(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】ポリイミド樹脂、塗料用組成物、電着塗料用組成物、ポリイミド樹脂被膜を有する物品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20221104BHJP
C09D 179/08 20060101ALI20221104BHJP
C09D 5/44 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
C08G73/10
C09D179/08 A
C09D5/44 A
(21)【出願番号】P 2018114829
(22)【出願日】2018-06-15
【審査請求日】2021-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】山下 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】藤本 翔平
(72)【発明者】
【氏名】山下 俊
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104788954(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103183824(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0172513(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第101157077(CN,A)
【文献】特開昭59-182851(JP,A)
【文献】特開昭49-042795(JP,A)
【文献】特開昭49-092197(JP,A)
【文献】特開昭49-040393(JP,A)
【文献】米国特許第03666709(US,A)
【文献】特開2010-106340(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G73、C09D、C08L79
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(A)で表される繰り返し単位と、下記一般式(B)で表される繰り返し単位とを含む、ポリイミド樹脂
であって、
【化1】
[一般式(A)及び(B)において、Xは、それぞれ独立して、酸素原子、硫黄原子、メチレン基、カルボニル基、スルフィニル基、又はスルホニル基である。Yは、酸素原子、硫黄原子、メチレン基、カルボニル基、スルフィニル基、又はスルホニル基である。Zは、ヘテロ原子が窒素もしくは硫黄の芳香族ヘテロ環、置換基を有していてもよいジフェニルエーテル、置換基を有していてもよいジフェニルアミン、又は置換基を有していてもよいジフェニルスルフィドである。]
前記一般式(A)及び(B)において、Xがカルボニル基であり、Yはメチレン基であり、Zは、ヘテロ原子が窒素もしくは硫黄の芳香族ヘテロ環、又は置換基を有していてもよいジフェニルスルフィドである、ポリイミド樹脂。
【請求項2】
下記一般式(A)で表される繰り返し単位と、下記一般式(B)で表される繰り返し単位とを含む、ポリイミド樹脂であって、
【化2】
[一般式(A)及び(B)において、Xは、それぞれ独立して、酸素原子、硫黄原子、メチレン基、カルボニル基、スルフィニル基、又はスルホニル基である。Yは、酸素原子、硫黄原子、メチレン基、カルボニル基、スルフィニル基、又はスルホニル基である。Zは、ヘテロ原子が窒素もしくは硫黄の芳香族ヘテロ環、置換基を有していてもよいジフェニルエーテル、置換基を有していてもよいジフェニルアミン、又は置換基を有していてもよいジフェニルスルフィドである。]
前記一般式(B)で表される繰り返し単位として、下記式(B1)~(B3)で表される繰り返し単位の少なくとも1種を含む、ポリイミド樹脂。
【化3】
【請求項3】
前記一般式(B)で表される繰り返し単位として、下記式(B1)~(B3)で表される繰り返し単位の少なくとも1種を含む、請求項
1に記載のポリイミド樹脂。
【化4】
【請求項4】
前記一般式(A)で表される繰り返し単位の数と、前記一般式(B)で表される繰り返し単位の数との比率が、3:7~9:1である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂と、溶媒とを含む、塗料用組成物。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂と、中和化合物と、溶媒とを含む、電着塗料用組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の電着塗料用組成物の存在下に、物品の表面に前記ポリイミド樹脂を電着させる工程を含む、ポリイミド樹脂被膜を有する物品の製造方法。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂により形成されたポリイミド樹脂被膜を有する物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂、塗料用組成物、電着塗料用組成物、ポリイミド樹脂被膜を有する物品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器分野等で小型化、薄膜化、高機能化に伴い絶縁性、耐熱性、耐薬品性、耐加水分解性、難燃性、寸法安定性等に優れた、高機能な材料が求められている。特に、電気電子分野等の材料については、製品の安全性や信頼性を保証するために絶縁性に加え耐熱性の高い材料が求められている。
