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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】厚さ測定装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/06 20060101AFI20221104BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
G01B11/06 G
A01G7/00 603
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021534537
(86)(22)【出願日】2020-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2020013087
(87)【国際公開番号】W WO2021014689
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2019136105
(32)【優先日】2019-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ベグズスレン・トゥメンデムベレルが、http://hdl.handle.net/2115/74299及びhttps://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/74299/1/Begzsuren_Tumendemberel.pdfのアドレスのウェブサイト「北海道大学学術成果コレクション」にて、「STUDY OF SPECTRO-POLARIMETRIC BIDIRECTIONAL REFLECTANCE PROPERTIES OF LEAVES」と題して、高橋幸弘及びベグズスレン・トゥメンデムベレルが発明した「植物の葉の外皮層厚測定装置及び方法」について平成31年3月25日に公開した。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(72)【発明者】
【氏名】高橋 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】ベグズスレン トゥメンデムブレル
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-227310(JP,A)
【文献】特開昭64-075902(JP,A)
【文献】特開平02-021203(JP,A)
【文献】特開2007-078608(JP,A)
【文献】特開平01-195304(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
G01N 21/00-21/01
21/17-21/61
A01G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射面と前記入射面に対向する対向面とを有する第1層と、前記第1層の対向面と接する第2層とを含む植物の葉の全体の第1層の厚さを測定する厚さ測定装置であって、
所定の波長λの光を所定の入射角θで空気層から前記入射面に入射させる光源と、
前記入射面で前記入射角θと同一の反射角で反射してくる第1の反射光と、前記入射面において屈折角θで屈折して前記第1層に入射した後当該第1層の対向面で反射して前記入射面に戻り当該入射面で屈折して出射する第2の反射光とを合成してなる合成反射光を受光し、当該合成反射光のうち前記入射面に対して垂直なS偏光成分の光強度を含む2次元画像を取得する分光カメラと、
前記入射角θを変化させながら、前記変化された各入射角θに対して前記S偏光成分の光強度を含む2次元画像を取得し、前記S偏光成分の光強度の極小値に対応する入射角θを検索し、次式を用いて、
【数1】
・sinθ=n ・sinθ
前記植物の葉の全体の第1層の厚さtを計算して出力する制御手段とを備え、
mは自然数であり、
は前記空気層の屈折率であり、
は前記第1層の屈折率であり、
前記第1層は外皮層であるクチクラ層であることを特徴とする厚さ測定装置。
【請求項2】
前記分光カメラは、前記合成反射光のうち前記入射面に対して垂直なS偏光成分を検出する偏光フィルタを含むことを特徴とする請求項1に記載の厚さ測定装置。
【請求項3】
入射面と前記入射面に対向する対向面とを有する第1層と、前記第1層の対向面と接する第2層とを含む植物の葉の全体の第1層の厚さを測定する厚さ測定方法であって、
光源からの所定の波長λの光を所定の入射角θで空気層から前記入射面に入射させるステップと、
分光カメラが、前記入射面で前記入射角θと同一の反射角で反射してくる第1の反射光と、前記入射面において屈折角θで屈折して前記第1層に入射した後当該第1層の対向面で反射して前記入射面に戻り当該入射面で屈折して出射する第2の反射光とを合成してなる合成反射光を受光し、当該合成反射光のうち前記入射面に対して垂直なS偏光成分の光強度を含む2次元画像を取得するステップと、
制御手段が、前記入射角θを変化させながら、前記変化された各入射角θに対して前記S偏光成分の光強度を含む2次元画像を取得し、前記S偏光成分の光強度の極小値に対応する入射角θを検索し、次式を用いて、
【数2】
・sinθ=n・sinθ
前記植物の葉の全体の第1層の厚さtを計算して出力するステップとを含み、
mは自然数であり、
は前記空気層の屈折率であり、
は前記第1層の屈折率であり、
前記第1層は外皮層であるクチクラ層であることを特徴とする厚さ測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体又は物体の厚さを測定する厚さ測定装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の葉の最外層である外皮層は、厚さが数100nmから数ミクロンの蝋(ろう)を主成分とするクチクラ層によって覆われている。クチクラ層は、病害の原因となる細菌などの侵入を防ぎ、また蒸散を制御していると考えられ、その厚さは植物の健康状態を反映して変化すると言われている。しかしながら、その厚さが薄いものでは可視光の波長程度以下であるため、光学顕微鏡では正確な厚さを測ることが不可能であり、これまでは専ら電子顕微鏡(TEM)(以下、従来例1という)によってその厚さが推定されてきた(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4084877号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】H. J. Ensikat, et al., “Direct Access to Plant Epicuticular Wax Crystals by a New Mechanical Isolation Method,” International Journal of Plant Sciences, Volume 161, Number 1, January 2000.
