IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ハウス食品株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】低糖質食品組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 23/00 20160101AFI20221102BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20221102BHJP
【FI】
A23L23/00
A23L5/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017225785
(22)【出願日】2017-11-24
(65)【公開番号】P2019092453
(43)【公開日】2019-06-20
【審査請求日】2020-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】畑中 健吾
(72)【発明者】
【氏名】黒部 涼子
(72)【発明者】
【氏名】森下 泰
【審査官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】特許第5924681(JP,B2)
【文献】特許第4083779(JP,B2)
【文献】特開2013-009671(JP,A)
【文献】Amazon | 低糖質 ビーフカレー4食パック 糖質オフ 糖質制限 低糖 低糖質 糖質 食品 糖質カット 健康食品 健康 低糖工房 糖質制限におすすめ! 100gあたり糖質2.3g ビーフカレー| 低糖工房 | カレー 通販[online],2013年07月18日,[検索日:2021年12月9日],https://www.amazon.co.jp/%E4%BD%8E%E7%B3%96%E5%B7%A5%E6%88%BF-%E4%BD%8E%E7%B3%96%E8%B3%AA%E3%83%93%E3%83%BC%E3%83%95%E3%82%AB%E3%83%AC%E3%83%BC-4%E8%A2%8B-%E3%80%90%E7%B3%96%E8%B3%AA%,(オンライン情報の続き)E5%88%B6%E9%99%90%E4%B8%AD%E3%83%BB%E3%83%80%E3%82%A4%E3%82%A8%E3%83%83%E3%83%88%E4%B8%AD%E3%81%AE%E6%96%B9%E3%81%AB%EF%BC%81%E3%80%91/dp/B00E061N06
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類により表面を成膜化した固形食品と、増粘剤を含む液状食品とを含む、食品組成物であって、高甘味度甘味料をさらに含み、前記食品組成物の糖質量(総糖質量)が、5g/100g以下であり、
前記多糖類が、澱粉及び/又は化工澱粉を含む、食品組成物。
【請求項2】
前記多糖類により表面を成膜化した固形食品が、アルカリ処理したものである、請求項1記載の食品組成物。
【請求項3】
砂糖の含有量が1質量%以下である、請求項1又は2に記載の食品組成物。
【請求項4】
固形食品と液状食品とを含む食品組成物の製造方法であって、
多糖類により固形食品の表面を成膜化処理する工程、及び、
該成膜化処理した固形食品と、増粘剤を含む液状食品とを混合する工程
を含み、
高甘味度甘味料を添加する工程をさらに含み、
前記食品組成物の糖質量(総糖質量)が、5g/100g以下であり、
前記多糖類が、澱粉及び/又は化工澱粉を含む、食品組成物の製造方法。
【請求項5】
前記成膜化処理と同時又は連続的に、前記固形食品をアルカリ処理する工程をさらに含む、請求項4に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形食品と増粘剤を含む液状食品とを含む低糖質食品組成物に関するものであり、固形食品及び液状食品の風味を害さずに、従来達成することのできなかった程度にまで糖質量(総糖質量)を低減することを可能にするものである。
【背景技術】
【0002】
健康への配慮等から、低糖質食品が求められているが、糖質は、糖類の他、バター、小麦粉、牛乳、香辛料、調味料、果汁、果肉等の様々な食品に含まれている。特に、カレーソースやシチューソース等には、ソースに粘度を付与するための小麦粉ルウが含まれており、糖質量の多い野菜(例えばジャガイモ)等の具材も含まれているので、食品全体の糖質量を低減することは困難であり、糖質量を十分に低減した低糖質食品は実現されていなかった。
