089】
(上記式(2)において、R~R12は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、スルホ基、スルホ基を含有しないアニオン性基、カチオン性基、炭素数2~12のアルコキシカルボニル基、または炭素数1~10の炭化水素基であり、この際、R~R12の少なくとも1つが、スルホ基である)。
【0090】
本明細書において、アニオン性基とは、カウンターイオンが解離してアニオン種を発生する(アニオンとなる)官能基を意味し、また、カチオン性基とは、カウンターイオンが解離して、または他のイオン性化合物の電離により生じたカチオン種と結合して、カチオン種を発生する(カチオンとなる)官能基を意味する。
【0091】
上記化学式(1)で表される化合物またはその塩は、式(1)中の、Rがスルホ基であり、R~Rが、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、スルホ基を含有しないアニオン性基、カチオン性基、炭素数2~6のアルコキシカルボニル基、もしくは炭素数1~10の炭化水素基である化合物またはその塩であることが好ましい。また、上記化学式(1)で表される化合物またはその塩は、式(1)中の、Rがスルホ基であり、R~Rが、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、リン酸基、アミノ基、炭素数2~6のアルコキシカルボニル基、もしくは炭素数1~10の炭化水素基である化合物またはその塩であることがより好ましい。そして、上記化学式(1)で表される化合物またはその塩は、式(1)中の、Rがスルホ基であり、R~Rが、それぞれ独立して、水素原子、アミノ基、もしくは炭素数1~10の炭化水素基である化合物またはその塩であることがさらに好ましい。
【0092】
上記化学式(2)で表される化合物またはその塩は、式(2)中の、Rがスルホ基であり、R~R12が、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、スルホ基を含有しないアニオン性基、カチオン性基、炭素数2~12のアルコキシカルボニル基、もしくは炭素数1~10の炭化水素基である化合物またはその塩であることが好ましい。また、上記化学式(2)で表される化合物またはその塩は、式(2)中の、Rがスルホ基であり、R~R12は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、リン酸基、アミノ基、炭素数2~12のアルコキシカルボニル基、もしくは炭素数1~10の炭化水素基である化合物またはその塩であることがより好ましい。そして、上記化学式(2)で表される化合物またはその塩は、式(2)中の、Rがスルホ基であり、R~R11が、水素原子であり、R12がヒドロキシ基である化合物またはその塩であるか、またはRがスルホ基であり、RおよびR10が炭素数2~12のアルコキシカルボニル基であり、R、R11およびR12が水素原子である化合物またはその塩であることがさらに好ましい。
【0093】
上記式(1)または(2)において、アミノ基とは、-NH基、-NHR基、-NRR’基(R、R’は置換基を表す)を表すが、これらのなかでも-NH基が好ましい。また、炭素数2~12のアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロピロキシカルボニル基、イソプロピシカルボニル基、n-ブトキシカルボニル基、sec-ブトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基、2-エチルヘキシルオキシカルボニル基であることが好ましく、メトキシカルボニル基、2-エチルヘキシルオキシカルボニル基であることがより好ましく、2-エチルヘキシルオキシカルボニル基であることがさらに好ましい。そして、炭素数1~10の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0094】
SOまたはNO部分構造含有化合物の分子量の上限値は、1,000未満であることが特に好ましい。この範囲であると、表面処理後のSOまたはNO部分構造含有化合物の除去がより容易となり、SOまたはNO部分構造含有化合物自体が有機物残渣として残存する可能性がより低減する。
【0095】
また、SOまたはNO部分構造含有化合物としては、特に制限されないが、例えば、硫酸塩、イセチオン酸またはその塩、m-キシレンスルホン酸またはその塩、1-ナフタレンスルホン酸またはその塩、2-ナフトール-6-スルホン酸またはその塩、p-トルイジン-2-スルホン酸またはその塩、ベンゼンスルホン酸またはその塩、ドデシルベンゼンスルホン酸またはその塩、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸またはその塩、硝酸塩、2-ヒドロキシメチル-2-ニトロ-1,3-プロパンジオール、4,6-ジニトロレソルシノール、2-ニトロ-p-キシリレングリコール等が挙げられる。これらの中でも、硫酸塩、イセチオン酸またはその塩、m-キシレンスルホン酸またはその塩、1-ナフタレンスルホン酸またはその塩、2-ナフトール-6-スルホン酸またはその塩、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸またはその塩が好ましく、イセチオン酸またはその塩、m-キシレンスルホン酸またはその塩、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸またはその塩がより好ましい。
【0096】
SOまたはNO部分構造含有化合物は、塩の形態(部分塩含む)であってもよい。塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などの第2族元素の塩、アミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。これらの中でも、ナトリウム塩またはアンモニウム塩であることが好ましく、ナトリウム塩が特に好ましい。
【0097】
本発明の一形態に係るSOまたはNO部分構造含有化合物は、SOまたはNO部分構造含有化合物そのものの状態であってもよく、これらの水和物の状態であってよい。
【0098】
