(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】量子ドット発光素子及び表示装置
(51)【国際特許分類】
H05B 33/14 20060101AFI20221102BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20221102BHJP
H01L 27/32 20060101ALI20221102BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20221102BHJP
【FI】
H05B33/14 Z
H05B33/22 A
H01L27/32
G09F9/30 360
G09F9/30 338
G09F9/30 349Z
(21)【出願番号】P 2019011369
(22)【出願日】2019-01-25
【審査請求日】2021-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】本村 玄一
(72)【発明者】
【氏名】為村 成亨
(72)【発明者】
【氏名】都築 俊満
(72)【発明者】
【氏名】小倉 渓
【審査官】中山 佳美
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-038049(JP,A)
【文献】特開2010-199067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/00-33/28
H01L 51/50-51/56
H01L 27/32
G09F 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極と、発光層と、陽極と、を具え、前記発光層が、量子ドットを含み、前記陰極と前記陽極との間に位置する量子ドット発光素子であって、
前記陰極と前記発光層と間に、前記陰極側から順に、更に、第1電子注入層と、第2電子注入層と、を具え、
前記第2電子注入層が、
酸化ガリウム、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化インジウムからなる群から選択される少なくとも1種の半絶縁性金属酸化物を含
み、
前記第1電子注入層が、酸化亜鉛、酸化チタンからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物を含むことを特徴とする、量子ドット発光素子。
【請求項2】
前記第2電子注入層が、酸化ガリウムを含み、
前記第1電子注入層が、酸化亜鉛を含む、請求項
1に記載の量子ドット発光素子。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の量子ドット発光素子を具えることを特徴とする、表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドット発光素子及び表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
表示装置に求められる重要な特性の一つとして、色再現性がある。特に、2018年に放送が始まるスーパーハイビジョンの表色系は、自然界に実在するほぼすべての物体色及び既存表色システムの色域を包含することを目指しており、スーパーハイビジョンを表示する表示装置には、広い色域の色再現性が求められる。ここで、自発光型の表示装置の場合、青、緑、赤の各色の発光材料の色純度を高くする必要がある。
【0003】
近年、下記特許文献1や非特許文献1に開示されているように、半導体ナノ結晶からなる量子ドットを発光材料として用いた電界発光素子(量子ドット発光素子)が提案されている。量子ドットは、結晶粒径を変えることにより発光色を制御することができ、粒径分布を均一にすることにより発光スペクトルの半値幅を小さくすることができる。この特徴を生かして、量子ドットは、表示色域の広い表示装置用の発光材料として利用できる可能性がある。また、量子ドットを電界発光素子に応用する研究開発が行われており、量子ドットを用いた電界発光素子の中には、半値幅30nm以下、外部量子効率で約15%を実現した例も存在する(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】シラサキら(Y.Shirasaki et.al),ネイチャー・フォトニクス(Nature Photonics),Vol.7,pp.13-23(2013)
