(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】排水溝形成装置
(51)【国際特許分類】
A01B 17/00 20060101AFI20221107BHJP
E02B 11/02 20060101ALI20221107BHJP
A01B 13/08 20060101ALI20221107BHJP
【FI】
A01B17/00
E02B11/02 302D
A01B13/08 Z
(21)【出願番号】P 2019002608
(22)【出願日】2019-01-10
【審査請求日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2018011793
(32)【優先日】2018-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】596029085
【氏名又は名称】株式会社パディ研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 恒雄
(72)【発明者】
【氏名】若杉 晃介
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-322601(JP,A)
【文献】特開2014-040762(JP,A)
【文献】特開2017-172149(JP,A)
【文献】実開昭55-036240(JP,U)
【文献】特開2015-010369(JP,A)
【文献】特公昭53-009961(JP,B1)
【文献】特開2017-006037(JP,A)
【文献】特開2002-167742(JP,A)
【文献】特開2010-126990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 17/00
E02B 11/02
A01B 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行可能な作業機に牽引されて圃場の地中に溝を形成するとともに、形成した溝内に疎水材を投入して排水溝を形成する排水溝形成装置において、溝形成方向前部側に設けられ、溝を形成する部分の土砂を、溝側面を押圧することなく地上に掻き上げる土砂掻き上げ部と、該土砂掻き上げ部の後部に連設され、土砂掻き上げ部で形成した溝内に疎水材を投入するためのホッパーと
、前記圃場に接地して使用状態となるソリ保持部材とを備え、
前記ソリ保持部材は、左右方向に配置された上下一対の外筒部材と、該外筒部材の内部にそれぞれ左右スライド可能に挿入されるスライド部材と、該スライド部材をスライド位置で固定する左右スライド固定手段と、各スライド部材の先端にそれぞれ設けられた鉛直方向の脚支持筒と、各脚支持筒内にそれぞれ上下スライド可能に挿入される脚支持部材と、該脚支持部材をスライド位置で固定する上下スライド固定手段と、各脚支持部材の下端にそれぞれ装着された左右一対のソリ部材とを備えている
ことを特徴とする排水溝形成装置。
【請求項2】
前記ホッパーの前部側下部には、形成した排水溝の溝側面に向けて圧縮空気を噴出する空気ノズルが設けられていることを特徴とする請求項1記載の排水溝形成装置。
【請求項3】
前記土砂掻き上げ部は、形成する溝の幅寸法に対応した幅寸法を有し、溝形成方向前部側の下端に対して上端が後方に位置した傾斜を有する土砂掻き上げ板を着脱可能に備えていることを特徴とする請求項1
又は2記載の排水溝形成装置。
【請求項4】
前記土砂掻き上げ部の側縁と前記ホッパーの側壁とが連続的に形成されていることを特徴とする請求項
3記載の排水溝形成装置。
【請求項5】
前記ホッパーの側壁が、ホッパーの内方に向かって凸となる曲面で形成されていることを特徴とする請求項1乃至
4のいずれか1項記載の排水溝形成装置。
【請求項6】
前記ホッパーの後壁外面上部に、折り畳みテーブルが設けられていることを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか1項記載の排水溝形成装置。
【請求項7】
前記土砂掻き上げ部は、該土砂掻き上げ部の下端部後部に、土砂掻き上げ部で形成した溝底部側方の土砂を、形成した溝の底部に掻き寄せる掻き寄せ部材を備えていることを特徴とする請求項1乃至