【文献】中原寿喜太,「近赤外線吸収形発汗量測定装置」,計測自動制御学会論文集,Vol.18,No.11,pp.1099-1103,昭和57年11月.
【文献】鶴岡典子ほか,「小型発汗計の開発とストレス負荷および温熱負荷時の発汗計測」,生体医工学,Vol.54,No.5,pp.207-217,2016年.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、電子顕微鏡は、生体をそのまま観察することができず、物質を置換するために何段階にも及ぶ作業を、多大な時間をかけて行う必要がある。そのため、生きた状態での厚さの変化を捉えることが不可能である。また、一つの資料は数mm程度と小さいため、葉全体の代表性についても限界があるという問題点があった。
【0006】
また、例えば厚さ200nm以下の薄膜の膜厚測定方法(以下、従来例2という)が特許文献1において開示されている。この膜厚測定方法では、装置構成を大幅に変更することなく、光干渉式膜厚測定方法を用いて200nm以下の薄膜の膜厚を精度良く且つ高スループットで測定するために以下の構成を有する。光源からの照射光を測定対象物である基板上に設けた被膜に入射させ、被膜からの干渉を起こした反射光を、被膜の主面に対する照射光の入射角を変化させながら受光手段により、ステージ移動方向と光軸のなす面方向に光の透過軸を設定した偏向フィルタを透過したP偏光光の反射強度を測定し、測定した反射光の強度変動における極小値を取る反射角から前記被膜の膜厚を取得する。
【0007】
しかし、植物の葉の外皮層である蝋成分を含むクチクラ層の厚さを、従来例2に係る薄膜の膜厚測定方法を用いて、P偏光光の反射強度を測定した場合には、当該クチクラ層及びその内側の層においてP偏光の光波の吸収が大きく、大きな反射強度を得ることができず、十分な精度でクチクラ層の厚さを測定することができないという問題点があった。
【0008】
また、クチクラ層に限らず、生体又は物体の厚さについて、従来技術に比較して高い精度で測定はできないという問題点があった。
【0009】
本発明の目的は以上の問題点を解決し、従来技術に比較して簡単にかつ高い精度で、生体又は物体の厚さを測定することができる厚さ測定装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明に係る厚さ測定装置は、
入射面と前記入射面に対向する対向面とを有する第1層と、前記第1層の対向面と接する第2層とを含む生体又は物体の第1層の厚さを測定する厚さ測定装置であって、
所定の波長λの光を所定の入射角θで空気層から前記入射面に入射させる光源と、
前記入射面で前記入射角θと同一の反射角で反射してくる第1の反射光と、前記入射面において屈折角θで屈折して前記第1層に入射した後当該第1層の対向面で反射して前記入射面に戻り当該入射面で屈折して出射する第2の反射光とを合成してなる合成反射光を受光し、当該合成反射光のうち前記入射面に対して垂直なS偏光成分の光強度を検出する受光素子と、
前記入射角θを変化させながら、前記変化された各入射角θに対して前記S偏光成分の光強度を検出し、検出されたS偏光成分の光強度の極小値に対応する入射角θを検索し、次式を用いて、
【数1】
・sinθ=n・sinθ
前記第1層の厚さtを計算して出力する制御手段とを備え、
mは自然数であり、
は前記空気層の屈折率であり、
は前記第1層の屈折率である
ことを特徴とする。
【0011】
また、第2の発明に係る厚さ測定方法は、
入射面と前記入射面に対向する対向面とを有する第1層と、前記第1層の対向面と接する第2層とを含む生体又は物体の第1層の厚さを測定する厚さ測定方法であって、
光源からの所定の波長λの光を所定の入射角θで空気層から前記入射面に入射させるステップと、
前記入射面で前記入射角θと同一の反射角で反射してくる第1の反射光と、前記入射面において屈折角θで屈折して前記第1層に入射した後当該第1層の対向面で反射して前記入射面に戻り当該入射面で屈折して出射する第2の反射光とを合成してなる合成反射光を受光し、当該合成反射光のうち前記入射面に対して垂直なS偏光成分の光強度を受光素子により検出するステップと、
