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特許7168959α,ω-パーフルオロアルカジエンの製造方法および金属錯体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】α,ω-パーフルオロアルカジエンの製造方法および金属錯体
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/35 20060101AFI20221102BHJP
   C07C 21/19 20060101ALI20221102BHJP
   C07C 21/20 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
C07C17/35
C07C21/19
C07C21/20
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019010582
(22)【出願日】2019-01-24
(65)【公開番号】P2020117466
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100195017
【弁理士】
【氏名又は名称】水間 章子
(72)【発明者】
【氏名】今野 勉
(72)【発明者】
【氏名】山田 重之
(72)【発明者】
【氏名】石村 隆行
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-192345(JP,A)
【文献】特開2008-266279(JP,A)
【文献】国際公開第2015/006278(WO,A1)
【文献】Organometallics,2013年,32,7552-7558
【文献】Journal of Fluorine Chemistry,2014年,168,158-162
【文献】Tetrahedron,1992年,Vol.48, No.2,189-275,特に「VI. Perfluoroalkyl Zinc Reagents」(p.209-218)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/35
C07C 21/19
C07C 21/20
C07F 3/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I):
CF=CF(CFCF=CF ・・・(I)
[式(I)中、mは0以上の整数を示す。]
で表されるα,ω-パーフルオロアルカジエンの製造方法であって、
下記一般式(II):
【化1】
[式(II)中、MおよびMは、それぞれ独立して、周期律表第11族および第12族から選択される金属原子を示し、
、L、LおよびLは、それぞれ独立して、配位子を示し、ここで、LおよびL、並びに、LおよびLは、それぞれ独立して、二座配位子を形成していてもよく、
nは、(m+4)以上の整数を示す。]
で表される金属錯体を熱分解する工程を含み、
前記配位子が、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンおよび1,2-ジメトキシエタンからなる群より選択される少なくとも1種である、α,ω-パーフルオロアルカジエンの製造方法。
【請求項2】
前記Mおよび前記Mが亜鉛である、請求項1に記載のα,ω-パーフルオロアルカジエンの製造方法。
【請求項3】
前記熱分解を不活性ガス雰囲気下で行う、請求項1または2に記載のα,ω-パーフルオロアルカジエンの製造方法。
【請求項4】
前記熱分解を50℃以上の温度で行う、請求項1~3のいずれか1項に記載のα,ω-パーフルオロアルカジエンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α,ω-パーフルオロアルカジエンの製造方法および金属錯体に関し、特に、α,ω-パーフルオロアルカンの製造方法と、α,ω-パーフルオロアルカンの前駆体になり得る新規な金属錯体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
α,ω-パーフルオロアルカジエンの一種であるヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン(「ヘキサフルオロブタジエン(C)」ともいう。)は、例えば半導体製造用のエッチングガスや、フッ素化合物を合成するための単量体等として有用であることが知られている。
【0003】
そして、非特許文献1では、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンの製造方法として、亜鉛の存在下で1,2-ジクロロ-1,2,2-トリフルオロヨードエタンを反応させて1,2,3,4-テトラクロロヘキサフルオロブタンを合成し、得られた1,2,3,4-テトラクロロヘキサフルオロブタンを、亜鉛、極性溶媒の存在下、分子内脱ハロゲン化を行う方法が提案されている。
【0004】
また、非特許文献2では、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンの製造方法として、1,2-ジフルオロジクロロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、トリクロロエチレンのいずれかを出発原料として1,2,3,4-テトラクロロヘキサフルオロブタンを合成し、得られた1,2,3,4-テトラクロロヘキサフルオロブタンの脱塩素化等を行う方法が提案されている。
また、非特許文献2では、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンの他の製造方法として、テトラフルオロエチレンを出発原料として1,4-ジヨードオクタフルオロブタンを合成し、得られた1,4-ジヨードオクタフルオロブタンと亜鉛とを反応させる方法が提案されている。
また、非特許文献2では、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンの更に他の製造方法として、テトラフルオロエチレンを出発原料として1,4-ジブロモオクタフルオロブタンを合成し、得られた1,4-ジブロモオクタフルオロブタンとグリニャール試薬とを反応させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】ミロス ハドリッキー(Milos Hudlicky)著、「ケミストリー オブ オーガニック フルオリン コンパウンズ(Chemistry of Organic Fluorine Compounds)」、第2版、発行国:アメリカ合衆国、発行所:ジョン ウイリー アンド サンズ(JOHN WILEY & SONS)、発行年:1976年、p.488
