(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】強誘電体薄膜およびその製造方法ならびにデバイス
(51)【国際特許分類】
H01L 21/316 20060101AFI20221107BHJP
H01L 21/822 20060101ALI20221107BHJP
H01L 27/04 20060101ALI20221107BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20221107BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20221107BHJP
【FI】
H01L21/316 X
H01L27/04 C
H01L29/78 617T
H01L29/78 617U
C23C16/40
(21)【出願番号】P 2019105887
(22)【出願日】2019-06-06
【審査請求日】2021-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】関根 佳明
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智
(72)【発明者】
【氏名】原田 裕一
【審査官】鈴木 智之
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-085327(JP,A)
【文献】特開2002-203916(JP,A)
【文献】特開2008-147655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/40
C23C 16/00-16/56
H01L 21/312-21/32
H01L 21/336
H01L 21/47-21/475
H01L 21/822
H01L 27/04
H01L 29/786
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnとOとからなる分子層が3
~5層積層された酸化亜鉛層と、
AlとOとからなる1つの分子層からなる酸化アルミニウム層とから構成され、
前記酸化亜鉛層と前記酸化アルミニウム層とは積層され、
積層方向に隣り合う前記酸化亜鉛層と前記酸化アルミニウム層とは接している
ことを特徴とする強誘電体薄膜。
【請求項2】
請求項1記載の強誘電体薄膜において、
前記酸化亜鉛層と前記酸化アルミニウム層とが、交互に複数積層されていることを特徴とする強誘電体薄膜。
【請求項3】
亜鉛原料と酸化剤とを用いた原子層堆積法で、ZnとOとからなる分子層が3
~5層積層された酸化亜鉛層を形成する第1工程と、
アルミニウム原料と酸化剤とを用いた原子層堆積法で、AlとOとからなる1つの分子層からなる酸化アルミニウム層を、前記酸化亜鉛層の上に接して形成する第2工程と
を備える強誘電体薄膜の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の強誘電体薄膜の製造方法において、
前記第1工程と前記第2工程とを繰り返し、
前記酸化亜鉛層と前記酸化アルミニウム層とを、交互に複数積層する
ことを特徴とする強誘電体薄膜の製造方法。
【請求項5】
請求項3または4記載の強誘電体薄膜の製造方法において、
前記第1工程は、基板の上に亜鉛原料を供給してZnの1原子層を形成する工程と、前記基板の上に形成されたZnの1原子層を酸化してZnとOとからなる分子層を形成する工程とを含み、
前記第2工程は、前記基板の上にアルミニウム原料を供給してAlの1原子層を形成する工程と、前記基板の上に形成されたAlの1原子層を酸化してAlとOとからなる分子層を形成する工程を含む
ことを特徴とする強誘電体薄膜の製造方法。
【請求項6】
酸化亜鉛からなる第1層と、
前記第1層の上に形成された、トンネル障壁となるトンネル障壁層と、
前記トンネル障壁層の上に形成され
た強誘電体薄膜と、
前記強誘電体薄膜の上に形成された酸化亜鉛からなる第2層と
を備え
、
前記強誘電体薄膜は、
ZnとOとからなる分子層が3層以上積層された酸化亜鉛層と、
AlとOとからなる1つの分子層からなる酸化アルミニウム層とから構成され、
前記酸化亜鉛層と前記酸化アルミニウム層とは積層され、
積層方向に隣り合う前記酸化亜鉛層と前記酸化アルミニウム層とは接している
ことを特徴とす
るデバイス。
【請求項7】
基板の上に形成されたチャネル層と、
前記チャネル層の上に形成され
た強誘電体薄膜と、
前記チャネル層を挟んで前記基板の上に形成されたソースおよびドレインと、
前記強誘電体薄膜の上にゲート絶縁層を介して形成され、酸化亜鉛から構成されたゲート電極と
を備え
、
前記強誘電体薄膜は、
ZnとOとからなる分子層が3層以上積層された酸化亜鉛層と、
AlとOとからなる1つの分子層からなる酸化アルミニウム層とから構成され、
前記酸化亜鉛層と前記酸化アルミニウム層とは積層され、
積層方向に隣り合う前記酸化亜鉛層と前記酸化アルミニウム層とは接している
ことを特徴とす
るデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛を用いた強誘電体薄膜およびその製造方法ならびにデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛(ZnO)は、エネルギーギャップが3.37eVと大きいため、可視光を透過し、また電気陰性度の大きな酸素を持つために酸素欠損を生じやすく、n型半導体となりやすい(非特許文献1参照)。このため、酸化亜鉛薄膜は、透明n型半導体として用いられてきた。最近では、酸化亜鉛薄膜にp型不純物を導入(ドープ)することが可能となり(非特許文献2参照)、酸化亜鉛薄膜を用いたpn接合なども盛んに研究されている。また、酸化亜鉛は、圧電効果(piezo-electric effect)を持つ。特に、バルク材料よりも薄膜にすることで、酸化亜鉛の圧電効果も高くなることが知られている(非特許文献3参照)。酸化亜鉛は、特に電気機械結合係数(electromechanical coupling factor)が大きいために、実効的に大きな圧電効果を得ることが期待できる(非特許文献4参照)。