【0003】
特許文献1には、調理処理を施した油脂を含む原料と、小麦粉と、高甘味度甘味料とを含有し、かつ、砂糖を含まない液状食品を主体として含む低カロリー食品であって、脂質の含有量が3質量%以下であり、小麦粉の含有量が0.5~3質量%である、低カロリー食品が記載されている。しかしながら、特許文献1は、糖質量を十分に低減した低糖質食品に関するものではない。
【0004】
特許文献2には、(a)生の固形食品の表面にアルカリ性物質と未膨潤の澱粉を接触させ、(b)加熱処理して、食品の蛋白質が熱変性し、かつ澱粉が糊化粘性化して、食品の表層部分に、澱粉を糊化し粘性化させて付着することにより成膜化処理し、(c)特定の条件で密閉状態で加熱処理する、加工固形食品の製造方法が記載されている。しかしながら、特許文献2は、低糖質食品とは関係のないものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5924681号公報
【文献】特許第4083779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
固形食品と増粘剤を含む液状食品とを含む食品組成物においては、固形食品として糖質量の少ない原料を使用したり、液状食品に砂糖を使用せず高甘味度甘味料を使用したりすることで、全体の糖質量(総糖質量)を低減することが試みられた。
しかしながら、本発明者らは、前記食品組成物に、高甘味度甘味料や、小麦粉に代えて糖質を含まない化工澱粉等を用いる場合には、風味が淡白になって、風味低下を招きやすいことに加えて、固形食品と液状食品の風味が相互に害される、という新たな課題を見出した。原因は不明であるが、前記食品組成物の保管中、あるいは、加熱殺菌処理時とその後の保管中に、特有の味を有する高甘味度甘味料等の成分が、前記固形食品と前記液状食品との間で相互に移動して味移りすること、また、前記固形食品と前記液状食品の相互間での水分移動等によって、当該固形食品と当該液状食品の風味が互いに損なわれるためであると考えられる。そこで、本発明は、固形食品と増粘剤を含む液状食品とを含む食品組成物について、当該固形食品及び当該液状食品の風味を害さずに、従来達成することのできなかった程度にまで糖質量(総糖質量)を低減することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、多糖類により表面を成膜化した固形食品を用いることによって、前記の固形食品及び液状食品相互の風味低下が効果的に抑制されることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下に示す食品組成物を提供するものである。
〔1〕多糖類により表面を成膜化した固形食品と、増粘剤を含む液状食品とを含む、食品組成物であって、前記食品組成物の糖質量(総糖質量)が、5g/100g以下であることを特徴とする、食品組成物。
〔2〕前記固形食品の糖質量が、4g/100g以下である、前記〔1〕に記載の食品組成物。
〔3〕前記固形食品が、肉類、野菜、豆類、果実、及び乳製品からなる群から選択される1種以上である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の食品組成物。
〔4〕前記多糖類が、澱粉、化工澱粉、カラギナン、寒天、アルギン酸及びその塩、ガム、プルラン、並びにカードランからなる群から選択される1種以上である、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の食品組成物。
〔5〕前記多糖類により表面を成膜化した固形食品が、アルカリ処理したものである、前記〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の食品組成物。
〔6〕前記液状食品が、ソース又はスープである、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の食品組成物。
〔7〕前記増粘剤が、化工澱粉、食物繊維、カラギナン、ゼラチン、及びガムからなる群から選択される1種以上である、前記〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の食品組成物。
〔8〕表面が成膜化処理されていない固形食品をさらに含む、前記〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の食品組成物。
