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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池用セパレータ
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/489 20210101AFI20221102BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20221102BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20221102BHJP
   H01M 50/42 20210101ALI20221102BHJP
   H01M 50/423 20210101ALI20221102BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20221102BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20221102BHJP
【FI】
H01M50/489
H01M50/417
H01M50/449
H01M50/42
H01M50/423
H01M50/426
H01M10/0566
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018195192
(22)【出願日】2018-10-16
(65)【公開番号】P2019079795
(43)【公開日】2019-05-23
【審査請求日】2021-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2017203454
(32)【優先日】2017-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127498
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100146329
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】阿部 玄之
(72)【発明者】
【氏名】江川 貴将
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-141644(JP,A)
【文献】特開2014-077127(JP,A)
【文献】特開2013-117013(JP,A)
【文献】特開2010-21043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
H01M 10/0566
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン多孔質フィルムを含み、
上記ポリオレフィン多孔質フィルムのMD方向およびTD方向における60度光沢度のMD/TD比の値が1.00以上であり、
前記ポリオレフィン多孔質フィルムは、ポリオレフィン系樹脂を50体積%以上含み、
前記ポリオレフィン系樹脂は、重量平均分子量が100万以上の高分子量成分を含む、非水電解液二次電池用セパレータ。
【請求項2】
さらに絶縁性多孔質層を備える、請求項1に記載の非水電解液二次電池用セパレータ。
【請求項3】
上記絶縁性多孔質層は、ポリオレフィン、(メタ)アクリレート系樹脂、含フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂および水溶性ポリマーからなる群より1種以上選択される樹脂を含む、請求項2に記載の非水電解液二次電池用セパレータ。
【請求項4】
上記ポリアミド系樹脂がアラミド樹脂である、請求項3に記載の非水電解液二次電池用セパレータ。
【請求項5】
正極と、請求項1から4のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用セパレータと、負極とがこの順で配置されてなる非水電解液二次電池用部材。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用セパレータを含む、非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池等の非水電解液二次電池は、現在、パーソナルコンピュータ、携帯電話および携帯情報端末等の機器に用いる電池、または車載用の電池として広く使用されている。
【0003】
このような非水電解液二次電池におけるセパレータとしては、例えば、特許文献1に、イオン透過性および機械強度に優れる非水電解液二次電池用セパレータを提供するために有用な多孔質基材として、空隙の平均孔径、気孔率および突き刺し強度等を特定の範囲としたポリエチレン微多孔膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-88188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非水電解液二次電池用セパレータは、保管、運搬および製造時の巻出し/巻取りセット等の際に応力がかかることによって、当該非水電解液二次電池用セパレータの少なくとも一部に折れが発生する場合がある。
【0006】
従来の非水電解液二次電池用セパレータにおいては、MD方向における上記折れの回復の度合いと、TD方向における上記折れの回復の度合いが大きく相違することによって、保管時、運搬時および製造時等において当該非水電解液二次電池用セパレータにしわおよび曲り等が発生し易く、取り扱い性等が十分に高くなかった。
【0007】
本発明の一態様は、このような問題点に鑑みなされたものであって、しわ回復角度の異方性の小さい非水電解液二次電池用セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の[1]~[6]に示す発明を含む。
[1]ポリオレフィン多孔質フィルムを含み、
上記ポリオレフィン多孔質フィルムのMD方向およびTD方向における60度光沢度のMD/TD比の値が1.00以上である、非水電解液二次電池用セパレータ。
[2]さらに絶縁性多孔質層を備える、〔1〕に記載の非水電解液二次電池用セパレータ。
[3]上記絶縁性多孔質層は、ポリオレフィン、(メタ)アクリレート系樹脂、含フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂および水溶性ポリマーからなる群より1種以上選択される樹脂を含む、[2]に記載の非水電解液二次電池用セパレータ。
[4]上記ポリアミド系樹脂がアラミド樹脂である、[3]に記載の非水電解液二次電池用セパレータ。
[5]正極と、[1]から[4]のいずれか1つに記載の非水電解液二次電池用セパレータと、負極とがこの順で配置されてなる非水電解液二次電池用部材。
[6][1]から[4]のいずれか1つに記載の非水電解液二次電池用セパレータを含む、非水電解液二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用セパレータは、しわ回復角度のTD/MDの比が1に近い値である非水電解液二次電池用セパレータを得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態に関して以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態に関しても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0011】