6のいずれか1項記載の排水溝形成装置。
【請求項8】
前記掻き寄せ部材は、前記土砂掻き上げ部の後方に、水平方向後方を向いた掻き寄せ時の状態と、鉛直方向下方に垂下した非掻き寄せ時の状態とに回動可能に設けられていることを特徴とする請求項
7記載の排水溝形成装置。
【請求項9】
前記土砂掻き上げ部の溝形成方向前方に、溝を形成する部分の上部の土砂に鉛直方向の切り込みを入れる土砂カッターを着脱可能に設けたことを特徴とする請求項1乃至
8のいずれか1項記載の排水溝形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水溝形成装置に関し、詳しくは、圃場の地中に排水溝を形成する排水溝形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、圃場の地中に排水溝を形成し、該溝内に籾殻などの疎水材を充填した籾殻暗渠を形成することにより、圃場の排水性を向上させることが行われている。籾殻暗渠を形成するための排水溝形成装置は、基本的に、地面下に挿入されて溝を切り開く溝形成部と、該溝形成部の後部に連設された籾殻投入用のホッパーとを備えており、トラクタなどの走行体によって排水溝形成装置を牽引しながらホッパー内に籾殻を投入することによって籾殻暗渠を連続して形成するように構成されている(例えば、特許文献1~4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-117501号公報
【文献】特開平11-192001号公報
【文献】特開2006-230417号公報
【文献】特開2010-126990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の排水溝形成装置における溝形成部は、切り開いた溝の側壁を押圧して溝の形状を保持する機能を有しているため、一般的な土質の圃場では籾殻暗渠を効率よく形成することができる。しかし、粘りが極めて強い粘土質の圃場の場合は、溝の側壁を押圧する部分と側壁との間の抵抗が極めて大きくなり、一般的なトラクタでは排水溝形成装置を牽引することが困難となり、大きな牽引力を有するパワーショベルやブルドーザなどの建機で牽引しなければならないことがあった。さらに、溝の側壁を押圧することによって側壁に不透水壁が形成されることがあり、地表の残留水や地中の過剰な重力水を溝に導いて排出することができなくなるおそれもあった。
【0005】
そこで本発明は、粘りが極めて強い粘土質の圃場においても、一般的なトラクタで牽引可能な構造を有する排水溝形成装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の排水溝形成装置は、走行可能な作業機に牽引されて圃場の地中に溝を形成するとともに、形成した溝内に疎水材を投入して排水溝を形成する排水溝形成装置において、溝形成方向前部側に設けられ、溝を形成する部分の土砂を、溝側面を押圧することなく地上に掻き上げる土砂掻き上げ部と、該土砂掻き上げ部の後部に連設され、土砂掻き上げ部で形成した溝内に疎水材を投入するためのホッパーと、前記圃場に接地して使用状態となるソリ保持部材とを備え、前記ソリ保持部材は、左右方向に配置された上下一対の外筒部材と、該外筒部材の内部にそれぞれ左右スライド可能に挿入されるスライド部材と、該スライド部材をスライド位置で固定する左右スライド固定手段と、各スライド部材の先端にそれぞれ設けられた鉛直方向の脚支持筒と、各脚支持筒内にそれぞれ上下スライド可能に挿入される脚支持部材と、該脚支持部材をスライド位置で固定する上下スライド固定手段と、各脚支持部材の下端にそれぞれ装着された左右一対のソリ部材とを備えていることを特徴としている。また、前記ホッパーの前部側下部には、形成した排水溝の溝側面に向けて圧縮空気を噴出する空気ノズルが設けられていることを特徴としている。
【0007】
さらに、本発明の排水溝形成装置は、前記土砂掻き上げ部が、形成する溝の幅寸法に対応した幅寸法を有し、溝形成方向前部側の下端に対して上端が後方に位置した傾斜を有する土砂掻き上げ板を着脱可能に備えていること、前記土砂掻き上げ部の側縁と前記ホッパーの側壁とが連続的に形成されていることを特徴としている。
【0008】