【文献】ジン ジュら(Jing Zhu et al)、「ザ リサーチ プログレス オブヘキサフルオロブタジエン シンセシス(The Research Progress of Hexafluorobutadiene Synthesis)」、インターナショナル ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー(International Journal of Organic Chemistry)、第4版、発行国:中国、発行所:サイエンティフィック リサーチ パブリッシング(Scientific Research Publishing)、2014年、p.333-336
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来のヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンは、複雑な多工程の反応やフッ素ガスの使用などの厳しい反応条件が必要な製造工程を経て得られるため、従来の技術ではヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンを低コストで製造することができないという問題があった。また、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンを効率良く製造するという観点からも、上記従来の製造方法には改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン等のα,ω-パーフルオロアルカジエンを低コストで効率良く製造し得る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。そして、本発明者らは、特定の構造を有する金属錯体を熱分解することで、α,ω-パーフルオロアルカジエンを低コスト且つ効率的に製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のα,ω-パーフルオロアルカジエンの製造方法は、下記一般式(I):
CF=CF(CFCF=CF ・・・(I)
[式(I)中、mは0以上の整数を示す。]
で表されるα,ω-パーフルオロアルカジエンの製造方法であって、
下記一般式(II):
【0010】
【化1】
【0011】
[式(II)中、MおよびMは、それぞれ独立して、周期律表第11族および第12族から選択される金属原子を示し、
、L、LおよびLは、それぞれ独立して、配位子を示し、ここで、LおよびL、並びに、LおよびLは、それぞれ独立して、二座配位子を形成していてもよく、
nは、(m+4)以上の整数を示す。]
で表される金属錯体を熱分解する工程を含むことを特徴とする。本発明によれば、前記式(II)で表される金属錯体を熱分解する工程により、前記式(I)で表されるα,ω-パーフルオロアルカジエンを容易に得ることができる。したがって、本発明によれば、α,ω-パーフルオロアルカジエンを低コスト且つ効率的に製造することができる。
【0012】
ここで、本発明のα,ω-パーフルオロアルカジエンの製造方法において、前記Mおよび前記Mが亜鉛であることが好ましい。前記式(II)で表される金属錯体において、MおよびMが亜鉛であれば、α,ω-パーフルオロアルカジエンをより効率的に製造することができる。
【0013】
また、本発明のα,ω-パーフルオロアルカジエンの製造方法において、配位子が、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンおよび1,2-ジメトキシエタンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。前記式(II)で表される金属錯体において、配位子が、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンおよび1,2-ジメトキシエタンからなる群より選択される少なくとも1種であれば、α,ω-パーフルオロアルカジエンを更に効率的に製造することができる。
【0014】
また、本発明のα,ω-パーフルオロアルカジエンの製造方法は、前記熱分解を不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガス雰囲気下であれば、前記式(II)で表される金属錯体の水分や大気中の酸素による分解が抑制される。そのため、前記式(II)で表される金属錯体を不活性ガス雰囲気下において熱分解すれば、当該金属錯体を熱分解することによる効果を十分に得ることができる。
【0015】
更に、本発明のα,ω-パーフルオロアルカジエンの製造方法において、前記熱分解を50℃以上の温度で行うことが好ましい。前記式(II)で表される金属錯体の熱分解を50℃以上の温度で行えば、当該金属錯体の熱分解を効率良く進行させることができる。
【0016】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の金属錯体は、
下記一般式(III):
【0017】
【化2】
【0018】
[式(III)中、MおよびMは、それぞれ独立して、周期律表第11族および第12族から選択される金属原子を示し、
、L、LおよびLは、それぞれ独立して、配位子(但し、アセトニトリルを除く)を示し、ここで、LおよびL、並びに、LおよびLは、それぞれ独立して、二座配位子を形成していてもよく、
nは、4以上の整数を示す。]
で表されることを特徴とする。本発明の金属錯体は、前記式(III)で表される新規な金属錯体である。また、本発明の金属錯体は、α,ω-パーフルオロアルカジエンの前駆体となり得る金属錯体として、好適に用いることができる。
【0019】
そして、本発明の金属錯体において、前記Mおよび前記Mが亜鉛であることが好ましい。前記式(III)で表される金属錯体において、MおよびMが亜鉛であれば、当該金属錯体を本発明のα,ω-パーフルオアルカジエンの製造方法において好適に用いることができる。
【0020】
また、本発明の金属錯体において、前記配位子が含酸素有機化合物であることが好ましい。前記式(III)で表される金属錯体において、配位子が含酸素有機化合物であれば、当該金属錯体を、本発明のα,ω-パーフルオロアルカジエンの製造方法において更に好適に用いることができる。
【0021】