表面処理組成物中のSOまたはNO部分構造含有化合物の含有量の下限値は、0.01g/L以上であることが好ましい。この範囲であれば、研磨用組成物に含まれる砥粒等のセリア残渣の除去効果がより向上する。同様の観点から、SOまたはNO部分構造含有化合物の含有量の下限値は、0.01g/L以上であることがより好ましく、0.1g/L以上であることがさらに好ましい。また、表面処理組成物中のSOまたはNO部分構造含有化合物の含有量の上限値は、100g/L以下であることが好ましい。この範囲であれば、SOまたはNO部分構造含有化合物の除去がより容易となり、表面処理後のSOまたはNO部分構造含有化合物自体がディフェクトとして残存する可能性がより低減する。同様の観点から、SOまたはNO部分構造含有化合物の含有量の上限値は、10g/L以下であることがより好ましく、5g/L以下であることがさらに好ましい。
【0099】
なお、表面処理組成物の製造時におけるSOまたはNO部分構造含有化合物の混合時に、SOまたはNO部分構造含有化合物を水和物の状態で混合する場合、上記の好ましいSOまたはNO部分構造含有化合物の含有量は、水和水を除いた質量から計算した含有量を表すものとする。
【0100】
(砥粒)
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、砥粒をさらに含むことが好ましい。砥粒は、表面処理対象物を機械的に洗浄する作用を有し、表面処理組成物によるディフェクトの除去効果をより向上させる。
【0101】
表面処理組成物中の砥粒の平均一次粒子径の下限値は、5nm以上であることが好ましい。この範囲であると、砥粒によるディフェクト除去のエネルギーがより向上することで、表面処理組成物によるディフェクトの除去効果がより向上する。これより、表面処理組成物中の砥粒の平均一次粒子径の下限の値は、より好ましくは7nm以上、さらに好ましくは10nm以上である。また、表面処理組成物中の砥粒の平均一次粒子径の上限の値は、50nm以下であることが好ましい。この範囲であると、砥粒と表面処理組成物との接触面積がより増加することで、表面処理組成物によるディフェクトの除去効果がより向上する。これより、表面処理組成物中の砥粒の平均一次粒子径の上限の値は、より好ましくは45nm以下、さらに好ましくは40nm以下である。なお、砥粒の平均一次粒子径の値は、例えば、BET法で測定される砥粒の比表面積に基づいて算出される。
【0102】
表面処理組成物中の砥粒の平均二次粒子径は10nm以上であることが好ましく、より好ましくは15nm以上、さらに好ましくは20nm以上である。砥粒の平均二次粒子径が大きくなるにつれて、砥粒によるディフェクト除去のエネルギーがより向上することで、表面処理組成物による洗浄効果がより向上する。表面処理組成物中の砥粒の平均二次粒子径は、100nm以下であることが好ましく、より好ましくは90nm以下、さらに好ましくは80nm以下である。砥粒の平均二次粒子径が小さくなるにつれて、砥粒と表面処理組成物との接触面積がより増加することで、表面処理組成物による洗浄効果がより向上する。なお、砥粒の平均二次粒子径の値は、例えば、レーザー光を用いた光散乱法で測定した砥粒の比表面積に基づいて算出される。
【0103】
砥粒は、セリアを含むもの以外であれば特に制限されず、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子のいずれであってもよい。無機粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア等の金属酸化物からなる粒子、窒化珪素粒子、炭化珪素粒子、窒化ホウ素粒子が挙げられる。有機粒子の具体例としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子が挙げられる。なかでも、入手が容易であること、またコストの観点から、シリカが好ましく、コロイダルシリカがより好ましい。なお、これらの砥粒は1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用しても構わない。また、砥粒は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0104】
砥粒は表面修飾されていてもよい。通常のコロイダルシリカは、酸性条件下でゼータ電位の値がゼロに近いために、酸性条件下ではシリカ粒子同士が互いに電気的に反発せず凝集を起こしやすい。これに対し、酸性条件でもゼータ電位が比較的大きな負の値を有するように表面修飾された砥粒は、酸性条件下においても互いに強く反発して良好に分散する結果、表面処理組成物の研磨速度および保存安定性をより向上させることができる。これらの中でも、特に好ましいのは、表面に有機酸を固定化したシリカ(有機酸修飾されたシリカ)である。
【0105】
表面に有機酸を固定化したシリカにはフュームドシリカやコロイダルシリカ等が含まれるが、特にコロイダルシリカが好ましい。前記有機酸は、特に制限されないが、スルホン酸、カルボン酸、リン酸などが挙げられ、好ましくはスルホン酸またはカルボン酸である。なお、本発明の表面処理組成物中に含まれる有機酸を表面に固定したシリカの表面には、上記有機酸由来の酸性基(例えば、スルホ基、カルボキシ基、リン酸基など)が(場合によってはリンカー構造を介して)共有結合により固定されていることになる。
【0106】
これらの有機酸をシリカ表面へ導入する方法は、特に制限されず、公知の方法を適宜使用することができる。例えば、特開2014-99565号公報の段落「0020」および「0021」、特開2016-69622号公報の段落「0020」および「0021」等を参照することができる。
【0107】
表面処理組成物中に砥粒を含む場合、表面処理組成物中の砥粒の含有量の下限の値は0.01g/L以上であることが好ましく、より好ましくは0.1g/L以上、さらに好ましくは0.5g/L以上である。砥粒の含有量が多くなるにつれて、表面処理組成物による研磨対象物のディフェクトの除去効果がより向上する。表面処理組成物中の砥粒の含有量は、10g/L以下であることが好ましく、より好ましくは5g/L以下、さらに好ましくは2.5g/L以下である。砥粒の含有量が少なくなるにつれて、セリア由来ではないパーティクル残渣の数やその他の残渣の数がより低減する。
【0108】
(pH調整剤)
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、所望のpH値へと調整するため、pH調整剤をさらに含むことが好ましい。