制御手段が、前記入射角θを変化させながら、前記変化された各入射角θに対して前記S偏光成分の光強度を検出し、検出されたS偏光成分の光強度の極小値に対応する入射角θを検索し、次式を用いて、
【数2】
・sinθ=n・sinθ
前記第1層の厚さtを計算して出力するステップとを含み、
mは自然数であり、
は前記空気層の屈折率であり、
は前記第1層の屈折率である
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
従って、本発明に係る厚さ測定装置及び方法によれば、従来技術に比較して簡単にかつ高い精度で、生体又は物体の厚さを測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る植物の葉の外皮層厚さ測定装置の構成例を示すブロック図である。
図2A図1の測定装置の光源4及び受光素子5の移動機構6の詳細構成例を示すブロック図である。
図2B】変形例に係る光源装置20の構成例を示す正面図である。
図2C】変形例に係る受光素子装置30の構成例を示す正面図である。
図3図1の外皮層厚さ測定装置の測定原理を示す縦断面図である。
図4図1の外皮層厚さ測定装置を用いて測定された測定結果であって、波長λ=460nmにおける入射角θiに対する反射率を示すグラフである。
図5A図1の外皮層厚さ測定装置を用いてポトスの葉について測定された測定結果であって、波長λ=460nmにおける入射角θに対する二方向性反射率(BRF)を示すグラフである。
図5B図5Aのグラフにおけるピーク計数値に対する厚さtを示すグラフである。
図6A図1の外皮層厚さ測定装置を用いてコーヒーの葉について測定された測定結果であって、波長λ=460nmにおける二方向性反射率(BRF)を示すグラフである。
図6B図1の外皮層厚さ測定装置を用いてコーヒーの葉について測定された測定結果であって、波長λ=478nmにおける二方向性反射率(BRF)を示すグラフである。
図6C図1の外皮層厚さ測定装置を用いてコーヒーの葉について測定された測定結果であって、波長λ=492nmにおける二方向性反射率(BRF)を示すグラフである。
図6D図1の外皮層厚さ測定装置を用いてコーヒーの葉について測定された測定結果であって、波長λ=510nmにおける二方向性反射率(BRF)を示すグラフである。
図6E図1の外皮層厚さ測定装置を用いてコーヒーの葉について測定された測定結果であって、波長λ=525nmにおける二方向性反射率(BRF)を示すグラフである。
図6F図1の外皮層厚さ測定装置を用いてコーヒーの葉について測定された測定結果であって、波長λ=535nmにおける二方向性反射率(BRF)を示すグラフである。
図7】コーヒーの葉の断面について電子顕微鏡(TEM)を用いて撮像した写真画像である。
図8図7の写真画像を拡大した写真画像である。
図9A】コーヒーの葉の断面について電子顕微鏡(TEM)を用いて順次拡大撮像した写真画像である。
図9B】コーヒーの葉の断面について電子顕微鏡(TEM)を用いて順次拡大撮像した写真画像である。
図9C】コーヒーの葉の断面について電子顕微鏡(TEM)を用いて順次拡大撮像した写真画像である。
図9D】コーヒーの葉の断面について電子顕微鏡(TEM)を用いて順次拡大撮像した写真画像である。
図10】ポトスの葉の蝋成分を含むクチクラ層の断面について電子顕微鏡(TEM)を用いて撮像した写真画像である。
図11】別の変形例に係る厚さ測定装置の測定原理を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明にかかる実施形態について図面を参照して説明する。なお、同一又は同様の構成要素については同一の符号を付している。
【0015】
(厚さ測定方法の原理)
まず、植物の葉の外皮層厚さ測定方法の原理について以下に説明する。
【0016】
本実施形態に係る外皮層厚さ測定方法は、特定の波長における偏光を用いた計測により、クチクラ層の上面(表面)と下面(クチクラ層と葉の細胞との境界面)で反射された光線が起こす干渉から、クチクラ層の厚さを推定するものである。
【0017】
図3は、実施形態に係る後述する図1の外皮層厚さ測定装置の測定原理を示す縦断面図である。図3において、3aは植物の葉の外皮層であるクチクラ層であり、厚さtを有する。