〔実施形態1:非水電解液二次電池用セパレータ]
本発明の実施形態1に係る非水電解液二次電池用セパレータは、ポリオレフィン多孔質フィルムを含み、上記ポリオレフィン多孔質フィルムのMD方向およびTD方向における60度光沢度のMD/TD比の値が1.00以上である。
【0012】
本発明の一実施形態において、「ポリオレフィン多孔質フィルムのMD方向およびTD方向における60度光沢度のMD/TD比の値」(以下、単に「光沢度のMD/TD比の値」とも称する)とは、本発明の一実施形態におけるポリオレフィン多孔質フィルムの60度光沢度の異方性を示すパラメータである。
【0013】
ここで、「60度光沢度」は、入射角および受光角が60度である場合の光沢度を意味する。具体的には、上記60度光沢度は、JIS Z8741に準拠し、ポリオレフィン多孔質フィルム表面の任意の箇所に対して、入射角60度にて光を照射した際の受光角が60度である反射光の強度を測定し、入射光の強度に対する上記反射光の強度の割合から算出される。
【0014】
本発明の一実施形態において、光沢度を測定する際にポリオレフィン多孔質フィルムに照射する入射光の方向および当該入射光がポリオレフィン多孔質フィルムに反射された反射光の方向が共にポリオレフィン多孔質フィルムのMD方向(Machine Direction)と平行な方向である場合の光沢度を「MD光沢度」と称し、上記入射光の方向および上記反射光の方向が共にポリオレフィン多孔質フィルムのTD方向(Transverse Direction)と平行な方向である場合の光沢度を「TD光沢度」と称する。ここで、ポリオレフィン多孔質フィルムのMD方向とは、当該ポリオレフィン多孔質フィルムを製造する際の機械方向、すなわち、長手方向を意味し、ポリオレフィン多孔質フィルムのTD方向とは、それに直交する方向を意味する。
【0015】
本発明の一実施形態において、上記「光沢度のMD/TD比の値」とは、「TD光沢度」に対する「MD光沢度」の割合(「MD光沢度」/「TD光沢度」の値)である。
【0016】
従来のポリオレフィン多孔質フィルムは、「光沢度のMD/TD比の値」が1.00未満でありしわ等が発生し易かった。一方、本発明の一実施形態におけるポリオレフィン多孔質フィルムにおいては、MD光沢度がTD光沢度以上になる、すなわち、「光沢度のMD/TD比の値」が1.00以上であり、しわ回復角度のTD/MD比(後述)が1に近い値となることで、しわ等の発生が抑制されることがわかった。
【0017】
ポリオレフィン多孔質フィルムの光沢度は、ポリオレフィン多孔質フィルムの表面状態および内部状態の影響を受ける。本発明の一実施形態におけるポリオレフィン多孔質フィルムにおいては、例えば、後述する物理処理等を行い、ポリオレフィン多孔質フィルムの表面状態および内部状態へ影響を与えることで、「MD光沢度」および「TD光沢度」の値を調整することができる。その結果、「光沢度のMD/TD比の値」を1.00以上に制御することができる。
【0018】
本発明の一実施形態におけるポリオレフィン多孔質フィルムにおいて、「光沢度のMD/TD比の値」が1.00以上であることにより、MD方向のしわおよび折れ等からの回復の度合いと、TD方向のしわおよび折れ等からの回復の度合いとの差異が減少する。その結果、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用セパレータのMD方向のしわおよび折れ等からの回復の度合いと、TD方向のしわおよび折れ等からの回復の度合いがほぼ同等となり、後述する「しわ回復角度のTD/MD比の値」を1に近い値とすることができる。このように、しわ等からの回復の度合いの異方性を低減することによって、保管時、運搬時および製造時等において、当該非水電解液二次電池用セパレータのように薄く、取扱いが難しい素材であっても、その取り扱い性を向上させることができる。
【0019】
本発明の一実施形態におけるポリオレフィン多孔質フィルムの「光沢度のMD/TD比の値」は、1.00以上である。
【0020】
また、本発明の一実施形態におけるポリオレフィン多孔質フィルムの「光沢度のMD/TD比の値」は、2.00以下であってもよく、1.85以下であってもよい。
【0021】
なお、本発明の一実施形態において、通常、上記ポリオレフィン多孔質フィルム表面の任意の複数の箇所にMD方向またはTD方向から入射光を照射して、それぞれの箇所におけるMD方向またはTD方向における反射光の強度を求める。そして、当該反射光の強度から、それぞれの箇所における光沢度(「MD光沢度」、「TD光沢度」)を測定した後、それぞれの箇所における光沢度を平均することによって、当該ポリオレフィン多孔質フィルムの光沢度を算出する。
【0022】
上記ポリオレフィン多孔質フィルムの光沢度の均一性の観点から、それぞれの箇所にて測定される「MD光沢度」の標準偏差は、8.0以下が好ましく、5.0以下であることがより好ましく、4.0以下であることがさらに好ましい。同様に、それぞれの箇所にて測定される「TD光沢度」の標準偏差は、8.0以下が好ましく、5.0以下であることがより好ましく、4.0以下であることがさらに好ましい。
【0023】
また、本発明の一実施形態における上記ポリオレフィン多孔質フィルムは、少なくとも片面の「光沢度のMD/TD比の値」が1.00以上であればよく、両面共に「光沢度のMD/TD比の値」が1.00以上であることがより好ましい。
【0024】
また、少なくとも片面において、「MD光沢度」の標準偏差および「TD光沢度」の標準偏差が、双方共に8.0以下であることが好ましく、両面において、「MD光沢度」の標準偏差および「TD光沢度」の標準偏差が、双方共に8.0以下であることがより好ましい。
【0025】
本発明の一実施形態において、ポリオレフィン多孔質フィルムのしわおよび折れ等からの回復の度合いは、「しわ回復角度」にて表される。上記しわ回復角度は、23℃、50%RHの環境下にてJIS L 1059-1(2009)に規定される4.9N荷重法によって測定される。
【0026】
また、上記しわおよび折れ等からの回復の度合いの異方性は、「MDしわ回復角度」に対する「TDしわ回復角度」の割合(「TDしわ回復角度」/「MDしわ回復角度」の値)にて表される。ここで、「TDしわ回復角度」とは、ポリオレフィン多孔質フィルムのTDが長手方向(40mm)となるように作製された試験片を用いて得られた、回復角度を意味する。また、MDしわ回復角度とは、ポリオレフィン多孔質フィルムのMDが長手方向(40mm)となるように作製された試験片を用いて得られた、回復角度を意味する。なお、本明細書において、「TDしわ回復角度」/「MDしわ回復角度」の値を「しわ回復角度のTD/MD比の値」とも称する。
【0027】