【0003】
電気電子分野において、電気伝導体としての金属製品には、通常、絶縁膜の被覆が必要となる。金属製品の表面に絶縁膜を形成する有用な手法として、電着塗装が挙げられる。電着塗装は、電着塗料を用いて通電によって金属製品等の被塗装物表面に塗料や樹脂の塗装膜を形成する方法であり、複雑な形状であっても均一に塗装できることから、電気電子機器分野等で多用されている。
【0004】
電着塗装には、カチオン電着塗装と、アニオン電着塗装とがある。カチオン電着塗装は、陰極とした被塗装物を、カチオン電着塗料組成物中に浸漬し、電圧を印加することにより、プラスに帯電した樹脂を被塗装物に付着させることで、塗装する手法である。一方、アニオン電着塗装は、陽極とした被塗装物を、アニオン電着塗料組成物中に浸漬し、電圧を印加することにより、マイナスに帯電した樹脂を被塗装物に付着させることで、塗装する手法である。
【0005】
電着塗装には、水性樹脂が用いられ、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等が一般的に用いられているが、これらの樹脂は、耐熱性に劣るという問題を有する。そこで、電着塗装に用いる水性樹脂として、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂等を用いることが試みられている。
【0006】
例えば、特許文献1には、重縮合ポリイミド樹脂、熱架橋イミド樹脂および親水性カチオンポリマー樹脂からなる樹脂組成物であって、各樹脂の組成割合は、前記重縮合ポリイミド樹脂が5~60重量%、前記熱架橋イミド樹脂が10~80重量%、前記親水性カチオンポリマー樹脂が15~85重量%であるものが開示されている。しかしながら、特許文献1の樹脂組成物は、熱架橋イミド樹脂に加えて、親水性カチオンポリマー樹脂(アクリル共重合体、エポキシアミンアダクト樹脂など)が使用されているため、ポリイミド樹脂に比して耐熱性に劣るという問題がある。
【0007】
また、特許文献2には、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、およびポリアミド樹脂からなる群より選択される少なくとも一種の基体樹脂に、ウレア結合またはウレタン結合を介してカチオン性水和官能基が結合してなるカチオン性樹脂と、中和化合物とを含有するカチオン性樹脂組成物が開示されている。しかしながら、特許文献2のカチオン性樹脂組成物は、ポリイミド樹脂等の基体樹脂と、カチオン性樹脂とが、ウレア結合またはウレタン結合によって結合されているため、耐熱性に劣るという問題がある。
【0008】
また、従来の一般的なカチオン電着塗料に用いられるポリイミド樹脂は、溶剤に不溶性のため、その前駆体であるポリアミド酸の段階で電着塗装を行い、その後の高温処理によるポリアミド酸の脱水環化でポリイミド膜を得る必要がある。しかしながら、ポリアミド酸は不安定で分解しやすいことや、脱水環化後の膜減りが大きいことなどから、均一なポリイミド膜を得るのは困難であり、実用化に多くの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2003-268235号公報
【文献】特開2009-256489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、耐熱性に優れたポリイミド樹脂を提供することを主な目的とする。また、本発明は、当該ポリイミド樹脂を用いた塗料用組成物、電着塗料用組成物、ポリイミド樹脂被膜を有する物品及びその製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、下記一般式(A)で表される繰り返し単位と、下記一般式(B)で表される繰り返し単位とを含む、ポリイミド樹脂は、耐熱性に優れることを見出した。本発明は、このような知見に基づき、完成した発明である。
【0012】
【0013】
[一般式(A)及び(B)において、Xは、それぞれ独立して、酸素原子、硫黄原子、メチレン基、カルボニル基、スルフィニル基、又はスルホニル基である。Yは、酸素原子、硫黄原子、メチレン基、カルボニル基、スルフィニル基、又はスルホニル基である。Zは、ヘテロ原子が窒素もしくは硫黄の芳香族ヘテロ環、置換基を有していてもよいジフェニルエーテル、置換基を有していてもよいジフェニルアミン、又は置換基を有していてもよいジフェニルスルフィドである。]
【0014】
すなわち、本発明は、下記の構成を備える発明を提供する。
項1. 下記一般式(A)で表される繰り返し単位と、下記一般式(B)で表される繰り返し単位とを含む、ポリイミド樹脂。
【化2】
[一般式(A)及び(B)において、Xは、それぞれ独立して、酸素原子、硫黄原子、メチレン基、カルボニル基、スルフィニル基、又はスルホニル基である。Yは、酸素原子、硫黄原子、メチレン基、カルボニル基、スルフィニル基、又はスルホニル基である。Zは、ヘテロ原子が窒素もしくは硫黄の芳香族ヘテロ環、置換基を有していてもよいジフェニルエーテル、置換基を有していてもよいジフェニルアミン、又は置換基を有していてもよいジフェニルスルフィドである。]