更に、本発明の金属錯体において、前記含酸素有機化合物が、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンおよび1,2-ジメトキシエタンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。前記式(III)で表される金属錯体において、配位子がテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンおよび1,2-ジメトキシエタンからなる群より選択される少なくとも1種の含酸素有機化合物であれば、当該金属錯体を、本発明のα,ω-パーフルオアルカジエンの製造方法において更に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、α,ω-パーフルオロアルカジエンを低コストで効率的に製造することができる。
また、本発明よれば、新規な金属錯体であって、α,ω-パーフルオロアルカジエンの前駆体となり得る金属錯体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明のα,ω-パーフルオロアルカジエンの製造方法は、後述する特定の構造を有する金属錯体を熱分解する工程を含む。そして、本発明の金属錯体は、新規な金属錯体であって、α,ω-パーフルオロアルカジエンの前駆体となり得るものである。
【0024】
(α,ω-パーフルオロアルカジエンの製造方法)
本発明は、下記一般式(I):
CF=CF(CFCF=CF ・・・(I)
で表されるα,ω-パーフルオロアルカジエンの製造方法である。なお、式(I)中、mは0以上の整数を示す。ここで、コスト面や入手のし易さの観点からは、式(I)中、mは、偶数であることが好ましく、4以下の整数であることがより好ましく、0、2または4であることが更に好ましい。
そして、本発明のα,ω-パーフルオロアルカジエンの製造方法は、以下に示す金属錯体を熱分解する工程を含む。
【0025】
<金属錯体>
本発明のα,ω-パーフルオロアルカジエンの製造方法で用いる金属錯体は、下記一般式(II)で表される。
【0026】
【化3】
【0027】
式(II)中、MおよびMは、それぞれ独立して、周期律表第11族および第12族から選択される金属原子を示し、L、L、LおよびLは、それぞれ独立して、配位子を示し、ここで、LおよびL、並びに、LおよびLは、それぞれ独立して、二座配位子を形成していてもよく、nは、(m+4)以上の整数を示す。なお、mは、上述した式(I)におけるmである。
【0028】
<<金属原子>>
ここで、式(II)で表される金属錯体において、MおよびMで示される金属原子は、当該金属錯体の中心金属である。なお、式(II)で表される金属錯体において、MおよびMで示される金属原子は、同一であっても、互いに異なってもよいが、当該金属錯体の熱分解を効率的に行う観点からは、同一の金属原子であることが好ましい。
【0029】
そして、周期律表第11族の金属原子としては、銅、銀、金が挙げられる。また、周期律表第12族の金属原子としては、亜鉛、カドミウム、水銀が挙げられる。そして、低コスト、環境への負荷が少ないという観点からは、式(II)で表される金属錯体において、MおよびMで示される金属原子は、亜鉛であることが好ましい。
【0030】
<<配位子>>
また、式(II)で表される金属錯体において、L、L、LおよびLで示される配位子は、式(II)中、MおよびMで示される金属原子に配位可能な化合物であれば、同一であっても、互いに異なっていてもよいが、当該金属錯体の熱分解を更に効率的に行う観点からは、L、L、LおよびLのすべてが同一の配位子であることが好ましい。
【0031】
そして、L、L、LおよびLで示される配位子としては、例えば、ニトリル系配位子、酸素系配位子等が挙げられる。
【0032】
ここで、ニトリル系配位子としては、例えばアセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、ピバロニトリル、イソバレロニトリル、2-メチルブチロニトリル、バレロニトリル等のニトリル化合物が挙げられる。また、酸素系配位子としては、例えば、下記一般式(IV)で表される含酸素有機化合物が挙げられる。
-O-R ・・・(IV)
【0033】
ここで、式(IV)において、RおよびRは、それぞれ独立して、有機基を示す。なお、RとRとは、互いに結合して酸素原子と共に環構造を形成していてもよい。即ち、式(IV)で表される含酸素有機化合物は、鎖状構造あっても、環状構造であってもよい。
【0034】
そして、式(IV)中、RおよびRで示される有機基としては、特に限定されず、例えば、炭素数1~6のアルキル基;炭素数2~6のアルキルエーテル基;等が挙げられる。
【0035】
そして、炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t-ブチル基、n-ブチル基等が挙げられ、中でも、炭素数2~3のアルキル基であることが好ましく、エチル基またはプロピル基がより好ましい。
【0036】
また、炭素数2~6のアルキルエーテル基としては、例えば、ジメチルエーテル基、エチルメチルエーテル基、ジエチルエーテル基、エチルプロピルエーテル基、ジプロピルエーテル基等が挙げられ、中でも、炭素数2~3のアルキルエーテルであることが好ましく、エチルメチルエーテル基がより好ましい。
【0037】
更に、式(IV)中、RとRとが互いに結合して酸素原子と共に環構造を形成する場合、RとRとによって形成される有機基としては、例えばブチレン基等が挙げられる。
【0038】
そして、式(IV)で表される含酸素有機化合物の具体例としては、例えば、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン等が挙げられる。中でも、入手のし易さ、安全性およびコスト面の観点からは、式(IV)で表される含酸素有機化合物として、テトラヒドロフランが好ましい。
【0039】
<<nの数>>
また、式(II)で表される金属錯体において、nは、(m+4)以上の整数であればよいが、当該金属錯体を用いて熱分解を効率的に行う観点からは、nは、偶数であることが好ましく、8以下の整数であることがより好ましく、4、6または8であることが更に好ましい。
【0040】
ここで、式(II)で表される金属錯体としては、例えば、下記式(1)~(7)で表される金属錯体が挙げられる。なお、以下に示す式(1)~(3)中、「THF」はテトラヒドロフランを表し、式(7)中、「MeCN」はアセトニトリルを表す。
