(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】イミド系樹脂膜製造システム、イミド系樹脂膜製造方法及びセパレータ製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/26 20060101AFI20221104BHJP
H01M 50/409 20210101ALI20221104BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20221104BHJP
【FI】
C08J9/26 CFG
H01M50/409
H01M50/403 F
H01M50/403 Z
(21)【出願番号】P 2018148321
(22)【出願日】2018-08-07
【審査請求日】2021-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【氏名又は名称】西 和哉
(72)【発明者】
【氏名】川村 芳次
(72)【発明者】
【氏名】杉山 真也
(72)【発明者】
【氏名】石川 薫
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-224634(JP,A)
【文献】特開2017-128691(JP,A)
【文献】特開2017-152468(JP,A)
【文献】特開2017-202479(JP,A)
【文献】国際公開第2015/137461(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/26
H01M 50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性のイミド系樹脂膜を製造する
イミド系樹脂膜製造システムであって、
ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド又はポリアミド、及び微粒子を含む膜を、前記微粒子を溶解又は分解可能な第1エッチング液に浸すことにより、又は前記微粒子を分解可能な温度に加熱することにより、前記微粒子を除去して、膜厚方向に貫通する多数の連続孔が形成された前記多孔性のイミド系樹脂膜を形成する膜形成ユニットと、
前記膜形成ユニットにより形成された前記多孔性のイミド系樹脂膜に、前記多孔性のイミド系樹脂膜を溶解しないプリウェット液を供給するプリウェットユニットと、
前記プリウェット液が供給された前記多孔性のイミド系樹脂膜の一部を、前記第1エッチング液とは異なる第2エッチング液を用いて溶解するケミカルエッチングユニットと、を備
え、
前記プリウェット液は、アルコールを含む、イミド系樹脂膜製造システム。
【請求項2】
多孔性のイミド系樹脂膜を製造するイミド系樹脂膜製造システムであって、
ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド又はポリアミド、及び微粒子を含む膜を、前記微粒子を溶解又は分解可能な第1エッチング液に浸すことにより、又は前記微粒子を分解可能な温度に加熱することにより、前記微粒子を除去して、膜厚方向に貫通する多数の連続孔が形成された前記多孔性のイミド系樹脂膜を形成する膜形成ユニットと、
前記膜形成ユニットにより形成された前記多孔性のイミド系樹脂膜に、前記多孔性のイミド系樹脂膜を溶解しないプリウェット液を供給するプリウェットユニットと、
前記プリウェット液が供給された前記多孔性のイミド系樹脂膜の一部を、前記第1エッチング液とは異なる第2エッチング液を用いて溶解するケミカルエッチングユニットと、を備え、
前記プリウェット液は、グリコール系物質を含む、イミド系樹脂膜製造システム。
【請求項3】
前記プリウェット液は、前記アルコールを1%から100%含む、請求項
1に記載のイミド系樹脂膜製造システム。
【請求項4】
前記プリウェット液は、イソプロピルアルコール又はエタノールを含む
、請求項
1に記載のイミド系樹脂膜製造システム。
【請求項5】
前記プリウェット液は、前記第2エッチング液との親和性を有する、請求項1
から請求項4のいずれか一項に記載のイミド系樹脂膜製造システム。
【請求項6】
前記プリウェット液は、前記多孔性のイミド系樹脂膜に対する親和性を有する、請求項1
から請求項
5のいずれか一項に記載のイミド系樹脂膜製造システム。
【請求項7】
前記プリウェット液は、界面活性剤を含む、請求項
1から請求項
6のいずれか一項に記載のイミド系樹脂膜製造システム。
【請求項8】
前記第2エッチング液は、水酸化テトラメチルアンモニウムを含む水系の液体である、請求項1から請求項
7のいずれか一項に記載のイミド系樹脂膜製造システム。
【請求項9】
前記第2エッチング液は、25%未満の
前記水酸化テトラメチルアンモニウムを含む、請求項
8に記載のイミド系樹脂膜製造システム。
【請求項10】
前記第2エッチング液には、前記プリウェットユニットに用いられている前記プリウェット液が混合されている、請求項1から請求項
9のいずれか一項に記載のイミド系樹脂膜製造システム。
【請求項11】
前記プリウェットユニットは、前記プリウェット液を貯留して前記多孔性のイミド系樹脂膜を浸漬するための貯留部を有する、請求項1から請求項1
0のいずれか一項に記載のイミド系樹脂膜製造システム。
【請求項12】
前記プリウェットユニットは、前記貯留部の前記プリウェット液を回収し、回収した前記プリウェット液を前記貯留部に戻す循環部を有する、請求項1
1に記載のイミド系樹脂膜製造システム。
【請求項13】
前記膜形成ユニットは、ロール体として巻き取り可能な帯状の前記多孔性のイミド系樹脂膜を形成し、
前記プリウェットユニットは、前記膜形成ユニットから送り出された前記多孔性のイミド系樹脂膜を順次取り込んで、前記多孔性のイミド系樹脂膜を巻き取らずに前記貯留部の前記プリウェット液に浸漬させる搬送部を有する、請求項1
1又は請求項1
2に記載のイミド系樹脂膜製造システム。
【請求項14】
前記搬送部は、前記貯留部の前記プリウェット液に浸漬させた前記多孔性のイミド系樹脂膜を巻き取らずに前記ケミカルエッチングユニットに送る、請求項1
3に記載のイミド系樹脂膜製造システム。
【請求項15】
前記膜形成ユニットは、ロール体として巻き取り可能な帯状の前記多孔性のイミド系樹脂膜を形成し、
前記貯留部は、帯状の前記多孔性のイミド系樹脂膜を巻き取ったロール体を浸漬可能である、請求項1
1又は請求項1
2に記載のイミド系樹脂膜製造システム。
【請求項16】
前記プリウェットユニットは、前記膜形成ユニットにより形成された前記多孔性のイミド系樹脂膜に対して前記プリウェット液を噴出又は噴霧する供給部を有する、請求項1から請求項1
0のいずれか一項に記載のイミド系樹脂膜製造システム。
【請求項17】
多孔性のイミド系樹脂膜を製造する
イミド系樹脂膜製
造方法であって、
ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド又はポリアミド、及び微粒子を含む膜を、前記微粒子を溶解又は分解可能な第1エッチング液に浸すことにより、又は前記微粒子を分解可能な温度に加熱することにより、前記微粒子を除去して、膜厚方向に貫通する多数の連続孔が形成された前記多孔性のイミド系樹脂膜を形成することと、
前記多孔性のイミド系樹脂膜を溶解しないプリウェット液を、前記多孔性のイミド系樹脂膜に供給することと、
前記プリウェット液が供給された前記多孔性のイミド系樹脂膜の一部を、前記第1エッチング液とは異なる第2エッチング液を用いて溶解することと、を含
み、
前記プリウェット液は、アルコールを含む、イミド系樹脂膜製造方法。
【請求項18】
多孔性のイミド系樹脂膜を製造するイミド系樹脂膜製造方法であって、
ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド又はポリアミド、及び微粒子を含む膜を、前記微粒子を溶解又は分解可能な第1エッチング液に浸すことにより、又は前記微粒子を分解可能な温度に加熱することにより、前記微粒子を除去して、膜厚方向に貫通する多数の連続孔が形成された前記多孔性のイミド系樹脂膜を形成することと、
前記多孔性のイミド系樹脂膜を溶解しないプリウェット液を、前記多孔性のイミド系樹脂膜に供給することと、
前記プリウェット液が供給された前記多孔性のイミド系樹脂膜の一部を、前記第1エッチング液とは異なる第2エッチング液を用いて溶解することと、を含み、
前記プリウェット液は、グリコール系物質を含む、イミド系樹脂膜製造方法。
【請求項19】
前記多孔性のイミド系樹脂膜を、貯留部に貯留された前記プリウェット液に浸漬することを含む、請求項18に記載のイミド系樹脂膜製造方法。
【請求項20】
前記貯留部の前記プリウェット液を回収し、回収した前記プリウェット液を前記貯留部に戻すことを含む、請求項19に記載のイミド系樹脂膜製造方法。
【請求項21】
ロール体として巻き取り可能な帯状の前記多孔性のイミド系樹脂膜を形成することと、
形成された前記多孔性のイミド系樹脂膜を順次取り込んで、前記多孔性のイミド系樹脂膜を巻き取らずに前記貯留部の前記プリウェット液に浸漬させることと、を含む、請求項19又は請求項20に記載のイミド系樹脂膜製造方法。
【請求項22】
前記貯留部の前記プリウェット液に浸漬させた前記多孔性のイミド系樹脂膜を巻き取らずに搬送して、前記第2エッチング液により前記多孔性のイミド系樹脂膜の一部を溶解することを含む、請求項21に記載のイミド系樹脂膜製造方法。
【請求項23】
前記貯留部に貯留された前記プリウェット液に、帯状の前記多孔性のイミド系樹脂膜が巻き取られたロール体を浸漬することを含む、請求項19に記載のイミド系樹脂膜製造方法。
【請求項24】
形成された前記多孔性のイミド系樹脂膜に対して前記プリウェット液を噴出又は噴霧することを含む、請求項18に記載のイミド系樹脂膜製造方法。
【請求項25】
前記プリウェット液が前記多孔性のイミド系樹脂膜に付着している状態で、前記第2エッチング液により前記多孔性のイミド系樹脂膜の一部を溶解することを含む、請求項18から請求項24のいずれか一項に記載のイミド系樹脂膜製造方法。
【請求項26】
リチウムイオン電池のセパレータを製造するセパレータ製造方法であって、
ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド又はポリアミド、及び微粒子を含む膜を、前記微粒子を溶解又は分解可能な第1エッチング液に浸すことにより、又は前記微粒子を分解可能な温度に加熱することにより、前記微粒子を除去して、膜厚方向に貫通する多数の連続孔が形成された多孔性のイミド系樹脂膜を、リチウムイオン電池のセパレータとして形成することと、
前記多孔性のイミド系樹脂膜を溶解しないプリウェット液を、前記多孔性のイミド系樹脂膜に供給することと、
前記プリウェット液が供給された前記多孔性のイミド系樹脂膜の一部を、前記第1エッチング液とは異なる第2エッチング液を用いて溶解することと、を含み、
前記プリウェット液は、アルコールを含む、セパレータ製造方法。
【請求項27】
リチウムイオン電池のセパレータを製造するセパレータ製造方法であって、
ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド又はポリアミド、及び微粒子を含む膜を、前記微粒子を溶解又は分解可能な第1エッチング液に浸すことにより、又は前記微粒子を分解可能な温度に加熱することにより、前記微粒子を除去して、膜厚方向に貫通する多数の連続孔が形成された多孔性のイミド系樹脂膜を、リチウムイオン電池のセパレータとして形成することと、
前記多孔性のイミド系樹脂膜を溶解しないプリウェット液を、前記多孔性のイミド系樹脂膜に供給することと、
前記プリウェット液が供給された前記多孔性のイミド系樹脂膜の一部を、前記第1エッチング液とは異なる第2エッチング液を用いて溶解することと、を含み、
前記プリウェット液は、グリコール系物質を含む、セパレータ製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イミド系樹脂膜製造システム、イミド系樹脂膜製造方法及びセパレータ製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池の一種であるリチウムイオン電池は、電解液に浸された正極と負極との間にセパレータが配置され、セパレータによって正極と負極との間の直接の電気的接触を防ぐ構造となっている。充電時には、リチウムイオンが正極からセパレータを通過して負極へ移動し、放電時には、リチウムイオンが負極からセパレータを通過して正極へ移動する。このようなセパレータとして、近年では、耐熱性が高く安全性の高い多孔性のポリイミド膜からなるセパレータを用いることが知られている。
【0003】
上記の多孔性のポリイミド膜を製造する場合、まず、微粒子を含むポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド又はポリアミドの膜を形成し、この膜から微粒子を除去した後に、膜の一部を、ケミカルエッチング液を用いて溶解することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のポリイミド膜の製造過程において、微粒子を除去した膜の一部をケミカルエッチング液を用いて溶解し、膜厚方向に貫通する複数の連続孔を拡げる工程を含む場合がある。このとき、膜がケミカルエッチング液を弾いてしまうと、ケミカルエッチング液が膜の中まで浸透しにくくなり、適切に膜をケミカルエッチングできないといった問題がある。この問題に対して、メタノール等のアルコールを予めケミカルエッチング液に混合させておき、膜に対するケミカルエッチング液の親和性を高め、ケミカルエッチング液を膜の中に浸透しやすくする手法も考えられる。しかしながら、この手法では、処理時間の経過により混合液中のメタノールが揮発し、ケミカルエッチング液の濃度が高くなる。そのため、膜の浸漬を同じ時間行っても浸漬するタイミングが後になるほど膜が溶解され過ぎてしまい、膜の品質が低下する場合がある。また、有機物であるアルコールを混合させた混合液では、BOD値が高くなり、廃液としてそのまま下水に流せなくなるため、廃液処理の負担が大きくなる。
