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特許7170337変動磁場生成システムおよびこれを用いた静止型磁気冷凍システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】変動磁場生成システムおよびこれを用いた静止型磁気冷凍システム
(51)【国際特許分類】
   H01F 6/00 20060101AFI20221107BHJP
   F25B 21/00 20060101ALI20221107BHJP
【FI】
H01F6/00 180
F25B21/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020177048
(22)【出願日】2020-10-22
(65)【公開番号】P2022068403
(43)【公開日】2022-05-10
【審査請求日】2021-08-20
(73)【特許権者】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100165663
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 光宏
(72)【発明者】
【氏名】平野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】三戸 利行
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 優太
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-109434(JP,A)
【文献】特表平03-505027(JP,A)
【文献】特開昭61-207150(JP,A)
【文献】特開昭64-046545(JP,A)
【文献】特開昭60-008672(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105202799(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 19/00-30/06
H01F 1/00- 1/117
H01F 1/40- 1/42
H01F 6/00- 6/06
H02J 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気熱量効果を利用した静止型磁気冷凍システムであって、
複数の超電導コイルと、
前記超電導コイルと電源とを接続、切断する初期充電回路と、
前記電源と切り離された状態で、前記複数の超電導コイルのそれぞれに流れる電流を任意に変化させ得るエネルギ移送回路と、
前記初期充電回路およびエネルギ移送回路を制御する制御部と、
少なくとも一つの前記超電導コイルの内部に配置された、磁場の変動により発熱/吸熱を生じる磁気作業物質とを備え、
前記制御部は、
前記超電導コイルを電源に接続し、予め所定の電流が流れる初期充電が達成された後、前記電源と切断するよう初期充電回路を制御する初期充電制御部と、
前記初期充電が達成された後、予め設定されたシーケンスで、前記超電導コイルのそれぞれに流れる電流を変化させるよう前記エネルギ移送回路を制御するエネルギ移送制御部とを備える静止型磁気冷凍システム。
【請求項2】
請求項1記載の静止型磁気冷凍システムであって、
前記複数の超電導コイルは、偶数本備えられている静止型磁気冷凍システム。
【請求項3】
請求項1または2記載の静止型磁気冷凍システムであって、
前記複数の超電導コイルは、3本以上備えられており、
前記エネルギ移送制御部は、近接する超電導コイルに逆向きの電流を流す静止型磁気冷凍システム。
【請求項4】
請求項1または2記載の静止型磁気冷凍システムであって、
前記エネルギ移送制御部は、前記複数の超電導コイルのうち所定数をグループとし、該グループ内の超電導コイルに1本ずつ順番に最大の電流を流す静止型磁気冷凍システム。
【請求項5】
請求項1~4いずれか記載の静止型磁気冷凍システムであって、
前記初期充電における所定の電流は、前記複数の超電導コイルの一部にあたる所定の本数に100%の電流を流した基準状態における磁気エネルギを前記複数の超電導コイル全体で貯蔵するために必要となる電流値である静止型磁気冷凍システム。
【請求項6】
請求項1記載の静止型磁気冷凍システムであって、
