(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】皮膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20221104BHJP
C08K 5/54 20060101ALI20221104BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20221104BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20221104BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20221104BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
B32B27/00 101
C08K5/54
B32B27/00 B
B05D7/24 302Y
B05D3/00 D
B05D1/36 B
C08L83/04
(21)【出願番号】P 2019081434
(22)【出願日】2019-04-23
【審査請求日】2021-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 彩香
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼田 真芳
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-201010(JP,A)
【文献】国際公開第2017/115679(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08L 83/04
C08K 5/54
B05D 7/24
B05D 3/00
B05D 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
最表面の層(M)及び該層(M)に接する層(K1)を少なくとも有する皮膜であって、前記層(M)の密度が0.7g/cm
3以上、1.0g/cm
3未満であり、前記層(K1)の密度が1.0g/cm
3以上、2.2g/cm
3未満である皮膜
であって、
前記皮膜が、更に層(K2)を有していてもよく、
前記層(K2)は、前記層(K1)の前記層(M)と反対側に接しており、
前記層(K2)の密度は、1.1g/cm
3
以下であり、且つ前記層(K1)の密度よりも小さく、
ポリシラザン(F)と、下記式(h-I)で表されるシロキサン鎖を含む化合物(H)の混合組成物から前記層(K1)のみ、又は層(K1)と層(K2)が形成される皮膜。
【化1】
[式(h-I)中、A
h10
はCH
3
O-であり、Z
h10
は-O-であり、R
h20
はCH
3
-であり、h10は1~60であり、Y
h10
は単結合であり、R
h10
は(CH
3
)
3
SiO-である。]
【請求項2】
前記層(M)が、ポリジメチルシロキサン骨格を有する請求項1に記載の皮膜。
【請求項3】
前記層(M)が、トリアルキルシリル基を有する請求項1又は2に記載の皮膜。
【請求項4】
ポリジメチルシロキサン骨格を有する皮膜であって、塩水の代わりに純水を用いたこと以外はJIS Z2371に従った流水試験を行った後の皮膜表面に存在するシラノール基が皮膜最表面の元素に対して5mol%以下である請求項2
または3に記載の皮膜。
【請求項5】
前記層(M)と前記層(K1)の合計厚みが5nm以上、100nm以下である請求項1~
4のいずれかに記載の皮膜。
【請求項6】
基材(S)の上に、請求項1~
5のいずれかに記載の皮膜が形成された積層体。
【請求項7】
基材(S)の上に、密度が1.0g/cm
3以上、2.2g/cm
3未満である層(K1)が形成され、該層(K1)に接して密度が0.7g/cm
3以上、1.0g/cm
3未満である層(M)が最表面に形成されている積層体の製造方法であって、
前記積層体が、更に層(K2)を有していてもよく、
前記層(K2)は、前記層(K1)の前記層(M)と反対側に接しており、
前記層(K2)の密度は、1.1g/cm
3
以下であり、且つ前記層(K1)の密度よりも小さく、
前記基材(S)の上に、ポリシラザン(F)
と、下記式(h-I)で表されるシロキサン鎖を含む化合物(H)の混合組成物(q)を塗布し、該混合組成物(q)の硬化前又は硬化中に、
前記混合組成物(q)の塗布面に、トリアルキルシリル基を少なくとも1つと、加水分解性ケイ素基を1つ以上有する有機ケイ素化合物(A)と、少なくとも1つの加水分解性基がケイ素原子に結合している有機ケイ素化合物(B)と、水(C)の混合組成物(p)を塗布し、
前記混合組成物(q)と前記混合組成物(p)を硬化させ、前記混合組成物(p)の塗布層から前記層(M)と層(K1)を形成
し、混合組成物(q)から前記層(K1)のみ、又は層(K1)と層(K2)を形成することを特徴とする積層体の製造方法。
【化2】
[式(h-I)中、A
h10
はCH
3
O-であり、Z
h10
は-O-であり、R
h20
はCH
3
-であり、h10は1~60であり、Y
h10
は単結合であり、R
h10
は(CH
3
)
3
SiO-である。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膜及びその製造方法に関し、より詳細には、密度の異なる複数の層を有する皮膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の表示装置、光学素子、半導体素子、建築材料、自動車部品、ナノインプリント技術等において、基材の表面に液滴(特に、水滴)が付着すると、基材が汚れたり、腐食したり、さらにこの汚れや腐食に由来する性能低下等の問題が生じることがある。そのためこれらの分野においては、基材表面の撥水・撥油性が良好であることが求められている。
【0003】
基材表面の撥水・撥油性を高められる皮膜を形成するための組成物として、有機ケイ素化合物が混合された組成物が知られている。
【0004】
特許文献1には、少なくとも1つのトリアルキルシリル基含有分子鎖と、少なくとも1つの加水分解性基とがケイ素原子に結合している有機ケイ素化合物、及び加水分解性基が金属原子に結合している金属化合物が混合されたコーティング組成物が開示されている。この文献には、該コーティング組成物から得られる皮膜は、撥水・撥油性、耐光性、耐熱性などが良好であることが開示されている。
【0005】
特許文献2には、トリアルキルシリル基を少なくとも1つと、加水分解性ケイ素基を2つ以上有する有機ケイ素化合物、及び金属原子に加水分解性基が少なくとも1つ結合している金属化合物の混合組成物が開示されている。この文献には、該組成物を用いることによって、撥水性に加え、耐熱性及び耐光性が良好な皮膜を提供できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2016/068138号
【文献】特開2017-119849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、有機ケイ素化合物が混合された組成物を用いて得られる皮膜は、摩擦等を受けると破壊されることがあり、液滴が付着しやすくなったり、付着した液滴が除去されにくくなる場合があった。しかし、特許文献1及び2では、皮膜の耐摩耗性について検討されていなかった。
【0008】
本発明は、上記の様な事情に着目してなされたものであって、撥水・撥油性に優れ、さらに耐摩耗性にも優れた皮膜、並びに基材の上に該皮膜が形成された積層体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]最表面の層(M)及び該層(M)に接する層(K1)を少なくとも有する皮膜であって、前記層(M)の密度が0.7g/cm3以上、1.0g/cm3未満であり、前記層(K1)の密度が1.0g/cm3以上、2.2g/cm3未満である皮膜。
[2]前記層(M)が、ポリジメチルシロキサン骨格を有する[1]に記載の皮膜。
[3]前記層(M)が、トリアルキルシリル基を有する[1]又は[2]に記載の皮膜。
[4]前記皮膜が、更に層(K2)を有し、
前記層(K2)は、前記層(K1)の前記層(M)と反対側に接しており、
前記層(K2)の密度は、1.1g/cm3以下であり、且つ前記層(K1)の密度よりも小さい[1]~[3]のいずれかに記載の皮膜。
[5]ポリジメチルシロキサン骨格を有する皮膜であって、塩水の代わりに純水を用いたこと以外はJIS Z2371に従った流水試験を行った後の皮膜表面に存在するシラノール基が皮膜最表面の元素に対して5mol%以下である[2]~[4]のいずれかに記載の皮膜。
[6]前記層(M)と前記層(K1)の合計厚みが5nm以上、100nm以下である[1]~[5]のいずれかに記載の皮膜。
[7]基材(S)の上に、[1]~[6]のいずれかに記載の皮膜が形成された積層体。
[8]基材(S)の上に、密度が1.0g/cm3以上、2.2g/cm3未満である層(K1)が形成され、該層(K1)に接して密度が0.7g/cm3以上、1.0g/cm3未満である層(M)が最表面に形成されている積層体の製造方法であって、
前記基材(S)の上に、ポリシラザン(F)の混合組成物(q)を塗布し、該混合組成物(q)の硬化前又は硬化中に、
前記混合組成物(q)の塗布面に、トリアルキルシリル基を少なくとも1つと、加水分解性ケイ素基を1つ以上有する有機ケイ素化合物(A)と、少なくとも1つの加水分解性基がケイ素原子に結合している有機ケイ素化合物(B)と、水(C)の混合組成物(p)を塗布し、
前記混合組成物(q)と前記混合組成物(p)を硬化させ、前記混合組成物(p)の塗布層から前記層(M)と層(K1)を形成することを特徴とする積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の皮膜は、最表面の層に、密度が高い層が接しているため、耐摩耗性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の皮膜は、最表面の層(M)及び該層(M)に接する層(K1)を少なくとも有する皮膜であって、前記層(M)の密度が0.7g/cm3以上、1.0g/cm3未満であり、前記層(K1)の密度が1.0g/cm3以上、2.2g/cm3未満である。本発明の皮膜は、前記層(M)及び前記層(K1)を有する限り、前記層(K1)の前記層(M)とは反対側に、更に1以上の層を有していてもよい。
【0012】
層(M)
層(M)は、本発明の皮膜の最表面に位置する層であり、密度が0.7g/cm3以上、1.0g/cm3未満である。層(M)の密度は0.75g/cm3以上が好ましく、より好ましくは0.8g/cm3以上であり、また0.97g/cm3以下が好ましく、より好ましくは0.95g/cm3以下であり、更に好ましくは0.9g/cm3以下である。
【0013】
層(M)は、トリアルキルシリル基及び/又はシロキサン骨格(好ましくはポリジメチルシロキサン骨格)を有することが好ましく、少なくともポリジメチルシロキサン骨格を有することが好ましく、ポリジメチルシロキサン骨格及びトリアルキルシリル基の両方を有していることが更に好ましい。また層(M)は撥水性であることが好ましい。また、層(M)の厚みは、例えば1.5nm以上であり、好ましくは2.5nm以上であり、より好ましくは3nm以上であり、また例えば30nm以下であり、20nm以下が好ましく、より好ましくは10nm以下である。
【0014】
層(K1)
層(K1)は、上記層(M)に接しており、その密度が1.0g/cm3以上、2.2g/cm3未満である。このような密度の高い層(K1)が前記層(M)に接していることにより、皮膜の耐摩耗性が向上できる。層(K1)の密度は、1.05g/cm3以上が好ましく、より好ましくは1.2g/cm3以上であり、また2.0g/cm3以下が好ましく、より好ましくは1.8g/cm3以下である。
【0015】
層(K1)は、シロキサンを含むことが好ましく、SiO2を含むことがより好ましい。また、層(K1)の厚みは、例えば2nm以上であり、好ましくは5nm以上であり、より好ましくは10nm以上であり、また例えば80nm以下であり、好ましくは50nm以下であり、より好ましくは30nm以下である。
【0016】
層(M)と層(K1)の合計厚みは、5nm以上が好ましく、より好ましくは10nm以上であり、更に好ましくは20nm以上であり、また100nm以下が好ましく、より好ましくは80nm以下であり、更に好ましくは50nm以下である。
【0017】
本発明の皮膜は、前記層(K1)の前記層(M)とは反対側に接する層(K2)を更に有していてもよい。
【0018】
層(K2)
層(K2)の密度は、1.1g/cm3以下であり、且つ層(K1)の密度よりも小さい。層(K2)の密度は、1.05g/cm3以下が好ましく、より好ましくは1.0g/cm3以下である。層(K2)の密度の下限は、例えば0.7g/cm3である。層(K2)は、ポリシラザン由来の構造を含むことが好ましく、ポリシラザン由来の構造として、後述の構造単位(f1)由来の構造(構造単位(f1)が分解した構造など)を含むことが好ましい。また、層(K2)は、有機ポリシラザン由来の構造を含むことがより好ましく、有機ポリシラザン由来の構造としては、後述の構造単位(f2)由来の構造が挙げられ、より具体的には炭素数1~10の炭化水素基が結合したケイ素原子が挙げられ、炭素数1~10の炭化水素基が結合したケイ素原子と共に、窒素が結合したケイ素原子が含まれることが好ましい。前記炭素数1~10の炭化水素基は、無置換の炭素数1~10の飽和脂肪族炭化水素基であることが好ましく、無置換の炭素数1~6の直鎖状飽和脂肪族炭化水素基であることがより好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基であることが更に好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
【0019】
層(K2)の厚みは、例えば2nm以上であり、4nm以上であってもよく、5nm以上であってもよく、また例えば40nm以下であり、30nm以下であってもよく、25nm以下であってもよい。
【0020】
本発明の皮膜全体の厚みは、例えば10nm以上であり、好ましくは15nm以上であり、20nm以上がより好ましく、また例えば130nm以下であり、110nm以下が好ましく、90nm以下がより好ましい。
【0021】
本発明の皮膜は、ポリジメチルシロキサン骨格を有し、且つ塩水噴霧試験機で流水試験を行った後の皮膜表面に存在するシラノール基が皮膜最表面の元素に対して5mol%以下であることが好ましい。流水試験は、塩水の代わりに純水を用いたこと以外はJIS Z2371に従って行う。シロキサン骨格を有する皮膜は、水と接触することで解重合が進み、シラノール基を生じて膜が溶け出すことにより、撥水性、耐摩耗性等の性質が劣化することがあるが、本発明の皮膜は前記流水試験後もシラノール基量を少なくすることができ、流水試験後の撥水性、耐摩耗性の低下を抑制することができる。前記シラノール基の割合は3mol%以下が好ましく、より好ましくは1mol%以下であり、更に好ましくは0.80mol%以下であり、特に0.7mol%以下が好ましく、下限は特に限定されないが、例えば0.1mol%である。前記流水試験後、本発明の皮膜を後述の実施例の方法で評価した際の水の接触角は、例えば90°以上(通常105°以下)とすることができ、また滑落速度は5mm/秒以上(好ましくは10mm/秒以上、より好ましくは20mm/秒以上であり、通常50mm/秒以下)とすることができる。