【文献】Y.ヤンら(Y.Yang et al.),ネイチャー・フォトニクス(Nature Photonics),Vol.9,pp.259-266(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の量子ドットを用いた電界発光素子の発光性能を高めるためには、量子ドットを電荷の輸送や注入を行うための各種材料と適切に組み合わせて素子化する必要がある。ここで、素子化にあたっては、量子ドットを含む発光層に対して、電荷を注入し易い材料を用いることが基本であるが、発光に寄与できない漏れ電流が増加してしまうと、発光効率の低下や不安定な動作につながる。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、漏れ電流が小さく、素子特性に優れた量子ドット発光素子を提供することを課題とする。
また、本発明は、かかる量子ドット発光素子を具え、発光特性に優れた表示装置を提供することを更なる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、量子ドット発光素子の漏れ電流を低減するために鋭意検討したところ、量子ドット発光素子の電子注入層に半絶縁性金属酸化物からなる層を積層することで、電圧印加時の漏れ電流を低減できることを見出し、本発明に到達したものである。
上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
【0009】
本発明の量子ドット発光素子は、陰極と、発光層と、陽極と、を具え、前記発光層が、量子ドットを含み、前記陰極と前記陽極との間に位置する量子ドット発光素子であって、
前記陰極と前記発光層と間に、前記陰極側から順に、更に、第1電子注入層と、第2電子注入層と、を具え、
前記第2電子注入層が、半絶縁性金属酸化物を含むことを特徴とする。
かかる本発明の量子ドット発光素子は、漏れ電流が抑制されており、素子特性に優れる。
【0010】
本発明の量子ドット発光素子の好適例においては、前記第2電子注入層が、酸化ガリウム、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化インジウムからなる群から選択される少なくとも1種の半絶縁性金属酸化物を含み、前記第1電子注入層が、酸化亜鉛、酸化チタンからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物を含む。この場合、量子ドット発光素子の漏れ電流が更に抑制され、素子特性が向上する。
【0011】
ここで、前記第2電子注入層が、酸化ガリウムを含み、前記第1電子注入層が、酸化亜鉛を含むことが好ましい。この場合、量子ドット発光素子の漏れ電流が更に抑制され、素子特性が更に向上する。
【0012】
また、本発明の表示装置は、上記の量子ドット発光素子を具えることを特徴とする。かかる本発明の表示装置は、発光特性に優れる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、漏れ電流が小さく、素子特性に優れた量子ドット発光素子を提供することができる。
また、本発明によれば、かかる量子ドット発光素子を具え、発光特性に優れた表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の量子ドット発光素子の構造の一例を示した概略図である。
【
図2】量子ドットの構造の一例を示した模式図である。
【
図3】実施例1及び比較例1-2の量子ドット発光素子の電圧-電流密度特性を示すグラフである。
【
図4】実施例1及び比較例1-2の量子ドット発光素子の電流密度-外部量子効率特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の量子ドット発光素子及び表示装置を、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0016】
<<量子ドット発光素子>>
本発明の量子ドット発光素子は、陰極と、発光層と、陽極と、を具え、前記発光層が、量子ドットを含み、前記陰極と前記陽極との間に位置する量子ドット発光素子であって、前記陰極と前記発光層と間に、前記陰極側から順に、更に、第1電子注入層と、第2電子注入層と、を具え、前記第2電子注入層が、半絶縁性金属酸化物を含むことを特徴とする。
【0017】
本発明の量子ドット発光素子においては、第1電子注入層が、陰極からの電子注入を容易にし、例えば、素子の発光開始電圧の低減に寄与する。また、本発明の量子ドット発光素子においては、半絶縁性金属酸化物を含む第2電子注入層が、第1電子注入層から発光層へと電子を受け渡すと共に、発光層から流れ出る正孔電流をブロックする。そのため、本発明の量子ドット発光素子は、漏れ電流が抑制されており、素子特性にも優れる。
【0018】
次に、本発明の量子ドット発光素子の一態様を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の量子ドット発光素子の構造の一例を示した概略図である。
図1に示す量子ドット発光素子1は、基板2上に、陰極3、第1電子注入層4、第2電子注入層5、発光層6、正孔輸送層7、正孔注入層8及び陽極9を、この順に積層した構成を有する。なお、