【0003】
電子デバイスへの応用、特に電界効果型トランジスタ(FET)としての応用では、デバイスの寸法を小さくするに従い、ゲート絶縁層を薄くするようになっている。この結果、ゲート電極からのリーク電流が無視できなくなっている。このような欠点を防ぐためには、薄くなっても大きな電荷を溜められる誘電率の高い材料をゲート絶縁層に用いることが有利である。このため、シリコン系半導体回路では、ゲート絶縁層の材料として、ハフニウム酸化膜(HfO2)が広く用いられている。
【0004】
さらに最近、ハフニウム中に酸化シリコン(SiO2)をドープすることにより強誘電体特性が発現することがわかった(非特許文献5参照)。強誘電体特性の発現は、結晶の対称性を外すことにより生じていると考えられ、このために、強誘電体特性を発現させるためのドーパントしては、様々な材料が可能である。例えば、酸化ジルコニア(ZrO2)と酸化ハフニウムとの混合でも強誘電体特性が示されており(非特許文献6参照)、多様な応用が広がりつつある。同様に、酸化亜鉛に対しても、Liをドープすることにより強誘電体特性を示すことが明らかになっている(非特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】A. F. Kohan et al. "First-principles study of native point defects in ZnO", Physical Review B, vol. 61, no. 22, pp. 15019-15027, 2000.
【文献】M. Joseph et al., "p-Type Electrical Conduction in ZnO Thin Films by Ga and N Codoping", Japanese Journal of Applied Physics, vol. 38, Pt. 2, no. 11A, pp. L1205-L1207, 1999.
【文献】M. Zhao et al., "Piezoelectric Characterization of Individual Zinc Oxide Nanobelt Probed by Piezoresponse Force Microscope", Nano Letters, vol. 4, no. 4, pp. 587-590, 2004.
【文献】T. Yamamoto et al., "Characterization of ZnO piezoelectric films prepared by rf planar-magnetron sputtering", Journal of Applied Physics, vol. 51, no. 6, pp. 3133-3120, 1980.
【文献】T. S. Boscke et al., "Ferroelectricity in hafnium oxide thin films", Applied Physics Letters, vol. 99, no. 10, 102903, 2011.
【文献】J. Muller et al., "Ferroelectricity in Simple Binary ZrO2 and HfO2", Nano Letters, vol. 12, pp. 4318-4323, 2012.
【文献】A. Onodera et al., "Dielectric Activity and Ferroelectricity in Piezoelectric Semiconductor Li-Doped ZnO", Japanese Journal of Applied Physics, vol. 35, Pt. 1, no. 9B, pp. 5160-5162, 1996.
【文献】R. L. Puurunen, "Surface chemistry of atomic layer deposition: A case study for the trimethylaluminum/water process", Journal of Applied Physics, vol. 97, no. 12, 121301, 2005.
【文献】M. Matsuoka, "Nonohmic Properties of Zinc Oxide Ceramics", Japanese Journal of Applied Physics, vol. 10, no. 6, pp. 736-746, 1971.
【文献】H. Kohlstedt et al., "Theoretical current-voltage characteristics of ferroelectric tunnel junctions", Physical Review B, vol. 72, no. 12, 125341, 2005.
【文献】I. B. Misirlioglu and K. Sendur, "Ferroelectric/Semiconductor/Tunnel-Junction Stacks for Nondestructive and Low-Power Read-Out Memory", IEEE Transactions on Electron Devices, vol. 63, no. 6, pp. 2374-2379, 2016.
【文献】V. Garcia et al., "Giant tunnel electroresistance for non-destructive readout of ferroelectric states", Nature, vol. 460, pp. 81-84, 2009.
