(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】液晶性樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 63/87 20060101AFI20221104BHJP
C08G 63/06 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
C08G63/87
C08G63/06
(21)【出願番号】P 2018143808
(22)【出願日】2018-07-31
【審査請求日】2021-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】多田 智之
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 浩一
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/105149(WO,A1)
【文献】特開平06-306156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00-63/91
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選択される少なくとも1種を含む原料モノマーを反応させて液晶性樹脂を製造する方法であって、
前記原料モノマーを、モノ、ジ又はトリフルオロメタンスルホニル基を有する酸触媒、又は反応系内で前記酸触媒を発生し得る化合物の存在下で
、かつ、温度を300~400℃として重縮合する工程を含む液晶性樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記重縮合する工程の前に、前記原料モノマーを、モノ、ジ又はトリフルオロメタンスルホニル基を有する酸触媒、又は反応系内で前記酸触媒を発生し得る化合物の存在下でアシル化させる工程をさらに含む請求項1に記載の液晶性樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記酸触媒の酸解離定数pKaが-2.6未満である請求項1又は2に記載の液晶性樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶性樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステル樹脂に代表される液晶性樹脂は、高流動性、低バリ性、耐リフロー性等に優れるため、種々の分野で広く用いられている。このような液晶性樹脂は、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール等の原料モノマーを、所望の物性の液晶性樹脂が得られるように適宜組み合わせて選択し、それらを重縮合して得られる。実際には、原料モノマーの混合物をアシル化剤(無水酢酸等)で予めアシル化し、その後、重縮合反応するのが一般的である。
【0003】
液晶性樹脂の製造に際し、重縮合反応の速度を向上させるため、例えば種々の触媒が使用される。中でも、触媒として酢酸カリウムを使用すると、反応中にガスの発生が多くなる傾向にある。これは、塩基性たる酢酸カリウムの存在により、液晶性樹脂の末端のカルボキシル基(-COOH)が、カルボン酸イオン(-COO-)になることで活性化され、炭酸ガスとして脱離しやすくなるためと考えられる。炭酸ガスの発生を抑えるには、重縮合反応において酸触媒を用いた酸性条件下で行うことが考えられる。酸触媒としては、例えば、脂肪族スルホン酸、芳香族スルホン酸が挙げられる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討によると、脂肪族スルホン酸、芳香族スルホン酸等の酸触媒を使用した場合、炭酸ガスの発生を抑えることができるものの、重縮合速度を十分に向上させることができないことが判明した。上記のような酸触媒を使用した場合、液晶性樹脂の末端のカルボキシル基は安定に存在でき、末端カルボキシル基に起因する炭酸ガスの発生は少なくなるものの、系外に留去しにくいp-ヒドロキシ安息香酸が生成し重縮合に時間を要するためと考えられる。
一方、炭酸ガスの発生を抑えることのみを考えれば、重縮合反応を無触媒で行えばよいが、無触媒の場合、当然ながら重縮合速度を向上させることができない。
以上のことから、液晶性樹脂の製造において、酸触媒の使用により炭酸ガスの発生を抑えつつ、重縮合速度の向上を図ることができれば有用である。
【0006】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、炭酸ガスの発生の低減と、重縮合速度の向上との両立を図ることができる液晶性樹脂の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、モノ、ジ又はトリフルオロメタンスルホニル基を有する酸触媒の存在下で液晶性樹脂を得るための重縮合反応を行うと、ガスの発生を低減でき、かつ、重縮合反応速度の向上を図り得ることを見出し本発明を完成させた。
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