【0006】
本発明は、高品質なイミド系樹脂膜を効率的に製造可能であり、製造過程における廃液処理の負担を軽減することが可能なイミド系樹脂膜製造システム、イミド系樹脂膜製造方法及びセパレータ製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様においては、多孔性のイミド系樹脂膜を製造するイミド系樹脂膜製造システムが提供される。イミド系樹脂膜製造システムは、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド又はポリアミド、及び微粒子を含む膜を、微粒子を溶解又は分解可能な第1エッチング液に浸すことにより、又は微粒子を分解可能な温度に加熱することにより、微粒子を除去して、膜厚方向に貫通する多数の連続孔が形成された多孔性のイミド系樹脂膜を形成する膜形成ユニットを備える。イミド系樹脂膜製造システムは、膜形成ユニットにより形成された多孔性のイミド系樹脂膜に、多孔性のイミド系樹脂膜を溶解しないプリウェット液を供給するプリウェットユニットを備える。イミド系樹脂膜製造システムは、プリウェット液が供給された多孔性のイミド系樹脂膜の一部を、第1エッチング液とは異なる第2エッチング液を用いて溶解するケミカルエッチングユニットを備える。プリウェット液は、アルコールを含む。本発明の第2の態様においては、多孔性のイミド系樹脂膜を製造するイミド系樹脂膜製造システムが提供される。イミド系樹脂膜製造システムは、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド又はポリアミド、及び微粒子を含む膜を、微粒子を溶解又は分解可能な第1エッチング液に浸すことにより、又は微粒子を分解可能な温度に加熱することにより、微粒子を除去して、膜厚方向に貫通する多数の連続孔が形成された多孔性のイミド系樹脂膜を形成する膜形成ユニットを備える。イミド系樹脂膜製造システムは、膜形成ユニットにより形成された多孔性のイミド系樹脂膜に、多孔性のイミド系樹脂膜を溶解しないプリウェット液を供給するプリウェットユニットを備える。イミド系樹脂膜製造システムは、プリウェット液が供給された多孔性のイミド系樹脂膜の一部を、第1エッチング液とは異なる第2エッチング液を用いて溶解するケミカルエッチングユニットを備える。プリウェット液は、グリコール系物質を含む。
【0008】
本発明の第3の態様においては、多孔性のイミド系樹脂膜を製造するイミド系樹脂膜製造方法が提供される。イミド系樹脂膜製造方法は、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド又はポリアミド、及び微粒子を含む膜を、微粒子を溶解又は分解可能な第1エッチング液に浸すことにより、又は微粒子を分解可能な温度に加熱することにより、微粒子を除去して、膜厚方向に貫通する多数の連続孔が形成された多孔性のイミド系樹脂膜を形成することを含む。イミド系樹脂膜製造方法は、多孔性のイミド系樹脂膜を溶解しないプリウェット液を、多孔性のイミド系樹脂膜に供給することを含む。イミド系樹脂膜製造方法は、プリウェット液が供給された多孔性のイミド系樹脂膜の一部を、第1エッチング液とは異なる第2エッチング液を用いて溶解することを含む。プリウェット液は、アルコールを含む。本発明の第4の態様においては、多孔性のイミド系樹脂膜を製造するイミド系樹脂膜製造方法が提供される。イミド系樹脂膜製造方法は、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド又はポリアミド、及び微粒子を含む膜を、微粒子を溶解又は分解可能な第1エッチング液に浸すことにより、又は微粒子を分解可能な温度に加熱することにより、微粒子を除去して、膜厚方向に貫通する多数の連続孔が形成された多孔性のイミド系樹脂膜を形成することを含む。イミド系樹脂膜製造方法は、多孔性のイミド系樹脂膜を溶解しないプリウェット液を、多孔性のイミド系樹脂膜に供給することを含む。イミド系樹脂膜製造方法は、プリウェット液が供給された多孔性のイミド系樹脂膜の一部を、第1エッチング液とは異なる第2エッチング液を用いて溶解することを含む。プリウェット液は、グリコール系物質を含む。
【0009】
本発明の第5の態様においては、リチウムイオン電池のセパレータを製造するセパレータ製造方法が提供される。セパレータ製造方法は、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド又はポリアミド、及び微粒子を含む膜を、微粒子を溶解又は分解可能な第1エッチング液に浸すことにより、又は微粒子を分解可能な温度に加熱することにより、微粒子を除去して、膜厚方向に貫通する多数の連続孔が形成された多孔性のイミド系樹脂膜を、リチウムイオン電池のセパレータとして形成することを含む。セパレータ製造方法は、多孔性のイミド系樹脂膜を溶解しないプリウェット液を、多孔性のイミド系樹脂膜に供給することを含む。セパレータ製造方法は、プリウェット液が供給された多孔性のイミド系樹脂膜の一部を、第1エッチング液とは異なる第2エッチング液を用いて溶解することを含む。プリウェット液は、アルコールを含む。本発明の第6の態様においては、リチウムイオン電池のセパレータを製造するセパレータ製造方法が提供される。セパレータ製造方法は、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド又はポリアミド、及び微粒子を含む膜を、微粒子を溶解又は分解可能な第1エッチング液に浸すことにより、又は微粒子を分解可能な温度に加熱することにより、微粒子を除去して、膜厚方向に貫通する多数の連続孔が形成された多孔性のイミド系樹脂膜を、リチウムイオン電池のセパレータとして形成することを含む。セパレータ製造方法は、多孔性のイミド系樹脂膜を溶解しないプリウェット液を、多孔性のイミド系樹脂膜に供給することを含む。セパレータ製造方法は、プリウェット液が供給された多孔性のイミド系樹脂膜の一部を、第1エッチング液とは異なる第2エッチング液を用いて溶解することを含む。プリウェット液は、グリコール系物質を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明の態様によれば、高品質なイミド系樹脂膜を効率的に製造可能であり、製造過程における廃液処理の負担を軽減することが可能なイミド系樹脂膜製造システム、イミド系樹脂膜製造方法、及びセパレータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係るイミド系樹脂膜製造システムの一例を示す図である。
【
図3】膜形成ユニットの詳細な構成を示す図である。
【
図4】プリウェットユニットの一例を示す図である。
【
図5】ケミカルエッチングユニットの一例を示す図である。
【
図6】(a)~(e)は、膜形成ユニットにおける多孔性樹脂膜の製造過程の一例を示す図である。
【
図7】プリウェットユニットにおけるプリウェット処理の一例を示す図である。
【
図8】(a)及び(b)は、ケミカルエッチングユニットにおけるケミカルエッチング処理の一例を示す図である。
【
図9】変形例に係るイミド系樹脂膜製造システムの一例を示す図である。
【
図10】変形例に係るイミド系樹脂膜製造システムの一例を示す図である。
【
図11】変形例に係るイミド系樹脂膜製造システムの一例を示す図である。
【
図12】変形例に係るイミド系樹脂膜製造システムの一例を示す図である。
【
図13】変形例に係るプリウェットユニットの一例を示す図である。
【
図14】変形例に係るイミド系樹脂膜製造システムの一例を示す図である。
【
図15】リチウムイオン電池の一例を示す模式図である
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下、XYZ座標系を用いて図中の方向を説明する。このXYZ座標系においては、水平面に平行な平面をXY平面とする。このXY平面に平行な一方向をX方向と表記し、X方向に直交する方向をY方向と表記する。また、XY平面に垂直な方向はZ方向と表記する。X方向、Y方向及びZ方向のそれぞれは、図中の矢印の指す方向が+方向であり、矢印の指す方向とは反対の方向が-方向であるとして説明する。
【0013】
図1は、イミド系樹脂膜製造システム(以下、製造システムと称する)SYS1の一例を示す図である。
図1に示す製造システムSYS1は、多孔性樹脂膜F(多孔性のイミド系樹脂膜)を製造するシステムである。製造システムSYS1は、膜形成ユニットU1と、プリウェットユニットU2と、ケミカルエッチングユニットU3とを備えている。
【0014】
[膜形成ユニット]
図2は、膜形成ユニットU1の一例を示す図である。
図3は、膜形成ユニットU1の詳細な構成を示す図である。膜形成ユニットU1は、膜厚方向に貫通する多数の連続孔が形成された多孔性樹脂膜Fを形成する。膜形成ユニットU1は、
図2に示すように、塗布ユニット10、焼成ユニット20及び除去ユニット30を有する。塗布ユニット10は、所定の塗布液を塗布して未焼成膜FAを形成する。塗布液については、後述する。焼成ユニット20は、未焼成膜FAを焼成して焼成膜FBを形成する。除去ユニット30は、焼成膜FBを第1エッチング液に浸すことにより焼成膜FBから微粒子を除去して多孔性樹脂膜Fを形成する。第1エッチング液には、微粒子を溶解又は分解可能な液体が用いられる。
【0015】
膜形成ユニットU1は、
図2に示すように、例えば上下2階層に構成されており、塗布ユニット10が2階部分に配置され、焼成ユニット20及び除去ユニット30が1階部分に配置される。同一階に配置される焼成ユニット20及び除去ユニット30は、例えばY方向に並んで配置されるが、この構成に限定されず、例えばX方向又はX方向とY方向との合成方向に並んで配置されてもよい。
【0016】
膜形成ユニットU1の階層構造及び各階における各ユニットの配置等については上記に限定されず、例えば、塗布ユニット10及び焼成ユニット20が2階部分に配置され、除去ユニット30が1階部分に配置されてもよい。また、すべてのユニットが同一階に配置されてもよい。この場合、各ユニットが一列に配置されてもよいし、複数列で配置されてもよい。また、すべてのユニットが異なる階層に配置されてもよい。
【0017】
膜形成ユニットU1では、未焼成膜FAが帯状に形成される。塗布ユニット10の+Y側(未焼成膜FAの搬送方向の前方)には、帯状の未焼成膜FAをロール状に巻き取る巻き取り部60が設けられる。焼成ユニット20の-Y側(未焼成膜FAの搬送方向の後方)には、ロール状の未焼成膜FAを焼成ユニット20へ向けて送り出す送り出し部70が設けられる。
【0018】
[塗布ユニット]
塗布ユニット10は、
図3に示すように、搬送部11と、第1ノズル12と、第2ノズル13と、乾燥部14と、剥離部15と、とを有する。搬送部11は、搬送基材(基材)Sと、基材送出ローラー11aと、支持ローラー11b~11dと、基材巻取ローラー11eと、搬出ローラー11fとを有する。
【0019】
搬送基材Sは、帯状に形成されている。搬送基材Sは、基材送出ローラー11aから送り出され、テンションを有するように支持ローラー11b~11dに架け渡されており、基材巻取ローラー11eによって巻き取られる。搬送基材Sの材質としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)などが挙げられるが、この構成に限定されず、ステンレス鋼等の金属材料であってもよい。
【0020】
各ローラー11a~11fは、例えば円筒状に形成され、それぞれX方向に平行に配置されている。なお、各ローラー11a~11fは、X方向に平行な配置に限られず、少なくとも1つがX方向に対して傾いて配置されてもよい。例えば、各ローラー11a~11fがZ方向に平行に配置され、Z方向の高さ位置が同一となるように配置されてもよい。この場合、搬送基材Sは、水平面(XY平面)に対して立った状態で水平面に沿って移動することになる。
【0021】
基材送出ローラー11aは、搬送基材Sが巻かれた状態で配置される。支持ローラー11bは、基材送出ローラー11aの+Z側に配置されると共に、基材送出ローラー11aよりも-Y側に配置される。また、支持ローラー11cは、支持ローラー11bの+Z側に配置されると共に、支持ローラー11bよりも+Y側に配置される。この3つのローラー(基材送出ローラー11a、支持ローラー11b、11c)の配置により、搬送基材Sは支持ローラー11bの-Y側端部を含む面で支持される。
【0022】
また、支持ローラー11dは、支持ローラー11cの+Y側に配置されるとともに、支持ローラー11cの-Z側に配置される。この場合、支持ローラー11b~11dの3つのローラーの配置により、搬送基材Sは、支持ローラー11cの+Z側端部を含む面で支持される。なお、支持ローラー11dが、支持ローラー11cの高さ位置(Z方向の位置)とほぼ等しい高さ位置に配置されてもよい。この場合、搬送基材Sは、支持ローラー11cから支持ローラー11dに向けてXY平面にほぼ平行な状態で+Y方向に送られる。
【0023】
基材巻取ローラー11eは、支持ローラー11dの-Z側に配置される。支持ローラー11dから基材巻取ローラー11eに向けて、搬送基材Sは、-Z方向に送られる。搬出ローラー11fは、支持ローラー11dの+Y側かつ-Z側に配置される。搬出ローラー11fは、乾燥部14で形成される未焼成膜FAを+Y方向に送る。この未焼成膜FAは、搬出ローラー11fにより、塗布ユニット10の外部に搬出される。
【0024】
