(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】倍率色収差測定装置
(51)【国際特許分類】
G01M 11/02 20060101AFI20221102BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
G01M11/02 B
G02B5/20 101
(21)【出願番号】P 2018142928
(22)【出願日】2018-07-30
【審査請求日】2021-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100097984
【氏名又は名称】川野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100098073
【氏名又は名称】津久井 照保
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 宏平
(72)【発明者】
【氏名】安江 俊夫
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/056451(WO,A1)
【文献】特表2014-513315(JP,A)
【文献】特開2009-192411(JP,A)
【文献】特開2003-279446(JP,A)
【文献】菅原 正幸,外2名,映像情報メディアを支える測定技術 (第8回) カメラ, レンズ, ディスプレイを測る,映像情報メディア学会誌,2002年,第56巻,第8号,pp. 1240-1246,https://doi.org/10.3169/itej.56.1240
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 11/00 - G01M 11/08
G02B 5/20 - G02B 5/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、該光源からの照明光を照射される被写体としての収差測定用チャートと、該収差測定用チャートからの被写体光を所定位置に結像させる撮像レンズと、該撮像レンズ
により結像された該収差測定用チャートの像を、カラー画像に係るB、G、R
の各信号
に変換して出力する撮像素子
と、該撮像レンズの倍率色収差に基づく色ずれ量を、該撮像素子から出力されたB、G、Rの各像の相関値を算出し、最大となる値を求めることにより取得する色収差測定部と、前記収差測定用チャートよりも光源側、前記
収差測定用チャートと前記撮像レンズの間、および前記撮像レンズと前記撮像素子の間、のいずれかに
配されたカラーフィルタと、を備え、
該カラーフィルタは、該撮像素子の分光特性においてB、G、Rの各波長領域のピーク値を中心とした所定幅の波長領域のみを透過させる分光特性を有することを特徴とする倍率色収差測定装置。
【請求項2】
前記所定幅の波長領域が40nm以下の幅とされていることを特徴とする請求項1記載の
倍率色収差測定装置。
【請求項3】
前記所定幅の波長領域が20nm以下の幅とされていることを特徴とする請求項1記載の
倍率色収差測定装置。
【請求項4】
前記所定幅の波長領域が10nm以上かつ20nm以下の幅とされていることを特徴とする請求項1記載の
倍率色収差測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、倍率色収差測定装置に関し、詳しくは、撮像画像情報から、レンズによる倍率色収差を差し引く際に、その倍率色収差を簡易に測定するための倍率色収差測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、撮像装置(カメラ)は、レンズを介して得た被写体の像をR(赤色)、G(緑色)、B(青色)の像にそれぞれ分解し、カラー画像を撮像する。このとき、各像に含まれる光は異なる波長域を持つため、レンズの倍率色収差に起因して異なる倍率で撮像素子に結合される。このため撮像装置から得られるカラー画像には色ずれ(または色にじみ)が生じる。この色ずれは、特に画像(映像)の画面周辺部で大きく画質を劣化させるため、補正することが望ましい。また近年撮像素子の多画素化や表示装置の大画面化に伴い、この色ずれによる画質劣化の影響は顕著になっており、より高い精度での補正が求められる。この色ずれを補正する手段として、あらかじめ各像の色ずれ量を測定しておき、画像処理によってこの色ずれを補正する技術が開示されている(下記特許文献1、2を参照)。
【0003】
