(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】親水性シリコーン樹脂製マイクロ流路
(51)【国際特許分類】
B01J 19/00 20060101AFI20221104BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20221104BHJP
B81B 1/00 20060101ALI20221104BHJP
C08F 299/08 20060101ALI20221104BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
B01J19/00 321
G01N37/00 101
B81B1/00
C08F299/08
C08F290/06
(21)【出願番号】P 2019079172
(22)【出願日】2019-04-18
【審査請求日】2021-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2018086353
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】萩原 守
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-245737(JP,A)
【文献】特開2012-075391(JP,A)
【文献】特表2015-528586(JP,A)
【文献】国際公開第2017/142343(WO,A1)
【文献】特開2013-139569(JP,A)
【文献】米国特許第04259467(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00
G01N 37/00
B81B 1/00
C08F 299/08
C08F 290/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるシリコーンマクロマーを含む組成物を硬化させた架橋体からなるものであることを特徴とする親水性シリコーン樹脂製マイクロ流路。
【化1】
(式中、R
1は水素原子又はメチル基、R
2~R
5は各々炭素数1~12の炭化水素基又はトリメチルシロキシ基である。Yは下記一般式(2)に示す構造単位(I)~(III)からなり、前記構造単位の含有比率が、(I)/(II)=5/5~10/0、〔(I)+(II)〕/(III)=100/1~100/10であって、含まれる前記構造単位の数の合計が、(I)+(II)+(III)=
11~300である。rは1.5~100、m及びnはそれぞれ同一又は異なる0~20の整数、pは0~20、lはmが0のときは0であり、mが1以上のときは1である。X
は-OOCHN-R
13-NHCOO-(R
13は炭素数4~13の炭化水素基)の二価の連結基である。)
【化2】
(R
6及びR
7は各々炭素数1~12の炭化水素基、R
8及びR
9はそれぞれ炭素数1~12の炭化水素基又はフッ素原子で置換された炭化水素基であり、その少なくとも一方はフッ素原子で置換された炭化水素基である。R
10及びR
11は各々炭素数1~12の炭化水素基又は下記一般式(3)に示す(ポリ)アルキレンオキシ基(qは0~20の整数、R
12は水素原子又は1~20の炭化水素基)であって、その少なくとも一方は(ポリ)アルキレンオキシ基である。)
【化3】
【請求項2】
前記組成物が前記シリコーンマクロマーと共重合可能なモノマーの1種又は2種以上を含むものであることを特徴とする請求項1に記載の親水性シリコーン樹脂製マイクロ流路。
【請求項3】
前記共重合可能なモノマーが、(メタ)アクリル酸モノマー、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミドモノマー、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートモノマー、グリセロール(メタ)アクリレートモノマー、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドモノマー、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートモノマー、N-ビニルピロリドン、及びポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートモノマーから選択される1種以上のモノマーであることを特徴とする請求項2に記載の親水性シリコーン樹脂製マイクロ流路。
【請求項4】
前記架橋体の水中接触角が110°以上のものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の親水性シリコーン樹脂製マイクロ流路。
【請求項5】
前記架橋体の酸素透過係数が50Barrer以上410Barrer以下のものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の親水性シリコーン樹脂製マイクロ流路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液分析装置の流路部材、細胞培養装置内の流路部材等で微小量を一定流量で扱うことのできるマイクロ流路に関する。
【背景技術】
【0002】
