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特許7170017成膜装置、これを用いた成膜方法及び電子デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-02
(45)【発行日】2022-11-11
(54)【発明の名称】成膜装置、これを用いた成膜方法及び電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/00 20060101AFI20221104BHJP
   C23C 14/04 20060101ALI20221104BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20221104BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20221104BHJP
【FI】
C23C14/00 B
C23C14/04 A
H05B33/10
H05B33/14 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020172700
(22)【出願日】2020-10-13
(65)【公開番号】P2021080560
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2020-10-13
(31)【優先権主張番号】10-2019-0149442
(32)【優先日】2019-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(74)【代理人】
【識別番号】100188868
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 智丈
(74)【代理人】
【識別番号】100221327
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 亮
(72)【発明者】
【氏名】新海 達也
(72)【発明者】
【氏名】中島 隆介
(72)【発明者】
【氏名】中津川 雅史
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-021170(JP,A)
【文献】特開2008-144214(JP,A)
【文献】特開2010-174344(JP,A)
【文献】特開2006-111916(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00
C23C 14/04
H05B 33/10
H01L 51/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内において、成膜源から放出される成膜材料をマスクを介して基板に成膜する成膜装置であって、
前記チャンバ内に配置され、前記成膜源から飛散する成膜材料が付着する複数の防着部材を有し、
前記複数の防着部材は、前記成膜源と対向する前記防着部材の対向面と前記基板の成膜面の法線との角度が、前記法線の方向における前記マスクからの距離に応じて異なり、前記法線の方向における前記マスクからの距離が遠い防着部材ほど前記対向面と前記法線との角度が小さいことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記複数の防着部材は、第1防着部材と、第2防着部材とを含み、
前記第1防着部材及び前記第2防着部材は、別体であり、それぞれ前記チャンバの同じ側の壁面側の異なる場所に設けられた壁面側端部と、前記チャンバの内側の中央側端部と、を有し、
前記第1防着部材及び前記第2防着部材は、前記基板の成膜面の法線方向において、前記壁面側端部よりも前記中央側端部が前記マスクと近くなるように前記チャンバの壁面に対して傾斜して設置され、
前記第2防着部材と前記マスクとの距離は、前記第1防着部材と前記マスクとの距離よりも大きく、
前記成膜源と対向する前記第1防着部材の第1対向面と前記基板の成膜面の法線との第1の角度が、前記成膜源と対向する前記第2防着部材の第2対向面と前記法線との第2の角度より大きいことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
チャンバ内において、成膜源から放出される成膜材料をマスクを介して基板に成膜する成膜装置であって、
前記チャンバ内に配置され、前記成膜源から飛散する成膜材料が付着する第1防着部材と、
前記チャンバ内に配置され、前記マスクとの距離が前記第1防着部材と前記マスクとの距離よりも大きく、前記成膜源から飛散する成膜材料が付着する第2防着部材と、を備え、
前記成膜源と対向する前記第1防着部材の第1対向面と前記基板の成膜面の法線との第1の角度は、前記成膜源と対向する前記第2防着部材の第2対向面と前記法線との第2の角度より大きいことを特徴とする成膜装置。
【請求項4】
前記チャンバ内に配置され、前記マスクとの距離が前記第2防着部材と前記マスクとの距離よりも大きく、前記成膜源から飛散する成膜材料が付着する第3防着部材をさらに有し、
