(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-01
(45)【発行日】2022-11-10
(54)【発明の名称】積層構造物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 3/16 20060101AFI20221102BHJP
B22F 3/105 20060101ALI20221102BHJP
B29C 64/153 20170101ALI20221102BHJP
B29C 64/321 20170101ALI20221102BHJP
B29C 64/371 20170101ALI20221102BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20221102BHJP
【FI】
B22F3/16
B22F3/105
B29C64/153
B29C64/321
B29C64/371
B33Y10/00
(21)【出願番号】P 2019127493
(22)【出願日】2019-07-09
【審査請求日】2020-07-02
【審判番号】
【審判請求日】2022-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】天野 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 豊幸
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智章
(72)【発明者】
【氏名】山口 祐典
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】井上 猛
【審判官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-154159(JP,A)
【文献】特開2004-314168(JP,A)
【文献】特開2018-526220(JP,A)
【文献】特開昭61-232086(JP,A)
【文献】国際公開第2016/135907(WO,A1)
【文献】特開2012-245523(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105033460(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0041025(US,A1)
【文献】米国特許第5837960(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-8/00
C22C 1/04-1/05
C22C 33/02
B29C 64/00-64/40,67/00-67/08,69/00-69/02,73/00-73/34
B29D 1/00-7/01,11/00-29/10,33/00,99/00
B23K 9/00-9/013
B23K 9/00-9/013,9/04,9/14-10/02,26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギー線の照射によって造形される層を順次積層する積層構造物の製造方法であって、
前記層の積層が行われるベースプレートに、キャリアガスを用いてSUS316Lの粉末を供給しながら、前記ベースプレート上に供給された前記SUS316Lの粉末にエネルギー線を照射することで、前記層を造形する、積層構造物の製造方法であり、
前記キャリアガスが、アルゴンのみ含むか、または、アルゴンとヘリウムを含
み、
前記エネルギー線の出力が、400Wである、積層構造物の製造方法。
【請求項2】
前記エネルギー線を照射する際に、ヘリウムを含むセンターガスを前記エネルギー線の周囲を覆うように供給する、請求項1に記載の積層構造物の製造方法。
【請求項3】
前記キャリアガスがアルゴンとヘリウムを含む場合、前記キャリアガス中のヘリウムの含有量が、前記キャリアガス100体積%に対して、20~95体積%である、請求項1または2に記載の積層構造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層構造物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Additive Manufacturingと称される付加製造技術がある。付加製造技術は、任意の形状の立体構造物を任意の材料で製造できるため、航空機産業及び医療等の先端技術分野で有望な技術として注目されている(特許文献1)。