【0018】
図3において、光源からの入射光40は入射角θでクチクラ層3aの上面の位置Aに入射し、このとき、反対方向に同じ角度である反射角θ(=θ)でクチクラ層3aの上面(入射面)で反射して出射光41となって出射し、そのときの光波の位相が180度ずれる。入射光40のうち一部の入射光は、次式(1)のスネルの法則を満たすようにクチクラ層3aの内部に屈折角θで屈折して屈折光43として入射する。
【0019】
air・sinθ=nwaxy・sinθ (1)
【0020】
ここで、nairは大気中の屈折率(≒1)であり、nwaxyは蝋成分を含むクチクラ層3aの屈折率である。
【0021】
クチクラ層3aの内部に侵入した入射光43は、クチクラ層3aの内部を通過した後、クチクラ層3aの下面の位置Bにおいて入射角θ及び反射角θ(=θ)で反射し、そのときの光波の位相が180度ずれる。位置Bで反射された反射光44は再びクチクラ層3aの内部を通過した後、位置Cで屈折して、位置Aでの反射角θと同じ屈折角θで出射する。この出射光42は前記出射光41と同一の方向の出射光となって前記出射光41と合成された後、受光素子5に「合成反射光」として観測される。
【0022】
従って、クチクラ層3aの上面及び下面で反射された2つの出射光41,42が合成時に逆位相になる、つまりこれら2つの出射光41,42の強度が負方向のピークを示す条件は次式で表される。
【0023】
2・nwaxy・t・cos(θ)=(m-1/2)λ (2)
【0024】
ここで、tはクチクラ層3aの厚さであり、mは自然数であり、λは大気中の光波の波長である。式(2)を厚さtについて解くと、次式を得る。
【0025】
【数3】
(3)
【0026】
すなわち、干渉によって強度が負方向のピークを持つ屈折角θを計測できれば、クチクラ層3aの厚さtを推定できる。
【0027】
実施形態では、植物の葉に対する入射角θを変化させながら、入射角θiと同じ角度の反射角θで反射する出射光の、入射面に垂直なS偏光成分の光強度を計測し、極小値を持つ角度を調べればよい。なお、S偏光成分の光強度を計測することの意義については詳細後述する。この測定方法は、植物が生きた状態のまま計測できること、また、分光カメラで2次元の画像を取得できれば、葉の全域にわたって、クチクラ層3aの厚さtを推定することが可能という点で、従来例1に係る電子顕微鏡を用いる測定方法に比べて高い優位性を有する。また、従来例2に係る薄膜の膜厚測定方法に比較して、計測する偏光成分が異なり、詳細後述するようにより高い精度で厚さtを測定することができる。
【0028】
(厚さ測定装置の構成)
次いで、植物の葉の外皮層厚さ測定装置の構成について以下に説明する。
【0029】
図1は実施形態に係る植物の葉の外皮層厚さ測定装置の構成例を示すブロック図であり、図2A図1の測定装置の光源4及び受光素子5の移動機構6の詳細構成例を示すブロック図である。
【0030】
図1において、測定制御装置1は、当該測定装置の測定処理全体を制御するものであって、CPU(Central Processing Unit)10と、ROM(Read Only Memory)11と、RAM(Random Access Memory)12と、SSD(Solid State Drive)13と、操作部14と、表示部15と、通信インターフェース(以下、通信IFという)16と、信号インターフェース(以下、信号IFという)17,18と、機構インターフェース(以下、機構IFという)19とを備えて構成される。
【0031】
CPU10は測定制御装置1の各部を制御する制御手段(コントローラ)であって、当該測定装置の測定処理を実行する。ROM11は測定制御装置1の測定処理のプログラム及びそれを実行するために必要なデータを予め格納する。RAM12はCPU10が当該測定装置の測定処理を実行するときに、一時的に測定データ等を格納する。SSD13は測定制御装置1の測定処理の追加プログラム及びそれを実行するために必要なデータ、測定データを格納する。操作部14は例えばキーボード及びマウスを含み、測定制御装置1の測定処理を実行するときの指示等を入力する。表示部15は測定制御装置1の測定処理を実行したときの測定結果等を表示する。通信IF16は測定結果をインターネット等のネットワークを介してクラウド又はサーバ装置に送信する。信号IF17は測定制御装置1から光源4へのオン/オフ等の制御信号を送信する。信号IF18は受光素子5からの受光強度信号レベルを示す信号を受信する。機構IF19は、光源4及び受光素子5の位置を制御する移動機構6の動作を制御するための制御信号を送信し、移動機構6からのACK信号等の返信信号等を受信する。