図1に示す量子ドット発光素子1は、下部に配置した陰極3側より電子を注入し、上部に配置した陽極9より正孔を注入する構成となっているが、本発明の量子ドット発光素子は、これに限定されるものではなく、上下を逆転した構造であってもよい。
【0019】
<基板>
前記基板2は、当該基板2側より光を取り出すボトムエミッション型素子の場合は、透明な材料からなることが好ましい。かかる透明な材料としては、ガラス、プラスチックフィルム等を例示することができる。ここで、プラスチックフィルムの材質としては、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレート等が挙げられる。
一方、上部電極側から光を取り出すトップエミッション型素子の場合には、基板2の材料は、必ずしも透明な材料である必要はない。基板2として、不透明基板を用いる場合、該不透明基板としては、例えば、着色したプラスチックフィルム基板、アルミナのようなセラミックス材料からなる基板、ステンレス鋼のような金属板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成した基板等が挙げられる。
また、基板2として、例えば、プラスチックフィルム等の可撓性基板を用い、その上に量子ドット発光素子を形成した場合には、画像表示部を容易に変形することのできるフレキシブル量子ドット発光素子とすることができる。
前記基板2の平均厚さは、特に限定されるものではないが、0.01~30mmが好ましく、0.01~10mmがより好ましい。
【0020】
<陰極>
前記陰極3は、基板2側より光を取り出すボトムエミッション型素子の場合は、透明で導電性の高い材料からなることが好ましい。陰極3としては、例えば、インジウム-錫-酸化物(ITO)、インジウム-亜鉛-酸化物(IZO)等の導電性透明酸化物を用いることができる。
一方、上部電極側から光を取り出すトップエミッション型素子の場合には、陰極3の材料は、必ずしも透明な材料である必要はないため、陰極3として、金属電極を用いてもよい。該金属電極に用いる金属としては、Ca、Mg、Al、Sn、In、Cu、Ag、Au、Pt等が挙げられる。
前記陰極3の平均厚さは、特に限定されるものではないが、10~500nmが好ましく、50~200nmが更に好ましい。
【0021】
<第1電子注入層>
前記第1電子注入層4は、陰極3からの電子注入を容易にする目的で用いる。該第1電子注入層4の材料としては、無機材料、或いは電子注入性の低分子材料又は高分子材料からなる有機材料を用いることができる。なお、第1電子注入層4は、後述する第2電子注入層5とは異なる材料を含むことが好ましい。第1電子注入層4の材料として、より具体的には、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO2)、酸化ケイ素(SiO2)、酸化スズ(SnO2)、酸化タングステン(WO3)、酸化タンタル(Ta2O3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)等の金属酸化物が好ましく、これらの中でも、電子注入性の観点から、酸化亜鉛、酸化チタンが更に好ましく、酸化亜鉛が特に好ましい。
【0022】
第1電子注入層4の形成には、ナノ粒子を用いることが好ましい。該ナノ粒子の粒径は、1nm~100nmが好ましく、1nm~10nmが更に好ましく、1nm~5nmがより一層好ましい。好ましくは、酸化亜鉛ナノ粒子等の金属酸化物のナノ粒子をスピンコート法によって成膜した薄膜を、第1電子注入層4として用いることができる。
前記第1電子注入層4の平均厚さは、特に限定されるものではないが、5~200nmが好ましく、10~100nmが更に好ましい。
【0023】
<第2電子注入層>
前記第2電子注入層5は、半絶縁性金属酸化物を含む。該第2電子注入層5は、第1電子注入層4から発光層6へと電子を受け渡し、さらに発光層6から流れ出る正孔電流をブロックする目的で用いる。第2電子注入層5の材料としては、大きなバンドギャップを有する材料が適しており、本発明においては、半絶縁性金属酸化物が用いられる。
【0024】
第2電子注入層5に用いる半絶縁性金属酸化物としては、n型半導体として機能するものが好ましく、例えば、酸化ガリウム(Ga2O3)、酸化セリウム(CeO2)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化インジウム(In2O3)等が好ましく、これらの中でも、漏れ電流を抑制する効果の観点から、酸化ガリウムが特に好ましい。好ましくは、酸化ガリウム等の半絶縁性金属酸化物をスパッタリング法によって成膜した薄膜を、第2電子注入層5として用いることができる。
前記第2電子注入層5の平均厚さは、特に限定されるものではないが、5~200nmが好ましく、10~100nmが更に好ましい。
【0025】
<発光層>