【0109】
なお、本明細書においては、上記説明した「カルボキシ系構造単位含有(共)重合体」、および「SOまたはNO部分構造含有化合物」は、pH調整剤には含まれないものとして取り扱う。
【0110】
pH調整剤としては、特に制限されず、表面処理組成物の分野で用いられる公知のpH調整剤を用いることができる。これらの中でも、公知の酸、塩基、塩、アミン、キレート剤等を用いることが好ましい。pH調整剤の例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、没食子酸、メリト酸、ケイ皮酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、アコニット酸、アミノ酸、アントラニル酸等のカルボン酸;炭酸、塩酸、リン酸、次亜リン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ホウ酸、フッ化水素酸、オルトリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、メタリン酸、ヘキサメタリン酸などの無機酸;水酸化カリウム(KOH)等のアルカリ金属の水酸化物;第2族元素の水酸化物;アンモニア(水酸化アンモニウム);水酸化第四アンモニウムなどの有機塩基;脂肪族アミン、芳香族アミン等のアミン;イミノ二酢酸(イミノジ酢酸)、ニトリロ三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、エチレンジアミン四酢酸、N,N,N-トリメチレンホスホン酸、トランスシクロヘキサンジアミン四酢酸、1,2-ジアミノプロパン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、エチレンジアミンオルトヒドロキシフェニル酢酸、エチレンジアミンジ琥珀酸(SS体)、N-(2-カルボキシラートエチル)-L-アスパラギン酸、β-アラニンジ酢酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、N,N’-ビス(2-ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン-N,N’-ジ酢酸、ポリアミン、ポリホスホン酸、ポリアミノカルボン酸、ポリアミノホスホン酸等のキレート剤等が挙げられる。これらpH調整剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0111】
これらのpH調整剤の中でも、アンモニア、水酸化第四アンモニウム、水酸化カリウム、酢酸、クエン酸、マロン酸、イミノ二酢酸またはマレイン酸であることが好ましい。
【0112】
また、pH調整剤は、酸と塩基との組み合わせであることが好ましく、アンモニア、水酸化第四アンモニウムまたは水酸化カリウムと、酢酸、クエン酸、マロン酸、イミノ二酢酸またはマレイン酸との組み合わせであることがより好ましく、アンモニアと、酢酸、クエン酸、マロン酸、イミノ二酢酸またはマレイン酸との組み合わせであることがさらに好ましく、アンモニアと、イミノ二酢酸またはマレイン酸との組み合わせであることが特に好ましい。
【0113】
表面処理組成物中のpH調整剤の含有量は、所望の表面処理組成物のpH値となるような量を適宜選択すればよく、後述する表面処理組成物の好ましいpH値となるような量を添加することが好ましい。
【0114】
(他の添加剤)
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、必要に応じて、他の添加剤を任意の割合で含有していてもよい。ただし、本発明の一形態に係る表面処理組成物の必須成分以外の成分は、ディフェクトの原因となりうるためできる限り添加しないことが望ましいため、その添加量はできる限り少ないことが好ましく、含まないことがより好ましい。他の添加剤としては、例えば、濡れ剤、防腐剤、溶存ガス、還元剤、酸化剤およびアルカノールアミン類等が挙げられる。
【0115】
(分散媒)
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、分散媒(溶媒)を含む。分散媒は、各成分を分散または溶解させる機能を有する。分散媒は、水を含むことが好ましく、水のみであることがより好ましい。また、分散媒は、各成分の分散または溶解のために、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。この場合、用いられる有機溶媒としては、水と混和する有機溶媒であるアセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。また、これらの有機溶媒を水と混合せずに用いて、各成分を分散または溶解した後に、水と混合してもよい。これら有機溶媒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0116】
水は、表面処理対象物の汚染や他の成分の作用を阻害するという観点から、不純物をできる限り含有しない水が好ましい。例えば、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、水としては、例えば、脱イオン水(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水などを用いることが好ましい。
【0117】
(pH値)
本発明の一形態に係る表面処理組成物のpHの上限値は、7未満である。表面処理組成物のpH値が7以上であると、本発明の作用効果は発揮されず、研磨用組成物に含まれる砥粒等のセリア残渣、研磨用組成物に含まれる有機化合物やパット屑等に由来する有機物残渣を良好に除去することができない。同様の観点から、表面処理組成物のpHの上限値は6以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましい。また、表面処理組成物のpHの下限値は1以上であることが好ましい。この範囲であると、研磨装置や接触する研磨パッドなどの消耗部材を劣化させる可能性がより低下し、劣化により生じた生成物により、残渣の発生や、傷などが発生する可能性もより低下する。同様の観点から、表面処理組成物のpHの下限値は、2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましい。なお、表面処理組成物のpH値は、pHメーター(株式会社堀場製作所製 製品名:LAQUA(登録商標))により確認することができる。