本発明の一実施形態におけるポリオレフィン多孔質フィルムの「しわ回復角度のTD/MD比の値」は、0.5以上であることが好ましい。また、2.0以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましい。「しわ回復角度のTD/MD比の値」が上述の範囲であることにより、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用セパレータは、保管時、運搬時および製造時等において、その取り扱い性をより向上させることができるため好ましい。ポリオレフィン多孔質フィルムの取り扱い性をより向上させる観点からは、上記「しわ回復角度のTD/MD比の値」は1に近い値であるほど好ましい。
【0028】
本発明の実施形態1に係る非水電解液二次電池用セパレータは、通常、ポリオレフィン多孔質フィルムを含み、好ましくは、ポリオレフィン多孔質フィルムからなる。また、本発明の実施形態1に係る非水電解液二次電池用セパレータは、上記ポリオレフィン多孔質フィルムおよび後述する絶縁性多孔質層を含む積層体である非水電解液二次電池用セパレータ(以下、非水電解液二次電池用積層セパレータとも称することがある)であり得る。さらに、本発明の実施形態1に係る非水電解液二次電池用セパレータは、必要に応じて、上記絶縁性多孔質層以外の多孔質層として、後述する耐熱層、接着層、保護層等の公知の多孔質層を含み得る。
【0029】
ここで、「ポリオレフィン多孔質フィルム」とは、ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質フィルムである。また、「ポリオレフィン系樹脂を主成分とする」とは、多孔質フィルムに占めるポリオレフィン系樹脂の割合が、多孔質フィルムを構成する材料全体の50体積%以上、好ましくは90体積%以上であり、より好ましくは95体積%以上であることを意味する。上記ポリオレフィン多孔質フィルムは、本発明の一実施形態における非水電解液二次電池用セパレータの基材となり得る。
【0030】
上記ポリオレフィン多孔質フィルムは、その内部に連結した細孔を多数有しており、一方の面から他方の面に気体や液体を通過させることが可能となっている。
【0031】
上記ポリオレフィン系樹脂には、重量平均分子量が3×10~15×10の高分子量成分が含まれていることがより好ましい。特に、ポリオレフィン系樹脂に重量平均分子量が100万以上の高分子量成分が含まれていると、上記ポリオレフィン多孔質フィルムの強度が向上するのでより好ましい。
【0032】
上記ポリオレフィン多孔質フィルムの主成分であるポリオレフィン系樹脂は、特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂である、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン等の単量体が重合されてなる単独重合体(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン)および共重合体(例えば、エチレン-プロピレン共重合体)が挙げられる。ポリオレフィン多孔質フィルムは、これらのポリオレフィン系樹脂を単独にて含む層、または、これらのポリオレフィン系樹脂の2種以上を含む層であり得る。
【0033】
このうち、過大電流が流れることをより低温で阻止(シャットダウン)することができるため、ポリエチレンが好ましく、特に、エチレンを主体とする高分子量のポリエチレンがより好ましい。なお、ポリオレフィン多孔質フィルムは、当該層の機能を損なわない範囲で、ポリオレフィン以外の成分を含むことを妨げない。
【0034】
ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状ポリエチレン(エチレン-α-オレフィン共重合体)、重量平均分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレン等が挙げられ、このうち、重量平均分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレンがさらに好ましく、重量平均分子量が5×10~15×10の高分子量成分が含まれていることがさらに好ましい。
【0035】
上記ポリオレフィン多孔質フィルムの膜厚は、特に限定されないが、4~40μmであることが好ましく、5~20μmであることがより好ましい。
【0036】
上記ポリオレフィン多孔質フィルムの膜厚が4μm以上であれば、電池の内部短絡を十分に防止することができるという観点から好ましい。
【0037】
一方、上記ポリオレフィン多孔質フィルムの膜厚が40μm以下であれば、非水電解液二次電池の大型化を防ぐことができるという観点から好ましい。
【0038】
従来の非水電解液二次電池用セパレータにおいて、ポリオレフィン多孔質フィルムの膜厚が20μm以下である場合、しわおよび曲り等がより発生し易いため、当該非水電解液二次電池用セパレータの取り扱い性等が悪化する。
【0039】
一方、本願発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用セパレータは、しわ等からの回復の度合いの異方性が抑制されるため、ポリオレフィン多孔質フィルムの膜厚が20μm以下であっても、しわおよび曲り等が抑制される。それゆえ、従来の非水電解液二次電池用セパレータと比較して、取扱い性が顕著に向上する傾向がある。
【0040】
上記ポリオレフィン多孔質フィルムの単位面積当たりの重量目付は、電池の、重量エネルギー密度や体積エネルギー密度を高くすることができるように、通常、4~20g/mであることが好ましく、5~12g/mであることがより好ましい。
【0041】
上記ポリオレフィン多孔質フィルムの透気度は、十分なイオン透過性を示すという観点から、ガーレ値で30~500sec/100mLであることが好ましく、50~300sec/100mLであることがより好ましい。
【0042】
上記ポリオレフィン多孔質フィルムの空隙率は、電解液の保持量を高めると共に、過大電流が流れることをより低温で確実に阻止(シャットダウン)する機能を得ることができるように、20体積%~80体積%であることが好ましく、30~75体積%であることがより好ましい。
【0043】
[ポリオレフィン多孔質フィルムの製造方法]
本発明の一実施形態におけるポリオレフィン多孔質フィルムの製造方法としては、特に限定されるものではなく、公知の乾式方法または湿式方法等の製造方法を用いることができる。一例として、ポリオレフィン系樹脂をシート状に成形した後、得られたシートを延伸して得た延伸フィルムに対して、物理処理を行う方法を挙げることができる。例えば、ポリオレフィン系樹脂に炭酸カルシウムまたは可塑剤等の孔形成剤を加えてシート状に成形した後、該孔形成剤を適当な溶媒で除去する方法によって得られたシートを延伸して得た延伸フィルムに対して、物理処理を行う方法としてもよい。
【0044】
上記物理処理としては、例えば、延伸フィルムに対して、MD方向に紙やすりまたは紙ワイパー等にて擦る方法、延伸フィルムに対して凹凸などのパターン化された形状を有するロールを接触通過させる方法、および延伸フィルムに対してロールを接触通過させる際にフィルム搬送速度とロール回転速度に差を設けて擦る方法から選ばれる一以上の方法などを挙げることができる。
【0045】