ところで、色ずれ量の測定は、白黒の市松模様の格子パターンや縞模様パターン等を画角全体で撮像して収差測定用チャートを作成し、これを用いてB、G、R像のずれ量を測定する手法が一般的である(下記特許文献3、4を参照)。例えば、
図12に示すように、照明16からの照明光を収差測定用チャート15に照射し、その収差測定用チャート15からの被写体光を撮像装置11の撮像レンズ10および撮像素子部11Aにより撮像し、撮像された被写体像をB、G、Rの各色信号に分離し、色収差測定部12に送出して撮像レンズ10の倍率色収差を測定する。色収差測定部12からは、測定により得られた色ずれ量が出力される。
この撮像素子部11Aは、3色分解プリズムとB、G、Rの各色光に応じた3板式の撮像素子により構成すること、あるいは3色のカラーフィルタアレイと単板式の撮像素子により構成することの、いずれとすることも可能である。
【0004】
ところで、色ずれの大きさはレンズの焦点距離やフォーカス位置等のレンズパラメータに依存するため、レンズパラメータ毎に測定を行い、それぞれの補正値を予め求めておく必要がある。色ずれの大きさは、測定に使用する光源の分光分布や収差測定用チャートの分光反射率に依存する。そのため色ずれ量の測定の際には、同一の収差測定用チャートを用い、照明条件を一定とした上で行うこととされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-3437号公報
【文献】特開2011-182071号公報
【文献】特開2006-135805号公報
【文献】特開平3-169190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、レンズパラメータを変化させて多数の測定を行う際に、同一の収差測定用チャートを用い、照明条件を一定とした上でこれら多数の測定を行うことは容易ではない。例えば、フォーカス位置を1mから30mまでの範囲で変化させて測定を行うことを想定した場合、測定用チャートとカメラとの距離を実際に1mから30mの範囲で動かしながら色ずれ量を測定していくことになるが、そのような長い距離に亘って照明条件を一定とすること自体が容易ではない。また、例えばカメラから30mの位置に測定用チャートを設置して測定しようとした場合、画角全体をカバーできる範囲に測定用チャートを配置し、さらにその範囲における照明条件を一定にする必要があるが、それに要する空間や照明機材の調整の手間に鑑みると、正確な測定は、実際には困難である。すなわち、従来技術によっては、レンズパラメータ毎に照明条件や使用するチャートの分光特性を一定とすることが困難であるため、倍率色収差による色ずれ量の正確な測定は難しい、とされていた。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、撮像画像における倍率色収差による色ずれ量を測定する際に、レンズパラメータ毎に照明条件やチャートの分光特性をはじめとする測定条件を一定とせずとも、正確な測定を簡易に行い得る倍率色収差測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の倍率色収差測定装置は、
光源と、該光源からの照明光を照射される被写体としての収差測定用チャートと、該収差測定用チャートからの被写体光を所定位置に結像させる撮像レンズと、該撮像レンズにより結像された該収差測定用チャートの像を、カラー画像に係るB、G、Rの各信号に変換して出力する撮像素子と、該撮像レンズの倍率色収差に基づく色ずれ量を、該撮像素子から出力されたB、G、Rの各像の相関値を算出し、最大となる値を求めることにより取得する色収差測定部と、前記収差測定用チャートよりも光源側、前記収差測定用チャートと前記撮像レンズの間、および前記撮像レンズと前記撮像素子の間、のいずれかに配されたカラーフィルタと、を備え、
該カラーフィルタは、該撮像素子の分光特性においてB、G、Rの各波長領域のピーク値を中心とした所定幅の波長領域のみを透過させる分光特性を有することを特徴とするものである。
【0009】
この場合において、前記所定幅の波長領域が40nm以下の幅とされていることが好ましい。
また、前記所定幅の波長領域が20nm以下の幅とされていることがより好ましい。
前記所定幅の波長領域が10nm以上かつ20nm以下の幅とされていることも、好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の倍率色収差測定装置によれば、以下のような作用効果を奏する。