(1)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選択される少なくとも1種を含む原料モノマーを反応させて液晶性樹脂を製造する方法であって、
前記原料モノマーを、モノ、ジ又はトリフルオロメタンスルホニル基を有する酸触媒、又は反応系内で前記酸触媒を発生し得る化合物の存在下で重縮合する工程を含む液晶性樹脂の製造方法。
【0008】
(2)前記重縮合する工程の前に、前記原料モノマーを、モノ、ジ又はトリフルオロメタンスルホニル基を有する酸触媒、又は反応系内で前記酸触媒を発生し得る化合物の存在下でアシル化させる工程をさらに含む前記(1)に記載の液晶性樹脂の製造方法。
【0009】
(3)酸触媒の酸解離定数pKaが-2.6未満である前記(1)又は(2)に記載の液晶性樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、炭酸ガスの発生の低減と、重縮合速度の向上との両立を図ることができる液晶性樹脂の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態の液晶性樹脂の製造方法は、芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選択される少なくとも1種を含む原料モノマーを反応させて液晶性樹脂を製造する方法であって、原料モノマーを、モノ、ジ又はトリフルオロメタンスルホニル基を有する酸触媒、又は反応系内で前記酸触媒を発生し得る化合物(以下、これらをまとめて「酸触媒等」とも呼ぶ。)の存在下で重縮合する工程を含むことを特徴としている。
【0012】
本実施形態の液晶性樹脂の製造方法においては、原料モノマーを上記酸触媒等の存在下で重縮合するため、炭酸ガスの発生を低減でき、かつ、重縮合速度を上昇させることがすることができる。つまり、重縮合反応に伴う副反応を抑制することが可能となるとともに、従来よりも短時間で製造できるのでコストダウンが可能となる。さらに、アシル化反応させる工程が上記酸触媒等の存在下で行われることが好ましい。アシル化工程及び重縮合工程のいずれもが上記酸触媒等の存在下で行われることにより、より短時間で液晶性樹脂を製造することができる。
【0013】
本実施形態の液晶性樹脂において、「液晶性」とは、光学異方性溶融相を形成し得る性質を有することをいう。異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することができる。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージに載せた溶融試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。液晶性を有する樹脂は、直交偏光子の間で検査したときに、たとえ溶融静止状態であっても偏光は通常透過し、光学的に異方性を示す。
【0014】
(原料モノマー)
原料モノマーは、芳香族ヒドロキシカルボン酸、及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む。芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその重合可能な誘導体としては、特に限定されず、例えば、p-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、m-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-3-ナフトエ酸、6-ヒドロキシ-4-ナフトエ酸、4-ヒドロキシ-4’-カルボキシジフェニルエーテル、2,6-ジクロロ-p-ヒドロキシ安息香酸、2-クロロ-p-ヒドロキシ安息香酸、2,6-ジメチル-p-ヒドロキシ安息香酸、2,6-ジフルオロ-p-ヒドロキシ安息香酸、4-ヒドロキシ-4’-ビフェニルカルボン酸、バニリン酸等を挙げることができる。これらから選択される少なくとも1種の化合物を用いることができる。中でも、入手の容易さの点で、p-ヒドロキシ安息香酸及び6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0015】
原料モノマーは、さらに、以下の(1)又は(2)を満たすことが好ましい。
(1)芳香族若しくは脂環族ジカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、又は、
(2)芳香族若しくは脂環族ジカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、
芳香族若しくは脂環族ジオール、芳香族若しくは脂環族ヒドロキシアミン、芳香族若しくは脂環族ジアミン、及びこれらの重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を含む。
【0016】
芳香族ジカルボン酸としては、特に限定されず、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、及び下記一般式(I)で表される化合物等を挙げることができる。
【0017】
【化1】
(Y:-(CH
2)
n-(n=1~4)及び-O(CH
2)