項2. 前記一般式(A)及び(B)において、Xがカルボニル基であり、Yはメチレン基であり、Zは、ヘテロ原子が窒素もしくは硫黄の芳香族ヘテロ環、又は置換基を有していてもよいジフェニルスルフィドである、項1に記載のポリイミド樹脂。
項3. 前記一般式(B)で表される繰り返し単位として、下記式(B1)~(B3)で表される繰り返し単位の少なくとも1種を含む、項1又は2に記載のポリイミド樹脂。
【化3】
項4. 前記一般式(A)で表される繰り返し単位の数と、前記一般式(B)で表される繰り返し単位の数との比率が、3:7~9:1である、項1~3のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂。
項5. 項1~4のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂と、溶媒とを含む、塗料用組成物。
項6. 項1~4のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂と、中和化合物と、溶媒とを含む、電着塗料用組成物。
項7. 項6に記載の電着塗料用組成物の存在下に、物品の表面に前記ポリイミド樹脂を電着させる工程を含む、ポリイミド樹脂被膜を有する物品の製造方法。
項8. 項1~4のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂により形成されたポリイミド樹脂被膜を有する物品。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐熱性に優れたポリイミド樹脂を提供することができる。また、本発明は、当該ポリイミド樹脂を用いた塗料用組成物、電着塗料用組成物、ポリイミド樹脂被膜を有する物品及びその製造方法を提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のポリイミド樹脂、塗料用組成物、電着塗料用組成物、ポリイミド樹脂被膜を有する物品及びその製造方法について、詳述する。
【0017】
なお、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。複数の下限値と複数の上限値が別個に記載されている場合、任意の下限値と上限値を選択し、「~」で結ぶことができるものとする。
【0018】
1.ポリイミド樹脂
本発明のポリイミド樹脂は、下記一般式(A)で表される繰り返し単位と、下記一般式(B)で表される繰り返し単位とを含むことを特徴としている。本発明のポリイミド樹脂は、このような構成を備えていることにより、高い耐熱性を発揮する。
【化4】
【0019】
本発明のポリイミド樹脂は、一般式(A)で表される繰り返し単位と、一般式(B)で表される繰り返し単位とを含んでいればよいが、特に好ましくは、実質的にこれらの繰り返し単位のみで構成されている。なお、実質的にこれらの繰り返し単位のみで構成されているとは、本発明のポリイミド樹脂を構成する繰り返し単位のうち、95モル%以上がこれらの繰り返し単位のみで構成されていることを意味しており、さらには、99モル%以上がこれらの繰り返し単位のみで構成されていることが好ましい。
【0020】
一般式(A)及び(B)において、Xは、それぞれ独立して、酸素原子、硫黄原子、メチレン基、カルボニル基、スルフィニル基、又はスルホニル基である。これらの中でも、ポリイミド樹脂の溶媒(特に、有機極性溶媒)への溶解性を高めつつ、優れた耐熱性を発揮させる観点から、Xは、それぞれ独立して、酸素原子又はカルボニル基であることが好ましく、カルボニル基であることがさらに好ましい。
【0021】
また、一般式(A)において、Yは、酸素原子、硫黄原子、メチレン基、カルボニル基、スルフィニル基、又はスルホニル基である。これらの中でも、ポリイミド樹脂の溶媒(特に、有機極性溶媒)への溶解性を高めつつ、優れた耐熱性を発揮させる観点から、Yは、酸素原子、カルボニル基、又はメチレン基であることが好ましく、メチレン基であることがさらに好ましい。
【0022】
また、一般式(B)において、Zは、ヘテロ原子が窒素もしくは硫黄の芳香族ヘテロ環、置換基を有していてもよいジフェニルエーテル、置換基を有していてもよいジフェニルアミン、又は置換基を有していてもよいジフェニルスルフィドである。これらの中でも、ポリイミド樹脂に優れた耐熱性を発揮させつつ、さらに、本発明のポリイミド樹脂を後述の電池塗料用組成物に用いる場合に、カチオン電着塗装において良好なゼータ電位を得る観点から、Zは、ヘテロ原子が窒素もしくは硫黄の芳香族ヘテロ環、又は置換基を有していてもよいジフェニルスルフィドであることが好ましい。
【0023】
置換基を有していてもよいジフェニルエーテル、置換基を有していてもよいジフェニルアミン、及び置換基を有していてもよいジフェニルスルフィドにおいて、置換基を有する場合、置換基としては特に制限されないが、例えば、それぞれ、塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数1~5のアルキル基などが挙げられる。また、置換基の数としては、特に制限されず、それぞれ、例えば1又は2が挙げられる。なお、置換基を有するジフェニルエーテル及び置換基を有するジフェニルスルフィドにおいて、それぞれ、2つのベンゼン環の3位及び3’位のみがともにメチル基であり、かつ、2つのベンゼン環の4位及び4’位がともに主鎖の結合手であるものは、これらから除かれる。