すなわち、カラーフィルタから出力されたB、G、Rの各色光は、各色光領域のピーク波長を中心とした狭帯域の範囲に制限されたものとなっており、各色光の像単体に生じる色ずれ(像ボケ)を低減することができるので、測定に使用する光源の分光特性や測定用チャートの分光反射特性が変化しても、それに伴う色ずれ量の変化は従来技術と比較して小さい。
【0012】
したがって、測定に用いる照明や測定用チャートの選定に自由度をもたせることができ、異なるレンズパラメータで各々測定する際に、各測定毎に光源条件や測定用チャートを同一とする必要がない。また、測定用チャートとして必ずしも白黒パターン等を用いる必要がないため、部屋の壁面やビルの壁面等、規則性のある明暗のパターンを有するものであれば、自然物や建造物等であっても測定用チャートとして用いることができる。
【0013】
このように、本発明の倍率色収差測定装置によれば、ボケが小さく境界部分が鮮明なB、G、R像が得られるため、ずれ量の測定精度を向上させることができる。また、照明や測定用チャートの調整にかかる手間を大幅に省くことができ、従来技術よりも簡易に、高精度の測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る
倍率色収差測定装置に用いられるカラーフィルタの分光透過特性とカメラの撮像素子の分光透過特性の関係を示すグラフである。
【
図2】実施形態1に係る倍率色収差測定装置を示す概略図である。
【
図3】所定の撮像パターン(A)について、従来技術を用いた場合(B)と本実施形態技術を用いた場合(C)の色ずれ量を比較した結果を示すものである。
【
図4】シミュレーションに用いた照明Aと照明Bの各分光分布を示すグラフである。
【
図5】互いに異なる照明条件間で発生する、従来技術(A)と本実施形態技術(B)の色ずれ状態を示すグラフである。
【
図6】光学フィルタを組み合わせて本実施形態に係る
倍率色収差測定装置に用いられるカラーフィルタを形成する場合における、これら各光学フィルタの分光透過特性の例を示すグラフである。
【
図7】実施形態2に係る倍率色収差測定装置を示す概略図である。
【
図8】実施形態3に係る倍率色収差測定装置を示す概略図である。
【
図9】本実施例に
係る倍率色収差測定装置に用いられるカラーフィルタの分光透過特性と、このカラーフィルタの色ずれ量を測定する手法を説明するためのグラフを示すものでる。
【
図10】
図9に示すカラーフィルタを用いた場合のシミュレーション結果(w=10nm~32nm)を示すグラフ((A)~(F))である。
【
図11】
図9に示すカラーフィルタを用いた場合のシミュレーション結果(w=40nm~90nm)を示すグラフ((G)~(L))である。
【
図12】倍率色収差による色ずれ量を測定する際に用いる従来装置の構成の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態1に係
る倍率色収差測定装置について図面を用いて説明する。
まず、
図2を用いて実施形態1に係る倍率色収差測定装置の概略について説明し、この後、
図1を用いて本実施形態に
係る倍率色収差測定装置に用いられるカラーフィルタの構成について説明する。
【0016】
図2に示すように、照明56からの照明光を収差測定用チャート55に照射し、その収差測定用チャート55からの被写体光を撮像レンズ50により単板のカラー撮像素子部51上に結像する。これにより撮像された被写体像は撮像素子部51からB、G、Rの各信号に変換されて出力される。このとき、撮像レンズ50と撮像素子部51の間にはカラーフィルタ53を配設する。この撮像レンズ50の倍率色収差に基づく色ずれ量は、色収差測定部52において、撮像素子部51から出力されたB、G、Rの各信号に基づいて演算される。
色ずれ量の算出には、例えば、各像の相関値が最大となる値を求める手法等が用いられる。
【0017】
図1は、本実施形態に係る
倍率色収差測定装置に用いられるカラーフィルタの分光透過特性を示すものである。このカラーフィルタは、例えば、ガラス等の透明板上に誘電体多層膜(例えばTiO
2とSiO
2の交互層)を蒸着法等を用いて設けたものである。
【0018】
また、B、G、R各々の色光の、撮像素子部51における分光特性上のピーク値は各々、450nm付近、540nm付近、600nm付近であり、そのピーク値を中心として、所定幅の狭帯域(例えば10nmの波長域)のみを透過させるような透過特性を有するように構成されている。したがって、
図1に示されるように、通常の撮像素子においてはB、G、Rの各色光について広い波長範囲にわたって受光し得るように構成されているが、この撮像素子に照射されるB、G、Rの各色光は、略450nm、略540nm、略600nmの各ピーク値を中心とした所定幅の狭帯域のみの色光とされる。