付加製造技術においては、熱源としてレーザー、電子ビーム等のエネルギー線を使用することが知られている。レーザーを使用する場合、チャンバー内に取り付けられた上下方向に移動可能な造形テーブル上にベースプレートを配置する。次いで、造形プレートを覆う薄い粉末層を形成するように原料粉末を供給し、材料粉末層の所定箇所にレーザーを照射する。これによりレーザーが照射された部分の材料粉末を焼結させて焼結層を所定の形状に造形する。そして、焼結層の上側に新たに粉末層を形成し、レーザーを照射する。粉末の供給及びレーザーの照射を繰り返すことで、造形プレート上に所望の積層構造物を製造する。
【0003】
例えば、特許文献1にはレーザー肉盛溶接方法が記載されている。特許文献1に記載のレーザー肉盛溶接方法においては、粉末供給装置から溶加材の粉末を肉盛対象物に供給し、ガス供給装置からシールドガスを肉盛対象物に供給する。これにより、レーザーの照射領域の周囲の酸素濃度を低減できるため、粉末である金属材料の変質が低減され、所要のエネルギーのレーザーを常時安定して照射できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のレーザー肉盛溶接方法においては、シールドガスの組成について何ら検討されていない。そのため、粉末供給装置による溶加材の粉末の供給量が安定しない場合がある。よって、原料粉末の供給量が安定しないことから、レーザー肉盛溶接によって得られる積層構造物の機械強度の低下、積層構造物の外観が不均一になる等の問題が生じ、品質が低下する可能性がある。
【0006】
本発明は、原料粉末の供給量が安定し、機械強度の低下が少なく、外観が均一であり、品質に優れる積層構造物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の構成を備える。
[1] エネルギー線の照射によって造形される層を順次積層する積層構造物の製造方法であって、前記層の積層が行われるベースプレートに、アルゴンを含むキャリアガスを用いて原料粉末を供給しながら、前記ベースプレート上に供給された前記原料粉末にエネルギー線を照射することで、前記層を造形する、積層構造物の製造方法。
[2] 前記エネルギー線を照射する際に、ヘリウムを含むセンターガスを前記エネルギー線の周囲を覆うように供給する、[1]の積層構造物の製造方法。
[3] 前記キャリアガスがヘリウム及びアルゴンを含む混合ガスである、[1]又は[2]の積層構造物の製造方法。
[4] 前記キャリアガス中のヘリウムの含有量が、前記キャリアガス100体積%に対して、95体積%以下である、[3]の積層構造物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、原料粉末の供給量が安定し、機械強度の低下が少なく、外観が均一であり、品質に優れる積層構造物の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態の積層構造物の製造方法に適用可能な積層構造物の製造装置の構成を示す模式図である。
【
図2】
図1の製造装置の粉末供給ラインとキャリアガス供給ラインの接続部分を拡大して示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0011】
以下、本実施形態に係る積層構造物の製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0012】
図1は、本実施形態の積層構造物の製造方法に適用可能な積層構造物の製造装置20の構成を示す模式図である。
図1に示すように、積層構造物の製造装置20は、図示略のレーザー発振機とチャンバー1と粉末供給ライン2とキャリアガス供給ライン3と粉末供給ノズル4,4と造形テーブル5とベースプレート6とを備える。
【0013】
レーザー発振機はチャンバー1内にレーザーLを照射できる形態であれば、特に限定されない。粉末供給ノズル4,4により供給される原料粉末MにレーザーLが照射されると、レーザーLが照射された位置の原料粉末Mを焼結又は溶融固化することができる。その結果、原料粉末Mの焼結物又は原料粉末Mの溶融固化物を含む層(以下、単に「層」と記す。)がチャンバー1内のベースプレート6上で造形される。
【0014】
原料粉末Mとしては、カーボン、ホウ素、マグネシウム、カルシウム、クロム、銅、鉄、マンガン、モリブテン、コバルト、ニッケル、ハフニウム、ニオブ、チタン、アルミニウム等の各種の金属及びこれらの合金の粉末が例示される。
原料粉末Mが粒子状である場合、原料粉末Mの金属粒子の粒径は特に限定されない。原料粉末Mの金属粒子の粒径は、例えば10~200μm程度とすることができる。
【0015】
チャンバー1は、原料粉末MにレーザーLを照射して層を造形し、層を積層する操作が繰り返し行われる筐体である。
チャンバー1の内部は、粉末供給ライン2及び図示略のセンターガス供給ラインと接続されている。