【0024】
置換基を有していてもよいジフェニルエーテル、置換基を有していてもよいジフェニルアミン、及び置換基を有していてもよいジフェニルスルフィドとしては、好ましくは、それぞれ、下記一般式で表される構造が挙げられる。
【化5】
【0025】
これらの一般式において、Rは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基である。但し、前記の通り、置換基を有するジフェニルエーテル及び置換基を有するジフェニルスルフィドにおいて、2つのベンゼン環の3位及び3’位のみがともにメチル基であるものは、これらから除かれる。
【0026】
ヘテロ原子が窒素もしくは硫黄の芳香族ヘテロ環としては、好ましくは、下記一般式で表される構造が挙げられる。
【0027】
【0028】
これらの一般式において、R、R1、及びR2は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基である。
【0029】
本発明のポリイミド樹脂は、一般式(A)及び(B)において、Xがカルボニル基であり、Yがメチレン基であり、Zが、ヘテロ原子が窒素もしくは硫黄の芳香族ヘテロ環、又はジフェニルスルフィドであるものが好ましい。
【0030】
本発明のポリイミド樹脂において、一般式(A)で表される繰り返し単位の中でも、下記式(A1)で表される繰り返し単位を含んでいることが好ましい。
【0031】
【0032】
また、本発明のポリイミド樹脂において、一般式(B)で表される繰り返し単位として、下記式(B1)~(B3)で表される繰り返し単位の少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0033】
【0034】
ポリイミド樹脂の溶媒(特に、有機極性溶媒)への溶解性を高めつつ、優れた耐熱性を発揮させ、さらには、ポリイミド樹脂を電池塗料用組成物に用いる場合に、カチオン電着塗装において良好なゼータ電位を得る観点から、本発明のポリイミド樹脂は、前記式(A1)で表される繰り返し単位と前記式(B1)で表される繰り返し単位とを含むポリイミド樹脂、前記式(A1)で表される繰り返し単位と前記式(B2)で表される繰り返し単位とを含むポリイミド樹脂、及び前記式(A1)で表される繰り返し単位と前記式(B3)で表される繰り返し単位とを含むポリイミド樹脂が特に好ましい。
【0035】
同様の観点から、前記一般式(A)で表される繰り返し単位の数と、前記一般式(B)で表される繰り返し単位の数との比率は、3:7~9:1であることが好ましく、4:6~9:1であることがより好ましく、5:5~9:1であることがさらに好ましい。
【0036】
本発明のポリイミド樹脂は、一般式(A)で表される繰り返し単位及び一般式(B)で表される繰り返し単位を構成する原料(すなわち、少なくとも1種類のテトラカルボン酸ジ無水物(一般式(A),(B)の基Xを含んでいる)と、少なくとも2種類の芳香族ジアミン(一般式(A)のYを含むものと、一般式(B)のZを含むもの))を用い、公知のポリイミド樹脂の製造方法によって製造することができる。
【0037】
以下、本発明のポリイミド樹脂の製造方法について、具体例を用いて説明するが、以下の方法に限定されない。まず、例えば0~60℃の温度で、テトラカルボン酸ジ無水物と、2種の芳香族ジアミンとを、溶媒中で撹拌反応させてポリアミド酸を得る。なお、得られたポリアミド酸の固形分濃度は、例えば5~40質量%、好ましくは10~30質量%である。
【0038】
次に、得られたポリアミド酸を脱水閉環させるか、脱水縮合することにより、ポリイミド樹脂を得る。
【0039】
原料として用いられるテトラカルボン酸ジ無水物としては、一般式(A)で表される繰り返し単位及び一般式(B)で表される繰り返し単位を構成することができれば特に制限されず、例えば、ピロメリット酸ジ無水物、3,4,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジ無水物、3,4,3’,4’-ジフェニルテトラカルボン酸ジ無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸ジ無水物などが挙げられる。これらの中でも、ポリイミド樹脂の溶媒(特に、有機極性溶媒)への溶解性を高めつつ、優れた耐熱性を発揮させる観点から、3,4,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジ無水物が好ましく用いられる。
【0040】
また、原料として用いられる芳香族ジアミンとしては、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-2,2’,3,3’-テトラメチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-2,2’,3,3’-テトラエチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、2,2’-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス-(4-アミノフェノキシ)-ベンゼン、α,α-ビス(4-アミノフェニル)1,4-ジイソプロピルベンゼン、2,4-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,6-ジアミノピリジン、2,4,6-トリアミノピリジン、2,6-ジアミノピリミジン、2,4,6-トリアミノピリミジンなどが挙げられる。