前記磁気作業物質は、全ての前記複数の超電導コイルの内部に配置されている静止型磁気冷凍システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導コイルを用いて変動磁場を生成するシステムおよびこれを用いた静止型磁気冷凍システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体ヘリウム以下の極低温に適用される冷凍機として、磁場に応じて発熱、吸熱を行う磁性材料(以下、「磁気作業物質」という。)を利用した磁気冷凍機が知られている。
例えば、特許文献1は、超電導コイルの中心部分に磁気作業物質を配置するとともに、超電導コイルと磁気作業物質との間の空間に磁気遮蔽体を往復動させる静止型磁気冷凍機を開示している。当該技術では、磁気遮蔽体の往復動に応じて磁気作業物質に磁場を作用させたり遮断させたりすることにより、磁気作業物質の発熱/吸熱を変化させ、冷凍を実現する。
また、特許文献2は、超電導コイルと、磁気遮蔽体とを積み重ね、その内部に磁気作業物質を配置した構造の磁気冷凍機を開示する。当該技術では、磁性遮蔽体を往復動させて、超電導コイルの内部に配置した状態と、磁気遮蔽体の内部に配置した状態とを切り換えることにより、磁気作業物質の発熱/吸熱を変化させ、冷凍を実現する。
いずれの技術においても、超電導コイルを利用している。超電動コイルは強力な磁場を発生することができることから、医療用の画像診断装置や輸送用としての磁気浮上列車に応用されている。また、超電動コイルを用いたシステムとして、SMES(Superconducting Magnetic Energy Storage)と呼ばれる技術が知られている。即ち、超電導は電気抵抗がゼロになるという特徴を有しているため、コイルに電流を流した状態でコイルの両端を閉じて閉回路とするとコイル内を電流が減衰せずに流れ続け、電流が作る磁場が発生し続けるのである。SMESは、このように磁気エネルギとして電力を貯蔵する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平4-273956号公報
【文献】特開平4-327479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の磁気冷凍技術では、超電導コイルによる磁場の発生については、超電導状態を維持するための冷却が必要となるが、通電損失がないことからエネルギ効率の向上が図られているものの、磁気遮蔽体または磁気作業物質の往復動自体にエネルギが必要となり、全体としてエネルギ効率について改善の余地が残されていた。従って、磁気作業物質に作用する磁場を省エネルギで変動させる技術が求められていた。
磁場を変動させる技術は、磁気冷凍のみならず、広い分野での応用が期待できる。
本発明は、かかる課題に鑑み、省エネルギで磁場を変動させる技術を提供すること、およびこれを活用した磁気冷凍技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
複数の超電導コイルによって変動する磁場を生成する変動磁場生成システムであって、
複数の超電導コイルと、
前記超電導コイルと電源とを接続、切断する初期充電回路と、
前記電源と切り離された状態で、前記複数の超電導コイルのそれぞれに流れる電流を任意に変化させ得るエネルギ移送回路と、
前記初期充電回路およびエネルギ移送回路を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記超電導コイルを電源に接続し、予め所定の電流が流れる初期充電が達成された後、前記電源と切断するよう初期充電回路を制御する初期充電制御部と、
前記初期充電が達成された後、予め設定されたシーケンスで、前記超電導コイルのそれぞれに流れる電流を変化させるよう前記エネルギ移送回路を制御するエネルギ移送制御部とを備える変動磁場生成システムと構成することができる。
【0006】
本発明によれば、超電導コイルに初期充電されたエネルギを超電導コイル間で移送することにより、それぞれの超電導コイルに発生する磁場を変動させることができる。従って、変動磁場を生成させるための外部からのエネルギ供給をほとんど必要としない程度まで抑制することが可能となる。
【0007】
本発明の変動磁場生成システムにおいては、
前記複数の超電導コイルは、偶数本備えられているものとしてもよい。
【0008】
超電導コイルの本数は任意であるが、このように偶数本備える場合、超電導コイルをバランス良く配置することができる。こうすれば、システム全体の構成のコンパクト化を図ることができ、また、超電導コイルによって生じる磁場をバランスよく配置させることが可能となる。配置は、点対称または線対称とすることがより好ましい。
【0009】
本発明の変動磁場生成システムであって、
前記複数の超電導コイルは、3本以上備えられており、
前記エネルギ移送制御部は、近接する超電導コイルに逆向きの電流を流すものとしてもよい。