nO-(n=1~4)より選ばれる基である。)
【0018】
脂環族ジカルボン酸としては、特に限定されず、例えば、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸等を挙げることができる。重合可能な誘導体としては、特に限定されず、例えば、上記化合物のアルキルエステル(炭素数1~4程度)、ハロゲン化物等を挙げることができる。
【0019】
芳香族ジオールとしては、特に限定されず、例えば、2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、下記一般式(II)で表される化合物、及び下記一般式(III)で表される化合物等を挙げることができる。
【0020】
【化2】
(X:アルキレン(C
1~C
4)、アルキリデン、-O-、-SO-、-SO
2-、-S-、及び-CO-より選ばれる基である。)
【0021】
【0022】
脂環族ジオールとしては、特に限定されず、例えば、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジオール等を挙げることができる。重合可能な誘導体としては、特に限定されず、上記化合物のアルキルエステル(炭素数1~4程度)、ハロゲン化物等を挙げることができる。
【0023】
芳香族ヒドロキシアミンとしては、特に限定されず、例えば、p-アミノフェノール、(m-アミノフェノール)等を挙げることができる。脂環族ヒドロキシアミンとしては、特に限定されず、例えば、(4-ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸、3-ヒドロキシシクロペンタンカルボン酸)等を挙げることができる。重合可能な誘導体としては、特に限定されず、上記化合物のアルキルエステル(炭素数1~4程度)、ハロゲン化物等を挙げることができる。
【0024】
芳香族ジアミンとしては、p-フェニレンジアミン等を挙げることができる。脂環族ジアミンとしては、特に限定されず、例えば、1,4-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロペンタンジアミン等を挙げることができる。重合可能な誘導体としては、特に限定されず、上記化合物のアルキルエステル(炭素数1~4程度)、ハロゲン化物等を挙げることができる。
【0025】
原料モノマーの具体的な組み合わせとしては、例えば、
(I)(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、又は、
(II)(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、(b)芳香族若しくは脂環族ジカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、(c)芳香族若しくは脂環族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を含む組み合わせとすることができる。さらに上記の構成成分に必要に応じ分子量調整剤を併用してもよい。
【0026】
[アシル化]
本実施形態の製造方法においては、後記重縮合の前に、上記原料モノマーを、アシル化剤を用いてアシル化する工程を設けることができる。当該アシル化は、上記酸触媒等の存在下で行うことが好ましい。アシル化剤としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水吉草酸、無水ピバル酸、無水2-エチルヘキサン酸、無水モノクロル酢酸、無水ジクロル酢酸、無水トリクロル酢酸、無水モノブロモ酢酸、無水ジブロモ酢酸、無水トリブロモ酢酸、無水モノフルオロ酢酸、無水ジフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水β-ブロモプロピオン酸等が挙げられるが、特に限定されるものでない。これらから選択される少なくとも1種を用いることができる。価格と取り扱い性の観点から好適なものとしては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸等の無水カルボン酸等を挙げることができる。中でも、入手の容易さの点で、無水酢酸が好ましい。アシル化剤の使用量は、反応制御の容易さの点で、反応に用いる物質の水酸基総量中、1.0~1.1当量であることが好ましく、1.01~1.05当量であることがより好ましい。
【0027】
アシル化は、公知の方法により行うことができる。例えば、原料モノマーを、アシル化剤と混合し、120~160℃の温度範囲で、0.5~5時間程度加熱してアシル化反応させ、アシル化物を含む反応生成物を得る。
【0028】
[重縮合]
原料モノマーを、上記酸触媒等の存在下で重縮合する。なお、上述のようにアシル化する工程を設けた場合にであって、その工程において上記酸触媒等を使用した場合、重縮合で使用する酸触媒等は、アシル化で使用したものと同じものであっても、異なるものであってもよい。
【0029】
(モノ、ジ又はトリフルオロメタンスルホニル基を有する酸触媒)