また、ホッパーの側壁が、ホッパーの内方に向かって凸となる曲面で形成されていること、前記ホッパーの後壁外面上部に、折り畳みテーブルが設けられていることを特徴とし、さらに、前記土砂掻き上げ部は、該土砂掻き上げ部の下端部後部に、土砂掻き上げ部で形成した溝底部側方の土砂を、形成した溝の底部に掻き寄せる掻き寄せ部材を備えていること、また、この掻き寄せ部材が前記土砂掻き上げ部の後方に、水平方向後方を向いた掻き寄せ時の状態と、鉛直方向下方に垂下した非掻き寄せ時の状態とに回動可能に設けられていることを特徴とし、加えて、前記土砂掻き上げ部の溝形成方向前方に、溝を形成する部分の上部の土砂に鉛直方向の切り込みを入れる土砂カッターを着脱可能に設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の排水溝形成装置によれば、土砂掻き上げ部で圃場の土砂を地上に掻き上げて溝を形成するので、溝の側壁を押圧する場合に比べて抵抗を大幅に低減することができ、比較的小型のトラクタを使用して排水溝を形成することが可能となる。さらに、溝の側壁を押圧しないので、溝形成時に側壁部分の土砂がほぐされた状態になり、地中の水が溝内に流れやすくなるため、圃場からの排水効果を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1形態例を示す排水溝形成装置の側面図である。
【
図2】同じく排水溝形成装置をトラクタの後部に連結して籾殻暗渠を形成している状態を示す側面図である。
【
図7】排水溝形成装置で形成した籾殻暗渠の一例を示す断面図である。
【
図8】本発明の排水溝形成装置の第2形態例を示す側面図である。
【
図10】本発明の排水溝形成装置の第3形態例を示す要部の側面図である。
【
図12】本発明の第4形態例を示す排水溝形成装置の側面図である。
【
図13】同じく排水溝形成装置をブルドーザの後部に連結して籾殻暗渠を形成している状態を示す側面図である。
【
図17】第4形態例の排水溝形成装置で形成した籾殻暗渠の一例を示す断面図である。
【
図18】本発明の第5形態例を示す排水溝形成装置の側面図である。
【
図19】同じく排水溝形成装置をパワーショベルの作業アームに連結して籾殻暗渠を形成している状態を示す側面図である。
【
図22】本発明の第6形態例を示す排水溝形成装置の背面図である。
【
図23】同じく排水溝形成装置をブルドーザの後部に連結して排水溝を形成している状態を示す側面図である。
【
図28】第5形態例の排水溝形成装置で形成した排水溝の一例を示す断面図である。
【
図29】本発明の第7形態例を示す排水溝形成装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1乃至
図7は、本発明の排水溝形成装置の第1形態例を示している。本形態例に示す排水溝形成装置11は、圃場の地中に排水溝12を形成するとともに、形成した排水溝12内に、疎水材の一種である籾殻13を充填して籾殻暗渠を形成するものであって、走行可能な作業機、例えばトラクタ14の後部に設けられている昇降リンク14aに装着される連結部材15を介してトラクタ14の後部に連結される。
【0012】
排水溝形成装置11には、籾殻投入用のホッパー16と、該ホッパー16の前端下部に設けられた土砂掻き上げ部17とが前後に連設されており、土砂掻き上げ部17で排水溝12を形成する部分の土砂を地上に掻き上げることによって形成した排水溝12内にホッパー16から籾殻13を投入するように形成されている。
【0013】
連結部材15は、前部側に、トラクタ14のアッパーリンク14b及びロアリンク14cをそれぞれ連結する連結部18a、18bを前面上下に有する前部連結板18と、該前部連結板18の後部に、鉛直方向に挿通される左右の連結ピン18c,18cを介して連結されたソリ保持部材19と、該ソリ保持部材19の後部に前後方向に向かって配置された左右一対の後部連結板20,20と、該後部連結板20,20の後端上下と前記ホッパー16の前面上部とを接続する上下一対の接続部材21,21とを有している。
【0014】
