(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】ビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/055 20060101AFI20221101BHJP
C07C 69/16 20060101ALI20221101BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20221101BHJP
【FI】
C07C67/055
C07C69/16
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2019532589
(86)(22)【出願日】2018-07-23
(86)【国際出願番号】 JP2018027458
(87)【国際公開番号】W WO2019021993
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2017142559
(32)【優先日】2017-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017236645
(32)【優先日】2017-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】源 直也
(72)【発明者】
【氏名】金子 充雅
(72)【発明者】
【氏名】清水 亮佑
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】特公昭59-022692(JP,B2)
【文献】特公昭54-000886(JP,B2)
【文献】特公昭46-043208(JP,B2)
【文献】特開2015-193567(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒および必要に応じて溶媒の存在下、下記一般式(I)で表されるモノアシルオキシ化エキソメチレン化合物、下記一般式(II)で表されるカルボン酸および酸素を液相中で反応させ
、前記触媒が担体に貴金属が担持された触媒であり、前記貴金属がパラジウムである、下記一般式(III)で表されるビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物の製造方法。
【化1】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~8のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数3~8のシクロアルキル基または置換基を有していてもよい炭素数6~14のアリール基を表し、R
3は水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~8のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数3~8のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2~6のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数6~14のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数1~8のアルコキシ基または置換基を有していてもよい炭素数6~14のアリールオキシ基を表し、R
4は水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~8のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数3~8のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2~6のアルケニル基または置換基を有していてもよい炭素数6~14のアリール基を表し、nは1~8の整数を表す。)
【請求項2】
前記反応過程にある反応液に前記カルボン酸を供給する工程を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
使用される前記カルボン酸の全量を連続的に反応器に供給する、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
溶媒の存在下で反応を行う、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記溶媒および前記カルボン酸の合計使用量が、前記モノアシルオキシ化エキソメチレン化合物1モルに対して1モル超50モル以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記溶媒が、炭化水素、複素環式化合物、エーテル、ケトン、エステル、アミド、ニトリルおよびアルコールからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記溶媒が下記一般式(IV)で表されるエステルである、請求項6に記載の製造方法。
【化2】
(式中、R
4は前記定義のとおりであり、R
5は置換基を有していてもよい炭素数1~8のアルキル基または置換基を有していてもよい炭素数6~14のアリール基を表す。)
【請求項8】
R
4がメチル基であり、R
5が炭素数1~4のアルキル基である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記カルボン酸の使用量が、前記モノアシルオキシ化エキソメチレン化合物1モルに対して0.1モル以上0.6モル以下である、請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
R
3およびR
4がメチル基であり、nが1または2である、請求項1~9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
R
1およびR
2が水素原子である、請求項1~10のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物は、同一分子内に、ラジカル付加反応、ヒドロシリル化反応またはヒドロホルミル化反応などに適用可能な2,2-置換炭素-炭素不飽和結合、および鹸化反応やエステル交換反応などに適用可能な2つのアシル基を持つことから、その反応性に起因して様々な化学品の製造原料として用いることができる(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
従来からビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物の製造方法はいくつか知られている。
例えば非特許文献1には、1,3-ジクロロ-2-メチレンプロパンと酢酸ナトリウムを反応させることにより1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパンを製造する方法が記載されている。
また非特許文献2には、イタコン酸メチルを水素化アルミニウムリチウムと反応させた後、無水酢酸と反応させることで1,4-ジアセトキシ-2-メチレンブタンを製造する方法が記載されている。
しかしながら、これらの製造方法では、通常廃棄物となる無機副生物が生成物に対し等モル以上発生する。したがって、環境負荷低減の観点からは無機副生物を発生させない製造方法が望まれる。