一つの基板に微細な流路、ポンプ、反応室などを集積したマイクロ・トータル・アナリ
シス・システム(μTAS)が、医療分野における検査や診断の手段、化学分野における合成や分析の手段として、注目を集めている。例えば、基板内に微細な流路が形成されたマイクロ流路装置によると、反応、抽出、分離、測定などの各種操作を、極めて少量の試料で短時間に行うことができる。基板の材料としては、ガラスや樹脂が知られている。なかでも、シリコーン樹脂は、微細加工が容易であり、光透過性に優れるという理由から有用である。
【0003】
しかし、シリコーン樹脂製の基板は、水に対する親和性が低い。このため、流路に水を含む液体を流した場合、流れ性の悪さから、所望の操作を正確に行えないおそれがある。また、試薬や検体液中の物質が、流路の表面に吸着されるおそれもある。この場合、吸着物により流路が狭まり流量が安定しない他、試薬などのロスにより、分析精度が低下してしまう。したがって、流路表面を親水化することが必要になる。
【0004】
さらに、一般的なシリコーン樹脂のみから構成される流路は流路表面が疎水性であるため、流路内の圧力が変化した場合に発生する気泡が内壁に留まり、その後流量を上げても気泡が除去できない等、デバイス面からの問題もあった。
【0005】
上述のような問題から、シリコーン樹脂からなるデバイスの流路内面を親水化するために各種検討がなされてきた。
【0006】
特許文献1には、基板に形成された流路に誘電体を介して一対の電極を配置して、電極間に高周波電圧を印加して生成したプラズマを流路内へ供給することにより、流路表面を親水化する方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献2、3には、親水性ポリマーなどを含む溶液で流路面を処理することにより、流路表面の濡れ性を高める方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献4には、アクリル系樹脂やガラスをベースにマイクロ流路を作製し、二次的な処理として親水性ポリマーを表面コートし流路内を親水性とする方法を開示している。
【0009】
特許文献1の方法においては、流路表面に水酸基やアミノ基を生成して、親水化する。
しかし、親水性は充分とは言えず、親水化処理直後は親水性を示すものの、時間の経過と共に親水性が失われ、疎水性に戻ってしまう。同様に、特許文献2の方法においても、親水性が持続しにくい。また、特許文献2、3の方法においては、流路を形成した後に溶液を流して親水化処理を行うため、流路表面に形成される膜厚の制御が難しい。例えば、膜厚が大きくなると、その分、流路体積が減少するため、分析などの正確性が著しく低下する。
【0010】
特許文献4の方法においては、耐久性のある濡れ性の良い表面が得られるものの、シリコーン樹脂基材への検討はされておらず、これを酸素供給が必要な細胞培養デバイス用途等に使用した場合、基材の酸素透過性が低いため流路への酸素供給が不十分となり最適な流路が得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2006-205055号公報
【文献】特開2006-292472号公報
【文献】特開2008-82961号公報
【文献】特開2010-236955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、成型後の表面が二次的な処理無しに高い親水性を示し、かつ、その親水性が長期間持続する、高い酸素透過性樹脂からなるマイクロ流路を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を達成するために、本発明では、下記一般式(1)で表されるシリコーンマクロマーを含む組成物を硬化させた架橋体からなるものである親水性シリコーン樹脂製マイクロ流路を提供する。
【化1】
(式中、R
1は水素原子又はメチル基、R
2~R
5は各々炭素数1~12の炭化水素基又はトリメチルシロキシ基である。Yは下記一般式(2)に示す構造単位(I)~(III)からなり、前記構造単位の含有比率が、(I)/(II)=5/5~10/0、〔(I)+(II)〕/(III)=100/1~0/100であって、含まれる前記構造単位の数の合計が、(I)+(II)+(III)=1~300である。rは1~100、m及びnはそれぞれ同一又は異なる0~20の整数、pは0~20、lはmが0のときは0であり、mが1以上のときは1である。Xは単結合、-NHCOO-、又は-OOCHN-R
13-NHCOO-(R
13は炭素数4~13の炭化水素基)の二価の連結基である。)
【化2】
(R
6及びR
7は各々炭素数1~12の炭化水素基、R
8及びR
9はそれぞれ1~12の炭化水素基又はフッ素原子で置換された炭化水素基であり、その少なくとも一方はフッ素原子で置換された炭化水素基である。R
10及びR
11は各々炭素数1~12の炭化水素基又は下記一般式(3)に示すポリアルキレンオキシ基(qは0~20の整数、R
12は水素原子又は1~20の炭化水素基)であって、その少なくとも一方はポリアルキレンオキシ基である。)
【化3】
【0014】
このような親水性シリコーン樹脂製マイクロ流路であれば、成型後の表面が二次的な処理無しに高い親水性を示し、かつ、その親水性が長期間持続する、高い酸素透過性樹脂からなるものとすることができる。
