(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】トンネル用防水シート
(51)【国際特許分類】
E21D 11/38 20060101AFI20221104BHJP
【FI】
E21D11/38 A
(21)【出願番号】P 2018209031
(22)【出願日】2018-11-06
【審査請求日】2021-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】藤森工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591029921
【氏名又は名称】フジモリ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085556
【氏名又は名称】渡辺 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100115211
【氏名又は名称】原田 三十義
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊昭
(72)【発明者】
【氏名】高村 聡
(72)【発明者】
【氏名】四谷 敦
(72)【発明者】
【氏名】坂根 一聡
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-061074(JP,A)
【文献】特開2008-082716(JP,A)
【文献】特開平06-032950(JP,A)
【文献】特開2012-102593(JP,A)
【文献】特開2017-210792(JP,A)
【文献】特開2002-316117(JP,A)
【文献】特開2000-160774(JP,A)
【文献】特開2001-294830(JP,A)
【文献】特開2015-192107(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108150202(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/00-19/06
E21D 23/00-23/26
B32B 1/00-43/00
E21D 1/00-9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの周壁に張設される防水性樹脂を主成分とする防水シートであって、
少なくも内周側面を構成する内周側層が、前記防水性樹脂94重量%~98重量%、白色マスターバッチ2重量%~6重量%を含有し、白色マスターバッチが、酸化チタン
を前記白色マスターバッチ全体に対して60重量%~80
重量%含有
しており、前記内周側面とは反対側の外周側面は、前記内周側面よりくすんだケシ面となっており、前記内周側面は、前記外周側面より光沢のあるツヤ面となっていることを特徴とするトンネル用防水シート。
【請求項2】
前記内周側面における可視光の反射率が、80%~95%であることを特徴とする請求項1に記載のトンネル用防水シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの周壁に張設される防水シートに関し、特にNATM(New Austrian Tunneling Method)工法などによって構築されるトンネル用の防水シートに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばNATM工法においては、掘削した地山の内面に沿って直接又は一次覆工を介して防水シートが張設される。防水シートの内周側に二次覆工が構築される。
【0003】
特許文献1に開示された防水シートには、地山側を向く裏面層に光反射シートが設けられている。光反射シートは、織布又は不織布にガラスビーズや金属箔などの光反射体を分散させて接着剤で接着したものである。防水シートの張設後、サーチライトで防水シートを照らす。万一防水シートが破損していた場合には、該破損部から露出した光反射体に光が当たって反射される。これによって、暗いトンネル内でも破損箇所を容易に発見できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種のトンネル施工においては、防水シートの張設施工場所の後方で二次覆工の構築施工が行われる。防水シートの施工場所と二次覆工の施工場所との間には、防水シート張設済みかつ二次覆工の施工待ちの区間が出来る。該二次覆工施工待ち区間の長さは、例えば10メートル~200メートル程度であるが、一般に照明が少なく、暗い。一方、照明光源を増やすのは、コストがかかる。
本発明は、前記事情に鑑み、施工中のトンネル坑内の例えば二次覆工施工待ち区間を、照明光量が少なくても、ないしは照明光を増やすことなく、明るくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記問題点を解決するために、発明者は、施工中のトンネルの二次覆工施工待ち区間においては、防水シートがトンネル坑内の内周面に露出されていることに着目し、該防水シートにおいて照明光を反射させることによって、トンネル坑内の照度を高めることを着想した。
本発明に係るトンネル用防水シートは、
トンネルの周壁に張設される防水性樹脂を主成分とする防水シートであって、
少なくも内周側面を構成する内周側層が、前記防水性樹脂94重量%~98重量%、白色マスターバッチ2重量%~6重量%を含有し、白色マスターバッチが、酸化チタン60重量%~80%を含有することを特徴とする。
【0007】
当該防水シートによれば、内周側面における反射率が高まる。該防水シートをトンネル周壁に張設することによって、トンネル坑内の照明光を防水シートの内周側面において十分に反射させることができる。したがって、照明光量が少なくても、ないしは照明光を増やすことなく、トンネル坑内をある程度、明るくすることができる。特に、防水シートの張設後、二次覆工を構築するまでの二次覆工施工待ち区間における作業照度の確保に貢献できる。