上記製造方法について、より具体的に説明する。例えば、ポリオレフィン多孔質フィルムが、ポリエチレン若しくはポリプロピレンを含むポリオレフィン樹脂から形成されてなる場合には、以下に示す工程を含むような方法により、ポリオレフィン多孔質フィルムを製造することが好ましい。
(1)ポリエチレン若しくはポリプロピレン、またはポリエチレンとポリプロピレンとの混合物と、孔形成剤とを混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る工程
(2)工程(1)で得られたポリオレフィン樹脂組成物を用いてシートを成形する工程
(3)工程(2)で得られたシートから孔形成剤を除去する工程
(4)工程(3)で得られたシートを延伸して延伸フィルムを得る工程
(5)工程(4)で得られた延伸フィルムに対して上記物理処理を行い、ポリオレフィン多孔質フィルムを得る工程
ここで、上記工程(3)と上記工程(4)とは順序が逆であってもよい。すなわち、上記工程(3)が、工程(3a):「工程(2)で得られたシートを延伸して延伸フィルムを得る工程」であり、かつ、上記工程(4)が工程(4a):「工程(3a)で得られた延伸フィルムから孔形成剤を除去する工程」であってもよい。
【0046】
また、例えば、ポリオレフィン多孔質フィルムが、超高分子量ポリエチレンおよび重量平均分子量1万以下の低分子量ポリオレフィンを含むポリオレフィン樹脂から形成されてなる場合には、以下に示す工程を含むような方法により、ポリオレフィン多孔質フィルムを製造することが好ましい。
(1´)超高分子量ポリエチレン100重量部と、重量平均分子量1万以下の低分子量ポリオレフィン5~200重量部と、炭酸カルシウム等の孔形成剤100~400重量部とを混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る工程
(2´)工程(1’)で得られたポリオレフィン樹脂組成物を用いてシートを成形する工程
(3´)工程(2´)で得られたシート中から孔形成剤を除去する工程
(4´)工程(3´)で得られたシートを延伸して延伸フィルムを得る工程
(5´)工程(4´)で得られた延伸フィルムに対して上記物理処理を行い、ポリオレフィン多孔質フィルムを得る工程。
【0047】
なお、本発明の一実施形態におけるポリオレフィン多孔質フィルムとしては、工程(5)または工程(5´)の上記物理処理を行う代わりに、工程(2)若しくは工程(2´)のシートを成形する条件、および/または、工程(4)、工程(3a)若しくは工程(4´)の延伸条件等の製造条件を調整することによって、「光沢度のMD/TD比の値」が1.00以上となるように表面の状態を制御したポリオレフィン多孔質フィルムを使用することもできる。
【0048】
[絶縁性多孔質層]
本発明の実施形態1に係る非水電解液二次電池用セパレータが、非水電解液二次電池用積層セパレータである場合、上記ポリオレフィン多孔質フィルムと、上記ポリオレフィン多孔質フィルム上に積層された絶縁性多孔質層とを含むことが好ましい。
【0049】
上記絶縁性多孔質層(以下、単に「多孔質層」とも称する)は、通常、樹脂を含んでなる樹脂層であり、好ましくは、耐熱層または接着層である。上記絶縁性多孔質層に用いられる樹脂は、電池の電解液に不溶であり、また、その電池の使用範囲において電気化学的に安定であることが好ましい。
【0050】
多孔質層は、必要に応じて、上記ポリオレフィン多孔質フィルムの片面または両面に積層される。ポリオレフィン多孔質フィルムの片面に多孔質層が積層される場合には、当該多孔質層は、好ましくは、非水電解液二次電池としたときの、ポリオレフィン多孔質フィルムにおける正極と対向する面に積層され、より好ましくは、正極と接する面に積層される。
【0051】
多孔質層に用いられる樹脂としては、例えば、ポリオレフィン;(メタ)アクリレート系樹脂;含フッ素樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリエステル系樹脂;ゴム類;融点またはガラス転移温度が180℃以上の樹脂;水溶性ポリマー;ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン等が挙げられる。
【0052】
上述の樹脂のうち、ポリオレフィン、(メタ)アクリレート系樹脂、含フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂および水溶性ポリマーが好ましい。
【0053】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、及びエチレン-プロピレン共重合体等が好ましい。
【0054】
含フッ素樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリクロロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-フッ化ビニル共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、及びエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等、並びに、前記含フッ素樹脂の中でもガラス転移温度が23℃以下である含フッ素ゴムを挙げることができる。
【0055】
ポリアミド系樹脂としては、芳香族ポリアミドおよび全芳香族ポリアミドなどのアラミド樹脂が好ましい。
【0056】
アラミド樹脂としては、具体的には、例えば、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)、ポリ(パラベンズアミド)、ポリ(メタベンズアミド)、ポリ(4,4’-ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン-4,4’-ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(メタフェニレン-4,4’-ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(パラフェニレン-2,6-ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(メタフェニレン-2,6-ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(2-クロロパラフェニレンテレフタルアミド)、パラフェニレンテレフタルアミド/2,6-ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体、メタフェニレンテレフタルアミド/2,6-ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体等が挙げられる。このうち、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)がより好ましい。
ポリエステル系樹脂としては、ポリアリレートなどの芳香族ポリエステルおよび液晶ポリエステルが好ましい。
【0057】
ゴム類としては、スチレン-ブタジエン共重合体およびその水素化物、メタクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリ酢酸ビニル等を挙げることができる。
【0058】
