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特許7169869全芳香族ポリエステルアミド、ポリエステルアミド樹脂組成物、及びポリエステルアミド成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】全芳香族ポリエステルアミド、ポリエステルアミド樹脂組成物、及びポリエステルアミド成形品
(51)【国際特許分類】
   C08G 69/44 20060101AFI20221104BHJP
   C08L 77/12 20060101ALI20221104BHJP
   D01F 6/82 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
C08G69/44
C08L77/12
D01F6/82
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018237508
(22)【出願日】2018-12-19
(65)【公開番号】P2020097712
(43)【公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】池田 聡
(72)【発明者】
【氏名】多田 智之
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-339462(JP,A)
【文献】特開2003-128782(JP,A)
【文献】国際公開第2005/116141(WO,A1)
【文献】特開2006-8964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 69/44
C08L 77/12
D01F 6/82
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)、(II)及び(III)で表される構成単位を含み、全構成単位に対して一般式(I)で表される構成単位が40~70モル%、一般式(II)及び一般式(III)で表される構成単位の合計が30~60モル%であり、一般式(I)、(II)、及び(III)で表される構成単位の合計が100モル%であり、一般式(III)で表される構成単位に対する一般式(II)で表される構成単位の比率が0.5~2である全芳香族ポリエステルアミド。
【化1】
【請求項2】
引張弾性率が40cN/dtex以上である請求項1に記載の全芳香族ポリエステルアミド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の全芳香族ポリエステルアミドを含むポリエステルアミド樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の全芳香族ポリエステルアミド、又は請求項3に記載のポリエステルアミド樹脂組成物から形成されるポリエステルアミド成形品。
【請求項5】
成形品が、繊維である請求項4に記載のポリエステルアミド成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全芳香族ポリエステルアミド、当該全芳香族ポリエステルアミドを含む樹脂組成物及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶性ポリマーは、優れた流動性、機械強度、耐熱性、耐薬品性、電気的性質等をバランス良く有するため、高機能エンジニアリングプラスチックスとして広く利用されている。液晶性ポリマーとしては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、及び必要に応じて他のモノマー成分を共重合して得られる全芳香族ポリエステルが知られている。他には、全芳香族ポリエステルにアミノ基を導入した全芳香族ポリエステルアミドが知られている。全芳香族ポリエステルアミドは、ポリマー鎖間において水素結合が形成されるため、全芳香族ポリエステルと比較して、機械的強度、耐熱性、成形性、弾性率などの性能が優れる傾向にある。
【0003】
全芳香族ポリエステルアミドのうち、原料モノマーとして特定の3種を用いたものとしては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、及び3-アミノ安息香酸を共重合させて得られるものが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-339462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に代表される全芳香族ポリエステルアミドにおいて、上述した特定の3種を組み合わせて共重合させた全芳香族ポリエステルアミドを使用した場合、引張弾性率が十分でない。
【0006】
アミノ基を含むモノマー(たとえば、3-アミノ安息香酸又は4-アミノ安息香酸など)の量を増加させることでアミド結合の割合を大きくし、アミド結合の水素原子によって形成される水素結合の割合を大きくすることで引張弾性率を向上させる方法がある。
