(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】電子顕微鏡を用いた微小電子デバイス特性評価装置及びそのプローブユニット
(51)【国際特許分類】
G01R 31/26 20200101AFI20221101BHJP
G01R 1/073 20060101ALI20221101BHJP
G01R 31/28 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
G01R31/26 G
G01R1/073 A
G01R31/26 J
G01R31/28 K
(21)【出願番号】P 2020533895
(86)(22)【出願日】2018-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2018028403
(87)【国際公開番号】W WO2020026293
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】古森 正明
(72)【発明者】
【氏名】大木 克夫
【審査官】續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-040953(JP,A)
【文献】特開平04-206845(JP,A)
【文献】特開2006-194765(JP,A)
【文献】特開2014-016371(JP,A)
【文献】特開平02-184042(JP,A)
【文献】特開2003-043079(JP,A)
【文献】特開2016-095272(JP,A)
【文献】特開2015-135255(JP,A)
【文献】特開平05-021543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/26
G01R 31/28
G01R 1/06-1/073
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバと、
前記真空チャンバに配置され、試料を載置する試料台と、
前記試料の上方から電子線を照射可能に配置された電子光学系と、
前記真空チャンバの外に配置される外部機器と同軸ケーブルで接続される複数のプローブユニットと、
前記試料台もしくはその近傍に設けられる電極とを有し、
前記プローブユニットは、前記試料に接触される測定探針と、前記電極に接触されるGND端子と、前記測定探針及び前記GND端子を保持し、前記同軸ケーブルの信号線を前記測定探針に接続し、前記同軸ケーブルのGND線を前記GND端子に接続する探針ホールダとを有し、
前記GND端子は、階段形状を有する板状金属線であり、
前記プローブユニットの前記測定探針が前記試料に接触される際に、前記GND端子が前記電極に接触される
、電子顕微鏡を用いた微小電子デバイス特性評価装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記電極は円環形状を有して前記試料台に設けられ、円環形状の前記電極の内側に前記試料が載置される
、電子顕微鏡を用いた微小電子デバイス特性評価装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記電極は円形状を有し、前記試料台は前記電極に設けられた試料台受け上に配置される
、電子顕微鏡を用いた微小電子デバイス特性評価装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記電極の前記GND端子との接触面は、前記試料台の縁の一部に、互いに対向して設けられ、
前記プローブユニットの前記測定探針は、前記試料台において前記接触面が配置された方向から前記試料に接触される
、電子顕微鏡を用いた微小電子デバイス特性評価装置。
【請求項5】
請求項
1において、
前記GND端子は、複数の板状金属線の組み合わせである
、電子顕微鏡を用いた微小電子デバイス特性評価装置。
【請求項6】
請求項
1において、
前記GND端子の前記電極に接触する部分は弧形状である
、電子顕微鏡を用いた微小電子デバイス特性評価装置。
【請求項7】
請求項1において、
前記探針ホールダは、前記同軸ケーブルの信号線と前記測定探針とを接続するコネクタ部を有し、
前記コネクタ部は同軸構造を有する
、電子顕微鏡を用いた微小電子デバイス特性評価装置。
【請求項8】
請求項1において、
前記同軸ケーブルはトライアキシャルケーブルであり、