融点又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂としては、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルアミド等を挙げることができる。
【0059】
水溶性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、セルロースエーテル、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸等を挙げることができる。
【0060】
なお、多孔質層に用いられる樹脂としては、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
多孔質層は、微粒子を含んでもよい。本明細書における微粒子とは、一般にフィラーと称される有機微粒子または無機微粒子のことである。従って、多孔質層が微粒子を含む場合、多孔質層に含まれる上述の樹脂は、微粒子同士、並びに微粒子とポリオレフィン多孔質フィルムとを結着させるバインダー樹脂としての機能を有することとなる。また、上記微粒子は、絶縁性微粒子が好ましい。
【0062】
多孔質層に含まれる有機微粒子としては、樹脂からなる微粒子が挙げられる。
【0063】
多孔質層に含まれる無機微粒子としては、具体的には、例えば、炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、シリカ、ハイドロタルサイト、珪藻土、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、ベーマイト、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、窒化チタン、アルミナ(酸化アルミニウム)、窒化アルミニウム、マイカ、ゼオライトおよびガラス等の無機物からなるフィラーが挙げられる。これらの無機微粒子は、絶縁性微粒子である。上記微粒子は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
上記微粒子のうち、無機物からなる微粒子が好適であり、シリカ、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、アルミナ、マイカ、ゼオライト、水酸化アルミニウム、またはベーマイト等の無機酸化物からなる微粒子がより好ましく、シリカ、酸化マグネシウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、ベーマイトおよびアルミナからなる群から選択される少なくとも1種の微粒子がさらに好ましく、アルミナが特に好ましい。
【0065】
多孔質層における微粒子の含有量は、多孔質層の1~99体積%であることが好ましく、5~95体積%であることがより好ましい。微粒子の含有量を上記範囲とすることにより、微粒子同士の接触によって形成される空隙が、樹脂等によって閉塞されることが少なくなる。よって、十分なイオン透過性を得ることができると共に、単位面積当たりの目付を適切な値にすることができる。
【0066】
微粒子は、粒子または比表面積が互いに異なる2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
多孔質層の厚さは、一層あたり0.5~15μmであることが好ましく、一層あたり1~10μmであることがより好ましい。
【0068】
多孔質層の厚さが、一層あたり0.5μm未満であると、電池の破損等による内部短絡を十分に防止することができない場合がある。また、多孔質層における電解液の保持量が低下する場合がある。一方、多孔質層の厚さが、一層あたり15μmを超えると、電池特性が低下する場合がある。
【0069】
多孔質層の単位面積当たりの重量目付は、一層あたり1~20g/mであることが好ましく、一層あたり1~10g/mであることがより好ましい。
【0070】
また、多孔質層の1平方メートル当たりに含まれる多孔質層構成成分の体積は、一層あたり0.5~20cmであることが好ましく、一層あたり1~10cmであることがより好ましく、一層あたり2~7cmであることがさらに好ましい。
【0071】
多孔質層の空隙率は、十分なイオン透過性を得ることができるように、20~90体積%であることが好ましく、30~80体積%であることがより好ましい。また、多孔質層が有する細孔の孔径は、非水電解液二次電池用積層セパレータが十分なイオン透過性を得ることができるように、3μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。
【0072】
[非水電解液二次電池用積層セパレータ]
本発明の実施形態1に係る非水電解液二次電池用セパレータは、非水電解液二次電池用積層セパレータである積層体であり得る。
【0073】
上記積層体の膜厚は、5.5μm~45μmであることが好ましく、6μm~25μmであることがより好ましく、6μm~20μmであることがさらに好ましい。
【0074】
従来の積層体の膜厚が20μm以下である場合、しわおよび曲り等がより発生し易く、取り扱い性等がより難しくなる。本発明の一実施形態に係る上記積層体は、しわ等からの回復の度合いの異方性が抑制されるため、膜厚が20μm以下であっても、しわおよび曲り等が抑制される。それゆえ、従来の積層体と比較して、取扱い性がより顕著に向上する傾向がある。
【0075】
上記積層体の透気度は、ガーレ値で30~1000sec/100mLであることが好ましく、50~800sec/100mLであることがより好ましい。
【0076】
[非水電解液二次電池用積層セパレータ(積層体)の製造方法]
本発明の一実施形態における非水電解液二次電池用積層セパレータ(積層体)の製造方法としては、例えば、後述する塗工液を本発明の一実施形態におけるポリオレフィン多孔質フィルムの表面に塗布し、乾燥させることによって絶縁性多孔質層を析出させる方法が挙げられる。
【0077】
なお、上記塗工液を本発明の一実施形態におけるポリオレフィン多孔質フィルムの表面に塗布する前に、当該ポリオレフィン多孔質フィルムの塗工液を塗布する表面に対して、必要に応じて親水化処理を行うことができる。
【0078】
本発明の一実施形態における非水電解液二次電池用積層セパレータ(積層体)の製造方法に使用される塗工液は、通常、上述の多孔質層に含まれ得る樹脂を溶媒に溶解させると共に、上述の多孔質層に含まれ得る微粒子を分散させることにより調製され得る。ここで、樹脂を溶解させる溶媒は、微粒子を分散させる分散媒を兼ねている。ここで、樹脂は溶媒に溶解せずエマルションとして上記塗工液中に含まれていてもよい。
【0079】
上記溶媒(分散媒)は、ポリオレフィン多孔質フィルムに悪影響を及ぼさず、上記樹脂を均一かつ安定に溶解し、上記微粒子を均一かつ安定に分散させることができればよく、特に限定されるものではない。上記溶媒(分散媒)としては、具体的には、例えば、水および有機溶媒が挙げられる。上記溶媒は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
塗工液は、所望の多孔質層を得るのに必要な樹脂固形分(樹脂濃度)や微粒子量等の条件を満足することができれば、どのような方法で形成されてもよい。塗工液の形成方法としては、具体的には、例えば、機械攪拌法、超音波分散法、高圧分散法、メディア分散法等が挙げられる。