ソリ保持部材19は、左右方向に配置された上下一対の外筒部材19a,19aと、該外筒部材19a,19aの内部にそれぞれスライド可能に挿入されるスライド部材19b,19bと、各スライド部材19b,19bの先端にそれぞれ設けられた鉛直方向の脚支持筒19c,19cと、各脚支持筒19c,19c内にそれぞれスライド可能に挿入される脚支持部材19d,19dと、各脚支持部材19d,19dの下端にそれぞれ装着された左右一対のソリ部材19e,19eとを備えている。ソリ部材19eは、前部側が上方に屈曲した板状体であって、後部側の平板部を接地させることにより、地中への排水溝形成装置11の挿入量を設定することができる。
【0015】
また、外筒部材19aに対するスライド部材19bの挿入量を調節してボルトなどで固定することにより、トラクタ14の轍の跡や、形成する排水溝12の位置、畦畔の位置などに対応することができる。さらに、脚支持筒19cに対する脚支持部材19dの挿入量を調節してボルトなどで固定することにより、形成する排水溝12の深さを圃場の状態に応じて設定することができる。
【0016】
ホッパー16は、左右一対の側壁22,22と、両側壁22,22の前端上部を覆う前壁23と、両側壁22,22の後端を覆う後壁24とで形成されており、土砂掻き上げ部17で形成した排水溝12内に挿入される下半部の籾殻充填部16aと、該籾殻充填部16aに向かって籾殻13を落下させる上半部の籾殻投入部16bとが上下に連続して形成されており、籾殻充填部16aの下端には籾殻充填口16cが開口し、籾殻投入部16bの上端には籾殻投入口16dが開口している。
【0017】
籾殻充填部16aにおける側壁22,22は、土砂掻き上げ部17の両側縁に対して連続的に後方に設けられ、形成した排水溝12の側壁に沿った状態で互いに平行に形成され、側壁22,22の下端縁は、前端から後端に向かって上昇した形状となっている。また、籾殻投入部16bにおける側壁16,16は、上方に向かって互いに離間する逆ハ字状に形成され、籾殻充填部16aと籾殻投入部16bとの間の側壁屈曲部22a,22aは、ホッパー16の内方に向かって凸となる曲面で形成されている。
【0018】
また、後壁24の下端には、排水溝12の幅寸法と同一で、籾殻充填口16cの後端部下方に突出する充填高さ調節部材25が、高さ方向の位置調節可能に取り付けられており、充填高さ調節部材25の高さを調節して固定することにより、排水溝12内への籾殻13の充填高さを圃場の状態に応じて設定できるようにしている。さらに、後壁24の上端後部には、折り畳みテーブル26が設けられている。この折り畳みテーブル26は、使用時には、下面に回動可能に連結した頬杖部材26aの下端を後壁24に設けた係止部材26bに係止させることにより、上面が籾殻投入口16dの上縁と面一になる水平方向に引き出され、係止部材26bから頬杖部材26aを外すことにより、折り畳みテーブル26を後壁24に沿った収納状態にできる折り畳み式に形成されている。
【0019】
土砂掻き上げ部17は、前壁23の下端より下方の両側壁22,22の前端の間を覆う状態で設けられた支持部材27と、該支持部材27の下端から前方に突出した状態で設けられた掘削部材28と、該掘削部材28より上方の支持部材27の前面に装着された土砂掻き上げ板29と、掘削部材28の後方に取り付けられた掻き寄せ部材30とを備えている。
【0020】
掘削部材28は、形成する溝幅に対応した幅寸法を有するもので、地中で土砂を切り裂くために金属製で強固に形成されており、先端には、排水溝12の底面となる部分を水平方向に切り裂いて溝底面を形成するための切削刃28aが設けられている。切削刃28aの後部上面は、土砂掻き上げ板29の下端に連続する傾斜面28bとなっており、切削刃28aの上端後部には、掻き寄せ部材30を取り付けるための腕部28cが後方に向かって延設されており、該腕部28cの上面両側が側壁22,22の下端に固着されている
【0021】
掻き寄せ部材30は、両側壁22,22内に収まる横幅を有する板状で、前記腕部28cの上面にボルト31にて着脱可能に取り付けられる取り付け腕30aと、該取り付け腕30aの後部から一方の側壁22の側方に突出した側板及び天板からなる逆L字状の側方掻き寄せ刃30bとを有している。側方掻き寄せ刃30bは、先端30cが先鋭化されるとともに、側面30dは、側方掻き寄せ刃30bで切削した土砂を、掘削部材28で形成した排水溝12の底部に向けてガイドできるように湾曲面や傾斜面となっている。
【0022】