前記探針ホールダは、前記トライアキシャルケーブルの中間導体及びGND線を前記GND端子と接続する
、電子顕微鏡を用いた微小電子デバイス特性評価装置。
【請求項9】
請求項1において、
前記測定探針は、先端径がR10nm程度である、電子顕微鏡を用いた微小電子デバイス特性評価装置。
【請求項10】
真空チャンバに配置された試料台に載置された試料に測定探針を接触させる
、電子顕微鏡を用いた微小電子デバイス特性評価装置のプローブユニットであって、
同軸ケーブルの信号線と前記測定探針とを接続するコネクタ部を有する探針ホールダと、
前記試料台もしくはその近傍に設けられる電極に接触させるGND端子とを有し、
前記GND端子は
階段形状を有する板状金属線であり、前記測定探針が前記試料に接触される際に、前記GND端子が前記電極に接触されるように、前記探針ホールダに取り付けられている
、電子顕微鏡を用いた微小電子デバイス特性評価装置のプローブユニット。
【請求項11】
請求項
10において、
前記GND端子は、複数の板状金属線の組み合わせである
、電子顕微鏡を用いた微小電子デバイス特性評価装置のプローブユニット。
【請求項12】
請求項
10において、
前記GND端子の前記電極に接触する部分は弧形状である
、電子顕微鏡を用いた微小電子デバイス特性評価装置のプローブユニット。
【請求項13】
請求項10において、
前記コネクタ部は同軸構造を有する
、電子顕微鏡を用いた微小電子デバイス特性評価装置のプローブユニット。
【請求項14】
請求項10において、
前記同軸ケーブルはトライアキシャルケーブルであり、
前記探針ホールダは、前記トライアキシャルケーブルの中間導体及びGND線を前記GND端子と接続する
、電子顕微鏡を用いた微小電子デバイス特性評価装置のプローブユニット。
【請求項15】
請求項10において、
前記測定探針は、先端径がR10nm程度である、電子顕微鏡を用いた微小電子デバイス特性評価装置のプローブユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体検査装置に関するものであり、特に、電子顕微鏡を用いた微小電子デバイス特性評価装置に関する。特に、高速な動的信号の応答解析を用いた微小電子デバイスの不良解析に有用である。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化により、大規模集積回路(LSI:Large-Scale Integration)の高速化、高性能化が進んでいる。このような半導体デバイスの微細化に伴って、トランジスタ数、配線数、コンタクト数が増大し、故障デバイスの不良解析はより複雑化している。
【0003】
不良解析手法として、極めて微小な探針を直接、微小デバイス(LSIに集積される素子やLSIに形成される配線等の微細構造などをいう)に含まれるコンタクト上に接触させ、電気特性を評価する手法がある。このような不良解析を行う装置はナノプローバ装置と呼ばれ、電子顕微鏡で微小デバイスを観察しながら、表面研磨により露出したLSI中のコンタクトに微小探針を接触させ、不良解析を実行する。10nm世代プロセスのような近年の微小デバイスは極めて微細化されているが、ナノプローバ装置ではこれらのナノデバイスを直接評価できることから、その重要性は益々大きくなっている。
【0004】
ナノプローバ装置による微小デバイスの電気特性評価は、主に直流測定によるものであった。しかし、微細化に伴う半導体デバイス特性の向上は、直流特性だけでなく、動的な動作性能など多岐に渡る。例えば、近年のCPU(Central Processing Unit)でのデバイスの駆動周波数は、3GHz以上となっている。このため、高周波測定により得られる欠陥情報についても重要性が高まり、より高い周波数での伝送信号評価が望まれるようになった。なお、駆動周波数(CPUのクロック周波数)は、高性能のデスクトップパソコンで3GHz程度、モバイル型パソコン、スマートフォンでは1GHz程度、組み込み機器では、10MHz~100MHz程度に達している。
【0005】
このように半導体デバイスの駆動周波数が高まる一方、従来の電子顕微鏡を用いたナノプローバ装置で高周波解析可能な周波数は、実デバイスの動作周波数に至っていない。現在のナノプローバ装置で取り扱える高周波信号は、最大周波数数10MHz程度といってよい。この程度以下の周波数であれば、連続パルス信号を伝搬させる場合に、矩形のパルス波形を維持できる。したがって、現状のナノプローバ装置による高周波解析は、組み込み機器レベルのデバイスの実動作を確認できるにすぎず、微細化の進んだ微小デバイスの駆動環境には到底及ばない。微細化の進んだ微小デバイスの高周波解析を実施するには、最低でも1GHzの高周波伝送が実現される必要がある。