【0019】
本実施形態の倍率色収差測定装置に用いられるカラーフィルタ53によれば、このようにB、G、Rの各色光をそれぞれのピーク位置付近の波長域のみを透過させて、撮像素子部51に照射するようにしているので、照明や測定用チャートの調整にかかる手間を大幅に省くことができ、従来技術よりも簡易に、高精度の測定が可能となる。
【0020】
以下、このカラーフィルタの作用効果について詳細に説明する。
図3(A)は、倍率色収差の測定用に用いられる撮像パターンの一例を示すものであり、
図3(B)は、
図3(A)の撮像パターンを用いて倍率色収差を測定した場合に、従来技術(シミュレーション)により測定される色ずれ状態を示すものであり、
図3(C)は、同様に、この撮像パターンを用いて倍率色収差を測定した場合に、本実施形態のカラーフィルタ53を用いること(シミュレーション)により測定される色ずれ状態を示すものである。
【0021】
ここで、色ずれは画像水平方向に発生するものとし、また、撮像素子表面に結像される像の結像倍率は波長λに比例するものとする。また、
図3(A)に示す撮像パターンにおいて、図面左側の領域は全波長の光を等しく反射する分光反射率を有するものとし、図面右側の領域は全波長の光を吸収する分光反射率を有するものとする。また、この時の撮像に使用する照明は、
図4の照明Aに示す分光分布(実線)および照明Bに示す分光分布(破線)を有するものとしている。
【0022】
図12に示す従来技術においては、照明Aおよび照明Bの分光分布を有する色光が各々そのまま撮像素子部11Aに照射されるので、撮像素子部11Aで得られる各B、G、Rの像には、波長域がブロードな撮像素子部11Aの分光特性に応じた光が含まれる。このため、色収差測定部12から出力された色ずれには、各B、G、Rの像間での色ずれによるものだけでなく、各像単体における色ずれ(像のボケ)によるものが含まれる。
【0023】
一方、本実施形態の倍率色収差測定装置を用いて得られる各B、G、R像は、カラーフィルタ53の作用によって、各ピーク位置を中心とした所定の波長範囲に制限されているため、各像内で生じる倍率色収差に起因する像のボケは、従来技術を用いた際の倍率色収差に起因する像のボケと比較して非常に小さく、輪郭線がより明確となる。
【0024】
色ずれ量の検出手法としては、例えば、B、G、R各像の相関値を算出し、最大となる値を求めることによって色ずれ量を検出する手法等が通常用いられる。
【0025】
このように、本実施形態の倍率色収差測定装置を用いることで、ボケが小さく境界部分が鮮明なB、G、R像が得られるため、ずれ量の測定精度を向上させることができる。
【0026】
図5(A)、(B)は、異なる照明条件で得られたB、G、R被写体像の色ずれ量を、シミュレーションにより得られた、従来技術と本実施形態で比較したものである。
また、この時の撮像に使用する照明は、
図4の照明Aに示す分光分布(実線)および照明Bに示す分光分布(破線)を有するものとしている。
【0027】
図5(A)に示すように、従来技術を用いた場合における照明A(実線)と照明B(破線)の色ずれの曲線同士はほとんど重ならず、色ずれ量の差は大きい。
一方、
図5(B)に示すように、本実施形態技術を用いた場合における照明A(実線)と照明B(破線)の色ずれの曲線同士は、信号値が大きく変化する領域において略重なり、色ずれ量の差は小さい。
【0028】
このように、
図5(A)、(B)を比較すると、従来技術における色ずれは左右に大きくシフトしていることが明らかであり、このことから、従来技術では、色ずれを測定する際に照明条件が変化すると、発生する色ずれ量も大きく変化することが明らかであるから、従来技術を用いた場合において正確な色ずれ量の測定を実現するためには、測定毎に照明条件を同一に揃える必要があることが明らかである。
【0029】
一方、本実施形態の倍率色収差測定装置を用いたものでは、照明A(実線)で生じる色ずれ量と照明B(破線)で生じる色ずれ量が一致している。このことは、本実施形態の倍率色収差測定装置を用いたものでは、使用する照明光等の照明条件に変化が生じても、同じ色ずれ量が生じることを示しており、測定毎に照明条件を同一に揃える必要がないことが明らかである。
【0030】
次に、上記カラーフィルタ53の製作方法について
図6を用いて説明する。
すなわち、
図6は、光学フィルタを組み合わせて本発明の
倍率色収差装置に係るカラーフィルタ53の特性を実現する際の例を、各フィルタの分光透過特性を用いて説明するようにしたものである。この例では撮像素子51から出力されるB、G、Rの分光特性のピーク位置(最大信号値)がそれぞれ、略450nm、略540nm、略600nmとされている。