土砂掻き上げ板29は、掘削部材28で掘削した土砂などを地上に向けて掻き上げるもので、溝形成方向前部側の下端29aに対して上端29bが後方に位置した円弧状の傾斜を有している。また、土砂掻き上げ板29は、掻き上げる土砂との摩擦抵抗を小さくするために低摩擦材料の合成樹脂、例えば、ナイロンやフッ素樹脂、あるいはこれらを前面にコーティングした部材で形成されており、長期間の使用で摩耗したときに交換できるように、支持部材27に対してボルトなどで着脱可能に取り付けられている。さらに、通常の作業時に地面から突出する上部突出部29cに、捻りを加えたり、一側方を突出させることにより、地上に掻き上げた土砂の排出方向を設定することができる。
【0023】
このような構成を有する排水溝形成装置11は、連結部材15を介してトラクタ14の昇降リンク14aに装着され、昇降リンク14aの昇降操作により、
図2に示すように、ソリ部材19e,19eが地面に接地するまで土砂掻き上げ部17及び籾殻充填部16aを地中に挿入した状態で、トラクタ14を所定速度で前進させながら、ホッパー16内に籾殻13を投入していく。これにより、
図7に示すように、土砂掻き上げ部17が土砂12aを掻き上げて地上に排出するとともに、掻き寄せ部材30が溝底部側方の土砂12bを排水溝12の底部に掻き寄せることにより、圃場の地中に、所定深さで所定幅の鉛直方向の排水溝12が形成されるとともに、排水溝12の底部側方にトンネル状の空間12cが形成される。
【0024】
同時に、ホッパー16の籾殻充填口16cから排水溝12内に籾殻13が投入され、充填高さ調節部材25で設定した高さまで排水溝12内に籾殻13が充填された状態になる。このとき、掻き寄せ部材30が土砂12bを掻き寄せたことにより形成された空間12cは、籾殻13がほとんど侵入しない空洞状態、あるいは、僅かに籾殻13が侵入した半充填状態となる。これにより、籾殻13が充填された排水溝12に比べて水が流通しやすくなり、空間12c内に多少の籾殻が入り込んだとしても、圃場の余剰水を速やかに外部に排水するための水道(みずみち)を形成することができる。
【0025】
このように、本形態例に示す排水溝形成装置11は、水道を有する籾殻暗渠を容易に形成することができ、しかも、排水溝12を形成する際に、形成した溝の側壁を押圧しないので、排水溝12を形成する際の抵抗が大幅に低減され、走行体として一般的なトラクタを使用して排水溝形成装置を牽引することが可能となり、ブルドーザやパワーショベルなどを使用する場合に比べて籾殻暗渠を形成する際のコストを大幅に削減することができる。さらに、排水溝12の側壁を押圧しないので不透水壁を形成することはなく、溝形成時に側壁部分の土砂がほぐされた状態になり、地中の水が溝内に流れやすくなることから、排水効果を向上させることができる。
【0026】
また、ソリ部材19eを接地させることにより、全長にわたって所定深さの排水溝12を形成することができ、ソリ部材19eの間隔や高さを調節可能に形成しているので、圃場の条件に応じた溝を容易かつ確実に形成することができる。さらに、後壁24に折り畳みテーブル26を設けたことにより、籾殻13を封入した袋の置き場所として利用でき、ホッパー16内に籾殻13を投入する際に、袋を持ち続ける必要がなくなるので、籾殻投入作業の負担を低減することができる。加えて、ホッパー16の側壁22,22における側壁屈曲部22aを、ホッパー16の内方に向かって凸となる曲面で形成したことにより、ホッパー16内に投入した籾殻13を籾殻充填口16cに向かって円滑に落下させることができる。
【0027】
図8及び
図9は、本発明の排水溝形成装置の第2形態例を示している。なお、以下の説明において、前記第1形態例に示した排水溝形成装置の構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0028】
本形態例に示す排水溝形成装置40は、土砂掻き上げ部17の溝形成方向前方に、排水溝12を形成する部分の上部の土砂に鉛直方向の切り込みを入れる土砂カッター32を設けている。土砂カッター32は、前記ソリ保持部材19の後部に、取付ボルト33によって着脱可能に装着されるもので、金属薄板によって形成されて地中に鉛直方向に挿入されるカッター本体部32aと、該カッター本体部32aの上部に形成されたソリ保持部材19への取付部32bとを有している。
【0029】