【0006】
図1にプローバ装置による高周波解析を実行するための測定回路例(模式図)を示す。高周波解析には同軸ケーブルが用いられる。同軸ケーブル103は、基準電位(GND)に接地される外部導体104と信号を伝送する中心導体106とを有し、絶縁材105を介して、中心導体106(信号線)の周囲を外部導体104(GND線)が取り囲むことにより、伝送される高周波信号に対する外部ノイズが抑制される。本測定回路では、同軸ケーブル103aに高周波信号を発生するパルス発生器101が接続され、測定探針107aを介して試料100に高周波信号を印加する。測定探針107aは、本測定回路が高周波解析の対象とする微小デバイスの入力であるコンタクトに接触されている。一方、同軸ケーブル103bはオシロスコープ102に接続され、高周波解析の対象とする微小デバイスの出力であるコンタクトに接触されている測定探針107bにて得られた試料100からの信号の波形をモニタする。このような測定回路において高周波信号を伝搬するには、相対する同軸ケーブル103a/103bのGND線を短絡線108により短絡する必要がある。特に、より高い周波数の信号を伝搬するためには、測定探針107の周辺のインピーダンスの乱れを極力抑制する必要があり、短絡線108は測定探針107にできるだけ並走させ、より短くすることが望ましい。短絡線108の長さが長くなるほど、高周波特性は劣化するためである。さらに、プローバ装置は一般的に複数の測定探針を有し、複数の測定探針を用いた計測が可能になっているが、複数の測定探針を用いて測定を行う場合、それぞれで短絡線108の長さが異なっていると、高周波特性が測定探針によって違ったものになり、この違いが測定誤差となって表れる。
【0007】
特許文献1及び特許文献2は、いずれもマニュアルプローバ装置における測定探針のGND線の短絡方法を開示するものである。マニュアルプローバ装置とは、光学顕微鏡で観察した試料表面に測定探針を接触させて電気特性を測定する装置である。ナノプローバ装置とマニュアルプローバ装置とは、測定回路はいずれも
図1の構成を有し、GND線の短絡方法が高周波特性の測定に大きな影響を及ぼすことに違いはない。しかしながら、マニュアルプローバ装置では、ナノプローバ装置のような電子顕微鏡によるプロービングとは異なり、接触させるコンタクトサイズは大きく、また、大気中で測定が可能とされているため、構造的な制約がナノプローバ装置に比べて少ないといえる。
【0008】
マニュアルプローバでは、一般的に、同軸ケーブルのGND線に接続されるGND探針と同軸ケーブルの信号線に接続される信号探針の2種類の測定探針が用いられる。GND探針は試料中に設けられた基準電位のコンタクトに、信号探針は信号入出力用のコンタクトに接触される。特許文献1では、試料上に導体メッシュ(短絡部材)を設け、GND探針と信号探針の外部導体とを、探針の先端に近い位置で共通接続されるよう構成している。また、特許文献2では、GND探針に接地ばねを設け、信号探針に設けた接地シールドエクステンダーと接触されるよう構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平6-258344号公報
【文献】特開2000-28673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
空間的、構造的な制約の多いナノプローバ装置では、マニュアルプローバに関する先行技術をそのまま適用することができない。以下、その理由を説明する。
【0011】
ナノプローバ装置では、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)の拡大映像を観察しながら、ナノオーダプロセスの微細なトランジスタに微小な測定探針を接触させ、プロービング測定を行う。測定探針のサイズは、先端径がR10nm程度であり、また、試料に形成されている、測定探針を接触させる測定コンタクトもナノメータオーダである。このため、プロービング時に意図しない僅かな振動による試料との衝突、あるいは応力変動による過負荷が生じることにより微小な測定探針が破損するおそれがある。さらには、測定探針が測定コンタクトに接触後、僅かな振動に曝されても、試料との振動衝突により、測定探針が破損するおそれがある。このため、特許文献2に開示されているような、GND短絡のために測定探針同士を2次的に接触させるといった方法は、測定探針を損傷させるリスクを高めてしまう。