〔9〕砂糖の含有量が1質量%以下である、前記〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載の食品組成物。
〔10〕高甘味度甘味料をさらに含む、前記〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載の食品組成物。
〔11〕前記液状食品の糖質量が、総糖質量の40%以上を占める、前記〔1〕~〔10〕のいずれか1項に記載の食品組成物。
〔12〕容器に充填・密封され、及び/又は、加熱殺菌処理されている、前記〔1〕~〔11〕のいずれか1項に記載の食品組成物。
〔13〕固形食品と液状食品とを含む食品組成物の製造方法であって、
多糖類により固形食品の表面を成膜化処理する工程、及び、
該成膜化処理した固形食品と、増粘剤を含む液状食品とを混合する工程
を含み、
前記食品組成物の糖質量(総糖質量)が、5g/100g以下であることを特徴とする、食品組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明に従えば、表面を成膜化した固形食品を含むことで、前記の固形食品及び液状食品相互の風味低下を効果的に抑制することができる。したがって、前記液状食品の風味を損なうことなく食品組成物全体として糖質量を低減することができ、かつ前記固形食品の風味に及ぼす前記液状食品中の成分の影響を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の食品組成物は、多糖類により表面を成膜化した固形食品と、増粘剤を含む液状食品とを含むものであり、当該食品組成物の糖質量(総糖質量)は、5g/100g以下、好ましくは3.5g/100g以下である。すなわち、本発明の食品組成物は、通常の食品組成物と比較して糖質の量が少ない又は糖質を含まないものなので、低糖質食品組成物に該当する。本発明の食品組成物においては、前記総糖質量の約40%以上が前記液状食品の糖質量に由来してもよい。本明細書に記載の「糖質量」は、前記食品組成物を製造する際に使用される原料中の糖質量に基づいて計算される。前記原料中の糖質量は、例えば、炭水化物の総量から酵素重量法(プロスキー法)によって測定した食物繊維を引き算することによって求めることができる。すなわち、糖質量は食品に関する「栄養表示基準」(厚生労働省告示第176号、平成15年4月24日)に従って算出することができる。
【0010】
本明細書に記載の「固形食品」とは、固体の食品のことをいい、本明細書に記載の固形食品の「表面」とは、当該固形食品の外部及び内部空間の表層部分のことをいう。前記固形食品としては、当技術分野で通常採用される食品を特に制限されることなく使用することができるが、例えば、畜肉類及び魚介類等の肉類、野菜、豆類、果実、並びに、チーズ等の乳製品からなる群から選択される1種以上であってもよく、好ましくは牛肉、豚肉、鶏肉及び羊肉等の畜肉類、又は、魚類、エビ類、イカ類及び貝類等の魚介類である。前記畜肉類及び前記魚介類は、後述する成膜化処理の際に表面に多糖類が接触した状態で加熱されることで、その接触部位の組織が熱変性して、前記多糖類の付着及び成膜化を促進する性質を有するものである。また、前記固形食品として、成膜化処理の際には、生の食品(タンパク質が熱変性していない食品)、一部熱を加えた食品、冷凍されていた食品、及び半解凍された食品のいずれを採用してもよいが、生の食品(タンパク質が熱変性していない食品)が好ましい。
【0011】
前記表面を成膜化した固形食品は、多糖類により表面が成膜化処理された固形食品であり、当該多糖類の被膜を有し得る。本明細書に記載の「多糖類」とは、数個以上の単糖分子が脱水縮合した構造を有する物質のことをいい、これは同一種類の単糖から構成される単純多糖であってもいいし、異種の単糖から構成される複合多糖であってもよい。前記多糖類は、水と共に加熱することで膨潤して保水性が向上し、被膜を形成する。前記多糖類は、前記固形食品の表面に被膜を形成できる限り特に限定されないが、例えば、澱粉、化工澱粉、カラギナン、寒天、アルギン酸及びその塩、ガム、プルラン、並びにカードランからなる群から選択される1種以上であってもよく、これらの多糖類を成分として含む原料を、前記多糖類として適宜使用してもよい。前記多糖類として使用されるガムは、例えば、キサンタンガム、ジェランガム、グアーガム、タマリンドシードガム、又はローカストビーンガム等であってもよい。前記多糖類は、好ましくは澱粉であり、特に好ましくは糊化温度が約45~約100℃又は約80~約100℃の澱粉である。前記多糖類として澱粉を使用すると、より良好に被膜が形成され、当該被膜による固形食品及び液状食品相互の風味低下を抑制しやすくなる。前記多糖類の使用量は、前記固形食品の表面に被膜を形成できる限り特に限定されないが、例えば、前記固形食品の質量に対して、乾燥質量で0.2~20質量%であってもよく、好ましくは0.5~10質量%である。