【0041】
【化4】
【0042】
そして、本発明のα,ω-パーフルオロアルカジエンの製造方法において、式(II)で表される金属錯体の合成方法は特に限定されないが、例えば、以下に述べる合成方法によれば、当該金属錯体を容易に合成することができる。
【0043】
<金属錯体の合成方法>
式(II)で表される金属錯体は、例えば、以下に示す有機フッ素化合物と、有機金属化合物と、上述した配位子とを溶媒中で反応させて合成することができる。
【0044】
[有機フッ素化合物]
式(II)で表される金属錯体の合成に用いる有機フッ素化合物は、下記一般式(V)で表される。
-(C2n)-X ・・・(V)
【0045】
ここで、式(V)中、nは、式(II)で表される金属錯体中のnと同じである。また、式(V)中、X、Xは、それぞれ独立して、ハロゲン原子を示す。ここで、X、Xで示されるハロゲン原子は、同一であっても、互いに異なっていてもよいが、XおよびXは同一であることが好ましい。これにより、有機金属中間体の生成反応を円滑に進ませるとともに、目的とする金属錯体の合成反応を十分に完結させることができるからである。
【0046】
そして、X、Xで示されるハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、中でも、式(II)で表される金属錯体の合成をより効率的に行う観点からは、XおよびXはヨウ素原子であることが好ましい。
【0047】
そして、式(V)で表される有機フッ素化合物の具体例としては、例えば、1,4-ジクロロオクタフルオロブタン(CCl)、1,6-ジクロロドデカフルオロヘキサン(C12Cl)、1,8-ジクロロヘキサデカフルオロオクタン(C16Cl)、1,4-ジヨードオクタフルオロブタン(C)、1,6-ジヨードドデカフルオロヘキサン(C12)、1,8-ジヨードヘキサデカフルオロオクタン(C16)等が挙げられる。中でも、反応系内での有機フッ素化合物と、有機金属化合物との反応の進行のしやすさから、1,4-ジヨードオクタフルオロブタン(C)、1,6-ジヨードドデカフルオロヘキサン(C12)、1,8-ジヨードヘキサデカフルオロオクタン(C16)が好ましい。
【0048】
[有機金属化合物]
また、式(II)で表される金属錯体の合成に用いる有機金属化合物は、下記一般式(VI)で表される。
(R ・・・(VI)
【0049】
ここで、式(VI)中、Rは有機基を示し、Mは金属原子を示し、pは、1以上の整数を示す。
【0050】
そして、式(VI)中、Rで示される有機基としては、特に限定されず、例えば、炭素数1~6のアルキル基等が挙げられ、中でも、メチル基、エチル基であることが好ましく、エチル基であることがより好ましい。また、Mは、式(II)中、MまたはMで示される金属原子と同じであるが、熱分解を効率的に行える金属錯体を得る観点からは、亜鉛であることが好ましい。更に、上記式(VI)において、pは、1以上の整数であればよいが、2以上の整数であることが好ましい。
【0051】
そして、式(VI)で表される有機金属化合物の具体例としては、例えば、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジブチル亜鉛等の有機亜鉛化合物、ジメチルカドニウム、ジメチル水銀等が挙げられる。中でも、環境衛生上の観点からは、有機亜鉛化合物が好ましく、更に、入手のし易さの観点からは、ジエチル亜鉛が好ましい。
【0052】
[配位子]
また、式(II)で表される金属錯体の合成に用いる配位子としては、上述した配位子が挙げられる。ここで、合成によって得られる金属錯体の取り扱い性が向上する観点からは、配位子として、上述した式(IV)で表される含酸素有機化合物を用いることが好ましく、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタンを用いることがより好ましい。配位子として上述した式(IV)で表される含酸素有機化合物を用いれば、式(II)で表される金属錯体の結晶性を増大させることができる。
【0053】
[溶媒]
そして、式(II)で表される金属錯体の合成に用いる溶媒としては、式(V)で表される有機フッ素化合物、式(VI)で表される有機金属化合物、および上述した配位子を分散させることが可能であり、かつ、式(II)で表される金属錯体の合成反応に影響しないものであれば、特に限定されるものではない。
【0054】
ここで、式(II)で表される金属錯体の製造に用いる溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルコール、sec-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール、n-ペンチルアルコール、アミルアルコール等のアルコール類;ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;及びこれらの2種以上からなる混合溶媒;等が挙げられる。そして、これらの溶媒は、脱水溶媒として用いることがより好ましい。なお、これら溶媒として挙げられる化合物は、式(II)で表される金属錯体の合成反応において、任意に、添加剤として用いてもよい。
【0055】
そして、式(II)で表される金属錯体の合成方法において、式(VI)で表される有機金属化合物の使用量は、式(V)で表される有機フッ素化合物1当量に対して、1.0~2.0当量であることが好ましく、1.05~1.5当量であることがより好ましい。
【0056】
また、式(II)で表される金属錯体の合成方法において、溶媒の使用量は、式(V)で表される有機フッ素化合物の濃度が1mol/L~2mol/Lとなる量とすることが好ましく、1mol/L~1.3mol/Lとなる量とすることがより好ましい。
【0057】
更に、式(II)で表される金属錯体の合成方法において、配位子の使用量は、式(V)で表される有機フッ素化合物の濃度が1mol/L~2mol/Lとなる量とすることが好ましく、1mol/L~1.5mol/Lとなる量とすることがより好ましい。
【0058】
そして、式(V)で表される有機フッ素化合物と、式(VI)で表される有機金属化合物と、配位子とを、溶媒中で反応させる方法は特に限定されず、例えば、式(V)で表される有機フッ素化合物と溶媒とを混合してから、式(VI)で表される有機金属化物および配位子を添加する方法が挙げられる。
【0059】
その際、反応時間は、特に限定されないが、通常、6時間以上であり、好ましくは7時間以上であり、通常9時間以下であり、好ましくは8時間以下である。
【0060】
