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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】切削方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20221102BHJP
   B24B 27/06 20060101ALI20221102BHJP
   B26F 3/00 20060101ALI20221102BHJP
   B23P 17/00 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
H01L21/78 F
B24B27/06 M
B26F3/00 S
B23P17/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017228868
(22)【出願日】2017-11-29
(65)【公開番号】P2019102514
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ウィリアム ガド
(72)【発明者】
【氏名】山本 直子
(72)【発明者】
【氏名】松本 幸子
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-181569(JP,A)
【文献】特開2008-130929(JP,A)
【文献】特開2016-157722(JP,A)
【文献】特開平02-092507(JP,A)
【文献】特開平01-310906(JP,A)
【文献】特開2001-345287(JP,A)
【文献】特開2016-198854(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B24B 27/06
B26F 3/00
B23P 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削予定ラインが設定され、該切削予定ラインに重なる延性材を有した被加工物を切削する切削方法であって、
回転する切削ブレードを少なくとも該延性材に達する深さに切り込ませて該切削予定ラインに沿って切削することにより該被加工物に切削溝を形成するとともに該切削溝の下に切り残し部を形成する切削溝形成ステップと、
該切削溝形成ステップの実施中、又は該切削溝形成ステップに次いで、バリ取り流体ノズルから該切削溝に沿って流体を噴射して該切削溝形成ステップで生成された該延性材のバリを除去するバリ除去ステップと、
該バリ除去ステップを実施した後、該切削ブレードを用いて該切削予定ラインに沿って該切り残し部を切削する切り残し部切削ステップと、
を備え
該バリ取り流体ノズルは、切削位置の加工進行方向後ろ側に配置され、該バリ除去ステップは、該切削溝形成ステップを実施中の切削予定ラインと同一の切削予定ラインに対して実施され、該バリ取り流体ノズルから該切削位置の加工進行方向後ろ側に向けて流体を斜めに噴射する
切削方法。
【請求項2】
前記切削溝形成ステップは、切削ブレードが被加工物の一端側から他端側に向かって切削する往路で実施され、
前記切り残し部切削ステップは、切削ブレードが被加工物の該他端側から該一端側へ向かって切削する復路で実施される、
請求項1に記載の切削方法。
【請求項3】
前記切削溝形成ステップは、第1のスピンドルに装着された第1の切削ブレードで実施され、
前記切り残し部切削ステップは、第2のスピンドルに装着された第2の切削ブレードで実施される、
請求項1に記載の切削方法。
【請求項4】
前記切削溝形成ステップでは、前記切り残し部の厚みを被加工物の厚みの10%とする請求項1に記載の切削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削予定ラインに重なる延性材を有する被加工物を切削する切削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
QFN(Quad Flat Non-leaded package)やCSP(Chip Size Package)のパッケージ基板等、切削予定ラインに重なる金属を有する被加工物を、回転する切削ブレードによって切削予定ラインに沿って切削すると、金属が延性を有するために、切削溝と被加工物の表面との境界に金属からなるバリが発生する。そして、バリが発生すると、端子間の短絡が発生したり、その後のハンドリング時にバリが落下する等して実装不良が発生したりしてしまう。
【0003】
そこで、これらの問題を解決すべく、切削ブレードによって被加工物を切削予定ラインに沿って切削した後に、いわゆるダウンカットによる切削予定ラインの切削時とは反対の方向に回転する切削ブレードによって、いわゆるアップカットにより切削溝をなぞることでバリを除去する方法(例えば特許文献1参照)や、切削溝の上端にバイトを当接させて切削してバリを除去する方法(例えば特許文献2参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001一077055号公報
【文献】特開2016一016501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1記載の方法のように切削時とは反対の方向に回転する切削ブレードによって切削溝をなぞっても、バリは折れ曲がるだけであり、バリを完全に除去することは難しい。また、特許文献2記載の方法では、被加工物の表面よりも外側に発生したバリしか除去できず、切削溝内のバリを除去することはできない。
【0006】
本発明は、このような問題にかんがみなされたもので、従来よりも容易に且つより確実にバリを除去できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、切削予定ラインが設定され、該切削予定ラインに重なる延性材を有した被加工物を切削する切削方法であって、回転する切削ブレードを少なくとも該延性材に達する深さに切り込ませて該切削予定ラインに沿って切削することにより該被加工物に切削溝を形成するとともに該切削溝の下に切り残し部を形成する切削溝形成ステップと、該切削溝形成ステップの実施中、又は該切削溝形成ステップに次いで、バリ取り流体ノズルから該切削溝に沿って流体を噴射して該切削溝形成ステップで生成された該延性材のバリを除去するバリ除去ステップと、該バリ除去ステップを実施した後、切削ブレードを用いて該切削予定ラインに沿って該切り残し部を切削する切り残し部切削ステップと、を備え、該バリ取り流体ノズルは、切削位置の加工進行方向後ろ側に配置され、該バリ除去ステップは、該切削溝形成ステップを実施中の切削予定ラインと同一の切削予定ラインに対して実施され、該バリ取り流体ノズルから該切削位置の加工進行方向後ろ側に向けて流体を斜めに噴射する