【0010】
こうすることにより、逆向きの電流を流した超電導コイルで生成される磁場同士が打ち消し合い、外部への磁場の漏洩を抑制することができる。
逆向きの電流を流す超電導コイルは、任意に選択することができる。必ずしも相互の距離が最短のものを選択する必要はない。上述の「近接」とは、磁場を打ち消し合う相互作用が得られる範囲内であることを意味する。また、電流を流す超電導コイルの本数も任意に設定できるが、偶数本とすれば、磁場を打ち消し合う相互作用を比較的効果的に得ることができる利点がある。
【0011】
本発明の変動磁場生成システムにおいては、
前記エネルギ移送制御部は、前記複数の超電導コイルのうち所定数をグループとし、該グループ内の超電導コイルに1本ずつ順番に最大の電流を流すものとしてもよい。
【0012】
こうすることにより、各超電導コイルに流れる電流は、最大とゼロとの間で変化することになるから、最大の磁場変動を得ることができる。
グループを構成する所定数は、任意に決めることができる。例えば、複数の超電導コイル全体を一つのグループと考えてもよい。これらを2つまたは3つ以上の同数のグループに分けても良い。また、異なる数のグループに分けてもよい。
【0013】
本発明の変動磁場生成システムにおいては、
前記初期充電における所定の電流は、前記複数の超電導コイルの一部にあたる所定の本数に100%の電流を流した基準状態における磁気エネルギを前記複数の超電導コイル全体で貯蔵するために必要となる電流値であるものとしてもよい。
【0014】
超電導コイルに貯蔵されるエネルギは、リアクタンスをL、電流をiとするとき、0.5Liで求められる。従って、所定の本数n本に100%の電流を流した基準状態に対して、超電導コイルが全体でM本あるとすれば、一本当たりの電流値は、最大電流×(n/M)0.5と求めることができる。こうすることにより、予め超電導コイルに、必要なエネルギを過不足なく貯蔵することができる。
【0015】
本発明は、変動磁場生成システムとしての構成の他、これを利用した種々のシステムとして構成することができる。
例えば、本発明は、
磁気熱量効果を利用した静止型磁気冷凍システムであって、
上述のいずれか記載の変動磁場生成システムと、
少なくとも一つの前記超電導コイルの内部に配置された、磁場の変動により発熱/吸熱を生じる磁気作業物質で構成された熱交換体とを備える静止型磁気冷凍システムとして構成することができる。
【0016】
先に説明した通り、本発明の変動磁場生成システムは、省エネルギで磁場を変動させることができるため、省エネルギで磁気冷凍を実現することができる。
本発明において磁気作業物質としては、ガドリニウム他、種々の物質を利用することができる。また、熱交換体の形状も任意に決めることができる。熱交換体は磁気作業物質の塊で構成してもよいし、磁気作業物質を用いた細線をメッシュ状に編むなどして構成してもよい。かかる細線は、例えば、磁気作業物質を銅その他の熱伝導性の良い金属で包んだ、いわゆるパウダーインチューブ製造技術により製造してもよい。
【0017】
本発明の静止型磁気冷凍システムにおいては、
前記磁気作業物質は、全ての前記複数の超電導コイルの内部に配置されているものとしてもよい。
【0018】
こうすることにより、各超電導コイルに生じる変動磁場を効率的に冷凍に用いることができる。
【0019】
本発明は、以上で説明した種々の特徴を全て備えている必要はなく、適宜、その一部を省略したり組み合わせたりして構成することができる。また、本発明は、静止型磁気冷凍システムの他、変動磁場生成システムを利用した種々のシステムとして構成することができる。さらに、本発明は、変動磁場の生成方法、静止型磁気冷凍方法などの態様で構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】静止型磁気冷凍システムの構成を示す説明図である。
図2】エネルギ移送のシーケンス(1)を示す説明図である。
図3】エネルギ移送のシーケンス(2)を示す説明図である。
図4】超電導コイルの配置を示す説明図である。
図5】磁場解析の結果(1)を示す説明図である。
図6】磁場解析の結果(2)を示す説明図である。
図7】磁場解析の結果(3)を示す説明図である。
図8】磁場解析の結果(4)を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施例について、超電導コイルと磁気作業物質を利用した静止型磁気冷凍システムとしての構成を例にとって説明する。水素を再凝縮して液体水素として貯槽するシステムとしての構成例である。極低温において冷凍を行うシステムである。
【0022】