また、反応温度は、特に限定されないが、通常は-20℃以下の温度であり、好ましくは-60℃以上-20℃以下の温度である。
【0061】
そして、上記反応後、得られる反応溶液から減圧下で溶媒を除去し、減圧乾燥することにより、式(II)で表される金属錯体が得られる。その際、減圧乾燥時の減圧度は特に限定されないが、1kPa以下とすることが好ましく、200Pa以下とすることがより好ましい。また、乾燥温度は特に限定されないが、20℃以上とすることが好ましく、25℃以下とすることがより好ましい。更に、減圧乾燥時間は、通常1時間以上であり、好ましくは24時間以下であり、より好ましくは16時間以下である。
【0062】
そして上述した合成方法によれば、式(II)で表される金属錯体を、通常は80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の収率で得ることができる。
【0063】
<熱分解>
そして、本発明のα,ω-パーフルオロアルカジエンの製造方法において、式(II)で表される金属錯体を熱分解する方法は、特に限定されず、例えば、オイルバス、電気炉、マントルヒーター、ラバーヒーター、熱風発生器等を用いて当該金属錯体を加熱して熱分解する方法が挙げられる。
【0064】
ここで、式(II)で表される金属錯体の熱分解は、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガス雰囲気下であれば、式(II)で表される金属錯体の酸化分解が抑制される。そのため、式(II)で表される金属錯体を不活性ガス雰囲気下で熱分解すれば、当該金属錯体を熱分解することによる効果を十分に得ることができる。なお、式(II)で表される金属錯体を熱分解して得られるガスを効率的に捕集して回収する観点からは、上記不活性ガスをフローしながら当該金属錯体を熱分解し、流出する不活性ガスと一緒に生成物であるガスを回収することが好ましい。
【0065】
また、式(II)で表される金属錯体の熱分解は、通常50℃以上の温度で行うことが好ましく、80℃以上の温度で行うことがより好ましく、200℃以下の温度で行うことが好ましく、150℃以下の温度で行うことがより好ましい。式(II)で表される金属錯体の熱分解を50℃以上の温度で行えば、当該金属錯体の熱分解を効率良く進行させることができる。また、式(II)で表される金属錯体の熱分解を200℃以下の温度で行えば、当該金属錯体の熱分解が急激的に進行するのを抑制し、熱分解のコントロールが難しくなるのを防止できる。また、生成したα,ω-パーフルオロアルカジエンの重合による副反応を抑制し、収量の減少を防止することができる。
【0066】
ここで、式(II)で表される金属錯体を熱分解する際に、当該金属錯体に加える熱の昇温速度は特に限定されないが、当該金属錯体の急激な熱分解を抑制する観点からは、昇温速度を5℃/min以下とすることが好ましく、0.5℃/min以下とすることがより好ましい。そして、式(II)で表される金属錯体の急激な熱分解を抑制すると共に、α,ω-パーフルオロアルカジエンの製造効率を向上させる観点からは、式(II)で表される金属錯体の熱分解は、多段階の昇温速度で、且つ、昇温速度を徐々に下げながら行うことが好ましい。具体的には、例えば、50℃から80℃までは昇温速度5℃/min以下、80℃から200℃までは昇温速度0.5℃/min以下で、式(II)で表される金属錯体を熱分解することができる。
【0067】
また、式(II)で表される金属錯体の熱分解時間は、通常30分以上であり、好ましくは3時間以上であり、通常、5時間以下であり、好ましくは4時間以下である。
【0068】
そして、式(II)で表される金属錯体を熱分解することで、α,ω-パーフルオロアルカジエンのガスが生成される。生成したα,ω-パーフルオロアルカジエンは、例えば、ガスの状態で反応系外へ抜き出して、トラップで冷却して捕集し、回収することができる。
【0069】
そして、本発明のα,ω-パーフルオロアルカジエンの製造方法によって得られるα,ω-パーフルオロアルカジエンとしては、特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン(C)、デカフルオロ-1,5-ヘキサジエン(C10)、テトラデカフルオロ-1,7-オクタジエン(C14)等が挙げられ、中でも、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンが好ましい。
【0070】
(金属錯体)
そして、本発明の金属錯体は、下記式(III)で表される新規な金属錯体である。本発明の金属錯体は、α,ω-パーフルオロアルカジエンの前駆体となり得る。また、本発明の金属錯体は、上述した本発明のα,ω-パーフルオロアルカジエンの製造方法において、熱分解に用いる金属錯体として使用することができる。
【0071】
【化5】
【0072】
式(III)において、MおよびMは、それぞれ独立して、周期律表第11族および第12族から選択される金属原子を表し、L、L、LおよびLは、それぞれ独立して、配位子(但し、アセトニトリルを除く)を示し、ここで、LおよびL、並びに、LおよびLは、それぞれ独立して、二座配位子を形成していてもよく、nは、4以上の整数を示す。
【0073】
ここで、式(III)において、MおよびMで示される金属原子は、式(II)におけるMおよびMと同じである。なお、式(III)中、MおよびMで示される金属原子は、同一であっても、互いに異なっていてもよい。
【0074】
そして、式(III)で表される金属錯体を、本発明のα,ω-パーフルオロアルカジエンの製造方法において好適に用いる観点からは、MおよびMは同一であることが好ましく、亜鉛であることがより好ましい。
【0075】
また、式(III)で表される金属錯体を、本発明のα,ω-パーフルオロアルカジエンの製造方法においてより好適に用いる観点からは、L、L、LおよびLで示される配位子は、含酸素有機化合物であることが好ましい。なお、式(III)における配位子としての含酸素有機化合物は、上述した式(II)で表される金属錯体において説明した含酸素有機化合物と同じである。
【0076】
そして、L、L、LおよびLで示される含酸素有機化合物は、同一であっても、互いに異なっていてもよいが、式(III)で表される金属錯体を、本発明のα,ω-パーフルオロアルカジエンの製造方法において更に好適に用いる観点からは、L、L、LおよびLのすべてが同一の含酸素有機化合物であることが好ましい。そして、含酸素有機化合物としては、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンおよび1,2-ジメトキシエタンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0077】