この切削方法において、前記切削溝形成ステップは、切削ブレードが被加工物の一端側から他端側に向かって切削する往路で実施され、前記切り残し部切削ステップは、切削ブレードが被加工物の該他端側から該一端側へ向かって切削する復路で実施されることが望ましい。
また、前記切削溝形成ステップは、第1のスピンドルに装着された第1の切削ブレードで実施され、前記切り残し部切削ステップは、第2のスピンドルに装着された第2の切削ブレードで実施されることが望ましい。
前記切削溝形成ステップでは、前記切り残し部の厚みを被加工物の厚みの10%とすることが望ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る切削方法は、回転する切削ブレードを延性材に達する深さに切り込ませて被加工物を切削予定ラインに沿って切削することにより、被加工物に切削溝を形成するとともに切削溝の下に切り残し部を形成する切削溝形成ステップと、切削溝形成ステップの実施中、又は切削溝形成ステップに次いで、切削溝に沿って流体を噴射して切削溝形成ステップで生成された延性材のバリを除去するバリ除去ステップと、を備えることで、被加工物を切削することにより発生した延性材のバリを、従来よりも容易にかつより確実に除去することができる。また、切削溝の下に切り残し部が形成されていることにより、切削溝に沿って流体を噴射してバリを除去する際、チップ飛びや被加工物の裏面に貼着されたテープの切断を防止できるため、流体の噴射力を高めてバリ除去の性能を向上させることができる。さらに、流体噴射口のサイズを大きくできるため、流体噴射ノズルの位置調整も容易となる。また、切削溝形成ステップの実施中にバリ除去ステップを実施することにより、生産性を向上させることができる。
切削溝形成ステップが、切削ブレードが被加工物の一端側から他端側に向かって切削する往路で実施され、切り残し部切削ステップが切削ブレードが被加工物の他端側から一端側へ向かって切削する復路で実施されるようにすると、1回の往復で切削溝形成ステップと切り残し部切削ステップとを実施することができ、生産性を向上させることができる。
切削溝形成ステップが第1のスピンドルに装着された第1の切削ブレードで実施され、切り残し部切削ステップが第2のスピンドルに装着された第2の切削ブレードで実施されると、少なくとも切削溝形成ステップと切り残し部切削ステップとを並行して実施することができるため、生産性を向上させることができる。また、この場合において切削溝形成ステップの実施中にバリ除去ステップを実施すると、切削溝形成ステップとバリ除去ステップと切り残し部切削ステップとを並行して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1(a)は被加工物を示す平面図である。図1(b)は被加工物を示す底面図である。
図2】第1の実施形態の切削装置の構成を示す斜視図である。
図3】切削手段の構成を例示する正面図である。
図4】切削ブレードが被加工物の一端側に切り込んだ状態を示す正面図である。
図5図5(a)は切削溝にバリが形成された状態を示す断面図である。図5(b)は切削溝に流体を吹き付けている状態を示す断面図である。図5(c)はバリが除去された状態を示す断面図である。
図6】被加工物の一端側から切り込んだ切削ブレードが被加工物の他端側まで切削した状態を示す正面図である。
図7】被加工物の切り残し部を切削した状態を示す断面図である。
図8】切削手段の別の構成を例示する側面図である。
図9】第2の実施形態の切削装置の構成を示す斜視図である。
図10】バリ取り流体ノズルを切削溝の幅方向に移動させつつ切削溝に流体を吹き付けている状態を示す断面図である。
図11】切削ブレードにより形成された切削溝に噴射された流体の噴射スポットが切削溝を横断して移動する状態を示す平面図である。
図12】第1の切削ブレードと第2の切削ブレードとで同時に切削を実施している状態を示す平面図である。
図13】バリ取り流体ノズルを切削溝の幅方向に揺動させつつ切削溝に流体を吹き付けている状態を示す断面図である。
図14】第1の切削ブレードにより形成された切削溝に噴射された流体の噴射スポットが円軌道を描いて切削溝を横断する状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1 第1の実施形態(往復カット加工)
(1-1)被加工物及び装置構成
図1(a)及び図1(b)に示す被加工物Wは、本発明の対象となるCSP(Chip Size Package)基板などのパッケージ基板である。図1(a)に示すように、被加工物Wの表面Waには格子状の切削予定ラインLが設定され、切削予定ラインLによって区画された各デバイス領域Dにデバイスチップが埋設されている。被加工物Wの内部には、切削予定ラインLに重なる延性材Mが設けられており、表面Waに露出している。図1(b)に示すように、被加工物Wの裏面Wbには、デバイスチップを封止する樹脂封止部Rが設けられている。このように切削予定ラインLに重ねて延性材Mを有する被加工物Wは、図2に例示する切削装置1を用いて切削予定ラインLに沿って切削することにより個々のデバイスパッケージに分割される。本発明はパッケージ基板に限らず、切削予定ライン上にTEG(Test Element Group)が設けられたシリコンウェーハや樹脂膜付きウェーハなどの円板状の被加工物にも好適である。
【0011】
図2に示す切削装置1は、保持手段10に保持された被加工物を切削手段20によって切削加工する装置である。切削装置1は、静止基台2を有する。静止基台2上には、保持手段10を加工送り方向(X軸方向)に移動させるX軸方向移動手段30と、切削手段20をX軸方向に対して直交する割り出し送り方向(Y軸方向)に移動させるY軸方向移動手段40と、切削手段20をZ軸方向に移動させるZ軸方向移動手段50と、が設けられている。
