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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】耐火部材、耐火構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/94 20060101AFI20221101BHJP
   F16L 5/04 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
E04B1/94 F
E04B1/94 V
F16L5/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019233103
(22)【出願日】2019-12-24
(65)【公開番号】P2021101081
(43)【公開日】2021-07-08
【審査請求日】2021-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000119830
【氏名又は名称】因幡電機産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】森 大志郎
(72)【発明者】
【氏名】秀島 有
(72)【発明者】
【氏名】芳谷 勉
【審査官】齋藤 卓司
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-032601(JP,A)
【文献】特開2019-052746(JP,A)
【文献】特開2017-128960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62-1/99
F16L 5/04
F16J 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺体の周りに巻き付けられて用いられる耐火部材であって、
長尺体の周りに巻き付けられた際に最も内側に配置される弾性変形可能な可燃性の第1発泡体と、
前記第1発泡体に積層される熱膨張部材と、
前記熱膨張部材に積層され、長尺体の周りに巻き付けられた際に最も外側に配置される弾性変形可能な第2発泡体と、
前記第1発泡体、前記熱膨張部材及び前記第2発泡体を覆う被覆体と、
を具備し、
前記第1発泡体は、火災時に焼失可能であり、
前記第2発泡体は、熱膨張材を含有する発泡体からなり、火災時に熱膨張材が膨張可能であり、
前記耐火部材の一方の側面側に配置され、各部材の積層方向であって、前記第2発泡体側に突出する金具を具備することを特徴とする耐火部材。
【請求項2】
前記第2発泡体には、ガラスフリットが含有され、
火災時に前記第1発泡体が燃焼しても、前記第2発泡体は、ガラスフリットによって、膨張した熱膨張材が型崩れせずに形態を維持することで完全に消失することがなく、
前記第2発泡体の熱膨張材の膨張によって、前記熱膨張部材は第1発泡体側に優先的に膨張することを特徴とする請求項1記載の耐火部材。
【請求項3】
前記金具は、前記第2発泡体と前記熱膨張部材との間に挿入される挿入部と、前記挿入部に対してほぼ直角に折り曲げられ、前記耐火部材の側面の露出する係止部とを具備することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の耐火部材。
【請求項4】
前記耐火部材の表面と裏面の所定の部位には、前記耐火部材を丸めた状態で保持することが可能な固定部が形成されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の耐火部材。
【請求項5】
前記第1発泡体の長手方向に平行な断面において、前記第1発泡体の少なくとも一方の端部が、前記熱膨張部材の端部から突出し、突出部における前記第1発泡体は、端部に行くにつれて厚みが薄くなるテーパ部を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の耐火部材。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の耐火部材が用いられた耐火構造であって、
区画部に形成された貫通孔に長尺体が挿通され、
前記貫通孔の内部において、前記第1発泡体が最も内側になるように前記耐火部材が前記長尺体の周りに巻き付けられて前記長尺体と前記貫通孔の内面との隙間が前記耐火部材で塞がれ、
