(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置及び荷電粒子線装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/20 20060101AFI20221101BHJP
H01J 37/22 20060101ALI20221101BHJP
H01J 37/26 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
H01J37/20 C
H01J37/22 501Z
H01J37/26
(21)【出願番号】P 2021520016
(86)(22)【出願日】2019-05-23
(86)【国際出願番号】 JP2019020503
(87)【国際公開番号】W WO2020235091
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2021-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】土橋 高志
(72)【発明者】
【氏名】玉置 央和
(72)【発明者】
【氏名】三瀬 大海
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 峻大郎
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-006725(JP,A)
【文献】国際公開第2018/221636(WO,A1)
【文献】特開2010-092625(JP,A)
【文献】特開2009-110734(JP,A)
【文献】特開平08-106873(JP,A)
【文献】特開2018-092805(JP,A)
【文献】国際公開第2016/084872(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0309441(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00 - 37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線を照射して試料を観察する荷電粒子線装置であって、
試料を保持し、移動する移動機構と、
前記荷電粒子線を出力する粒子源と、
前記試料に対する前記荷電粒子線の照射方向及び焦点を調整する光学素子と、
前記荷電粒子線を照射した前記試料から放出される荷電粒子を検出する検出器と、
観察条件に基づいて、前記移動機構、前記粒子源、前記光学素子、及び前記検出器を制御する制御機構と、を備え、
前記制御機構は、
前記移動機構を第1の角度だけ傾斜させた後に複数の菊池線を含む回折パターンの画像を比較用画像として取得し、
基準となる回折パターンの基準画像及び前記比較用画像を用いて前記試料の傾斜角及び目標傾斜角の誤差を評価し、
前記試料の傾斜角及び前記目標傾斜角の誤差が生じていると判定された場合、当該誤差及び既定値の少なくともいずれかに基づいて前記第1の角度を更新し、
前記移動機構を前記更新された第1の角度だけ傾斜させた後に前記回折パターンの画像を前記比較用画像として取得することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1に記載の荷電粒子線装置であって、
前記制御機構は、
前記基準画像及び前記比較用画像を用いて、前記基準画像及び前記比較用画像の各々に含まれる前記回折パターン間の移動量である前記回折パターンのシフト量を算出し、
前記検出器及び前記試料の間の距離、並びに、前記回折パターンのシフト量に基づいて、前記試料の傾斜角を算出することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項2に記載の荷電粒子線装置であって、
前記制御機構は、
前記比較用画像を履歴として保存し、
前記基準画像及び前記比較用画像の履歴を用いて、前記基準画像及び最新の前記比較用画像の各々に含まれる前記回折パターン間の移動量を前記回折パターンのシフト量として算出することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項1に記載の荷電粒子線装置であって、
前記制御機構は、前記第1の角度とは異なる角度で傾斜した前記移動機構に保持された前記試料に対して前記荷電粒子線を照射することによって取得された前記回折パターンの画像を前記基準画像として設定することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項1に記載の荷電粒子線装置であって、
前記第1の角度は、前記目標傾斜角より小さいことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
荷電粒子線を照射して試料を観察する荷電粒子線装置であって、
試料を保持し、移動する移動機構と、
前記荷電粒子線を出力する粒子源と、
前記試料に対する前記荷電粒子線の照射方向及び焦点を調整する光学素子と、
前記荷電粒子線を照射した前記試料から放出される荷電粒子を検出する検出器と、
観察条件に基づいて、前記移動機構、前記粒子源、前記光学素子、及び前記検出器を制御する制御機構と、を備え、
前記制御機構は、
前記移動機構を第1の角度だけ傾斜させた後に複数の菊池線を含む回折パターンの画像を比較用画像として取得し、
前記第1の角度とは異なる角度で傾斜した前記移動機構に保持された前記試料に対して前記荷電粒子線を照射して、前記回折パターンの画像を加工用画像として取得し、
前記加工用画像及び
目標傾斜角に基づいて、前記加工用画像に含まれる回折パターンを任意の方向にシフトさせた画像を生成して、当該画像を
基準となる回折パターンの基準画像として設定し、
前記基準画像及び前記比較用画像を用いて、前記基準画像及び前記比較用画像の各々に含まれる前記回折パターン間の移動量である前記回折パターンのシフト量を、前記試料の傾斜角及び前記目標傾斜角の誤差を評価するための値として算出し、
前記回折パターンのシフト量に基づいて、前記移動機構の傾斜を調整することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項6に記載の荷電粒子線装置であって、
前記第1の角度は、前記目標傾斜角より小さいことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
荷電粒子線を照射して試料を観察する荷電粒子線装置の制御方法であって、
試料を保持し、移動する移動機構と、
前記荷電粒子線を出力する粒子源と、
前記試料に対する前記荷電粒子線の照射方向及び焦点を調整する光学素子と、
前記荷電粒子線を照射した前記試料から放出される荷電粒子を検出する検出器と、
観察条件に基づいて、前記移動機構、前記粒子源、前記光学素子、及び前記検出器を制御する制御機構と、を備え、