【0012】
保持手段10は、被加工物を保持する保持テーブル11を備えている。保持テーブル11には、吸引部12と、吸引部12の外側に配設された4つのクランプ部13とを備えている。このクランプ部13は、被加工物の裏面が粘着テープに貼着されるとともに粘着テープの外周部が環状のフレームに貼着される場合に当該環状のフレームを固定するものである。被加工物Wは、後述するように図9に示すような矩形状の治具を介して粘着テープや環状フレームを使用することなく保持手段10に保持されてもよい。保持手段10の下部は、保持テーブル11を回転させる回転駆動部14に連結されている。
【0013】
X軸方向移動手段30は、静止基台2上に配設されX軸方向に延在するボールネジ31と、ボールネジ31と平行に配設された一対のガイドレール32と、ボールネジ31の一端に連結されボールネジ31を回転させるモータ33と、ボールネジ31の他端を支持する軸受部34と、内部のナットがボールネジ31に螺合するとともに下部がガイドレール32に摺接する移動基台35とを備えており、モータ33がボールネジ31を正逆両方向に回転させることにより、移動基台35がガイドレール32にガイドされてX方向に移動する構成となっている。モータ33は、CPU、メモリ等を備えた制御手段60によって制御される。
【0014】
Y軸方向移動手段40は、静止基台2上に配設され、Y軸方向に延在するボールネジ41と、ボールネジ41と平行に配設された一対のガイドレール42と、ボールネジ41の一端に連結されボールネジ41を回転させるモータ43と、内部のナットがボールネジ41に螺合するとともに下部がガイドレール42に摺接する移動基台44とを備えており、モータ43がボールネジ41を正逆両方向に回転させることにより、移動基台44がガイドレール42にガイドされてY方向に移動する構成となっている。モータ43は、制御手段60によって制御される。
【0015】
Z軸方向移動手段50は、移動基台44上に配設され、Z軸方向に延在するボールネジ51と、ボールネジ51と平行に配設された一対のガイドレール52と、ボールネジ51の一端に連結されボールネジ51を回転させるモータ53と、内部のナットがボールネジ51に螺合するとともに側部がガイドレール52に摺接する昇降ブロック54とを備えており、モータ53がボールネジ51を正逆両方向に回転させることにより、昇降ブロック54がガイドレール52にガイドされてZ方向に移動する構成となっている。モータ53は、制御手段60によって制御される。
【0016】
切削手段20は、昇降ブロック54によって片持ち状態で支持されてY方向に延びるスピンドルハウジング23と、スピンドルハウジング23に回転可能に支持され軸線がY軸方向に向くスピンドル21と、スピンドル21の先端に装着された切削ブレード22とを備えている。スピンドル21は、スピンドルハウジング23に収納されている図示しないモータに連結されており、切削ブレード22はスピンドル21と共に回転する。
【0017】
スピンドルハウジング23には、アライメント手段70が固定されている。アライメント手段70は、被加工物Wを撮像する撮像手段71を備え、切削手段20とともにX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に移動する。
【0018】
制御手段60は、撮像手段71によって撮像した画像に基づいて被加工物Wの切削すべき位置を検出し、切削手段20、X軸方向移動手段30、Y軸方向移動手段40及びZ軸方向移動手段50を駆動制御しつつ被加工物Wの切削加工を実行する。
【0019】
図3に示すように、切削手段20は、切削ブレード22を上方から覆うブレードカバー24を有する。また、切削ブレード22は、例えばダイヤモンド砥粒等を樹脂や金属のボンドで固めて円板状に成形したワッシャーブレードである。円形基台の外周にニッケル母材にダイヤモンド砥粒等が分散された切削砥石を備えているハブブレードでもよい。
【0020】
ブレードカバー24には、切削水供給ノズル25、250とバリ取り流体ノズル26とが設けられている。切削水供給ノズル25は、切削ブレード22に切削水を供給するための一対のノズルであり、切削ブレード22をY軸方向に挟んで配設されている。切削水供給ノズル25は、ブレードカバー24の下端から下方に延びる下垂部25aと、下垂部25aの下端からX軸方向に延びる水平部25bとを有する。切削水供給ノズル25の水平部25bには、切削ブレード22に向けて切削水を噴射する図示しない噴射スリットが切削ブレードに対面して設けられている。切削水供給ノズル25は、ブレードカバー24の内部に形成された図示しない切削水供給路、ブレードカバー24に連結された切削水供給管27a及びバルブ83を介して切削水供給源81に接続されており、バルブ83が開いた状態では、切削水供給源81から流出する切削水81aは、切削水供給管27及びブレードカバー24の内部に形成された図示しない切削水供給路を通り、切削水供給ノズル25の噴射スリットから、切削ブレード22の表面と裏面に向かってそれぞれ噴出されることで切削ブレード22と被加工物Wとの接触位置(切削位置P1)に供給される。
【0021】
また、ブレードカバー24には、切削ブレードの外周側から切削ブレード22に向かって切削水を噴出することで切削ブレード22と被加工物Wとの接触位置(切削位置P1)に切削水を供給する切削水供給ノズル250も設けられている。切削水供給ノズル250は、ブレードカバー24の内部に形成された図示しない切削水供給路、ブレードカバー24に連結された切削水供給管27b及びバルブ83を介して切削水供給源81に接続されている。
【0022】
バリ取り流体ノズル26は、切削ブレード22により切削され被加工物Wに形成された切削溝にバリ取り流体を吹き付けて、切削溝の上端に形成されたバリを除去するためのノズルである。バリ取り流体ノズル26は、ブレードカバー24の-X側の端部に設けられている。バリ取り流体ノズル26は、切削位置P1により近い位置でバリ取りを実施し得るよう切削位置P1の-X側近傍位置に向けてバリ取り流体82aを斜めに噴射するのが好ましい。真下に噴射してもよい。なお、被加工物の加工時は、被加工物を保持する保持テーブル11が-X方向に移動するため、バリ取り流体82aの噴射位置である切削位置P1の-X側とは、加工進行方向の後ろ側を意味する。バリ取り流体ノズル26は、バリ取り流体供給管28及びバルブ84を介してバリ取り流体供給源82に接続されており、バルブ84が開いた状態では、バリ取り流体供給源82から流出するバリ取り流体82aは、バリ取り流体供給管28を通り、バリ取り流体ノズル26から噴射される。バリ取り流体82aとしては、例えば高圧純水や市水が使用される。