【0004】
一方、無機副生物を発生させない製造方法として、パラジウム触媒存在下、末端オレフィン化合物、カルボン酸および酸素を気相にて反応させ、ビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物を製造する方法が知られている。
例えば特許文献3には、酢酸メタリル、酢酸、水および酸素を、気相中において特定の触媒の存在下で反応させることにより、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパンを製造する方法が記載されている。この特許文献3には、担持触媒900mLに対し、窒素:酸素:酢酸メタリル:酢酸:水=40.0:2.0:1.2:5.0:3.0(モル/時)の混合ガスを2気圧で通じ、反応温度140℃で気相反応させることにより、酢酸メタリルの転化率25%および選択率95%で1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパンを得たことが記載されている(1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパンの生産効率55g/{L(触媒)・hr})。
また特許文献4には、イソブチレン、酢酸および酸素を含む混合ガスをパラジウム触媒上に気相で通じて反応させることにより1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパンを製造する方法が記載され、副生する酢酸メタリルを循環使用して反応ガス中に添加することが記載されている。この特許文献4には、担持触媒10mLに対し、酢酸:酸素:イソブチレン:酢酸メタリル:水蒸気=20:10:50:10:10の混合ガスを毎時4Lの速度で通じ、反応温度155℃で気相反応させることにより、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパンを67g/{L(触媒)・hr}の生産効率で得たことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-177576号公報
【文献】特開平2-264781号公報
【文献】独国特許第1909964号明細書
【文献】特公昭47-28965号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Macromolecules,1993,26(4),p737-743
【文献】Journal of Organic Chemistry,1962,27(6),p1975-1978
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の、無機副生物を発生させないビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物の製造方法はすべて気相条件での反応である。気相条件では、安全上の観点からその酸素濃度を限界酸素濃度以下にしなければならず、低い基質転化率での運転が強いられ、基質の回収装置が必須となる。また原料の気化装置、触媒が充填された反応管、さらには原料を気化するための膨大なエネルギーも必要となり、生産効率、設備コスト、エネルギー消費のいずれの観点からも改善の余地が大きい。
【0008】
上記現状に鑑み、本発明の課題は、無機副生物を発生させず、かつ生産効率およびコストの改善されたビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物の製造方法を提供することにある。
また、本発明の他の課題は、無機副生物を発生させず、かつ収率がより改善されたビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定の液相条件においてビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物を製造することで上記課題を解決できることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本願の第1の発明を完成した。
また、本発明者らは鋭意検討した結果、モノアシルオキシ化エキソメチレン化合物、カルボン酸および酸素を特定の液相条件で反応させてビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物を製造する際に、使用されるカルボン酸を半回分方式で供給するなどして、最終的に使用される全カルボン酸のうちの一部(残り)を前記反応過程にある反応液に供給することにより、反応により発生する水により原料のモノアシルオキシ化エキソメチレン化合物や目的とするビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物が加水分解されるのを抑制することができて収率がより改善されることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本願の第2の発明を完成した。
【0010】
本発明は、下記[1]~[11]に関する。
[1]触媒および必要に応じて溶媒の存在下、下記一般式(I)で表されるモノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(以下、「モノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)」と称する場合がある)、下記一般式(II)で表されるカルボン酸(以下、「カルボン酸(II)」と称する場合がある)および酸素を液相中で反応させる、下記一般式(III)で表されるビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物(以下、「ビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物(III)」と称する場合がある)の製造方法。
【0011】
【0012】
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~8のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数3~8のシクロアルキル基または置換基を有していてもよい炭素数6~14のアリール基を表し、R3は水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~8のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数3~8のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2~6のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数6~14のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数1~8のアルコキシ基または置換基を有していてもよい炭素数6~14のアリールオキシ基を表し、R4は水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~8のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数3~8のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2~6のアルケニル基または置換基を有していてもよい炭素数6~14のアリール基を表し、nは1~8の整数を表す。)