なお、上記の各ローラー11a~11fは、円筒形に限られず、テーパー型のクラウンが形成されてもよい。この場合、各ローラー11a~11fのたわみ補正に有効であり、搬送基材S又は後述の未焼成膜FAが各ローラー11a~11fに均等に接触可能となる。また、各ローラー11a~11fにラジアル型のクラウンが形成されてもよい。この場合、搬送基材S又は未焼成膜FAの蛇行防止に有効である。また、各ローラー11a~11fにコンケイブ型のクラウン(X方向の中央部が凹形に湾曲した部分)が形成されてもよい。この場合、X方向に張力を付与しつつ搬送基材S又は未焼成膜FAを搬送することが可能となるため、シワの発生防止に有効となる。以下のローラーについても、上記同様にテーパー型、ラジアル型、コンケイブ型等のクラウンを有する構成であってもよい。
【0025】
第1ノズル12は、搬送基材Sに第1塗布液の塗布膜(以下、第1塗布膜F1とする)を形成する。第1ノズル12は、第1塗布液吐出する吐出口12aを有する。吐出口12aは、例えば長手方向が搬送基材SのX方向の寸法とほぼ同一となるように形成される。第1ノズル12は、吐出位置P1に配置される。吐出位置P1は、支持ローラー11bに対して-Y方向上の位置である。第1ノズル12は、吐出口12aが+Y方向を向くように傾いて配置される。従って、吐出口12aは、搬送基材Sのうち支持ローラー11bの-Y側端部で支持された部分に向けられる。第1ノズル12は、この搬送基材Sに対して、吐出口12aから水平方向に沿って第1塗布液を吐出する。
【0026】
第2ノズル13は、搬送基材S上に第1塗布膜F1に重ねて第2塗布液の塗布膜(以下、第2塗布膜F2とする)を形成する。第2ノズル13は、第2塗布液を吐出する吐出口13aを有する。吐出口13aは、例えば長手方向が搬送基材SのX方向の寸法とほぼ同一となるように形成される。第2ノズル13は、吐出位置P2に配置される。吐出位置P2は、支持ローラー11cに対して+Z方向上の位置である。第2ノズル13は、吐出口13aが-Z方向を向くように配置される。従って、吐出口13aは、搬送基材Sのうち支持ローラー11cの+Z側端部で支持された部分に向けられる。第2ノズル13は、この搬送基材Sに対して、吐出口13aから重力方向に沿って第2塗布液を吐出する。
【0027】
なお、第1ノズル12及び第2ノズル13は、X方向、Y方向及びZ方向のうち少なくとも一方向に移動可能であってもよい。また、第1ノズル12及び第2ノズル13は、X方向に平行な軸線の周りに回転可能に設けられてもよい。また、第1ノズル12及び第2ノズル13は、塗布液を吐出しないときには不図示の待機位置に配置され、塗布液を吐出する際に待機位置から上記の吐出位置P1、P2にそれぞれ移動するようにしてもよい。また、第1ノズル12及び第2ノズル13の予備吐出動作を行う部分が設けられてもよい。
【0028】
第1ノズル12及び第2ノズル13は、それぞれ接続配管(不図示)などを介して、塗布液供給源(不図示)に接続されている。第1ノズル12及び第2ノズル13は、例えば内部に所定量の塗布液を保持する保持部(不図示)が設けられる。この場合、第1ノズル12及び第2ノズル13は、上記保持部に保持された液状体の温度を調整する温調部を有してもよい。第1ノズル12又は第2ノズル13から吐出される各塗布液の吐出量、又は第1塗布膜F1又は第2塗布膜F2の膜厚は、各ノズル、各接続配管(不図示)、若しくは塗布液供給源(不図示)に接続されるポンプ(不図示)の圧力、搬送速度、各ノズル位置又は搬送基材Sとノズルとの距離等により、調整可能である。
【0029】
乾燥部14は、第2ノズル13の+Y側であって、支持ローラー11cと支持ローラー11dとの間に配置されている。乾燥部14は、搬送基材S上に塗布された2層の塗布膜(第1塗布膜F1及び第2塗布膜F2)を乾燥させ、未焼成膜FAを形成する。乾燥部14は、チャンバー14aと、加熱部14bとを有する。チャンバー14aは、搬送基材S及び加熱部14bを収容する。加熱部14bは、搬送基材S上に形成される第1塗布膜F1及び第2塗布膜F2を加熱する。加熱部14bとしては、例えば赤外線ヒータなどが用いられる。加熱部14bは、50℃~100℃程度の温度で塗布膜を加熱する。
【0030】
剥離部15は、未焼成膜FAが搬送基材Sから剥離される部分である。本実施形態では、作業者の手作業によって未焼成膜FAの剥離が行われるが、この構成に限定されず、マニピュレータ等を用いて自動的に行ってもよい。搬送基材Sから剥離された未焼成膜FAは、搬出ローラー11fによって塗布ユニット10の外部に搬出され、巻き取り部60に送られる。また、未焼成膜FAが剥離された搬送基材Sは、基材巻取ローラー11eによって巻き取られる。
【0031】
塗布ユニット10の+Y側には、未焼成膜FAを搬出する搬出口10bが設けられている。搬出口10bから搬出された未焼成膜FAは、巻き取り部60によって巻き取られる。巻き取り部60は、軸受61に軸部材SFが装着された構成となっている。軸部材SFは、搬出口10bから搬出された未焼成膜FAを巻き取ってロール体Rを形成する。軸部材SFは、軸受61に対して着脱可能に設けられる。軸部材SFは、軸受61に装着される場合、X方向に平行な軸線の周りに回転可能となるように支持される。巻き取り部60は、軸受61に装着される軸部材SFを回転させる不図示の駆動機構を有する。
【0032】
巻き取り部60では、未焼成膜FAのうち第1塗布膜F1側の面が外側に配置されるように未焼成膜FAを巻き取るようにする。例えば駆動機構によって軸部材SFを
図1の反時計回りに回転させることにより、未焼成膜FAが巻き取られるようになっている。ロール体Rが形成された状態で軸部材SFを軸受61から取り外すことにより、ロール体Rを他のユニットに移動させることが可能となる。本実施形態では、巻き取り部60が塗布ユニット10から独立して配置されているが、この構成に限定されない。例えば、巻き取り部60は、塗布ユニット10の内部に配置されていてもよい。この場合、塗布ユニット10に搬出口10bを配置せず、搬出ローラー11fから、(又は支持ローラー11dから)未焼成膜FAを巻き取ってロール体Rを形成してもよい。
【0033】
[塗布液]
多孔性樹脂膜Fの原料となる塗布液について説明する。塗布液は、所定の樹脂材料と、微粒子と、溶剤とを含む。所定の樹脂材料としては、例えばポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド、又はポリアミドが挙げられる。溶剤としては、これらの樹脂材料を溶解可能な有機溶剤が用いられる。
【0034】
本実施形態では、塗布液として、微粒子の含有率が異なる2種類の塗布液(第1塗布液及び第2塗布液)が用いられる。具体的には、第1塗布液は、第2塗布液よりも微粒子の含有率が高くなるように調製される。その結果、未焼成膜FA、焼成膜FB及び多孔性樹脂膜Fの強度及び柔軟性を担保することができる。また、微粒子の含有率の低い層を設けることで、多孔性樹脂膜Fの製造コストの低減を図ることができる。
【0035】
例えば、第1塗布液には、樹脂材料と微粒子とが19:81~45:65の体積比となるように含有される。また、第2塗布液には、樹脂材料と微粒子とが20:80~50:50の体積比となるように含有される。ただし、第1塗布液の微粒子の含有率が、第2塗布液の微粒子の含有率よりも高くなるように体積比が設定される。なお、各樹脂材料の体積は、各樹脂材料の質量にその比重を乗じて求めた値が用いられる。
【0036】
上記の場合において、例えば、第1塗布液の体積全体を100としたときに微粒子の体積が65以上であれば、粒子が均一に分散し、また、微粒子の体積が81以内であれば粒子同士が凝集することもなく分散する。このため、多孔性樹脂膜Fに孔を均一に形成することができる。また、微粒子の体積比率がこの範囲内であれば、未焼成膜FAを成膜する際の剥離性を確保することができる。
【0037】
例えば、第2塗布液の体積全体を100としたときに微粒子の体積が50以上であれば、微粒子単体が均一に分散し、また、微粒子の体積80以内であれば微粒子同士が凝集することもなく、また、表面にひび割れ等が生じることもないため、安定して電気特性の良好な多孔性樹脂膜Fを形成することができる。
【0038】
上記2種類の塗布液は、例えば微粒子を予め分散した溶剤とポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド又はポリアミドを任意の比率で混合することで調製される。また、微粒子を予め分散した溶剤中でポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド又はポリアミドを重合して調製されてもよい。例えば、微粒子を予め分散した有機溶剤中でテトラカルボン酸二無水物及びジアミンを重合してポリアミド酸とするか、更にイミド化してポリイミドとすることで製造できる。
【0039】
塗布液の粘度は、最終的に300~2000cPとすることが好ましく、400~1500cPの範囲がより好ましく、600~1200cPの範囲がさらに好ましい。塗布液の粘度がこの範囲内であれば、均一に成膜をすることが可能である。
【0040】
上記塗布液には、微粒子とポリアミド酸又はポリイミドを乾燥して未焼成膜FAとした場合において、微粒子の材質が後述の無機材料の場合は微粒子/ポリイミドの比率が2~6(質量比)となるように微粒子とポリアミド酸又はポリイミドとを混合するとよい。3~5(質量比)とすることが、更に好ましい。微粒子の材質が後述の有機材料の場合は微粒子/ポリイミドの比率が1~3.5(質量比)となるように微粒子とポリアミド酸又はポリイミドとを混合するとよい。1.2~3(質量比)とすることが、更に好ましい。また、未焼成膜FAとした際に微粒子/ポリイミドの体積比率が1.5~4.5となるように微粒子とポリアミド酸又はポリイミドとを混合するとよい。1.8~3(体積比)とすることが更に好ましい。未焼成膜FAとした際に微粒子/ポリイミドの質量比又は体積比が下限値以上であれば、セパレータとして適切な密度の孔を得ることができ、上限値以下であれば、粘度の増加及び膜中のひび割れ等の問題を生じることなく安定的に成膜することができる。ポリアミド酸又はポリイミドのかわりに樹脂材料がポリアミドイミド又はポリアミドとなる場合も、質量比は上記と同様である。
【0041】
以下、各樹脂材料について具体的に説明する。
<ポリアミド酸>
本実施形態で用いるポリアミド酸は、任意のテトラカルボン酸二無水物とジアミンを重合して得られるものが、特に限定されることなく使用できる。テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの使用量は特に限定されないが、テトラカルボン酸二無水物1モルに対して、ジアミンを0.50~1.50モル用いるのが好ましく、0.60~1.30モル用いるのがより好ましく、0.70~1.20モル用いるのが特に好ましい。
【0042】
テトラカルボン酸二無水物は、従来からポリアミド酸の合成原料として使用されているテトラカルボン酸二無水物から適宜選択することができる。テトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物であっても、脂肪族テトラカルボン酸二無水物であってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族テトラカルボン酸二無水物を使用することが好ましい。テトラカルボン酸二無水物は、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0043】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の好適な具体例としては、ピロメリット酸二無水物、1、1-ビス(2、3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2、3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3、4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、3、3’、4、4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2、3、3’、4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2、2、6、6-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2、2-ビス(3、4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2、2-ビス(2、3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2、2-ビス(3、4-ジカルボキシフェニル)-1、1、1、3、3、3-へキサフルオロプロパン二無水物、2、2-ビス(2、3-ジカルボキシフェニル)-1、1、1、3、3、3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、3、3’、4、4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3、4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2、3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2、2’、3、3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4、4-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4、4-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、1、2、5、6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1、4、5、8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2、3、6、7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1、2、3、4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3、4、9、10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2、3、6、7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1、2、7、8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、9、9-ビス無水フタル酸フルオレン、3、3’、4、4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロへキサンテトラカルボン酸二無水物、1、2、4、5-シクロへキサンテトラカルボン酸二無水物、1、2、3、4-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらの中では、価格、入手容易性等から、3、3’、4、4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物が好ましい。また、これらのテトラカルボン酸二無水物は単独あるいは二種以上混合して用いることもできる。