【0118】
(表面処理対象物)
表面処理対象物は、セリアを含む研磨用組成物で研磨した後に得られる研磨済研磨対象物であることが好ましい。研磨済研磨対象物とは、研磨工程において研磨された後の研磨対象物を意味する。研磨工程としては、特に制限されないが、CMP工程であることが好ましい。
【0119】
研磨済研磨対象物は、研磨済半導体基板であることが好ましく、CMP後の半導体基板であることがより好ましい。ここで、ディフェクト、特にセリア残渣および有機物残渣は半導体デバイスの性能低下の原因となりうる。したがって、研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板である場合は、半導体基板の表面処理工程において、これらのディフェクトをできる限り低減することが望まれる。本発明の一形態に係る表面処理組成物は、これらを除去する効果を十分に有するため、かような研磨済半導体基板の表面処理(洗浄等)に好適に用いることができる。
【0120】
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、特に制限されないが、本発明の作用効果がより良好に発揮されることから、窒化珪素、酸化珪素またはポリシリコンを含む研磨済研磨対象物に適用することが好ましく、窒化珪素を含む研磨済研磨対象物に適用することがより好ましい。
【0121】
窒化珪素、酸化珪素またはポリシリコンを含む研磨済研磨対象物としては、例えば、窒化珪素、酸化珪素およびポリシリコンのそれぞれ単体からなる研磨済研磨対象物や、窒化珪素、酸化珪素またはポリシリコンに加え、これら以外の材料が表面に露出している状態の研磨済研磨対象物等が挙げられる。ここで、前者としては、例えば、半導体基板である窒化珪素基板、酸化珪素基板またはポリシリコン基板や、最表面に窒化珪素膜、酸化珪素膜またはポリシリコン膜が形成された基板等が挙げられる。また、後者については、窒化珪素、酸化珪素またはポリシリコン以外の材料は、特に制限されないが、例えば、タングステン等が挙げられ、具体例としては、タングステン上に窒化珪素膜または酸化珪素膜が形成された構造を有する研磨済半導体基板や、タングステン部分と、窒化珪素膜と、酸化珪素膜とが最表面に露出した構造を有する研磨済半導体基板等が挙げられる。
【0122】
なお、酸化珪素を含む研磨済研磨対象物としては、例えばオルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成されるTEOSタイプ酸化珪素膜(以下、単に「TEOS」とも称する)、HDP膜、USG膜、PSG膜、BPSG膜、RTO膜等が挙げられる。
【0123】
<表面処理組成物の製造方法>
本発明の他の一形態は、カルボキシ系構造単位含有(共)重合体、残渣除去促進剤、および分散媒を混合することを含む、pHを7未満である、セリアを含む研磨用組成物で研磨した後に得られる研磨済研磨対象物を表面処理するための表面処理組成物の製造方法に関する。本発明の一形態に係る表面処理組成物の製造方法においては、上記した砥粒、SOまたはNO部分構造含有化合物、pH調整剤、他の添加剤等をさらに混合してもよい。添加される各種添加剤の詳細については、上述した通りである。
【0124】
本明細書において、SOまたはNO部分構造含有化合物の混合とは、SOまたはNO部分構造含有化合物そのものの状態で混合することに加え、これらの水和物の状態で混合することも含むものとする。
【0125】
これらの混合条件、混合順序等の混合方法は、特に制限されず、公知のものを用いることができる。
【0126】
なお、pH調整剤を用いる場合には、当該pH調整剤を加える工程が、本発明の一形態に係る製造方法における「pHを7未満に調整すること」となり得る。また、他の好ましいpHの範囲への調整も同様である。ただし、pHの調整方法はこれに限定されるものではない。
【0127】
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10~40℃が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。
【0128】
<表面処理方法>
(表面処理)
本発明のその他の一形態は、上記表面処理組成物を用いて、表面処理対象物(研磨済研磨対象物)を表面処理することを含む、表面処理方法に関する。本明細書において、表面処理方法とは、表面処理対象物の表面におけるディフェクトを低減する方法をいい、広義の洗浄を行う方法である。
【0129】
本発明の一形態に係る表面処理方法によれば、セリアを含む研磨用組成物で研磨した後に得られる研磨済研磨対象物において、ディフェクトの除去を容易とすることができる。すなわち、本発明の他の一形態によれば、上記表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物を表面処理する、セリアを含む研磨用組成物で研磨した後に得られる研磨済研磨対象物の表面におけるディフェクトの低減方法が提供される。
【0130】
本発明の一形態に係る表面処理方法は、本発明に係る表面処理組成物を表面処理対象物に直接接触させる方法により行われる。
【0131】
表面処理方法としては、主として、(I)リンス研磨処理による方法、(II)洗浄処理による方法が挙げられる。すなわち、本発明の一形態に係る表面処理は、リンス研磨処理または洗浄処理によって行われることが好ましい。リンス研磨処理および洗浄処理は、表面処理対象物の表面上のディフェクト、特にセリア残渣(特に、セリア由来のパーティクル残渣)、有機物残渣を除去し、清浄な表面を得るために実施される。上記(I)および(II)について、以下、説明する。
【0132】
(I)リンス研磨処理
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、リンス研磨処理において好適に用いられる。すなわち、本発明の一形態に係る表面処理組成物は、リンス研磨用組成物として好ましく用いることができる。リンス研磨処理は、研磨対象物について最終研磨(仕上げ研磨)を行った後、研磨済研磨対象物の表面上のディフェクトの除去を目的として、研磨パッドが取り付けられた研磨定盤(プラテン)上で行われることが好ましい。このとき、リンス研磨用組成物を表面処理対象物に直接接触させることにより、リンス研磨処理が行われる。その結果、表面処理対象物の表面のディフェクトは、研磨パッドによる摩擦力(物理的作用)およびリンス研磨用組成物による化学的作用によって除去される。ディフェクトのなかでも、特にパーティクル残渣や有機物残渣は、物理的な作用により除去されやすい。したがって、リンス研磨処理では、研磨定盤(プラテン)上で研磨パッドとの摩擦を利用することで、パーティクル残渣や有機物残渣を効果的に除去することができる。