本実施形態の製造方法においては、原料モノマーを重縮合するに当たり、所定の酸触媒を用いるが、当該酸触媒を使用することにより、炭酸ガスの発生の低減と、重縮合速度の向上との両立を図ることができる。上記酸触媒は極めて強い酸であり、重縮合において、上記酸触媒が存在しても末端カルボキシル基が安定に存在できるようになるため分解が抑えられ、炭酸ガスの発生が少なくなる。また、上述の芳香族スルホン酸等の酸触媒を使用した場合と比較して、エステル基が効果的に活性化されるため、エステル交換反応が促進され、重縮合時間で短くなると考えられる。
上記酸触媒としては、モノフルオロメタンスルホン酸、ジフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられ、中でも、酸解離定数pKaが小さいトリフルオロメタンスルホン酸が最も好ましく、順に、ジフルオロメタンスルホン酸、モノフルオロメタンスルホン酸が好ましい。
【0030】
あるいは、本実施形態においては、上記酸触媒をそのまま用いる他に、反応系内で当該酸触媒を発生し得る化合物を用いる。反応系内で上記酸触媒を発生させることにより、上記酸触媒を用いた場合の効果と同じ効果を奏する。当該化合物としては、モノ、ジ又はトリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル、モノ、ジ又はトリフルオロメタンスルホン酸tert-ブチルシリル、ビス(モノ、ジ又はトリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリフラート金属塩等が挙げられる。これらの化合物は、カルボン酸の存在や、加熱により反応系内に上記酸触媒を発生し得る。
【0031】
上記酸触媒の酸解離定数pKaは、-2.6未満であることが好ましく、-20.0~-2.8であることがより好ましく、-15.0~-3.0であることがさらに好ましい。なお、上記pKaは、25℃における水溶液中でのpKaを意味する。
【0032】
本実施形態において、上記酸触媒の添加量は、アシル化又は重縮合に悪影響を与えない限り特に限定されないが、一般には得られる液晶性樹脂の理論収量に対して、50~2000ppmであることが好ましく、100~1000ppmであることがより好ましい。また、重縮合する際の温度は300~400℃とすることが好ましい。
【0033】
(固相重合工程)
本実施形態の液晶性樹脂の製造方法は、溶融重合工程(上記重縮合の工程)で得られた樹脂を、さらに固相重合させる工程を有していてもよい。固相重合により、原料樹脂の分子量の増加を図ることができ、強度や耐熱性に優れた液晶性樹脂を得ることができる。
【0034】
固相重合は、従来公知の方法を用いることができる。例えば、減圧又は真空下、窒素ガス等の不活性ガス気流中で、原料樹脂の液晶形成温度よりも10~120℃低い温度で加熱することにより行うことができる。なお、液晶性樹脂は固相重合が進むにしたがってその融点も上昇するので、原料樹脂の元の融点以上で固相重合することも可能である。固相重合は、一定の温度で実施してもよいし段階的に高温にしてもよい。加熱方法は、特に限定されず、マイクロ波加熱、ヒータ加熱等を用いることができる。
【0035】
[液晶性樹脂]
本実施形態の製造方法により得られる液晶性樹脂は、液晶性ポリエステル及び液晶性ポリエステルアミドから選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。液晶性ポリエステル及び液晶性ポリエステルアミドとしては、特に限定されないが、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドであることが好ましい。また、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドを同一分子鎖中に部分的に含むポリエステルとすることもできる。
【0036】
芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドとしては、より具体的には、
(1)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上からなるポリエステル;
(2)主として
(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、
(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上とからなるポリエステル;
(3)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上、とからなるポリエステル;
(4)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(c1)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、(c2)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミド;
(5)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、(c1)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、(c2)芳香族ジオール、脂環族ジオール、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミド等、を挙げることができる。