センターガス供給ラインは、レーザーLを照射する際にセンターガスGをレーザーLの周囲を覆うように供給するためのラインである。センターガスGは、レーザーLの照射領域の周囲の酸素濃度を低減するために供給される。これにより、原料粉末の変質が低減され、所定のエネルギーのレーザーLを常時安定して照射できる。また、原料粉末MへのレーザーLの照射で発生するヒューム、スパッタ等によるレーザーLの減衰を抑制できる。
【0016】
粉末供給ライン2は、チャンバー1内に粉末供給ノズル4,4を介して原料粉末Mを供給する。粉末供給ライン2は、チャンバー1外でキャリアガス供給ライン3と接続されている。キャリアガス供給ライン3は、アルゴンを含むキャリアガスを供給するためのラインである。
図2は、粉末供給ライン2とキャリアガス供給ライン3の接続部分を拡大して示す模式断面図である。
図2中の矢印は、キャリアガスが流れる向きを示している。製造装置20においては、鉛直上方に延びる粉末供給ライン2から原料粉末Mが供給される。これにより、製造装置20においては、アルゴンを含むキャリアガスを用いて原料粉末Mをチャンバー1内に供給できる。
【0017】
図1に示す粉末供給ノズル4,4は、チャンバー1内で二つに分岐した粉末供給ライン2のそれぞれの端部に接続されている。粉末供給ノズル4,4は、造形テーブル5の上面に配置されたベースプレート6に向けてキャリアガスとともに原料粉末Mを供給する。
【0018】
造形ステージ5は、層の造形と造形した層の積層とを繰り返すための場である。造形ステージ5の上面にはベースプレート6が配置されている。ベースプレート6は、積層構造物を載置するための板である。ベースプレート6には、粉末供給ノズル4,4のそれぞれから原料粉末Mが供給される。そして、図示略のレーザー発振機からレーザーLが照射される。
【0019】
造形ステージ5は、造形ステージ5はあらかじめ入力された所定のデータに基づいて、チャンバー1内で
図1中の左右方向及び上下方向に移動する。
レーザーLの照射による層の造形に際しては、造形ステージ5が左右方向に移動するため、原料粉末MにおけるレーザーLの照射位置が相対的に移動する。そのため、造形ステージ5上で任意の形状の層を造形できる。
レーザーLの照射による層の積層に際しては、造形ステージ5が下方向に移動するため、造形した層の上側に新たな原料粉末Mが供給される。次いで、新たに供給された原料粉末MにレーザーLを照射することで、すでに造形した層の上側に新たな層が造形され、積層される。このように、造形ステージ5が左右方向の移動、下方向の移動を繰り返しながら、レーザーLを原料粉末Mに照射することで、層の造形、造形した層の積層を繰り返すことができる。
以上説明したように、層の造形と造形した層の積層とを繰り返すことで、レーザーLの照射によって造形される層を順次積層できる。その結果、ベースプレート6上で任意の形状の積層構造物が造形される。
【0020】
次いで、上述の製造装置20を用いて、本実施形態に係る積層構造物の製造方法について、具体的に説明する。
本実施形態の積層構造物の製造方法では、エネルギー線であるレーザーLの照射によって造形される層を順次積層する。レーザーLの照射前には、チャンバー1内の雰囲気をアルゴン等の不活性ガスに置換してもよい。
【0021】
レーザーLの照射によって層を造形する際には、層の積層が行われるベースプレート6上に、アルゴンを含むキャリアガスを用いて原料粉末Mを供給しながら、ベースプレート6上に供給された原料粉末MにレーザーLを照射する。
レーザーLの照射により、レーザーLを照射した部分の原料粉末Mが焼結され、原料粉末Mの焼結物がレーザーLの描画線に沿って任意の形状に造形される。その結果、層が任意の形状に造形される。
【0022】
層の造形が終わると、造形ステージ5が下方に移動する。次いで、造形した層の上側に粉末供給ノズル4,4のそれぞれから新たな原料粉末Mが供給される。この新たに供給された原料粉末MにレーザーLを再度照射することで、新たな層が任意の形状に造形されるとともに、すでに造形した層の上側に新たな層が積層される。
このように、レーザーLの照射と造形ステージ5の下方への移動と新たな原料粉末の供給と層の積層とをこの順で繰り返すことで、任意の形状の層が順次積層される。その結果、任意の形状の立体構造物として積層構造物を製造できる。
また、造形ステージの移動ではなくても、ノズルが移動するような層の積層が可能な形態であれば、本実施形態に限定されない。さらに、粉末供給ノズル数や形状は、粉末供給が可能であれば、本実施形態に限定されない。
【0023】
キャリアガスはアルゴンを含む。本実施形態においてはキャリアガスがアルゴンを含むため、後述の実施例で示すように、原料粉末の供給量が安定する。
キャリアガスは、ヘリウムをさらに含むことが好ましい。すなわち、キャリアガスは、ヘリウム及びアルゴンを含む混合ガスであることが好ましい。