【0007】
しかし、アミノ基を含むモノマーの量が増加するとポリマーが固まって排出することが困難になる場合があるため、結合力が強い水素結合の割合を容易に大きくできない問題点がある。
【0008】
本発明は、上記従来の問題点に鑑み、なされたものであり、高い引張弾性率を有する全芳香族ポリエステルアミドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、アミノ基を含むモノマーを複数種使用し、アミド結合の割合を増加させることで結合力が強い水素結合の割合が増加し、剛直なポリマーを得ることができ、上記目的の達成のために有効であることを見出した。
【0010】
上記目的を達成する本発明の一態様は、以下のとおりである。
【0011】
(1)下記一般式(I)、(II)及び(III)で表される構成単位を含み、全構成単位に対して一般式(I)で表される構成単位が40~70モル%、一般式(II)及び一般式(III)で表される構成単位の合計が30~60モル%であり、一般式(I)、(II)、及び(III)で表される構成単位の合計が100モル%であり、一般式(III)で表される構成単位に対する一般式(II)で表される構成単位の比率が0.5~2である全芳香族ポリエステルアミド。
【0012】
【化1】
【0013】
(2)引張弾性率が40cN/dtex以上である、前記(1)に記載の全芳香族ポリエステルアミド。
【0014】
(3)前記(1)又は(2)に記載の全芳香族ポリエステルアミドを含有するポリエステルアミド樹脂組成物。
【0015】
(4)前記(1)又は(2)に記載の全芳香族ポリエステルアミド、又は前記(3)に記載のポリエステルアミド樹脂組成物から形成されるポリエステルアミド成形品。
【0016】
(5)成形品が、繊維である前記(4)に記載のポリエステルアミド成形品。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高い弾性率を有する全芳香族ポリエステルアミドを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<全芳香族ポリエステルアミド>
以下に本実施形態の一態様を構成する全芳香族ポリエステルアミドを形成するために必要な原料について説明する。
【0019】
本実施形態の一態様において使用する原料の一つは、下記一般式(I)で表される構成単位を含む。また、本実施形態の一態様において使用する原料の他の一つは、下記一般式(II)で表される構成単位を含む。さらに、本実施形態の一態様において使用する原料の他の一つは、下記一般式(III)で表される構成単位を含む。
【0020】
【化2】
【0021】
一般式(I)で表される構成単位の由来となるモノマーは、たとえば、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(以下、「HNA」ともいう。)等がある。
【0022】
一般式(II)で表される構成単位の由来となるモノマーは、たとえば、4-アミノ安息香酸(以下、「pABA」ともいう。)又は4-アセトアミド安息香酸(以下、「pAABA」ともいう。)等がある。
なお、pABAを用いるよりもpAABAを用いた方が反応が穏やかになるため、後述の実施例ではpAABAを用いている。
【0023】
一般式(III)で表される構成単位の由来となるモノマーは、たとえば、3-アミノ安息香酸(以下、「mABA」ともいう。)又は3-アセトアミド安息香酸で(以下、「mAABA」ともいう。)等がある。
なお、mABAを用いるよりもmAABAを用いた方が反応が穏やかになるため、後述の実施例ではmAABAを用いている。
【0024】
一般式(I)、(II)、及び(III)で表される構成単位を含む原料を重縮合させて得られる本実施形態の一態様の全芳香族ポリエステルアミドにおいて、各構成単位の重合比率は、本実施形態の一態様の目的である、優れた引張弾性率を発現するために重要である。
【0025】
具体的には、全構成単位に対して一般式(I)で表される構成単位が40~70モル%であり、一般式(II)及び一般式(III)で表される構成単位の合計が30~60モル%であり、一般式(I)、(II)、及び(III)で表される構成単位の合計が100モル%であり、一般式(III)で表される構成単位に対する一般式(II)で表される構成単位の比率が0.5~2である。なお、本実施形態の一態様の全芳香族ポリエステルアミドの引張弾性率は、好ましくは40cN/dtex以上、より好ましくは45cN/dtex以上、更に好ましくは50cN/dtex以上である。
【0026】
本実施形態の全芳香族ポリエステルアミドは、全構成単位に対して一般式(I)で表される構成単位を40~70モル%含む。一般式(I)で表される構成単位の含有量が上記範囲内であると重合時の増粘による急激なトルク上昇が起こりにくく、安定した重合ができるため好ましい。一般式(I)で表される構成単位の含有量は、好ましくは45~70モル%、より好ましくは45~65モル%、更に好ましくは50~65モル%、特に好ましくは50~60モル%である。