【文献】S. Salahuddin and S. Datta, "Use of Negative Capacitance to Provide Voltage Amplification for Low Power Nanoscale Devices", Nano Letters, vol. 8, no. 2, pp. 405-410, 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上に説明したように、酸化亜鉛による強誘電体特性を発現する薄膜の研究・開発が盛んになされ、強誘電体特性を発現する新たな構造の酸化亜鉛薄膜が望まれている。
【0007】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、酸化亜鉛を用いた新たな構造の、強誘電体特性を発現する薄膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る強誘電体薄膜は、ZnとOとからなる分子層が3~5層積層された酸化亜鉛層と、AlとOとからなる1つの分子層からなる酸化アルミニウム層とから構成され、酸化亜鉛層と酸化アルミニウム層とは積層され、積層方向に隣り合う酸化亜鉛層と酸化アルミニウム層とは接している。
【0009】
上記強誘電体薄膜の一構成例において、酸化亜鉛層と酸化アルミニウム層とが、交互に複数積層されている。
【0010】
本発明に係る強誘電体薄膜の製造方法は、亜鉛原料と酸化剤とを用いた原子層堆積法で、ZnとOとからなる分子層が3~5層積層された酸化亜鉛層を形成する第1工程と、アルミニウム原料と酸化剤とを用いた原子層堆積法で、AlとOとからなる1つの分子層からなる酸化アルミニウム層を、酸化亜鉛層の上に接して形成する第2工程とを備える。
【0011】
上記強誘電体薄膜の製造方法の一構成例において、第1工程と第2工程とを繰り返し、酸化亜鉛層と酸化アルミニウム層とを、交互に複数積層する。
【0012】
上記強誘電体薄膜の製造方法の一構成例において、第1工程は、基板の上に亜鉛原料を供給してZnの1原子層を形成する工程と、基板の上に形成されたZnの1原子層を酸化してZnとOとからなる分子層を形成する工程とを含み、第2工程は、基板の上にアルミニウム原料を供給してAlの1原子層を形成する工程と、基板の上に形成されたAlの1原子層を酸化してAlとOとからなる分子層を形成する工程を含む。
【0013】
本発明に係るデバイスは、酸化亜鉛からなる第1層と、第1層の上に形成された、トンネル障壁となるトンネル障壁層と、トンネル障壁層の上に形成された、上記強誘電体薄膜と、この強誘電体薄膜の上に形成された酸化亜鉛からなる第2層とを備える。
【0014】
本発明に係るデバイスは、基板の上に形成された、チャネル層と、チャネル層の上に形成された上記強誘電体薄膜と、チャネル層を挟んで基板の上に形成されたソースおよびドレインと、強誘電体薄膜の上にゲート絶縁層を介して形成され、酸化亜鉛から構成されたゲート電極とを備える。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、ZnとOとからなる分子層が3層以上積層された酸化亜鉛層と、AlとOとからなる1つの分子層からなる酸化アルミニウム層とから構成したので、強誘電体特性を発現する新たな構造の酸化亜鉛薄膜が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る強誘電体薄膜の構成を示す断面図である。
【
図2】
図2は、強誘電体薄膜の製造方法を実施するための製造装置の構成を示す構成図である。
【
図3】
図3は、強誘電体薄膜の製造方法を説明するためのタイミングチャートである。
【
図4】
図4は、作製した強誘電体薄膜の電流-電圧特性の測定結果を示す特性図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施の形態に係るデバイスの構成を示す断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施の形態に係る他のデバイスの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態に係る強誘電体薄膜について
図1を参照して説明する。この強誘電体薄膜は、基板101の上に形成された酸化亜鉛層102と、酸化アルミニウム層103とから構成されている。酸化亜鉛層102は、ZnとOとからなる分子層121が3層以上積層されている。酸化アルミニウム層103は、AlとOとからなる1つの分子層から構成されている。酸化亜鉛層102と酸化アルミニウム層103とは積層され、積層方向に隣り合う酸化亜鉛層102と酸化アルミニウム層103とは接している。この例では、酸化亜鉛層102と酸化アルミニウム層103とが、交互に複数積層されている。この積層数は、例えば、10とすることができる。