【0022】
また、本発明の皮膜は、例えば後述の実施例に示した要領で測定した水の接触角が95°以上であることが好ましく、100°以上であることがより好ましく、102°以上であることがより好ましく通常115°以下である。本発明の皮膜は、液滴(特に水滴)の滑落性に優れることも好ましく、後述の実施例の要領で測定した水滴の滑落速度が10mm/秒以上であることが好ましく、20mm/秒以上であることがより好ましく、30mm/秒以上であることが更に好ましく、また通常90mm/秒以下である。更に、本発明の皮膜は、後述する実施例の測定法に従って決定される耐摩耗性が、好ましくは800回以上、より好ましくは1200回以上、さらに好ましくは1600回以上、特に好ましくは2000回以上であり、上限は通常4000回程度である。
【0023】
本発明には、上記した本発明の皮膜が、基材(S)の上に形成された積層体も含まれる。層(M)と層(K1)を少なくとも有する本発明の皮膜が基材(S)の上に形成された積層体では、基材(S)と層(K1)が接していてもよいし、基材(S)と層(K1)の間に層(K2)などの他の層が形成されていてもよい。
【0024】
基材(S)
基材(S)の形状は平面、曲面のいずれでもよいし、多数の面が組み合わさった三次元的構造でもよい。
【0025】
基材(S)の材質も限定されず、有機系材料、無機系材料のいずれで構成されていてもよい。上記有機系材料としては、例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン樹脂、アクリル-スチレン共重合樹脂、セルロース樹脂、ポリオレフィン樹脂等の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂;等が挙げられる。上記無機系材料としては、例えば、セラミックス;ガラス;鉄、シリコン、銅、亜鉛、アルミニウム等の金属;前記金属を含む合金;等が挙げられる。
【0026】
上記した層(M)、層(K1)及び層(K2)の密度及び厚みは、X線反射率法を用いて算出できる。このX線反射率法は密度の異なる層が接する界面で反射するX線の干渉振動を利用して測定するものである。
【0027】
このようなX線反射率測定(XRR)は、主に膜の各界面で反射したX線が干渉する現象を上記のように観測し、この測定結果を、シミュレーション演算データを用いてフィッティングすることによって、各層の密度、膜厚を解析することが可能となる。上記した層(M)、層(K1)及び層(K2)の密度は、フィッティング処理した値を意味し、フィッティング処理を行い皮膜が複数の層にフィッティングされた場合は、基材に最も近い層の密度が基材側の皮膜の密度となる。ここでフィッティングとは、X線測定した際に、検出されるX線スペクトルについて、スペクトル強度の理論計算値と実測強度との差を補正することである。
【0028】
最表面から数十nmの膜厚を有する層の密度は、全反射臨界角度から算出することが可能であり、それ以外の層の密度は、干渉縞の振幅の大きさから算出することができる。また各層の膜厚は振動の周期から算出することが可能である。
【0029】
フィッティング処理の手順を以下に具体的に説明する。まず、多層からなる皮膜試料の表面に対する臨界角近傍の角度からのX線入射により測定データを得る。データの測定点数をNpとし、ある測定箇所nでの入射X線の角度をα(n)としたとき、たとえばα(n)を0.05°~5°での反射X線強度を各々観測し、入射X線の強度で規格化することで、入射角度α(n)でのX線の反射率R{α(n)}を得る。R{α(n)}に対するα(n)の相関図をXRRプロファイルと呼ぶ。試料の基板や膜厚により、適切な条件で測定する必要があり、適切な条件とは具体的に、入射X線の角度α(n)の測定範囲や入射X線の発散角[°]である。
【0030】
α(n)において、測定開始の角度は入射X線が全反射する条件を満たす必要がある。一般的にX線が全反射する条件は元素種および密度から推算可能であり、ガラス基板やSi基板などでは全反射臨界角が0.23°と言われている。さらに測定終了角度はバックグラウンドと同程度の信号強度となる角度であるほうが好ましい。
【0031】
入射X線の発散角について、基板上の膜の膜厚が厚くなるほど、X線の干渉の周期[°]が短くなることが知られており、膜厚が厚いほど、入射X線の発散角[°]を小さくする必要がある。一般的に膜の厚みが100nm以上だと、発散角は、0.015°以下、300nm以上だと、発散角が0.003°以下とする必要があると言われている。発散角を0.015°以下にするためには、Ge(110)などの分光結晶で1回反射させるなどの方法がある。さらに発散角が0.003°以下にするためには、Ge(110)などの分光結晶で2回反射させるなどの方法がある。これらの分光結晶はX線を反射する際に入射強度が激減する。そのため、必要以上に分光結晶を導入しないほうがよい。
【0032】
このようにして測定して得られた実測プロファイルに対し、基板および多層皮膜のそれぞれに対して、膜厚、密度、ラフネス(空気と膜の界面、膜と間の界面、膜と基板の界面)のパラメーターを初期設定し、これらのパラメーターを少なくとも1個以上変化させて(シミュレーション演算により得られるシミュレーション演算プロファイルと呼ぶ。)このシミュレーション演算プロファイルが実測プロファイルに近くなるようにフィッティングすることにより、膜試料の密度を決定する。
【0033】
フィッティング処理の手順としては、例えば、最小2乗法による解析が用いられる。シミュレーション演算プロファイルと実測プロファイルとの残差二乗和を最小にするようなパラメーターを決定する。これが測定データに最もフィッティングする一組のパラメーターである。
【0034】
残差二乗和(χ
2)は、スペクトル強度の計算反射率(Ical)と実験反射率(Iexp)との差であり、式(Y)にて表され、0.01以下であることが望ましい。ここで、Npはフィッティング範囲内のデータ点数である。α
iは入射X線の角度である。
【数1】
【0035】
上述のフィッティング処理は、リガク社製解析ソフト(GlobalFit)などを用いることで、解析することができる。
【0036】
以上説明したように、X線反射率測定(XRR)によれば、成膜された皮膜の膜種、区分、膜厚、膜密度を測定することが可能となる。
【0037】
次に、基材(S)上に、上記した本発明の皮膜が形成された積層体の製造方法を説明する。
【0038】
前記積層体とは、すなわち、基材(S)の上に、密度が1.0g/cm3以上、2.2g/cm3未満である層(K1)が形成され、該層(K1)に接して密度が0.7g/cm3以上、1.0g/cm3未満である層(M)が最表面に形成されている積層体である。このような積層体の製造方法では、まず基材(S)の上に、ポリシラザン(F)の混合組成物(q)を塗布し、該混合組成物(q)の硬化前又は硬化中に、後述の混合組成物(p)を塗布する。前記混合組成物(q)の硬化前又は硬化中に混合組成物(p)を塗布するとは、例えば常温(20~40℃)で1分~20分(好ましくは1分~10分)静置した後に、混合組成物(p)を塗布することで実現できる。
【0039】
混合組成物(p)を塗布した後は、前記混合組成物(q)と前記混合組成物(p)を硬化させ、前記混合組成物(p)の塗布層から前記層(M)と層(K1)を形成することで、本発明の積層体が製造できる。混合組成物(p)を塗布した後の混合組成物(q)及び(p)の硬化は、例えば常温(20~40℃)で30分~48時間(好ましくは1時間~30時間、より好ましくは1時間~6時間)静置することで実現できる。
【0040】
混合組成物(p)は、トリアルキルシリル基を少なくとも1つと、加水分解性ケイ素基を1つ以上有する有機ケイ素化合物(A)と、少なくとも1つの加水分解性基がケイ素原子に結合している有機ケイ素化合物(B)と、水(C)が混合された組成物である。本発明の製造方法では、混合組成物(q)の硬化前又は硬化中に、混合組成物(p)を塗布して、その後に混合組成物(q)及び(p)を硬化させる点に特徴を有している。このようにすることで、常温で積層体を製造することが容易となる。常温で積層体を製造できるメカニズムは限定されないが、例えば以下の様な現象が生じていると推測される。混合組成物(q)を基材(S)に塗布後は、ポリシラザン(F)が空気中の水分と反応してSi-NR-Si結合が分解してSi-O-Si結合を形成し、その際にアンモニアと水素が発生する。また混合組成物(p)に用いられる有機ケイ素化合物(A)及び(B)は、加水分解性基を有しており(好ましくは加水分解性基がケイ素原子に結合)、混合組成物(p)の硬化は、加水分解性基からヒドロキシ基が生成(好ましくは加水分解性基が結合したケイ素原子からシラノール基が生成)し、ヒドロキシ基(好ましくはシラノール基)が縮合することで進行するが、混合組成物(q)の硬化前又は硬化中に混合組成物(p)を塗布すると、混合組成物(q)の硬化時に発生するアンモニアが、混合組成物(p)のヒドロキシ基(好ましくはシラノール基)の縮合触媒として作用できる。また、混合組成物(p)の縮合反応により発生する水は、混合組成物(q)の分解反応を促進することができ、混合組成物(q)の硬化により発生するアンモニアと、混合組成物(p)の硬化により発生する水が、お互いの硬化を促進することができ、常温での積層体の製造が容易となる。
【0041】
また、混合組成物(p)の硬化に際しては、互いに比重の異なる有機ケイ素化合物(A)及び(B)が二層に層分離し(上層が有機ケイ素化合物(A)、下層が有機ケイ素化合物(B))、混合組成物(p)から、有機ケイ素化合物(A)由来の層(M)と、有機ケイ素化合物(B)由来の層(K1)が形成する。
【0042】
混合組成物(q)の塗布層からは、層(K1)のみが形成されてもよいし、層(K1)と層(K2)とが形成されてもよく、混合組成物(q)に用いられるポリシラザン(F)の組成や、混合組成物(p)中の水の量を調製することで制御できる。また、混合組成物(p)由来の成分の一部と混合組成物(q)が相溶して層(K1)を形成することがより好ましい。混合組成物(q)と混合組成物(p)の結合が進行することで、耐摩耗性の向上が期待できる。
【0043】
なお、混合組成物(p)は、有機ケイ素化合物(A)と、有機ケイ素化合物(B)と、水(C)が混合された組成物であり、当該(A)、(B)及び(C)を混合することにより得られる((A)、(B)及び(C)以外の成分が混合されている場合も同様である)。混合組成物(q)は、ポリシラザン(F)が混合された組成物であり、当該(F)を混合することにより得られる((F)以外の成分が混合されている場合も同様である)。混合組成物(p)及び(q)共に、混合後、例えば保管中に反応が進んだものも含む。
【0044】
混合組成物(p)及び(q)の塗布方法としては、例えば、スピンコーティング法、ディップコーティング法、スプレーコーティング法、ロールコート法、バーコート法、手塗り(布等に液を染み込ませ、基材に塗りこむ方法)、かけ流し(スポイトなどを用いて液を基材にそのままかけ、塗布する方法)、霧吹き(霧吹きを用いて基材に塗布する方法)などが挙げられる。特に、作業性の観点から、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、手塗り、かけ流し、霧吹きが好ましい。
【0045】
また、基材(S)に混合組成物(q)を塗布する前に、基材(S)に予め易接着処理を施してもよい。上記易接着処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理等の親水化処理が挙げられる。また、樹脂、シランカップリング剤、テトラアルコキシシラン等によるプライマー処理を施してもよい。
【0046】
次に、混合組成物(p)に用いられる、トリアルキルシリル基を少なくとも1つと、加水分解性ケイ素基を1つ以上有する有機ケイ素化合物(A)、少なくとも1つの加水分解性基がケイ素原子に結合している有機ケイ素化合物(B)、水(C)についてそれぞれ説明する。
【0047】
1.有機ケイ素化合物(A)
混合組成物(p)に用いられる有機ケイ素化合物(A)は、トリアルキルシリル基を少なくとも1つと、加水分解性ケイ素基(すなわち、加水分解性基が結合したケイ素基)を1つ以上有する。
【0048】
有機ケイ素化合物(A)としてより好ましくは、少なくとも1つのトリアルキルシリル基含有分子鎖と、少なくとも1つの加水分解性基とがケイ素原子(以下、中心ケイ素原子と呼ぶ場合がある)に結合している有機ケイ素化合物(A1)、トリアルキルシリル基を少なくとも1つと、加水分解性ケイ素基を2つ以上有する有機ケイ素化合物(A2)が挙げられる。
【0049】
1-1.有機ケイ素化合物(A1)
上記トリアルキルシリル基含有分子鎖とは、トリアルキルシリル含有基が分子鎖の末端に結合した構造を有する1価の基であり、分子鎖にトリアルキルシリル含有基が結合していることで、混合組成物(p)から形成される皮膜の撥水・撥油性が向上する。好ましい態様においては、トリアルキルシリル基含有分子鎖が存在することで、液滴(水滴等)と該皮膜の間の摩擦が低減され、液滴が移動しやすくなり、水滴の滑落性が向上する。またトリアルキルシリル含有基のアルキル基がフルオロアルキル基に置き換わっている場合においても、同様に該皮膜界面(表面)の撥水・撥油性(好ましくは、更に水滴の滑落性)を向上することができる。
【0050】
上記トリアルキルシリル含有基に含まれるアルキル基(アルキル基1つ当たり)の炭素数は、1~4が好ましく、より好ましくは1~3、さらに好ましくは1または2である。
【0051】
前記トリアルキルシリル基含有分子鎖において、トリアルキルシリル含有基が結合している分子鎖としては、直鎖状または分岐鎖状が好ましく、直鎖状がより好ましい。
【0052】
前記トリアルキルシリル含有基が結合している分子鎖は、ジアルキルシロキサン鎖を含むことが好ましく、直鎖状ジアルキルシロキサン鎖を含むことがより好ましい。また、ジアルキルシロキサン鎖を含む前記分子鎖は、2価の炭化水素基を含んでいてもよい。該分子鎖の一部が2価の炭化水素基であっても、残部がジアルキルシロキサン鎖であるため、得られる皮膜の化学的・物理的耐久性が良好である。
【0053】
上記有機ケイ素化合物(A1)において、中心ケイ素原子に結合するトリアルキルシリル基含有分子鎖の個数は、1以上であり、3以下が好ましく、より好ましくは2以下である。中心ケイ素原子に結合するトリアルキルシリル基含有分子鎖の個数は、1が特に好ましい。
【0054】