図1は、静止型磁気冷凍システムの構成を示す説明図である。
密閉容器40内には、超電導コイルを用いた冷却装置50が4基設置されている。右下に冷却装置50の構造を示した。
冷却装置50においては、密閉容器40の内部に、超電導コイル51が設置されている。超電導を実現するため超電導コイル51は、冷却されているが、図の煩雑化を回避するため、この冷却機構は図示を省略した。
超電導コイル51の内部空間には、磁場の状態に応じて発熱/吸熱を生じる磁気作業物質52が設置されている。本実施例では、円柱状の形状としたが、任意の形状としてよい。磁気作業物質52は、種々の素材で構成することができるが、本実施例では、ガドリニウム合金(例えばGd5Ge4)を用いるものとした。銅その他の熱伝導性の良好な素材で構成した中空の細線内にガドリニウム合金の粉状体を充填した、いわゆるパウダーインチューブ製造技術により細線を製作し、これを編むことにより、磁気作業物質52を構成することができる。かかる構成に限らず、ガドリニウムの塊などで構成しても差し支えない。
磁気作業物質52には、熱伝送柱54が接触するように設けられている。熱伝送柱54は、熱をよく伝える固体で構成することができる。磁気作業物質52が、磁場の作用によって発熱/吸熱を生じると、それに応じた熱が、熱伝送柱54を伝送される。熱伝送柱54の上端には排熱用冷却装置55が取り付けられている。磁気作業物質52が発熱状態にあるとき、その熱は、熱伝送柱54を通じて排熱用冷却装置55に伝送され、密閉容器40から外部に排出される。熱伝送柱54の途中には、熱スイッチ53が取り付けられている。熱スイッチ53は、熱スイッチ53から熱伝送柱54の一方向にのみ熱が伝達する素子である。熱スイッチ53は、周知の種々の素子を利用可能であるため、詳細な説明は省略する。熱スイッチ53を設けることにより、磁気作業物質52が吸熱時には、熱スイッチ53から排熱用冷却装置55を通じて熱が流れ、水素ガスを液化する凝縮部57が冷却されることになる。
冷却装置50の下部には、水素貯槽56が取り付けられている。冷却装置50に、水素が供給されると、水素は磁気冷凍により低温となった凝縮部57に接することで再液化され、液体として水素貯槽56に貯留されることになる。
上記構成において、熱伝送柱54は、内部を循環するように熱交換の媒体を封入した配管で構成してもよい。この場合は、熱スイッチ53は、媒体の循環方向を切り換えるためのスイッチとすればよい。
【0023】
密閉容器40の内部には、以上で説明した冷却装置50が4本配置されている。冷却装置50の本数および配置は任意に決めることができる。全体のバランスなどを考慮すると、冷却装置50を偶数本用意することが好ましい。
【0024】
それぞれの冷却装置50は、超電導コイル51と電源24とを接続、切断するための初期充電回路22に接続されている。本実施例では、電源24として系統電力を用いたが、これに限るものではない。
また、それぞれの冷却装置50は、電源24と切り離された状態で、4本の超電導コイル51に流れる電流を任意に変化させ得るエネルギ移送回路20と接続されている。エネルギ移送回路20は、超電導コイル51の両端を、任意に接続、切断可能な複数のスイッチによって構成されている。本実施例では、超電導コイル51に流れる電流の向きを逆向きに変えることも可能な回路構成となっている。
【0025】
初期充電回路22およびエネルギ移送回路20の動作は、制御装置10によって制御される。制御装置10は、内部にCPUおよびメモリを備えたコンピュータとして構成することができる。本実施例では、図示する機能を実現するためのコンピュータプログラムをインストールすることによって、ソフトウェア的に制御装置10を構成しているが、これらの機能の全部または一部をASICなどのハードウェアによって構成してもよい。
【0026】
設定入力部11は、オペレータからの指示を入力する機能を奏する。本実施例では、例えば、初期充電において、超電導コイル51に流すべき電流値や、充電完了後に、超電導コイル51間でのエネルギの移送のシーケンスなどの設定を入力することになる。
初期充電制御部12は、超電導コイル51と電源24とを接続し、超電導コイル51に所定値の電流が流れたところで、電源24から切り離して、超電導コイル51の両端を接続する制御を行う。超電導コイル51は、電気抵抗がゼロという特徴を有しているため、初期充電によって所定値の電流が流れ続けることになる。
エネルギ移送制御部13は、初期充電が完了した後、所定のシーケンスに従って、それぞれの超電導コイル51に流れる電流を変化させる。こうすることにより、各超電導コイル51で発生する磁場を変動させることができる。
【0027】