前記荷電粒子線装置の制御方法は、
前記制御機構が、前記移動機構を第1の角度だけ傾斜させた後に複数の菊池線を含む回折パターンの画像を比較用画像として取得する第1のステップと、
前記制御機構が、基準となる回折パターンの基準画像及び前記比較用画像を用いて前記試料の傾斜角及び目標傾斜角の誤差を評価する第2のステップと、
前記制御機構が、前記評価の結果に基づいて、前記移動機構の傾斜を調整する第3のステップと、
を含み、
前記第3のステップは、前記制御機構が、前記試料の傾斜角及び前記目標傾斜角の誤差が生じていると判定された場合、当該誤差及び既定値の少なくともいずれかに基づいて前記第1の角度を更新するステップを含み、
前記第1のステップは、前記制御機構が、前記移動機構を前記更新された第1の角度だけ傾斜させた後に前記回折パターンの画像を前記比較用画像として取得するステップを含むことを特徴とする荷電粒子線装置の制御方法。
【請求項9】
請求項8に記載の荷電粒子線装置の制御方法であって、
前記第2のステップは、
前記制御機構が、前記基準画像及び前記比較用画像を用いて、前記基準画像及び前記比較用画像の各々に含まれる前記回折パターン間の移動量である前記回折パターンのシフト量を算出する第4のステップと、
前記制御機構が、前記検出器及び前記試料の間の距離、並びに、前記回折パターンのシフト量に基づいて、前記試料の傾斜角を算出する第5のステップと、を含むことを特徴とする荷電粒子線装置の制御方法。
【請求項10】
請求項9に記載の荷電粒子線装置の制御方法であって、
前記第1のステップは、前記制御機構が、前記比較用画像を履歴として保存するステップを含み、
前記第4のステップは、前記制御機構が、前記基準画像及び前記比較用画像の履歴を用いて、前記基準画像及び最新の前記比較用画像の各々に含まれる前記回折パターン間の移動量を前記回折パターンのシフト量として算出するステップを含むことを特徴とする荷電粒子線装置の制御方法。
【請求項11】
請求項8に記載の荷電粒子線装置の制御方法であって、
前記制御機構が、前記第1の角度とは異なる角度で傾斜した前記移動機構に保持された前記試料に対して前記荷電粒子線を照射することによって取得された前記回折パターンの画像を前記基準画像として設定するステップを含むことを特徴とする荷電粒子線装置の制御方法。
【請求項12】
請求項8に記載の荷電粒子線装置の制御方法であって、
前記第1の角度は、前記目標傾斜角より小さいことを特徴とする荷電粒子線装置の制御方法。
【請求項13】
荷電粒子線を照射して試料を観察する荷電粒子線装置の制御方法であって、
試料を保持し、移動する移動機構と、
前記荷電粒子線を出力する粒子源と、
前記試料に対する前記荷電粒子線の照射方向及び焦点を調整する光学素子と、
前記荷電粒子線を照射した前記試料から放出される荷電粒子を検出する検出器と、
観察条件に基づいて、前記移動機構、前記粒子源、前記光学素子、及び前記検出器を制御する制御機構と、を備え、
前記荷電粒子線装置の制御方法は、
前記制御機構が、前記移動機構を第1の角度だけ傾斜させた後に複数の菊池線を含む回折パターンの画像を比較用画像として取得する第1のステップと、
前記制御機構が、前記第1の角度とは異なる角度で傾斜した前記移動機構に保持された前記試料に対して前記荷電粒子線を照射して、前記回折パターンの画像を加工用画像として取得する
第2のステップと、
前記制御機構が、前記加工用画像及び
目標傾斜角に基づいて、前記加工用画像に含まれる回折パターンを任意の方向にシフトさせた画像を生成して、当該画像を
基準となる回折パターンの基準画像として設定する
第3のステップと、
前記制御機構が、前記基準画像及び前記比較用画像を用いて前記試料の傾斜角及び前記目標傾斜角の誤差を評価する第4のステップと、
前記制御機構が、前記評価の結果に基づいて、前記移動機構の傾斜を調整する第5のステップと、を含み、
前記第4のステップは、前記制御機構が、前記基準画像及び前記比較用画像を用いて、前記基準画像及び前記比較用画像の各々に含まれる前記回折パターン間の移動量である前記回折パターンのシフト量を、前記試料の傾斜角及び前記目標傾斜角の誤差を評価するための値として算出するステップを含み、
前記第5のステップは、前記制御機構が、前記回折パターンのシフト量に基づいて、前記移動機構の傾斜を調整するステップを含むことを特徴とする荷電粒子線装置の制御方法。
【請求項14】
請求項13に記載の荷電粒子線装置の制御方法であって、
前記第1の角度は、前記目標傾斜角より小さいことを特徴とする荷電粒子線装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
STEM/TEM等の荷電粒子線装置を用いた試料の観察では、電子線を照射する試料の結晶方位によって得られる画像の解像度が変わる。照射する電子ビームの進行方向に試料構造を並べることで、画像の滲みを抑えた高解像度の画像が得られる。試料の結晶方位は試料の外観からわかる場合もあるが、集束イオンビーム装置等で作成した試料の場合には外観と内部の結晶方向が異なり、外観からはわからない。外観で試料の結晶方位の判断がつかない場合は電子ビームを照射することで得られる回折図形(回折パターン)を用いて試料の結晶方位のズレ量及び方向を算出する必要がある。
【0003】
試料の結晶方位を算出する方法としては、特許文献1及び特許文献2に記載されているような回折図形を用いた方法が知られている。
【0004】
特許文献1には、回折図形に含まれる回折スポットを利用して試料の結晶方位の算出方法が記載されている。具体的には、「表示部(13)に表示された電子線回折パターン(22b)における回折スポットの輝度分布に基づいて、メインスポット(23)が円周上に位置するように重ね合わせて表示されるフィッティング用の円形状パターン(26)を設定し、当該表示された円形状パターン(26)の中心位置(27)を始点とし、円形状パターン(26)の円周上に位置するメインスポット(23)の位置を終点として表示されるベクトル(28)を設定し、当該表示されたベクトル(28)の向き、及び大きさに基づいて、結晶方位合わせを実行する」観察方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、「試料台の上の載置された試料の表面に荷電粒子線を入射させる荷電粒子線装置に用いられ、前記試料に対する前記荷電粒子線の入射方向の変更に必要となる前記試料および/または前記荷電粒子線の、傾斜方向および傾斜量を制御するための指令値である傾斜角度量を算出する装置であって、前記試料に対する前記荷電粒子線の入射方向が所定の入射方向である状態における、前記表面の選択された位置の結晶の結晶座標系に対する前記荷電粒子線の入射方向を表す図である結晶方位図上で指定された、前記荷電粒子線の前記結晶に対する入射方向を示す情報に基づいて、前記傾斜角度量を算出する傾斜角度量算出部を備える、傾斜角度量算出装置」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2016/006375号