【0018】
次に、本発明の実施の形態に係る強誘電体薄膜の製造方法について説明する。この製造方法は、亜鉛原料と酸化剤とを用いた原子層堆積法で、酸化亜鉛層102を形成する第1工程と、アルミニウム原料と酸化剤とを用いた原子層堆積法で、酸化アルミニウム層103を形成する第2工程とを備える。第2工程では、酸化亜鉛層102の上に接して酸化アルミニウム層103を形成する。第1工程と第2工程とを繰り返すことで、酸化亜鉛層102と酸化アルミニウム層103とを、交互に複数積層することができる。
【0019】
ここで、第1工程は、基板101の上に亜鉛原料を供給してZnの1原子層を形成する工程と、基板101の上に形成されたZnの1原子層を酸化してZnとOとからなる分子層121を形成する工程とを含む。また、第2工程は、基板101の上にアルミニウム原料を供給してAlの1原子層を形成する工程と、基板101の上に形成されたAlの1原子層を酸化してAlとOとからなる分子層を形成する工程を含む。
【0020】
以下、製造方法について、より詳細に説明する。上述した原子層堆積法による強誘電体薄膜の製造は、例えば、
図2に示す装置を用いることで実施できる。この装置は、処理を行う反応容器201と、反応容器201の内部を排気するドライポンプ202と、亜鉛原料が収容された原料供給部203と、アルミニウム原料が収容された原料供給部204と、酸化剤が収容された酸化剤供給部205とを備える。
【0021】
亜鉛原料は、例えば、ジエチル亜鉛[DEZ:Zn(C2H5)2]である。アルミニウム原料は、例えば、トリメチルアルミニウム[TMA:Al(CH3)3]である。酸化剤は、例えば、水(H2O)である。原子層堆積法において、ジエチル亜鉛、トリメチルアルミニウムは、前駆体(precursor)と呼ばれる有機金属化合物である。
【0022】
原料供給部203に収容されている亜鉛原料は、パルシングバルブ206を開くことで配管221に導入され、キャリアガス209によって反応容器201に搬送される。また、原料供給部204に収容されているアルミニウム原料は、パルシングバルブ207を開くことで配管222に導入され、キャリアガス209によって反応容器201に搬送される。また、酸化剤供給部205に収容されている酸化剤は、パルシングバルブ208を開くことで配管223に導入され、キャリアガス209によって反応容器201に搬送される。また、キャリアガス209は、配管224により反応容器201に供給される。
【0023】
また、ドライポンプ202によって、反応容器201内の余剰な原料や反応ガスが、反応容器201の外部に排出(パージ)される。この排出においては、配管224により反応容器201に供給されるキャリアガス209が、パージガスとして用いられる。
【0024】
例えば、反応容器201の内部に基板211を搬入して載置し、反応容器201を密閉状態とする。次に、パルシングバルブ206を開くことで、原料供給部203に収容されている亜鉛原料を、配管221を介して反応容器201の内部に導入し、基板211の上に供給する。基板211の上に供給された亜鉛原料は、前駆体である亜鉛原料の持つ自己抑制機構により、基板211の表面に1原子層だけ吸着し、これ以上の厚さとはならない。
【0025】
次に、亜鉛原料の供給を停止し、反応容器201にキャリアガス209を供給し、また、ドライポンプ202によって、反応容器201内の余剰な原料ガスや反応ガスをパージする。
【0026】
次に、パルシングバルブ208を開くことで、酸化剤供給部205に収容されている酸化剤を、配管223を介して反応容器201の内部に導入し、基板211の上に供給する。基板211の上には、亜鉛原料が1原子層だけ吸着しており、酸化剤の供給により酸化され、ZnとOとからなる(ZnOの)分子層が基板211の上に形成された状態となる。
【0027】
次に、酸化剤の供給を停止し、反応容器201にキャリアガス209を供給し、また、ドライポンプ202によって、反応容器201内の余剰な酸化剤のガスなどをパージする。
【0028】
次に、パルシングバルブ207を開くことで、原料供給部204に収容されているアルミニウム原料を、配管223を介して反応容器201の内部に導入し、基板211の上に供給する。基板211の上に供給されたアルミニウム原料は、前駆体であるアルミニウム原料の持つ自己抑制機構により、基板211の上にすでに形成されているZnOの分子層の表面に1原子層だけ吸着し、これ以上の厚さとはならない。
【0029】