【0015】
また、前記組成物が前記シリコーンマクロマーと共重合可能なモノマーの1種又は2種以上を含むものであることが好ましい。
【0016】
このとき、前記共重合可能なモノマーが、(メタ)アクリル酸モノマー、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミドモノマー、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートモノマー、グリセロール(メタ)アクリレートモノマー、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドモノマー、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートモノマー、N-ビニルピロリドン、及びポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートモノマーから選択される1種以上のモノマーであることが好ましい。
【0017】
このようなものであれば、マイクロ流路基材の光学特性、酸素透過性、機械的強さ、水濡れ性、成型時の寸法安定性とその経時変化などの特性バランスを良くすることができる。
【0018】
また、前記架橋体の水中接触角が110°以上のものであることが好ましい。
【0019】
このような水中接触角のものであれば、本発明の親水性シリコーン樹脂製マイクロ流路はより十分な親水性、及び水濡れ性を示すものとなる。
【0020】
また、前記架橋体の酸素透過係数が50Barrer以上のものであることが好ましい。
【0021】
このような酸素透過係数であれば、本発明の親水性シリコーン樹脂製マイクロ流路を酸素供給が必要な細胞培養デバイス用途等に使用した場合にも、流路へのより十分な酸素供給が可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、二次的な表面処理なしでの流路内親水性の発現と持続、樹脂の酸素透過性の上記問題点を解決し、気泡が混入してもマイクロ流路表面に留まらず、かつ細胞へ酸素供給を妨げないマイクロ流路を工業的に容易な方法で提供できる。そして、本発明は
血液分析装置内の流路部材、細胞培養用装置の流路部材等に特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施例1で得られたシロキサンマクロマー(マクロマーA)の1H-NMRスペクトル図である。
【
図2】実施例1で得られたシロキサンマクロマー(マクロマーA)のIRスペクトル図である。
【
図3】キャプティブバブル法の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
上述のように、成型後の表面が二次的な処理無しに高い親水性を示し、かつ、その親水性が長期間持続する、高い酸素透過性樹脂からなるマイクロ流路の開発が求められていた。
【0025】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、シロキサニル基の側鎖にポリアルキレンオキシ基を有する構造単位を含むシリコーンマクロマーをマイクロ流路用の材料として用いることで、シリコーン樹脂からなるものであるにも関わらず、流路内壁が高い親水性になるとともに、良好な酸素透過性をもつマイクロ流路を作製できることを見出し、本発明を完成させた。
【0026】
即ち、本発明は、上記一般式(1)で表されるシリコーンマクロマーを含む組成物を硬化させた架橋体からなるものである親水性シリコーン樹脂製マイクロ流路である。
【0027】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
本発明の親水性シリコーン樹脂製マイクロ流路は微量の試料、好ましくは液体状の試料を流すものであり、その目的(微小量を一定流量で扱うこと)を適切に果たすのであれば、その大きさ及び長さは特に限定されるものではない。本発明のマイクロ流路は、好ましくは試料が通過するための直径1μm~10mmの流路径を有し、さらに好ましくは直径10μm~1mmの流路径を有する。マイクロ流路の流路径のサイズは、全長にわたって同じであってもよいが、部分的に異なる形状及びサイズであってもよい。すなわち、徐々に又は段階的に細く又は太くなる部分があってもよい。
【0029】
マイクロ流路の表面とはマイクロ流路の内壁を意味し、本発明の親水性シリコーン樹脂製マイクロ流路は、その表面(内壁)が高い親水性、及び水濡れ性を示す。また、マイクロ流路の基材となる架橋体自体が親水性を有するため、従来技術のように、流路表面に親水化処理をする必要がない。このため、本発明の親水性シリコーン樹脂製マイクロ流路は、親水化処理をした場合のように、時間の経過とともに親水性が失われることがないので、長期間にわたって親水性が持続することができる。
【0030】
本発明の親水性シリコーン樹脂製マイクロ流路を作製するための基材は、下記一般式(1)で表されるシリコーンマクロマーを含む組成物を硬化させた架橋体からなる。
【化4】
(式中、R
1は水素原子又はメチル基、R
2~R