【文献】国際公開第2018/221636号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
所望の解像度の画像を得るためには、算出された試料の結晶方位にしたがって、試料を固定する試料ステージを移動させる必要がある。しかし、試料ステージの移動は、試料ステージの調整精度に依存することから、理想的な試料ステージの移動と実際の試料ステージの移動との間にはズレが生じる。特に、試料ステージの傾斜角の調整精度が低い。
【0008】
したがって、一般的に、試料ステージの移動後の試料の結晶方位は、所望の試料の結晶方位と一致しない。そのため、試料の結晶構造等を分析する場合、従来は、ユーザが得られた画像とシミュレーション結果とを照らし合わせて確認する必要があった。
【0009】
本発明は、自動的かつ高い精度に、所望の試料の結晶方位に調整可能な荷電粒子線装置を実現する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される発明の代表的な一例を示せば以下の通りである。すなわち、荷電粒子線を照射して試料を観察する荷電粒子線装置であって、試料を保持し、移動する移動機構と、前記荷電粒子線を出力する粒子源と、前記試料に対する前記荷電粒子線の照射方向及び焦点を調整する光学素子と、前記荷電粒子線を照射した前記試料から放出される荷電粒子を検出する検出器と、観察条件に基づいて、前記移動機構、前記粒子源、前記光学素子、及び前記検出器を制御する制御機構と、を備え、前記制御機構は、前記移動機構を第1の角度だけ傾斜させた後に複数の菊池線を含む回折パターンの画像を比較用画像として取得し、基準となる回折パターンの基準画像及び前記比較用画像を用いて前記試料の傾斜角及び目標傾斜角の誤差を評価し、前記試料の傾斜角及び前記目標傾斜角の誤差が生じていると判定された場合、当該誤差及び既定値の少なくともいずれかに基づいて前記第1の角度を更新し、前記移動機構を前記更新された第1の角度だけ傾斜させた後に前記回折パターンの画像を前記比較用画像として取得する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、自動的かつ高い精度に、所望の試料の結晶方位に調整可能な荷電粒子線装置を実現できる。前述した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施例の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1の透過電子顕微鏡(TEM)の構成の一例を示す図である。
【
図2】実施例1のTEMが実行する試料ステージ調整処理を説明するフローチャートである。
【
図3A】実施例1のTEMによって取得される回折パターンの画像の一例を示す図である。
【
図3B】実施例1のTEMによって取得される回折パターンの画像の一例を示す図である。
【
図3C】実施例1のTEMによって取得される回折パターンの画像の一例を示す図である。
【
図4】実施例1の試料ステージの傾斜角及び回折パターンのシフト量の関係を示すグラフである。
【
図5】実施例1の実施例1の試料ステージの傾斜角及び回折パターンのシフト量の幾何学的関係を示す図である。
【
図6A】実施例1の試料ステージの傾斜角及び試料の傾斜角の関係を示すグラフである。
【
図6B】実施例1の試料ステージの傾斜角及び試料の傾斜角の関係を示すグラフである。
【
図7】実施例2の試料ステージの傾斜角と、目標回折パターン及び回折パターンBの相関値との間の関係を示すグラフである。
【
図8】実施例2の試料ステージの傾斜角と、試料の傾斜角φ及び目標傾斜角θの誤差との間の関係を示すグラフである。
【
図9】実施例2のTEMが実行する試料ステージ調整処理を説明するフローチャートである。
【
図10A】実施例2のTEMによって取得される回折パターンの画像の一例を示す図である。
【
図10B】実施例2のTEMによって生成された目標回折パターンの画像の一例を示す図である。
【
図11】実施例3のTEMが実行する試料ステージ調整処理を説明するフローチャートである。
【
図12】実施例3のTEMによって取得される回折パターンの画像のシリーズの一例を示す図である。
【
図13】実施例3の試料ステージの傾斜角及びシフト量の関係の一例を示す図である。
【
図14】実施例4のTEMが実行する試料ステージ調整処理を説明するフローチャートである。
【
図15】実施例4のTEMによって表示される画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例を、図面を用いて説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
【0014】
以下に説明する発明の構成において、同一又は類似する構成又は機能には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
本明細書等における「第1」、「第2」、「第3」等の表記は、構成要素を識別するために付するものであり、必ずしも、数又は順序を限定するものではない。
【0016】
図面等において示す各構成の位置、大きさ、形状、及び範囲等は、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、及び範囲等を表していない場合がある。したがって、本発明では、図面等に開示された位置、大きさ、形状、及び範囲等に限定されない。
【実施例1】
【0017】
図1は、実施例1の透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscopy)の構成の一例を示す図である。
【0018】
TEM100は、電子光学系鏡筒101及び制御ユニット102から構成される。
【0019】
電子光学系鏡筒101は、電子源111、第1、第2コンデンサレンズ112、コンデンサ絞り113、軸ずれ補正用偏向器114、スティグメータ115、イメージシフト用偏向器116、対物レンズ117、試料ステージ118、中間レンズ119、投射レンズ120、及びCCDカメラ121を有する。電子光学系鏡筒101に含まれる前述のデバイスを区別しない場合、対象デバイスとも記載する。
【0020】
試料ステージ118は試料122を保持する。試料122は、試料ステージ118に固定される試料ホルダにより保持されてもよい。試料ステージ118若しくは試料ホルダ又はこれらの組合せは、試料122の保持及び移動を実現する移動機構の一例である。
【0021】
試料ステージ118の移動には、傾斜移動、シフト移動、及び回転移動等が含まれる。試料ステージ118は、一つ又は複数の傾斜軸(回転軸)において傾斜させることができる。