次に、アルミニウム原料の供給を停止し、反応容器201にキャリアガス209を供給し、また、ドライポンプ202によって、反応容器201内の余剰な原料ガスや反応ガスをパージする。
【0030】
次に、パルシングバルブ208を開くことで、酸化剤供給部205に収容されている酸化剤を、配管223を介して反応容器201の内部に導入し、基板211の上に供給する。基板211上のすでに形成されているZnOの分子層の表面には、アルミニウム原料が1原子層だけ吸着しており、酸化剤の供給により酸化され、AlとOとからなる(酸化アルミニウムの)分子層が基板211の上に形成された状態となる。
【0031】
上述した 原子層堆積(Atomic Layer Deposition:ALD)法は、前駆体と呼ばれる有機金属化合物とその酸化剤(主として水)を用いて原子層を1層ずつデジタル的に膜成長を行う成膜方法である。前駆体の持つ自己抑制機構、すなわち表面に1原子層だけ吸着するとそれ以上の厚さにならないという性質を利用することで、1原子層ずつの成長が可能である(非特許文献8参照)。
【0032】
原子層堆積法は、化学気相成長(CVD)法の一種であるが、表面吸着による自己抑制機構により1原子層ずつ成長する点が、通常のCVD法とは異なる。化学気相成長法では、原料ガスと酸化剤とが、基板の上に同時に供給され、基板の上の気相中で反応した材料を基板に堆積させて成長させる。これに対し、原子層成長法は、第1に、基板表面における表面化学反応により成長すること、第2に、原子層が1層ずつ成長することが大きな違いである。このために、化学気相成長法に比べて、低温での成長が可能であることが利点となる。なお、1原子層ずつの成長で、かつ低温成長とする場合、形成される膜は、緻密なアモルファス膜となる。なお、原子層堆積法は、原子層を一層ずつの成長させるため、他の化学気相成長法より、成膜速度が遅くなる。
【0033】
次に、実施の形態に係る強誘電体薄膜を原子層堆積法により作製した結果について説明する。
【0034】
まず、原子層堆積装置は、ピコサン社製のALD成膜装置「Sunale R-200」を用いた。また、亜鉛原料は、ジエチル亜鉛[DEZ]とした。また、アルミニウム原料は、トリメチルアルミニウム(TMA)とした。また、酸化剤には、H2Oを用いた。また、基板材料は、シリコンとした。また、反応容器の内部温度(処理温度)は150℃近傍にした。
【0035】
まず、酸化亜鉛の1分子層を形成するためのAサイクルを、「DEZを0.1秒供給、4秒のパージ、H
2Oを0.1秒供給、4秒のパージ」とした(
図3参照)。1つのAサイクルでは、ZnOの一分子層が形成されるものとする。また、酸化アルミニウムの1分子層を形成するためのBサイクルを、「TMAを0.1秒供給、4秒のパージ、H
2Oを0.1秒供給、4秒のパージ」とした(
図3参照)。1つのBサイクルでは、Al
2O
3の1分子層が形成されるものとする。
【0036】
また、上述したAサイクルを3回連続して繰り返し、引き続きBサイクルを1回で1サイクルとし、これを10回繰り返すことで強誘電体薄膜(ZnO;Al2O3)を形成した。なお、Aサイクルを3回連続する工程では、キャリアガスの供給量が、50~80sccmである場合には、DEZの供給工程、およびH2Oの供給工程は、共に0.1秒以上の供給時間とし、パージ工程の時間を3.2~4.0秒とする。
【0037】
上述したことにより作製した強誘電体薄膜は、厚さ7.6nm程度となった。この強誘電体薄膜を、各々の厚さ30nmとした2つの酸化亜鉛膜で挟んだ「ZnO/ZnO;Al
2O
3/ZnO」構造を作製し、この電流-電圧特性を、よく知られた4端子法により測定した。測定の結果を
図4に示す。破線は、最初の測定の掃引結果を示し、実線は、5回目の測定の掃引結果を示している。
【0038】
図4に示されているように、「ZnO/ZnO;Al
2O
3/ZnO」構造への電荷の蓄積により、掃引の回数の増加に伴い、ヒステリシス曲線が変化している。ここで、電流-電圧特性に非線形性が見られるが、これは酸化亜鉛のバリスタ(varistor)特性によるものと考えられる(非特許文献9参照)。原子層堆積法の成長サイクルによりバリスタ特性も大きく変わることが分かっており、これも様々な最適化が考えられる。
【0039】
ところで、上述したAサイクルを2回とし、Bサイクルを1回として形成したZnO;Al2O3は、強誘電体特性が発現しなかった。従って、Bサイクル1回に対し、Aサイクル3回とすることで、形成されるZnO;Al2O3の膜に誘電体特性が発現するものと考えられる。実際に、Aサイクルを4回とし、Bサイクルを1回として形成したZnO;Al2O3、およびAサイクルを5回とし、Bサイクルを1回として形成したZnO;Al2O3では、強誘電体特性が確認された。