上記加水分解性基とは、加水分解によってヒドロキシ基を与える基(ケイ素原子と結合してシラノール基となる基)であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1~4のアルコキシ基;ヒドロキシ基;アセトキシ基;塩素原子;イソシアネート基;等を好ましく挙げることができる。これらの中でも、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましく、炭素数1または2のアルコキシ基がより好ましい。
【0055】
上記有機ケイ素化合物(A1)において、中心ケイ素原子に結合する加水分解性基の個数は、1以上であり、2以上が好ましく、通常、3以下が好ましい。
【0056】
上記有機ケイ素化合物(A1)の中心ケイ素原子には、トリアルキルシリル基含有分子鎖、加水分解性基のほか、シロキサン骨格含有基(好ましくは、トリアルキルシリル基含有分子鎖の分子鎖を構成する原子数よりも少ない原子数のシロキサン骨格含有基)、または炭化水素鎖含有基(好ましくは、トリアルキルシリル基含有分子鎖の分子鎖を構成する原子数よりも少ない炭素数の炭化水素鎖を含有する炭化水素鎖含有基)が結合していてもよい。炭化水素鎖含有基は、少なくとも一部に炭化水素基を有する基を意味する。
【0057】
上記有機ケイ素化合物(A1)は2種以上用いてもよい。
【0058】
上記有機ケイ素化合物(A1)は、具体的には、下記式(a1)で表される化合物であることが好ましい。
【0059】
【0060】
[式(a1)中、複数のAa1は、それぞれ独立に、加水分解性基を表し、Za1は、トリアルキルシリル基含有分子鎖、シロキサン骨格含有基、または炭化水素鎖含有基を表し、xは、0または1であり、Ra1は、トリアルキルシリル基含有分子鎖を表す。Za1およびRa1の該トリアルキルシリル基に含まれる水素原子はフッ素原子に置換されていてもよい。]
【0061】
上記式(a1)中、複数のAa1は、それぞれ独立に、加水分解性基であり、加水分解によってヒドロキシ基を与える基(ケイ素原子と結合してシラノール基となる基)であればよく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1~4のアルコキシ基;ヒドロキシ基;アセトキシ基;塩素原子;イソシアネート基;等を好ましく挙げることができる。これらの中でも、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましく、炭素数1または2のアルコキシ基がより好ましい。
【0062】
上記式(a1)中、Ra1は、トリアルキルシリル基含有分子鎖であり、上述した通り、トリアルキルシリル含有基が分子鎖の末端に結合した構造を有する1価の基である。上記トリアルキルシリル含有基は、少なくとも1つのトリアルキルシリル基を含む基であり、好ましくは2つ以上、さらに好ましくは3つのトリアルキルシリル基を含む基である。
【0063】
上記トリアルキルシリル含有基は、下記式(s1)で表される基が好ましい。
【0064】
【0065】
[上記式(s1)中、複数のRs1は、それぞれ独立に、炭化水素基またはトリアルキルシリルオキシ基を表し、該炭化水素基またはトリアルキルシリルオキシ基に含まれる水素原子は、フッ素原子に置換されていてもよい。*は結合手を表す。]
【0066】
上記式(s1)において、Rs1の少なくとも1つがトリアルキルシリルオキシ基であるか、Rs1が全てアルキル基であることが好ましい。
【0067】
上記Rs1が炭化水素基である場合、その炭素数は、1~4が好ましく、より好ましくは1~3、さらに好ましくは1または2である。
【0068】
上記Rs1が炭化水素基である場合、脂肪族炭化水素基が好ましく、アルキル基がより好ましい。該アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
【0069】
複数のRs1は、同一でも異なっていてもよく、同一であることが好ましい。Rs1が全て炭化水素基である場合(特にアルキル基)、3つのRs1の合計の炭素数は、9以下が好ましく、より好ましくは6以下、さらに好ましくは4以下である。3つのRs1のうち少なくとも1つがメチル基であることが好ましく、少なくとも2つがメチル基であることがより好ましく、3つのRs1全てがメチル基であることが特に好ましい。
【0070】
上記式(s1)において、Rs1の少なくとも1つは、トリアルキルシリルオキシ基が好ましい。
【0071】
上記トリアルキルシリルオキシ基とは、アルキル基が3つ結合したケイ素原子(トリアルキルシリル基)に酸素原子が結合している基を意味する。上記式(s1)において、2個以上のRs1がトリアルキルシリルオキシ基であることが好ましく、3個のRs1がトリアルキルシリルオキシ基(特にトリメチルシリルオキシ基)であることが更に好ましい。
【0072】
上記トリアルキルシリル基含有分子鎖において、トリアルキルシリル含有基は、分子鎖の末端(自由端側)、特に分子鎖の主鎖(最長直鎖)の末端(自由端側)に結合していることが好ましい。
【0073】
上記トリアルキルシリル含有基が結合している分子鎖は、直鎖状または分岐鎖状が好ましく、直鎖状がより好ましい。
【0074】
上記トリアルキルシリル含有基が結合している分子鎖は、ジアルキルシロキサン鎖を含むことが好ましく、直鎖状ジアルキルシロキサン鎖を含むことがより好ましい。また、ジアルキルシロキサン鎖を含む上記分子鎖は、2価の炭化水素基を含んでいてもよい。該分子鎖の一部が2価の炭化水素基であっても、残部がジアルキルシロキサン鎖であるため、得られる皮膜の化学的・物理的耐久性が良好である。
【0075】
上記トリアルキルシリル含有基が結合している分子鎖は、下記式(s2)で表される基が好ましい。
【0076】
【0077】
[式(s2)中、Zs1は、-O-または2価の炭化水素基を表し、該2価の炭化水素基に含まれる-CH2-は、-O-に置き換わっていてもよく、複数のRs2は、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基を表し、n1は、1以上の整数であり、Ys1は、単結合または-Si(Rs2)2-Ls1-を表し、該Ls1は、2価の炭化水素基を表し、該2価の炭化水素基に含まれる-CH2-は、-O-に置き換わっていてもよい。上記式(s2)において、左側の*は、中心ケイ素原子との結合手を表し、右側の*は、トリアルキルシリル含有基との結合手を表す。]
【0078】
上記Rs2で表されるアルキル基の炭素数は、1~4が好ましく、より好ましくは1~3、さらに好ましくは1または2であり、特にRs2がメチル基であることが好ましい。
【0079】
n1は、1~100の整数が好ましく、より好ましくは1~80の整数、さらに好ましくは1~60の整数、特に好ましくは1~50の整数、最も好ましくは1~30の整数である。
【0080】
Zs1またはLs1で表される2価の炭化水素基の炭素数は、1~10が好ましく、より好ましくは1~6、さらに好ましくは1~4である。前記2価の炭化水素基は、鎖状が好ましく、鎖状である場合、直鎖状、分岐鎖状のいずれであってもよい。また、前記2価の炭化水素基は、2価の脂肪族炭化水素基が好ましく、アルカンジイル基が好ましい。前記2価の炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられる。
【0081】
さらに、前記2価の炭化水素基に含まれる一部の-CH2-は、-O-に置き換わっていてもよい。この場合、連続する2つの-CH2-が同時に-O-に置き換わることはなく、Si原子に隣接する-CH2-が-O-に置き換わることはない。2つ以上の-CH2-が-O-に置き換わっている場合、-O-と-O-の間の炭素数は、2~4が好ましく、2または3がさらに好ましい。前記2価の炭化水素基の一部が-O-に置き換わった基としては、具体的には、(ポリ)エチレングリコール単位を有する基、(ポリ)プロピレングリコール単位を有する基等を例示することができる。
【0082】
前記式(s2)において、Zs1が-O-であり、Ys1が単結合であること、すなわち前記分子鎖は、ジアルキルシリルオキシ基の繰り返しのみからなることが好ましい。ジアルキルシロキサン鎖がジアルキルシリルオキシ基(特にジメチルシリルオキシ基が好ましい)の繰り返しのみからなる場合、得られる皮膜の化学的・物理的耐久性が良好である。
【0083】
また、トリアルキルシリル基含有分子鎖を構成する原子の合計数は、24以上が好ましく、より好ましくは40以上、さらに好ましくは50以上であり、一層好ましくは100以上であり、上限の好ましい範囲は順に、5000以下、4000以下、2000以下、1200以下、700以下、400以下、250以下である。
【0084】
上記式(a1)中、Za1は、トリアルキルシリル基含有分子鎖、シロキサン骨格含有基、または炭化水素鎖含有基を表す。
【0085】
Za1がトリアルキルシリル基含有分子鎖である場合は、上記Ra1と同様のものが挙げられる。
【0086】
Za1がシロキサン骨格含有基である場合、前記シロキサン骨格含有基は、シロキサン単位(Si-O-)を含有する1価の基であり、Ra1のトリアルキルシリル基含有分子鎖を構成する原子数よりも少ない数の原子で構成されるものであることが好ましい。これにより、シロキサン骨格含有基は、トリアルキルシリル基含有分子鎖よりも長さが短いか、立体的な広がり(かさ高さ)が小さな基となる。シロキサン骨格含有基には、2価の炭化水素基が含まれていてもよい。
【0087】
上記シロキサン骨格含有基は、下記式(s4)で表される基が好ましい。
【0088】
【0089】
[式(s4)中、Zs1、Rs2、およびYs1は上記と同義である。Rs5は、炭化水素基またはヒドロキシ基を表し、該炭化水素基に含まれる-CH2-は、-O-に置き換わっていてもよく、該炭化水素基に含まれる水素原子は、フッ素原子に置換されていてもよい。n3は、0~5の整数を表す。*は、中心ケイ素原子との結合手を表す。]
【0090】
Rs5で表される炭化水素基としては、Rs1で表される炭化水素基と同様の基が挙げられ、脂肪族炭化水素基が好ましく、アルキル基がより好ましい。
【0091】
Rs5で表される炭化水素基の炭素数は、1~4が好ましく、より好ましくは1~3、さらに好ましくは1または2である。
【0092】
n3は、1~5の整数が好ましく、より好ましくは1~3の整数である。
【0093】
上記シロキサン骨格含有基の原子数の合計は、600以下が好ましく、より好ましくは500以下、更に好ましくは350以下、100以下が一層好ましく、より一層好ましくは50以下、特に好ましくは30以下であり、10以上が好ましい。また、Ra1のトリアルキルシリル基含有分子鎖とZa1のシロキサン骨格含有基の原子数の差は、10以上が好ましく、より好ましくは20以上であり、1000以下が好ましく、より好ましくは500以下、さらに好ましくは200以下である。
【0094】
Za1が炭化水素鎖含有基である場合、トリアルキルシリル基含有分子鎖の分子鎖を構成する原子数よりも炭化水素鎖部分の炭素数が少ないものであることが好ましい。また、トリアルキルシリル基含有分子鎖の最長直鎖を構成する原子数よりも、炭化水素鎖の最長直鎖の炭素数が少ないものであることが好ましい。炭化水素鎖含有基は、通常、炭化水素基(炭化水素鎖)のみから構成されるが、必要により、この炭化水素鎖の一部のメチレン基(-CH2-)が酸素原子に置き換わった基であってもよい。また、Si原子に隣接するメチレン基(-CH2-)は酸素原子に置き換わることはなく、また連続する2つのメチレン基(-CH2-)が同時に酸素原子に置き換わることもない。
【0095】
なお、炭化水素鎖部分の炭素数とは、酸素非置換型の炭化水素鎖含有基では炭化水素基(炭化水素鎖)を構成する炭素原子の数を意味し、酸素置換型の炭化水素鎖含有基では、酸素原子をメチレン基(-CH2-)と仮定して数えた炭素原子の数を意味するものとする。
【0096】
以下、特に断りがない限り、酸素非置換型の炭化水素鎖含有基(すなわち1価の炭化水素基)を例にとって炭化水素鎖含有基について説明するが、いずれの説明でも、そのメチレン基(-CH2-)のうち一部を酸素原子に置き換えることが可能である。
【0097】
前記炭化水素鎖含有基は、それが炭化水素基の場合には、炭素数は1以上、3以下が好ましく、より好ましくは1である。また、前記炭化水素鎖含有基は、分岐鎖であっても直鎖であってもよい。前記炭化水素鎖含有基は、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素鎖含有基が好ましく、飽和脂肪族炭化水素鎖含有基がより好ましい。前記飽和脂肪族炭化水素鎖含有基としては、飽和脂肪族炭化水素基がより好ましい。飽和脂肪族炭化水素基には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が含まれる。
【0098】
飽和脂肪族炭化水素基の一部のメチレン基(-CH2-)が酸素原子に置き換わる場合、具体的には、(ポリ)エチレングリコール単位を有する基等を例示することができる。
【0099】
上記式(a1)中、xは、好ましくは0である。
【0100】
有機ケイ素化合物(A1)は、具体的には、式(A-I)で表される化合物が挙げられる。
【0101】
【0102】
上記式(A-I)において、Aa10、Zs10、Rs20、n10、Ys10、Rs10は、下記表1-1、1-2、2-1、2-2に示す組み合わせが好ましい。
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
上記(A-I-1)~(A-I-100)において、n10はより好ましくは2以上の整数であり、更に好ましくは3以上の整数であり、また50以下の整数がより好ましく、更に好ましくは40以下の整数であり、一層好ましくは30以下の整数であり、最も好ましくは25以下の整数である。
【0108】
上記式(A-I)の中でも、(A-I-26)で表されるものがより好ましい。すなわち、有機ケイ素化合物(A1)としては、下記式(a3)で表されるものが好ましい。
【0109】
【0110】
[式(a3)中、n2は、1~60の整数である。]
【0111】
上記n2は、より好ましくは2以上の整数、更に好ましくは3以上の整数であり、より好ましくは50以下の整数、更に好ましくは40以下の整数、特に好ましくは30以下の整数、最も好ましくは25以下の整数である。
【0112】
上記有機ケイ素化合物(A1)の量は、混合組成物(p)全体を100質量%としたとき、0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは0.015質量%以上、さらに好ましくは0.02質量%以上であり、0.5質量%以下が好ましく、より好ましくは0.4質量%以下、さらに好ましくは0.3質量%以下である。上記の有機ケイ素化合物(A1)の量は、組成物の調製時に調整できる。前記有機ケイ素化合物(A1)の量は、組成物の分析結果から算出してもよい。なお、本明細書において、各成分の量、質量比またはモル比の範囲を記載している場合、上記と同様に、該範囲は、組成物の調製時に調整できる。
【0113】
上記有機ケイ素化合物(A1)の合成方法としては、特開2017-201009号公報に記載の方法が挙げられる。
【0114】
1-2.有機ケイ素化合物(A2)