【0027】
本実施形態においては、一般式(II)及び一般式(III)で表される構成単位の合計の含有量が30~60モル%含む。当該合計の含有量が上記範囲内であると水素結合が適度に形成されるため、製造性を確保しつつ、高い引張弾性率を有する全芳香族ポリエステルアミドを得ることができる。当該合計の含有量は、好ましくは30~55モル%、より好ましくは35~55モル%、更に好ましくは35~50モル%、特に好ましくは40~50モル%である。
【0028】
一般式(II)で表される構成単位を含む原料及び一般式(III)で表される構成単位を含む原料を用いて全芳香族ポリエステルアミドの全構成単位に対してアミノ基を含む構成単位を増加させることが好ましい。上記のようにアミノ基を含む構成単位を含む原料を2種用いることで分子凝集力が低下し、これに伴って軟化点降下が生じ、アミノ基を含む構成単位を含む原料を1種のみ同じ量用いた場合と比較して原料の増粘を抑制することができる。このため、ポリマーが固まって排出できず、全芳香族ポリエステルアミドが製造できなくなることを抑制することができる。
【0029】
本実施形態においては、一般式(III)で表される構成単位に対する一般式(II)で表される構成単位の比率が0.5~2である。当該比率が上記範囲内であると原料の増粘が抑制されるため、全芳香族ポリエステルアミドを得ることができる。当該比率は、好ましくは0.5~1.5であり、より好ましくは0.75~1.5である。
【0030】
なお、一般式(I)、(II)、及び(III)で表される構成単位のみの3成分で重縮合することが好ましい。上記3成分のみで重縮合すると原料の均一性が保たれて融点の低下を抑制することができる。
【0031】
以上のとおり、各構成単位の重合比率を上述した範囲にすることで高い引張弾性率を有する全芳香族ポリエステルアミドを製造することができる。
【0032】
次いで、全芳香族ポリエステルアミドの性質について説明する。本実施形態の全芳香族ポリエステルアミドは、溶融時に光学的異方性を示す。溶融時に光学的異方性を示すことは、本実施形態の全芳香族ポリエステルアミドが液晶性ポリマーであることを意味する。
【0033】
本実施形態において、全芳香族ポリエステルアミドが液晶性ポリマーであることは、全芳香族ポリエステルアミドが熱安定性と易加工性を併せ持つ上で不可欠な要素である。上記一般式(I)、(II)、及び(III)で表される構成単位から構成される全芳香族ポリエステルアミドは、構成成分及びポリマー中のシーケンス分布によっては、異方性溶融相を形成しないものも存在するが、本実施形態のポリマーは溶融時に光学的異方性を示す全芳香族ポリエステルアミドに限られる。
【0034】
溶融異方性の性質は直交偏光子を利用した慣用の偏光検査方法により確認することができる。より具体的には溶融異方性の確認は、オリンパス社製偏光顕微鏡を使用しリンカム社製ホットステージにのせた試料を溶融し、窒素雰囲気下で150倍の倍率で観察することにより実施できる。液晶性ポリマーは光学的に異方性であり、直交偏光子間に挿入したとき光を透過させる。試料が光学的に異方性であると、例えば溶融静止液状態であっても偏光は透過する。
【0035】
ネマチックな液晶性ポリマーは融点以上で著しく粘性低下を生じるので、一般的に融点又はそれ以上の温度で液晶性を示すことが加工性の指標となる。融点は、でき得る限り高い方が耐熱性の観点からは好ましいが、ポリマーの溶融加工時の熱劣化や成形機の加熱能力等を考慮すると、380℃以下であることが好ましい目安となる。なお、融点は好ましくは260~370℃であり、より好ましくは270~370℃であり、更に好ましくは280~370℃である。
【0036】
次いで、本実施形態の全芳香族ポリエステルアミドの製造方法について説明する。本実施形態の全芳香族ポリエステルアミドは、直接重合法やエステル交換法等を用いて重合される。重合に際しては、溶融重合法、溶液重合法、スラリー重合法、固相重合法等、又はこれらの2種以上の組み合わせが用いられ、溶融重合法、又は溶融重合法と固相重合法との組み合わせが好ましく用いられる。
【0037】
本実施形態では、重合に際し、重合モノマーに対するアシル化剤や、酸塩化物誘導体として末端を活性化したモノマーを使用できる。アシル化剤としては、無水酢酸等の脂肪酸無水物等が挙げられる。
【0038】
これらの重合に際しては種々の触媒の使用が可能であり、代表的なものとしては、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、トリス(2,4-ペンタンジオナト)コバルト(III)等の金属塩系触媒、N-メチルイミダゾール、4-ジメチルアミノピリジン等の有機化合物系触媒を挙げることができる。触媒の使用量は一般にはモノマーの全質量に基づいて約0.001~1質量%、特に約0.003~0.2質量%が好ましい。
【0039】
[ポリエステルアミド樹脂組成物]
本実施形態の全芳香族ポリエステルアミドには、使用目的に応じて各種の繊維状、粉粒状、板状の無機及び有機の充填剤を配合してポリエステルアミド樹脂組成物とすることができる。