【0081】
また、上記塗工液は、本発明の目的を損なわない範囲で、上記樹脂および微粒子以外の成分として、分散剤や可塑剤、界面活性剤、pH調整剤等の添加剤を含んでいてもよい。尚、添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない範囲であればよい。
【0082】
塗工液のポリオレフィン多孔質フィルムへの塗布方法、つまり、ポリオレフィン多孔質フィルムの表面への多孔質層の形成方法は、特に制限されるものではない。多孔質層の形成方法としては、例えば、塗工液をポリオレフィン多孔質フィルムの表面に直接塗布した後、溶媒(分散媒)を除去する方法;塗工液を適当な支持体に塗布し、溶媒(分散媒)を除去して多孔質層を形成した後、この多孔質層とポリオレフィン多孔質フィルムとを圧着させ、次いで支持体を剥がす方法;塗工液を適当な支持体に塗布した後、塗布面にポリオレフィン多孔質フィルムを圧着させ、次いで支持体を剥がした後に溶媒(分散媒)を除去する方法等が挙げられる。
【0083】
塗工液の塗布方法としては、従来公知の方法を採用することができ、具体的には、例えば、グラビアコーター法、ディップコーター法、バーコーター法、およびダイコーター法等が挙げられる。
【0084】
溶媒(分散媒)の除去方法は、乾燥による方法が一般的である。また、塗工液に含まれる溶媒(分散媒)を他の溶媒に置換してから乾燥を行ってもよい。
【0085】
上記のように、ポリオレフィン多孔質フィルムの片面または両面に上記絶縁性多孔質層が積層されて非水電解液二次電池用積層セパレータが得られる。
【0086】
[実施形態2:非水電解液二次電池用部材、実施形態3:非水電解液二次電池]
本発明の実施形態2に係る非水電解液二次電池用部材は、正極、本発明の実施形態1に係る非水電解液二次電池用セパレータ、および負極がこの順で配置されてなる。
【0087】
本発明の実施形態3に係る非水電解液二次電池は、本発明の実施形態1に係る非水電解液二次電池用セパレータを含む。
【0088】
本発明の実施形態3に係る非水電解液二次電池は、例えば、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池であって、正極と、本発明の実施形態1に係る非水電解液二次電池用セパレータと、負極とがこの順で積層されてなる非水電解液二次電池部材を備え得る。なお、非水電解液二次電池用セパレータ以外の非水電解液二次電池の構成要素は、下記説明の構成要素に限定されるものではない。
【0089】
本発明の実施形態3に係る非水電解液二次電池は、通常、負極と正極とが、本発明の実施形態1に係る非水電解液二次電池用セパレータを介して対向した構造体に電解液が含浸された電池要素が、外装材内に封入された構造を有する。非水電解液二次電池は、非水電解質二次電池、特にはリチウムイオン二次電池であることが好ましい。なお、ドープとは、吸蔵、担持、吸着、または挿入を意味し、正極等の電極の活物質にリチウムイオンが入る現象を意味する。
【0090】
本発明の実施形態2に係る非水電解液二次電池部材は、本発明の実施形態1に係る非水電解液二次電池用セパレータを備えている。当該非水電解液二次電池用セパレータは、上記「光沢度のMD/TD比の値」が1.00以上に制御されているため、上記「しわ回復角度のTD/MD比の値」が1に近い値を示すことができる。すなわち、しわ等からの回復の度合いの異方性が抑制されるため、当該非水電解液二次電池用セパレータは取扱い性に優れている。従って、本発明の実施形態2に係る非水電解液二次電池部材は、容易に製造することができるという効果を奏する。本発明の実施形態3に係る非水電解液二次電池も、本発明の実施形態1に係る非水電解液二次電池用セパレータを備えているため、容易に製造することができるという効果を奏する。
【0091】
<正極>
本発明の実施形態2に係る非水電解液二次電池部材および本発明の実施形態3に係る非水電解液二次電池における正極としては、一般に非水電解液二次電池の正極として使用されるものであれば、特に限定されない。上記正極としては、例えば、正極活物質およびバインダー樹脂を含む活物質層が集電体上に成形された構造を備える正極シートを使用することができる。なお、上記活物質層は、更に導電剤を含んでもよい。
【0092】
上記正極活物質としては、例えば、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料が挙げられる。当該材料としては、具体的には、例えば、V、Mn、Fe、CoおよびNi等の遷移金属を少なくとも1種類含んでいるリチウム複合酸化物が挙げられる。
【0093】
上記導電剤としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維および有機高分子化合物焼成体等の炭素質材料等が挙げられる。上記導電剤は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0094】
上記結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂、アクリル樹脂、並びに、スチレンブタジエンゴムが挙げられる。なお、結着剤は、増粘剤としての機能も有している。上記結着剤は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0095】
上記正極集電体としては、例えば、Al、Niおよびステンレス等の導電体が挙げられる。中でも、薄膜に加工し易く、安価であることから、Alがより好ましい。
【0096】
シート状の正極の製造方法としては、例えば、正極活物質、導電剤および結着剤を正極集電体上で加圧成型する方法;適当な有機溶剤を用いて正極活物質、導電剤および結着剤をペースト状にした後、当該ペーストを正極集電体に塗工し、乾燥した後に加圧して正極集電体に固着する方法;等が挙げられる。
【0097】
<負極>
実施形態2に係る非水電解液二次電池部材および本発明の実施形態3に係る非水電解液二次電池における負極としては、一般に非水電解液二次電池の負極として使用されるものであれば、特に限定されない。上記負極としては、例えば、負極活物質およびバインダー樹脂を含む活物質層が集電体上に成形された構造を備える負極シートを使用することができる。なお、上記活物質層は、更に導電剤を含んでもよい。
【0098】
上記負極活物質としては、例えば、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料、リチウム金属またはリチウム合金等が挙げられる。当該材料としては、例えば、炭素質材料等が挙げられる。炭素質材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、および熱分解炭素類等が挙げられる。上記導電剤としては、上記正極活物質層に含まれ得る導電剤として<正極>の項に記載した導電剤を使用することができる。
【0099】
上記負極集電体としては、例えば、Cu、Niおよびステンレス等が挙げられ、特にリチウムイオン二次電池においてはリチウムと合金を作り難く、かつ薄膜に加工し易いことから、Cuがより好ましい。
【0100】