前記発光層6は、量子ドットを含む。該発光層6では、陽極9から注入された正孔と陰極3から注入された電子とが再結合し、量子ドットからの発光が得られる。発光層6の発光色は、発光層6に含まれる量子ドットの結晶粒径や種類(材質)によって変化させることができる。ここで、量子ドットの結晶粒径は、所望の発光色に応じて選択でき、例えば、1~10nmが好ましい。該量子ドットは、半導体微粒子からなるコアと呼ばれる中心部分と、コアの表面(又は後述するシェルの表面)を覆うリガンドと呼ばれる有機物と、からなることが好ましい。
【0026】
前記量子ドットのコア部分を構成する半導体の例としては、II-VI族の化合物、II-V族の化合物、III-VI族の化合物、III-V族の化合物、IV-VI族の化合物、I-III-VI族の化合物、II-IV-VI族の化合物、及びII-IV-V族の化合物、例えば、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、InN、InP、InAs、InSb、CuInS等が挙げられる。これらの中でも、量子ドットのコアとしては、合成の容易さ、所望の波長の発光を得るための粒径及び/又は粒径分布の制御のし易さ、発光の量子効率の観点から、CdSe、InPが好ましい。
【0027】
前記量子ドットは、コアの周りを取り囲むようにシェルと呼ばれる一層または複数層の半導体層を有してもよい。ここで、シェル部分を構成する半導体も、コア部分を構成する半導体と同様の組成の半導体を用いることができる。量子ドットのシェルは、被覆するコアに用いられる半導体に応じて選択することが好ましく、シェルとしては、コアよりも大きなバンドギャップを有する半導体を用いることが好ましい。この場合、コアの励起エネルギーが、シェルによって効率よくコア内に閉じ込められる。具体的には、例えば、コアがCdSe、InPからなる場合、シェルには、より大きなバンドギャップを有するZnSを用いることが好ましい。
【0028】
前記量子ドットにおいては、半導体表面を安定化すると共に、半導体微粒子の凝集を抑制するため、半導体微粒子表面をリガンドとよばれる有機配位子によりキャッピングを行うことが好ましい。キャッピングするためのリガンド部分に親油性の長鎖アルキル基等が含まれると有機溶剤に対しての溶解性が向上し、量子ドットを有機溶媒に溶解させた量子ドット溶液を調製することができる。前記リガンド(有機配位子)としては、炭化水素基の結合したアミン、炭化水素基の結合したカルボン酸、炭化水素基の結合したホスフィン、炭化水素基の結合した酸化ホスフィン、炭化水素基の結合したチオール等が挙げられる。前記炭化水素基は、親油性の鎖状炭化水素基であることが好ましい。親油性の鎖状炭化水素基の結合したアミンとしては、ヘキサデシルアミン、オレイルアミン等が挙げられる。親油性の鎖状炭化水素基の結合したカルボン酸としては、オレイン酸等が挙げられる。親油性の鎖状炭化水素基の結合したホスフィンとしては、トリオクチルホスフィン等が挙げられる。親油性の鎖状炭化水素基の結合した酸化ホスフィンとしては、トリ-n-オクチルホスフィンオキシド等が挙げられる。親油性の鎖状炭化水素基の結合したチオールとしては、ドデカンチオール等が挙げられる。
【0029】
図2に、本発明の量子ドット発光素子に好適に用いることができる量子ドットの構造の一例を示す。
図2に示す量子ドット10は、コア11と、コア11の周りを取り囲むシェル12と、シェル12の表面を覆うリガンド13と、を具える。該量子ドット10は、化学的安定性が高く、凝集が生じ難い。また、該量子ドット10は、溶液として調製し易く、スピンコート法等によって成膜し易いという利点がある。
【0030】
前記発光層6の平均厚さは、特に限定されるものではないが、5~200nmが好ましく、10~100nmが更に好ましい。
【0031】
<正孔輸送層>
前記正孔輸送層7は、陽極9から注入した正孔を量子ドット発光層6まで輸送するために用いる。正孔輸送層7を構成する材料としては、正孔輸送性の無機材料あるいは有機材料を用いることができる。正孔輸送層7を構成する材料は、好ましくは正孔輸送性の有機材料であり、例えば、4,4’,4”-トリス(カルバゾール-9-イル)トリフェニルアミン(TCTA)、4,4’-ビス(カルバゾール-9-イル)ビフェニル(CBP)、4,4’,4”-トリメチルトリフェニルアミン、N,N,N’,N’-テトラフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD1)、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(4-メトキシフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD2)、N,N,N’,N’-テトラキス(4-メトキシフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD3)、N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)、4,4’,4”-トリス(N-3-メチルフェニル-N-フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m-MTDATA)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、正孔輸送性の観点から、4,4’,4”-トリス(カルバゾール-9-イル)トリフェニルアミン(TCTA)が好ましい。