【0044】
ジアミンは、従来からポリアミド酸の合成原料として使用されているジアミンから適宜選択することができる。ジアミンは、芳香族ジアミンであっても、脂肪族ジアミンであってもよいが、得られるポリイミド樹脂の耐熱性の点から、芳香族ジアミンが好ましい。これらのジアミンは、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0045】
芳香族ジアミンとしては、フェニル基が1個あるいは2~10個程度が結合したジアミノ化合物を挙げることができる。具体的には、フェニレンジアミン及びその誘導体、ジアミノビフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノジフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノトリフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノナフタレン及びその誘導体、アミノフェニルアミノインダン及びその誘導体、ジアミノテトラフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノヘキサフェニル化合物及びその誘導体、カルド型フルオレンジアミン誘導体である。
【0046】
フェニレンジアミンはm-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン等であり、フェニレンジアミン誘導体としては、メチル基、エチル基等のアルキル基が結合したジアミン、例えば、2、4-ジアミノトルエン、2、4-トリフェニレンジアミン等である。
【0047】
ジアミノビフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基がフェニル基同士で結合したものである。例えば、4、4’-ジアミノビフェニル、4、4’-ジアミノ-2、2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル等である。
【0048】
ジアミノジフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基が他の基を介してフェニル基同士で結合したものである。結合はエーテル結合、スルホニル結合、チオエーテル結合、アルキレン又はその誘導体基による結合、イミノ結合、アゾ結合、ホスフィンオキシド結合、アミド結合、ウレイレン結合等である。アルキレン結合は炭素数が1~6程度のものであり、その誘導体基はアルキレン基の水素原子の1以上がハロゲン原子等で置換されたものである。
【0049】
ジアミノジフェニル化合物の例としては、3、3’-ジアミノジフェニルエーテル、3、4’-ジアミノジフェニルエーテル、4、4’-ジアミノジフェニルエーテル、3、3’-ジアミノジフェニルスルホン、3、4’-ジアミノジフェニルスルホン、4、4’-ジアミノジフェニルスルホン、3、3’-ジアミノジフェニルメタン、3、4’-ジアミノジフェニルメタン、4、4’-ジアミノジフェニルメタン、4、4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3、3’-ジアミノジフェニルケトン、3、4’-ジアミノジフェニルケトン、2、2-ビス(p-アミノフェニル)プロパン、2、2’-ビス(p-アミノフェニル)へキサフルオロプロパン、4-メチル-2、4-ビス(p-アミノフェニル)-1-ペンテン、4-メチル-2、4-ビス(p-アミノフェニル)-2-ぺンテン、イミノジアニリン、4-メチル-2、4-ビス(p-アミノフェニル)ペンタン、ビス(p-アミノフェニル)ホスフィンオキシド、4、4’-ジアミノアゾベンゼン、4、4’-ジアミノジフェニル尿素、4、4’-ジアミノジフェニルアミド、1、4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1、3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1、3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4、4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2、2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2、2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。
【0050】
これらの中では、価格、入手容易性等から、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2、4-ジアミノトルエン、及び4、4’-ジアミノジフェニルエーテルが好ましい。
【0051】
ジアミノトリフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基と1つのフェニレン基が何れも他の基を介して結合したものであり、他の基は、ジアミノジフェニル化合物と同様のものが選ばれる。ジアミノトリフェニル化合物の例としては、1、3-ビス(m-アミノフェノキシ)ベンゼン、1、3-ビス(p-アミノフェノキシ)ベンゼン、1、4-ビス(p-アミノフェノキシ)ベンゼン等を挙げることができる。
【0052】
ジアミノナフタレンの例としては、1、5-ジアミノナフタレン及び2、6-ジアミノナフタレンを挙げることができる。
【0053】
アミノフェニルアミノインダンの例としては、5又は6-アミノ-1-(p-アミノフェニル)-1、3、3-トリメチルインダンを挙げることができる。
【0054】
ジアミノテトラフェニル化合物の例としては、4、4’-ビス(p-アミノフェノキシ)ビフェニル、2、2’-ビス[p-(p’-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2、2’-ビス[p-(p’-アミノフェノキシ)ビフェニル]プロパン、2、2’-ビス[p-(m-アミノフェノキシ)フェニル]ベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0055】
カルド型フルオレンジアミン誘導体は、9、9-ビスアニリンフルオレン等が挙げられる。
【0056】
脂肪族ジアミンは、例えば、炭素数が2~15程度のものがよく、具体的には、ペンタメチレンジアミン、へキサメチレンジアミン、へプタメチレンジアミン等が挙げられる。
【0057】
なお、これらのジアミンの水素原子がハロゲン原子、メチル基、メトキシ基、シアノ基、フェニル基等の群より選択される少なくとも1種の置換基により置換された化合物であってもよい。
【0058】
本実施形態で用いられるポリアミド酸を製造する手段に特に制限はなく、例えば、有機溶剤中で酸、ジアミン成分を反応させる方法等の公知の手法を用いることができる。
【0059】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応は、通常、有機溶剤中で行われる。テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に使用される有機溶剤は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンを溶解させることができ、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンと反応しないものであれば特に限定されない。有機溶剤は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0060】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応に用いる有機溶剤の例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N、N-ジメチルアセトアミド、N、N-ジエチルアセトアミド、N、N-ジメチルホルムアミド、N、N-ジエチルホルムアミド、N-メチルカプロラクタム、N、N、N’、N’-テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤;β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン等のラクトン系極性溶剤;ジメチルスルホキシド;アセトニトリル;乳酸エチル、乳酸ブチル等の脂肪酸エステル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセルソルブアセテート、エチルセルソルブアセテート等のエーテル類;クレゾール類等のフェノール系溶剤が挙げられる。これらの有機溶剤は単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。有機溶剤の使用量に特に制限はないが、生成するポリアミド酸の含有量が5~50質量%とするのが望ましい。
【0061】
これらの有機溶剤の中では、生成するポリアミド酸の溶解性から、N-メチル-2-ピロリドン、N、N-ジメチルアセトアミド、N、N-ジエチルアセトアミド、N、N-ジメチルホルムアミド、N、N-ジエチルホルムアミド、N-メチルカプロラクタム、N、N、N’、N’-テトラメチルウレア等の含窒素極性溶剤が好ましい。
【0062】
重合温度は一般的には-10~120℃、好ましくは5~30℃である。重合時間は使用する原料組成により異なるが、通常は3~24Hr(時間)である。また、このような条件下で得られるポリアミド酸の有機溶剤溶液の固有粘度は、好ましくは1000~10万cP(センチポアズ)、より一層好ましくは5000~7万cPの範囲である。
【0063】
<ポリイミド>
本実施形態に用いるポリイミドは、塗布液に使用する有機溶剤に溶解可能な可溶性ポリイミドなら、その構造又は分子量に限定されることなく、公知のものが使用できる。ポリイミドについて、側鎖にカルボキシ基等の縮合可能な官能基又は焼成時に架橋反応等を促進させる官能基を有していてもよい。
【0064】
有機溶剤に可溶なポリイミドとするために、主鎖に柔軟な屈曲構造を導入するためのモノマーの使用、例えば、エチレジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1、4-ジアミノシクロヘキサン、1、3-ジアミノシクロヘキサン、4、4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン等の脂肪族ジアミン;2-メチル-1、4-フェニレンジアミン、o-トリジン、m-トリジン、3、3’-ジメトキシベンジジン、4、4’-ジアミノベンズアニリド等の芳香族ジアミン;ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシブチレンジアミン等のポリオキシアルキレンジアミン;ポリシロキサンジアミン;2、3、3’、4’-オキシジフタル酸無水物、3、4、3’、4’-オキシジフタル酸無水物、2、2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンジベンゾエート-3、3’、4、4’-テトラカルボン酸二無水物等の使用が有効である。また、有機溶剤への溶解性を向上する官能基を有するモノマーの使用、例えば、2、2’-ビス(トリフルオロメチル)-4、4’-ジアミノビフェニル、2-トリフルオロメチル-1、4-フェニレンジアミン等のフッ素化ジアミンを使用することも有効である。更に、上記ポリイミドの溶解性を向上するためのモノマーに加えて、溶解性を阻害しない範囲で、上記ポリアミド酸の欄に記したものと同じモノマーを併用することもできる。
【0065】
本発明で用いられる、有機溶剤に溶解可能なポリイミドを製造する手段に特に制限はなく、例えば、ポリアミド酸を化学イミド化又は加熱イミド化させ、有機溶剤に溶解させる方法等の公知の手法を用いることができる。そのようなポリイミドとしては、脂肪族ポリイミド(全脂肪族ポリイミド)、芳香族ポリイミド等を挙げることができ、芳香族ポリイミドが好ましい。芳香族ポリイミドとしては、式(1)で示す繰り返し単位を有するポリアミド酸を熱又は化学的に閉環反応によって取得したもの、若しくは式(2)で示す繰り返し単位を有するポリイミドを溶媒に溶解したものでよい。式中Arはアリール基を示す。