前記金具の一部が前記区画部の表面と接触することを特徴とする耐火構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、区画部への配管やケーブルなどの貫通部に対して耐火性能を確保するための耐火部材等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建造物等において、区画部で区画された各部屋に配管やケーブル(以下、単に長尺体と称する)が敷設される場合がある。この場合、例えば一方の部屋で火災が発生すると、長尺体を伝って火災が建造物全体に広がり、甚大な被害をもたらすおそれがある。
【0003】
このような区画部を貫通する長尺体の耐火構造では、長尺体と貫通孔との隙間を埋める必要がある。しかし、区画部に挿通される長尺体の外径は一定ではなく、長尺体の種類に応じて貫通孔と長尺体の隙間は一定ではない。
【0004】
このような、異なる外径の長尺体に適用するために、長尺体の外周に弾性変形可能な発泡体を配置する方法がある(例えば特許文献1)。また、長尺体の外周に配置される耐火部材の内周面に複数のヒダ片を設け、ヒダ片を長尺体の外周面に密着させる方法がある(例えば特許文献2)。
【0005】
また、紐状の耐火部材を用いて、紐状の耐火部材を長尺体の外周に複数回巻き付けて隙間を埋める方法がある(特許文献3)。この場合、長尺体と貫通孔との内面との隙間に応じて、紐状の耐火部材の巻き付け回数を変えることで、異なる隙間に対しても適用が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-105039号公報
【文献】特開2017-128960号公報
【文献】特開2001-187969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
通常、特許文献1や特許文献2のような方法では、まず、貫通孔に予め挿通された長尺体に対して、貫通孔の外部において耐火部材を長尺体の外周に配置する。次いで、長尺体に沿って耐火部材を貫通孔の内部に移動させることで、貫通孔と長尺体との隙間に耐火部材が配置されて耐火構造が形成される。
【0008】
しかし、複数種類の長尺体に対しても適用可能とするため、長尺体の周囲に配置される発泡体やヒダ片は、長尺体の外形に対して容易に変形させる必要がある。このため、発泡体やヒダ片は柔軟な部材で構成される。このため、耐火部材を長尺体の外周に配置して、貫通孔内へスライド移動させる際に、発泡体やヒダ片が損傷する恐れがある。しかし、長尺体と接触する耐火部材の剛性を高めると、長尺体の外形への追従性が低くなり、十分に貫通孔と長尺体との隙間を埋めることができない。
【0009】
一方、特許文献3は、長尺体と貫通孔との隙間に応じて、紐状部材の巻き付け回数を変えることで、貫通孔と長尺体との隙間を埋めることが可能である。しかし、隙間が大きくなれば、巻き付け回数が多くなり、施工性が悪い。特に、狭隘な場所での作業では、長い紐状部材を取り扱って、長尺体の外周に多数回巻き付ける作業は容易ではない。また、巻き付け回数を現場で調整する必要があるため、作業者による施工品質のばらつきが生じやすい。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、施工性に優れ、安定した品質の耐火構造を得ることが可能な耐火部材等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した目的を達成するため、第1の発明は、長尺体の周りに巻き付けられて用いられる耐火部材であって、長尺体の周りに巻き付けられた際に最も内側に配置される弾性変形可能な可燃性の第1発泡体と、前記第1発泡体に積層される熱膨張部材と、前記熱膨張部材に積層され、長尺体の周りに巻き付けられた際に最も外側に配置される弾性変形可能な第2発泡体と、前記第1発泡体、前記熱膨張部材及び前記第2発泡体を覆う被覆体と、を具備し、前記第1発泡体は、火災時に焼失可能であり、前記第2発泡体は、熱膨張材を含有する発泡体からなり、火災時に熱膨張材が膨張可能であり、前記耐火部材の一方の側面側に配置され、各部材の積層方向であって、前記第2発泡体側に突出する金具を具備することを特徴とする耐火部材である。
前記第2発泡体には、ガラスフリットが含有され、火災時に前記第1発泡体が燃焼しても、前記第2発泡体は、ガラスフリットによって、膨張した熱膨張材が型崩れせずに形態を維持することで完全に消失することがなく、前記第2発泡体の熱膨張材の膨張によって、前記熱膨張部材は第1発泡体側に優先的に膨張してもよい。
【0012】
前記金具は、前記第2発泡体と前記熱膨張部材との間に挿入される挿入部と、前記挿入部に対してほぼ直角に折り曲げられ、前記耐火部材の側面の突出する係止部とを具備してもよい。