[2]前記反応過程にある反応液に前記カルボン酸を供給する工程を含む、[1]に記載の製造方法。
[3]使用される前記カルボン酸の全量を連続的に反応器に供給する、[2]に記載の製造方法。
[4]溶媒の存在下で反応を行う、[1]~[3]のいずれか1つに記載の製造方法。
[5]前記溶媒および前記カルボン酸の合計使用量が、前記モノアシルオキシ化エキソメチレン化合物1モルに対して1モル超50モル以下である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の製造方法。
[6]前記溶媒が、炭化水素、複素環式化合物、エーテル、ケトン、エステル、アミド、ニトリルおよびアルコールからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の製造方法。
[7]前記溶媒が下記一般式(IV)で表されるエステルである、[6]に記載の製造方法。
【0013】
【0014】
(式中、R4は前記定義のとおりであり、R5は置換基を有していてもよい炭素数1~8のアルキル基または置換基を有していてもよい炭素数6~14のアリール基を表す。)
[8]R4がメチル基であり、R5が炭素数1~4のアルキル基である、[7]に記載の製造方法。
[9]前記カルボン酸の使用量が、前記モノアシルオキシ化エキソメチレン化合物1モルに対して0.1モル以上0.6モル以下である、[7]または[8]に記載の製造方法。
[10]R3およびR4がメチル基であり、nが1または2である、[1]~[9]のいずれか1つに記載の製造方法。
[11]R1およびR2が水素原子である、[1]~[10]のいずれか1つに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本願の第1の発明によれば、無機副生物を発生させず、かつ生産効率およびコストの改善されたビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物の製造方法を提供できる。
また、本願の第2の発明によれば、無機副生物を発生させず、かつ収率がより改善されたビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明の発明特定事項の説明とともに、本発明の好ましい形態を示すが、本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。また数値範囲で示した事項について、いくつかの数値範囲がある場合、それらの下限値と上限値とを選択的に組み合わせて好ましい形態とすることができる。
【0017】
ビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物(III)を製造する方法に関する本願の第1の発明に係る一態様においては、触媒および必要に応じて溶媒の存在下、モノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)、カルボン酸(II)および酸素を液相中で反応させる。ここで、本願の第2の発明に係る一態様においては、前記反応過程にある反応液にカルボン酸(II)を供給する工程を含む。
上記の反応においては、形式的には、モノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)が酸化されてカルボン酸(II)と脱水縮合し、ビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物(III)とともに水を生成する。
【0018】
本発明の好ましい実施形態における反応式を示すと、次のようになる。
【0019】
【0020】
(式中、R1~R4およびnは前記定義のとおりである。)
【0021】
液相条件を採用することにより、設備およびエネルギーの各コストを抑制できる。また本発明者らの検討により、気相条件では、生成物のビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物が高沸点であるため触媒上に吸着し反応を阻害すること、また生成物が気体状態を維持するための高温では触媒の失活が起こることが判明した。すなわち、気相条件では生産性を上げることが難しく、生産効率および収率の観点からも液相条件が有利である。
【0022】
さらに、前記反応過程(すなわち、モノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)、カルボン酸(II)および酸素の液相中での反応過程)にある反応液にカルボン酸(II)を供給する工程を含むことにより、反応により発生する水により原料のモノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)や目的とするビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物が加水分解されるのを抑制することができて収率がより改善される。
【0023】
[原料および目的生成物]
モノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)およびビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物(III)において、R1およびR2が表す炭素数1~8のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基などが挙げられる。
前記アルキル基は置換基を有していてもよい。そのような置換基としては、例えば炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数6~14のアリール基、炭素数1~8のアルコキシ基、炭素数6~14のアリールオキシ基、シリル基などが挙げられる。置換基を有する場合、置換基の数としては、1~3個が好ましい。
前記シリル基としては、例えばトリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基などが挙げられる。
【0024】
R1およびR2が表す炭素数3~8のシクロアルキル基は、単環式でも縮合環式でもよく、例えばシクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
前記シクロアルキル基は置換基を有していてもよい。そのような置換基としては、例えば炭素数1~8のアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数6~14のアリール基、炭素数1~8のアルコキシ基、炭素数6~14のアリールオキシ基、前記したシリル基などが挙げられる。置換基を有する場合、置換基の数としては、1~3個が好ましい。
【0025】
R1およびR2が表す炭素数6~14のアリール基は、単環式でも縮合環式でもよく、例えばフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基などが挙げられる。
前記アリール基は置換基を有していてもよい。そのような置換基としては、例えばR1およびR2がシクロアルキル基である場合に有していてもよい置換基として上述したものと同様のものが挙げられる。置換基を有する場合、置換基の数としては、1~3個が好ましい。