【0032】
載置台2上に被測定物の植物の葉3が載置され、葉3はその上面に外皮層であるクチクラ層3aを有する。ここで、クチクラ層3aの上面を通過する仮想水平線を符号9で示す。また、載置台2上に支持部材8により半円形状のレール7を有する移動機構6が支持される。
【0033】
図2Aに示すように、レール7には、第1のギアを介して、光源4を移動させるステッピングモータ4mが連結されるとともに、第2のギアを介して、受光素子5を移動させるステッピングモータ5mが連結される。光源4は、光源4からの光源光である入射光40が植物の葉3の上面中央部に入射角θで入射するようにレール7の位置P1に設けられ、受光素子5は、S偏向光又はP偏向光を選択的に通過させる偏光フィルタ5fをその前面に有し、植物の葉3の上面中央部から出射角θで出射する出射光41,42を受光できるようにレール7の位置P2に設けられる。天頂角の基準線45は、植物の葉3の上面の中心から半円形状のレール7の最上部の位置P3に向かって延在する。ここで、植物の葉3の上面の中心が概ね、レール7の円の中心に位置するように、植物の葉3が載置台2上に載置される。ここで、測定制御装置1のCPU10の制御により、光源4から光源光が出射した後、植物の葉3の上面から出射する出射光41,42を受光素子5で受光してその強度を測定しながら、光源4の位置P1及び受光素子5の位置P2は、入射角θ=出射角θとなるように位置P3に向かって順次移動するように、移動機構6を制御する。
【0034】
以上説明したように、本実施形態によれば、植物の葉3に対する入射角θを変化させながら、入射角θiと同じ角度の反射角θで反射する出射光の、入射面に垂直なS偏光成分の光強度を計測し、極小値を持つ角度を調べる。これにより、植物が生きた状態のままで、クチクラ層3aの厚さtを推定できる。
【0035】
(変形例)
なお、以上の実施形態では、移動機構6が入射角θ=出射角θとなるように光源4の位置P1及び受光素子5の位置P2を制御している。本発明はこれに限らず、図1及び図2Aの移動機構6に代えて、以下に示す光源装置20及び受光素子装置30を用いてもよい。
【0036】
図2Bは変形例に係る光源装置20の構成例を示す正面図である。図2Bにおいて、光源装置20は、レール7に沿った円弧形状で、複数の光源21-1~21-N(総称して、符号21を付す)が所定の間隔で載置され、複数の光源21-1~21-Nのうちのいずれか1つの光源21が選択的に発光する。
【0037】
図2Cは変形例に係る受光素子装置30の構成例を示す正面図である。図2Cにおいて、受光素子装置30は、レール7に沿った円弧形状で、複数の受光素子31-1~31-N(総称して、符号31を付す)が所定の間隔で載置され、複数の受光素子31-1~31-Nのうちのいずれか1つの受光素子31が選択的に受光する。
【0038】
ここで、発光する光源21の位置P1と、受光する受光素子31の位置P2とは、測定制御装置1のCPU10は、入射角θ=出射角θとなるように光源21の位置P1及び受光素子31の位置P2を制御する。
【0039】
以上の実施形態では、受光素子5,31を用いているが、本発明はこれに限らず、分光カメラ等の撮像装置を用いて、植物の葉3の上面全体を測定することで、葉の上面全域にわたって、クチクラ層3aの厚さtを推定できる。
【0040】
さらに、以上の実施形態では、受光素子5は、偏光フィルタ5fを備えているが、本発明はこれに限らず、所定の帯域外のノイズを除去するために、受光したい帯域のみを通過させる帯域通過波長フィルタを受光素子5の前面に備えてもよい。
【実施例
【0041】
(厚さ測定装置を用いた測定結果)
次いで、発明者らによる図1の厚さ測定装置を用いた測定結果について以下に説明する。
【0042】