【0133】
具体的には、リンス研磨処理は、研磨工程後の表面を研磨装置の研磨定盤(プラテン)に設置し、研磨パッドと表面処理対象物とを接触させて、その接触部分にリンス研磨用組成物を供給しながら表面処理対象物と研磨パッドとを相対摺動させることにより行うことができる。
【0134】
研磨装置としては、研磨対象物を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0135】
リンス研磨処理は、片面研磨装置、両面研磨装置のいずれを用いても行うことができる。また、上記研磨装置は、研磨用組成物の吐出ノズルに加え、リンス研磨用組成物の吐出ノズルを備えていると好ましい。研磨装置としては、具体的には、例えばアプライドマテリアルズ社製の洗浄装置一体型研磨装置 MirraMesa等を好ましく用いることができる。
【0136】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、リンス研磨用組成物が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0137】
リンス研磨条件にも特に制限はなく、例えば、研磨定盤の回転数、ヘッド(キャリア)回転数は、10rpm以上100rpm以下であることが好ましい。また、例えば、研磨対象物にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi以上10psi以下であることが好ましい。研磨パッドにリンス研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法(掛け流し)が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常にリンス研磨用組成物で覆われていることが好ましく、10mL/分以上5000mL/分以下であることが好ましい。研磨時間も特に制限されないが、リンス研磨用組成物を用いる工程については5秒間以上180秒間以下であることが好ましい。
【0138】
リンス研磨処理としては、水(好ましくは脱イオン水)をリンス研磨用組成物として使用して、前述の表面処理方法としてのリンス研磨処理と同様の条件にてリンス研磨処理を行った後に、本発明の一形態に係る表面処理組成物をリンス研磨用組成物として使用して、前述のリンス研磨処理条件にてリンス研磨処理を行うことが好ましい。ここで、水によるリンス研磨処理と、本発明の一形態に係る表面処理組成物によるリンス研磨処理とは、同じ研磨定盤を用いてリンス研磨処理を行っても、異なる研磨定盤を用いてリンス研磨処理を行ってもよい。なお、同じ研磨定盤を用いて水によるリンス研磨処理および本発明の一形態に係る表面処理組成物によるリンス研磨処理を行う場合は、次の研磨が行われる前に、リンス研磨用組成物を除去するために純水でパッドコンディショニングを5秒以上行い、研磨パッド上を洗浄することが好ましい。
【0139】
本発明の一形態に係る表面処理組成物によるリンス研磨処理の後、表面処理対象物は、本発明の一形態に係る表面処理組成物をかけながら引き上げられ、取り出されることが好ましい。
【0140】
(II)洗浄処理
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、洗浄処理において好適に用いられる。すなわち、本発明の一形態に係る表面処理組成物は、洗浄用組成物として好ましく用いることができる。洗浄処理は、研磨対象物について最終研磨(仕上げ研磨)を行った後、または、本発明の一形態に係る表面処理組成物もしくは他のリンス研磨用組成物によるリンス研磨処理を行った後、研磨済研磨対象物の表面上のディフェクトの除去を目的として行われる。なお、洗浄処理と、上記リンス研磨処理とは、これらの処理を行う場所によって分類され、洗浄処理は、研磨定盤(プラテン)上ではない場所で行われる表面処理であり、表面処理対象物を研磨定盤(プラテン)上から取り外した後に行われることが好ましい。洗浄処理においても、洗浄用組成物を表面処理対象物に直接接触させて、当該対象物の表面上のディフェクトを除去することができる。
【0141】
洗浄処理を行う方法の一例として、(i)表面処理対象物を保持した状態で、洗浄ブラシと表面処理対象物の片面または両面とを接触させて、その接触部分に洗浄用組成物を供給しながら表面処理対象物の表面を洗浄ブラシで擦る方法、(ii)表面処理対象物を洗浄用組成物中に浸漬させ、超音波処理や攪拌を行う方法(ディップ式)等が挙げられる。かかる方法において、研磨対象物表面のディフェクトは、洗浄ブラシによる摩擦力または超音波処理や攪拌によって発生する機械的力、および表面処理組成物による化学的作用によって除去される。上記(i)の方法において、洗浄用組成物の表面処理対象物への接触方法としては、特に限定されないが、ノズルから表面処理対象物上に洗浄用組成物を流しながら表面処理対象物を高速回転させるスピン式、表面処理対象物に洗浄用組成物を噴霧して洗浄するスプレー式などが挙げられる。
【0142】
洗浄処理を行うための装置としては、特に制限されないが、例えば、研磨定盤(プラテン)から表面処理対象物を取り外した後に、当該対象物を洗浄ブラシで擦ることができる洗浄用設備を備えている研磨装置が好ましい。このような研磨装置を用いることにより、表面処理対象物の洗浄処理を、より効率よく行うことができる。研磨装置としては、表面処理対象物を保持するホルダー、回転数を変更可能なモータ、洗浄ブラシ等を有する一般的な研磨装置を使用することができる。研磨装置としては、片面研磨装置または両面研磨装置のいずれを用いてもよい。なお、CMP工程の後、リンス研磨工程を行う場合、当該洗浄処理は、リンス研磨工程にて用いた研磨装置と同様の装置を用いて行うことが、より効率的であり好ましい。洗浄ブラシとしては、特に制限されないが、好ましくは、樹脂製ブラシを使用する。樹脂製ブラシの材質は、特に制限されないが、例えばPVA(ポリビニルアルコール)が好ましい。すなわち、洗浄ブラシとしては、PVA製スポンジを用いることが特に好ましい。洗浄条件にも特に制限はなく、表面処理対象物の種類、ならびに除去対象とするディフェクトの種類および量に応じて、適宜設定することができる。