シート状の負極の製造方法としては、例えば、負極活物質を負極集電体上で加圧成型する方法;適当な有機溶剤を用いて負極活物質をペースト状にした後、当該ペーストを負極集電体に塗工し、乾燥した後に加圧して負極集電体に固着する方法;等が挙げられる。上記ペーストには、好ましくは上記導電剤、および、上記結着剤が含まれる。
【0101】
<非水電解液>
本発明の実施形態3に係る非水電解液二次電池における非水電解液は、一般に非水電解液二次電池に使用される非水電解液であれば特に限定されない。上記非水電解液としては、例えば、リチウム塩を有機溶媒に溶解してなる非水電解液を用いることができる。リチウム塩としては、例えば、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、Li10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩およびLiAlCl等が挙げられる。上記リチウム塩は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0102】
非水電解液を構成する有機溶媒としては、例えば、カーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、アミド類、カーバメート類および含硫黄化合物、並びにこれらの有機溶媒にフッ素基が導入されてなる含フッ素有機溶媒等が挙げられる。上記有機溶媒は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0103】
<非水電解液二次電池用部材および非水電解液二次電池の製造方法>
本発明の実施形態2に係る非水電解液二次電池用部材の製造方法としては、例えば、上記正極、本発明の実施形態1に係る非水電解液二次電池用セパレータおよび負極をこの順で配置する方法が挙げられる。
【0104】
また、本発明の実施形態3に係る非水電解液二次電池の製造方法としては、例えば、上記方法にて非水電解液二次電池用部材を形成した後、非水電解液二次電池の筐体となる容器に当該非水電解液二次電池用部材を入れ、次いで、当該容器内を非水電解液で満たした後、減圧しつつ密閉することにより、本発明の実施形態3に係る非水電解液二次電池を製造する方法が挙げられる。
【実施例
【0105】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0106】
[測定方法]
実施例1~8および比較例1~5にて製造された非水電解液二次電池用セパレータおよび比較用非水電解液二次電池用セパレータの物性等を、以下の方法によって測定した。
【0107】
<光沢度>
JIS Z8741に準拠し、入射角および受光角を60°として以下のように測定した。
【0108】
実施例1~8および比較例1~5に記載のポリオレフィン多孔質フィルムをA4サイズに切り出した。ハンディ型光沢度計(日本電色工業製、型式:PG-IIM、測定範囲:10.0mm×20.0mm)を用いて、KB用紙(コクヨ株式会社製、品番;KB-39N)を1枚下敷きとして、その上に、上記A4サイズのポリオレフィン多孔質フィルムを載せ、当該ポリオレフィン多孔質フィルムの光沢度を測定した。
【0109】
測定は、入射から受光までの方向がポリオレフィン多孔質フィルムのMD方向と同じである場合の値をMD光沢度とし、入射から受光までの方向がポリオレフィン多孔質フィルムのTD方向と同じである場合の値をTD光沢度として、1方向につき任意の箇所で7回実施した。7回測定後、7つの測定値のうち最も高い数値と最も低い数値を除いた5つの測定値の平均値をそれぞれの方向における光沢度、すなわち「MD光沢度」、「TD光沢度」とした。また、「MD光沢度」を「TD光沢度」で除した値の小数点第3位を四捨五入した値を「光沢度のMD/TD比の値」とした。なお、光沢度を測定した面と、後述するしわ回復角度を測定した(折り返す谷側の)面とは同一の面である。
【0110】
続いて、それぞれの方向における上記5つの測定値を使用して、「MD光沢度」の標準偏差および「TD光沢度」の標準偏差を算出した。算出した標準偏差の小数点第2位を四捨五入した値を、「MD方向の標準偏差」および「TD方向の標準偏差」とした。
【0111】
<しわ回復角度>
実施例3~8および比較例4、5に記載のポリオレフィン多孔質フィルムのしわ回復角度を、23℃、50%RHの環境下で、JIS L 1059-1(2009)に規定される4.9N荷重法によって測定した。
【0112】
具体的には、実施例3~8および比較例4、5に記載のポリオレフィン多孔質フィルムを15mm×40mmに切断して試験片を作製した。上記試験片を、モンサント・リカバリーテスター(大栄科学精器製作所製、型式:MR-1)に付属の金属板ホルダに挟み込んだ。この際、試験片の金属板ホルダに重なる部分の長さは、長手方向に18mmであった。
【0113】
次に、試験片の金属板ホルダから出ている部分を折り返した。金属板ホルダは長さの異なる2枚の金属板からなる。短い方の金属板の端部を起点として上記試験片の上面が谷となるように当該試験片を折り返した。
【0114】
さらに、金属板ホルダを、長辺が95mm、短辺が20mmのプラスチックプレスホルダに挟み込んだ。この際、試験片の折り返した部分が重なるようにプラスチックプレスホルダに挟み込んだ。続いて、プラスチックプレスホルダの試験片が存在する一端側の上に、重さ500g、直径40mmの分銅を載置した。5分後、分銅を取り外し、プラスチックプレスホルダから金属板ホルダを取り出した。
【0115】
その後、試験片を挟んだまま金属板ホルダを裏返し、モンサント・リカバリーテスターの金属板ホルダ支持架に差し込んだ。この際、試験片の金属板ホルダから出ている部分が鉛直下側になるように差し込んだ。試験片の懸垂している部分がモンサント・リカバリーテスターの中心にある垂線と常に一致するように、モンサント・リカバリーテスターの回転板を回転させた。5分後、モンサント・リカバリーテスターの分度器の目盛を読み取り、この時の数値をしわ回復角度とした。以上のしわ回復角度の測定を1条件につき3回実施し、その平均値を「しわ回復角度」とした。
【0116】
なお、上記ポリオレフィン多孔質フィルムのTDが長手方向(40mm)となるように作製された試験片に対して上述のしわ回復角度の測定を行い、得られた「しわ回復角度」の値を「TDしわ回復角度」とした。また、上記ポリオレフィン多孔質フィルムのMDが長手方向(40mm)となるように作製された試験片に対して上述のしわ回復角度の測定を行い、得られた「しわ回復角度」の値を「MDしわ回復角度」とした。
【0117】
また、「TD回復角度」を「MD回復角度」で除した値の小数点第3位を四捨五入した値を「しわ回復角度のTD/MD比の値」とした。
【0118】
[比較例1]
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR2024、ティコナ社製)を68重量%、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP-0115、日本精鑞社製)32重量%、この超高分子量ポリエチレンとポリエチレンワックスとの合計を100重量部として、フェノール系酸化防止剤1を0.4重量部、リン系酸化防止剤2を0.1重量部、ステアリン酸ナトリウムを1.3重量部加え、更に全体積に対して38体積%となるように平均孔径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合した後、二軸混練機で溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物とした。