5は各々炭素数1~12の炭化水素基又はトリメチルシロキシ基である。Yは下記一般式(2)に示す構造単位(I)~(III)からなり、前記構造単位の含有比率が、(I)/(II)=5/5~10/0、〔(I)+(II)〕/(III)=100/1~0/100であって、含まれる前記構造単位の数の合計が、(I)+(II)+(III)=1~300である。rは1~100、m及びnはそれぞれ同一又は異なる0~20の整数、pは0~20、lはmが0のときは0であり、mが1以上のときは1である。Xは単結合、-NHCOO-、又は-OOCHN-R
13-NHCOO-(R
13は炭素数4~13の炭化水素基)の二価の連結基である。)
【化5】
(R
6及びR
7は各々炭素数1~12の炭化水素基、R
8及びR
9はそれぞれ1~12の炭化水素基又はフッ素原子で置換された炭化水素基であり、その少なくとも一方はフッ素原子で置換された炭化水素基である。R
10及びR
11は各々炭素数1~12の炭化水素基又は下記一般式(3)に示すポリアルキレンオキシ基(qは0~20の整数、R
12は水素原子又は1~20の炭化水素基)であって、その少なくとも一方はポリアルキレンオキシ基である。)
【化6】
【0031】
上記一般式(1)で表されるシロキサンマクロマーは、その分子量が増大する時、側鎖の官能基数が同じであれば、主鎖の官能基間鎖が長くなるため、凝集エネルギーを低下させると共にガラス転移点も低くなるため、マイクロ流路デバイスを作製する時、柔らかさ並びにゴム弾性で示される物性に大きな効果をもたらす。
【0032】
上記一般式(1)式中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2、R3、R4及びR5はそれぞれ炭素数1~12の炭化水素基、又はトリメチルシロキシ基であり、各々は同一のものでも良いし異なるものであっても良い。マイクロ流路デバイスを作製時の、弾力性、強度などの観点からR2~R5は炭素数1~3の炭化水素基が好ましい。m及びnは0~20の整数、及びpは0~20、好ましくは0~20の整数であり、各々20を越えて大きくなると、他のモノマーとの相溶性が悪くなり白濁しやすくなる。lはmが0のときは0であり、mが1以上のときは1である。
【0033】
上記一般式(1)で表されるシリコーンマクロマーの分子量を決定する当該マクロマーのシロキサニル単位である一般式(1)中のYの構造は、上記一般式(2)中の(I)、(II)及び(III)で示される構造単位からなる。該構造単位(I)、(II)及び(III)はそれぞれ次のような特徴をもっている。
【0034】
構造単位(I)は、シロキサニル基の側鎖が炭素数1~12の炭化水素基であり、分子内で構造単位(I)の数が増える程、酸素透過性(即ち、酸素透過係数)を増大させる効果がある。またガラス転移点を低下させる効果もあるので、良好な力学物性を付与する構造単位である。構造単位(I)は分子内に連続的に存在しないようにすることで、流路で流す薬剤や蛋白質の吸着がより起こりにくくなり、流路内壁においてこれらの堆積を抑制することができる。
【0035】
次に構造単位(II)は、シロキサニル基の側鎖の少なくとも一方はフッ素原子で置換された炭化水素基であり、側鎖にフッ素原子で置換された炭化水素基をもつことによりフッ素原子に起因する臨界表面張力の低下が起こる。これは流路内壁が蛋白質や脂質、無機成分などによって汚染されることを抑制する効果を有し、汚染物質が付着しても剥がれ易い性質を持っている。しかしながら構造単位(II)は、構造単位(I)程、酸素透過性を増大させる傾向は大きくなく、したがって、分子内に多く存在し過ぎると希望する酸素透過性が得られにくくなる。また、流路内壁を疎水性にする効果をもつため、濡れ性が低下するおそれがある。このため、後述のように、含有比率(構造単位(I)/構造単位(II))を所定の範囲内に制御する。
【0036】
構造単位(III)は、シロキサニル基の側鎖の少なくとも一方に上記一般式(3)で示されるポリアルキレンオキシ基をもつことで流路内の高い親水性、及び水濡れ性を発現する、本発明の特に必須の構造単位である。構造単位(III)の分子内の存在量(含有比率、構造単位の数)を後述のように制御することによって、本発明のマイクロ流路は酸素透過性がより高く、また、より硬度の高いものとすることができる。
【0037】
上述のように、分子内に存在する構造単位(I)、(II)及び(III)の含有比率のバランスが本発明のマイクロ流路の性能に影響し、これら構造単位(I)~(III)の含有比率、及び数の合計が以下の関係を満たさなければ、マクロマー自体が白濁して得られたり、共重合可能なモノマーとの相溶性が悪化し、相分離を起こしたり、重合時に白濁したりする。以上の理由より、分子内に含まれる構造単位(I)及び(II)の存在比(含有比率)は構造単位(I):構造単位(II)の比が5:5ないし10:0であり、好ましくは7:3ないし9:1が良く、含まれる構造単位(I)、(II)、(III)の合計数は1~300であり、好ましくは10~200が良い。
【0038】
分子内に含まれる構造単位(III)の含有比率は構造単位(I)、(II)の合計数との比で表され、構造単位(I)+(II):構造単位(III)の比が100:1ないし0:100であり、好ましくは100:2ないし100:10がよい。
【0039】