【0040】
言い換えると、ZnとOとからなる分子層が3層以上積層された酸化亜鉛層と、AlとOとからなる1つの分子層からなる酸化アルミニウム層とが、交互に積層された膜とすることで、強誘電体特性が得られるものと考えられる。
【0041】
次に、上述した実施の形態に係る強誘電体薄膜を用いたデバイスについて、
図5を参照して説明する。このデバイスは、酸化亜鉛からなる第1層301と、第1層301の上に形成された、トンネル障壁となるトンネル障壁層302と、トンネル障壁層302の上に形成された、強誘電体薄膜303と、強誘電体薄膜303の上に形成された酸化亜鉛からなる第2層304とを備える。トンネル障壁層302は、Al
2O
3から構成されている。トンネル障壁層302は、厚さ2~4nm程度である。各層は、前述した原子層堆積法により、同一の装置内で連続して形成することができる。
【0042】
強誘電体薄膜とトンネル障壁とを組み合わせることで、強誘電体トンネル接合が構成できる(非特許文献10参照)。強誘電体トンネル接合は、メモリー素子への応用の検討が進んでいる(非特許文献11)。これまで、メモリー素子に適用可能な強誘電体材料としては、チタン酸バリウム(BaTiO3)やチタン酸鉛(PbTiO3)が用いられてきた(非特許文献10,非特許文献12)。また、最近ではHfO2を用いる検討も進んでいる。
【0043】
上述したデバイスによれば、トンネル障壁層302と強誘電体薄膜303とでトンネル接合が構成されている。また、第1層301、第2層304は、各々電極とすることができる。これらは、前述したように、原子層堆積法により、同一の装置内で連続して形成することができるために信頼性に優れ、また特性の制御性に優れている。
【0044】
次に、上述した実施の形態に係る強誘電体薄膜を用いた他のデバイスについて、
図6を参照して説明する。このデバイスは、基板401の上に形成されたチャネル層402と、チャネル層402を挟んで基板401の上に形成されたソース403およびドレイン404と、チャネル層402の上に形成された強誘電体薄膜405と、強誘電体薄膜405の上に、ゲート絶縁層406を介して形成されたゲート電極407とを備える。
【0045】
基板401は、例えば、SiまたはGaAsから構成されている。チャネル層402は、例えば、n型またはp型とされた、SiまたはGaAsから構成されている。また、ゲート絶縁層406は、Al2O3から構成されている。また、ゲート電極407は、例えば、酸化亜鉛から構成することができる。強誘電体薄膜405、ゲート絶縁層406、ゲート電極407の各層は、前述した原子層堆積法により、同一の装置内で連続して形成することができる。このデバイスは、電界効果型トランジスタである。
【0046】
現在、回路の微細化に伴い電界効果型トランジスタにおいては、ゲート絶縁層を薄くすることが必要となり、ゲートリークが大きな問題となった。これを解決するために、ゲート絶縁層を、高誘電率の材料(high-k)から構成することが提案され、例えば、ゲート絶縁材料としてHfO2が広く用いられている。しかしながら、動作電圧を低くして消費電力を抑えるためには、しきい値電圧の近傍のサブ・スレッショールド(subthresholdvoltage)において電流を大きく変化させることが重要となる。これを実現する1つの技術として、強誘電体の負性容量(negativecapacitance)を用いることが提案されている(非特許文献13参照)。
【0047】
上述した実施の形態に係るデバイスは、チャネル層402の上に、実施の形態に係る強誘電体薄膜405を形成し、この上に、Al2O3から構成されたゲート絶縁層406を形成し、この上に酸化亜鉛から構成されたゲート電極407を積層し、負性容量電界効果型トランジスタを実現している。この構造によれば、ゲート電極407が透明電極材料であるZnOから構成されているので、光スイッチ電界効果型トランジスタとして動作可能となる。また、この構造によれば、ゲート絶縁層406を薄くしてトンネル接合構造とすることで、メモリトランジスタとして動作させることも可能である。
【0048】
以上に説明したように、本発明によれば、ZnとOとからなる分子層が3層以上積層された酸化亜鉛層と、AlとOとからなる1つの分子層からなる酸化アルミニウム層とから構成したので、酸化亜鉛を用いた新たな構造の、強誘電体特性を発現する薄膜を提供できる。
【0049】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0050】
101…基板、102…酸化亜鉛層、103…酸化アルミニウム層、121…分子層。