前記成膜源と対向する前記第3防着部材の第3対向面と前記法線との第3の角度は、前記第2の角度より小さいことを特徴とする請求項3に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記第1防着部材の前記成膜源と対向する面は、鏡面加工されていることを特徴とする請求項~4のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項6】
チャンバ内において、成膜源から放出される成膜材料をマスクを介して基板に成膜する成膜装置であって、
前記チャンバ内に配置され、前記成膜源から飛散する成膜材料が付着する防着部材を有し、
前記防着部材は、前記基板の成膜面の法線方向において、前記チャンバの壁面と接続する端部よりも前記チャンバの内側の中央側端部が前記マスクと近くなるように前記チャンバの壁面に対して傾斜して設置され、かつ、前記壁面と接続する端部と前記中央側端部とを結ぶ直線の延長線が前記マスクの中央を通るように設置されていることを特徴とする成膜装置。
【請求項7】
前記チャンバ内に配置された複数の前記防着部材は、前記成膜源と対向する前記防着部材の対向面と前記基板の成膜面の法線との角度が、前記法線の方向における前記マスクからの距離に応じて異なり、
前記防着部材の前記成膜源と対向する面は、鏡面加工されていることを特徴とする請求項6に記載の成膜装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の成膜装置を用いて、前記成膜装置のチャンバの内部でマスクを介して基板に成膜材料を成膜することを特徴とする成膜方法。
【請求項9】
請求項8に記載の成膜方法を用いて、電子デバイスを製造することを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置、これを用いた成膜方法及び電子デバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置(有機ELディスプレイ)は、スマートフォン、テレビ、自動車用ディスプレイだけでなく、VR HMD(Virtual Reality Head Mount Display)などにその応用分野が広がっている。特に、VR HMDに用いられるディスプレイは、ユーザーのめまいを低減するなどのために画素パターンを高精細に形成することが求められる。すなわち、さらなる高解像度化が求められている。
【0003】
有機EL表示装置の製造においては、有機EL表示装置を構成する有機発光素子(有機EL素子;OLED)を形成する際に、成膜装置の成膜源から放出された成膜材料を、画素パターンが形成されたマスクを介して、基板に成膜することで、有機物層や金属層を形成する。
【0004】
このような成膜装置においては、成膜源から放出された成膜材料がマスクや基板以外の場所にも付着し堆積する。堆積した成膜材料はある程度の膜厚まで成長すると剥離しやすくなり、パーティクルの発生源となる。そのため、堆積した成膜材料を定期的に除去するメンテナンスが行われる。従来、このメンテナンスを容易に行うために、成膜源から放出された成膜材料が飛散するマスクや基板以外の場所に、チャンバから取り出し可能な防着板を設置することが行われている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-174344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
チャンバ内に防着板が設置される場合、防着板は成膜源からの輻射熱や飛散してくる成膜材料によって加熱され、温度が上昇する。防着板の温度が上昇すると、防着板から発生する輻射熱によって基板やマスクが加熱される。基板やマスクが加熱されて温度上昇すると、基板とマスクの熱膨張率が異なることに起因して、基板とマスクの相対位置にズレが生じてしまう。すなわち、チャンバ内に配置した防着板によって基板やマスクが加熱されて成膜精度が低下してしまうという課題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記の従来技術の有する課題に鑑み、成膜精度の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態による成膜装置は、チャンバ内において、成膜源から放出される成膜材料をマスクを介して基板に成膜する成膜装置であって、前記チャンバ内に配置され、前記成膜源から飛散する成膜材料が付着する複数の防着部材を有し、前記複数の防着部材は、前記成膜源と対向する前記防着部材の対向面と前記基板の成膜面の法線との角度が、前記法線の方向における前記マスクからの距離に応じて異なり、前記法線の方向における前記マスクからの距離が遠い防着部材ほど前記対向面と前記法線との角度が小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、成膜精度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、電子デバイスの製造装置の一部の構成を模式的に示す平面図である。
図2図2は、本発明の一実施形態による成膜装置の構成を示す模式図である。
図3図3は、本発明の一実施形態による防着部材の配置構造を示す、成膜装置の模式断面図である。