【0026】
入手容易性等の観点から、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~8のアルキル基であることが好ましく、ともに水素原子であることがより好ましい。
【0027】
モノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)およびビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物(III)において、R3が表す炭素数1~8のアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基および炭素数6~14のアリール基としては、例えばR1およびR2について上述したものと同様のものが挙げられ、置換基についても同様である。
【0028】
R3が表す炭素数2~6のアルケニル基としては、例えばエテニル基(ビニル基)、1-メチルエテニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基(アリル基)、1-メチル-1-プロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基などが挙げられる。
前記アルケニル基は置換基を有していてもよい。そのような置換基としては、例えばR1およびR2がアルキル基である場合に有していてもよい置換基として上述したものと同様のものが挙げられる。置換基を有する場合、置換基の数としては、1~3個が好ましい。
【0029】
R3が表す炭素数1~8のアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基などが挙げられる。
前記アルコキシ基は置換基を有していてもよい。そのような置換基としては、例えばR1およびR2がアルキル基である場合に有していてもよい置換基として上述したものと同様のものが挙げられる。置換基を有する場合、置換基の数としては、1~3個が好ましい。
つまり、前記アルコキシ基は、例えば置換基としてアリール基を有するアラルキルオキシ基であってもよい。そのようなアラルキルオキシ基としては、例えばベンジルオキシ基、1-フェニルエトキシ基、2-フェニルエトキシ基、1-フェニルプロポキシ基、2-フェニルプロポキシ基、3-フェニルプロポキシ基、4-フェニルブトキシ基、1-ナフチルメトキシ基、2-ナフチルメトキシ基などが挙げられる。
【0030】
R3が表す炭素数6~14のアリールオキシ基は、単環式でも縮合環式でもよく、例えばフェノキシ基、トリノキシ基、キシリロキシ基、ナフトキシ基などが挙げられる。
前記アリールオキシ基は置換基を有していてもよい。該置換基としては、例えばR1およびR2がシクロアルキル基である場合に有していてもよい置換基として上述したものと同様のものが挙げられる。置換基を有する場合、置換基の数としては、1~3個が好ましい。
【0031】
入手容易性等の観点から、R3は炭素数1~6のアルキル基または炭素数2~6のアルケニル基であることが好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、エテニル基および1-メチルエテニル基からなる群から選択される1種であることがより好ましく、メチル基または1-メチルエテニル基であることがさらに好ましく、メチル基であることが最も好ましい。
【0032】
入手容易性等の観点から、モノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)およびビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物(III)において、nは1~8の整数であり、1~4の整数であることが好ましく、1または2であることがより好ましい。
【0033】
カルボン酸(II)およびビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物(III)において、R4が表す炭素数1~8のアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基および炭素数6~14のアリール基としては、例えばR3について上述したものと同様のものが挙げられ、置換基についても同様である。
【0034】
入手容易性等の観点から、R4は炭素数1~8のアルキル基または炭素数2~6のアルケニル基であることが好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、エテニル基および1-メチルエテニル基からなる群から選択される1種であることがより好ましく、メチル基または1-メチルエテニル基であることがさらに好ましく、メチル基であることが最も好ましい。
【0035】
[触媒]
本発明の製造方法において用いる触媒は、モノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)およびカルボン酸(II)の反応を促進するものであればよく、担体に貴金属が担持された触媒が好ましい。触媒は市販されているものを用いてもよく、公知の方法で合成したものを用いてもよい。
【0036】
前記貴金属としては、例えばパラジウム、金、銀、白金、ロジウム、ルテニウムなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、パラジウムが好ましい。前記パラジウムは金属パラジウムであってもよく、パラジウム化合物であってもよい。前記パラジウム化合物としては、特に制限はないが、例えば塩化パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、塩化パラジウム酸ナトリウム、塩化パラジウム酸カリウム、塩化パラジウム酸バリウムなどが挙げられる。
【0037】
担体にパラジウムが担持された触媒を用いる場合、担体にはパラジウムの他に鉄、ロジウム、銅、金等の周期表第8族から第11族までの遷移金属、亜鉛、インジウム、錫、ビスマス等の周期表第12族から第15族までの卑金属、ヒ素、テルル等の周期表第13族から第16族までの半金属が担持されていてもよい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
担体に貴金属が担持された触媒を用いる場合、前記担体としては、例えばシリカ、アルミナ、ゼオライト、酸化チタン等の固体酸化物およびその混合物;ポリスチレン、ポリエチレン、ポリアミド、セルロース等の高分子化合物およびその混合物;活性炭などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、固体酸化物およびその混合物または活性炭が好ましく、シリカまたはアルミナがより好ましく、シリカがさらに好ましい。
【0039】
前記担体の粒子直径に特に制限はないが、10μm~10mmが好ましく、30μm~8mmがより好ましい。粒子直径が10mm以下であれば、触媒内部まで原料が充分に浸透できるようになり、より有効に反応が進行しやすくなる。10μm以上であれば、担体としての作用をより充分に発揮しやすくなる。
【0040】