構造単位(I)のシロキサニル基の側鎖は、それぞれ炭素数1~12の炭化水素基であり、好ましくはメチル基が良い。構造単位(II)のシロキサニル基の側鎖は、少なくとも一方がフッ素置換された炭化水素基であることが必要であり、例えば3,3,3-トリフルオロプロピル基、1,1,2,2-テトラヒドロパーフルオロオクチル基、1,1,2,2-テトラヒドロパーフルオロデシル基などが挙げられ、中でもトリフルオロプロピル基が好ましい。構造単位(III)のシロキサニル基の側鎖は少なくとも一方がポリアルキレンオキシ基である必要であり、製造上の副反応を抑制する点から末端がアルキル基でキャップされていることが好ましい。さらに好ましくは末端がメトキシ基である(即ち、末端がメチル基でキャップされた)ポリエチレングリコール鎖長3~10の構造である。
【0040】
次に、上記一般式(1)中のXは単結合、-NHCOO-、又は-OOCHN-R13-NHCOO-(R13は炭素数4~13の炭化水素基であり、該炭化水素基は、例えば、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、又は芳香族炭化水素基である)の二価の連結基である。これらウレタン結合を分子構造中に含むことにより、強度や水濡れ性をさらに改善することができる。2官能イソシアネートの残基として例えばヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,6-ジイソシアネートメチルカプロエート、3-イソシアネートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、ジシジシクロヘキシルメタン-4,4´-ジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの残基が有り、なかでもヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートの残基が好ましい。
【0041】
上記一般式(1)で表されるシロキサンマクロマーは、例えば、α,ω-ビス-(1-ヒドロキシエトキシプロピル)ジメチルポリシロキサンとオクタメチルシクロテトラシロキサン及び1,3,5-トリメチルトリフルオロプロピルシクロトリシロキサンとテトラメチルシクロテトラシロキサンとの平衡化反応によって得られるポリシロキサン構造を有するジオール化合物を合成後、α‐モノアリロキシアルキレンオキシドとのヒドロシリル化反応を経て、水酸基と当量のイソシアネートエチルメタクリレートを反応させることによって得られる。この得られたシロキサンマクロマーの構造はNMR(核磁気共鳴スペクトル)及びIR吸収スペクトルから解析することができる。
【0042】
また、上記一般式(1)で表されるシロキサンマクロマーは、例えば、α,ω-ビス-(1-ヒドロキシエトキシプロピル)ジメチルポリシロキサンとオクタメチルシクロテトラシロキサン及び1,3,5-トリメチルトリフルオロプロピルシクロトリシロキサンとテトラメチルシクロテトラシロキサンとの平衡化反応によって得られるポリシロキサン構造を有するジオール化合物を合成後、α‐モノアリロキシアルキレンオキシドとのヒドロシリル化反応を経て、ポリマー末端の水酸基と所定量のイソホロンジイソシアネートを反応させジイソシアネート化合物を合成した後、ヒドロキシエチルメタクリレートを反応させることによっても得られる。この得られたシロキサンマクロマーの構造はNMR(核磁気共鳴スペクトル)及びIR吸収スペクトルから解析することができる。
【0043】
また、分子内に含まれる構造単位(I)、(II)及び(III)の存在比と存在数は,NMR(核磁気共鳴スペクトル)を測定することにより求めることができる。例えば構造単位(I)がジメチルシロキサンであり、構造単位(II)がメチル-トリフルオロプロピルシロキサン、構造単位(III)がメトキシポリエチレングリコールの場合、NMRスペクトル上に表れるメチル基、トリフルオロプロピル基、エチレングリコール基に関するプロトン吸収の積分値を測定し、更に同じ分子内に含まれるメチレン基に関するプロトン吸収の積分値を測定することから求められる。
【0044】
マイクロ流路基材の目標性能、例えば要求される強度、柔らかさ、酸素透過性、内壁の水濡れ性などに応じて、一般式(1)の中のYを構成する構成単位の種類及び結合数、並びにXを構成する残基が選択される。
【0045】
また、マイクロ流路作製時に必要な引裂強度を向上させるために、上記一般式(1)で表されるシリコーンマクロマーは上述のXを介したブロック構造を有しており、rは1~100であり、好ましくは1~10が良い。
【0046】
本発明の親水性シリコーン樹脂製マイクロ流路は、上記一般式(1)で表されるシリコーンマクロマーを含む組成物を硬化させた架橋体からなるものである。組成物には、一般式(1)で表されるシリコーンマクロマーの他に、該シリコーンマクロマーを重合させて硬化させて架橋体とするための光重合開始剤、アゾ化合物や有機過酸化物を含有させることができる。さらに、後述のように、シロキサンマクロマーと共重合可能なモノマーの1種または2種以上を含有させることもできる。
【0047】
上記一般式(1)で表されるシリコーンマクロマーを含む組成物は、シリコーンマクロマーと共重合可能なモノマーの1種又は2種以上を含むものであることが好ましい。
【0048】