【0023】
(1-2)切削方法
次に、切削装置1を用いて被加工物を個々のデバイスに分割する切削方法について説明する。被加工物は、切削予定ラインに重ねて延性材を有するものであれば、特に形状、材質等が限定されるものではない。
【0024】
図4に示す被加工物Wは、図1に示したパッケージ基板である。被加工物Wは、その裏面Wbに貼着された粘着テープTを介して環状フレームFに支持された状態で、保持手段10の保持テーブル11に吸着保持されている。環状フレームFはクランプ部13で四箇所が固定されている。
【0025】
(a)切削溝形成ステップ及びバリ除去ステップ
保持手段10により被加工物Wが保持された後、図1に示した撮像手段71によって被加工物Wの表面Waが撮像されて切削すべき切削予定ラインが検出される。その後、切削手段20がY軸方向移動手段40によって駆動されてY軸方向に移動し、切削すべき切削予定ラインと切削ブレード22とのY軸方向における位置合わせが行われる。
【0026】
そして、Z軸方向移動手段50が切削手段20を下降させて切削ブレード22の下端のZ軸方向の位置を、切削ブレード22が被加工物Wの表面Waと裏面Wbとの間の高さ位置に達する高さ位置に合わせ、保持手段10がX軸方向移動手段30によって駆動されてX軸方向に移動することにより、回転する切削ブレード22が検出された切削予定ラインに切り込み、図4に示すように、切削が開始される。
【0027】
図1に示したX軸方向移動手段30が保持手段10を-X方向に送ることにより、切削予定ラインに沿って切削が進行する(切削溝形成ステップ)。切削溝形成ステップにおける被加工物Wの切削は、切削ブレード22の被加工物Wに対する相対移動方向(+X方向)の前方において被加工物Wを下向きに削るように切削するいわゆるダウンカットにより実施される。切削中は、図4に示すようにバルブ83を開き、切削水供給ノズル25、250から図3に示した切削位置P1に切削水81aが供給される。この切削が実施されることにより、図5(a)に示すように、被加工物Wに、裏面Wbまで貫通しない切削溝Uが形成されるとともに切削溝Uの下に切り残し部Eが形成される。また、切削溝Uの上端には延性材MによるバリBが形成される。
【0028】
切削溝形成ステップの実施中は、図3に示したバルブ84も開き、図5(b)に示すように、バリ取り流体ノズル26から被加工物Wの切削溝Uに沿ってバリ取り流体82aが噴射され、バリ取り流体82aが、図3に示した被加工物W上のバリ取り位置P2に着水する(バリ除去ステップ)。そして、バリ除去ステップにおいて、切削溝Uの上端に形成されていたバリBが、それが生じた直後に図5(c)に示すように除去される。
【0029】
(b)切り残し部切削ステップ
図6に示すように、切削すべき切削予定ラインLの+X側端部まで切削ブレード22が相対移動すると、切削予定ラインに沿って切削溝Uが形成される。そして、バリ取り流体ノズル26からのバリ取り流体82aの噴出を続けながら、図3に示した切削位置P1とバリ取り位置P2との距離分だけさらに保持手段10を-X方向へ送ると、バルブ84を閉止してバリ取り流体82aの噴出を停止するとともに、図1に示したX軸方向移動手段30による保持手段10の-X方向への送りを停止する。このとき、バルブ83を開いたままとして切削水供給ノズル25、250からの切削水の噴出は続行する。そして、切削ブレード22を高速回転させながらZ軸方向移動手段50が切削手段20をさらに-Z方向に降下させて切削ブレード22を図7に示すように粘着テープTに達する深さに切り込ませるとともに、X軸方向移動手段30が保持手段10を+X方向に送り、被加工物Wを切削予定ラインLに沿って切削溝形成ステップとは逆の方向に切削していく。その間、切削水供給ノズル25、250から切削水81aが噴出される。
【0030】
切り残し部切削ステップにおける被加工物Wの切削は、切削ブレード22の被加工物Wに対する相対移動方向(-X方向)の前方において被加工物Wを上向きに削るように切削するいわゆるアップカットにより実施される。この切削が実施されることにより、図7に示すように、切り残し部Eが切断されて裏面Wbまで貫通する。
【0031】
切削ブレード22が切削予定ラインLの-X側端部まで相対移動したら、図1に示したX軸方向移動手段30による保持手段10の+X方向への送りを停止し、Z軸方向移動手段50が切削手段20を+Z方向に上昇させて、切削ブレード22を被加工物Wから離間させる。次いで、次に切削すべき切削予定ラインLと切削ブレード22とのY軸方向における位置合わせが行われるとともに、図4と同様に、切削ブレード22が切削すべき切削予定ラインLの-X側端部に位置づけられる。そして、バルブ84を開いてバリ取り流体82aの噴出を再開し、その切削予定ラインLに対して、上記と同様に切削溝形成ステップ、バリ除去ステップ及び切り残し部切削ステップが実施される。これらの一連のステップが被加工物Wの同方向の全ての切削予定ラインLに対して実施された後、保持テーブル11を90度回転させ、同様に切削溝形成ステップ、バリ除去ステップ及び切り残し部切削ステップが実施される。そして、最後の切削予定ラインLに対する切り残し部切削ステップの実施が完了した時点で、被加工物Wの個々のデバイスパッケージDへの分割が完了する。
【0032】