【0143】
本発明の一形態に係る表面処理組成物である洗浄用組成物を用いて上記(II)の洗浄処理を行う際には、表面処理対象物は、リンス研磨処理をされた後のものであることが好ましい。
【0144】
上記(I)または(II)の方法による表面処理を行う前に水による洗浄を行ってもよい。
【0145】
(後洗浄処理)
また、表面処理方法としては、本発明の一形態に係る表面処理組成物を用いた前記(I)または(II)の表面処理の後、研磨済研磨対象物をさらに洗浄処理することが好ましい。本明細書では、この洗浄処理を後洗浄処理と称する。後洗浄処理としては、例えば、単に表面処理対象物に水または本発明に係る表面処理組成物とは異なる洗浄用組成物(以下、後洗浄用組成物とも称する)を掛け流す方法;単に表面処理対象物を水または後洗浄用組成物に浸漬する方法;等が挙げられる。また、上記説明した(II)の方法による表面処理と同様に、表面処理対象物を保持した状態で、洗浄ブラシと表面処理対象物の片面または両面とを接触させて、その接触部分に水または後洗浄用組成物を供給しながら表面処理対象物の表面を洗浄ブラシで擦る方法;表面処理対象物を水または後洗浄用組成物中に浸漬させ、超音波処理や攪拌を行う方法(ディップ式);等が挙げられる。これらの中でも、表面処理対象物を保持した状態で、洗浄ブラシと表面処理対象物の片面または両面とを接触させて、その接触部分に水または後洗浄用組成物を供給しながら表面処理対象物の表面を洗浄ブラシで擦る方法であることが好ましい。なお、後洗浄処理の装置および条件としては、前述の(II)の表面処理について説明したものと同様の装置および条件を用いることができる。ここで、後洗浄処理に用いる水または後洗浄用組成物としては、水または公知の洗浄用組成物を用いることができるが、これらの中でも水、特に脱イオン水を用いることが好ましい。本発明の一形態に係る表面処理によって、セリア残渣および有機物残渣が極めて除去されやすい状態となる。このため、本発明の一形態の表面処理の後、水または後洗浄用組成物を用いてさらなる洗浄処理を行うことで、セリア残渣および有機物残渣が極めて良好に除去されることとなる。
【0146】
また、洗浄後の表面処理対象物は、スピンドライヤ等により表面に付着した水滴を払い落として乾燥させることが好ましい。また、エアブロー乾燥により表面処理対象物の表面を乾燥させてもよい。
【0147】
(セリアを含む研磨用組成物による研磨対象物の研磨処理)
本発明の一形態に係る表面処理方法は、セリアを含む研磨用組成物で研磨した後に得られる表面処理対象物(研磨済研磨対象物)を表面処理することを含む、表面処理方法である。これより、本発明の一形態に係る研磨済研磨対象物は、前記表面処理を行う前に、後述の研磨方法にて研磨対象物を研磨することにより得られた研磨済研磨対象物であることがより好ましい。
【0148】
研磨処理は、研磨対象物を研磨する処理であれば特に制限されないが、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)工程であることが好ましい。また、研磨処理は、単一の工程からなる研磨処理であっても複数の工程からなる研磨処理であってもよい。複数の工程からなる研磨処理としては、例えば、予備研磨工程(粗研磨工程)の後に仕上げ研磨工程を行う研磨処理や、1次研磨工程の後に1回または2回以上の2次研磨工程を行い、その後に仕上げ研磨工程を行う研磨処理等が挙げられる。本発明の一形態に係る表面処理組成物を用いた表面処理工程は、上記仕上げ研磨の後に行われると好ましい。
【0149】
研磨用組成物としては、本発明の一形態に係る表面処理方法の作用効果を得る前提となるセリアを含む研磨用組成物であれば、研磨対象物の特性に応じて、公知の研磨用組成物を適宜使用することができる。かかる研磨用組成物の具体例の一つとしては、分散媒としての水に、MIREK E05(三井金属鉱業株式会社)1.0質量%、ポリアクリル酸ナトリウム(重量平均分子量10000)0.1質量%を含有する、酢酸を用いてpH=4となるよう調整した研磨用組成物等が挙げられる。
【0150】
研磨装置としては、研磨対象物を保持するホルダーと、回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。研磨装置としては、片面研磨装置または両面研磨装置のいずれを用いてもよい。具体的には、例えばアプライドマテリアルズ社製の洗浄装置一体型研磨装置 MirraMesa等を好ましく用いることができる。ここで、研磨処理に用いる研磨装置としては、前述のリンス研磨処理に用いる研磨装置と同様のものを用いることが、より効率的であり好ましい。
【0151】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨用組成物が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0152】
研磨条件にも特に制限はなく、例えば、研磨定盤の回転数、ヘッド(キャリア)回転数は、10rpm以上100rpm以下であることが好ましい。また、例えば、研磨対象物にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi以上10psi以下であることが好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法(掛け流し)が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に研磨用組成物で覆われていることが好ましく、10mL/分以上5000mL/分以下であることが好ましい。研磨時間も特に制限されないが、研磨用組成物を用いる工程については5秒間以上180秒間以下であることが好ましい。
【0153】
(ディフェクト除去効果)