図4は、図1の測定装置を用いてコーヒーの葉の表面を入射角θで波長460nmの光で照射し、反射光強度をやはり出射角θ(=θ)でS偏光成分(Rs:入射面に垂直)とP偏光成分(Rp:入射面に平行)に分けて反射率を計測した結果を示す。図4から明らかなように、S偏光成分の反射率RsはP偏光成分の反射率Rpに比較して大きく、約28°で極小値を持つ。ここで、クチクラ層3aの屈折率nwaxy=1.5とすると、クチクラ層3aの厚さtは403nmと求められる(m=3)。
【0043】
図5A図1の外皮層厚さ測定装置を用いてポトスの葉について測定された測定結果であって、波長λ=460nmにおける入射角θに対する二方向性反射率(BRF)を示すグラフである。また、図5B図5Aのグラフにおけるピーク計数値に対する厚さtを示すグラフである。
【0044】
すなわち、図5A及び図5Bにおいて、460nmにおけるポトスの葉のミラー反射測定結果と、構造的な干渉のピーク数と、蝋成分を含むクチクラ層の厚さとの関係を示す。特に、図5Aは、測定限界内で構造的な干渉が発生する頻度を示しており、前記厚さtは発生数に依存して決定することができる。
【0045】
この種の影響は、ミラーの反射だけではなく、コーヒー植物の葉のBRF測定にも見られる。従って、460nmから550nmまでの波長において、強く観測される構造的又は建設的なピークは、この光波長におけるミソフィル層の光波長における蝋成分を含むクチクラ層の屈折率よりもはるかに大きい。いちごの葉からは、私達は干渉波を見ることができなかった。
【0046】
図6A図6Fはそれぞれ、図1の外皮層厚さ測定装置を用いてコーヒーの葉について測定された測定結果であって、波長λ=460nm、478nm、492nm、510nm、525nm、535nmにおける二方向性反射率(BRF)を示すグラフである。
【0047】
図6A図6Fから明らかなように、異なる波長におけるコーヒーの葉の二方向性反射率(BRF)が示され、破壊的な干渉ピークは高い観測天頂角に向かって移動しており、それは薄膜干渉によるものである。
【0048】
さらに、本発明者が、電子顕微鏡(TEM)を用いて撮影した写真画像を以下に示す。
【0049】
図7はコーヒーの葉の断面について電子顕微鏡(TEM)を用いて撮像した写真画像である。また、図8図7の写真画像を拡大した写真画像である。さらに、図9A図9Dはコーヒーの葉の断面について電子顕微鏡(TEM)を用いて順次拡大撮像した写真画像である。図10はポトスの葉の蝋成分を含むクチクラ層の断面について電子顕微鏡(TEM)を用いて撮像した写真画像である。
【0050】
図7においては、透過型電子顕微鏡(TEM)の画像を示しており、当該画像は、いくつかのセクションからなるコーヒーの葉(向軸面側)の蝋成分を含むクチクラ層の厚さの断面を示す。ここで、最上部セクション層の厚さは約400nmであった。図8では、図7の画像を拡大しており、この画像は、蝋成分を含むクチクラ層(コーヒー)の最上部セクション層を示し、厚さは約400nmである。図9A図9Dでは、コーヒーの葉の断面は段階的に拡大されていることがわかる。図10には、ポトスの葉の蝋成分を含むクチクラ層を示す画像が示されており、その厚さは約4.2μmであった。
【0051】
図7図10から明らかなように、光学的測定および計算から、コーヒーの葉の蝋成分を含むクチクラ層の厚さは約403nmであり、ポトスのクチクラ層の厚さは4.2μmであった。このとき、これについて電子顕微鏡を用いてチェックすることができ、互いに決定される2つの厚さは一致していることを確認できた。
【0052】
(実施形態と特許文献1との相違点)
本実施形態では、S偏光成分の光強度を用いてクチクラ層3aの厚さを測定しているが、特許文献1では、P偏光成分の光強度を用いて物体の薄膜層の厚さを測定することが開示されている。これらの相違点について以下に説明する。
【0053】
特許文献1に係る発明は、その図5図6及び段落0062の記載に基づいて、特に、
(A)測定する反射光がP偏光光である点、
(B)反射光の強度変動の極小値を用いる点、及び
(C)測定対象が、厚さが200nm以下の被膜である点、
に特徴を有することで、測定対象物を±3%程度の精度で測定することができるという優れた作用効果を奏することを主張しております(例えば、段落0062参照;特許文献1の出願の審査経過における平成19年11月2日付け意見書参照)。