このとき、共重合可能なモノマーが、(メタ)アクリル酸モノマー、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミドモノマー、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートモノマー、グリセロール(メタ)アクリレートモノマー、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドモノマー、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートモノマー、N-ビニルピロリドン、及びポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートモノマーから選択される1種以上のモノマーであることが好ましい。
【0049】
機械的性質、表面水濡れ性、寸法安定性などを向上させるために、所望に応じ、以下に述べるモノマーを共重合させることができる。機械的性質を向上させるためのモノマーとしては、例えばスチレン、tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物等が挙げられる。表面濡れ性を向上させるためのモノマーとしては、例えばメタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、グリセロールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、N,N´-ジメチルアクリルアミド、N,N´-ジエチルアクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルメタクリレート、メチレンビスアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルNメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0050】
寸法安定性を向上させるためのモノマーとしては、例えばエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタク
リレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート、ビニルメタクリレート、アクリルメタクリレート及びこれらのメタクリレート類に対応するアクリレート類、ジビニルベンゼン、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。これらのモノマーは1種用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いても良い。マイクロ流路基材の光学特性、酸素透過性、機械的強さ、水濡れ性、成型時の寸法安定性とその経時変化などの特性バランスを良くするため、これら共重合可能なモノマーを組み合わせた混合モノマーを使用することができる。
【0051】
このような組成物を硬化させて架橋体とする方法は、光重合開始剤を単量体混合物中に存在させ、紫外線を照射して重合させる方法又はアゾ化合物や有機過酸化物を用いて熱重合させる方法のいずれもが適用できる。
【0052】
また、組成物を硬化させた架橋体の水中接触角が110°以上のものであることが好ましい。
【0053】
このような水中接触角のものであれば、本発明のマイクロ流路はより十分な親水性、及び水濡れ性を示すものとなる。
【0054】
また、組成物を硬化させた架橋体の酸素透過係数が50Barrer以上のものであることが好ましい。
【0055】
このような酸素透過係数であれば、本発明のマイクロ流路を酸素供給が必要な細胞培養デバイス用途等に使用した場合にも、流路へのより十分な酸素供給が可能となる。
【実施例】
【0056】
次に実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。なお、得られた物の分子量及び各物性、特性は次のようにして求めた。
【0057】
(1)分子構造と分子量は、NMRおよびGPCにより求めた。
(2)酸素透過係数
理化精機工業社製の気体透過率測定装置K-315-Nを用いた。試料片は直径30mm、厚さ0.3~0.5mmの円盤状のものとし、25℃の恒温中で測定した。
(3)力学物性
インストロン社製引張り試験機5942B-1156を用いて、引張強度、伸び、初期応力からの弾性率を測定した。測定は25℃の恒温室で行い、試験片
は巾4mm長50mm厚0.3~0.5mmのものを用いた。
(4)液中接触角測定
KRUSS社製DSA-25Sを用いて、水中で試験片表面に気泡を接触させるキャプティブバブル法(
図3参照)から求めた。
図3中、接触角θが大きいほど、基板表面の親水性が高いことを意味する。室温、常圧の下で5μLの気泡を水中で表面に接触させ接触角θを測定した。
(5)マイクロ流路の作製と気泡離脱性の評価
マイクロ流路は既知のリソグラフィー技術を用い、インプリント法で各材料の硬化物から得られる片面の回路基板を張り合わせることで作製した。評価はまず脱型等のステップからマイクロ流路の作製可否を判定し、作製可能であったものに対し、送液試験から気泡離脱性を目視で評価した。
【0058】
[実施例1]
(マクロマーAの合成)
KF-6001(信越化学工業社製)46g、オクタメチルシクロテトラシロキサン133g、1,3,5-トリメチルトリフルオロプロピルシクロトリシロキサン28g、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン6.5g、クロロフォルム234g、トリフルオロメタンスルフォン酸1.9gをフラスコの中に仕込み40℃で15Hr反応させた。