また、式(III)で表される金属錯体において、nは4以上の整数であればよいが、当該金属錯体を、本発明のα,ω-パーフルオロアルカジエンの製造方法において更に一層好適に用いる観点からは、nは、偶数であることが好ましく、8以下の整数であることがより好ましく、4、6または8であることが更に好ましい。
【0078】
そして、式(III)で表される金属錯体としては、例えば、下記式(1)~式(6)で表される金属錯体が挙げられる。
【0079】
【化6】
【0080】
なお、式(III)で表される金属錯体の合成方法は、特に限定されない。例えば、本発明のα,ω-パーフルオロアルカジエンの製造方法において説明した金属錯体の合成方法によれば、式(III)で表される金属錯体を容易に合成することができる。
【実施例
【0081】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0082】
(実施例1)
<金属錯体の合成>
アルゴン雰囲気下、四つ口フラスコに、有機フッ素化合物としての1,4-ジヨードオクタフルオロブタン(C)を40.0gと、溶媒としての脱水n-ヘキサンとを加え、攪拌した。その際、脱水n-ヘキサンの使用量は、上記1,4-ジヨードオクタフルオロブタンの濃度が1.0Mとなる量とした。
次いで、上記フラスコをアセトン/ドライアイス浴に浸漬させ、-20°C以下になるように冷却した。
更に、有機金属化合物としてのジエチル亜鉛(ヘキサン中、1.0M)を滴下ロートに加えた。そして、40分かけてジエチル亜鉛を上記フラスコに滴下した。その際、ジエチル亜鉛の使用量は、上記1,4-ジヨードオクタフルオロブタン1当量に対して、1.05当量とした。
滴下終了後、上記フラスコの内容物を-20°C以下で3時間攪拌した。
攪拌終了後、配位子としてのテトラヒドロフランを上記滴下ロートに加えた。そして、テトラヒドロフランを上記フラスコに滴下しながら3時間激しく撹拌した。その際、テトラヒドロフランの使用量は、上記1,4-ジヨードオクタフルオロブタンの濃度が1.0Mとなる量とした。
滴下終了後、反応溶液中に結晶(A)が析出した。そこで、反応溶液をナスフラスコに移し、エバポレーターを用いて、1kPaの減圧下、温度40℃で1時間、当該反応溶液を乾燥して溶媒を除去した。そして、減圧状態でエバポレーターからナスフラスコを取り出し、当該ナスフラスコをアルゴン雰囲気下のグローブボックスに入れ、大気圧に戻した。ナスフラスコをグローブボックスの減圧可能なパスボックスに移し、0.13kPaの減圧下、25℃で16時間の減圧乾燥を行い、結晶(A)を得た。
得られた結晶(A)について、重量測定を行い、19F-NMR測定(376MHz,CDCN、内部標準物質としてトリフルオロトルエンを添加)で評価した。得られたスペクトルデータを以下に示す。
【0083】
19F-NMR(δppm):-126.8(s,8F,CF)、-127.0(s,8F,CF
【0084】
上記スペクトルデータから、結晶(A)は、下記式(A)で表される金属錯体(A)であることが確認された。なお、式(A)中、「THF」はテトラヒドロフランを表す。
また、結晶(A)の重量から、得られた金属錯体(A)の収率を求めた。結果を表1に示す。
【0085】
【化7】
【0086】
<金属錯体の熱分解>
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、上記のようにして得られた金属錯体(A)を、三つ口フラスコに5.0g量り取った。
そして、上記三つ口フラスコをオイルバスに浸漬し、アルゴンを20mL/minの流速で上記三つ口フラスコ内にフローしながらオイル温度200℃まで加熱して、金属錯体(A)の熱分解を行った。その際、オイル温度50℃から80℃までは昇温速度を5℃/min、オイル温度80℃から200℃までは昇温速度を0.5℃/minとした。また、オイル温度が100℃に到達した時点で10min、150℃に到達した時点で20min保持した。
上記金属錯体(A)を熱分解することで生成したガス(A)を、-10℃に冷却した重水素化クロロホルム(CDCl)20mLを入れたトラップに捕集し、回収した。
【0087】
生成したガス(A)について、重量測定を行い、19F-NMR測定(376MHz,CDCl、内部標準物質としてトリフルオロトルエンを添加)で評価した。得られたスペクトルデータを以下に示す。
【0088】
19F-NMR(δppm):-96.0(m,2F,CF)、-110.0(m,2F,CF)、-183.3(m,2F,CF)
【0089】
上記スペクトルデータから、生成したガス(A)は、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン(C)であることが確認された。
また、生成したガス(A)の重量から、得られたヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン(α,ω-パーフルオロアルカジエン)の収率を求めた。結果を表1に示す。
【0090】
(実施例2)
<金属錯体の合成>
有機フッ素化合物として、1,4-ジヨードオクタフルオロブタンに替えて、1,6-ジヨードドデカフルオロヘキサン(C12)15.0g使用した以外は、実施例1と同様にして金属錯体の合成を行ったところ、反応溶液中に結晶(B)が析出した。
そこで、反応溶液をナスフラスコに移し、エバポレーターを用いて、1kPaの減圧下、温度40℃で1時間、反応溶液を乾燥して、溶媒を除去した。そして、減圧状態でエバポレーターからナスフラスコを取り出し、当該ナスフラスコをアルゴン雰囲気下のグローブボックスに入れ、大気圧に戻した。ナスフラスコをグローブボックスの減圧可能なパスボックスに移し、0.13kPaの減圧下、25℃で16時間の減圧乾燥を行い、結晶(B)を得た。
得られた結晶(B)について、実施例1と同様にして重量測定を行い、19F-NMR測定で評価した。得られたスペクトルデータを以下に示す。
【0091】
19F-NMR(δppm):-124.8(s,8F,CF)、-125.1(s,8F,CF)、-127.2(s,8F,CF
【0092】
上記スペクトルデータから、結晶(B)は、下記式(B)で表される金属錯体(B)であることが確認された。なお、式(B)中、「THF」はテトラヒドロフランを表す。
また、結晶(B)の重量から、得られた金属錯体(B)の収率を求めた。結果を表1に示す。