本実施例では、4本の超電導コイル51に流れる電流を変化させることにより、それぞれの超電導コイル51で発生する磁場を変動させ、その結果、磁気作業物質52の発熱/吸熱を変化させ、冷却を実現する。以下、この磁場を変動させるためのシーケンスの例を説明する。
図2は、エネルギ移送のシーケンス(1)を示す説明図である。図2(a)は、初期充電が完了した時点における各超電導コイルの電流およびエネルギの状態を示している。図中の4つの超電導コイルA~Dに対して、左側のハッチングを付したグラフは電流を表し、右側のぬりつぶしたグラフはエネルギを表している。図2(a)の状態では、4本の超電導コイルA~Dに等しく、最大電流の約50%の電流が流れている状態を示している。超電導コイル51に貯蔵されるエネルギは、電流の2乗に比例するから、電流が50%である場合、エネルギは25%となる。
【0028】
図2(b)は、エネルギ移送の一つのステップとして、超電導コイルAに全エネルギを移送させた状態を表している。即ち、超電導コイルAに100%の電流を流し、エネルギを100%移送するとともに、超電導コイルB~Dは、電流、エネルギともにゼロの状態である。図2(b)の状態においても、エネルギの総和は、図2(a)の状態と同一である。
同様に、図2(c)は超電導コイルBに全エネルギを移送させた状態、図2(d)は超電導コイルCに全エネルギを移送させた状態、図2(e)は超電導コイルDに全エネルギを移送させた状態を表している。図2(e)の後は、図2(b)以降が繰り返し実行される。
図2で示したシーケンスでは、図2(b)~図2(e)のように、4つの超電導コイルに一つずつ順番に100%の電流を流していく移送状態となる。
かかるシーケンスによれば、一つずつの超電導コイルにエネルギ100%の状態の磁場と、ゼロの状態とが発生するため、大きな磁場変動を生じさせることができ、この結果、磁気作業物質の温度変化を大きくすることができる利点がある。
【0029】
図2のシーケンスにおいては、一つの超電導コイルに100%のエネルギを移送することを前提として、初期充電を行うことになる。従って、100%のエネルギを4本に均等に分けた状態、即ち1本あたり25%のエネルギ状態を実現するため、それぞれの超電導コイルに50%の電流を流した状態が初期充電となるのである。
【0030】
図3は、エネルギ移送のシーケンス(2)を示す説明図である。図3(a)は、初期充電を示した。この例では、超電導コイルA~Dに、それぞれ約70%の電流を流し、50%のエネルギが貯蔵されている。
図3(b)は、エネルギ移送の一つのステップとして、超電導コイルA、Cに対して100%の電流を流し、100%のエネルギを移送した状態である。図3(c)は、その後、超電導コイルB、Dに対して100%の電流を流し、100%のエネルギを移送する。このように、図3のシーケンスでは、2本のコイルを組にして、100%の電流、100%のエネルギを移送するのである。
図3のシーケンスでは、2本の超電導コイルに100%のエネルギを移送するため、合計で200%分のエネルギが必要となる。初期充電では、これを4本の超電導コイルに蓄えるため、1つの超電導コイルに50%のエネルギを貯蔵することとなり、約70%の電流を流すことになるのである。
【0031】
なお、図3(b)、図3(c)では、超電導コイルA、Bと超電導コイルC、Dのハッチングの傾きが異なっている。これは、電流の方向が逆向きであることを表している。即ち、図3(b)では、超電導コイルA、Cに逆向きの電流を流し、図3(c)では、超電導コイルB、Dに逆向きの電流を流すのである。このように逆向きの電流を流すことにより、超電導コイルに発生する磁場同士が打ち消し合って、外部への磁場の漏洩を抑制することが可能となる。
【0032】
超電導コイルに流す電流により発生する磁場の解析結果について以下、説明する。
図4は、超電導コイルの配置を示す説明図である。図4(a)に平面図を示し、図4(b)に斜視図を示した。
本解析では、超電導コイルの内径d1を100mm、外径d2を200mmとし、高さhを100mm、x方向の間隔dx、y方向の間隔d2をそれぞれ50mmとし、コイル巻数を500、電流値を600Aとして解析を行った。
【0033】
図5は、磁場解析の結果(1)を示す説明図である。最上段の図は、超電導コイルAにのみ通電をした状態を示している。超電導コイルA,Bと、超電導コイルC,Dの間の領域Sについて、磁場解析を行った結果を中段に示した。超電導コイルAの影響が領域Sに現れていることが判る。下段には、中段の左右方向の磁場の強さを表すグラフを示した。中段の図で若干色濃くなっている部分が、下段のグラフのx=0.1付近、即ち磁場の絶対値が最も大きくなっているところに対応する。
【0034】