【0008】
前記内周側面における可視光の反射率が、80%~95%であることが好ましい。
可視光とは、波長域380nm~780nmの光を言う。
前記防水性樹脂としては、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、エチレン共重合体ビチューメン(ECB)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が挙げられ、好ましくはEVAである。
前記防水性シートにおける防水性樹脂の含有量は、好ましくは94重量%以上である。
前記防水性シートの内周側層における防水性樹脂の含有量は、好ましくは94重量%~98重量%程度、より好ましくは96重量%程度である。
これによって、防水シートの本来の役目である防水機能を確保できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、施工中のトンネル坑内を、照明光量が少なくても、ないしは照明光を増やすことなく、明るくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る防水シートを含むトンネルの施工の様子を解説的に示す側面断面図である。
【
図2】
図2は、前記防水シートの拡大断面図である。
【
図3】
図3は、前記防水シートの製造装置の解説図である。
【
図4】
図4は、実施例1の結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、比較例1の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
図1は、NATM工法によって施工中の山岳トンネル1を示したものである。トンネル1の周壁2は、支保工(図示省略)及び吹付コンクリート3aを含む一次覆工3と、鉄筋コンクリートからなる二次覆工4とを含む。
なお、図示は省略するが、トンネル1の周りの地山にはロックボルトが打ち込まれている。
【0012】
一次覆工3と二次覆工4との間には、防水シート10が設けられている。
防水シート10は、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)からなる防水性樹脂を主成分として含み、防水性(不透水性)を有している。主成分のEVAの含有量は、好ましくは94重量%以上である。
なお、図示は省略するが、防水シート10における外周側面11aには、不織布等の透水性シートが積層されていることが好ましい。
【0013】
図2に示すように、防水シート10は、外周側層11と、内周側層12との積層構造になっている。外周側層11の外周側面11aが一次覆工3に面し、内周側層12の内周側面12aが二次覆工4に面している。外周側層11と内周側層12とが、互いの界面において一体に接合ないしは連続している。各層11,12の厚さは、好ましくは0.3mm~0.5mm程度、より好ましくは0.4mm程度である。防水シート10の総厚みは、0.6mm~1.0mm程度、より好ましくは0.8mm程度である。
なお、ウォータータイト(非排水型)などの全周防水用の防水シートの場合、好ましくは各層11,12の厚さが1mm程度、総厚が2.0mm程度である。
【0014】
外周側層11は、主成分のEVAに加えて、黒色マスターバッチを含み、黒色になっている。外周側面11aは、くすんだケシ面となっている。外周側層11の各成分の含有量は、外周側層11全体に対して、好ましくはEVA94重量%~98重量%、黒色マスターバッチ2重量%~6重量%である。より好ましくは、EVA96重量%程度、黒色マスターバッチ4重量%程度である。外周側層11が微量の不可避的不純物を含んでいてもよい。
【0015】
内周側層12は、主成分のEVAに加えて、白色マスターバッチを含み、白色になっている。内周側面12aは、光沢のある白色のツヤ面となっている。内周側層12の各成分の含有量は、内周側層12全体に対して、好ましくはEVA94重量%~98重量%、白色マスターバッチ2重量%~6重量%である。より好ましくは、EVA96重量%程度、白色マスターバッチ4重量%程度である。
内周側層12が微量の不可避的不純物を含んでいてもよい。
【0016】
前記白色マスターバッチは、酸化チタン(TiO2)を含む。白色マスターバッチの酸化チタン含有量は、白色マスターバッチ全体に対して、好ましくは60重量%~80重量%であり、より好ましくは70%程度である。かかる内周側層12の組成及び配合によって、内周側面12aにおける可視光(波長域380nm~780nm)の反射率を80%~95%とすることができ、少なくとも80%~92%とすることができる。
【0017】
図3に示すように、防水シート10は、シート製造装置20によって作製される。シート製造装置20は、第1押出部21と、第2押出部22を備えている。第1押出部21は、混合部21aと、混錬溶融部21bと、Tダイ21cを含む。
混合部21aに外周側層11の材料(EVA+黒色マスターバッチ)が所定の配合比で投入されて混合される。
混錬溶融部21bにおいて、前記外周側層11の材料が更に混錬されるとともに、加熱溶融される。
溶融された外周側層11の材料(黒色)が、Tダイ21cから膜状(シート状)に押し出され、第1調整ロール23によって所定の厚さ(より好ましくは0.4mm)に調整されるとともに外周側面11aとなる面にはケシが形成される。これによって、外周側層11が形成される。
【0018】
第2押出部22は、混合部22aと、混錬溶融部22bと、Tダイ22cを含む。
混合部22aに内周側層12の材料(EVA+酸化チタン入り白色マスターバッチ)が所定の配合比で投入されて混合される。
混錬溶融部22bにおいて、前記内周側層12の材料が更に混錬されるとともに、加熱溶融される。