カッター本体部32aは、土砂掻き上げ部17の前方で、土砂掻き上げ部17の幅方向の範囲内に設けられており、地中への挿入深さは、土砂掻き上げ部17より浅く設定されており、通常は、切削刃28aの挿入深さの1/2程度に設定されている。また、カッター本体部32aの前縁32cは、下端に対して上部側が溝形成方向後部に向かって傾斜するとともに、溝形成方向前部に向かって先鋭化されたブレード状に形成されている。
【0030】
土砂カッター32は、土砂掻き上げ部17で排水溝12を形成する際に、カッター本体部32aの下部が土砂掻き上げ部17の前方の地中に挿入され、土砂に排水溝12を形成する部分の上部の土砂に鉛直方向の切り込みを入れ、前縁32cの傾斜によって土砂を切り分けていく。
【0031】
これにより、土砂掻き上げ部17で土砂を掻き上げる際に、掻き上げた土砂を土砂掻き上げ部17の左右あるいは一側方に排出することができ、粘りが極めて強い粘土質の場合でも、土砂掻き上げ部17の前面に土砂がこびりついて固まることがなくなり、排水溝12の形成を円滑に行うことができる。
【0032】
また、土砂カッター32と土砂掻き上げ部17との距離は、後部連結板20の長さを適宜設定することにより、最適な距離にすることができる。さらに、
図8及び
図9では、ソリ保持部材19におけるソリ部材の図示を省略しているが、前記形態例と同様のソリ部材19eを設けることができる。
【0033】
図10及び
図11は、本発明の排水溝形成装置の第3形態例を示している。本形態例に示す排水溝形成装置51は、前記掻き寄せ部材30を、前記土砂掻き上げ部17の下端部後方に位置する左右の側壁22,22に掛け渡したヒンジピン34に、左右一対の取り付け腕30dを枢着することにより、ヒンジピン34を中心として、
図10に実線で示すように、側方の土砂を排水溝12の底部に向けてガイドする掻き寄せ時の水平方向後方を向いた状態と、想像線で示すように、鉛直方向下方に垂下した非掻き寄せ時の状態とに回動可能に設けた例を示している。
【0034】
このように、掻き寄せ部材30を水平方向の掻き寄せ状態に対して鉛直方向下方に垂下した状態に回動可能に設けることにより、排水溝12の終端で排水溝形成装置51を溝上方に引上げる際に、排水溝12の周囲の土砂に押されて掻き寄せ部材30が自然に垂下した状態になるので、排水溝形成装置11を引上げるための力を小さくすることができる。すなわち、掻き寄せ部材30が回動せずに水平方向のままでは、側方掻き寄せ刃30bにおける天板30eの上に土砂が乗る状態となり、土砂の逃げ場所がなくなるので、排水溝形成装置51を大きな力で上昇させなければならないが、掻き寄せ部材30が垂下した状態になると、側方掻き寄せ刃30bにおける側板30fが、上昇する側方掻き寄せ刃30bの上方の土砂を、掘削部材28が掘削した排水溝12内に掻き寄せる状態になり、掻き寄せ部材30の上に土砂が乗ることがなくなるので、排水溝形成装置51を小さな力で引上げることができる。
【0035】
図12乃至
図17は、本発明の排水溝形成装置の第4形態例を示している。本形態例に示す排水溝形成装置61は、土砂掻き上げ部17で形成した排水溝12の側方に、通水ガイド穴62を形成するようにしたものであって、ホッパー16の前部側下部に、圧縮空気噴出用の空気ノズル63を設けている。この空気ノズル63は、ホッパー16の上部周囲に設けられた作業デッキ64に空気圧縮機65を設置し、該空気圧縮機65の吐出部に空気パイプ66を介して接続されている。また、空気パイプ66に圧縮空気溜や噴出弁などを設けておくことにより、噴出弁を制御手段によって、あるいは,人為的に開閉することで空気ノズル63からの圧縮空気の噴出状態を制御することが可能となる。
【0036】
空気ノズル63からの圧縮空気の噴出、すなわち、通水ガイド穴62の形成は、適当な間隔、例えば、数秒間隔とか、排水溝形成装置61の進行に対して数十センチメートル間隔とかで行われ、土質や排水溝12の深さ、幅、空気ノズル63の口径や形状、圧縮空気の圧力などの各種条件に応じて適宜設定することができる。なお、通水ガイド穴62の形状は任意であり、圧縮空気の噴出状態によって様々な形状にすることができる。
【0037】