有機ケイ素化合物(A2)は、トリアルキルシリル基を少なくとも1つと、加水分解性ケイ素基を2つ以上有する化合物である。有機ケイ素化合物(A2)が有する加水分解性ケイ素基は、3つ以上であることが好ましい。また、20以下であることが好ましく、より好ましくは15以下である。
ここで、加水分解性ケイ素基は、加水分解によりシラノール基(Si(OH)基)を形成しうる基(以下、「加水分解性基」ということがある)がケイ素原子に結合した基を意味し、少なくとも1つ(好ましくは2つ以上、より好ましくは3つ)の加水分解性基が、1つのケイ素原子に結合している基が好ましい。
【0115】
前記有機ケイ素化合物(A2)において、トリアルキルシリル基と加水分解性ケイ素基は、鎖状或いは環状(鎖状及び環状の組合せも含む。以下同じ。)の炭化水素及び/又は鎖状或いは環状のジアルキルシロキサンを介して加水分解性ケイ素基と結合していることが好ましい。これにより、トリアルキルシリル基による撥水性がよりいっそう効果的に発揮される。ここで、ジアルキルシロキサンとは、2個のアルキル基が結合しているケイ素原子と、酸素原子とが交互に連なっている分子鎖を意味するものとする。
【0116】
有機ケイ素化合物(A2)は、式(Ia)で表される化合物であることが好ましい。
【0117】
【0118】
[式(Ia)中、Y2は、単結合又は*-Si(Rs22)2-Ls21-を表す。*は酸素原子との結合手を表す。Z2は、酸素原子又は炭素数1~10の2価の炭化水素基を表す。Ra21は、それぞれ独立に、炭化水素基又はトリアルキルシリルオキシ基を表す。ただし、Ra21の全てが炭化水素基の場合、Ra21で表される炭化水素基はアルキル基である。Rs21、Rs22は、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基を表す。Ls21は、炭素数1~10の2価の炭化水素基を表す。X2は、加水分解性ケイ素基を2個以上有する加水分解性ケイ素含有基を表す。n21は、1以上150以下の整数を表す。]
【0119】
前記式(Ia)中、Ra21の炭化水素基の炭素数は、好ましくは1~4、より好ましくは1~3、さらに好ましくは1~2である。Ra21の炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状のいずれであってもよく、直鎖状であることが好ましい。また、Ra21の炭化水素基は、脂肪族炭化水素基であることが好ましく、アルキル基であることがより好ましい。Ra21の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の直鎖状アルキル基等が挙げられる。
【0120】
Ra21におけるトリアルキルシリルオキシ基に含まれるアルキル基の炭素数は、アルキル基ひとつ当たり、好ましくは1~4、より好ましくは1~3、さらに好ましくは1~2である。また、Ra21が全てアルキル基である場合の(Ra21)3Si-基又はトリアルキルシリルオキシ基において、3つのアルキル基の合計の炭素数は、好ましくは9以下、より好ましくは6以下、さらに好ましくは4以下である。
【0121】
前記トリアルキルシリルオキシ基に含まれるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。また、Ra21が全てアルキル基である場合の(Ra21)3Si-基又はトリアルキルシリルオキシ基において、3つのアルキル基は、互いに同一でも異なっていてもよく、同一であることが好ましい。さらに、Ra21が全てアルキル基である場合の(Ra21)3Si-基又はトリアルキルシリルオキシ基には、アルキル基(特にメチル基)が好ましくは1つ以上、より好ましくは2つ以上、特に好ましくは3つのアルキル基が含まれる。
【0122】
Ra21が全てアルキル基である場合の(Ra21)3Si-基又はトリアルキルシリルオキシ基において、含まれるトリアルキルシリル基としては、メチルジエチルシリル基、メチルエチルプロピルシリル基、メチルエチルブチルシリル基、メチルジプロピルシリル基、メチルプロピルブチルシリル基、メチルジブチルシリル基等の1つのメチル基がケイ素原子に結合しているトリアルキルシリル基;ジメチルエチルシリル基、ジメチルプロピルシリル基、ジメチルブチルシリル基等の2つのメチル基がケイ素原子に結合しているトリアルキルシリル基;トリメチルシリル基;等が挙げられる。
【0123】
Ra21が全てアルキル基である場合の(Ra21)3Si-基又はトリアルキルシリルオキシ基において、トリアルキルシリル基に含まれるアルキル基は、その全体がフルオロアルキル基に置き換わっていてもよい。該フルオロアルキル基としては、前記アルキル基の少なくとも一部の水素原子がフッ素原子に置換された基が挙げられる。該フルオロアルキル基の炭素数は、好ましくは1~4、より好ましくは1~3、さらに好ましくは1~2である。また、フッ素原子の置換数は、炭素原子の数をnCとしたとき、好ましくは1以上であり、好ましくは2×nC+1以下である。フルオロアルキル基としては、モノフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基(パーフルオロメチル基)、モノフルオロエチル基、ジフルオロエチル基、トリフルオロエチル基、テトラフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基(パーフルオロエチル基)、モノフルオロプロピル基、ジフルオロプロピル基、トリフルオロプロピル基、テトラフルオロプロピル基、ペンタフルオロプロピル基、ヘキサフルオロプロピル基、ヘプタフルオロプロピル基(パーフルオロプロピル基)、モノフルオロブチル基、ジフルオロブチル基、トリフルオロブチル基、テトラフルオロブチル基、ペンタフルオロブチル基、ヘキサフルオロブチル基、ヘプタフルオロブチル基、オクタフルオロブチル基、ノナフルオロブチル基(パーフルオロブチル基)等が挙げられる。
アルキル基がフルオロアルキル基に置き換わっている場合、その置換数は、ケイ素原子1つあたり1~3の範囲で適宜選択できる。
【0124】
Ra21としては、アルキル基又はトリアルキルシリルオキシ基が好ましく、トリアルキルシリルオキシ基がより好ましい。また、複数のRa21のうち、2つ以上がトリアルキルシリルオキシ基であることが好ましく、3つがトリアルキルシリルオキシ基であることがより好ましい。
【0125】
以下、(Ra21)3Si-Z2-(Si(Rs21)2-O-)n21-Y2-をトリアルキルシリル基含有分子鎖という場合がある。
【0126】
前記Y2は、*-Si(Rs22)2-Ls21-(ただし、Ls21は炭素数1~10の2価の炭化水素基を表す。)であってもよく、Z2は炭素数1~10の炭化水素基であってもよい。炭化水素基が含まれていても、残部がジアルキルシロキサン鎖であるため、化学的・物理的耐久性が高く、耐熱性及び耐光性に優れた皮膜となる。Ls21又はZ2が2価の炭化水素基である場合、その炭素数は、好ましくは8以下で、より好ましくは6以下、さらに好ましくは4以下であり、好ましくは1以上である。前記2価の炭化水素基は、鎖状であることが好ましく、鎖状である場合、直鎖状、分岐鎖状のいずれであってもよい。また、前記2価の炭化水素基としては、2価の脂肪族炭化水素基が好ましく、アルキレン基がより好ましい。2価の炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等のアルキレン基等が挙げられる。
【0127】
さらに、Ls21又はZ2における2価の炭化水素基の一部のメチレン基(-CH2-)は、必要により、酸素原子又は-Si(RL)2-O-に置き換わっていてもよい。前記RLは水素原子または炭素数1~10の炭化水素基であり、好ましくは直鎖状脂肪族炭化水素基であり、より好ましくはアルキル基であり、更に好ましくは炭素数が1~4のアルキル基である。ただし連続する2つのメチレン基(-CH2-)が同時に酸素原子に置き換わることはなく、Si原子に隣接するメチレン基(-CH2-)は酸素原子に置き換わらないことが好ましい。
【0128】
Z2は酸素原子であることが好ましい。Y2は、X2が後述する式(X-2)で表される基の場合は*-Si(Rs22)2-Ls21-であって、Ls21における2価の炭化水素基の一部のメチレン基(-CH2-)が上記-Si(RL)2-O-に置き換わっているものであることが好ましく、X2が後述する式(X-3)で表される基の場合は*-Si(Rs22)2-Ls21-で表される基であることが好ましい。
【0129】
Rs21、Rs22のアルキル基の炭素数は、好ましくは1~4、より好ましくは1~3、さらに好ましくは1~2である。Rs21、Rs22のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。-(Si(Rs21)2-O-)n21-で表されるジアルキルシロキサン鎖としては、(ポリ)ジメチルシロキサン鎖、(ポリ)ジエチルシロキサン鎖等が挙げられる。
【0130】
n21は、1以上であり、好ましくは150以下、より好ましくは100以下、さらに好ましくは60以下、特に好ましくは50以下であり、好ましくは3以上である。
【0131】
また、-Z2-(Si(Rs21)2-O-)n21-Y2-に含まれる最長直鎖を構成する原子の数は、好ましくは2以上、より好ましくは6以上、さらに好ましくは15以上であり、好ましくは1200以下、より好ましくは700以下、さらに好ましくは500以下である。
【0132】
X2の加水分解性ケイ素含有基は、加水分解性ケイ素基を2個以上有する基であればよく、例えば、加水分解性ケイ素基が鎖状或いは環状の基部に結合している基であることが好ましい。基部は、炭化水素及び/又は(ポリ)ジアルキルシロキサンであることが好ましい。
【0133】
X2は、式(X-1)~(X-3)のいずれかで表される基であることが好ましい。
【0134】
【0135】
[式(X-1)~(X-3)中、Lx1~Lx2は、それぞれ、炭素数1~20の2価の炭化水素基を表し、該2価の炭化水素基に含まれるメチレン基(-CH2-)は、-O-又は-O-Si(Rx7)2-に置き換わっていてもよい。
Rx1~Rx7は、それぞれ、水素原子又は炭素数1~10の炭化水素基を表す。
Xa1は、それぞれ独立に、加水分解性基又はトリアルコキシシリルオキシ基を表す。
Xa2は、それぞれ独立に、加水分解性基、トリアルコキシシリルオキシ基、炭化水素鎖含有基、シロキサン骨格含有基又はトリアルキルシリル基含有分子鎖を表し、Xa2が加水分解性基又はトリアルコキシシリルオキシ基の場合、Xa2とXa1とは、同一であっても異なっていてもよい。
n22は、2以上20以下の整数を表す。
n23は、2以上5以下の整数を表す。
n24は、0以上5以下の整数を表す。
式(X-3)中、(Si(Rx4)(-Lx2-Si(Xa2)(Xa1)2)-O-)及び(Si(Rx5)(Rx6)-O-)で表される単位の順序は任意である。]
【0136】
Lx1~Lx2の2価の炭化水素基の炭素数は、好ましくは10以下、より好ましくは6以下、さらに好ましくは4以下であり、好ましくは1以上である。Lx1~Lx2の2価の炭化水素基は、鎖状であることが好ましく、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。Lx1~Lx2の2価の炭化水素基は、2価の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、アルキレン基であることがより好ましい。Lx1~Lx2の2価の炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等のアルキレン基が挙げられる。
【0137】
Lx1~Lx2の2価の炭化水素基に含まれるメチレン基(-CH2-)が-O-又は-Si(Rx7)2-O-に置き換わる場合、Lx1~Lx2に含まれるメチレン基(-CH2-)のうち、(Ra21)3Si-に含まれるトリアルキルシリル基(好ましくはトリメチルシリル基)に最も近いメチレン基(-CH2-)が置き換わっていることが好ましい。また、-Si(Xa1)2(Xa2)と直接結合しているメチレン基(-CH2-)は、-O-又は-Si(Rx7)2-O-に置き換わっていてもよく、置き換わらなくともよく、置き換わらないことが好ましい。
【0138】
Lx1~Lx2としては、以下の基を挙げることができる。ただし、*は結合手を表すものとし、左側の*が(Ra21)3Si-に含まれるトリアルキルシリル基(好ましくはトリメチルシリル基)に近い側であるものとする。
【0139】
【0140】
Rx1~Rx7の炭化水素基の炭素数は、好ましくは1~8、より好ましくは1~6、さらに好ましくは1~4である。Rx1~Rx7の炭化水素基は、鎖状でも環状でもよく、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。Rx1~Rx7の炭化水素基は、好ましくは脂肪族炭化水素基であり、より好ましくはアルキル基である。Rx1~Rx7の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基が挙げられる。
【0141】
Xa1、Xa2の加水分解性基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1~4のアルコキシ基;ヒドロキシ基;アセトキシ基;塩素原子;イソシアネート基;等が挙げられ、アルコキシ基、イソシアネート基が好ましい。
【0142】
Xa1、Xa2のトリアルコキシシリルオキシ基に含まれるアルコキシ基は、同一でも異なっていてもよく、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1~4のアルコキシ基が挙げられる。Xa1、Xa2のトリアルコキシシリルオキシ基としては、トリメトキシシリルオキシ基、トリエトキシシリルオキシ基が特に好ましい。
【0143】
Xa2の炭化水素鎖含有基は、炭化水素鎖を含有しており、この炭化水素鎖を構成する原子数が、トリアルキルシリル基と加水分解性ケイ素基をつなぐ鎖状或いは環状の炭化水素及び/又は鎖状或いは環状のジアルキルシロキサンの原子数よりも少ない基を意味する。また、炭化水素鎖の最長直鎖の炭素数がトリアルキルシリル基含有分子鎖の原子数よりも少ないものであることが好ましい。炭化水素鎖含有基は、通常、炭化水素基(炭化水素鎖)のみから構成されるが、必要により、この炭化水素鎖の一部のメチレン基(-CH2-)が酸素原子に置き換わった基であってもよい。また、Si原子に隣接するメチレン基(-CH2-)は酸素原子に置き換わることはなく、また連続する2つのメチレン基(-CH2-)が同時に酸素原子に置き換わることもない。
【0144】
なお炭化水素鎖部分の炭素数とは、酸素非置換型の炭化水素鎖含有基では炭化水素基(炭化水素鎖)を構成する炭素原子の数を意味し、酸素置換型の炭化水素鎖含有基では、酸素原子をメチレン基(-CH2-)と仮定して数えた炭素原子の数を意味するものとする。
以下、特に断りがない限り、酸素非置換型の炭化水素鎖含有基(すなわち1価の炭化水素基)を例にとって炭化水素鎖含有基について説明するが、いずれの説明でも、そのメチレン基(-CH2-)のうち一部を酸素原子に置き換えることが可能である。
【0145】