上記触媒の使用量に特に制限はないが、モノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)とカルボン酸(II)と溶媒との全質量に対して、0.01~20質量%が好ましく、0.1~10質量%がより好ましい。
【0041】
[触媒活性化剤]
本発明の製造方法においては、触媒に対して必要に応じて触媒活性化剤を添加してもよい。前記触媒活性化剤としては、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属の水酸化物、硝酸塩、カルボン酸塩または炭酸塩;マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、硝酸塩、カルボン酸塩または炭酸塩などが挙げられる。中でも、カルボン酸(II)の塩が好ましく、カルボン酸(II)のアルカリ金属塩がより好ましく、入手性や反応活性の観点から酢酸カリウムがさらに好ましい。
【0042】
前記触媒活性化剤の使用量に特に制限はないが、触媒に対して1~20質量%が好ましく、3~15質量%がより好ましい。
【0043】
前記触媒活性化剤は予め触媒に担持させた状態で使用してもよく、反応混合物とともに反応装置に仕込んでもよい。
【0044】
[溶媒]
本発明の製造方法は溶媒の存在下で反応を行ってもよい。当該溶媒としては、例えばヘキサン、ヘプタン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン等の炭化水素(脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素等);ピリジン、キノリン等の複素環式化合物;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルtert-ブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルメチルケトン等のケトン;カルボン酸エステル、炭酸ジエチル、炭酸プロピレン等のエステル;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、フェノール等のアルコールなどが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてよく、2種以上を併用してもよい。中でも、カルボン酸エステルが好ましく、生産効率およびビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物(III)の収率の観点からからエステル(IV)がより好ましい。
【0045】
エステル(IV)において、R4はカルボン酸(II)およびビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物(III)におけるR4と同一の基である。
【0046】
エステル(IV)において、R5が表す炭素数1~8のアルキル基または炭素数6~14のアリール基としては、例えばR1およびR2について上述したものと同様のものが挙げられ、置換基についても同様である。
【0047】
入手容易性、生産効率、および、ビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物(III)の収率等の観点から、R5は炭素数1~8のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~4のアルキル基であることがより好ましい。
【0048】
[酸素]
本発明の製造方法において用いる酸素としては、原子状および/または分子状酸素を用いることができ、好ましくは分子状酸素である。分子状酸素を用いる場合、窒素、アルゴン、ヘリウムおよび二酸化炭素等の不活性な気体との混合気体として用いるのが好ましい。この場合、酸素濃度は、反応系内で気体が爆発組成とならない範囲に調整して使用するのがより好ましい。
分子状酸素または分子状酸素を含む混合気体を反応系に供給する方法としては、反応系内の液相部に供給する方法、気相部に供給する方法、液相部と気相部の両方に供給する方法が挙げられる。
【0049】
分子状酸素または分子状酸素を含む混合気体を反応系に供給する場合には、酸素分圧はゲージ圧で、0.01気圧以上であることが好ましく、0.1気圧以上であることがより好ましく、0.2気圧以上であることがさらに好ましく、また、200気圧以下であることが好ましく、100気圧以下であることがより好ましく、80気圧以下であることがさらに好ましく、20気圧以下、10気圧以下、8気圧以下であってもよい。
【0050】
[反応条件]
本発明の製造方法においては、前記溶媒およびカルボン酸(II)の合計使用量が、モノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)1モルに対して1モル超50モル以下であることが好ましく、1.5モル以上35モル以下であることがより好ましく、2モル以上10モル以下であることがさらに好ましい。前記合計使用量を1モル超とすることで、反応により発生する水によるモノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)やビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物(III)の加水分解が抑制され、生産効率およびビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物(III)の収率がより優れたものとなる。前記合計使用量を50モル以下とすることで、過剰な溶媒およびカルボン酸(II)の回収工程が短くなり、経済的に有利となる。
【0051】
なお本発明者らは、本発明の製造方法において溶媒としてエステル(IV)を用いる場合、カルボン酸(II)の使用量を、モノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)1モルに対して0.1モル以上0.6モル以下に低減した場合にもなお高い生産効率および収率が得られることを見出した。カルボン酸(II)の使用量を前記範囲とすると、装置の腐食を抑制でき、また原料の導入を簡素化することができる点で工業的に非常に有利である。
【0052】
本発明の製造方法における反応温度、反応圧力および反応時間等の反応条件は、モノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)、カルボン酸(II)および溶媒の種類や組み合わせ、触媒の組成等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、例えば反応温度は80~200℃の範囲内が好ましい。反応温度を80℃以上とすることで、反応速度が遅くなりすぎず、ビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物(III)を効率的に製造することができる。一方、反応温度を200℃以下とすることで、燃焼を含めた副反応が起こりにくくなり、ビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物(III)を効率的に製造することができ、またカルボン酸による反応装置の腐食も抑制できる。
【0053】
本発明の製造方法における反応形態は、連続式、回分式のいずれであってもよく、特に限定されない。反応形態として例えば回分式を採用する場合には、触媒は反応装置に原料とともに一括して仕込めばよく、また、反応形態として例えば連続式を採用する場合には、触媒を反応装置に予め充填しておくか、あるいは、反応装置に原料とともに連続的に仕込めばよい。触媒は、固定床、流動床、懸濁床のいずれの形態で使用してもよい。