このような通水ガイド穴62を形成することにより、排水溝12の周辺からの排水性を向上することができ、粘土質で通水性が低い土壌を有する圃場からの排水を効果的に行うことができる。また、本形態例では、走行可能な作業機として牽引力がトラクタに比べて大きなブルドーザ67を昇降部材67aを介して使用することにより、複数列の排水溝12を同時に形成できるようにしている。
【0038】
さらに、本形態例に示す排水溝形成装置61では、ホッパー16の上部周囲に、複数の型枠で組み上げて床張りされた大型の前記作業デッキ64が設けられており、この作業デッキ64に複数個の籾殻袋を積載するとともに、籾殻袋を開いてホッパー16に投入する作業者が乗ることができるようにしており、作業デッキ64の周囲には、開閉部64aを有する安全柵64bが設けられている。また、作業デッキ64の側方には、前記形態例と同様のソリ部材19eが設けられるとともに、ソリ部材19eの部分に設けられた支点68aを回動中心とし、倒伏時に側方に突出して次の溝形成位置を地面に描くガイド部材68が起伏可能に設けられている。
【0039】
図18乃至
図21は、本発明の排水溝形成装置の第5形態例を示している。本形態例に示す排水溝形成装置71は、パワーショベル72の作業アーム72aに装着する構造を有するとともに、前記第4形態例と同様の圧縮空気噴出用の空気ノズル73を備えている。
【0040】
すなわち、前記各形態例と同様に、前後に併設したホッパー16及び土砂掻き上げ部17の上端部にアーム装着部74を設けるとともに、ホッパー16の内部を上下方向に貫通した空気管75を設けている。この空気管75の下端部には、排水溝12の側壁に向かった圧縮空気を噴出する前記空気ノズル73が両側に設けられ、空気管75の上端部には、空気圧縮機に接続された可撓性の空気パイプ(図示せず)の接続部75aが左右両側に設けられている。
【0041】
本形態例に示すパワーショベル用の排水溝形成装置71は、作業アーム72aを操作して排水溝形成装置71を圃場の地中に所定深さに挿入した状態で、パワーショベル72を走行させながら適宜な間隔で圧縮空気を噴出させることにより、前記
図7に示したように、側壁に通水ガイド穴62を有する排水溝12を形成していくことができる。
【0042】
図22乃至
図28は、本発明の排水溝形成装置の第6形態例を示している。本形態例に示す排水溝形成装置81は、同時に複数本、本形態例では5本の排水溝12を形成するようにしている。さらに、本形態例に示す排水溝形成装置81は、粘土質の土壌を乾燥させることによって土壌改良を行うのに適した構造を備えている。
【0043】
基本的には、前記各形態例と同様に、土砂掻き上げ部17の後部にホッパー16を併設した5組の溝形成部82の上部を、保持枠83にて連結したものであって、保持枠83の前面がブルドーザ67の後部に昇降部材67aを介して連結され、ブルドーザ67の走行によって5本の排水溝12を連続して平行に掘削するように形成されている。
【0044】
また、各ホッパー16には、各ホッパー16を上下方向に貫通し、排水溝12の底部にのみ疎水材である砕石84を投入するための砕石投入部材85がそれぞれ設けられている。砕石投入部材85は、上部のホッパー部85aと、該ホッパー部85aの下部に連設されて排水溝12の底部に至る投入管85bとで形成されており、ホッパー部85aと投入管85bとの間には、ホッパー部85aから投入管85bへの砕石の落下を制御する開閉部材86が設けられている。この開閉部材86は、水平方向の長尺の板材86aに投入管85bの口径に対応した大きさの開口部86bを設けたものであって、シリンダ86cを作動させることにより、開口部86bを投入管85bの位置に移動させた開口位置と、開口部86bを投入管85bの位置から外した閉鎖位置とに移動できるようにしている。さらに、ホッパー16の上下方向中間位置の両外部側には、土砂掻き上げ部17で形成した排水溝12の上部を斜めに掻き上げて排水溝12の上部に拡開部12dを形成するための拡開部材87 がそれぞれ設けられている。
【0045】
このように形成した排水溝形成装置81は、溝形成前の準備として、排水溝形成装置81を上昇させ、開閉部材86を閉位置にした状態で、パワーショベルを使用してホッパー部85a内に砕石を投入してから溝形成位置までブルドーザ67を走行させる。溝形成位置で排水溝形成装置81を地中に挿入し、開閉部材86を開位置にしてからブルドーザ67を走行させる。これにより、排水溝形成装置81で5本の排水溝12を上部に拡開部12dを有する状態で形成しながら排水溝12の底部にのみ砕石84を充填していくことができる。