前記炭化水素鎖含有基の炭素数は、それが炭化水素基の場合には、好ましくは1~3、より好ましくは1である。また、前記炭化水素鎖含有基(炭化水素基の場合)は、分岐鎖であっても直鎖であってもよい。前記炭化水素鎖含有基(炭化水素基の場合)は、飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素鎖含有基であることが好ましく、飽和脂肪族炭化水素鎖含有基であることがより好ましい。前記飽和脂肪族炭化水素鎖含有基(炭化水素基の場合)としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基がより好ましい。
【0146】
飽和脂肪族炭化水素基の一部のメチレン基(-CH2-)が酸素原子に置き換わった基としては、(ポリ)エチレングリコール単位を有する基等を例示することができる。
【0147】
Xa2のシロキサン骨格含有基は、シロキサン単位(Si-O-)を含有し、トリアルキルシリル基と加水分解性ケイ素基をつなぐ鎖状或いは環状の炭化水素及び/又は鎖状或いは環状のジアルキルシロキサンを構成する原子数よりも少ない数の原子で構成されるものであればよい。これにより、シロキサン骨格含有基は、トリアルキルシリル基含有分子鎖よりも長さが短いか、立体的な広がり(かさ高さ)が小さな基となる。
【0148】
また、シロキサン骨格含有基は、鎖状であることが好ましく、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。シロキサン骨格含有基において、シロキサン単位(Si-O-)は、好ましくはジアルキルシリルオキシ基であることが好ましい。前記ジアルキルシリルオキシ基としては、ジメチルシリルオキシ基、ジエチルシリルオキシ基等が挙げられる。前記シロキサン単位(Si-O-)の繰り返し数は、好ましくは1以上であり、好ましくは5以下、より好ましくは3以下である。
【0149】
シロキサン骨格含有基は、シロキサン骨格の一部に2価の炭化水素基を含んでいてもよい。具体的には、シロキサン骨格の一部の酸素原子が2価の炭化水素基で置き換わっていてもよい。シロキサン骨格の一部の酸素原子を置き換えていてもよい2価の炭化水素基としては、トリアルキルシリル基含有分子鎖に含まれるジアルキルシロキサン鎖の酸素原子を置き換えていてもよい2価の炭化水素基と同様の基を好ましく挙げることができる。
【0150】
また、シロキサン骨格含有基の末端(自由端)のケイ素原子は、隣接するケイ素原子等とのシロキサン単位(Si-O-)形成のための加水分解性基の他、炭化水素基(好ましくはアルキル基)基等を有していてもよい。この場合、シロキサン骨格含有基は、トリアルキルシリル基を有することとなるが、共存するトリアルキルシリル基含有分子鎖よりも原子数が少なければ、スペーサーとしての機能を発揮しうる。また、シロキサン骨格含有基にトリアルキルシリル基が含まれる場合においても、該トリアルキルシリル基のアルキル基は、フルオロアルキル基に置き換わっていてもよい。
【0151】
さらに、シロキサン骨格含有基の原子数は、好ましくは100以下、より好ましくは50以下、さらに好ましくは30以下であり、通常、10以上である。また、トリアルキルシリル基含有分子鎖とシロキサン骨格含有基の原子数の差は、好ましくは10以上、より好ましくは20以上であり、通常好ましくは1000以下、より好ましくは500以下、さらに好ましくは200以下である。
【0152】
シロキサン骨格含有基は、式(x1)で表される基であることが好ましい。
【0153】
【0154】
[式(x1)中、複数のRx8は、それぞれ独立に、炭化水素基又はヒドロキシ基を表す。Rx9は、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基を表す。n5は、0以上4以下の整数を表す。*は、ケイ素原子との結合手を表す。]
【0155】
前記式(x1)中、Rx8の炭化水素基としては、Rx1の炭化水素基として例示した基と同様の基が挙げられ、脂肪族炭化水素基であることが好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の直鎖状アルキル基であることがより好ましい。
また、Rx8は、炭化水素基であることが好ましい。Rx8の炭化水素基に含まれるメチレン基は、酸素原子に置き換わっている場合もある。
【0156】
また、前記式(x1)中、Rx9の炭素数1~4のアルキル基としては、式(Ia)におけるRs21として説明した基と同様の基が挙げられる。n5は、0以上3以下の整数であることが好ましい。
【0157】
シロキサン骨格含有基としては、下記式で表される基が挙げられる。
【0158】
【0159】
Xa1は、アルコキシ基又はトリアルコキシシリルオキシ基であることが好ましい。
またXa2としては、加水分解性基又はトリアルコキシシリルオキシ基が好ましく、アルコキシ基又はトリアルコキシシリルオキシ基が好ましい。
【0160】
n22は、好ましくは2以上10以下の整数、より好ましくは2以上8以下の整数である。
n23は、2以上4以下の整数であることが好ましい。
n24は、0以上4以下の整数であることが好ましい。
【0161】
X2としては、下記式で表される基が好ましい。式中、Xa3は加水分解性基又はトリアルコキシシリルオキシ基を表し、n6は2~10の整数、n7は1~20(好ましくは1~19)の整数、n8は1~20(好ましくは1~18)の整数を表す。*はY2との結合手を表す。
【0162】
【0163】
【0164】
【0165】
有機ケイ素化合物(A2)としては、式(Ia-1)で表される化合物が好ましい。
【0166】
【0167】
[式(Ia-1)中、Y2、Z2、Rs21、n21は、上記と同義である。Ra22は、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基を表す。X2は、式(X-1)~(X-3)のいずれかで表される基を表す。
【0168】
【化16】
[式(X-1)~(X-3)中、L
x1~L
x2、R
x1~R
x6、X
a1~X
a2、n22~n24は、それぞれ上記と同義である。]
【0169】
Ra22のアルキル基の炭素数は、好ましくは1~3、より好ましくは1~2であり、特に好ましくは1である。Ra22のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。
【0170】
有機ケイ素化合物(A2)としては、以下の式で表される化合物が挙げられる。ただしn20は、好ましくは1~30の整数、より好ましくは1~20の整数である。
【0171】
【0172】
【0173】
【0174】
表中、Meはメチル基を意味し、TMSはトリメチルシリルオキシ基を意味する。(Y1)~(Y4)は、それぞれ、以下の式で表される基を意味する。
【0175】
【0176】
本発明の有機ケイ素化合物(A2)は、例えば、特開2017-119849号公報の段落0076~0088に記載される方法で製造できる。
【0177】
2.有機ケイ素化合物(B)
混合組成物(p)に用いられる有機ケイ素化合物(B)は、少なくとも1つの加水分解性基がケイ素原子に結合している化合物であり、上記有機ケイ素化合物(A)と混合することによりスペーサーとして機能し、上述したトリアルキルシリル基を適度に分散させることにより皮膜の撥水・撥油性を向上できる。
【0178】
上記有機ケイ素化合物(B)は、下記式(b1)で表される化合物が好ましい。
Si(Rb10)r(Ab1)4-r (b1)
[式(b1)中、Rb10は、シロキサン骨格含有基、炭化水素鎖含有基、または水素原子を表し、rは、0または1である。複数のAb1は、それぞれ独立に、加水分解性基を表す。]
【0179】
混合組成物(p)から得られる皮膜は、有機ケイ素化合物(A)に由来するトリアルキルシリル基によって撥水・撥油機能が高められ、このようなトリアルキルシリル基含有分子鎖が結合していないケイ素原子は皮膜中でスペーサーとして機能すると考えられる。
【0180】
上記シロキサン骨格含有基とは、少なくとも一部にシロキサン骨格含有基を有する基であり、上記炭化水素鎖含有基とは、少なくとも一部に炭化水素鎖を有する基であればよい。
なお、Rb10のシロキサン骨格含有基は、ジアルキルシロキサン鎖を含まない基であることが好ましい。
【0181】
上記Ab1で表される加水分解性基、およびRb10で表されるシロキサン骨格含有基、炭化水素鎖含有基は、上記有機ケイ素化合物(A)で説明した加水分解性基、シロキサン骨格含有基、および炭化水素鎖含有基の中から適宜選択でき、好ましい範囲も同様である。
【0182】
上記有機ケイ素化合物(B)は2種以上用いてもよい。
【0183】
上記有機ケイ素化合物(B)としては、r=0、すなわちケイ素原子に加水分解性基Ab1のみが結合した有機ケイ素化合物B1;または、r=1、すなわちケイ素原子に、シロキサン骨格含有基、炭化水素鎖含有基、または水素原子が1つと、加水分解性基Ab1が3つ結合した有機ケイ素化合物B2;が挙げられる。
【0184】
(有機ケイ素化合物B1)
ケイ素原子に、加水分解性基Ab1のみが結合した有機ケイ素化合物B1としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシランが挙げられる。
【0185】
(有機ケイ素化合物B2)
ケイ素原子に、シロキサン骨格含有基、炭化水素鎖含有基、または水素原子が1つと、加水分解性基Ab1が3つ結合した有機ケイ素化合物B2は、トリメチルシリルオキシトリメトキシシラン、トリメチルシリルオキシトリエトキシシラン、トリメチルシリルオキシトリプロポキシシラン等のトリメチルシリルオキシトリアルコキシシラン;メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン等のアルキルトリアルコキシシラン;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のアルケニルトリアルコキシシラン;トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン等のトリアルコキシシランが挙げられる。
【0186】
上記有機ケイ素化合物(B)としては、具体的には、下記式(b2)で表される化合物が好ましい。
Si(ORb11)yH4-y (b2)
[式(b2)中、Rb11は、炭素数1~6のアルキル基を表し、yは、3または4である。]
【0187】
Rb11で表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0188】
Rb11で表されるアルキル基の炭素数は、1~4が好ましく、より好ましくは1~3、さらに好ましくは1または2である。
【0189】
上記有機ケイ素化合物(B)の量は、混合組成物(p)全体を100質量%としたとき、0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは0.03質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上であり、5質量%以下が好ましく、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0190】
上記有機ケイ素化合物(A)と上記有機ケイ素化合物(B)の合計量(A+B)は、混合組成物(p)全体を100質量%としたとき、0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.08質量%以上であり、3質量%以下が好ましく、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1.5質量%以下である。
【0191】
上記有機ケイ素化合物(A)に対する上記有機ケイ素化合物(B)のモル比(B/A)は、2~500が好ましい。上記モル比(B/A)は、8以上がより好ましく、更に好ましくは10以上、特に好ましくは15以上、最も好ましくは20以上であり、200以下がより好ましく、更に好ましくは100以下、特に好ましくは50以下である。
【0192】
混合組成物(p)は、有機ケイ素化合物(A)、有機ケイ素化合物(B)の他、水(D)が混合されており、必要に応じて触媒(C)及び溶媒(E)が混合されることが好ましい。
【0193】
3.触媒(C)
混合組成物(p)の調整の際、上記有機ケイ素化合物(A)および有機ケイ素化合物(B)と共に、ケイ素原子に結合する加水分解性基の加水分解・縮合触媒として作用する触媒(C)を共存させてもよく、上記触媒(C)として酸、アルカリ等を用いることができ、中でも酸を用いることが好ましい。酸としては、無機酸でも有機酸でもよく、加水分解・縮合反応の制御のしやすさから特に有機酸を用いることが好ましい。触媒(C)として、酸を用い、後述するように、組成物に混ぜられる水量を抑制することによって、撥液膜形成時の反応を穏やかに進行させることができ、良好な撥液膜を形成できる。
【0194】
上記酸としては、具体的には、硝酸、塩酸、マレイン酸、リン酸、マロン酸、ギ酸、安息香酸、フェニルエタン酸、酢酸、ブタン酸、2-メチルプロパン酸、プロパン酸、2,2-ジメチルプロパン酸などが挙げられ、好ましくは有機酸であり、より好ましくはマレイン酸(pKa=1.92)、ギ酸(pKa=3.75)、酢酸(pKa=4.76)である。
【0195】
上記触媒(C)は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0196】
触媒(C)の量は、有機ケイ素化合物(A)と有機ケイ素化合物(B)の合計100質量%に対して(触媒(C)/{有機ケイ素化合物(A)+有機ケイ素化合物(B)})、0.05質量%以上が好ましく、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であり、20質量%以下が好ましく、より好ましくは18質量%以下、更に好ましくは13質量%以下である。
【0197】
4.水(D)
混合組成物(p)は、水(D)が混合される。水(D)の量は、混合組成物(p)全体を100質量%としたとき、2質量%以下であることが好ましく、このようにすることで皮膜形成時の反応を穏やかに進行させることができ、良好な皮膜を形成できるという利点を有する。水(D)の量は、1.5質量%以下が好ましく、より好ましくは1.0質量%以下であり、0.005質量%以上が好ましく、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.015質量%以上である。
【0198】
水(D)の量は、有機ケイ素化合物(A)と有機ケイ素化合物(B)の合計100質量%に対して(水(D)/{有機ケイ素化合物(A)+有機ケイ素化合物(B)})、40質量%以上が好ましく、より好ましくは60質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、また300質量%以下が好ましく、より好ましくは250質量%以下である。
【0199】
5.溶剤(E)
溶剤(E)は、水以外の溶剤を意味し、例えば、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アミド系溶媒等が挙げられる。