【0022】
粒子源である電子源111から放出された電子線は、第1、第2コンデンサレンズ112で縮小され、コンデンサ絞り113で放射角を制限される。さらに、電子線は、軸ずれ補正用偏向器114、スティグメータ115、イメージシフト用偏向器116による軸調整が行われた後、対物レンズ117前の磁場により、試料122に平行な方向で照射される。
【0023】
第1、第2コンデンサレンズ112、コンデンサ絞り113、軸ずれ補正用偏向器114、スティグメータ115、イメージシフト用偏向器116、対物レンズ117、試料ステージ118、中間レンズ119、及び投射レンズ120は、試料122に対する電子線の方向及び焦点を調整する光学素子の一例である。
【0024】
通常、TEM100では、回折パターン(回折図形)は、対物レンズ117の後磁場の影響により、対物レンズ117と中間レンズ119との間に位置する後ろ側の焦点面に形成される。また、回折パターンは、中間レンズ119及び投射レンズ120により拡大され、CCDカメラ121によって検出される。
【0025】
CCDカメラ121は、電子線を照射した試料122から放出される信号を検出する検出器の一例である。
【0026】
制御ユニット102である計算機は、複数の制御回路を使用して、電子光学系鏡筒101を制御する。制御ユニット102は、電子銃制御回路151、照射レンズ制御回路152、コンデンサ絞り制御回路153、軸ずれ補正用偏向器制御回路154、スティグメータ制御回路155、イメージシフト用偏向器制御回路156、対物レンズ制御回路157、試料ステージ制御回路158、中間レンズ制御回路159、投射レンズ制御回路160、及びCCDカメラ制御回路161を含む。
【0027】
制御ユニット102は、各制御回路を介して、各対象デバイスの値を取得し、また、各制御回路を介して各対象デバイスに値を入力することによって任意の電子光学条件を作り出す。制御ユニット102は、電子光学系鏡筒101の制御を実現する制御機構の一例である。
【0028】
制御ユニット102は、後述するように、回折スポットを含む回折パターンの代わりに、複数の菊池線を含む回折パターンを用いて、試料ステージ118の傾斜角を調整する。
【0029】
一般的に、回折スポットを含む回折パターンを取得するためには、試料に照射する一次電子線の照射角(開き角とも言う)を数mrad近くまで細くする必要がある。これは、照射する一次電子線が広がっていると検出器で取得する際の回折スポットも広がり、隣接するスポットと重なることでスポット位置の分離が困難となるためである。
【0030】
数マイクロメートルの穴径の照射絞りを利用して、細い一次電子線を実現する方法を採用した場合、照射絞りに電子線照射に伴うコンタミネーションの付着が発生しやすく、照射絞りの交換頻度が増える。一次電子線を制御する照射レンズの強さを調整して、細い一次電子線を実現する方法を採用した場合、照射レンズの強さを変えると励磁条件が変わる。そのため、電子顕微鏡の軸調整の再調整する必要がある。また、観察条件と異なる条件で試料の結晶方位を調整した場合、正確な試料の結晶方位を算出できない可能性がある。
【0031】
一方、菊池パターンを含む回折パターンを取得する場合、一次電子線の照射角は30mradより大きくできるため、前述のような電子線の制限がない。また、菊池パターンを含む回折パターンは、回折空間において連続的な強度分布を持つという特性がある。
【0032】
制御ユニット102は、プロセッサ171、主記憶装置172、補助記憶装置173、入力装置174、出力装置175、及びネットワークインタフェース176を有する。各デバイスはバスを介して互いに接続される。
【0033】
プロセッサ171は、主記憶装置172に格納されるプログラムを実行する。プロセッサ171がプログラムにしたがって処理を実行することによって様々な機能部として機能する。
【0034】
主記憶装置172は、半導体メモリ等の記憶装置であり、プロセッサ171が実行するプログラム及びデータを格納する。また、主記憶装置172は、プログラムが一時的に使用するワークエリアとしても用いられる。主記憶装置172には、例えば、オペレーティングシステム、TEM100の対象デバイスを制御するプログラム、試料122の画像を取得するプログラム、及び取得した画像を処理するプログラム等が格納される。
【0035】
本明細書では、TEM100(制御ユニット102)を主体に処理を説明する場合、いずれかのプログラムを実行するプロセッサ171が処理を実行していることを表す。
【0036】
補助記憶装置173は、HDD(Hard Disk Drive)及びSSD(Solid State Drive)等の記憶装置であり、データを永続的に格納する。主記憶装置172に格納されるプログラム及びデータは、補助記憶装置173に格納されてもよい。この場合、プロセッサ171は、制御ユニット102の起動時又は処理の必要な場合に、プログラム及びデータを補助記憶装置173から読み出し、主記憶装置172にロードする。
【0037】
入力装置174は、キーボード、マウス、タッチパネル等、ユーザが制御ユニット102に指示及び情報を入力するための装置である。出力装置175は、ディスプレイ及びプリンタ等、ユーザに画像、解析結果等を出力するための装置である。ネットワークインタフェース176は、ネットワークを介して通信を行うためのインタフェースである。
【0038】
図1では、制御ユニット102は、一つの計算機として説明しているが、複数の計算機を用いて制御ユニット102を構成してもよい。なお、制御ユニット102が有する機能は、論理回路を用いて実現してもよい。
【0039】
なお、実施例1で説明する構成及び処理は、TEM100以外の荷電粒子線装置にも適用できる。例えば、走査透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscopy)、二次電子及び反射電子を検出するSEM(Scanning Electron Microscopy)、及び電子と異なる荷電粒子を使用する装置にも適用可能である。
【0040】
STEMは、TEM100と異なり、試料122に収束した電子線を照射し、イメージシフト用偏向器116のような偏向コイルを用いて収束した電子線を走査する。CCDカメラ121とは異なる透過電子検出器を用いて試料上の走査位置毎に検出器で信号を記録し、制御ユニット102が画像を表示する。
【0041】
図2は、実施例1のTEM100が実行する試料ステージ調整処理を説明するフローチャートである。
図3A、
図3B、及び
図3Cは、実施例1のTEM100によって取得される回折パターンの画像の一例を示す図である。
図4は、実施例1の試料ステージ118の傾斜角及び回折パターンのシフト量の関係を示すグラフである。