図4図4は、電子デバイスを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ本発明の好ましい実施形態および実施例を説明する。ただし、以下の実施形態および実施例は、本発明の好ましい構成を例示的に表すものであり、本発明の範囲は、これらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成およびソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状などは、限定的な記載がない限り、本発明の範囲をこれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0012】
本発明は、基板の表面に各種材料を堆積させて成膜を行う装置に適用することができ、真空蒸着によって所望のパターンの薄膜(材料層)を形成する装置に好適に適用することができる。
【0013】
基板の材料としては、半導体(例えば、シリコン)、ガラス、高分子材料のフィルム、金属などの任意の材料を選ぶことができ、基板は、例えば、シリコンウエハ、又はガラス基板上にポリイミドなどのフィルムが積層された基板であってもよい。また、成膜材料としても、有機材料、金属性材料(金属、金属酸化物)などの任意の材料を選ぶことができる。
【0014】
なお、本発明は、加熱蒸発による真空蒸着装置以外にも、スパッタ装置やCVD(Chemical Vapor Deposition)装置を含む成膜装置にも、適用することができる。本発明の技術は、具体的には、半導体デバイス、磁気デバイス、電子部品などの各種電子デバイスや、光学部品などの製造装置に適用可能である。電子デバイスの具体例としては、発光素子や光電変換素子、タッチパネルなどが挙げられる。本発明は、中でも、OLEDなどの有機発光素子や、有機薄膜太陽電池などの有機光電変換素子の製造装置に好ましく適用可能である。なお、本発明における電子デバイスは、発光素子を備えた表示装置(例えば有機EL表示装置)や照明装置(例えば有機EL照明装置)、光電変換素子を備えたセンサ(例えば有機CMOSイメージセンサ)も含むものである。
【0015】
<電子デバイスの製造装置>
図1は、電子デバイスの製造装置の一部の構成を模式的に示す平面図である。
【0016】
図1の製造装置は、例えば、スマートフォン用の有機EL表示装置、またはVR HMD用の有機EL表示装置の表示パネルの製造に用いられる。スマートフォン用の表示パネルの場合、例えば、4.5世代の基板(約700mm×約900mm)や6世代のフルサイズ(約1500mm×約1850mm)又はハーフカットサイズ(約1500mm×約925mm)の基板に、有機EL素子の形成のための成膜を行った後、該基板を切り抜いて複数の小さなサイズのパネルに製作する。VR HMD用の表示パネルの場合、例えば、所定のサイズ(例えば、300mm)のシリコンウエハに有機EL素子の形成のための成膜を行った後、素子形成領域の間の領域(スクライブ領域)に沿って該シリコンウエハを切り抜いて複数の小さなサイズのパネルに製作する。
【0017】
電子デバイスの製造装置は、一般的に、複数のクラスタ装置1と、クラスタ装置1の間を繋ぐ中継装置とを含む。
【0018】
クラスタ装置1は、基板Wに対する処理(例えば、成膜)を行う複数の成膜装置11と、使用前後のマスクを収納する複数のマスクストック装置12と、その中央に配置される搬送室13と、を具備する。搬送室13は、図1に示すように、複数の成膜装置11およびマスクストック装置12のそれぞれと接続されている。
【0019】
搬送室13内には、基板およびマスクを搬送する搬送ロボット14が配置されている。搬送ロボット14は、上流側に配置された中継装置のパス室15から成膜装置11へと基板Wを搬送する。また、搬送ロボット14は、成膜装置11とマスクストック装置12との間でマスクを搬送する。搬送ロボット14は、例えば、多関節アームに、基板W又はマスクを保持するロボットハンドが取り付けられた構造を有するロボットである。
【0020】
成膜装置11(蒸着装置とも呼ぶ)では、蒸発源に収納された蒸着材料がヒータによって加熱されて蒸発し、マスクを介して基板上に蒸着される。搬送ロボット14との基板Wの受け渡し、基板Wとマスクの相対位置の調整(アライメント)、マスク上への基板Wの固定、成膜(蒸着)などの一連の成膜プロセスは、成膜装置11によって行われる。
【0021】
マスクストック装置12には、成膜装置11での成膜工程に使われる新しいマスクと、使用済みのマスクとが、二つのカセットに分けて収納される。搬送ロボット14は、使用済みのマスクを成膜装置11からマスクストック装置12のカセットに搬送し、マスクストック装置12の他のカセットに収納された新しいマスクを成膜装置11に搬送する。
【0022】
クラスタ装置1には、基板Wの流れ方向において上流側からの基板Wを当該クラスタ装置1に伝達するパス室15と、当該クラスタ装置1で成膜処理が完了した基板Wを下流側の他のクラスタ装置に搬送するためのバッファー室16が連結される。搬送室13の搬送ロボット14は、上流側のパス室15から基板Wを受け取って、当該クラスタ装置1内の成膜装置11の一つ(例えば、成膜装置11a)に搬送する。また、搬送ロボット14は、当該クラスタ装置1での成膜処理が完了した基板Wを複数の成膜装置11の一つ(例えば、成膜装置11b)から受け取って、下流側に連結されたバッファー室16に搬送する。
【0023】