上記アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等が挙げられる。
上記エーテル系溶媒としては、例えば、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等が挙げられる。
上記ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(2-ブタノン)等が挙げられる。
上記エステル系溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。
上記アミド系溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。これらの中でも、アルコール系溶媒またはエーテル系溶媒が好ましく、アルコール系溶媒がより好ましい。
【0200】
溶剤(E)の量は、混合組成物(p)全体を100質量%としたとき、10質量%以上が好ましく、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上であり、99.95質量%以下が好ましく、より好ましくは99.90質量%以下、更に好ましくは99.80質量%以下である。
【0201】
混合組成物(p)は、本発明の効果を阻害しない範囲で、例えば、酸化防止剤、防錆剤、紫外線吸収剤、光安定剤、防カビ剤、抗菌剤、生物付着防止剤、消臭剤、顔料、難燃剤、帯電防止剤等の各種の添加剤を共存させてもよい。
【0202】
混合組成物(p)に用いられる成分の混合順序は特に限定されず、全ての成分を添加した後、20~80℃程度(好ましくは40℃~80℃)で1~6時間撹拌することが好ましい。混合組成物(p)から硬化した層(M)及び層(K1)が形成され、層(M)は、撥液層となり、撥水・撥油性に優れ、また層(M)と層(K1)を有する本発明の皮膜は耐摩耗性に優れている。
【0203】
次に、混合組成物(q)について説明する。上記混合組成物(q)にはポリシラザン(F)が用いられ、通常溶剤(I)も用いられる。また、混合組成物(q)には必要に応じて、ポリシラザン(F)の他、金属化合物(G)及びシロキサン鎖を含む化合物(H)の少なくとも1種が用いられていてもよい。
【0204】
6.ポリシラザン(F)
ポリシラザン(F)は、ケイ素-窒素結合を有する化合物であれば特に限定されないが、下記式(f1)で表される構造単位を有することが好ましい。
【0205】
【0206】
[式(f1)中、Rf11、Rf12及びRf13は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~10の炭化水素基、又はアルキルシリル基を表す。]
【0207】
Rf11~Rf13で表される炭素数1~10の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の直鎖状の飽和脂肪族炭化水素基;イソプロピル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、メチルペンチル基、エチルペンチル基、メチルヘキシル基、エチルヘキシル基、プロピルヘキシル基、tert-オクチル基等の分岐状の飽和脂肪族炭化水素基;シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等の環状の飽和脂肪族炭化水素基;ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基等の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基、p-tert-ブチルフェニル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、2,6-ジエチルフェニル基、2-メチル-6-エチルフェニル基等の芳香族炭化水素基;アルキルシクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アラルキル基等の上記に例示した炭化水素基を組合せた基が挙げられる。
【0208】
該炭素数1~10の炭化水素基が有していてもよい置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子から選ばれるハロゲン原子;ヒドロキシ基;ニトロ基;アミノ基;シアノ基;チオール基;エポキシ基;グリシドキシ基;(メタ)アクロイルオキシ基;環を形成する原子数が6~12のヘテロアリール基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1~3のアルコキシ基;環を形成する炭素数が6~12のアリールオキシ基等が挙げられる。
【0209】
Rf11~Rf13で表される炭素数1~10の炭化水素基としては、無置換の炭素数1~10の飽和脂肪族炭化水素基であることが好ましく、無置換の炭素数1~6の直鎖状の飽和脂肪族炭化水素基であることがより好ましく、無置換のメチル基、エチル基、プロピル基、またはブチル基であることが更に好ましく、メチル基であることが最も好ましい。
【0210】
Rf11~Rf13で表されるアルキルシリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリn-プロピルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリt-ブチルシリル基、メチルジエチルシリル基、ジメチルシリル基、ジエチルシリル基、メチルシリル基、エチルシリル基等が挙げられる。
【0211】
ポリシラザン(F)は、前記式(f1)において、Rf11及びRf12の少なくとも一方が炭素数1~10の炭化水素基である構造単位(f2)を有するポリシラザン、つまり有機ポリシラザンであることが好ましい。また、Rf13は水素原子であることが好ましい。
【0212】
ポリシラザン(F)は、前記構造単位(f2)に加えて更に、下記式(f3)で表される構造単位を有することがより好ましい。
【0213】
【0214】
[式(f3)中、Rf31及びRf32は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~10の炭化水素基を表し、Yfは、炭素数1~10の2価の炭化水素基を表し、複数のXfは、それぞれ独立に、加水分解性基を表す。]
【0215】
Rf31及びRf32で表される炭素数1~10の炭化水素基としては、上記Rf11~Rf13で表される炭素数1~10の炭化水素基で説明した基と同様のものが挙げられる。中でも、炭素数1~10の飽和脂肪族炭化水素基であることが好ましく、炭素数1~6の直鎖状の飽和脂肪族炭化水素基であることがより好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、またはブチル基であることが更に好ましい。
【0216】
Yfで表される2価の炭化水素基としては、その炭素数が1~4であることが好ましく、より好ましくは1~3、さらに好ましくは1~2である。前記2価の炭化水素基は、鎖状であることが好ましく、鎖状である場合、直鎖状、分岐鎖状のいずれであってもよい。また、前記2価の炭化水素基は、2価の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、アルカンジイル基であることが好ましい。前記2価の炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられる。
【0217】
さらに、前記2価の炭化水素基に含まれる一部の-CH2-は-O-に置き換わっていてもよい。この場合連続する2つの-CH2-が同時に-O-に置き換わることはなく、Si原子に隣接する-CH2-が-O-に置き換わることはない。2つ以上の-CH2-が-O-に置き換わっている場合、-O-と-O-の間の炭素原子数は、2~4であることが好ましく、2~3であることがさらに好ましい。2価の炭化水素基の一部が-O-に置き換わった基としては、具体的には、(ポリ)エチレングリコール単位を有する基、(ポリ)プロピレングリコール単位を有する基等を例示することができる。
【0218】
Xfの加水分解性基としては、加水分解によりヒドロキシ基(シラノール基)を与える基であればよく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1~4のアルコキシ基;ヒドロキシ基;アセトキシ基;塩素原子;イソシアネート基;等を好ましく挙げることができる。中でも、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましく、炭素数1~2のアルコキシ基がより好ましい。複数のXfは、同一でも異なっていてもよく、同一であることが好ましい。
【0219】
前記式(f3)のSiXf
3基は、前記ポリシラザン(F)100質量%に対して、2質量%以上含有することが好ましく、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは8質量%以上である。上限は限定されないが、50質量%以下であってもよく、40質量%以下であってもよく、30質量%以下であってもよい。
【0220】
ポリシラザン(F)が有機ポリシラザンの場合、Si-Hの水素原子、及びSiに結合した炭素数1~10の炭化水素基の含有比は適宜選択できるが、例えば炭化水素基/水素原子のモル比は0.1~50であり、好ましくは0.2~10である。なお、これらのモル比は、NMR測定等から算出できる。
【0221】
ポリシラザン(F)の量は、混合組成物(q)全体を100質量%としたとき、0.01質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、より更に好ましくは0.3質量%以上であり、また、2.5質量%以下が好ましく、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1.5質量%以下、より更に好ましくは1質量%以下である。
【0222】
7.金属化合物(G)
混合組成物(q)には、下記式(g1)で表される金属化合物(G)及びその縮合物の少なくともいずれか(好ましくは金属化合物(G)及びその縮合物)が混合されてもよい。
M(Rg10)r(Ag1)m-r (g1)
[式(g1)中、Mは、Al、Fe、In、Ge、Hf、Si、Ti、Sn、Zr、またはTaを表し、Rg10は、炭化水素鎖含有基、または水素原子を表し、rは、0または1である。複数のAg1は、それぞれ独立に、加水分解性基を表し、mは、金属原子Mの価数であって、3~5から選ばれる整数である。]
【0223】
上記金属化合物(G)は、上記式(g1)で表される通り、金属原子Mに、少なくとも加水分解性基Ag1が結合した化合物である。なお、本明細書において「金属」とは、SiやGeなどの半金属も含む意味で用いる。
【0224】
上記金属原子Mは、Al、Si、Ti、Sn、Zrが好ましく、Al、Si、Ti、Zrがより好ましく、Siが更に好ましい。
【0225】
上記Ag1で表される加水分解性基、および上記Rg10で表される炭化水素鎖含有基は、上記有機ケイ素化合物(A)で説明した加水分解性基、および炭化水素鎖含有基の中から適宜選択でき、好ましい範囲も同様である。
【0226】
上記mは、金属原子MがAl、Fe、In等の3価金属の場合には3であり、金属原子MがGe、Hf、Si、Ti、Sn、Zr等の4価金属の場合には4であり、金属原子MがTa等の5価金属の場合には5である。
【0227】
上記金属化合物(G)は2種以上用いてもよい。
【0228】
上記金属化合物(G)としては、r=0、すなわち金属原子Mに加水分解性基Ag1のみが結合した金属化合物G1;または、r=1、すなわち金属原子Mに、炭化水素鎖含有基、または水素原子が1つと、加水分解性基Ag1が2つ以上結合した金属化合物G2;が挙げられる。
【0229】
(金属化合物G1)
金属原子Mに、加水分解性基Ag1のみが結合した金属化合物G1としては、具体的には、トリエトキシアルミニウム、トリプロポキシアルミニウム、トリブトキシアルミニウム等のトリアルコキシアルミニウム;トリエトキシ鉄等のトリアルコキシ鉄;トリメトキシインジウム、トリエトキシインジウム、トリプロポキシインジウム、トリブトキシインジウム等のトリアルコキシインジウム;テトラメトキシゲルマニウム、テトラエトキシゲルマニウム、テトラプロポキシゲルマニウム、テトラブトキシゲルマニウム等のテトラアルコキシゲルマニウム;テトラメトキシハフニウム、テトラエトキシハフニウム、テトラプロポキシハフニウム、テトラブトキシハフニウム等のテトラアルコキシハフニウム;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン;テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン等のテトラアルコキシチタン;テトラメトキシスズ、テトラエトキシスズ、テトラプロポキシスズ、テトラブトキシスズ等のテトラアルコキシスズ;テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトラプロポキシジルコニウム、テトラブトキシジルコニウム等のテトラアルコキシジルコニウム;ペンタメトキシタンタル、ペンタエトキシタンタル、ペンタプロポキシタンタル、ペンタブトキシタンタル等のペンタアルコキシタンタル;等が挙げられる。
【0230】
(金属化合物G2)
金属原子Mに、炭化水素鎖含有基、または水素原子が1つと、加水分解性基Ag1が2つ以上結合した金属化合物G2は、金属原子Mが4価の金属(Ge、Hf、Si、Ti、Sn、Zr等)であることが好ましく、金属原子MがSiの場合の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン等のアルキルトリアルコキシシラン;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のアルケニルトリアルコキシシラン;トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン等のトリアルコキシシラン;ジメトキシメチルシラン、ジエトキシメチルシラン等のジアルコキシアルキルシラン等が挙げられる。
【0231】
上記金属化合物(G)としては、具体的には、下記式(g2)で表される化合物が好ましい。
Si(ORg21)yH4-y (g2)
[式(g2)中、Rg21は、炭素数1~6のアルキル基を表し、yは、3または4である。]
【0232】
上記Rg21で表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。上記Rg21で表されるアルキル基の炭素数は、1~4が好ましく、より好ましくは1~3、さらに好ましくは1または2である。
【0233】
上記金属化合物(G)の量は、例えば、混合組成物(q)全体を100質量%としたとき、0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、特に好ましくは0.15質量%以上であり、また、10質量%以下が好ましく、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0.8質量%以下である。