前記正孔輸送層7の平均厚さは、特に限定されるものではないが、10~500nmであることが好ましく、20~100nmが更に好ましい。
【0032】
<正孔注入層>
前記正孔注入層8は、陽極9からの正孔注入を容易にするために形成する。正孔注入層8には、有機材料、無機材料いずれも用いることができる。正孔注入層8に用いる代表的な材料としては、三酸化モリブデン(MoO3)、酸化バナジウム(V2O5)、酸化ルテニウム(RuO2)、酸化レニウム、酸化タングステン、酸化マンガン等の金属酸化物が挙げられる。また、正孔注入層8に用いる有機材料としては、1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレン-2,3,6,7,10,11-ヘキサカルボニトリル(HAT-CN)、2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノ-キノジメタン(F4-TCNQ)、ヘキサフルオロテトラシアノナフトキノジメタン(F6-TNAP)等が挙げられる。正孔注入層8には、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、正孔注入層8に用いる材料としては、正孔注入性の観点から、三酸化モリブデンが好ましい。
前記正孔注入層8の平均厚さは、特に限定されるものではないが、1~500nmが好ましく、3~50nmが更に好ましい。
【0033】
<陽極>
前記陽極9の材料としては、仕事関数が比較的大きい金属が好ましい。仕事関数の大きい金属を用いることにより、陽極から有機層への正孔注入障壁を低くすることができ、正孔を注入させ易くすることができる。陽極9に用いる金属としては、例えば、Al、Au、Pt、Ni、W、Cr、Mo、Fe、Co、Cu等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、陽極9に透明な材料を用いると、上部電極から光を取り出すトップエミッション型素子とすることができる。
前記陽極9の平均厚さは、特に限定されるものではないが、10~500nmが好ましく、30~150nmが更に好ましい。
【0034】
上述した第1電子注入層4、第2電子注入層5、発光層6、正孔輸送層7、正孔注入層8は、それぞれ1層ずつでもよいし、それぞれの層が複数の役割を受け持つ構造となっていてもよい。また、第2電子注入層5と、発光層6との間に、電子輸送層が存在していてもよい。また、例えば、一つの層で、正孔注入層と正孔輸送層を兼用したりすることも可能である。
【0035】
<各層の形成方法>
前記陰極3、第1電子注入層4、第2電子注入層5、電子輸送層、発光層6、正孔輸送層7、正孔注入層8、陽極9の形成方法は、特に限定されるものではなく、真空蒸着法、電子ビーム法、スパッタリング法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等の方法を用いることができる。また、これらの方法を用いて、前記陰極3、第1電子注入層4、第2電子注入層5、電子輸送層、発光層6、正孔輸送層7、正孔注入層8、陽極9の厚さを、目的に応じて適宜調整することができる。また、これらの方法は、各層の材料の特性に応じて選択するのが好ましく、層ごとに作製方法が異なっていてもよい。
以上により、
図1に示される量子ドット発光素子1が完成する。
【0036】
<<表示装置>>
本発明の表示装置は、上述の量子ドット発光素子を具えることを特徴とする。本発明の表示装置は、上述した漏れ電流が小さく、素子特性に優れた量子ドット発光素子を具えるため、発光特性に優れる。本発明の表示装置は、上述した量子ドット発光素子の他に、表示装置に一般に用いられる他の部品を具えることができる。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
<量子ドットの合成>
J.カクら(J.Kwak et al.),ナノ・レターズ(Nano Letters),12,2362-2366(2012)に開示されている方法に従って、緑色発光を示す量子ドットCdSe/ZnS(コア/シェル型の量子ドット)を合成した。具体的な合成方法を以下に示す。