【0093】
【化8】
【0094】
<金属錯体の熱分解>
上記のようにして得られた金属錯体(B)を用いて、実施例1と同様にして熱分解を行った。そして生成したガス(B)について、実施例1と同様にして重量測定を行い、19F-NMR測定で評価した。得られたスペクトルデータを以下に示す。
【0095】
19F-NMR(δppm):-90.6(m,2F,CF)、-108.0(m,2F,CF)、-122.3(m,2F,CF)、-191.8(m,2F,CF)
【0096】
上記スペクトルデータから、生成したガス(B)は、デカフルオロ-1,5-ヘキサジエン(C10)であることが確認された。
また、生成したガス(B)の重量から、得られたデカフルオロ1,5-ヘキサジエン(α,ω-パーフルオロアルカジエン)の収率を求めた。結果を表1に示す。
【0097】
(実施例3)
<金属錯体の合成>
有機フッ素化合物として、1,4-ジヨードオクタフルオロブタンに替えて、1,8-ジヨードヘキサデカフルオロオクタン(C16)15.0g使用した以外は、実施例1と同様にして金属錯体の合成を行ったところ、反応溶液中に結晶(C)が析出した。
そこで、反応溶液をナスフラスコに移し、エバポレーターを用いて、1kPaの減圧下、温度40℃で1時間、反応溶液を乾燥して、溶媒を除去した。そして、減圧状態でエバポレーターからナスフラスコを取り出し、当該ナスフラスコをアルゴン雰囲気下のグローブボックスに入れ、大気圧に戻した。ナスフラスコをグローブボックスの減圧可能なパスボックスに移し、0.13kPaの減圧下、25℃で16時間の減圧乾燥を行い、結晶(C)を得た。
得られた結晶(C)について、実施例1と同様にして重量測定を行い、19F-NMR測定で評価した。得られたスペクトルデータを以下に示す。
【0098】
19F-NMR(δppm):-124.7(s,16F,CF)、-125.0(s,8F,CF)、-127.7(s,8F,CF
【0099】
上記スペクトルデータから、結晶(C)は、下記式(C)で表される金属錯体(C)であることが確認された。なお、式(C)中、「THF」はテトラヒドロフランを表す。
また、結晶(C)の重量から、得られた金属錯体(C)の収率を求めた。結果を表1に示す。
【0100】
【化9】
【0101】
<金属錯体の熱分解>
上記のようにして得られた金属錯体(C)を用いて、実施例1と同様にして熱分解を行った。そして生成したガス(C)について、実施例1と同様にして重量測定を行い、19F-NMR測定で評価した。得られたスペクトルデータを以下に示す。
【0102】
19F-NMR(δppm):-90.1(m,2F,CF)、-107.2(m,2F,CF)、-120.9(m,4F,CF)、-126.8(s,4F,CF)、-191.3(m,2F,CF)
【0103】
上記スペクトルデータから、生成したガス(C)は、テトラデカフルオロ-1,7-オクタジエン(C14)であることが確認された。
また、生成したガス(C)の重量から、得られたテトラデカフルオロ-1,7-オクタジエン(α,ω-パーフルオロアルカジエン)の収率を求めた。結果を表1に示す。
【0104】
(実施例4)
<金属錯体の合成>
配位子として、テトラヒドロフランに替えて、アセトニトリル(CHCN)を使用した以外は、実施例1と同様にして金属錯体の合成を行ったところ、反応溶液中に結晶は析出せず、反応溶液をナスフラスコに移し、エバポレーターを用いて、1kPaの減圧下、温度40℃で1時間、反応溶液を乾燥して、溶媒を除去したところ油状物が生じた。
そこで、真空ポンプを用いて、0.13kPaの真空下、温度25℃で16時間、油状物を減圧乾燥して、結晶(D)を得た。
得られた結晶(D)について、実施例1と同様にして重量測定を行い、19F-NMR測定で評価した。得られたスペクトルデータを以下に示す。
【0105】
19F-NMR(δppm):-126.7(s,8F,CF)、-127.1(s,8F,CF
【0106】
上記スペクトルデータから、結晶(D)は、下記式(D)で表される金属錯体(D)であることが確認された。なお、式(D)中、「MeCN」はアセトニトリルを表す。
また、結晶(D)の重量から、得られた金属錯体(D)の収率を求めた。結果を表1に示す。
【0107】
【化10】
【0108】
<金属錯体の熱分解>
上記のようにして得られた金属錯体(D)を用いて、実施例1と同様にして熱分解を行った。そして生成したガス(D)について、実施例1と同様にして重量測定を行い、19F-NMR測定で評価した。得られたスペクトルデータを以下に示す。
【0109】
19F-NMR(δppm):-96.0(m,2F,CF)、-110.0(m,2F,CF)、-183.3(m,2F,CF)
【0110】
上記スペクトルデータから、生成したガス(D)は、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン(C)であることが確認された。
また、生成したガス(D)の重量から、得られたヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン(α,ω-パーフルオロアルカジエン)の収率を求めた。結果を表1に示す。
【0111】
(実施例5)
配位子として、テトラヒドロフランに替えて、1,4-ジオキサンを使用した以外は、実施例1と同様にして金属錯体の合成を行ったところ、反応溶液中に結晶(E)が析出した。
そこで、反応溶液をナスフラスコに移し、エバポレーターを用いて、1kPaの減圧下、温度40℃で1時間、反応溶液を乾燥して、溶媒を除去した。そして減圧状態でエバポレーターからナスフラスコを取り出し、当該ナスフラスコをアルゴン雰囲気下のグローブボックスに入れ、大気圧に戻した。ナスフラスコをグローブボックスの減圧可能なパスボックスに移し、0.13kPaの減圧下、25℃で16時間の減圧乾燥を行い、結晶(E)を得た。
得られた結晶(E)について、実施例1と同様にして重量測定を行い、19F-NMR測定で評価した。得られたスペクトルデータを以下に示す。
【0112】
19F-NMR(δppm):-126.7(s,8F,CF)、-127.1(s,8F,CF
【0113】
上記スペクトルデータから、結晶(E)は、下記式(E)で表される金属錯体(E)であることが確認された。
また、結晶(E)の重量から、得られた金属錯体(E)の収率を求めた。結果を表1に示す。
【0114】
【化11】
【0115】
<金属錯体の熱分解>