図5は、実施例1の実施例1の試料ステージ118の傾斜角及び回折パターンのシフト量の幾何学的関係を示す図である。
図6A及び
図6Bは、実施例1の試料ステージ118の傾斜角及び試料122の傾斜角の関係を示すグラフである。
【0042】
図2では、TEM100が自動的に、一つの傾斜軸において所定の試料122の傾斜角(目標傾斜角)となるように試料ステージ118を調整するための処理を説明する。なお、処理の開始時点において、試料122は視野中央付近に存在する状態であるものとする。
【0043】
制御ユニット102は、電子光学系鏡筒101に、加速電圧及び照射電流等の観察条件を設定する(ステップS101)。
【0044】
このとき、制御ユニット102は、観察条件として、所望の解像度の画像を取得するための試料122の目標傾斜角θを設定する。ここでは、目標傾斜角θは予め決定されているものとする。また、制御ユニット102は、試料ステージ118の傾斜を調整するためのパラメータである傾斜角ψに目標傾斜角を設定する。
【0045】
次に、制御ユニット102は、試料122の像が鮮明となるように、コントラスト、フォーカス、試料122の位置を調整する(ステップS102)。具体的には、以下のような処理が実行される。
【0046】
制御ユニット102は、対物レンズ制御回路157に信号を送信することによって、試料122の像が鮮明となるように対物レンズ117に流れる対物レンズ電流値を調整する。フォーカスの調整を行うことによって、対物レンズ117に流れる対物レンズ電流値は電子光学系鏡筒101に設定される基準となる対物レンズ電流値IA(基準対物レンズ電流値IA)から変化する。
【0047】
また、制御ユニット102は、対物レンズ電流値IBと、基準対物レンズ電流値IAとの差から、基準対物レンズ電流値IAで試料122の像が鮮明となる高さを求める。例えば、調整前の試料高さH0、調整後の試料高さH1とした時、調整後の試料高さH1は式(1)から求まる。ここで、Aは対物レンズ電流値及びフォーカスの合う試料高さの関係から算出される係数であり、単位は「um/A」をとる。
【0048】
【0049】
式(1)を用いることによって、フォーカスが調整された後の対物レンズ電流値IBと基準対物レンズ電流値IAの差から、試料高さH1を算出することができる。
【0050】
制御ユニット102は、試料ステージ制御回路158を介して、試料高さH1に基づく試料ステージ118の試料高さの調整を行う。試料高さを調整することによってTEM100の基準対物レンズ電流値IAで鮮明な試料122の像を観察できる。以上がステップS102の処理の説明である。
【0051】
次に、制御ユニット102は、対物レンズ電流値を調整することによってデフォーカスを行う(ステップS103)。これは、菊池線を含む画像(回折パターン)を取得するための操作である。デフォーカスの調整量は、電子光学系鏡筒101及び照射系の条件によって異なる。例えば、菊池線を明瞭に観察し易いデフォーカスの調整量としては5umから50um程度が適切であるが、50um以上デフォーカスしても本特許を適用することができる。
【0052】
具体的には、制御ユニット102は、係数Aを用いて、デフォーカスの調整量分だけ対物レンズ電流値を基準対物レンズ電流値IAから調整する。調整した対物レンズ電流量ICは、式(2)から求まる。ここで、Dはデフォーカス量を表す。
【0053】
【0054】
なお、一般にデフォーカスには試料122より電子銃側に電子線の交点をもつ場合と試料122より下側に交点をもつ二つの場合があるが、デフォーカスの取り方はどちらであってもよい。
【0055】
実施例1では、多重散乱に起因する菊池線を含む回折パターンを利用して、試料122の傾斜角を算出する。
【0056】
菊池線を記録するためのTEM100の光学系は様々あるが、例えば試料に大きな開き角(例えば、数100mrad程度)の電子線を入射することによって得られる回折パターンを用いる。なお、試料122に対する一次ビームの開き角は20mrad程度であっても画像処理のパラメータを調整することによって同様の回折パターンを取得できるようにしてもよい。上述の開き角は加速電圧200kV程度を想定しているが、加速電圧が低い場合には、一次ビームの波長に応じて散乱角が変わるため、同程度の回折パターンを得るのに必要な一次ビームの開き角は小さくなる。
【0057】
例えば、必要となる開き角の目安として、開き角αを波長λで割ったパラメータが一定となるように調整することがある。これはブラッグの法則を近似したものであり、より正確にはsinαを波長λで割ったパラメータとなる。パラメータとして利用する場合は逆数(波長λを開き角αで割る)ものを利用しても結果は同じとなる。
【0058】
例えば、加速電圧200kVにおいて200mradであれば、波長は2.5pmであることを利用して、200/2.5[mrad/pm]=80[mrad/pm]が一定となるように60kV(波長4.8pm)の時は384mradとなる。同様に試料に照射する200kVの一次ビームの開き角が30mradであれば、57.6mradとなる。
【0059】
次に、制御ユニット102は、複数の菊池線を含む回折パターンの画像A(基準画像)を取得する(ステップS104)。以下の説明では、取得された画像Aに写し出された回折パターンを回折パターンAとも記載する。
【0060】
具体的には、制御ユニット102は、CCDカメラ制御回路161を介して、記録の信号をCCDカメラ121に送信することによって、回折パターンの画像を取得する。例えば、
図3Aに示すような回折パターンの画像300が取得される。なお、画像300に含まれる直線301は菊池線である。このように、画像300には複数の菊池線を含む回折パターンが写し出される。
【0061】
なお、回折パターンの画像を取得する場合、TEM100は、試料122の特定の位置に固定した電子線を照射してもよいし、イメージシフト用偏向器116等を制御して試料122の一部領域を走査するように電子線を照射してもよい。試料122の一部領域を走査するように電子線を照射することによって、画像のコントラスト等が鮮明になる効果が期待できる。
【0062】
次に、制御ユニット102は、試料ステージ118を移動させた後(ステップS105)、回折パターンの画像B(比較用画像)を取得する(ステップS106)。以下の説明では、取得された画像Bに写し出された回折パターンを回折パターンBとも記載する。
【0063】
具体的には、制御ユニット102は、傾斜角ψに基づいて、試料ステージ制御回路158に対し信号を送信することによって、試料ステージ118を移動(回転)させる。制御ユニット102は、試料ステージ118の移動後に、
図3Bに示すような回折パターンが写し出された画像310を取得する。
【0064】
次に、制御ユニット102は、回折パターンA及び回折パターンBを用いて回折パターンのシフト量Sを算出する(ステップS107)。
【0065】