【0054】
これに対して、本実施形態では、特に、以下のことを特徴としており、特許文献1とは異なるものである。
(A)測定する反射光がS偏光光である点(前記の電子顕微鏡での測定等から明らかなように、S偏光成分はクチクラ層3aでのみ二回通過して反射する光成分が主成分であることが推定される。一方、P偏光成分はクチクラ層3a及びその下の葉の主体層の下面で反射して戻る光成分に対応する成分が主成分であると推定される。ここで、クチクラ層3aのほとんどが屈折率1.5の細胞を含むに対して、葉の主体層は屈折率1.5の細胞と屈折率1.0の細胞間隙を含むのでおよそ屈折率1.2~1.4程度を有する。特許文献1の図4から明らかなように、図4の皮膜42の屈折率はその基板41の屈折率よりも小さいが、本実施形態では、クチクラ層3aの屈折率は葉の主体層の屈折率よりも大きく、特許文献1の皮膜およびシリコン基板の構造と、本実施の形態での葉のクチクラ層3aと主体層の構造とは全く異なる。)。
(B)入射光の入射角を変化させながら、当該入射角に対する合成反射光の光強度の極小値を用いる点。
(C)測定対象が、植物の葉の外皮層(例えばクチクラ層)である点(厚さの一例としては、コーヒーの葉のクチクラ層の厚さが約403nmであり、ポトスのクチクラ層の厚さは4.2μmである)。特許文献1では、シリコン基板上の皮膜の厚さを対象としている。
【0055】
(実施形態等のまとめ)
以上説明したように、実施形態及びその変形例に係る植物の葉の外皮層厚さ測定装置によれば、
所定の波長λの光を所定の入射角θで植物の葉の入射面に入射させる光源と、
前記植物の葉の入射面で前記入射角θと同一の反射角で反射してくる第1の反射光と、前記植物の葉の入射面において屈折角θで屈折して前記植物の葉の外皮層に入射した後当該外皮層の対向面で反射して前記植物の葉の入射面に戻り当該植物の葉の入射面で屈折して出射する第2の反射光とを合成してなる合成反射光を受光し、当該合成反射光のうち前記入射面に対して垂直なS偏光成分の光強度を検出する受光素子と、
前記入射角θを変化させながら、前記変化された各入射角θに対して前記S偏光成分の光強度を検出し、検出されたS偏光成分の光強度の極小値に対応する入射角θを検索し、次式を用いて、
【数4】
air・sinθ=nwaxy・sinθ
前記外皮層の厚さtを計算して出力する制御手段とを備え、
mは自然数であり、
airは大気中の屈折率であり、
waxyは前記外皮層の屈折率である
ことを特徴とする。
【0056】
ここで、前記制御手段の制御のもとで、前記入射角θと前記第1及び第2の反射光の出射角とが同じになるように、前記光源と前記受光素子とを移動させる移動機構をさらに備える。
【0057】
また、前記植物の葉の外皮層厚さ測定装置は、
複数の光源を備える光源装置と、
複数の受光素子とを備える受光素子装置とを備え、
前記制御手段は、前記複数の光源のうちの1つを順次選択的にオンして前記植物の葉の入射面に入射させる光源として用いかつ前記複数の受光素子のうちの1つを順次選択的にオンして前記合成反射光を検出する受光素子として用いて、前記入射角θを変化させながら、前記変化された各入射角θに対して前記S偏光成分の光強度を検出する。
【0058】
ここで、前記受光素子は、合成反射光のうち前記入射面に対して垂直なS偏光成分を検出する偏光フィルタを含む。また、前記植物の葉の外皮層はクチクラ層である。
【0059】
以上説明したように、本実施形態に係る植物の葉の外皮層厚さ測定装置及び方法によれば、従来例に比較して簡単にかつ高い精度で、植物の葉の外皮層の厚さを測定することができる。これにより、植物の養育状態を極めて簡便な方法で測定できる。
【0060】
(別の変形例)
以上の実施形態とその変形例では、植物の葉の蝋成分を含むクチクラ層の厚さである、植物の葉の外皮層の厚さを測定する外皮層厚さ測定装置及び方法について説明しているが、本発明はこれに限らず、人体を含む動物の皮膚表面層、動物からの発汗量、動物の皮膚細胞層、もしくは動植物の表皮細胞層の厚さ及び状態を検出する装置にも適用することができる。以下、生体又は物体の厚さを測定する厚さ測定装置について以下に説明する。