0.257gの酸化カドミウム、7.34gの酢酸亜鉛、30.13gのオレイン酸、150mlのオクタデセンをフラスコに投入した。減圧下、150℃で30分加熱後、アルゴンにてリークし、アルゴンフロー下で280℃まで昇温した(溶液1)。0.079gのセレン、1.122gの硫黄を20mlのトリオクチルホスフィンに溶解させた溶液を用意し、溶液1に投入した。280℃で10分間混合した後、室温まで冷やした(溶液2)。この溶液2にエタノールを加えて、析出物を遠心分離で回収した。回収物をトルエンに分散させて、濃度を10mg/mlとなるように調整した。
【0039】
<酸化亜鉛ナノ粒子の合成>
J.カクら(J.Kwak et al.),ナノ・レターズ(Nano Letters),12,2362-2366(2012)に開示されている方法に従って、酸化亜鉛ナノ粒子を合成した。具体的な方法を以下に示す。
6.7mmolの酢酸亜鉛を55mlのメタノールに溶解させ、0.12mol/lの溶液を得た。8.6mmolの水酸化カリウムを25mlのメタノールに溶解させ、0.34mol/lの溶液を得た。窒素雰囲気下で、酢酸亜鉛メタノール溶液を60℃に加熱し、撹拌しながら水酸化カリウムメタノール溶液を滴下し、2時間反応させると液は白濁状態となった。得られた白濁液から遠心分離により回収した酢酸亜鉛をメタノールで洗い、最終的にブタノールに再分散させて、15mg/mlの酸化亜鉛ナノ粒子ブタノール分散液を得た。
【0040】
<量子ドット発光素子の作製>
図1に示す構造の本発明に従う量子ドット発光素子を次のようにして作製した。
まず、ガラス基板にITOからなる透明電極(陰極、厚さ:100nm)を形成し、これをライン状にパターニングした。
次に、電子注入層として前項にて合成した酸化亜鉛ナノ粒子と酸化ガリウムの積層膜を形成した。酸化亜鉛ナノ粒子は、スピンコート法によって成膜し、130℃で30分間加熱した(第1電子注入層、厚さ:30nm)。その後、酸化ガリウムをスパッタリング法により形成した。酸化ガリウム膜は、成膜時に酸素分圧を1.5×10
-2Paとし、RFパワー200Wで成膜した(第2電子注入層、厚さ:20nm)。
次に、前項にて合成した量子ドットCdSe/ZnSをスピンコート法によって成膜した(発光層、厚さ:20nm)。窒素雰囲気下、130℃にて30分間加熱した。
次に、基板を真空蒸着成膜装置に入れ、真空蒸着法によって、下記式(1):
【化1】
で示される構造式を有する材料(TCTA)からなる正孔輸送層を成膜した(厚さ:40nm)。
続いて、真空蒸着により、三酸化モリブデンからなる正孔注入層(厚さ:10nm)、アルミニウムからなる電極(陽極、厚さ:70nm)を成膜した。
なお、
図1には示していないが、量子ドット発光素子は、窒素ガスで満たされたグローブボックス中で、封止用ガラスの周縁部に紫外線硬化樹脂を塗布した後、量子ドット発光素子を形成した前記基板の周縁部に貼り合せて、封止を行った。
【0041】
(比較例1)
上記実施例1と同様に量子ドットCdSe/ZnS、酸化亜鉛ナノ粒子の合成を実施した。これらの材料を用いて実施例1と同様に発光素子を作製した。このときに、電子注入層に酸化ガリウムからなる層を形成せず、酸化亜鉛ナノ粒子のみの電子注入層とした。
【0042】
(比較例2)
上記実施例1と同様に量子ドットCdSe/ZnSの合成を実施した。該材料を用いて実施例1と同様に発光素子を作製した。このときに、電子注入層には酸化亜鉛ナノ粒子からなる層を形成せず、酸化ガリウムのみの電子注入層とした。
【0043】
<素子の評価>
上記の実施例1、比較例1、比較例2の量子ドット発光素子のITO電極側に負、アルミニウム電極側に正となるように電圧を印加すると、それぞれ発光が得られた。
実施例1、比較例1、比較例2の、それぞれの量子ドット発光素子の電圧-電流密度特性を
図3に示す。また、各素子の2Vでの電流密度と発光開始電圧を表1に示す。
【0044】
【0045】
2V以下の領域で見られる漏れ電流には、各素子で差が見られた。実施例1の素子は、2Vでの電流密度が3.9×10-4mA/cm2であり、漏れ電流を低く抑えることができている。それに対して、比較例1の素子は、2Vでの電流密度が1.3×10-2mA/cm2となり、多くの電流が発光に寄与せずに流れてしまっている。一方、酸化ガリウムのみの電子注入層を有する比較例2の素子は、漏れ電流を極めて低く抑えることができているものの、発光開始電圧が大きくなってしまった。
【0046】
次に、実施例1と比較例1-2の量子ドット発光素子の電流密度-外部量子効率特性を
図4に示す。
図4から、実施例1の素子は、比較例1の素子に比べて、低電流密度領域での外部量子効率が高いことが分かる。これは、酸化ガリウムが漏れ電流を抑えたことにより得られた効果である。
【0047】
以上の結果から、酸化ガリウム等の半絶縁性金属酸化物を電子注入層に用いた、本発明に従う量子ドット発光素子が、漏れ電流を抑えて発光特性を改善できることが分かる。
【符号の説明】
【0048】
1:量子ドット発光素子
2:基板
3:陰極
4:第1電子注入層
5:第2電子注入層
6:発光層
7:正孔輸送層
8:正孔注入層
9:陽極
10:量子ドット
11:コア
12:シェル
13:リガンド