【0041】
芳香族ジアミンとしては、ポリイミド樹脂の溶媒(特に、有機極性溶媒)への溶解性の観点から、ベンゼン環上にアルキル基を持つ4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-2,2’,3,3’-テトラメチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-2,2’,3,3’-テトラエチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルジフェニルエーテルが好ましい。
【0042】
本発明のポリイミド樹脂は、後述の通り、電着塗料用組成物に用いることができる。すなわち、本発明のポリイミド樹脂は、その構造中に、カチオン電着塗装に必要なカチオン化部位として機能する基Zを有している。よって、2種の芳香族ジアミンの選択においては、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、2,4-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,6-ジアミノピリジン、2,4,6-トリアミノピリジン、2,6-ジアミノピリミジン、2,4,6-トリアミノピリミジンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0043】
本発明のポリイミド樹脂の製造に用いられる溶媒としては、有機溶媒が好ましく、特に有機極性溶媒が好ましい。有機極性溶媒としては、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシド、ジメチルホルムアルデヒドおよびジメチルサルフォキサイド(DMSO)などが挙げられる。溶媒は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
少なくとも1種類のテトラカルボン酸ジ無水物と、少なくとも2種類の芳香族ジアミンとの反応によって得られたポリアミド酸は、公知の手法、例えば、加熱脱水閉環又は、別の成分を加えて脱水縮合することにより、ポリイミド樹脂となる。
【0045】
加熱脱水閉環する場合、例えば100~400℃、好ましくは150~350℃にて加熱することにより、ポリイミド樹脂を得ることができる。また、別の成分を加えて脱水縮合する場合には、脱水縮合剤を加えて0℃~100℃で攪拌する方法や、トリエチルアミンやピリジンなどの3級アミン類を加えて0℃~100℃で攪拌する方法がある。
【0046】
前記脱水縮合剤としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド(EDC)、塩酸1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド(EDC・HCl)、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)等のカルボジイミド系化合物;N,N’-カルボニルジイミダゾール(DIC)等のイミダゾール系化合物;無水酢酸、無水プロピオン酸、無水安息香酸等の酸無水物;N,N’-カルボニルジ(1,2,4-トリアゾール)(CDI)、トリアジン系縮合剤、ホスホニウム系縮合剤、ウロニウム系縮合剤などが挙げられる。
【0047】
本発明のポリイミド樹脂の数平均分子量Mnとしては、特に制限されないが、高い耐熱性を発揮させ、さらには後述の電着塗装によって好適にポリイミド樹脂被膜を形成する観点から、下限については、好ましくは5000以上、より好ましくは8000以上が挙げられ、上限については、好ましくは15000以下、より好ましくは10000以下が挙げられる。なお、数平均分子量Mnは、GPC分析による標準ポリエチレングリコール換算の分子量である。
【0048】
2.塗料用組成物
本発明の塗料用組成物は、本発明のポリイミド樹脂と、溶媒とを含むことを特徴としている。本発明の塗料用組成物は、本発明のポリイミド樹脂を含んでおり、物品などの被塗装物の表面に塗布、乾燥させることによって、ポリイミド樹脂被膜を形成することができる。
【0049】
前述の通り、本発明のポリイミド樹脂は、高い耐熱性を備えているため、本発明の塗料用組成物を用いて表面にポリイミド樹脂被膜が形成された被塗装物は、高い耐熱性を発揮することができる。
【0050】
本発明のポリイミド樹脂の詳細については、前述の通りである。また、本発明の塗料用組成物に含まれる溶媒としては、ポリイミド樹脂を溶解又は分散させることができるものであれば特に制限されず、例えば、前述の有機極性溶媒が好適である。
【0051】
さらに、本発明の塗料用組成物には、必要に応じて、フィラー、顔料などの各種添加剤が含まれていてもよい。
【0052】