【0031】
図6(A)に示す光学フィルタ(1)は、波長445nm~605nmを透過するバンドパスフィルタである。
図6(B)に示す光学フィルタ(2)は波長455nm~540nmをカットするノッチフィルタである。
図6(C)に示す光学フィルタ(3)は波長545nm~595nmをカットするノッチフィルタである。光学フィルタ(1)、光学フィルタ(2)、および光学フィルタ(3)を組み合わせることで、撮像素子51のB、G、R各色光の分光特性のピーク位置を中心とする幅10nmの波長域の光のみを透過する分光透過特性を実現することができる。実際には、例えば、これら3つの光学フィルタ(1)~(3)を構成する誘電体多層膜を順に基板上に積層してカラーフィルタ53を形成する。
【0032】
透過する波長域の幅を狭くするほど、照明条件の変化に対する色ずれ量の変化が小さくなり、測定毎に照明条件を同一に揃える必要がない、との前述した効果をより良好に奏することが可能になるが、その一方で、透過する波長域の幅を狭くするほど、撮像素子51に入射する光量が少なくなるため、撮像装置の感度は低下する。
そのため、透過する波長域の幅が、互いに異なるフィルタを複数用意しておき、測定の際に、実現可能な照明の明るさや必要な測定精度に応じて、適切なフィルタを選択することが肝要である。
【0033】
なお、本発明の倍率色収差測定装置としては上記実施形態1のものに替えて、以下に示す、実施形態2あるいは実施形態3のもの等を採用することが可能である。
図7に示す実施形態2の倍率色収差測定装置においては、照明66からの照明光を収差測定用チャート65に照射し、その収差測定用チャート65からの被写体光を撮像装置の撮像レンズ60により単板のカラー撮像素子部61上に結像する。これにより撮像された被写体像は撮像素子部61からB、G、Rの各信号に変換されて出力される。以上の構成は、上記実施形態1の倍率色収差測定装置と同様である。ただし、実施形態2のものにおいては、測定用チャート65と撮像レンズ60との間、より詳細には、撮像レンズ60に近接する前段部分にカラーフィルタ53と同様に機能するカラーフィルタ63が配置されている。
カラーフィルタ63を、測定用チャート65と撮像レンズ60との間に配設しても、上記実施形態1のように、撮像レンズ50と撮像素子部51の間にカラーフィルタ53を配設した場合と同様の作用効果を奏することができる。
【0034】
また、例えば、
図8の実施形態3の倍率色収差測定装置においては、照明76からの照明光を収差測定用チャート75に照射し、その収差測定用チャート75からの被写体光を撮像装置の撮像レンズ70により単板のカラー撮像素子部71上に結像する。これにより撮像された被写体像は撮像素子部71からB、G、Rの各信号に変換されて出力される。以上の構成は、上記実施形態1、2の倍率色収差測定装置と同様である。ただし、実施形態3のものにおいては、照明76と測定用チャート75との間、より詳細には、照明76に近接する後段部分にカラーフィルタ53と同様に機能するカラーフィルタ73が配置されている。すなわち、カラーフィルタ73は、照明76の調光フィルタとして機能する。
【0035】
カラーフィルタ73を、照明76と測定用チャート75との間に配設しても、上記実施形態1のように、撮像レンズ50と撮像素子部51の間にカラーフィルタ53を配設した場合と同様の作用効果を奏することができる。
【0036】
その他、本発明の倍率色収差測定装置としては、種々の態様のものを採用し得る。
例えば、カラーフィルタを、R像取得用・G像取得用・B像取得用の3枚構成よりなるものとしてもよい。この場合、R像取得用・G像取得用・B像取得用の3枚のフィルタのそれぞれが、対応する撮像素子の分光特性のピーク波長域付近のみをそれぞれ透過する特性を有するようにする。測定の際には、3枚のカラーフィルタを切り替えて3つの画像を取得し、それぞれの画像からB、G、R信号を抽出する。この手法においては、3枚のフィルタを切り替える際に、照明条件や測定用チャートの位置を正確に一致させる必要がある。なお、3枚のカラーフィルタは、光路中に配設した1つのターレット上等に各々載設するようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、カラーフィルタが透過タイプのものとされているが、これを反射タイプのものとすることも可能である。
【0037】
以下、本発明の倍率色収差測定装置について、実施例によりさらに説明する。
【実施例】
【0038】
図9は、本実施例に