【0061】
図11は別の変形例に係る厚さ測定装置の測定原理を示す縦断面図である。図11において、図3と同様のものについて同一の符号を付している。
【0062】
図11は、入射面と入射面に対向する対向面とを有する第1層51(空気層50に接する最外側層)と、第1層51の対向面と接する第2層52とを含む、生体又は物体の第1層51の厚さtを測定する厚さ測定装置の測定原理を示している。
【0063】
図11において、図1の測定装置を用いて、光源4から、所定の波長λの光を所定の入射角θで空気層50から第1層51の入射面の位置Aに入射させる。図1の受光素子5は、
(1)入射面で入射角θと同一の反射角θで反射してくる第1の反射光である出射光41と、
(2)入射面において屈折角θで屈折して第1層51に入射した後、当該第1層51の対向面(又は第2層52の上側面)の位置Bに入射角θで入射し反射角θで反射して入射面に戻り当該入射面の位置Cに入射角θで入射し、屈折角又は出射角θで屈折して出射する第2の反射光である出射光42と、
を合成してなる合成反射光を受光し、当該合成反射光のうち入射面に対して垂直なS偏光成分の光強度を検出する。このように、入射光を入射、屈折、反射等させて受光素子5に入射させる条件は、次式で表される。
【0064】
<n<n (4)
【0065】
ここで、nは空気層50の屈折率であり、nは第1層51の屈折率であり、nは第2層の屈折率である。
【0066】
図1の測定制御装置1は、入射角θを変化させながら、変化された各入射角θに対してS偏光成分の光強度を検出し、検出されたS偏光成分の光強度の極小値に対応する入射角θを検索し、式(3)と同様の次式を用いて、第1層51の厚さtを計算して出力することができる。
【0067】
【数5】
(5)
【0068】
・sinθ=n・sinθ (6)
【0069】
ここで、mは自然数であり、自然数mは波長λの入射光が第1層51を通過するときの波数に対応し、第1層51の厚さtを高い精度で計算するためには、好ましくは、1、2又は3である。また、式(5)における、入射光の波長λは厚さtとの関係から明らかなように、式(5)の右辺の数値が厚さtと同程度(同じオーダー程度)になるように、入射光の波長λを選択する必要がある。
【0070】
以上説明したように、この変形例によれば、従来技術に比較して、簡単にかつ高い精度で、生体又は人体の第1層51の厚さを測定することができる。
【0071】
また、非特許文献2及び3から明らかなように、例えば人体の毎分の発汗量が、0.05-0.5[mg/min/cm]というプロットが見られる。ここで、汗の比重を1g/cmを仮定すると、人体の皮膚表面層の厚さtは0.5~5[μm]に換算できる。すなわち、図1の測定装置を用いて、人体の皮膚表面層の厚さtを測定し、汗の比重を1g/cmを仮定すると、人体の発汗量を計算できる。言い換えれば、図1の測定装置を、人体等の動物の発汗量測定装置(発汗計)として用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上詳述したように、本発明に係る厚さ測定装置及び方法によれば、従来技術に比較して、簡単にかつ高い精度で、生体又は物体の第1層の厚さを測定することができる。これにより、生体等の生育状態、発汗量等を測定できる。
【符号の説明】
【0073】
1 測定制御装置
2 載置台
3 植物の葉
3a クチクラ層
4 光源
4m ステッピングモータ
5 受光素子
5m ステッピングモータ
6 移動機構
7 レール
8 支持部材
9 仮想水平線
10 CPU
11 ROM
12 RAM
13 SSD
14 操作部
15 表示部
16 通信インターフェース(通信IF)
17,18 信号インターフェース(信号IF)
19 機構インターフェース(機構IF)
20 光源装置
21-1~21-N 光源
30 受光素子装置
31-1~31-N 受光素子
40 入射光
41,42 出射光
43 屈折光
44 反射光
50 空気層
51 生体又は物体の第1層
52 生体又は物体の第2層
A~D,P1~P3 位置
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図10
図11