フィラーとしては、例えば、シリカ化合物、シリカアルミナ化合物、アルミニウム化合物、カルシウム化合物、層状ケイ酸塩鉱物、及び窒化物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。なかでも、シリカ化合物、シリカアルミナ化合物や、層状ケイ酸塩鉱物であることが好ましい。前記層状ケイ酸塩鉱物としては、例えば、天然物または合成物の雲母、タルク、カオリン、パイロフィライト、セリサイト、バーミキュライト、スメクタイト、ベントナイト、スチーブンサイト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、ノントロナイトなどが挙げられる。シリカアルミナ化合物としては、ゼオライト、ムライトなどが挙げられる。シリカ化合物としては、ワラステナイト、ガラスビーズなどが挙げられる。アルミニウム化合物としては、例えば、スピネル、水酸化アルミニウム、アルミナ水和物、酸化アルミニウム、ホウ酸アルミニウムなどが挙げられる。カルシウム化合物としては、例えば、炭酸カルシウムなどが挙げられる。窒化物としては、例えば、窒化ケイ素、窒化ホウ素などが挙げられる。これらフィラーは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。フィラーを用いることによって、被塗装物の表面に形成されるポリイミド樹脂被膜の絶縁寿命の向上、ガスバリア性の向上、熱伝導性の向上などが期待できる。
【0053】
本発明の塗料用組成物に含まれるポリイミド樹脂の濃度としては、好適にポリイミド樹脂被膜を形成する観点から、下限については、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上が挙げられ、上限については、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下が挙げられる。
【0054】
また、本発明の塗料用組成物を用いて形成するポリイミド樹脂被膜の厚みとしては、特に制限されないが、高い耐熱性を付与する観点からは、下限については、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上が挙げられ、上限については、好ましくは500μm以下、より好ましくは200μm以下が挙げられる。
【0055】
本発明の塗料用組成物は、本発明のポリイミド樹脂、前記溶媒、必要に応じて前記の各種添加剤を混合することによって製造することができる。
【0056】
3.電着塗料用組成物
本発明の電着塗料用組成物は、本発明のポリイミド樹脂と、中和化合物と、溶媒とを含むことを特徴としている。前述の通り、本発明のポリイミド樹脂は、その構造中に、カチオン電着塗装に必要なカチオン化部位として機能する基Zを有しているため、電着塗料用組成物(具体的には、カチオン電着塗料用組成物)に好適に用いることができる。すなわち、本発明の電着塗料用組成物は、本発明のポリイミド樹脂を含んでおり、物品などの被塗装物の表面にポリイミド樹脂を電着させることによって、ポリイミド樹脂被膜を形成することができる。
【0057】
すなわち、本発明の電着塗料用組成物の存在下に、物品の表面にポリイミド樹脂を電着させる工程を含む製造方法によって、ポリイミド樹脂被膜を有する物品などを製造することができる。
【0058】
前述の通り、本発明のポリイミド樹脂は、高い耐熱性を備えているため、本発明の電着塗料用組成物を用いて表面にポリイミド樹脂被膜が形成された被塗装物は、高い耐熱性を発揮することができる。
【0059】
本発明のポリイミド樹脂の詳細については、前述の通りである。
【0060】
本発明の電着塗料用組成物に含まれるポリイミド樹脂の濃度としては、電着塗装によって好適にポリイミド樹脂被膜を形成する観点から、下限については、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上が挙げられ、上限については、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下が挙げられる。
【0061】
また、本発明の電着塗料用組成物には、カチオン化部位をカチオン化する中和化合物が含まれている。中和化合物は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
中和化合物としては、例えばカチオン化部位がアミノ基であれば、ポリイミド樹脂溶液に、例えばヨードメタン、塩酸、乳酸、酢酸、酪酸、硫酸、硝酸などを添加することでN原子をカチオン化することができる。また、例えばカチオン化部位がスルフィド結合部であれば、ヨードメタン等のメチル化剤や、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェートおよび安息香酸銅等のフェニル化剤を添加することで、S原子をカチオン化することができる。これらのなかでも、入手容易性および取扱い容易性の観点から、ヨードメタン、塩酸、乳酸、酢酸および酪酸からなる群より選ばれた1種以上の中和化合物が含まれる。
【0063】
本発明の電着塗料用組成物に含まれる中和化合物の濃度としては、電着塗装によって好適にポリイミド樹脂被膜を形成する観点から、下限については、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上が挙げられ、上限については、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下が挙げられる。