以上説明したように、第1の実施形態の切削方法は、回転する切削ブレード22を延性材Mに達する深さに切り込ませて被加工物Wを切削予定ラインLに沿って切削することにより、被加工物Wに切削溝Uを形成するとともに切削溝Uの下に切り残し部Eを形成する切削溝形成ステップと、切削溝形成ステップの実施中に切削溝Uに沿ってバリ取り流体82aを噴射して切削溝形成ステップで生成された延性材MのバリBを除去するバリ除去ステップと、を備えることで、被加工物Wを切削することにより発生した延性材MのバリBを従来よりも容易にかつより確実に除去することができる。被加工物Wが完全切断されて個片化されている状態でバリ取り流体82aを噴出させると、被加工物Wの表面Waに到達したバリ取り流体82aが隣接するチップ間の隙間からチップの裏面側に回り込み、チップを押し上げるのでチップ飛びが発生することになるが、本発明では、切削溝Uの下に切り残し部Eが形成されていることにより、切削溝Uに沿ってバリ取り流体82aを噴射してバリBを除去する際、チップ飛びを防止できる。また、被加工物Wが完全切断されて個片化されている状態でバリ取り流体82aを噴出させると、隣接するチップ間の隙間に噴射されたバリ取り流体82aが直に粘着テープTに衝突するため、粘着テープTに破断が生じるおそれが高いが、本発明では、被加工物Wに切り残し部Eが形成されているため、チップ飛びや粘着テープTの切断を確実に防止できる。さらに、チップ飛びや粘着テープTの切断のおそれがないため、バリ取り流体82aの噴射力を高めてバリ除去の性能を向上させることができる。加えて、バリ取り流体ノズル26の噴射ロサイズを大きくできるのでバリ取り流体ノズル26の位置調整が容易である。
【0033】
また、切削溝形成ステップを実施中の切削予定ラインLと同一の切削予定ラインLにおいて、切削溝が形成された直後にその切削溝に生じたバリを除去するバリ除去ステップを実施するため、切削溝形成ステップ及びバリ除去ステップを効率良く実施することができる。
【0034】
第1の実施形態では、切削溝形成ステップ及びバリ除去ステップは、切削ブレード22が被加工物Wの一端側(切削予定ラインLの-X側端部)から他端側(+X側端部)に向かって切削する往路で実施され、切り残し部切削ステップは、切削ブレード22が被加工物Wの他端側(切削予定ラインLの+X側端部)から一端側(-X側端部)へ向かって切削する復路で実施されるので、切削溝形成ステップ、バリ除去ステップ及び切り残し部切削ステップを効率良く実施できる。また、往路ではダウンカットで切削が行われることにより、被加工物Wの表面のチッピングが抑制される。切削溝形成ステップでは切削ブレード22の先端が少なくとも延性材Mに至る深さの切削溝を形成すればよいが、例えば切り残し部Eの厚みを被加工物Wの厚みの10%程度とすることで、アップカットでの切り残し部切削ステップの送り速度を落とすことなく切削することが可能となる。
【0035】
第1の実施形態では、図3に示したように、バリ取り流体ノズル26が、切削位置P1により近い位置でバリ取りを実施し得るよう切削位置P1の-X側近傍位置に向けてバリ取り流体82aを斜めに噴射するように構成されている。切削溝Uの端までバリ取り流体82aを噴射するためには、切削ブレード22の中心が切削溝Uの端に到達した後、さらに切削位置P1とバリ取り位置P2との間の距離分だけ、被加工物Wが-X方向に加工送りされる必要があるところ、切削位置P1とバリ取り位置P2とが互いに近接していると、切削によりバリBが形成された直後にそのバリBを除去できるので、スループットが向上する。切削位置P1とバリ取り位置P2との間の距離は5mm以下であることが好ましく、被加工物Wの表面Waに対するバリ取り流体82aの入射角度は0°以上90°未満であればよい。切削位置P1とバリ取り位置P2との間の距離が5mm以下であることにより、スループットが確実に向上する。
【0036】
なお、図3に示した構成のバリ取り流体ノズル26に代えて、例えば、図8に示すように、被加工物Wの表面Waの近傍から直下に向けてバリ取り流体82aを噴射するバリ取り流体ノズル29を採用することも可能である。
【0037】
2 第2の実施形態(ステップカット加工)
(2-1)被加工物及び装置構成
図9に示す被加工物Wは、CSP(Chip Size Package)基板などのパッケージ基板である(図1参照)。図9に示す切削装置100は、保持手段110が保持する被加工物Wに対して、第1の切削ブレード121を備える第1の切削手段120及び第2の切削ブレード131(図12参照)を備える第2の切削手段130によって切削加工を施す装置である。
【0038】
切削装置100の静止基台101上には、X軸方向に保持手段110を往復移動させるX軸方向移動手段140が設けられている。X軸方向移動手段140は、X軸方向の軸心を有するボールネジ141と、ボールネジ141と平行に配設された一対のガイドレール142と、ボールネジ141を回動させるモータ143と、内部のナットがボールネジ141に螺合し底部がガイドレール142に摺接する可動板145とから構成される。そして、モータ143がボールネジ141を回動させると、これに伴い可動板145がガイドレール142にガイドされてX軸方向に移動し、可動板145上に配設された保持手段110が可動板145の移動に伴いX軸方向に移動することで、保持手段110に保持された被加工物WがX軸方向に切削送りされる。
【0039】
保持手段110は、矩形状の治具111を有する。治具111は、その上面に被加工物Wを吸引保持するための吸引保持部112を有する。治具111は、可動板145上に設けられた回転テーブル113上に固定されている。治具111の上面には、被加工物Wの切削予定ラインに対応する逃げ溝が形成されている。被加工物Wは、治具111を介して回転テーブル113上に保持される。回転テーブル113は、図示しないモータを有する回転機構により回転駆動される。
【0040】
静止基台101上の-X方向側には、門型コラム102がX軸方向移動手段140を跨ぐように立設されている。門型コラム102の前面には、第1の切削手段120をY軸方向に往復移動させる第1のY軸方向移動手段150と、第2の切削手段130をY軸方向に往復移動させる第2のY軸方向移動手段160とが対を成して配設されている。
【0041】
第1のY軸方向移動手段150は、Y軸方向の軸心を有するボールネジ151と、ボールネジ151と平行に配設された一対のガイドレール152と、ボールネジ151を回動させるモータ153と、内部のナットがボールネジ151に螺合し側部がガイドレール152に摺接する可動板154とから構成される。そして、モータ153がボールネジ151を回動させると、これに伴い可動板154がガイドレール152にガイドされてY軸方向に移動し、可動板154に支持された第1の切削手段120が可動板154の移動に伴いY軸方向に割り出し送りされる。
【0042】