溶融された内周側層12の材料(白色)が、Tダイ22cから膜状(シート状)に押し出され、第2調整ロール24によって所定の厚さ(より好ましくは0.4mm)に調整される。これによって内周側層12が形成されるとともに、該内周側層12が前記外周側層11とラミネートされ、更に内周側面12aがツヤ出しされる。
外周側層11と内周側層12とのラミネートによって防水シート10が作製される。該防水シート10が、複数段の冷却ロール25を経て冷却された後、巻取りリール26に巻き取られる。
【0019】
図1に示すように、前記防水シート10がトンネル1の施工現場に搬入される。
トンネル1の切羽1bの近くでは一次覆工3が施工されている。該一次覆工3の施工場所1cの後方(
図1において右側)には、シート貼り台車5(簡略的に図示)が設置されている。該シート貼り台車5を用いて、一次覆工3の内周面に沿って防水シート10が張設される。
【0020】
トンネル1内における、前記防水シート10の張設施工場所1dの後方(
図1において右側)には、簡略的に図示するセントル6(二次覆工型枠台車)が設置されている。該セントル6を用いて、二次覆工4の構築施工が行われている。
【0021】
トンネル1における防水シート施工場所1dと二次覆工施工場所1fとの間には、防水シート10の張設が済んで二次覆工4の施工待ちの区間1eが設けられている。該二次覆工施工待ち区間1eの長さは、例えば10メートル~200メートル程度である。
【0022】
図1に示すように、二次覆工施工待ち区間1eにおいては、防水シート10が露出されている。したがって、二次覆工施工待ち区間1eのトンネル内周面は、防水シート10の内周側面12aによって構成されている。内周側面12aは、ツヤのある白色であり、可視光に対する反射率が高い。詳しくは、内周側面12aは、可視域のほぼ全波長の光に対して一様に80%~95%程度の高反射率を有している(
図4参照)。このため、トンネル坑内の照明光を防水シート10の内周側面12aにおいて十分に反射させることができる。したがって、照明光量が少なくても、ないしは照明光を増やすことなく、二次覆工施工待ち区間1eをある程度、明るくすることができ、トンネル現場環境基準(70ルクス以上)の作業照度の確保に貢献できる。
また、トンネル内の浮遊塵埃が防水シート10の内周側面12aに付着したとしても、内周側層12中の酸化チタンによる光分解作用によって内周側面12aのきれいさを保つことができ、高反射率を維持することができる。
通常のトンネル施工に用いる防水シート10に照度向上機能を付与したものであり、照明光源その他の特別な照度向上手段を増設又は新設する必要は無く、通常通りのトンネル施工を行えばよいから、施工コストを抑えることができる。
【0023】
本発明は、前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変をなすことができる。
例えば、防水シート10の主成分の防水性樹脂としては、EVAに限らず、ポリ塩化ビニル(PVC)やエチレン共重合体ビチューメン(ECB)であってもよく、PP、PEなどのポリオレフィン系樹脂であってもよい。
防水シート10が、白色層12の一層だけで構成されていてもよく、黒色層11が省略されていてもよい。
防水シート10の外周側層が、黒色マスターバッチ入りの黒色層11に代えて、EVAなどの防水性樹脂の含有量が実質100%の防水性樹脂層であってもよい。
防水シート10の製造方法は、前記実施形態に記載のものに限定されない。例えば、ウォータータイト(非排水型)などの全周防水用の防水シートの場合、一次加工で0.5mm程度の厚さの黒色層11と0.5mm程度の厚さの白色層12とをラミネートし、続いて二次加工で黒色層11を厚さ0.5mm程度上乗せするとともに、白色層12を厚さ0.5mm程度上乗せすることによって、総厚2mm程度としてもよい。
【実施例1】
【0024】
実施例を説明する。本発明が以下の実施例に限定されるものではない。
防水シート10の試験片を用意した。
試験片は、黒色の外周側層11と白色の内周側層12を積層したものであり、外周側面11aに不織布層が積層されていた。
試験片の寸法は、50mm×50mmであり、厚さは外周側層11が0.4mm、内周側層12が0.4mm、総厚0.8mmであった。
内周側層12の組成は以下の通りであった。
EVA 96重量%
白色マスターバッチ 4重量%(内、70重量%が酸化チタン)
【0025】
前記試験片に対して以下の可視光反射率試験を行った。
JIS R3106の4.分光透過率及び分光反射率の測定に準じ、分光光度計を用いて、試験片の内周側面12aに試験光を照射して、波長範囲380nm~780nmの分光反射率を測定した。
分光光度計として、株式会社島津製作所製、紫外・可視・近赤外分光光度計、型式UV-3150を用いた。
測定結果を
図4に示す。
また、JIS R3106の5.可視光透過率及び可視光反射率の算定に準じて、可視光反射率を求めたところ、89.9%であった。
【0026】
[比較例1]
比較例として、マスターバッチを含まず、EVA100%の防水シートからなる比較試験片を用意した。
比較試験片自体は透明であり、外周側面に積層された白色の不織布層が透かして見えた。
比較試験片の寸法は50mm×50mm×0.8mmであった。
前記比較試験片に対して、実施例1と同じ可視光反射率試験を行った。
測定結果を
図5に示す。
可視光反射率は65.0%であった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、山岳トンネルの防水シートに適用可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 トンネル
2 周壁
1d 防水シート張設施工場所
1e 二次覆工施工待ち区間
1f 二次覆工施工場所
3 一次覆工
4 二次覆工4
10 防水シート
12 内周側層
12a 内周側面