【0064】
本発明の電着塗料用組成物に含まれる溶媒としては、ポリイミド樹脂の電着塗装に使用されるものであれば特に制限されず、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、水、テトラヒドロフラン(THF)、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール、メトキシプロパノールなどの極性溶媒が挙げられる。溶媒は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
さらに、本発明の電着塗料用組成物には、必要に応じて、電気泳動助剤、前記のフィラー、顔料などの各種添加剤が含まれていてもよい。
【0066】
また、本発明の電着塗料用組成物を用いて形成するポリイミド樹脂被膜の厚みとしては、特に制限されないが、ポリイミド樹脂被膜に高い耐熱性を付与する観点からは、下限については、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上が挙げられ、上限については、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下が挙げられる。
【0067】
本発明の電着塗料用組成物を用いた電着塗装方法としては、公知の電着塗装方法を適用することができる。具体的には、本発明の電着塗料用組成物をカチオン電着塗料用組成物として使用してカチオン電着塗装をする場合、電着塗料用組成物に被塗装物を浸漬する工程と、被塗装物を陰極とし、陽極との間に電圧を印加して、被塗装物の表面にポリイミド樹脂被膜を電着させる工程とを含む方法によって、カチオン電着塗装を行うことができる。
【0068】
被塗装物としては、被塗装部分が導電性を有する物品等であって、例えば、銅、鉄、鋼、アルミニウムなどの金属により構成された被塗装部分を有するものが挙げられる。被塗装物の形状については、本発明の電着塗料用組成物を接触させることができれば、特に制限されない。
【0069】
カチオン電着塗装では、例えば、被塗装物を陰極とし、陽極との間に、通常、1V以上500V以下の電圧を印加して行うことができる。印加電圧が1V以上であれば十分な電着塗装が可能であり、500V以下であれば、消費電力を抑制し得、経済的である。
【0070】
本発明の電着塗料用組成物を用いてカチオン電着塗装する場合、電着塗料用組成物の温度は、例えば10~60℃である。
【0071】
本発明の電着塗料用組成物は、本発明のポリイミド樹脂と、前記中和化合物と、前記溶媒と、必要に応じて前記の各種添加剤を混合することによって製造することができる。
【実施例】
【0072】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。但し本発明は実施例に限定されるものではない。
【0073】
[実施例1]
<ポリイミド樹脂の合成>
1Lのセパラブルフラスコに1種目の芳香族ジアミンとして4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルジフェニルメタン(DADMMe)6.3g(27.9mmol)とN-メチル-2-ピロリドン(NMP)134gを加えた後0℃に冷却した。テトラカルボン酸ジ無水物として3,4,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジ無水物(BTDA)19g(27.9mmol)を添加して、0℃で30分攪拌した。続いて0℃に冷却し2種目の芳香族ジアミンとして2,4,6-トリアミノピリミジン(TAP) 2.3g(18.6mmol)およびテトラカルボン酸ジ無水物としてBTDA6g(18.6mmol)を加えて室温で12時間攪拌し、ポリアミド酸NMP溶液157.6g(46.5mmol)を得た。得られたポリアミド酸の反応溶液に脱水縮合剤であるジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC) 21.1g(102.4mmol)を加えて100℃で22時間攪拌した。得られた反応液をろ過したのちにメタノール1584gで再沈殿を行い精製し、下記式(A1)及び(B1)で表される繰り返し単位の数の比(式(A1):(B1))が、9:1のポリイミド樹脂(1)[数平均分子量Mn8764]22.8gを得た。なお、ポリイミド樹脂は、NMR測定およびIR測定により同定した。また、数平均分子量Mnは、GPC分析による標準ポリエチレングリコール換算の分子量である。
【0074】
【0075】
<電着塗料用組成物の調製>
ポリイミド樹脂(1)0.2gをN-メチル-2-ピロリドン(NMP)19.8gに溶解して、1質量%溶液を作製し、その溶液20gを、水200gを貧溶媒として激しく攪拌しながら滴下して、0.1質量%のポリイミド微粒子液を得た。そこに塩酸を0.2g(0.2mmol)滴下し、カチオン電着塗料用組成物(1)を得た。
【0076】
<電着塗装>
陰極として銅板(被塗装物)、陽極としてステンレス鋼板を使用し、カチオン電着塗料用組成物(1)に浸して100Vの電圧を印加して銅板の表面に電着塗装を行い、ポリイミド樹脂塗装物(1)を得た。