【0234】
上記ポリシラザン(F)と上記金属化合物(G)との合計量は、例えば、混合組成物(q)全体を100質量%としたとき、0.02質量%以上が好ましく、より好ましくは0.1質量%以上であり、また、10質量%以下が好ましく、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。
【0235】
8.シロキサン鎖を含む化合物(H)
上記シロキサン鎖を含む化合物(H)は、シロキサン結合を少なくとも1つ有する化合物であれば特に限定されず、シロキサン鎖は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。
【0236】
上記シロキサン鎖は、ジアルキルシロキサン鎖を含むことが好ましく、直鎖状ジアルキルシロキサン鎖を含むことがより好ましい。また前記シロキサン鎖は、シロキサン結合以外の2価の基をさらに含んでいてもよく、該2価の基としては、2価の炭化水素基、2価の炭化水素基の一部のメチレン基(-CH2-)が酸素原子に置き換わった基、及び-O-等が挙げられる。
【0237】
上記シロキサン鎖の末端には、シリル基が結合していることが好ましい。シリル基はケイ素原子に3つの置換基が結合した基であり、該置換基としては、水素原子、炭化水素鎖含有基、アルキルシリルオキシ基、アルキルシリル基とシロキサン鎖を含む基及び加水分解性基等が挙げられる。
【0238】
上記炭化水素鎖含有基は、通常、炭化水素基(炭化水素鎖)のみから構成されるが、必要により、この炭化水素鎖の一部のメチレン基(-CH2-)が酸素原子に置き換わった基であってもよい。また、Si原子に隣接するメチレン基(-CH2-)は酸素原子に置き換わることはなく、また連続する2つのメチレン基(-CH2-)が同時に酸素原子に置き換わることもない。
なお、炭化水素鎖部分の炭素数とは、酸素非置換型の炭化水素鎖含有基では炭化水素基(炭化水素鎖)を構成する炭素原子の数を意味し、酸素置換型の炭化水素鎖含有基では、酸素原子をメチレン基(-CH2-)と仮定して数えた炭素原子の数を意味するものとする。
以下、特に断りがない限り、酸素非置換型の炭化水素鎖含有基(すなわち1価の炭化水素基)を例にとって炭化水素鎖含有基について説明するが、いずれの説明でも、そのメチレン基(-CH2-)のうち一部を酸素原子に置き換えることが可能である。
【0239】
上記炭化水素鎖含有基は、それが炭化水素基の場合には、炭素数は1以上、3以下であることが好ましく、より好ましくは1である。また、前記炭化水素鎖含有基は、分岐鎖であっても直鎖であってもよい。前記炭化水素鎖含有基は、飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素鎖含有基であることが好ましく、飽和脂肪族炭化水素鎖含有基であることがより好ましい。前記飽和脂肪族炭化水素鎖含有基としては、飽和脂肪族炭化水素基(アルキル基)がより好ましい。飽和脂肪族炭化水素基には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が含まれる。
【0240】
飽和脂肪族炭化水素基の一部のメチレン基(-CH2-)が酸素原子に置き換わる場合、具体的には、(ポリ)エチレングリコール単位を有する基等を例示することができる。
【0241】
上記加水分解性基としては、加水分解によりヒドロキシ基(シラノール基)を与える基であればよく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1~6のアルコキシ基;ヒドロキシ基;アセトキシ基;塩素原子;イソシアネート基;等を好ましく挙げることができる。中でも、炭素数1~6のアルコキシ基であることが好ましく、炭素数1~4のアルコキシ基であることがより好ましく、炭素数1~2のアルコキシ基がさらに好ましい。
【0242】
上記シロキサン鎖の末端に結合するシリル基の1つのケイ素原子が複数の置換基を有している場合、複数の置換基は同一であっても異なっていてもよい。
【0243】
上記シロキサン鎖の少なくとも片側の末端には、少なくとも1つの加水分解性基が結合したケイ素原子が結合していることが好ましく、2つ以上の加水分解性基が結合したケイ素原子が結合していることがより好ましく、3つの加水分解性基が結合したケイ素原子が結合していることが更に好ましい。該加水分解性基が結合したケイ素原子は、シロキサン鎖の両末端に結合していてもよいが、片末端側にのみ結合していることが好ましい。
【0244】
上記シロキサン鎖の両末端には、置換基として3つのアルコキシ基を有するシリル基(トリアルコキシシリル基)、置換基として3つのアルキル基を有するシリル基(トリアルキルシリル基)、及び置換基として3つのトリアルキルシリルオキシ基を有するシリル基(トリス(トリアルキルシリルオキシ)シリル基)のいずれかが結合していることがより好ましく、片末端側にトリアルコキシシリル基、もう一方の末端側にトリアルキルシリル基又はトリス(トリアルキルシリルオキシ)シリル基が結合していることが特に好ましい。
【0245】
上記シロキサン鎖を含む化合物(H)のより好ましい態様としては、トリアルキルシリル基とシロキサン鎖を有する分子鎖(以下、この分子鎖を「分子鎖(ts1)」という場合がある)が、少なくとも1つのケイ素原子(以下、このケイ素原子を「中心ケイ素原子」という場合がある)に結合している化合物である。
【0246】
上記シロキサン鎖を含む化合物(H)において、中心ケイ素原子に結合する分子鎖(ts1)の個数は、1以上であり、3以下であることが好ましく、より好ましくは2以下であり、特に好ましくは1である。
【0247】
上記シロキサン鎖を含む化合物(H)の中心ケイ素原子には、分子鎖(ts1)のほか、加水分解性基、前記分子鎖(ts1)を構成する原子数よりも少ない原子数のシロキサン骨格含有基、又は分子鎖(ts1)を構成する原子数よりも少ない炭素数の炭化水素鎖を含有する炭化水素鎖含有基が結合していてもよい。
【0248】
上記シロキサン鎖を含む化合物(H)は、具体的には、下記式(h1)で表される化合物であることが好ましい。
【0249】
【0250】
[式(h1)中、Rh1は、トリアルキルシリル基とシロキサン鎖を有する分子鎖を表し、Ah1は、それぞれ独立に、加水分解性基を表し、Zh1は、トリアルキルシリル基とシロキサン鎖を有する分子鎖、シロキサン骨格含有基、又は炭化水素鎖含有基を表し、Rh1及びZh1の該トリアルキルシリル基に含まれる水素原子はフッ素原子に置換されていてもよく、xは、0~3の整数を表す。]
【0251】
上記Rh1のトリアルキルシリル基とシロキサン鎖を有する分子鎖(分子鎖(ts1))は、トリアルキルシリル含有基が前記シロキサン鎖の末端に結合した構造を有する1価の基である。トリアルキルシリル含有基のアルキル基は、フルオロアルキル基に置き換わっていてもよい。
【0252】
上記トリアルキルシリル含有基は、少なくとも1つのトリアルキルシリル基を含む基であり、好ましくは2つ以上、さらに好ましくは3つのトリアルキルシリル基を含む。
上記トリアルキルシリル含有基は、上記有機ケイ素化合物(A)と同様、上記式(s1)で表される基が好ましい。
【0253】
分子鎖(ts1)において、トリアルキルシリル含有基は、前記シロキサン鎖の末端(自由端側)、特にシロキサン鎖の主鎖(最長直鎖)の末端(自由端側)に結合していることが好ましい。
【0254】
トリアルキルシリル含有基が結合しているシロキサン鎖は、上記で説明したシロキサン鎖と同様であり、直鎖状ジアルキルシロキサン鎖を含むことが好ましい。また前記分子鎖は、2価の炭化水素基を含んでいてもよい。分子鎖の一部が2価の炭化水素基であっても、残部がジアルキルシロキサン鎖であるため、得られる皮膜の化学的・物理的耐久性が良好である。
【0255】
上記シロキサン鎖は、上記有機ケイ素化合物(A1)で示した上記式(s2)で表される基が好ましい。
【0256】
また、分子鎖(ts1)を構成する原子の合計数は、24以上であることが好ましく、より好ましくは40以上、さらに好ましくは50以上であり、上限の好ましい範囲は、順に5000以下、4000以下、2000以下、1200以下、700以下、250以下である。
【0257】
次に、式(h1)におけるAh1について説明する。Ah1は、それぞれ独立に、加水分解性基であり、加水分解によりヒドロキシ基(シラノール基)を与える基であればよく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1~6のアルコキシ基;ヒドロキシ基;アセトキシ基;塩素原子;イソシアネート基;等を好ましく挙げることができる。中でも、炭素数1~6のアルコキシ基であることが好ましく、炭素数1~4のアルコキシ基であることがより好ましく、炭素数1~2のアルコキシ基がさらに好ましい。
【0258】
式(h1)におけるZh1は、トリアルキルシリル基とシロキサン鎖を有する分子鎖、シロキサン骨格含有基、又は炭化水素鎖含有基を表す。Zh1がトリアルキルシリル基とシロキサン鎖を有する分子鎖である場合は、上記Rh1と同様のものが挙げられる。
【0259】
Zh1がシロキサン骨格含有基、である場合、該シロキサン骨格含有基、は、シロキサン単位(Si-O-)を含有する1価の基であり、Rh1の分子鎖(ts1)を構成する原子数よりも少ない数の原子で構成されるものであることが好ましい。これにより、シロキサン骨格含有基、は、分子鎖(ts1)よりも長さが短いか、立体的な広がり(かさ高さ)が小さな基となる。シロキサン骨格含有基、には、2価の炭化水素基が含まれていてもよい。
【0260】
上記シロキサン骨格含有基、は、上記有機ケイ素化合物(A)で示した上記式(s4)で表される基が好ましい。
【0261】
シロキサン骨格含有基の原子数の合計は、600以下が好ましく、より好ましくは500以下、さらに好ましくは350以下、100以下であることが一層好ましく、より一層好ましくは50以下、特に好ましくは30以下であり、10以上であることが好ましい。また、Rh1の分子鎖(ts1)とZh1のシロキサン骨格含有基の原子数の差は、10以上であることが好ましく、より好ましくは20以上であり、1000以下であることが好ましく、より好ましくは500以下、さらに好ましくは200以下である。
【0262】
Zh1が炭化水素鎖含有基である場合、分子鎖(ts1)を構成する原子数よりも炭化水素鎖部分の炭素数が少ないものであればよい。また、分子鎖(ts1)の最長直鎖を構成する原子数よりも、炭化水素鎖の最長直鎖の炭素数が少ないものであることが好ましい。炭化水素鎖含有基としては、上記で例示された炭化水素鎖含有基と同様の基を例示することができる。
【0263】
式(h1)におけるxは、2以下の整数が好ましく、より好ましくは0または1であり、更に好ましくは0である。
【0264】
式(h1)で表されるシロキサン鎖を含む化合物(H)としては、具体的には、式(h-I)で表される化合物が挙げられる。式(h-I)において、Ah10、Zh10、Rh20、h10、Yh10、Rh10は、下記表5-1、5-2、6-1、6-2に示す組み合わせが好ましい。
【0265】
【0266】
【0267】
【0268】
【0269】
【0270】
上記表5-1、5-2、6-1、6-2において、h10はより好ましくは2以上の整数であり、更に好ましくは3以上の整数であり、また50以下の整数がより好ましく、更に好ましくは40以下の整数であり、一層好ましくは30以下の整数であり、最も好ましくは25以下の整数である。
【0271】
上記シロキサン鎖を含む化合物(H)としては、下記式(h3)及び下記式(h4)で表されるものがより好ましい。
【0272】
【0273】
[式(h3)中、n2は、1~60の整数である。]
【0274】
【0275】
[式(h4)中、n4は、1~60の整数である。]
【0276】
上記n2及びn4は、より好ましくは2以上の整数、更に好ましくは3以上の整数であり、より好ましくは50以下の整数、更に好ましくは45以下の整数、より更に好ましくは30以下の整数、特に好ましくは25以下の整数である。
【0277】
所定量のシロキサン鎖を含む化合物(H)を用いることにより、組成物を基材に接触させる際の塗工性が向上する。
【0278】
上記シロキサン鎖を含む化合物(H)の合成方法の例としては、特開2017-201009号公報に記載の方法が挙げられる。
【0279】
上記混合組成物(q)に上記シロキサン鎖を含む化合物(H)が用いられる場合、その量は、例えば、混合組成物(q)全体を100質量%としたとき、0.005質量%以上が好ましく、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.03質量%以上であり、また、0.3質量%以下が好ましく、より好ましくは0.2質量%以下、更に好ましくは0.15質量%以下である。
【0280】
混合組成物(q)に上記シロキサン鎖を含む化合物(H)が用いられる場合、上記ポリシラザン(F)と上記シロキサン鎖を含む化合物(H)との合計量は、例えば、混合組成物(q)全体を100質量%としたとき、0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、また、2.6質量%以下が好ましく、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。
【0281】
混合組成物(q)に上記ポリシラザン(F)、上記金属化合物(G)、及び上記シロキサン鎖を含む化合物(H)が用いられる場合、これらの合計量は、例えば、混合組成物(q)全体を100質量%としたとき、0.3質量%以上が好ましく、より好ましくは0.4質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、また、5質量%以下が好ましく、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは1.5質量%以下である。
【0282】
9.溶剤(I)
混合組成物(q)は、溶剤(I)が用いられることが好ましい。
【0283】
上記溶剤(I)としては、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アミド系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒等が挙げられる。
【0284】
前記アルコール系溶媒としては、上記溶剤(E)として例示した溶媒以外に、1-プロポキシ2-プロパノール等が挙げられる。
前記エーテル系溶媒としては、上記溶剤(E)として例示した溶媒以外に、ジブチルエーテル等が挙げられる。
前記ケトン系溶媒としては、上記溶剤(E)として例示した溶媒が挙げられる。
前記エステル系溶媒としては、上記溶剤(E)として例示した溶媒が挙げられる。
前記アミド系溶媒としては、上記溶剤(E)として例示した溶媒が挙げられる。
前記脂肪族炭化水素系溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、メチルシクロヘキサン、ミネラルスピリット等が挙げられ、