バッファー室16とパス室15との間には、基板の向きを変える旋回室17が設置される。旋回室17には、バッファー室16から基板Wを受け取って基板Wを180°回転させ、パス室15に搬送するための搬送ロボット18が設けられる。これにより、上流側のクラスタ装置と下流側のクラスタ装置で基板Wの向きが同じくなり、基板処理が容易になる。
【0024】
パス室15、バッファー室16、旋回室17は、クラスタ装置間を連結する、いわゆる中継装置であり、クラスタ装置の上流側及び/又は下流側に設置される中継装置は、パス室、バッファー室、旋回室のうち少なくとも1つを含む。
【0025】
成膜装置11、マスクストック装置12、搬送室13、バッファー室16、旋回室17などは、有機発光素子の製造の過程で、高真空状態に維持される。パス室15は、通常低真空状態に維持されるが、必要に応じて高真空状態に維持されてもいい。
【0026】
本実施形態では、図1を参照して、電子デバイスの製造装置の構成について説明したが、本発明はこれに限定されず、他の種類の装置やチャンバを有してもよく、これらの装置やチャンバ間の配置が変わってもいい。例えば、本発明の一実施形態による電子デバイスの製造装置は、図1に示すクラスタタイプでなく、インラインタイプであってもいい。つまり、基板とマスクをキャリアに搭載して、一列で並んでいる複数の成膜装置内を搬送させながら成膜を行う構成を有しても良い。また、クラスタタイプとインラインタイプを組み合わせたタイプの構造を有しても良い。例えば、有機層の成膜まではクラスタタイプの製造装置で行い、電極層(カソード層)の成膜工程から、封止工程及び切断工程などはインラインタイプの製造装置で行うこともできる。
【0027】
以下、成膜装置11の具体的な構成について説明する。
【0028】
<成膜装置>
図2は、本発明の一実施形態による成膜装置11の構成を示す模式図である。
【0029】
成膜装置11は、成膜源の成膜材料を加熱することで蒸発または昇華させ、マスクMを介して基板Wに成膜する。基板WとマスクMの相対位置の調整(アライメント)は、ステージ駆動により位置合わせを行うことで実施される。アライメントから成膜に至る一連の成膜プロセスは、真空蒸着装置内において行われる。
【0030】
成膜装置11は、真空雰囲気または窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に維持される真空チャンバ21より成る。基板Wの位置を調整する微動ステージ機構22と、基板Wを吸着保持する基板吸着手段24と、マスクMを支持するマスク置台23と、マスクMの位置を調整する粗動ステージ232と、成膜材料を加熱放出する成膜源25を含む。
【0031】
本発明の一実施形態による成膜装置11は、磁気力によって金属製のマスクMを基板W側に密着させるための磁力印加手段26をさらに含むことができる。
【0032】
本発明の一実施形態による成膜装置11の真空チャンバ21は、真空ポンプPを接続することにより、真空チャンバ21の内部空間を高真空状態に維持することができる。
【0033】
微動ステージ機構22は、基板Wまたは基板吸着手段24の位置を調整するためのステージ機構であって、基板WのマスクMに対する相対位置をしきい値以下にすることを可能とする。微動ステージ機構22は、支持構造体として機能する基準プレート部221(第1プレート部)と、可動台として機能する微動ステージプレート部222(第2プレート部)とを含む。
【0034】
微動ステージ機構22は、基板Wまたは基板吸着手段24の位置を高精度で調整することを可能にするため、磁気浮上リニアモータによって駆動される磁気浮上ステージ機構として構成することができる。即ち、例えば、基準プレート部221に電流が流れるコイルを固定子として設置するとともに、これに対応する微動ステージプレート部222の領域には可動子として永久磁石を設置し、基準プレート部221に対して微動ステージプレート部222を磁気浮上させた状態で移動させることで、微動ステージプレート部222の一主面(例えば、下面)に搭載される基板吸着手段24及びこれに吸着された基板Wの位置を高精度で調整することができる。微動ステージ機構22は、微動ステージプレート部222の位置を測定するための位置測定手段と、微動ステージプレート部222にかかる重力を補償するための自重補償手段と、微動ステージプレート部222の原点位置を決めるための原点位置決め手段などを更に含むことができる。
【0035】
マスク置台23は、マスクMを設置および固定する支持構造体であり、粗動ステージ232上に設置されている。これにより、マスクMの基板Wに対する相対位置および鉛直方向の間隔を調整することができる。
【0036】
マスクMは、基板W上に形成される薄膜パターンに対応する開口パターンを有し、マスク置台23によって支持される。例えば、VR HMD用の有機EL表示パネルを製造するのに使われるマスクMは、有機EL素子の発光層のRGB画素パターンに対応する微細な開口パターンが形成された金属製マスクであるファインメタルマスク(Fine Metal Mask)と、有機EL素子の共通層(正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層など)を形成するのに使われるオープンマスク(Open Mask)とを含む。マスクMの開口パターンは、成膜材料の粒子を通過させない遮断パターンによって定義される。また、マスクMはシリコンを材料として製作されることもある。