【0054】
本願の第2の発明に係る一態様においては、モノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)、カルボン酸(II)および酸素の液相中での反応過程(すなわち、一部のモノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)についてカルボン酸(II)および酸素との反応が完了している一方、未反応のモノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(II)が残存している状態)にある反応液にカルボン酸(II)を供給する工程を含む。当該工程は、カルボン酸(II)を半回分方式で反応器に供給することにより行うことができ、より具体的には、上記反応過程において反応器からビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物(III)を実質的に取り出すことなく(例えば、最終的に得られるビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物(III)の5質量%以上が上記反応過程において反応器から取り出されることなく)、カルボン酸(II)を連続的におよび/または複数回に分けて反応器に供給することにより行うことができる。
【0055】
上記において、使用されるカルボン酸(II)の全量を連続的に反応器に供給してもよいし、あるいは、使用されるカルボン酸(II)の全量を複数回に分けて反応器に供給してもよく、例えば、使用されるカルボン酸(II)のうちの一部を予め反応器に入れておいた状態で反応を開始し、その後、残りを連続的および/または複数回に分けて反応器に供給してもよい。操作性や収率などの観点から、使用されるカルボン酸(II)の全量を連続的に反応器に供給することが好ましい。
【0056】
例えば、モノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)、カルボン酸(II)および触媒等の原料を反応器に一括して仕込んだ上で、回分式で上記反応を開始したり、あるいは、筒形反応器等を利用してその上流部にモノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)およびカルボン酸(II)等の原料を供給しながら連続式で上記反応を開始したりするなど、上記反応過程にある反応液にカルボン酸(II)を供給する工程を含まない方式を採用した場合には、反応により発生する水により原料のモノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)や目的とするビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物(III)が加水分解されてビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物(III)の収率が低下しやすいが、上記反応過程にある反応液にカルボン酸(II)を供給する工程を含むことにより、当該収率を向上させることができる。
【0057】
本願の第2の発明に係る一態様において、モノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)など、カルボン酸(II)以外のその他の原料の供給方式に特に制限はなく、一括して反応器に供給した上で反応を開始してもよいし、連続的に反応器に供給してもよい。一括して反応器に供給した上で反応を開始する場合には、触媒はモノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)などとともに一括して反応器に仕込めばよく、また、連続的に反応器に供給する場合には、触媒は、反応装置に予め充填しておくか、あるいは、反応装置にモノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)などとともに連続的に仕込めばよい。触媒は、固定床、流動床、懸濁床のいずれの形態で使用してもよい。
【0058】
本発明の製造方法により製造されたビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物(III)は、触媒を分離した後、反応溶液を精製することによって単離することができる。前記精製の手段は特に限定されないが、蒸留法、抽出法またはカラムクロマトグラフィーなどを用いることができる。これらの方法は組み合わせて実施してもよい。中でも、蒸留法または抽出法が好ましい。
前記精製により分離された原料および溶媒は、再び反応に用いることができる。また、分離した触媒も、再び反応に用いることができる。
【実施例】
【0059】
本願の第2の発明に係る一態様においては、モノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)、カルボン酸(II)および酸素の液相中での反応過程(すなわち、一部のモノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)についてカルボン酸(II)および酸素との反応が完了している一方、未反応のモノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)が残存している状態)にある反応液にカルボン酸(II)を供給する工程を含む。当該工程は、カルボン酸(II)を半回分方式で反応器に供給することにより行うことができ、より具体的には、上記反応過程において反応器からビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物(III)を実質的に取り出すことなく(例えば、最終的に得られるビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物(III)の5質量%以上が上記反応過程において反応器から取り出されることなく)、カルボン酸(II)を連続的におよび/または複数回に分けて反応器に供給することにより行うことができる。
【0060】
〔分析条件1〕
下記の実施例1~8および比較例1、2についての反応後の溶液(反応混合物)の分析は、ガスクロマトグラフ GC2014(島津製作所社製 FID検出器)、キャピラリーカラム(アジレントテクノロジー社製 DB-1、長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)を用いて、下記条件にて行った。
カラム温度 :50℃(5分)→10℃/分→250℃(5分)
FID温度 :250℃
注入口温度 :250℃
キャリアガス :ヘリウム
メイクアップガス :ヘリウム
注入量 :0.2μL
カラムのガス流速 :0.38mL/分
スプリット比 :20
【0061】
〔分析条件2〕
下記の実施例9および10についての反応後の溶液(反応混合物)の分析は、ガスクロマトグラフ GC2014(島津製作所社製 FID検出器)、キャピラリーカラム(アジレントテクノロジー社製 DB-1、長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)を用いて、下記条件にて行った。