【0012】
また、SEMによる観察を行うため、GND短絡のための構造が電子線の進行経路を阻害するような構造であってはならない。このため、特許文献1に開示されているようなGND短絡のための構造を試料上面に設けることはできない。また、試料の電気測定を真空チャンバ内で行わなければならないところから、空間的な制約も大きい。
【0013】
より高速な動的信号を用いた半導体デバイスの不良解析装置を実現するには、以上のようなナノプローバ装置特有の、空間的、構造的な制約を回避し、効果的なGND線の短絡構造を実現する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一実施の態様である電子顕微鏡を用いた微小電子デバイス特性評価装置は、真空チャンバと、真空チャンバに配置され、試料を載置する試料台と、試料の上方から電子線を照射可能に配置された電子光学系と、真空チャンバの外に配置される外部機器と同軸ケーブルで接続される複数のプローブユニットと、試料台もしくはその近傍に設けられる電極とを有し、プローブユニットは、試料に接触される測定探針と、電極に接触されるGND端子と、測定探針及びGND端子を保持し、同軸ケーブルの信号線を測定探針に接続し、同軸ケーブルのGND線をGND端子に接続する探針ホールダとを有し、GND端子は、階段形状を有する板状金属線であり、プローブユニットの測定探針が試料に接触される際に、GND端子が電極に接触される。
【発明の効果】
【0015】
LSIを構成する微小デバイスの不良解析として、高速な応答解析が可能な半導体検査装置を提供する。
【0016】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】プローバ装置による高周波解析を実行するための測定回路例である。
【
図3】プローブユニット及び試料台の構成図である。
【
図4】階段形状電極の効果を説明するための図である。
【
図5】階段形状電極の効果を説明するための図である。
【
図9A】トライアキシャルケーブル対応プローブユニットの例である。
【
図9B】トライアキシャルケーブル対応プローブユニットの例である。
【
図10】プローブユニット及び試料台の構成図(上面図)である。
【
図13】第1実施例の微小デバイス特性評価装置の概略図である。
【
図14】第2実施例の微小デバイス特性評価装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図2を用いて、本実施例の微小デバイス特性評価装置について説明する。本実施例の微小デバイス特性評価装置では、プローブ構造として接触応力を制御したGND端子を設け、これを試料台もしくはその近傍に設けたGND電極に接触させることにより、各測定探針間のGND線の短絡を行う。
【0019】
走査型電子顕微鏡は、その主要な構成として電子光学系1、検出器2、真空チャンバ3を有する。真空チャンバ3中の試料台4に測定試料6が載置される。なお、試料台4の上面にはGND電極5が設けられている。本実施例のプローブユニット24では、同軸ケーブル10と接続される探針ホールダ7に測定探針8とGND端子9とが保持されている。測定探針8は測定試料6に接触され、GND端子9は試料台4上のGND電極5に接触されている。なお、プローブユニット24は測定試料6の試料表面を移動させるための駆動装置(図示せず)に接続されており、この駆動装置の動作により、測定探針8は測定試料6の所定箇所に接触すると同時に、GND端子9はGND電極5に接触される。なお、
図2では2つのプローブユニットを示しているが、微小デバイス特性評価装置は複数のプローブユニットを駆動可能とされており、2本に限定されるものではない。また、真空チャンバ3には前室(図示せず)が設けられており、真空チャンバ3の真空度を落とすことなく、試料台4、プローブユニット24(探針ホールダ7、測定探針8及びGND端子9)を真空チャンバ3から取り出すことが可能とされている。
【0020】