【0066】
【0067】
【0068】
<ポリアミドイミド>
本実施形態に用いるポリアミドイミドは、塗布液に使用する有機溶剤に溶解可能な可溶性ポリアミドイミドなら、その構造又は分子量に限定されることなく、公知のものが使用できる。ポリアミドイミドについて、側鎖にカルボキシ基等の縮合可能な官能基又は焼成時に架橋反応等を促進させる官能基を有していてもよい。
【0069】
本実施形態で用いるポリアミドイミドは、任意の無水トリメリット酸とジイソシアネートとを反応させて得られるもの、あるいは任意の無水トリメリット酸の反応性誘導体とジアミンとの反応により得られる前駆体ポリマーをイミド化して得られるものを特に限定されることなく使用できる。
【0070】
上記任意の無水トリメット酸又はその反応性誘導体としては、例えば、無水トリメリット酸、無水トリメリット酸クロライド等の無水トリメリット酸ハロゲン化物、無水トリメリット酸エステル等が挙げられる。
【0071】
ジイソシアネートとしては、例えば、メタフェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、4、4’-オキシビス(フェニルイソシアネート)、4、4’-ジイソシアネートジフェニルメタン、ビス[4-(4-イソシアネートフェノキシ) フェニル] スルホン、2、2′-ビス[4-(4-イソシアネートフェノキシ)フェニル] プロパン等が挙げられる。
【0072】
ジアミンとしては、前記ポリアミド酸の説明において例示したものと同様のものが挙げられる。
【0073】
<ポリアミド>
本実施形態に用いるポリアミドとしては、ジカルボン酸とジアミンとから得られるポリアミドが好ましく、特に芳香族ポリアミドが好ましい。
【0074】
ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、及びジフェン酸等が挙げられる。
【0075】
ジアミンとしては、前記ポリアミド酸の説明において例示したものと同様のものが挙げられる。
【0076】
<微粒子>
本実施形態に用いる微粒子は、例えば真球率が高く、粒径分布指数の小さいものが用いられる。このような微粒子は、液体中での分散性に優れ、互いに凝集しない状態となる。微粒子の粒径(平均直径)としては、例えば、100~2000nm程度に設定することができる。上記のような微粒子を用いることにより、後の工程で微粒子を除去することで得られる多孔性樹脂膜Fの孔径を揃えることができる。このため、多孔性樹脂膜Fによって形成されるセパレータに印加される電界を均一化できる。
【0077】
なお、微粒子の材質としては、塗布液に含まれる溶剤に不溶であって、後の工程で多孔性樹脂膜Fから除去可能な材質であれば、特に限定されることはなく公知のものを採用することができる。例えば、無機材料では、シリカ(二酸化珪素)、酸化チタン、アルミナ(Al2O3)等の金属酸化物が挙げられる。また、有機材料では、高分子量オレフィン(ポリプロピレン、ポリエチレン等)、ポリスチレン、エポキシ樹脂、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエステル、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテル等の有機高分子微粒子が挙げられる。また、微粒子の一例として、(単分散)球状シリカ粒子などのコロイダルシリカ、炭酸カルシウム等が挙げられる。この場合、多孔性樹脂膜Fの孔径をより均一にすることができる。
【0078】
また、第1塗布液に含まれる微粒子と第2塗布液に含まれる微粒子とは、真球率、粒径、材料等の諸元が同一であってもよいし、互いに異なってもよい。第1塗布液に含まれる微粒子は、第2塗布液に含まれる微粒子よりも粒径分布指数が小さいか同じであることが好ましい。あるいは、第1塗布液に含まれる微粒子は、第2塗布液に含まれる微粒子よりも真球率が小さいか同じであることが好ましい。また、第1塗布液に含まれる微粒子は、第2塗布液に含まれる微粒子よりも微粒子の粒径(平均直径)が小さいことが好ましく、特に、第1塗布液に含まれる微粒子が100~1000nm(より好ましくは100~600nm)であり、第2塗布液に含まれる微粒子が500~2000nm(より好ましくは700~2000nm)であることが好ましい。第1塗布膜に含まれる微粒子の粒径に第2塗布液に含まれる微粒子の粒径より小さいものを用いることで、多孔性樹脂膜F表面の孔の開口割合を高く均一にすることができる。また、多孔性樹脂膜F全体を第1塗布液に含まれる微粒子の粒径とした場合よりも膜の強度を高めることができる。
【0079】
なお、上記塗布液は、所定の樹脂材料と、微粒子と、溶剤の他、必要に応じて、離型剤、分散剤、縮合剤、イミド化剤、界面活性剤等種々の添加剤を含んでいてもよい。
【0080】
[焼成ユニット]
焼成ユニット20は、本実施形態において、未焼成膜FAに対する高温処理を行うユニットである。焼成ユニット20は、未焼成膜FAを焼成し、微粒子を含んだ焼成膜FBを形成する。焼成ユニット20は、チャンバー21と、加熱部22と、搬送部23とを有する。チャンバー21は、未焼成膜FAを搬入する搬入口20aと、焼成膜FBを搬出する搬出口20bとを有する。チャンバー21は、加熱部22及び搬送部23を収容する。
【0081】
焼成ユニット20の-Y側には、搬入口20aが設けられている。送り出し部70は、搬入口20aに対して未焼成膜FAを送り出す。送り出し部70は、軸受71に軸部材SFが装着可能な構成となっている。軸部材SFは、塗布ユニット10の巻き取り部60の軸受61に装着するものと共通で使用可能である。従って、巻き取り部60から取り外した軸部材SFを送り出し部70の軸受71に装着可能である。この構成により、巻き取り部60で形成されたロール体Rを送り出し部70に配置することが可能である。なお、軸受71及び巻き取り部60の軸受61については、それぞれ床面からの高さが等しくなるように設定可能であるが、異なる高さ位置に設定されてもよい。
【0082】
軸部材SFは、軸受71に装着される場合、X方向に平行な軸線の周りに回転可能となるように支持される。送り出し部70は、軸受71に装着される軸部材SFを回転させる不図示の駆動機構を有する。駆動機構によって軸部材SFを
図3の時計回りに回転させることにより、ロール体Rを構成する未焼成膜FAが搬入口20aへ向けて送り出されるようになっている。なお、上記の巻き取り部60において、未焼成膜FAのうち第1塗布膜F1側の面が外側に配置されるように未焼成膜FAが巻き取られるため、ロール体Rから未焼成膜FAが引き出される場合には、第1塗布膜F1側が上方に配置されることになる。
【0083】
加熱部22は、チャンバー31内に搬入された未焼成膜FAを加熱する。加熱部22は、Y方向に並んで配置される複数のヒータ22aを有する。このヒータ22aとしては、例えば赤外線ヒータなどが用いられる。加熱部22は、チャンバー21の内部の-Y側端部から+Y側端部に亘って配置されている。加熱部22は、Y方向のほぼ全体で未焼成膜FAを加熱することが可能となっている。加熱部22は、例えば未焼成膜FAを120℃~450℃程度に加熱することが可能である。加熱部22による加熱温度は、未焼成膜FAの搬送速度又は未焼成膜FAの構成成分等に応じて適宜調整する。
【0084】
搬送部23は、搬送ベルト23aと、駆動ローラー23bと、従動ローラー23cと、テンションローラー23d、23eとを有する。搬送ベルト23aは、無端状に形成されており、Y方向に沿って配置されている。搬送ベルト23aは、未焼成膜FAの焼成温度に耐久性を有する材料を用いて形成される。搬送ベルト23aは、テンションを有する状態で、XY平面にほぼ平行となるように、駆動ローラー23bと従動ローラー23cとの間に架け渡されている。未焼成膜FA及び焼成膜FBは、搬送ベルト23aに載置された状態で+Y方向に搬送される。
【0085】
駆動ローラー23bは、チャンバー21の内部の+Y側端部に配置される。駆動ローラー23bは、例えば円筒状に形成され、X方向に平行に配置されている。駆動ローラー23bには、例えばモータ等の回転駆動装置が設けられている。駆動ローラー23bは、この回転駆動装置により、X方向に平行な軸線の周りに回転可能に設けられている。駆動ローラー23bが回転することで、搬送ベルト23aが
図1の時計回りに回転するようになっている。搬送ベルト23aが回転することにより、搬送ベルト23a上に載置された未焼成膜FA及び焼成膜FBが+Y方向に搬送される。
【0086】
従動ローラー23cは、チャンバー21の内部の-Y側端部に配置される。従動ローラー23cは、例えば円筒状に形成され、X方向に平行に配置されている。従動ローラー23cは、駆動ローラー23bと同一の径に形成され、Z方向の位置(高さ位置)が駆動ローラー23bとほぼ等しくなるように配置されている。従動ローラー23cは、X方向に平行な軸線の周りに回転可能に設けられている。従動ローラー23cは、搬送ベルト23aの回転に追従して回転する。
【0087】
テンションローラー23dは、従動ローラー23cの+Z側に配置されている。テンションローラー23dは、X方向に平行に配置されており、X軸周りに回転可能に設けられている。テンションローラー23dは、Z方向に昇降移動可能に設けられる。テンションローラー23dは、従動ローラー23cとの間で未焼成膜FAを挟むことが可能である。テンションローラー23dは、未焼成膜FAを挟んだ状態で回転可能である。
【0088】
テンションローラー23eは、駆動ローラー23bの+Z側に配置されている。テンションローラー23eは、X方向に平行に配置されており、X軸周りに回転可能に設けられている。テンションローラー23eは、Z方向に昇降移動可能に設けられる。テンションローラー23eは、駆動ローラー23bとの間で焼成膜FBを挟むことが可能である。テンションローラー23eは、焼成膜FBを挟んだ状態で回転可能である。
【0089】
テンションローラー23d、23eがそれぞれ従動ローラー23c及び駆動ローラー23bとの間で未焼成膜FA及び焼成膜FBをそれぞれ挟んだ状態とすることにより、一続きの未焼成膜FA及び焼成膜FBのうち挟まれた2か所の間の部分は、外部からのテンションがカットされることになる。この動作により、未焼成膜FA及び焼成膜FBに対して過剰な負荷がかかることを防止できる。テンションローラー23d、23eは、チャンバー21内に配置される未焼成膜FA及び焼成膜FBにテンションがかからないように調整可能である。
【0090】
なお、上記した焼成ユニット20の構成は一例であり、この構成に限定されない。例えば、焼成ユニット20として、未焼成膜FA及び焼成膜FBが搬送ベルト23aで搬送されない形態であってもよい。搬送ベルト23aがない焼成ユニット20では、例えば、チャンバー21内において未焼成膜FA及び焼成膜FBの下面側に複数のローラ(あるいは棒状体)が配置される構成であってもよい。
【0091】
[除去ユニット]
除去ユニット30は、チャンバー31と、エッチング部32と、洗浄部33と、液切部34と、搬送部35と、を有する。チャンバー31は、焼成膜FBを搬入する搬入口30aと、多孔性樹脂膜Fを搬出する搬出口30bとを有する。チャンバー31は、エッチング部32、洗浄部33、液切部34及び搬送部35を収容する。
【0092】
エッチング部32は、焼成膜FBに対してエッチングを行い、焼成膜FBに含まれる微粒子を除去して、多孔性樹脂膜Fを形成する。エッチング部32では、微粒子を溶解又は分解可能な第1エッチング液Q1に焼成膜FBを浸すことで微粒子を除去する。エッチング部32には、このような第1エッチング液Q1を供給する供給部(不図示)、及び第1エッチング液Q1を貯留可能な貯留部が設けられる。エッチング部32と洗浄部33とでは内部に含む液体が異なるので、エッチング部32から搬出される手前の位置に後述の吸水ローラーが設けられてもよい。吸水ローラーは、多孔性樹脂膜Fに対し+Z側及び-Z側の少なくとも一方、好ましくは両方に配置される。
【0093】
洗浄部33は、エッチング後の多孔性樹脂膜Fを洗浄する。洗浄部33は、エッチング部32の+Y側(多孔性樹脂膜Fの搬送方向の前方)に配置される。洗浄部33は、洗浄液を供給する供給部(不図示)を有する。また、多孔性樹脂膜Fを洗浄した後の廃液を回収する回収部(不図示)などを有してもよい。
【0094】
液切部34は、洗浄後の多孔性樹脂膜Fに付着した液体を除去する。予備乾燥等を行ってもよい。液切部34は、洗浄部33の+Y側(多孔性樹脂膜Fの搬送方向の前方)に配置される。液切部34には、吸水ローラー等が設けられている。吸水ローラーを多孔性樹脂膜Fに接触させることにより、多孔性樹脂膜Fを搬送しつつ、多孔性樹脂膜Fに付着している液体を吸収可能である。吸水ローラーの搬送方向に対する配置は液切部34から搬出される手前であれば特に制限されない。また吸水ローラーは、多孔性樹脂膜Fに対し+Z側及び-Z側の少なくとも一方、好ましくは両方に配置される。
【0095】
搬送部35は、エッチング部32、洗浄部33及び液切部34に亘って焼成膜FB及び多孔性樹脂膜Fを搬送する。搬送部35は、複数の搬送ローラー35aを有する。搬送ローラー35aは、焼成膜FB及び多孔性樹脂膜Fを支持して回転可能である。
【0096】