【0037】
基板吸着手段24は、装置内に搬入された被成膜体としての基板Wを吸着して保持する手段である。基板吸着手段24は、微動ステージ機構22の可動台である微動ステージプレート部222に設置される。基板吸着手段24は、例えば、誘電体又は絶縁体(例えば、セラミック材質)マトリックス内に金属電極などの電気回路が埋設された構造を有する静電チャックである。基板吸着手段24としての静電チャックは、電極と吸着面との間に相対的に抵抗が高い誘電体が介在して、電極と被吸着体との間のクーロン力によって吸着が行われるクーロン力タイプの静電チャックであってもよいし、電極と吸着面との間に相対的に抵抗が低い誘電体が介在して、誘電体の吸着面と被吸着体との間に発生するジョンソン・ラーベック力によって吸着が行われるジョンソン・ラーベック力タイプの静電チャックであってもよいし、不均一電界によって被吸着体を吸着するグラジエント力タイプの静電チャックであってもよい。被吸着体が導体または半導体(シリコンウエハ)である場合には、クーロン力タイプの静電チャックまたはジョンソン・ラーベック力タイプの静電チャックを用いることが好ましく、被吸着体がガラスのような絶縁体である場合には、グラジエント力タイプの静電チャックを用いることが好ましい。
【0038】
成膜源25は、基板Wに成膜される成膜材料が収納されるるつぼ(不図示)、るつぼを加熱するためのヒータ(不図示)などを含む。成膜源25は、点(point)成膜源や線状(linear)成膜源など、用途に従って多様な構成を有することができる。
【0039】
磁力印加手段26は、成膜時に磁力によって金属製のマスクMを基板W側に引き寄せて密着させるための手段であって、鉛直方向に昇降可能に設置される。例えば、磁力印加手段26は、電磁石や永久磁石で構成される。真空チャンバ21の上部外側(大気側)には、磁力印加手段26を昇降させるための昇降機構27が設置される。基板WとマスクMが接触する蒸着位置に達すると、磁力印加手段26を下降させ、静電チャック24および基板W越しにマスクMを引き寄せることで、基板WとマスクMを密着させる。ここで、マスクMが金属でなくシリコンで製作される場合には、磁力印加手段26は不要となる。
【0040】
成膜装置11は、真空チャンバ21の内部には、防着部材30が配置されている。防着部材30は、成膜源25から放出される成膜材料のうち、マスクM以外の方向に飛散する成膜材料が、成膜装置11の基板W以外の他の部品に付着することを防止する。この防着部材30は、ステンレスやアルミニウムなどの金属製の板材によって作製されており、成膜が繰り返して行われるたびに、余計な成膜材料が付着されるため、洗浄のために定期的に着脱して真空チャンバ21の外部に搬出することができる構造になっている。防着部材30は、真空チャンバ21の内部の異なる領域を効果的にカバーするように、複数設けることができる。本発明の実施形態による防着部材30の詳細な配置構造については、後述する。
【0041】
上述の説明では、成膜装置11は、基板Wの成膜面が鉛直方向下方を向いた状態で成膜が行われる、いわゆる上向き蒸着方式(デポアップ)の構成としたが、本発明はこれに限定されない。基板Wが真空チャンバ21の側面側に垂直に立てられた状態で配置され、基板Wの成膜面が重力方向と平行な状態で成膜が行われる構成であってもよい。また、マスクMに対する基板Wの相対位置を調整する(アライメント)ための構成として、基板Wを基板吸着手段である静電チャックに吸着した状態で磁気浮上ステージ機構により移動させる例について説明したが、基板とマスクをそれぞれ外周を支持する支持台に載置し、これらを機械的なモーター、ボールねじ、リニアガイドなどで構成される機械的ステージ機構によって移動させてもよい。
【0042】
<成膜プロセス>
以下、本実施形態による成膜装置を使用した成膜方法について説明する。
【0043】
真空チャンバ21内のマスク置台23にマスクMが支持された状態で、基板Wが真空チャンバ21内に搬入される。搬入された基板Wが基板吸着手段24に十分に近接あるいは接触した後に、基板吸着手段24に基板吸着電圧を印加し、基板Wを吸着させる。基板WとマスクMのアライメントは、微動ステージ機構22および粗動ステージ232を駆動させることで行う。基板WとマスクMとの相対位置のずれ量が所定のしきい値より小さくなると、磁力印加手段26を下降させ、基板WとマスクMを密着させた後、成膜材料を基板Wに成膜する。所望の厚さに成膜した後、磁力印加手段26を上昇させてマスクMを分離し、基板Wを搬出する。
【0044】
<防着部材配置構造>
図3は、本発明の一実施形態による防着部材30の配置構造を示す、成膜装置の模式断面図である。
【0045】
図3において、真空チャンバ21の底面に成膜源25が設けられている。成膜源25には成膜材料の放出孔があり、その放出孔の指向する先に、基板WおよびマスクMが成膜する面を放出孔に向けて配置されている。マスクMには、成膜材料を所望の箇所において通過させるパターン孔が設けられており、成膜源25から放出された成膜材料が、マスクMを介して基板Wに所望のパターンで付着することが可能になる。
【0046】
成膜源25から成膜材料を放出するために成膜源25内のるつぼ25aの内部を例えば、500℃の高温に加熱する。