第2のY軸方向移動手段160は、Y軸方向の軸心を有するボールネジ161と、ボールネジ161と平行に配設された一対のガイドレール162と、ボールネジ161を回動させるモータ163と、内部のナットがボールネジ161に螺合し側部がガイドレール162に摺接する可動板164とから構成される。そして、モータ163がボールネジ161を回動させると、これに伴い可動板164がガイドレール162にガイドされてY軸方向に移動し、可動板164に支持された第2の切削手段130が可動板164の移動に伴いY軸方向に割り出し送りされる。なお、第1のY軸方向移動手段150の一対のガイドレール152と第2のY軸方向移動手段160の一対のガイドレール162とは共通の部材である。
【0043】
第1のY軸方向移動手段150の可動板154には、第1の切削手段120をZ軸方向に昇降移動させる第1のZ軸方向移動手段170が配設されている。第1のZ軸方向移動手段170は、Z軸方向の軸心を有するボールネジ171と、ボールネジ171と平行に配設された一対のガイドレール172と、ボールネジ171を回動させるモータ173と、内部のナットがボールネジ171に螺合し側部がガイドレール172に摺接する支持部材174とから構成される。そして、モータ173がボールネジ171を回動させると、これに伴い支持部材174がガイドレール172にガイドされてZ軸方向に移動し、支持部材174が支持する第1の切削手段120が支持部材174の移動に伴いZ軸方向に切り込み送りされる。
【0044】
また、第2のY軸方向移動手段160の可動板164には、第2の切削手段130をZ軸方向に昇降移動させる第2のZ軸方向移動手段180が配設されている。第2のZ軸方向移動手段180は、Z軸方向の軸心を有するボールネジ181と、ボールネジ181と平行に配設された一対のガイドレール182と、ボールネジ181を回動させるモータ183と、内部のナットがボールネジ181に螺合し側部がガイドレール182に摺接する支持部材184とから構成される。そして、モータ183がボールネジ181を回動させると、これに伴い支持部材184がガイドレール182にガイドされてZ軸方向に移動し、支持部材184が支持する第2の切削手段130が支持部材184の移動に伴いZ軸方向に切り込み送りされる。
【0045】
第1の切削手段120は、軸方向が保持手段110の移動方向(X軸方向)に対し水平方向に直交する方向(Y軸方向)であるスピンドル122と、スピンドル122を回転可能に支持するハウジング123と、第1の切削ブレード121を覆うブレードカバー124と、スピンドル122を回転させる図示しないモータとを備えており、モータがスピンドル122を回転駆動することに伴って、スピンドル122の先端に固定された第1の切削ブレード121が高速回転する。
【0046】
第2の切削手段130は、軸方向が保持手段110の移動方向(X軸方向)に対し水平方向に直交する方向(Y軸方向)であるスピンドル132(図12参照)と、スピンドル132を回転可能に支持するハウジング133と、第2の切削ブレード131を覆うブレードカバー134と、スピンドル132を回転させる図示しないモータとを備えており、モータがスピンドル132を回転駆動することに伴って、スピンドル132の先端に固定された第2の切削ブレード131が高速回転する。
【0047】
第1の切削手段120のハウジング123及び第2の切削手段130のハウジング133には、それぞれアライメント手段191、192が固定されている。各アライメント手段191、192は、被加工物Wを撮像する撮像手段193、194を備え、それぞれ第1の切削手段120及び第2の切削手段130とともにY軸方向及びZ軸方向に移動する。
【0048】
第1の切削手段120のブレードカバー124には、第1の実施形態の切削手段20と同様に、図3に示した切削水供給ノズル25、250とバリ取り流体ノズル26とが設けられている。第1の切削手段120は、切削水供給ノズル25、250から第1の切削ブレード121に切削水81aを供給しつつ、第1の切削ブレード121により被加工物Wを切削する。その際、第1の切削手段120は、図10に示すように、第1の切削ブレード121により切削された被加工物Wの切削溝Uにバリ取り流体ノズル26からバリ取り流体82aを吹き付けて、切削溝Uの上端に形成されたバリBを除去する。バリ取り流体ノズル26は、図示しないノズル移動手段を介してブレードカバー124に支持されている。ノズル移動手段は、図11に示すようにバリ取り流体82aが被加工物Wの表面Waに噴射されて形成される噴射スポットSPが切削溝Uを横断するように、バリ取り流体ノズル26を切削溝Uの幅方向(Y軸方向)に移動させる。
【0049】
第2の切削手段130のブレードカバー134には、図3に示した切削水供給ノズル25、250が設けられている。第2の切削手段130は、切削水供給ノズル25、250から第2の切削ブレード131に切削水81aを供給しつつ、第2の切削ブレード131により被加工物Wを切削する。ステップカット加工時には第2の切削手段130には、バリ取り流体ノズル26を備えていなくてもよい。
【0050】
図9に示す切削装置100の各駆動部は制御手段200によって制御される。すなわち、制御手段200は、撮像手段193、194のいずれか(例えば撮像手段193)によって撮像した画像に基づいて被加工物Wの切削すべき位置を検出し、第1の切削手段120、第2の切削手段130、X軸方向移動手段140、第1のY軸方向移動手段150、第2のY軸方向移動手段160、第1のZ軸方向移動手段170及び第2のZ軸方向移動手段180等を駆動制御しつつ被加工物Wの切削加工を実行する。なお、切削すべき位置の検出が撮像手段193のみによって行われる場合においても、切削によって形成された切削溝の撮像によるチェック(カーフチェック)は、撮像手段193、194の双方によって行われる。
【0051】
(2-2)切削方法
次に、切削装置100を用いてステップカット加工で被加工物Wを個々のデバイスDに分割する切削方法について説明する。
【0052】
(a)切削溝形成ステップ及びバリ除去ステップ
保持手段110により被加工物Wが保持された後、第1の切削手段120の撮像手段193によって被加工物Wの表面Waが撮像されて切削すべき切削予定ラインLが検出される。その後、第1の切削手段120が第1のY軸方向移動手段150によって駆動されてY軸方向に移動し、切削すべき切削予定ラインLと第1の切削ブレード121とのY軸方向における位置合わせが行われるとともに、第1のZ軸方向移動手段170が第1の切削手段120を下降させて第1の切削ブレード121の下端のZ軸方向の位置を、第1の切削ブレード121が延性材Mに達する位置に合わせる。そして、保持手段110がX軸方向移動手段140によって駆動されて-X側に移動し、切削すべき切削予定ラインLの-X側端部が第1の切削ブレード121の+X側の位置に位置づけられる。