なお、除去ユニット30では、微粒子をエッチングによって除去する場合に限定されない。例えば、微粒子の材質として、ポリイミドよりも低温で分解する有機材料が用いられる場合、焼成膜FBを加熱することによって微粒子を分解させることができる。このような有機材料としては、ポリイミドよりも低温で分解するものであれば、特に限定されることなく使用できる。例えば、線状ポリマー又は公知の解重合性ポリマーからなる樹脂微粒子を挙げることができる。通常の線状ポリマーは、熱分解時にポリマーの分子鎖がランダムに切断され、解重合性ポリマーは、熱分解時にポリマーが単量体に分解するポリマーである。いずれも、低分子量体、あるいは、CO2まで分解することによって、焼成膜FBから消失する。この場合の微粒子の分解温度は200~320℃であることが好ましく、230~260℃であることが更に好ましい。分解温度が200℃以上であれば、塗布液に高沸点溶剤を使用した場合も成膜を行うことができ、焼成ユニット20における焼成条件の選択の幅が広くなる。また、分解温度が320℃未満であれば、焼成膜FBに熱的なダメージを与えることなく微粒子のみを消失させることができる。微粒子を加熱により除去する場合、除去ユニット30は、上記した焼成ユニット20が用いられてもよい。すなわち、焼成ユニット20により未焼成膜FAの加熱を行いつつ、この未焼成膜FAから微粒子の除去を行ってもよい。
【0097】
[プリウェットユニット]
図1に戻り、製造システムSYS1において、プリウェットユニットU2は、膜形成ユニットU1の後段側に設けられる。プリウェットユニットU2は、膜形成ユニットU1により形成された多孔性樹脂膜Fにプリウェット液を供給する。プリウェット液には、多孔性樹脂膜Fを溶解しない液体が用いられる。
図4は、プリウェットユニットU2の一例を示す図である。
図4に示すように、プリウェットユニットU2は、貯留部41と、循環部42と、搬送部43とを有する。貯留部41は、多孔性樹脂膜Fを浸漬するためのプリウェット液PWを貯留する。
【0098】
プリウェット液PWは、多孔性樹脂膜Fを溶解しない材料が用いられる。プリウェット液PWは、後述のケミカルエッチングユニットU3で用いられる第2エッチング液Q2との親和性を有する。また、プリウェット液は、多孔性樹脂膜Fに対する親和性を有する。プリウェット液PWは、例えばイソプロピルアルコール、エタノール、n-プロピルアルコール、メタノール等のアルコールを1%から100%含む。プリウェット液PWは、多孔性樹脂膜Fの製造コストを考えると、水にアルコールを1~50%含むアルコール水溶液が好ましい。さらに、プリウェット液PWは、プリウェットユニットU2からの持出を勘案すると、アルコールを5%~30%含むものがさらに好ましい。プリウェット液PWは、界面活性剤を含んでもよい。また、プリウェット液は、例えばエチレングリコール等のグリコール系物質を含んでもよい。
【0099】
循環部42は、貯留部41のプリウェット液PWを回収し、回収したプリウェット液PWを貯留部41に戻す。循環部42は、第1配管42aと、ポンプ42bと、第2配管42cとを有する。第1配管42aは、一端が貯留部41の底部に接続され、他端がポンプ42bの入力側に接続される。第2配管42cは、一端が貯留部41の側壁の上部に接続され、他端がポンプ42bの出力側に接続される。循環部42は、ポンプ42bを駆動することにより、貯留部41の底部からプリウェット液PWを第1配管42aに吸引し、ポンプ42b及び第2配管42cを経由して側壁の上部から貯留部41に供給される。
【0100】
なお、第1配管42aの一部に、貯留部41の底部から吸引したプリウェット液PW中の不純物を除去するフィルタが設けられてもよい。また、貯留部41内のプリウェット液PWの液面高さを検出する不図示のセンサが設けられてもよく、このセンサの出力を監視して、プリウェット液PWの液面高さが予め設定した基準値を下回ったときには、不図示の供給装置により、新たなプリウェット液PWが貯留部41に供給されるようにしてもよい。また、貯留部41内のプリウェット液PWの濃度を検出する不図示のセンサが設けられてもよく、このセンサの出力を監視して、プリウェット液PWの濃度が予め設定した基準値を下回ったときには、不図示の調整装置により、貯留部41内のプリウェット液PWの濃度を調整するようにしてもよい。
【0101】
搬送部43は、膜形成ユニットU1から送り出された多孔性樹脂膜Fを順次取り込み、多孔性樹脂膜Fを巻き取らずに貯留部41のプリウェット液PWに浸漬させる。また、搬送部43は、貯留部41のプリウェット液PWに浸漬させた多孔性樹脂膜Fを巻き取らずにケミカルエッチングユニットU3に送る。搬送部43は、搬入ローラー43a、43bと、浸漬ローラー43cと、搬出ローラー43d、43eとを有する。搬入ローラー43aは、プリウェットユニットU2に搬送される多孔性樹脂膜Fを支持して+Y方向に案内する。搬入ローラー43bは、搬入ローラー43aから案内される多孔性樹脂膜Fを-Z側に折り曲げて浸漬ローラー43c側に案内する。
【0102】
浸漬ローラー43cは、少なくとも一部がプリウェット液PWに浸漬された状態で配置される。浸漬ローラー43cは、搬入ローラー43bから-Z側に案内される多孔性樹脂膜Fを-Z側の端部において支持し、+Z側に折り曲げて搬出ローラー43d側に案内する。多孔性樹脂膜Fは、浸漬ローラー43cの-Z側端部によって案内されることで、プリウェット液PWに浸漬された状態となる。搬出ローラー43dは、浸漬ローラー43cから案内される多孔性樹脂膜Fを+Y側に折り曲げて搬出ローラー43e側に案内する。搬出ローラー43eは、搬出ローラー43dから案内される多孔性樹脂膜Fを+Y側、すなわちプリウェットユニットU2の外部のケミカルエッチングユニットU3に送る。
【0103】
プリウェット液PWへの浸漬時間は、多孔性樹脂膜Fがプリウェット液PW中を移動する距離又は速度によって調整可能である。例えば、プリウェット液PWへの浸漬時間を長くする場合には、多孔性樹脂膜Fの搬送速度を遅くするか、多孔性樹脂膜Fをプリウェット液PW中で長く移動させる。多孔性樹脂膜Fをプリウェット液PW中で長く移動させる場合、搬送方向に長い貯留部41が用いられてもよいし、貯留部41内において複数の浸漬ローラー43cを上下方向の高さを変えて配置させ、多孔性樹脂膜Fをプリウェット液PW中で上下に蛇行させることによりプリウェット液PWを通過する距離を長くしてもよい。
【0104】
製造システムSYS1は、
図1に示すように、膜形成ユニットU1、プリウェットユニットU2及びケミカルエッチングユニットU3を経て巻き取り部80に至るまでの区間では、いわゆるロール・ツー・ロール方式による処理が行われる。従って、この区間では、未焼成膜FA、焼成膜FB及び多孔性樹脂膜Fの各膜が一続きの状態で搬送される。なお、ロール・ツー・ロール方式による処理に限定されない。例えば、膜形成ユニットU1から出た多孔性樹脂膜Fがロール体として巻き取られ、このロール体がプリウェットユニットU2に送られて、搬送部43により順次ロール体から多孔性樹脂膜Fが引き出されてプリウェットユニットU2に送られる構成であってもよい。また、プリウェットユニットU2を出た多孔性樹脂膜Fがロール体として巻き取られ、このロール体がケミカルエッチングユニットU3に送られてもよい。
【0105】
[ケミカルエッチングユニット]
図1に戻り、製造システムSYS1において、ケミカルエッチングユニットU3は、プリウェットユニットU2の後段側(+Y側)に設けられる。また、ケミカルエッチングユニットU3の+Y側(多孔性樹脂膜Fの搬送方向の前方)には、多孔性樹脂膜Fをロール状に巻き取る巻き取りユニットU4が設けられる。ケミカルエッチングユニットU3は、多孔性樹脂膜Fの一部を、第1エッチング液とは異なる第2エッチング液を用いて溶解する。
図5は、ケミカルエッチングユニットU3の一例を示す図である。
図5に示すように、ケミカルエッチングユニットU3は、ケミカルエッチング部51と、洗浄部52と、搬送部53とを有する。
【0106】
ケミカルエッチング部51は、多孔性樹脂膜Fに対して第2エッチング液Q2を用いてケミカルエッチングを行い、多孔性樹脂膜Fの一部を溶解する。ケミカルエッチング部51は、貯留槽51aを有する。貯留槽51aには、第2エッチング液Q2が貯留される。第2エッチング液Q2は、水酸化テトラメチルアンモニウムを含む水系の液体である。第2エッチング液Q2は、25%未満の水酸化テトラメチルアンモニウムを含む。貯留槽51aは、第2エッチング液Q2を排出する排出部51bを有する。排出部51bは、例えば下水に接続される。本実施形態では、第2エッチング液Q2にプリウェット液PWがほぼ含まれないため、第2エッチング液Q2のBOD(Biochemical Oxygen Demand)値が高くなることを抑制できる。そのため、第2エッチング液Q2の廃液を下水に排出することができ、廃液処理の負担が軽減される。なお、第2エッチング液Q2には、廃液を下水に排出可能なBOD値となる範囲で上記したプリウェット液PWが混合されていてもよい。
【0107】
洗浄部52は、ケミカルエッチング後の多孔性樹脂膜Fを洗浄する。洗浄部52は、ケミカルエッチング部51の+Y側(多孔性樹脂膜Fの搬送方向の前方)に配置される。洗浄部52は、洗浄液を供給する供給部52aと、多孔性樹脂膜Fを洗浄した後の廃液を回収する廃液回収槽52bとを有する。廃液回収槽52bは、排出部52cを有する。排出部52cは、例えば下水に接続される。また、洗浄部52においても、ケミカルエッチング部51と同様に、プリウェット液PWがほぼ含まれないため、洗浄部52の廃液を下水に排出することができ、廃液処理の負担が軽減される。このように、プリウェット液PWを多孔性樹脂膜Fに供給するメリットは、ケミカルエッチング部51からの廃液のBODDを下げる効果の他に、洗浄部52からの廃液のBODを下げる効果がある。本実施形態では、プリウェットユニットU2においてプリウェットを採用することで、第2エッチング液Q2にメタノール等を混ぜて使用しなくなるため、第2エッチング液Q2として、プリウェットを行っていない従来のプロセスより大幅にBODを下げることができる。さらに、ケミカルエッチング部51からから洗浄部52へ持ち込まれるBOD量も軽減でき、洗浄部52の廃液のBODを減らすことができる。
【0108】
搬送部53は、プリウェットユニットU2から送り出された多孔性樹脂膜Fを順次取り込み、多孔性樹脂膜Fを巻き取らずにケミカルエッチング部51の第2エッチング液Q2に浸漬させる。また、搬送部53は、ケミカルエッチング部51において第2エッチング液Q2に浸漬させた後の多孔性樹脂膜Fを洗浄部52に搬送し、洗浄後の多孔性樹脂膜Fを搬出する。搬送部53は、搬入ローラー53aと、浸漬ローラー53b、53cと、中継ローラー53d、53eと、洗浄ローラー53f、53gと、搬出ローラー53hとを有する。搬入ローラー53aは、ケミカルエッチングユニットU3に搬送される多孔性樹脂膜Fを-Z側に折り曲げて浸漬ローラー53b側に案内する。
【0109】
浸漬ローラー53b、53cは、少なくとも一部が第2エッチング液Q2に浸漬された状態で配置される。浸漬ローラー53cは、搬入ローラー53aから-Z側に案内される多孔性樹脂膜Fを-Z側の端部において支持して、+Y側に案内する。浸漬ローラー53cは、浸漬ローラー53bから案内される多孔性樹脂膜Fを+Z側に折り曲げて中継ローラー53d側に案内する。多孔性樹脂膜Fは、浸漬ローラー53b、53cの-Z側端部によって案内されることで、第2エッチング液Q2に浸漬された状態となる。なお、プリウェットユニットU2において多孔性樹脂膜Fをプリウェット液PWに浸漬させる距離(あるいは時間)は、多孔性樹脂膜Fを第2エッチング液Q2に浸漬させる距離(あるいは時間)より短い。
【0110】
中継ローラー53d、53eは、ケミカルエッチング部51と洗浄部52との間で多孔性樹脂膜Fを搬送する。中継ローラー53dは、浸漬ローラー53cから+Z側に案内される多孔性樹脂膜Fを+Y側に折り曲げて中継ローラー53e側に案内する。中継ローラー53eは、中継ローラー53dから+Y側に案内される多孔性樹脂膜Fを-Z側に折り曲げて洗浄ローラー53f側に案内する。なお、ケミカルエッチング部51と洗浄部52とでは内部に含む液体が異なるので、中継ローラー53d、53eの少なくとも一方として、吸水ローラーを設けてもよい。吸水ローラーは、多孔性樹脂膜Fに対し+Z側及び-Z側の少なくとも一方、好ましくは両方に配置される。
【0111】
洗浄ローラー53f、53gは、廃液回収槽52bの内部に配置される。洗浄ローラー53fは、洗浄部52において、供給部52aから洗浄液の供給を受ける多孔性樹脂膜Fを支持して搬送する。洗浄ローラー53fは、中継ローラー53dから-Y側に案内される多孔性樹脂膜Fを-Z側の端部で支持し、+Y側に折り曲げて洗浄ローラー53g側に案内する。洗浄ローラー53gは、洗浄ローラー53fから案内される多孔性樹脂膜Fを+Z側に折り曲げて搬出ローラー53h側に案内する。搬出ローラー53hは、洗浄ローラー53gから+Z側に案内される多孔性樹脂膜Fを+Y方向に折り曲げてケミカルエッチングユニットU3から搬出させる。
【0112】
[巻き取りユニット]
巻き取りユニットU4は、
図1に示すように、ケミカルエッチングユニットU3に対して多孔性樹脂膜Fの搬送方向の下流側に配置される。巻き取りユニットU4は、上記の巻き取り部60と同様の構成であり、軸受BRに軸部材SFが装着された構成となっている。軸部材SFは、ケミカルエッチングユニットU3から搬出された多孔性樹脂膜Fを巻き取ってロール体RFを形成する。軸部材SFは、軸受BRに対して着脱可能に設けられる。軸部材SFは、軸受BRに装着される場合、X方向に平行な軸線の周りに回転可能となるように支持される。巻き取り部80は、軸受81に装着される軸部材SFを回転させる不図示の駆動機構を有する。駆動機構によって軸部材SFを回転させることにより、多孔性樹脂膜Fが巻き取られるようになっている。ロール体RFが形成された状態で軸部材SFを軸受BRから取り外すことにより、ロール体RFを回収することが可能となる。
【0113】
[製造方法]
次に、上記のように構成された製造システムSYS1を用いて多孔性樹脂膜Fを製造する動作の一例を説明する。