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、表面処理対象物の表面上のセリア残渣(特に、セリアに由来するパーティクル残渣)および有機物残渣を除去する効果が高いほど好ましい。表面処理組成物を用いて表面処理対象物を表面処理した後(その後に後洗浄処理または乾燥を行う場合はその後)のパーティクル残渣および有機物残渣の数は、それぞれ以下の範囲であることが好ましい。パーティクル残渣の個数の上限の値は、100個以下であることが好ましく、80個以下であることがより好ましく、70個以下であることがさらに好ましく、60個以下であることがよりさらに好ましく、50個以下であることが特に好ましく、40個以下であることがさらに特に好ましく、30個以下であることが極めて好ましく、20個以下であることが最も好ましい(下限0個)。また、有機物残渣の個数の上限の値は、80個以下であることが好ましく、50個以下であることがより好ましく、25個以下であることがさらに好ましく、20個以下であることがよりさらに好ましく、15個以下であることが特に好ましく、10個以下であることがさらに特に好ましく、5個以下であることが極めて好ましく、3個以下であることが最も好ましい(下限0個)。
【0154】
<半導体基板の製造方法>
本発明のさらなる他の一形態は、本発明の一形態に係る表面処理方法によって、研磨済研磨対象物の表面を処理する工程を含む、半導体基板の製造方法に関する。ここで、本発明の一形態に係る半導体基板の製造方法は、セリアを含む研磨用組成物で研磨対象物(研磨前半導体基板)を研磨して研磨済研磨対象物(研磨済半導体基板)を得ることと、本発明の一形態に係る表面処理方法によって研磨済研磨対象物(研磨済半導体基板)を表面処理することと、を含むことが好ましい。
【0155】
本発明の実施形態を詳細に説明したが、これは説明的かつ例示的なものであって限定的ではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって解釈されるべきであることは明らかである。
【実施例
【0156】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0157】
<表面処理組成物No.1~53の調製>
分散媒としての水に、表1および2に示す(共)重合体および各成分を表1~3に示す含有量となるように添加し、攪拌混合して表面処理組成物を得た(混合温度約25℃、混合時間:約10分)。ここで、表面処理組成物のpHは表1および2に示すpH調整剤で調整し、pHメーター(株式会社堀場製作所製 型番:LAQUA)により確認した。
【0158】
なお、表中の各成分についての説明を以下に示す;
・ポリアクリル酸塩、ポリスチレンスルホン酸塩としては、それぞれ、ポリアクリル酸アンモニウム塩、およびポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩を用いた;
・ホスフィノカルボン酸共重合体としては、BWA社製 Belclene(登録商標)400を用いた;
・スチレンスルホン酸ナトリウムとメタクリル酸との共重合体(スチレンスルホン酸ナトリウム由来の部分構造:メタクリル酸由来の部分構造=20:80(モル比))を、表中ではスチレンスルホン酸ナトリウム/メタクリル酸共重合体(20/80)と表記した;
・エチレングリコール-プロピレングリコールブロック共重合体としては、日油株式会社製プロノン(登録商標)#104を、ポリオキシエチレングリセリルエーテルとしては、日油株式会社製ユニオックス(登録商標)G450を、ポリオキシエチレンモノイソドデシルエーテルとしては、日油株式会社製ノニオンID203を、ポリオキシエチレンモノラウレートとしては、日油株式会社製ノニオンL-2をそれぞれ用いた;
・クエン酸およびアンモニア水をpH調整剤A、イミノジ酢酸およびアンモニア水をpH調整剤B、マレイン酸およびアンモニア水をpH調整剤C、マロン酸およびアンモニア水をpH調整剤D、酢酸およびアンモニア水をpH調整剤Eと表記した。
【0159】
(分子量)
残渣除去促進剤の分子量は、(共)重合体であるものを除いて原子量の総和より算出した値を用いた。また、上記ポリアクリル酸塩、ポリスチレンスルホン酸塩、ホスフィノカルボン酸共重合体、およびスチレンスルホン酸ナトリウムとメタクリル酸との共重合体、ならびに残渣除去促進剤である(共)重合体の重量平均分子量(Mw)(ポリエチレングリコール換算)の測定条件は、下記の通りである。この結果を下記表1および2中に分子量として記載した。
【0160】
GPC装置:株式会社島津製作所製
型式:Prominence + ELSD検出器(ELSD-LTII)
カラム:VP-ODS(株式会社島津製作所製)
移動相 A:MeOH
B:酢酸1%水溶液
流量:1mL/min
検出器:ELSD temp.40℃、Gain 8、NGAS 350kPa
オーブン温度:40℃
注入量:40μl。
【0161】
また、ポリビニルアルコールの重量平均分子量(Mw)は、公知のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定方法に従い、以下の条件で求めた値である。
【0162】
カラム:Shodex(登録商標) OHpak SB-806 HQ + SB-803 HQ (8.0mmI.D. × 300mm each)(昭和電工株式会社製)
移動相:0.1M NaCl 水溶液
流量:1.0mL/min
検出器:Shodex(登録商標) RI(昭和電工株式会社製)
カラム温度:40℃。
【0163】
【表1-1】
【0164】
【表1-2】
【0165】
【表1-3】
【0166】
【表2】
【0167】
<研磨済研磨対象物(表面処理対象物)の準備>
下記化学的機械的研磨(CMP)工程によって研磨された後の、研磨済研磨対象物(研磨済窒化珪素基板)を、それぞれ表面処理対象物として準備した。
【0168】
[CMP工程]
半導体基板である窒化珪素基板について、セリアを含む研磨用組成物C(分散媒としての水に、MIREK(登録商標) E05(三井金属鉱業株式会社製)1.0質量%、ポリアクリル酸ナトリウム(重量平均分子量10000)0.1質量%を含有する、酢酸を用いてpH=4となるよう調整した研磨用組成物)を使用し、それぞれ下記の条件にて研磨を行った。ここで、窒化珪素基板は、200mmウェハを使用した。
【0169】
(研磨装置および研磨条件)
洗浄装置一体型研磨装置:アプライドマテリアルズ社製 MirraMesa
研磨パッド:ニッタ・ハース株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1010
研磨圧力:2.0psi(1psi=6894.76Pa、以下同様)
研磨定盤回転数:60rpm