操作者は、電子光学系1から測定試料6に電子線を照射して得られる電子顕微鏡画像を見ながら、測定探針8を測定試料6に接触させる。この例では、1つの測定探針には同軸ケーブルを介してファンクションジェネレータ11、もう1つの測定探針には同軸ケーブルによりオシロスコープ12が接続されている。なお、真空チャンバ3の外部に置かれ、プローブユニットと同軸ケーブルで接続される電子回路や測定器等を本明細書では外部機器という。これにより、ファンクションジェネレータ11から出力された高周波信号は、一方の測定探針を通して測定試料6に入力され、測定試料6から高周波信号に応答して出力される出力信号を、他方の測定探針を通してオシロスコープ12に伝送する。
【0021】
図3にプローブユニット及び試料台の構成図を示す。同軸ケーブル10は、中心導体(信号線)21、中心導体(信号線)21を取り囲む絶縁材22、絶縁材22を取り囲む外部導体(GND線)23の2軸構造を有し、外部導体23は基準電位とされ、中心導体21により信号が伝送される。同軸ケーブル10の信号線21は、探針ホールダ7により測定探針8に接続されている。また、同軸ケーブル10のGND線23は、探針ホールダ7によりGND端子9に接続されている。測定探針8が試料台4に置かれた測定試料6の表面に接触する際、GND端子9が試料台4に設けられたGND電極5に接触することにより、各プローブユニットのGND端子9が、試料台4のGND電極5を介して短絡されることになる。これにより、ナノプローバ装置固有の環境において、各測定探針間のGND線の短絡が可能となる。測定探針8は線状の金属、及びGND端子9は板状の金属であり、測定試料6やGND電極5への接触により次第に摩耗する。そこで、測定探針8及びGND端子9が摩耗した場合、探針ホールダ7から取り外し、交換することが可能にされる。
【0022】
また、試料台4は電子顕微鏡観察時には基準電位とされることが通常であるため、GND電極5を試料台4と一体で構成することができる。この場合、GND電極5とは試料台4におけるGND端子9との接触面を意味する。また、測定試料6の測定コンタクトに測定探針8を接触させるとき、プローブユニットの駆動装置はプローブユニットを上から下に(電子光学系1の光軸方向)移動させ、所定の接触圧で接触させる。このときに、GND端子9も所定以上の接触圧でGND電極5に接触されている必要がある。このため、
図3では試料台4におけるGND電極5と試料載置面(円環形状のGND電極の内側部分)とは同じ高さとされているが、プローブユニットにおける測定探針8の先端部とGND端子の先端部との位置関係に応じて、試料載置面とGND電極5との位置関係を調整する。例えば、試料載置面の位置をGND電極5の位置よりも高い位置とする。
【0023】
ここで、探針ホールダ7に設けられるGND端子9は、階段形状、さらに望ましくは、少なくともGND電極5と接触される先端部においては弧形状を有している。ナノ領域で、繊細な接触に対応できるようにするためである。この原理を以下に説明する。
図4は、階段構造がない電極30及び階段形状がある電極31に対し、それぞれ矢印34,35の位置で負荷をかけた際の、変位シミュレーション結果である。電極30と電極31とで、それぞれのX方向の電極長は、同じである。また、高さ32が
図3における試料台4上のGND電極5の位置であり、高さ33はGND端子9を接触圧0でGND電極5に接触させた状態におけるGND端子9と探針ホールダ7との接続位置の高さである。
【0024】
図4に示すシミュレーション結果より、同じ負荷(接触圧)に対して、変位量が異なっていることがわかる。すなわち、高さ32-33間で階段形状を有する電極31は、階段形状を有しない電極30と比べ、同じ接触圧にもかかわらず、変位量が低減されることが分かる。基準電位をとるため、GND電極5とGND端子9とは適切な接触圧で接触させることが必要である。この変位コントロールは、真空チャンバ3における測定試料周辺の限られた空間での使用においてGND端子9の変位量が制約されたとしても、GND端子9の階段形状を設計することにより所望の接触圧を得られることを示している。すなわち、この階段形状を最適化することにより、測定探針8は測定試料6に接触するだけの僅かな変位量に抑えながら、GND端子9は最適なGND電極5への接触圧力の設定が可能となる。言い換えると、GND端子9を階段形状とすることで、空間的な制約に関わらず、精密、かつ測定探針8とは独立に、適切なGND電極5への接触圧が得ることができる。
【0025】
さらに、階段形状の別の利点について説明する。