図6(a)~(e)は、膜形成ユニットU1における多孔性樹脂膜Fの製造過程の一例を示す図である。まず、膜形成ユニットU1において、塗布ユニット10により、未焼成膜FAを形成する。塗布ユニット10では、基材送出ローラー11aを回転させて搬送基材Sを送り出し、搬送基材Sを支持ローラー11b~11dに掛けた後、基材巻取ローラー11eで巻き取らせる。その後、基材送出ローラー11aから搬送基材Sを順次送り出すとともに、基材巻取ローラー11eで巻き取りを行う。
【0114】
この状態で、第1ノズル12を吐出位置P1に配置させ、吐出口12aを+Y方向に向ける。この動作により、搬送基材Sのうち支持ローラー11bによって支持される部分に吐出口12aが向けられる。その後、吐出口12aから第1塗布液を吐出させる。第1塗布液は、吐出口12aから+Y方向に向けて吐出され、搬送基材Sに到達した後、搬送基材Sの移動に伴って搬送基材S上に塗布される。その結果、搬送基材S上に第1塗布液による第1塗布膜F1が形成される(
図3参照)。
【0115】
続いて、第2ノズル13を吐出位置P2に配置させ、吐出口13aを-Z方向に向ける。この動作により、搬送基材Sのうち支持ローラー11cによって支持される部分に吐出口13aが向けられる。その後、吐出口13aから第2塗布液を吐出させる。第2塗布液は、吐出口13aから-Z方向に向けて吐出され、搬送基材Sに形成された第1塗布膜F1上に到達した後、搬送基材Sの移動に伴って第1塗布膜F1上に塗布される。その結果、
図6(a)に示すように、第1塗布膜F1上に第2塗布液による第2塗布膜F2が形成される。なお、第1塗布膜F1及び第2塗布膜F2には、樹脂材料A1に微粒子A2が互いに異なる体積比で含まれる。なお、微粒子の含有率は、第1塗布膜F1の方が第2塗布膜F2よりも大きく設定される。
【0116】
なお、搬送基材Sのうち支持ローラー11b、11cによって支持される部分に吐出口12a、13aを向けた状態で第1塗布液及び第2塗布液が塗布されるため、第1塗布液及び第2塗布液が搬送基材Sに到達するときに搬送基材Sに作用する力が支持ローラー11b、11cによって受けられる。このため、搬送基材Sの撓み及び振動等の発生が抑制され、搬送基材S上に均一な厚さで安定して第1塗布膜F1及び第2塗布膜F2が形成される。
【0117】
続いて、搬送基材Sが移動し、第1塗布膜F1及び第2塗布膜F2の積層部分が乾燥部14のチャンバー14a内に搬入された場合、乾燥部14において第1塗布膜F1及び第2塗布膜F2の乾燥を行う。乾燥部14では、加熱部14bを用いて、例えば50℃~100℃程度の温度で第1塗布膜F1及び第2塗布膜F2を加熱する。この温度範囲であれば、搬送基材Sに歪み及び変形等が発生することなく、第1塗布膜F1及び第2塗布膜F2を加熱できる。第1塗布膜F1及び第2塗布膜F2の積層体を乾燥することにより、
図6(b)に示すように、未焼成膜FAが形成される。
【0118】
なお、本実施形態において、積層体とは第1塗布膜F1及び第2塗布膜F2からなる未焼成膜をいう。本実施形態に係る多孔性のイミド系樹脂膜を形成する際、第1の液体及び第2の液体において、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミドイミド又はポリアミドのうち、それぞれ同種の樹脂を使用した場合、形成された前記第1塗布膜F1及び前記第2塗布膜F2からなる未焼成膜(または多孔性のイミド系樹脂膜)は、実質1層となるが、微粒子の含有率が異なる未焼成膜(または空孔率の異なる領域を有する多孔性のイミド系樹脂膜)が形成されるため、第1の液体及び第2の液体に同種の樹脂を使用した場合も含め、本実施形態においては、積層体という。
【0119】
続いて、搬送基材Sが移動し、未焼成膜FAの先端部分が支持ローラー11d(剥離部15)に到達した場合には、例えば作業者の手作業により、この先端部分を搬送基材Sから剥離する。本実施形態では、搬送基材Sの材料として例えばPETが用いられているため、第1塗布膜F1及び第2塗布膜F2を乾燥させて未焼成膜FAを形成した場合、搬送基材Sから剥がれやすくなるため、作業者は容易に剥離を行うことができる。
【0120】
未焼成膜FAの先端部分を剥離した後、引き続き搬送基材Sが移動し、第1ノズル12によって第1塗布膜F1が形成される。また、引き続き第2ノズル13によって第2塗布膜F2が形成され、乾燥部14によって未焼成膜FAが形成される。その結果、未焼成膜FAが帯状に形成され、乾燥部14から+Y側に搬出される未焼成膜FAの長さが徐々に長くなる。作業者は、剥離部15において未焼成膜FAを剥離し続ける。そして、剥離された未焼成膜FAの先端が巻き取り部50の軸部材SFに到達する長さになった場合、作業者は手作業によって未焼成膜FAを搬出ローラー11fに掛けるとともに、未焼成膜FAの先端部分を軸部材SFに取り付ける。その後、未焼成膜FAが順次形成され、剥離されていくのに応じて、巻き取り部50で軸部材SFを回転させる。この動作により、剥離された未焼成膜FAが順次塗布ユニット10から搬出され、巻き取り部50の軸部材SFによって巻き取られてロール体Rが形成される。ロール体Rを構成する未焼成膜FAは、
図6(c)に示すように、搬送基材Sから剥離された状態となり、表面及び裏面が共に露出する。
【0121】
なお、未焼成膜FAの先端部分を剥離する作業、及び剥離した先端部分を軸部材SFに装着する作業等については、作業者が手作業で行う態様に限られず、例えばマニピュレータ等を用いて自動で行ってもよい。また、未焼成膜FAの剥離性を高めるため、搬送基材Sの表面に離型層を形成しておいてもよい。
【0122】
所定の長さの未焼成膜FAが軸部材SFに巻き取られた後、未焼成膜FAをカットするとともに、軸部材SFをロール体Rごと軸受61から取り外す。そして、新たな軸部材SFを巻き取り部50の軸受61に装着し、未焼成膜FAの切り取り端部をこの軸部材SFに取り付けて回転させ、未焼成膜FAを引き続き形成することにより、新たなロール体Rを作成可能である。
【0123】
一方、例えば作業者は、軸受61からロール体Rごと取り外した軸部材SFを送り出し部60に搬送し、軸受61に装着する。この軸部材SFの搬送動作及び装着動作は、マニピュレータ又は搬送装置等を用いて自動で行ってもよい。軸部材SFを軸受61に装着した後、軸部材SFを回転させることでロール体Rから未焼成膜FAが順次引き出され、未焼成膜FAが焼成ユニット20のチャンバー21内に搬入される。なお、未焼成膜FAの先端をチャンバー21に搬入する場合には、作業者が手作業で行ってもよいし、マニピュレータ等を用いて自動的に行ってもよい。
【0124】
チャンバー21内に搬入された未焼成膜FAは、搬送ベルト23a上に載置され、搬送ベルト23aの回転に従って+Y方向に搬送される。なお、テンションローラー23d、23eを用いて搬送方向におけるテンションの調整を行ってもよい。そして、未焼成膜FAを搬送させつつ、加熱部22を用いて未焼成膜FAの焼成が行われる。
【0125】
焼成時の温度は、未焼成膜FAの構造により異なるが、120℃~375℃程度であることが好ましく、更に好ましくは150℃~350℃である。また、微粒子に有機材料が含まれる場合は、その熱分解温度よりも低い温度に設定する必要がある。なお、塗布液がポリアミド酸を含む場合、この焼成においてはイミド化を完結させることが好ましいが、未焼成膜FAがポリイミド、ポリアミドイミド又はポリアミドから構成され、焼成ユニット20により未焼成膜FAに対し高温処理を行う場合はこの限りでない。
【0126】
また、焼成条件は、例えば、塗布液がポリアミド酸及び/又はポリイミドを含む場合、室温から375℃までを3時間で昇温させた後、375℃で20分間保持させる方法、あるいは室温から50℃刻みで段階的に375℃まで昇温(各ステップ20分保持)し、最終的に375℃で20分保持させる等の段階的な加熱を行ってもよい。また、未焼成膜FAの端部をSUS製の型枠等に固定し変形を防ぐようにしてもよい。
【0127】
このような焼成により、
図6(d)に示すように、焼成膜FBが形成される。焼成膜FBでは、イミド化又は高温処理された樹脂層A3の内部に微粒子A2が含まれている。焼成膜FBの膜厚は、例えばマイクロメータ等で複数の箇所の厚さを測定し平均することで求めることができる。好ましい平均膜厚としては、セパレータ等に用いられる場合は、3μm~500μmであることが好ましく、5μm~100μmであることがより好ましく、10μm~30μmであることが更に好ましい。
【0128】
焼成ユニット20において形成された焼成膜FBは、焼成ユニット20から搬出されると、巻き取られることなく、除去ユニット30に搬入される。なお、焼成膜FBの先端部分を除去ユニット30に搬入する場合には、作業者が手作業で行ってもよいし、マニピュレータ等を用いて自動的に行ってもよい。
【0129】
除去ユニット30に搬入された焼成膜FBは、搬送ローラー35a上に載置され、搬送ローラー35aの回転に従って+Y方向に搬送される。除去ユニット30では、焼成膜FBの搬送に伴い、まずはエッチング部32において微粒子A2の除去が行われる。微粒子A2の材質として例えばシリカが用いられる場合、エッチング部32では、低濃度のフッ化水素水等のエッチング液に焼成膜FBが浸される。その結果、微粒子A2がエッチング液に溶解して除去され、
図6(e)に示すように、樹脂層A3の内部に多孔部A4が含まれた多孔性樹脂膜Fが形成される。
【0130】
その後、搬送ローラー35aの回転に従って、多孔性樹脂膜Fが洗浄部33及び液切部34に順に搬入される。洗浄部33では、洗浄液によって多孔性樹脂膜Fが洗浄される。また、液切部34では、多孔性樹脂膜Fの液切りが行われ、洗浄液が除去される。そして、多孔性樹脂膜Fが除去ユニット30から搬出され、すなわち、膜形成ユニットU1から搬出され、プリウェットユニットU2に搬入される。
【0131】
プリウェットユニットU2に搬入された多孔性樹脂膜Fは、搬入ローラー43aによって+Y方向に搬送され、搬入ローラー43bによって-Z側に折り曲げられて浸漬ローラー43cの-Z側端部に架け渡される。この構成により、多孔性樹脂膜Fは、貯留部41のプリウェット液PWに浸漬され、この状態で浸漬ローラー43cの-Z側に掛けられて搬送される。
図7は、プリウェットユニットU2におけるプリウェット処理の一例を示す図である。
図7に示すように、プリウェット液PWに浸漬された多孔性樹脂膜Fでは、樹脂層A3の多孔部A4にプリウェット液PWが浸入する。また、循環部42は、ポンプ42bを駆動して、貯留部41の底部からプリウェット液PWを第1配管42aに排出し、ポンプ42b及び第2配管42cを経由して側壁の上部から貯留部41に供給することで、プリウェット液PWを循環させる。この構成により、プリウェット液PWが流動し、多孔部A4への浸入が促進される。
【0132】
多孔性樹脂膜Fは、搬送部43の浸漬ローラー43cで搬送されることにより、プリウェット液PWから引き出される。プリウェット液PWから引き出された多孔性樹脂膜Fは、搬出ローラー43dによって折り曲げられ、+Y側に搬送される。その結果、多孔性樹脂膜Fは、プリウェットユニットU2から搬出され、ケミカルエッチングユニットU3に搬入される。
【0133】
ケミカルエッチングユニットU3に搬入された多孔性樹脂膜Fは、搬入ローラー53aによって+Y方向に搬送され、浸漬ローラー53b、53cの-Z側端部に架け渡される。多孔性樹脂膜Fは、浸漬ローラー53bから浸漬ローラー53cに移動する間に、貯留槽51a内の第2エッチング液Q2に浸漬される。その結果、多孔性樹脂膜Fに対してケミカルエッチング処理が行われる。
【0134】
図8(a)及び(b)は、ケミカルエッチングユニットU3におけるケミカルエッチング処理の一例を示す図である。ケミカルエッチング処理では、
図8(a)に示すように、第2エッチング液Q2がプリウェット液PWによって引き寄せられるように多孔性樹脂膜Fの多孔部A4の内部に浸入する。第2エッチング液Q2が多孔部A4の内部に浸入することにより、多孔部A4の内部が除去される。その結果、
図8(b)に示すように、多孔性樹脂膜Fは、多孔部A4のバリが取れると共に、連通性が確保されることになる。
【0135】
その後、多孔性樹脂膜Fは、中継ローラー53d、53eを経由して洗浄部52に搬送され、洗浄ローラー53f、53gの-Z側端部に架け渡される。多孔性樹脂膜Fは、洗浄ローラー53fから洗浄ローラー53gに移動する間に、供給部52aから供給される洗浄液により洗浄される。洗浄後の多孔性樹脂膜Fは、搬出ローラー53hにより+Y側に搬送されてケミカルエッチングユニットU3から搬出される。ケミカルエッチングユニットU3から搬出された多孔性樹脂膜Fは、巻き取りユニットU4によって巻き取られる。
【0136】
以上のように、本実施形態に係る製造システムSYS1は、膜形成ユニットU1により形成された多孔性樹脂膜Fに、多孔性樹脂膜Fを溶解しないプリウェット液PWを供給するプリウェットユニットU2を備えるので、多孔性樹脂膜Fに対してプリウェット液PWを供給することにより、多孔部A4にプリウェット液PWを付着又は浸透させることができる。この状態で多孔性樹脂膜Fに対してケミカルエッチング処理を行うことにより、第2エッチング液Q2がプリウェット液PWに引き寄せられるように多孔部A4に浸入する。このため、第2エッチング液Q2を確実に多孔部A4内に供給することができる。その結果、多孔性樹脂膜F内を適切にケミカルエッチング処理して、高品質なイミド系の多孔性樹脂膜Fを効率的に製造できる。また、ケミカルエッチングユニットU3とは別ユニットであるプリウェットユニットU2で多孔性樹脂膜Fにプリウェット液PWを供給するため、ケミカルエッチングユニットU3において第2エッチング液Q2にプリウェット液PWを混合させる必要がない。従って、第2エッチング液Q2の廃液のBOD値を抑制でき、廃液を下水に排出可能となる。その結果、多孔性樹脂膜Fの製造過程における廃液処理の負担を軽減することができる。