【0047】
また、真空チャンバ21の内部には、防着部材30が成膜源25を囲うように真空チャンバ21の壁に隣接して設置されている。これにより、成膜源25から放出されてマスクM以外の方向へ飛散する成膜材料は、防着部材30に付着する。
【0048】
防着部材30は、通常、ステンレスやアルミニウムなどの金属製の板材によって製作される。このような防着部材30は、前述したように、成膜時に成膜源25からの輻射熱を受けて温度上昇し、基板WとマスクMの相対位置に影響を与える輻射熱源となり、基板WとマスクMのアライメント精度を落とす原因となり得る。
【0049】
本発明によれば、まず、防着部材30の配置角度を最適化して、輻射熱源となる防着部材30による基板WとマスクMの相対位置の変化を抑制する。より具体的に、防着部材30は、被輻射体であるマスクMに対する形態係数を最小化することができる角度で設置される。ここで、形態係数とは、被輻射体から見た輻射熱源の面積を意味し、形態係数が小さいほど、同じ輻射熱源による影響も減る。
【0050】
本発明の実施形態によれば、防着部材30は、真空チャンバ21の壁面に対して傾斜して設置される。より詳細には、たとえば、防着部材30が成膜源25とマスクMとの間に配置される場合、防着部材30は、基板の成膜面の法線方向において、真空チャンバ21の壁面と接続する端部(壁面側端部)よりも真空チャンバ21の内側の中央側端部がマスクMに近くなるように傾斜して設置され、かつ、壁面側端部と中央側端部を結ぶ直線の延長線が概略マスクMの中心に向かうように設置される。これにより、マスクMから見た防着部材30の面積を減し、防着部材30から基板W及びマスクMへの形態係数を抑えることによって、防着部材30から基板W及びマスクMへ及ばされる輻射熱量を抑えることができる。したがって、基板WとマスクMのアライメント精度が低下することを抑制することができる。
【0051】
このような本発明の実施形態によれば、防着部材30の配置角度は、マスクMとの相対位置により異なる。具体的に、防着部材30が、マスクMに対する相対位置(図3の場合には、垂直方向への距離)が異なる、複数の防着部材31~34を有する場合、各防着部材31~34の成膜源と対向する対向面と基板の成膜面の法線とがなす角(図3のθ1、θ2、θ3、θ4)は、基板の成膜面の法線方向におけるマスクMからの距離が遠くなるにつれ、小さくなる(θ1>θ2>θ3>θ4)。
【0052】
本実施形態の一態様によれば、防着部材30の表面は、放射率を低減することができる、材料および/または構造で形成してもよい。より具体的に、防着部材30は、ステンレスやアルミニウムなどの金属製の板材で形成するが、防着部材30の真空チャンバ21壁面と対向する外側表面30aは、ニッケル鍍金層として形成し、放射率の低減を図ることができる。また、必要な場合、ニッケル鍍金を施した上で研磨により鏡面加工することで更に放射率の低減を図る。これにより、真空チャンバ21の壁面を通した外気の輻射熱影響を削減することができる。
【0053】
また、防着部材30の成膜源25と対向する内側表面30bも、外側表面30aと同様に、ニッケル鍍金層として形成し、また、必要な場合、鏡面加工することで放射率の低減を図ることができる。これにより、成膜源25からの輻射熱を受けることによる、防着部材30の温度上昇を抑えることができる。
【0054】
なお、本実施形態の他の一態様によれば、防着部材30の想定温度より外気の方が低い場合には、防着部材30から真空チャンバ21壁面に輻射排熱することで防着部材30の温度上昇を抑えることができる。その場合には、防着部材30の外側表面30aにDLC(ダイヤモンドライクカーボン;diamond-like carbon)膜の処理をすることで、放射率の向上を図ることが有効となる。外側表面30aの放射率を高くする方法としては、前述したDLC膜処理の他にも、表面を粗くする処理または黒色面にする処理などを適用することができる。このような表面処理としては、例えは、ブラスト加工処理、黒色メッキ処理、酸化被膜形成処理、溶射(thermal spraying)処理などが挙げられる。
【0055】
<電子デバイスの製造方法>
次に、本実施形態の成膜装置を用いた電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成及び製造方法を例示する。
【0056】
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。図4(a)は有機EL表示装置60の全体図、図4(b)は1画素の断面構造を表している。
【0057】
図4(a)に示すように、有機EL表示装置60の表示領域61には、発光素子を複数備える画素62がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域61において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本実施形態にかかる有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子62R、第2発光素子62G、第3発光素子62Bの組合せにより画素62が構成されている。画素62は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組合せで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。