【0013】
前記耐火部材の表面と裏面の所定の部位には、前記耐火部材を丸めた状態で保持することが可能な固定部が形成されてもよい。
【0014】
前記第1発泡体の長手方向に平行な断面において、前記第1発泡体の少なくとも一方の端部が、前記熱膨張部材の端部から突出し、突出部における前記第1発泡体は、端部に行くにつれて厚みが薄くなるテーパ部を有してもよい。
【0015】
第1の発明によれば、柔軟で弾性変形可能な第1発泡体及び第2発泡体が用いられるため、長尺体の形状に容易に追従し、貫通孔との隙間を埋めることができる。特に、熱膨張部材よりも貫通孔内面側(外周側)には、弾性変形可能な第2発泡体が設けられる。このため、貫通孔内面の凹凸等に追従可能なクッションとして機能する。
また、第2発泡体にガラスフリットを含有することによって、膨張した熱膨張材が型崩れせずに形態を維持することができ、熱膨張部材と貫通孔内面との間を確実に塞ぐことができる。このため、熱膨張部材の膨張方向を制御することができる。
【0016】
また、第2発泡体には熱膨張材が含まれるため、火災時には第2発泡体も膨張させることができる。このため、熱膨張部材の外周方向への膨張を抑制し、貫通孔の中心方向に膨張させることができる。このため、より確実に貫通孔を塞ぐことができる。また、発泡体等がすべて被覆体で被覆されるため、長尺体との接触面に発泡体が露出せず、発泡体と長尺体とが直接接触することがない。このため、施工時における発泡体等の損傷を抑制することができる。
【0017】
また、耐火部材の一方の側面側に金具を配置し、金具の一部を第2発泡体側に突出させることで、耐火部材を丸めて貫通孔に挿入した際に、金具によって貫通孔からの耐火部材の脱落等を抑制することができる。
【0018】
また、金具が、挿入部と、挿入部に対してほぼ直角に折り曲げられた係止部とを有すれば、金具を第2発泡体と熱膨張部材との間に挿入することで、容易に耐火部材の側面に係止部を突出させることができる。
【0019】
また、耐火部材の表面と裏面の所定の部位に、耐火部材を丸めた状態で保持することが可能な固定部を形成することで、長尺体の周囲に巻き付けた際に、耐火部材が螺旋状にほどけることを抑制することができる。
【0020】
また、第1発泡体の少なくとも一方の端部を熱膨張部材から突出させて、熱膨張部材側から突出するにつれて厚みが薄くなるようにテーパ部を設けることで、耐火部材を長尺体の外周に巻き付けた際に、耐火部材同士のラップ部における段差をなだらかにすることができる。
【0021】
第2の発明は、第1の発明にかかる耐火部材が用いられた耐火構造であって、区画部に形成された貫通孔に長尺体が挿通され、前記貫通孔の内部において、前記第1発泡体が最も内側になるように前記耐火部材が前記長尺体の周りに巻き付けられて前記長尺体と前記貫通孔の内面との隙間が前記耐火部材で塞がれ、前記金具の一部が前記区画部の表面と接触することを特徴とする耐火構造である。
【0022】
第2の発明によれば、第1発泡体と第2発泡体によって、確実に長尺体と貫通孔の内面との隙間を埋めることができるとともに、被覆体によって、発泡体の損傷を抑制することが可能である。このため、施工品質が安定した耐火構造を得ることができる。また、金具によって貫通孔への挿入代を容易に把握することができ、また、貫通孔からの耐火部材の脱落を抑制することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、施工性に優れ、安定した品質の耐火構造を得ることが可能な耐火部材等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】耐火部材1を示す分解斜視図。
図2】耐火部材1に金具21を挿入する工程を示す図。
図3図2(b)のA-A線断面図。
図4】他の封止構造を示す図。
図5】耐火構造を施工する工程を示す図。
図6】耐火構造を施工する工程を示す図。
図7】耐火部材1を示す長尺体13の外周に巻き付けた状態の断面図。
図8】耐火構造20を示す図。
図9】(a)は金具21の他の形態を示す図で、(b)は、(a)の金具21を用いた耐火部材1の断面図。
図10】(a)は耐火部材1aの斜視図、(b)は、(a)のB-B線断面図。
図11】耐火部材1aを示す長尺体13の外周に巻き付けた状態の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1の実施形態)
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明にかかる耐火部材1を示す分解斜視図である。耐火部材1は、主に第1発泡体3、熱膨張部材7、第2発泡体9、被覆体11、金具21等から構成される。