【0012】
また、本発明の食品組成物は、アルカリ処理した前記固形食品を含むことができる。すなわち、前記固形食品にアルカリ処理を施して、当該固形食品をしっとりと柔らかくしてもよい。本明細書に記載の「アルカリ処理」とは、アルカリ性物質を前記固形食品の少なくとも一部に反応させることをいう。前記アルカリ性物質としては、水に溶解した際にアルカリ性を示す物質であれば、当技術分野で通常使用されているものを特に制限されることなく使用することができるが、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩を使用してもよい。前記アルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の水酸化物、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウム等の炭酸塩、炭酸水素ナトリウム(重曹)、炭酸水素カリウム、炭酸水素マグネシウム、及び炭酸水素カルシウム等の炭酸水素塩、酢酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸水素ナトリウム、リンゴ酸二ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、及び乳酸カルシウム等の有機酸塩、又は、リン酸ナトリウム及びリン酸カリウム等のリン酸塩等であってもよく、好ましくは、炭酸塩、炭酸水素塩(特に重曹)、又は有機酸塩(特にクエン酸三ナトリウム)である。このようなアルカリ性物質を採用することにより、前記固形食品の食感をより好適に保持するこができる。前記アルカリ性物質の添加量は、特に制限されないが、例えば、前記固形食品に適用したときの表面のpHが6.0~13.0、好ましくは6.5~9.0になるように設定してもよく、具体的には、前記アルカリ性物質を前記固形食品に対して、乾燥質量で約0.1~約10質量%、好ましくは約0.3~約5質量%使用してもよい。このような添加量を採用することにより、前記固形食品の風味及び/又は歩留りをさらに向上することができる。
【0013】
前記成膜化処理及び前記アルカリ処理は、前記固形食品に対して同時又は連続的に実施し得るものであるが、両処理を同時に行うのが好ましい。前記アルカリ性物質の存在下で成膜化処理を行うと、成膜化処理及びアルカリ処理を同時に行えるだけでなく、成膜化の効率を高めることができる。成膜化処理においては、まず、前記固形食品の表面に、未膨潤状態の前記多糖類、又は当該多糖類及び前記アルカリ性物質を接触させる。この接触方法としては、当技術分野で通常使用されている方法を特に制限されることなく使用することができるが、例えば、タンブラー法、インジェクション法、浸漬法、又は粉体付着法等によって、各物質を前記固形食品の表面に接触させてもよい。本発明の食品組成物を製造するためには必須ではないが、この接触工程において、前記固形食品を一定時間保持してもよく、例えば、前記多糖類、又は当該多糖類及び前記アルカリ性物質を含む溶液に、前記固形食品を0~30℃で5分以上、好ましくは15分以上浸漬してもよい。このようにすることで、各物質の浸透効率を高めることができる。また、前記多糖類及び/又は前記アルカリ性物質としては、乾燥粉末状態のものを前記固形食品に接触してもよく、任意の溶媒に懸濁又は溶解したものを接触してもよい。次に、前記多糖類又は当該多糖類及び前記アルカリ性物質を接触させた前記固形食品を熱処理する。この熱処理工程において、前記固形食品の表面組織が収縮し、この部分に粘性化した前記多糖類が付着して、被膜が形成され得る。前記熱処理は、前記多糖類が粘性化する(例えば前記多糖類が澱粉であれば、それが糊化する)温度以上の雰囲気又は溶媒中で実施され得て、例えば、前記固形食品を、約50℃以上、好ましくは約80~約250℃の熱風、蒸気、熱湯、又は熱油等にさらすことにより前記熱処理を行ってもよく、任意で、調味料存在下で当該熱処理を行ってもよい。
【0014】
本明細書に記載の「液状食品」とは、液体の状態にある食品のことをいい、当技術分野で通常採用される食品を特に制限されることなく使用することができる。前記液状食品は、例えば、ソース又はスープ等であってもよい。