【0077】
[実施例2]
<ポリイミド樹脂の合成>
200mLのセパラブルフラスコに1種目の芳香族ジアミンとして4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルジフェニルメタン(DADMMe)4.2g(18.6mmol)と2種目の芳香族ジアミンとして2,6-ジアミノピリジン(DAPy)1.4g(12.4mmol)とNMP88.2gを加えた後0℃に冷却した。テトラカルボン酸ジ無水物として3,4,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジ無水物(BTDA)10.0g(31.0mmol)を添加して、0℃で30分攪拌した。その後室温で12時間攪拌し、ポリアミド酸NMP溶液103.6g(31.0mmol)を得た。得られたポリアミド酸の反応溶液に無水酢酸7.0g(68.2mmol)とピリジン5.4g(68.2mmol)を加えて室温で6時間攪拌した。得られた反応液をメタノール1056gで再沈殿を行い精製し、下記式(A1)及び(B2)で表される繰り返し単位の数の比(式(A1):(B2))が、6:4のポリイミド樹脂(2)[数平均分子量Mn8923]17.7gを得た。なお、ポリイミド樹脂は、NMR測定およびIR測定により同定した。また、数平均分子量Mnは、GPC分析による標準ポリエチレングリコール換算の分子量である。
【0078】
【0079】
<電着塗料用組成物の調製>
ポリイミド樹脂(2)0.2gをN-メチル-2-ピロリドン(NMP)19.8gに溶解して、1質量%溶液を作製し、その溶液20gを、水200gを貧溶媒として激しく攪拌しながら滴下して、0.1質量%のポリイミド微粒子液を得た。そこに塩酸を0.2g(0.2mmol)滴下し、カチオン電着塗料用組成物(2)を得た。
【0080】
<電着塗装>
陰極として銅板(被塗装物)、陽極としてステンレス鋼板を使用し、前記のカチオン電着塗料用組成物(2)に浸して250Vの電圧を印加して銅板の表面に電着塗装を行い、ポリイミド樹脂塗装物(2)を得た。
【0081】
[実施例3]
<ポリイミド樹脂の合成>
1Lのセパラブルフラスコに1種目の芳香族ジアミンとして4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルジフェニルメタン(DADMMe)6.1g(27.0mmol)と2種目の芳香族ジアミンとして4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド(DADS)0.6g(3.0mmol)とNMP90.1gを加えた後0℃に冷却した。テトラカルボン酸ジ無水物として3,4,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジ無水物(BTDA)9.7g(30.0mmol)を添加して、0℃で30分攪拌した。その後室温で12時間攪拌し、ポリアミド酸NMP溶液106.5g(30.0mmol)を得た。得られたポリアミド酸の反応溶液に無水酢酸6.7g(66.0mmol)とピリジン5.2g(66.0mmol)を加えて室温で6時間攪拌した。得られた反応液をメタノール1022gで再沈殿を行い精製し、下記式(A1)及び(B3)で表される繰り返し単位の数の比(式(A1):(B3))が、9:1のポリイミド樹脂(3)[分子量Mn8254]15.8gを得た。なお、ポリイミド樹脂は、NMR測定およびIR測定により同定した。また、数平均分子量Mnは、GPC分析による標準ポリエチレングリコール換算の分子量である。
【0082】
【0083】
<電着塗料用組成物の調製>
200mLナスフラスコにポリイミド樹脂(3)2.0gとNMP51.4gを加えて溶解させた後、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート0.8g(1.9mmol)、安息香酸銅5.6mg(0.02mmol)を加えて130℃に加熱して12時間攪拌した。得られた反応溶液をメタノールで再沈澱を行い精製し、カチオン化ポリイミド樹脂(3)を1.6g得た。得られたカチオン化ポリイミド樹脂(3)0.2gをN-メチル-2-ピロリドン(NMP)19.8gに溶解して、1質量%溶液を作製し、その溶液20gを、水200gを貧溶媒として激しく攪拌しながら滴下して、カチオン電着塗料用組成物(3)を得た。
【0084】
<電着塗装>
陰極として銅板(被塗装物)、陽極としてステンレス鋼板を使用し、前記のカチオン電着塗料用組成物(3)に浸して100Vの電圧を印加して銅板の表面に電着塗装を行い、ポリイミド樹脂塗装物(3)を得た。
【0085】
<耐熱性の評価>
実施例1~3で得られた各ポリイミド樹脂塗装物(1)~(3)から剥離した塗膜を試料として、TG-DTA分析を実施し、10%質量減少時の温度で耐熱性の評価を行った。試験条件は、白金セルに試料5~10mgを入れ、10℃/minで30℃から800℃まで加熱することで試験を行った。結果を表1に示す。
【0086】
【0087】
実施例1~3のポリイミド樹脂を用いたカチオン電着塗料用組成物によって、高い耐熱性を備えるポリイミド樹脂塗装物が得られた。なお、実施例1~3のポリイミド樹脂塗装物の10%質量減少温度は、特許文献2の実施例に記載されているコーティング膜よりも高い。