【0040】
本実施形態のポリエステルアミド樹脂組成物に配合される無機充填剤としては、繊維状、粒状、板状のものが挙げられる。
【0041】
繊維状無機充填剤としてはガラス繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維、ウォラストナイトの如き珪酸塩の繊維、硫酸マグネシウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、更にステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物等の無機質繊維状物質が挙げられる。特に代表的な繊維状充填剤はガラス繊維である。
【0042】
また、粉粒状無機充填剤としてはカーボンブラック、黒鉛、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ミルドガラスファイバー、ガラスバルーン、ガラス粉、硅酸カルシウム、硅酸アルミニウム、カオリン、クレー、硅藻土、ウォラストナイトの如き硅酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、アルミナの如き金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムの如き金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムの如き金属の硫酸塩、その他フェライト、炭化硅素、窒化硅素、窒化硼素、各種金属粉末等が挙げられる。
【0043】
また、板状無機充填剤としてはマイカ、ガラスフレーク、タルク、各種の金属箔等が挙げられる。
【0044】
本実施形態のポリエステルアミド樹脂組成物に配合される、有機充填剤の例を示せば、芳香族ポリエステル繊維、液晶性ポリマー繊維、芳香族ポリアミド、ポリイミド繊維等の耐熱性高強度合成繊維等である。
【0045】
これらの無機及び有機充填剤は一種又は二種以上を併用することができる。繊維状無機充填剤と粒状又は板状無機充填剤との併用は、機械的強度と寸法精度、電気的性質等を兼備する上で好ましい組み合わせである。特に好ましくは、繊維状充填剤としてガラス繊維、板状充填剤としてマイカ及びタルクであり、その配合量は、全芳香族ポリエステルアミド100質量部に対して120質量部以下、好ましくは20~80質量部である。ガラス繊維をマイカ又はタルクと組み合わせることで、ポリエステルアミド樹脂組成物は、熱変形温度、機械的物性等の向上が特に顕著である。
【0046】
これらの充填剤の使用にあたっては必要ならば収束剤又は表面処理剤を使用することができる。
【0047】
本実施形態のポリエステルアミド樹脂組成物は、上述の通り、必須成分として、本実施形態の全芳香族ポリエステルアミド、及び必要に応じて無機又は有機充填剤を含むが、本実施形態の効果を害さない範囲であれば、その他の成分が含まれていてもよい。ここで、その他の成分とは、どのような成分であってもよく、例えば、その他の樹脂、酸化防止剤、安定剤、顔料、結晶核剤等の添加剤を挙げることができる。
【0048】
また、本実施形態のポリエステルアミド樹脂組成物の製造方法は特に限定されず、従来公知の方法で、ポリエステルアミド樹脂組成物を調製することができる。
【0049】
[ポリエステルアミド成形品]
本実施形態のポリエステルアミド成形品は、本実施形態の全芳香族ポリエステルアミド又はポリエステルアミド樹脂組成物を成形してなる。成形方法としては、特に限定されず一般的な成形方法を採用することができる。一般的な成形方法としては、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形、発泡成形、回転成形、ガスインジェクション成形、インフレーション成形等の方法を例示することができる。
【0050】
本実施形態のポリエステルアミド成形品は、上述の本実施形態の全芳香族ポリエステルアミド又はポリエステルアミド樹脂組成物を成形してなるため高い引張弾性率を有する。
【0051】
また、本実施形態の全芳香族ポリエステルアミド、ポリエステルアミド樹脂組成物は、成形性に優れるため、種々の立体成形品、繊維、フィルム等に加工できる。
【0052】
以上のような性質を有する本実施形態のポリエステルアミド成形品の好ましい用途としては、コネクター、CPUソケット、リレースイッチ部品、ボビン、アクチュエータ、ノイズ低減フィルターケース、電子回路基板又はOA機器の加熱定着ロール、ロープ、コード、防護衣等が挙げられる。
【実施例
【0053】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
下記に記載の方法で全芳香族ポリエステルアミドを作製した。
【0055】
(実施例1)
撹拌機、還流カラム、モノマー投入口、窒素導入口、減圧/流出ラインを備えた重合容器に、以下の原料モノマー、脂肪酸金属塩触媒、アシル化剤を仕込み、窒素置換を開始した。なお、下記(I)~(III)はそれぞれ、一般式(I)~(III)の構成単位の由来となるモノマーである。