【0015】
本発明においては、前記液状食品は、増粘剤を含む。本明細書に記載の「増粘剤」とは、水に溶解又は分散して粘性を生じる物質のことをいう。前記増粘剤としては、当技術分野で通常採用されるものを特に制限されることなく使用することができるが、例えば、化工澱粉、食物繊維、カラギナン、ゼラチン、及びガムからなる群から選択される1種以上を使用してもよい。前記食物繊維は、特に限定されないが、例えば、柑橘類の果実(レモン、ライム、オレンジ、若しくはグレープフルーツ等)若しくはリンゴ等に由来する食物繊維、又は、トウモロコシ若しくは小麦に由来する食物繊維であってもよく、具体的には、レモン・ライム由来の食物繊維であるヘルバセルAQプラスCF(大日本住友製薬株式会社製)又は難消化性デキストリン等であってもよい。前記増粘剤として使用されるガムは、例えば、キサンタンガム、ジェランガム、グアーガム、タマリンドシードガム、又はローカストビーンガム等(成膜化処理における多糖類として使用され得るガムと同じ物質)であってもよく、好ましくはキサンタンガムである。前記増粘剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、前記液状食品に対して、0.3~2質量%であってもよく、好ましくは0.6~1.2質量%である。前記多糖類と前記増粘剤とは、成分が一部重複するが、前者は前記成膜化機能を有するものとして前記固形食品に使用され、後者は前記粘性付与機能有するものとして前記液状食品に使用されるので、両者は明確に使い分けることができる。
【0016】
本発明の食品組成物は、砂糖の含有量が1質量%以下であってもよく、好ましくは製品の原材料欄に「砂糖」と表示される態様で砂糖を含まず、砂糖を含有しない。また、前記食品組成物は、砂糖以外の糖質甘味料、すなわちブドウ糖及び果糖等の単糖類、麦芽糖等の二糖類、オリゴ糖、又は糖アルコール等を含まない。前記食品組成物では、砂糖その他の糖質甘味料の使用量を低減することで、当該食品組成物全体の糖質量を低減することができる。
【0017】
本発明の食品組成物、特に前記液状食品は、高甘味度甘味料をさらに含んでもよい。本明細書に記載の「高甘味度甘味料」とは、砂糖に比べて甘味度が非常に高い非糖質甘味料のことをいう。前記高甘味度甘味料としては、当技術分野で通常採用されるものを特に制限されることなく使用することができるが、例えば、スクラロース、アセスルファムカリウム、ソーマチン、アスパルテーム、サッカリン、ステビア、ネオテーム、又はカンゾウ抽出物等を使用してもよく、好ましくはスクラロース又はアセスルファムカリウムである。これらの高甘味度甘味料は、単独で、又は2種以上を混合して使用してもよい。
前記高甘味度甘味料の含有量は、特に限定されず、前記食品組成物、又は液状食品に対して、食品の種類に応じて、適切な甘味が付与される量とすればよい。例えば、前記食品組成物、又は前記液状食品は、前記高甘味度甘味料を、蔗糖を0.5~25質量%、好ましくは2~10質量%含む場合の甘味の強さを示す量で含有することができる。上記の範囲で高甘味度甘味料を含むと、従来の食品組成物では、前記の固形食品及び液状食品相互の風味低下が起こりやすいのに対して、本発明の食品組成物では、固形食品及び液状食品相互の風味低下が抑制されることにより、糖質量を低減しつつ、当該食品組成物全体の甘味と風味を良好に維持することができる。なお、前記含有量の蔗糖の甘味の強さを示す高甘味度甘味料の含有量は、当該甘味料の甘味の強さを蔗糖の甘味の強さに対する比率で表したものとして定義される「比甘味度」(例えば、スクラロースの比甘味度は600となる)に基づいて求められる。
【0018】
本発明の食品組成物は、表面が成膜化処理されていない固形食品(具材)をさらに含んでもよい。前記具材としては、当技術分野で通常採用されるものを特に制限されることなく使用することができ、当該具材は、動物性のものであっても、植物性のものであってもよい。前記動物性の具材は、例えば、鶏肉、豚肉、牛肉、又はシーフード等であってもよく、前記植物性の具材は、例えば、ジャガイモ、人参、ゴボウ、及びダイコン等の根菜類、チェーチ及び枝豆等の豆類、レンコン及びアスパラ等の茎菜類、ホウレンソウ、ハクサイ、及びキャベツ等の葉菜類、ナス、トマト、及びオクラ等の果菜類、ブロッコリー及びカリフラワー等の花菜類、ワカメ、ヒジキ、及びコンブ等の藻類、シメジ、マッシュルーム、及びマイタケ等のきのこ類、パイナップル及びリンゴ等の果実類、又は、アーモンド及びゴマ等の種子類等であってもよい。これらの具材は、各具材について当技術分野で通常採用されている方法により調理すればよい。具材として、糖質を含まないか、または糖質が低濃度(0.5質量%以下)のものを使用することが望ましい。