【0026】
第1発泡体3は、弾性変形可能な部材であり、例えばウレタン発泡体などの可燃性のスポンジであることが望ましい。すなわち、第1発泡体3は、厚み方向に容易に変形可能な柔軟な部材からなる。また、第1発泡体3は、例えば波形発泡体とすることが望ましい。すなわち、第1発泡体3の一方の面には、波形の山部と谷部が幅方向およびこれと垂直な長手方向に対して規則的に配置される。
【0027】
第1発泡体3には、火災時等の熱によって膨張する熱膨張部材7が積層される。熱膨張部材7例えばシート状やパテ状のものが望ましい。また、熱膨張部材7には、弾性変形可能な第2発泡体9が積層される。第2発泡体9は、厚み方向に変形可能な柔軟な部材からなる。なお、例えば、第1発泡体3は、第2発泡体9に対して、柔軟性が高い。すなわち、同一厚み同一荷重においては、第1発泡体3よりも第2発泡体9の弾性変形量は小さい。
【0028】
第2発泡体9のベース樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂が用いられ、発泡剤によって発泡される。なお、ベース樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂を1種含有してもよく、2種以上を含有してもよい。ポリオレフィン系樹脂としては、特に、エチレン-酢酸ビニル共重合体及び/又は低密度ポリエチレンが好ましい。
【0029】
第2発泡体9は、このベース樹脂に、熱膨張材が分散して含まれる。すなわち、第2発泡体9は、熱膨張材を含有する発泡体である。熱膨張材としては、例えば粉末状の膨張性黒鉛等が用いられる。さらに、第2発泡体には、架橋剤や、ベース樹脂の燃焼後に、膨張した熱膨張材の型崩れを防止するためのガラスフリットが含有されてもよい。ガラスフリットは焼結剤として機能し、熱や炎により焼結し、型崩れを防止する。ガラスフリットとしては、リン酸系低融点ガラス、ホウ酸系低融点ガラス、酸化ナトリウム系低融点ガラス等を用いることができる。
【0030】
このように、第2発泡体9は、柔軟な発泡体であり、熱によってベース樹脂は燃焼しても、熱膨張材が膨張することで完全に消失することがない。また、ベース樹脂の燃焼後には、ガラスフリットによって、膨張した熱膨張材が型崩れせずに形態を維持することができる。
【0031】
なお、第1発泡体3、熱膨張部材7、第2発泡体9は、互いに直接積層されていてもよいが、各部材間に他の部材が配置されて、当該他の部材を介して積層されてもよい。また、各部材同士及び折り畳まれた第2発泡体9同士の積層部は、例えば接着剤や両面テープ等で接着してもよい。
【0032】
第1発泡体3、熱膨張部材7及び第2発泡体9は、被覆体11によって一括して被覆される。被覆体11は、第1発泡体3や第2発泡体9の厚み方向の変形の妨げとならず、追従可能な柔軟な部材からなり、例えば、不織布等からなる。この際、第1発泡体3は、山部と谷部により形成される凹凸形状が外側(熱膨張部材7とは逆側であって、被覆体11と接する側)となるように配置される。
【0033】
図2は、第1発泡体3、熱膨張部材7及び第2発泡体9が被覆体11で被覆された状態を示す図で、図2(a)は、金具21の挿入前を示す図、図2(b)は、金具21を挿入した状態を示す図である。
【0034】
金具21は、耐火部材1の一方の側面側に配置される。金具21は、挿入部23と、挿入部23に対してほぼ直角に曲げられた係止部25とを有する。なお、図示した例では、金具21が二つ用いられるが、金具21の個数は特に制限されない。また、金具21の配置は図示した例には限られない。なお、耐火部材1の長手方向に対する金具21の配置については後述する。
【0035】
図示したように、被覆体11によって、第1発泡体3、熱膨張部材7及び第2発泡体9を被覆して封止した後、金具21の挿入部23を被覆体11に突き刺して、金具21を耐火部材1に対して固定することができる。
【0036】
図3は、図2(b)のA-A線断面図である。第1発泡体3、熱膨張部材7及び第2発泡体9は、シート状の被覆体11によって被覆され、熱融着等によって周囲が封止部5によって封止される。例えば、被覆体11は、シート状の部材の端部を重ねて封止して筒状とするとともに、両端の開口部の端部同士を重ねて封止される。
【0037】