図5は、階段構造がない電極30及び階段形状がある電極31に対し、それぞれ矢印34,35の位置で負荷をかけた際の、弾塑性解析結果(シミュレーション結果)である。それぞれの形状について、リン青銅の降伏条件を使用して、バイリニア近似によるシミュレーション解析を行った。変位量-応力の関係を示すグラフ中の傾きの変化点は、応力を加えて電極が変位した際に塑性変形し、元に戻らなくなってしまった変位量を示している。これより、階段形状がある場合の方が、応力印加に伴う塑性変形が抑制されていることがわかる。すなわち、不意の誤操作などで生じるような、何らかの過度の衝撃に対して、GND端子9が塑性変形することを抑制することができる。
【0026】
さらに、GND端子9は弧形状を有することが望ましい。
図6を用いて弧形電極の効果を説明する。左図は、平坦電極41の異なる位置に変位を加える様子の模式図である。この場合、変位させる位置に応じて、変位に対する応力は変化してしまう。一方、右図は、弧形電極42の異なる位置に変位を加える様子の模式図である。弧形電極42の表面摩擦力や力の分散から、平坦電極41の場合に比べて、変位させる位置の違いによる、変位に対する応力の変化の度合いを抑えることができる。これにより、GND端子9におけるGND電極5との接触位置が変化しても、それに伴う接触圧の変化をより小さくすることができる。なお、GND端子9が階段形状を有する場合には、GND電極5と接触するGND端子9の先端部36(
図4参照)を弧形状とする。
【0027】
以上のようなプローブユニットの構造により、ナノプローバ装置特有の空間的制約を回避しつつ、GND線を短絡させることができる。
【0028】
プローブユニット構造の変形例について説明する。測定探針8は金属線であるため、測定探針8が長いほど、信号が劣化しやすい。このため、
図7に示すプローブユニット50では、探針ホールダ51は測定探針8を接続する同軸構造を有するコネクタ部52を有している。コネクタ部52の中心導体は、一端が信号線(同軸ケーブル10の中心導体)21に接続され、他端が測定探針8に接続される。また、コネクタ部52の外部導体は、GND線(同軸ケーブル10の外部導体)23に接続されるとともに、GND端子9に接続されている。これにより、測定探針8の長さを極力短くすることができ、信号線21からの信号を外部ノイズから保護することができる。
【0029】
また
図8にGND端子の変形例を示す。GND端子55は、曲げ方の異なる板状金属線56と板状金属線57とを組み合わせてGND端子としたものである。これにより、所望の変位量-応力特性を有するGND端子を作成することができる。
【0030】
また、ナノプローバ装置では、直流測定において、フェムトアンペアオーダの微小電流を測定することが求められる。通常、ナノプローバ装置で、微小な直流電流を測定する際は、同軸ケーブルではなく、トライアキシャルケーブル(三重同軸ケーブル)を用いる。
図9Aに示すように、トライアキシャルケーブル60は、中心導体(信号線)61、中間導体(ガード)63、外部導体(GND線)65の3軸で構成されている。中心導体61と中間導体63との間には第1の絶縁材62、中間導体63と外部導体65との間には第2の絶縁材64が設けられている。微小な直流電流を測定する際は、トライアキシャルケーブル60の中間導体63に半導体パラメータアナライザなどの測定器により信号線61と同じ電位を加えながら測定する。中心導体61と中間導体63とを等電位に保つことにより、第1の絶縁材62に流れるリーク電流を0とし、微小な電流が正確に測定できる。
【0031】
これに対して、高周波測定を行う場合には、トライアキシャルケーブル60の中間導体63と外部導体65と短絡し、いわばトライアキシャルケーブルを同軸ケーブル化して使用する。本実施例では、探針ホールダを付け替えることにより、直流測定と高周波測定の双方を行うことを可能にする。
図9Aは直流測定用の探針ホールダ71を有するプローブユニット70をトライアキシャルケーブル60に接続した状態を示している。探針ホールダ71は探針ホールダ51(
図7参照)と同様の構造をしており、同軸構造を有するコネクタ部を有し、コネクタ部の中心導体は、一端が信号線(トライアキシャルケーブル60の中心導体)61に接続され、他端が測定探針8に接続される。また、コネクタ部の外部導体は、GND線(トライアキシャルケーブル60の外部導体)65に接続されるとともに、GND端子9に接続されている。これに対して、