具体的には、制御ユニット102は、回折パターンA及び回折パターンBを比較し、相関関数による相関値から回折パターンのシフト量を算出する。例えば、
図4は、試料ステージ118を2度傾斜した時の傾斜角とシフト量との関係を示すグラフの一例である。シフト量は、一般的に、相関値が最大となる移動ピクセル数として算出される。ただし、画像マッチング等で特徴量の変化としてシフト量が算出されてもよい。
【0066】
菊池線を含む回折パターンは回折空間において連続的な強度分布を持つという特性があるため、回折パターンのシフト量を算出することができる。
【0067】
次に、制御ユニット102は、回折パターンのシフト量Sを用いて、試料122の傾斜角φを算出する(ステップS108)。
【0068】
図5に示すように、試料122の傾斜角φは、カメラ長L及びシフト量Sから式(3)により求めることができる。
【0069】
【0070】
なお、カメラ長Lは、既知の構造の試料122の回折パターン等を解析することによって算出することができる。
【0071】
次に、制御ユニット102は、試料122の傾斜角φが目標傾斜角θと一致するか否かを判定する(ステップS109)。
【0072】
図6Aに示すように、試料ステージ118の傾斜精度により、試料122の傾斜角φと目標傾斜角θとの間には誤差は生じうる。誤差が生じた場合、制御ユニット102は、試料ステージ118の傾斜を調整する必要があると判定する。
【0073】
なお、試料122の傾斜角φ及び目標傾斜角θの誤差が閾値より小さい場合、制御ユニット102は、試料122の傾斜角φが目標傾斜角θと一致すると判定してもよい。
【0074】
試料122の傾斜角φが目標傾斜角θと一致すると判定された場合、制御ユニット102は、試料ステージ調整処理を終了する。当該処理の終了後、制御ユニット102は試料122の観察等の処理を実行する。なお、試料122の観察を行う場合、観察条件はそのまま用いることができる。
【0075】
試料122の傾斜角φが目標傾斜角θと一致しないと判定された場合、制御ユニット102は、現在の傾斜角ψに目標傾斜角θ及び試料122の傾斜角φの差を加算した値を、新たな傾斜角ψに設定し(ステップS110)、その後、ステップS105に戻る。この場合、ステップS106では、
図3Cに示すような回折パターンが写し出された画像320が取得される。
【0076】
図6Bに示すように、制御ユニット102は、試料122の傾斜角φが目標傾斜角θと一致するように、試料ステージ118の傾斜を自動的に調整できる。
【0077】
傾斜軸が二つ存在する場合、各傾斜軸に対して目標傾斜角を設定する。この場合、制御ユニット102は、二次元平面(xy平面)におけるシフト量に基づいて各傾斜軸に対する試料122の傾斜角を算出し、各傾斜軸の目標傾斜角と試料122の傾斜角との誤差に基づいて試料ステージ118の傾斜を調整する。
【0078】
実施例1によれば、制御ユニット102は、菊池線を含む回折パターンを用いた解析を行うことによって、自動的、かつ、高い精度で試料ステージ118の傾斜を調整することができる。これによって、自動的かつ高い精度で、試料122の傾斜、すなわち、試料122の結晶方位を所望の方向に調整することができる。実施例1では、ユーザが回折パターンを参照する必要はなく、また、予め、試料の結晶構造等が未知であってもよい。
【実施例2】
【0079】
実施例2では、制御ユニット102が、回折パターンAの画像及び目標傾斜角θから目標回折パターンの画像を生成し、目標回折パターン及び回折パターンBのシフト量に基づいて、試料ステージ118の傾斜を調整する。以下、実施例1との差異を中心に実施例2について説明する。
【0080】
実施例2のTEM100の構成は実施例1と同一である。実施例2では試料ステージ調整処理が異なる。
【0081】
図7は、実施例2の試料ステージ118の傾斜角と、目標回折パターン及び回折パターンBの相関値との間の関係を示すグラフである。
図8は、実施例2の試料ステージ118の傾斜角と、試料122の傾斜角φ及び目標傾斜角θの誤差との間の関係を示すグラフである。
【0082】
図7に示すように、目標回折パターン及び回折パターンBの相関値が最大となる角度が試料ステージ118の傾斜角として設定された場合、
図8に示すように、試料122の傾斜角φ及び目標傾斜角θの誤差は最小となる。実施例2では前述の性質を利用する。
【0083】
図9は、実施例2のTEM100が実行する試料ステージ調整処理を説明するフローチャートである。
図10Aは、実施例2のTEM100によって取得される回折パターンの画像の一例を示す図である。
図10Bは、実施例2のTEM100によって生成された目標回折パターンの画像の一例を示す図である。
【0084】
ステップS101からステップS104までの処理は実施例1の処理と同一である。ただし、実施例2では、回折パターンの画像Aは加工用画像として取得される。ステップS104の処理が実行された後、制御ユニット102は、回折パターンAの画像及び目標傾斜角θに基づいて、目標回折パターンの画像(基準画像)を生成する(ステップS201)。
【0085】
例えば、
図10Aに示すような回折パターンの画像1000から、
図10Bに示すような目標回折パターンの画像1010が生成される。
【0086】
ステップS105及びステップS106の処理は実施例1の処理と同一である。ステップS106の処理が実行された後、制御ユニット102は、目標回折パターン及び回折パターンBを用いて回折パターンのシフト量Sを算出する(ステップS202)。シフト量Sの算出方法は実施例1と同一である。
【0087】
次に、制御ユニット102は、回折パターンのシフト量Sが0であるか否かを判定する(ステップS203)。すなわち、試料122の傾斜角φ及び目標傾斜角θの誤差は最小となるか否かが判定される。
【0088】
回折パターンのシフト量Sが0であると判定された場合、制御ユニット102は試料ステージ調整処理を終了する。
【0089】
回折パターンのシフト量Sが0でないと判定された場合、制御ユニット102は、シフト量Sを新たな傾斜角ψに設定し(ステップS204)、その後、ステップS105に戻る。
【0090】
実施例2によれば、実施例1と同様に、制御ユニット102は、菊池線を含む回折パターンを用いた解析を行うことによって、自動的、かつ、高い精度で試料122の結晶方位を所望の方向に調整することができる。また、実施例2では、試料122の傾斜角を算出する必要がないため、処理コストの低減及び処理の高速化を実現できる。
【実施例3】
【0091】
目標傾斜角θが大きい場合、試料ステージ118の移動に伴って、回折パターンのシフト量も大きくなる。したがって、移動前の回折パターン及び移動前の回折パターンに相関がなくなる場合がある。この場合、二つの回折パターンを比較しても回折パターンのシフト量を算出できない。実施例3では、目標傾斜角θが大きい場合にも自動的かつ高い精度で試料ステージ118の傾斜を調整できるようにする。以下、実施例1との差異を中心に実施例3について説明する。