なお、図4(a)に示すように、被覆体11で第1発泡体3、熱膨張部材7、第2発泡体9の積層物を覆い、長辺側において封止した上で、この封止部5を第2発泡体9側に折り返して、図4(b)に示すように、被覆体11を第2発泡体9の外面に融着させてもよい。この場合には、被覆体11を第2発泡体9側に折り返した状態で、当該部位に加熱した板状の部材を押圧することで、被覆体11同士の重なり部と、第2発泡体9と被覆体11との積層部を、互いの低融点成分によってわずかに融着させることができる。このため、被覆体11内で積層物が動くことを抑制することが可能となる。以下、簡単のため、図3に示すように封止部5を形成する場合について説明する。
【0038】
図3に示すように、金具21の挿入部23は、第2発泡体9と熱膨張部材7との間に挿入される。挿入部23に対してほぼ直角に折り曲げられた係止部25は、耐火部材1の一方の側面に露出する。また、耐火部材1の一方の側面側に露出する係止部25は、各部材の積層方向であって、第2発泡体9側(図中下方)に向けて突出する。この際、係止部25の長さは、第2発泡体9の厚みよりも長いため、係止部25の先端部は、第2発泡体9の外面からはみ出すように突出する。
【0039】
挿入部23には、予め接着剤等が塗布されて、第2発泡体9及び熱膨張部材7に固定される。なお、挿入部23の挿入位置は、図示した例には限られない。また、挿入部23の固定方法は、接着剤でなくもてもよい。
【0040】
次に、耐火部材1を用いた耐火構造の施工方法について説明する。図5図8は、耐火構造の施工工程を示す図である。まず、図5に示すように、防火区画部である区画部19に貫通孔17を形成する。区画部19は、例えば建築物などの構造物の内部空間を区画する壁である。次に、区画部19に形成された貫通孔17に長尺体13を挿通する。長尺体13は、例えばケーブルや配管である。なお、複数本の長尺体を挿通してもよい。
【0041】
次に、図6に示すように、長尺体13に耐火部材1を取り付ける。図7は、長尺体13に耐火部材1を巻き付けた状態の断面図である。なお、図7においては、簡単のため、第1発泡体3の凹凸形状等の図示を省略する。図6図7に示すように、耐火部材1は、長尺体13の周りに巻き付けられて用いられる。この際、耐火部材1の最も内側であって、長尺体13と接触する側に第1発泡体3が配置され、最も外側に第2発泡体9が配置される。
【0042】
長尺体13に耐火部材1を巻き付けた際に、耐火部材1の両端部が互いに重なり合い、ラップ部(重ね合わせ部)が形成される。このようにすることで、耐火部材1同士の間に隙間が形成されず、長尺体13の全周を耐火部材1で覆うことができる。この際、金具21の係止部25は、丸められた耐火部材1の外周に突出するように配置される。
【0043】
ここで、熱膨張部材7よりも内側に配置される第1発泡体3は、可燃性部材で構成される。通常、火災時には、長尺体13側(耐火部材1の内側)から高温となり、耐火部材1の内周側に配置される第1発泡体3が即座に燃焼する。このため、熱膨張部材7が短時間で加熱され、膨張を即座に開始させることができる。この際、熱膨張部材7の内側の第1発泡体3は焼失しているため、長尺体13方向への熱膨張部材7の膨張の妨げとなることがない。
【0044】
一方、熱膨張部材7の外周側には、第2発泡体9が配置される。第2発泡体9は、熱膨張部材7と比較すると熱膨張量は小さいが、ベース樹脂が燃焼しても、内部に分散する膨張材の膨張によって、熱膨張部材7と貫通孔内面との間を確実に塞ぐことができる。このため、熱膨張部材7を、優先して内側に膨張させることができる。すなわち、熱膨張部材7の膨張方向を制御することができる。
【0045】
次に、図8に示すように、長尺体13に沿って丸めた状態の耐火部材1を滑らして移動させ、貫通孔17に押し込む。耐火部材1の厚みは、貫通孔17と長尺体13の隙間よりも厚いが、第1発泡体3や第2発泡体9が潰れて変形することで、貫通孔17へ挿入することができる。
【0046】
貫通孔17内に挿入された耐火部材1は、第1発泡体3及び第2発泡体9の弾性復元によって長尺体13と貫通孔17との隙間を埋めて塞ぐことができる。より具体的には、第1発泡体3は、長尺体13の外形に追従して変形し、長尺体13の外周面に被覆体11を介して密着する。また、第2発泡体9は、貫通孔17の内面形状に追従して変形し、貫通孔17の内周面に被覆体11を介して密着する。
【0047】
また、耐火部材1の外周部に、金具21が突出するため、耐火部材1を貫通孔17へ押し込むと、金具21の一部(係止部25)が、区画部19の表面と接触する。このため、耐火部材1の押し込み方向の位置決めが容易である。また、その後、長尺体13を動かした際などに、耐火部材1が貫通孔17から脱落することを抑制することができる。
【0048】