【0037】
液晶性樹脂の分子量(数平均分子量Mn)は、特に限定されず、溶融重合工程で得られた樹脂としては、10000~100000であることが好ましく、15000~80000であることがより好ましい。固相重合工程で得られた樹脂としては、12000~120000であることが好ましく、15000~100000であることがより好ましい。なお、数平均分子量Mnは、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定することができる。
【0038】
液晶性樹脂の融点は、特に限定されず、250~380℃とすることができる。液晶性樹脂の溶融粘度は、特に限定されず、溶融重合で得られた樹脂としては、液晶性樹脂の融点よりも10~30℃高いシリンダー温度及びせん断速度1000sec-1で測定した溶融粘度が、5Pa・s以上150Pa・s以下であることが好ましく、さらに好ましくは、10Pa・s以上100Pa・s以下である。さらに固相重合工程を行った場合の樹脂は、液晶性樹脂の融点よりも10~30℃高いシリンダー温度及びせん断速度1000sec-1で測定した溶融粘度が、5Pa・s以上200Pa・s以下であることが好ましく、さらに好ましくは、10Pa・s以上150Pa・s以下である。
【0039】
「液晶性樹脂の融点よりも10~30℃高いシリンダー温度」とは、液晶性樹脂が溶融粘度の測定が可能な程度まで溶融することができるシリンダー温度を意味しており、融点よりも何℃高いシリンダー温度とするかは、10~30℃の範囲で原料樹脂の種類によって異なる。液晶性樹脂は、粉粒体混合物の形態とすることができ、ペレット等の溶融混合物(溶融混練物)の形態とすることもできる。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
重合容器に下記の原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で3時間反応させた(アシル化)。その後、更に360℃まで4.5時間かけて昇温し、そこから15分かけて10Torr(即ち1330Pa)まで減圧して、酢酸、過剰の無水酢酸、及びその他の低沸分を留出させながら重縮合を行った。減圧開始から撹拌トルクが所定の値に達するまでの時間は、17分であった。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出した。その後、ストランドをペレタイズして液晶性樹脂ペレットを得た。
(原料)
4-ヒドロキシ安息香酸(HBA):184g(60モル%)
テレフタル酸(TA):52g(14モル%)
イソフタル酸(IA):22g(6モル%)
4,4’-ジヒドロキシビフェニル(BP):83g(20モル%)
トリフルオロメタンスルホン酸:66mg(220ppm)(酸触媒)
アシル化剤(無水酢酸):233g
【0042】
[比較例1~6]
酸触媒を、表2に記載のものに変更したこと以外は実施例1と同様にして液晶性樹脂ペレットを得た。ただし、酸触媒の使用量は表2に示す通りとした。
【0043】
[重縮合時間]
各実施例及び比較例において、減圧開始から撹拌トルクが所定の値に達するまでの時間を確認した。結果を表1及び表2に示す。なお、目標の溶融粘度となる際に示すトルク値を所定の値とする。目標の溶融粘度は、実施例1、比較例1~6のポリマーはシリンダー温度360℃、せん断速度1000sec-1での溶融粘度が15Pa・sである。なお、溶融粘度の測定は、キャピラリー式レオメーター(株式会社東洋精機製作所製キャピログラフ1D:ピストン径10mm)により、上記シリンダー温度及びせん断速度で、見かけの溶融粘度をISO 11443に準拠して測定した。測定には、内径0.5mm、長さ30mmのオリフィスを用いた。
【0044】
[融点]
各実施例及び比較例において、示差走査熱量計(DSC、(株)日立ハイテクサイエンス製)を使用し、液晶性樹脂を室温から20℃/分の昇温速度で加熱した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)を測定した。次いで、(Tm1+40)℃の温度で2分間保持した。さらに、20℃/分の降温速度で室温まで一旦冷却した後、再度、20℃/分の昇温速度で加熱した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)を融点として測定した。
【0045】
[炭酸ガス発生量]
各実施例及び比較例において、熱重量測定装置(TGA、TAインスツルメント(株)製)を使用し、液晶性樹脂10mgを窒素気流下にて、液晶性樹脂の融点よりも25℃高い温度(Tm2+25℃)で、30分保持した際の重量減少量を測定し、それを炭酸ガス発生量として評価した。
【0046】
【0047】
【0048】
表1より、実施例1は、減圧開始後、所定トルクに到達するまでの時間が短く、かつ、炭酸ガス発生量が少ないことが分かる。すなわち、実施例1においては、炭酸ガスの発生の低減と、及び重縮合速度の向上とを両立できることが示された。
これに対して、表2より、比較例1~6においては、炭酸ガス発生の低減及び重縮合速度の向上を同時に満足のいく結果とすることができなかった。