【0119】
当該ポリオレフィン樹脂組成物を、表面温度が150℃である一対のロールにて圧延し、シートを作製した。このシートを塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5重量%)に浸漬させることで炭酸カルシウムを除去し、続いて株式会社市金工業社製の一軸延伸型テンター式延伸機を用いて、熱固定領域の温度を126℃に設定して炭酸カルシウムを除去した上記シートを105℃で6.2倍に延伸し、ポリオレフィン多孔質フィルム1を得た。ポリオレフィン多孔質フィルム1を比較用非水電解液二次電池用セパレータ1とした。得られたポリオレフィン多孔質フィルム1の厚みは、株式会社ミツトヨ製の高精度デジタル測長機VL-50Aで測定したところ20μm以下であった。
【0120】
[比較例2]
比較用非水電解液二次電池用セパレータ1の表面をTD方向に紙やすり(株式会社ノリタケコーテッドアブレーシブ製;耐水研磨紙「C947H」、粒度1200)で擦ることによって物理処理を行うことにより、比較用非水電解液二次電池用セパレータ2を得た。比較用非水電解液二次電池用セパレータ2の「光沢度のMD/TD比の値」は、0.70であった。
【0121】
[比較例3]
比較用非水電解液二次電池用セパレータ1の表面をTD方向に、紙ワイパー(日本製紙クレシア株式会社製;「キムタオル」)で擦ることによって物理処理を行うことにより、比較用非水電解液二次電池用セパレータ3を得た。比較用非水電解液二次電池用セパレータ3の「光沢度のMD/TD比の値」は、0.67であった。
【0122】
[実施例1]
比較用非水電解液二次電池用セパレータ1の表面を、MD方向に、紙やすり(株式会社ノリタケコーテッドアブレーシブ製;耐水研磨紙「C947H」、粒度1200)で擦ることによって物理処理を行うことにより、非水電解液二次電池用セパレータ1を得た。非水電解液二次電池用セパレータ1の「光沢度のMD/TD比の値」は、1.77であった。
【0123】
[実施例2]
比較用非水電解液二次電池用セパレータ1の表面をMD方向に、紙ワイパー(日本製紙クレシア株式会社製;「キムタオル」)で擦ることによって物理処理を行うことにより、非水電解液二次電池用セパレータ2を得た。非水電解液二次電池用セパレータ2の「光沢度のMD/TD比の値」は、2.17であった。
【0124】
[光沢度のMD/TD比の値の制御]
実施例1、2および比較例1~3の「光沢度のMD/TD比の値」を以下の表1に示す。
【0125】
【表1】
【0126】
表1に記載の比較例1と実施例1の結果から、非水電解液二次電池用セパレータを、MD方向に紙やすりにて擦る物理処理を行うことによって、特にTD光沢度を低くすることができ、その結果、「光沢度のMD/TD比の値」を1.00以上にすることができることが分かる。
【0127】
また、比較例1と実施例2の結果から、非水電解液二次電池用セパレータを、MD方向に紙ワイパーにて擦る物理処理を行うことによって、特にMD光沢度を高くすることができ、その結果、「光沢度のMD/TD比の値」を1.00以上にすることができることが分かる。
【0128】
さらに、比較例1と比較例2の結果から、非水電解液二次電池用セパレータを、TD方向に紙やすりにて擦る物理処理を行うことによって、特にMD光沢度が低くなり、その結果、比較例1よりも比較例2の方が、「光沢度のMD/TD比の値」がより小さくなることが分かる。
【0129】
そして、比較例1と比較例3の結果から、非水電解液二次電池用セパレータを、TD方向に紙ワイパーにて擦る物理処理を行うことによって、特にTD光沢度が高くなり、その結果、比較例1よりも比較例3の方が、「光沢度のMD/TD比の値」がより小さくなることが分かる。
【0130】
[実施例3~8、比較例4、5]
表2の実施例3~8、比較例4、5に記載の「光沢度のMD/TD比の値」を備えるポリオレフィン多孔質フィルムをそれぞれ、非水電解液二次電池用セパレータ3~8、比較用非水電解液二次電池用セパレータ4、5とした。非水電解液二次電池用セパレータ3~8、比較用非水電解液二次電池用セパレータ4、5のそれぞれについて、上述の方法にて求めた「MDしわ回復角度」および「TDしわ回復角度」から「しわ回復角度のTD/MD比の値」を算出した。その結果を表3に示す。
【0131】
また、非水電解液二次電池用セパレータ3~8、比較用非水電解液二次電池用セパレータ4、5における「MD光沢度」の標準偏差および「TD光沢度」の標準偏差を、上述の方法にて算出した。その結果を表2に示す。
【0132】
さらに、非水電解液二次電池用セパレータ3~8において、表2に記載した「光沢度のMD/TD比の値」を測定した面とは反対側(裏側)の面の「光沢度のMD/TD比の値」およびそれぞれの方向における光沢度の標準偏差を測定した。その結果、非水電解液二次電池用セパレータ3~8において、裏側の面の「光沢度のMD/TD比の値」は全て1.00以上であり、かつ、それぞれの方向における光沢度の標準偏差は8.0以下であった。また、上記ポリオレフィン多孔質フィルムの厚みは、株式会社ミツトヨ製の高精度デジタル測長機VL-50Aで測定したところ、いずれも20μm以下であった。
【0133】
【表2】
【0134】
【表3】
【0135】
[結論]
表2、3に記載の通り、「光沢度のMD/TD比の値」が1.00以上である非水電解液二次電池用セパレータ3~8は、「しわ回復角度のTD/MD比の値」が0.5以上、1.5以下であり、1に近い値を示した。すなわち、しわ等からの回復の度合いの異方性が小さく、非水電解液二次電池用セパレータを取り扱う上で好ましい範囲内であることが分かった。
【0136】
一方、「光沢度のMD/TD比の値」が1.00未満である比較用非水電解液二次電池用セパレータ4、5は、「しわ回復角度のTD/MD比の値」が2.30、3.16であり、上記好ましい範囲よりも過剰に大きくなっていることが分かった。
【0137】
以上の結果から、「光沢度のMD/TD比の値」が1.00以上であるポリオレフィン多孔質フィルムを含む非水電解液二次電池用セパレータは、「光沢度のMD/TD比の値」が1.00未満であるポリオレフィン多孔質フィルムを含む従来の非水電解液二次電池用セパレータとは異なり、「しわ回復角度のTD/MD比の値」が1に近い値を示すことが明らかとなった。したがって、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用セパレータは、しわ等からの回復の度合いの異方性が抑制された均質な、取扱い性に優れた非水電解液二次電池用セパレータであることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用セパレータは、「しわ回復角度のTD/MD比の値」が1に近い値を示す。よって、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用セパレータは、非水電解液二次電池を取り扱う各種産業において、好適に利用され得る。