なお、このような効果を効果的に得るためには、金具21は、複数個配置され、例えば、周方向に略一定の間隔(図では約180度間隔に二つ)で配置されることが望ましい。このため、長尺体13に巻きつけた際に、一定の間隔で金具21が配置されるように、予め、耐火部材への金具21の固定位置を決めることが望ましい。このため、被覆体11の外周に、金具21の固定位置を示すマーク27(図2(a)参照)を設けておいてもよい。この際、長尺体13の種類(径)に応じて、適切な位置にそれぞれ異なるマーク27を設け、長尺体13によって、金具21の挿入位置を適宜変えてもよい。
【0049】
なお、前述した様に、第1発泡体3の内面側には、凹凸形状が形成される。凹凸形状の山部は、長尺体13と接触して容易につぶれる。したがって、長尺体13の外径や本数が変わっても、同一の耐火部材1で対応することができる。
【0050】
以上により、貫通孔17の内部において、耐火部材1が長尺体13の周りに巻き付けられ、長尺体13と貫通孔17の内面との隙間が耐火部材1で塞がれた耐火構造20を施工することができる。
【0051】
以上説明したように、本実施の形態にかかる耐火部材1によれば、最内層に第1発泡体3が配置され、長尺体13の外径に応じて、第1発泡体3が容易に潰れるため、一つの耐火部材1によって、複数の径の長尺体13に適用することができ、確実に耐火部材1を長尺体13の外周に密着させることができる。また、長尺体13と第1発泡体3とが直接接触しないため、長尺体13に沿って耐火部材1を移動させる際などにおいて、第1発泡体3が損傷することを抑制することができる。
【0052】
また、熱膨張部材7の内周側には可燃性の部材を用いることで、火災の際に、第1発泡体3が焼失し、熱膨張部材7を短時間で膨張を開始させることができ、長尺体13方向への膨張の妨げとなることがない。一方、第2発泡体9が熱膨張材を含むため、第2発泡体9のベース樹脂が燃焼しても、第2発泡体9の膨張材の膨張によって熱膨張部材7は第2発泡体9側ではなく、第1発泡体3側に優先的に膨張する。このため、効率良く、貫通孔17を塞ぎことができる。
【0053】
ここで、熱膨張部材7を優先的に第1発泡体3側へ膨張させるためには、熱膨張部材7の外周にグラスウール等の不燃材を配置する方法もある。しかし、グラスウール等の不燃材は、第2発泡体9よりもさらに弾性変形量が少なく、貫通孔17と長尺体13との間の隙間を埋めることが困難である。
【0054】
これに対し、本実施形態では、熱膨張部材7の外周に発泡体を配置するため、高い弾性変形量を確保することができる。また、ベース樹脂の燃焼後には、内部の膨張材の膨張によって、完全に消失することが抑制され、熱膨張部材7の膨張方向を貫通孔17の中心方向へ誘導することができる。
【0055】
また、耐火部材1は、外周側(第2発泡体9側)に突出する金具21が取り付けられているため、貫通孔への位置決めが容易となり、貫通孔からの脱落を抑制することができる。
【0056】
また、金具21が、挿入部23と係止部25を有するため、挿入部23を被覆体11で被覆された各部材間に容易に挿入して固定することができる。このため、現場で金具21を固定することもできる。この際、被覆体11の外周にマーク27を設けることで、金具21の挿入位置を容易に把握することができる。
【0057】
なお、金具21の固定方法は接着剤等によらなくてもよい。例えば、図9(a)は、金具21の他の固定構造を示す図である。本実施形態では、挿入部23の先端部近傍に、係止部25方向に開くように折り曲げられた爪部29が形成される。図9(b)は、金具21が固定された状態を示す断面図である。挿入部23を第2発泡体9と熱膨張部材7との隙間に挿入すると、挿入時には、爪部29が弾性変形して挿入され、挿入後は、爪部29が第2発泡体9に食い込んで、金具21の抜けが抑制される。このように、金具21の固定方法はいずれの方法であってもよい。
【0058】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。図10(a)は、第2の実施形態にかかる耐火部材1aを示す斜視図であり、図10(b)は、図10(a)のB-B線断面図である。なお、以下の説明において、耐火部材1と同一の機能を奏する構成については、図1図9と同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0059】
耐火部材1aは、耐火部材1等と同様の構成であるが、固定部31a、31bが設けられる点で異なる。固定部31a、31bは、耐火部材1aの表面と裏面の所定の部位にそれぞれ配置される。固定部31a、31bは、例えば面ファスナである。
【0060】