図9Bは高周波測定用の探針ホールダ73を有するプローブユニット72をトライアキシャルケーブル60に接続した状態を示している。探針ホールダ73も同軸構造を有するコネクタ部を有し、コネクタ部の中心導体は、一端が信号線(トライアキシャルケーブル60の中心導体)61に接続され、他端が測定探針8に接続される。また、コネクタ部の外部導体は、GND線(トライアキシャルケーブル60の外部導体)65及びトライアキシャルケーブル60の中間導体63に接続されるとともに、GND端子9に接続されている。このように、測定内容に応じて使用する探針ホールダを付け替えることで、プローブユニットに対して余計な構造を付加することなく、容易に微小電流測定と高周波測定の切り替えを行うことが可能になる。
【0032】
次に、
図10を用いて試料台4に設けられたGND電極5の構造について説明する。
図10はプローブユニット及び試料台の構成図(上面図)である。この例では
図7に示した同軸構造のコネクタ部を有するプローブユニット50を用いている。試料台4に設けられるGND電極5は円環形状となっている。ナノプローバ装置は、
図10のように多数の測定探針を測定試料に接触させて、その電気特性を測定する。複数の測定探針は、
図10に示すように、測定試料6を取り囲むように配置されている。GND電極5として円環形状の電極を用いることにより、各プローブユニット24のGND端子9は、どの角度からの測定探針8の接触でも同じ状態で接触でき、電気特性を測定するため、どの測定探針を選択しても、同等の高周波特性での測定が可能となる。
【0033】
ナノ領域での繊細なプロービングでは、ピエゾ素子の特性を利用したナノオーダでの制御可能なアクチュエータを駆動させて、微細な測定探針を測定試料に精密に接触させる。単に真空チャンバという空間的、環境的な制約のみならず、アクチュエータを搭載した複雑なプロービング機構の存在が、測定試料周辺の空間的制約になっている。特に、一般的なナノプローバ装置では、測定探針の損傷リスクに対する予備の測定探針を必要とするため、
図10に示すように複数(この例では8本)の測定探針が同時に配置される。後述するように、トランジスタ測定においては、1つのトランジスタに対し、同時に少なくとも、4本の測定探針を接触させる必要がある。このように、プロービング機構は測定試料の周囲に密集して存在しているのであり、ここからも、GND線を短絡するための空間的な余地はほとんどなく、本実施例におけるGND短絡構造の優位性が理解されるであろう。マニュアルプローバで採用されるGND線用のプローブといった機構をナノプローバ装置にそのまま適用することは現実的に不可能である。
【0034】
図11を用いてGND電極5の構造の変形例について説明する。
図3では、GND電極5を試料台4の外縁に沿った円環形状としていたが、
図11の例では、ステージ側に円形状のGND電極81を設けた例である。具体的には、円形状のGND電極81に試料台受け82が設けられる。試料台80の上に測定試料6を載置し、測定探針8を測定試料6に接触させ、電気特性を測定する。試料台80は、試料台受け82に差し込んで使用する。測定試料6を交換する時には、試料台80ごと、真空チャンバ3から取り出して、測定試料6を交換する。
【0035】
また、GND電極を試料台に設ける場合であっても、
図3のような形態には限定されない。
図12はGND電極75a,75bをその上面に有する試料台74の上面図である。なお、この例ではGND電極75は試料台74と一体であり、GND電極75は試料台74におけるGND端子との接触面ということができ、GND電極75a,75bとは試料台74により導通されている。GND電極を
図3のような円環形状とすると、測定試料6を載置するスペース(試料載置面)が狭くなり、測定試料6の大きさによっては試料台に載せられないといったことが生じうる。そこで、
図12に示すように、GND電極75を試料台4の縁の一部に、対向するように配置する。これにより、測定試料6を載置する試料載置面76を大きくとることができる。この場合は、GND電極75a,75bが設けられている2方向から測定探針を接触させる。
【実施例1】
【0036】
微小電子デバイス特性評価装置の第1実施例を