カラム温度 :50℃(5分)→10℃/分→250℃(5分)
FID温度 :250℃
注入口温度 :250℃
キャリアガス :ヘリウム
メイクアップガス :ヘリウム
注入量 :0.2μL
カラムのガス流速 :1.02mL/分
パージ流速 :3.0mL/分
スプリット比 :100
【0062】
・転化率
上記条件で分析したモノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)の、仕込み物質量に対する消費物質量の割合を転化率として、以下の式を用いて算出した。
転化率(%)={(モノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)の消費物質量)/(モノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)の仕込み物質量)}×100
【0063】
・選択率
上記条件で分析したモノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)の消費物質量に対する、ビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物(III)の生成物質量の割合を選択率として、以下の式を用いて算出した。
選択率(%)={(ビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物(III)の生成物質量)/(モノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)の消費物質量)}×100
【0064】
〔参考例1:触媒1の調製〕
テトラクロロパラジウム酸ナトリウム4.00g(13.6mmol)およびテトラクロロ金酸四水和物2.80g(6.8mmol)を含む水溶液に、シリカ担体(5mmφ)250mLを浸し、全量吸水させた。続いて、メタケイ酸ナトリウム16g(131mmol)を含む水溶液200mLを加え、20時間静置させた。その後、ヒドラジン一水和物9.50g(190mmol)を添加し、パラジウム塩および金塩を金属に還元した。還元後の触媒を水洗した後、110℃で4時間乾燥した。その後、酢酸カリウム13.34g(136mmol)を含有する水溶液中に上記の金属パラジウムを含む担体を投入し、全液を吸収させた後、110℃で4時間乾燥して触媒1を調製した。
【0065】
〔参考例2:触媒2の調製〕
テトラクロロパラジウム酸ナトリウム4.00g(13.6mmol)およびテトラクロロ金酸四水和物3.90g(9.5mmol)を含む水溶液に、シリカ担体(5mmφ)250mLを浸し、全量吸水させた。続いて、メタケイ酸ナトリウム16g(131mmol)を含む水溶液200mLを加え、20時間静置させた。その後、ヒドラジン一水和物9.50g(190mmol)を添加し、パラジウム塩および金塩を金属に還元した。還元後の触媒を水洗した後、110℃で4時間乾燥した。その後、酢酸カリウム13.34g(136mmol)を含有する水溶液中に上記の金属パラジウムを含む担体を投入し、全液を吸収させた後、110℃で4時間乾燥して触媒2を調製した。
【0066】
〔実施例1〕
ガス導入口およびサンプリング口を備えた内容積100mLの電磁撹拌式オートクレーブに、触媒1を1.3g、酢酸を46.0g(766mmol)および酢酸イソプレニルを3.0g(23mmol)仕込み、オートクレーブ内を酸素/窒素=8/92(モル比)の混合ガスで20気圧(ゲージ圧)とした後、撹拌しながらオートクレーブ内の温度を120℃に上げた。その後、酸素/窒素=8/92(モル比)の混合ガスで90気圧(ゲージ圧)を保ちながら200mL/分の流速で混合ガスを流しつつ、5時間反応させた。酢酸イソプレニルの転化率は83%、1,4-ジアセトキシ-2-メチレンブタンへの選択率は85%であった。1,4-ジアセトキシ-2-メチレンブタンの収量は3.1g(17mmol)であり、1,4-ジアセトキシ-2-メチレンブタンの生成効率(単位時間かつ触媒単位質量あたりの収量)は0.48g(生成物)/{g(触媒)・hr}であった。
【0067】
〔実施例2〕
酢酸を40g(666mmol)および酢酸イソプレニルを9g(70mmol)使用したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、反応を行ったところ、酢酸イソプレニルの転化率は80%、1,4-ジアセトキシ-2-メチレンブタンへの選択率は82%であった。1,4-ジアセトキシ-2-メチレンブタンの収量は8.6g(46mmol)であり、1,4-ジアセトキシ-2-メチレンブタンの生成効率は1.34g(生成物)/{g(触媒)・hr}であった。
【0068】
〔実施例3〕
ガス導入口およびサンプリング口を備えた内容積100mLの電磁撹拌式オートクレーブに、触媒2を1.3g、酢酸を40g(666mmol)および酢酸メタリルを8g(70mmol)仕込み、オートクレーブ内を酸素/窒素=8/92(モル比)の混合ガスで20気圧(ゲージ圧)とした後、撹拌しながらオートクレーブ内の温度を140℃に上げた。その後、酸素/窒素=8/92(モル比)の混合ガスで90気圧(ゲージ圧)を保ちながら200mL/分の流速で混合ガスを流しつつ、5時間反応させた。酢酸メタリルの転化率は99%、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパンへの選択率は61%であった。1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパンの収量は7.3g(42mmol)であり、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパンの生成効率は1.14g(生成物)/{g(触媒)・hr}であった。
【0069】
〔比較例1〕
内径23mm、長さ20cmのステンレス製反応管に触媒1を17g(約30mL)詰めた後、酢酸イソプレニル、酢酸、酸素および窒素を酢酸イソプレニル:酢酸:酸素:窒素=28:3:8:61の体積比で15L/hrの速度で流し、165℃で反応させた。4時間後の反応管出口組成を分析したところ、1,4-ジアセトキシ-2-メチレンブタンの生成速度は0.032g(生成物)/{g(触媒)・hr}であり、反応管に導入した酢酸イソプレニルに対する1,4-ジアセトキシ-2-メチレンブタンの収率は2.3%であった。この結果から、気相反応は液相反応よりも生産性が低いことが示された。
【0070】
〔比較例2〕
反応温度を190℃としたこと以外は比較例1と同様の操作を行い、反応を行ったところ、1,4-ジアセトキシ-2-メチレンブタンの生成速度は0.015g(生成物)/{g(触媒)・hr}であり、反応管に導入した酢酸イソプレニルに対する1,4-ジアセトキシ-2-メチレンブタンの収率は0.5%であった。
その後、190℃、大気圧下で窒素のみを15NL/hrの速度で1時間流したのち、室温まで冷やして反応管から触媒を取り出した。反応後の触媒を観察すると、反応前は灰色であった触媒が茶色に変色していた。
【0071】
〔実施例4〕