また、図10(b)に示すように、第1発泡体3の長手方向に平行な断面において、耐火部材1aは、第1発泡体3の長手方向の端部が熱膨張部材7及び第2発泡体9の端部からはみ出させ、はみ出した部分にテーパ部33a、33bが形成される。
【0061】
より具体的には、第1発泡体3の長手方向に平行な断面において、第1発泡体3の一方の端部(図中右側)が、熱膨張部材7の端部から突出し、突出部における第1発泡体3は、端部に行くにつれて厚みが薄くなるようにテーパ部33aを有する。なお、厚み方向における熱膨張部材7との界面側での、テーパ部33aにおける第1発泡体3の角度は、鈍角に形成される。
【0062】
同様に、第1発泡体3の長手方向に平行な断面において、第1発泡体3の他方の端部(図中左側)も、熱膨張部材7から突出し、端部に行くにつれて厚みが薄くなるようにテーパ部33bを有する。なお、厚み方向における熱膨張部材7との界面側での、テーパ部33bにおける第1発泡体3の角度は、鋭角に形成される。すなわち、熱膨張部材7から見た、第1発泡体3の長手方向の両端のそれぞれのテーパ部の形態は、互いに逆になる。
【0063】
ここで、熱膨張部材7側の角度が鈍角となる側(図中右側)においては、第1発泡体3側の外面に固定部31aが配置される。また、熱膨張部材7側の角度が鋭角となる側(図中左側)においては、第2発泡体9側の外面に固定部31bが配置される。
【0064】
図11は、図7と同様に、耐火部材1aの使用状態を示す断面図である。前述したように、耐火部材1aは、第1発泡体3が内周側となるように、長尺体13の外周に巻き付けられて使用される。この際、固定部31aと固定部31bとが対向して接合される。すなわち、固定部31a、31bは、耐火部材1aを丸めた状態で保持することが可能である。
【0065】
なお、固定部31a、31bは、面ファスナでなくてもよい。例えば、固定部31a、31bは、ボタンやフック等、互いに接合可能であればいずれの固定手段であっても適用可能である。
【0066】
このように、固定部31a、31bによって、耐火部材1aは長尺体13の外周に巻き付けられた状態が維持されるため、その後、耐火部材1aを貫通孔17へ挿入する作業が容易である。また、貫通孔17へ耐火部材1aを挿入した後、例えば長尺体13を軸方向に沿って移動させた場合でも、耐火部材1aが螺旋状にほどけてしまい、貫通孔17から脱落することを抑制することができる。
【0067】
また、耐火部材1aを丸めた際に、テーパ部33aが形成される側の端部が、外側となるように端部同士がラップする。この際、テーパ部33aは、最外周の第2発泡体9側からの内周側にラップする第2発泡体9側に向かって、徐々に厚みが薄くなるように形成される。このため、丸めた際に形成される段差をなだらかにして、貫通孔17との隙間を効率良く埋めることができる。
【0068】
同様に、耐火部材1aを丸めた際に、テーパ部33bが形成される側の端部は、内側となるように端部同士がラップするため、テーパ部33bは、第1発泡体3の最内周側からの外周側にラップする第1発泡体3側に向かって、徐々に厚みが薄くなるように形成される。このため、丸めた際に形成される段差をなだらかにして、長尺体13との隙間を効率良く埋めることができる。なお、テーパ部33a、33bは、少なくとも一方が形成されればよい。
【0069】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、固定部31a、31bを用いることで、耐火部材1aを丸めた状態で保持することができる。このため、貫通孔17への挿入等の作業が容易である。また、丸めて配置された耐火部材1aが、螺旋状にほどけてしまい、貫通孔17から脱落することを抑制することができる。
【0070】
また、第1発泡体3の長手方向端部にテーパ部33a、33bを形成することで、端部をラップさせたように丸めた際に、ラップ部の段差をなだらかにすることができる。特に、最外周の段差をなだらかにすることで、貫通孔17の内面との隙間をより確実に埋めることができる。
【0071】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0072】
1、1a………耐火部材
3………第1発泡体
5………封止部
7………熱膨張部材
9………第2発泡体
11………被覆体
13………長尺体
17………貫通孔
19………区画部
20………耐火構造
21………金具
23………挿入部
25………係止部
27………マーク
29………爪部
31a、31b………固定部
33a、33b………テーパ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11