(原料)
(I)6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(HNA):97.6g(50モル%)
(II)4-アセトアミド安息香酸(pAABA):46.5g(25モル%)
(III)3-アセトアミド安息香酸(mAABA):46.5g(25モル%)
酢酸カリウム(脂肪酸金属塩触媒):11mg
無水酢酸(アシル化剤):54g(HNAの水酸基当量の1.02倍)
原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた。その後、更に330℃まで3.3時間かけて昇温し、そこから15分かけて10Torr(即ち1330Pa)まで減圧して、酢酸、過剰の無水酢酸、その他の低沸分を留出させながら重縮合を行った。
【0056】
<評価>
上述の重縮合において、撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーが排出するかを評価した。評価結果を表1に示す。また、排出する場合はペレタイズして樹脂ペレットを得た。
【0057】
[引張弾性率]
得られた樹脂ペレットを、メルトテンション測定装置を備えたキャピログラフ(CHAPILOGRAPH 1D、(株)東洋精機製)を用いて、300℃で延伸し、45倍延伸の繊維を得た。得られた繊維を引張試験機(TENSILON RTM-100、(株)オリエンテック製)にて引張試験を行い、引張弾性率を算出した。評価結果を表1に示す。
【0058】
(実施例2、3、比較例1~5、7~9)
原料モノマーの種類、仕込み比率(モル%)を表1に示す通りとした以外は、実施例1と同様にして重縮合を行った。そして、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0059】
(比較例6)
撹拌機、還流カラム、モノマー投入口、窒素導入口、減圧/流出ラインを備えた重合容器に、以下の原料モノマー、脂肪酸金属塩触媒、アシル化剤を仕込み、窒素置換を開始した。
(原料)
(I)6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(HNA):113.1g(60モル%)
4-ヒドロキシ安息香酸(pHBA):35.9g(20モル%)
3-ヒドロキシ安息香酸(mHBA):35.9g(20モル%)
酢酸カリウム(脂肪酸金属塩触媒):11mg
無水酢酸(アシル化剤):63g(HNA、pHBA、mHBAの合計の水酸基当量の1.02倍)
原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた。その後、更に350℃まで3.7時間かけて昇温し、そこから15分かけて10Torr(即ち1330Pa)まで減圧して、酢酸、過剰の無水酢酸、その他の低沸分を留出させながら重縮合を行った。そして、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0060】
(比較例10)
撹拌機、還流カラム、モノマー投入口、窒素導入口、減圧/流出ラインを備えた重合容器に、以下の原料モノマー、脂肪酸金属塩触媒、アシル化剤を仕込み、窒素置換を開始した。
(原料)
(I)6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(HNA):53.4g(25モル%)
(II)4-アセトアミド安息香酸(pAABA):101.7g(50モル%)
4-ヒドロキシ安息香酸(pHBA):39.2g(25モル%)
酢酸カリウム(脂肪酸金属塩触媒):11mg
無水酢酸(アシル化剤):59g(HNA、pHBAの合計の水酸基当量の1.02倍)
原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた。その後、更に350℃まで43.7時間かけて昇温し、そこから15分かけて10Torr(即ち1330Pa)まで減圧して、酢酸、過剰の無水酢酸、その他の低沸分を留出させながら重縮合を行った。そして、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
なお、表中の「排出性」とは重合容器からポリマーが排出するか否かを○(排出可)又は×(排出不可)で表す。
【0063】
表1より、実施例1、2、3及び比較例6はいずれもポリマーが排出するが、他の比較例はいずれもポリマーが固まってしまい、排出しないことが分かる。また、pAABA及びmAABAを含む原料モノマーを仕込んだ実施例1、2及び3は、ポリマーの引張弾性率が大きく、優れた引張弾性率を有することが分かる。また、比較例6は、原料モノマーがアミノ基を含まないため、水素結合による引張弾性率の向上は確認できなかったと考えられる。
【0064】
アミド量の割合が大きくなるほど引張弾性率は大きくなる傾向がある。また、アミド量には適切な範囲があり、当該範囲でないとポリマーを製造することができないことが分かる。