【0046】
この排水溝形成装置81で形成した排水溝12は、底部にのみ砕石84を充填し、上部が拡開しているので、排水溝12の周辺の土壌から浸出して底部に溜まる水は砕石84の層を通り、排水溝12の一端部に設けられている排水部に向かってスムーズに流れていく。したがって、排水溝12の側壁などから底部に土砂が落下しても、排水性が損なわれることがない。また、排水溝12内に疎水材を充填することなく、上部を拡開させた拡開部12dを設けているので、排水溝12内に空気が流通しやすくなり、排水溝12内の乾燥を促進でき、水分含有量が多い粘土質土壌の改質を短期間で行うことができる。したがって、粘土質の水田から畑地への転換を容易に行うことができる。
【0047】
図29は、本発明の第7形態例を示している。本形態例に示す排水溝形成装置91は、前記各形態例と同様に、土砂掻き上げ部17の後部に連設したホッパー16の前部に暗渠管ガイド筒部92を設けたものであり、排水溝12の形成と同時に、排水溝12の底部に可撓性の暗渠管93を敷設するようにしている。暗渠管92は、周面に多数の通孔を形成したものであり、排水溝12に流入した水を暗渠管93を通して排水部に導くようにしている。
【0048】
また、ホッパー16の内部には、暗渠管92の太さに応じて暗渠管92を排水溝12の底部に押し付けるための押付部材94が位置調節可能に設けられるとともに、モーター95aで回転駆動されて籾殻などの疎水材の落下を促進するための撹拌部材95を設けており、ホッパー16の後部には、排水溝12の上部の地上から高さ調節を行えるようにした充填高さ調節部材25を設けている。
【0049】
このように形成することにより、排水溝12の形成と同時に暗渠管92を敷設することができ、暗渠管92によって排水性の向上を図ることができる。
【0050】
なお、ブルドーザやパワーショベルなどの場合は、重機用の適宜な連結部材を使用すればよく、昇降リンクなどで排水溝形成装置の地中への挿入量を調節するときには、ソリ部材を省略することも可能である。また、各形態例に示した各種構造は、適宜組み合わせて用いることができる。
【符号の説明】
【0051】
11…排水溝形成装置、12…排水溝、12a,12b…土砂、12c…空間、12d…拡開部、13…籾殻、14…トラクタ、14a…昇降リンク、14b…アッパーリンク、14c…ロアリンク、15…連結部材、16…ホッパー、16a…籾殻充填部、16b…籾殻投入部、16c…籾殻充填口、16d…籾殻投入口、17…土砂掻き上げ部、18…前部連結板、18a、18b…連結部、18c…連結ピン、19…ソリ保持部材、19a…外筒部材、19b…スライド部材、19c…脚支持筒、19d…脚支持部材、19e…ソリ部材、20…後部連結板、21…接続部材、22…側壁、22a…側壁屈曲部、23…前壁、24…後壁、25…充填高さ調節部材、26…折り畳みテーブル、26a…頬杖部材、26b…係止部材、27…支持部材、28…掘削部材、28a…切削刃、28b…傾斜面、28c…腕部、29…土砂掻き上げ板、29a…下端、29b…上端、29c…上部突出部、30…掻き寄せ部材、30a…取り付け腕、30b…側方掻き寄せ刃、30c…先端、30d…取り付け腕、30e…天板、30f…側板、31…ボルト、32…土砂カッター、32a…カッター本体部、32b…取付部、32c…前縁、33…取付ボルト、34…ヒンジピン、61…排水溝形成装置、62…通水ガイド穴、63…空気ノズル、64…作業デッキ、64a…開閉部、64b…安全柵、65…空気圧縮機、66…空気パイプ、67…ブルドーザ、67a…昇降部材、68…ガイド部材、68a…支点、71…排水溝形成装置、72…パワーショベル、72a…作業アーム、73…空気ノズル、74…アーム装着部、75…空気管、75a…接続部、81…排水溝形成装置、82…溝形成部、83…保持枠、84…砕石、85…砕石投入部材、85a…ホッパー部、85b…投入管、86…開閉部材、86a…板材、86b…開口部、86c…シリンダ、87…拡開部材、91…排水溝形成装置、92…暗渠管ガイド筒部、93…暗渠管、94…押付部材、95…撹拌部材、95a…モーター