図13に示す。測定試料6にプローブユニット24a,24bを接触させることにより、半導体パラメータアナライザ45が接続されている。半導体パラメータアナライザ45は、電流-電圧測定、キャパシタンス測定など半導体デバイスのパラメトリックテストのための測定器であるが、ここでは直流電圧を測定試料に印加するために用いている。半導体パラメータアナライザ45に代えて、直流電圧を出力可能な電源回路を用いてもよい。また、測定試料6にプローブユニット24cを接触させることによりファンクションジェネレータ11を接続し、プローブユニット24dを接触させることによりオシロスコープ12を接続する。ファンクションジェネレータ11は動的信号(高周波信号)を発生し、それに応答して出力される動的な応答信号の波形をオシロスコープ12により観察する。このように測定回路を構成し、例えば、LSIデバイスで、故障診断などから絞り込まれた不良と推定される65nm世代トランジスタの故障解析を行う。
【0037】
はじめに、65nm世代トランジスタの測定コンタクトが表面に出るまで研磨する。これを、微小電子デバイス特性評価装置の測定試料として試料台4に載置し、測定探針8を測定コンタクトに接触させる。具体的には、トランジスタのソース、ドレイン、ゲート、基板、それぞれのコンタクトに接触させる。プローブユニット24a,24bの測定探針8はそれぞれトランジスタのドレインと基板に接触され、プローブユニット24cの測定探針8はトランジスタのゲートに接触され、プローブユニット24dの測定探針8はトランジスタのソースに接触される。
【0038】
それぞれの測定探針8を、トランジスタの各コンタクトに接触させた後、ドレインには1V、基板には0Vを印加し、ファンクションジェネレータ11から100MHzに相当する幅5nsのパルス(1V)をゲートに印加し、ソースからの信号を観察する。このようにして観察できる、正常なトランジスタからの応答波形と不良トランジスタからの応答波形とを比較し、例えば、応答波形における立ち上がり時間を比較することによりトランジスタの故障の判断が行える。
【実施例2】
【0039】
微小電子デバイス特性評価装置の第2実施例を
図14に示す。本実施例は、ロジック回路測定(例えば、NAND回路の測定)を行う。
【0040】
ロジック回路(NAND回路)の入力端子2つにそれぞれプローブユニット24e,24fを接触させることにより、ファンクションジェネレータ11からロジック回路に対して信号パルスを入力する。また、ロジック回路の電源端子にはプローブユニット24hを接触させることにより、半導体パラメータアナライザ45から電源電圧を印加する。半導体パラメータアナライザ45に代えて、直流電圧を出力可能な電源回路を用いてもよい。ロジック回路の出力にはプローブユニット24gを接触させることにより、オシロスコープ12によりロジック回路の出力をモニタする。また、ファンクションジェネレータ11からの信号はスプリッタ46を介して、2方向に分割され、一方は参照信号としてオシロスコープ12に入力され、もう一方は測定試料6に入力されている。ファンクションジェネレータ11による入力信号の変化に対し、オシロスコープ12において、モニタされたロジック回路(NAND回路)の出力信号を、参照信号として入力されるファンクションジェネレータ11からの信号をNAND演算して照合することにより、ロジック回路の動作の確認を行うことができる。
【0041】
以上、本発明を複数の実施例を用いて説明した。本発明は、上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の実施例の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0042】
1:電子光学系、 2:検出器、3:真空チャンバ、4,74,80:試料台、5,75,81:GND電極、6:測定試料、7,51,71,73:探針ホールダ、8:測定探針、9,55:GND端子、10:同軸ケーブル、11:ファンクションジェネレータ、12:オシロスコープ、21:中心導体(信号線)、22:絶縁材、23:外部導体(GND線)、24,50,70,72:プローブユニット、45:半導体パラメータアナライザ、46:スプリッタ、52:コネクタ部、56,57:板状金属線、60:トライアキシャルケーブル、61:中心導体(信号線)、62:第1の絶縁材、63:中間導体(ガード)、64:第2の絶縁材、65:外部導体(GND線)、82:試料台受け、76:試料載置面、100:試料、101:パルス発生器、102:オシロスコープ、103:同軸ケーブル、104:外部導体(GND線)、105:絶縁材、106:中心導体(信号線)、107:測定探針、108:短絡線。