積層構造物の製造においては、溶接効率の向上(すなわち、溶接により積層される層間の接着スピードの向上)とポロシティ等の溶接欠陥の低減を両立する点から、適度な溶け込み深さが求められる。
キャリアガスがヘリウム及びアルゴンを含む混合ガスであると、適度な溶け込み深さが実現できる傾向がある。このように、適度な溶け込み深さを実現できるため、溶接効率が充分であり、かつ、ポロシティ等の溶接欠陥が少なくなる。
キャリアガスは、ヘリウム及びアルゴン以外の他の成分をさらに含んでもよい。キャリアガスの他の成分としては、例えば、窒素等の不活性ガスが挙げられる。
【0024】
キャリアガス中のアルゴンの含有量は、キャリアガス100体積%に対して、5~100体積%が好ましく、5~80体積%がより好ましく、5~50体積%がさらに好ましい。
キャリアガス中のアルゴンの含有量が前記下限値以上であると、原料粉末の供給量がさらに安定する傾向がある。キャリアガス中のアルゴンの含有量が前記上限値以下であると、溶け込み深さが充分となり、溶接効率がよくなる傾向がある。
キャリアガスがヘリウム及びアルゴンを含む混合ガスである場合、キャリアガス中のヘリウムの含有量は、キャリアガス100体積%に対して、20~95体積%が好ましく、50~95体積%がより好ましい。
キャリアガス中のヘリウムの含有量が前記下限値以上であると、溶け込み深さが充分となり、溶接効率がよくなる傾向がある。キャリアガス中のヘリウムの含有量が前記上限値以下であると、原料粉末の供給量がさらに安定する傾向がある。
【0025】
本実施形態の積層構造物の製造方法では、レーザーLを原料粉末Mに照射する際に、ヘリウムを含むセンターガスGをレーザーLの周囲を覆うように供給することができる。
センターガスGは、ヘリウム以外の他の成分をさらに含んでもよい。センターガスGの他の成分としては、例えば、水素、窒素、ネオン、アルゴン、キセノンが例示される。
【0026】
本実施形態の積層構造物の製造方法では、センターガスはヘリウムを含むため、センターガスのレーザーLの照射に際し、溶け込み深さが深くなる傾向がある。そのため、一度のレーザーLの照射によって、溶接できる原料粉体、層又は積層構造物の厚みを厚くすることができるため、溶接効率がよくなる。
センターガスはアルゴンをさらに含んでもよい。センターガスがアルゴンを含むと、溶け込み深さが深くなり過ぎず、ポロシティ等の溶接欠陥が低減される傾向がある。
【0027】
センターガス中のヘリウムの含有量は、センターガス100体積%に対し20~100体積%が好ましく、50~100体積%がより好ましく、90~100体積%がさらに好ましい。センターガス中のヘリウムの含有量が前記下限値以上であると、充分な溶け込み深さが実現でき、溶接効率がよくなる傾向がある。センターガス中のヘリウムの含有量が、前記上限値以下であると、溶け込み深さが深くなり過ぎず適度であり、ポロシティ等の溶接欠陥が低減される傾向がある。
センターガスがアルゴンをさらに含む場合、センターガスのアルゴンの含有量は、センターガス100体積%に対し0~80体積%が好ましく、0~50体積%がより好ましく、0~10体積がさらに好ましい。センターガス中のアルゴンの含有量が、前記下限値以上であると、溶け込み深さが深くなり過ぎず適度であり、ポロシティ等の溶接欠陥が低減される傾向がある。センターガス中のアルゴンの含有量が、前記上限値以下であると、充分な溶け込み深さが実現でき、溶接効率がよくなる傾向がある。
【0028】
本実施形態の積層構造物の製造方法では、原料粉末Mの種類に合わせて、センターガスGの組成を選択することが好ましい。
例えば、オーステナイト系ステンレス鋼及びニッケル合金等のオーステナイト組織の金属は水素脆性感受性が低い。原料粉末Mがオーステナイト組織の金属を含む場合、原料粉末Mは酸化しやすく、これにより耐食性等が劣化しやすい。そのため、原料粉末Mがオーステナイト系ステンレス鋼、及びニッケル合金等のオーステナイト組織の金属を含む場合には、酸化防止の点から、センターガスGの他の成分として水素ガス等の還元性ガスを使用することが好ましい。
原料粉末Mが鉄を主成分とする合金を含む場合には、水素脆性防止の点から、センターガスG中の他の成分として水素ガスが含まれていないことが好ましい。原料粉末Mがアルミ、チタン又は、これらを主成分とする合金を含む場合には、ブローホールの形成を防止する点から、センターガスG中に水素ガスが含まれていないことが好ましい。
【0029】
センターガスの供給量のキャリアガスの供給量に対する比率は、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、3以上がさらに好ましい。前記比率が前記下限値以上であると、レーザーLの減衰を抑制できる傾向がある。
【0030】
(作用効果)