上記のようにして得られた金属錯体(E)を用いて、実施例1と同様にして熱分解を行った。そして生成したガス(E)について、実施例1と同様にして重量測定を行い、19F-NMR測定で評価した。得られたスペクトルデータを以下に示す。
【0116】
19F-NMR(δppm):-96.0(m,2F,CF)、-110.0(m,2F,CF)、-183.3(m,2F,CF)
【0117】
上記スペクトルデータから、生成したガス(E)は、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン(C)であることが確認された。
また、生成したガス(E)の重量から、得られたヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン(α,ω-パーフルオロアルカジエン)の収率を求めた。結果を表1に示す。
【0118】
(実施例6)
<金属錯体の合成>
配位子として、テトラヒドロフランに替えて、1,2-ジメトキシエタンを使用した以外は、実施例1と同様にして金属錯体の合成を行ったところ、反応溶液中に結晶(E)が析出した。
そこで、1kPaの減圧下、温度40℃で1時間、反応溶液を乾燥して、溶媒を除去した。そして減圧状態でエバポレーターからナスフラスコを取り出し、当該ナスフラスコをアルゴン雰囲気下のグローブボックスに入れ、大気圧に戻した。ナスフラスコをグローブボックスの減圧可能なパスボックスに移し、0.13kPaの減圧下、25℃で16時間の減圧乾燥を行い、結晶(F)を得た。
得られた結晶(F)について、実施例1と同様にして重量測定を行い、19F-NMR測定で評価した。得られたスペクトルデータを以下に示す。
【0119】
19F-NMR(δppm):-126.7(s,8F,CF)、-127.1(s,8F,CF
【0120】
上記スペクトルデータから、結晶(F)は、下記式(F)で表される金属錯体(F)であることが確認された。
また、結晶(F)の重量から、得られた金属錯体(F)の収率を求めた。結果を表1に示す。
【0121】
【化12】
【0122】
<金属錯体の熱分解>
上記のようにして得られた金属錯体(F)を用いて、実施例1と同様にして熱分解を行った。そして生成したガス(F)について、実施例1と同様にして重量測定を行い、19F-NMR測定で評価した。得られたスペクトルデータを以下に示す。
【0123】
19F-NMR(δppm):-96.0(m,2F,CF)、-110.0(m,2F,CF)、-183.3(m,2F,CF)
【0124】
上記スペクトルデータから、生成したガス(F)は、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン(C)であることが確認された。
また、生成したガス(F)の重量から、得られたヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン(α,ω-パーフルオロアルカジエン)の収率を求めた。結果を表1に示す。
【0125】
(実施例7)
<金属錯体の合成>
有機フッ素化合物として、1,4-ジヨードオクタフルオロブタンに替えて、1,6-ジヨードドデカフルオロヘキサン(C12)15.0gを使用した以外は、実施例6と同様にして金属錯体の合成を行ったところ、反応溶液中に結晶(G)が析出した。
そこで、1kPaの減圧下、温度40℃で1時間、反応溶液を乾燥して、溶媒を除去した。そして減圧状態でエバポレーターからナスフラスコを取り出し、当該ナスフラスコをアルゴン雰囲気下のグローブボックスに入れ、大気圧に戻した。ナスフラスコをグローブボックスの減圧可能なパスボックスに移し、0.13kPaの減圧下、25℃で16時間の減圧乾燥を行い、結晶(G)を得た。
得られた結晶(G)について、実施例1と同様にして重量測定を行い、19F-NMR測定で評価した。得られたスペクトルデータを以下に示す。
【0126】
19F-NMR(δppm):-124.8(s,8F,CF)、-125.2(s,8F,CF)、-127.2(s,8F,CF
【0127】
上記スペクトルデータから、結晶(G)は、下記式(G)で表される金属錯体(G)であることが確認された。
また、結晶(G)の重量から、得られた金属錯体(G)の収率を求めた。結果を表1に示す。
【0128】
【化13】
【0129】
<金属錯体の熱分解>
上記のようにして得られた金属錯体(G)を用いて、実施例1と同様にして熱分解を行った。そして生成したガス(G)について、実施例1と同様にして重量測定を行い、19F-NMR測定で評価した。得られたスペクトルデータを以下に示す。
【0130】
19F-NMR(δppm):-90.6(m,2F,CF)、-108.0(m,2F,CF)、-122.3(m,2F,CF)、-191.8(m,2F,CF)
【0131】
上記スペクトルデータから、生成したガス(G)は、デカフルオロ-1,5-ヘキサジエン(C10)であることが確認された。
また、生成したガス(G)の重量から、得られたデカフルオロ-1,5-ヘキサジエン(α,ω-パーフルオロアルカジエン)の収率を求めた。結果を表1に示す。
【0132】
【表1】
【0133】
なお、表1中、「THF」はテトラヒドロフラン、「CHCN」はアセトニトリルを示す。
【0134】
表1に示す結果から、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンおよび1,2-ジメトキシエタンのいずれかを配位子とし、且つ、亜鉛を中心金属とする金属錯体を熱分解することで、ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン、デカフルオロ-1,5-ヘキサジエン、テトラデカフルオロ-1,7-オクタジエンのいずれかが得られることが分かる。
また、配位子が含酸素有機化合物であるテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、または1,2-ジメトキシエタンのいずれかである場合(実施例1~3および5~7)には、反応溶液中に金属錯体が結晶析出した。これに対して、配位子が含酸素有機化合物でないアセトニトリルの場合(実施例4)には、反応溶液中に金属錯体は結晶析出せず、金属錯体を得るための減圧乾燥操作において、結晶が析出した。この結果から、含酸素有機化合物を配位子とすることで、金属錯体をより効率的に得ることができ、結果として、α,ω-パーフルオロアルカジエンをより効率的に製造できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明によれば、α,ω-パーフルオロアルカジエンを、低コスト且つ効率的に製造することができる。