【0053】
その後、第1の切削ブレード121を高速回転させながらX軸方向移動手段140が保持手段110を-X方向に送ることにより、図12に示すように、被加工物Wを切削予定ラインLに沿って切削していく。その間、切削水供給ノズル25、250から第1の切削ブレード121に切削水81aが供給され、バリ取り流体ノズル26から被加工物Wの切削溝Uに沿ってバリ取り流体82aが噴射される。すなわち、この実施形態においても、切削溝形成ステップの実施中にバリ除去ステップが実施される。
【0054】
切削溝形成ステップにおける被加工物Wの切削は、第1の切削ブレード121の被加工物Wに対する相対移動方向(+X方向)の前方において被加工物Wを下向きに削るように切削するいわゆるダウンカットにより実施される。この切削が実施されることにより、第1の実施形態と同様に、図5(a)に示したように被加工物Wに切削溝Uが形成されるとともに切削溝Uの下に切り残し部Eが形成される。また、切削溝Uの上端には延性材MによるバリBが形成される。
【0055】
そして、切削溝形成ステップの実施中に実施されるバリ除去ステップにおいては、図10に示したように、バリ取り流体ノズル26を切削溝Uの幅方向(Y軸方向)に移動させながら、被加工物Wの切削溝Uに沿ってバリ取り流体82aが噴射されることにより、切削溝Uの上端のバリBが除去される。
【0056】
第1の切削ブレード121の中心が切削予定ラインLの+X側端部まで相対移動し、さらに切削位置P1とバリ取り位置P2との間の距離分だけ被加工物Wが-X方向に加工送りされたら、X軸方向移動手段140による保持手段110の-X方向への送りを停止し、第1のZ軸方向移動手段170により第1の切削手段120を+Z方向に上昇させて、第1の切削ブレード121を被加工物Wから離間させる。次いで、次に切削すべき切削予定ラインLのX方向延長線上に第1の切削ブレード121が位置付けられ、切削ラインLと第1の切削ブレード121とのY方向の位置が一致した状態となり、切削すべき切削予定ラインLの-X側端部が第1の切削ブレード121の+X側の位置に位置づけられるとともに第1の切削ブレード121が所定のZ方向高さに位置付けられる。そして、その切削予定ラインLに対して、上記と同様に、切削溝形成ステップ及びバリ除去ステップが実施される。保持手段110が+X方向に移動する間は、図3に示したバルブ84を閉止することにより、バリ取り流体の噴出を停止する。
【0057】
(b)切り残し部切削ステップ
1ライン目の切削予定ラインLに対する切削溝形成ステップ及びバリ除去ステップが終了し、2ライン目の切削予定ラインLに対する切削溝形成ステップ及びバリ除去ステップに移行する際、切削溝形成ステップを実施する前に行われた撮像手段193による切削予定ラインの検出結果に基づいて第2の切削手段130が第2のY軸方向移動手段160によって駆動されてY軸方向に移動し、1ライン目の切削予定ラインLに第2の切削ブレード131が位置付けられ、第2の切削ブレード131の下端が被加工物Wの裏面Wbの若干下方に位置するように、第2の切削ブレード131のZ軸方向の位置が調整される。
【0058】
その後、2ライン目の切削予定ラインLに対する切削溝形成ステップ及びバリ除去ステップが実施されるのと同時に、1ライン目の切削予定ラインLに対する切り残し部切削ステップが実施される。すなわち、図12に示すように、これから切削溝を形成しようとする切削予定ラインLに第1の切削ブレード121が位置付けられるとともに切削溝Uが形成された分割予定ラインLに第2の切削ブレード131が位置付けられ、保持手段110を-X方向に送る。これにより、第1の切削ブレード121による2ライン目の切削予定ラインLの切削及びバリ取り流体82aによるバリBの除去と同時に、第2の切削ブレード131による1ライン目の切削予定ラインLの切り残し部の切削が行われる。その間、切削水供給ノズル25、250から第1の切削ブレード121及び第2の切削ブレード131にそれぞれ切削水81aが供給される。また、バリ取り流体ノズルからは第1の切削ブレード121によって切削されて形成されたバリに対してバリ取り流体が供給される。
【0059】
切り残し部切削ステップにおける被加工物Wの切削も、第2の切削ブレード131の被加工物Wに対する移動方向(+X方向)の前方において被加工物Wを下向きに削るように切削するいわゆるダウンカットにより実施される。この切削が実施されることにより切り残し部Eが除去される。
【0060】
その後、3ライン目以降の切削予定ラインLに対する切削溝形成ステップ及びバリ除去ステップが実施されるのと同時に、2ライン目以降の切削予定ラインLに対する切り残し部切削ステップが実施される。これらの一連のステップが被加工物Wの全ての切削予定ラインLに対して実施され、最後の切削予定ラインLに対する切り残し部切削ステップの実施が完了した時点で、被加工物Wの個々のデバイスDへの分割が完了する。
【0061】
なお、隣り合う切削予定ライン間の間隔が短く、第1の切削手段120及び第2の切削手段130の構造上、第1の切削ブレード121と第2の切削ブレード131とを隣り合う切削予定ライン上に位置させようとすると、第1の切削手段120と第2の切削手段130とが衝突する可能性がある場合は、第2の切削ブレード131により切り残し部が切削される切削予定ラインが、第1の切削ブレード121により切削溝が形成される切削予定ラインから何本か離れたものになることもある。
【0062】
以上説明したように、第2の実施形態の切削方法においても、回転する第1の切削ブレード121を、延性材Mに達する深さに切り込ませて切削予定ラインLに沿って切削することにより、被加工物Wに切削溝Uを形成するとともに切削溝Uの下に切り残し部Eを形成する切削溝形成ステップと、切削溝形成ステップの実施中に切削溝Uに沿ってバリ取り流体82aを噴射して切削溝形成ステップで生成された延性材MのバリBを除去するバリ除去ステップと、を備えることで、被加工物Wを切削することにより発生した延性材MのバリBを従来よりも容易にかつより確実に除去することができる。