係る倍率色収差測定装置のカラーフィルタの分光特性を示すものである。
このカラーフィルタは、基本的に、前述した
図1に示すカラーフィルタと同様に構成されている。すなわち、ガラス等の透明板上に誘電体多層膜(例えば、TiO
2とSiO
2の交互層を繰り返し積層したもの)を蒸着法等を用いて形成したものであり、誘電体多層膜の各層の厚みを変化させることによって、互いに異なる分光透過特性を有する複数のカラーフィルタサンプルを形成した。具体的には、撮像素子における各色光に対する撮像特性のピーク位置を各々448nm(B光)、539nm(G光)、602nm(R光)に設定し、これら各ピーク位置を中心として、所定幅の狭帯域(以下、狭帯域幅Wと称する)のみを透過させるような分光透過特性を有するようにシミュレーションを用いて構成した。
【0039】
なお、サンプルは、上記挟帯域幅Wを、10nm、14nm、18nm、22nm、28nm、32nm、40nm、50nm、60nm、70nm、80nm、90nmとしたものについて各々作成した。これら各サンプルについて、測定光源(
図4の光源Aおよび光源Bと指称された分光分布を有する光源Aおよび光源B)の違いに基づく色ずれ量の変化を測定し、
図10(A)~(F)および
図11(G)~(L)のグラフとして表した。
【0040】
すなわち、
図10(A)は狭帯域幅Wが10nmのときの色ずれの状態を表すものであり、
図10(B)は狭帯域幅Wが14nmのときの色ずれの状態を表すものであり、
図10(C)は狭帯域幅Wが18nmのときの色ずれの状態を表すものであり、
図10(D)は狭帯域幅Wが22nmのときの色ずれの状態を表すものであり、
図10(E)は狭帯域幅Wが28nmのときの色ずれの状態を表すものであり、
図10(F)は狭帯域幅Wが32nmのときの色ずれの状態を表すものであり、
図11(G)は狭帯域幅Wが40nmのときの色ずれの状態を表すものであり、
図11(H)は狭帯域幅Wが50nmのときの色ずれの状態を表すものであり、
図11(I)は狭帯域幅Wが60nmのときの色ずれの状態を表すものであり、
図11(J)は狭帯域幅Wが70nmのときの色ずれの状態を表すものであり、
図11(K)は狭帯域幅Wが80nmのときの色ずれの状態を表すものであり、
図11(L)は狭帯域幅Wが90nmのときの色ずれの状態を表すものである。
【0041】
図10、11のシミュレーション結果からも明らかなように、Wの値が大きくなるほど、光源(照明条件)の違いにより生じる色ずれ量の差が大きくなる。すなわち、Wの値が大きくなるほど、本実施形態の
倍率色収差測定装置に係るカラーフィルタの効果が減少する。
【0042】
また、W=90nmのときの色ずれの状態は、カラーフィルタがない従来技術の場合のシミュレーション結果(
図5(A)を参照)とほぼ同様となる。すなわち、W=90nmのときには、本実施形態の
倍率色収差測定装置に係るカラーフィルタの効果は小さいものとなる。
【0043】
W=40nm以下であれば、カラーフィルタがない従来技術の場合のシミュレーション結果と比較して、色ずれの変化がある程度抑制されており、相応の効果が期待し得る。
さらに、W=20nm以下であれば、良好な精度を確保し得る。一方、Wの値を小さくするにしたがって、カメラに入射する光の量が減少するため、S/Nの低下等の面で測定の障害となる虞がある。このことから、色ずれの変化が抑制されて良好な精度を確保し得るとともに、S/Nの低下を測定の障害とならない程度に抑えるためには、通常用いる状況においては、Wの値を、例えば、10nm以上かつ20nm以下の範囲に設定することが好ましい。
ただし、色ずれの変化の抑制に伴う測定精度(≒W)の確保とS/Nとはトレードオフの関係となるので、S/Nが測定上問題となるような場合には、測定精度を敢えて落として(Wを広げて)、S/Nを確保する等、最適範囲を適宜選択していくことが肝要である。
【0044】
また、W=10nmのときの色ずれの状態は、通常用いる状況においては、略最良の状態(W<10nmとしても、色ずれの状態はW=10nmのときとほとんど変わらない)とされているので、このときのS/Nの低下等が許容できるのであれば、W=10nmを選択することが好ましい。
ただし、この場合にも、上記トレードオフの関係が成立することから、状況に応じてWの最適値を適宜選択することが肝要である。
【符号の説明】
【0045】
10、50、60、70 撮像レンズ
11 撮像装置
11A、51、61、71 撮像素子部
12、52、62、72 色収差測定部
53、63、73 カラーフィルタ
15、55、65、75 測定用チャート
16、56、66、76 照明