【0059】
その後、セライトで酸を吸着させることで中和後、減圧留去で精製したものをイソプロピルアルコール191gに溶解させ、白金触媒0.16gの存在下でPKA-5007(日本油脂製)40.8gとヒドロシリル化反応を行なった。得られた反応溶液を80%メタノール水溶液で繰り返し溶解洗浄したのち、溶剤留去することにより両末端に水酸基をもつシロキサンジオール136gを得た。得られたシロキサンジオールについてNMR(核磁気共鳴スペクトル)分析を行った結果、下記式に示された構造であることが確認された。
【0060】
【0061】
このシロキサンジオールを125g、BHT0.06g、MQ0.25g、2-イソシアネートエチルメタクリレート(昭和電工社製)9.8g、鉄(III)アセチルアセトネート0.013gをフラスコに仕込み、40℃で3Hr反応した。冷却後、メタノールを加え、洗浄分離を繰り返し、ウレタン結合を含むシロキサンマクロマー117gを得た。得られたマクロマーについてNMR(核磁気共鳴スペクトル)分析及びIR分析を行った結果、下記式(マクロマーA)に示されたメタクリルウレタン基を含むシロキサンマクロマー(分子量14,500)であることを確認した。
図1に1H-NMRスペクトル図、
図2にIRスペクトル図を示す。
【0062】
【0063】
(架橋体の作製)
上記式(マクロマーA)に示されたメタクリルウレタン基を含むシロキサンマクロマー100重量部に2‐ヒドロキシ‐2‐メチル‐1‐フェニル‐プロパン‐1‐オン(BASF社製、商品名IRGACURE1173、以下D1173)0.5重量部を添加し、窒素雰囲気中で撹拌した後、遠心器で脱泡して組成物(硬化前溶液)を調製し、外観を確認した。
【0064】
その後、表面に膜厚調整用のテフロン(登録商標)テープ(厚み0.5mm)と剥離フィルムを貼り付けた2枚のガラス板に組成物を注入し、室温において紫外線を2500mJ/cm2照射して、透明な架橋体を得た。このようにして得られた硬化フィルムについて、酸素透過係数、力学物性、液中接触角を測定した。さらに同様の硬化方法でマイクロ流路を作製した後、気泡離脱性を評価した。以上の結果を表1に示す。
【0065】
[実施例2及び実施例3]
上記式(マクロマーA)に示されたメタクリルウレタン基を含むシロキサンマクロマー90重量部にヒドロキシエチルメタクリレート(以下HEMA)もしくはメタクリル酸(以下MAA)10重量部、及びD1173を0.5重量部添加し、実施例1と同じように組成物を調製し、その外観を確認した。その後、実施例1と同じように硬化して透明な架橋体を得た。得られた硬化フィルムについて、酸素透過係数、力学物性、液中接触角を測定した。さらに同様の硬化方法でマイクロ流路を作製した後、気泡離脱性を評価した。以上の結果を表1に示す。
【0066】
[実施例4及び実施例5]
(マクロマーBの合成)
X-22-164(信越化学工業社製)38.6g、オクタメチルシクロテトラシロキサン629g、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン36g、トリフルオロメタンスルフォン酸1.4gをフラスコの中に仕込み室温で6Hr反応させた。
【0067】
その後、セライトで酸を吸着させることで中和後、減圧留去で精製したものをイソプロピルアルコール300gに溶解させ、白金触媒0.7gの存在下でPKA-5007(日本油脂社製)409gとヒドロシリル化反応を行なった。得られた反応溶液を80%アセトン水溶液で繰り返し溶解洗浄したのち、BHTを0.012g、MQを0.006g添加し、溶剤留去することにより両末端にメタクリルエステル基をもつシロキサンマクロマー706gを得た。得られたマクロマーについてNMR(核磁気共鳴スペクトル)分析を行った結果、下記式(マクロマーB)に示されたメタクリルエステル基を含むシロキサンマクロマー(分子量10,500)であることを確認した。
【0068】
【0069】
上記式(マクロマーB)に示されたメタクリルエステル基を含むシロキサンマクロマー90重量部にヒドロキシエチルメタクリレート(以下HEMA)もしくはメタクリル酸(以下MAA)10重量部、及びD1173を0.5重量部添加し、実施例1と同じように組成物を調製し、その外観を確認した。その後、実施例1と同じように硬化して透明な架橋体を得た。得られた硬化フィルムについて、酸素透過係数、力学物性、液中接触角を測定した。さらに同様の硬化方法でマイクロ流路を作製した後、気泡離脱性を評価した。以上の結果を表1に示す。
【0070】
[実施例6]
(マクロマーDの合成)
KF-6001(信越化学工業社製)46g、オクタメチルシクロテトラシロキサン133g、1,3,5-トリメチルトリフルオロプロピルシクロトリシロキサン28g、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン6.5g、クロロフォルム234g、トリフルオロメタンスルフォン酸1.9gをフラスコの中に仕込み40℃で15Hr反応させた。
【0071】