【0019】
本発明の食品組成物は、当技術分野で通常使用される任意の原料をさらに含んでもよい。前記原料としては、特に限定されないが、例えば、食用油脂、小麦粉、食塩、砂糖、デキストリン、風味原料、コーンスターチ、酵母エキス、及び、その他調味料等を使用してもよい。
【0020】
本発明の食品組成物は、当技術分野で通常使用されている方法により、容器に充填・密封されていてもよい。前記容器は、特に限定されないが、例えば、レトルトパウチ又は成形容器であってもよい。
【0021】
本発明の食品組成物は、当技術分野で通常使用されている方法により、加熱殺菌処理されていてもよい。例えば、調製した食品組成物をレトルトパウチに充填・密封し、約120~約125℃で約20~約60分間加熱することにより加熱滅菌処理を行ってもよい。本発明により、加熱殺菌処理時及びその後の保管中における、前記の固形食品及び液状食品相互の風味低下が抑制される。
【0022】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0023】
〔実施例1〕
鶏肉1kgを一口大にカットして、澱粉30g及び重曹10gを加えて混合し、鶏肉の表面に澱粉及び重曹を均一に付着させた。これを沸騰水中に入れ、5分間ボイルした後、20℃の水中で冷却して、澱粉により表面を成膜化した鶏肉を調製した。そして、以下の表1に示す材料を使用して、常法により、固形食品67g及び液状食品103gを含むカレーソースを製造した。このカレーソースをレトルトパウチに充填・密封し、中心部が120℃で4分間以上になるように加熱殺菌処理を施して、糖質量が3.3g/100g(低糖質)のレトルトカレーソースを調製した。
【0024】
〔実施例2〕
固形食品の配合量を97g、そして液状食品の配合量を73gとした以外は、実施例1と同様にして、糖質量が3.3g/100g(低糖質)のレトルトカレーソースを製造した。
【0025】
〔比較例1〕
澱粉及び重曹を付着させずに、一口大にカットした鶏肉をそのまま沸騰水中に入れた以外は、実施例1と同様にして、糖質量が2.4g/100g(低糖質)のレトルトカレーソースを製造した。
【0026】
〔比較例2〕
澱粉及び重曹を付着させずに、一口大にカットした鶏肉をそのまま沸騰水中に入れた以外は、実施例2と同様にして、糖質量が1.9g/100g(低糖質)のレトルトカレーソースを製造した。
【0027】
【表1】
【0028】
〔試験例〕
実施例1及び2並びに比較例1及び2のレトルトカレーソースを6ヶ月保存した後、それぞれを温めて喫食した。実施例1及び2のカレーソースでは、製造直後と比較してソース部分の風味の変化及び粘度の変化のいずれも少なく、当該カレーソースは、カレーに適したバランスのよい甘味と風味を有していた。そして、当該カレーソース中の鶏肉は、鶏肉の素材本来の風味と、軟らかいジューシーな食感を有していた。一方、比較例1のレトルトカレーソースでは、ソース部分の甘味が低下し、粘度が低下していた。すなわち、比較例1のレトルトカレーソースは、実施例1のカレーソースに比べて風味が弱く、味がぼやけたメリハリのないものになっており、鶏肉は内部にカレーソースの味がしみ込んで、鶏肉本来の素材の風味が引き立っていない点で風味に劣り、食感が硬かった。比較例2のカレーソースでは、ソース部分の甘味及び粘度が、比較例1のカレーソースよりもさらに変化していて、ソース部分の甘味と風味が弱く、鶏肉の風味、食感が悪かった。
【0029】
〔実施例3〕
鶏肉の表面に澱粉のみを付着させて重曹を付着させなかった以外は、実施例1と同様にして、糖質量が3.3g/100g(低糖質)のレトルトカレーソースを製造した。これを6ヶ月保存した後に、温めて喫食した。
実施例3のレトルトカレーソースでは、実施例1のカレーソースに比べて鶏肉の食感が劣るものの、ソース部分及び鶏肉は、実施例1と同等の良好な甘味と風味を有していた。すなわち、ソース部分の風味・粘度の変化、及び鶏肉の風味の変化は、いずれも少なく抑えられていた。
【0030】
以上より、固形食品及び液状食品を含む食品組成物において、表面を多糖類により成膜化処理した固形食品を使用することによって、当該固形食品及び前記液状食品相互の風味低下が効果的に抑制されるので、前記固形食品及び前記液状食品の甘味と風味を維持し、前記食品組成物全体の風味を良好に保つことができることが分かった。