ヘッド回転数:60rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:100mL/分
研磨時間:60秒間
研磨対象物:200mmウェハ(窒化珪素基板:低圧化学気相成長法(LPCVD)で製造されたもの、厚さ2500Å)。
【0170】
<表面処理方法>
前記CMP工程によって研磨された後の研磨済研磨対象物について、下記の条件でリンス研磨を行った。
【0171】
[表面処理工程]
(リンス研磨処理1:リンス研磨装置およびリンス研磨条件)
洗浄装置一体型研磨装置:アプライドマテリアルズ社製 MirraMesa
研磨パッド:ニッタ・ハース株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1010
研磨圧力:1.0psi
研磨定盤回転数:60rpm
ヘッド回転数:60rpm
リンス研磨用組成物の種類:水(脱イオン水)
リンス研磨用組成物の供給:掛け流し
リンス研磨用組成物供給量:100mL/分
リンス研磨時間:30秒間。
【0172】
(リンス研磨処理2:リンス研磨装置およびリンス研磨条件)
リンス研磨処理1とは異なる研磨定盤を用いて、リンス研磨処理1から連続して下記条件でリンス研磨処理2を行った。
【0173】
洗浄装置一体型研磨装置:アプライドマテリアルズ社製 MirraMesa
研磨パッド:ニッタ・ハース株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1010
研磨圧力:1.0psi
研磨定盤回転数:60rpm
ヘッド回転数:60rpm
リンス研磨用組成物の種類:表面処理組成物No.1~53
リンス研磨用組成物の供給:掛け流し
リンス研磨用組成物供給量:100mL/分
リンス研磨時間:60秒間。
【0174】
[後洗浄処理工程]
(後洗浄処理:後洗浄装置および後洗浄条件)
リンス研磨処理2の後の研磨済研磨対象物に、表面処理組成物をかけながら引き上げて取り出した。続いて、水(脱イオン水)を用いて、洗浄ブラシであるポリビニルアルコール(PVA)製スポンジで圧力をかけながら下記条件で各研磨済研磨対象物をこする洗浄方法によって、各研磨済研磨対象物を洗浄した。
【0175】
洗浄装置一体型研磨装置:アプライドマテリアルズ社製 MirraMesa
洗浄ブラシ回転数:100rpm
研磨済研磨対象物回転数:50rpm
後洗浄処理用組成物の種類:水(脱イオン水)
後洗浄処理用組成物供給量:1000mL/分
洗浄時間:60秒間。
【0176】
<評価>
上記後洗浄処理後の各研磨済研磨対象物について、下記項目について測定し評価を行った。
【0177】
[総ディフェクト数の評価]
上記後洗浄処理をした後の研磨済研磨対象物について、0.13μm以上のディフェクト数を測定した。ディフェクト数の測定には、KLA TENCOR社製SP-2を使用した。測定は、研磨済研磨対象物の片面の外周端部から幅5mmの部分(外周端部を0mmとしたときに、幅0mmから幅5mmまでの部分)を除外した残りの部分について測定を行った。
【0178】
[パーティクル残渣数の評価]
上記後洗浄処理をした後の研磨済研磨対象物について、パーティクル残渣の数を、株式会社日立製作所製Review SEM RS6000を使用したSEM観察によって測定した。まず、SEM観察にて、研磨済研磨対象物の片面の外周端部から幅5mmの部分(外周端部を0mmとしたときに、幅0mmから幅5mmまでの部分)を除外した残りの部分に存在するディフェクトを100個サンプリングした。次いで、サンプリングした100個のディフェクトの中からSEM観察にて目視にてパーティクル残渣を判別し、その個数を確認することで、ディフェクト中のパーティクル残渣の割合(%)を算出した。そして、上述のディフェクト数の評価にてKLA TENCOR社製SP-2を用いて測定した0.13μm以上のディフェクト数(個)と、前記SEM観察結果より算出したディフェクト中のパーティクル残渣の割合(%)との積を、パーティクル残渣数(個)として算出した。
【0179】
また、パーティクル残渣に対してエネルギー分散型X線分析装置(EDX)による元素分析を行ったところ、パーティクル残渣がセリアに由来することを確認した。
【0180】
[有機物残渣数の評価]
上記後洗浄処理をした後の研磨済研磨対象物について、有機物残渣の数を、株式会社日立製作所製Review SEM RS6000を使用したSEM観察によって測定した。まず、SEM観察にて、研磨済研磨対象物の片面の外周端部から幅5mmの部分(外周端部を0mmとしたときに、幅0mmから幅5mmまでの部分)を除外した残りの部分に存在するディフェクトを100個サンプリングした。次いで、サンプリングした100個のディフェクトの中からSEM観察にて目視にて有機物残渣を判別し、その個数を確認することで、ディフェクト中の有機物残渣の割合(%)を算出した。そして、上述のディフェクト数の評価にてKLA TENCOR社製SP-2を用いて測定した0.13μm以上のディフェクト数(個)と、前記SEM観察結果より算出したディフェクト中の有機物残渣の割合(%)との積を、有機物残渣数(個)として算出した。
【0181】
[その他の残渣数の評価]
総ディフェクト数の値より、パーティクル残渣数の値および有機物残渣数の値を減じることで、その他の残渣数(個)を算出した。
【0182】
各表面処理組成物について、表面処理対象物として研磨済窒化珪素基板を用いた場合の評価結果を表3および表4にそれぞれ示す。
【0183】
【表3-1】
【0184】
【表3-2】
【0185】
【表4】
【0186】
表3および表4に示すように、表面処理対象物として研磨済窒化珪素基板を用いた場合、本発明の一形態に係る表面処理組成物No.8~26、29~49、51および53は、本発明の範囲外である表面処理組成物No.1~7、27、50および52と比較して、セリアを含む研磨用組成物で研磨した後に得られる研磨済研磨対象物を表面処理した後の総ディフェクト数の低減効果を示すことが確認された。
【0187】
以上より、本発明の一形態に係る表面処理組成物が、セリアを含む研磨用組成物で研磨した後に得られる研磨済研磨対象物において、セリア残渣を良好に低減しつつ、セリア残渣以外の残渣も含む総ディフェクト数を極めて高いレベルで抑制することを確認した。
【0188】
本出願は、2017年9月26日に出願された日本特許出願番号第2017-185299号に基づいており、その開示内容は、その全体が参照により本明細書に組みこまれる。