【0092】
実施例3のTEM100の構成は実施例1と同一である。実施例3では試料ステージ調整処理が異なる。
【0093】
図11は、実施例3のTEM100が実行する試料ステージ調整処理を説明するフローチャートである。
図12は、実施例3のTEM100によって取得される回折パターンの画像のシリーズの一例を示す図である。
図13は、実施例3の試料ステージ118の傾斜角及びシフト量の関係の一例を示す図である。
【0094】
まず、制御ユニット102は、電子光学系鏡筒101に、加速電圧及び照射電流等の観察条件を設定する(ステップS301)。
【0095】
ステップS301では、傾斜角ψにステップ傾斜角Δθが設定される。その他の処理はステップS101と同一である。ステップ傾斜角Δθは、目標傾斜角より小さい角度であって、既定値として予め設定されている。なお、ステップ傾斜角Δθは後述するように更新することができる。
【0096】
ステップS102からステップS104の処理は実施例1の処理と同一である。ステップS104の処理が実行された後、制御ユニット102は、試料ステージ118を移動させた後(ステップS302)、回折パターンの画像Bを取得する(ステップS106)。
【0097】
具体的には、制御ユニット102は、傾斜角ψに基づいて、試料ステージ制御回路158に対し信号を送信することによって、試料ステージ118を移動させる。ステップS106の処理は実施例1と同一である。ただし、制御ユニット102は、取得した回折パターンBの画像を主記憶装置172に格納する。したがって、主記憶装置172には、
図12に示すような回折パターンBの画像のシリーズが格納されることとなる。
【0098】
次に、制御ユニット102は、回折パターンA及び回折パターンBのシリーズを用いて回折パターンのシフト量Sを算出する(ステップS303)。
【0099】
具体的には、制御ユニット102は、傾斜角ψに基づく試料ステージ118の調整前後の回折パターンのペアを生成し、当該ペア間のシフト量を算出する。なお、回折パターンのシフト量の算出方法は実施例1と同一である。制御ユニット102は、各ペアのシフト量の合計値を、回折パターンのシフト量Sとして算出する。
【0100】
なお、制御ユニット102は、
図13に示すように、ステップS303の処理結果を主記憶装置172に格納してもよい。
図13は2次元平面上のシフト量を示す。この場合、ペア間のシフト量は、x方向のシフト量の自乗及びy方向のシフト量の自乗の和の平方根として与えられる。
【0101】
ステップS303の処理結果が主記憶装置172に格納される場合、制御ユニット102は、最新の回折パターンBと一つ前の回折パターンBとの間のシフト量に、前回の回折パターンのシフト量Sを加算した値を、新たな回折パターンのシフト量Sとして算出する。
【0102】
ステップS108及びステップS109の処理は実施例1と同一である。ステップS109において、試料122の傾斜角φが目標傾斜角θと一致しないと判定された場合、制御ユニット102は、目標傾斜角θ及び試料122の傾斜角φの差の絶対値がステップ傾斜角Δθより小さいか否かを判定する(ステップS304)。
【0103】
目標傾斜角θ及び試料122の傾斜角φの差の絶対値がステップ傾斜角Δθ以上であると判定された場合、制御ユニット102はステップS306に進む。
【0104】
目標傾斜角θ及び試料122の傾斜角φの差の絶対値がステップ傾斜角Δθより小さいと判定された場合、制御ユニット102は、目標傾斜角θ及び試料122の傾斜角φの差の絶対値を新たなステップ傾斜角Δθとして設定し(ステップS305)、その後、ステップS306に進む。
【0105】
ステップS306では、制御ユニット102は、現在の傾斜角ψにステップ傾斜角Δθを加算した値を、新たな傾斜角ψに設定し(ステップS306)、その後、ステップS302に戻る。
【0106】
制御ユニット102は、試料ステージ118の傾斜を少しずつ変化させることによって、試料ステージ118を大きく傾斜させた場合の回折パターンのシフト量Sを算出できる。また、目標傾斜角θ及び試料122の傾斜角φの誤差に応じてステップ傾斜角Δθを更新することによって、試料ステージ118の傾斜の調整精度を高めることができる。
【0107】
実施例3によれば、目標傾斜角θが大きい場合にも自動的、かつ、高い精度で試料122の結晶方位を所望の方向に調整することができる。
【実施例4】
【0108】
実施例4では、制御ユニット102は、試料ステージ118の移動後に、鮮明な回折パターンを取得できるようにTEM100の設定を調整する。以下、実施例1との差異を中心に、実施例4について説明する。
【0109】
実施例4のTEM100の構成は実施例1と同一である。実施例4では試料ステージ調整処理が異なる。
【0110】
図14は、実施例4のTEM100が実行する試料ステージ調整処理を説明するフローチャートである。
【0111】
まず、制御ユニット102は、電子光学系鏡筒101に、加速電圧及び照射電流等の観察条件を設定する(ステップS401)。
【0112】
ステップS401では、傾斜角ψにステップ傾斜角Δθが設定される。その他の処理はステップS101と同一である。ステップ傾斜角Δθは、目標傾斜角より小さい角度であって、既定値として予め設定されている。なお、ステップ傾斜角Δθは後述するように更新することができる。
【0113】
ステップS102からステップS104の処理は実施例1の処理と同一である。ステップS104の処理が実行された後、制御ユニット102は、試料ステージ118を移動させた後(ステップS402)、試料位置の調整及びデフォーカスを行う(ステップS403、ステップS404)。その後、制御ユニット102は回折パターンの画像Bを取得する(ステップS106)。
【0114】
ステップS402では、制御ユニット102は、傾斜角ψに基づいて、試料ステージ制御回路158に対し信号を送信することによって、試料ステージ118を移動させる。ステップS403では、制御ユニット102は、試料ステージ118の傾斜に伴って、試料122の高さのズレを補正するように、試料ステージ118を移動させる。ステップS404はステップS103と同一の処理である。ステップS106では、制御ユニット102は、回折パターンBの画像を主記憶装置172に一時的に格納する。主記憶装置172には、回折パターンBの画像のシリーズが格納される。
【0115】
次に、制御ユニット102は、回折パターンA及び回折パターンBのシリーズを用いて回折パターンのシフト量Sを算出する(ステップS405)。
【0116】
具体的には、制御ユニット102は、傾斜角ψに基づく試料ステージ118の調整前後の回折パターンのペアを生成し、当該ペアについてシフト量を算出する。なお、回折パターンのシフト量の算出方法は実施例1と同一である。制御ユニット102は、各ペアのシフト量の合計値を、回折パターンのシフト量Sとして算出する。