図6は、磁場解析の結果(2)を示す説明図である。最上段の図は、4本の超電導コイルへの通電状態を示している。超電導コイルA,Dと、超電導コイルB,Cで逆方向に50%の電流を通電している。
中段には、超電導コイル間の領域Sの磁場解析結果である。図5と比較で判る通り、超電導コイルで発生している磁場の影響が顕著に表れている様子はうかがわれない。下段には、領域Sの部分の磁場の強さを表すグラフを示した。図示する通り、磁場は激しく変動しているもののその範囲はプラスマイナス0.2T内であるから、磁場の強さは概ねゼロであると評価できる。このように、超電導コイルに電流を流す方向を逆にすることで、磁場が打ち消しあうため、外部への磁場の漏れを少なくすることができると考えられる。
【0035】
図7は、磁場解析の結果(3)を示す説明図である。最上段は、通電の状態を表しており、全超電導コイルが同一の濃さで表されていることから、同一方向の電流を流した状態であることが判る。初期充電の状態がこれに相当する。中段には、超電導コイルの間の領域Sの磁場解析結果を示した。超電導コイルA、C間、および超電導コイルB,D間に色が濃い部分が現れており、磁場が大きく影響を受けていることが判る。下段に、磁場の強さを表すグラフを示した。中段の図と対応して、磁場の絶対値が大きい箇所が2カ所現れていることが判る。
【0036】
図8は、磁場解析の結果(4)を示す説明図である。最上段は、4本の超電導コイルへの通電状態を示しており、図6で示したのと同様、超電導コイルA,Dと、超電導コイルB,Cで逆方向に電流を通電している。ただし、図6よりも電流値は大きく、100%の電流を通電している。
中段には、超電導コイル間の領域Sの磁場解析結果である。図6と同様、超電導コイルで発生している磁場の影響が顕著に表れている様子はうかがわれない。下段には、領域Sの部分の磁場の強さを表すグラフを示した。図6と同様、磁場の強さは概ねゼロであると評価できる。このように、超電導コイルに電流を流す方向を逆にすることで、電流値が大きい場合であっても、磁場が打ち消しあうため、外部への磁場の漏れを少なくすることができると考えられる。
【0037】
以上の解析結果によれば、超電導コイルへの通電状態に応じて、コイル外部の磁場が大きく影響を受けることが判る。一般に、外部への磁場の漏れは少ない方が好ましいと考えられるため、かかる観点からは、図6、8で示したように、2本の超電導コイルに逆方向の電流を流すことが好ましいと言える。
ただし、超電導コイルへの通電は、他の要素も考慮して任意に決めればよい。このとき、解析結果で示したように、外部の磁場が影響を受けるため、かかる影響も考慮して超電導コイルへの通電を決定することが好ましい。
【0038】
以上で説明した実施例の静止型磁気冷凍システムによれば、超電導コイルに初期充電で貯蔵したエネルギを、移送することにより、超電導コイルの磁場を変動させることができる。外部からほとんどエネルギを供給する必要がないため、非常に省エネルギで変動磁場を生成できる利点がある。
また、これを利用した静止型磁気冷凍システムは、従来の磁気冷凍システムで必要となっていた駆動機構、即ち、磁気遮蔽体または磁気作業物質を往復動させる機構が不要であるため、これらを駆動するためのエネルギも不要となる。さらに、駆動機構が不要であるため、構造が簡素化できる利点もある。
【0039】
以上で説明した種々の特徴は、必ずしも全てを備える必要はなく、適宜、その一部を省略したり組み合わせたりすることが可能である。
また、本発明は、上述の実施例に限らず、種々の変形例を構成することができる。実施例では、静止型磁気冷凍システムとしての例を示したが、本発明は、その他の用途に用いることもできる。かかる用途としては、例えば、核融合用コイルや電力安定化貯蔵システム用の冷却システムなど水素の凝縮を目的としない冷凍または冷却システムとしてもよい。また、変動磁場は、永久磁石の着磁などに適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、超電導コイルを用いた変動磁場の生成、およびこれを用いた静止型磁気冷凍に適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
10 制御装置
11 設定入力部
12 初期充電制御部
13 エネルギ移送制御部
20 エネルギ移送回路
22 初期充電回路
24 電源
40 密閉容器
50 冷却装置
51 超電導コイル
52 磁気作業物質
53 熱スイッチ
54 熱伝送柱
55 排熱用冷却装置
56 水素貯槽
57 凝縮部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8