その後、セライトで酸を吸着させることで中和後、減圧留去で精製したものをイソプロピルアルコール191gに溶解させ、白金触媒0.16gの存在下でPKA-5007(日本油脂製)40.8gとヒドロシリル化反応を行なった。得られた反応溶液を80%メタノール水溶液で繰り返し溶解洗浄したのち、溶剤留去することにより両末端に水酸基をもつシロキサンジオール136gを得た。得られたシロキサンジオールについてNMR(核磁気共鳴スペクトル)分析を行った結果、下記式に示された構造であることが確認された。
【0072】
【0073】
このシロキサンジオールを426g、BHT0.14g、MQ0.14g、イソホロンジイソシアネート(コベストロ製)14.7g、ウレタン化触媒;XK-640(楠本化成製)0.04gをフラスコに仕込み、70℃で3Hr反応した後、さらにヒドロキシエチルメタクリレート15.6gを追加投入し、50℃で2Hr反応させた。冷却後、メタノールを加え、洗浄分離を繰り返し、ウレタン結合を含むシロキサンマクロマー397gを得た。得られたマクロマーについてNMR(核磁気共鳴スペクトル)分析及びIR分析を行った結果、下記式(マクロマーD)に示されたメタクリルウレタン基を含むシロキサンマクロマー(分子量17,700)であることを確認した。
【0074】
【0075】
(架橋体の作製)
上記式(マクロマーD)に示されたメタクリルウレタン基を含むシロキサンマクロマー100重量部に2‐ヒドロキシ‐2‐メチル‐1‐フェニル‐プロパン‐1‐オン(BASF社製、商品名IRGACURE1173、以下D1173)0.5重量部を添加し、窒素雰囲気中で撹拌した後、遠心器で脱泡して組成物(硬化前溶液)を調製し、外観を確認した。
【0076】
その後、表面に膜厚調整用のテフロン(登録商標)テープ(厚み0.5mm)と剥離フィルムを貼り付けた2枚のガラス板に組成物を注入し、室温において紫外線を2500mJ/cm2照射して、透明な架橋体を得た。このようにして得られた硬化フィルムについて、酸素透過係数、力学物性、液中接触角を測定した。さらに同様の硬化方法でマイクロ流路を作製した後、気泡離脱性を評価した。以上の結果を表1に示す。
【0077】
[実施例7]
上記式(マクロマーD)に示されたメタクリルウレタン基を含むシロキサンマクロマー90重量部にメタクリル酸(以下MAA)10重量部、及びTPOを0.5重量部添加し、実施例6と同じように組成物を調製し、その外観を確認した。その後、実施例6と同じように硬化して透明な架橋体を得た。得られた硬化フィルムについて、酸素透過係数、力学物性、液中接触角を測定した。さらに同様の硬化方法でマイクロ流路を作製した後、気泡離脱性評価した。以上の結果を表1に示す。
【0078】
[比較例1]
下記式(マクロマーC)で示されたシロキサンマクロマー(信越化学工業社製X-22-164E)100重量部にD1173を0.5重量部添加し、窒素雰囲気中で撹拌した後、遠心器で脱泡して組成物(硬化前溶液)を調製し、その外観を確認した。その後、実施例1と同じように硬化して透明な架橋体を得た。得られた硬化フィルムについて、酸素透過係数、力学物性、液中接触角を測定した。さらに同様の硬化方法でマイクロ流路を作製した後、気泡離脱性を評価した。以上の結果を表1に示す。
【0079】
【0080】
[比較例2及び比較例3]
上記式(マクロマーC)で示されたシロキサンマクロマー(信越化学工業社製X-22-164E)90重量部にヒドロキシエチルメタクリレート(以下HEMA)もしくはメタクリル酸(以下MAA)10重量部、及びD1173を0.5重量部添加し、窒素雰囲気中で撹拌したところ、いずれもモノマーとの相溶性が悪く、透明な配合液が得られなかったので、架橋体の作製は見送った。
【0081】
[比較例4]
市販のSylgard184(ダウコーニング社製)を公知の方法で熱架橋させ、得られた硬化フィルムについて、酸素透過係数、力学物性、液中接触角を測定した。同様の硬化方法でマイクロ流路を作製した後、気泡離脱性を評価した。以上の結果を表1に示す。
【表1】
【0082】
表1に示す通り、本発明の親水性シリコーン樹脂製マイクロ流路である実施例1~7では、いずれの組成物からもマイクロ流路を作製することができ、気泡離脱性も良好であった。したがって、マイクロ流路の表面は高い親水性を示すものである。また、酸素透過係数も良好な数値を示した。その他の物性値も、マイクロ流路として十分なものであった。
【0083】
一方、本発明のような側鎖にポリアルキレンオキシ基を有する構造単位を含まないマクロマーCを用いた比較例1では、マイクロ流路を作製することはできたが、表面に高い親水性を付与することはできなく、気泡離脱性に劣るものであった。さらに、比較例2、3では、組成物に、マクロマーCに加えて、共重合可能なモノマーをそれぞれ配合したが、相溶性が低く、組成物の外観において白濁が見られたことから、マイクロ流路作製に適していなかった。また、その他の市販品を用いた比較例4では、引っ張り強度、伸び、弾性率は高い値を示し、マイクロ流路も作製することができたが、気泡離脱性は不良であり、高い親水性を示さなかった。
【0084】
以上のように、本発明の親水性シリコーン樹脂製マイクロ流路であれば、成型後の表面が二次的な処理無しに高い親水性を示し、かつ、その親水性が長期間持続し、高い酸素透過性樹脂からなるマイクロ流路となることが明らかになった。
【0085】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。