【0117】
なお、制御ユニット102は、ステップS405の処理結果を主記憶装置172に格納してもよい。この場合、制御ユニット102は、最新の回折パターンBと一つ前の回折パターンBのシフト量に、前回の回折パターンのシフト量Sを加算した値を、新たな回折パターンのシフト量Sとして算出する。
【0118】
ステップS108及びステップS109の処理は実施例1と同一である。ステップS109において、試料122の傾斜角φが目標傾斜角θと一致しないと判定された場合、制御ユニット102は、目標傾斜角θ及び試料122の傾斜角φの差の絶対値がステップ傾斜角Δθより小さいか否かを判定する(ステップS406)。
【0119】
目標傾斜角θ及び試料122の傾斜角φの差の絶対値がステップ傾斜角Δθ以上であると判定された場合、制御ユニット102はステップS408に進む。
【0120】
目標傾斜角θ及び試料122の傾斜角φの差の絶対値がステップ傾斜角Δθより小さいと判定された場合、制御ユニット102は、目標傾斜角θ及び試料122の傾斜角φの差の絶対値を新たなステップ傾斜角Δθとして設定し(ステップS407)、その後、ステップS408に進む。
【0121】
ステップS408では、制御ユニット102は、現在の傾斜角ψにステップ傾斜角Δθを加算した値を、新たな傾斜角ψに設定し(ステップS408)、その後、ステップS402に戻る。
【0122】
制御ユニット102は、試料ステージ118の傾斜を少しずつ変化させることによって、試料ステージ118を大きく傾斜させた場合の回折パターンのシフト量Sを算出できる。また、目標傾斜角θ及び試料122の傾斜角φの誤差に応じてステップ傾斜角Δθを更新することによって、試料ステージ118の傾斜の調整精度を高めることができる。また、制御ユニット102は、試料ステージ118の移動後に、試料ステージ118の位置を調整し、再度、デフォーカスを行うことによって、鮮明な回折パターンを取得することができる。
【0123】
なお、制御ユニット102は、ステップS102の処理の後及びステップS402の処理の後に、試料122の像を取得してもよい。
【0124】
図15は、実施例4のTEM100によって表示される画面1500の一例を示す図である。
【0125】
画面1500は、四つの表示欄1501、1502、1503、1504を含む。
【0126】
表示欄1501は、試料ステージ調整処理の開始前のTEM100の状態等の情報を表示する欄である。表示欄1501は、試料122の像1511、回折パターンの画像1512、及び試料ステージ118の状態を示すパラメータ欄1513を含む。
【0127】
表示欄1502は、試料ステージ調整処理の終了後のTEM100の状態等の情報を表示する欄である。表示欄1502は、試料122の像1521、回折パターンの画像1522、及び試料ステージ118の状態を示すパラメータ欄1523を含む。
【0128】
表示欄1503は、シフト量Sの算出時に用いた回折パターンに関する情報を表示する欄である。表示欄1503には、シフト量の算出時に用いた回折パターンのシリーズから生成されたマップ画像1531、並びに、シフト量及び試料ステージ118の傾斜角等を表示する算出値欄1532を含む。
【0129】
表示欄1504は、シフト量S及び試料122の傾斜角φの履歴を表示する欄である。表示欄1504は、シフト量Sの履歴を表示するグラフ1541及び試料122の傾斜角φの履歴を表示するグラフ1542を含む。
【0130】
ユーザは、画面1500を参照することによって、試料ステージ118の調整結果及び試料122の像を確認できる。
【0131】
実施例4によれば、目標傾斜角が大きい場合にも自動的、かつ、高い精度で試料122の結晶方位を所望の方向に調整することができる。また、試料ステージ118の移動後にTEM100の設定を調整することによって、鮮明な回折パターンを取得できる。
【0132】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。また、例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために構成を詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成に追加、削除、置換することが可能である。
【0133】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、本発明は、実施例の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードによっても実現できる。この場合、プログラムコードを記録した記憶媒体をコンピュータに提供し、そのコンピュータが備えるプロセッサが記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出す。この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が前述した実施例の機能を実現することになり、そのプログラムコード自体、及びそれを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。このようなプログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、CD-ROM、DVD-ROM、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)、光ディスク、光磁気ディスク、CD-R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROMなどが用いられる。
【0134】
また、本実施例に記載の機能を実現するプログラムコードは、例えば、アセンブラ、C/C++、perl、Shell、PHP、Python、Java等の広範囲のプログラム又はスクリプト言語で実装できる。
【0135】
さらに、実施例の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを、ネットワークを介して配信することによって、それをコンピュータのハードディスクやメモリ等の記憶手段又はCD-RW、CD-R等の記憶媒体に格納し、コンピュータが備えるプロセッサが当該記憶手段や当該記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出して実行するようにしてもよい。
【0136】
上述の実施例において、制御線や情報線は、説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。全ての構成が相互に接続されていてもよい。