特に、切削予定ラインL上にキャビティ(凹部)が形成されたパッケージ基板は、切削時にバリが生じやすいため、本発明を適用することが有効である。
【0063】
また、第2の実施形態においても、切削溝形成ステップを実施中の切削予定ラインLと同一の切削予定ラインLにおいてバリ除去ステップを実施するため、切削溝形成ステップ及びバリ除去ステップを効率良く実施可能である。
【0064】
さらに、第2の実施形態では、切削溝形成ステップは、第1のスピンドル122に装着された第1の切削ブレード121で実施され、切り残し部切削ステップは、第2のスピンドル132に装着された第2の切削ブレード131で実施されるので、切削溝形成ステップとバリ除去ステップと切削溝形成ステップとを並行して実施できるため、さらに効率的である。
【0065】
また、第2の実施形態では、図10及び図11に示すように、バリ取り流体ノズル26を切削溝Uの幅方向(Y軸方向)に移動させて、バリ取り流体82aの噴射スポットSPが切削溝Uを横断するようにしたことにより、バリ取り流体82aの最も流速の早い噴射スポットSPの中心部分を、バリBが形成されている切削溝Uの上端の幅方向両側部に当てて、バリBを効率良く除去することができる。
【0066】
なお、本発明の実施形態は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。
【0067】
例えば、上記実施形態では、切削溝形成ステップの実施中にバリ除去ステップを実施しているが、切削溝形成ステップに次いでバリ除去ステップを実施してもよい。例えば、1つの切削予定ラインLに対する切削溝形成ステップが終了する毎にその切削予定ラインLに対してバリ除去ステップを実施してもよいし、被加工物Wの同方向の全ての切削予定ラインLに対する切削溝形成ステップが終了した後にバリ除去ステップを実施してもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、バリ取り流体82aとして高圧純水を用いることとしたが、砥粒が混入された高圧の液体や気体、ドライアイスエアー等を用いてもよい。
【0069】
さらに、第1の実施形態では、切削溝形成ステップを、切削ブレード22が被加工物Wの一端側から他端側に向かう往路においてダウンカットで実施し、切り残し部切削ステップを、切削ブレード22が被加工物Wの他端側から一端側へ向かう復路においてアップカットで実施することとしたが、切り残し部切削ステップを復路で実施せず、切削溝形成ステップを実施した後に切削ブレード22を被加工物Wの一端側に戻し、切り残し部切削ステップを往路においてダウンカットで実施するようにしてもよい。
【0070】
また、図10及び図11のようにバリ取り流体ノズル26を切削溝Uの幅方向に直線的に往復移動させる代わりに、図13に示すバリ取り流体ノズル26aのように、X軸方向の軸260を中心に切削溝Uの幅方向に揺動させることにより、バリ取り流体82aの噴射スポットSP(図11)が切削溝Uを横断するようにしてもよい。また、図14に示すように、バリ取り流体82aの噴射スポットSPが切削溝Uを横断しつつ円軌道を描くように、バリ取り流体ノズル26を回転移動させてもよい。
【0071】
また、第2の実施形態では、切削溝形成ステップ及び切り残し部切削ステップにおける切削を、いずれもダウンカットにより実施しているが、パッケージ基板はシリコン製のウェーハのようにもろくないので、切り残し部切削ステップをアップカットにより実施してもよい。
【0072】
なお、バリ取り流体ノズル26を、切削溝Uの幅方向に直線的に往復移動させたり、切削溝Uの幅方向に揺動させたり、噴射スポットSPが円軌道を描くように回転させたりする構成は、第1の実施形態において採用してもよい。
【符号の説明】
【0073】
1:切削装置 2:静止基台 10:保持手段 11:保持テーブル 12:吸引部
13:クランプ部 14:回転駆動部
20:切削手段
21:スピンドル 22:切削ブレード 23:スピンドルハウジング
24:ブレードカバー 25、250:切削水供給ノズル
25a:下垂部 25b:水平部
26:バリ取り流体ノズル 26a:軸 27:切削水供給管
28:バリ取り流体供給管 29:バリ取り流体ノズル
30X軸方向移動手段
31:ボールネジ 32:ガイドレール 33:モータ 34:軸受部 35:移動基台
40:Y軸方向移動手段
41:ボールネジ 42:ガイドレール 43:モータ 44:移動基台
50:Z軸方向移動手段
51:ボールネジ 52:ガイドレール 53:モータ 54:昇降ブロック
60:制御手段
70:アライメント手段 71:撮像手段
81:切削水供給源 82:バリ取り流体供給源
81a:切削水 82a:バリ取り流体
83、84:バルブ
100:切削装置 101:静止基台 102:門型コラム 110:保持手段
111:治具 112:吸引保持部 113:回転テーブル
120:第1の切削手段 121:第1の切削ブレード 122:スピンドル
123:ハウジング 124:ブレードカバー
130:第2の切削手段 131:第2の切削ブレード
132:スピンドル 133:ハウジング 134:ブレードカバー
140:X軸方向移動手段 141:ボールネジ 142:ガイドレール
143:モータ 145:可動板
150:第1のY軸方向移動手段 151:ボールネジ 152:ガイドレール
153:モータ 154:可動板
160:第2のY軸方向移動手段 161:ボールネジ 162:ガイドレール
163:モータ 164:可動板
170:第1のZ軸方向移動手段 171:ボールネジ 172:ガイドレール
173:モータ 174:支持部材
180:第2のZ軸方向移動手段 181:ボールネジ 182:ガイドレール
183:モータ 184:支持部材
191:アライメント手段 192:アライメント手段
193:撮像手段 194:撮像手段 200:制御手段
B:バリ D:デバイス E:切り残し部
F:環状フレーム L:切削予定ライン(切削予定ライン)
M:延性材 P1:切削位置 P2:バリ取り位置 R:樹脂封止部
SP:噴射スポット T:粘着テープ U:切削溝
W:被加工物 Wa:表面 Wb:裏面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14