【0058】
図4(b)は、図4(a)のA-B線における部分断面模式図である。画素62は、基板63上に、陽極64と、正孔輸送層65と、発光層66R、66G、66Bのいずれかと、電子輸送層67と、陰極68と、を備える有機EL素子を有している。これらのうち、正孔輸送層65、発光層66R、66G、66B、電子輸送層67が有機層に当たる。また、本実施形態では、発光層66Rは赤色を発する有機EL層、発光層66Gは緑色を発する有機EL層、発光層66Bは青色を発する有機EL層である。発光層66R、66G、66Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。また、陽極64は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層65と電子輸送層67と陰極68は、複数の発光素子62R、62G、62Bと共通で形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、陽極64と陰極68とが異物によってショートするのを防ぐために、陽極64間に絶縁層69が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層70が設けられている。
【0059】
図4(b)では正孔輸送層65や電子輸送層67が一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によって、正孔ブロック層や電子ブロック層を含む複数の層で形成されてもよい。また、陽極64と正孔輸送層65との間には陽極64から正孔輸送層65への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成することもできる。同様に、陰極68と電子輸送層67の間にも電子注入層を形成することができる。
【0060】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。
【0061】
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)および陽極64が形成された基板63を準備する。
【0062】
陽極64が形成された基板63の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、陽極64が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層69を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0063】
絶縁層69がパターニングされた基板63を第1の有機材料成膜装置に搬入し、静電チャックにて基板を保持し、正孔輸送層65を、表示領域の陽極64の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層65は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層65は表示領域61よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。
【0064】
次に、正孔輸送層65までが形成された基板63を第2の有機材料成膜装置に搬入し、静電チャックにて保持する。基板とマスクとのアライメントを行い、マグネット板でマスクを吸引して基板に密着させた後、基板63の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層66Rを成膜する。
【0065】
発光層66Rの成膜と同様に、第3の有機材料成膜装置により緑色を発する発光層66Gを成膜し、さらに第4の有機材料成膜装置により青色を発する発光層66Bを成膜する。発光層66R、66G、66Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域61の全体に電子輸送層67を成膜する。電子輸送層67は、3色の発光層66R、66G、66Bに共通の層として形成される。
【0066】
電子輸送層67まで形成された基板を金属性蒸着材料成膜装置で移動させて陰極68を成膜する。
【0067】
その後プラズマCVD装置に移動して保護層70を成膜して、有機EL表示装置60が完成する。
【0068】
絶縁層69がパターニングされた基板63を成膜装置に搬入してから保護層70の成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。従って、本例において、成膜装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気または不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【0069】
上記実施形態は本発明の一例を示すものでしかなく、本発明は上記実施形態の構成に限定されないし、その技術思想の範囲内で適宜に変形しても良い。
【符号の説明】
【0070】
11:成膜装置、21:真空チャンバ、25:成膜源、30、31、32、33、34:防着部材
図1
図2
図3
図4