酢酸を3.2g(53.3mmol)および酢酸メタリルを6.0g(52.6mmol)使用し、さらに溶媒としてヘプタンを40g(399mmol)使用したこと以外は実施例3と同様の操作を行い、反応を行ったところ、酢酸メタリルの転化率は82%、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパンへの選択率は60%であった。1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパンの収量は4.5g(26mmol)であり、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパンの生成効率は0.70g(生成物)/{g(触媒)・hr}であった。
【0072】
〔実施例5〕
酢酸を4.5g(74.9mmol)および酢酸メタリルを17.0g(148.9mmol)使用し、さらに溶媒として酢酸エチルを26.0g(295mmol)使用したこと以外は実施例3と同様の操作を行い、反応を行ったところ、酢酸メタリルの転化率は78%、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパンへの選択率は80%であった。1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパンの収量は16.0g(93mmol)であり、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパンの生成効率は2.50g(生成物)/{g(触媒)・hr}であった。
【0073】
〔実施例6〕
酢酸を5.5g(91.6mmol)および酢酸メタリルを20.7g(181mmol)使用し、さらに溶媒として酢酸イソブチルを20.7g(178mmol)使用したこと以外は実施例3と同様の操作を行い、反応を行ったところ、酢酸メタリルの転化率は80%、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパンへの選択率は86%であった。1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパンの収量は21.5g(125mmol)であり、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパンの生成効率は3.36g(生成物)/{g(触媒)・hr}であった。
【0074】
〔実施例7〕
酢酸を4.3g(72mmol)および酢酸イソプレニルを18.2g(142mmol)使用し、さらに溶媒として酢酸エチルを25g(284mmol)使用したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、反応を行ったところ、酢酸イソプレニルの転化率は70%、1,4-ジアセトキシ-2-メチレンブタンへの選択率は82%であった。1,4-ジアセトキシ-2-メチレンブタンの収量は15.2g(82mmol)であり、1,4-ジアセトキシ-2-メチレンブタンの生成効率は2.37g(生成物)/{g(触媒)・hr}であった。
【0075】
〔実施例8〕
酢酸を15.8g(263mmol)および酢酸メタリルを30.0g(263mmol)使用したこと以外は実施例3と同様の操作を行い、反応を行ったところ、酢酸メタリルの転化率は75%、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパンへの選択率は23%、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパンの収量は7.8g(45mmol)、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパンの生成効率は1.22g(生成物)/{g(触媒)・hr}であった。
【0076】
上記した実施例1~8および比較例1、2の結果を下記の表1に示す。
【0077】
【表1】
※1:モノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)/カルボン酸(II)/溶媒
※2:モノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)の転化率
※3:ビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物(III)への選択率
※4:ビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物(III)の生成効率[g(生成物)/{g(触媒)・hr}]
【0078】
〔実施例9〕
ガス導入口およびサンプリング口を備えた内容積100mLの電磁撹拌式オートクレーブに、触媒2を1.3g、酢酸メタリルを30.0g(263mmol)仕込み、オートクレーブ内を酸素/窒素=8/92(モル比)の混合ガスで20気圧(ゲージ圧)とした後、撹拌しながらオートクレーブ内の温度を140℃に上げた。その後、酸素/窒素=8/92(モル比)の混合ガスで90気圧(ゲージ圧)を保ちながら200mL/分の流速で混合ガスを流しつつ、酢酸を3.16g/時間で連続的に供給し、5時間反応させた(酢酸の合計の使用量は15.8g(263mmol))。
酢酸メタリルの転化率は70%、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパンへの選択率は39%、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパンの収率は27%であった。
【0079】
〔実施例10〕
ガス導入口およびサンプリング口を備えた内容積100mLの電磁撹拌式オートクレーブに、触媒2を1.3g、酢酸メタリルを17.0g(149mmol)、溶媒として酢酸エチルを26.0g(295mmol)仕込み、オートクレーブ内を酸素/窒素=8/92(モル比)の混合ガスで20気圧(ゲージ圧)とした後、撹拌しながらオートクレーブ内の温度を140℃に上げた。その後、酸素/窒素=8/92(モル比)の混合ガスで90気圧(ゲージ圧)を保ちながら200mL/分の流速で混合ガスを流しつつ、酢酸を0.90g/時間で連続的に供給し、5時間反応させた(酢酸の合計の使用量は4.5g(74.9mmol))。
酢酸メタリルの転化率は88%、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパンへの選択率は90%、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパンの収率は79%であった。
【0080】
上記した実施例9および10の結果を下記の表2に示す。
【0081】
【表2】
※5:モノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)/カルボン酸(II)/溶媒
※6:モノアシルオキシ化エキソメチレン化合物(I)の転化率
※7:ビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物(III)への選択率
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の製造方法により、無機副生物を発生させず、かつ収率よく高い生産効率およびコストパフォーマンスでビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物を製造可能となる。得られるビスアシルオキシ化エキソメチレン化合物は、工業的に有用な種々の化合物の製造原料として用いることができる。