以上説明した本実施形態に係る積層構造物の製造方法にあっては、アルゴンを含むキャリアガスを用いて原料粉末を供給するため、後述の実施例で示すように、原料粉末の供給量が安定する。そのため、積層構造物の機械強度が低下しにくく、積層構造物の外観が均一になり、積層構造物の品質がよくなる。
【0031】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、本発明はかかる特定の実施の形態に限定されない。また、本発明は特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、構成の付加、省略、置換及びその他の変更が加えられてよい。
【0032】
<実施例>
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0033】
(測定方法及び評価方法)
「原料粉末の供給量」は、粉末供給ノズルからの粉末を回収容器に回収して測定した。また、原料粉末の供給量の安定性は下記の評価基準に基づいて評価した。
〇:3回の測定誤差が±10%以下であった。
×:3回の測定誤差が±10%を超えた。
「溶け込み深さ[μm]」は、造形後のベースプレート6を取り出し、各例で造形した層とともにベースプレート6に対して垂直な方向に切断し、層及びベースプレート6の断面を観察することで測定した。
【0034】
(実施例1)
積層構造物の製造装置20を使用して、原料粉末の供給量の安定性を評価した。具体的には、下記の原料粉末、キャリアガスA1を使用した。
原料粉末:LPW technology社製「SUS316L(平均粒径:100μm)」を使用した。
キャリアガスA1:アルゴンの含有量が100体積%である一成分ガス。
【0035】
レーザーLの照射前には、チャンバー1内の気体をアルゴンガスで置換した。
実施例1では、キャリアガスA1とともに原料粉末Mをベースプレート6上に供給した。
ここで、粉末供給ノズル4,4による原料粉末Mの供給時間を1分間とした。
上記の条件下で、原料粉末Mの供給量を3回測定した。3回分の各測定値及び平均値を表1に示す。
【0036】
【0037】
(実施例2~4、比較例1)
表1に示すように、実施例1におけるキャリアガスA1の代わりに下記のキャリアガスA2~A5を使用した以外は、実施例1と同様にして、原料粉末の供給量を3回測定した。3回分の各測定値及び平均値を表1に示す。
・キャリアガスA2:アルゴンの含有量が75体積%であり、ヘリウムの含有量が25体積%である混合ガス。
・キャリアガスA3:アルゴンの含有量が50体積%であり、ヘリウムの含有量が50体積%である混合ガス。
・キャリアガスA4:アルゴンの含有量が25体積%であり、ヘリウムの含有量が75体積%である混合ガス。
・キャリアガスA5:ヘリウムの含有量が100体積%である一成分ガス。
【0038】
表1に示すように、キャリアガスがアルゴンを含む実施例1~4の場合、原料粉末の供給量のばらつきが少なく、供給量が安定した。
これに対し、キャリアガスがアルゴンを含まない比較例1の場合、原料粉末の供給量のばらつきが多く、供給量が安定しなかった。
【0039】
(実施例5~8、比較例2)
表2に示すように、実施例1におけるキャリアガスA1の代わりに表2の各例の欄に示すキャリアガスを使用した。レーザーを照射する際には、下記のセンターガスB1をレーザーの周囲を覆うように供給した。また、レーザーの出力値を400W、レーザーの走査速度を10mm/sとした。
各例で使用したセンターガスの組成の詳細を下記に示す。
・センターガスB1:ヘリウムの含有量が100体積%である一成分ガス。
・センターガスB2:アルゴンの含有量が50体積%であり、ヘリウムの含有量が50体積%である混合ガス。
・センターガスB3:アルゴンの含有量が100体積%である一成分ガス。
【0040】
【0041】
表2に示すように、センターガスがヘリウムを含む場合の実施例5では実施例8に比して深い溶け込み深さを実現できた。
【0042】
以上、実施例の結果から、アルゴンを含むキャリアガスを用いて原料粉末を供給することにより、原料粉末の供給量のばらつきが少なくなり、原料粉末の供給量が安定することを確認できた。また、センターガスがヘリウムを含む場合、溶け込み深さが深くなることを確認できた。
加えて、センターガスがアルゴンを含む場合の実施例8では、溶け込み深さが実施例5と比較して小さくなった。よって、センターガス中のヘリウム及びアルゴンの含有量の組成を変更することで、溶け込み深さを調節することができる可能性が示唆された。
【符号の説明】
【0043】
1…チャンバー、2…粉末供給ライン、3…キャリアガス供給ライン、4…粉末供給ノズル、5…造形ステージ、6…ベースプレート、G…センターガス、L…レーザー(エネルギー線)、M…原料粉末、20…積層構造物の製造装置