【0137】
[変形例]
上記実施形態では、膜形成ユニットU1から搬出された多孔性樹脂膜Fが巻き取られることなくプリウェットユニットU2に搬入される構成を例に挙げて説明したが、この構成に限定されない。
図9は、変形例に係る製造システムSYS2の一例を示す図である。
図9に示すように、製造システムSYS2は、膜形成ユニットU1とプリウェットユニットU2との間に、多孔性樹脂膜Fを巻き取る巻き取り部80と、巻き取り部80で巻き取られた多孔性樹脂膜Fを送り出す送り出し部90とが設けられてもよい。
【0138】
巻き取り部80は、上記実施形態における巻き取り部60と同様の構成であり、軸受81に軸部材SFが装着された構成となっている。軸部材SFは、膜形成ユニットU1から搬出される多孔性樹脂膜Fを巻き取ってロール体RFaを形成する。軸部材SFは、軸受81に対して着脱可能に設けられる。巻き取り部80は、軸受81に装着される軸部材SFを回転させる不図示の駆動機構を有する。
【0139】
また、送り出し部90は、上記実施形態における送り出し部70と同様の構成であり、軸受91に軸部材SFが装着可能な構成となっている。軸部材SFは、巻き取り部80の軸受81に装着するものと共通で使用可能である。従って、巻き取り部80から取り外した軸部材SFを送り出し部90の軸受91に装着可能である。その結果、巻き取り部80で形成されたロール体RFaを送り出し部90に配置することが可能である。
【0140】
図10は、変形例に係る製造システムSYS3の一例を示す図である。
図10に示すように、製造システムSYS3は、膜形成ユニットU1で形成された多孔性樹脂膜Fを巻き取る巻き取り部80を有し、巻き取り部80で巻き取った多孔性樹脂膜Fのロール体RFaをプリウェット液PWに浸漬可能なプリウェットユニットU2Aを有してもよい。また、製造システムSYS3は、プリウェット液PWに浸漬させた後のロール体RFaをケミカルエッチングユニットU3に送り出す送り出し部90を有してもよい。
【0141】
図11は、変形例に係る製造システムSYS4の一例を示す図である。
図11に示すように、製造システムSYS4では、膜形成ユニットU1が、焼成ユニット20と除去ユニット30との間で焼成膜FBを巻き取る巻き取り部82を有し、巻き取り部82で巻き取った焼成膜FBのロール体RFbを第1エッチング液Q1に浸漬させる除去ユニット30Bとを有してもよい。この構成により、焼成膜FBから微粒子が除去され、焼成膜FBが多孔性樹脂膜Fとなり、多孔性樹脂膜Fを巻き取ったロール体RFaが形成される。この場合、形成されたロール体RFaを、巻き取った状態のまま、例えば
図10に示す製造システムSYS3のプリウェットユニットU2Aに浸漬させることができる。
【0142】
図12は、変形例に係る製造システムSYS5の一例を示す図である。
図12に示すように、製造システムSYS5は、プリウェットユニットU2とケミカルエッチングユニットU3との間に、多孔性樹脂膜Fを巻き取る巻き取り部85と、巻き取り部85で巻き取られた多孔性樹脂膜Fを送り出す送り出し部95とが設けられてもよい。巻き取り部85は、上記実施形態における巻き取り部60、80と同様の構成であり、軸受86に軸部材SFが装着された構成となっている。軸部材SFは、プリウェットユニットU2から搬出される多孔性樹脂膜Fを巻き取ってロール体RFbを形成する。また、送り出し部95は、上記実施形態における送り出し部90と同様の構成であり、軸受96に軸部材SFが装着可能な構成となっている。
【0143】
巻き取り部85と送り出し部95との間では、共通の軸部材SFが用いられる。従って、巻き取り部85の軸受86から取り外した軸部材SFを送り出し部95の軸受96に装着可能である。その結果、巻き取り部85で形成されたロール体RFcを送り出し部95に配置することが可能である。
【0144】
また、上記実施形態では、プリウェットユニットU2が、貯留部41にプリウェット液PWを貯留して多孔性樹脂膜Fを浸漬する構成を例に挙げて説明したが、この構成に限定されない。
図13は、変形例に係るプリウェットユニットU2Bの一例を示す図である。
図13に示すように、プリウェットユニットU2Bは、膜形成ユニットU1により形成された多孔性樹脂膜Fに対してプリウェット液PWを噴出又は噴霧する供給部45を有する構成であってもよい。
図13に示す例において、供給部45は、プリウェット液PWの供給源45aと、供給源45aから供給されるプリウェット液PWを噴出又は噴霧するノズル45bとを有する。ノズル45bは、搬送方向(Y方向)に複数設けられてもよい。
【0145】
プリウェットユニットU2Bは、多孔性樹脂膜Fに供給されたプリウェット液PWを回収する回収槽46を有する。回収槽46は、回収したプリウェット液PWを排出する排出部46aを有する。排出部46aは、例えば循環部42に接続されてもよい。循環部42は、排出部46aから排出されたプリウェット液PWを供給部45の供給源45aに戻す構成としてもよい。プリウェットユニットU2Bは、搬送部47を有する。搬送部47は、膜形成ユニットU1から送り出された多孔性樹脂膜Fを順次取り込み、多孔性樹脂膜Fを巻き取らずに供給部45のノズル45bの下方を移動させる。搬送部47は、搬入ローラー47aと、供給ローラー47b、47cと、搬出ローラー47dとを有する。
【0146】
搬入ローラー47aは、プリウェットユニットU2Bに搬送される多孔性樹脂膜Fを-Z側に折り曲げて供給ローラー47b側に案内する。供給ローラー47b、47cは、回収槽46内に配置される。供給ローラー47bは、搬入ローラー47aから-Z側に案内される多孔性樹脂膜Fを-Z側の端部において支持して、+Y側に案内する。供給ローラー47cは、供給ローラー47bから案内される多孔性樹脂膜Fを+Z側に折り曲げて搬出ローラー47d側に搬送する。多孔性樹脂膜Fは、供給ローラー47b、47cの-Z側端部によって案内されることで、ノズル45bから供給されるプリウェット液PWを受ける状態となる。
【0147】
また、上記実施形態では、製造システムSYS1~SYS5において、ケミカルエッチングユニットU3から搬出された多孔性樹脂膜Fを巻き取りユニットU4で巻き取る構成を例に挙げて説明したが、この構成に限定されない。
図14は、変形例に係る製造システムSYS6の一例を示す図である。
図14に示すように、製造システムSYS6は、ケミカルエッチングユニットU3の後段であって巻き取りユニットU4の前段に、ケミカルエッチングユニットU3をから搬出された多孔性樹脂膜Fに対して後処理を行う後処理装置(S1、S2、S3)が設けられてもよい。
図14に示す製造システムSYS6は、後処理装置として、乾燥装置S1と、加熱装置S2と、検査装置S3とが設けられている。
【0148】
乾燥装置S1は、多孔性樹脂膜Fにエアを噴出するエア噴出部49aを有する。エア噴出部49aは、例えば多孔性樹脂膜Fの搬送方向及び搬送方向に直交する方向に複数設けられてもよい。乾燥装置S1は、エア噴出部49aから多孔性樹脂膜Fにエアを噴出することにより、多孔性樹脂膜Fに付着した洗浄水等の液体を除去することが可能である。なお、乾燥装置S1は、設けられなくてもよい。
【0149】
加熱装置S2は、チャンバー49b及びヒータ49cを有する。加熱装置S2は、チャンバー49b内に搬入された多孔性樹脂膜Fに対して、ヒータ49cにより加熱することにより、多孔性樹脂膜Fをより確実に乾燥させることができる。また、多孔性樹脂膜Fは、未焼成部分が残っていた場合でも、この加熱装置S2での加熱によって焼成される場合もある。なお、加熱装置S2は、設けられなくてもよい。
【0150】
検査装置S3は、膜厚検査装置49d及び画像検査装置49eを有する。膜厚検査装置49dは、乾燥後の多孔性樹脂膜Fの膜厚を検査する。画像検査装置49eは、乾燥後の多孔性樹脂膜Fの表面の状態を検査する。膜厚検査装置49d及び画像検査装置49eは、検査結果を出力することにより、多孔性樹脂膜Fにおいて膜厚が異常な場合、又は破損等により表面の異常がある場合などをオペレータ等に報知してもよいし、異常があるロール体に異常あり等の識別ラベルを付与してもよい。また、上記した後処理装置の他に、他の後処理装置としては、例えば多孔性樹脂膜Fに対して除電処理を行う帯電防止装置などが挙げられる。帯電防止ユニットには、例えばイオナイザーなどの除電装置が搭載される。
【0151】
[セパレータ]
次に、本実施形態に係るセパレータ100を説明する。
図15は、リチウムイオン電池200の一例を示す模式図であり、一部が切り開かれた状態を示している。
図15に示すように、リチウムイオン電池200は、正極端子を兼ねた金属ケース201と、負極端子202とを有する。金属ケース201の内部には、正極201aと、負極202aと、セパレータ100とが設けられており、不図示の電解液に浸されている。セパレータ100は、正極201aと負極202aとの間に配置され、正極201aと負極202aとの間の電気的接触を防いでいる。正極201aとしては、リチウム遷移金属酸化物が用いられ、負極202aとしては、例えばリチウム又はカーボン(グラファイト)等が用いられている。
【0152】
上記実施形態に記載の多孔性樹脂膜Fは、このリチウムイオン電池200のセパレータ100として用いられる。この場合、例えば第1塗布膜F1が形成される面をリチウムイオン電池の負極202a側とすることにより、電池性能を向上することができる。なお、
図15では、角型のリチウムイオン電池200のセパレータ100を例に挙げて説明しているが、この構成に限定されない。上記の多孔性樹脂膜Fは、円筒型又はラミネート型等のいずれのタイプのリチウムイオン電池のセパレータであっても用いることができる。なお、リチウムイオン電池のセパレータの他、上記の多孔性樹脂膜Fは、燃料電池電解質膜、ガス又は液体の分離用膜、低誘電率材料として使用することが可能である。
【0153】
以上、実施形態について説明したが、本発明は、上述した説明に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態及び変形例において、多孔性樹脂膜Fの一部を除去する場合、ケミカルエッチング法のみを行う場合を例に挙げて説明したが、この構成に限定されない。例えば、ケミカルエッチング法と物理的除去方法とを組合せた方法により多孔性樹脂膜Fの一部を除去するようにしてもよい。物理的な方法としては、例えば、プラズマ(酸素、アルゴン等)、コロナ放電等によるドライエッチング、研磨剤(例えば、アルミナ(硬度9)等)を液体に分散し、これを芳香族ポリイミドフィルムの表面に30m/s~100m/sの速度で照射することでポリイミドフィルム表面を処理する方法等が使用できる。これらの手法は、除去ユニット30において焼成膜FBから微粒子を除去する前及び微粒子の除去後のいずれの場合にも適用可能である。また、微粒子を除去した後に行う場合にのみ適用可能な物理的方法として、対象表面を液体で濡らした台紙フィルム(例えばPETフィルム等のポリエステルフィルム)に圧着後、乾燥しないで又は乾燥した後、多孔性樹脂膜Fを台紙フィルムから引きはがす方法を採用することもできる。液体の表面張力あるいは静電付着力に起因して、多孔性樹脂膜Fの表面層のみが台紙フィルム上に残された状態で、多孔性樹脂膜Fが台紙フィルムから引きはがされる。
【0154】
例えば、上記実施形態及び変形例では、微粒子の含有率が異なる2種類の塗布液を用いて未焼成膜FAを形成する場合を例に挙げて説明したが、この構成に限定されず、1種類の塗布液で未焼成膜を形成する構成であってもよい。この場合、第1ノズル12及び第2ノズル13のうちいずれか一方が用いられなくてもよいし、一方のノズルを省略してもよい。一方のノズルを省略する場合は、第1ノズル12を省略し、第2ノズル13を使用することが好ましい。
【0155】
また、上記実施形態及び変形例では、膜形成ユニットU1、プリウェットユニットU2及びケミカルエッチングユニットU3が1台ずつ配置された構成を例に挙げて説明したが、この構成に限定されない。例えば、上記ユニットの少なくとも1つが複数台設けられてもよい。この場合、例えば単位時間あたりに処理可能な未焼成膜FA、焼成膜FB又は多孔性樹脂膜Fの分量(例、長さ、等)が少ないユニットを多く配置することにより、製造システム全体の製造効率を高めることができる。
【0156】
また、上記実施形態及び変形例では、膜形成ユニットU1、プリウェットユニットU2及びケミカルエッチングユニットU3の各ユニットが、未焼成膜FA、焼成膜FB又は多孔性樹脂膜Fの各膜をY方向に沿って搬送する場合を例に挙げて説明したが、この構成に限定されない。例えば、いずれかのユニットが膜をX方向、Y方向、Z方向又はこれらの合成方向に搬送してもよいし、1つのユニット内で搬送方向を適宜変更してもよい。
【0157】
また、上記実施形態の構成に加えて、ケミカルエッチングユニットU3で一部が除去された多孔性樹脂膜Fに対して後処理を行う後処理ユニットが設けられてもよい。この後処理ユニットとしては、
【符号の説明】
【0158】
A4・・・多孔部、F・・・多孔性樹脂膜、FA・・・未焼成膜、FB・・・焼成膜、Q1・・・第1エッチング液、Q2・・・第2エッチング液、U1・・・膜形成ユニット、U2、U2A、U2B・・・プリウェットユニット、U3・・・ケミカルエッチングユニット、U4・・・巻き取りユニット、PW・・・プリウェット液、SYS1、SYS2、SYS3、SYS4、SYS5、SYS6・・・イミド系樹脂膜製造システム、10・・・塗布ユニット、35、43、47、53・・・搬送部、20・・・焼成ユニット、30、30B・・・除去ユニット、45、52a・・・供給部、50、60、80、82、85、87・・・巻き取り部、51・・・ケミカルエッチング部、51a・・・貯留槽、52b・・・廃液回収槽、100・・・セパレータ、200・・・リチウムイオン電池