前記芳香族炭化水素系溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等が挙げられる。
【0285】
中でも、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒が好ましく、脂肪族炭化水素系溶媒がより好ましい。これらの溶媒は1種類を用いても良いし、2種類以上を適宜混合して用いてもよい。コーティング液の安定性が増し、塗工ブレや塗工時の異物が低減できることから、上記溶剤(I)は、水分を有していないことが好ましい。
【0286】
上記溶剤(I)の量は、混合組成物(q)全体を100質量%としたとき、50質量%以上が好ましく、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。上限は、ポリシラザン(F)、金属化合物(G)、シロキサン鎖を含む化合物(H)、及びこれら以外の添加成分(以下、第三成分という)の量に応じて設定され、ポリシラザン(F)、金属化合物(G)、シロキサン鎖を含む化合物(H)、及び第三成分以外が溶剤(I)であってもよい。
【0287】
混合組成物(q)は、触媒を共存させてもよい。
前記触媒は、ポリシラザン(F)を硬化させ得る触媒であれば、特に制限されないが、例えば、1-メチルピペラジン、1-メチルピペリジン、4,4’-トリメチレンジピペリジン、4,4’-トリメチレンビス(1-メチルピペリジン)、ジアザビシクロ-[2,2,2]オクタン、シス-2,6-ジメチルピペラジン、4-(4-メチルピペリジン)ピリジン、ピリジン、ジピリジン、α-ピコリン、β-ピコリン、γ-ピコリン、ピペリジン、ルチジン、ピリミジン、ピリダジン、4,4’-トリメチレンジピリジン、2-(メチルアミノ)ピリジン、ピラジン、キノリン、キノキサリン、トリアジン、ピロール、3-ピロリン、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、1-メチルピロリジンなどのN-ヘテロ環状化合物、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ペンチルアミン、ジペンチルアミン、トリペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、トリヘキシルアミン、ヘプチルアミン、ジヘプチルアミン、オクチルアミン、ジオクチルアミン、トリオクチルアミン、フェニルアミン、ジフェニルアミン、トリフェニルアミンなどのアミン類、例えば、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]7-ウンデセン(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4,3,0]5-ノネン(DBN)、1,5,9-トリアザシクロドデカン、1,4,7-トリアザシクロノナンなどが挙げられる。
また、触媒としては上記触媒の他、ケイ素原子に結合する加水分解性基の加水分解、縮合触媒として作用する触媒も好ましく、かかる触媒として、例えば、酸性化合物;塩基性化合物;有機金属化合物;等が挙げられる。前記酸性化合物としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、過酸化水素、塩素酸、次亜塩素酸等の無機酸;酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、マレイン酸、ステアリン酸等の有機酸;等が挙げられる。前記塩基性化合物としては、アンモニア等が挙げられる。前記有機金属化合物としては、Al、Fe、Zn、Sn等の金属元素を中心金属とする有機金属化合物が挙げられ、カルボン酸アルミニウム、アルミニウムアセチルアセトン錯体、アルミニウムエチルアセトアセテート錯体等の有機アルミニウム化合物;カルボン酸鉄(オクチル酸鉄など)等の有機鉄化合物;亜鉛アセチルアセトナートモノハイドレート、ナフテン酸亜鉛、オクチル酸亜鉛等の有機亜鉛化合物;ジブチル錫ジアセテート錯体等の有機錫化合物;その他、有機金属化合物としては、Ni、Ti、Pt、Rh、Co、Ru、Os、Pd、Ir、などを含む金属カルボン酸塩;Ni、Pt、Pd、Rhなどを含むアセチルアセトナ錯体;Au、Ag、Pd、Ni、Zn、Tiなどの金属微粒子;金属過酸化物;メタルクロライド;フェロセン、ジルコノセンなどの金属のシクロペンタジエニル錯体等が挙げられる。
【0288】
混合組成物(q)にも本発明の効果を損なわない範囲で、上述した混合組成物(p)と同様の添加剤を共存させてもよい。
【実施例】
【0289】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0290】
混合組成物(q)-No.1qの作製
Durazane(登録商標) 1500 rapid cure (MERCK社製)0.5質量%(ポリシラザン(F))、テトラエトキシシラン0.3質量%(金属化合物(G))、および上記表5-2に示した(h-I-26)においてh10の平均が24である化合物(以下、化合物(1)と表記する。)0.05質量%(シロキサン鎖を含む化合物(H))を、イソオクタン99.15質量%(溶剤(I))に溶解させ、混合組成物(q)-No.1qを得た。
なお、Durazane 1500 rapid cureは、以下の下記式(f4)で表される構造単位を有する。
【0291】
【0292】
上記式(f4)中、Rは水素原子又はメチル基を表す。
【0293】
Durazane 1500 rapid cure(MERCK社製)は、9~27質量%のSi(OC2H5)3基を有しており、また、上記(f4)中の構造における、SiH基の水素原子とSi-CH3基のメチル基のモル比(メチル基/水素原子)は、いずれも2.39であった。前記Si(OC2H5)3基の質量比、及び水素原子とメチル基のモル比は、1H-NMR(400MHz,基準:CDCl3(=7.24ppm))の積分値に基づいて定めた。すなわち、積分値から有機ポリシラザン中のSiH、SiCH3、及びSi(OCH2CH3)3のモル比を求め、水素原子とメチル基のモル比を算出した。また、それぞれを質量比に換算して、有機ポリシラザン中に含まれるSi(OC2H5)3基の質量%を算出した。
【0294】
混合組成物(p)-No.1pの作製
上記化合物(1)(有機ケイ素化合物(A))、トリエトキシシラン(有機ケイ素化合物(B))を、イソプロピルアルコール(溶剤(E))に溶解させ、室温で10分撹拌した。得られた溶液に酢酸(触媒(C))および水(水(D))を滴下した後、65℃で2時間撹拌し、試料溶液1を得た。得られた試料溶液1をイソプロピルアルコールで希釈し、混合組成物(p)-No.1pを作製した。混合組成物(p)-No.1pにおける各化合物の割合(質量%)は下記表7に記載の通りである(他の実施例及び比較例について同じ)。
【0295】
混合組成物(p)-No.2p~7pの作製
上記混合組成物(p)-No.1pにおいて、有機ケイ素化合物(A)、金属化合物(B)、触媒(C)、水(D)、および溶剤(E)の種類及び/又は量を、下記表7に示すように変更した以外は上記混合組成物(p)-No.1pと同様にして上記混合組成物(p)-No.2p~7pを作製した。表中、化合物(2)とは、下記式で表される化合物である。
【0296】
【0297】
【0298】
皮膜No.1
大気圧プラズマ処理によって表面を活性化させたガラス基板5×5cm2(EAGLE XG、Corning社)を仰角45°となるように設置し、上記混合組成物(q)-No.1qを500μLガラス基板上面からかけ流し、常温常湿にて5分間乾燥させた。さらにその上から、上記混合組成物(p)-No.1pを500μLかけ流し、常温常湿にて1日風乾させることによって、ガラス基板上に皮膜を形成した。
【0299】
皮膜No.2~7
皮膜No.2~7(実施例)については上記皮膜No.1と同じ条件で、上記混合組成物(q)-No.1qを500μL、ガラス基板上面からかけ流し、常温常湿にて5分間乾燥させた。さらにその上から、上記混合組成物(p)No.2p~7pを500μLかけ流し、常温常湿にて1日風乾させることによって、ガラス基板上に皮膜を形成した。
【0300】
皮膜No.8
皮膜No.8(比較例)は、片末端反応性シリコーンオイル(X-24-9011、信越化学工業社製)1.5質量%(シロキサン鎖を含む化合物(H))、Durazane(登録商標) 1500 rapid cure (MERCK社製)5質量%(ポリシラザン(F))を、イソオクタン93.5質量%(溶剤(I))に溶解させた混合組成物を、ガラス基板上に滴下しスピンコータ(MIKASA社製)により、回転数3000rpm、20秒の条件で製膜した後、常温常湿で1日静置して皮膜No.8を得た。
【0301】
得られた皮膜を下記の方法で評価及び測定した。
【0302】
(1)各層の密度と膜厚の測定
測定には、リガク社製全自動多目的X線回折装置(SmartLab)を用いた。X線源として45kWのX線発生装置、CuターゲットによるCuKα線の波長λ=0.15418nmまたはCuKα1線の波長λ=0.15406nmを使用し、また、モノクロメータは、用いないかあるいはGe(220)モノクロ結晶を使用した。設定条件として、サンプリング幅は0.01°または0.002°、走査範囲0.0~2.5°または0.0~1.6°に設定した。そして、上記設定条件により測定し、反射率測定値を得た。得られた測定値を、同社解析ソフト(GlobalFit)を用いて解析した。より具体的には、膜厚、密度、構成成分のパラメーターを初期設定し、これらのパラメーターを少なくとも1個以上変化させて得られるシミュレーション演算プロファイルを、実測プロファイルと一致するようにフィッティングし、各層の膜厚、密度、構成成分を決定した。
【0303】
(2)接触角
協和界面科学社製の接触角測定装置「DM700」を用い、水滴量を3.0μLとし、解析方法をθ/2法として皮膜表面の水に対する接触角を測定した。接触角は、後記する流水試験後の接触角も同様にして測定した。
【0304】
(3)滑落速度
皮膜表面に水を滴下し、皮膜表面における水滴の滑落速度によって撥水性を評価した。具体的には、協和界面科学株式会社製の接触角測定装置「DM700」を用い、20°に傾けたガラス基板上の皮膜表面に50μLの水を滴下し、水滴が、初期滴下位置から15mm滑落するまでの時間を測定し、皮膜表面における水滴の滑落速度(mm/秒)を算出した。水滴の滑落速度は、後記する流水試験後の滑落速度も同様にして測定した。
【0305】
(4)耐摩耗性
皮膜の上に水2.5mLを滴下し、その上にシリコンシート(SR-400、タイガースポリマー社製)を接触させた。そして、シリコーンシートの上から荷重500gをかけた状態で、往復速度が毎分400mmの条件にて、20mmの距離を400回刻みで、シリコーンシートと皮膜を擦り、摩耗した部位の中央部分3点における接触角をそれぞれ測定し、3点中2点が85°以下に低下するまでの回数を測定した。
【0306】
(5)流水試験後のシラノール基量の測定
流水試験の方法
ガラス基板上に塗布した皮膜を、塩水噴霧試験機(スガ試験機製 型式;STP-90V-4)に15°の角度で保持した。JIS Z2371に従い、塩水の代わりに純水を用いて皮膜を純水に24時間暴露することで流水試験を実施した。
シラノール基量の測定方法
ガラス基板上に塗布した皮膜を、蓋つきガラスカップ内に垂直に保持した。無水トリフルオロ酢酸を2mL皮膜に触れないようにガラスカップの底に入れ、40℃で1時間静置することで、皮膜を無水トリフルオロ酢酸蒸気に暴露させた。皮膜を取り出したのち、真空減圧乾燥を12時間行った。真空減圧乾燥後の皮膜を下記のX線光電子分光法(XPS)で測定し、皮膜表面のシラノール基量をフッ素量として定量した。シラノール基と反応する無水トリフルオロ酢酸とシラノール基との反応量論比は3:1であることから、測定から得られたフッ素量からシラノール基量を算出した。
XPS測定条件
XPS測定には、日本電子社製 JFS-9010型を用いた。励起X線として、MgKαを用い、X線出力は110Wとし、光電子脱出角度は30°、パスエネルギー10eVにて、フッ素(F1s)、酸素(O1s)、炭素(C1s)、ケイ素(Si2/3)の各種元素について、測定を行った。さらに測定スペクトルの化学シフトの帯電補正は、各種標準サンプルなどで実施することができるが、今回は炭素のC1sによるスペクトルをエネルギー基準284eVと補正した。
【0307】
(6)撥油性の評価
撥油性の評価方法としては、皮膜の上に、マジック(サクラ製ペンタッチ油性中字)を用いて丸を描き、その後、ワイピングクロスのザビーナ(登録商標)で拭き取った。マジック痕が拭き取れた場合は○、拭き取れなかった場合は×とした。マジック痕が拭き取れるということは撥油性も良好であることを示す。
【0308】
結果を表8に示す。
【0309】
【0310】
また、上記したフィッティング処理は、層(M)が、化合物(1)又は化合物(2)から形成される層である、すなわちジメチルシロキサン骨格を有する層であり、層(K1)はシロキサン構造を有する層であり、層(K2)は用いた有機ポリシラザンから形成される層であり、すなわちメチル基が結合したケイ素原子及び窒素原子が結合したケイ素原子を有する層であると初期設定することにより行った。
【0311】
実施例である皮膜No.1~7では、密度が0.7g/cm3以上、1.0g/cm3未満である層(M)と、該層(M)に接する層であって密度が1.0g/cm3以上、2.2g/cm3未満である層(K1)を有する皮膜となっていたため、耐摩耗性に優れていた。一方、混合組成物(p)及び(q)を用いなかった皮膜No.8では、最表層とその隣の層の密度がいずれも、本発明の層(M)及び層(K1)の密度の範囲を満足せず、耐摩耗性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0312】
本発明の撥水層形成用組成物を用いて得られる皮膜は、撥水・撥油性、および耐摩耗性に優れている。そのため、本発明の撥水層形成用組成物を用いて処理した基材は、タッチパネルディスプレイ等の表示装置、光学素子、半導体素子、建築材料、自動車部品、ナノインプリント技術等における基材として有用である。また、本発明の撥水層形成用組成物から形成される皮膜は、電車、自動車、船舶、航空機等の輸送機器におけるボディー、窓ガラス(フロントガラス、サイドガラス、リアガラス)、ミラー、バンパー等の物品として好適に用いられる。また、建築物外壁、テント、太陽光発電モジュール、遮音板、コンクリートなどの屋外用途にも用いることができる。また、漁網、虫取り網、水槽などにも用いることができる。更に、台所、風呂場、洗面台、鏡、トイレ周りの各部材の物品、シャンデリア、タイルなどの陶磁器、人工大理石、エアコン等の各種屋内設備にも利用可能である。また、工場内の治具や内壁、配管等の防汚処理としても用いることができる。また、ゴーグル、眼鏡、ヘルメット、パチンコ、繊維、傘、遊具、サッカーボールなどにも好適である。更に、食品用包材、化粧品用包材、ポットの内部など、各種包材の付着防止剤としても用いることができる。